特許第6012219号(P6012219)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6012219スポーツ飲料の製造方法、塩味マスキング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012219
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】スポーツ飲料の製造方法、塩味マスキング方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/10 20160101AFI20161011BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20161011BHJP
   A23L 2/38 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   A23L27/10 C
   A23L2/00 F
   A23L2/38 B
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-73527(P2012-73527)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-201952(P2013-201952A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年12月17日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】596126465
【氏名又は名称】アサヒ飲料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】奥川 奨
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−135246(JP,A)
【文献】 特開昭61−139360(JP,A)
【文献】 特開平10−052235(JP,A)
【文献】 特開2005−126616(JP,A)
【文献】 特開平07−277920(JP,A)
【文献】 特開平05−176705(JP,A)
【文献】 特開2001−008671(JP,A)
【文献】 特開2003−093016(JP,A)
【文献】 特開2011−103774(JP,A)
【文献】 特開2003−210140(JP,A)
【文献】 特開2000−256346(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/097433(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
A23L 2/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
香草類を水蒸気蒸留し、溜出液を得る工程と、
水蒸気蒸留後の前記香草類を温水で抽出し、抽出液を得る工程と、
前記溜出液と前記抽出液とを混合して香草エキスを得る工程と、
カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種のミネラル成分と、前記香草エキスと、水とを混合攪拌する工程と、
を含み、
混合攪拌する前記工程は、
得られる飲料1L中に、前記ミネラル成分が100mg以上、2000mg以下含まれるように、前記ミネラル成分を添加する工程と、
得られる飲料1L中に、前記香草エキスが固形分換算で0.005g以上、0.1g以下含まれるように、前記香草エキスを添加する工程と、を含み、前記香草類はレモングラスである、スポーツ飲料の製造方法。
【請求項2】
混合攪拌する前記工程において、人工的に製造された香味成分を添加する工程を含まない、請求項1に記載のスポーツ飲料の製造方法。
【請求項3】
カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種のミネラル成分を含むスポーツ飲料に、レモングラス抽出物を添加する飲料の塩味マスキング方法であって、
前記レモングラス抽出物は、
レモングラスを水蒸気蒸留し、溜出液を得る工程と、
水蒸気蒸留後の前記レモングラスを温水で抽出し、抽出液を得る工程と、
前記溜出液と前記抽出液とを混合して前記レモングラス抽出物を得る工程と、
を含む方法によって得られたものであり、
前記スポーツ飲料1L中に、前記ミネラル成分を100mg以上、2000mg以下含み、
前記スポーツ飲料1L中に、前記レモングラス抽出物が固形分換算で0.005g以上、0.1g以下含まれるように添加する、塩味マスキング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポーツ飲料の製造方法、塩味マスキング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料は、風味、特に味と香りが重要であることから、原料となる果実や茶葉等から得られた香味成分(香気成分や呈味成分)を、別途飲料に添加することが行われている。
【0003】
特許文献1には、柑橘類の果皮から圧搾して得られたオイル成分が抗酸化剤として添加された果汁飲料が開示されている。
特許文献2には、果実の果肉に含まれる香気成分を該果実の濃縮果汁に混合して得られる風味強化濃縮果汁を使用して製造された果実飲料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−102421号
【特許文献2】特開2009-11246号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、運動中や夏のような発汗が盛んな時期には、汗とともに多くのミネラル成分が体外へ排出されるため、水分補給だけでなく、ミネラル成分を補給することができるスポーツ飲料等の機能性飲料が開発されている。このような機能性飲料は、爽やかな風味が好まれ、レモンやグレープフルーツのような柑橘果実の香味を呈し、ナトリウムやカルシウムなどのミネラル成分が配合されている。
【0006】
しかしながら、添加されるミネラル成分は需要者に塩味を感じさせるため、そのミネラル由来の不快な塩味をマスキングし、呈味を改善する必要があった。さらに、消費者の天然志向や安全性の観点から、人工的に製造された香味成分(香料、甘味料、苦味料などの食品添加物)を用いることなく、天然物由来の物質のみで塩味がマスキングされた飲料が求められていた。
【0007】
特許文献1に記載された柑橘類のオイル成分は、塩味をマスキングし、呈味を改善するには十分ではなく改善の余地があった。
また、特許文献2に記載された方法のように、香気を強化した濃縮果汁を添加する方法では、力価が弱く所定の添加量が必要であった。また、そのような濃縮果汁にレモン果汁を用いた場合、酸味が強く出る場合があり、酸度を調整するために酸味料(pH調整剤)のような食品添加物を用いることがあった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下に示すことができる。
[1]香草類を水蒸気蒸留し、溜出液を得る工程と、
水蒸気蒸留後の前記香草類を温水で抽出し、抽出液を得る工程と、
前記溜出液と前記抽出液とを混合して香草エキスを得る工程と、
カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種のミネラル成分と、前記香草エキスと、水とを混合攪拌する工程と、
を含み、
混合攪拌する前記工程は、
得られる飲料1L中に、前記ミネラル成分が100mg以上、2000mg以下含まれるように、前記ミネラル成分を添加する工程と、
得られる飲料1L中に、前記香草エキスが固形分換算で0.005g以上、0.1g以下含まれるように、前記香草エキスを添加する工程と、を含み、前記香草類はレモングラスである、スポーツ飲料の製造方法。
【0011】
[2]混合攪拌する前記工程において、人工的に製造された香味成分を添加する工程を含まない、[1]に記載のスポーツ飲料の製造方法。
【0014】
[3]カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種のミネラル成分を含むスポーツ飲料に、レモングラス抽出物を添加する飲料の塩味マスキング方法であって、
前記レモングラス抽出物は、
レモングラスを水蒸気蒸留し、溜出液を得る工程と、
水蒸気蒸留後の前記レモングラスを温水で抽出し、抽出液を得る工程と、
前記溜出液と前記抽出液とを混合して前記レモングラス抽出物を得る工程と、
を含む方法によって得られたものであり、
前記スポーツ飲料1L中に、前記ミネラル成分を100mg以上、2000mg以下含み、
前記スポーツ飲料1L中に、前記レモングラス抽出物が固形分換算で0.005g以上、0.1g以下含まれるように添加する、塩味マスキング方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、天然物由来の物質であり、塩味をマスキングして呈味を改善し、香味バランスに優れた機能性飲料を提供可能な香草エキスの製造方法を提供することができる。さらに、このような香草エキスの製造工程を含む機能性飲料の製造方法、該香草エキスを用いた飲料の塩味マスキング方法および機能性飲料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を以下に具体的に説明する。
本発明の香草エキスは、ミネラル成分を含む機能性飲料に用いられるものであって下記工程により得られる。
【0023】
(1)香草類を水蒸気蒸留し、溜出液を得る工程
(2)工程(1)の水蒸気蒸留後の香草類を温水で抽出し、抽出液を得る工程
(3)工程(1)で得られた前記溜出液と、工程(2)で得られた前記抽出液とを混合する工程
各工程を順に説明する。
【0024】
工程(1)
香草類を水蒸気蒸留し、溜出液を得る。水蒸気蒸留により、香草類に含まれる、爽やかで華やかな香味成分を効率よく得ることができる。
香草類としては、レモングラス、レモンバーム、レモンバーベナ、レモンマートル、タイム、ローズマリー、バームミント、ラベンダー、ペパーミント、ヤロウ、オレンジフラワー、エルダーフラワー、ローズ、ジャーマンカモミールまたはジャスミンを挙げることができ、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。好ましくは、レモングラスを用いることができる。
【0025】
工程(2)
次いで、水蒸気蒸留後の香草類を温水で抽出し、抽出液を得る。
当該工程により、工程(1)の水蒸気蒸留で抽出できなかった香味成分や呈味成分を得ることができ、塩味をマスキングして呈味を改善する成分(香味成分)を簡便な操作で得ることができる。
【0026】
抽出に用いることができる温水の温度は、香草類の種類により適宜選択されるが、5℃以上、100℃以下、好ましくは30℃以上、90℃以下である。抽出時間や温水量も、香草類の種類や量により適宜選択される。
【0027】
工程(3)
最後に、工程(1)で得られた前記溜出液と、工程(2)で得られた前記抽出液とを混合し、必要に応じて濃縮、精製工程を行い、香草エキスを得ることができる。この香草エキスには、香味成分や呈味成分が含まれ、水溶液または分散液の状態で得られる。
【0028】
このような工程を有する香草エキスの製造方法によれば、下記効果を有する香草エキスを効率良く得ることができる。
・天然物由来の物質であり安全性に優れる。
・ミネラル成分に由来する塩味をマスキングして、機能性飲料の呈味を改善することができる。
・香味バランスに優れた機能性飲料を提供することができる。
【0029】
本発明の機能性飲料は、ミネラル成分と、上記のようにして得られた香草エキスとを必須成分として含んでなる。この香草エキスを含むことにより、ミネラル成分に由来する塩味をマスキングして呈味を改善することができる。さらに香草エキスはpHが4〜6程度であるため酸味に与える影響は小さく、所定の添加量においても呈味改善を目的としてpH調整剤のような食品添加物を用いる必要がない。このように、本発明の機能性飲料は、香味を付与、改善するために、香料やpH調整剤のような食品添加物を添加する必要がなく、安全性により優れる。
【0030】
ミネラル成分としては、カルシウム、マグネシウム、カリウムまたはナトリウムを挙げることができ、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。好ましくは、ナトリウム、カルシウムである。
【0031】
本発明の機能性飲料は、香草エキス、ミネラル成分、水を混合攪拌して得ることができ、必要に応じて、糖類、クエン酸、アミノ酸、ビタミン類等を含むことができる。本発明の機能性飲料は、香草エキスを用いており濁りのない透明または半透明とすることができる。その他の成分は、機能性飲料の透明性に影響を与えない範囲で添加することができる。
【0032】
本発明の機能性飲料の製造方法は、必要な成分を水等と混合攪拌して均一な飲料を得ることができれば特に限定されないが、各成分を予め水溶液の状態として添加することもできる。
【0033】
このようにして得られる本発明の機能性飲料は、1L中に、ミネラル成分を100mg以上、2000mg以下、好ましくは100mg以上、1000mg以下、さらに好ましくは500mg以上、1000mg以下の量で含む。上記の量でミネラル成分を含むことにより、ミネラル成分を効率良く人体に供給することができる。
【0034】
さらに、本発明の機能性飲料は、1L中に、香草エキスを固形分換算で0.005g以上、0.1g以下、好ましくは0.01g以上、0.1g以下、さらに好ましくは0.01g以上、0.05g以下の量で含む。上記の量で香草エキスを含むことにより、より効果的に塩味をマスキングして呈味を改善することができる。
【0035】
ミネラル成分と香草エキスとを、上記量で含むことにより、塩味をマスキングして呈味を改善することができ、香味のバランスに優れた機能性飲料、特にスポーツ飲料などのミネラル補給飲料として好適に用いることができる。なお、ミネラル成分および香草エキスの添加量範囲は、適宜組み合わせることができる。
本発明の機能性飲料は、スポーツ飲料、炭酸飲料、アミノ酸補給飲料、栄養補助飲料、ニアウォーター、アルコール飲料等として用いることができる。
以下、参考形態の例を付記する。
1.カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種のミネラル成分を含む機能性飲料に用いられる香草エキスの製造方法であって、
香草類を水蒸気蒸留し、溜出液を得る工程と、
水蒸気蒸留後の前記香草類を温水で抽出し、抽出液を得る工程と、
前記溜出液と前記抽出液とを混合して香草エキスを得る工程と、
を含む、香草エキスの製造方法。
2.人工的に製造された香味成分を添加する工程を含まない、1.に記載の香草エキスの製造方法。
3.香草類を水蒸気蒸留し、溜出液を得る工程と、
水蒸気蒸留後の前記香草類を温水で抽出し、抽出液を得る工程と、
前記溜出液と前記抽出液とを混合して香草エキスを得る工程と、
カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種のミネラル成分と、前記香草エキスと、水とを混合攪拌する工程と、
を含む、機能性飲料の製造方法。
4.混合攪拌する前記工程において、人工的に製造された香味成分を添加する工程を含まない、3.に記載の機能性飲料の製造方法。
5.混合攪拌する前記工程は、得られる飲料1L中に、前記ミネラル成分が100mg以上、2000mg以下含まれるように、前記ミネラル成分を添加する工程を含む、3.または4.に記載の機能性飲料の製造方法。
6.混合攪拌する前記工程は、得られる飲料1L中に、前記香草エキスが固形分換算で0.005g以上、0.1g以下含まれるように、前記香草エキスを添加する工程を含む、3.乃至5.のいずれか一つに記載の機能性飲料の製造方法。
7.カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種のミネラル成分を含む機能性飲料に、香草エキスを添加する飲料の塩味マスキング方法。
8.機能性飲料1L中に、前記ミネラル成分を100mg以上、2000mg以下含む、7.に記載の塩味マスキング方法。
9.機能性飲料1L中に、前記香草エキスが固形分換算で0.005g以上、0.1g以下含まれるように添加する、7.または8.に記載の塩味マスキング方法。
10.カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種のミネラル成分と、香草エキスと、を含む機能性飲料。
11.人工的に製造された香味成分を含まない、10.に記載の機能性飲料。
12.機能性飲料1L中に、前記ミネラル成分を100mg以上、2000mg以下含む、10.または11.に記載の機能性飲料。
13.機能性飲料1L中に、前記香草エキスを固形分換算で0.005g以上、0.1g以下含む、10.乃至12.のいずれか一つに記載の機能性飲料。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例において得られた飲料は以下の方法で評価した。
【0037】
(塩味低減効果)
試験者4人が試飲し、下記評価の平均点にて評価した。
4:塩味が気にならない。
3:塩味がわずかに気になるが、十分に許容することができる。
2:塩味が気になるが、許容することができる範囲であった。
1:塩味が感じられ、許容することができない。
【0038】
(香味バランス)
試験者4人が試飲し、下記基準にて評価し、○が2つ以上は「○」の評価とし、○が2つ未満は「△」の評価とし、○がないものを「×」の評価とした。
○:良い
△:普通
×:悪い
【0039】
[実験例1]
果糖ぶどう糖液糖、無水クエン酸を表1に示すように配合し、塩化ナトリウムをナトリウム濃度で500mg/Lとなるように添加して、全量が1Lとなるような溶液(可溶性固形分3.9、pH3.0)を実験例1とした。
得られた飲料の評価結果を表1に示す。
【0040】
[実験例2〜10]
表1の組成とした以外は、実験例1と同様な方法で飲料を製造した。実験例5〜10に関してはナトリウムの濃度を1000mg/Lとなるように塩化ナトリウムを添加した。
レモングラスを100℃の蒸気で水蒸気蒸留して得られた溜出液と、水蒸気蒸留後に85℃の温水で抽出を行い得られた抽出液とを混合し、濃縮、精製を行った抽出物をレモングラス抽出物とした。レモングラス抽出物は可溶性固形分1.0±0.1°(重量%)、pH5.3±0.5のものを使用し、レモン香料は基原物質にレモンのみを使用して抽出、調製を行った香料を使用した。また、濃縮透明レモン果汁は実験例1と同等のクエン酸酸度(g/100ml)となるように添加した。
得られた飲料の評価結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1の結果から明らかなように、ミネラル成分と、香草エキスと、を含む飲料は、食品添加物を用いることなく、塩味をマスキングして呈味を改善することができ、香味のバランスにも優れていた。また、飲料1L中に、ミネラル成分と香草エキスとを所定の量で含む飲料は、ミネラル分を補給する効果を備えるとともに、上記効果に特に優れていることが確認された。