(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される代表的な実施の形態について概要を説明する。代表的な実施の形態についての概要説明で括弧を付して参照する図面中の参照符号はそれが付された構成要素の概念に含まれるものを例示するに過ぎない。
【0015】
〔1〕(所定電圧まで電池を放電したときに取り出し得る容量値の推定値と実際に取り出された容量値のずれに基づいて満充電容量の推定値を補正する電池状態監視用の半導体装置)
本願の代表的な実施の形態に係る半導体装置(120)は、電池(110、111、112)の状態を監視するための半導体装置である。本半導体装置は、前記電池の電圧を測定するための電圧測定部(122)と、前記電池の電流を測定するための電流測定部(123)と、を有する。本半導体装置は更に、前記電圧測定部及び前記電流測定部の測定結果に基づいて、電池の状態を示す状態情報を生成するデータ処理制御部(125、225)を有する。前記データ処理制御部は、所定の放電レートで満充電状態から放電終止電圧(VST)まで放電させた場合に前記電池から取り出し可能な容量の第1推定値(FCC1st)と、前記放電終止電圧よりも大きい電圧(CCV1,CCV2,CCV3)まで放電させた場合に前記電池から取り出し可能な容量の第2推定値(FCC2nd)とを算出する。前記データ処理制御部は、更に、前記第2推定値の誤差に基づいて前記第1推定値を補正する。前記第2推定値の誤差は、満充電状態から前記放電終止電圧よりも大きい電圧まで放電することによって前記電池から取り出された容量値(FCCtrue)と前記第2推定値との間のずれ量(FCCerr)に基づいて決定される。
【0016】
これによれば、前記放電終止電圧よりも大きい電圧まで放電させた場合に電池から取り出し可能な容量の第2推定値と実際に上記電圧まで放電させることによって取り出された容量値とのずれ量から、第2推定値に含まれる誤差分を把握することができる。すなわち、前記放電終止電圧まで放電させる前の段階で、満充電状態から放電終止電圧まで放電させた場合に前記電池から取り出し可能な容量の第1推定値の算出に係る誤差を把握することができる。本半導体装置は、その誤差に基づいて前記第1推定値を補正するから、満充電容量の算出精度を向上させることができ、電池の容量性能をより効率良く活用することが可能となる。
【0017】
〔2〕(放電電流の積分値に基づいて実際に取り出した容量値を算出)
項1の半導体装置において、前記データ処理制御部は、前記電池を前記放電終止電圧よりも大きい電圧まで放電させたときの放電電流の積分値に基づいて、前記電池から取り出された容量値を算出する。
【0018】
これによれば、満充電状態から前記放電終止電圧よりも大きい電圧まで放電することによって前記電池から取り出された容量値を容易に求めることができる。
【0019】
〔3〕(補正処理を複数回行う:
図9)
項2の半導体装置において、前記データ処理制御部は、前記第2推定値の誤差に基づいて前記第1推定値を補正する処理を複数回行う。
【0020】
これによれば、満充電容量の算出精度を更に向上させることができる。
【0021】
〔4〕(電池残量に応じた補正量の調整:式18)
項2の半導体装置において、前記データ処理制御部(225)は、前記第2推定値の誤差に基づいて前記第1推定値を補正するための補正量を前記電池の残量に応じて調整する。
【0022】
これによれば、電池の残量によって補正の有無や補正の程度を切り替えるような柔軟な制御が可能となる。
【0023】
〔5〕(電池残量が少ない場合に補正量を大きくする:
図12)
項4の半導体装置において、前記データ処理制御部は、前記電池の残量が少なくなるにしたがって前記補正量が大きくなるように調整する。
【0024】
これによれば、電池の残量が少ない状態では前記第1容量値を大きく補正し、それ以外の状態ではその補正量を抑えることができるので、補正後の前記第3推定値の安定性を向上させることができる。
【0025】
〔6〕(データ処理制御部による具体的な演算方法)
項2乃至5の何れかの半導体装置において、前記データ処理制御部は、満充電状態における前記電池の総容量の推定値(Qmax)と、前記所定の放電レートで前記電池を放電させた場合の前記放電終止電圧に対応する電池の充電状態の推定値(SOC2)とに基づいて、前記第1推定値を算出する第1演算部(314)を有する。前記データ処理制御部は更に、前記電池の総容量の推定値と、前記所定の放電レートで前記電池を放電させた場合の前記放電終止電圧よりも大きい電圧に対応する電池の充電状態の推定値(CCV1に対応するSOC2等)とに基づいて、前記第2推定値を算出する第2演算部(321)を有する。前記データ処理制御部は更に、前記電池を前記放電終止電圧よりも大きい電圧まで放電させたときの放電電流の積分値に基づいて、満充電状態から前記放電終止電圧よりも大きい電圧まで放電することによって前記電池から取り出された容量値を算出する第3演算部(322)を有する。前記データ処理制御部は更に、前記第2演算部によって算出された前記第2推定値と前記第3演算部によって算出された前記容量値との差分を算出するとともに当該差分に基づいて前記第1推定値を補正し、第3推定値(FCC3rd)を生成する第4演算部(323、341)を有する。
【0026】
〔7〕(満充電状態から所定の充電状態までに使用された使用容量:Q0+Qc)
項6の半導体装置において、前記第3演算部は、電流測定部によって電池の放電電流の測定が開始されてから電池の電圧が前記放電終止電圧よりも大きい電圧になるまでの放電電流の積分値(Qc1、Qc2、Qc3)と、満充電状態から前記放電電流の測定が開始されるまでに前記電池から失われた容量値(Q0)とを加算することによって、前記電池から取り出された容量値を算出する。
【0027】
これによれば、前記電池から取り出された容量値をより精度良く算出することができる。
【0028】
〔8〕(残量RCの算出)
項7の半導体装置において、前記データ処理制御部は、前記第4演算部によって算出された前記第3推定値と、前記第3演算部によって算出された容量値とを減算することにより、前記電池の残量を示す第1残量情報(RC)を生成する第5演算部(330)を更に有する。
【0029】
これによれば、補正後の前記第3推定値を用いて前記残量情報を生成するから、前記電池の残量の算出精度が向上する。
【0030】
〔9〕(残容量比率RSOCの算出)
項8の半導体装置において、前記データ処理制御部(225)は、前記第3推定値に対する前記演算結果の割合を示す第2残量情報(RSOC)を算出する第6演算部(340)を更に有する。前記第4演算部は、前記第6演算部によって算出された前記第2残量情報に基づいて、前記第1推定値を補正するための補正量を調整する。
【0031】
これによれば、前記第2残量情報は、例えば実際に取り出し可能な総容量を100%とし、放電終止電圧まで放電したときの容量を0%とした範囲で表現される残量の情報となるので、電池の残量の把握が容易となる。また、前記第2残量情報を用いることによって、電池の残量に応じた補正量の調整が容易となる。
【0032】
〔10〕(半導体装置+二次電池を備える電池パック)
本願の代表的な実施の形態に係る電池パック(100)は、単数又は複数の単電池(111)から構成される二次電池(110)と、前記二次電池の状態を監視するための項1乃至9の何れかに記載の半導体装置(120)とを含む。
【0033】
これにより、前記二次電池の状態検知精度が高い電池パックを実現することができる。
【0034】
〔11〕(電池パックによって動作可能にされる電子機器)
本願の代表的な実施の形態に係る電子機器(10)は、項10の電池パックと、前記二次電池からの給電により動作可能とされる内部回路(201)とを有する。
【0035】
これによれば、前記電子機器は、前記半導体装置によって生成された前記状態情報を用いることで前記二次電池の蓄電エネルギーを効率良く利用することが可能となる。
【0036】
〔12〕(表示部を備えた電子機器)
項11の電子機器は、前記半導体装置によって生成された前記状態情報に基づいて、前記二次電池の情報の表示が可能とされる表示部(200)を更に有する。
【0037】
これによれば、前記二次電池の情報をユーザに通知することができる。
【0038】
〔13〕(二次電池を含まない電子機器)
本願の代表的な実施の形態に係る電子機器は、二次電池からの給電により動作可能とされる内部回路(201)と、前記二次電池の状態を監視するための項1乃至9の何れかに記載の半導体装置(120)と、前記半導体装置によって生成された前記状態情報に基づいて、前記二次電池の情報の表示が可能とされる表示部(200)とを含む。
【0039】
これによれば、項11と同様に、前記電子機器は前記二次電池の蓄電エネルギーを効率良く利用することが可能となる。また、使用している二次電池の状態をユーザに通知することができる。
【0040】
2.実施の形態の詳細
実施の形態について更に詳述する。
【0041】
≪実施の形態1≫
図1に、実施の形態1に係る半導体装置を搭載した電池パックを例示する。同図に示される電池パック100は、ノートパソコンや携帯端末等の電子機器10に接続されて電力供給(放電)を行うものであり、必要に応じて充電器に接続されて充電が可能とされる。電池パック100内部に設けられた電池の充電及び放電による電池の状態変化は、後述する方法によってリアルタイムに検知され、その検知結果が電池パック100外部に設けられた表示部200に直接的又は間接的に送信される。表示部200は受信した検知結果に基づいて電池の情報を表示することでユーザに電池状態を通知する。なお、同図には、一例として電池パック100が電子機器10に接続された状態を図示しているが、電池パック100を電子機器10から取り外すことも可能である。
【0042】
電池パック100は、電子機器10の内部回路201や表示部200などに電力供給するための組電池110と、組電池110の状態を検知する半導体装置120と、温度検知部130と、電流検知部140と、保護部150と、電源端子160、161と、通信端子162とを含んで構成される。内部回路201は、電池パック100からの給電により動作可能にされ、電子機器10の目的とされる機能を実現するための機能部である。なお、同図では、表示部200を内部回路201の外側に図示しているが、表示部200を内部回路201に含めても良く、特に限定されない。
【0043】
二次電池(又は組電池)110は、充電及び放電が可能な単数又は複数の単電池111を電気的に並列に接続して構成した単電池群112を、単数又は複数個電気的に直列に接続した構成とされる。例えば、組電池110は、並列接続する単電池111の個数を増やすことで高容量化でき、直列接続する単電池111の個数を増やすことで高電圧化できる。なお、単電池111の接続構成は、電子機器の消費電力などに応じて決定すれば良く、並列接続数を増やして更に高容量化しても良いし、直列接続数を増やして更に高電圧化しても良い。また、電子機器10の消費電力が小さい場合は、一つの単電池111のみを用いる構成でも良い。電源端子160、161は、組電池110を電気的に外部(電子機器10に備える内部回路201)と接続して電力供給するための端子である。例えば電源端子160は正電極(+)の端子であり、電源端子161は負電極(−)の端子である。保護部150は、組電池110と外部装置(例えば電子機器10の内部回路201)との間の電気的な接続と遮断を可能にする。例えば、保護部150は、組電池110の正側電極と電源端子160(+)との間に設けられ、半導体装置120からの制御信号に基づいて組電池110の正側電極と電源端子160(+)の間の接続と遮断を切り替える。特に制限されないが、保護部150は、例えばパワーMOSトランジスタ等を含んで構成される。なお、同図では、データ処理制御部125からの制御信号によって制御可能な保護部150を一つ備える構成が例示されるが、保護部150は複数設けても良い。また、保護部150は、データ処理制御部125からの制御信号によらず、必要に応じて組電池110と電子機器10に備える内部回路201とを切り離しても良い。温度検知部130は、組電池110の温度Tを電圧情報として検知する。温度検知部130は、例えばサーミスタである。電流検知部140は、組電池110に出入りする電流(充電電流及び放電電流)を電圧情報として検知する。例えば、電流検知部140は、組電池110の負側電極と電源端子161(−)との間に接続される抵抗素子を含んで構成され、その抵抗素子の両端の電圧が充電電流又は放電電流の情報として検知される。
【0044】
半導体装置120は、組電池110の状態を検知し、状態検知の結果を外部に出力する機能と、保護部150を制御する機能を備える。特に制限されないが、半導体装置120は、公知のCMOS集積回路の製造技術によって1個の単結晶シリコンのような半導体基板に形成された半導体集積回路から構成される。なお、半導体装置120は、上記のように1チップで実現しても良いし、マルチチップ構成で実現しても良く、特に制限されない。半導体装置120は、例えばマイクロコントローラである。
【0045】
具体的に、半導体装置120は、選択部121と、電圧測定部122と、電流測定部123と、記憶部124と、データ処理制御部125と、通信部126とを含んで構成される。選択部121は、データ処理制御部125からの指示に応じて電圧の測定対象を選択する。例えば、選択部121は、各単電池群112の電圧と温度検知部130の出力電圧とを入力し、何れか1つの電圧を選択して出力する。電圧測定部122は、選択部121によって選択された電圧を測定する。例えば、電圧測定部122は、選択部121から出力された電圧をA/D変換し、変換結果を出力する。以下、各単電池群112の電圧に係るA/D変換結果を電圧情報DVとし、温度検知部130の出力電圧に係るA/D変換結果を温度情報DTと表記する。電流測定部123は、電流検知部140によって検知された電圧に基づいて、組電池110の充電電流及び放電電流を測定する。例えば、電流測定部123は、組電池110から内部回路201に電力が供給されている期間の放電電流の測定と、組電池110が充電されている期間の充電電流の測定を行う。例えば、組電池110による内部回路201に対する電力供給又は組電池110の充電が開始されると、電流測定部123は、電流検知部140の出力電圧を所定の変換サイクルでA/D変換し、充電電流及び放電電流の検出値の情報を生成する。また、電流測定部123は、充電電流及び放電電流の検出値を積分することにより、充電電流及び放電電流の積分値の情報を生成する。以下、電流測定部123によって生成される電流の情報を電流情報DIと表記する。
【0046】
記憶部124は、データを格納するための不揮発性の記憶装置である。例えば、記憶部124はフラッシュメモリ等から構成される。例えば、記憶部124には、後述するOCV(Open Circuit Voltage)とSOCの対応関係を表す情報(例えば、関数やテーブル情報等)や、単電池111の内部抵抗の特性、満充電状態から低レートで放電して取り出せる最大放電容量及び分極特性などの単電池111の特性情報と、単電池群112及び組電池110を構成する単電池111の並列数・直列数や、単電池111の個体差情報などが予め格納される。また、データ処理制御部125によって各種演算処理を実行させるためのプログラム情報や、その他の半導体装置120、表示部200、及び電池パック100等の特性情報が予め格納される。更に、記憶部124には、後述するデータ処理制御部125による演算による演算結果等を格納することもできる。なお、記憶部124を複数実装して上記の夫々の情報を分けて記憶させても良いし、一つの記憶部124に上記情報をまとめて記憶させても良く、その構成や記憶方法に特に制限はない。
【0047】
データ処理制御部125は、記憶部124に格納されたプログラムに従って各種演算を実行するプログラム処理装置である。例えば、データ処理制御部125はCPUとRAM等を含んで構成される。詳細は後述するが、データ処理制御部125は、記憶部124に格納されたプログラムと電圧測定部122及び電流測定部123の測定結果に基づいて、電池の状態を検知するための所定の演算処理を実行し、組電池110の状態を示す情報(以下、「電池の状態情報」と称する。)を生成する。また、データ処理制御部125は、必要に応じて電圧測定部122による電圧測定対象を指示する選択信号を生成して選択部121に与える。更に、データ処理制御部125は、上記演算結果を通信部126を介して外部に送信したり、必要に応じて保護部150に指令を発信して組電池110を電子機器10に備える内部回路201から電気的に切り離すための処理を実行したりする。
【0048】
通信部126は、データ処理制御部125によって生成された情報(データ)を通信端子162を介して外部に送信するとともに、通信端子162を介して外部からの情報(データ)を受信し、受信した情報をデータ処理制御部125に送信する。例えば、電池の状態情報は通信部126によって表示部200に送信され、表示部200は受信した電池の状態情報に基づいて電池の情報を表示する。なお、電池の状態情報の送信は、通信端子162を介して表示部200に直接行っても良いし、通信部126が内部回路201に送信し、内部回路201が表示に必要な別のデータとともに表示部200に送信しても良く、特に限定されない。また、通信部126は、データの送受信が可能にされるものであれば、その構成や通信方式は特に制限されない。例えば、無線通信でも有線通信でも良い。
図1では、図示の便宜上、通信端子162を1つだけ例示しているが、複数の通信端子があっても良く、特に限定されない。
【0049】
ここで、データ処理制御部125による電池の状態を検知するための演算処理について詳細に説明する。前述したように、データ処理制御部125は、記憶部124に格納されたプログラムと電圧測定部122及び電流測定部123からの測定結果に基づいて、所定の演算処理を実行することにより、電池の状態情報を生成する。ここで、電池の状態情報には、例えば、満充電容量FCCや残量RC、充電状態SOCなどの情報が含まれる。
【0050】
図2に、データ処理制御部125の内部構成を例示する。前述したように、データ処理制御部125は、電池の状態を検知するための演算処理の他に、電圧測定対象を指定するための選択信号の生成や保護部150の制御信号の生成等を行うが、同図では電池状態の検知に係る演算処理を実現するための機能部のみを図示し、その他の機能を実現するための機能部については図示を省略している。
【0051】
図2に示されるように、データ処理制御部125は、電池状態の検知に係る演算処理を実現するための機能部として、FCC基本演算部310と、FCC誤差改善部320と、RC推定部330とを含んで構成される。これらの機能部は、例えばCPU等によるプログラム処理によって実現される機能実現手段である。データ処理制御部125は、例えば、FCC基本演算部310によって満充電容量FCCの推定値を算出するための基本的な演算処理を実行し、FCC誤差改善部320によって満充電容量FCCの推定値に含まれる誤差を推定する。そして、FCC基本演算部310によって、前記算出された満充電容量FCCの推定値を上記推定した誤差に基づいて補正する。更に、データ処理制御部125は、RC推定部330によって、上記補正された満充電容量FCCの推定値を用いて残量RCの推定を行う。以下、各機能部について詳細に説明する。
【0052】
先ず、FCC基本演算部310について説明する。FCC基本演算部310は、電圧情報DV,電流情報DI、及び温度情報DTに基づいて、満充電容量FCCを推定するための各種演算を実行する。例えば、FCC基本演算部310は、各種演算に対応する機能部として、Qmax推定部311と、SOC推定部312と、R推定部313と、第一FCC推定部314と、を含んで構成される。
【0053】
Qmax推定部311は、満充電状態における二次電池の総容量Qmaxを推定するための演算を行う。容量Qmaxは、二次電池を低レート(後述する電池の内部抵抗Rによる電圧降下が無視できる程度の放電レート)で満充電状態から放電終止電圧まで放電させた場合に当該二次電池から取り出し可能な容量値である。ここで、放電終止電圧とは、二次電池の蓄電エネルギーの取り出しの可否を決定するための閾値電圧であり、二次電池の出力電圧(後述するCCV(Closed Circuit Voltage))が放電終止電圧より低い範囲では電池の蓄電エネルギーの取り出しが禁止される。以下、放電終止電圧を下限電圧VSTと称する。
【0054】
Qmax推定部311は、容量Qmaxとして、例えば、単電池群112毎の総容量及び組電池110全体の総容量の算出が可能とされる。容量Qmaxの理想的な推定方法は、例えば、組電池110を満充電状態にしてから低レートで下限電圧VSTに到達するまで完全放電させ、満充電状態から下限電圧VSTに到達するまでの放電電流を積分し、その積分値を容量Qmaxとする方法である。しかしながら、この方法では、組電池110による電子機器10に対する電力供給が上記のような理想的な放電パターンとなる可能性が低いため、Qmax推定部311は、以下に述べる方法により容量Qmaxを推定する。
【0055】
容量Qmaxを推定する方法を説明する前に、先ず、単電池111の基本特性について
図3〜
図5を用いて説明する。
図3は単電池111の等価回路を例示する図であり、
図4は充電状態SOCと電圧OCVの関係を示す図であり、
図5は単電池111の放電時における電圧OCVの特性と端子間電圧CCVの特性を例示する図である。
図5において、参照符号401は端子間電圧CCVの特性を表し、参照符号402は単電池111の放電時における電圧OCVの特性を表す。
【0056】
図3に示されるように、単電池111は、充放電していない状態(充電電流及び放電電流が流れていない状態)での単電池111の電圧OCVと、内部抵抗Rと、分極抵抗rpとキャパシタンス成分Cpの並列接続対と、を直列接続した構成とみなすことができる。例えば、単電池111に流れる電流をIとしたとき、単電池111の端子間電圧CCVは、(式1)で表される。ここで、Vpは分極電圧であり、分極抵抗rpとキャパシタンス成分Cpの並列接続対の電圧に相当する。
【0058】
また、
図4に示されるように、電池の充電状態SOC(0%〜100%)に対する電圧OCVの特性は、例えば参照符号400のようになる。したがって、参照符号400の関数を用いれば、電圧OCVの測定値に対応する充電状態SOCの値を容易に推定することができる。
【0059】
しかしながら、
図5に示されるように、単電池111の放電中の端子間電圧CCVの特性401は、電圧OCVの特性402と相違するため、単電池111の放電中に電圧OCVを直接測定することは困難である。すなわち、端子間電圧CCVは、単電池111を放電した直後はI×R分の電圧降下が発生し、放電している期間(時刻T1からT2の期間)はI×R分の電圧ドロップに加えて分極電圧Vpの影響を受け、放電を停止した後の所定の期間(時刻T2からT3の期間)は分極電圧Vpの影響により電圧が変化し続ける。したがって、電圧OCVの測定は、電池の放電期間に行うことはできず、時刻T1より手前のタイミング又は時刻T3以降のタイミングで行う必要がある。
【0060】
以上に示した単電池111の特性を考慮して、Qmax推定部311は容量Qmaxを推定する。
図6は、Qmax推定部311による容量Qmaxの算出方法の概要を示す図である。同図には、
図5と同様に、単電池111の放電時における電圧OCVの特性402と端子間電圧CCVの特性401とが示される。
【0061】
例えば、充電状態SOCaから電池の放電を開始し、所定時間の経過後に電池の充電状態がSOCbになったとする。この場合の容量Qmaxは、(式2)で表される。
【0063】
ここで、dQ(=∫I(t)dt)は、放電期間の放電電流の積分値である。また、充電状態SOCa、SOCbは、前述したように、
図4の特性400に示される電圧OCVとSOCの関係を利用することにより、電圧OCVの測定値から算出することができる。電圧OCVの情報を得るためには、前述したように、時刻T1より手前のタイミング又は時刻T3以降のタイミングで電池の端子間電圧を測定する必要がある。そこで、Qmax推定部311は、充放電前後の電圧OCVを得るために、
図6に示すように、時刻T1より前のタイミングで電圧OCVaを測定するとともに、時刻T3以降のタイミングで電圧OCVbを測定する。次いで、Qmax推定部311は、電圧OCVとSOCの関係(関数)を利用して電圧OCVの測定値OCVa、OCVbに対応する充電状態SOCa、SOCbを算出する。例えば、電圧OCVと充電状態SOCの対応関係を表す情報(例えば、関数やテーブル等)を予め記憶部124に格納しておき、Qmax推定部311が記憶部124に格納された上記関数又はテーブルを参照し、測定した電圧OCVa、OCVbに対応する充電状態SOCa、SOCbの値を読み出す。そして、Qmax推定部311は、読み出した充電状態SOCa、SOCbの値と、電流測定部123から取得した電流情報DIの時刻T1からT2までの積分値dQとに基づいて上記(式2)の演算を行うことにより、容量Qmaxを算出する。本実施の形態では、理解を容易にするため、Qmax推定部311は、電圧情報DVとして単電池群112毎の電圧情報を取得し、これを平均化した組電池110の平均電圧を用いて平均的なQmaxを算出するものとする。また、Qmax推定部311が容量Qmaxの算出するタイミングは、時刻T3以降のタイミングであれば特に限定されない。例えば、組電池110から内部回路201への電力供給が停止されてから再び電力供給が開始されるまでの期間において、電圧OCVbの測定と容量Qmaxの算出を行っても良いし、上記の期間に電圧OCVbを測定しておき、その後、電力供給が再開されてから容量Qmaxの算出を行っても良い。
【0064】
SOC推定部312は、電圧測定部122から取得した電圧情報DVと、電流測定部123から取得した電流情報DIと、Qmax推定部311から取得した容量Qmaxとに基づいて、電池の充電状態SOCを推定するための演算を行う。なお、前述のように、Qmax推定部311によって算出される容量Qmaxは組電池110全体の平均的なQmaxであるため、これに合わせてSOC推定部312も組電池110の平均的な電圧値を演算に用いるものとする。すなわち、本実施の形態では、SOC推定部312は組電池110の平均的なSOCを算出する。
【0065】
前述したように、単電池111の電圧OCVと充電状態SOCの対応関係に基づくテーブル又は関数を予め記憶部124に記憶しておき、このテーブルや関数を用いることで、電圧OCVの測定値から対応する充電状態SOCの値を容易に算出することができる。しかしながら、
図5及び
図6に示されるように、電池が充放電している期間(時刻T1からT2の期間)や充放電後の所定の期間(時刻T2からT3の期間)は、電圧OCVを直接測定することはできない。そこで、SOC推定部312は、以下に示す方法によって充電状態SOCを推定する。
【0066】
先ず、SOC推定部312は、下記(式3)に基づいて、電池パック100を充放電する前のSOCの初期値SOC0を算出する。ここで、SOC(OCV)は、
図4の特性400を表す関数(電圧OCVに対する充電状態SOCの関数)である。下記(式3)に示されるように、電池を充放電する前の期間(例えば、
図6の時刻T1以前の期間)の充電状態は、電圧OCVの測定値に基づいて容易に算出することができる
【0068】
次に、組電池110の放電が開始されたら(時刻T1以降)、SOC推定部312は、下記(式4)に基づいて、初期値SOC0からの充電状態SOCの変化量ΔSOCを計算する。ここで、∫I(t)dtは、放電が開始されてからの放電電流の積分値であり、電流測定部123の測定値である。
【0070】
そして、SOC推定部312は、下記(式5)を用いることで充電状態SOCを推定する。求めた充電状態SOCはR推定部313に入力される。
【0072】
R推定部313は、組電池110の内部抵抗と内部抵抗の上昇率Rratioとを推定するための演算を行う。ここで求めた内部抵抗R1の上昇率Rratioは、後述する第一FCC推定部314や第二FCC推定部321に用いられる。
【0073】
図7は、放電時における充電状態SOCに対する電池電圧の特性を例示する図である。同図には、充電状態がSOC1であるときに組電池110から内部回路201への電力供給(放電)を開始し、電圧CCVが下限電圧VSTに到達した充電状態SOC2において放電を停止した場合の電圧OCVの特性404と電圧CCVの特性405が例示されている。同図において、参照符号403は組電池110から内部回路201に電力が供給されている期間(電池が放電している期間)である。
【0074】
参照符号405に示されるように、充電状態SOC1において組電池110の放電が開始されると、電圧CCVは、組電池110の内部抵抗Rと電流Iとの積(I×R)と分極電圧Vpの分だけ電圧が降下する。このことから、内部抵抗Rと分極抵抗rpを含めた電池の内部抵抗R1は下記(式6)で表すことができる。ここで、CCVは電圧測定部122による組電池110の平均電圧の測定値であり、OCV(SOC)はSOC推定部312によって算出された充電状態SOCに対応する電圧OCV(上述のOCVとSOCの関数等による変換結果)であり、Iは電流測定部123による組電池110に出入りした電流の測定結果である。R推定部313は、下記(式6)に基づいて内部抵抗R1を算出する。
【0076】
また、R推定部313は、下記(式7)に基づいて、組電池110の内部抵抗R1の初期値R0を求める。具体的には、温度Tと充電状態SOCに応じて内部抵抗R1の値がマッピングされたテーブル又は関数(以下、「内部抵抗特性テーブル」と称する。)Rbase(T、SOC)を予め記憶部124に格納しておく。そして、R推定部313は、記憶部124から内部抵抗特性テーブルRbase(T、SOC)を参照することにより、温度情報DTに含まれる温度Tの情報及びSOC推定部312によって算出された充電状態SOCに対応する内部抵抗R1の値を読み出し、それを内部抵抗R1の初期値R0とする。
【0078】
さらにR推定部313は、下記(式8)に基づいて、初期値R0を基準とした内部抵抗R1の上昇率Rratioを算出する。ここで、R1は上記(式6)で算出した値を、R0は上記(式7)で算出した値を用いる。
【0080】
第一FCC推定部314は、満充電容量FCCを推定する。前述したように、満充電容量FCCとは、二次電池を所定の放電レートで満充電状態から放電終止電圧まで放電させた場合に当該電池から取り出し可能な容量値を示す情報である。ここで、前記所定の放電レートとは、容量Qmaxの算出の基準となる“低レート(内部抵抗R1による電圧降下が無視できる程度の放電レート)”よりも大きい値を想定しており、放電レートが大きい分、電圧ドロップも大きくなり、組電池110の電圧CCVが下限電圧VSTに到達し易い。したがって、満充電容量FCCは総容量Qmaxよりも小さい値となる。
【0081】
具体的に、第一FCC推定部314は、組電池110を所定の放電レートで満充電状態から放電終止電圧VSTまで放電させた場合に組電池110から取り出し可能な容量(満充電容量)の推定値FCC1stを算出する。
【0082】
図7を用いて、第一FCC推定部314による満充電容量の推定方法について説明する。満充電容量は組電池110の電圧が下限電圧VSTに到達するまで、所定のレートで放電を行った際に取り出し可能な容量値であるため、
図7に示すように、利用可能な充電状態SOCの下限値は0%ではなく、0%よりも大きい充電状態SOC2となる。すなわち、電池パック100は充電状態100%から0%まで利用できるわけではなく、実際は、100%から充電状態SOC2までしか利用できない。したがって、満充電容量FCC1stは、下記(式9)で表すことができる。ここで、SOC2は組電池110の電圧CCVが下限電圧VSTに到達したときの組電池110の充電状態を示す値である。
【0084】
上記(式9)から理解されるように、容量Qmaxの値と充電状態SOC2の値がわかれば、満充電容量の推定値FCC1stを推定することができる。ここで、QmaxはQmax推定部311で求めた容量値を用いれば良いので、残りの充電状態SOC2の値がわかれば良い。そこで、第一FCC推定部314は、以下に示す方法によって充電状態SOC2を推定し、その推定値とQmax推定部311で求めた容量Qmaxとに基づいて上記(式9)を演算することにより、満充電容量の推定値FCC1stを算出する。以下、充電状態SOC2の推定方法について説明する。
【0085】
充電状態SOC2を推定する処理は、すなわち、所定のレートでの放電しているときの組電池110の電圧CCVが下限電圧VSTと一致するときの充電状態SOCの値を探索する処理である。本実施の形態では、分極抵抗rpも含めた内部抵抗R1の特性を用いることで充電状態SOC2を探索する方法を説明する。
【0086】
組電池110の電圧CCVは、内部抵抗R1の特性を考慮すると下記(式10)によって表すことができる。ここで、RratioはR推定部313による演算結果であり、SOCcは、充電状態SOC2を探索するための変数であり、Tは温度情報DTに基づく温度の情報であり、OCV(SOCc)はSOCに応じたOCVの関数であり、Rbase(SOCc、T)は、温度T及び充電状態SOCに応じた分極抵抗rpも含めた内部抵抗R1の特性を表すテーブル又は関数である。
【0088】
第一FCC推定部314は、(式10)における“SOCc”を変数とし、その値を順次変更することで電圧CCVを算出し、その算出値が下限電圧VSTの値と一致したときの“SOCc”を下限電圧VSTに対応する充電状態SOC2とする。
【0089】
図8に、第一FCC推定部314による、充電状態SOC2の推定処理に係る処理フローを例示する。先ず、第一FCC推定部314は、上記(式10)における変数SOCcに初期値(例えば100%)を設定する(S101)。次に、変数SOCcを設定されている値よりも所定量だけ小さい値に変更する(S102)。例えば、初期値100%が設定され、所定量が1%である場合、変数SOCの設定値を100%から“99%”に変更する。そして、第一FCC推定部314は、ステップS102で設定した変数SOCcを用いて上記(式10)を演算することにより、電圧CCVを算出する(S103)。次に、第一FCC推定部314は、ステップS103で算出した電圧CCVの値が下限電圧VSTよりも小さいか否かを判別する(S104)。算出した電圧CCVの値が下限電圧VSTよりも大きい場合、変数SOCcを変更して電圧CCVの算出する処理を、電圧CCVの値が下限電圧VSTよりも小さくなるまで繰り返し行う(S102〜S104)。そして、電圧CCVの値が下限電圧VSTよりも小さくなったら、第一FCC推定部314は、そのときの変数SOCcの値を充電状態SOC2とする(S105)。なお、(式10)に示すように、温度検知部130によって検知された温度の情報Tを用いているため、上述の方法により推定される充電状態SOC2は温度を考慮した値とされる。
【0090】
上記方法によって充電状態SOC2を推定したら、第一FCC推定部314は、推定した充電状態SOC2の値とQmax推定部311で求めた容量Qmaxの値とに基づいて、上記(式9)の演算を行う。これにより、満充電容量の推定値FCC1stを得ることができる。
【0091】
以上のようにFCC基本演算部310によって算出された満充電容量の推定値FCC1stは、前述したように、大きな誤差を含む可能がある。例えば、(式7)と(式10)には電池の温度Tの測定値が用いられる。そのため、温度Tに測定誤差があった場合、(式7)及び(式10)の計算結果に誤差が生じ、その計算結果を用いる(式9)の算出結果、すなわち、満充電容量の推定値FCC1stに誤差が生じることになる。温度Tの測定誤差が大きい場合、実際の組電池110の性能を超えるような満充電容量の推定値FCC1stが算出される虞がある。このように、算出される満充電容量の推定値に大きな誤差が見込まれる場合には、例えば、予め大きな容量マージンを考慮して組電池110を使用しなければならず、結果として、組電池110の蓄電エネルギーを最大限に使いこなすことができなくなる。そこで、本半導体装置120は、FCC基本演算部310によって算出した満充電容量の推定値FCC1stをFCC誤差改善部320によって補正する。以下、FCC誤差改善部320について詳細に説明する。
【0092】
FCC誤差改善部320は、例えば、第二FCC推定部321と、FCC真値計算部322と、FCC補正部323とを含んで構成される。
【0093】
第二FCC推定部321は、組電池110を所定の放電レートで満充電状態から下限電圧VSTよりも大きい電圧(以下、「仮の下限電圧」と称する。)まで放電させた場合に当該電池から取り出し可能な容量の推定値FCC2ndを算出する。第二FCC推定部321の処理内容は、前述した第一FCC推定部314と略同様であるが、演算で想定する下限電圧が異なる。すなわち、第一FCC推定部314は、上記(式9)によって、組電池110の真の下限電圧VSTまで放電した場合の満充電容量を推定するが、第二FCC推定部321では、ある時刻における電圧測定部122の測定値を仮の下限電圧として上記(式9)を計算することにより、容量の推定値FCC2ndを算出する。例えば、単電池111単位の真の下限電圧VSTを“3.0V”とした場合、第一FCC推定部314は、単電池111の電圧CCVが3.0Vに到達したときの充電状態SOC2を推定し、この充電状態SOC2まで放電した場合の満充電容量の推定値FCC1stを算出する。一方、第二FCC推定部321は、ある時刻において電圧測定部122で測定した組電池110の平均電圧が3.6Vである場合、これを下限電圧として推定した満充電容量を容量の推定値FCC2ndとする。このとき、第二FCC推定部321による仮の下限電圧に対応する充電状態SOC2の推定処理は、
図8と略同様の処理フローとなるが、ステップS104の判定に用いる閾値が第一FCC推定部314のそれと相違する。すなわち、第二FCC推定部321によるSOC2の推定処理では、ステップS104において、算出した電圧CCVの値が仮の下限電圧(電圧測定部122で測定した組電池110の平均電圧。例えば3.6V)を超えるか否かを判定する。このように、第二FCC推定部321では、電圧測定部122で測定した組電池110の電圧を下限電圧に見立てて、容量の推定値FCC2ndを繰り返し算出する。
【0094】
FCC真値計算部322は、組電池110を仮の下限電圧まで放電させたときの放電電流の積分値に基づいて、満充電状態から仮の下限電圧まで放電することによって組電池110から取り出された容量値を算出する。以下、当該容量値をFCC真値(FCCtrue)と表記する。FCC真値は、第二FCC推定部321によって算出された容量の推定値FCC2ndに含まれる誤差を見積もるための基準となる値である。以下、FCC真値計算部322によるFCC真値の算出方法について説明する。
【0095】
図9は、FCC真値計算部322による処理の概要を示す図である。前述したように、第二FCC推定部321は電圧測定部122による測定値を仮の下限電圧とした場合の容量の推定値FCC2ndを算出する。ここで、容量の推定値FCC2ndの真値は、電流測定部122による電池の放電電流の測定が開始されてから(組電池110による内部回路210に対する電力供給が開始されてから)電池の電圧が仮の下限電圧になるまでの放電電流の積分値Qcと、満充電状態から放電電流の測定が開始されるまでに電池から失われた容量値Q0との合計である。例えば、充電状態SOCが100%の状態から放電が開始された場合、放電が開始されてから仮の下限電圧に到達するまでの放電電流の積分値が容量の推定値FCC2ndの真値となる。一方、充電状態SOCが100%以外の状態(例えば充電状態SOC1=80%)から放電が開始された場合、放電が開始されてから仮の下限電圧に到達するまでの放電電流の積分値Qc(例えば
図9におけるQc1、Qc2、Qc3)と、放電が開始されるまでに電池から失われた容量値Q0(上記の例の場合、100%−80%=20%)との合計が、容量の推定値FCC2ndの真値となる。
【0096】
容量値Q0、放電電流の積分値Qc、及びFCC真値(FCCtrue)は、夫々(式11)〜(式13)で表される。ここで、SOC1は、組電池110から内部回路210に対する電力供給が開始されたときの充電状態である。FCC真値計算部322は、(式11)〜(式13)を計算することにより、容量の推定値FCC2ndの真値(FCCtrue)を算出する。
【0100】
FCC補正部323は、容量の推定値FCC2ndに含まれる誤差を算出する。具体的には、第二FCC推定部321が電圧測定部122の測定値を下限電圧に見立てて算出した容量の推定値FCC2ndと、FCC真値計算部322が(式11)〜(式13)に基づいて算出したFCC真値FCCtrueとの間のずれ量を算出する。以下、そのずれ量をFCC誤差FCCerrと表記する。
【0101】
FCC補正部323は、例えば、下記(式14)に示されるように、容量の推定値FCC2ndと真値FCCtrueとを減算することにより、FCC誤差FCCerrを算出する。
【0103】
更に、FCC補正部323は、(式14)で求めたFCC誤差FCCerrを補正量として、第一FCC推定部314による満充電容量の推定値FCC1stを補正し、その補正結果を最終的な満充電容量FCCの情報として出力する。以下、補正後の満充電容量の推定値をFCC3rdと表記する。満充電容量の推定値FCC1stの補正は、例えば、下記(式15)に示されるように、満充電容量の推定値FCC1stとFCC誤差FCCerrとを減算することにより行われる。
【0105】
FCC補正部323による補正処理について、
図10を用いて更に詳細に説明する。
【0106】
図10は、FCC補正部323による満充電容量の推定値FCC1stの補正処理の概要を示す図である。同図の(a)には時間に対する電池電圧の特性が示され、同図の(b)には第二FCC推定部321の出力(FCC2nd)とFCC真値計算部322の出力(FCCtrue)が示され、同図の(c)にはFCC補正部323による第一FCC推定部314の出力(FCC1st)の補正結果(FCC3rd)が示される。なお、同図では、放電が開始される時刻t00での充電状態が100%とし、真の下限電圧VSTを“CCV3”とした場合が例示されている。また、満充電容量の推定値FCC1stは、時刻t01よりも前のタイミングにおいて、第一FCC推定部314によって算出されているものとする。
【0107】
先ず、時刻t00において、組電池110による内部回路210に対する電力供給が開始され、組電池110から放電電流Iが流れる。その後、時刻t01において、第二FCC推定部321は電圧測定部122によって測定された電圧CCV1を仮の下限電圧として容量の推定値FCC2nd(CCV1)を出力する。また、FCC真値計算部322は、時刻t00から時刻t01までの放電電流の積分値を、電圧CCV1を仮の下限電圧とした場合のFCC真値FCCtrue(CCV1)として出力する。FCC補正部323は、第二FCC推定部321から出力された容量の推定値FCC2nd(CCV1)と、FCC真値計算部322から出力されたFCC真値FCCtrue(CCV1)との差分を電圧CCV1基準のFCC誤差FCCerr(CCV1)とする。そして、FCC補正部323は、FCC誤差FCCerr(CCV1)を補正量として、上述の方法により、満充電容量の推定値FCC1stを補正し、補正後の満充電容量の推定値FCC3rd(CCV1)を最終的な満充電容量FCCの情報として出力する。その後、所定時間が経過した時刻t02において、上記と同様の方法により、測定電圧CCV2を仮の下限電圧と見立てて、容量の推定値FCC2nd(CCV2)とFCC真値FCCtrue(CCV2)を算出するとともに、電圧CCV2基準のFCC誤差FCCerr(CCV2)を算出する。そして、そのFCC誤差に基づいて満充電容量の推定値FCC1stを再度補正し、補正後の満充電容量の推定値FCC3rd(CCV2)を最終的な満充電容量FCCの情報として出力する。以上の処理を、組電池110の真の下限電圧VSTと一致する電圧CCV3まで繰り返し行うことで、満充電容量FCCの誤差が改善される。
【0108】
上記の方法でFCC誤差改善部320によって生成された補正後の満充電容量の推定値FCC3rdは、RC推定部330に入力される。RC推定部330は、この補正された満充電容量FCC3rdを用いて、下記(式16)により、残量RCを算出する。ここで、Q0+Qcは(式13)と同じであるが、これは現在の組電池110電圧を下限電圧として見立てた場合の真値計算として用いているのではなく、満充電状態から現在までの組電池110の放電量を把握するために用いている。
【0110】
(式16)に示されるように、満充電状態から取り出せる容量FCC(FCC3rd)から組電池110が現在まで放電した容量(Q0+Qc)を差し引くことで、組電池110の残量RCを算出することができる。この残量RCの値は、満充電容量の推定値FCC3rdに基づいて算出されるため、より高精度な値となる。
【0111】
FCC誤差改善部320によって生成された補正後の満充電容量の推定値FCC3rdとRC推定部330によって算出された残量RCの情報等は、電池の状態情報として通信部126を介して直接又は間接に表示部200に送信される。これにより、例えば、補正後の満充電容量の推定値FCC3rdを実際に利用可能な電池の満充電容量FCCとして表示し、残量RCを実際に利用可能な電池の残量として表示することで、ユーザに組電池110の状態を通知することができる。なお、表示部200の表示方法は特に限定されず、例えば、数値で表しても良いし、補正後の満充電容量の推定値FCC3rdに対する残量RCの位置をメータ表示したり、図示したりすることも可能である。これにより、ユーザは、表示された情報に基づいて、電池パック100の充電要否や電池パック100を電源として用いている電子機器10の使用を中止するなどの判断を行うことができる。また、残量RCの値が所定の閾値よりも低くなった場合に、例えば、データ処理制御部125からの指令に基づいて保護部150の切り離しを行い、組電池110の放電を止めるような制御を行うことも可能である。
【0112】
以上実施形態1に係る半導体装置120によれば、下限電圧VSTよりも大きい仮の下限電圧まで放電させた場合に取り出し可能な容量の推定値FCC2ndと実際に仮の下限電圧まで放電させることによって取り出されたFCC真値FCCtrueとのずれ量から、容量の推定値FCC2ndに含まれる誤差分を把握することができる。すなわち、真の下限電圧VSTまで放電させなくても、その前の段階で満充電容量FCCの算出に係る誤差を把握することができる。本半導体装置は、その誤差分に基づいて満充電容量の推定値FCC1stを補正するから、満充電容量FCCの算出精度を向上させることができる。例えば、前述したように電池の温度の測定誤差に起因して満充電容量の推定値FCC1stの誤差が大きくなった場合であっても、その誤差を補正し、より高精度な満充電容量FCCの情報を得ることができる。また、例えば組電池110を長期的に放置し、電池が劣化して電池の容量Qmaxが低下した場合であっても、本半導体装置120によれば、満充電容量FCCの算出精度の低下を抑えることができる。例えば、長期放置後に電池の使用を再開した場合、実際の電池の容量Qmaxとデータ処理制御部125が把握する容量Qmaxの推定値との間にずれが生じ、算出した満充電容量の推定値FCC1stに大きな誤差が生ずる可能性がある。しかしながら、本半導体装置120によれば、放電開始後に算出したFCC誤差FCCerrに基づいて満充電容量の推定値FCC1stを補正するので、長期放置後の容量Qmaxの低下に伴う満充電容量の推定値FCC1stの算出誤差を小さくすることができる。したがって、本半導体装置によれば、満充電容量FCCの算出精度を向上させることができ、残量RCをも高精度化することができるから、電池の容量性能をより効率良く活用することが可能となる。
【0113】
≪実施の形態2≫
実施の形態1では、第二FCC推定部321とFCC真値計算部322の出力差をFCC誤差(FCCerr)とし、そのFCC誤差を補正量として満充電容量の推定値FCC1stを補正した。実施の形態2は、充電状態に応じて上記補正量を調整する点で実施の形態1と相違する。
【0114】
二次電池は、充電状態によって推定できるFCC誤差FCCerrの値にずれが生ずる場合がある。例えば、充電状態が100%付近である場合と0%付近である場合とでは、算出されるFCC誤差に大きな違いが生ずる可能性があり、推定したFCC誤差FCCerrをそのまま補正量として補正すると、充電状態SOCの変化に伴い補正後の満充電容量の推定値FCC3rdが大きく変動する虞がある。そこで、実施の形態2では、電池の残量に応じて満充電容量FCC1stを補正する補正量を調整する。
【0115】
図11に、実施の形態2に係る半導体装置におけるデータ処理制御部225の内部構成を例示する。同図に示されるように、データ処理制御部225は、実施の形態1に係るデータ処理制御部125の構成に加えてRSOC推定部340を更に有する。また、データ処理制御部225におけるFCC補正部341は、データ処理制御部125におけるFCC補正部323の機能に加え、RSOC推定部340の出力に応じて補正量を調整する機能を備える。その他の構成は実施の形態1と同様である。実施の形態2に係る半導体装置において、実施の形態1に係る半導体装置120と同様の構成要素には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0116】
RSOC推定部340は、FCC補正部323の出力である満充電容量FCC3rdと、RC推定部330の出力である残量RCとに基づいて、残容量比率RSOC(Relative State of Charge)を算出する。残容量比率RSOCは、満充電状態の容量を100%とし、組電池110の電圧が下限電圧に到達した時点での容量(例えば
図7におけるSOC2)を0%とした範囲で充電状態を表現した情報である。RSOC推定部340は、例えば、下記(式17)によって、残容量比率RSOCを算出する。
【0118】
FCC補正部341は、RSOC推定部340の出力である残容量比率RSOCに基づいて、満充電容量FCC1stを補正する補正量を調整する。例えば、FCC補正部341は、充電状態SOCの低下に伴って第一FCC推定部314による満充電容量の推定値FCC1stの補正量を大きくするように調整する。これは、最も満充電容量FCCの精度が必要となる残量RCが少ない状態に着目したものである。具体的に、RSOC推定部340は、下記(式18)に従って満充電容量の推定値FCC1stを補正し、補正後の満充電容量の推定値FCC3rdを生成する。
【0120】
ここで、Wは残容量比率RSOCに応じて決定される調整係数である。例えば、残容量比率RSOCと補正量の調整係数Wとの関係を表す関数又はテーブルを予め記憶部124に格納しておき、FCC補正部341がRSOC推定部340から出力された残容量比率RSOCに基づいて、上記関数又はテーブルを参照することにより、対応する調整係数Wを読み出す。FCC補正部341は、読み出した調整係数Wと、満充電容量の推定値FCC1stと、FCC誤差FCCerrとに基づいて、補正後の満充電容量の推定値FCC3rdを生成する。
【0121】
図12に、残容量比率RSOCと補正量の調整係数Wとの関係を表す関数の一例を示す。同図に示されるように、残容量比率RSOCが100%から0%の範囲において調整係数Wが“0”から“1”の範囲で変化するような関数又はテーブルとされる。これによれば、電池の残量が少なくなるほど補正量が大きくなるように調整される。
【0122】
以上のように、本実施形態2に係るデータ処理制御部225によれば、電池の残量によってFCC誤差の大きさに違いが生じた場合に満充電容量の推定値FCC1stの補正量が調整可能とされるから、満充電容量FCCの算出精度を更に向上させることができる。特に、上記のように電池の残量が少ない状態(例えばRSOCが小さい状態)で調整係数Wを大きくなるように調整することで、電池の残量が少ない状態における満充電容量の推定値FCC1stを大きく補正し、電池の残量が少ない状態以外における補正量は抑制することができるので、補正後の満充電容量の推定値FCC3rdの安定性を向上させることができる。
【0123】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0124】
例えば、データ処理制御部125、225における電池状態の検知に係る演算処理を実現するための機能部をはじめとする電池パック100内の各機能部及び各処理部は、それらの全部または一部を、例えば集積回路で設計することによりハードウェアで実現することもできるし、プロセッサが夫々の機能を実現するプログラムを実行することによりソフトウェアで実現することもできる。各機能を実現するプログラムや関数、テーブルなどの情報は、メモリやハードディスクなどの記憶装置、ICカード、DVDなどの記憶媒体に格納することができる。
【0125】
実施の形態1、2では、組電池110をリチウムイオン電池を直列・並列接続した構成としたが、一つのリチウムイオン電池、又は並列のみ・直列のみの接続形態であってもよいし、更にはリチウムイオン電池以外のその他の電池を用いることも可能である。
【0126】
組電池110と半導体装置120とを一つの筐体に実装すれば、ノートパソコンなどの電源として用いられる電池パックを実現することができる。また、半導体装置120と表示部200とを一つの筐体に実装して組電池110だけを取替え可能にすれば、スマートフォンや携帯電話等に代表される携帯端末の構成を実現できる。また、組電池110、半導体装置120、及び表示部200を一体化させて部分交換できない構成を採用しても良い。また、組電池110、半導体装置120、及び表示部200を夫々独立した筐体に実装して、それぞれを個別に取替え可能な構成を採用することも可能である。
【0127】
実施の形態1、2において、選択部121を四個の単電池群112と温度検知部130を切り替える構成とした場合を例示したが、これに限られない。例えば、状態検知を行う対象が一つの単電池111又は単電池群112である場合は、選択部121を単電池111又は単電池群112と温度検知部130の何れかを切替える構成としても良い。また、温度検知部130が実装されない場合は、選択部121を除いて、電圧測定部122の入力に単電池111又は単電池群112の両端を直接接続する構成を採用しても良い。更に、温度検知部130を複数実装した場合は、選択部121が複数の温度検知部130の夫々の出力を選択できる構成とする。
【0128】
実施の形態1、2において、電圧測定部122と電流測定部123を別個に設ける構成を例示したが、単電池群112の電圧情報と、温度検知部130の電圧情報と、電流検知部140の電圧情報とを夫々専用の電圧測定部で測定する構成を採用しても良いし、1つの電圧測定部で全ての電圧情報を測定する構成を採用しても良い。
【0129】
容量Qmaxの算出方法として、
図6を用いて電池が放電する場合を例に説明したが、電池を充電する場合にも同様の処理手順により容量Qmaxを算出することができる。また、充放電の前後で充電状態SOCに差が生じるのであれば、電池の充電と放電が混在する場合であっても同様に容量Qmaxを計算することができる。ただし、Qmax推定部311の処理を実行するためには、電池充放電を停止してから所定時間以上休止した後の電圧OCVが必要なため、電池パック100の使用中にリアルタイムに容量Qmaxを更新することはできない。電池パック100使用後に、所定時間以上休止した後に容量Qmaxを得ることが可能である。
【0130】
実施の形態1、2では、理解を容易にするために、組電池110の平均的なQmaxを求める場合を例示したが、単電池群112毎の電圧情報に基づいて、単電池群112毎の容量Qmaxを推定することも可能である。例えば、Qmax推定部311の演算処理と同様に、SOC推定部312が用いる電圧値も単電池群112毎の値とすれば、単電池群112毎に充電状態SOCを得ることが可能である(ただし、この場合、Qmax推定部311からのQmaxも単電池群112毎の値を用いる必要がある)。
【0131】
実施の形態2では、
図12に示したように、残容量比率RSOCと補正量の調整係数Wとの関係を表す関数の一例として、残容量比率RSOCが低下するにつれて調整係数Wが“0”から“1”へと一定の傾きで変化する関数を例示しているが、残容量比率RSOCの低下に応じて傾きが変化する調整係数テーブルを実装することも可能である。また、残容量比率RSOCが所定の閾値よりも大きいときは調整係数Wを“0”とし、残容量比率RSOCが所定の閾値よりも小さくなったら調整係数Wを“1”とするステップ状に変化する関数又はテーブルとすることも可能である。更には、残容量比率RSOCの値に応じて調整係数Wの変化する方向が切替るような関数又はテーブルとしても良い。例えば、残容量比率RSOCの所定範囲ではRSOCの低下に応じて調整係数Wを0から1に向かって変化し、それ以外の範囲ではRSOCの低下に応じて調整係数Wが1から0に向かって変化するような関数又はテーブルとしても良い。これによれば、電池の残量によって補正の有無や補正の程度を切り替えるような柔軟な制御が可能となる。