特許第6012338号(P6012338)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012338
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】湿式分級装置
(51)【国際特許分類】
   B03B 5/00 20060101AFI20161011BHJP
【FI】
   B03B5/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-185419(P2012-185419)
(22)【出願日】2012年8月24日
(65)【公開番号】特開2014-42868(P2014-42868A)
(43)【公開日】2014年3月13日
【審査請求日】2015年7月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】506326604
【氏名又は名称】株式会社セムテックエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100092727
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 忠昭
(74)【代理人】
【識別番号】100146891
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 ひろ美
(72)【発明者】
【氏名】加藤 隆三
【審査官】 増田 健司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−148254(JP,A)
【文献】 特開2002−333724(JP,A)
【文献】 特開2001−252589(JP,A)
【文献】 特開2010−253461(JP,A)
【文献】 米国特許第3782547(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B03B 5/00
B01F 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中の球状粉体を分級するための分級槽と、前記分級槽にて分級された球状粉体を回収するための回収槽とを備えた湿式分級装置において、
前記分級槽は、球状粉体が混合された混合液体が収容される分級槽本体と、前記分級槽本体内に配設されたフィルタユニットを備え、更に前記分級槽本体には超音波を利用して混合液体を攪拌するための超音波生成手段が設けられ、前記フィルタユニットは、吸引空間を規定するユニットハウジングと、前記ユニットハウジングの吸入側に配設されたフィルタ手段とを有し、前記フィルタ手段は、多数の分級開口が形成された分級フィルタ部材から構成され、前記分級フィルタ部材の各分級開口は略矩形状に形成され、前記分級開口の幅Wは、目的とする分級すべき球状粉体のうち最大の直径を有する粉体の前記最大直径と同一の大きさであり、前記分級開口の長さLは、前記分級開口の幅Wの3〜100倍(3W≦L≦100W)であり、
前記回収槽は、分級された球状粉体を含む分級混合液体を回収するための回収槽本体と、前記回収槽本体内を減圧するための減圧手段とを備え、前記回収槽本体内が前記フィルタユニットの前記吸引空間に回収ラインを介して連通されており、
前記分級槽内の混合液体に含まれる球状粉体は、前記フィルタユニットの前記分級フィルタ部材の前記分級開口により分級され、分級された球状粉体を含む分級混合液体は、前記フィルタユニットの前記吸引空間及び前記回収ラインを通して前記回収槽本体内に回収されることを特徴とする湿式分級装置。
【請求項2】
分級すべき球状粉体の直径は1〜50μmであり、前記分級フィルタ部材の前記分級開口の幅Wは、目的とする分級すべき球状粉体のうち最大の直径を有する粉体の前記最大直径と同一の大きさであり、前記分級開口の長さLは、前記分級開口の幅Wの5〜50倍(5W≦L≦50W)であり、前記分級フィルタ部材の厚さ(T)は20〜80μmであることを特徴とする請求項1に記載の湿式分級装置。
【請求項3】
前記分級フィルタ部材の前記分級開口の幅Wは、目的とする分級すべき球状粉体のうち最大の直径を有する粉体の前記最大直径と同一の大きさであり、前記分級開口の長さLは、前記分級開口の幅Wの6〜20倍(6W≦L≦20W)であり、前記分級フィルタ部材の厚さ(T)は30〜60μmであることを特徴とする請求項2に記載の湿式分級装置。
【請求項4】
前記分級槽本体に設けられる前記超音波生成手段は、第1の周波数の超音波を生成するための第1超音波発生器と、前記第1の周波数よりも小さい第2の周波数の超音波を生成するための第2超音波発生器とを含んでいることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の湿式分級装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体に混合した球状粉体を分級するのに適した湿式分級装置に関する。
【背景技術】
【0002】
湿式分級装置として、分級するための容器と、この容器内に設けられた上整流部及び下整流部とを備え、上整流部及び下整流部によって、容器内が下から順に下部液媒部、中間液媒部及び上部液媒部に規定されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この湿式分級装置では、下部液媒部に粉体供給部が接続され、上部液媒部に粉体回収部が接続され、また中間液媒部に粉体を液体中に混合するための撹拌手段が配設されている。分級すべき粉体は下部液媒部に供給され、かく供給された粉体の液体中における上昇を利用して分級される。即ち、液体に比して比重が大きいものは下方に沈むのに対し、液体に比して比重の小さいものは上方に浮き、また体積の小さいものは浮力が小さくて沈む傾向にあるのに対し、体積の大きなものは浮力が大きくて浮く傾向にあり、このようなことを利用して粉体の分級を行い、下整流部及び上整流部を通して上部液媒部に上昇した粉体が粉体回収部に回収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−101312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した湿式分級装置では、混合液体中の粉体の上昇を利用して分級しているので、分級の効率が非常に悪いという問題がある。また、例えば、液体より比重の大きい粒子の分級には適用することができず、また例えば直径が1〜20μm程度の球状微粉体の分級にも適用が難しいという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、液体中に混合された球状粉体を非常に効率よく分級することができる湿式分級装置を提供することである。
【0007】
また、本発明の他の目的は、直径1〜50μm程度の球状微粉体の分級に好都合に適用することができる湿式分級装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に記載の湿式分級装置は、液体中の球状粉体を分級するための分級槽と、前記分級槽にて分級された球状粉体を回収するための回収槽とを備えた湿式分級装置において、
前記分級槽は、球状粉体が混合された混合液体が収容される分級槽本体と、前記分級槽本体内に配設されたフィルタユニットを備え、前記フィルタユニットは、吸引空間を規定するユニットハウジングと、前記ユニットハウジングの吸入側に配設されたフィルタ手段とを有し、前記フィルタ手段は、多数の分級開口が形成された分級フィルタ部材から構成され、前記分級フィルタ部材の各分級開口は略矩形状に形成され、前記分級開口の幅Wは、分級すべき球状粉体の直径に対応した大きさであり、前記分級開口の長さLは、前記分級開口の幅Wの3〜100倍(3W≦L≦100W)であり、
前記回収槽は、分級された球状粉体を含む分級混合液体を回収するための回収槽本体と、前記回収槽本体内を減圧するための減圧手段とを備え、前記回収槽本体内が前記フィルタユニットの前記吸引空間に回収ラインを介して連通されており、
前記分級槽内の混合液体に含まれる球状粉体は、前記フィルタユニットの前記分級フィルタ部材の前記分級開口により分級され、分級された球状粉体を含む分級混合液体は、前記フィルタユニットの前記吸引空間及び前記回収ラインを通して前記回収槽本体内に回収されることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2に記載の湿式分級装置では、分級すべき球状粉体の直径は1〜50μmであり、前記分級フィルタ部材の前記分級開口の幅Wは、分級すべき球状粉体の直径に対応した大きさであり、前記分級開口の長さLは、前記分級開口の幅Wの5〜50倍(5W≦L≦50W)であり、前記分級フィルタ部材の厚さ(T)は20〜80μmであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項3に記載の湿式分級装置では、前記分級フィルタ部材の前記分級開口の幅Wは、分級すべき球状粉体の直径に対応した大きさであり、前記分級開口の長さLは、前記分級開口の幅Wの6〜20倍(6W≦L≦20W)であり、前記分級フィルタ部材の厚さ(T)は30〜60μmであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項4に記載の湿式分級装置では、前記分級槽本体には、超音波を利用して混合液体を攪拌するための超音波生成手段が設けられ、前記超音波生成手段は、第1の周波数の超音波を生成するための第1超音波発生器と、前記第1の周波数よりも小さい第2の周波数の超音波を生成するための第2超音波発生器とを含んでいることを特徴とする。
【0012】
更に、本発明の請求項5に記載の湿式分級装置では、前記ユニットハウジングの吸入開口部と、前記吸入開口部に取り付けられる前記分級フィルタ部材との間には、前記多数の分級開口に対応して、これら分級開口より大きい通過開口が形成された補強フィルタ部材が介在されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の請求項1に記載の湿式分級装置によれば、分級槽は、球状粉体が混合された混合液体が収容される分級槽本体と、分級槽本体内に配設されたフィルタユニットを備え、このフィルタユニットは、吸引空間を規定するユニットハウジングと、ユニットハウジングの吸入側に配設されたフィルタ手段とを有し、回収槽本体内が回収ラインを介してフィルタユニットの吸引空間に連通しているので、減圧手段による吸引力がフィルタユニットの吸引空間に作用し、この吸引力によって所望大きさの球状粉体は、液体とともに分級フィルタ部材の分級開口を通過して回収槽本体内に回収され、かくして、液体に混合された球状粉体を所要の通りに分級することができる。
【0014】
また、分級フィルタ部材の各分級開口は略矩形状に形成され、分級開口の幅Wは、分級すべき球状粉体の直径に対応した大きさであり、その長さLは、分級開口の幅Wの3〜100倍(3W≦L≦100W)であるので、これら分級開口を通して所望大きさの球状粉体が一度に複数通過することができ、これにより、液体に混合された球状粉体の分級を非常に効率良く行うことができる。尚、分級開口の長さ比(L/W)が大きくなるほど分級効率が高くなるが、分級開口の長さが長くなるために分級フィルタの強度が弱くなる。
【0015】
分級すべき球状粉体の材質については、例えば構成樹脂から形成されたもの、金属又は合金から形成されたものなどであり、また球状粉体の形状については、真球状乃至ほぼ真球状のもの(例えば、樹脂製の球状粉体)のみならず、楕円状のもの、表面に凹凸が存在するが全体の外形として球状乃至楕円状のもの(例えば、微細な研磨材、粉砕した金属、粉砕したセラミックなど)を含むが、高精度の分級を行う場合には、真球状乃至ほぼ真球状のものであるのが望ましい。
【0016】
また、本発明の請求項2に記載の湿式分級装置によれば、分級フィルタ部材の分級開口の幅Wは、分級すべき球状粉体の直径に対応した大きさであり、分級開口の長さLは、その幅Wの5〜50倍(5W≦L≦50W)であるので、直径が1〜50μmである球状粉体を非常に効率良く分級することができる。また、分級フィルタ部材の厚さ(T)が20〜80μmであるので、減圧手段による吸引力が作用しても分級フィルタ部材が弾性変形することがほとんどなく、吸引力を利用して1〜50μmの球状粉体、好ましくは3〜20μmの球状粉体を精度良く分級することができる。
【0017】
また、本発明の請求項3に記載の湿式分級装置によれば、分級フィルタ部材の分級開口の幅Wは、分級すべき球状粉体の直径に対応した大きさであり、その長さLは、分級開口の幅Wの6〜20倍(6W≦L≦20W)であり、また分級フィルタ部材の厚さ(T)は30〜60μmであるので、分級フィルタ部材の厚さを厚くすることなく、球状粉体を精度良く分級することができる。
【0018】
また、本発明の請求項4に記載の湿式分級装置によれば、混合液体を攪拌するための超音波生成手段が第1の周波数の超音波を生成するための第1超音波発生器と、第2の周波数の超音波を生成するための第2超音波発生器とを含んでいるので、超音波振動によって分級槽本体の底壁に混合液体中の球状粉体が沈殿することが抑えられ、混合液体中の球状粉体を所要の通りに分級することができる。
【0019】
更に、本発明の請求項5に記載の湿式分級装置によれば、ユニットハウジングの吸入開口部と、分級フィルタ部材との間に補強フィルタ部材が介在されているので、減圧手段の減圧作用による分級フィルタ部材の弾性変形を抑えることができ、これによって、精度の高い分級を行うことができる。また、補強フィルタ部材には、分級開口より大きい通過開口が形成されているので、分級フィルタ部材によって分級された球状粉体を、補強フィルタ部材の通過開口を通して回収槽本体内に所要の通りに回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に従う湿式分級装置の一実施形態を示す簡略断面図。
図2図1の湿式分級装置におけるフィルタユニットを示す断面図。
図3図1の湿式分級装置における分級フィルタ部材を示す平面図。
図4図3の分級フィルタ部材の一部を拡大して示す部分拡大平面図。
図5】分級フィルタ部材の変形形態の一部を示す部分拡大平面図。
図6】球状粉体が分級フィルタ部材の分級開口を通過するときの状態を説明するための説明図。
図7図1の湿式分級装置における超音波生成手段及びこれに関連する構成を示す簡略図。
図8図8(a)〜(c)は、分級フィルタ部材の製造方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明に従う湿式分級装置の一実施形態について説明する。図1において、図示の湿式分級装置は、分級すべき球状粉体が混合された混合液体を供給するための混合液体供給槽2と、混合液体中の球状粉体を分級するための分級槽4と、分級槽4にて分級された粉体を含む分級混合液体を回収するための回収槽6とを備えている。
【0022】
図示の混合液体供給槽2は供給槽本体8を備え、この供給槽本体8に分級すべき球状粉体P(図6参照)を含む液体L(即ち、混合液体)が収容される。この混合液体は、例えば、供給槽本体8内に液体を充填した後球状粉体を入れて撹拌混合して生成される。尚、図示していないが、この供給槽本体8内に撹拌手段を配設し、この撹拌手段によって混合液体を混合するようにしてもよい。
【0023】
図示の分級槽4は、分級槽本体10を備え、この分級槽本体10内に分級すべき球状粉体Pが混合された混合液体Lが収容される。この分級槽本体10内には、混合液体中の球状粉体Pを分級するためのフィルタユニット12が配設されるとともに、分級槽4に関連して、超音波を生成する超音波生成手段14(図7も参照)が配設されている。
【0024】
図2をも参照して、フィルタユニット12は、吸引空間16を規定するユニットハウジング18を備えている。ユニットハウジング18は、円形状の上壁20と、この上壁20の周縁部から下方に延びる周側壁22とを有し、これら上壁20及び周側壁22によって、下面が解放された吸引空間16を規定する。このユニットハウジング18の吸入開口部には、球状粉体Pを分級するためのフィルタ手段24が着脱自在に取り付けられている。フィルタ手段24は板状の分級フィルタ部材26から構成され、外周部に設けられたリング状部28と、このリング状部の径方向内側のメッシュ部30とを有し、このメッシュ部30が、球状粉体Pを分級する分級領域32となり、このメッシュ部30(即ち、分級領域32)に、多数の小さな分級開口34(図3図4参照)が設けられている。これら分級開口34及びこれらに関連する構成については、後述する。
【0025】
この分級フィルタ部材26のリング状部28は、取付ボルト36を用いてリング状の取付押圧リング(図示せず)をユニットハウジング18の周側壁22に装着することによって、この周側壁22と取付押圧リングとの間に挟持され、このようにしてフィルタ手段24はユニットハウジング18に着脱自在に装着される。尚、分級フィルタ部材26の製造方法については、後述する。
【0026】
図3及び図4を参照して、分級フィルタ部材26の分級開口34について説明すると、これら分級開口34は、メッシュ部30(即ち、分級領域32)の実質上全域にわたって多数設けられ、図3において上下方向及び横方向に間隔をおいて配置されている。例えば、分級フィルタ部材26が円形状である場合、直径D1が例えば80〜85mm程度の大きさに形成され、この場合、メッシュ部30(即ち、分級領域32)の大きさは、直径D2が例えば70〜75mm程度に形成される。この分級フィルタ部材26の大きさ、またメッシュ部30の大きさは、分級能力などに応じて適宜の大きさに設定される。
【0027】
各分級開口34は略矩形状の実質上同じ大きさであり、その幅W(図4)は、分級する球状粉体Pの大きさに対応する大きさであり、例えば5μmの球状粉体P(即ち、直径5μmの粉体)を分級する場合、その幅Wは5μmとなる。また、分級開口34の長さL(図4)は、例えばその幅Wの3〜100倍(3W≦L≦100W)であり、例えば5μmの球状粉体Pを分級する場合、その長さLは15〜500μmとなる。分級開口34の長さLがその幅Wの3倍より小さい(L<3W)と、その幅Wに対する長さLの比率が小さくなって球状粉体Pの通過効率が低く、球状粉体Pを効率良く分級するのが難しくなり、またその長さLがその幅Wの100倍を超える(100W<L)と、後述の吸引力による分級フィルタ部材26の弾性変形に伴い分級開口34の大きさが変わるおそれがあり、精度の高い分級が難しくなる。
【0028】
この分級開口34の長さLは、より精度の高い分級を行うために、その幅Wの5〜50倍(5W≦L≦50W)であるのが好ましく、その幅Wの6〜20倍(6W≦L≦20W)であるのが更に好ましい。この実施形態では、図4に示すように、分級開口34の長さLは、その幅Wの10倍(L=10W)に設定されている。尚、分級フィルタ部材26Aに設けられる分級開口34Aは、図5に示すように、その長さLは、その幅Wの6倍(L=6W)に設定しても同様の優れた分級能力(即ち、優れた分級効率及び優れた分級精度)を発揮することができる。
【0029】
このような分級開口34(34A)を有する分級フィルタ部材26(26A)では、球状粉体Pの分級は分級開口34(34A)の幅Wでもって規制され、従って、この幅Wより大きい球状粉体Pは、分級開口34(34A)の長さLが長くても通過することができず、この幅Wと同一又はこれより小さい球状粉体Pが分級開口34(34A)を通過して分級される。
【0030】
上述した分級開口34(34A)では、図6から理解されるように、分級開口34(34A)の長さ方向(図6において左右方向)においては、複数個の球状粉体Pが同時に通過可能となり、その長さLが長くなるほど同時に通過し得る許容個数が増え、このような細長い分級開口34(34A)を採用することによって、精度の高い分級を維持しながら分級効率を高めることができ、長さLが長いほど分級効率をより高めることができる。
【0031】
このような分級開口34(34A)を用いた分級を行うには、分級すべき粉体が球状であることが重要であり、この球状とは、真球状乃至ほぼ真球状のみならず、球状に近い楕円状などであり、更には表面に凹凸が存在するが外形全体として球状乃至楕円状なども含む概念で使用している。
【0032】
次に、図1とともに図7を参照して超音波生成手段14について説明する。図示の超音波生成手段14は、第1の周波数(例えば、30〜100kHz程度の周波数)の超音波を発生する第1超音波発生器40と、第1の周波数より低い第2の周波数(例えば、20〜80kHz程度の周波数)の超音波を発生する第2超音波発生器42とを含んでいる。この形態では、第1及び第2超音波発生器40,42は、分級槽本体10の底壁44(図1参照)の外面に配設され、比較的大きい周波数の超音波を発生する第1超音波発生器40については、この底壁44の周縁部に周方向に実質上等間隔(例えば、α=120度の角度間隔)をおいて3つ配設され、比較的周波数の小さい超音波を発生する第2超音波発生器42については、この底壁44の中央部に一つ配設され、これら第1及び第2超音波発生器40,42が底カバー46により覆われている。
【0033】
第1超音波発生器40のみを配設したときには、底壁44に付与される振動数が一定となるので、混合液体L中の球状粉体は隣接する第1超音波発生器40間に集まる傾向にあるが、この第1超音波発生器40に加えて振動数の異なる第2超音波発生器42を配設することによって、上述したような球状粉体の集まる傾向が解消され、混合液体Lを撹拌して球状粉体Pの沈殿を抑えることができ、これによって、分級の際の粉体の回収率を高めることができる。
【0034】
この実施形態では、第1超音波発生器40を三つ、第2超音波発生器42を一つ設けているが、第1及び第2超音波発生器40,42の個数、その配設部位については適宜に設定することができ、また第1及び第2超音波発生器40,42により付与される超音波振動の周波数いついても適宜に設定することができる。
【0035】
図1に戻って、回収槽6は、回収槽本体48を備え、この回収槽本体48の上面開口が蓋体50により密閉され、回収槽本体48及び蓋体50は、分級された分級混合液体を収容するための密封回収空間52を規定する。この回収槽本体48の回収空間52と分級槽4のフィルタユニット12の吸引空間16とが回収ライン54を介して接続され、フィルタユニット12にて分級された球状粉体Pを含む分級混合液体Lは、この回収ライン54を通して回収槽本体48内に回収される。
【0036】
この回収槽本体48に関連して、密封回収空間52を減圧するための減圧手段56が配設され、この減圧手段56は、例えば真空ポンプから構成される。回収槽6の密封回収空間52と減圧手段56の吸入側とは減圧ライン58を介して接続され、この減圧手段58の排出側が排出ライン60を介して大気中に開放されている。このように構成されているので、減圧手段56が作動すると、回収槽6の回収空間52が減圧され、かかる減圧が回収ライン54を介してフィルタユニット12の吸引空間16に作用し、この減圧作用(即ち、減圧による吸引作用)を利用して分級槽本体10内の混合液体Lがユニットハウジング18の吸引開口を通して吸引され、かかる吸引の際に、混合液体Lに含まれた球状粉体Pがフィルタ手段24の分級フィルタ部材26によって分級され、分級された球状粉体Pを含む分級混合液体Lが、フィルタユニット12の吸引空間16及び回収ライン54を通して回収槽本体48内に回収される。
【0037】
このような構成に関連して、次のように構成するのが好ましい。即ち、フィルタユニット12のフィルタ手段24が分級槽本体10の底壁44に対向するように配置するのが望ましく、このように配置することによって、分級槽本体10内の混合液体Lは、底壁44側から上方に吸い上げられるようになり、従って、混合液体L中の大きい粉体は、フィルタ手段24のメッシュ部30を通過することなく、その自重によって下方に沈殿するようになり、これによって、大きい球状粉体Pによる分級開口34への目詰まりを効果的に抑えることができる。
【0038】
この形態では、分級槽4におけるフィルタユニット12への球状粉体Pの沈殿を抑えるために、循環撹拌ライン62が設けられている。循環撹拌ライン62の一端側は分級槽本体10の底部に連通され、その他端側はフィルタユニット12のユニットハウジング18の上壁20の上方に配設されている。図示の例では、循環撹拌ライン62の他端側は二つに分岐されており、一方の分岐ライン64は、ユニットハウジング18の上壁20の片側(図1において右側)上方に配設され、他方の分岐ライン66は、その上壁20の他側(図1において左側)上方に配設されている。この循環撹拌ライン62には、循環ポンプ68が配設されている。このように構成されているので、循環ポンプ68が作動すると、分級槽本体10の底部の混合液体Lが、循環撹拌ライン62を通して一対の分岐ライン64,66からユニットハウジング18の上壁20上に流れ、かかる混合液体Lの流れによってこの上壁20に沈殿した球状粉体Pが混合液体Lに混合され、これによって、分級の際の球状粉体Pの回収率を一層高めることができる。
【0039】
混合液体供給槽2と分級槽4とは、混合液体供給ライン70を介して接続されている。この形態では、混合液体供給ライン70の一端側は供給槽本体8の底部に連通され、その他端側が分級槽本体10の底部に配設され、この混合液体供給ライン70に供給ポンプ72が配設されている。このように構成されているので、供給ポンプ72が作動すると、供給槽本体8内の混合液体Lが液体供給ライン70を通して分級槽本体10に供給される。
【0040】
この形態では、供給ポンプ72の作用によって混合液体Lを分級槽本体10に供給しているが、このような構成に代えて、例えば混合液体供給槽2を分級槽4よりも上方に配置し、混合液体Lの自重を利用して混合液体供給ライン70を通して分級槽本体10に供給するようにしてもよい。
【0041】
また、この形態では、混合液体供給槽2に混合液体Lを収容し、この混合液体Lを混合液体供給ライン70を通して分級槽4に供給するようにしているが、このような構成に代えて、分級槽4の分級槽本体10に液体を供給するとともに、この分級槽本体10内の液体に分級すべき球状粉体Pを供給し、分級槽本体10内でこれら液体及び球状粉体Pを撹拌混合して混合液体Lを生成し、このように生成した混合液体Lに含まれる球状粉体Pをフィルタユニット12で分級するようにしてもよい。
【0042】
次に、主として図8(a)〜(c)を参照して、分級フィルタ部材26の製造方法の一例について説明する。まず、図8(a)で示すように、例えば、ステンレス鋼から形成される基板82の表面に、分級開口34に対応するレジスト支柱84を形成する。このレジスト支柱84の形成は、それ自体周知のフォトリソグラフィ技術を用いて形成することができる。即ち、基板82の表面にレジスト86(このレジスト86の厚さがレジスト支柱84に高さHとなる)を塗布し、このレジスト86の表面にマスクを密着させて露光を行い、その後、この基板82を現像液に浸して余分な部分のレジストを除去し、このようにして基板82の表面に所望のレジスト支柱84を形成する。
【0043】
そして、この基板82を電鋳槽に浸してそれ自体周知のエレクトロフォーミング処理(所謂、電鋳処理)を施して、図8(b)で示すように、基板82の表面に金属を析出させてエレクトロフォーミング層88を形成する。このとき、レジスト86に覆われた部分には金属は析出せず、基板82の表面が露出している部分に金属が析出し、析出した金属はレジスト支柱84に沿って上方に成長し、このようにしてエレクトロフォーミング層88が形成される。
【0044】
その後、図8(c)で示すように、形成されたエレクトロフォーミング層88から基板82及びレジスト支柱84を矢印90で示す方向に押して抜き出し、このようにして分離したプレート状のエレクトロフォーミング層88が分級フィルタ部材26となり、レジスト支柱84に対応した貫通孔が、分級フィルタ部材26のメッシュ部30の分級開口34となる。
【0045】
このようなエレクトロフォーミング処理を用いると、充分な厚さの分級フィルタ部材26を形成することができ、超音波生成手段14(第1及び第2超音波発生器40,42)からの超音波が作用しても破損などすることなく、充分な強度を確保することができる。
【0046】
この分級フィルタ部材26の厚さh(図8参照)は、20〜80μmであるのが好ましく、30〜60μmであるのが更に好ましい。分級フィルタ部材26の板厚hが20μmより薄くなると、その強度が弱くなって破損し易くなり、また減圧手段56による吸引力によって分級フィルタ部材26が弾性変形して精度の高い分級が難しくなる。また、その板厚hが80μmを超えると、強度的な問題はなくなるが、その製作に時間を要し、製作コストが高くなる。
【0047】
このエレクトロフォーミング処理を用いて例えば、分級開口34の幅W:5μm、その長さL:50μmの分級開口34を備えた分級フィルタ部材26を製作しようとすると、基板82の表面に、例えば70μm程度の厚さのレジスト86を塗布してレジスト支柱84を形成し、そして、エレクトロフォーミング処理により金属の析出を厚さ50μmまで成長させればよく、このようにすることによって容易に製作することができる。また、このようなエレクトロフォーミング処理を用いると充分な強度を確保することができ、例えば分級開口34の幅W:5μmのものであればピッチP(隣接する分級開口34の間隔)が15〜20μmのものでも容易に製作することができ、このように製作した分級フィルタ部材26では開口率を高めることができる。また、例えば分級開口34の幅W:10μmのものであればピッチが20〜25μmのもの、また例えば分級開口34の幅W:15μmのもであればピッチPが25〜30μmのものでも容易に製作することができる。
【0048】
尚、分級フィルタ部材26の分級開口34の幅Wは、分級すべき球状粉体Pの直径対応した大きさとなるが、その長さL、隣接する分級開口34間のピッチP、分級フィルタ部材26の厚さhなどは、分級すべき球状粉体Pの大きさなどに応じて適宜設定することができる。
【0049】
この湿式分級装置は、1〜50μm程度の粒径(球状粉体Pの直径)、特に3〜20μm程度の粒径を有する球状粉体の分級に好都合に適用することができ、このような球状粉体Pの分級を非常に効率良く行うことができる。また、球状粉体Pを混合する液体として水、アルコール(例えば、エチルアルコール)などを用いることができ、球状粉体Pとの関連で適宜のものを選択することができる。
【0050】
次に、図1図3とともに、図7を参照して、上述した湿式分級装置による球状粉体Pの分級について説明する。球状粉体Pの分級を行うには、混合液体供給槽2に液体を充填した後に、この液体内に分級すべき球状粉体Pを加え、液体及び球状粉体Pを撹拌して混合液体Lを生成する。
【0051】
そして、混合液体供給槽2から混合液体Lを分級槽4に供給して球状粉体Pの分級を行う。即ち、供給ポンプ72が作動され、混合液体供給槽2内の混合液体Lが混合液体供給ライン70を通して分級槽4に供給され、この分級槽4にて、供給された混合液体Lに含まれた球状粉体Pの分級が行われる。
【0052】
球状粉体Pの分級時には、減圧手段56が作動されるとともに、超音波生成手段14及び循環ポンプ68が作動され、混合液体L中の球状粉体Pの分級が効率よく行われる。減圧手段56が作動すると、回収槽6内が減圧状態に保たれ、この減圧状態が回収ライン54を介してフィルタユニット12の吸引空間16に作用し、これによって、分級槽4内の混合液体Lが分級フィルタ部材26の分級開口34を通過して吸引空間16に流入し、この流入の際に、混合液体Lに含まれた球状粉体Pの分級が行われる。分級された球状粉体Pを含む分級混合液体Lは、回収ライン54を通して回収槽6に回収される。
【0053】
また、超音波生成手段14(即ち、第1及び第2超音波発生器40,42)が作動すると、分級槽本体10の底壁44に2種類の超音波振動が付与され、これによって、分級槽本体10内の混合液体Lが撹拌混合され、混合液体L中の球状粉体Pの底壁44への沈殿を抑えて球状粉体Pを分級することができる。また、循環ポンプ68が作動すると、分級槽本体10の底部の混合液体Lが循環ライン62を通してフィルタユニット12のユニットハウジング18の上壁20に上面に送給され、かかる混合液体Lの循環によってユニットハウジング18の上壁20の上方の混合液体Lが混合され、混合液体L中の球状粉体Pの上壁20上への沈殿を抑えて球状粉体Pを分級することができる。
【0054】
図1図4及び図7に示す湿式分級装置の性能を確認するために、分級性能の確認実験を行った。この実験に用いた球状粉体Pの粒径は5μmであり、液体としての水に混合して湿式分級を行った。球状粉体Pを分級する分級フィルタ部材の大きさなどは、次の通りであった。
【0055】
分級フィルタ部材の外径:83mm
分級フィルタ部材の分級領域(分級開口が設けられている領域)の直径:73mm
分級フィルタ部材の板厚h:約50μm
分級開口の形状:細長い矩形状
分級開口の幅W:5μm
分級開口の長さ:50μm(分級開口の幅Wの10倍)
分級開口のピッチ:15μm
上述した分級フィルタ部材を用いて球状粉体を分級したところ、約230g/分と200g/分を超える割合で球状粉体Pの分級を行うことができた。
【0056】
比較のために、分級フィルタ部材として次の大きさなどのものを用いて分級実験を行った。球状粉体及び液体としては上述の実験と同じものを用い、湿式分級装置も同じものを用い、分級フィルタ部材のみを交換して用いて同様にして実験を行った。
【0057】
分級フィルタ部材の外径:83mm
分級フィルタ部材の分級領域の直径:73mm
分級フィルタ部材の板厚h:約50μm
分級開口の形状:正方形
分級開口の一辺の大きさ:5μm
分級開口のピッチ:15μm
この分級フィルタ部材を用いて球状粉体を分級したところ、約3g/分との割合でしか分級することができなかった。
【0058】
上述した実験結果から、本発明を適用した湿式分級装置(細長い矩形状の分級開口を備えた分級フィルタ部材を用いたもの)では、正方形状の分級開口を備えた分級フィルタ部材を用いたものに比して約70倍ほど分級性能が高いことが確認できた。
【0059】
以上、本発明に従う湿式分級装置の一実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変更乃至修正が可能である。
【0060】
例えば、上述した実施形態では、分級フィルタ部材26(26A)の各分級開口34(34A)の形状を細長い矩形状にしているが、このような形状に限定されず、各分級開口34(34A)の両端部の形状を半円状にしてもよい。
【0061】
また、例えば、上述した実施形態では、超音波生成手段14を発生周波数の異なる2種の超音波発生器(即ち、第1及び第2超音波発生器40,42)から構成しているが、この超音波生成手段を発生周波数の異なる3種以上の超音波発生器から構成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0062】
2 混合液体供給槽
4 分級槽
6 回収槽
10 分級槽本体
12 フィルタユニット
14 超音波生成手段
18 ユニットハウジング
24 フィルタ手段
26,26A 分級フィルタ部材
32 分級領域
34,34A 分級開口
40 第1超音波発生器
42 第2超音波発生器
54 回収ライン
56 減圧手段
L 混合液体
P 球状粉体


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8