特許第6012318号(P6012318)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012318
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】情報記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G06K 19/077 20060101AFI20161011BHJP
   G06K 19/02 20060101ALI20161011BHJP
   G06K 19/04 20060101ALI20161011BHJP
   B42D 25/305 20140101ALI20161011BHJP
   B42D 25/455 20140101ALI20161011BHJP
   B42D 25/46 20140101ALI20161011BHJP
【FI】
   G06K19/077 196
   G06K19/077 144
   G06K19/02
   G06K19/04 040
   B42D15/10 307
   B42D15/10 455
   B42D15/10 460
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-158423(P2012-158423)
(22)【出願日】2012年7月17日
(65)【公開番号】特開2014-21641(P2014-21641A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120592
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 崇裕
(72)【発明者】
【氏名】三瓶 誠
(72)【発明者】
【氏名】川口 圭介
(72)【発明者】
【氏名】猪股 慎太郎
【審査官】 甲斐 哲雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−156470(JP,A)
【文献】 特開2009−040052(JP,A)
【文献】 特開昭61−217298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/00−19/18
B42D 25/00−25/485
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触式ICチップが基板に実装されたICモジュールと、
前記ICモジュールを含み、シート状に形成されたコア層と、
前記コア層の厚み方向に段差をなして穿れており、前記接触式ICチップが埋設される埋設穴と、
前記ICモジュールの基板が前記埋設穴の段差に載置された状態で、前記基板と前記段差とを接着させる接着層と備え、
前記接着層は、
熱硬化性樹脂により構成されており、
前記コア層は、
充填剤を非含有とした樹脂により構成されていることを特徴とする情報記録媒体。
【請求項2】
請求項1に記載の情報記録媒体において、
前記接着層は、
フェノール樹脂を含有していることを特徴とする情報記録媒体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の情報記録媒体において、
前記コア層は、
シート状に形成された複数枚のコアシートを積み重ねた積層構造をなしており、複数の前記コアシートのうち、前記接着層と接するコアシートに対して前記充填剤を非含有とすることを特徴とする情報記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触式ICカード、ハイブリッド式ICカードあるいはデュアルインタフェースカードとして用いられる情報記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の情報記録媒体として、カード状の基材にICチップが埋め込まれたICカードが知られている。ICカードには、外部機器に対して非接触で通信処理を行う非接触式ICカードや、接触した状態で通信処理を行う接触式ICカードがある。さらに、これらの機能を一体化させたハイブリッド式ICカードが知られている。
【0003】
一般的にICカードの製造過程では、金型を用いてカード形状に成型する工程が行われている。この成型工程では、型抜きの過程で溶融された樹脂が部分的に伸びることによりバリや糸くずなどが発生することがあるため、ICカードを構成する各シートには、予めフィラーやタルクといった充填剤が混錬されている。
【0004】
ただし、充填剤が混錬されてしまうと、エンボス加工によるカール(エンボスカール)が発生しやすくなってしまう。これに対して、コアシートに混錬される充填剤の添加量を調整した接触式ICカードに関する第1の先行技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
第1の先行技術において、ICカードは、積層構造をなしており、そのうち表層及び裏層のフィラー含有量が中間層のフィラー含有量よりも少ない。第1の先行技術によれば、オーバーシートとコアシートとの融着強度を低下させることなく、エンボスカールを抑制することができる。
【0006】
また、シートごとにタルクの添加量を調整した接触式ICカードに関する第2の先行技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。第2の先行技術では、コア基材をタルクが添加された層と添加されていない層とに分けている。
第2の先行技術によれば、使用される環境の影響によるカードの変形やエンボス加工により生じる反りを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−34009号公報
【特許文献2】特開2003−108954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した先行技術では、ICカード自体の変形を防止してはいるものの、ICチップとコア基材との接着性について考慮されていない。すなわち、コア基材に含まれる充填剤は、例えば、高温多湿な環境に晒された状態だと時間の経過とともにコア基材から脱離してしまう。この場合、ICチップ及び基材(コアシート)との接着力が低下してしまうという問題がある。
【0009】
そこで本発明は、温度や湿度が上昇してもICチップと基材との接着力が低下してしまうことを抑制する技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の解決手段を採用する。
本発明の情報記録媒体は、接触式ICチップが基板に実装されたICモジュールと、ICモジュールを含み、シート状に形成されたコア層と、コア層の厚み方向に段差をなして穿れており、接触式ICチップが埋設される埋設穴と、ICモジュールの基板が埋設穴の段差に載置された状態で、基板と段差とを接着させる接着層と備える。コア層は、充填剤を非含有とした樹脂により構成されていることを特徴とする。
【0011】
上記の構成において、ICモジュールは、外部機器に接触させることにより通信処理を行うものであり、接触式ICカードやハイブリッド式ICカード等に搭載されるものである。本発明の情報記録媒体によれば、接着層と接するコア層に充填剤が含まれていないため、高温多湿の環境下において充填剤がコア層から脱離するおそれがない。したがって接着層ではICモジュールやコアシートに対する接着力の低下を防止することができる。
【0012】
また本発明の情報記録媒体においてコア層は、シート状に形成された複数のコアシートを積み重ねた積層構造をなしており、複数のコアシートのうち、少なくとも埋設穴が形成され、接着層と接するコアシートに対して充填剤を非含有とする。
【0013】
本発明の情報記録媒体によれば、多層構造においてもコアシートとICモジュールとの接着力が低下してしまうことを防止することができる。すなわち、埋設穴が形成されたコアシートには、タルクやフィラー等の充填剤が含まれていないため、コアシートから脱離した充填剤が、埋設穴の段差と接着層との間に介在することがない。このため、コアシートとICモジュールに対する接着力の低下を確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の情報記録媒体によれば、温度または湿度の上昇に伴うICチップモジュールとコアシートとの接着力低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態の情報記録媒体を示す平面図である。
図2図1中のII−II線に沿う情報記録媒体を示す断面図である
図3】ICカードの製造工程を説明するための断面図である。
図4】実施例1及び比較例1〜5の情報記録媒体を構成する各シートの材料とともに膜厚を示す表である。
図5】実施例1及び比較例1〜5ついて、第1コアシート及び第2コアシートに含まれるタルクの含有量を示す表である。
図6】接着強度の測定に用いられる測定装置の構成を概略的に示す斜視図である。
図7】実施例1及び比較例1〜5として用いられる情報記録媒体の構成を示す断面図である。
図8】実施例1及び比較例1〜5の情報記録媒体について行った接着強度試験の測定結果を示す表である。
図9図8に示す実施例1及び比較例1〜5における接着強度の測定値を示すグラフである。
図10】高温環境下で行った比較例3及び実施例1の情報記録媒体に対する接着強度の測定値を示す表である。
図11】比較例3及び実施例1の情報記録媒体についてそれぞれ複数の試料を用いて行った高温多湿の環境下における接着強度の測定値を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の情報記録媒体1を示す平面図である。本実施形態の情報記録媒体1は、JISやISOの規格に準拠した接触式ICカードやハイブリッド式ICカードとしての用途に適している。本実施形態では、一例として接触式ICカードに適用される積層体を用いてその構造を説明する。
【0017】
情報記録媒体1は、カード基材2及びICモジュール4を備えている。カード基材2は、単層構造、あるいは、多層構造をなしている。ICモジュール4は、図示しない外部機器に対して接触した状態で通信処理を行うものである。ICモジュール4は、カード基材2に埋設されており、ICモジュール4の表面には、接触端子4aが形成されている。接触端子4aは、所定の接触パターンをなしており、外部に露出した状態で外部機器(図示しない)に設けられた端子に接続される。
【0018】
図2は、図1中のII−II線に沿う情報記録媒体1を示す断面図である。図2(A)では、単層構造をなす情報記録媒体1の構成を説明するための断面図である。また図2(B)は、多層構造をなす情報記録媒体1の構成を説明するための断面図である。
【0019】
図2では便宜上、各材料の厚みを実際よりも誇張して示しており、図示されている厚みの比率は正確でない。各材料の好適な厚みは実施例とともに後述するものとする。
【0020】
〔情報記録媒体の層構造〕
図2(A):情報記録媒体1のカード基材2は、一枚のコアシート(コア層)からなる単層構造をなしている。以下では、カード基材2を「コアシート2」と呼称する。
コアシート2の材料としては、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)や、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PETG(非結晶性樹脂)等を用いることができる。
【0021】
〔ICモジュール〕
ICモジュール4は、接触端子4aの他にも基板4b及び接触式ICチップ4cを有している。基板4bは、COT(Chip on Tape)基板であり、例えば、ガラスエポキシにより構成されている。
【0022】
基板4bを厚み方向でみた上側の面(表面)には、所定の接触パターンからなる接触端子4aが形成されている。接触端子4aは、基板4bの表面に貼り付けられた銅やアルミ等の金属箔がエッチング加工により所定の接触パターンをなして形成される。
【0023】
一方、基板4bの下側の面には、接触式ICチップ4cが実装されている。接触式ICチップ4cは、CPUやRAM、ROM、EEPROM等の半導体集積回路を搭載したチップ部品である。接触式ICチップ4cは、図示しないモールド材によって被覆されている。
【0024】
〔埋込穴〕
コアシート2には、埋込穴6が形成されている。埋込穴6は、コアシート2の厚み方向に段差をなして穿れており、接触式ICチップ4cが埋設される。具体的に図2(A)に示す埋込穴6は、コアシート2の表面から厚み方向に凸状をなしている。埋込穴6の底面には、段差6aが形成されており、側壁側の領域が中央付近よりも底上げされている。
【0025】
〔接着層〕
また、埋込穴6の段差6aには接着層として接着シート8が形成されている。接着シート8は、ICモジュール4の基板4bが埋設穴6の段差に載置された状態で、基板4bと段差6aとを接着させる。
【0026】
接着シート8の材料としては、例えば、接着剤や熱活性溶着フィルムを用いることができる。具体的には、ポリエステル樹脂が含有されている熱可塑性樹脂の接着シートや、フェノール樹脂やエポキシ樹脂等が含有されている熱硬化性樹脂の接着シートが挙げられるが、特に、熱硬化性樹脂の方が高温多湿の環境下で接着力が増加する傾向があることから好ましい。ICモジュール4は、基板4bの周縁が段差6aに載置される。すなわち、基板4bの周縁が接着シート8を介して段差6aに接着される。
【0027】
図2(B):また本実施形態の情報記録媒体1は、多層構造であってもよい。この場合、図2(B)に示されるように情報記録媒体1は、上側の層から順に、第1オーバーレイシート10、第1コアシート2a、第2コアシート2b、及び第2オーバーレイシート12により構成されている。なお、図2(B)に示す情報記録媒体1は4層構造であるが、ISO規格に規定された厚み寸法の範囲内(例えば、680μm〜840μm)であれば、4層構造よりも多く積層された構造でもよい。例えば、第2オーバーレイシート12と第2コアシート2bとの間に印刷層が設けられていてもよい。
【0028】
第1オーバーレイシート10及び第2オーバーレイシート12は、情報記録媒体1の厚み方向でみた両側の外面を保護する透明又は半透明のシートである。第1オーバーレイシート10及び第2オーバーレイシート12の材料としては、例えば、PETや、PEN、PETG等を用いることができる。
【0029】
第1コアシート2a及び第2コアシート2bは、図2(A)に示すコアシート2を2層に分割したものである。埋込穴6の深さは、第1オーバーレイシート10の表面から第2コアシート2bの一部に達しており、埋込穴6の底面は、第2コアシート2bに形成されている。また段差6aは、第1コアシート2aに形成されている。
【0030】
ICモジュール4は、上記の単層構造と同様に、基板4bの周縁が段差6aに載置される。具体的には基板4b(実装面)の周縁が接着シート8を介して段差6aに接着される。
【0031】
図3は、本実施形態における情報記録媒体1の製造手法を説明するための断面図である。図3では図2と同様に、便宜上、各材料の厚みを実際よりも誇張して示しており、図示されている厚みの比率は正確でない。
【0032】
〔プレス加工〕
情報記録媒体1の製造手法では、第1オーバーレイシート10、第1コアシート2a、第2コアシート2b、及び第2オーバーレイシート12の原反を積み重ねて、これらを加熱しながら厚み方向にプレス加工する加工工程が行われる。プレス加工された原反の厚み寸法は、ISO規格に準拠しており、例えば、680μm〜840μmの範囲内である。
【0033】
〔成型・ミーリング加工〕
次にプレス加工された原反に対して、オスメス型の金型や中空刃等を用いてカード状の情報記録媒体1として成型する。カード状に成型された情報記録媒体1には、ミーリング加工により第1オーバーレイシート10の表面側から厚み方向に埋設穴6が設けられる。
【0034】
〔ICモジュールの実装〕
またICモジュール4は、基板4b(実装面)の周縁に接着シート8が貼り付けられた状態で、埋設穴6に設置(実装)される。このとき、接着シート8は、埋設穴6の段差6aに接着される。
【0035】
〔充填剤と接着シートとの関係〕
一般的に、情報記録媒体の製造過程における成型工程において、金型や中空刃等を用いた型抜きをスムーズに行うために、コアシート2には、タルクやフィラー等の充填剤(以下、単に「充填剤」とする。)が混錬されている。
【0036】
しかし、充填剤は、温度や湿度の上昇に伴ってコアシート2から脱離しやすくなる。この場合、脱離した充填剤が埋設穴6の段差6aと接着シート8との間に介在すると、段差6aに対する接着シート8の接着力が低下してしまう。
【0037】
これに対して、本発明の発明者等は、温度や湿度の上昇によりICモジュール4と段差6aと間の接着力が低下してしまうことを防止するという観点から、コアシート2に含有されている充填剤を非含有にするという知見を得るに至った。
【0038】
〔接着シートの熱硬化性〕
また本発明の発明者等は、接着シート8の熱硬化性にも着眼している。すなわち、ICモジュール4の実装時において、接着シート8に含まれる樹脂成分は十分に反応しておらず、十分に硬化していないという点に着眼している。なお、ICモジュール4を実装する際、情報記録媒体1のプレス時間を長くすることで、接着シート8に含まれる樹脂の硬化を促進させることができる。しかし、この場合、熱の影響で情報記録媒体1が撓んでしまい、表面に凸凹が形成されてしまう。このため、一般的なICカードの製造過程で接着シート8の反応を促進させるために、わざわざプレス時間を長くするようなことは行われていない。
【0039】
また本発明の発明者等は、ICカードとして製品化された後に、情報記録媒体1が、搭載された外部装置から発せられる熱の影響や、外部機器が設置される環境(温度又は湿度)の影響を受けて、接着シート8に含まれる樹脂成分の硬化が促進される点にも着眼している。
【0040】
ただし、コアシート2に充填剤が含まれた構成だと、接着シート8に含まれる樹脂成分の硬化が促進されたとしても、上述した充填剤の脱離により、ICモジュール4と段差6aとの接着力が低下してしまうという点を考慮する必要がある。
【0041】
このような着眼点に基づいて、本発明の発明者等は、コアシート2あるいは、第1コアシート2a及び第2コアシート2bに対して上記の充填剤を非含有とするという知見を得るに至った。
【0042】
また第2コアシート2bも第1コアシート2aと同様に、充填剤が含まれていない構成であってもよいが、この場合、埋設穴6が第1コアシート2aの内部に留まり、その底面が第2コアシート2bに形成されていないことが好ましい。
【0043】
〔実施例〕
以下では、実施例と比較例とを用いて充填剤が接着シート8の接着力に与える影響について説明する。
【0044】
〔接着強度試験の概要〕
本発明の発明者は、高温及び高温多湿の環境下において、上記の充填剤が接着シート8の接着力に与える影響を検証するために、所定条件(温度及び湿度)のもと、第1コアシート2a及び第2コアシート2bとして充填剤含有量が異なる複数種類の材料を用いて、ICモジュール4の接着強度の測定を行った。
【0045】
〔各シートの材料〕
図4は、実施例1及び比較例1〜5の情報記録媒体1を構成する各シートの材料とともに膜厚を示す表である。なお、実施例1及び比較例1〜5では、図2(B)に示される4層構造の情報記録媒体1を用いる。
【0046】
〔材料、膜厚〕
実施例1及び比較例1〜5を構成する各シートの材料及び厚み寸法(厚み)は、以下の通りである。
〔第1オーバーレイシート〕
材料 :PETG
製品名:CG030(太平化学製品株式会社製)
膜厚 :50(μm)
〔第1コアシート〕
材料 :PETG(三菱樹脂株式会社製)
膜厚 :350(μm)
〔接着シート〕
材料 :熱活性溶着フィルム(ニトリルゴム及びフェノール樹脂を含む)
製品名:型番8411(テサテープ株式会社製)
膜厚 :60(μm)
〔第2コアシート〕
材料 :PETG(三菱樹脂株式会社製)
膜厚 :350(μm)
〔第2オーバーレイシート〕
材料 :PETG
製品名:CG030(太平化学製品株式会社製)
膜厚 :50(μm)
【0047】
〔コアシートの材料〕
図5は、実施例1及び比較例1〜5ついて、第1コアシート2a及び第2コアシート2bに含まれるタルクの含有量を示す表である。
【0048】
実施例1及び比較例1〜5において、第1コアシート2a及び第2コアシート2bに使用されるPETGは、全部で6種類(種類A〜種類F)である。各PETGに含まれる充填剤(タルク)の配合量は、それぞれ異なっている。
【0049】
実施例1及び比較例1〜5で使用される各種PETGの製品名(いずれも、三菱樹脂株式会社製)を以下に示す。
〔種類A〕:PG−WTS(実施例1)
〔種類B〕:PG−WHI(比較例1)
〔種類C〕:PG−WSE(比較例2)
〔種類D〕:PG−WTB(比較例3)
〔種類E〕:PG−WKS(比較例4)
〔種類F〕:PG−WMF(比較例5)
【0050】
〔製造方法〕
情報記録媒体1の製造は、上述のとおり、各シートの原反を4層に積層した状態で加熱しながら厚み方向にプレス加工を行い、プレス加工された原反に対して、オスメス型の金型や中空刃等を用いてカード状の情報記録媒体1として成型する。
【0051】
1.プレス条件
試験で使用する実施例1の情報記録媒体1及び比較例1〜5の情報記録媒体1のプレス条件を以下に示す。
プレス装置:VH1−1619型(北川精機株式会社製)
プレス温度:150℃
最大圧力 :15kg/cm(1.47MPa)
プレス時間:40分
【0052】
また、ミーリング加工により第1オーバーレイシート10の表面側から厚み方向に埋設穴6が設けられる。このとき、図3に示されるように、段差6から第1オーバーシート10の表面までの高さH1は、230μmである。また、段差6から埋設穴6の底面までの高さH2と上記の高さH1とを足し合わせた埋設穴6の高さ(深さ)は、640μmである。
【0053】
2.接着シートの仮止め
ICモジュール4は、基板4b(実装面)の周縁に接着シート8が貼り付けられた状態で、埋設穴6に設置(実装)される。
ICモジュール4の実装に際し、まず、ICモジュール4に接着シート8を圧着させて仮止めする。具体的には、基板4bの実装面を片面に剥離紙が付着した接着シート8の接着層側に圧着させる。このときの圧着条件を以下に示す。
圧着温度:140℃
圧力 :0.6Mpa
加圧時間:2.8秒
【0054】
3.ICモジュールの実装
次に、接着シート8が仮止めされたICモジュール4を接着シート8の剥離紙を剥がし、埋設穴6に実装する。このときの実装条件を以下に示す。
プレス温度:185℃
最大圧力 :110N/cm(1.1MPa)
プレス時間:0.8秒×2
【0055】
〔試験装置〕
図6は、接着強度の測定に用いられる測定装置の構成を概略的に示す斜視図である。
【0056】
測定装置は、土台治具16を備えており、土台治具16の表面には、情報記録媒体1を載置するための載置面16aが形成されている。載置面16aは、情報記録媒体1の形状に合わせて形成されており、情報記録媒体1の埋設穴6に対向する位置には、土台治具16を厚み方向に貫通する直径20mmのザグリ16bが形成されている。
【0057】
〔接着強度の測定〕
接着強度の測定では、情報記録媒体1は、穴14が形成された面(第2オーバーレイシート12の表面)を表にして、載置面16aに載置される。そして、直径6mmの円柱状をなすステンレス製の加圧治具18を穴14に挿通させて、ICモジュール4を下方に押し込み、ICモジュール4が段差6aから外れた際の加圧治具18の圧力を測定する。ICモジュール4を下方に押し込むための圧縮試験機としては、型番ストログラフM−50(株式会社東洋精機製作所製)を使用する。圧力の測定にはロードセルを使用する。
【0058】
〔接着強度の測定条件〕
実施例1及び比較例1〜5の情報記録媒体1を、ICモジュール4の実装直後、及び温度85℃、湿度85%環境下に放置し、1週間後、2週間後、3週間後の接着強度の変化を下記試験装置を用いて測定した。また、実施例1及び比較例3については、温度90℃、湿度10%以下の環境下、及び温度85℃、湿度85%環境下で、1週間後、2週間後、4週間後の接着強度の変化を測定した。
【0059】
上記の各環境下で放置された後、図7に示されるように、実施例1及び比較例1〜5で使用する情報記録媒体1には、ミーリング装置を用いて、第2コアシート2bの表面から厚み方向に切削された穴14が設けられる。このとき、埋設穴6の底面が貫通される。したがって、この穴14を通じて外部からICモジュール4を視認することができる。
【0060】
〔高温多湿の環境下での接着強度の測定〕
図8は、実施例1及び比較例1〜5の情報記録媒体1について行った接着強度試験の測定結果を示す表である。図8に示す接着強度試験では、温度85℃、及び湿度85%の環境に最大で3週間晒しておいた情報記録媒体1に対して、接着強度の測定を行っている。
【0061】
図8中の左から2列目から5列目には、コアシートの欄、接着強度の欄、接着強度低下率の欄、及び判定の欄が設けられている。コアシートの欄には、実施例1及び比較例1〜5に関して、第1コアシート2a及び第2コアシート2bの材料として用いられたPETGの種類と、タルクの含有率が示されている。
【0062】
また接着強度の欄には、1週間おきに行った接着強度試験の測定値が実施例1及び比較例1〜5ごとに示されている。接着強度低下率の欄には、0日目(実装直後)と3週間後に測定された接着強度の測定値を比較した接着強度の低下率が示されている。
【0063】
〔接着強度の測定値に基づく判定〕
本実施形態の「接着強度の測定」では、3週間後の測定値が0日目の測定値より上昇しているものについては「良品」(図8中に示す「○」)と判定し、下降しているものについては「不良品」(図8中に示す「×」)と判定する。
【0064】
〔高温多湿の環境下での接着強度の評価〕
まず、本発明の発明者は「実施例1」及び「比較例1〜5」について以下の検討及び温度85℃、湿度85%環境下における評価を行った。
実施例1では、タルクの含有量を0%、即ち非含有としている。タルクを含まない実施例1では、接着強度試験において、3週間後の測定値(19.2kg)は、0日目の測定値(15.3kg)よりも上昇していることが認められた。また、実施例1における接着強度の低下率は、「−25.7%」である。すなわち、「25.7%」上昇している。これは、フェノール樹脂が含有された接着シートが、高温多湿の環境下において、さらに反応が促進されたことにより、接着力が増したことを意味している。
【0065】
比較例1〜5では、3週間後の測定値が、いずれも、0日目の測定値よりも下降している。このように、第1コアシート2a及び第2コアシート2bにタルクを添加してしまうと、接着シート8の接着力が低下していることがわかる。
これは、高温多湿の環境下において、コアシートと接着シートとの接着面で脱離したタルクが接着力の低下をもたらしているためである。また比較例1〜5では、実施例1と同様にフェノール樹脂が含有された接着シートを使用しているため、接着力が増すことも考えられるが、接着シートの増加した接着力よりも脱離したタルクの影響が大きいため、接着力が低下することを意味している。
【0066】
図9は、図8に示す実施例1及び比較例1〜5における接着強度の測定値を示すグラフである。図9中の縦軸は、接着強度を示しており、横軸は時間の経過を週単位で示している。
【0067】
図9に示されるように、タルクを含んでいない実施例1では、1週間後以降の測定値が0日目の測定値よりも上昇傾向にあることがわかる。一方、タルクを含む比較例1〜5では、時間の経過と共に、測定値が低下傾向にあることがわかる。
【0068】
〔高温環境下での接着強度の測定〕
図10は、高温環境下で行った比較例3及び実施例1の情報記録媒体1に対する接着強度の測定値を示す表である。図10では、温度90℃、湿度10%以下の環境に情報記録媒体1を晒した状態で、接着強度の測定を行った結果が示されている。
【0069】
また、図10に示される接着強度試験では、比較例3及び実施例1に対してそれぞれ3つの試料を用いて接着強度を測定している。試料1〜3は、それぞれ同一の材料により作成されている。すなわち、比較例3の試料1〜3については、コアシートにPG−WTB(種類D)を使用し、実施例1の試料1〜3については、コアシートにPG−WTS(種類A)を使用している。
【0070】
〔高温環境下での接着強度の評価〕
本発明の発明者は「実施例1」について「比較例3」と対比しつつ、以下の検討及び温度90℃、湿度10%以下の環境下における評価を行った。
比較例3の試料1〜3における、温度90℃、湿度10%以下の環境下での接着強度の測定値は、いずれも、4週間後の測定値が0日目の測定値よりも低下している。特に、試料3については、4週間後の測定値が0日目の測定値よりも10kgを下回っており、その値は「9.63kg」である。一般的に、接着強度が10kg以下の情報記録媒体は、ICモジュールが非常に外れやすくなっているため、製品として適さない。
【0071】
これに対して、実施例1の試料1〜3における接着強度の測定値は、いずれも、4週間後の測定値の方が0日目の測定値よりも上昇していることがわかる。
【0072】
〔高温多湿の環境下での接着強度の測定〕
図11は、比較例3及び実施例1の情報記録媒体1についてそれぞれ複数の試料を用いて行った高温多湿の環境下における接着強度の測定値を示す表である。
【0073】
図11では、比較例3及び実施例1の情報記録媒体1に対して図8に示す測定条件と同様に「温度:85℃」「湿度:85%」の環境に情報記録媒体1を晒した状態で、接着強度の測定を行っている。また、図10に示す測定と同様に、比較例3及び実施例1に対してそれぞれ3つの試料を用いてそれぞれの接着強度を測定している。
【0074】
〔高温多湿の環境下での接着強度の評価〕
実施例1の試料1〜3における接着強度の測定値は、いずれも、4週間後の測定値の方が0日目の測定値よりも低下している。しかしながら、比較例3の測定値と比べても、実施例1における低下率の平均値は、約3分の1である。このような結果から、温度85℃、湿度85%のような高温多湿の環境下では、接着シート8の接着力が低下しやすいということがわかる。その中でも、コアシート2にタルクを含まない方が、含んだ場合よりも接着シート8の接着力が維持されていることがわかる。
【0075】
〔接着シートの熱硬化性とタルクとの関係〕
本発明の発明者は、第1検討事項から第6検討事項における実施例1及び比較例1〜5の評価結果から、第1コアシート2a及び第2コアシート2bに対するタルクの含有率は、0%即ち非含有とするという結論を導き出している。
【0076】
このように、本実施形態の情報記録媒体1によれば、埋設穴6が形成され、接着シート8が接するコアシート2にタルクが含まれていないため、高温多湿の環境下においてタルクがコアシート2から脱離するおそれがない。したがって接着シート8ではICモジュール4やコアシート2に対する接着力の低下を防止することができる。さらに、プレス温度よりも高い温度で反応が促進されるような接着シート8を使用することにより、高温多湿の環境下において、接着力の低下を防止することが可能となる。
【0077】
本発明は上述した一実施形態に制約されることなく、種々に変形して実施することができる。本実施形態では、ICモジュール4のみが搭載された例を挙げているが、非接触により通信処理を行うためのICチップやアンテナを搭載していてもよい。また、ICチップは、接触式で行う通信処理だけでなく非接触式で行う通信処理に対応したデュアルインタフェースを備えたものであってよい。
【符号の説明】
【0078】
1 情報記録媒体
2 コアシート(コア層)
2a 第1コアシート
2b 第2コアシート
4 ICモジュール
4a 接触端子
4b 基板
4c 接触式ICチップ
6 埋設穴
6a 段差
8 接着シート(接着層)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11