(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012298
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/03 20060101AFI20161011BHJP
B60C 11/01 20060101ALI20161011BHJP
B60C 11/12 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
B60C11/03 300A
B60C11/03 300B
B60C11/01 B
B60C11/12 C
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-151591(P2012-151591)
(22)【出願日】2012年7月5日
(65)【公開番号】特開2014-15057(P2014-15057A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100097238
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 治
(72)【発明者】
【氏名】越智 直也
【審査官】
佐々木 智洋
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−085108(JP,A)
【文献】
特開平07−149114(JP,A)
【文献】
特開2010−083462(JP,A)
【文献】
特開2010−095148(JP,A)
【文献】
特開2010−111270(JP,A)
【文献】
特開2010−285040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/03
B60C 11/01
B60C 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に、
タイヤ周方向に延びる少なくとも1本の周方向主溝によって複数本の陸部を区画形成するとともに、
前記陸部のうちタイヤ幅方向最外側に位置するショルダー陸部に、前記周方向主溝よりも溝幅の小さい複数本の細溝と、少なくとも前記周方向主溝の近傍以外はタイヤ幅方向外側に向かうに連れて溝幅が大きくなる少なくとも1本の副溝とによって多数のブロックを区画形成してなり、
前記副溝は、前記周方向主溝に開口し、
前記副溝の前記周方向主溝への開口部に、前記副溝における最小の溝幅よりも溝幅の大きな主溝開口部が形成されていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記副溝は、前記トレッド接地端に開口してなる、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記副溝の最小の溝幅は、前記細溝の溝幅以下である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記副溝は、延在方向がタイヤ幅方向に対して傾斜する傾斜部を有し、
該傾斜部が、タイヤ幅方向の内側から外側に向って、タイヤ幅方向に対して傾斜するタイヤ周方向の向きが、タイヤ赤道面を境界とした両側で同一となる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ブロックの踏面の面積が、100〜200mm2の範囲である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記細溝及び前記副溝はそれぞれ、タイヤ周方向及びタイヤ幅方向に対して傾斜する傾斜部を有し、
前記ショルダー陸部の少なくとも一部で、前記細溝の傾斜部及び前記副溝の傾斜部が交差して格子状に配置され、前記ブロックの踏面形状がそれぞれ四角形状、五角形状、六角形状、七角形状、又は八角形状のいずれかとなる、請求項1〜5の何れか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記細溝が交差する交差部、及び前記細溝と前記副溝が交差する交差部に、溝幅の大きい拡大溝部を有する、請求項1〜6の何れか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記ブロックの踏面にサイプを形成してなる、請求項1〜7の何れか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記細溝の溝幅が0.5〜3.0mmの範囲である、請求項1〜8の何れか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記副溝は、前記主溝開口部のタイヤ方向外側に連なり、直線状に延在する第1傾斜部と、該第1傾斜部に屈曲部を介して連なり、該第1傾斜部とは異なる角度で直線状に延在する第2傾斜部とを有する、請求項1〜9の何れか一項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部に、溝により多数のブロックを区画形成した空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特に冬用の空気入りタイヤとして、エッジ効果を高めることによって氷雪路面における性能を高めることを目的とし、トレッド部に、溝によって多数のブロックを区画形成するとともに、ブロック踏面に多数のサイプを施したタイヤが多く提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開第2002−192914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来のブロックパターンを有する空気入りタイヤにおいては、接地時にブロックの倒れ込みが生じて接地性が悪化することにより接地面積が確保できず、氷上路面におけるブレーキ性能、トラクション性能、コーナリング性能(以下、氷上性能という。)が充分に得られなかった。また、ブロック一つ一つを大きくすることで剛性を高めて接地性を改善しようとすると排水性が不足してしまうため、排水性を損なうことなく氷上性能を向上させることは困難であった。
【0005】
それゆえ、本発明は、適切なブロックパターンの配置によって、排水性を損なうことなく接地面積を確保して、氷上性能を向上させた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の空気入りタイヤは、トレッド部に、タイヤ周方向に延びる少なくとも1本の周方向主溝によって複数本の陸部を区画形成するとともに、前記陸部のうちタイヤ幅方向最外側に位置するショルダー陸部に、前記周方向主溝よりも溝幅の小さい複数本の細溝と、少なくとも前記周方向主溝の近傍以外はタイヤ幅方向外側に向かうに連れて溝幅が大きくなる少なくとも1本の副溝とによって多数のブロックを区画形成してな
り、前記副溝は、前記周方向主溝に開口し、前記副溝の前記周方向主溝への開口部に、前記副溝における最小の溝幅よりも溝幅の大きな主溝開口部が形成されていることを特徴とするものである。ここで、「タイヤ周方向に延びる」とは、タイヤ周方向に向かって延びることを指し、タイヤ周方向に向かってジグザグ状に連続して延びる場合や、タイヤ周方向に向かって湾曲しながら連続して延びる場合も含まれる。
【0007】
かかる空気入りタイヤにあっては、周方向主溝、細溝及び副溝によって排水性を確保することともに、ショルダー陸部において、副溝の溝幅を適切に設定して、特にタイヤ幅方向内側の領域でブロックの接地面積を確保することができるので、氷上性能を向上させることができる。
【0008】
また、本発明の空気入りタイヤにあっては、前記副溝は、前記周方向主溝及びトレッド接地端に開口してなることが好ましく、これによれば、周方向主溝と副溝の間で水の移動を可能にし、また、副溝を通じて排水することが可能になるので排水性が向上する。
ここで、「トレッド接地端」とは、タイヤを正規リムに組付けて、正規内圧を充填し、正規荷重を適用した状態において、タイヤ表面が地面と接触する面のタイヤ幅方向最外位置をいう。なお、「正規リム」とは、タイヤのサイズに応じて下記の規格に規定された標準リムをいい、「正規内圧」とは、下記の規格に記載されている、適用サイズにおける単輪の最大負荷能力に対応する空気圧をいい、「正規荷重」とは、下記の規格の適用サイズにおける単輪の最大荷重(最大負荷能力)をいうものとする。そして規格とは、タイヤが生産または使用される地域に有効な産業規格であって、たとえば、日本では「日本自動車タイヤ協会」の“JATMA YEAR BOOK”であり、アメリカ合衆国では“THE TIRE AND RIM ASSOCIATION INC.”の“YEAR BOOK”であり、欧州では、“The European Tyre and Rim Technical Organisation”の“STANDARD MANUAL”である。
【0009】
なお、本発明の空気入りタイヤにあっては、前記副溝の最小の溝幅は、前記細溝の溝幅以下であることが好ましく、これによれば、より確実に接地面積を増大させ、氷上性能を向上させることができる。
【0010】
また、本発明の空気入りタイヤにあっては、前記副溝は、延在方向がタイヤ幅方向に対して傾斜する傾斜部を有し、該傾斜部が、タイヤ幅方向の内側から外側に向って、タイヤ幅方向に対して傾斜するタイヤ周方向の向きが、タイヤ赤道面を境界とした両側で同一となることが好ましく、これによれば、タイヤが所定方向に回転する際の排水性を向上させることができる。
【0011】
また、本発明の空気入りタイヤにあっては、前記ブロックの踏面の面積が、100〜200mm
2の範囲であることが好ましく、これによれば、一つ一つのブロックの剛性を確保するとともに、ブロックの踏面と路面の間の水膜を除去する効果が高まり、氷上性能をより一層、向上させることができる。
【0012】
また、本発明の空気入りタイヤにあっては、前記細溝及び前記副溝はそれぞれ、タイヤ周方向及びタイヤ幅方向に対して傾斜する傾斜部を有し、前記ショルダー陸部の少なくとも一部で、前記細溝の傾斜部及び前記副溝の傾斜部が交差して格子状に配置され、前記ブロックの踏面形状がそれぞれ四角形状、五角形状、六角形状、七角形状、又は八角形状のいずれかとなることが好ましく、これによれば、ブロック周りの排水性を高めるとともに、多角形状のブロック形状とすることで、多方向にエッジ効果を発揮することができ、氷上性能をさらに高めることができる。
【0013】
また、本発明の空気入りタイヤにあっては、前記細溝が交差する交差部、及び前記細溝と前記副溝が交差する交差部に、溝幅の大きい拡大溝部を有することが好ましく、これによれば、排水性を高めることができ、また、雪上路面においては雪柱剪断力を高めて雪上性能を向上させることができる。
【0014】
また、本発明の空気入りタイヤにあっては、前記ブロックの踏面にサイプを形成してなることが好ましく、これによれば、水膜除去効果を高めるとともに、エッジ効果を高めて氷上性能を向上させることができる。ここで「サイプ」とは、ブロックの表面から内部に切り込まれた薄い切り込みであって、接地時に閉じることが可能なものを指す。
【0015】
さらに、本発明の空気入りタイヤにあっては、前記細溝の溝幅が0.5〜3.0mmの範囲であることが好ましく、これによれば、排水性を確保するとともに、ブロック剛性を確保して接地性を高め、氷上性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、適切なブロックパターンの配置によって、排水性を損なうことなく接地面積を確保して、氷上性能を向上させた空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド部の一部を示す展開図である。
【
図2】本発明の他の実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド部の一部を示す展開図である。
【
図3】本発明のさらに他の実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド部の一部を示す展開図である。
【
図4】本発明のさらに他の実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド部の一部を示す展開図である。
【
図5】本発明のさらに他の実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド部の一部を示す展開図である。
【
図6】比較例の空気入りタイヤのトレッド部の一部を示す展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について詳細に例示説明する。
図1は、本発明に従う一実施形態の空気入りタイヤ(以下、「タイヤ」という)のトレッドパターンを示した部分展開図である。なお、図示は省略するが、本実施形態における空気入りタイヤは、通例に従い、一対のビード部と、ビード部のタイヤ径方向外側に連なる一対のサイドウォール部と、サイドウォール部間に跨るトレッド部とを備えるものである。また、ビード部に埋設されたビードコア間で、これら各部に亘ってトロイド状に延在するカーカスと、カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側にベルトが配設される。
【0019】
図1に示すように、タイヤ1のトレッド部には、タイヤ周方向に沿って直線状に延びる2本の周方向主溝3が配設され、1本の中央陸部5a及び2本のショルダー陸部5bが区画形成されている。
【0020】
それぞれのショルダー陸部5bには、細溝7a、7b及び副溝9によって多数のブロック11が区画形成されている。細溝7a、7bの溝幅w0は周方向主溝の溝幅w1よりも小さく、副溝9は、タイヤ幅方向内側から外側に向かって、溝幅が大きくなっている。また、副溝9はタイヤ幅方向に対してタイヤ周方向の一方側に傾斜し、タイヤ周方向に隣接する副溝9の間に、副溝9と同一方向側に傾斜して延びる細溝7aが配置されている。また、タイヤ幅方向に対して副溝9と逆側に傾斜する細溝7bが、副溝9及び細溝7aと交差して、複数のこれら副溝9、細溝7a、及び細溝7bが格子状の溝を構成している。細溝7a及び副溝9と細溝7bとの交差部には、溝幅が拡大した拡大溝部13が形成されている。これらの溝によって区画形成されるブロック11はタイヤ周方向に沿って千鳥状に配列され、ブロック11の形状は、四角形状の角部分を切断した八角形状等の多角形となっている。
【0021】
副溝9は、周方向主溝3及びトレッド接地端TEに開口し、周方向主溝3への開口部には、溝幅の大きな主溝開口部15が形成されている。また、副溝9は主溝開口部15近傍において溝幅が最小となり、副溝9の最小の溝幅w2は、細溝7a、7bの溝幅w0以下となっている。即ち、副溝9の溝幅は、少なくとも前記周方向主溝3の近傍、即ち、主溝開口部15以外の部分では、タイヤ幅方向外側に向かうに連れて溝幅が大きくなっている。なお、本実施形態では、溝幅w2は細溝7a、7bの溝幅w0と同等とされているが、溝幅w2を細溝7a、7bの溝幅w0より小さくしてもよい。また、本実施形態では、主溝開口部15の幅はw2より大だが、w2以下とすることもできる。また、副溝9は、最小の溝幅w2から、タイヤ幅方向外側に向かって、w3、w4、w5と段階的に溝幅が変化しているが、段階的ではなく、徐々に溝幅が変化していてもよい。
【0022】
本実施形態では、中央陸部5aには、互いに逆向きに傾斜する複数の細溝8が格子状に配置され、多数のブロック12a,12bが区画形成されている。図示のように周方向主溝3に隣接するブロック12aは六角形状であり、それ以外のブロック12bは八角形状となっている。
【0023】
上記構成からなるタイヤによれば、周方向主溝3、細溝7a、7bおよび副溝9によって排水性を確保し、ブロックの接地性を高めて、氷上性能を向上することができる。また、副溝9の溝幅がタイヤ幅方向外側に向かうに連れて大きくなることで、高い排水性を発揮することができる。また、タイヤ幅方向内側における副溝9の溝幅が小さいので陸部の接地面積を確保でき、氷上性能が向上する。
【0024】
また、副溝9が周方向主溝3及びトレッド接地端TEに開口しているため、周方向主溝3、副溝9、及び細溝7a、7b間の水の移動を自由にすることに加え、トレッド接地端TEの外側に排水することもできるため、より一層排水性が向上する。さらに、副溝9の最小溝幅が細溝7a、7bの溝幅以下であるため、より一層ブロックの剛性を確保しブロックの接地性を高めて、氷上性能が向上する。
【0025】
また、タイヤ赤道面の両側のショルダー陸部5bは、タイヤ赤道面を境界としてタイヤ周方向にずれた線対称のパターンとなっており、すなわち、副溝9は全てタイヤ幅方向内側から外側に向かって、タイヤ幅方向に対してタイヤ周方向の同一側に傾斜する構成を有する。副溝9の傾斜方向を統一することで、タイヤが所定の方向に回転する場合に特に高い排水性を発揮することができ、この例においては、
図1の矢印Rの方向に回転する場合に排水性が高くなる。また、車輌にこのタイヤを装着して前進走行させた際に回転する方向となるよう装着することで、所期した排水性を得ることができる。
【0026】
また、本実施形態のタイヤにあっては、一つ一つのブロック11の踏面の面積が、100〜200mm
2の範囲とすることができ、これによれば、一つ一つのブロックの剛性を確保するとともに、ブロック11の中央領域からブロック11の周縁までの距離を小さくすることで水膜の除去効果を向上させることができ、氷上性能をより一層向上させることができる。また同様に、中央陸部5aにおいても、排水性とブロック剛性を確保するために、ブロック12a,12bの踏面の面積は100〜200mm
2の範囲であることが好ましい。
【0027】
また、本実施形態のタイヤにあっては、格子状に配置された細溝7a、7b及び副溝9によって区画形成されたブロック11の形状を、四角形状の角部分を切断した形状とし、図のように、八角形状のブロック11a、五角形状のブロック11b、六角形状のブロック11c、七角形状のブロック11dとしたことにより、多方向の力に対してエッジ効果を発揮することができ、また、四角形状の角部は路面との接触によりもげ易いため、この部分を切断し、面取りしたような形状とすることにより、一つ一つのブロックの剛性を高めて偏摩耗を抑制する効果を得ることもできる。さらに、図のように、各ブロック11を四角形とみた場合の対角線の1本がタイヤ周方向に延びるように、ブロックを配置したことで、細溝7a、7b及び副溝9はタイヤ周方向にもタイヤ幅方向にも傾斜した配置となり、タイヤ幅方向に平行に延びる溝に比べてタイヤ周方向への排水性が向上する。
【0028】
また、本実施形態のタイヤにあっては、格子状に配置された細溝7a、7b及び副溝9の交差部には、溝幅が拡大した拡大溝部13が形成されている。すなわち、溝拡大部13に隣接するブロック11は、四角形状の角部を面取りしたような形状となっている。拡大溝部13を挟んで、タイヤ周方向及びタイヤ幅方向に隣接するブロック間の距離は、細溝7a、7bが、溝幅一定のまま交差する場合に比べて大きくなる。これにより、溝容積が部分的に大きくなるため、排水性をより高めることができ、また、雪上路面においては雪柱剪断力を高めて雪上性能を向上させることができる。
【0029】
また、本実施形態のタイヤにあっては、各ブロック11の踏面に、少なくとも1本以上、ここでは2本または3本のタイヤ幅方向にジグザグ状に延びるサイプ17が形成され、サイプ17によるエッジ効果により効果的に氷上性能を向上させることができる。なお、サイプ17の延在方向は、重視する性能に合せて設定することが可能である。例えば、トラクションやブレーキ性能を重視する場合には、タイヤ幅方向に沿って配置し、一方でコーナリング性能を重視する場合には、タイヤ幅方向に対して傾斜させて配置するのが有効である。
【0030】
細溝7a、7bの溝幅w0は0.5〜3.0mmの範囲であることが好ましく、これによれば、排水性及び水膜除去性能を確保するとともに、ブロックの剛性を確保してブロックの接地性を高め、氷上性能を向上させることができる。細溝7a、7bの溝幅w0は0.5mm未満であると、排水性が充分に得られない虞があり、また、水膜除去効果が低下し接地性が確保できない虞がある。溝幅w0が3.0mmを超えた場合には、ブロック剛性が低下して接地性が悪化する虞があり、また接地面積も不足するため氷上性能が充分に得られない虞がある。
【0031】
また、副溝9は、主溝開口部15のタイヤ幅方向外側に連通して直線状に延びる第1傾斜部9aと、第1傾斜部9aのタイヤ幅方向外側に屈曲しながら連続して延びて、トレッド接地端TEに達し、さらにこれを超えて直線状に延びる第2傾斜部9bを有する。第1傾斜部9aと第2傾斜部9bは、曲率を有する湾曲部を介して滑らかに連通していてもよい。第1傾斜部9aは、第2傾斜部9bよりもタイヤ幅方向に対して大きい角度α1をなすことが好ましく、より好適には、タイヤ幅方向に対して20°〜60°の角度をなすことが望ましい。このような構成とすることにより、排水性を確保するとともに、ブロックの剛性低下を抑制して接地性を高め、より一層、氷上性能を向上させることができる。第2傾斜部のタイヤ幅方向に対する角度α2は、30°以下であることが好ましく、これによれば、副溝9により区画形成されるブロックの剛性を確保し、トレッド接地端TE付近で生じ易い偏摩耗を抑制することができる。
【0032】
また、主溝開口部15の延在方向がタイヤ幅方向に対して30°以下の角度α3で傾斜することが好ましく、このような構成とすることで、周方向主溝3に隣接するブロックの剛性低下を防止し、接地性を高めることができ、また、偏摩耗を低減する効果を得ることができる。
【0033】
また、タイヤ幅方向最外側のブロック11eは、他のブロック11a、11b、11c、11dと比較して、踏面の面積が2倍以上であることが好ましく、これによれば、耐偏摩耗性を高めるとともに、氷上性能を向上させることができる。
【0034】
次いで、この発明の他の実施形態について説明する。
図2,3は、それぞれ本発明に従う他の実施形態のタイヤのトレッドパターンを示した部分展開図である。なお、
図1のタイヤと同一の部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0035】
図2のタイヤ21は、中央陸部5aに、ブロック23の踏面に開口し、ブロック23内で終端する直径0.5〜3mm、深さ0.5〜10mmの円形の小孔25を形成したものであり、その他の構成は上記実施例1のタイヤと同一である。このように小孔25を形成することで、踏面と路面との水膜を吸水する効果を得ることができ、接地性を高めて氷上性能をより一層向上させることができる。
【0036】
図3のタイヤ31では、周方向主溝33がジグザグ状に延びている。また、周方向主溝33のタイヤ幅方向外側に隣接するブロック35におけるタイヤ幅方向最内端35aと、当該周方向主溝33のタイヤ幅方向内側に隣接するブロック37におけるタイヤ幅方向最外端37aとが、同じタイヤ幅方向位置となっており、上記ブロック35とブロック37とは、タイヤ周方向に見てオーバーラップしないよう形成されている。周方向主溝33をジグザグ状に形成したことで、タイヤ幅方向のエッジ成分が増加するため、氷雪上でのトラクション性能及びブレーキ性能が向上する。また、本実施形態のように周方向主溝をジグザグ状に形成した場合、排水性能を確保するために、タイヤ周方向にみてオーバーラップせず、上記の内端35aよりも外端37aがタイヤ幅方向内側に位置してもよい。
【実施例】
【0037】
次に本発明に従うタイヤを試作して、氷上性能に関する性能評価を行ったので、以下で説明する。実施例1〜3及び比較例のタイヤはいずれも、サイズが195/65R15の乗用車用ラジアルタイヤである。
【0038】
実施例1のタイヤは、
図1に示すトレッドパターンを有し、具体的な寸法は表1のようになっている。実施例2のタイヤは、
図2に示すトレッドパターンを有し、ブロックの踏面に開口してブロック内で終端する、直径1.5mmの円形の小孔を形成したものであり、その他の構成は上記実施例1のタイヤと同一である。
【0039】
実施例3のタイヤは、
図3に示すトレッドパターンを有し、周方向主溝33が、ジグザグ状に延びる。また、周方向主溝33のタイヤ幅方向外側に隣接するブロックにおけるタイヤ幅方向最内端と、当該周方向主溝33の隣接するタイヤ幅方向内側に隣接するブロックにおけるタイヤ幅方向最外端とが、同じタイヤ幅方向位置となっている。さらに、実施例4、5のタイヤは、それぞれ
図4,5に示すトレッドパターンを有するタイヤである。各タイヤの具体的な寸法は表1に示す。
【0040】
比較例1のタイヤは、
図6に示すトレッドパターンを有し、トレッド部に、タイヤ周方向に延びる4本の周方向主溝63a,63bと、これらに隣接する5本の陸部65(タイヤ幅方向中央から中央陸部、中間陸部、ショルダー陸部とする。)とを備える。タイヤ幅方向内側に位置する2本の周方向主溝63aは、幅が6.5mm、深さが9.0mmであり、タイヤ幅方向外側に位置する2本の周方向主溝63bは、幅が5.0mm、深さが9.0mmである。中央陸部、中間陸部及びショルダー陸部には、トレッド周方向に傾斜して延びる横溝67によってブロックが多数区画形成されており、各ブロックにはジグザグ状に延びるサイプ69が多数形成されている。
【0041】
これらのタイヤを車両に装着し、氷上路面でのブレーキ性能、トラクション性能、コーナリング性能の性能評価を行った。
(1)氷上ブレーキ性能評価試験
氷上でのブレーキ性能は、氷上路面のテストコースで時速20km/hからフル制動したときの制動距離を測定し、その測定した距離の逆数から評価した。評価結果は比較例の結果を100とした指数で表し、数値が大きいほど氷上でのトラクション性能が良好であることを示す。評価結果を表1に示す。
(2)氷上トラクション性能評価試験
氷上でのトラクション性能は、氷上路面のテストコースで初速10km/hから加速し、30km/hに達するまでの時間を測定し、その測定した時間から評価した。評価結果は比較例1の結果を100とした指数で表し、数値が大きいほど氷上でのトラクション性能が良好であることを示す。評価結果を表1に示す。
(3)氷上コーナリング性能評価試験
氷上円旋回路面のテストコースでコーナリング性をドライバーのフィーリングで評価する。評価結果は比較例1の結果を100とした指数で表し、数値が大きいほど氷上でのコーナリング性能が良好であることを示す。評価結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1の評価結果から、実施例1〜5のタイヤは、比較例1のタイヤと比較して、氷上ブレーキ性能、氷上トラクション性能及び氷上コーナリング性能が向上していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
かくして本発明によって、適切なブロックパターンの配置によって、排水性を損なうことなく接地面積を確保して、氷上性能を向上させた空気入りタイヤを提供することが可能となった。
【符号の説明】
【0045】
1 空気入りタイヤ
3 周方向主溝
5a 中央陸部
5b ショルダー陸部
7a、7b 細溝
9 副溝
11 ブロック
13 拡大溝部
15 主溝開口部
17 サイプ