(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、自動二輪車のフロントフォークを構成するように車体の左右両側に配置される一対のダンパ10L、10Rを示すものである。このとき、本実施例の自動二輪車では、左右一方のダンパ10Lにだけ車高調整ユニット100Lを設けることにより、車高調整装置100を構成している。以下、ダンパ10Lとダンパ10Rについて詳述する。
【0031】
(ダンパ10Lの基本構成)(
図1〜
図8)
ダンパ10Lは、
図1〜
図3に示す如く、車輪側の、一端が閉じ、他端が開口するアウタチューブ11に、車体側のインナチューブ12を摺動自在に挿入している。アウタチューブ11のインナチューブ12が挿入される開口端には、摺動ガイド13、シールスペーサ14、オイルシール15、ストッパリング16、ダストシール17が設けられる。インナチューブ12のアウタチューブ11に挿入される下端外周部には、摺動ガイド19が設けられる。
【0032】
アウタチューブ11の底部には銅パッキンを介してボルト21が挿入され、このボルト21により固定される中空パイプ22が立設している。ボルト21は中空パイプ22の下端テーパ部の下の縮径部の内周のねじ部に螺着する。インナチューブ12の上端部にはOリング23Aを介してキャップボルト23の下端部の外周が螺着される。
【0033】
キャップボルト23には、後述する油圧ジャッキ110のジャッキハウジング111が取着され、このジャッキハウジング111に嵌合されるプランジャ113に支持されるばね受31と、中空パイプ22の上端部に設けられる拡径状隔壁部22Aの上端面に着座するばね受32との間に、圧縮コイルばねからなる懸架スプリング33を設けている。尚、プランジャ113は、本実施例では、該プランジャ113に取着される油圧ポンプ120のポンプハウジング121の上ポンプハウジング121Aを介して、該下ポンプハウジング121Bの中間部外周に取着されるばね受31を支持している。
【0034】
中空パイプ22の上端部には上述の隔壁部22Aが設けられ、隔壁部22Aの外周の環状溝内に、インナチューブ12の内周に摺接するピストンリング24を嵌挿している。中空パイプ22における隔壁部22Aの下側部分の外周に後述する油室25を設ける。
【0035】
インナチューブ12のアウタチューブ11に挿入された先端部(下端部)の内周にはピストン40が設けられる。ピストン40は、後述する上側減衰力発生装置70と下側減衰力発生装置80を備える。
【0036】
インナチューブ12の先端部のピストン40は、中空パイプ22の外周の油室25を進退し、この油室25を上下に仕切る。即ち、インナチューブ12と中空パイプ22と隔壁部22Aとピストン40により上油室25Aを、ピストン40の下部のアウタチューブ11と中空パイプ22により下油室25Bを形成する。
【0037】
中空パイプ22の内周に、インナチューブ12の上部に及ぶ油溜室27を区画し、油溜室27に作動油を充填するとともに、油溜室27の上部をエア室28とする。そして、中空パイプ22の外周の油室25と、中空パイプ22の内周の油溜室27とを連通し、インナチューブ12が中空パイプ22の外周の油室25に進退する容積分の油を補償するための孔状の容積補償流路51を、中空パイプ22に穿設して設けている。
【0038】
中空パイプ22は、伸長行程で高圧化する上油室25Aの油の一部を中空パイプ22の内周の油溜室27に流出させるオリフィス52を、隔壁部22Aの直下に穿設している。
【0039】
アウタチューブ11とインナチューブ12の間に、アウタチューブ11の内周に固定される摺動ガイド13と、インナチューブ12の外周に固定される摺動ガイド19に挟まれる環状隙間室60を設ける。インナチューブ12のピストン40を設けた部分に孔61を穿設するとともに、ピストン40に隙間62を穿設し、これらの孔61、隙間62によって環状隙間室60を中空パイプ22の外周の油室25(上油室25A、下油室25B)に連通する。これにより、環状隙間室60に作動油を供給し、摺動ガイド13、19の潤滑、容積補償を行なう。
【0040】
尚、インナチューブ12に設けたピストン40と、中空パイプ22に設けた隔壁部22Aの間に、伸長行程のストローク端である最大伸長時のリバウンドスプリング36を設け、最伸長ストロークを規制する。また、中空パイプ22の下端部とアウタチューブ11の底部との間にオイルロックピース37を挟持し、圧縮行程のストローク端である最大圧縮時にピストン40の下端内周に設けたオイルロックカラー38によりオイルロックピース37の周囲の作動油を加圧して最圧縮ストロークを規制する。
【0041】
上側減衰力発生装置70は、
図4に示す如く、中空パイプ22の外周の上油室25Aと、下油室25B(及びインナチューブ12に設けられて環状隙間室60と連通する孔61)との間に設けられ、圧縮行程で上油室25Aへの油の流入を許容し、伸長行程で上油室25Aから流出する油に流路抵抗を付与する。
【0042】
上側減衰力発生装置70は、
図4、
図5に示す如く、ピストン40に固定したバルブシート71の上油室25Aの側に伸側減衰バルブ72と圧側チェックバルブ73とバルブスプリング74を順に積層する。上側減衰力発生装置70は、伸長行程で、上油室25Aの高圧力により伸側減衰バルブ72の外周の流路Aと内周の流路Bを押し開いて伸側減衰力を発生し、圧縮行程で、下油室25Bの高圧力により圧側チェックバルブ73を押し開く。
【0043】
下側減衰力発生装置80は、
図4に示す如く、中空パイプ22の外周の下油室25Bと、上油室25A(及びインナチューブ12に設けられて環状隙間室60に連通する孔61)との間に設けられ、伸長行程で下油室25Bへの油の流入を許容し、圧縮行程で下油室25Bから流出する油に流路抵抗を付与する。
【0044】
下側減衰力発生装置80は、上側減衰力発生装置70のバルブシート71を共用するものとし、ピストン40に固定したバルブシート71の下油室25Bの側に圧側減衰バルブ82と伸側チェックバルブ83とバルブスプリング84を順に積層する。下側減衰力発生装置80は、圧縮行程で、下油室25Bの高圧力により圧側減衰バルブ82を押し開いて圧側減衰力を発生し、伸長行程で、上油室25Aの高圧力により伸側チェックバルブ83を押し開く。
【0045】
従って、ダンパ10Lにあっては、懸架スプリング33のばね力とエア室28のばね力により、路面から受ける衝撃力を緩衝する。そして、上側減衰力発生装置70と下側減衰力発生装置80が発生する圧側と伸側の減衰力により懸架スプリング33とエア室28の衝撃力の吸収に伴なう伸縮振動を制振する。
【0046】
次に、車高調整装置100を構成するために、左右一方のダンパ10Lにだけ設けた車高調整ユニット100Lについて詳述する。
【0047】
(車高調整装置100の車高調整ユニット100L)(
図2、
図6〜
図10)
車高調整装置100の車高調整ユニット100Lは、
図2に示す如く、インナチューブ12の上端部に設けたキャップボルト23に、油圧ジャッキ110のジャッキハウジング111(上下のジャッキハウジング111A、111Bの組立体)を取着して設ける。油圧ジャッキ110のジャッキ室112を区画する中空状プランジャ113をジャッキハウジング111の下端側外周に上下動可能に嵌合する。ジャッキ室112は、ジャッキハウジング111とプランジャ113と後述するポンプハウジング121により区画して形成される。油圧ジャッキ110は、プランジャ113がジャッキ室112から突出する突出端に達したとき、ジャッキ室112の作動油を油溜室27に戻す油戻り通路114をプランジャ113に設けている(
図2、
図10)。
【0048】
油圧ジャッキ110のプランジャ113の下端側内周に、油圧ポンプ120のポンプハウジング121(上下のポンプハウジング121A、121Bの組立体)を固定的に取着して設ける。中空パイプ22の上端部に取着した連結体122にポンプパイプ123を固定的に立設し、ポンプパイプ123を中空パイプ22の内周の油溜室27に連通するとともに、このポンプパイプ123をポンプハウジング121の内周に摺動可能に挿入する。ポンプハウジング121及びポンプパイプ123の中空部は互いに連通してポンプ室124を区画する。
【0049】
油圧ポンプ120は、中空パイプ22、ポンプパイプ123がインナチューブ12に進入する収縮動により加圧されるポンプ室124の作動油を油圧ジャッキ110の側に吐出させる吐出用チェック弁125をポンプハウジング121の上端部に備える(
図8(B))。中空パイプ22、ポンプパイプ123がインナチューブ12から退出する伸長動により負圧になるポンプ室124に、油溜室27の作動油を吸込む吸込用チェック弁126をポンプパイプ123の下端側の連結体122に備える(
図8(A))。
【0050】
従って、油圧ポンプ120は、車両が走行してダンパ10Lが路面の凹凸により加振され、中空パイプ22、ポンプパイプ123がインナチューブ12に進退する伸縮動によりポンピング動作する。中空パイプ22の収縮動によるポンピング動作によりポンプ室124が加圧されるとき、ポンプ室124の油が吐出用チェック弁125を開いて油圧ジャッキ110の側に吐出される。中空パイプ22の伸長動によるポンピング動作によりポンプ室124が負圧になると、油溜室27の油が吸込用チェック弁126を開いてポンプ室124に吸込まれる。
【0051】
車高調整ユニット100Lは、油圧ジャッキ110のジャッキ室112に供給した作動油を止めるように閉弁し、又は作動油を
図9に示す如くに油溜室27に排出するように開弁する切換弁130を有する。本実施例の切換弁130は、電磁弁からなり、インナチューブ12のキャップボルト23に内蔵され、油圧ジャッキ110のジャッキハウジング111(上ジャッキハウジング111A)に設けてあるジャッキ室112と油溜室27の連絡路115を開閉する。
【0052】
車高調整装置100は、
図11に示した制御回路を有し、ECU(制御手段)140による切換弁130の開閉制御によって、インナチューブ12に対する中空パイプ22の伸縮動によりポンピング動作する油圧ポンプ120が油圧ジャッキ110のジャッキ室112に供給した作動油の液位(作動油の量)、ひいてはジャッキ室112から突出するプランジャ113の突出高さを調整し、車両の車高を制御する。
【0053】
本実施例のECU140は、車高検出手段150、車速センサ161、シフトポジションセンサ162、Gセンサ(加減速センサ)163、サイドスタンドセンサ164、エンジン回転センサ165、ブレーキセンサ166等の検出信号を得て、電磁弁からなる切換弁130をオン/オフ制御する。
【0054】
車高検出手段150としては、油圧ジャッキ110におけるプランジャ113の高さ位置を検出する突出高さ検出手段151、油圧ジャッキ110におけるジャッキ室112の油圧検出手段152、アウタチューブ11に対するインナチューブ12の伸縮ストローク長検出手段153(不図示)の1つ、或いはそれらの2つ以上の組合せを採用できる。
【0055】
本実施例の車高検出手段150は、プランジャ113のインダクタンス式突出高さ検出手段151を採用する。突出高さ検出手段151は、例えば
図11に示す如く、油圧ジャッキ110の外周にコイル151Aを巻き、プランジャ113に設けたカバー151Bを油圧ジャッキ110の外周に被せる。突出高さ検出手段151はプランジャ113の変位に応じてコイル151Aのインピーダンスを変化させ、コイル151Aの出力は信号処理回路151Cを介してECU140に伝えられ、ECU140は信号処理回路151Cが出力するコイル151Aの発振周波数でプランジャ113の突出高さを検出する。尚、突出高さ検出手段151としては、インダクタンス式の他、ホール素子式、静電容量式等を採用できる。
【0056】
以下、自動二輪車の車高調整動作として、単一の2ポート2位置電磁弁からなる切換弁130を用いた
図11の制御回路を採用した車高調整装置100について詳述する。尚、
図11の切換弁130はノーマルクローズバルブ(但し、切換弁130はノーマルオープンバルブでも可)とした。
【0057】
ECU140がオン信号を出力する車高下げ制御モードで、切換弁130が開弁して油圧ジャッキ110のジャッキ室112をダンパ10Lの油溜室27に接続することにより、油圧ポンプ120が油圧ジャッキ110のジャッキ室112に供給した作動油を油溜室27に排出してジャッキ室112の液位、ひいてはプランジャ113の突出高さを下げ、車高下げ動作可能にする。
【0058】
他方、ECU140がオフ信号を出力する車高上げ制御モードで、切換弁130が閉弁して油圧ジャッキ110のジャッキ室112をダンパ10Lの油溜室27に対して遮断し、油圧ポンプ120が油圧ジャッキ110のジャッキ室112に供給した作動油を排出せず、車高維持又は車高上げ動作可能にする。このとき、中空パイプ22の前述の伸長動によるポンピング動作により、油圧ポンプ120は油溜室27の油を吸込用チェック弁126からポンプ室124に吸込み可能にする。そして、中空パイプ22の前述の収縮動によるポンピング動作により、油圧ポンプ120はポンプ室124の油を吐出用チェック弁125から油圧ジャッキ110のジャッキ室112に供給し、車高上げ動作可能にする。
【0059】
車高調整装置100による制御モードは具体的には以下の通りである。
(A)車高下げ制御モード
車高調整装置100において、ECU140は、車両の走行中又は長時間停車中にあって、切換弁130を閉弁して車高上げ動作可能にする車高上げ制御モード下で、下記1〜3のいずれかの制御条件によって切換弁130を開弁する車高下げ制御モードに移行する。
【0060】
1.車速制御
ECU140は、車両の車速Vが車高下げ車速Vd以下(V≦Vd)に入ったときに、車高下げ制御モードに入り、切換弁130を開弁して車高下げ動作可能にする。
ECU140は、車高下げ車速Vdを予め定めておく。Vdは例えば10km/hとする。
【0061】
2.停車予測時間制御
ECU140は、車両の停車予測時間Tを予測し、予測した停車予測時間Tが所定の基準停車時間Ta以下(T≦Ta)になったきに、車高下げ制御モードに入り、切換弁130を開弁して車高下げ動作可能にする。
【0062】
ECU140は、車両の車速から減速度を算出し、又はGセンサから減速度を検出し、減速度から停車予測時間Tを予測する。
【0063】
ECU140は、基準停車時間Taを、油圧ジャッキ110のジャッキ室112に満杯された作動油の排出時間(ジャッキ室112から切換弁130を介してダンパ10Lの油溜室27に排出する時間)とする。
【0064】
このとき、ECU140は、車両の停車予測時間Tを予測開始すべき基準車速Vaを予め定め、車両の車速Vが基準車速Va以下(V≦Va)になったときに、停車予測時間Tを予測するものとする。
【0065】
尚、ECU140は、停車予測時間制御において、上述のT≦Ta、かつV≦Vaなる制御条件に代え、車両の減速度αが所定の基準減速度αa以上(α≧αa)になったときに車高下げ制御モードに入り、切換弁130を開弁して車高下げ動作可能にするものとしても良い。
【0066】
ECU140は、基準車速Va、基準停車時間Ta、基準減速度αaを予め定めておく。Vaは例えば40km/h、Taは例えば2.5sec、αaは例えば4km/h/secとする。
【0067】
尚、停車予測時間とは、刻々の車両運動パラメータから予測演算される、走行中の車両が直近未来に停止するまでの時間を代表するパラメータであって、時間の次元を有する。
【0068】
実際の比較演算を行なう際には、時間の次元が比較式の両辺に分割されていたり、要素毎に比較を行なう等によって、一見「時間」の次数をとらない比較演算となる場合もある。
【0069】
例えば、最も簡単な停車予測時間の演算式のひとつはT=−V/α=−V・dt/dV(等加速度運動を仮定した場合の演算式)であるが、下記3つの比較式はすべて同一の意味となり、演算上の都合で比較方法の違いは生じても、実効上の意味はすべて停止予測時間の比較演算を行なっているものである。
T<c(cは閾値、ここではc=Ta)
V<−c・α
−α>c・V
【0070】
更に要素毎に比較を行なう例では、(V<c1)∩(−α>c2) (c1、c2は閾値)のように停車予測時間を算出するV、αの要素毎に比較を行ない、論理積をとる等の場合がある。
この場合は、T=−V/αより、Ta=(−c1)/(−c2)=c1/C2と表せる。
【0071】
3.サイドスタンド制御
ECU140は、車両のサイドスタンドが待機位置から作業位置に設定替えされたことを検出したときに車高下げ制御モードに入り、切換弁130を開弁して車高下げ動作可能にする。また、車速を監視して、車速が微速以上(例えば5km/s)ある場合はスタンド位置が、作業位置にあっても、下げ制御を行なわないで、車速が0の場合のみ下げ制御を実施する様な制御を行なうことができる。
【0072】
(B)車高上げ制御モード
車高調整装置100において、ECU140は、上述(A)により切換弁130を開弁保持した車高下げ制御モード中に、下記1〜4のいずれかの制御条件によって切換弁130を閉弁する車高上げ制御モードに移行する。
【0073】
尚、ECU140は、車高上げ制御モードに入って切換弁130を開弁状態から閉弁するとき、切換弁130への印加電圧E0をオフする(E0=OV)。
【0074】
1.車速制御
ECU140は、車両の車速Vが車高下げ車速Vd(車高下げ車速Vdとは独立に定めた車高上げ車速Vuでも可)を越えた(V>Vd、又はV>Vu)ときに、車高下げ制御モードを中止し、車高上げ制御モードに入り、切換弁130を閉弁して車高上げ動作可能にする。
【0075】
ECU140は、車高下げ車速Vd(又は車高上げ車速Vu)を予め定めておく。Vd又はVuは例えば40km/hとする。
【0076】
2.停車予測時間制御
ECU140は、車両の停車予測時間Tを予測し、予測した停車予測時間Tが所定の副次的基準停車時間Tbを越えた(T>Tb)ときに、車高下げ制御モードを中止し、車高上げ制御モードに入り、切換弁130を閉弁して車高上げ動作可能にする。
【0077】
ECU140は、車両の停車予測時間Tを、車両の減速度(又は加速度)から予測する。
このとき、ECU140は、車両の停車時間Tを予測開始すべき副次的基準車速Vbを予め定め、車両の車速Vが副次的基準車速Vbを越えた(V>Vb)ときに、停車予測時間Tを予測するものとする。
【0078】
尚、ECU140は、停車予測時間制御において、上述のT>Tb、かつV>Vbなる制御条件に代え、車両の加速度βが所定の基準加速度βbを越えた(β>βb)ときに、車高下げ制御モードを中止し、車高上げ制御モードに入り、切換弁130を閉弁して車高上げ動作可能にするものとしても良い。
【0079】
ECU140は、副次的基準車速Vb、副次的基準停車時間Tb、基準加速度βbを予め定めておく。Vbは例えば40km/h、Tbは例えば3sec、βbは例えば5km/h/secとする。
【0080】
3.長時間停車制御
ECU140は、車両の停車時間が所定の継続停車時間Tc以上になったときに、車高下げ制御モードを中止し、車高上げ制御モードに入り、切換弁130を閉弁して車高上げ動作可能にする。
ECU140は、車両の継続停車時間Tcを予め定めておく。Tcは例えば30secとする。
【0081】
4.ニュートラル制御
ECU140は、車両の車速V=0、かつシフトポジションがニュートラルのときに、車高下げ制御モードを中止し、車高上げ制御モードに入り、切換弁130を閉弁して車高上げ動作可能にする。
【0082】
(C)車高保持モード
車高調整装置100において、ECU140は、車両の走行中にあって、車高検出手段150の検出結果によって切換弁130を開閉制御することにより、車高を予め所望により設定した任意の中間高さ位置に保持する。
【0083】
即ち、ECU140が切換弁130をオフ作動(車高上げ制御モード)からオン作動に切換えて開弁し、車高下げ開始する車高の上閾値をH1に設定し、ECU140が切換弁130をオン作動(車高下げ制御モード)からオフ作動に切換えて閉弁し、車高上げ開始する車高の下閾値をH2に設定する。これにより、ECU140は、車高検出手段150の検出結果によって、自動二輪車の走行中の車高を、H1とH2に挟まれる中間高さ位置に保持するものになる。
【0084】
従って、このような車高調整装置100によれば、車高は、油圧ジャッキ110におけるプランジャ113の最高突出可能端が定める最大高さ位置と、油圧ジャッキ110におけるプランジャ113の最低没入可能端が定める最小高さ位置との間で、任意の中間高さ位置に保持され得る。
【0085】
また、車高の切換手段たる切換弁130として電磁弁を採用することにより、車高を瞬時に切換えできる。
【0086】
尚、車高検出手段150として、油圧ジャッキ110におけるプランジャ113の突出高さ検出手段151を採用することにより、検出時の車高を推測できる。
【0087】
また、車高検出手段150として、油圧ジャッキ110におけるジャッキ室112の油圧検出手段152を採用することにより、検出時の車高を推測できる。このとき、油圧検出手段152の検出結果をフィルタ(ローパス)にかけることによって、車重(積載荷重)を推定できる。車重が重くて車高が下がり気味のときには、車高を上げてダンパ10Lの底突を回避する。車重が軽くて車高が上がり気味のときには、車高を下げてダンパ10Lの伸切を回避する。
【0088】
また、車高検出手段150として、アウタチューブ11に対するインナチューブ12の伸縮ストローク長検出手段153を採用することにより、検出時の車高を推測できる。このとき、伸縮ストローク長検出手段153の検出結果をフィルタ(バンドパス)にかけることによって路面の凹凸状況(振幅状況)を推定できる。路面の振幅が大きいときには、車高を上げてダンパ10Lの底突を回避し、又は車高を適宜高さに調整してダンパ10Lの底突と伸切の双方を回避する。路面の振幅が小さいときには、オンロード車であれば風の抵抗を緩和するために車高を下げ、オフロード車であれば車両の前後の揺れ(ピッチング)を防ぐために車高を下げる。
【0089】
(ダンパ10Rの基本構成)(
図1)
ダンパ10Rは、
図1に示す如く、車輪側のアウタチューブ211に車体側のインナチューブ212を摺動自在に挿入している。ダンパ10Rは、アウタチューブ211の底部に取付けられるダンパシリンダ213をアウタチューブ211の内部に立設し、インナチューブ212の上端部に螺着したキャップボルト214にばね荷重調整スリーブ215を螺着し、ばね荷重調整スリーブ215の下端部に中空ピストンロッド216を固定する。ピストンロッド216はダンパシリンダ213の内部の油室217に挿入され、その挿入先端部にピストン218を備える。油室217はピストン218により上下の油室217A、217Bに区画される。ダンパ10Rはアウタチューブ211とインナチューブ212の間で、ダンパシリンダ213の外周の空間を油溜室219とし、油溜室219の上部をエア室220とする。
【0090】
ダンパ10Rは、キャップボルト214に設けたばね荷重調整スリーブ215に支持されるスプリングカラー221によりバックアップされるばね受222と、ダンパシリンダ213の上端部に設けたばね受223との間に、懸架スプリング224を介装している。
【0091】
ダンパ10Rは、ピストン218に第1減衰力発生装置231を備える。第1減衰力発生装置231は、圧側と伸側の減衰力を発生させる。ダンパ10Rは、アウタチューブ211の底部側に第2減衰力発生装置232を備える。第2減衰力発生装置232は、圧側と伸側の減衰力を発生する。
【0092】
従って、ダンパ10Rにあっては、懸架スプリング224のばね力とエア室220のばね力により、路面から受ける衝撃力を緩衝する。そして、第1減衰力発生装置231と第2減衰力発生装置232が発生する圧側と伸側の減衰力により、懸架スプリング224とエア室220の衝撃力の吸収に伴なう伸縮振動を制振する。
【0093】
尚、ダンパ10Rは、キャップボルト214に設けたばね荷重調整スリーブ215の内部に減衰力調整ロット233を同軸かつ相対回転可能に設けてある。減衰力調整ロッド233はピストンロッド216の中空部に挿通された先端ニードルにより、ピストン218を迂回して該ピストン218の上下の油室217A、217Bを連絡するバイパス流路の流路面積を絞ることにより減衰力を調整する。
【0094】
従って、車高調整装置100にあっては、左右両側のダンパ10L、10Rに懸架スプリング33、224を設ける。このとき、本実施例では、左右一方のダンパ10Lに設けた懸架スプリング33のばね荷重を、左右他方のダンパ10Rに設けた懸架スプリング224のばね荷重より大きく設定している。
【0095】
本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)ダンパ10Lは、基本構成として、「車輪側のアウタチューブ11内に車体側のインナチューブ12を摺動自在に挿入し、アウタチューブ11内の底部に、インナチューブ12の内周に摺接する隔壁部22Aを備えた中空パイプ22を立設し、インナチューブ12の先端部の内周に設けたピストン40が進退する油室25を中空パイプ22の外周に設け、この油室25をピストン40により該ピストン40の上部の上油室25Aと該ピストン40の下部の下油室25Bに仕切り、中空パイプ22の内周に、インナチューブ12の上部に及ぶ油溜室27を区画するとともに、該油溜室27の上部をエア室28とする」を具備する。そして、この基本構成に対し、「インナチューブ12の上端部には油圧ジャッキ110のジャッキハウジング111を設け、油圧ジャッキ110のジャッキ室112を区画するプランジャ113を該油圧ジャッキ110のジャッキハウジング111に上下動可能に嵌合し、中空パイプ22の上端と油圧ジャッキ110のプランジャ113との間に懸架スプリング33を設け、油圧ジャッキ110のプランジャ113に油圧ポンプ120のポンプ室124を形成するポンプハウジング121を設け、中空パイプ22の上端に立設されるとともに、該中空パイプ22の内周の油溜室27に連通するポンプパイプ123を該ポンプハウジング121のポンプ室124に摺動可能に挿入し、インナチューブ12に対する中空パイプ22の伸縮動によりポンピング動作する油圧ポンプ120が油圧ジャッキ110のジャッキ室112に送給する作動油の量を調整し、車高を調整する切換弁130を有してなる」車高調整ユニット100Lを設けることにより、車高調整ユニット100Lが設けられるダンパ10Lを簡素に構成することができる。
【0096】
(b)前記油圧ジャッキ110のプランジャ113の高さ位置を検出する検出手段151を有し、検出手段151の検出結果により切換弁130を開閉制御するECU140を有する。検出手段151の検出結果に基づき、油圧ジャッキ110のプランジャ113を任意の高さ位置に設定し、ひいては車高を任意の高さ位置に調整できる。
【0097】
(c)前記切換弁130をインナチューブ12の上端部に設ける。ソレノイド等の切換弁130を振動入力の少ない懸架スプリング33のばね上に配置できる。
【0098】
(d)車両の停車予測時間を予測し、予測した停車予測時間が所定の基準停車時間以下になったときに車高下げ制御モードに入り、切換弁130を切換えて車高下げ動作可能にする。停車が近づいてきた走行中から車高を下げ、車両が停車するまでの短時間内に車高を下げ切り、足付き性を良くし、安定性を確保できる。
【0099】
(e)左右一方のダンパ10Lにだけ車高調整ユニット100Lを設けたから、車高調整装置100の占有スペース、重量を小さくし、コスト低減できる。
【0100】
(f)前記左右両側のダンパ10L、10Rに懸架スプリング33、224を設け、前記左右一方のダンパ10Lに設けた懸架スプリング33のばね荷重を前記左右他方のダンパ10Rに設けた懸架スプリング224のばね荷重より大きく設定する。これにより、車高調整ユニット100Lを設けたことによってばね受荷重が増大するダンパ10Lに対する懸架スプリング33の支持能力を向上できる。
【0101】
左右一方のダンパ10Lに設けた懸架スプリング33を、左右他方のダンパ10Rに設けた懸架スプリング224のばね定数より大きくすることで、ばね荷重を大きくすることもできる。
【0102】
図12は、
図1に示した前記実施例に対する変形例の車高調整装置100であり、前述の左右両側のダンパ10L、10Rにおいて、左右一方のダンパ10Lにだけ懸架スプリング33を設けた。そして、左右他方のダンパ10Rから懸架スプリング224を撤去して、該ダンパ10Rには懸架スプリングを設けないものとした。
【0103】
このとき、左右一方のダンパ10Lに設けた油圧ジャッキ110におけるプランジャ113の昇降量を、左右両方のダンパ10L、10Rに前述の車高調整ユニット100Lと同様の車高調整ユニットを設けたとするときの当該油圧ジャッキ110におけるプランジャ113の昇降量の2倍相当にする。
【0104】
従って、本変形例の車高調整装置100によれば以下の作用効果を奏する。
(a)前記左右一方のダンパ10Lにだけ懸架スプリング33を設け、左右他方のダンパ10Rには懸架スプリング224を設けない。これにより、車高調整ユニット100Lを設けないダンパには懸架スプリング224を設けず、車高調整装置100の占有スペース、重量を小さくし、コスト低減できる。
【0105】
(b)前記左右一方のダンパ10Lに設けた油圧ジャッキ110の昇降量を、前記左右両方のダンパ10L、10Rに前記車高調整ユニット100Lを設けたとするときの当該油圧ジャッキ110の昇降量の2倍相当にする。これにより、車高調整ユニット100Lと懸架スプリング33を片側のダンパ10Lにだけ設けたことによる当該懸架スプリング33のばね撓みに起因するばね荷重を2倍相当にできる。
【0106】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、左右一方のダンパ10Lにだけ車高調整ユニット100Lを設けた車高調整装置100において、左右他方のダンパ10Rに主たる減衰力発生装置を設け、左右一方のダンパ10Lには減衰力発生装置を設けない、又は補助的な減衰力発生装置のみを設けるものとする。これにより、車高調整ユニット100Lを設けないダンパ10Rには主たる減衰力発生装置を設け、車高調整ユニット100Lを設けたダンパ10Lには減衰力発生装置を設けない、又は補助的な減衰力発生装置のみを設けることにより、左右のダンパ10L、10Rの重量バランスをとることができる。
また、本発明は左右両方のダンパに車高調整ユニットを設けても良い。
【0107】
また、本発明はリアクッションの左右の一対をなすダンパにおいても同様に適用できる。