特許第6012346号(P6012346)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6012346トンネル覆工工法およびトンネル覆工装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012346
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】トンネル覆工工法およびトンネル覆工装置
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/04 20060101AFI20161011BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20161011BHJP
   E21D 11/40 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   E21D11/04 Z
   E21D11/10 Z
   E21D11/40 Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-195106(P2012-195106)
(22)【出願日】2012年9月5日
(65)【公開番号】特開2014-51786(P2014-51786A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山地 宏志
(72)【発明者】
【氏名】柳田 利行
(72)【発明者】
【氏名】西海 康弘
(72)【発明者】
【氏名】仁藤 徹也
【審査官】 桐山 愛世
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−292790(JP,A)
【文献】 特開平03−093999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00−19/06
E21D 23/00−23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの少なくとも天頂部を覆工するトンネル覆工工法であって、
断面視で周方向に2つに分割され、前記トンネルの少なくとも天頂面を覆う覆工部材を構成する一対のセグメントを用意するステップと、
前記一対のセグメントを蝶番で連結するとともに、当該蝶番により連結された一対のセグメントの幅を固定手段により固定し、さらに前記一対のセグメントの左右の下端に車輪を取付けるステップと、
前記一対のセグメントを車輪走行させて前記トンネル内に搬入するステップと、
前記トンネル内に搬入された一対のセグメントを、前記固定手段による固定を解除して所定の位置に設置するステップと
前記所定の位置に設置された一対のセグメントに対し、前記固定手段の固着に供した孔を利用して裏込め注入を行うステップと
を含むことを特徴とするトンネル覆工工法。
【請求項2】
前記一対のセグメントを用意するステップでは、前記一対のセグメントを複数スパン分用意し、
前記トンネル内に搬入した一対のセグメントから前記固定手段と前記車輪との少なくとも一方を撤去して前記トンネル外に搬出するステップを更に含み、
先に前記トンネル内に搬入した一対のセグメントから前記固定手段と前記車輪との少なくとも一方を前記トンネル外に搬出する前に、次のスパンの一対のセグメントを前記トンネル内に搬入することを特徴とする、請求項1に記載のトンネル覆工工法。
【請求項3】
トンネルの少なくとも天頂部を覆工するためのトンネル覆工装置であって、
断面視で周方向に2つに分割され、前記トンネルの少なくとも天頂面を覆う覆工部材を構成する一対のセグメントと、
前記一対のセグメントを連結する蝶番と、
前記蝶番により連結された一対のセグメントの幅を固定する固定手段と、
前記一対のセグメントの左右の下端に取付けられる車輪と
を有し、
前記一対のセグメントには、雌ねじが少なくとも左右に一対に形成され、
前記固定手段が、前記左右の雌ねじに螺合する雄ねじを有する一対の固着部材と、当該一対の固着部材を伸縮自在に連結する連結部材とを有し、
前記雌ねじが裏込め注入に供されるグラウトホールに形成されたことを特徴とするトンネル覆工装置。
【請求項4】
トンネルの少なくとも天頂部を覆工するためのトンネル覆工装置であって、
断面視で周方向に2つに分割され、前記トンネルの少なくとも天頂面を覆う覆工部材を構成する一対のセグメントと、
前記一対のセグメントを連結する蝶番と、
前記蝶番により連結された一対のセグメントの幅を固定する固定手段と、
前記一対のセグメントの左右の下端に取付けられる車輪と
を有し、
前記一対のセグメントの下端には、その内面に開口し且つ雌ねじが形成された有底孔が形成され、
前記車輪が、前記有底孔の雌ねじに螺合する軸部材と、当該軸部材に回転可能に取付けられたウレタン樹脂製のホイールとを有することを特徴とするトンネル覆工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内面にライニング材を設置してトンネルを覆工するトンネル覆工工法、およびこのようなトンネル覆工工法に用いるトンネル覆工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トンネル新設工事や既設トンネルの補修工事などにおいて、プレキャストコンクリートや鋼板からなるセグメントによってトンネル内面を覆工(ライニング)する工法が開発されている。この覆工工法では、トンネル断面の周方向に分割した複数のセグメントで1スパン分の覆工部材を構成するようにしており、工場で製作したセグメントをトンネル内に搬入し、搬入したセグメントを組立てて裏込め材を注入するだけでよいため、覆工部材の品質の安定化や工期の短縮を図ることができる。
【0003】
小断面のトンネルでは、左右一対のセグメントで1スパンの覆工部材を構成させることがあり、このような場合には、一対のセグメントを蝶番で連結してトンネル断面よりも幅狭にした状態で運搬台車に搭載して運搬し、運搬台車に設けてあるジャッキなどで一対のセグメントを上昇および展開させて所定の位置に設置する工法やそのための運搬台車が知られている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−10100号公報
【特許文献2】特開2006−188856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような運搬台車は高価であり、延長の短いトンネルに用いると工事費を大幅に吊上げる。一方、延長の長いトンネルに運搬台車に用いた場合、運搬台車による工事費の上昇率は小さくなるが、運搬台車を走行させる距離が長くなるため、工事の進捗速度を低下させる。そのため、セグメントの運搬効率を改善して工事の進捗速度を高めることが望まれる。また、工事の進捗速度は、セグメントの運搬効率ばかりでなく、運搬台車の搬入・組立および解体・搬出に要する時間にも影響を受ける。特に、既設トンネルの補修工事においてトンネルを閉鎖できる期間が限られている場合には、運搬台車の搬入および搬出に要する時間分だけセグメントの運搬・組立時間が短縮するため、施工可能なスパン数が減少する。そのため運搬台車を簡易な構成にして運搬台車の搬入および搬出に要する時間を短縮することが望まれる。
【0006】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、工事費を削減でき、工事の進捗速度を高めることのできるトンネル覆工工法およびトンネル覆工装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一側面によれば、トンネル(1)の少なくとも天頂部を覆工するトンネル覆工工法であって、断面視で周方向に2つに分割され、前記トンネルの少なくとも天頂面(1t)を覆う覆工部材(3)を構成する一対のセグメント(5・5)を用意するステップ(ST1)と、前記一対のセグメントを蝶番(15)で連結するとともに、当該蝶番により連結された一対のセグメントの幅を固定手段(16)により固定し、さらに前記一対のセグメントの左右の下端に車輪(20)を取付けるステップ(ST12)と、前記一対のセグメントを車輪走行させて前記トンネル内に搬入するステップ(ST13)と、前記トンネル内に搬入された一対のセグメントを、前記固定手段による固定を解除して所定の位置に設置するステップ(ST14)とを含む構成とする。
【0008】
トンネル覆工工法をこのような構成とすることにより、従来の運搬台車に代えて車輪と固定手段を用いるだけで一対のセグメントをトンネル内で運搬することができ、工事費を大幅に削減できる。また、運搬台車を用いないため、運搬台車部品の搬入・組立作業や運搬台車の解体・搬出作業に要する時間分だけ工期を短縮することができる。さらに、車輪や固定手段を複数セット用意すれば、先に搬入したセグメントの設置が完了する前であっても次のスパンのセグメントをトンネル内に搬入できるため、セグメントの搬入・設置にかかる工期も大幅に短縮できる。
【0009】
また、本発明の一側面によれば、前記一対のセグメントを用意するステップでは、前記一対のセグメントを複数スパン分用意し、前記トンネル内に搬入した一対のセグメントから前記固定手段(16)と前記車輪(20)との少なくとも一方を撤去して前記トンネル外に搬出するステップ(ST15、ST16)を更に含み、先に前記トンネル内に搬入した一対のセグメントから前記固定手段と前記車輪との少なくとも一方を前記トンネル外に搬出する前に、次のスパンの一対のセグメントを前記トンネル内に搬入する(CASE2、CASE2’)構成とすることができる。
【0010】
この構成によれば、従来も転用可能であった蝶番のみならず、固定手段および車輪をも転用することにより、工事費をより削減できるうえ、車輪および固定手段を複数セット用意するだけで、セグメントの運搬時間の長短が工事の進捗速度あるいは工期に与える影響を排除できる。
【0011】
また、本発明の一側面によれば、前記トンネル覆工工法において、前記所定の位置に設置された一対のセグメントに対し、前記固定手段(16)の前記セグメントへの固着に供した孔(12)を利用して裏込め注入を行うステップ(ST4’)を更に含む構成とすることができる。
【0012】
この構成によれば、裏込め注入用にセグメントに工作した孔を固定手段の固着に利用できるため、セグメントの製作費の上昇を回避でき、工事費をより削減することができる。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明の一側面によれば、トンネル(1)の少なくとも天頂部を覆工するためのトンネル覆工装置であって、断面視で周方向に2つに分割され、前記トンネルの少なくとも天頂面(1t)を覆う覆工部材(3)を構成する一対のセグメント(5・5)と、前記一対のセグメントを連結する蝶番(15)と、前記蝶番により連結された一対のセグメントの幅を固定する固定手段(16)と、前記一対のセグメントの左右の下端に取付けられる車輪(20)とを有する構成とする。
【0014】
トンネル覆工装置をこのような構成とすることにより、一対のセグメントを仮組した状態でトンネル内を運搬でき、セグメントを運搬するために作られる大掛かりな運搬台車を用いる必要がないため、工事費を大幅に削減することができる。また、車輪や固定手段を複数セット用意すれば、先に搬入したセグメントの設置が完了する前であっても次のスパンのセグメントをトンネル内に搬入できるため、工期を大幅に短縮することができる。
【0015】
また、本発明の一側面によれば、前記トンネル覆工装置において、前記一対のセグメントには、雌ねじが少なくとも左右に一対に形成され(13)、前記固定手段(16)が、前記左右の雌ねじに螺合する雄ねじを有する一対の固着部材(17)と、当該一対の固着部材を伸縮自在に連結する連結部材(18)とを有する構成とすることができる。
【0016】
この構成によれば、一対のセグメントの幅を容易に変更することができるため、セグメントの運搬走行を安定させることに加え、セグメントの設置作業を容易にすることができる。また、固定手段の設置位置を、伸縮操作しやすい位置にすることができ、一対のセグメントの幅を変更する作業を効率的にすることもできる。
【0017】
また、本発明の一側面によれば、前記トンネル覆工装置において、前記雌ねじが裏込め注入に供されるグラウトホール(12)に形成された構成とすることができる。
【0018】
この構成によれば、裏込め注入用にセグメントに工作したグラウトホールを固定手段の固着に利用できるため、セグメントの製作費の上昇を回避でき、より工事費を削減することができる。
【0019】
また、本発明の一側面によれば、前記トンネル覆工装置において、前記一対のセグメントの下端には、その内面に開口し且つ雌ねじが形成された有底孔が形成され(14)、前記車輪(20)が、前記有底孔の雌ねじに螺合する軸部材(21)と、当該軸部材に回転可能に取付けられたウレタン樹脂製のホイール(22)とを有する構成とすることができる。
【0020】
この構成によれば、車輪の着脱を容易にできるうえ、運搬中に車輪がトンネル内面にひっかかることを防止できるため、運搬をより容易にすることができる。また、ホイールをウレタン樹脂製とすることにより、トンネルの底面に不陸があっても、セグメントを所望の方向に走行させ易くなり、これによっても運搬をより容易にすることができる。
【発明の効果】
【0021】
このように本発明によれば、工事費を削減でき、工事の進捗速度を高めることのできるトンネル覆工工法およびトンネル覆工装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係るトンネルの覆工後の状態を示す断面図
図2】本発明に係るトンネルのPCL版運搬中の状態を示す断面図
図3図2中のIII−III断面図
図4】本発明に係るトンネル覆工工法を従来工法と比較して示すフローチャート
図5】本発明に係るトンネル覆工工法を従来工法と比較して示すフローチャート
図6】本発明に係るPCL版設置作業の状態を示す説明図
図7】変形例に係るトンネルのPCL版運搬中の状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るトンネル覆工工法の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
まず、本発明に係るトンネル覆工工法によって覆工されたトンネル1の構造について説明する。図1に示すように、本実施形態では、コンクリート2で覆工された既設のトンネル1に対し、その内側にプレキャストコンクリート製のライニング材3が補強のために追加的に設けられる。本実施形態では、トンネル1は工業用水路として利用されるものであり、覆工工事は水を抜いて行われる。そのため、覆工工事中はトンネル1を水路として利用できなくなるため、短期間での施工が望まれる。
【0025】
トンネル1には、アーチ状の天頂面1tに加え、側面1sおよび底面1iにもライニング材3が設置され、トンネル1の内面の全周がライニング材3により覆われる。ライニング材3は、トンネル1の底面1iを覆うインバートパネル4と、周方向に2つに(つまり左右に)分割され、トンネル1の側面1sおよび天頂面1tを覆う一対のセグメントパネル(以下、PCL版5と称する。)との3つのパネルにより1リング(スパン)が構成される。複数リングのライニング材3をトンネル軸方向に連結することにより、所定長さにわたってトンネル1の内面がライニング材3により覆工される。ライニング材3の背面にはグラウト6が注入され、これによりライニング材3と既設のトンネル1とが一体化される。
【0026】
インバートパネル4は、既設のトンネル1の底面1iよりも小さな幅寸法を有しており、左右両側方にPCL版5の下端を配置できるようになっている。インバートパネル4には、高さ調整用の支持ボルト7を取り付けるために、左右に一対および前後に一対の合計4つの支持ボルト用孔4aが形成される他、裏込めグラウト6を注入するためのグラウトホール8・8がトンネル軸方向の中央にて左右に一対に形成される。グラウトホール8は、インバートパネル4を貫通する貫通孔であり、その内面には雌ねじが形成されている。裏込めグラウト6の注入後、グラウトホール8はプラグ9により閉塞される。
【0027】
一対のPCL版5・5は、断面形状において左右対称とされており、それぞれ下端をトンネル1の底面1iよりも高い位置に配置した状態でその内側面の下部をインバートパネル4の側端面に当接させるように配置される。各PCL版5には、天頂部の下向き面(内面)に相互連結用のインサートナット10が前後の2箇所に取付けられる。一対のPCL版5・5は、前後2枚の連結金具11の左右のインサートナット10へのボルト締結により互いに連結される。一対のPCL版5・5にも、インバートパネル4と同様な裏込め注入用の左右一対のグラウトホール12・12が、トンネル軸方向の中央にて上下の2箇所に形成される。一対のPCL版5・5にはさらに、内面における高さ方向の中央よりもやや低い位置に、左右一対のインサートナット13・13が前後の2箇所に取付けられるとともに、内面における下端近傍に、左右一対のインサートナット14・14が前後の2箇所に取付けられる。なお、インサートナット10、13、14は、PCL版5の内面に開口し且つ雌ねじが形成された有底孔を形成する部材である。
【0028】
次に、図2および図3を参照して、このような構成のPCL版5をトンネル1内へ運搬する工法および運搬して設置するトンネル覆工装置について説明する。
【0029】
PCL版5をトンネル1内へ運搬する際には、トンネル1の入口付近の水路内に一対のPCL版5・5を搬入し、天頂部に取付けられた相互連結用のインサートナット10・10に蝶番15を取り付けて、一対のPCL版5・5を幅寸法が変更可能な状態に連結する。本実施形態では、一対のPCL版5・5に対し、蝶番15を前後の2箇所に取り付ける。各蝶番15は、両PCL版15のねじれ(前後方向の相対位置変化)が生じないように3点以上(ここでは4点)で固定する。
【0030】
また、PCL版5の内面における高さ方向の中央よりもやや低い位置に設けた左右一対のインサートナット13・13に固定バー16の両端を取り付け、一対のPCL版5・5の幅寸法を固定する。本実施形態では、一対のPCL版5・5に対し、固定バー16を前後の2箇所に取付け、トンネル湾曲部の通過を容易にするために、一対のPCL版5・5の幅寸法を設置時の幅寸法よりも小さな寸法に固定する。固定バー16は、インサートナット13に螺合するボルトによりPCL版5に締結される一対の固着具17・17と、一対の固着具17・17を連結する連結バー18とを有する。図3に示すように、インサートナット13は、各固着具17に対して前後の2箇所に取付けられる。固定バー16は、一対のPCL版5・5の幅を固定するためのものであるが、連結バー18に長さ調整機構19を設けて伸縮自在とし、一対のPCL版5・5の幅(間隔)を変更できるようにする。本実施形態では、長さ調整機構19としてリボンターンバックルを用いる。また、連結バー18と固着具17とは互いの角度を変更可能に接合する。本実施形態では、連結バー18と固着具17とをピン接合している。
【0031】
さらに、PCL版5の内面の下端近傍に向けたインサートナット14に車輪20を取り付け、一対のPCL版5・5を車輪走行可能な状態とする。車輪20は、インサートナット14に螺合するボルト21と、ボルト21に回転可能に取付けられたウレタン樹脂製のホイール22とにより構成する。本実施形態では、一対のPCL版5・5に対して左右一対の車輪20・20を前後の2箇所に取り付け、一対のPCL版5・5を4輪走行させる。
【0032】
このように、一対のPCL版5・5を蝶番15で連結するとともに、固定バー16でその幅寸法を固定し、一対のPCL版5・5に車輪20を設けてトンネル覆工装置を構成することにより、互いに別体の一対のPCL版5・5を一体化した構造物としてトンネル1内で車輪走行させることができる。本実施形態では、一対のPCL版5・5を車輪走行させるために、例えばフォークリフトといったトンネル1内を自走可能な図示しない運搬車両を用い、ワイヤなどで牽引するものとする。
【0033】
次に、このようなトンネル覆工装置を用いてPCL版5によりトンネル1の内面を覆工するトンネル覆工工法について、図4を参照して、従来工法と比較しながら詳細に説明する。なお、インバートパネル4の製造や搬入、設置については本発明と直接関係ないため説明を省略する。
【0034】
まず、(B)の従来工法について説明すると、従来のトンネル覆工工法ではまず、プレキャストコンクリート工場で複数スパン分のPCL版5を製造し(ステップST101)、トンネル1の入口付近の水路内に運搬台車の部品を搬入し(ステップST102)、水路内で運搬台車を組立てる(ステップST103)。その後、1リング(スパン)分のPCL版5の搬入・設置作業を行い(ステップST104)、全リングのPCL版5の搬入・設置作業が完了するまで(ステップST105:No)、ステップST104のPCL版5の搬入・設置作業を繰り返す。PCL版5の搬入・設置作業の詳細については後述する。全リングのPCL版5の搬入・設置作業が完了すると(ステップST105:Yes)、次に、グラウト配管をグラウトホール12に接続してPCL版5の背面に裏込め注入を行う(ステップST106)。なお、裏込め注入は、所定リングごとの複数スパンに分けて行ってもよく、このように分けて行う場合には、全リングのPCL版5の搬入・設置作業が完了する前に、PCL版5が設置済みのスパンに対して裏込め注入を行ってもよい。その後、トンネル1の入口付近の水路内で運搬台車を解体し(ステップST107)、解体した運搬台車部品を搬出して(ステップST108)、覆工作業が完了する。
【0035】
これに対し、(A)の本発明に係るトンネル覆工工法では、まず、プレキャストコンクリート工場において固定バー16取付用および車輪20取付用のインサートナット13、14を設置して複数スパン分のPCL版5を製造する(ステップST1)。このステップST1の作業は、製造するPCL版5の構造こそ多少異なるものの、従来とほぼ同様である。その後、本工法では運搬台車は用いないため、直ちに1リング(スパン)分のPCL版5の搬入・設置作業(ステップST2)を行うことができる。PCL版5の搬入・設置作業の詳細については従来工法と同様とともに後述する。続いて、全リングのPCL版5の搬入・設置作業が完了するまで(ステップST3:No)、ステップST2のPCL版5の搬入・設置作業を繰り返し、全リングのPCL版5の搬入・設置作業の完了後(ステップST5:Yes)にグラウト配管をグラウトホール12に接続してPCL版5の背面に裏込め注入を行う(ステップST4)点は従来工法と同様である。一方、本工法では、その後、運搬台車の解体を行うことなく、固定バー16および車輪20のみ(実際には蝶番15も搬出するが、蝶番15の搬出は従来工法でも行う。)を搬出して(ステップST5)、覆工作業が完了する。
【0036】
このように、本発明に係るトンネル覆工工法は、従来工法で必要だった運搬台車の部品搬入(ステップST102)・組立(ステップST103)、および運搬台車の解体(ステップST107)を行う必要がなく、固定バー16および車輪20搬出(ステップST5)が運搬台車部品の搬出(ステップST108)よりも容易且つ短時間で行えるため、工期を大幅に短縮することができる。また、大掛かりな運搬台車を用いないため、工事費を大幅に低減することができる。
【0037】
続いて、図5を参照して、PCL版5の搬入・設置作業について、従来工法と比較しながら詳細に説明する。
【0038】
まず、(B)の従来工法について説明すると、従来のトンネル覆工工法では、まず、2枚のPCL版5をトンネル1の入口付近の水路内に搬入し(ステップST111)、PCL版5を蝶番15で一対に組み合わせた状態で運搬台車に搭載する(ステップST112)。そして、フォークリフトなどの運搬車両で運搬台車を牽引し、運搬台車とともに一対のPCL版5・5をトンネル1内に搬入する(ステップST113)。設置位置に到着すると、運搬台車に設けられたジャッキなどを操作してPCL版5を所定の位置に設置し(ステップST114)、運搬台車をPCL版5から切り離す(ステップST115)。その後、運搬車両で運搬台車をトンネル1の入口まで返還し(ステップST116)、1リングのPCL版5の搬入・設置作業が完了する。
【0039】
次のリングのPCL版5の搬入・設置作業を開始できるタイミング(図4(B)のステップST105に進むタイミング)は、ステップST116で運搬台車を返還した後となる。なお、次のリングのPCL版5を水路内に搬入する作業(ステップST111)だけは先行して行うことが可能であるが、運搬台車が返還されないと、次のリングのPCL版5を運搬台車に搭載する作業(ステップST112)は行えないため、運搬台車の返還がクリティカルパスになる。
【0040】
これに対し、(A)の本発明に係るトンネル覆工工法では、まず、従来工法同様、2枚のPCL版5をトンネル1の入口付近の水路内に搬入する(ステップST11)。その後、蝶番15で一対に組み合わせたPCL版5・5に対し、固定バー16および車輪20を取り付け(ステップST12)、運搬車両でPCL版5自体を牽引してトンネル1内に搬入する(ステップST13)。設置位置に到着すると、現地でジャッキなどを操作してPCL版5を所定の位置に設置し(ステップST14)、固定バー16および車輪20をPCL版5から取外す(ステップST15)。なお、ステップST14とステップST15はどちらが先であってもよいが、ここでは車輪20はPCL版5の設置前に取外し、固定バー16はPCL版5の設置作業で使った後に取外す。その後、取外した固定バー16および車輪20を人力でトンネル1の入口まで返還し(ステップST16)、1リングのPCL版5の搬入・設置作業が完了する。
【0041】
本発明に係るトンネル覆工工法では、次のリングのPCL版5の搬入・設置作業を開始できるタイミング(図4(A)のステップST3に進むタイミング)は、固定バー16および車輪20が1リング分しか用意されていない場合(CASE1)、ステップST16で固定バー16および車輪20を返還した後となる。しかし、固定バー16および車輪20は運搬台車に比べて著しく安価であり、複数リング分用意したとしても工事費を低減できる。そのため、固定バー16および車輪20を複数リング分用意した場合(CASE2)には、先のPCL版5の水路内への搬入作業(ステップST11)の後、直ちに次のリングのPCL版5の搬入・設置作業を開始できる。なお、入口付近のスペースが小さい場合や、揚重機などがPCL版5を吊下ろせるエリアが1リング分しかないような場合(CASE2’)であっても、先のPCL版5のトンネル1内への搬入作業(ステップST13)の後には次のリングのPCL版5の搬入・設置作業を開始できる。
【0042】
固定バー16および車輪20も、PCL版5から取外した後にトンネル1の入口に返還する(ステップST16)必要があるが、これらの部材は小さいので次のリングのPCL版5がトンネル1内に搬入されていても、容易に返還することができる。一方、従来工法では、運搬台車は次の運搬台車や運搬車両がトンネル1内に進入していると、すれ違うことができないため、例え運搬台車を複数台用意していたとしても、運搬台車の返還がクリティカルパスになる。返還した固定バー16および車輪20は、その後に搬入・設置する一対のPCL版5・5に転用することができる。
【0043】
なお、PCL版5を所定の位置に設置するステップST14では、図6に示すように設置済みのPCL版5の左右の側面にガイド部材23を設置し、チェーンブロック24などによってPCL版5をトンネル軸方向に移動させる際にガイド部材23に沿わせるとよい。ガイド部材23は、設置済みのPCL版5から突出する部分がトンネル幅方向の内側に向けて傾斜するテーパ形状とされており、ここでは固定バー16の取付けに用いたインサートナット13にガイド部材23を固定している。このようなガイド部材23を用いることにより、PCL版5の位置決めを容易に行うことができる。特に、トンネル1のカーブ部分にPCL版5を設置するときは、PCL版5の位置決めが困難であるため、ガイド部材23を用いることによってPCL版5の設置作業時間を大幅に短縮することができる。
【0044】
このように、本発明に係るトンネル覆工工法は、従来工法でも転用可能であった蝶番15のみならず、固定バー16および車輪20をも転用することにより、工事費をより削減できるうえ、固定バー16および車輪20を複数セット用意することにより、PCL版5の運搬時間の長短が工事の進捗速度あるいは工期に与える影響を排除できる。
【0045】
本実施形態では、固定バー16を、一対の固着具17・17とこれを連結する連結バー18とにより構成したことにより、固定バー16を伸縮操作しやすい位置に設置することができ、一対のPCL版5・5の幅の変更作業の効率を良くすることができる。また、一対のPCL版5・5の幅を容易に変更できるため、PCL版5の運搬走行を安定的にすることができるうえ、PCL版5の設置作業を容易にすることもできる。
【0046】
本実施形態では、PCL版5の下端に設けられたインサートナット14に螺合するボルト21と、ボルト21に回転可能に取付けられたウレタン樹脂製のホイール22とにより車輪20を構成したことにより、車輪20の着脱を容易にできるうえ、運搬中に車輪20がトンネル1の内面にひっかかることを防止できる。また、ホイール22をウレタン樹脂製としたことにより、トンネル1の底面1iに不陸があっても、PCL版5を所望の方向に走行させ易くなる。そのためPCL版5の運搬が容易である。
【0047】
≪変形例≫
次に、図7を参照して変形例に係るトンネル覆工工法について説明する。なお、上記実施形態と同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。本変形例では、上記実施形態で固定バー16の固着に供されるインサートナット13が形成された高さに、低い側のグラウトホール12が設けられている。つまり低い側のグラウトホール12が上記実施形態と比較してより低い位置に形成されている。そして固着具17には上記実施形態で用いた締結用ボルトよりも太径の雄ねじが形成され、固定バー16の両端がこのグラウトホール12に固着されて一対のPCL版5・5を連結している。ここでは、一対のPCL版5・5に対し、1つの固定バー16が前後方向の中央に取付けられる。或いは、一対のPCL版5・5に左右一対のグラウトホール12・12を前後の2箇所に形成し、上記実施形態と同様に一対のPCL版5・5の前後の2箇所に固定バー16を取付けてもよい。
【0048】
図4(A)に示したトンネル覆工工法では、全リングのPCL版5の搬入・設置作業の完了後(ステップST5:Yes)、固定バー16の固着に供したグラウトホール12にグラウト配管を接続してPCL版5の背面に裏込め注入を行うことになる(ステップST4’)。
【0049】
このような形態とすることにより、固定バー16固着用のインサートナット13を省略することができ、裏込め注入用にPCL版5に形成したグラウトホール12を固定手段の固定に利用できるため、PCL版5の製作費の上昇を回避でき、より工事費が削減される。
【0050】
以上で具体的実施形態についての説明を終えるが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、固定手段として、一対のPCL版5・5に両端が固着される固定バー16を用いているが、例えば、蝶番15に角度固定機構を設け、これにより一対のPCL版5・5の幅を固定するようにしてもよい。また、上記実施形態では、セグメントとして、プレキャストコンクリート製のPCL版5を用いているが、鋼製のセグメントを用いてもよい。この場合、インサートナット13を埋設することはできないため、固着具17を固着させるための雌ねじを形成するために、鋼製セグメントにナットを溶接したり、鋼製セグメントにタップを用いて直接雌ねじを形成したりすればよい。また、上記実施形態では、本発明の覆工工法を既設のトンネル1にPCL版5を設置するものとして説明しているが、新設トンネルの覆工に適用してもよい。
【0051】
この他、各要素の具体的形状や、配置、数量、および作業手順の順序などは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、上記実施形態に示した本発明に係るトンネル覆工装置の各要素やトンネル覆工手順の各要素は、必ずしも全てが必須ではなく、適宜、取捨選択可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 トンネル
1t 天頂面
3 ライニング材(覆工部材)
5 PCL版(セグメント)
12 グラウトホール
13 インサートナット(雌ねじを形成する部材)
14 インサートナット(雌ねじが形成された有底孔を形成する部材)
15 蝶番
16 固定バー(固定手段)
17 固着具(固着部材)
18 連結バー(連結部材)
20 車輪
21 ボルト(軸部材)
22 ホイール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7