特許第6012186号(P6012186)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012186
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】加工対象物切断方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20161011BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20161011BHJP
【FI】
   H01L21/78 B
   B23K26/53
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-18605(P2012-18605)
(22)【出願日】2012年1月31日
(65)【公開番号】特開2013-157545(P2013-157545A)
(43)【公開日】2013年8月15日
【審査請求日】2015年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124291
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 悟
(72)【発明者】
【氏名】河口 大祐
【審査官】 内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−026177(JP,A)
【文献】 特開2010−204555(JP,A)
【文献】 特開2007−118207(JP,A)
【文献】 特開2009−158700(JP,A)
【文献】 特表2005−534048(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/025908(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化ガラス板の表面に一方の面が接合された板状の加工対象物を準備する工程と、
前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記強化ガラス板にレーザ光を照射することにより、前記切断予定ラインに沿って前記強化ガラス板に改質領域を形成し、前記改質領域を起点として発生した亀裂を前記一方の面を越えて前記加工対象物の内部まで伸展させる工程と、
前記強化ガラス板及び前記加工対象物に対して力を加えることにより、前記改質領域を起点として発生した亀裂を前記加工対象物の他方の面まで伸展させて前記加工対象物を切断する工程と、を備えることを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項2】
前記加工対象物を切断する工程においては、前記強化ガラス板の裏面に取り付けられた拡張可能な保持部材を拡張することにより、前記強化ガラス板及び前記加工対象物に対して力を加える、ことを特徴とする請求項1に記載の加工対象物切断方法。
【請求項3】
前記改質領域を形成する工程においては、前記強化ガラス板の裏面をレーザ光入射面として前記強化ガラス板に前記レーザ光を照射する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の加工対象物切断方法。
【請求項4】
前記加工対象物の前記一方の面と前記強化ガラス板の前記表面とは、表面活性化接合によって接合されている、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の加工対象物切断方法。
【請求項5】
前記加工対象物は、半導体基板と前記半導体基板の上に形成された半導体層とを有し、 前記半導体層は、光を発生するための活性層を含む、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の加工対象物切断方法。
【請求項6】
前記強化ガラス板は、前記強化ガラス板の厚さ方向から見て前記加工対象物よりも大きい、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の加工対象物切断方法。
【請求項7】
前記強化ガラス板は、前記強化ガラス板の厚さ方向から見て前記加工対象物と略同一の形状である、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の加工対象物切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状の加工対象物を切断予定ラインに沿って切断するための加工対象物切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野の従来の技術として、例えば、特許文献1に記載の加工対象物切断方法が知られている。この加工対象物切断方法は、例えば、シリコン基板を含む板状の分断用加工対象物と、LTCC(Low Temperature Co-Fired Ceramics:低温同時焼成セラミックス)基板を含む板状の加工対象物とを互いに接合した後に、分断用加工対象物のシリコン基板にレーザ光を照射することによってシリコン基板の内部に改質領域を形成する。そして、分断用加工対象物に力を印加することにより、その改質領域から亀裂を伸展させて、分断用加工対象物と加工対象物とを切断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−26177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の加工対象物切断方法においては、上述したように、分断用加工対象物にレーザ光を照射して改質領域を形成し、その改質領域から生じた亀裂を加工対象物に伸展させて加工対象物を切断する。このため、特許文献1に記載の加工対象物切断方法によれば、切断対象となる加工対象物に切断の起点を形成する必要がないので、その材料に左右されずに精度よく加工対象物を切断することができる。このように、上記技術分野においては、加工対象物の材料に左右されず、切断予定ラインに沿って精度よく加工対象物を切断することが望まれている。
【0005】
本発明は、そのような事情に鑑みてなされたものであり、加工対象物の材料に左右されずに、切断予定ラインに沿って精度よく加工対象物を切断することができる加工対象物切断方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る加工対象物切断方法は、強化ガラス板の表面に一方の面が接合された板状の加工対象物を準備する工程と、加工対象物の切断予定ラインに沿って強化ガラス板にレーザ光を照射することにより、切断予定ラインに沿って強化ガラス板に改質領域を形成する工程と、強化ガラス板及び加工対象物に対して力を加えることにより、改質領域を起点として発生した亀裂を加工対象物の他方の面まで伸展させて加工対象物を切断する工程と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この加工対象物切断方法においては、切断対象である加工対象物に接合された強化ガラス板にレーザ光を照射することにより、加工対象物の切断予定ラインに沿って強化ガラス板に改質領域を形成する。そして、強化ガラス板と加工対象物とに力を加えることにより、強化ガラス板の改質領域から生じた亀裂を加工対象物の他方の面まで伸展させて加工対象物を切断する。強化ガラス板は、レーザ光の照射より形成された改質領域が内部応力の開放の起点となり、強い切断性を発揮する。このため、この加工対象物切断方法によれば、強化ガラス板の改質領域から生じた亀裂を加工対象物の他方の面まで確実に伸展させることができるので、加工対象物の切断に際し、加工対象物にレーザ光を照射して切断の起点を形成する必要が無い。よって、この加工対象物切断方法によれば、加工対象物の材料に左右されずに、切断予定ラインに沿って精度よく加工対象物を切断することができる。
【0008】
本発明に係る加工対象物切断方法においては、加工対象物を切断する工程において、強化ガラス板の裏面に取り付けられた拡張可能な保持部材を拡張することにより、強化ガラス板及び加工対象物に対して力を加えることができる。この場合、保持部材を拡張させるだけで、強化ガラス板の改質領域から生じた亀裂を加工対象物の他方の面まで容易に伸展させることができる。
【0009】
本発明に係る加工対象物切断方法においては、改質領域を形成する工程において、強化ガラス板の裏面をレーザ光入射面として強化ガラス板にレーザ光を照射することができる。この場合、加工対象物がレーザ光を導光し易いか否かにかかわらず、強化ガラス板に改質領域を確実に形成することができる。また、加工対象物に対するレーザ光の影響を低減することができる。
【0010】
本発明に係る加工対象物切断方法においては、加工対象物の一方の面と強化ガラス板の表面とは、表面活性化接合によって接合されているものとすることができる。この場合には、加工対象物と強化ガラス板との接合の際に、加工対象物が高温になることを避けることができる。
【0011】
本発明に係る加工対象物切断方法においては、加工対象物は、半導体基板と半導体基板の上に形成された半導体層とを有し、半導体層は、光を発生するための活性層を含むことができる。上述したように、本発明に係る加工対象物切断方法によれば、加工対象物にレーザを照射して切断の起点を形成する必要がないので、加工対象物の切断面に加工痕が生じない。このため、加工対象物の切断面を半導体レーザ素子の共振面として好適に機能させることができる。
【0012】
本発明に係る加工対象物切断方法においては、強化ガラス板は、強化ガラス板の厚さ方向から見て加工対象物よりも大きいものとすることができる。この場合には、強化ガラス板に加工対象物を接合する際のアライメントが容易となる。
【0013】
本発明に係る加工対象物切断方法においては、強化ガラス板は、強化ガラス板の厚さ方向から見て加工対象物と略同一の形状であるものとすることができる。この場合には、強化ガラス板のロスを低減することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、加工対象物の材料に左右されずに、切断予定ラインに沿って精度よく加工対象物を切断することができる加工対象物切断方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】改質領域の形成に用いられるレーザ加工装置の概略構成図である。
図2】改質領域の形成の対象となる加工対象物の平面図である。
図3図2の加工対象物のIII−III線に沿っての断面図である。
図4】レーザ加工後の加工対象物の平面図である。
図5図4の加工対象物のV−V線に沿っての断面図である。
図6図4の加工対象物のVI−VI線に沿っての断面図である。
図7】本発明の一実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される加工対象物の平面図である。
図8図7の加工対象物の切断予定ラインに沿っての部分断面図である。
図9】本発明の一実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための部分断面図である。
図10】加工対象物と強化ガラス板とを接合した様子を示す斜視図である。
図11】本発明の一実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための部分断面図である。
図12】本発明の一実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための部分断面図である。
図13】加工対象物及び強化ガラス板の切断面を示す拡大写真である。
図14】加工対象物と強化ガラス板とを接合した様子を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において、同一又は相当部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
本発明の一実施形態に係る加工対象物切断方法では、切断対象である加工対象物の切断予定ラインに沿って強化ガラス板にレーザ光を照射することにより、切断予定ラインに沿って強化ガラス板の内部に切断の起点となる改質領域を形成する。そこで、まず、その改質領域の形成について、図1〜6を参照して説明する。
【0018】
図1に示されるように、レーザ加工装置100は、レーザ光Lをパルス発信するレーザ光源101と、レーザ光Lの光軸(光路)の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、レーザ光Lを集光するための集光用レンズ105と、を備えている。また、レーザ加工装置100は、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1を支持するための支持台107と、支持台107を移動させるためのステージ111と、レーザ光Lの出力やパルス幅等を調整するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、ステージ111の駆動を制御するステージ制御部115と、を備えている。
【0019】
このレーザ加工装置100においては、レーザ光源101から出射されたレーザ光Lは、ダイクロイックミラー103によってその光軸の向きを90°変えられ、支持台107上に載置された加工対象物1の内部に集光用レンズ105によって集光される。これと共に、ステージ111が移動させられ、加工対象物1がレーザ光Lに対して切断予定ライン5に沿って相対移動させられる。これにより、切断予定ライン5に沿って改質領域が加工対象物1に形成されることとなる。
【0020】
加工対象物1としては、種々の材料(例えば、ガラス、半導体材料、圧電材料等)からなる板状の部材(例えば、基板、ウェハ等)が用いられる。図2に示されるように、加工対象物1には、加工対象物1を切断するための切断予定ライン5が設定されている。切断予定ライン5は、直線状に延びた仮想線である。加工対象物1の内部に改質領域を形成する場合、図3に示されるように、加工対象物1の内部に集光点Pを合わせた状態で、レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち、図2の矢印A方向に)相対移動させる。これにより、図4〜6に示されるように、改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部に形成され、切断予定ライン5に沿って形成された改質領域7が切断起点領域8となる。
【0021】
なお、集光点Pとは、レーザ光Lが集光する箇所のことである。また、切断予定ライン5は、直線状に限らず曲線状であってもよいし、仮想線に限らず加工対象物1の表面3に実際に引かれた線であってもよい。また、改質領域7は、連続的に形成される場合もあるし、断続的に形成される場合もある。また、改質領域7は列状でも点状でもよく、要は、改質領域7は少なくとも加工対象物1の内部に形成されていればよい。また、改質領域7を起点に亀裂が形成される場合があり、亀裂及び改質領域7は、加工対象物1の外表面(表面、裏面、若しくは外周面)に露出していてもよい。
【0022】
ここで、レーザ光Lは、加工対象物1を透過すると共に加工対象物1の内部の集光点P近傍において特に吸収され、これにより、加工対象物1に改質領域7が形成される(すなわち、内部吸収型レーザ加工)。よって、加工対象物1の表面3ではレーザ光Lが殆ど吸収されないので、加工対象物1の表面3が溶融することはない。一般的に、表面3から溶融され除去されて穴や溝等の除去部が形成される(表面吸収型レーザ加工)場合、加工領域は表面3側から徐々に裏面側に進行する。
【0023】
ところで、本実施形態において形成される改質領域は、密度、屈折率、機械的強度やその他の物理特性が周囲と異なる状態になった領域をいう。改質領域としては、例えば、溶融処理領域(一旦溶融後に再固化した領域、溶融状態にある領域、及び溶融状態から再固化する途中の状態にある領域の少なくとも一つを含む領域を意味する)、クラック領域、絶縁破壊領域、及び、屈折率変化領域等があり、これらが混在した領域もある。さらに、改質領域としては、加工対象物の材料において改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域や、格子欠陥が形成された領域がある(これらをまとめて高密転移領域ともいう)。
【0024】
また、溶融処理領域や屈折率変化領域、改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域、格子欠陥が形成された領域は、さらに、それらの領域の内部や改質領域と非改質領域との界面に亀裂(割れ、マイクロクラック等)を内包している場合がある。内包される亀裂は、改質領域の全面に渡る場合や一部分のみや複数部分に形成される場合がある。加工対象物1としては、例えば、シリコン、ガラス、LiTaOまたはサファイア(Al)からなる基板やウェハ、またはそのような基板やウェハを含むものが挙げられる。
【0025】
また、本実施形態においては、切断予定ライン5に沿って改質スポット(加工痕)を複数形成することによって、改質領域7を形成している。改質スポットとは、パルスレーザ光の1パルスのショット(つまり1パルスのレーザ照射:レーザショット)で形成される改質部分であり、改質スポットが集まることにより、改質領域7となる。改質スポットとしては、クラックスポット、溶融処理スポット、若しくは屈折率変化スポット、またはそれらの少なくとも2つが混在するもの等が挙げられる。このような改質スポットについては、要求される切断精度、要求される切断面の平坦性、加工対象物の厚さ、種類、結晶方位等を考慮して、その大きさや発生する亀裂の長さを適宜制御することが好ましい。
【0026】
引き続いて、図7〜13を参照して、本発明の一実施形態に係る加工対象物切断方法について説明する。図7は、本実施形態に係る加工対象物切断方法が適用される加工対象物の平面図である。図8は、図7に示された加工対象物の切断予定ラインに沿っての部分断面図である。
【0027】
図7,8に示されるように、板状の加工対象物10は、GaAs等のIII−V族化合物半導体からなる半導体基板2と、半導体基板2の表面2aの上に形成された半導体レーザ素子のための半導体層4とを備えている。ここでは、半導体層4の表面4aが加工対象物10の表面(他方の面)10aとなり、半導体基板2の裏面2bが加工対象物10の裏面(一方の面)10bとなる。半導体層4は、例えばGaAs等のIII−V族化合物半導体からなり光を発生するための活性層を含むと共に、マトリックス状に配列された複数の素子部15を有している。加工対象物10を切断するための切断予定ライン5は、隣り合う素子部15の間を通るように格子状に設定されている。
【0028】
以上のように構成された加工対象物10に対して、本実施形態に係る加工対象物切断方法を適用する。本実施形態に係る加工対象物切断方法においては、まず、図9の(a)に示されるように、強化ガラス板20を用意する。強化ガラス板20は、例えば化学強化ガラスからなる。化学強化ガラスは、例えば、通常のガラスをカリウム溶液に浸けこんで、表面のナトリウムイオンとカリウムイオンとを置換することにより、その表面に圧縮応力層を形成することにより製造することができる。したがって、強化ガラス板20は、引張応力層と、その引張応力層を覆うように形成された圧縮応力層とを有し、内部に応力を保持している。
【0029】
続いて、図9の(b)に示されるように、加工対象物10の裏面10bを、強化ガラス板20の表面20aに接合する。加工対象物10の裏面10bと強化ガラス板20の表面20aとは、例えば表面活性化接合によって直接接合することができる。より具体的には、真空中において、加工対象物10の裏面10b及び強化ガラス板20の表面20aに不活性ガスのイオンビーム等を照射し、酸化物や吸着分子等を除去する。これにより、加工対象物10の裏面10b及び強化ガラス板20の表面20aに露出した原子は、化学結合を形成する結合手の一部が結合相手を失い、他の原子に対する強い結合力を有する状態となる。この状態において、加工対象物10の裏面10bと強化ガラス板20の表面20aとを接触させると、裏面10bと表面20aとが強固に接合される。
【0030】
なお、ここでは、図10に示されるように、加工対象物10が略円盤状であるのに対して、強化ガラス板20は矩形板状である。また、強化ガラス板20及び加工対象物10の厚さ方向から見て、強化ガラス板20は加工対象物10より大きい。このため、加工対象物10と強化ガラス板20とを接合する際のアライメントが容易となる。
【0031】
続いて、強化ガラス板20の裏面20bを上側にして、加工対象物10及び強化ガラス板20をレーザ加工装置の支持台(図示せず)上に載置する。そして、図11に示されるように、強化ガラス板20の裏面20bをレーザ光入射面として強化ガラス板20の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射し、支持台の移動によって、各切断予定ライン5に沿って集光点Pを相対的に移動させる。
【0032】
この各切断予定ライン5に沿った集光点Pの相対的な移動を、1本の切断予定ライン5に対して複数回行う。そのとき、集光点Pと裏面20bとの距離を各回で変えることにより、表面20a側から順に、1本の切断予定ライン5に対して複数列の改質領域7を強化ガラス板20の内部に1列ずつ形成する。ここで形成される改質領域7は、例えば、クラック領域や溶融処理領域等を含む。
【0033】
この改質領域7の形成により、改質領域7を起点として強化ガラス板20の厚さ方向に発生した亀裂17を、切断予定ライン5に沿って強化ガラス板20の裏面20bに到達させる。なお、1本の切断予定ライン5に対して形成すべき改質領域7の列数は、強化ガラス板20の厚さや強化ガラス板20の強化度等に応じて変化させることができる。例えば、強化ガラス板20が比較的薄く、1本の切断予定ライン5に対して1列の改質領域7を形成することにより、亀裂17を強化ガラス板20の裏面20bに到達させることができれば、1本の切断予定ライン5に対して複数列の改質領域7を形成する必要は無い。
【0034】
なお、強化ガラス板20は、内部応力の開放効果に起因して、強い切断性を発揮する。このため、強化ガラス板20においては、改質領域7を起点として発生した亀裂17が自然に伸展し、強化ガラス板20の裏面20b及び表面20aに到達する場合がある。さらには、強化ガラス板20において発生した亀裂17が自然に伸展する結果、加工対象物10の裏面10bを越えて加工対象物10の内部まで自然に亀裂が伸展する場合もある。
【0035】
続いて、図12の(a)に示されるように、強化ガラス板20の裏面20bに拡張可能なエキスパンドテープ(保持部材)30を貼り付ける。そして、図12の(b)に示されるように、エキスパンドテープ30を拡張させて、改質領域7を起点として生じた亀裂17が開く方向に、強化ガラス板20及び加工対象物10に力を加える。これにより、改質領域7を起点として発生した亀裂17を加工対象物10の表面10aに至るまで伸展させて、切断予定ライン5に沿って強化ガラス板20及び加工対象物10を切断する。これにより、加工対象物10が素子部15を含む複数のチップに切断される。その後、必要に応じて、切断された加工対象物10から強化ガラス板20を取り除く。
【0036】
図13は、以上のようにして切断した加工対象物10及び強化ガラス板20の切断面を示す拡大写真である。図13に示されるように、この加工対象物切断方法によれば、加工対象物10に加工痕を生じさせないので、加工対象物10の切断面の鏡面化が達成されている。
【0037】
以上説明したように、本実施形態に係る加工対象物切断方法においては、切断対象である加工対象物10に接合された強化ガラス板20にレーザ光Lを照射することによって、加工対象物10の切断予定ライン5に沿って強化ガラス板20に改質領域7を形成する。そして、強化ガラス板20と加工対象物10とに力を加えることにより、強化ガラス板20の改質領域7から生じた亀裂17を加工対象物10の表面10aまで伸展させて加工対象物10を切断する。
【0038】
上述したように、強化ガラス板20は、レーザ光Lの照射より形成された改質領域7が内部応力の開放の起点となり、強い切断性を発揮する。このため、本実施形態に係る加工対象物切断方法によれば、強化ガラス板20の改質領域7から生じた亀裂17を加工対象物10の表面10aまで確実に伸展させることができるので、加工対象物10の切断に際し、加工対象物10にレーザ光Lを照射して切断の起点を形成する必要が無い。よって、本実施形態に係る加工対象物切断方法によれば、加工対象物10の材料に左右されずに、切断予定ライン5に沿って精度よく加工対象物10を切断することができる。
【0039】
特に、本実施形態に係る加工対象物切断方法によれば、加工対象物10に加工痕が生じないので、加工対象物10の切断面の鏡面化を達成することができる。このため、本実施形態に係る加工対象物切断方法によれば、加工対象物10の切断面を共振面とする半導体レーザ素子を作製することが可能となる。また、加工対象物10の切断面に加工痕が生じないので、切断後の加工対象物10の抗折強度を向上することができる。
【0040】
また、本実施形態に係る加工対象物切断方法においては、強化ガラス板20の裏面20bをレーザ光入射面とするので、加工対象物10がレーザ光Lを導光し易いか否かにかかわらず、強化ガラス板20に改質領域7を確実に形成することができる。また、加工対象物10に対するレーザ光Lの影響を低減することができる。
【0041】
また、本実施形態に係る加工対象物切断方法においては、加工対象物10と強化ガラス板20とを表面活性化接合によって接合するので、例えば陽極接合を用いる場合に比べて、加工対象物10が高温になることを避けることができる(すなわち、加工対象物10と強化ガラス板20とを常温にて接合することができる)。その結果、例えば熱膨張係数が異なる材料からなる物同士を接合できる等、接合材料の種類が限定されない。
【0042】
以上の実施形態は、本発明に係る加工対象物切断方法の一実施形態を説明したものである。したがって、本発明に係る加工対象物切断方法は、上述のものに限定されない。本発明に係る加工対象物切断方法は、特許請求の範囲に記載した各請求項の要旨を変更しない範囲において、上述のものを任意に変形したものとすることができる。
【0043】
例えば、強化ガラス板20の形状・寸法は、図10に示される態様に限定されない。強化ガラス板20は、例えば、図14の(a)に示されるように、加工対象物10及び強化ガラス板20の厚さ方向からみて、加工対象物10と略同一の形状とすることができる。この場合には、強化ガラス板20のロスを低減することができる。或いは、強化ガラス板20は、例えば、図14の(b)に示されるように、円盤状であり、且つ、加工対象物10及び強化ガラス板20の厚さ方向からみて加工対象物10よりも大きいものとしてもよい。この場合には、加工対象物10と強化ガラス板20とを接合する際のアライメントが容易となる。
【0044】
また、上述した加工対象物切断方法においては、加工対象物10の裏面10bと強化ガラス板20の表面20aとを表面活性化接合により直接接合する態様を示したが、加工対象物10の裏面10bと強化ガラス板20の表面20aとの接合の態様はこれに限定されない。例えば、加工対象物10の裏面10bと強化ガラス板20の表面20aとを、樹脂や金属等からなる所定の接着層を介して互いに接合することができる。
【0045】
また、加工対象物10は、上述したものに限定されない。例えば、加工対象物10は、半導体レーザ素子のための半導体層4を含むものとしたが、他の半導体素子のための半導体層を含むものであってもよい。或いは、加工対象物10は、半導体層4の表面4aに電極が設けられたものでもよいし、半導体基板2のみからなるものでよもよい。さらには、加工対象物10は、半導体でなくてもよい。
【0046】
さらに、上述した加工対象物切断方法においては、強化ガラス板20として化学強化ガラスからなるものを例示したが、強化ガラス板20は、例えば、通常のガラスを加熱・急冷して作製される強化ガラスからなるものとすることができる。
【符号の説明】
【0047】
5…切断予定ライン、7…改質領域、10…加工対象物、10a…表面(他方の面)、10b…裏面(一方の面)、17…亀裂、20…強化ガラス板、20a…表面、20b…裏面、L…レーザ光。
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