(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のバニシング装置及びそれを用いたバニシング方法の実施の形態を図面を用いて説明する。
まず、本発明のバニシング装置及びそれを用いたバニシング方法の加工対象である蒸気タービンの構成を
図1及び
図2を用いて説明する。
図1は本発明のバニシング装置及びそれを用いたバニシング方法の加工対象物である蒸気タービンのタービン翼を部分的に示す斜視図、
図2は
図1の符号Aで示す蒸気タービンのタービン翼とロータディスクとの連結部分を拡大した斜視図である。
【0012】
図1において、タービン100は、ロータシャフト101と、ロータシャフト101の外周に取り付けられたロータディスク102と、ロータディスク102の外周に間隔を以って連結された複数のタービン翼103とを備えている。
【0013】
図2に示すように、ロータディスク102とタービン翼103とを連結する連結部分104は、断面形状がクリスマスツリー状のロータディスク102のロータ植込み部105と、断面形状がクリスマスツリー状のタービン翼103の翼植込み部106とをかみ合わせた構造となっている。
【0014】
タービン稼働時には、タービン翼103が蒸気を受けることにより連結されたロータシャフト101が回転し、この回転駆動力により発電機(図示せず)が発電する。このとき、回転するタービン翼103には遠心力が作用するが、噛み合わせ構造の連結部分104で遠心力を支持する。このため、ロータ植込み部105の溝底部107及び翼植込み部106の溝底部108に応力集中が生じて、局部的に高い応力が発生し、長期間の使用により、疲労き裂や応力腐食割れなどの損傷が発生するおそれがある。
【0015】
上記損傷を抑制する技術としては、表面に圧縮の残留応力層を形成させることにより、き裂の発生、進展を抑制するバニシングが有効である。バニシングは、形成される圧縮残留応力層が深いこと、加工後の表面粗さが滑らかであること、加工費用が比較的低コストであることなどの利点がある。
【0016】
[第1の実施の形態]
次に、本発明のバニシング装置の第1の実施の形態を
図3乃至
図6を用いて説明する。
図3は本発明のバニシング装置の第1の実施の形態を示す概略構成図、
図4は
図3に示す本発明のバニシング装置の第1の実施の形態を構成するバニシングツールのローラを拡大して示す斜視図、
図5は本発明のバニシング装置の第1の実施の形態におけるバニシングの過程を示す説明図、
図6は本発明のバニシング装置の第1の実施の形態におけるバニシング実行時のビームのたわみとアームの変位との関係を示す説明図である。
図3乃至
図6において、
図1及び
図2に示す符号と同符合のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
図3、
図5、
図6において、バニシングツールの挿入方向をX軸方向、ロータ植込み部の溝底部の溝方向をY軸方向、バニシングツールのロータ植込み部への押付け方向をZ軸方向とする。
【0017】
本実施の形態においては、ロータディスク102のロータ植込み部105における狭隘な内面形状で高さ及び傾斜角が変化する加工面をバニシングする例を説明する。
図3において、バニシング装置は、加工対象物(ロータ植込み部105)に圧縮残留応力層を形成するバニシングツール1と、バニシングツール1をX、Y、Z軸方向に移動させるツール駆動装置2とを備えている。
【0018】
バニシングツール1は、狭隘な内面形状のロータ植込み部105の溝底部107へのアクセスを考慮し、はりのたわみ反力を利用してツール先端部を加工面に押し付けるビーム方式を採用している。バニシングツール1は、ロータ植込み部105の狭隘部内に挿入可能なビーム11と、ビーム11の長手方向の一端側に設けた固定部12と、ビーム11の先端部の下側に設けられ、加工対象物の加工面を押圧する押圧部としてのローラ13とを有する。ローラ13は、
図4に示すように、ビーム11の長手方向に平行な軸線方向(X軸方向)の回りに回転可能になっている。
【0019】
ツール駆動装置2は、ベース部21と、ベース部21に対してY軸方向に移動可能に設けたY軸ステージ22と、Y軸ステージ22を移動させるY軸駆動装置23と、Y軸ステージ22に立設した支持部24と、支持部24にX軸方向に移動可能に取り付けたアーム25と、アーム25を支持部24に対してX軸方向に移動させるX軸駆動装置26と、アーム25を保持し、支持部24に対してZ軸方向に移動可能に設けたアーム保持部27と、アーム保持部27を支持部24に対してZ軸方向へ移動させるZ軸駆動装置28と、アーム25の先端側に設けたツールつかみ部29とを有している。
【0020】
ツールつかみ部29には、チャッキング孔29aが設けられている。チャッキング孔29aには、バニシングツール1の固定部12を挿通してボルト締めすることにより、バニシングツール1が固定されている。
【0021】
バニシングツール1は、X軸駆動装置26によりX軸方向に移動し、ロータ植込み部105間の間隙に挿入される。次に、Z軸駆動装置28によりZ軸方向に移動し、バニシングツール1のローラ13がロータ植込み部105の溝底部107に押し付けられる。ローラ13が溝底部107に押し付けられた状態で、
図4に示すように、Y軸駆動装置23によりバニシングツール1がY軸方向に移動し、ローラ13が溝底部107を回転押圧しながら溝方向(Y軸方向)へ移動する(1ラインを加工する)。
【0022】
ローラ13が溝底部107のY軸方向の一端から他端に向けて押圧しながら移動し終えたら、
図5に示すように、X軸駆動装置26によりローラ13が所定のピッチpだけX軸方向に移動する。さらに、Z軸駆動装置28を駆動させてローラ13が溝底部107に再び押し付けられ、ローラ13はY軸方向の他端から一端に向けて押圧しながら移動する。以降、これを繰返すことにより溝底部107の全体のバニシングが完了する。
【0023】
このとき、ローラ13による加工面の法線方向の押付け力Fによって、接触部で局所的な塑性変形が生じ、圧縮残留応力が形成される。加工面の法線方向の押付け力Fとバニシングにより形成される圧縮残留応力の大きさとは相関がある。
【0024】
そこで、所定以上の圧縮残留応力を得るために、必要な許容押付け力Ftを予め定め、押付け力Fが許容押付け力Ftを下回らないように、ビーム11のたわみvはツール駆動装置2によって制御される。
【0025】
上記のビーム11のたわみvを制御するための構成、作用を次に説明する。
図6に示すように、ビーム11のたわみvは、ツール駆動装置2のアーム25のZ軸方向(押付け方向)の変位uと次式(1)の関係にある。
【0026】
v=u−u0(x)… (1)
ここで、u0は、加工対象物(ロータ植込み部105)の加工面にローラ13が接触し始めるZ軸方向の基準変位であり、溝底部107のX軸方向の座標xの関数である。
【0027】
このため、本実施の形態においては、ローラ13による押付け力Fを測定してビーム11のたわみvを制御する構成としている。
図3に戻り、ビーム11の固定部12近傍の上下面(ビーム11のバニシング実行時のせん断方向における両端部)には、ひずみセンサ14a、14bがそれぞれ設置されている。ひずみセンサ14a、14bは、コンピュータ3にそれぞれ接続されており、ビーム11のひずみ量をそれぞれ検出して、そのひずみ量に対応した検出信号をコンピュータ3にそれぞれ出力する。
【0028】
コンピュータ3には、ツール駆動装置2のX軸駆動装置26、Y軸駆動装置23、Z軸駆動装置28を駆動し、アーム25の位置を制御するツール制御部4が接続されている。また、コンピュータ3には、バニシングの加工条件、バニシング実行時の測定データの表示、ツール駆動装置2のアーム25の変位uの制御値などのユーザからの各種指令を行うキーボード等の入力手段5と、バニシング実行時の測定データ等を表示するディスプレイ等の表示部6と、警報音を発する警報器7とが接続されている。
【0029】
コンピュータ3は、入出力部(I/O)31と、各種の特性図及び各種の設定値を予め記憶する記憶部32と、ひずみセンサ14a、14bからの検出値と特性図とに基づくローラ13による加工面の法線方向の押付け力Fの演算、演算した押付け力Fと設定値との比較判断、演算した押付け力Fと特性図と設定値とに基づくアーム25の押付け方向の変位uの補正値δuの演算を実行する演算部33とを備えている。
【0030】
記憶部32には、演算部33が押付け力Fを演算するために、バニシング実行時の押付け力F、摩擦力、ビーム11のせん断力及びビーム11の軸力の釣り合いの関係を示す特性図が記憶されている(後述の
図8参照)。また、演算した押付け力Fが所定以上の圧縮残留応力を形成できる押付け力であったか否かを比較判断するための設定値である許容押付け力Ftが記憶されている。さらに、演算部33がアーム25の変位uの補正量δuを演算するために、押付け力とビーム11のたわみの関係を示す特性図と、その特性図上において許容押付け力Ftに対応するビーム11の許容たわみvtとが記憶されている(後述の
図9参照)。
【0031】
また、記憶部32には、入力手段5から入力されたバニシングの加工条件、演算部33からの押付け力Fの演算結果等が記録される。
【0032】
演算部33は、後述するように、ひずみセンサ14a、14bの検出信号を取り込み、ひずみセンサ14a、14bの検出信号と記憶部32に記憶した後述の
図8に示す特性図とに基づき押付け力Fを演算し、その演算結果を記憶部32及び表示部6へ出力する。また、演算した押付け力Fが記憶部32に記憶した許容押付け力Ftを下回っているか否かを判断する。押付け力Fが許容押付け力Ftを下回ったと判断した場合には、警報指令信号を警報器7へ出力すると共に、押付け力Fが許容押付け力Ft以上となるようなアーム25の変位uの補正量δuを演算し、その演算結果を表示部6へ出力する。また、入力手段5から入力されたアーム25の変位uの補正量δuに基づいて補正量δu分移動させるための補正変位指令をツール制御部4へ出力する。
【0033】
入出力部31は、ひずみセンサ14a、14bの検出信号及び入力手段5の指令信号が入力される。また、入出力部31は、演算部33からの押付け力Fの演算結果を表示部6へ出力し、演算部33からの警報指令信号を警報器7へ出力し、演算部33からのアーム25の変位uの補正量δuの演算結果を表示部6へ出力し、演算部33からの補正変位指令をツール制御部4へ出力する。
【0034】
次に、演算部33がひずみセンサ14a、14bによる測定値からローラ13による押付け力Fを演算する具体的方法を
図7及び
図8を用いて説明する。
図7は本発明のバニシング装置の第1の実施の形態におけるバニシング実行時の傾斜した加工面に生じた押付け力及び摩擦力とビームに生じたせん断力及び軸力との関係を示す説明図、
図8は本発明のバニシング装置の第1の実施の形態におけるバニシング実行時の押付け力、摩擦力、ビームのせん断力及びビームの軸力の釣り合いの関係を示す特性図である。
図7及び
図8において、
図1乃至
図6に示す符号と同符合のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0035】
図7に示すビーム11のせん断力W、軸力Bは、ひずみセンサ14a、14bでそれぞれ測定されたひずみ量εa、εbから次式(2)、(3)で求められる。
【0036】
W=(εb−εa)/2・E・Z/L …(2)
B=(εa+εb)/2・E・A …(3)
ここで、Eはビーム11のヤング率、Zはビーム11の断面係数、Aはビーム11の横断面積、Lはローラ13からひずみセンサ14a、14bまでの距離をそれぞれ示している。
【0037】
ビーム11の先端部では、ローラ13による加工面の法線方向の押付け力F、加工面の接線方向の摩擦力f、ビーム11のせん断力W、ビーム11の軸力Bが釣り合っている。加工面の傾斜角をθ(絶対値)とすると、上下、左右の力の釣合いから、次式(4)〜(6)が成り立つ。
【0038】
Fcosθ+fsinθ=W …(4)
Fsinθ−fcosθ=B …(5)
f=min{μF、Ftanθ} …(6)
ここで、μは摩擦係数を示している。
【0039】
加工面の傾斜角θが小さい場合、ビーム11のたわみvに応じて、ビーム11のせん断力Wが生じ、押付け力Fと摩擦力fとで釣り合い、ビーム11の軸力Bは0である。このとき、ローラ13が加工面上を滑らずに力が釣り合う状態であるから、μF>Ftanθであり、摩擦力fはFtanθとなる。
【0040】
一方、加工面の傾斜角θが大きい場合、押付け力Fと摩擦力f、ビーム11のせん断力Wだけでは、左右方向の釣り合いが取れず、ローラ13が加工面上を滑ろうとするため、ビーム11の軸力Bが発生する。このとき、ローラ13が加工面上を滑ろうとする状態であるため、μF<Ftanθであり、摩擦力fはμFとなる。
【0041】
式(4)〜(6)の関係は、
図8に示す特性図として示すことができる。
図8は、縦軸がローラ13による押付け力とビーム11のせん断力との比F/W、横軸がビーム11の軸力とビーム11のせん断力との比B/Wを示している。
図8中の実線Aは摩擦係数μが0.15の場合、破線Bは摩擦係数μが0.3の場合、点線Cは摩擦係数μが0.6の場合の特性曲線を示している。ここで、摩擦係数μは別途試験により測定した結果に応じて適切なものを選択する。
【0042】
ひずみセンサ14a、14bの測定値から式(2)及び式(3)を用いて、せん断力W、軸力Bが求まるので、
図8の特性曲線A、B、Cのうち摩擦係数μの試験結果に応じて選択した特性曲線を用いて、求めた軸力B及びせん断力Wで定まる横軸のB/Wの値から該当する縦軸のF/Wの値を求める。このF/Wの値から押付け力Fを求めることができる。
【0043】
ただし、ビーム11の軸力Bが0の場合には、縦軸のF/Wの値が一意に定まらないため、安全側に低めに見積もるものとして曲線ライン上の値(
図8のプロット)を採用する。このときの縦軸のF/Wの値の誤差は、摩擦係数μが0.6の場合でも、最大14%である。
【0044】
このように、ロータ植込み部105のような加工面の傾斜角θが変化する加工対象物に対するバニシングにおいて、この傾斜角θを測定せずに押付け力Fを求めることが可能となる。
【0045】
次に、演算部33がアーム25の押付け方向の変位uの補正量δuを演算する具体的方法を
図9を用いて説明する。
図9は本発明のバニシング装置の第1の実施の形態におけるバニシング実行時の押付け力とビームのたわみの関係を示す特性図であり、縦軸はローラ13による押付け力F、横軸はビーム11のたわみvを示している。図中の特性曲線Aは、
図8におけるF/W値が最小となる条件を選定した場合の押付け力とビームのたわみの関係を示す特性曲線である。
【0046】
図中、許容押付け力Ft及びそれに対応した許容たわみvtは所定の圧縮残留応力を得るための設定値である。
【0047】
また、ロータ植込み部105の溝底部107の1ライン加工中に基準変位u0が最大変動量δu0変動したとしても、ローラ13による押付け力Fが許容押付け力Ft以上を維持できるように、開始押付け力Fs及びその開始押付け力Fsに対応する開始たわみvsが設定される。
【0048】
この開始押付け力Fsは、1ライン加工するときに、アーム25の変位uの開始位置を定めるための基準値となる。
【0049】
1ライン加工中の基準変位u0の変動は、ロータ植込み部105のセッティング時のZ軸方向を軸とした回転ずれとロータ植込み部105の形状の寸法誤差により生じるものである。基準変位u0の最大変動量δu0は、例えば、初期値が0.5mmに設定され、ローラ13による押付け力Fが許容押付け力Ftを下回ってバニシングの再加工が実行された場合には、後述するアーム25の変位uの補正量δuに基づいて変更される。
【0050】
これらの許容押付け力Ft、許容たわみvt、開始押付け力Fs及び開始たわみvsは、この特性図と共に記憶部32に記憶されている。
【0051】
図9において、ロータ植込み部105の溝方向への1ライン加工中に測定された押付け力Fのうち、許容押付け力Ftを下回った最小の押付け力Fminから、最小たわみvminが求められる。この最小たわみvmin、開始たわみvs、基準変位u0の最大変動量δu0から、アーム25の変位uの補正量δuが次式(7)から求められる。
δu=(vs−vmin)−δu0 …(7)
このように、アーム25の変位uを補正量δu分だけ移動させると、
図9から明らかのように、押付け力Fが許容押付け力Ft以上となる。
【0052】
なお、
図9に示す特性曲線Aは、
図8に示す特性図においてF/Wが最小となる条件を選定した場合の押付け力Fとたわみvの関係を示すものであり、Wはvと比例関係にあるからF/vも最小となる。そのため、この特性線Aから求められる押付け力Fは安全側に低くなるように配慮されている。
【0053】
次に、本発明のバニシング装置の第1の実施の形態を用いたバニシング方法を
図3乃至
図6、
図8乃至
図12を用いて説明する。
図10は本発明のバニシング装置の第1の実施の形態を用いたバニシング方法を示すフローチャート図、
図11は本発明のバニシング装置の第1の実施の形態を構成するバニシングツールのチャッキングのずれを示す説明図、
図12は本発明のバニシング装置の第1の実施の形態におけるバニシング実行時のビームのせん断力とビームのたわみとの関係を示す特性図である。
図10乃至
図12において、
図1乃至
図9に示す符号と同符合のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
図10において、バニシングツールの挿入方向をX軸方向、ロータ植込み部の溝底部の溝方向をY軸方向、バニシングツールのロータ植込み部への押付け方向をZ軸方向とする。
【0054】
図10に示すように、バニシング加工をする前に、加工時に想定されるビーム11の最大せん断力Wmaxよりも大きなせん断力W0をビーム11に予めかける(ステップS1)。
【0055】
最大せん断力Wmaxとは、
図3に示す溝底部107の溝方向(Y軸方向)の1ライン加工中に生じうる基準変位u0の最大変動量によりビーム11に生じるせん断力である。
【0056】
ビーム11にある大きさ以上のせん断力が加わると、
図11に示すように、ツールつかみ部29のチャッキング孔29aに挿入された状態で固定されたバニシングツール1には、チャッキングのずれが生じる。図中、二点鎖線のバニシングツール1は、チャッキングのずれがない状態のバニシングツール1を、実線のバニシングツール1は、チャッキングのずれが生じた状態のバニシングツール1を示す。
【0057】
加工時に想定されるビーム11の最大せん断力Wmaxよりも大きなせん断力W0をビーム11に予めかけて、バニシングツール1のチャッキングのずれが生じた場合には、チャッキングのずれが生じた状態のバニシングツール1で加工することにより、加工中のチャッキングの更なるずれを抑制することができる。
【0058】
また、せん断力W0をビーム11に予めかけても、バニシングツール1のチャッキングのずれが生じない場合には、加工中にせん断力W0以上のせん断力がビーム11に加わらないので、バニシングツール1のチャッキングのずれは生じないと考えられる。
【0059】
このため、加工中にバニシングツール1のチャッキングのずれが生じて押付け力Fが許容押付け力Ftを下回ることを抑制できる。
【0060】
次に、ビーム11の最大せん断力Wmaxの決定方法を
図12を用いて説明する。
図12は本発明のバニシング装置の第1の実施の形態におけるバニシング実行時のビーム11のせん断力とビーム11のたわみとの関係を示す特性図であり、縦軸はビームのせん断力W、横軸はビーム11のたわみvを示している。図中の実線Aは、
図8におけるF/Wが最小となるB/W=0時の条件を想定した場合のビームのせん断力とビームのたわみの関係を示す特性曲線である。
【0061】
1ライン加工中の基準変位u0の変動量を、例えば、±0.5mm以内と想定する。この場合、
図12から、基準変位u0の変動量が±0.5mm以内において、たわみvが許容たわみvt以上となるように最大せん断力Wmaxが決定される。この場合、基準変位u0の最大変動量δu0は、初期値0.5mmに設定される。
【0062】
なお、
図12に示す特性曲線Aは、
図8におけるF/Wが最小となるB/W=0時の条件を想定した場合のビームのせん断力とビームのたわみの関係を示すものであるため、この特性線Aから求められるビームの最大せん断力Wmaxは安全側に高くなるように配慮されている。
【0063】
図10に戻り、
図3に示すツール駆動装置2のX軸駆動装置26を駆動させ、ビーム11をX軸方向へ移動させる。ビーム11の先端部をロータ植込み部105間に挿入し、ローラ13をロータ植込み部105の溝底部107のX軸方向の加工開始位置にセットする(ステップS2)。
【0064】
次に、Z軸駆動装置28を駆動させ、ビーム11をZ軸方向(押付け方向)へ移動させ、ローラ13を溝底部107に押圧させる(ステップS3)。ローラ13が溝底部107を押圧すると、
図6に示すように、ビーム11がたわみ、ひずみセンサ14a、14bはそのひずみ量を検出し、そのひずみ量を演算部33に出力する。ひずみセンサ14a、14bは、ステップS3以降、ひずみ量を検出するとそのひずみ量を演算部33に常時出力する。
【0065】
演算部33は、ひずみセンサ14a、14bで検出されたひずみ量を取り込み、そのひずみ量及び記憶部32に記憶された
図8に示す特性図に基づいてローラ13による押付け力Fを演算し、押付け力Fの演算結果を表示部6に出力する(ステップS4)。これにより、押付け力Fが表示部6に表示される。
【0066】
ローラ13による押付け力Fが所定の開始押付け力Fsとなるようにアーム25のZ軸方向の変位uをセットする(ステップS5)。開始押付け力Fsは、上述したように、基準変位u0が最大変動量δu0(初期値0.5mm)変動したとしても、ローラ13による押付け力Fが許容押付け力Ft以上を維持できるように設定されている。
【0067】
押付け力Fが開始押付け力Fsとなった状態のアーム25の変位uを保持した状態で、Y軸駆動装置23を駆動させ、
図4に示すように、ローラ13が溝底部107のY軸方向(溝方向)の一端から他端まで1ライン加工する(ステップS6)。この加工中、ビーム11のたわみv及びローラ13による押付け力Fが基準変位u0の変動に伴い変化する。
【0068】
演算部33は、ひずみセンサ14a、14bで検出されたひずみ量を取り込み、このひずみ量及び記憶部32に記憶された
図8に示す特性図に基づいて押付け力Fを演算し、押付け力Fの演算結果を記憶部32及び表示部6へ出力する(ステップS7)。これにより、1ライン加工時の押付け力Fが記憶部32に記録され、表示部6に表示される。
【0069】
次に、1ライン加工終了後に、演算部33は、記憶部32に記録された1ライン加工時の押付け力Fが記憶部32に予め記憶された許容押付け力Ftを下回っているか否かを判断する(ステップS8)。押付け力Fが許容押付け力Ftを下回っている場合には、ステップ9へ進み、それ以外の場合には、ステップS13へ進む。
【0070】
ステップS8において、押付け力Fが許容押付け力Ftを下回った場合(YES)には、演算部33は、警報器7へ警報指令信号を出力する(ステップS9)。これによって、警報器7が警報音を発する。この警報音により、1ライン加工時の押付け力Fが許容押付け力Ftを下回ったことをユーザに報知することができる。
【0071】
また、演算部33は、
図9に示す特性図からアーム25の変位uの補正量δuを演算し、補正量δuの演算結果を表示部6に出力する(ステップS9)。これにより、アーム25の変位uの補正量δuが表示部6に表示される。
【0072】
具体的には、演算部33は、記憶部32に記録された1ライン加工時の押付け力Fのうち、許容押付け力Ftを下回った最小の押付け力Fminと、記憶部32に記憶されている押付け力とビームのたわみの関係を示す特性図、開始たわみvs及び基準変位u0の最大変動量δu0(初期値0.5mm)とに基づいて補正量δuを演算する(
図9参照)。
【0073】
補正量δuを演算した後に、最大変動量δu0がδu0+δuに変更される。この最大変動量δu0の変更に応じて、
図9に示す特性図中の開始たわみvs及び開始押付け力Fsが変更される。すなわち、開始たわみvs及び開始押付け力Fsは、最大変動量δu0がδu増加した分、大きくなる。
【0074】
次に、表示部6に表示された補正量δuを入力手段5からコンピュータ3に入力する(ステップS10)。
【0075】
演算部33は、入力手段5からの補正量δuを取り込み、アーム25の変位uがu+δuになるようにツール駆動装置2を制御する(ステップS11)。具体的には、演算部33は、入力手段5から入力された補正量δuに基づいてアーム25の変位uを補正量δu分移動させるための補正変位指令をツール制御部4へ出力し、ツール制御部4を介してアーム25の変位uがu+δuとなるようにZ軸駆動装置28を駆動させる。
【0076】
次に、アーム25の変位uをu+δuに保持した状態で、Y軸駆動装置23を駆動させ、ステップS6と逆方向に他端から一端まで同一ラインを再度加工する(ステップS12)。
【0077】
再びステップS7に戻り、演算部33は、ひずみセンサ14a、14bで検出されたひずみ量を取り込んで押付け力Fを演算し、押付け力Fの演算結果を記憶部32及び表示部6へ出力する(ステップS7)。これにより、1ライン再加工時の押付け力Fが記憶部32に記録され、表示部6に表示される。
【0078】
次に、ステップS11の1ラインの再加工後に、演算部33は、記憶部32に記録された1ライン再加工時の押付け力Fが記憶部32に予め記憶された許容押付け力Ftを下回っているか否かを判断する(ステップS8)。
【0079】
ステップS8において、押付け力Fが許容押付け力Ftを下回る部分がなかった場合(NO)には、X軸駆動装置26を駆動させ、
図5に示すように、ローラ13を所定ピッチpだけX軸方向にずらし、加工方向を逆方向にセットする(ステップS13)。これは、次のラインの加工準備を行うものである。本実施の形態においては、Y軸方向への1ライン加工終了ごとにローラ13をピッチpだけX軸方向にずらし、Y軸の逆方向へ向けて加工する工程を実行して、溝底部107全体のバニシングの加工処理を実行する。
【0080】
次に、ローラ13がX軸方向の加工終了位置に到達したか否かが判断される(ステップS14)。ローラ13が加工終了位置に到達していない場合(NO)には、ステップS3へ戻り、上述した手順を繰り返すことで次のラインの加工が行われる。一方、ローラ13が加工終了位置に到達した(YES)場合には、加工完了となる。
【0081】
なお、次のラインの加工の場合のステップS5における開始押付け力Fsは、2つの場合があり、前のラインの加工の場合のステップS8において、1度もYESと判断されずにNOと判断されて1ラインの加工が実行された場合(前のラインの再加工がなっかた場合)と、少なくとも1度はYESと判断されて1ラインの加工が実行された場合(前のラインの再加工が実行された場合)とで異なる。
【0082】
前のラインの再加工がなかった場合には、次のラインの加工の場合のステップS5における開始押付け力Fsは、前のラインの加工の場合のステップS5における開始押付け力Fsと同一のものである。
【0083】
一方、前のラインの再加工が実行された場合には、次のラインの加工の場合のステップS5における開始押付け力Fsは、前のラインの加工におけるステップ9で変更された開始押付け力Fsと同一のものである。
【0084】
上述したように、加工対象物における高さ及び傾斜角が変化する加工面に対して、傾斜角θを測定せずに、押付け力不足となる部位を残さずにバニシングが可能となった。
【0085】
なお、上述したステップS9〜S11において、演算部33が演算した補正量δuを表示部6に出力し、表示部6に出力された補正量δuを入力手段5からコンピュータ3に入力し、入力された補正量δuに基づいて演算部33が補正変位指令をツール制御部4へ出力してツール制御部4を介してアーム25の変位uを制御する例を示したが、演算部33が演算した補正量δuを入力手段5からコンピュータ3に入力することなしに、演算部33がその演算結果に基づいて補正変位指令をツール制御部4へ出力してツール制御部4を介してアーム25の変位uを制御することもできる。
【0086】
また、上述の例では、ステップS1〜S3、S5、S6、S10、S12〜S14の作業は、手動操作としたが、コンピュータ制御で自動化することが可能である。
【0087】
次に、本発明のバニシング装置の第1の実施の形態を構成する表示部に表示された加工記録の出力結果を
図13を用いて説明する。
図13は、本発明のバニシング装置の第1の実施の形態におけるバニシング方法の加工記録を表示した表示部の表示画面図である。
【0088】
表示部6には、加工時のX軸方向、Y軸方向座標におけるローラ13による押付け力Fが押付け力Fの大きさに応じて色分けして表示される。このため、押付け力不足がないことを一目で確認することができる。
【0089】
また、各加工ライン毎に、Y軸方向の両端における基準変位u0及びたわみv、再加工数、加工方向、所定ピッチp、加工速度も表示される。このため、必要に応じて加工状況を詳細に調べることができる。
【0090】
上述したように、本発明のバニシング装置の第1の実施の形態及びそれを用いたバニシング方法によれば、バニシングツール1のひずみ量に基づいて、押圧部13における加工対象物105の加工面の法線方向の押付け力Fを演算し、この演算した押付け力Fにより押圧部13を加工面に押し付けるようにしたので、加工対象物105における高さ及び傾斜角が変化する加工面に対して、バニシングの加工処理を確実に実行することができる。この結果、加工対象物105の長寿命化を図ることができる。
【0091】
また、本実施の形態によれば、ひずみセンサ14a、14bで検出されたひずみ量により演算した押付け力Fに基づいてアーム25の変位uを制御するため、ロータ植込み部105の形状情報をツール駆動装置2に予め入力しておく必要がない。さらに、詳細な形状情報を把握していないような加工対象物であっても、加工可能となる。
【0092】
さらに、本実施の形態によれば、ローラ13による傾斜角θが変化する加工面の法線方向の押付け力F、加工面の接線方向の摩擦力f、ビーム11のせん断力W、ビーム11の軸力Bの釣り合いの関係を、
図8に示すように、押付け力F、ビーム11のせん断力W及びビーム11の軸力Bとの特性関係として演算するようにしたので、ローラ13による傾斜角θが変化する加工面の法線方向の押付け力Fを傾斜角θを測定せずに演算することができる。
【0093】
また、本実施の形態によれば、バニシングツール1は、はりのたわみ反力を利用してローラ13を押し付けるビーム方式であるので、ロータ植込み部105のような狭隘な内面形状を有する加工対象物に対して、バニシングの加工処理を確実に実行することができる。
【0094】
さらに、本実施の形態によれば、測定された押付け力Fを押付け力Fの大きさに応じて色分けして表示部6に表示するので、容易かつ必要に応じて詳細に、バニシングの品質管理が可能となる。
【0095】
[第2の実施の形態]
次に、本発明のバニシング装置の第2の実施の形態を
図3、
図8及び
図14を用いて説明する。
図14は本発明のバニシング装置の第2の実施の形態におけるバニシング実行時の押付け力とビームのたわみの関係を示す特性図である。
図14において、
図1乃至
図13に示す符号と同符合のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0096】
本発明の本発明のバニシング装置の第2の実施の形態は、第1の実施の形態がアーム25の変位uを固定してバニシングを一度実行し、加工不良が発見された場合に、測定された押付け力Fに応じてアーム25の変位uを補正して再度バニシングを実行する構成に対して、加工中に測定されている押付け力Fに応じてアーム25の変位uを逐次補正する構成である点が異なる。
【0097】
本実施の形態を構成するコンピュータ3は、入出力部(I/O)31と、各種の特性図及び各種の設定値を予め記憶する記憶部32と、ひずみセンサ14a、14bからの検出値と特性図とに基づくローラ13による加工面の法線方向の押付け力Fの演算、演算した押付け力Fと特性図と設定値とに基づくビーム11のたわみvのたわみ補正量δvの演算を実行する演算部33とを備えている(
図3参照)。
【0098】
記憶部32には、演算部33が押付け力Fを演算するために、バニシング実行時の押付け力、摩擦力、ビーム11のせん断力及びビーム11の軸力の釣り合いの関係を示す特性図が記憶されている(
図8参照)。また、演算部33がビーム11のたわみvのたわみ補正量δvを演算するために、押付け力とビーム11のたわみの関係を示す特性図と、許容押付け力Ft及びその特性図上において許容押付け力Ftに対応するビーム11の許容たわみvtと、ローラ13による押付け力Fを許容押付け力Ft以上に維持するためにその特性図上から設定された目標押付け力Fm及びその目標押付け力Fmに対応するたわみvの制御目標値vmとが記憶されている(後述の
図14参照)。
【0099】
演算部33は、ひずみセンサ14a、14bの検出信号を取り込み、ひずみセンサ14a、14bの検出信号と記憶部32に記憶した
図8に示す特性図とに基づきローラ13による押付け力Fを演算し、その演算結果を記憶部32及び表示部6へ出力する。また、後述するように、演算した押付け力Fと記憶部32に記憶した目標押付け力Fmとに基づき、押付け力Fが目標押付け力Fmとなるようなビーム11のたわみvのたわみ補正量δvを逐次演算し、アーム25の変位uをたわみ補正量δv分移動させるための補正変位指令をツール制御部4へ逐次出力する。
【0100】
次に、加工中にアーム25の変位uを逐次補正するための補正量を演算する具体的方法を
図14を用いて説明する。
図14は本発明のバニシング装置の第2の実施の形態におけるバニシング実行時の押付け力とビームのたわみの関係を示す特性図であり、縦軸はローラ13による押付け力F、横軸はビーム11のたわみvを示している。図中の実線Aは、
図8におけるF/W値が最小となる条件を選定した場合の押付け力とビームのたわみの関係を示す特性曲線である。
【0101】
図中、許容押付け力Ft及びそれに対応した許容たわみvは所定の圧縮残留応力を得るための設定値である。
【0102】
また、ビーム11のたわみvを制御する際にたわみvの目標値からの最大のずれ分をδvmaxと想定した場合に、ローラ13による押付け力Fが許容押付け力Ft以上を維持できるように、目標押付け力Fm及びその目標押付け力Fmに対応するたわみvの制御目標値vmが設定されている。
【0103】
これらの許容押付け力Ft、許容たわみvt、目標押付け力Fm及び制御目標値vmは、この特性図と共に記憶部32に記憶されている。
【0104】
アーム25の変位uの補正量を演算するために、まず、ひずみセンサ14a、14bの検出信号と
図8に示す特性図とに基づいて演算された押付け力Fから目標押付け力Fmを減じることにより差分δF(=F−Fm)が求められる。次に、
図14において、差分δFに対応するビーム11のたわみvのたわみ補正量δvが求められる。このたわみ補正量δvがアーム25の変位uの補正量である。
【0105】
図14から明らかのように、アーム25の変位uをたわみ補正量δv分だけ移動させるとビーム11のたわみvが制御目標値vmになる。
【0106】
なお、
図14に示す特性曲線Aは、
図8に示す特性図においてF/Wが最小となる条件を選定した場合の押付け力Fとたわみvの関係を示すものであり、Wはvと比例関係にあるからF/vも最小となる。そのため、この特性線Aから求められる押付け力Fは安全側に低くなるように配慮されている。
【0107】
次に、本発明のバニシング装置の第2の実施の形態を用いたバニシング方法を
図3、
図8、
図14乃至
図16を用いて説明する。
図15は本発明のバニシング装置の第2の実施の形態におけるバニシング方法を示すフローチャート図、
図16は本発明のバニシング装置の第2の実施の形態におけるバニシング実行時のビームのせん断力とビームのたわみの関係を示す特性図である。
図15及び
図16において、
図1乃至
図14に示す符号と同符合のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
図15において、バニシングツールの挿入方向をX軸方向、ロータ植込み部の溝底部の溝方向をY軸方向、バニシングツールのロータ植込み部への押付け方向をZ軸方向とする。
【0108】
図15に示すように、バニシング加工をする前に、加工時に想定されるビーム11の最大せん断力Wmaxよりも大きなせん断力W0をビーム11に予めかける(ステップS21)。
【0109】
ここで、ビーム11の最大せん断力Wmaxの決定方法を
図16を用いて説明する。
図16は本発明のバニシング装置の第2の実施の形態におけるバニシング実行時のビームのせん断力とビームのたわみとの関係を示す特性図であり、縦軸はビームのせん断力W、横軸はビーム11のたわみvを示している。図中の実線Aは、
図8におけるF/Wが最小となるB/W=0時の条件を想定した場合のビームのせん断力とビームのたわみの関係を示す特性曲線である。
【0110】
最大せん断力Wmaxは、ビーム11のたわみvが上述した制御目標値vmに対して最大δvmax分だけずれると想定したときに、ビーム11に生じるせん断力として決定される。
【0111】
なお、
図16に示す特性曲線Aは、
図8におけるF/Wが最小となるB/W=0時の条件を想定した場合のビームのせん断力とビームのたわみの関係を示すものであるため、この特性曲線Aから求められるビームの最大せん断力Wmaxは安全側に高くなるように配慮されている。
【0112】
図15に戻り、第1の実施の形態と同様に、
図3に示すビーム11をX軸方向へ移動させ、ビーム11の先端部をロータ植込み部105間に挿入し、ローラ13をロータ植込み部105の溝底部107のX軸方向の加工開始位置にセットする(ステップS22)。さらに、ビーム11をZ軸方向(押付け方向)へ移動させ、ローラ13を溝底部107に押圧させる(ステップS23)。ローラ13が溝底部107を押圧すると、ビーム11がたわみ、ひずみセンサ14a、14bがそのひずみ量を検出し、そのひずみ量を演算部33に出力する。
【0113】
演算部33は、第1の実施の形態と同様に、ひずみセンサ14a、14bで検出されたひずみ量を取り込み、そのひずみ量及び記憶部32に記憶された
図8に示す特性図に基づいて押付け力Fを演算し、押付け力Fの演算結果を表示部6に出力する(ステップS24)。これにより、押付け力Fが表示部6に表示される。
【0114】
ローラ13による押付け力Fが所定の目標押付け力Fmとなるようにアーム25のZ軸方向の変位uをセットする(ステップS25)。目標押付け力Fmは、上述したように、ビーム11のたわみvが制御目標値vmから最大δvmax分ずれた場合においても、ローラ13による押付け力Fが許容押付け力Ft以上を維持できるように設定されている。
【0115】
ローラ13を溝底部107のY軸方向(溝方向)に移動させ、加工する(ステップS26)。この加工中、ビーム11のたわみv及びローラ13による押付け力Fが基準変位u0の変動に伴い変化する。
【0116】
演算部33は、第1の実施の形態と同様に、ひずみセンサ14a、14bで検出されたひずみ量を取り込み、このひずみ量及び記憶部32に記憶された
図8に示す特性図に基づいて押付け力Fを演算し、押付け力Fの演算結果を記憶部32及び表示部6へ出力する(ステップS27)。これにより、押付け力Fが記憶部32に記録され、表示部6に表示される。
【0117】
演算部33は、この加工中に、押付け力Fと
図14に示す特性図とからビーム11のたわみvのたわみ補正量δvを演算する(ステップS28)。具体的には、演算部33は、演算した押付け力Fと記憶部32に記憶された目標押付け力Fmとの差分δF(=F−Fm)を演算し、この差分δFと記憶部32に記憶されたビームのたわみの関係を示す特性図とに基づいてビーム11のたわみvのたわみ補正量δvを演算する(
図14参照)。
【0118】
補正量δvを演算した後、演算部33は、アーム25の変位uがu+δvになるようにツール駆動装置2を制御する(ステップS29)。具体的には、演算部33は、演算結果のたわみ補正量δvに基づいてアーム25の変位uをたわみ補正量δv分移動させるための補正変位指令をツール制御部4へ出力し、ツール制御部4を介してアーム25の変位uがu+δvとなるようにZ軸駆動装置28を駆動させる。
【0119】
次に、ローラ13がY軸方向の加工端部に到達したか否かが判断される(ステップS30)。ローラ13がY軸方向の加工端部に到達していない場合には、ステップ27へ戻り、それ以外の場合には、ステップS31へ進む。
【0120】
ステップS30において、ローラ13がY軸方向の加工端部に到達していない場合(NO)には、ステップS27へ戻り上述した手順を繰り返すことで、Y軸方向への加工がY軸方向の加工端部に到達するまで継続される。
【0121】
このように、演算部33は、1ライン加工中に、ひずみセンサ14a、14bで検出されたひずみ量に基づいて押付け力Fを逐次演算し、押付け力Fの演算結果に基づいてビーム11のたわみvのたわみ補正量δvを演算し、たわみ補正量δvに基づいてアーム25の変位uをu+δvとなるよう逐次制御する。これにより、アーム25の変位uは、ローラ13による押付け力Fが目標押付け力Fmに保つように逐次補正される。すなわち、押付け力Fを目標押付け力Fmに保つようにフィードバック制御が行われた状態でY軸方向の加工が進行する。
【0122】
一方、ステップS30において、ローラ13がY軸方向の加工端部に到達したら(YES)、ローラ13を所定ピッチpだけX軸方向にずらし、加工方向を逆方向にセットする(ステップS31)。これは、次のラインの加工準備を行うものである。本実施の形態においては、Y軸方向への1ライン加工終了ごとにローラ13をピッチpだけX軸方向にずらし、Y軸の逆方向へ向けて加工する工程を実行して、溝底部107全体のバニシングの加工処理を実行する。
【0123】
次に、ローラ13がX軸方向の加工終了位置に到達したか否かが判断される(ステップS32)。ローラ13が加工終了位置に到達していない場合(NO)には、ステップS23に戻り、上述した手順を繰り返すことで次のラインの加工が行われる。一方、ローラ13が加工終了位置に到達した場合(YES)には、加工完了となる。
【0124】
なお、上述の例では、ステップS21〜S23、S25、S26、S31、S32の作業は、手動操作としたが、コンピュータ制御で自動化することが可能である。
【0125】
上述したように、本発明のバニシング装置及びそれを用いたバニシング方法の第2の実施の形態によれば、前述した第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0126】
また、本実施の形態によれば、1ライン加工中にローラ13による押付け力Fを目標押付け力Fmに保つようにアーム25の変位uを逐次補正するため、ローラ13による押付け力Fが不足することによる再加工のステップが不要となり、加工時間を短縮することができる。さらに、ローラ13の加工対象物105への過度の押付けも同時に防止でき、加工による加工対象物105の損傷の発生も防ぐことができる。
【0127】
[第3の実施の形態]
次に、本発明のバニシング装置の第3の実施の形態を
図17乃至
図19を用いて説明する。
図17は本発明のバニシング装置の第3の実施の形態を示すものであり、バニシング実行時の傾斜した加工面に生じた押付け力及び摩擦力と軸力シャフトに生じたせん断力及び軸力との関係を示す説明図、
図18は本発明のバニシング装置の第3の実施の形態におけるタービン翼の翼植え込み部に対するバニシングを示す説明図、
図19は本発明のバニシング装置の第3の実施の形態におけるバニシング実行時の押付け力、摩擦力、シャフトせん断力及びシャフト軸力の釣り合いの関係を示す特性図である。
図17乃至
図19において、
図1乃至
図16に示す符号と同符合のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0128】
図17に示す本発明のバニシング装置の第3の実施の形態は、第1の実施の形態を構成するバニシングツール1がはりのたわみ反力を利用してツール先端部を加工対象物に押し付ける構成であるのに対して、バニシングツール50は軸力を利用してツール先端部を加工対象物に押し付ける構成である点が異なる。
【0129】
バニシングツール50は、軸力シャフト51と、軸力シャフト51の長手方向の一端側に設けられた固定部52と、軸力シャフト51の長手方向の先端面に設けられ、加工対象物の加工面を押圧する押圧部としてのローラ53と、軸力シャフト51に内蔵された変位吸収ばね機構54とを有する。バニシングツール50は、軸力シャフト51の軸力でローラ53を加工面に押し付ける構成となっている。
【0130】
ローラ53は、軸力シャフト51の長手方向に直交する軸線方向の回りに回転可能になっている。
【0131】
変位吸収ばね機構54は、加工中の加工面の高さの変動を変位吸収ばね機構54内部のばね55で吸収し、軸力シャフト51による押付け力Fが過度に変動するのを防ぎ、押付け力Fを安定化させる機能を有する。
【0132】
軸力シャフト51の長手方向の中央部における上下面(軸力シャフト51のバニシング実行時のせん断方向における両端部)には、ひずみセンサ56a、56bがそれぞれ設置されている。
【0133】
本実施の形態においては、
図18に示すように、タービン翼103の翼植込み部106等の押付け方向と同一方向にバニシングツール50が挿入可能な加工対象物に対してバニシングが可能である。
【0134】
次に、ひずみセンサ56a、56bによる測定値からローラ53による押付け力Fを演算する具体的方法を
図17及び
図19を用いて説明する。
本実施の形態においては、第1の実施の形態を構成するビーム11のたわみ反力から、軸力シャフト51の軸力へと押付け方式が変わったため、ひずみセンサ56a、56bの測定値から押付け力Fを求める関係式が、第1の実施の形態と以下のように異なる。
【0135】
ひずみセンサ56a、56bそれぞれで測定されたひずみεa、εbから、シャフト軸力Bs、シャフトせん断力Wsが、次式(8)、(9)で求められる。
【0136】
Bs=(εa+εb)/2・Es・As …(8)
Ws=(εa−εb)/2・Es・Zs/Ls …(9)
ここで、Esは軸力シャフト51のヤング率、Zsは軸力シャフト51の断面係数、Asは軸力シャフト51の横断面積、Lsはローラ53の先端からひずみセンサ56a、56bまでの距離をそれぞれ示している。
【0137】
軸力シャフト51の先端部では、ローラ53による加工面の法線方向の押付け力F、加工面の接線方向の摩擦力f、シャフト軸力Bs、シャフトせん断力Wsが釣り合っている。加工面の傾斜角をθ(絶対値)とすると、上下、左右の釣合いから、次式(10)〜(12)が成り立つ。
【0138】
Fcosθ+fsinθ=Bs …(10)
Fsinθ−fcosθ=Ws …(11)
f=min{μF、Ftanθ} …(12)
ここで、μは摩擦係数を示している。
【0139】
加工面の傾斜角θが小さい場合、押付け力Fと摩擦力fとで上下方向の力成分が釣り合い、シャフトせん断力Wsは0である。このとき、ローラ53が加工面上を滑らず、力が釣り合う状態であるから、μF>Ftanθであり、摩擦力fはFtanθとなる。
【0140】
一方、加工面の傾斜角θが大きい場合、押付け力Fと摩擦力fとで上下方向の力の釣合いが取れず、ローラ53が加工面上を滑ろうとするため、シャフトせん断力Wsが発生する。このとき、ローラ53が加工面上を滑ろうとする状態であるため、μF<Ftanθであり、摩擦力fはμFとなる。
【0141】
式(10)乃至(12)の関係は、
図19に示す特性図として示すことができる。
図19は、縦軸がローラ53による押付け力とシャフト軸力との比F/Bs、横軸がシャフトせん断力とシャフト軸力との比Ws/Bsを示している。
図19中の実線Aは摩擦係数μが0.15の場合、破線Bは摩擦係数μが0.3の場合、点線Cは摩擦係数μが0.6の場合の特性曲線を示している。ここで、摩擦係数μは別途試験により測定した結果に応じて適切なものを選択する。
【0142】
ひずみセンサ56a、56bの測定値から、式(8)及び式(9)を用いて、シャフト軸力Bs及びシャフトせん断力Wsが求まるので、
図8の特性曲線A、B、Cのうち
図19に示す特性図のうち摩擦係数μの試験結果に応じて選択した特性図を用いて、求めたシャフト軸力Bs及びシャフトせん断力Wsで定まる横軸のWs/Bsの値から該当する縦軸のF/Bsの値を求める。このF/Bsの値から押付け力Fを求めることができる。
【0143】
ただし、シャフトせん断力Wsが0の場合には、縦軸のF/Bsの値が一意に定まらないため、安全側に低めに見積もるものとして曲線ライン上の値(
図19のプロット)を採用する。このときの縦軸のF/Bsの値の誤差は、摩擦係数μが0.6の場合でも、最大14%である。
【0144】
本実施の形態においては、翼植込み部106等の加工面の傾斜角θが変化する加工対象物に対するバニシングにおいて、この傾斜角θを予め測定せずに押付け力Fを求めることが可能となる。
【0145】
本実施の形態のバニシング方法の手順については、第1及び第2の実施の形態を用いたバニシング方法を流用することができる。この場合、本実施の形態は、第1及び第2の実施の形態がはりのたわみ反力を利用して押し付ける構成であるのに対して、軸力シャフト51の軸力を利用して押し付ける構成であるため、バニシングツールの押付け方向の変化に対応して、ビーム11のせん断力Wをシャフト軸力Bsに置き換えればよい。
【0146】
上述したように、本発明のバニシング装置の第3の実施の形態によれば、軸力シャフト51の軸力による押付け方式を採用しているので、タービン翼103の翼植込み部106等の押付け方向と同一方向にバニシングツールが挿入可能な加工対象物における高さ及び傾斜角が変化する加工面に対して、バニシングの加工処理を確実に実行することができる。
【0147】
[その他]
なお、第1の実施の形態においては、加工対象物としてロータディスク102の植込み部105を例に示したが、タービン翼103の翼植込み部106にも適用することができる。
【0148】
また、第1の実施の形態乃至第3の実施の形態においては、ロータディスク102の植込み部105とタービン翼103の翼植込み部106を例に示したが、加工面の高さ及び傾斜角が変化する加工対象物に適用することができる。例えば、自動車部品のベアリングハウジングのようなコーナR部を含む機器の強度改善を意図した加工などにも有効である。
【0149】
なお、第1の実施の形態乃至第3の実施の形態においては、押圧部としてローラを例に示したが、押圧部は加工対象物に対して圧縮残留応力層を形成できればよく、例えば、ボールを用いることができる。
【0150】
また、第1の実施の形態乃至第3の実施の形態におけるツール駆動装置2は、少なくともXYZ軸の3軸制御可能な構成であればよい。
【0151】
なお、本発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、様々な変形例が含まれる。上述した実施の形態は本発明をわかり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。例えば、ある実施形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【0152】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計することによりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、記憶部やハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0153】
なお、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。