(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012295
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】地盤中への空気注入方法および空気注入システム
(51)【国際特許分類】
E02D 3/10 20060101AFI20161011BHJP
【FI】
E02D3/10
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-150146(P2012-150146)
(22)【出願日】2012年7月4日
(65)【公開番号】特開2014-12948(P2014-12948A)
(43)【公開日】2014年1月23日
【審査請求日】2014年9月5日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000236610
【氏名又は名称】株式会社不動テトラ
(73)【特許権者】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】三枝 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】磯谷 修二
(72)【発明者】
【氏名】藤井 直
【審査官】
石井 哲
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−189961(JP,A)
【文献】
特開2007−132061(JP,A)
【文献】
特開2004−124692(JP,A)
【文献】
特開2009−121066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂質地盤中に設置した空気注入管を通じて空気を注入することにより、砂質地盤を不飽和化する地盤中への空気注入方法において、
前記空気注入管に形成された空気注入孔の近傍に設けられた圧力計および流量計のそれぞれによって、前記空気注入孔での空気の注入圧力pおよび注入流量qを逐次取得し、取得した注入圧力pを予め設定した範囲内で一定になるように制御して、その一定の注入圧力下で注入流量qを増加させて空気を注入することを特徴とする地盤中への空気注入方法。
【請求項2】
前記注入圧力pの予め設定した範囲の上限pmを、前記空気注入孔の位置での静水圧uおよび有効土被り圧σとした場合、pm=u+0.5σに設定する請求項1に記載の地盤中への空気注入方法。
【請求項3】
砂質地盤中に設置される空気注入管と、この空気注入管に空気を供給する空気供給源を備えた地盤中への空気注入システムにおいて、
前記空気注入管に形成された空気注入孔での空気の注入圧力pを逐次取得する圧力取得手段および注入流量qを逐次取得する流量取得手段と、注入する空気の圧力を調整する圧力調整弁とを備え、前記圧力取得手段が前記空気注入孔の近傍に設けられた圧力計であり、前記流量取得手段が前記空気注入孔の近傍に設けられた流量計であり、前記圧力取得手段および流量取得手段による取得データに基づいて、前記圧力調整弁により、前記注入圧力pを予め設定した範囲内で一定になるように制御して、その一定の注入圧力下で前記注入流量qを増加させて空気を注入することを特徴とする地盤中への空気注入システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤中への空気注入方法および空気注入システムに関し、さらに詳しくは、複雑な設備を用いることなく、地盤中に空気を注入している際に、地盤の不飽和化が確実に進行していることを把握しながら施工することができる地盤中への空気注入方法および空気注入システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水で飽和した砂質地盤の液状化を防止するために、砂質地盤中に気泡を混入させた水を注入したり、空気を直接注入することにより、水で飽和した砂質地盤中に多数の気泡を混在させて砂質地盤の飽和度を低下させる工事が提案されている。この際に、空気を注入した砂質地盤の比抵抗に基づいて地盤の飽和度を測定する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の発明では、地盤中に注入した空気による不飽和化の程度を把握するために、空気注入管を埋設した周辺地盤に間隔をあけて削孔し、比抵抗トモグラフィ計測装置を構成する複数の電極や比誘電率計測装置を構成する複数のプローブを設置する。このように、地盤の不飽和化の程度を把握するには複雑な設備が必要になる。また、地盤中に空気を注入している際に、即座に不飽和化が確実に進行しているか否かを把握することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−121066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、複雑な設備を用いることなく、地盤中に空気を注入している際に、地盤の不飽和化が確実に進行していることを把握しながら施工することができる地盤中への空気注入方法および空気注入システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明の地盤への空気注入方法は、砂質地盤中に設置した空気注入管を通じて空気を注入することにより、砂質地盤を不飽和化する地盤中への空気注入方法において、前記空気注入管に形成された空気注入孔
の近傍に設けられた圧力計および流量計のそれぞれによって、前記空気注入孔での空気の注入圧力pおよび注入流量qを逐次取得し、取得した注入圧力pを予め設定した範囲内で一定になるように制御して、その一定の注入圧力下で注入流量qを増加させて空気を注入することを特徴とする。
【0007】
本発明の地盤への空気注入システムは、砂質地盤中に設置される空気注入管と、この空気注入管に空気を供給する空気供給源を備えた地盤中への空気注入システムにおいて、前記空気注入管に形成された空気注入孔での空気の注入圧力pを逐次取得する圧力取得手段および注入流量qを逐次取得する流量取得手段と、注入する空気の圧力を調整する圧力調整弁とを備え、
前記圧力取得手段が前記空気注入孔の近傍に設けられた圧力計であり、前記流量取得手段が前記空気注入孔の近傍に設けられた流量計であり、前記圧力取得手段および流量取得手段による取得データに基づいて、前記圧力調整弁により、前記注入圧力pを予め設定した範囲内で一定になるように制御して、その一定の注入圧力下で前記注入流量qを増加させて空気を注入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、空気注入管に形成された空気注入孔での空気の注入圧力pおよび注入流量qを逐次取得し、取得した注入圧力pを予め設定した範囲内で一定になるように制御して空気を注入するので、複雑な装置を設置する必要がなく、設備を簡素にできる。そして、空気注入孔における注入圧力を一定にした条件下で注入流量qを増加させて空気を注入することにより、地盤中に空気を注入している際に、確実に地盤の不飽和化が進行していることを把握しながら施工ができる。
【0009】
ここで、前記注入圧力pの予め設定した範囲の上限pmを、例えば、前記空気注入孔の位置での静水圧uおよび有効土被り圧σとした場合、pm=u+0.5σに設定する。これにより、地盤に割裂破壊を生じさせずに意図した範囲を不飽和化するには有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の
参考形態となる空気注入システムを用いて地盤中に空気を注入している状態を例示する説明図である。
【
図2】空気の注入圧力および注入流量の履歴を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の地盤中への空気注入方法および空気注入システムを図に示した
参考形態に基づいて説明する。
【0012】
本発明は、軟弱な砂質地盤に対する液状化防止工事として、地盤中に空気を注入することにより対象地盤を不飽和化する。そこで、
図1に例示する本発明の
参考形態となる空気注入システム1を用いて地盤中に空気aを注入する。この空気注入システム1は、長孔Hに挿入されて砂質地盤中に埋設される空気注入管2と、空気注入管2に空気を供給する空気供給源となるコンプレッサ9を備えている。空気注入管2の先端部の周壁には、複数の空気注入孔3が形成されている。空気注入管2の後端部には、コンプレッサ9につながれた空気供給管4が接続されている。
【0013】
さらに、空気注入孔3での空気aの注入圧力pを逐次取得する圧力取得手段および注入流量qを逐次取得する流量取得手段と、注入する空気aの圧力を調整する圧力調整弁9aとを備えている。この
参考形態では、地盤上に延設される空気供給管4に、圧力計5および流量計6が設置されていて、これらの取得データが入力される制御装置7が設けられている。この圧力計5および制御装置7が圧力取得手段を構成し、流量計6および制御装置7が流量取得手段を構成している。制御装置7としてはパーソナルコンピュータ等が用いられる。制御装置7に接続されたモニタ10には、注入圧力pおよび注入流量qが逐次表示される。
【0014】
そして、圧力取得手段および流量取得手段による取得データに基づいて、圧力調整弁9aを弁操作することにより、注入圧力pを予め設定した範囲内で一定になるように制御して、一定に制御した注入圧力p下で注入流量qを増加させて地盤中に空気aを注入する。
【0015】
この
参考形態では、圧力計5による測定圧力と、予め把握している空気流路(空気注入管2および空気供給管4)での圧力損失とに基づいて空気注入孔3での注入圧力pが逐次取得される。また、流量計6による測定流量と、予め把握している空気流路(空気供給管4)の断面積および空気注入孔3の開口面積と、予め把握している空気aの圧力と圧縮率とに基づいて空気注入孔3での注入流量qが逐次取得される構成になっている。尚、注入流量qについては、温度と水蒸気圧の影響による補正を行なうとより好ましい。
【0016】
空気注入管2が挿入された長孔Hには、下から順に、硅砂8a、BP(ベントナイトペレット)8b、超微粒子セメント8cまたはセメントベントナイトが充填される。各々の充填材料は、各々と同等もしくは、それ以上の優れた機能(性能)を有する材料であれば用いることができる。硅砂8aは、空気注入孔3に対応する位置に充填され、硅砂8aの上に充填されるBP8bはシール材として機能する。超微粒子セメント8cは地表近傍まで充填される。
【0017】
コンプレッサ9から空気供給管4を通じて空気注入管2に供給した空気aを、空気注入孔3から地盤に注入する。これにより、水で飽和した砂質地盤中に多数の気泡を混在させて地盤の飽和度を低下させる。その際の注入圧力pおよび注入流量qの履歴を
図2に例示する。
【0018】
空気aを注入開始直後の調整過程(過程1)では、注入圧力pと注入流量qとは比例関係にある。そして、調整過程以降(過程2)では、注入圧力pと注入流量qとの関係が変化して、注入圧力pは略一定圧力になっているが注入流量qは増加している。したがって、過程2では地盤の透気性が向上したことを示している。
【0019】
そして、多くの地盤条件のうち、飽和度のみを低下させると透気性が向上することが知られている。ここで、空気注入施工では、地盤構造などの条件を変化させることなく施工が行なえるので、透気性が向上している
図2に示す関係は、空気aの注入に伴って不飽和化が徐々に進行していることを示していることになる。
【0020】
したがって、注入圧力pを予め設定した範囲内で一定になるように制御して、その一定の注入圧力下で注入流量qを増加させて空気を注入することにより、地盤中に空気aを注入している際に、即座に、確実に地盤の不飽和化が進行していることを把握しながら施工ができる。具体的には、モニタ10に表示された注入圧力pおよび注入流量qを確認しながら、圧力調整弁9aの弁操作(弁の開閉具合)をして、注入圧力pを予め設定した範囲内で一定にしつつ、注入流量qを増加させる。尚、圧力調整弁9aの弁操作は手動に限らず、制御装置7により行なうこともできる。
【0021】
ここで、重要なのは、空気流路(空気注入管2や空気供給管4)における空気の圧力ではなく、空気注入孔3における注入圧力pを所定の範囲内で一定に制御することである。種々の実験では、空気流路(空気注入管2や空気供給管4)での空気の圧力を所定の範囲内で一定に制御するのではなく、実際に空気aを地盤中に注入する空気注入孔3での注入圧力pを一定に制御しなければ、地盤の不飽和化を確実に進行させることが難しかった。
【0022】
また、本発明は複雑な装置が不要なので設備が簡素化できる。不飽和化の程度は、例えば、空気注入管2から所定の間隔をあけて施工現場の地盤に電極を埋設して、これら電極によって地盤の比抵抗を測定し、この比抵抗の値に基づいて把握することもできる。このようなシステムと、本発明とを併用する場合であっても、本発明の設備は簡素なので、施工現場が雑然とした状態になることを回避できる。
【0023】
沿岸域の水位変動が大きい施工現場では、空気aを注入する場所の近傍に井戸を掘って、井戸内に設置した水位計等によって水位を計測する。そして、計測した水位データから空気注入孔3の位置での静水圧を算出して注入圧力pを一定に制御する。
【0024】
注入する空気aによって地盤に割裂破壊を生じさせずに、意図した範囲を不飽和化するには、注入圧力pの予め設定した範囲の上限pmは、例えば、空気注入孔3の位置での静水圧uおよび有効土被り圧σとした場合、pm=u+0.5σに設定することが好ましい。注入圧力pの下限pnは例えば、pn=u+0.2σ程度である。即ち、注入圧力pは、u+0.2σ以上u+0.5σ以下の範囲内の一定圧力に制御する。
【0025】
空気aの注入は、例えば、ある1本の空気注入管2を通じて、空気aを地盤中に注入して所定範囲を不飽和化した後、別の地点に設置された1本の空気注入管2を通じて空気aを地盤中に注入して所定範囲を不飽和化する。このように順次、別の地点に設置された空気注入管2を通じて空気aを地盤に注入することにより、必要な範囲を不飽和化する。
【0026】
上記した
参考形態とは異なり、本発明では、空気注入孔3の近傍に圧力計5および流量計6を設けて、注入圧力pおよび注入流量qを直接的に逐次
取得する。
【符号の説明】
【0027】
1 空気注入システム
2 空気注入管
3 空気注入孔
4 空気供給管
5 圧力計
6 流量計
7 制御装置
8a 硅砂
8b ベントナイトペレット
8c セメントベントナイト
9 コンプレッサ(空気供給源)
9a 圧力調整弁
10 モニタ
H 長孔
a 空気