(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、コンクリートの高強度化に関する研究開発が盛んに行われており、高性能AE減水剤による水セメント比の低減や各種混和材の配合による水結合材比の低減によってコンクリート強度が飛躍的に高くなっている。高強度コンクリートの強度は、セメントや混和材の種類にもよるが、一般に、水結合材比が小さくなるほど高くなる。このようなコンクリートの高強度化は、建物の超高層化や柱断面の縮小化を可能にし、現在では高層建物において広く使用されるまでに至っている。
【0003】
一方で、高強度コンクリートは組織が緻密になるために火災時に表面部分が爆裂を起こし易いことが指摘されている。爆裂のメカニズムは必ずしも明らかになっているとは言えないが、火災による熱応力の上昇および水蒸気圧の上昇が爆裂の主な原因と考えられている。そのため、建物の躯体に高強度コンクリートを用いる場合には、火災時の熱応力を緩和するべく躯体の表面を耐火被覆する、或いは火災時の水蒸気圧を緩和すべくコンクリート中に合成繊維を混入するなどといった対策を採る必要がある。
【0004】
このような耐火性能を考慮したものではないが、躯体の芯部分に高強度コンクリートを用い、躯体の表面を高強度コンクリート以外の素材で構成した構造として、躯体の芯部分を構成するプレキャストコンクリート部材の外方に主筋を配置し、主筋とプレキャストコンクリート部材とを被覆するように現場打ちコンクリートによって躯体の外側部分を構築した複合鉄筋コンクリート構造が提案されている(特許文献1参照)。この複合鉄筋コンクリート構造では、芯部分のプレキャストコンクリート部材に高強度コンクリートを用いる他、プレキャストコンクリート部材に高強度鉄筋からなる主筋を配置することで、通常の鉄筋コンクリート造に対してさらなる高強度化を図っている。
【0005】
同様に耐火性能は考慮していないが、柱の断面積を小さくするために類似の構造を採用した例として、鉄筋コンクリート柱の内部にプレキャスト高強度コンクリート芯材を配置した高軸力用の鉄筋コンクリート柱が提案されている(特許文献2参照)。この鉄筋コンクリート柱では、プレキャスト高強度コンクリート芯材にPCケーブルやPC鋼棒を配置することで引張応力の緩和をも図っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、高強度コンクリートでは、強度が高くなるにつれて弾性ひずみやクリープひずみ、乾燥収縮ひずみが小さくなる一方、自己収縮ひずみが大きくなる傾向がある。したがって、高強度コンクリートは、自己収縮を拘束されると通常のコンクリートに比べてひび割れを生じやすい。つまり、特許文献1や2のように、高強度コンクリートからなる躯体の芯部分に材軸方向に延びる主筋やPC鋼材が配置されていると、これらが高強度コンクリートの材軸方向の自己収縮を拘束してしまい、ひび割れが発生し易くなる。
【0008】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、柱の断面積を小さくできるうえ、耐火性能を確保するとともにひび割れの発生を効果的に防止できる柱構造およびその構築方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一側面によれば、水結合材比が比較的
低い高強度コンクリートからなり、柱の断面中央部に配置される柱中央部(2)と、前記高強度コンクリートに比べて水結合材比が
高い比較的低強度のコンクリートからなり、前記柱中央部の側面の全面を覆うように柱の断面外周部に配置される柱外周部(3)とを有する複合柱(1)であって、柱主筋(4)が前記柱外周部のみに配置されている構成とする。ここで、高強度コンクリートとは、水結合材比が比較的
低いことによって高強度を実現するコンクリートのことであり、結合材以外の物質を混入することによって高強度を実現するコンクリートは含まない。
【0010】
このような構成の複合柱とすることにより、柱の断面積を小さくすることができるうえ、柱の耐火性能を確保することもできる。また、柱中央部は柱主筋に拘束されることがないため、高強度コンクリートを自由に自己収縮させることができ、自己収縮に起因するひび割れが柱中央部に発生することを防止できる。
【0011】
また、本発明の一側面によれば、前記柱中央部(2)が2階層分の長さ(L2)を有するプレキャストコンクリートである構成とすることができる。
【0012】
この構成によれば、柱中央部の製品本数を減らすことができ、柱中央部の運搬や設置に要する労力および時間を削減できる。
【0013】
また、本発明の一側面によれば、前記柱中央部と前記柱外周部とが仕口部(2A)に設けられたコッター式継手(8)により一体結合されている構成とすることができる。
【0014】
この構成によれば、梁から柱外周部に伝達する荷重を柱中央部にも確実に伝達させることができ、複合柱の圧縮強度を有効に高めることができる。
【0015】
また、上記課題を解決するために、本発明の一側面によれば、複合柱(1)の構築方法であって、水結合材比が比較的
低い高強度コンクリートを打設し、柱主筋(4)が配置されない柱の断面中央部に配置される柱中央部(2)を構築するステップと、柱の外周縁近傍に配置される柱主筋(4)および当該柱主筋を囲繞する帯鉄筋(5)を含む鉄筋を組立てるステップと、前記高強度コンクリートに比べて水結合材比が
高い比較的低強度のコンクリートを打設し、柱の断面外周部の全周にわたって配置され且つ前記柱主筋および帯鉄筋を埋め込む柱外周部(3)を構築するステップとを含む構成とすることができる。
【0016】
このような手順で複合柱を構築することにより、柱の断面積を小さくすることができるうえ、柱の耐火性能を確保することもできる。また、柱中央部は柱主筋に拘束されることがないため、高強度コンクリートを自由に自己収縮させることができ、自己収縮に起因するひび割れが柱中央部に発生することを防止できる。
【0017】
また、本発明の一側面によれば、前記
複合柱が多層建物(10)
を構成し、前記柱中央部(2)を構築するステップは、プレキャストコンクリートで前記柱中央部を製作するステップと、柱の断面中央部に当該製作された柱中央部を配置するステップとを含み、前記柱中央部を構築するステップと前記鉄筋を配置するステップと前記柱外周部を構築するステップとを繰り返し、前記柱中央部(2)が複数階にわたって連続するように前記多層建物の少なくとも下層の複数階に前記複合柱を構築する構成とすることができる。
【0018】
この方法によれば、柱中央部の製作を工場などで行えるため、高強度コンクリートの品質管理を容易にすることができる。また、高強度コンクリートは供給地や供給時間などに制限があるため、多層建物の立地や工程によってはその使用自体が困難な場合もあるが、柱中央部をプレキャストコンクリートとすることでこのような問題を解消することができる。
【0019】
また、本発明の一側面によれば、前記柱中央部を2階層分の長さ(L2)に製作する構成とすることができる。
【0020】
この方法によれば、柱中央部の製品本数を減らすことができ、柱中央部の運搬や設置に要する労力および時間を削減できる。
【0021】
また、本発明の一側面によれば、前記柱中央部を製作するステップでは、前記柱中央部(2)の側面から突出するように中間帯鉄筋(6)を配置し、前記柱中央部を配置するステップでは、上部に配置された中間帯鉄筋を係止して前記柱中央部を揚重するとともに、下部に配置された中間帯鉄筋に下階の柱主筋(4)を係合させて前記柱中央部の位置決めを行う構成とすることができる。
【0022】
柱中央部のひび割れは、材軸方向の自己収縮を拘束されることが主な発生原因である。そこで、このように材軸直角方向に延在する中間帯鉄筋を柱中央部に配置することにより、ひび割れの発生を招くことなく、中間帯鉄筋を利用した柱中央部の揚重や位置決めが可能になり、施工を容易にすることができる、或いは、専用の吊り治具や位置決め治具の設置を省略することができる。
【発明の効果】
【0023】
このように本発明によれば、柱の断面積を小さくできるうえ、耐火性能を確保するとともにひび割れの発生を効果的に防止できる複合柱構造および複合柱の構築方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る複合柱構造の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
図1に示すように、複合柱1は、断面中央部に配置される方形断面の柱中央部2と、柱中央部2の側面の全面を覆うように断面外周部に配置される外縁が方形の柱外周部3とを有する。柱中央部2は、水結合材比
が比較的低く強度が比較的高い高強度コンクリートからなり、実質的に無筋コンクリート造である。一方、柱外周部3は、柱中央部2に比べて水結合材比
が高く強度が低いコンクリート(以下、普通コンクリートと称する。)からなる鉄筋コンクリート造である。ここで、高強度コンクリートとは、普通コンクリートに比べて水結合材比
が低く強度が高いコンクリートを意味しており、水結合材比
の上限値および強度の下限値を定めるものではない。柱中央部2を構成する高強度コンクリートと柱外周部3を構成する普通コンクリートとは、どちらが先に打設されていてもよいが、後に打設される側のコンクリートの付着によって一体となっている。
【0027】
柱外周部3には、複合柱1の外周縁近傍に配置され、材軸方向に延在する複数(ここでは24本)の柱主筋4と、複数の柱主筋4を囲繞するように材軸方向に所定間隔をおいて配置された方形の複数の帯鉄筋5(せん断補強筋)とが埋め込まれている。つまり、柱主筋4および帯鉄筋5が柱外周部3のみに配置されている。柱外周部3は、柱主筋4および帯鉄筋5の内方および外方に所定のかぶり厚t
1、t
2を確保できる厚さとされる。
【0028】
このように、複合柱1は、断面の一部に高強度コンクリートが用いられていることにより、高強度コンクリートが用いられていない形態(柱外周部3を構成する普通コンクリートにより全断面が構成されている形態)に比べ、圧縮強度を大きくでき、同一圧縮強度を得るために必要な柱断面積を小さくすることができる。また、高強度コンクリートからなる柱中央部2が柱外周部3により被覆されているため、複合柱1の表面部分は火災時に爆裂を起こし難くなっており、複合柱1の耐火性能が確保される。
【0029】
さらに、柱中央部2の高強度コンクリートは、柱主筋4に拘束されることがないため、自由に自己収縮でき、ひび割れが発生することを防止できる。なお、柱中央部2は、完全な無筋コンクリートである必要はなく、ここで言う無筋コンクリートとは、高強度コンクリートの材軸方向の自己収縮を拘束する柱主筋4やPC鋼材を含まないことを意味しており、断面方向に延在する後述する中間帯鉄筋6が埋め込まれたものや、材軸方向に延在する鉄筋であっても段取り筋のように構造計算で考慮されない鉄筋が埋め込まれたものと排除するものではない。
【0030】
ひび割れ防止の観点からすれば、複合柱1は次のようにするのが好ましい。すなわち、先に柱外周部3の普通コンクリートを打設した後にその内側に柱中央部2の高強度コンクリートを打設する場合、高強度コンクリートの柱外周部3への付着が高強度コンクリートの材軸方向の自己収縮を拘束することのないように、柱外周部3の内側面すなわち柱外周部3と柱中央部2との接合面を材軸方向について平坦にするとよい。
【0031】
一方、先に柱中央部2の高強度コンクリートを打設した後にその外側に柱外周部3の普通コンクリートを打設する場合、柱中央部2に付着する柱外周部3の普通コンクリートが柱中央部2の高強度コンクリートの自己収縮を拘束しないように、柱外周部3との接合面を材軸方向について平坦にすることに加え、高強度コンクリートの自己収縮がある程度進行した後に柱外周部3の普通コンクリートを打設するようにするとよい。
【0032】
先に高強度コンクリートを打設する場合には、柱中央部2をプレキャストコンクリート製品として工場などで予め製作しておくとよい。このようにすれば、品質管理が普通コンクリートに比べて煩雑な高強度コンクリートの品質管理を容易にすることができる。そのうえ、柱外周部3の普通コンクリートを現場打ちとする場合にも、現場施工時に待ち時間を発生させることなく高強度コンクリートの自己収縮を相当程度進行させることができる。一方、柱外周部3の普通コンクリートをも工場などで打設し、複合柱1の全体をプレキャストコンクリート製品とすることももちろん可能である。
【0033】
一方、先に柱外周部3の普通コンクリートを打設する場合にも、両コンクリートをプレキャストコンクリートとして工場などで予め製作してもよい。また、先に柱外周部3の普通コンクリートを打設する場合にも、先にコンクリートを打設する柱外周部3のみをプレキャストコンクリートとして工場などで予め製作してもよい。
【0034】
先に柱中央部2の高強度コンクリートを工場などで打設し、後に打設する柱外周部3の普通コンクリートを現場打ちとする場合には、さらに、柱中央部2のプレキャストコンクリート製品を2階層分の長さL2(
図12参照)を有するようにするとよい。柱中央部2の断面は比較的小さいため、このようにすることにより、通常の運搬車両や揚重設備での運搬や揚重を可能にしたまま柱中央部2の製品本数を減らすことができるため、柱中央部2の運搬や設置に要するコスト、労力および時間が削減される。
【0035】
図2および
図3を参照して、
図1に示した複合柱1の変形例について説明する。なお、上記実施形態と重複する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。以下に示す複合柱構造の変形例および複合柱構築方法の変形例においても同様とする。
【0036】
図2に示すように、この複合柱1は、すべての柱主筋4を囲繞する帯鉄筋5に加え、一部の柱主筋4のみを囲繞する長方形の中間帯鉄筋6(せん断補強筋)を有している。中間帯鉄筋6は、材軸に直交する平面上に延在し且つ柱中央部2を一方向に貫通して柱中央部2の互いに対向する一対の側面から突出するように配置される。
【0037】
この複合柱1を構築する際には、少なくとも柱中央部2をプレキャストコンクリートとして予め工場などで製作し、柱外周部3の普通コンクリートを後から打設するとよい。このようにすることにより、柱中央部2から突出する鉄筋が配置されていても、高強度コンクリートが材軸方向に自由に自己収縮できる。なお、柱中央部2の高強度コンクリートを打設した後には、中間帯鉄筋6が型枠により拘束されることを回避するために、所期の強度が発現した後速やかに脱型するのが好ましい。
【0038】
図3に示すように、柱中央部2はここでは1階層分の長さL1(
図9を併せて参照)を有するプレキャストコンクリート製品とされている。柱中央部2の上端は、複合柱1と梁11との接続部である仕口部2Aを構成しており、この仕口部2Aには、梁主筋13(
図9参照)を挿通させるための貫通孔7が形成されるとともに、梁11が接合する各側面(ここでは4面)にコッター式継手8を構成する凹部9が形成されている。つまり、想像線で示す柱外周部3がコッター式継手8により柱中央部2と一体結合される。中間帯鉄筋6は、仕口部2Aの梁主筋13が通る部分を除いた部分と仕口部2Aの下方の柱主部2Bとに、帯鉄筋5(
図2)と同じピッチで上下方向に一列に複数配置される。
【0039】
複合柱1をこのように構成しても、
図1に示す複合柱1と同様の効果を得ることができる。また、プレキャストコンクリート製品である柱中央部2の取り扱いを容易にすることができる。つまり、柱中央部2の運搬時には一側面から突出する上下一対の中間帯鉄筋6を係止して柱中央部2を揚重することができ、柱中央部2の現場設置時には、上部に配置された中間帯鉄筋6の両端部(対向する側面からそれぞれ突出する部分)を係止して柱中央部2を揚重できるとともに、下部に配置された中間帯鉄筋6に下階の柱主筋4を係合させて柱中央部2の位置決めを行うことができる。
【0040】
或いは
図2に示す複合柱1を
図4や
図5に示すように構成してもよい。
図4に示す複合柱1では、中間帯鉄筋6が、仕口部2Aの梁主筋13が通る部分を除いた部分に適宜の数量(ここでは3本)配置されるとともに、柱主部2Bの最下部に適宜の数量(ここでは1本)配置される。複合柱1をこのように構成しても、
図3に示す複合柱1と同様の効果を得ることができる。
【0041】
図5に示す複合柱1では、中間帯鉄筋6が、柱主部2Bの最上部と柱主部2Bの下部中央寄りと柱主部2Bの最下部との3箇所に配置される。複合柱1をこのように構成しても、
図3および
図4に示す複合柱1と同様の効果を得ることができる。すなわち、柱中央部2の運搬時には、
図6に実線で示すうように、一側面から突出する上側2つの中間帯鉄筋6を吊り金具15で係止して柱中央部2を揚重することができ、柱中央部2の現場設置時には、
図6に想像線で示すように、最上部に配置された中間帯鉄筋6の両端部(対向する側面からそれぞれ突出する部分)を吊り金具15で係止して柱中央部2を揚重できるとともに、最下部に配置された中間帯鉄筋6に下階の柱主筋4を係合させて柱中央部2の位置決めを行うことができる。
【0042】
図3〜
図5には、梁主筋13を配置できるように柱中央部2に梁主筋13を挿通させるための貫通孔7を形成する形態を示したが、
図7に示すように、高強度コンクリートの打設前に適宜な長さの差込梁主筋14を予め配置しておき、柱中央部2に差込む形態としてもよい。
【0043】
図8を参照して、
図1に示した複合柱1の他の変形例について説明する。この複合柱1は、すべての柱主筋4を囲繞する帯鉄筋5に加え、一部の柱主筋4のみを囲繞する長方形の中間帯鉄筋6を、互いに直交する2方向に有している。両中間帯鉄筋6はそれぞれ、材軸に直交する平面上に延在し且つ柱中央部2を一方向に貫通して柱中央部2の互いに対向する一対の側面から突出するように配置される。
【0044】
両中間帯鉄筋6の材軸方向の配置は、
図3〜
図5に示したいずれかの形態のようにしてもよく、他の形態としてもよい。
図3のように帯鉄筋5と同じピッチで中間帯鉄筋6を設ける場合には、帯鉄筋5のピッチで両中間帯鉄筋6を配置してもよく、それ以外のピッチ、例えば両中間帯鉄筋6のピッチを帯鉄筋5の2倍のピッチとし、各方向の中間帯鉄筋6を交互に配置したり、或いは両中間帯鉄筋6を同一位置に配置したりしてもよい。
【0045】
次に、本発明に係る複合柱1の構築手順について説明する。
【0046】
まず、
図9を参照しながら多層建物10に適用される複合柱1の一構築手順について説明する。この例では、柱中央部2を1階層分の長さL1(下階の梁11の上面からその階の梁11の上面までの階高)のプレキャストコンクリート製品とし、柱外周部3の普通コンクリートを現場打ちとしている。
【0047】
まず、プレキャスト工場にて、
図2〜
図8に示したような柱中央部2を製作する。すなわち、中間帯鉄筋6を柱中央部2の型枠の側面から突出するように配置し、主筋を配置しない状態で、柱中央部2の型枠内に水結合材比が比較的
低い高強度コンクリートを打設し、柱中央部2の材軸方向の自己収縮を拘束しないように所定のコンクリート強度の発現を待って型枠を速やかに解体する。なお、コッター式継手8を構成する凹部9は柱中央部2の上端近傍に配置されるが、凹部9を形成する型枠凸部が柱中央部2の初期の自己収縮を拘束することを勘案すると、型枠を上下逆さまにした状態(凹部9が下端近傍に位置する状態)で高強度コンクリートを打設するとよい。
【0048】
次に、製作した柱中央部2を現場に搬入して複合柱1の断面中央部に配置する。この際、
図6に関連して説明したように、上部に配置された中間帯鉄筋6を係止して柱中央部2を揚重するとともに、下部に配置された中間帯鉄筋6に下階から延びる柱主筋4を係合させて柱中央部2の位置決めを行うとよい。なお、柱中央部2を載置する面には、高強度無収縮モルタルなどを敷設するとよい。柱中央部2の固定は、柱主筋4および柱型枠の位置固定により行われるが、このような固定を行うまでは、後述する梁主筋13の接合などの適宜な仮固定手段により柱中央部2を仮固定する。
【0049】
その後、柱中央部2の外周に柱主筋4および当該柱主筋4を囲繞する帯鉄筋5を含む鉄筋を配置するとともに梁鉄筋12を組立て、複合柱1および梁11の図示しない型枠を組立てる。柱中央部2に適宜な長さの差込梁主筋14を差込んでいる場合、この差込梁主筋14に継手手段を介して梁主筋13を接合する。一方、柱中央部2に梁主筋13を挿通するための貫通孔7を設けている場合、この貫通孔7に梁主筋13を挿通した状態で貫通孔7にグラウトを注入し、梁主筋13を柱中央部2に接合する。柱型枠は控えサポートを設置して傾きを防止し、柱型枠と帯鉄筋5との間および柱主筋4と柱中央部2の外側面との間のかぶり厚t
1、t
2(
図1)を確保するための図示しないスペーサを設置することで柱中央部2を固定し、高強度コンクリート打設時における柱中央部2の転倒を防止する。
【0050】
そして、柱中央部2に比べて水結合材比
が高く強度が低い普通コンクリートを型枠内に打設し、普通コンクリートによって柱主筋4および帯鉄筋5を埋め込み且つ柱中央部2の側面の全面を覆うように柱外周部3および梁11を構築する。なお、梁11とともにスラブについても同時にコンクリートを打設するとよい。その後、型枠を取り外し、上層階について上記手順を繰り返し、柱中央部2が複数階にわたって連続するように多層建物10の少なくとも下層の複数階に複合柱1を構築する。
【0051】
このように柱中央部2が主筋を有しない高強度コンクリートにより構築され、柱外周部3が柱主筋4を有する比較的低強度の普通コンクリートにより構築された複合柱1における荷重負担について
図10および
図11を参照して説明する。
【0052】
図10に示すように、平常時の長期荷重は、上方から伝達される荷重Nに加え、柱外周部3に伝達する各階の梁11の荷重Q
R1、Q
L1〜Q
R3、Q
L3がコッター式継手8を介して柱中央部2に伝達する。したがって、下層階ほど荷重が大きくなり、上方から荷重Nが加わっている図示の複合柱1の最下階では、荷重はN+Σ(Q
1+Q
2+Q
3)となる。柱中央部2は、圧縮強度が柱外周部3よりも大きいため、弾性ひずみやクリープひずみが小さく、単位面積当たりの荷重が柱外周部3の単位面積当たりの荷重よりも大きくなる。つまり、長期荷重は主として高強度の柱中央部2が負担することになる。
【0053】
一方、地震荷重時には、
図11に示すように、複合柱1に軸方向力が付加され、圧縮ストラット16が柱頭(仕口の下端)および柱脚(仕口の上端)において左右の異なる端部を通るようになる。つまり、曲げモーメントが大きくなる柱頭および柱脚では、低強度側の柱外周部3が曲げ圧縮域となり、地震時の圧縮荷重は主として柱外周部3が負担することになる。
【0054】
このように、主筋が配置されない断面中央部に高強度コンクリートからなる柱中央部2を構築し、柱中央部2の外周に柱主筋4などを配置したうえで柱中央部2に比べて水結合材比
が高く強度が低い普通コンクリートからなる柱外周部3を構築して複合柱1を構築することにより、所定の長期荷重および地震荷重に対応した柱の断面積を小さくすることができるうえ、柱の耐火性能を確保することができる。また、柱中央部2は柱主筋4に拘束されないため、高強度コンクリートが自由に自己収縮でき、柱中央部2にひび割れが発生することもない。
【0055】
なお、上記したように高強度コンクリートとは、水結合材比が比較的
低いことによって高強度を実現するコンクリートのことであり、結合材以外の物質を混入することによって高強度を実現するコンクリートは含まないため、高強度コンクリートの混合攪拌や取り扱いが困難になったり、材料コストがむやみに高くなったりすることはない。
【0056】
また上記実施形態では、柱中央部2を工場などで製作するプレキャストコンクリートとしており、これにより、高強度コンクリートの品質管理を容易にすることができるうえ、多層建物10の建設地や施工時間などに制限がある場合であっても高強度コンクリートを用いた柱中央部2の構築が可能になる。
【0057】
さらに上記実施形態では、柱中央部2に中間帯鉄筋6を配置し、
図6に示したように、柱中央部2を配置する際には上部に配置された中間帯鉄筋6を係止して揚重し、柱中央部2の位置決めを行う際には下部に配置された中間帯鉄筋6に下階の柱主筋4を係合させるようにしたことにより、柱中央部2におけるひび割れの発生を招くことなく、施工の容易化、或いは、専用の吊り治具や位置決め治具の省略が可能となっている。
【0058】
多層建物10に適用される複合柱1の一構築手順の変形例として、
図12に示すように、柱中央部2を2階層分の長さL2(下階の梁11の上面から構築しようとする階の1階上の階の梁11の上面までの2階層分の階高)のプレキャストコンクリート製品とし、柱外周部3の普通コンクリートを1階層ごとの現場打ちとして複合柱1を構築してもよい。このような構築方法においては、各手順を上記構築手順と同様に行えばよいが、1階層目の柱外周部3の構築の後、柱中央部2の配置を行うことなく2階層目の柱外周部3の構築を行う。このように柱中央部2を2階層分の長さL2のプレキャストコンクリート製品とすることにより、柱中央部2を構成するプレキャストコンクリート製品の本数を減らすことができ、柱中央部2の運搬や設置に要する労力および時間を削減することができる。
【0059】
さらに、
図13に示すように、複合柱1全体をプレキャストコンクリート製品として構築する形態とすることもできる。この場合、上記手順と同様に、プレキャスト工場にて、まず中間帯鉄筋6を柱中央部2の型枠の側面から突出するように配置し、主筋を配置しない状態で高強度コンクリートを打設して柱中央部2を製作した後、続けてプレキャスト工場にて、
図13(A)に示すように、柱中央部2の外周に柱主筋4および当該柱主筋4を囲繞する帯鉄筋5を含む鉄筋を配置し、図示しない柱外周部3の型枠を組立てる。柱主筋4の下端には継手4aを取り付けておき、柱主筋4の上端を、上層階の柱主筋4の継手4aに接続できるように柱外周部3の上面よりも上方に突出させておく。その後、柱中央部2に比べて水結合材比
が高く強度が低い普通コンクリートを型枠内に打設し、
図13(B)に示すように、柱中央部2の側面の全面が柱外周部3により覆われた複合柱1を製作する。複合柱1全体をプレキャストコンクリート製品とする場合には、複合柱1と梁11(
図9〜
図12)とをコッター式継手により接合するために、柱外周部3の側面にも凹部17を形成する。
【0060】
このように複合柱1の全体をプレキャストコンクリートとする場合、柱外周部3の普通コンクリートは自己収縮が小さいこと、および柱主筋4の上端が上方に突出していることから、柱外周部3の普通コンクリートを打設する際には、
図13(B)に示すように仕口部2Aを上方にした状態(設置状態の向き)で行えばよい。一方、
図13(A)に示す柱中央部2の高強度コンクリートを打設する際には、上記同様に自己収縮の拘束を回避するために、コッター式継手8を構成する凹部9が下端近傍に位置する状態(図示の状態と上下逆さまの状態)で行うとよい。
【0061】
製作した複合柱1は、現場に搬入した後、柱中央部2が下階の柱中央部2と連続するように配置されるとともに、柱主筋4がその下端に設けられた継手4aを介して下階の柱主筋4と接続されることにより、所定の位置に構築される。
【0062】
複合柱1をこのように構築しても、断面積を小さくすることができるうえ、耐火性能を確保することができる。また、柱中央部2が柱主筋4に拘束されないため、高強度コンクリートを自由に自己収縮させることができ、柱中央部2でのひび割れの発生を防止できる。
【0063】
以上で具体的実施形態についての説明を終えるが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、各要素の具体的形状や、配置、数量、および作業手順の順序などは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、上記実施形態に示した本発明に係る複合柱1構造の各要素や複合柱1の構築手順の各要素は、必ずしも全てが必須ではなく、適宜取捨選択可能である。