(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1部材が第2部材に対して回動自在であり、この2つの部材間の環状隙間を密封するためのものであり、前記第2又は第1部材に設けられた環状の装着凹部に装着される摺動シールにおいて、
前記摺動シールは、円環状でありその中心線を通る断面形状が矩形状に形成され、
前記摺動シールが前記第1部材および前記第2部材の一方の部材の内周面に形成された装着凹部に装着されていない状態で、前記摺動シールの前記装着凹部の底面に圧接する固定周面の径が、前記装着凹部の底面の径よりも大きく形成され、かつ、前記摺動シールの前記第1部材および前記第2部材の他方の部材の摺動面に向かう側の被摺動面の径が、前記摺動面の径よりも大きく形成され、
前記固定周面の径が前記装着凹部の底面の径に一致したときに、前記摺動シールが縮径する方向に弾性変形して、前記摺動シールの前記被摺動面の径が、前記摺動面の径と一致し又はそれに近い寸法となる、または、
前記摺動シールが前記第1部材および前記第2部材の一方の部材の外周面に形成された装着凹部に装着されていない状態で、前記摺動シールの前記装着凹部の底面に圧接する固定周面の径が、前記装着凹部の底面の径よりも小さく形成され、かつ、前記摺動シールの前記第1部材および前記第2部材の他方の部材の摺動面に向かう側の被摺動面の径が、前記摺動面の径よりも小さく形成され、
前記固定周面の径が前記装着凹部の底面の径に一致したときに、前記摺動シールが拡径する方向に弾性変形して、前記摺動シールの前記被摺動面の径が、前記摺動面の径と一致し又はそれに近い寸法となることを特徴とする摺動シール。
前記摺動シールが前記装着凹部に装着されていない状態で、前記中心線を通る断面形状が、半径方向に長い矩形状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の摺動シール。
前記流体逃がし路の途中に設けられ、密封対象流体を大気側に流出させることができると共に、大気側の流体の吸い込みを防止することができる逆止弁リップを備えることを特徴とする請求項3記載の摺動シール。
第1部材が第2部材に対して回動自在であり、この2つの部材間の環状隙間を密封するためのものであり、前記第2又は第1部材に設けられた環状の装着凹部と、この装着凹部に装着される摺動シールとを備えるシール構造において、
前記摺動シールは、円環状でありその中心線を通る断面形状が矩形状に形成され、
前記摺動シールが前記第1部材および前記第2部材の一方の部材の内周面に形成された装着凹部に装着されていない状態で、前記摺動シールの前記装着凹部の底面に圧接する固定周面の径が、前記装着凹部の底面の径よりも大きく形成され、かつ、前記摺動シールの前記第1部材および前記第2部材の他方の部材の摺動面に向かう側の被摺動面の径が、前記摺動面の径よりも大きく形成され、
前記固定周面の径が前記装着凹部の底面の径に一致したときに、前記摺動シールが縮径する方向に弾性変形して、前記摺動シールの前記被摺動面の径が、前記摺動面の径と一致し又はそれに近い寸法となる、または、
前記摺動シールが前記第1部材および前記第2部材の一方の部材の外周面に形成された装着凹部に装着されていない状態で、前記摺動シールの前記装着凹部の底面に圧接する固定周面の径が、前記装着凹部の底面の径よりも小さく形成され、かつ、前記摺動シールの前記第1部材および前記第2部材の他方の部材の摺動面に向かう側の被摺動面の径が、前記摺動面の径よりも小さく形成され、
前記固定周面の径が前記装着凹部の底面の径に一致したときに、前記摺動シールが拡径する方向に弾性変形して、前記摺動シールの前記被摺動面の径が、前記摺動面の径と一致し又はそれに近い寸法となることを特徴とするシール構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、
図14に示す従来の密封装置1では、弾性シール部材3の弾発力によって樹脂製シール部材2を、回転軸6の外周面である摺動面6aに押圧して摺動自在に密封接触させた構成であるので、その押圧力によって、樹脂製シール部材2と回転軸6の摺動面6aとの間で摺動摩擦抵抗が生じて、この両方の樹脂製シール部材2及び回転軸6の摺動面6aが摩耗したり傷が付くことがある。その結果、これら樹脂製シール部材2と回転軸6との間の密封性能が低下するので、樹脂製シール部材2及び回転軸6の摺動面6aを構成するスリーブ等を交換するための手間と費用が嵩むという問題がある。
【0006】
そして、この密封装置1は、樹脂製シール部材2と、弾性シール部材3とを組合せて構成されているので、部品点数が多くなり、なおかつ、樹脂製シール部材2の摺動面の表面粗さを細かくして、その摺動面のシール性の向上を図る必要があるため、その費用が嵩むし、装着溝5に装着するための手間も多く掛る。また、樹脂製シール部材2は、弾性的性質が劣るため、装着時に破損するという問題もある。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、摺動シールの被摺動面と摺動面との間の摺動摩擦抵抗を零又はそれに近い大きさにすることによって、摺動シール及び摺動面を構成する部材の長寿命化を図ることができ、適切な密封性能を長期間維持することができる摺動シール及びそれを備えるシール構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る摺動シールは、第1部材が第2部材に対して回動自在であり、この2つの部材間の環状隙間を密封するためのものであり、前記第2又は第1部材に設けられた環状の装着凹部に装着される摺動シールにおいて、前記摺動シールは、円環状でありその中心線を通る断面形状が矩形状に形成され、前記摺動シールが前記装着凹部に装着されていない状態で、前記摺動シールの前記装着凹部の底面に圧接する固定周面の径が、前記装着凹部の底面の径よりも大きく又は小さく形成され、かつ、前記摺動シールの前記第1又は第2部材の摺動面に向かう側の被摺動面の径が、前記摺動面の径よりも大きく又は小さく形成され、前記摺動シールが前記装着凹部に装着されたときに、前記摺動シールが弾性変形して、前記摺動シールの前記被摺動面の径が、前記摺動面の径と一致し又はそれに近い寸法となることを特徴とするものである。
【0009】
この発明に係る摺動シールは、孔の内周面に形成した装着凹部に取り付けることができる孔用の摺動シール、及び軸の外周面に形成した装着凹部に取り付けることができる軸用の摺動シールに適用することができる。
【0010】
孔用の摺動シールに適用するときは、摺動シールが装着凹部に装着されていない状態で、摺動シールの装着凹部の底面に圧接される固定周面の外径が、装着凹部の底面の内径よりも大きく形成され、かつ、摺動シールの第1又は第2部材の摺動面に向かう側の被摺動面の内径が、摺動面の外径よりも大きく形成される。
【0011】
そして、軸用の摺動シールに適用するときは、摺動シールが装着凹部に装着されていない状態で、摺動シールの装着凹部の底面に圧接される固定周面の内径が、装着凹部の底面の外径よりも小さく形成され、かつ、摺動シールの第1又は第2部材の摺動面に向かう側の被摺動面の外径が、摺動面の内径よりも小さく形成される。
【0012】
この摺動シールによると、第1及び第2部材間の環状隙間を密封することができる。そして、摺動シールが装着凹部に装着されたときに、摺動シールが弾性変形して、摺動シールの被摺動面の径が、摺動面の径と一致し又はそれに近い寸法となる。これによって、摺動シールの被摺動面と摺動面との間の接触圧を零又はそれに近い大きさに設定することができる。
【0013】
しかも、摺動シールは、その中心線を通る断面形状が矩形状に形成されているので、摺動シールの被摺動面の、摺動面に対する接触面積を大きくして単位面積当たりの押圧力を小さくすることができる。
【0014】
そして、摺動シールが装着凹部に装着されたときに、摺動シールが弾性変形して、摺動シールの固定周面が、装着凹部の底面に圧接することができる。これによって、摺動シールが装着凹部から外れた状態で回転することを防止できるので、摺動シールが移動したり変形せず、適切な密封性能を維持することができる。
【0015】
この発明に係る摺動シールにおいて、前記摺動シールが前記装着凹部に装着されていない状態で、前記中心線を通る断面形状が、半径方向に長い矩形状に形成されているものとするとよい。
【0016】
このようにすると、摺動シールが装着凹部に装着されたときに、摺動シールが半径方向に弾性変形する変形量を大きくすることができる。これによって、摺動シールの被摺動面の径が、摺動面の径と一致し又はそれに近い寸法となるように精度よく設定することができる。
【0017】
この発明に係る摺動シールにおいて、前記摺動シールで密封された密封対象流体を、大気側に流出させるための流体逃がし路を備えるものとするとよい。
【0018】
このようにすると、密封対象流体を流体逃がし路に通して大気側に流出させることができる。また、流体逃がし路の幅、深さ、形状を設定することによって、密封対象流体の圧力を常に大気側の圧力よりも高く保持させることが可能である。これによって、例えば大気側の気体、液体又はダスト等が密封対象流体側に進入することを抑制することができる。
【0019】
この発明に係る摺動シールにおいて、前記流体逃がし路の途中に設けられ、密封対象流体を大気側に流出させることができると共に、大気側の流体の吸い込みを防止することができる逆止弁リップを備えるものとするとよい。
【0020】
このようにすると、密封対象流体を大気側に流出させることができるし、例えば大気側の気体、液体又はダスト等が流体逃がし路を通って密封対象流体側に進入することを、逆止弁リップによって積極的に防止することができる。
【0021】
この発明に係る摺動シールにおいて、前記流体逃がし路は、前記摺動シールの前記固定周面に形成された溝、大気側の側面に形成された溝、及び密封対象流体側に形成された側面で構成され、前記逆止弁リップは、前記摺動シールの密封対象流体側の前記側面に設けられ、前記固定周面に向かう方向に突出する形状であるものとするとよい。
【0022】
この摺動シールの固定周面及び大気側の側面が、装着凹部を形成する底面及び大気側の側面に当接した状態でも、これら固定周面及び大気側の側面に形成された溝は、閉塞されないので、密封対象流体を流体逃がし路に通して大気側に流出させることができる。そして、摺動シールの密封対象流体側の側面には、溝を設けずに、逆止弁リップを設けたので、当該側面で形成される流体逃がし路を、この逆止弁リップによって確実に開閉することができる。
【0023】
そして、逆止弁リップは、摺動面ではなく摺動しない側面に設けたので、摩耗することが無い。また、例えば温度変化によって、摺動シールの密封対象流体側が負圧となった場合に、大気側の気体、液体又はダスト等を流体逃がし路に通して密封対象流体側に吸い込むことを、逆止弁リップによって防止することができる。
【0024】
この発明に係る摺動シールにおいて、前記摺動シールの密封対象流体側の側面を保持するための密封側ケースを備えるものとするとよい。
【0025】
このようにすると、摺動シールの密封対象流体側の側面を密封側ケースによって保持することができる。これによって、摺動シールが装着される装着凹部は、例えば摺動シールの大気側の側面を保持するための内側面を形成すればよく、摺動シールの密封対象流側の側面を保持するための内側面を省略することが可能なので、装着凹部の形状の簡単化を図ることができる。
【0026】
この発明に係る摺動シールにおいて、前記摺動シールの大気側の側面を保持するための大気側ケースと、前記大気側ケースに設けられ、前記摺動面に圧接して大気側のダストが密封対象流体側に進入することを防止すると共に、密封対象流体側の当該流体を大気側に流出させることができるダストリップとを備えるものとするとよい。
【0027】
このようにすると、摺動シールの大気側の側面を大気側ケースによって保持することができる。これによって、摺動シールの大気側の側面を保持するための装着凹部の内側面は、大気側ケースを介して摺動シールを保持することができる高さに形成すればよく、従って、装着凹部の形状の簡単化を図ることができる。そして、ダストリップにより、大気側のダストが密封対象流体側に進入することを防止すると共に、密封対象流体側の流体を大気側に流出させることができる。また、ダストリップを大気側ケースに設けることによって、大気側のダストが大気側ケースの内側を通って密封対象流体側に進入することを確実に防止することができる。
【0028】
本発明に係るシール構造は、第1部材が第2部材に対して回動自在であり、この2つの部材間の環状隙間を密封するためのものであり、前記第2又は第1部材に設けられた環状の装着凹部と、この装着凹部に装着される摺動シールとを備えるシール構造において、前記摺動シールは、その中心線を通る断面形状が矩形状に形成され、前記摺動シールが前記装着凹部に装着されていない状態で、前記摺動シールの前記装着凹部の底面に圧接する固定周面の径が、前記装着凹部の底面の径よりも大きく又は小さく形成され、かつ、前記摺動シールの前記第1又は第2部材の摺動面に向かう側の被摺動面の径が、前記摺動面の径よりも大きく又は小さく形成され、前記摺動シールが前記装着凹部に装着された状態で、前記摺動シールの前記被摺動面の径が、前記摺動面の径と一致し又はそれに近い寸法となることを特徴とするものである。
【0029】
本発明に係るシール構造によると、本発明に係る摺動シールを備えており、この摺動シールは、上記と同様に作用する。
【発明の効果】
【0030】
この発明に係る摺動シール及びシール構造によると、摺動シールの被摺動面と摺動面との間の接触圧を零又はそれに近い大きさに設定することができるので、摺動シールの被摺動面と摺動面との間の摺動摩擦抵抗を零又はそれに近い大きさにすることができ、摺動シールが摺動面との接触によって永久変形することを抑制できる。これによって、摺動シール及び摺動面を構成する第1又は第2部材の長寿命化を図ることができ、適切な密封性能を長期間維持することができる。しかも、回転に要する動力のトルク損失を軽減することができる。
【0031】
更に、摺動シールの被摺動面の、摺動面に対する接触面積を大きくして単位面積当たりの押圧力を零又はそれに近い大きさにすることができるので、摺動シールの被摺動面が摺動面を摩耗させたり傷を付けることを抑制できる。これによっても、摺動シール及び摺動面を構成する第1又は第2部材の更なる長寿命化を図ることができ、適切な密封性能を長期間維持することができる。
【0032】
また、摺動シールは、1つの部品で密封機能を果たすことができるので、安価に製作することができ、装着凹部に装着する手間も少なくて済む。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係る摺動シールの第1実施形態を、
図1及び
図8を参照して説明する。この摺動シール11が使用されているシール構造12は、
図8に示すように、例えば第1部材13が軸受部15(
図8参照)を介して回動自在に第2部材14に支持され、この第1部材13と第2部材14との間に形成されている環状隙間16を摺動シール11で密封するものであり、例えば連続鋳造機17に適用することができるものである。そして、密封対象流体18は、例えばグリース等の潤滑材である。
【0035】
この
図8に示す第1及び第2部材13、14を備えている連続鋳造機17の回転側(摺動側)の第1部材13は、ロールであり、
図8に表れている部分は、ロール本体部13b及び軸部(スリーブ13dを含む)13cであり、ロールの一部を成している。固定側の第2部材14は、ロールを軸受部15を介して回動自在に支持するケーシングである。このケーシングを構成する金属製のシール取付部の内周面に円環状の装着凹部19が形成されている。この円環状の装着凹部19の断面形状は、矩形であり、この矩形断面の装着凹部19に摺動シール11が装着されている。
図8に示す26は、グリースシールである。
【0036】
ただし、この実施形態では、摺動シール11を連続鋳造機17の軸受部15のシール構造に適用したが、これ以外の第1部材13が第2部材14に対して回動自在である2つの部材間の環状隙間16の密封性確保のためにこの摺動シール11を使用することができる。
【0037】
図1に示す摺動シール11は、第2部材14(ケーシング)の内周面に形成した装着凹部19に取り付けることができる孔用の摺動シール11に適用した例を示している。
【0038】
図1の左側に示す摺動シール11は、当該摺動シール11を装着凹部19に装着していない自由状態を示す部分断面図であり、
図1の右側に示す摺動シール11は、当該摺動シール11を装着凹部19に装着した状態を示す部分断面図である。
【0039】
摺動シール11は、ゴム様弾性体製であり円環状に形成され、
図1に示すように、当該摺動シール11を装着凹部19に装着していない自由状態、及び当該摺動シール11を装着凹部19に装着した状態のいずれの状態においても、その中心線20を通る断面形状が、半径方向に長い矩形状に形成されている。
【0040】
そして、摺動シール11は、
図1の左側の図に示すように、当該摺動シール11が装着凹部19に装着されていない自由状態で、摺動シール11の装着凹部19の底面19aに圧接する固定周面11aの外径D1が、装着凹部19の底面19aの内径D2(<D1)よりも大きく形成され、かつ、摺動シール11の第1部材13の摺動面13aに向かう側の被摺動面11bの内径N1が、摺動面13aの外径N2(<N1)よりも大きく形成されている。そして、この装着されていない自由状態で、摺動シール11の断面の半径方向の寸法は、H1であり、幅は、W1である。
【0041】
また、摺動シール11は、
図1の右側の図に示すように、当該摺動シール11が装着凹部19に装着されたときに、摺動シール11が縮径方向に弾性変形して、摺動シール11の被摺動面11bの内径が小さくなって、摺動面13aの外径N2と一致し又はそれに近い寸法となるように形成されている。そして、この装着された状態で、例えば摺動シール11の断面の半径方向の寸法は、H2(>H1)であり、幅は、W2(>W1)である。
【0042】
次に、上記のように構成された摺動シール11及びそれを使用したシール構造12の作用について説明する。この摺動シール11によると、
図1に示すように、第1及び第2部材13、14間の環状隙間16を密封することができる。そして、摺動シール11が、装着凹部19に装着されたときに、摺動シール11が縮径する方向に弾性変形して、摺動シール11の被摺動面11bの内径N1が、摺動面13aの外径N2と一致し又はそれに近い寸法となる。これによって、摺動シール11の被摺動面11bと摺動面13aとの間の接触圧を零又はそれに近い大きさに設定することができ、摺動シール11が摺動面13aとの接触によって永久変形することを抑制できる。その結果、摺動シール11及び摺動面13aを構成する第1部材13の長寿命化を図ることができ、適切な密封性能を長期間維持することができる。しかも、回転に要する動力のトルク損失を軽減することができる。
【0043】
しかも、摺動シール11は、その中心線20を通る断面形状が矩形状に形成されているので、摺動シール11の被摺動面11bの、摺動面13aに対する接触面積を大きくして単位面積当たりの押圧力を精度よく零又はそれに近い大きさにすることができるので、摺動シール11の被摺動面11bが摺動面13aを摩耗させたり傷を付けることを抑制できる。これによっても、摺動シール11及び摺動面13aを構成する第1部材13の更なる長寿命化を図ることができ、適切な密封性能を長期間維持することができる。
【0044】
そして、摺動シール11が装着凹部19に装着されたときに、摺動シール11が縮径方向に弾性変形して、摺動シール11の固定周面11aが、装着凹部19の底面19aに圧接することができる。これによって、摺動シール11が装着凹部19から外れた状態で回転することを防止できるので、摺動シール11が移動したり変形せず、適切な密封性能を維持することができる。
【0045】
また、摺動シール11は、1つの部品で密封機能を果たすことができるので、安価に製作することができ、装着凹部19に装着する手間も少なくて済む。
【0046】
更に、
図1の左側の図に示すように、摺動シール11は、当該摺動シール11を装着凹部19に装着していない自由状態で、その中心線20を通る断面形状が、半径方向に長い矩形状に形成されているので、摺動シール11が装着凹部19に装着されたときに、摺動シール11が半径方向に縮径する弾性変形量を大きくすることができる。これによって、摺動シール11の被摺動面11bの内径N1が、摺動面13aの外径N2と一致し又はそれに近い寸法となるように精度よく設定することができる。
【0047】
ここで、
図1の右図において、摺動シール11の右側が軸受部15側(密封対象流体側)であり、第1部材13と第2部材14との間の環状隙間16にグリース等の潤滑材(密封対象流体18)が所定の圧力で供給されるようになっており充填されている。そして、この密封対象流体18は、摺動シール11の被摺動面11bと摺動面13aとの間を通って大気側に適切な流量で流出することが可能なようになっている。つまり、摺動シール11の被摺動面11bと摺動面13aとの間の接触圧が、零又はそれに近い大きさに設定されているからである。これによって、大気側から気体、液体及びダストがこの隙間16を通って軸受部15側に流入することを防止することができる。
【0048】
ただし、
図1に示す摺動シール11の固定周面11a(外周面)及び左の側面11cは、装着凹部19の底面19a及び左の内側面19bに密着しているので、大気側の気体、液体及びダスト、並びに軸受部15側の潤滑材は、これらの接触面間を通って流入及び流出することはない。
【0049】
次に、
図2〜
図4を参照して、本発明の第1〜第9実施形態に係る摺動シールを説明する。
図2(a)は、第1実施形態の摺動シール11を示しており、
図2(b)は、第2実施形態の摺動シール22を示している。
【0050】
この
図2(b)に示す第2実施形態の摺動シール22は、
図2(a)に示す第1実施形態の摺動シール11において、摺動シールで密封された軸受部15側の密封対象流体18(グリース等の潤滑材)を、大気側に流出させるための流体逃がし路23を設けたものである。この流体逃がし路23は、
図2(b)、
図5、
図6、及び
図9に示すように、摺動シール22の固定周面11aに中心線20と平行して形成された溝23aと、この溝23aと接続するように、大気側の側面11cに半径方向に形成された溝23bと、密封対象流体側に形成された側面11dとで構成されている。
【0051】
図5は、第2実施形態の摺動シール22を示し、
図5(a)は、その部分斜視図、
図5(b)は、その部分正面図、
図5(c)は、そのA−A断面図である。そして、
図6は、第2実施形態に係る摺動シール22を第2部材14の装着凹部19に装着した状態の断面図を示している。
【0052】
図6から分かるように、第2実施形態のシール構造24では、装着凹部19の横幅は、摺動シール22の横幅よりも大きく形成してあり、摺動シール22は、装着凹部19の大気側の内側面19bに寄せてその内側面19bに当接させた状態でこの装着凹部19に装着してある。これによって、密封対象流体側に形成された摺動シール22の側面11dと装着凹部19の内側面19cとの間の隙間25が、流体逃がし路23の一部として形成される。
【0053】
この摺動シール22によると、
図6に示すように、当該摺動シール22の固定周面11a及び大気側の側面11cが、装着凹部19の底面19a及び大気側の側面19bに当接した状態でも、これら固定周面11a及び大気側の側面11cに形成された溝23a、23bは、閉塞されないので、密封対象流体18を流体逃がし路23に通して大気側に流出させることができる。また、流体逃がし路23の幅、深さ、形状を設定することによって、密封対象流体18の圧力を常に大気側の圧力よりも高く保持させることが可能である。これによって、例えば大気側の気体、液体又はダスト等が密封対象流体側に進入することを抑制することができる。
【0054】
次に、
図2(c)及び
図7を参照して、第3実施形態の摺動シールを説明する。
図7は、第3実施形態の摺動シール28を第2部材14の装着凹部19に装着した状態の断面図を示している。
図2(c)に示す第3実施形態の摺動シール28は、
図2(b)に示す第2実施形態の摺動シール22において、ゴム様弾性体製の逆止弁リップ29を設けたものである。
【0055】
この逆止弁リップ29は、
図7に示すように、流体逃がし路23の途中に設けられ、密封対象流体18を大気側に流出させることができると共に、大気側の気体、液体、及びダストの吸い込みを防止することができるものである。そして、逆止弁リップ29は、摺動シール28の密封対象流体側の側面11dに沿って円環状に形成され、固定周面11aに向かう方向に突出する形状である。
【0056】
図7に示す逆止弁リップ29によると、密封対象流体18が逆止弁リップ29に流入すると、逆止弁リップ29が装着凹部19の内側面19cから離れる方向に弾性変形して、流体逃がし路23の隙間25を開放する状態となる。よって、密封対象流体18が逆止弁リップ29及び流体逃がし路23を通って大気側に流出することができる。
【0057】
そして、大気側の気体、液体、及びダスト等が逆止弁リップ29に流入すると、逆止弁リップ29が装着凹部19の内側面19cに押し付けられる方向に弾性変形して、流体逃がし路23の隙間25を閉じている状態を維持する。よって、大気側の気体、液体、及びダスト等が逆止弁リップ29及び流体逃がし路23を通って軸受部側に流入することを積極的に阻止することができる。
【0058】
そして、
図7に示す摺動シール28によると、当該摺動シール28の密封対象流体側の側面11dには、溝を設けずに、逆止弁リップ29を設けたので、当該側面11dで形成される流体逃がし路23の隙間25を、この逆止弁リップ29によって確実に開閉することができる。
【0059】
次に、
図3(a)〜
図3(c)を参照して、第4〜第6実施形態の摺動シールを説明する。この
図3(a)〜
図3(c)に示す第4〜第6実施形態の各摺動シール32、33、34は、
図2(a)〜
図2(c)に示す第1〜第3実施形態の各摺動シール11、22、28に対して、それぞれの密封対象流体側の側面11dを保持するための密封側ケース35を設けたものである。この密封側ケース35は、
図2(a)〜
図2(c)に示す各摺動シール11、22、28を装着凹部19に装着したときに、装着凹部19の密封対象流体側の内側面19cが果たす機能を備えている。
【0060】
これら
図3(a)〜
図3(c)に示す第4〜第6実施形態の各摺動シール32、33、34は、
図2(a)〜
図2(c)に示す第1〜第3実施形態の各摺動シール11、22、28に相当するシール本体部11、22、28と、密封側ケース35とを備えている。この密封側ケース35は、シール本体部11、22、28に着脱自在に嵌合されている。
【0061】
この密封側ケース35は、例えば金属製であり円環状に形成され、当該密封側ケース35の中心線20を通る断面形状が略L字形状であり、短円筒部35bと円環状部35aとを有している。この短円筒部35bは、各シール本体部11、22、28の固定周面11aを密着した状態で覆うように形成されている。そして、この短円筒部35bの内径は、装着凹部19の底面19aの内径と等しい寸法D2に形成されている。そして、この密封側ケース35に装着されたシール本体部11、22、28の被摺動面11bの内径は、
図1に示す摺動面13aの外径N2又はそれに近い寸法である。
【0062】
そして、密封側ケース35の円環状部35aは、円板状に形成され、各シール本体部11、22、28の密封対象流体側の側面11dに対向するように形成されている。つまり、密封側ケース35の円環状部35aは、
図3(a)、(b)、(c)に示す各シール本体部11、22、28に対して、密封対象流体側の側面11dと隙間25を隔てて設けられている。
図3(b)、(c)に示す摺動シール33、34では、この隙間25が流体逃がし路23である。この円環状部35aの内径は、シール本体部22、28の内径N2よりも大きい寸法に形成されている。
【0063】
これら
図3(a)〜
図3(c)に示す第4〜第6実施形態の各摺動シール32、33、34によると、シール本体部11、22、28の密封対象流体側の側面11dを密封側ケース35によって保持することができる。これによって、摺動シール32、33、34が装着される装着凹部19は、例えばシール本体部11、22、28の大気側の側面11cを保持するための内側面19bを形成すればよく、シール本体部11、22、28の密封対象流側の側面11dを保持するための内側面19cを省略することが可能なので、装着凹部19の形状の簡単化を図ることができる。
【0064】
図10は、
図3(b)に示す摺動シール33を断面L字形状の内面を有する装着凹部19に装着した状態を示している。この摺動シール33は、第1部材13と第2部材14との間に形成されている環状隙間16において、軸受部15を基準にして、ロール本体部13b側の環状隙間16と、軸部13cの端部側の環状隙間16とに設けられ、この2つの摺動シール33、32によって軸受部15を収容している空間36を密封している。
【0065】
次に、
図4(a)〜
図4(c)を参照して、第7〜第9実施形態の摺動シール39、40、41を説明する。この
図4(a)〜
図4(c)に示す第7〜第9実施形態の各摺動シール39、40、41は、
図3(a)〜
図3(c)に示す第4〜第6実施形態の各摺動シール32、33、34に対して、それぞれの大気側の側面11cを保持するための大気側ケース42を設け、この大気側ケース42にダストシール43を設けたものである。
【0066】
この大気側ケース42は、
図2(a)〜
図2(c)に示す各摺動シール11、22、28を装着凹部19に装着したときに、装着凹部19の大気側の内側面19bが果たす機能を備えている。この大気側ケース42は、密封側ケース35の外面に接着されていてもよいし、着脱自在に嵌合されていてもよい。また、大気側ケース42及び密封側ケース35を一体物として形成してもよい。
【0067】
この大気側ケース42は、例えば金属製であり円環状に形成され、当該大気側ケース42の中心線20を通る断面形状が略L字形状であり、短円筒部42bと円環状部42aとを有している。この短円筒部42bは、各密封側ケース35の短円筒部35bを密着した状態で覆うように形成されている。そして、円環状部42aは、円板状に形成され、各シール本体部11、22、28の大気側の側面11cに対向するように形成されている。
【0068】
この大気側ケース42の円環状部42aは、
図4(a)〜
図4(c)に示すように、シール本体部11、22、28の大気側の側面11cに対して、隙間を隔てて設けてもよいし密着して設けてもよい。この円環状部42aの内径は、シール本体部11、22、28の内径N2よりも大きい寸法に形成されている。
【0069】
ダストシール43は、大気側ケース42の外表面に接着され、これが有しているダストリップ43aが摺動面13aに圧接して大気側の気体、液体、及びダスト等が密封対象流体側に進入することを防止すると共に、密封対象流体側の当該流体を大気側に流出させることができるものである。
【0070】
このダストシール43は、
図4(a)〜
図4(c)に示すように、係着部43bとこれに結合するダストリップ43aとを有している。この係着部43bは、大気側ケース42の外表面の全体を覆うように形成されている。ダストリップ43aは、円環状であり、大気側の摺動面13aに向かって突出し、この摺動面13aに圧接するように形成されている。
【0071】
これら
図4(a)〜
図4(c)に示す第7〜第9実施形態の各摺動シール39、40、41によると、シール本体部11、22、28の大気側の側面11cを大気側ケース42によって保持することができる。これによって、シール本体部11、22、28の大気側の側面11cを保持するための装着凹部19の内側面19bは、大気側ケース42を介して摺動シール39、40、41を保持することができる高さに形成すればよく、従って、装着凹部19の形状の簡単化を図ることができる。そして、ダストリップ43aにより、大気側の気体、液体、及びダストが密封対象流体側に進入することを防止すると共に、密封対象流体側の流体(例えば潤滑材)を大気側に流出させることができる。また、ダストリップ43aを大気側ケース42に設けることによって、大気側の気体、液体、及びダストが大気側ケース42の内側を通って密封対象流体側に進入することを確実に防止することができる。
【0072】
図11は、摺動シール41、39を断面L字形状の内面を有する装着凹部19に装着した状態を示している。この
図4(c)に示す摺動シール41は、軸受部15を基準にしてロール本体部13b側の環状隙間16に設けてあり、
図4(a)に示す摺動シール39は、軸受部15を基準にして軸部13cの端部側の環状隙間16に設けてある。この2つの摺動シール41、39によって軸受部15を収容している空間36を密封している。
【0073】
次に、本発明に係る摺動シールの第10実施形態を、
図12を参照して説明する。この摺動シール46は、例えば第1部材(ローラ)の軸部13cに装着されたスリーブの外周面に形成した装着凹部19に取り付けることができる軸用の摺動シールに適用した例を示している。この摺動シール46が使用されているシール構造47は、第1実施形態と同様に、第1部材13(ローラ)が軸受部15を介して回動自在に第2部材14(ケーシング)に支持され、この第1部材13と第2部材14との間に形成されている環状隙間16を摺動シール46で密封するものであり、例えば連続鋳造機17に適用することができるものである。そして、密封対象流体18は、例えばグリース等の潤滑材である。
【0074】
図12の左側に示す摺動シール46は、当該摺動シール46を装着凹部19に装着していない自由状態を示す断面図であり、
図1の右側に示す摺動シール46は、当該摺動シール46を装着凹部19に装着した状態を示す断面図である。
【0075】
摺動シール46は、ゴム様弾性体製であり円環状に形成され、
図12に示すように、当該摺動シール46を装着凹部19に装着していない自由状態、及び当該摺動シール46を装着凹部19に装着した自由状態のいずれの状態においても、その中心線20を通る断面形状が、半径方向に長い矩形状に形成されている。
【0076】
そして、摺動シール46は、
図12の左側の図に示すように、当該摺動シール46を装着凹部19に装着していない自由状態で、摺動シール46の装着凹部19の底面19aに圧接する固定周面11aの内径D3が、装着凹部19の底面19aの内径D4(>D3)よりも小さく形成され、かつ、摺動シール46の第2部材14の摺動面13aに向かう側の被摺動面11bの外径N3が、摺動面13aの内径N4(>N3)よりも小さく形成されている。そして、この装着されていない自由状態で、摺動シール46の断面の半径方向の寸法は、H3であり、幅は、W3である。
【0077】
また、摺動シール46は、
図12の右側の図に示すように、当該摺動シール46を装着凹部19に装着したときに、摺動シール46が拡径方向に弾性変形して、摺動シール46の被摺動面11bの外径N3が大きくなって、摺動面13aの内径N4と一致し又はそれに近い寸法となるように形成されている。そして、この装着された状態で、例えば摺動シール46の断面の半径方向の寸法は、H4(≒H3)であり、幅は、W4(<W3)である。
【0078】
次に、上記のように構成された摺動シール46及びそれを使用したシール構造47の作用について説明する。この摺動シール46によると、
図12に示すように、第1及び第2部材13、14間の環状隙間16を密封することができる。そして、摺動シール46が、装着凹部19に装着されたときに、摺動シール46が拡径する方向に弾性変形して、摺動シール46の被摺動面11bの外径N3が、摺動面13aの内径N4と一致し又はそれに近い寸法となる。これによって、摺動シール46の被摺動面11bと摺動面13aとの間の接触圧を零又はそれに近い大きさに設定することができ、摺動シール46が摺動面13aとの接触によって永久変形することを抑制できる。その結果、摺動シール46及び摺動面13aを構成する第2部材14の長寿命化を図ることができ、適切な密封性能を長期間維持することができる。しかも、回転に要する動力のトルク損失を軽減することができる。
【0079】
更に、摺動シール46は、その中心線20を通る断面形状が矩形状に形成されているので、摺動シール46の被摺動面11bの、摺動面13aに対する接触面積を大きくして単位面積当たりの押圧力を精度よく零又はそれに近い大きさにすることができるので、摺動シール46の被摺動面11bが摺動面13aを摩耗させたり傷を付けることを抑制でき、これによっても、摺動シール46及び摺動面13aを構成する第2部材14の更なる長寿命化を図ることができ、適切な密封性能を長期間維持することができる。
【0080】
そして、摺動シール46が装着凹部19に装着されたときに、摺動シール46が拡径方向に弾性変形して、摺動シール46の固定周面11aが、装着凹部19の底面19aに圧接することができる。これによって、摺動シール46が装着凹部19から外れた状態で回転することを防止できるので、摺動シール46が移動したり変形せず、適切な密封性能を維持することができる。
【0081】
ただし、
図12に示す第10実施形態では、
図1に示す第1実施形態の孔用の摺動シール11を、軸用の摺動シール46に適用した例を示したが、これと同様に、
図2(a)、(c)、
図3(a)〜
図3(c)、
図4(a)〜
図4(c)に示す第2〜第9の各実施形態の孔用の摺動シールを軸用の摺動シールに適用することができる。
【0082】
そして、上記各実施形態では、摺動シールを単体で装着凹部19に装着して使用した例を挙げて説明したが、これに代えて、摺動シールを他の形式のシールと組み合わせて装着凹部19に装着して使用してもよい。
【0083】
また、上記各実施形態では、例えば
図12に示すように、軸用の摺動シール46の外周面に形成されている被摺動面11bを平坦面としたが、これに代えて、
図13に示すように、この被摺動面11bに溝部48を形成してもよい。この溝部48は、円筒形の被摺動面11bの全周に亘って円環状に形成してもよいし、円周の一部に1又は2以上形成してもよい。
【0084】
更に、上記と同様に、例えば
図1に示すように、孔用の摺動シール11等の内周面に形成されている被摺動面11bを平坦面としたが、これに代えて、図には示さないが、この被摺動面11bに溝部48を形成してもよい。この溝部48は、円筒形の被摺動面11bの全周に亘って円環状に形成してもよいし、円周の一部に1又は2以上形成してもよい。
【0085】
このように、被摺動面11bに溝部48を形成すると、
図13に示すようにW3>W5+W6の関係から、被摺動面11bと摺動面13aとの間の摩擦抵抗を低減することができ、摺動シール46等が回転側の部材に伴って回転することを防止することができる。なお、溝部48の幅及び長さは、摺動シール46等が回転側の部材に伴って回転することを防止することができると共に、適切なシール性を確保できるように設定することが必要である。