【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明によれば、リサージュ走査を行うスキャナ用偏向装置は、少なくとも2つの偏向軸において振動すると共に、フレームと、懸架搭載部によって可動式に配置したミラープレートとを有するマイクロミラーと、前記少なくとも2つの偏向軸において前記マイクロミラーの共鳴動作に対する制御信号を生成する制御装置と、含み、前記ミラープレートの前記懸架搭載部が少なくとも1つのバネを有し、前記バネの一端を前記ミラープレートに取り付け、前記バネの他端を固定の前記フレームに取り付け、前記マイクロミラーの前記共鳴動作に対する前記制御信号の制御周波数が、前記少なくとも2つの偏向軸において略等しく、そのレベルを所定の走査解像度と所定の走査反復率によって決定するが、それらは少なくとも前記所定の走査反復率に関して異なる。
【0019】
本発明では、従来のジンバル懸架型リサージュスキャナの問題を回避できるが、それは、最も単純な場合、懸架搭載を行うのは固定フレームに取り付けるミラープレートと少なくとも1つのバネに限定するためである。周囲の可動フレームをなくしたことで、寸法を小さくすることができる、即ち、上記スペースの問題が解決する。さらに、チップの大きさはほとんどミラープレートの直径に必要な大きさによってのみ決まるが、それは光学的な境界条件によってであり、これにより効率的な構成要素が可能となる。
【0020】
原則として、スキャナ及び/又は偏向装置の最も単純な形態では、直交走査に使用するのはバネ一つのみであるため、偏向又は走査軸では曲げバネとして、そして他方の偏向軸ではねじりバネとして、同一のバネを使用することができる。ただし通常は、性能が比較的低い場合にこれを受け入れられなくてはならない。懸架搭載部は複数のバネを含むことが好ましく、好適には3つであるが、用途によってはより多くのバネを使用してもよい。
【0021】
バネは好適には曲げバネ及び/又はねじりバネであり、好適にはミラープレートの周りの円軌道部分として具現化する。これによってもスペースの節約になる。
【0022】
より詳細には、例えば3,000より大きい品質係数を有する高品質のマイクロミラーを使用する場合には、その振幅応答は大きな共鳴増大を有し、対応する位相応答は大きな減少を有する、即ち勾配が急である。そのために、制御周波数及び/又は発振周波数を維持された、かかる高品質のマイクロミラーは、たとえわずかな共鳴周波数の変化でも、その振幅が極めて大きな変化を受けることになる。すなわち、偏向装置及び/又はマイクロミラーを共鳴から外すには、例えば小さい温度変化で十分である。そのような場合、一定の制御周波数を有する制御信号では加速度効果は生まれずに、減速効果が生じる。従って、1つの有利な実施形態の例では、制御装置は制御ループを有し、この制御ループは、互いに独立している第1偏向軸及び/又は第2偏向軸の制御信号の周波数を、マイクロミラーの振動の測定した位相位置によって制御し、急激な位相低下及び/又は振動の最大振幅を、マイクロミラーの共鳴範囲内に保持するようにする、即ち位相及び/又は振幅を実質的に一定に保つようにするものである。互いに独立した2つの位相制御ループを提供してもよい。従って制御周波数は一定ではなく、絶えず変動する。それらは生じるミラーの共鳴周波数のすべてのシフトに反応する。瞬間的に生じるミラーの共鳴周波数に制御周波数が絶えず適応することにより、閉じることがなく、また不動ではなく動き続けるリサージュ軌道を描くこととなり、投影スクリーン上の全ての領域に画像データが描かれる、即ち良好な画像重複が達成される。例えば300を超えるような比較的品質の低いマイクロミラーの場合には、温度誘発型の位相制御も適切であることが分かった。
【0023】
振幅の許容可能な変更範囲に対する所定のパラメータは、偏向要素の特性によって、そして視野の解像度によって決定される。例えば、変更範囲は軸における最小解像度の逆数までと事前に定義する。画素を用いて定義する場合には、好適には振幅の変化は1「ピクセル幅」未満とすべきである。例えば、最小解像度が480×640ピクセルである場合には、偏向要素の振幅の変化は、1/480(0.00283)と1/640(0.00146)未満とすべきである。好適には、振幅の変化は1%未満、より好ましくは0.5%未満、そしてさらに好ましくは0.3%未満とすべきである。
【0024】
上述したように、本発明によれば、マイクロミラーの共鳴動作に対する制御信号の制御周波数は2つの偏向軸において略等しく、およそ所定の走査反復率によって異なる。すなわち、2つの偏向軸に対する高い共鳴周波数は互いに近い値であり、そのレベルは、所定の解像度と所定の走査反復率によって決定される。
【0025】
共鳴周波数の最小レベルは、双方向投影ディスプレイに対して選択すべきであり、その際ミラー振動の前方移動及び後方移動の両方において、データを以下のように投影する。以下では、レーザ投影スキャナを用途の一例として選択したため、走査反復率を画像反復率と称する。
【0026】
f
1=画像反復率×(1画像あたりのライン数)/2+差動周波数
f
2=画像反復率×(1画像あたりのライン数)/2
【0027】
周波数要求を強化して式にすることができるが、これは、それぞれより大きいフォーマット特徴、換言すればライン数ではなく、1ラインあたりの画素数を適用する。
【0028】
f
1=画像反復率×(1ラインあたりの画素数)/2+差動周波数
f
2=画像反復率×(1ラインあたりの画素数)/2
【0029】
ここでライン数及び/又は画素数は、画像解像度及び/又は走査解像度の測定である。画像反復率は最低でも30Hzとするが、一層便宜的には60Hzである。理想的には、差動周波数は画像反復率に等しい。しかし、プロジェクションスキャナの偏向装置は、入射するレーザパワーによって、典型的にはその共鳴周波数を+/−0.1%変化させる可能性があるため、制御ループ(位相ロックループ)ごとに互い独立して、両方の軸における制御信号の周波数を適宜追跡する必要がある。このよりわずかな周波数の変動は、偏向装置の動作範囲の温度に依存した周波数帯域幅を倍にして共鳴周波数の最小値に付加することによって、適切な共鳴周波数を選択する際に計上することができるが、それはなぜなら、数学的にあまり好ましくなく、またほとんど実用的でないケースでは、2つの軸の周波数ずれは、逆の符号を有する場合があるためである(一方レーザ誘起加熱は、1つのモードは増大させないが、それと同時に他方のモードを減少させる):
f
1=画像反復率×(1画像あたりのライン数)/2+差動周波数+2×帯域幅
f
2=画像反復率×(1画像あたりのライン数)/2+2×帯域幅
【0030】
具体的に言えば、HD1080解像度(1920画素あたり1080ライン)と60Hzの画像反復率を有するレーザプロジェクタスキャナの場合、最低限必要な共鳴周波数を以下のように計算することができる:
【0031】
f
1=60Hz×1080/2+60Hz+2×0.001×(60Hz×1080/2+60Hz)=32525Hz
f
2=60Hz×1080/2+2×0.001×(60Hz×1080/2)=32465Hz
従って、最小差動周波数はf
1−f
2=60Hzとなる。
【0032】
安全を期して、そして高い歩留まりを可能にするために、スキャナの設計者は両軸において少なくとも33kHzの共鳴周波数を有するミラーを設計することができる。実際の問題は、2つの固有モードが60Hzをさほど外れない値だけ互いに異なるように、妥当な設計を選択することにある。この場合も同様に、設計者は、2つの固有モードの離調に安全性を相応に付加することによって、安全域を提供することができる。この付加は、実現可能な製作公差によって確実に決定され、対応するプロセスの必要条件を必要とする。しかし、構成要素の共鳴周波数が所望の60Hzをわずかに超える差動周波数を呈するまで、設計を繰り返し最適化することができる。かかるプロセスと設計の最適化において、共鳴周波数の変動を0.1%未満とすることが可能である。温度誘発型の変動を含む場合とは違い、符号が逆であっても製作公差は2つの異なる軸の共鳴周波数に影響することができる。そのような場合、設計者は目標とする周波数に周波数公差を倍にして付加する。
【0033】
f
1=画像反復率×(1画像あたりのライン数)/2+差動周波数+2×温度誘発帯域幅+2×製作公差帯域幅
f
2=画像反復率×(1画像あたりのライン数)/2+2×温度誘発帯域幅+2×製作公差帯域幅
【0034】
バネの懸架搭載部を最初は同一設計にして、その後離調に対して選択的に変更を行うことは、最適な同調を見出すための設計反復を少ない回数で行うことに有利に働く。
【0035】
原則として、結果として生じる差動周波数が所望の60Hzを大きく上回るチューニングを実行することもできる。これで必ずしも重大な画像劣化が生じるとは限らない。2つの非常に速い偏向軸に基づいたこのタイプのリサージュ投影では、1/60秒(ここで家庭する画像反復率)という積分間隔以内で、比較的均一に分配した画素細線化(走査間隙)が生じる。したがって、これらの画素位置は60Hzより低い反復率で走査される:しかし、これらの位置は広範に分布しているために、これはほとんど目で識別不能である。これは、差動周波数が数キロヘルツとなると変化する。そのような場合には、特に、ブランキング間隔がより大きい、連続した領域として生じるため、人間の目にはエリアがちらつくような感じを受ける。もし設計者が様々な理由からより高い差動周波数、例えば100Hzを許容することを望む場合には、設計者は上述の計算によってより高い共鳴周波数f
1とf
2を同時に適宜設計することによって、これを最適に補償することができる。
【0036】
上述したように、偏向装置及び/又はスキャナの目的に応じて、有利には差動周波数を少なくとも又は正確に走査反復周波数に対応させるべきであり、共鳴周波数f
1の0.15と0.01の間の値、例えば0.05倍、0.03倍の値を、差動周波数の最大値として選択することができる。
【0037】
一実施形態の例では、駆動装置は、一端をフレームに取り付け、他端をバネ及び/又はミラープレートに取り付けた駆動電極を有し、又は駆動装置を圧電駆動とし、そのアクチュエータをバネに配置する。上述の組み立てにより、空間を節減した構成を提供することができる。円軌道の経路部分に、小型の懸架搭載部を設けることができ、ミラープレートの周りに円状に取り付けたバネに電極を同時に取り付けると、常に小さい電極間距離を保証することができる。なぜなら、例えば櫛形電極の場合には、ジッパーのように互いに係合させて、常に重複した領域を保証できるためである。
【0038】
バネはミラープレートに対して回転
対称に又は鏡面対称に取り付けることが好ましく、例えば4つのバネをそれぞれ90°間隔でミラープレートの周りに備える、又は3つのバネをミラープレートの周りにそれぞれ120°間隔で備えることができる。対称配置により、x軸とy軸への割り当てをいっそう容易に達成することができる。割り当てに関しては、4腕バネ懸架搭載部が有利であるが、偏向角がより大きい場合には、3腕バネ懸架搭載部が好適である。
【0039】
チップフレームにおけるミラー及び/又はミラープレートの直接懸架結果、短い距離と大きいバネ断面を有する有利な熱結合が可能となる。このように、交互に誘発される熱負荷を減少することができる。
【0040】
ジンバル及び/又はジンバル懸架をなくすため、復元モーメントは第2の共鳴構造には作用せず、その代わりにねじりに強い固体チップフレームに直接作用するため、周りの共鳴構造に対して問題を含む逆の位相共鳴を提供することがない。この構成の固有モードスペクトルは常に極めて好適であるが、それはジンバルスキャナの場合にジンバルとそれをミラーに連結することによって生じる、望ましくない寄生固有モードが、この構成の場合には生じないためである。よって、本発明による非常に小型のスキャナ用偏向装置では、寄生干渉モードからの距離を実質的により大きくすることができるが、それはなぜなら、本発明による偏向装置ではジンバル懸架システムに比べてマイクロミラーの水平方向の拡がりを小さくし、振動体の数とバネ要素の数を少なくしたため、実際の使用モードからの寄生干渉モードの隔たりが改善するためである。
【0041】
ジンバルをなくした一方で機能的には十分であるにも関わらず、比較するジンバルスキャナよりかなりコンパクトな形で全体の偏向システムを実行することができるため、バネ剛性は同じでありながら動作させる質量を同時に小さくした結果として、共鳴周波数がかなり高くなり、それと同時に偏向システムの堅牢性をより高めることができる。共鳴周波数がより高いことに加えて、寄生固有モードの減少も堅牢性を高めることにつながる。
【0042】
所定の画像反復又は走査反復周波数の一期間内に完全な画像を生成するために、所定のライン周波数の基準を満たすが走査反復率に関しては異なるという、ほぼ等しい値の2つの走査周波数を選択するように、リサージュ走査に対して、互いに直交する両方の偏向軸における共鳴周波数を予め定義する。ライン周波数の基準では、所望の解像度に対応する走査周波数は走査すべきライン数と少なくとも同程度とすることを決めており、これに走査又は画像率を乗算する。換言すれば、SVGA解像度(800画素あたり600ライン)の場合には、これは60画像/秒を600ラインに乗算して36,000ライン/秒ということになる。左から右へのライン動作中に画像データを投影する一方で反対の方向にも対応する動作を行う双方向投影の場合には、周波数要求は2分の1となる。
【0043】
本発明によれば、幾つかのバネのうちの少なくとも1つのバネ剛性を他のバネのバネ剛性とは異なるようにする点で、共鳴周波数同士の必要な差異を非常に小さくすることができ有利である。異なるバネ剛性は異なるバネ形状によって決定することができる;例えば、バネの幅を数ミクロン変化させることで十分である。当業者は常に、バネの形状と、3つのバネ形状のうちの1つを選択的に変更することに関して、例えば構造的な幅に対する所望の変更が、製造ベースの公差を著しく上回るようにして、共鳴周波数シフトの所望の効果が、製造プロセスの統計ノイズにおいて失われないようにすることができる。互いに90°の角度で配置した4つの直交するバネを有するミラープレートの場合に、当業者は本発明によって、1対の対向するバネを他の2つのバネに対して好適にわずかに変更することができる。すでに述べたように、この変更はバネ幅だけでなく、バネの長さに対しても行うことができる。よりコストはかかるが、バネの厚さの変更、又はバネの物質的な特性を選択的に変更することには、よりコストがかかるものの同様に実行可能である。
【0044】
2つの制御周波数同士の差を調整するための更なる選択肢は、2つの偏向軸におけるミラープレートの慣性モーメントを異なるように具現化することを含む。例えば、楕円形ミラープレートによって慣性モーメントを変更することができ、バネの全ての懸架搭載部は同様に構成することができる。
【0045】
2つの共鳴周波数同士を非常に近い値とすることで、非常に長い時間を経て初めて反復することのできるリサージュ図形となり、適切に選択された非常に効果的な線密度がもたらされる。周波数同士が非常に近い値であるために、線密度の低い不適切な周波数応答比のない、大きい間隔が生成される。ほとんどのジンバルスキャナが、1つの非常に遅い軸と1つの非常に速い軸を有するように設計されるのに対し、本発明では2つの速い偏向軸を備える。そのようにすることで、スペックル問題を非常に効果的に減少し得るという利点がある。スペックルはコヒーレントレーザ放射による投影の望ましくない副産物であって、投影画像の解像度を減少させるものである。唯一の対処法は、これらを統合させれば目の中で平均化が起こるため、一定時間単位あたりにできるだけ多くのスペックルパターンを提供することである。2つの非常に速い軸と大きい偏向角を有するため、一定時間単位あたり非常に多数のスペックルパターンを生成することができる。
【0046】
測定目的で使用するスキャナ用の偏向装置の場合、本発明によって特定する同一の計算の規則を原則的として適用するが、かかる場合には測定技術に関する問題があり、例えば目の感度によってレーザ画像投影の際に生じる、生理学的なパラメータの欠如が生じる可能性があるために、画像反復率及び/又は走査反復率に関する要件をさほど厳しくしない。
【0047】
本発明の実施形態の一例を図面に示し、以下の記載においてより詳細に述べる。