(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導電パターン付絶縁基板が、前記不活性ガスの通流方向に向かって第1の開口を有し、前記第1の開口を囲む一以上の側面に第2の開口を有し、前記第1の開口と対抗する面に支持板を有する支持用治具に配置されて加熱処理されることを特徴とする請求項1〜2のいずれか一項に記載のパワーモジュールの製造方法。
【背景技術】
【0002】
図13は、パワーモジュール500の要部断面図である。このパワーモジュール500は、冷却用の銅ベース51と、銅ベース51に裏面の金属導体55が固着し、この裏面の金属導体55、セラミック板53およびおもて面の金属導体である導電パターン54とで構成される導電パターン付絶縁基板52と、導電パターン54上に固着される複数の半導体チップ56からなる。前記の半導体チップ56同士、半導体チップ56と導電パターン54をそれぞれ接続するボンディングワイヤ57(アルミワイヤなど)と、前記導電パターン54に固着する図示しない外部導出端子と、上面からこの外部導出端子を露出したケース58と、ケース58内に充填されたゲル59からなる。絶縁基板であるセラミック板52のおもて面に固着した導電パターン54は銅箔で形成された導電パターン付絶縁基板52の上部電極であり、裏面に固着した金属導体55は銅箔で形成された導電パターン付絶縁基板52の下部電極である。
【0003】
さて、IGBTやIPMといったこのパワーモジュール500においては、定格運転時での電気的仕様に加え、絶縁性、熱伝導性、パワーサイクルなどに伴う機械的ストレスやEMC(電磁環境適合性ノイズによる電磁環境の悪化を防止すること)など、相反する様々な要求に対して、バランス良く対応することが要求されている。
【0004】
とりわけ、高耐圧のパワーモジュール500では、市場要求に伴い、高耐圧化・高信頼性を確保することが重要であり、そのポイントとなるのが、絶縁上の最弱点である導電パターン付絶縁基板52上での部分放電とその進行によって形成される沿面放電の抑制である。こうした部分放電および沿面放電を抑制するために、様々な取り組みが行なわれている。
【0005】
図14は、導電パターン付絶縁基板52上での3重点の交線箇所60で起こる部分放電61とこの部分放電61を起点にセラミック板53の表面を進展する沿面放電62について説明した図である。この
図14には導電パターン付絶縁基板の要部断面図と、A部の円内の拡大斜視図が示されている。
【0006】
部分放電61は導電パターン付絶縁基板52を構成する導電パターン54(例えば、銅箔上部電極など)や裏面の金属導体55(例えば、銅箔下部電極など)と導電パターン付絶縁基板52を構成するセラミック板53と絶縁保護材であるシリコーンゲル(単に、ゲル59と称す)が交わった交線箇所60(この箇所を3重点と称すこともある)で起こりやすい。この交線箇所60では水分などが吸着し易く、その水分が核となり電界集中が引き起こしやすくなるためである。なお、この交線箇所60はセラミック板53に導電パターン54、裏面の金属導体55をロー付けなどで接合した接合部の露出した外周端であり、線状であるので交線箇所と名づけた。交線箇所60はここではセラミック板53面と導電パターン54面、セラミック板53面と裏面の金属導体55面が交わった線状の箇所を示す。また、この交線箇所60は、セラミック板53と導電パターン54、セラミック板53と裏面の金属導体55の接合部が露出した外周端でもある。
【0007】
この交線箇所60で部分放電61が起こるとセラミック板53とゲル59の界面のセラミック板53上で絶縁破壊が進行して沿面放電62が発生する。この沿面放電62の進行方向を矢印63で示した。この矢印63が上下にそれぞれあるのは、電圧が印加される向きが異なる場合における沿面放電62の進行方向をそれぞれ示すためである。つまり、上の矢印aは導電パターン54にプラス極性の電圧が印加された場合に主に発生する放電であり、下の矢印bは裏面の金属導体55にプラス極性の電圧が印加された場合に主に発生する放電である。この部分放電61と沿面放電62は導電パターン付絶縁基板52を構成する導電パターン54(銅箔上部電極)や裏面の金属導体55(銅箔下部電極)およびセラミック板53に表面吸着ガスである水分などがあると発生しやすい。ここでは、水分(水蒸気)をガスとして取り扱うことにする。特に、前記の3重点である交線箇所60に表面吸着ガスが存在すると発生し易くなる。
【0008】
そのため、水分などの表面吸着ガスを除去するために、従来は導電パターン付絶縁基板52をAir(空気)雰囲気で、150℃程度の温度でプリベーク処理することが行われている。
【0009】
また、パワーモジュール500で発生する部分放電61や沿面放電62を抑制するために、特許文献1〜8のような対策が取られている。
特許文献1には、金属結合層との接合面の特性を向上させ、ボイドなどの間隙を小さくするため、セラミックス板側に表面凹凸を持たせボイドの抜けを良くする効果を持たせるように改質することが記載されている。
【0010】
また特許文献1と類似した方法として、特許文献2には、ろう付け界面のボイドの発生を抑制するため、Si
3N
4(窒化珪素)基板の表面に、適切な凹凸を持たせる技術が開示されている。
【0011】
これらの特許文献1ならびに特許文献2に開示された技術は、セラミック板などの絶縁基板と金属導体の界面に発生するボイドの制御法に関するものである。この界面に発生するボイドは、部分放電の発生要因となる上、金属導体との界面に一度形成されてしまうと除去できないものであり、そのため、基板作製工程上、重要な対策として取り組まれている。
【0012】
一方、絶縁破壊に至る部位に着目し、その箇所を中心に対策を施すことによって、高い部分放電および沿面放電耐量を確保する方法も開示されている。具体的には、最も電界が集中する絶縁基板上の金属導体端部にコーティングを施すことによって、電界を緩和する方法である。その材質は様々であるが、使用する(コーティングする)材質の誘電率を制御することで、高い絶縁耐量を保有するものである(特許文献3、4、5参照)。
【0013】
これまでに述べた特許文献1〜5に記載された方法は、いずれも基板の物理的構造における対策であるが、ゲル側の対策も行なわれている、例えば、吸湿急加熱時に発生するゲル内部の欠陥による部分放電の発生を抑制するために、これら吸湿急加熱に強いゲル材が考えられている(特許文献6)。
【0014】
また、主回路基板と制御基板とが上下に一括して搭載されたパワーモジュールにおいて、ヒートサイクルにおける、ゲル裂けやゲルの剥離などを防止して長期の信頼性を向上させるために、主回路基板と制御基板とを2段構成とする方法も開示されている(特許文献7)。
【0015】
さらに、液状絶縁物(フロロカーボンや絶縁油)とエポキシ樹脂との2段構成、さらには、この2段構成の間にシリコーンゲルを挟んだ3段構成とすることによって、沿面放電を抑制する方法も考えられている(特許文献8)。
【0016】
また、部分放電劣化に関する一般的事項が非特許文献1に記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0032】
前記したように、従来の導電パターン付絶縁基板52のプリベーク処理は、表面吸着ガスである水分を除去することを主眼しているため、プレベーク処理の温度は150℃程度で行なわれ、それ以上の温度でのプリベーク処理は、導電パターン付絶縁基板52を構成するセラミック板53と一体化している電極材料(導電パターン54や裏面の金属導体55など)の酸化による劣化が進むため行われていなかった。
【0033】
発明者がTPD−MS(Temperature Programmed Desorption−Mass Spectrometry:加熱発生ガス分析)を用いてパターン付絶縁基板52からの発生ガスを調査した。その結果、導電パターン付絶縁基板52に吸着したガスの発生は、後述の
図8に示すように、150℃のプレベーク処理の温度よりも、さらに高い温度で発生するガスの方が多いことが判明した。
【0034】
この高い温度で発生するガスは、表面に吸着した水分によるものではなく、導電パターン付絶縁基板52に吸着した各工程(エッチング工程など)で使用された薬品の残渣が熱分解して形成される水分や二酸化炭素などが主成分のガスであることが判明した。この薬品の残渣は、例えば、導電パターン付絶縁基板52の金属導体である導電パターン54や裏面の金属導体55を形成するために使用するエッチング液によって生成される苛性ソーダなどである。
【0035】
また、導電パターン付絶縁基板52を構成する絶縁基板であるセラミック板53はポーラスであり、セラミック板53の微小孔に入り込んだ苛性ソーダなどの薬品の残渣はエッチング後の洗浄で十分に除去することが困難である。また、導電パターン54や裏面の金属導体55とセラミック板53の接合部の外周端である交線箇所60には微小孔が形成される場合があり、この微小孔に苛性ソーダなどの薬品の残渣が入り込むとやはりエッチング後の洗浄で十分に除去することが困難である。
【0036】
この薬品の残渣は、後述の
図8によると、200℃以上に加熱することで熱分解し水や二酸化炭素などのガスを生成する。この生成されたガスの発生レートは温度依存性が強く700℃付近の温度まで発生する。
【0037】
また、発生したガスを残留させたまま温度を下げることで導電パターン付絶縁基板52に吸着され、
図14で示すような部分放電61を起こす核となり部分放電電圧が低下する。
【0038】
従って、発生するガス(水分と二酸化炭素など)が十分に除去される温度付近まで温度を上昇させて発生したガスを除去することが重要になる。ただし、酸素を含む雰囲気下では高温でプリベーク処理を行うと、導電パターン付絶縁基板52を構成する金属導体(導電パターン54と裏面の金属導体55)や接合材の酸化による劣化が激しく、金属導体の表面を損傷させてしまう。この損傷が生じると、
図14に示す部分放電61の核となり部分放電電圧が低下する。そのため、不活性ガスの雰囲気下で高温のプリベーク処理を行う必要がある。このとき用いるパージガスとしては、窒素ガスや希ガスなど700℃付近まで温度を上昇させても不活性状態を確保するガスが適している。
【0039】
さらに、この高温でのプリベーク処理を行うにあたっては、絶縁を確保するセラミック板53などの絶縁基板沿面、導体電極部、両者の接合部(特に、交線箇所60)に不活性ガスを通流させて、この交線箇所60から発生したガスを確実に除去する必要がある。
【0040】
導電パターン付絶縁基板の絶縁耐量を向上させるためには、温度を上げてプレベーク処理し、前記した薬品の残渣を熱分解して導電パターン付絶縁基板から除去することが重要である。
【0041】
つぎに、この発明の実施の形態の具体的な内容を以下の実施例で説明する。
<実施例1>
図1〜
図4は、この発明の第1実施例に係るパワーモジュールの製造方法であり、工程順に示した要部製造工程図である。
【0042】
まず、
図1において、導電パターン付絶縁基板7(
図13の符号52に相当する)を縦置きの支持用治具1に立ててセットし、そのまま加熱炉15内にセットする。導電パターン付絶縁基板7の絶縁基板であるセラミック板8はAlN基板、Si
3N
4基板またはAl
2O
3基板などである。この縦置きの支持用治具1は導電パターン付絶縁基板7を立てた状態で支持できる構造となっている。ここでは、2個の縦置きの支持用治具1にそれぞれ導電パターン付絶縁基板7をセットした場合で示したが、縦置きの支持用治具1の個数は2個に限るものではない。
【0043】
つぎに、
図2において、不活性ガスである窒素ガス12を加熱炉15の入り口20から所定の流量で流入させ、加熱炉15内を窒素ガス12で充満させる。この充満した窒素ガス12は流入したときと同じ流量で出口21から外部へ放出される。加熱炉15の容積は例えば48000cm
3程度であり、窒素ガス12の流量は例えば0.5リットル/min程度である。
【0044】
つぎに、
図3において、導電パターン付絶縁基板7を例えば400℃程度の処理温度で、30分程度の処理時間でプレベーク処理し、エッチング工程で導電パターン付絶縁基板7に付着した苛性ソーダなどの薬品の残渣を熱分解してガス(水分や二酸化炭素など)を発生させる。この発生したガスは窒素ガス12に乗せて外部へ排気(除去)する。前記のエッチング工程では導電パターン付絶縁基板7の導電パターン9(
図13の符号54に相当する)と裏面の(
図3では図示されない)金属導体10(
図13の符号55に相当する)をそれぞれパターニングする。
【0045】
つぎに、窒素ガス12を流しながら加熱炉15内の温度を下げて導電パターン付絶縁基板7を冷却し、
図4に示されるように導電パターン付絶縁基板7がセットされている縦置きの支持用治具1を加熱炉15内から取り出す。
【0046】
つぎに、図示しないが、縦置きの支持用治具1から導電パターン付絶縁基板7を取り外し、この導電パターン付絶縁基板7を次工程に送る。次工程とはパワーモジュールの組立工程などである。
【0047】
図5は、実施例1で用いるプレベーク用加熱装置100の要部構成図であり、この発明の第1実施例に係るパワーモジュールの製造装置の構成を示すものである。このプレベーク用加熱装置100は、前記した加熱炉15と、その中にセットされる前記した縦置きの支持用治具1と、パージガス用ボンベ(例えば、市販の窒素ガスボンベ16)と、減圧弁17と、流量計18と、パージガス供給配管19およびパージガス出口弁22などで構成される。
図5は縦置きの支持用治具1にセットされた導電パターン付絶縁基板7も示されている。
【0048】
ここで、
図5に示されるプレベーク用加熱装置100において、加熱炉15は、上述のように縦置きの支持用治具1に立ててセットされた導電パターン付け絶縁基板7を内部に収納した状態で、導電パターン付け絶縁基板7を200℃〜700℃の温度範囲で加熱することが可能な構成とされており、上記温度範囲内において、導電パターン付け絶縁基板7を構成する絶縁体の材質などに合わせて設定された温度で加熱を行なうようにしている。さらに、加熱炉15に設けられたガス導入口である入り口20、ガス排出口である出口21、および、不活性ガス供給源であるパージガス用ボンベ(例えば窒素ガスボンベ16)などから構成される炉内雰囲気調整手段により、加熱炉15の内部雰囲気が例えば窒素ガスなど不活性ガスの雰囲気に維持される。
【0049】
このプレベーク用加熱装置100を用いた前記の製造工程の補足説明を行なう。縦置きの支持用治具1に導電パターン付絶縁基板7を立ててセットし、その状態で加熱炉15内にセットする。パージガス(加熱炉15内を充満させるガス)である窒素ガス12はパージ用ガスボンベである窒素ボンベ16から減圧弁17と流量計18およびパージガス供給配管19を通って、加熱炉15の入り口20から加熱炉15内へ流がす。加熱炉15内は窒素ガス12で充満し、充満した窒素ガス12は導電パターン付絶縁基板7のおもて面7aと(
図5では図示されない)裏面7bの両面に当たりながら所定の流量で流れ、パージガス出口弁22を通って外へ排気される。この窒素ガス12が導電パターン付絶縁基板7の両面7a,7b(特に、
図14の交線箇所60に相当する交線箇所11)に当たりながら流れることで、導電パターン付絶縁基板7から発生したガス(苛性ソーダが熱分解して発生したガス:水分や二酸化炭素など)は窒素ガス12によって外部に運ばれて除去される。
【0050】
これにより、導電パターン付絶縁基板7にプレベーク処理前に吸着した薬品の残渣(苛性ソーダなど)は除去されて、部分放電61や沿面放電62が抑制される。
図6は、縦置きの支持用治具1の要部構成図であり、同図(a)は斜視図、同図(b)は同図(a)の矢印Aから見た上面図、同図(c)は同図(a)の矢印Bから見た側面図である。この縦置きの支持用治具1は、ウェハを収納するバスケットのような形状をしている。この縦置きの支持用治具1は、底部の支持板2と、側外壁の枠板3と、枠板3に挟まれた側板4と、これらに接続する横板5が一体化された構造をしている。横板5には、凹部6の切り込みが形成されている。また、枠板3と側板4の間、側板4同士の間に導電パターン付絶縁基板7が挿入されセットされる。
【0051】
図7は、
図6の縦置きの支持用治具1に導電パターン付絶縁基板7をセットした要部構成図であり、同図(a)は斜視図、同図(b)は同図(a)の矢印Aから見た上面図、同図(c)は同図(a)の矢印Bから見た側面図である。
図7を用いてパージガスである窒素ガス12の流れを説明する。
【0052】
横板5に形成された切り込みの凹部6に、導電パターン付絶縁基板7のセラミック板8(
図13の符号53に相当する)の側端部を上方から下方に向かって差し込んで導電パターン付絶縁基板7をセットする。加熱炉の入り口20から加熱炉15内に入った窒素ガス12は、矢印で示すように上方から下方に向かって流れ、その窒素ガス12は導電パターン付絶縁基板7の両面7a,7bに触れながら向きを変えて横方向に流れ出口21へ向かう。このとき導電パターン付絶縁基板7のセラミック板8と金属導体(導電パターン9および裏面の金属導体10)の交線箇所11に窒素ガス12が当たって流れ、導電パターン付絶縁基板7に付着した薬品の残渣が熱分解されて発生するガス(水分や二酸化炭素など)を効率よく外部へ運び出す。
【0053】
図8は、プレベーク温度とガス発生レートの関係を実験した結果を示す図である。雰囲気はAir(空気中)と窒素ガス(N
2)の2種類であり、導電パターン付絶縁基板7を構成するセラミック板8(絶縁基板)はAlN基板とSi
3N
4基板である。
【0054】
図8において、ガス発生レートのピークは、100℃、400℃、600℃の各温度で表われる。AlN基板は100℃と400℃にピークが表われ、Si
3N
4基板は400℃および600℃にピークが現れる。TPD−MSなどの分析装置で調査した結果、200℃までのプレベーク温度では、発生したガスは導電パターン付絶縁基板7の表面7a,7bに水分が吸着されたことに起因(由来)している。また、200℃〜700℃のプレベーク温度では、発生するガスはエッチング時に導電パターン付絶縁基板7に吸着された薬品の残渣(例えば、苛性ソーダなど)が熱分解して発生したガス(水や二酸化炭素など)に起因(由来)する。
【0055】
前記の工程において、パージガスである窒素ガス12の流量は、加熱炉15内の雰囲気温度が低下しない程度にして、加熱炉15内が窒素ガス12で十分置換が行なわれる流量にする。使用した加熱炉15の炉内体積が、例えば、40cm×40cm×30cm=48000cm
3=4.8×10
4cm
3の場合は、市販の窒素47リットルのボンベ(窒素ボンベ16)を配置し、例えば、窒素ボンベ16の内容量7m
3=7×10
6cm
3で約1週間持たせるようにすると、0.69リットル/minの流量の窒素ガス12を流せばよい。この0.69リットル/minの流量は一例でありこれに限るものではなく、加熱炉15の内容積が前記の数倍程度までであれば、0.3リットル/min程度以上にするとよい。
【0056】
また、プレベーク処理の処理時間としては、前記したAlN基板やSi
3N
4基板の例では30分程度で十分効果は得られる。このプレベーク処理をさらに長時間行うと、熱変形や微量なリーク酸素と電極材料(導電パターン付絶縁基板7の導電パターン9や裏面の金属導体10)の酸化など、熱による不可逆反応が少しずつ促進する。そのため、必要な時間以上の処理の継続は行わない方が望ましい。また、事前にTPD−MS等の分析装置で熱分解によるガスの発生量が少なくなる時間を把握しておき、処理時間を設定するとよい。
【0057】
また、加熱時に適用するパージガスとしては、前記した窒素ガス12の他に希ガス(ヘリウム、アルゴンなど)が好適である。また、700℃まで加熱した状態でも不活性な状態を確保できる不活性ガスであればこれに限るものではない。酸素が含有していると前記したように導電パターン付絶縁基板7のおもて面の金属導体である導電パターン9や裏面の金属導体10が酸化され表面が荒れて、部分放電が起こり易くなる。
【0058】
また、前記のプレベーク処理では、十分に導電パターン付絶縁基板7の両面7a,7b(特に、交線箇所11)にパージガスである窒素ガス12が触れて通流するようにすることが肝要である。
【0059】
比較のために、パージガスである窒素ガス12を導電パターン付絶縁基板7の片面に当てて通流させた場合について検討した。
図9は、開口部なしの横置きの支持用治具25に導電パターン付絶縁基板7をセットした要部構成図であり、同図(a)は斜視図、同図(b)は平面図、同図(c)は同図(a)のX−X線で切断した断面図である。この開口部なしの横置きの支持用治具25は従来使用している治具である。
図9に示ように開口部なしの横置きの支持用治具25を用いた場合では、パージガスである窒素ガス12は導電パターン付絶縁基板7のおもて面7aにのみ通流するので、裏面7b側の脱ガス効果は半減する。しかし、従来のようにAir雰囲気ではなく窒素ガス(N
2)雰囲気で400℃のプレベーク処理を行なうことで部分放電電圧は6.9kV程度(この条件のものは後述の表1には記載していない)となり、後述の表1の(1)の条件に比べて0.4kV程度は上昇する。
【0060】
この部分放電電圧の上昇幅は、縦置きの支持用治具1を用いた場合の表1の(4)の条件での1kVに比べると低い。従って、部分放電電圧を高めるためには、導電パターン付絶縁基板7を
図6に示す横置きの支持用治具1にセットして、導電パターン付絶縁基板7の両面7a,7b(特に、交線箇所11)にパージガスである窒素ガス12が当たって流れるようにするとよい。
【0061】
しかし、前記したように、
図9の開口部なしの横置きの支持用治具25を用いた場合、前記したように(1)の条件より効果があり、また導電パターン付絶縁基板7を凹部26にはめ込んで簡単にセットできるので、作業性がよい。
【0062】
また、サージ電圧は導電パターン9が正極、裏側の金属導体10が負極で発生する頻度が高いため、そのような場合は、
図14の部分放電61および沿面放電62は導電パターン付絶縁基板7のおもて面7a側で多発する。そのため、
図9の開口部なしの支持用治具25を用いて導電パターン付絶縁基板7のおもて面7aにのみにパージガスである窒素ガス12を接触させて通流し、薬品の残渣の熱分解によるガスを除去することは部分放電電圧を高める上で効果がある。
【0063】
つぎに、プレベーク温度と部分放電電圧の関係を実験したのでその結果を説明する。
表1は、プレベーク温度と部分放電電圧の関係を実験した結果である。この表1には従来例および参考例も追記した。
【0064】
【表1】
(1)の条件は、Air雰囲気で導電パターン付絶縁基板7を加熱しない場合、(2)の条件は、Air雰囲気で、導電パターン付絶縁基板7を150℃に加熱した場合、(3)の条件は、Air雰囲気で、導電パターン付絶縁基板7を400℃に加熱した場合、(4)の条件は、N2雰囲気で、導電パターン付絶縁基板7を400℃に加熱した場合である。(1)と(2)の条件は従来例であり、(3)は参考例、(4)は本発明である。また、使用したセラミック板8はAlN基板およびSi
3N
4基板である。
【0065】
表1において、(1)の条件では、部分放電電圧は6.5kV、この電圧が他の条件の基準値になる。(2)の条件では部分放電電圧は6.9kVである。(2)の条件では水分などの表面吸着ガスの除去が行なわれるので部分放電電圧は(1)の条件に対して0.4kV上昇する。
【0066】
また、参考例である(3)の条件では部分放電電圧は6.5kVとなり、(1)の条件と同じである。
エッチング工程で残留した薬品の残渣は熱分解により除去されるが、Air雰囲気で400℃の高温のプリベーク処理で導電パターン付絶縁基板7の金属導体(導電パターン9、裏面の金属導体10)の表面が酸化されて表面荒れを起こす。この荒れた箇所(突起)が核となり電界集中が発生し部分放電電圧を低下させる。
【0067】
また、本発明である(4)の条件では、部分放電電圧が7.5kVまで上昇する。この部分放電電圧の上昇要因を説明する。a)窒素(N
2)ガスにより金属導体(導電パターン9、裏面の金属導体10)の酸化が抑えられ、表面荒れが抑えられること。b)エッチング工程で導電パターン付絶縁基板7に残留した薬品の残渣(苛性ソーダ)が400℃の高温のプレベーク処理で熱分解すること。c)その熱分解で発生したガス(水分と二酸化炭素など)が導電パターン付絶縁基板7を縦置き支持用治具にセットすることで、導電パターン付絶縁基板7の両面7a,7bにパージガスが触れて流れるようになり、熱分解ガスが効果的に除去されること、などが挙げられる。
【0068】
表1によれば、400℃のプリベーク処理を施し、導電パターン付絶縁基板7の配置等を工夫して、その表裏に流通ガス(窒素ガス12などのパージガス)が当たるようにすることによって、部分放電電圧を表1の(1)の条件に対して1.0kV上昇させることができる。
【0069】
前記したように、Air雰囲気で200℃以上のプレベーク温度(表1では400℃)では、金属導体(導電パターン9、裏面の金属導体10)の酸化による劣化が著しく、金属導体の表面の凹凸が大きくなり金属導体の表面が荒れる。そのため、部分放電電圧が低下する((3)の条件では(2)の条件の150℃より0.5kV低下する)。このように、金属導体である導電パターン9の表面の凹凸が酸化による荒れによって大きくなると、導電パターン9とボンディングワイヤの接合強度が低下し、信頼性の低下を招くので望ましくない。
【0070】
図8の分析結果から、プレベーク処理の温度を200℃〜700℃の範囲にするとよい。また、
図8に示されるように、AlN基板のガス発生レートが300℃から立ち上がっているとともに、Si
3N
4基板のガス発生レートの立ち上がりが300℃以上で急勾配となっていることから、より好ましくは300℃〜700℃の範囲にするとよい。
【0071】
さらに好ましくは、AlN基板に対してはプレベーク処理の温度を400℃付近、Si
3N
4基板に対しては400℃付近および600℃付近にすると好適である。つまり、TPD−MS装置で調査して熱分解ガスの発生レートがピークになる温度で不活性雰囲気でプレベーク処理をするとよい。
【0072】
また、200℃未満の低い温度で発生するガスは、表面に吸着した水分などの表面吸着ガスが主体であり、エッチング処理で吸着した薬品の残渣が熱分解によって発生するガスとは異なる。従って、200℃未満のプレベーク温度では、導電パターン付絶縁基板7に吸着した薬品の残渣は熱分解させることができないため、薬品の残渣を除去することはできない。このため、プレベーク温度は少なくとも200℃以上とすることが好適である。
【0073】
一方、プレベーク温度が700℃を超えると、金属導体の酸化の程度が進み導電パターン付絶縁基板7が表面荒れを起こして高い絶縁耐量(高い部分放電電圧)が確保できなくなる。また、
図8から700℃超の高温では薬品の残渣の熱分解によるガスの発生は極めて少なくなるので700℃超に温度を上げてプレベーク処理をする必要性は小さくなる。
<実施例2>
図10は、この発明の第2実施例に係るパワーモジュールの製造方法を説明するプレベーク用加熱装置200の要部構成図であり、この発明の第2実施例に係るパワーモジュールの製造装置の構成を示すものである。
【0074】
図11は、
図10のプレベーク用加熱装置200の加熱炉内にセットされる開口部ありの横置きの支持用治具の要部構成図であり、同図(a)は斜視図、同図(b)は同図(a)のX−X線で切断した断面図である。この開口部ありの横置きの支持用治具31は導電パターン付絶縁基板7を横置き(平ら置き)した状態で支持できる構造となっている。
【0075】
図12は、
図11の開口部ありの横置きの支持用治具31に導電パターン付絶縁基板7をセットした要部構成図であり、同図(a)は斜視図、同図(b)は同図(a)のX−X線で切断した断面図である。
図12(b)には窒素ガス12の流れも示した。
【0076】
ここで、
図10に示されるプレベーク用加熱装置200において、加熱炉15は、上述のように横置きの支持用治具31に横置きしてセットされた導電パターン付け絶縁基板7を内部に収納した状態で、導電パターン付け絶縁基板7を200℃〜700℃の温度範囲で加熱することが可能な構成とされており、上記温度範囲内において、導電パターン付け絶縁基板7を構成する絶縁体の材質などに合わせて設定された温度で加熱を行なうようにしている。さらに、加熱炉15に設けられたガス導入口である入り口20、ガス排出口である出口21、および、不活性ガス供給源であるパージガス用ボンベ(例えば窒素ガスボンベ16)などから構成される炉内雰囲気調整手段により、加熱炉15の内部雰囲気が例えば窒素ガスなど不活性ガスの雰囲気に維持される。
【0077】
実施例1との違いは、加熱炉15内にセットされる
図6に示す縦置きの支持用治具1を
図11に示す開口部ありの横置きの支持用治具31に換え、導電パターン付絶縁基板7を横置きにしてセットした点である。このように開口部ありの横置きの支持用治具31を用いることで、窒素ガス12は導電パターン付絶縁基板7の両面7a,7b(特に、交線箇所11)に触れて流れるようになり、実施例1と同様の効果が得られる。
【0078】
また、ここでは
図11に示す開口部ありの横置きの支持用治具31を上下2段にして加熱炉15内にセットした。他の工程は実施例1と同様である。この開口部ありの横置きの支持用治具31の段数は2段に限るものではない。
【0079】
図11の開口部ありの横置きの支持用治具31には多数の開口部32が設けられている。この開口部32の大きさは導電パターン付絶縁基板7のセラミック板8の外周部より多少小さく形成され、開口部32の外周部は段差部33が形成されている。
【0080】
尚、実施例1では、導電パターン付絶縁基板7は縦置きの支持用治具1に立ってセットされ、実施例2では開口部ありの横置きの支持用治具31に横置きにセットされている。しかし、これに限らず図示しないが、
図11に示す開口部ありの横置きの支持用治具31に導電パターン付絶縁基板7を横置きにセットし、そのまま開口部ありの横置きの支持用治具31を斜めに加熱炉15内にセットしてもよい。
【0081】
前記の実施例1および実施例2に記載したように、導電パターン付絶縁基板7を
図6に示す縦置きの支持用治具1および
図11に示す開口部ありの横置きの支持用治具31にセットすることで、導電パターン付絶縁基板7のおもて面7a、裏面7bの両面(特に、交線箇所11)にパージガスである窒素ガス12を接触させながら流すことができる。それによって、導電パターン付絶縁基板7から発生した熱分解によるガスを効率よく除去(脱ガス)できて、部分放電電圧を高めることができる。また、200℃から700℃の範囲の温度のプレベーク処理で導電パターン付絶縁基板7の金属導体(導電パターン9、裏面の金属導体10)が酸化しないように、窒素ガス12や希ガスなど不活性ガスをパージガスとして用い、このパージガスの流量を前記した値(0.3リットル/min以上)にするとよい。
【0082】
また、前記したように開口部なしの横置き支持用治具25を用いる場合もある。
また、本発明の製造方法を用いることで、従来の絶縁構成部材や構成内容を変更することなく、また、不活性ガスのパージガスと従来の加熱炉を用い、高温でプリベーク処理を行なうだけで部分放電電圧を向上できるので、低コストのパワーモジュールを製造することができる。