特許第6012401号(P6012401)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6012401通信システム、基地局及び基地局の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012401
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】通信システム、基地局及び基地局の制御方法
(51)【国際特許分類】
   H04W 72/04 20090101AFI20161011BHJP
   H04W 56/00 20090101ALI20161011BHJP
【FI】
   H04W72/04 131
   H04W56/00 130
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-238021(P2012-238021)
(22)【出願日】2012年10月29日
(65)【公開番号】特開2014-90254(P2014-90254A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2015年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100153017
【弁理士】
【氏名又は名称】大倉 昭人
(74)【代理人】
【識別番号】100158148
【弁理士】
【氏名又は名称】荒木 淳
(72)【発明者】
【氏名】末吉 亮
【審査官】 松野 吉宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−044720(JP,A)
【文献】 SIEMENS,TDD Synchronisation,R1-99165,フランス,3GPP,1999年 3月17日,paragraph 3,4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24 − 7/26
H04W 4/00 − 99/00
3GPP TSG RAN WG1−4
SA WG1−2
CT WG1
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信端末からの信号の遅延時間に応じて、通信端末に割り当てられるタイムスロットを決定し、前記タイムスロットと前記遅延時間の範囲との対応付けを行う基地局を含む通信システムにおいて、
前記基地局は、
あるタイムスロットで前記基地局と通信中の通信端末からの信号の遅延時間が、前記タイムスロットに対応付けられた遅延時間の範囲外となる場合に、前記通信端末の前記信号の許容遅延時間に基づき遅延時間を増加できる場合、増加された遅延時間に対応するタイムスロットを前記通信端末に割り当て直す
通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の通信システムにおいて、
前記基地局は、
前記通信端末の前記信号の許容遅延時間に基づき遅延時間を増加できない場合、当該遅延時間を含むように、前記タイムスロットに対応する遅延時間の範囲を変更する
ことを特徴とする通信システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の通信システムにおいて、
前記基地局に隣接する隣接基地局をさらに含み、
前記タイムスロットと前記遅延時間の範囲との対応付けをそれぞれの基地局間で互いに同一にし、
前記基地局は、
前記タイムスロットに対応する遅延時間の範囲を変更したとき、タイムスロットと遅延時間の範囲との変更された対応付けを前記隣接基地局に送信し、
前記隣接基地局は、
変更された前記対応付けに基づいて、自局におけるタイムスロットと遅延時間の範囲との対応付けを変更する
ことを特徴とする通信システム。
【請求項4】
請求項に記載の通信システムにおいて、前記隣接基地局は、自局の前記対応付けの変更に応じて、変更前から通信中の通信端末にタイムスロットを割り当て直す
ことを特徴とする通信システム。
【請求項5】
通信端末からの信号の遅延時間に応じて、通信端末に割り当てられるタイムスロットを決定し、前記タイムスロットと前記遅延時間の範囲との対応付けを行う制御部を備える基地局において、
前記制御部は、あるタイムスロットで前記基地局と通信中の通信端末からの信号の遅延時間が、前記タイムスロットに対応付けられた遅延時間の範囲外となる場合に、前記通信端末の前記信号の許容遅延時間に基づき遅延時間を増加できる場合、増加された遅延時間に対応するタイムスロットを前記通信端末に割り当て直す
基地局。
【請求項6】
通信端末からの信号の遅延時間に応じて、通信端末に割り当てられるタイムスロットを決定し、前記タイムスロットと前記遅延時間の範囲との対応付けを行う制御部を備える基地局の制御方法において、
あるタイムスロットで前記基地局と通信中の通信端末からの信号の遅延時間が、前記タイムスロットに対応付けられた遅延時間の範囲外となる場合に、前記通信端末の前記信号の許容遅延時間に基づき遅延時間を増加できる場合、遅延時間を増加させるステップと、
増加された遅延時間に対応するタイムスロットを前記通信端末に割り当て直すステップと
を含む基地局の制御方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信システム、基地局及び基地局の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通信性能の向上を実現する次世代通信システムとして、LTE(Long Term Evolution)システムやXGP(eXtended Global Platform)システムなどが注目されている。これらのシステムは、TDMA/TDD(Time Division Multiple Access/Time Divisional Duplex:時分割多元接続/時分割複信)を採用することができる。TDMA/TDDを採用するシステムでは、複数の上りタイムスロットを含む上りフレームと、複数の下りタイムスロットを含む下りフレームとが時間軸上において交互に配置される。複数の上りタイムスロット及び下りタイムスロットは、基地局と通信する通信端末それぞれに割り当てられる。
【0003】
TDMA/TDDを採用するシステムでは、共通クロックの同期タイミングを基準に、基地局の受信タイミングと通信端末の送信タイミングとが決定される。通信端末から送信された信号(送信信号)は、通信端末と基地局との間の通信距離に応じて遅延する。そのため、通信端末が、基地局の受信タイミングと同じタイミングで信号を送信すると、この信号は、受信タイミングよりも遅れて基地局に届くことになる。そこで、通信端末は、送信信号が同期タイミングに設定された受信タイミングに届くように、伝搬遅延を考慮し、送信タイミングを同期タイミングよりも早めに設定する。
【0004】
基地局から離れている通信端末ほど、伝搬遅延が長くなるので送信タイミングを早めることになる。そのため、同期タイミングと送信タイミングとの間の時間(ずらし時間)が長くなる。ずらし時間が上りタイムスロット間のガードタイムを越えると、通信端末は、他の通信端末の上りタイムスロット内で、信号を送信してしまうことがある。この場合、通信端末同士の干渉が発生することになる。
【0005】
そこで、通信端末同士の干渉を抑えるように、上りタイムスロットを通信端末に割り当てる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の技術は、基地局と通信端末との間の距離に応じて、通信端末に割り当てる上りタイムスロットを決定するものである。基地局から遠い通信端末(伝搬遅延が長い通信端末)から順に、上りフレームの先頭の上りタイムスロットから割り当てられる。これにより、ある上りタイムスロットのずらし時間よりも前の(先頭側の)上りタイムスロットのずらし時間の方が長くなるため、上りタイムスロット同士が重なることはなくなる。よって、通信端末同士の干渉は抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−167010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、引用文献1の技術は、通信端末同士の干渉を抑えるものの、互いに隣接する基地局同士の干渉については何ら検討されていない。
【0008】
ある基地局501aが通信端末503a及び503bと通信し、基地局501aに隣接する他の基地局501bが通信端末503c及び503dと通信しているとする。図10のように、通信端末503aの受信期間531aと、通信端末503cの受信期間531cとが、共通しているとする。また、通信端末503bの受信期間531bと、通信端末503dの受信タイミング531dとが、共通しているとする。
【0009】
そして、基地局501aと通信端末503a及び503bとの距離が、基地局501bと通信端末503c及び503dとの距離よりも長いとする。この場合、基地局501aは、伝搬遅延を考慮して、基地局501bよりも早く信号を送信することになる。つまり、基地局501aは、通信端末503a及び503bにそれぞれ割り当てる下りタイムスロット533a及び533bを図10のように設定する。また、通信端末503c及び503dにそれぞれ割り当てる下りタイムスロット533c及び533dを図10のように設定する。
【0010】
すると、図10のように、基地局501aの通信端末503b用の下りタイムスロット533bと、基地局501bの通信端末503c用の下りタイムスロット533cとが重なることがある。この場合、基地局同士が干渉することになる。
【0011】
従って、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、基地局同士が干渉する可能性を効率的に低減できる通信システム、基地局、隣接基地局及び通信制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した諸課題を解決すべく、第1の観点に係る通信システムの発明は、
通信端末からの信号の遅延時間に応じて、通信端末に割り当てられるタイムスロットを決定し、前記タイムスロットと前記遅延時間の範囲との対応付けを行う基地局を含む通信システムにおいて、
前記基地局は、
あるタイムスロットで前記基地局と通信中の通信端末からの信号の遅延時間が、前記タイムスロットに対応付けられた遅延時間の範囲外となる場合に、前記通信端末の前記信号の許容遅延時間に基づき遅延時間を増加できる場合、増加された遅延時間に対応するタイムスロットを前記通信端末に割り当て直す
通信システムである。
【0013】
また、第2の観点に係る発明は、第1の観点に係る通信システムにおいて、
前記基地局は、
前記通信端末の前記信号の許容遅延時間に基づき遅延時間を増加できない場合、当該遅延時間を含むように、前記タイムスロットに対応する遅延時間の範囲を変更する
ことを特徴とするものである。
【0014】
また、第3の観点に係る発明は、第1又は第2の観点に係る通信システムにおいて、
前記基地局に隣接する隣接基地局をさらに含み、
前記タイムスロットと前記遅延時間の範囲との対応付けをそれぞれの基地局間で互いに同一にし、
前記基地局は、
前記タイムスロットに対応する遅延時間の範囲を変更したとき、タイムスロットと遅延時間の範囲との変更された対応付けを前記隣接基地局に送信し、
前記隣接基地局は、
変更された前記対応付けに基づいて、自局におけるタイムスロットと遅延時間の範囲との対応付けを変更する
ことを特徴とするものである。
【0017】
また、第の観点に係る発明は、第の観点に係る通信システムにおいて、前記隣接基地局は、自局の前記対応付けの変更に応じて、変更前から通信中の通信端末にタイムスロットを割り当て直すことを特徴とするものである。
【0019】
また、第の観点に係る発明は、
通信端末からの信号の遅延時間に応じて、通信端末に割り当てられるタイムスロットを決定し、前記タイムスロットと前記遅延時間の範囲との対応付けを行う制御部を備える基地局において、
前記制御部は、あるタイムスロットで前記基地局と通信中の通信端末からの信号の遅延時間が、前記タイムスロットに対応付けられた遅延時間の範囲外となる場合に、前記通信端末の前記信号の許容遅延時間に基づき遅延時間を増加できる場合、増加された遅延時間に対応するタイムスロットを前記通信端末に割り当て直す
基地局である。
【0021】
上述したように本発明の解決手段を装置として説明してきたが、本発明はこれらに実質的に相当する方法、プログラム、プログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものであり、本発明の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0022】
例えば、本発明を方法として実現させた第の観点に係る基地局の制御方法は、
通信端末からの信号の遅延時間に応じて、通信端末に割り当てられるタイムスロットを決定し、前記タイムスロットと前記遅延時間の範囲との対応付けを行う制御部を備える基地局の制御方法において、
あるタイムスロットで前記基地局と通信中の通信端末からの信号の遅延時間が、前記タイムスロットに対応付けられた遅延時間の範囲外となる場合に、前記通信端末の前記信号の許容遅延時間に基づき遅延時間を増加できる場合、遅延時間を増加させるステップと、
増加された遅延時間に対応するタイムスロットを前記通信端末に割り当て直すステップと
を含む基地局の制御方法である。
【発明の効果】
【0023】
上記のように構成された本発明に係る通信システム、基地局、隣接基地局及び通信制御方法によれば、基地局同士が干渉する可能性を効率的に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る概略的な通信システム構成図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る基地局の概略構成を示す機能ブロック図である。
図3図3は、本発明の一実施形態に係る基地局の処理を示すフローチャートである。
図4図4は、本発明の一実施形態に係る隣接基地局の処理を示すフローチャートである。
図5図5は、本発明の一実施形態に係るタイムスロットと遅延時間範囲との対応付けを示す説明図である。
図6図6は、本発明の一実施形態に係る通信端末へのタイムスロットの割当てを示す説明図である。
図7図7は、本発明の一実施形態に係る通信端末へのタイムスロットの割当てを示す説明図である。
図8図8は、本発明の一実施形態に係る通信端末へのタイムスロットの割当てを示す説明図である。
図9図9は、本発明の一実施形態に係る通信端末へのタイムスロットの割当てを示す説明図である。
図10図10は、従来の基地局同士の干渉を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係る概略的な通信システム構成図である。通信システム100は、基地局101(基地局101a及び101b)と通信端末103(通信端末103a、103b、103c及び103d)とから構成されている。通信システム100は、TDMA/TDDを採用するシステムであり、例えばLTEシステムやXGPシステムである。基地局101は、上りタイムスロット及び下りタイムスロットを通信端末103に割り当てて、通信端末103と無線通信する。上りタイムスロットは、基地局101が通信端末103からの信号を受信するための時間間隔であり、下りタイムスロットは、基地局101が通信端末103に信号を送信するための時間間隔である。上りタイムスロット及び下りタイムスロットは、それぞれ複数存在し、基地局101は、通信接続を要求する1つの通信端末103に対して、1つ以上の上りタイムスロット及び1つ以上の下りタイムスロットを割り当てる。
【0026】
基地局101a及び101bは、互いに隣接している。隣接するとは、基地局101aのセル(サービスエリア)と基地局101bのセルとが重なることを意味する。以下、基地局101aを基地局と称し、基地局101aに隣接する基地局101bを隣接基地局と称する。なお、基地局101a及び隣接基地局101bにおいて共通する事項の説明においては、基地局101a及び隣接基地局101bを区別せず基地局101と表現する。
【0027】
図2は、本発明の一実施形態に係る基地局の概略構成を示す機能ブロック図である。本実施形態の基地局101は、通信部111と、ベースバンド部113と、制御部117とを備えている。通信部111及びベースバンド部113は、制御部117に接続されている。
【0028】
通信部111は、アンテナを介して通信端末103と、無線通信により、データ(無線信号)を送受信するものである。通信部111は、受信した信号(受信信号)に対して低雑音での増幅及びダウンコンバート等を行い、当該信号をベースバンド部113に送る。また、通信部111は、ベースバンド部113からの信号に対してアップコンバート及び増幅等を行い、送信信号を生成する。そして、通信部111は、アンテナを介して当該送信信号を通信端末103に送信する。
【0029】
また、通信部111は、基地局間の有線ネットワークを介して、他の基地局101と通信接続し、信号を送受信することもできる。この場合、通信部111は、例えば、X2インタフェースにより実現される。X2インタフェースは、3GPP(3rd Generation Partnership Project)で規定された基地局間インタフェースである。図2においては、通信部111を1つの機能ブロックとして表現しているが、本発明は、通信部111を有線通信及び無線通信双方の機能を有する1つのハードウェアによって実現することに限定されるものではない。例えば、通信部111を有線通信及び無線通信の用途に応じた別個のハードウェアにより実現することもできる。
【0030】
ベースバンド部113は、通信部111からの受信信号に対してAD変換や高速フーリエ変換などを行うことにより、受信信号を復調し、ベースバンド信号を取り出す。そして、ベースバンド部113は、ベースバンド信号を制御部117に送る。また、ベースバンド部113は、制御部117からのベースバンド信号に対して逆高速フーリエ変換やDA変換などを行うことにより、ベースバンド信号を変調する。そして、ベースバンド部113は、変調されたベースバンド信号を通信部111に送る。
【0031】
制御部117は、基地局101の各機能ブロックをはじめとして基地局101の全体を制御及び管理している。制御部117は、CPU(中央処理装置)等の任意の好適なプロセッサ上で実行されるソフトウェアとして構成したり、処理ごとに特化した専用のプロセッサ(例えばDSP(デジタルシグナルプロセッサ))によって構成したりすることもできる。制御部117が行う処理については、後述の図3及び図4の説明にて詳述する。
【0032】
続いて、図3及び図4を用いて、基地局101a及び隣接基地局101bの処理について説明する。図3は、本発明の一実施形態に係る基地局の処理を示すフローチャートである。図4は、本発明の一実施形態に係る隣接基地局の処理を示すフローチャートである。なお、図2に示した基地局101の各機能ブロックに関する参照符号として、基地局101aに関する機能ブロックの参照符号にはaを、隣接基地局101bに関する機能ブロックの参照符号にはbを付して説明する。
【0033】
基地局101aの制御部117aは、通信端末103からの信号の遅延時間に応じて、通信端末に割り当てられる下りタイムスロット121aを決定する。つまり、制御部117aは、複数の下りタイムスロット121aそれぞれに対応する遅延時間の範囲(遅延時間範囲)を設定する(ステップS101)。通信端末103からの信号の遅延時間とは、通信端末103が信号を送信してから、基地局101aが当該信号を受信するまでにかかる伝搬遅延のことである。遅延時間範囲は、隣り合う下りタイムスロット間のガードタイムの長さや基地局間の許容干渉時間等によって任意に設定される事項である。
【0034】
制御部117aは、例えば、図5のように、4つの下りタイムスロット121a−1〜121a−4に遅延時間範囲を設定する。制御部117aは、タイムスロット121a−1に、0[ms]以上50[ms]未満(0〜50[ms])の遅延時間範囲を、タイムスロット121a−2に、50[ms]以上100[ms]未満(50〜100[ms])の遅延時間範囲を、タイムスロット121a−3に、100[ms]以上150[ms]未満(100〜150[ms])の遅延時間範囲を、タイムスロット121a−4に、150[ms]以上200[ms]未満(150〜200[ms])の遅延時間範囲を、それぞれ対応付ける。
【0035】
そして、制御部117aは、基地局101aの下りタイムスロットと遅延時間範囲との対応付けを隣接基地局101bに送信するように、通信部111aを制御する(ステップS102)。
【0036】
すると、隣接基地局101bの通信部111bは、基地局101aの下りタイムスロットと遅延時間範囲との対応付けを受信し(ステップS201)、当該対応付けを制御部117bに送る。制御部117bは、受信した基地局101aの対応付けに基づいて、隣接基地局101bにおける下りタイムスロット121bと遅延時間範囲との対応付けを決定する(ステップS202)。つまり、制御部117bは、基地局101aの下りタイムスロット121aと時間位置が共通する下りタイムスロット121bに、下りタイムスロット121aと同一の遅延時間範囲を設定する。これにより、基地局101aにおけるタイムスロットと遅延時間範囲との対応付けと、隣接基地局101bにおけるタイムスロットと遅延時間範囲との対応付けとが、基地局間で互いに同一となる。
【0037】
制御部117bは、例えば、図5のように、基地局101aの対応付けに基づいて、4つの下りタイムスロット121b−1〜121b−4に遅延時間範囲を設定する。制御部117bは、タイムスロット121b−1に、0[ms]以上50[ms]未満(0〜50[ms])の遅延時間範囲を、タイムスロット121b−2に、50[ms]以上100[ms]未満(50〜100[ms])の遅延時間範囲を、タイムスロット121b−3に、100[ms]以上150[ms]未満(100〜150[ms])の遅延時間範囲を、タイムスロット121b−4に、150[ms]以上200[ms]未満(150〜200[ms])の遅延時間範囲を、それぞれ対応付ける。
【0038】
ここで、通信端末103a及び103bが、基地局101aに通信接続を要求するとする。すると、基地局101aの制御部117aは、通信端末103a及び103bからの信号の遅延時間を算出する(ステップS103)。制御部117aは、遅延時間を、例えば、接続要求信号に含められた参照シンボル(パイロット信号)と、予め基地局101aに記憶されている理想的な参照シンボルとの相関演算といった従来公知の算出方法により求めることができる。また、通信端末103a及び103bが、送信時刻を示す情報(タイムスタンプ)を、接続要求信号に付加している場合、制御部117aは、このタイムスタンプの受信時刻を測定し、受信時刻から送信時刻を減算することにより、遅延時間を求めることもできる。時刻の測定は、例えば、基地局101a及び通信端末103a及び103bがRTC(Real Time Clock:リアルタイムクロック)を備えることにより実現できる。なお、遅延時間は、1つの受信信号に基づく算出に限定されるものではなく、制御部117aは、例えば、複数回に亘る受信信号それぞれの算出結果の平均等により、遅延時間を特定することもできる。
【0039】
そして、制御部117aは、算出した遅延時間を含む遅延時間範囲に対応付けられた下りタイムスロット121aを通信端末103a及び103bに割り当てる(ステップS104)。例えば、通信端末103a及び103bからの信号の遅延時間がそれぞれ75[ms]及び135[ms]である場合、制御部117aは、図6のように、通信端末103a及び103bに、下りタイムスロット121a−2及び121a−3をそれぞれ割り当てる。下りタイムスロット121a−1及び121a−4は、通信端末が割り当てられず、空くことになる。
【0040】
ここで、通信端末103c及び103dが、隣接基地局101bに通信接続を要求するとする。すると、隣接基地局101bの制御部117bは、通信端末103c及び103dからの信号の遅延時間を算出する(ステップS203)。
【0041】
そして、制御部117bは、算出した遅延時間を含む遅延時間範囲に対応付けられた下りタイムスロット121bを通信端末103c及び103dに割り当てる(ステップS204)。例えば、通信端末103c及び103dからの信号の遅延時間がそれぞれ80[ms]及び140[ms]である場合、制御部117bは、図6のように、通信端末103c及び103dに、下りタイムスロット121b−2及び121b−3をそれぞれ割り当てる。これにより、下りタイムスロット121b−2での隣接基地局101bの送信タイミングは、下りタイムスロット121a−2での基地局101aの送信タイミングよりも、5[ms](=80−75)早まることになる。
【0042】
仮に、隣接基地局101bにおいてステップS201及びステップS202の処理が行われないと、隣接基地局101bは、通信端末103c及び103dに、下りタイムスロット121bを任意に割り当てることになる。例えば、隣接基地局101bは、140[ms]の遅延時間を伴う通信端末103dに、下りタイムスロット121b−2を割り当てることがある。この場合、下りタイムスロット121b−2での隣接基地局101bの送信タイミングは、下りタイムスロット121a−2での基地局101aの送信タイミングよりも、65[ms](=140−75)早まることになる。すると、下りタイムスロット121b−2に通信端末103cが割り当てられる場合に比べ、隣接基地局101bの下りタイムスロット121b−2が、基地局101aの下りタイムスロット121a−1と重なる可能性が高くなってしまうことになる。
【0043】
ステップS104の後、基地局101aの制御部117aは、通信中の通信端末103aからの信号の遅延時間を、定期的又は不定期的に算出する。そして、制御部117aは、遅延時間を算出する毎に、遅延時間が下りタイムスロット121a−2に対応付けられた遅延時間範囲に含まれているか否かを判定する(ステップS105)。
【0044】
算出された遅延時間が下りタイムスロット121a−2に対応付けられた遅延時間範囲外となる場合(ステップS105のYes)、つまり遅延時間が50[ms]未満又は100[ms]以上である場合、制御部117aは、この遅延時間を含む遅延時間範囲に対応付けられた下りタイムスロットが空いているか否かを判定する(ステップS106)。
【0045】
遅延時間に対応する下りタイムスロットが空いている場合(ステップS106のYes)、制御部117aは、通信端末103aにこの下りタイムスロットを割り当て直す(ステップS107)。例えば、通信端末103aからの信号の遅延時間が130[ms]になり(ステップS105のYes)、下りタイムスロット121a−3が他の通信端末に割り当てられていない場合(ステップS106のYes)、制御部117aは、通信端末103aに下りタイムスロット121a−3を割り当て直すことができる(ステップS107)。
【0046】
本実施形態では、下りタイムスロット121a−3は、通信端末103bに割り当てられているため(ステップS106のNo)、制御部117aは、遅延時間を増加できるか否かを判定する(ステップS108)。ここで、制御部117aは、ステップS108の判定のために、LTEのQoS(Quality of Service)制御において信号に付加されるQCI(QoS Class Identifier)というパラメータを利用することができる。QCIは、QCIを有する信号が要求する通信品質を定めるものであり、1〜9の値をとる。それぞれの値には対応する許容遅延時間や許容データ損失率等が規定されている。そのため、制御部117aは、通信端末103aからの信号に付加されたQCIの値から、当該信号の許容遅延時間を特定することができる。なお、通信端末103aは、QCIではなく、許容遅延時間を示す信号自体を基地局101aに送信してもよい。
【0047】
遅延時間を増加しても信号が要求する品質が満たされる場合(ステップS108のYes)、制御部117aは、送信タイミングを遅らせたり、送信信号を一時的にバッファに蓄積したりすることにより、擬似的に遅延時間を発生させて、遅延時間を増加させる(ステップS109)。そして、制御部117aは、増加した遅延時間に対応する下りタイムスロットを割り当て直す(ステップS107)。
【0048】
例えば、通信端末103aからの信号の遅延時間が130[ms]であり、当該信号の許容遅延時間が300[ms]であるとする。この場合、制御部117aは、遅延時間を300[ms]までは増加させることができる(ステップS108のYes)。
【0049】
本実施形態では、下りタイムスロット121a−4は空いているので、制御部117aは、例えば、遅延時間を150[ms]まで増加させる(ステップS109)。そして、制御部117aは、図7のように、通信端末103aに下りタイムスロット121a−4を割り当て直すことができる(ステップS107)。
【0050】
ステップS108において、遅延時間を増加できない場合は(ステップS108のNo)、制御部117aは、ステップS101の処理で設定した下りタイムスロットと遅延時間範囲との対応付けを変更する(ステップS110)。つまり、制御部117aは、通信中の通信端末103aに割り当てている下りタイムスロット121a−2に対応する遅延時間範囲を、算出された遅延時間を含むように変更する。
【0051】
例えば、通信端末103aからの信号の遅延時間が130[ms]である場合、制御部117aは、図8のように、下りタイムスロット121a−2に対応する遅延時間範囲を、50[ms]以上100[ms]未満の範囲から、100[ms]以上150[ms]未満の範囲に変更する。
【0052】
そして、制御部117aは、下りタイムスロットと遅延時間範囲との変更された対応付けを、隣接基地局101bに送信するように通信部111aを制御する(ステップS111)。
【0053】
すると、隣接基地局101bの通信部111bは、変更された対応付けを受信し(ステップS205のYes)、変更された対応付けを制御部117bに送る。制御部117bは、基地局101aの変更された対応付けに基づいて、隣接基地局101bにおける下りタイムスロットと遅延時間範囲との対応付けを変更する(ステップS206)。つまり、制御部117bは、下りタイムスロット121b−2の遅延時間範囲を、下りタイムスロット121a−2に対応する遅延時間範囲と同一の100[ms]以上150[ms]未満の範囲に変更する。
【0054】
ここで、隣接基地局101bは、ステップS204の処理により、下りタイムスロット121b−2を、80[ms]の遅延時間を伴う通信端末103cに割り当てている。対応付けの変更に伴い、通信端末103cの遅延時間は、下りタイムスロット121b−2に対応する遅延時間範囲に含まれなくなる。そのため、隣接基地局101bは、下りタイムスロットの割当直しを行う(ステップS207)。
【0055】
例えば、通信端末103cに関する遅延時間を増加できる場合、制御部117bは、下りタイムスロット121b−2の変更された遅延時間範囲に含まれる遅延時間にまで、通信端末103cに関する遅延時間を増加させる。この場合、下りタイムスロットの割当直しにより、通信端末103cに割り当てられる下りタイムスロットは変わらないことになる。
【0056】
通信端末103cに関する遅延時間を増加できない場合には、制御部117bは、他の空いている下りタイムスロットに対応する遅延時間範囲を変更する。例えば、本実施形態では、下りタイムスロット121b−4が空いているので、下りタイムスロット121b−4の遅延時間範囲を、150[ms]以上200[ms]未満の範囲から、50[ms]以上100[ms]未満の範囲に変更する。これにより、制御部117bは、図8のように、下りタイムスロット121b−4を通信端末103cに割り当てる。
【0057】
隣接基地局101bで、更なる対応付けの変更が行われると、隣接基地局101bは、下りタイムスロットと遅延時間範囲との変更された対応付けを基地局101aに送信し、基地局101aは、図9のように、空いている下りタイムスロット121a−4に対応する遅延時間範囲を50[ms]以上100[ms]未満の範囲に変更することになる。
【0058】
このように本実施形態では、基地局101a及び隣接基地局101bは、通信端末103からの信号の遅延時間に応じて、通信端末103に割り当てられる下りタイムスロットを決定し、下りタイムスロットと遅延時間範囲との対応付けを基地局間で互いに同一にする。これにより、隣接する基地局同士において、時間位置が共通する下りタイムスロット121a−1及び121b−1には、遅延時間が近い通信端末103a及び103cがそれぞれ割り当てられる。そのため、基地局101a及び101bが、遅延時間を考慮して、送信タイミングを早めても、送信タイミングのずらし時間間隔が基地局101a及び101bにおいて極端に異なることはない。よって、基地局101aの下りタイムスロット121a−2が、当該下りタイムスロットよりも時間的に前である隣接基地局101bの下りタイムスロット121b−1に重なり難くなる。また、同様に、隣接基地局101bの下りタイムスロット121b−2が、当該下りタイムスロットよりも時間的に前である基地局101aの下りタイムスロット121a−1に重なり難くなる。これによって、隣接する基地局同士において、時間位置が異なる下りタイムスロット同士が重なることにより干渉が発生する可能性を低減することができる。
【0059】
また、本実施形態では、基地局101aと隣接基地局101bとは、互いに通信接続され、基地局101aは、自局における下りタイムスロットと遅延時間範囲との対応付けを隣接基地局101bに送信し、隣接基地局101bは、受信した基地局101aの対応付けに基づいて、自局における下りタイムスロットと遅延時間範囲との対応付けを決定することができる。基地局101aと隣接基地局101bとが、通信によって、下りタイムスロットと遅延時間範囲との対応付けに関する情報をやりとりすることにより、互いに同一となる対応付けをリアルタイムで変更し決定することができる。
【0060】
また、本実施形態では、下りタイムスロット121a−2で基地局101aと通信中の通信端末103aからの信号の遅延時間が、下りタイムスロット121a−2に対応付けられた遅延時間範囲外となる場合、基地局101aは、遅延時間範囲外となる遅延時間に対応する下りタイムスロットを通信端末103aに割り当て直すことができる。これにより、通信端末103aの遅延時間が遅延時間範囲外となる場合にも、隣接する基地局同士における対応付けの同一性を崩すことなく、基地局101aは、通信端末103aの通信を継続させることができる。
【0061】
また、本実施形態では、基地局101aは、遅延時間が遅延時間範囲外となる通信端末103aの信号の許容遅延時間に基づいて、当該信号の遅延時間を増加できるか否かを判定し、遅延時間を増加できる場合、増加された遅延時間に対応する下りタイムスロット121a−4を通信端末103aに割り当て直すことができる。これにより、遅延時間範囲を越えた遅延時間に対応する下りタイムスロットが空いていない場合にも、隣接する基地局同士における対応付けの同一性を崩すことなく、基地局101aは、通信端末103aの通信を継続させることができる。
【0062】
また、本実施形態では、基地局101aは、遅延時間が遅延時間範囲外となる通信端末103aに割り当てられている下りタイムスロット121a−2に対応する遅延時間範囲を変更し、下りタイムスロットと遅延時間範囲との変更された対応付けを隣接基地局101bに送信し、隣接基地局101bは、変更された対応付けに基づいて、自局における下りタイムスロットと遅延時間範囲との対応付けを変更することができる。これにより、基地局101aが、下りタイムスロットと遅延時間範囲との対応付けを変更する場合にも、隣接基地局101bは、基地局101aの変更を反映するように、自局の対応付けを変更できる。よって、隣接する基地局同士における対応付けの同一性が維持される。
【0063】
また、本実施形態では、隣接基地局101bは、自局の下りタイムスロットと遅延時間範囲との対応付けの変更に応じて、変更前から通信中の通信端末103cに下りタイムスロットを割り当て直すことができる。これにより、隣接基地局101bは、自局の対応付けを変更する場合にも、通信端末103cの通信を継続させることができる。
【0064】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。
【0065】
例えば、各部材、各手段、各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段やステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0066】
上述の本発明の実施形態では、隣接する基地局同士における下りタイムスロットと遅延時間範囲との対応付けを同一にするために、隣接する基地局同士が通信接続され、対応付けの情報をやりとりするとして説明したが、本発明はこの態様に限定されるものではない。例えば、互いに隣接する基地局は、下りタイムスロットと遅延時間範囲との同一の対応付けを記憶し、当該対応付けを固定しておくことができる。互いに隣接する基地局は、記憶されている対応付けに基づいて、下りタイムスロットを通信端末に割り当てることにより、隣接する基地局同士における対応付けの同一性は維持される。この場合、当該対応付けは固定され、変化しないため、隣接する基地局同士は、対応付けの変更を伝えるための通信接続を行う必要はない。
【0067】
また、上述の本発明の実施形態では、ステップS103及びステップS104の処理において、算出された遅延時間に対応する下りタイムスロットが存在することを前提として説明したが、本発明はこの態様に限定されるものではない。例えば、ステップS103の処理で算出された遅延時間に対応する下りタイムスロットが存在しない場合、基地局101aは、ステップS110の処理に移ることができる。
【0068】
また、上述の本発明の実施形態の説明において、遅延時間の範囲を定める「以上」または「未満」のような表現の技術的思想が意味する内容は必ずしも厳密な意味ではなく、基地局の仕様に応じて、基準となる値を含む場合又は含まない場合の意味を包含するものとする。例えば、50ms「以上」とは、遅延時間が50msに達した場合のみならず、50msを超えた場合も含意し得るものとする。また、例えば100ms「未満」とは、遅延時間が100msを下回った場合のみならず、100msに達した場合、つまり100ms以下になった場合も含意し得るものとする。
【符号の説明】
【0069】
100 通信システム
101a 基地局
101b 隣接基地局
103a〜103d 通信端末
111 通信部
113 ベースバンド部
117 制御部
121a−1〜121a−4 基地局101aの下りタイムスロット
121b−1〜121b−4 隣接基地局101bの下りタイムスロット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10