(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記左右両側のダンパに懸架スプリングを設け、前記左右一方のダンパに設けた懸架スプリングのばね荷重を前記左右他方のダンパに設けた懸架スプリングのばね荷重より大きく設定してなる請求項1又は2に記載の自動二輪車の車高調整装置。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、自動二輪車のリヤクッションを構成するように車体の左右両側に配置される一対のダンパ10L、10Rを示すものである。このとき、本実施例の自動二輪車では、左右一方のダンパ10Lにだけ車高調整ユニット100Lを設けることにより、車高調整装置100を構成している。以下、ダンパ10Lとダンパ10Rについて詳述する。
【0023】
(ダンパ10Lの基本構成)(
図2〜
図5)
ダンパ10Lは、
図2、
図3に示す如く、車体側に取付けられるダンパチューブ11の油室27に、車軸側に取付けられる中空ピストンロッド12を摺動自在に挿入し、ダンパチューブ11とピストンロッド12の外側部に懸架スプリング13Lを介装している。
【0024】
ダンパチューブ11は車体側取付部材14を備え、ピストンロッド12に車軸側取付部材15を備える。ダンパチューブ11の外周部には、後述する車高調整ユニット100Lの油圧ジャッキ111が設置され、油圧ジャッキ111のジャッキ室112に挿入されたプランジャ113にばね受17を備えるとともに、車軸側取付部材15の外側部にばね受18を備える。ばね受17とばね受18の間に懸架スプリング13Lを介装し、油圧ジャッキ111の昇降操作により懸架スプリング13Lの設定長さ(ばね荷重)を調整する。懸架スプリング13Lのばね力が、車両が路面から受ける衝撃力を吸収する。
【0025】
ダンパチューブ11は、ピストンロッド12が貫通するロッドガイド21をその開口部に備える。ロッドガイド21は、ダンパチューブ11に液密に挿着され、オイルシール22、ブッシュ23、ダストシール24を備える内径部に、ピストンロッド12を液密に摺動自在にしている。
【0026】
ダンパ10Lは、ダンパチューブ11を外筒11Aと内筒11Bからなる2重管としている。そして、ピストンロッド12の先端部に挿着したピストン25をナット26で固定し、内筒11Bの内周に摺動可能に挿入されたピストン25により、ダンパチューブ11の油室27をピストン側油室27Aとロッド側油室27Bに区画する。
【0027】
ダンパ10Lは、
図4に示す如く、車体側取付部材14にサブタンク30を固定し、キャップ30Aにより封着されるサブタンク30内に設けたエア室31と油溜室32をブラダ33により分離する。キャップ30Aに設けたエアバルブ34を介して高圧化されるエア室31の圧力によって加圧される油溜室32をダンパチューブ11の油室27に連通するように設け、この油溜室32によりダンパチューブ11の油室27に進退するピストンロッド12の容積(油の温度膨張分の容積を含む)を補償する。
【0028】
ダンパ10Lは、ダンパチューブ11のピストン側油室27Aと、ロッド側油室27Bの間に減衰力発生装置40を設ける。
【0029】
減衰力発生装置40は、
図5に示すバルブユニット40Aに小組された状態で、車体側取付部材14におけるダンパチューブ11とサブタンク30の間に設けたバルブ収容孔14Aに外方から挿入されて内蔵される。
【0030】
減衰力発生装置40のバルブユニット40Aは、バルブピース41と、バルブピース41の内端側の小径部41Aに嵌合される内側バルブホルダ42と、バルブピース41の外端側の大径部41Bに外方から嵌合されて軸方向に係合する外側バルブホルダ43と、外側バルブホルダ43に外方から液密に嵌合されて軸方向に係合するキャップ44を有する。
【0031】
減衰力発生装置40のバルブユニット40Aは、更に、バルブピース41の小径部41Aの外周の軸方向に沿う中央にセンタープレート45を設け、バルブピース41の小径部41Aの外周のセンタープレート45を挟む軸方向で、大径部41Bとの段差面の側から順に、伸側チェックバルブ62、圧側ピストン50、圧側減衰バルブ51を装填し、内側バルブホルダ42の端面の側から順に、圧側チェックバルブ52、伸側ピストン60、伸側減衰バルブ61を装填される。圧側チェックバルブ52、伸側ピストン60、伸側減衰バルブ61の組と、伸側チェックバルブ62、圧側ピストン50、圧側減衰バルブ51の組とは、センタープレート45を挟んで線対称配置されるとともに、バルブピース41における小径部41Aと大径部41Bの段差面と、内側バルブホルダ42の端面との間で、センタープレート45とともに挟圧固定化される。
【0032】
減衰力発生装置40のバルブユニット40Aは、バルブ収容孔14Aに外方から挿入され、内側バルブホルダ42の先端面をバルブ収容孔14Aの軸方向の底面に突当て、キャップ44をバルブ収容孔14Aの開口ねじ部に液密に螺着されて固定化される。このとき、減衰力発生装置40は、圧側ピストン50と伸側ピストン60の外周をバルブ収容孔14Aの内周に液密に固定し、バルブ収容孔14Aにおける圧側ピストン50の反伸側ピストン側のスペースをピストン側油室27Aに連通する伸圧共用流路46Aとし、バルブ収容孔14Aにおける伸側ピストン60の反圧側ピストン側のスペースをダンパチューブ11の後述する外側流路11Cを介してロッド側油室27Bに連通する伸圧共用流路46Bとし、バルブ収容孔14Aにおけるセンタープレート45の周囲で圧側ピストン50と伸側ピストン60に挟まれる環状スペースを車体側取付部材14に設けた連通路14Bを介して油溜室32に連通する伸圧共用流路46Cとする。また、減衰力発生装置40は、圧側ピストン50に圧側減衰バルブ51により開閉される圧側流路50Aと伸側チェックバルブ62により開閉される伸側流路50Bを設けるとともに、伸側ピストン60に圧側チェック弁52により開閉される圧側流路60Bと伸側減衰バルブ61により開閉される伸側流路60Aを設ける。減衰力発生装置40は、車体側取付部材14に設けた伸圧共用流路46A、46B、46Cと、圧側ピストン50に設けた圧側流路50A、伸側流路50Bと、伸側ピストン60に設けた圧側流路60B、伸側流路60Aと、ダンパチューブ11の外筒11Aと内筒11Bの環状間隙に設けられる外側流路11C、内筒11Bの下端側に設けた孔流路を介して、ダンパチューブ11のピストン側油室27Aとロッド側油室27Bを連通する(ピストン25はピストン側油室27Aとロッド側油室27Bを連通する流路を備えない)。
【0033】
従って、油圧緩衝器10にあっては、圧側行程で、ダンパチューブ11のピストン側油室27Aの油を、ダンパチューブ11の外側流路11Cからロッド側油室27Bに向けて流す圧側流路(伸圧共用流路46A、46B、46C、圧側流路50A、60B)が減衰力発生装置40に設けられ、この圧側流路(伸圧共用流路46A、46B、46C、圧側流路50A、60B)の上流側に圧側減衰バルブ51を、下流側に圧側チェックバルブ52を設け、この圧側流路(伸圧共用流路46A、46B、46C、圧側流路50A、60B)における圧側減衰バルブ51と圧側チェックバルブ52の中間部を、伸圧共用流路46C、連通路14Bを介して油溜室32に連通するものになる。
【0034】
また、伸側行程で、ダンパチューブ11のロッド側油室27Bの油を、ダンパチューブ11の外側流路11Cからピストン側油室27Aに向けて流す伸側流路(伸圧共用流路46A、46B、46C、伸側流路50B、60A)が減衰力発生装置40に設けられ、この伸側流路(伸圧共用流路46A、46B、46C、伸側流路50B、60A)の上流側に伸側減衰バルブ61を、下流側に伸側チェックバルブ62を設け、この伸側流路(伸圧共用流路46A、46B、46C、伸側流路50B、60A)における伸側減衰バルブ61と伸側チェックバルブ62の中間部を、伸圧共用流路46C、連通路14Bを介して油溜室32に連通するものになる。
【0035】
減衰力発生装置40は、所望により、
図5に示す如く、バルブピース41の小径部41A〜大径部41Bの中心軸上に設けた中空部に、圧側減衰バルブ51と伸側減衰バルブ61を迂回して、ダンパチューブ11のピストン側油室27Aとロッド側油室27Bを油溜室32に連通する圧側バイパス流路72と伸側バイパス流路82を設けても良い。外側バルブホルダ43に設けられる圧側アジャスタ70により外部から操作される圧側減衰力調整弁71により、この圧側バイパス流路72の開口面積を調整することで圧側減衰力を調整できる。伸側バイパス流路82は伸圧共用流路46Bに開口するとともに、バルブピース41に設けた孔72A、センタープレート45に設けた孔72Bを介して伸圧共用流路46Cに開口している。外側バルブホルダ43に設けられる圧側アジャスタ70により外部から操作される圧側減衰力調整弁71により、この圧側バイパス流路72の開口面積を調整することで圧側減衰力を調整できる。圧側バイパス流路72は伸圧共用流路46Aに開口するとともに、バルブピース41に設けた孔72A、センタープレート45に設けた孔72Bを介して伸圧共用流路46Cに開口している。
【0036】
尚、伸側アジャスタ80は外部から回転操作可能に外側バルブホルダ43に液密に枢着され、伸側アジャスタ80のおねじ部にスライダ80Aを螺合しており、伸側アジャスタ80の回転によって移動するスライダ80Aが伸側減衰力調整弁81のロッド状基端部を押動し、伸側減衰力調整弁81の先端ニードル弁を伸側バイパス流路82の開口に対して進退させる。また、圧側アジャスタ70は外部から回転操作可能に外側バルブホルダ43に液密に枢着され、圧側減衰力調整弁71は伸側減衰力調整弁81のロッド周囲に遊挿されるとともに、そのフランジ部に圧側アジャスタ70のおねじ部が螺合されており、圧側アジャスタ70の回転によって移動する圧側減衰力調整弁71の先端ニードル弁を圧側バイパス流路72の開口に対して進退させる。伸側アジャスタ80のスライダ80Aには圧側アジャスタ70の中間軸部が挿通していてスライダ80Aを回り止めしている。圧側減衰力調整弁71のフランジ部には伸側アジャスタ80の先端軸部が挿通していて圧側減衰力調整弁71を回り止めしている。
【0037】
従って、油圧緩衝器10は以下の如くに減衰作用を行なう。
(圧側行程)(
図3、
図5の実線矢印の流れ)
ピストン側油室27Aの油が昇圧し、減衰力発生装置40の圧側ピストン50の圧側流路50Aの圧側減衰バルブ51を押し開いて圧側減衰力を発生する。この圧側減衰バルブ51から伸圧共用流路46Cに流出する油は伸圧共用流路46Cにおいて2分し、一方の油は伸側ピストン60の圧側流路60Bの圧側チェックバルブ52からダンパチューブ11の外側流路11Cを通ってロッド側油室27Bに流出し、他方の油は油溜室32に排出される。この油溜室32に排出される他方の油は、ピストンロッド12の進入容積分の油を補償する。
【0038】
(伸側行程)(
図3、
図5の一点鎖線矢印の流れ)
ロッド側油室27Bの油が昇圧し、ダンパチューブ11の外側流路11Cを通って減衰力発生装置40の伸側ピストン60の伸側流路60Aの伸側減衰バルブ61を押し開いて伸側減衰力を発生する。この伸側減衰バルブ61から伸圧共用流路46Cに流出する油は、油溜室32から補給される油と合流した後、圧側ピストン50の伸側流路50Bの伸側チェックバルブ62を通ってピストン側油室27Aに流出する。油溜室32から補給される油はピストンロッド12の退出容積分の油を補償する。
【0039】
(ダンパ10Rの基本構成)
ダンパ10Rはダンパ10Lについて説明したと同様の基本構成を具備する。
但し、ダンパ10Rがダンパ10Lと基本構成において相違する点は、ダンパチューブ11の外周部に車高調整ユニット100Lの油圧ジャッキ111及びばね受17に代わる手動ばね受17Rを設け、このばね受17Rと車軸側取付部材15の側のばね受18の間に懸架スプリング13Rを介装したことにある。手動による手動ばね受17Rの昇降操作により懸架スプリング13Rの設定長さ(ばね荷重)を調整する。懸架スプリング13Rのばね受が、車両が路面から受ける衝撃力を吸収する。
【0040】
従って、左右両側のダンパ10L、10Rに懸架スプリング13L、13Rを設ける。このとき、本実施例では、左右一方のダンパ10Lに設けた懸架スプリング13Lのばね荷重を、左右他方のダンパ10Rに設けた懸架スプリング13Rのばね荷重より大きく設定している。
【0041】
次に、車高調整装置100を構成するために、左右一方のダンパ10Lにだけ設けた車高調整ユニット100Lについて詳述する。
【0042】
(車高調整装置100の車高調整ユニットの100L)(
図6〜
図9)
車高調整装置100の車高調整ユニット100Lは、
図6〜
図9に示す如く、ダンパチューブ11における外筒11Aの外周に油圧ジャッキ111を設けている。油圧ジャッキ111はジャッキ室112を区画するプランジャ113を備える。プランジャ113はジャッキ室112に供給される作動油によりジャッキ室112から突出し、その下面に懸架スプリング13Lの上端を支持する。
【0043】
尚、油圧ジャッキ111は、プランジャ113がジャッキ室112から突出する突出端に達したとき、ジャッキ室112の作動油を油溜室32に戻す油戻り通路114をダンパチューブ11の外筒11Aに設け、この油戻り通路114をダンパチューブ11の外側流路11Cに開口している(
図6、
図8、
図9)。
【0044】
車高調整ユニット100Lにあっては、ダンパチューブ11の外側流路11Cに油圧ジャッキ111の油戻り通路114を開口したことにより、油戻り通路114がダンパチューブ11の油室に直に臨むチューブ内周面に開口されず、このチューブ内周面を摺動するピストン25の摺動・摩耗上の不都合を生じない。
【0045】
ここで、車高調整ユニット100Lは、油圧ジャッキ111の内部でプランジャ113を挟んでジャッキ室112の反対側に背圧室115を設け、この背圧室115をダンパチューブ11内のロッド側油室27B(ダンパチューブ11内のピストン側油室27A、油溜室32でも可)に連通されている。背圧室115は、
図8に示す如く、ダンパチューブ11の外筒11Aの外周と、プランジャ113の延長筒部113Aの内周との間の環状間隙に固定的に配置される環状ピース116により封止される。本実施例では、背圧室115への連通路117をダンパチューブ11の外筒11Aに設け、この連通路117をダンパチューブ11の外側流路11Cに開口している(
図6、
図8、
図9)。
【0046】
このとき、油圧ジャッキ111内におけるジャッキ室112と背圧室115のそれぞれがダンパチューブ11内のピストン側油室27Aとロッド側油室27Bのそれぞれに連通され、ダンパ10Lの減衰力の圧力によってジャッキ室112の油圧と背圧室115の油圧との間に差圧を生じさせる。
【0047】
また、油圧ジャッキ111内におけるプランジャ113のジャッキ室112の側の受圧面積と、背圧室115の側の受圧面積に差をつける。或いは、油圧ジャッキ111内におけるプランジャ113のジャッキ室112の側の受圧面積と、背圧室115の側の受圧面積を概ね同等にする。
【0048】
車高調整ユニット100Lにあっては、このような背圧室115を備えた油圧ジャッキ111を用いたことにより、以下の作用効果を奏する。
【0049】
(a)油圧ジャッキ111のプランジャ113を挟んで相対するジャッキ室112と背圧室115の両者をダンパチューブ11内の油室27A、27Bに連通した。従って、油圧ジャッキ111の作動によるダンパ10L内の油量の変化を抑制でき、ダンパ10Lの圧縮比、内圧の変化も抑制するものになり、ダンパ10Lの減衰力特性を安定化できる。
【0050】
(b)ダンパ10Lの圧縮行程で昇圧する油溜室32の封入ガス圧が、油圧ジャッキ111のプランジャ113を挟んで相対するジャッキ室112と背圧室115の両者に均等に作用する。封入ガス圧がジャッキ室112のプランジャ113を突き出そうとする荷重になることを抑制し、懸架スプリング13Lの初期荷重の設定等への影響を排除できる。
【0051】
(c)油圧ジャッキ111においてプランジャ113を挟んでジャッキ室112の反対側は背圧室115となり、背圧室115の外側が大気になる。このため、圧力関係は、ジャッキ室112>背圧室115>大気となり、油圧ジャッキ111の内周を摺動するプランジャ113のシール部は、ジャッキ室112の高圧を大気よりは高い圧力(背圧室115)に対して封止すれば足りるものになり、油圧ジャッキ111の封止性能の軽減を図ることができる。
【0052】
(d)油圧ジャッキ111内におけるプランジャ113のジャッキ室112の側の受圧面積と、背圧室115の側の受圧面積に差をつける。これにより、油溜室32の封入ガス圧がジャッキ室112と背圧室115に及んだとき、背圧室115の受圧面積<ジャッキ室112の受圧面積ならば、プランジャ113はこの封入ガス圧によって油圧ジャッキ111から突き出る側に移動し、短目の懸架スプリング13Lの遊びを防止する。
【0053】
(e)油圧ジャッキ111内におけるプランジャ113のジャッキ室112の側の受圧面積と、背圧室115の側の受圧面積を概ね同等にする。これにより、油圧ジャッキ111の作動によるダンパ10L内の油量の変化をキャンセルできる。
【0054】
(f)油圧ジャッキ111内におけるジャッキ室112と背圧室115のそれぞれがダンパチューブ11内のピストン側油室27Aとロッド側油室27Bのそれぞれに連通され、ダンパ10Lの減衰力の圧力によってジャッキ室112の油圧と背圧室115の油圧との間に差圧を生じさせる。ダンパ10Lの伸縮動に応じて(切換弁130を開閉制御し)、油圧ポンプ120がダンパチューブ11内の油室27A、27Bの油を油圧ジャッキ111のジャッキ室112に給排するとき、ダンパ10Lの減衰力の油圧が油圧ジャッキ111のプランジャ113を昇降させる補助的エネルギーとして活用できる。例えば、ダンパ10Lの減衰力の油圧により、ダンパ10Lの伸長行程では油圧ジャッキ111のプランジャ113を没入し、圧縮行程では油圧ジャッキ111のプランジャ113を突き出すように補助できる。
【0055】
車高調整ユニット100Lは、ダンパチューブ11に対するピストンロッド12の伸縮動によりポンピング動作して油圧ジャッキ111のジャッキ室112に作動油を給排する油圧ポンプ120を有する。
【0056】
油圧ポンプ120は、ダンパチューブ11における内筒11Bの上端に設けたエンドピース11Dに立設した中空パイプ121を、ピストンロッド12の中空部によって形成されているポンプ室122に摺動可能に挿入してある。ダンパチューブ11のエンドピース11Dはピストン側油室27Aを減衰力発生装置40、外側流路11C、油溜室32に連絡する連絡孔11Eを備えている。
【0057】
油圧ポンプ120は、ピストンロッド12がダンパチューブ11、中空パイプ121に進入する収縮動により加圧されるポンプ室122の作動油を油圧ジャッキ111の側に吐出させる吐出用チェック弁123を備えるとともに、ピストンロッド12がダンパチューブ11、中空パイプ121から退出する伸長動により負圧になるポンプ室122にダンパチューブ11内の作動油を吸込む吸込用チェック弁124を備える。油圧ポンプ120は吐出用チェック弁123と吸込用チェック弁124をエンドピース11Dに内蔵している。
【0058】
尚、油圧ポンプ120のポンプ室122にダンパチューブ11内の油室27A、27B、油溜室32の油を吸込む吸込口125をダンパチューブ11の外側流路11Cに開口している(
図6、
図7、
図9)。
【0059】
車高調整ユニット100Lにあっては、ダンパチューブ11の外側流路11Cに油圧ポンプ120のポンプ室122への吸込口125を開口したことにより、油圧ポンプ120の吸込口125がダンパチューブ11の油室に直に臨むチューブ内周面に開口されず、このチューブ内周面を摺動するピストン25の摺動・摩耗上の不都合を生じない。
【0060】
従って、油圧ポンプ120は、車両が走行しているダンパ10Lが路面の凹凸により加振され、ピストンロッド12がダンパチューブ11、中空パイプ121に進退する伸縮動によりポンピング動作する。ピストンロッド12の収縮動によるポンピング動作により、ポンプ室122が加圧されるとき、ポンプ室122の油が吐出用チェック弁123を開いて油圧ジャッキ111の側に吐出される。ピストンロッド12の伸長動によるポンピング動作により、ポンプ室122が負圧になると、ダンパチューブ11の油が吸込用チェック弁124を開いてポンプ室122に吸込まれる。
【0061】
車高調整ユニット100Lは、油圧ジャッキ111のジャッキ室112とダンパ10Lの油溜室32(ダンパチューブ11の油室27A、27Bでも可)とを切換接続する電磁式切換弁130を有する。切換弁130は、油圧ジャッキ111のジャッキ室112に供給した作動油を止めるように閉弁し、又は該作動油を油溜室32(ダンパチューブ11の油室27A、27Bでも可)に排出するように開弁する。
【0062】
次に、車高調整装置100の制御手段たるECU140について詳述する。
(車高調整装置100のECU140)(
図9)
車高調整装置100は、ECU(制御手段)140により制御される
図9に示す如くの制御回路を有する。ECU140は、切換弁130のソレノイド130Aに対する通電を制御して該切換弁130を開閉制御することにより、ダンパチューブ11に対するピストンロッド12の伸縮動によりポンピング動作する油圧ポンプ120の吐出油を油圧ジャッキ111のジャッキ室112に給排した作動油の液位、ひいてはジャッキ室112から突出するプランジャ113の突出高さを調整し、車両の車高を調整する。
【0063】
本実施例のECU140は、車高検出手段150、車速センサ161、シフトポジションセンサ162、Gセンサ(加減速センサ)163、サイドスタンドセンサ164、エンジン回転センサ165、ブレーキセンサ166等の検出信号を得て、電磁弁からなる切換弁130をオン/オフ制御する。
【0064】
車高検出手段150としては、油圧ジャッキ111におけるプランジャ113の突出高さ検出手段151、油圧ジャッキ111におけるジャッキ室112の油圧検出手段152、ダンパチューブ11に対するピストンロッド12の伸縮ストローク長検出手段153の1つ、或いはそれらの2つ以上の組合せを採用できる。
【0065】
以下、自動二輪車の車高調整動作として、単一の2ポート2位置電磁弁からなる切換弁130を用いた
図9の制御回路を採用した車高調整装置100について詳述する。尚、
図8の切換弁130はノーマルオープンバルブ(但し、切換弁130はノーマルクローズバルブでも可)とした。
【0066】
ECU140がオフ信号を出力する車高下げ制御モードで、切換弁130が開弁して油圧ジャッキ111のジャッキ室112をダンパチューブ11の油溜室32に接続することにより、油圧ポンプ120が油圧ジャッキ111のジャッキ室112に供給した作動油を油溜室32に排出してジャッキ室112の液位、ひいてはプランジャ113の突出高さを下げ、車高下げ動作可能にする。
【0067】
他方、ECU140がオン信号を出力する車高上げ制御モードで、切換弁130が閉弁して油圧ジャッキ111のジャッキ室112をダンパチューブ11の油溜室32に対して遮断し、油圧ポンプ120が油圧ジャッキ111のジャッキ室112に供給した作動油を排出せず、車高維持又は車高上げ動作可能にする。このとき、ピストンロッド12の前述の伸長動によるポンピング動作により、油圧ポンプ120はダンパチューブ11の油を吸込用チェック弁124からポンプ室122に吸込み可能にする。そして、ピストンロッド12の前述の収縮動によるポンピング動作により、油圧ポンプ120はポンプ室122の油を吐出用チェック弁123から油圧ジャッキ111のジャッキ室112に供給し、車高上げ動作可能にする。
【0068】
車高調整装置100による制御モードは具体的には以下の通りである。
(A)車高下げ制御モード
車高調整装置100において、ECU140は、車両の走行中又は長時間停車中にあって、切換弁130を閉弁して車高上げ動作可能にする車高上げ制御モード下で、下記1〜3のいずれかの制御条件によって切換弁130を開弁する車高下げ制御モードに移行する。
【0069】
1.車速制御
ECU140は、車両の車速Vが車高下げ車速Vd以下(V≦Vd)に入ったときに、車高下げ制御モードに入り、切換弁130を開弁して車高下げ動作可能にする。
ECU140は、車高下げ車速Vdを予め定めておく。Vdは例えば10km/hとする。
【0070】
2.停車予測時間制御
ECU140は、車両の停車予測時間Tを予測し、予測した停車予測時間Tが所定の基準停車時間Ta以下(T≦Ta)になったきに、車高下げ制御モードに入り、切換弁130を開弁して車高下げ動作可能にする。
【0071】
ECU140は、車両の車速から減速度を算出し、又はGセンサから減速度を検出し、減速度から停車予測時間Tを予測する。
【0072】
ECU140は、基準停車時間Taを、油圧ジャッキ111のジャッキ室112に満杯された作動油の排出時間(ジャッキ室112から切換弁130を介してダンパチューブ11の油溜室32に排出する時間)とする。
【0073】
このとき、ECU140は、車両の停車予測時間Tを予測開始すべき基準車速Vaを予め定め、車両の車速Vが基準車速Va以下(V≦Va)になったときに、停車予測時間Tを予測するものとする。
【0074】
尚、ECU140は、停車予測時間制御において、上述のT≦Ta、かつV≦Vaなる制御条件に代え、車両の減速度αが所定の基準減速度αa以上(α≧αa)になったときに車高下げ制御モードに入り、切換弁130を開弁して車高下げ動作可能にするものとしても良い。
【0075】
ECU140は、基準車速Va、基準停車時間Ta、基準減速度αaを予め定めておく。Vaは例えば40km/h、Taは例えば2.5sec、αaは例えば4km/h/secとする。
【0076】
尚、停車予測時間とは、刻々の車両運動パラメータから予測演算される、走行中の車両が直近未来に停止するまでの時間を代表するパラメータであって、時間の次元を有する。
【0077】
実際の比較演算を行なう際には、時間の次元が比較式の両辺に分割されていたり、要素毎に比較を行なう等によって、一見「時間」の次数をとらない比較演算となる場合もある。
【0078】
例えば、最も簡単な停車予測時間の演算式のひとつはT=−V/α=−V・dt/dV(等加速度運動を仮定した場合の演算式)であるが、下記3つの比較式はすべて同一の意味となり、演算上の都合で比較方法の違いは生じても、実効上の意味はすべて停止予測時間の比較演算を行なっているものである。
T<c(cは閾値、ここではc=Ta)
V<−c・α
−α>c・V
【0079】
更に要素毎に比較を行なう例では、(V<c1)∩(−α>c2) (c1、c2は閾値)のように停車予測時間を算出するV、αの要素毎に比較を行ない、論理積をとる等の場合がある。
この場合は、T=−V/αより、Ta=(−c1)/(−c2)=c1/C2と表せる。
【0080】
3.サイドスタンド制御
ECU140は、車両のサイドスタンドが待機位置から作業位置に設定替えされたことを検出したときに車高下げ制御モードに入り、切換弁130を開弁して車高下げ動作可能にする。また、車速を監視して、車速が微速以上(例えば5km/s)ある場合はスタンド位置が、作業位置にあっても、下げ制御を行なわないで、車速が0の場合のみ下げ制御を実施する様な制御を行なうことができる。
【0081】
(B)車高上げ制御モード
車高調整装置100において、ECU140は、上述(A)により切換弁130を開弁保持した車高下げ制御モード中に、下記1〜4のいずれかの制御条件によって切換弁130を閉弁する車高上げ制御モードに移行する。
【0082】
尚、ECU140は、車高上げ制御モードに入って切換弁130を開弁状態から閉弁するとき、切換弁130への印加電圧E0をオフする(E0=OV)。
【0083】
1.車速制御
ECU140は、車両の車速Vが車高下げ車速Vd(車高下げ車速Vdとは独立に定めた車高上げ車速Vuでも可)を越えた(V>Vd、又はV>Vu)ときに、車高下げ制御モードを中止し、車高上げ制御モードに入り、切換弁130を閉弁して車高上げ動作可能にする。
【0084】
ECU140は、車高下げ車速Vd(又は車高上げ車速Vu)を予め定めておく。Vd又はVuは例えば40km/hとする。
【0085】
2.停車予測時間制御
ECU140は、車両の停車予測時間Tを予測し、予測した停車予測時間Tが所定の副次的基準停車時間Tbを越えた(T>Tb)ときに、車高下げ制御モードを中止し、車高上げ制御モードに入り、切換弁130を閉弁して車高上げ動作可能にする。
【0086】
ECU140は、車両の停車予測時間Tを、車両の減速度(又は加速度)から予測する。
このとき、ECU140は、車両の停車時間Tを予測開始すべき副次的基準車速Vbを予め定め、車両の車速Vが副次的基準車速Vbを越えた(V>Vb)ときに、停車予測時間Tを予測するものとする。
【0087】
尚、ECU140は、停車予測時間制御において、上述のT>Tb、かつV>Vbなる制御条件に代え、車両の加速度βが所定の基準加速度βbを越えた(β>βb)ときに、車高下げ制御モードを中止し、車高上げ制御モードに入り、切換弁130を閉弁して車高上げ動作可能にするものとしても良い。
【0088】
ECU140は、副次的基準車速Vb、副次的基準停車時間Tb、基準加速度βbを予め定めておく。Vbは例えば40km/h、Tbは例えば3sec、βbは例えば5km/h/secとする。
【0089】
3.長時間停車制御
ECU140は、車両の停車時間が所定の継続停車時間Tc以上になったときに、車高下げ制御モードを中止し、車高上げ制御モードに入り、切換弁130を閉弁して車高上げ動作可能にする。
ECU140は、車両の継続停車時間Tcを予め定めておく。Tcは例えば30secとする。
【0090】
4.ニュートラル制御
ECU140は、車両の車速V=0、かつシフトポジションがニュートラルのときに、車高下げ制御モードを中止し、車高上げ制御モードに入り、切換弁130を閉弁して車高上げ動作可能にする。
【0091】
(C)車高保持モード
車高調整装置100において、ECU140は、車両の走行中にあって、車高検出手段150の検出結果によって切換弁130を開閉制御することにより、車高を予め所望により設定した任意の中間高さ位置に保持する。
【0092】
即ち、ECU140が切換弁130をオン作動(車高上げ制御モード)からオフ作動に切換えて開弁し、車高下げ開始する車高の上閾値をH1に設定し、ECU140が切換弁130をオフ作動(車高下げ制御モード)からオン作動に切換えて閉弁し、車高上げ開始する車高の下閾値をH2に設定する。これにより、ECU140は、車高検出手段150の検出結果によって、自動二輪車の走行中の車高を、H1とH2に挟まれる中間高さ位置に保持するものになる。
【0093】
従って、このような車高調整装置100によれば、車高は、油圧ジャッキ111におけるプランジャ113の最高突出可能端が定める最大高さ位置と、油圧ジャッキ111におけるプランジャ113の最低没入可能端が定める最小高さ位置との間で、任意の中間高さ位置に保持され得る。
【0094】
また、車高の切換手段たる切換弁130として電磁弁を採用することにより、車高を瞬時に切換えできる。
【0095】
尚、車高検出手段150として、油圧ジャッキ111におけるプランジャ113の突出高さ検出手段151を採用することにより、検出時の車高を推測できる。
【0096】
また、車高検出手段150として、油圧ジャッキ111におけるジャッキ室112の油圧検出手段152を採用することにより、検出時の車高を推測できる。このとき、油圧検出手段152の検出結果をフィルタ(ローパス)にかけることによって、車重(積載荷重)を推定できる。車重が重くて車高が下がり気味のときには、車高を上げてダンパ10Lの底突を回避する。車重が軽くて車高が上がり気味のときには、車高を下げてダンパ10Lの伸切を回避する。
【0097】
また、車高検出手段150として、ダンパチューブ11に対するピストンロッド12の伸縮ストローク長検出手段153を採用することにより、検出時の車高を推測できる。このとき、伸縮ストローク長検出手段153の検出結果をフィルタ(バンドパス)にかけることによって路面の凹凸状況(振幅状況)を推定できる。路面の振幅が大きいときには、車高を上げてダンパ10Lの底突を回避し、又は車高を適宜高さに調整してダンパ10Lの底突と伸切の双方を回避する。路面の振幅が小さいときには、オンロード車であれば風の抵抗を緩和するために車高を下げ、オフロード車であれば車両の前後の揺れ(ピッチング)を防ぐために車高を下げる。
【0098】
従って、本実施例の車高調整装置100によれば以下の作用効果を奏する。
(a)左右一方のダンパ10Lにだけ車高調整ユニット100Lを設けたから、車高調整装置100の占有スペース、重量を小さくし、コスト低減できる。
【0099】
ここで、ECU140は、車両の停車予測時間を予測し、予測した停車予測時間が所定の基準停車時間以下になったときに車高下げ制御モードに入り、切換弁130を切換えて車高下げ動作可能にする。停車が近づいてきた走行中から車高を下げ、車両が停車するまでの短時間内に車高を下げ切り、足付き性を良くし、安定性を確保できる。
【0100】
(b)また、ECU140は、車高検出手段150が検出した車高の検出結果によって切換弁130を切換制御し、車高を任意の位置に保持可能にする。従って、車高は、油圧ジャッキ111におけるプランジャ113の最高突出可能端が定める最大高さ位置と、油圧ジャッキ111におけるプランジャ113の最低没入可能端が定める最小高さ位置との間で、任意の中間高さ位置に保持され得る。
【0101】
(c)前記左右両側のダンパ10L、10Rに懸架スプリング13L、13Rを設け、前記左右一方のダンパ10Lに設けた懸架スプリング13Lのばね荷重を前記左右他方のダンパ10Rに設けた懸架スプリング13Rのばね荷重より大きく設定する。これにより、車高調整ユニット100Lを設けたことによってばね受荷重が増大するダンパ10Lに対する懸架スプリング13Lの支持能力を向上できる。
【0102】
左右一方のダンパ10Lに設けた懸架スプリング13Lを、左右他方のダンパ10Rに設けた懸架スプリング13Rのばね定数より大きくすることで、ばね荷重を大きくすることもできる。
【0103】
図10は、
図1に示した前記実施例に対する変形例の車高調整装置100であり、前述の左右両側のダンパ10L、10Rにおいて、左右一方のダンパ10Lにだけ懸架スプリング13Lを設けた。そして、左右他方のダンパ10Rから懸架スプリング13Rを撤去して、該ダンパ10Rには懸架スプリングを設けないものとした。
【0104】
このとき、左右一方のダンパ10Lに設けた油圧ジャッキ111におけるプランジャ113の昇降量を、左右両方のダンパ10L、10Rに前述の車高調整ユニット100Lと同様の車高調整ユニットを設けたとするときの当該油圧ジャッキ111におけるプランジャ113の昇降量の2倍相当にする。
【0105】
従って、本変形例の車高調整装置100によれば以下の作用効果を奏する。
(a)前記左右一方のダンパ10Lにだけ懸架スプリング13Lを設け、左右他方のダンパ10Rには懸架スプリング13Lを設けない。これにより、車高調整ユニット100Lを設けないダンパには懸架スプリング13Lを設けず、車高調整装置100の占有スペース、重量を小さくし、コスト低減できる。
【0106】
(b)前記左右一方のダンパ10Lに設けた油圧ジャッキ111の昇降量を、前記左右両方のダンパ10L、10Rに前記車高調整ユニット100Lを設けたとするときの当該油圧ジャッキ111の昇降量の2倍相当にする。これにより、車高調整ユニット100Lと懸架スプリング13Lを片側のダンパ10Lにだけ設けたことによる当該懸架スプリング13Lのばね撓みに起因するばね荷重を2倍相当にできる。
【0107】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、左右一方のダンパ10Lにだけ車高調整ユニット100Lを設けた車高調整装置100において、左右他方のダンパ10Rに主たる減衰力発生装置40を設け、左右一方のダンパ10Lには減衰力発生装置を設けない、又は補助的な減衰力発生装置のみを設けるものとする。これにより、車高調整ユニット100Lを設けないダンパ10Rには主たる減衰力発生装置40を設け、車高調整ユニット100Lを設けたダンパ10Lには減衰力発生装置を設けない、又は補助的な減衰力発生装置のみを設けることにより、左右のダンパ10L、10Rの重量バランスをとることができる。
【0108】
また、本発明はフロントフォークの左右の一対をなすダンパにおいても同様に適用できる。