(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6012134
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】動物のアトピー性皮膚炎治療方法および治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/522 20060101AFI20161011BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20161011BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20161011BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20161011BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
A61K31/522
A61K31/7048
A61P37/08
A61P17/00 171
A61P43/00 121
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-243664(P2015-243664)
(22)【出願日】2015年12月14日
【審査請求日】2015年12月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515347533
【氏名又は名称】藤本 愛彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123489
【弁理士】
【氏名又は名称】大平 和幸
(72)【発明者】
【氏名】藤本 愛彦
【審査官】
鈴木 理文
(56)【参考文献】
【文献】
J. Vet. Pharmacol. Ther.,2010年,Vol.33,pp.495-498
【文献】
Antimicrob. Agents Chemother.,1995年,Vol.39 No.7,pp.1574-1579
【文献】
J. Dermatol. Sci.,2002年,Vol.28,pp.76-83
【文献】
炎症,1999年,Vol.19 No.2,pp.101-105
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/522
A61K 31/7048
A61P 17/00
A61P 37/08
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロキシスロマイシンとペントキシフィリンを併用投与することを特徴とする、ヒトを除く動物のアトピー性皮膚炎治療方法。
【請求項2】
前記動物がイヌである請求項1のアトピー性皮膚炎治療方法。
【請求項3】
ロキシスロマイシンを2.5mg/kg〜10.0mg/kg、ペントキシフィリンを12.5mg/kg〜50.0mg/kgを同時に食事とともに12時間おきに60日間投与することを特徴とする請求項1または2に記載のアトピー性皮膚炎治療方法。
【請求項4】
ロキシスロマイシンとペントキシフィリンを含む、ヒトを除く動物用アトピー性皮膚炎治療薬。
【請求項5】
前記動物がイヌである、請求項4の動物用アトピー性皮膚炎治療薬。
【請求項6】
ロキシスロマイシンを5mg/kg、ペントキシフィリンを25mg/kgを同時に食事とともに12時間おきに60日間投与することを特徴とする、請求項4または請求項5に記載の動物用アトピー性皮膚炎治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物のアトピー性皮膚炎の治療方法および治療剤に関する。より詳しくは、イヌのアトピー性皮膚炎の治療方法および治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
イヌのアトピー性皮膚炎(Canine atopic dermatitis:CAD)の一般的治療法としてステロイド治療がある。この治療法は痒みを軽減させる効果は認められる(非特許文献1)ものの、長期連用すれば副作用も発生する(非特許文献2および3)。
【0003】
臨床の現場でイヌのアトピー性皮膚炎に対する治療は、ステロイド療法、非ステロイド療法、サイクロスポリン療法、減感作療法、インターフェロンγ療法、脂肪酸療法、食事療法等がある。しかしながら、現在、ステロイド以外の治療で、ステロイド療法と同等もしくはそれ以上の治療効果でイヌのアトピー性皮膚炎を寛解させることはできない。現実、臨床現場では、ステロイドに頼った治療法が今でも主流である(非特許文献1)。しかし、そのステロイド療法も、投薬を終えてしまえば、すぐに症状が再燃する(非特許文献2および3)。寛解・再燃を繰り返せば、症状の寛解を得るまでの薬剤投薬量が少しずつ増えていくこともしばしば起き、副作用の懸念が増す。
【0004】
ロキシスロマイシン(RXM)はマクロライド系抗生剤であり、表皮免疫変調作用によりブドウ球菌に誘発されたスーパー抗原提示能の抑制が期待され、人ではざ瘡や乾癬の二次感染管理に使用されている(非特許文献4)。しかしながら、ロキシスロマイシン単剤投与ではイヌのアトピー性皮膚炎の臨床症状の改善が認められたという報告はなく、現在のところ表皮小環をともなうような慢性再発性ブドウ球菌性膿皮症に使用されているぐらいである(非特許文献5)。
【0005】
一方、ペントキシフィリン(PTX)は、合成キサンチン誘導体であり、ホスホジエステラーゼおよびTNFαを抑制し、組織への炎症細胞の移行を抑制する。接触性アレルギー性皮膚炎、血管炎、およびその他の免疫介在性疾患に対して有効とされ(非特許文献6)、特にグルココルチコイドの投与量を減量する効果が示されている(非特許文献7)。しかしながら、ペントキシフィリン単剤投与ではイヌのアトピー性皮膚炎における臨床症状の完全消失が認められたという報告はほとんど見当たらず、現在のところステロイドなどの治療薬の減薬補助剤として使用されるにとどまっている(非特許文献7)。
【0006】
そこで、ステロイド剤、治療方法に代わるアトピー性皮膚炎の治療剤、治療方法が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Olivry T, DeBoer DJ, Favrot C, Jackson HA, Mueller RS, Nuttall T, et al : Treatment of canine atopic dermatitis: 2010 clinical practice guidelines from the International Task Force on Canine Atopic Dermatitis. Vet Dermatol, 21, 233-248(2010)
【非特許文献2】Olivry T, Sousa CA : The ACVD task force on canine atopic dermatitis(XX): glucocorticoid pharmacotherapy. Vet Immunol Immunopathol, 81,317-322(2001)
【非特許文献3】Olivry T, Mueller RS, and the international task force on canine atopic dermatitis : Evidence-based veterinary dermatology: a systematic review of the pharmacotherapy of canine atopic dermatitis.Vet Dermatol, 14, 121-146(2003)
【非特許文献4】四本信一, 瀬戸山充, 神崎保, 田代正昭 : 化膿性皮膚疾患に対するロキシスロマイシンの臨床効果. 西日本皮膚科, 56(6), 1241-1245(1994)
【非特許文献5】大久保ゆかり 徳田安章 坂崎由朗 山城 将臣 : アトピー性皮膚炎に伴う細菌性皮膚疾患に対するロキシスロマイシンの臨床効果と好中球機能に及ぼす影響について. アレルギー, 44(3-2),413(1995)
【非特許文献6】E Layseca, F Sanchez, R Gonzalez :Phosphodiesterase Inhibitors as Immunomodulatory Drugs. Immunologia, 22(1), 39-52(2003)
【非特許文献7】Danny W Scott, William H Miller,: Pentoxifyline for the Management of Pruritus in Canine Atopic Dermatitis:An Open Clinical Trial With 37 Dogs. Jpn J Vet Dermatol, 13(1), 5-11(2007)
【非特許文献8】Jon D. Plant, Kinga Gortel, Marcel Kovalik, Nayak L. Polissar. et al: Development and validation of the Canine Atopic Dermatitis Lesion Index, a scale for the rapid scoring of lesion severity in canine atopic dermatitis. Vet Dermatol, 23, 515-e103(2012)
【非特許文献9】Favrot C, Steffan J, Seewald W, et al. A prospective study on the clinical featuresof chronic canine atopic dermatitis and its diagnosis.Vet Dermatol. 21: 23-30. 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
イヌのアトピー性皮膚炎に対する新規な治療方法および治療薬を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、ロキシスロマイシン単剤投与ならびにペントキシフィリン単剤投与、ロキシスロマイシン・ペントキシフィリン併用投与による臨床症状の変化をCADLI指数(非特許文献8)を用いて比較し、ロキシスロマイシン・ペントキシフィリン併用による治療の有用性を見出し、発明を完成させた。本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0010】
(1)ロキシスロマイシンとペントキシフィリンを併用投与することを特徴とする、動物のアトピー性皮膚炎治療方法。
(2)前記動物がイヌである(1)のアトピー性皮膚炎治療方法。
(3)ロキシスロマイシンを2.5mg/kg〜10mg/kg、ペントキシフィリンを12.5mg/kg〜50.0mg/kgを同時に食事とともに12時間おきに60日間投与することを特徴とする(1)または(2)に記載のアトピー性皮膚炎治療方法。
(4)ロキシスロマイシンとペントキシフィリンを含む動物用アトピー性皮膚炎治療薬。
(5)前記動物がイヌである、(4)の動物用アトピー性皮膚炎治療薬。
(6)ロキシスロマイシンを2.5mg/kg〜10mg/kg、ペントキシフィリンを12.5mg/kg〜50.0mg/kgを同時に食事とともに12時間おきに60日間投与することを特徴とする、(4)または(5)に記載の動物用アトピー性皮膚炎治療薬。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、イヌのアトピー性皮膚炎を治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、薬剤投与後のCADLIスコアの比較を示すグラフである
【
図2】
図2は、投薬終了後のCADLIスコアを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明においては、ロキシスロマイシンとペントキシフィリンを同時に食事とともに投与することを特徴とする。同時に投与することで、それぞれの薬剤の単独投与では見られない、アトピー性皮膚炎の治療効果が得られる。ここで、「同時に」というのは、必ずしも全く同じ時間という意味ではなく、例えば、30分以内、より好ましくは20分以内、さらに好ましくは10分以内に両方を投与する、という意味である。また、「食事とともに」とは、食事時に食事とともに投与してもよく、食後1時間以内、より好ましくは30分以内、さらに好ましくは20分以内に投与してもよい、という意味である。
【0014】
同時投与の形態としては、別々の薬剤を同時に投与してもよいし、最初から混合した薬剤を作成し、投与してもよい。
【0015】
同時投与は、ロキシスロマイシンを5mg/kg、ペントキシフィリンを25mg/kgを同時に食事とともに、または食事後に12時間おきに60日間行うのが好ましい。投与量は、ロキシスロマイシンの場合、2.5mg/kg〜10mg/kgであり、下限として、より好ましくは3.0mg/kg以上、さらに好ましくは4.0mg/kg以上、よりさらに好ましくは4.5mg/kg以上、最も好ましくは5.0mg/kgであり、上限としては、より好ましくは8.0mg/kg以下、さらに好ましくは7.0mg/kg以下、特に好ましくは6.0mg/kg以下、最も好ましくは5.0mg/kgである。ペントキシフィリンの場合は、好ましい投与量は、12.5mg/kg〜50mg/kgであり、より好ましくは、下限としては、15.0mg/kg以上、さらに好ましくは、17.5mg/kg以上、よりさらに好ましくは20.0mg/kg以上、特に好ましくは23mg/kg以上、最も好ましくは25mg/kgであり、上限としては、より好ましくは45.0mg/kg以下、さらに好ましくは40mg/kg以下、よりさらに好ましくは35.0mg/kg以下、特に好ましくは30.0mg/kg以下、最も好ましくは25mg/kgである。これら好ましい上限と下限は、それぞれの薬剤について任意の組合せが可能である。これによりアトピーがほぼ完治し、その後薬剤の投与を中止しても元に戻らないからである。
【0016】
本発明によれば、イヌのアトピー性皮膚炎に対して各々単剤では効果を示さなかったロキシスロマイシンとペントキシフィリンを同時に投与することで、CADLI数値を有意に低下させ、臨床症状もそれと比例するように劇的に改善することが明らかとなった。
【0017】
今回使用したロキシスロマイシン(式I)は14員環系マクロライド系抗生剤であるが、マクロライド系抗生物質としては、他にエリスロマイシンやクラリスロマイシンなどがある。ロキシスロマイシンと同様のアトピー性皮膚炎治療効果がある限り、他のマクロライド系抗生物質とペントキシフィリンを併用投与してもよい。ロキシスロマイシンの表皮免疫調整作用や炎症反応調整作用を期待され(非特許文献4)、人体では、ざ瘡や乾癬の二次管理、慢性副鼻腔炎、慢性気道炎に使用されている(非特許文献4)。
【化1】
しかしながら、イヌのアトピー性皮膚炎に対して有効という報告は見当たらず、本実験でも、ロキシスロマイシンの単独投与後の集計指数は平均値±標準誤差33.64±1.51(投与前のCADLIの集計指数が33.17±1.50)となり、有意な低下を示さず(P=0.643、
図1)、臨床症状の改善も確認できなかった。つまり、ロキシスロマイシン単剤投与ではイヌのアトピー性皮膚炎を改善させるほどの治療効果はないものと考えられた。
【0018】
ペントキシフィリン(式II)は、合成キサンチン誘導体であり、非選択的ホスホジエステラーゼ阻害剤である。ホスホジエステラーゼ阻害剤は細胞内のcAMP濃度やcGMP濃度を上昇させることで、抗炎症作用(血管内皮保護作用)を有する。
【化II】
この作用により接触性アレルギー性皮膚炎、血管炎、およびその他の免疫介在性疾患に対して有効とされ、特にグルココルチコイドの投与量を減量する効果が示されている(非特許文献7)。しかしながら、ペントキシフィリン単剤投与では高確率にイヌのアトピー性皮膚炎の臨床症状を劇的に改善させたという報告は見当たらず、現在のところステロイド剤、サイクロスポリン剤などの治療薬の減薬補助剤として使用されるにとどまっている(非特許文献7)。本実験でもペントキシフィリン投与後の集計指数は33.09±1.52(投与前のCADLIの集計指数が33.17±1.50)と、有意な低下を示さず(P=0.983、
図1)、臨床症状のほとんど症状の改善も見られなかった。つまり、ペントキシフィリン単剤投与ではイヌのアトピー性皮膚炎を改善させる治療効果はないものと考えられる。
【0019】
一方、各々単剤では効果を示さなかったロキシスロマイシンならびにペントキシフィリンも、同時に投与することにより、互いの相互作用により、治療前が33.17±1.50だったものが、ロキシスロマイシン・ペントキシフィリンの同時投与により、30日目で12.04±1.12(P<0.001、
図1)、60日目で6.51±0.97(P<0.001、
図1)とCALDI指数が有意に低下することを確認した。臨床症状もCADLI数値の低下と比例するように著しく改善し、イヌのアトピー性皮膚炎の症状がほぼ消失するほどの効果を多く確認した。この数値の減少効果は、犬種(表3)ならびに性別(表4)、年齢(表5)によって違いは見られず、臨床的症状も同じように改善した。これらの結果から、今回のロキシスロマイシンならびにペントキシフィリン併用療法はイヌのアトピー性皮膚炎の治療にとって、ステロイド療法と同等の有効な治療法であることが判明した。
【0020】
これだけでなく、この治療の最大の利点は、ステロイド療法での欠点である「投薬を終えてしまえば、すぐに症状が再燃する」という問題を克服している点も挙げられる。つまり、ステロイド療法では1ヶ月も投薬を中止すれば、症状が再燃するというケースをよく臨床現場では経験する。しかし、今回のロキシスロマイシンならびにペントキシフィリンの併用療法では、投薬を中止した30日後においても、CADLI数値は6.68±1.01(表2)と投薬中止前と比較して有意な上昇は認められず(P=0.817)(
図2)、最低30日間はイヌのアトピー性皮膚炎の症状の再燃がないことが明らかになった。
【0021】
高い確率での症状の寛解をえられること。症状の再燃が少ないこと。これら2点において、ロキシスロマイシンおよびペントキシフィリン併用療法は、イヌのアトピー性皮膚炎にとってステロイド療法にまさる治療法として有用であることが明らかとなった。
【0022】
副作用は、全期間において嘔吐の症状を呈する症例が数頭みられたが、飼い主に薬剤を食後に飲ませることを徹底させることで症状はほとんど消失した。また、薬剤投与終了後にすべての症例において生化学検査を実施した。まれにアルカリフォスフォターゼ(ALP)の軽度の上昇を認めたが、それ以外には著変は認められなかった。
【0023】
また、このイヌのアトピー性皮膚炎治療薬は、ロキシスロマイシンおよびペントキシフィリンに加えて任意に他の成分を含むことができる。本薬に添加される成分は、主として、本薬が投与される方式に依存して決定される。本薬が固体として用いられる場合は、例えばラクトース等の充填剤、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン等の結合剤、着色剤、コーティング剤等を用いることができ、このような剤は経口投与に好適である。また、担体または賦活剤として例えば、白色ワセリン、セルロース誘導体、界面活性剤、ポリエチレングリコール、シリコーン、オリーブ油等を加えてクリーム、乳液、ローション等の形態として外用薬として患部に塗布して用いることもできる。また、本薬が液体として投与される場合は、通常行われている生理学的に許容される溶媒、および乳化剤、安定剤を含むことができる。溶媒としては水、PBS、等張性生理食塩水等が挙げられ、乳化剤としては、ポリオキシエチレン系界面活性剤、脂肪酸系界面活性剤、シリコーン等が例示でき、安定剤としては、イヌ血清アルブミン、ゼラチン等のポリオール、またはソルビトール、トレハロースなどの糖類等が挙げられる。本発明のアトピー性皮膚炎治療薬の投与方法に特に限定はないが、経口投与することにより最も治療効果が期待できる。
【実施例】
【0024】
ロキシスロマイシン単剤投与ならびにペントキシフィリン単剤投与、ロキシスロマイシン・ペントキシフィリン併用投与による臨床症状の変化をCanine Atopic Dermatitis Lesion Index(CADLI)指数を用いて比較し、ロキシスロマイシン・ペントキシフィリン併用による治療の有用性を検証した。
【0025】
材料および方法
対象動物:2010年から2015年までの5年間にわたり、ごとふ動物病院(福岡県福岡市早良区藤崎1−1−37)において、2010年にDr.Favrotによって発表された診断基準(非特許文献9)によりイヌのアトピー性皮膚炎と診断された犬のうち、家族から治療の同意と協力を得られた127頭について試験を実施した。実施内容は、127例すべてにおいて、30日間はロキシスロマイシンを単剤投与し、その次の30日間はペントキシフィリンを単剤投与した。そして最後の60日間はロキシスロマイシンならびにペントキシフィリンを併用投与した。対象となった犬の種別の構成は(表1)に示す通りである。性別の構成は、雄が57頭(うち去勢済み35頭)、雌が70頭(うち避妊済み35頭)であった(表1)。
【0026】
【表1】
【0027】
検査時の年齢構成は2歳から18歳までであり、平均7.8歳であった。治療対象とした個体は、Dr.Favrotの診断基準に合致した個体を選択した。ただし、Dr.Favrotの診断基準に合致した個体であっても、外部寄生虫の感染性皮膚疾患を呈していた個体は今回の対象とはしなかった。
【0028】
方法:127例すべての症例において、はじめの30日間はロキシスロマイシンのみ5mg/kgを12時間ごと食事とともに経口投与した。次の30日間はペントキシフィリンのみを25mg/kg、12時間ごとに食事とともに経口投与した。その次の60日間はロキシスロマイシンを5mg/kgとペントキシフィリンを25mg/kgを同時に12時間ごと食事とともに経口投与した。その後、ロキシスロマイシンならびにペントキシフィリンの投与を中止し、30日間の追跡調査を実施した。すべての治療期間、食事に制限はなく自由に採食させた。また、シャンプーは自宅にて1週間に1回実施した。痒みの強い病変があれば、局所のコルチコテロイド療法は随時実施した
【0029】
評価方法:
127例すべての症例において、投薬開始前の皮膚状態をCADLIの指数を用いて計測した。計測後、ロキシスロマイシン(RXM)を30日間単剤投与し、投与後、皮膚状態の把握のためCADLIを計測し、投薬前後の数値の変動を比較することによって、ロキシスロマイシンがイヌのアトピー性皮膚炎を改善させる能力を有しているのか判定した。ペントキシフィリン(PTX)についても同じように、CADLIの指標を計測し、投与前後の数値を比較することによって、ペントキシフィリンがイヌのアトピー性皮膚炎を改善させる効果を有しているのか評価した。最後に、ロキシスロマイシンならびにペントキシフィリンの併用投与についても、投与30日目と60日目に、それぞれCADLIの数値を計測し、その数値を比較することによって、薬剤の効果を評価した。
【0030】
(結果)
127例すべての症例において、投薬開始前のイヌのアトピー性皮膚炎の状態を把握するため、CADLIの数値を計測した。その数値の平均値±標準誤差は33.17±1.50(表2)であった。
【0031】
【表2】
【0032】
ロキシスロマイシンを単剤投与した後のCADLI数値は33.64±1.51(表2)となり、投薬開始前の33.17±1.50と比較して、ロキシスロマイシン投与によって、CADLIの数値に有意な低下は認められず(P=0.643)(
図1)、イヌのアトピー性皮膚炎を改善させる効果はなかった。同様に、ペントキシフィリン単剤投与においても33.09±1.52(表2)と投薬開始前の33.17±1.50と比較して、有意な低下がみられず(P=0.983)(
図1)、ペントキシフィリンもイヌのアトピー性皮膚炎の症状を改善させる効果は確認できなかった。一方、ロキシスロマイシン・ペントキシフィリン併用投与は、30日目でCADLIの数値が12.04±1.12(表2)(P<0.001)、60日目では6.51±0.97(表2)(P<0.001)と投薬開始前の33.17±1.50と比較して、明らかに数値の低下が見られた(
図1)。
【0033】
臨床の症状も、これらの数値の減少と比例するように、30日目より60日目の方がより改善しているというような著しいイヌのアトピー性皮膚炎の症状改善効果がみられた。皮膚状態が著しく改善したので、ロキシスロマイシン・ペントキシフィリン投与を終了し、終了後にイヌのアトピー性皮膚炎の症状の再燃がないか追跡調査した。
【0034】
ロキシスロマイシン・ペントキシフィリン投与終了30日後のCADLIの数値は6.68±1.01(表2)とロキシスロマイシン・ペントキシフィリン投与終了前の数値6.51±0.97と比較して、有意な上昇を認めず(P=0.817)(
図2)、臨床症状の悪化も確認できなかった。つまり、ロキシスロマイシン・ペントキシフィリンの投与を中止しても、30日間は症状の再燃がないことも明らかになった。
【0035】
CADLI数値の減少効果は、犬種(表3)ならびに性別(表4)、年齢(表5)によって違いは見られず、臨床的症状も同じように改善した。したがって、本発明の併用投与は、犬種、性別、年齢によらずに有効であることがわかった。
【0036】
【表3】
【0037】
【表4】
【0038】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、獣医産業、動物医薬品業界で利用できる。
【要約】
【課題】イヌのアトピー性皮膚炎の治療剤および治療方法を提供する。
【解決手段】ロキシスロマイシンを2.5mg/kg〜10.0mg/kg、ペントキシフィリンを12.5mg/kg〜50.0mg/kgを同時に食事とともに12時間おきに60日間投与することを特徴とする請求項1または2に記載のアトピー性皮膚炎治療方法。
【選択図】
図1