特許第6012466号(P6012466)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012466
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】磁気刺激デバイスおよび方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/40 20060101AFI20161011BHJP
   A61N 2/00 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   A61N1/40
   A61N2/00
【請求項の数】21
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-515525(P2012-515525)
(86)(22)【出願日】2009年6月17日
(65)【公表番号】特表2012-529947(P2012-529947A)
(43)【公表日】2012年11月29日
(86)【国際出願番号】FI2009050524
(87)【国際公開番号】WO2010146220
(87)【国際公開日】20101223
【審査請求日】2012年6月11日
【審判番号】不服2014-10191(P2014-10191/J1)
【審判請求日】2014年6月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】505141853
【氏名又は名称】ネクスティム オーワイ
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100170601
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 孝
(72)【発明者】
【氏名】ルオホネン,ヤルモ
(72)【発明者】
【氏名】カルフ,ヤリ
【合議体】
【審判長】 高木 彰
【審判官】 熊倉 強
【審判官】 平瀬 知明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−320425(JP,A)
【文献】 特表2007−511328(JP,A)
【文献】 特表2008−543416(JP,A)
【文献】 米国特許第5718662(US,A)
【文献】 国際公開第2000/074777(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/40
A61N 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気パルスを発生して脳に送るためのデバイスであって、
短くて高エネルギーの電流パルス(18)を発生するための手段(15)と、
前記電流パルス(18)の振幅(16)を制御するための手段(7)と、
前記電流パルス(18)から高エネルギー電磁場刺激パルスを発生して脳に送るための手段(1)と、
脳に送られた前記刺激パルスに対する生体信号を測定するための手段(6、14)と、
前記電流パルス(18)の前記振幅(16)が不規則に変化する電磁場刺激パルスの予め定められたただ1つのパルス・シーケンス(17)を生成するための手段(7)と、
前記パルス・シーケンス(17)で運動閾値(MT)を決定するための手段と
を備えることを特徴とするデバイス。
【請求項2】
生体信号を測定するための前記手段が、前記刺激パルス(18)に対する応答を測定するための手段も含むことを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
短くて高エネルギーの電流パルス(18)を発生するための前記手段(15)は、
前記電磁パルスの位置および/または方向および/または大きさを定義するための位置特定手段(3、2、12、13)を備えることを特徴とする請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記シーケンス(17)が、前記刺激に対する応答からのフィードバックによる変更なしでそのまま行われることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記刺激に対する応答からのフィードバックに基づいて前記シーケンス(17)の刺激強度の反復数を変更するための手段を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項6】
磁気パルスを発生して脳に送るためのデバイスにおいて、さらに
短くて高エネルギーの電流パルス(18)を発生するための一時エネルギー源、例えばコンデンサを含み、前記パルス・シーケンス中の次のパルスの振幅によって定義されるパルス(18)の振幅(16)を変えるために一時エネルギー源を充電または放電するための手段を備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項7】
前記電流パルス(18)の振幅(16)を制御するための前記手段(7)は、さらに
前記パルス・シーケンスと、それに対応する応答との関係を計算するための手段(7)を備えることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項8】
刺激強度および前記刺激に対する応答を含む信号またはメッセージを発生するための手段と、2つ以上のそのような信号またはメッセージからの、プログラムされた計算の結果を出力するための手段とを備え、前記計算結果が、前記刺激強度と前記応答特性の関係の推定量を提供することを特徴とする請求項7に記載のデバイス。
【請求項9】
前記電流パルス(18)の振幅(16)を制御するための前記手段(7)は、さらに
時間(19、ISI)が不規則になるように、前記シーケンス(17)中のパルス(18)間の時間(19、ISI)を調節するための手段を備えることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項10】
前記電流パルス(18)の振幅(16)を制御するための前記手段(7)は、さらに
前記シーケンス(17)中の前記パルス(18)に関する不規則な持続時間(20)を調節するための手段を備えることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項11】
前記電流パルス(18)の強度は、脳内で誘起される電場または前記電場から導出される量で表されることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項12】
前記電流パルス(18)の振幅(16)を制御するための前記手段(7)は、さらに
筋肉の弛緩レベルなど患者の状態が操作者または制御システムによって設定された限度外である場合に前記刺激シーケンスの実行を休止するために、前記状態を検出するための手段(7)を備えることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項13】
前記電流パルス(18)の振幅(16)を制御するための前記手段(7)は、さらに
全シーケンスの実行後に、運動閾値(MT)や運動リクルートメント曲線(図5)など、前記刺激パルスと応答との関係を推定する計算を行うための手段(7)を備えることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項14】
前記電流パルス(18)の振幅(16)を制御するための前記手段(7)は、さらに
シーケンス後に、異なる振幅の応答を誘発するために、刺激器閾値強度を推定するために計算を行うための手段(図6)を備えることを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項15】
前記電流パルス(18)の振幅(16)を制御するための前記手段(7)は、さらに
前記シーケンス(17)の実行中に計算を行い、計算結果を使用して、前記シーケンス中の残りのパルス(18)の強度および/または刺激間隔(19、ISI)を変える、または前記シーケンスが終了するまでにさらに加えるべきパルスの数を変える手段を備えることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項16】
短くて高エネルギーの電流パルス(18)を発生するための前記手段(15)は、コンピュータ断層撮影、磁気共鳴撮像、または超音波を使用して獲得された被験者の画像に対して応答を位置特定するための手段を備えることを特徴とする請求項1乃至15のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項17】
脳に送られた前記刺激パルスに対する生体信号を測定するための前記手段(6、14)は、
筋電図記録デバイスによって生体信号を測定するための手段を備えることを特徴とする請求項1乃至16のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項18】
脳に送られた前記刺激パルスに対する生体信号を測定するための前記手段(6、14)は、
脳波記録デバイス(EEG)を使用して生体信号を測定するための手段を備えることを特徴とする請求項1乃至17のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項19】
前記電流パルス(18)の振幅(16)を制御するための前記手段(7)は、さらに
結果を、同一人の以前の検査の結果と比較するための手段を備えることを特徴とする請求項1乃至18のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項20】
前記電流パルス(18)の振幅(16)を制御するための前記手段(7)は、さらに
前記シーケンスの送達、および出力される結果の計算を自動化するための手段を備えることを特徴とする請求項1乃至19のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項21】
前記電流パルス(18)の振幅(16)を制御するための前記手段(7)は、さらに
結果を、同一人の異なる筋肉から事前にまたは同時に得られた結果と比較するための手段を備えることを特徴とする請求項1乃至20のいずれか1項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、神経信号を伝達する脳およびその下行路の能力に関係付けられる情報を推論する目的での、所定のパルスによるヒトの脳の非侵襲性刺激に関する。特に、本発明は、生物学的測定値の変化の検出と共に併用されて、通常可能なよりも速くかつ高い信頼性で測定情報を提供する迅速なパルス・シーケンスに関する。特に、本発明は、独立請求項のプリアンブル部分に記載のものに関する。
【背景技術】
【0002】
(従来技術)
経頭蓋磁気刺激(TMS)が、ヒトの脳の運動野を刺激するための方法を提供する。筋肉の一次表現領域の刺激は、皮質脊髄神経経路の活性化をもたらすことがあり、この経路は、大脳皮質から生じて脊髄への経路を形成し、そこから神経信号が末梢神経によって筋肉に搬送され、最終的には筋肉の活性化を引き起こす。表面筋電計(EMG)を使用して筋収縮を定量的に検出することができる。脳の刺激に対するこれらのEMG応答は、運動誘発電位またはMEPと呼ばれる。
【0003】
TMSは、大脳皮質および皮質脊髄路の機能を検査するために使用されている。この方法は、診断、予後診断、および治療を行うための医師の決定の助けとなる情報を提供することができる。広範囲の医療専門分野で、TMSの使用または使用の探究が行われている。現在、TMSは、神経学、神経外科学、および精神医学、ならびに神経科学研究において最も有益なものである。TMSに関する文献には、TMS刺激と、その刺激によって誘発される応答との関係の検査に関する多くの異なる方法が記載されている。ここで、この関係を使用して、刺激された脳の領域およびその様々な神経連絡の機能を評価および検査することができる。典型的なTMS測定は、TMSパルスの50%に対してMEPを誘発する閾値TMS強度の決定から始まる。決定された値は、運動閾値(MT)と呼ばれ、静止時または少なくとも部分的に前活性化されている筋肉に関して決定することができる。正確な決定には理論上は無限数の刺激パルスが必要であるので、この値は推定量であることに留意されたい。通常、対象の筋肉が異なれば運動閾値は異なり、また身体の左右で異なることがある。また、運動閾値の大きな個人差が文献で報告されている(MillsおよびNithi,Muscle and Nerve,20:570−576,1997; Pitcher他,J Physiology,542:605−613,2003)。
【0004】
運動閾値は、運動皮質および皮質脊髄路の興奮性を反映する。また、TMSは、興奮性だけでなく中枢神経系の他の特性も反映する他のタイプの測定の可能性も提供する。個々人の運動閾値は、これら他の検査のほぼすべてにおいて刺激強度を調節するための基礎となる。よく行われる1つの測定は、1つの一定の刺激強度に対するMEP応答の平均サイズおよび待ち時間を求めることであり、ここで刺激は、推定される運動閾値よりも10〜20%強い。平均サイズおよび待ち時間は、神経信号を伝達する大脳皮質および皮質脊髄路の能力を反映する。研究では通常、身体の左右での応答を比較する。別の標準的な測定は、異なる強度で刺激し、誘発される応答のサイズの変化を観察することである。これは、入出力曲線の決定として知られており、文献ではリクルートメント曲線としても知られている。これらのパラメータは、疾患の進行または疾患からの回復の診断決定および監視を補完する情報を提供することができる。そのような測定によって提供される情報は、診断または予後診断を行うとき、または疾患を治療するときに医師にとって助けとなることがある。例えば、手の機能障害を生じる脳卒中を起こした患者の手の筋肉で、MTの変化が観察されることがある。同様に、リクルートメント曲線は、疾患の過程にわたって変化することがあり、この変化は、傾きの変化および曲線の下の面積の変化を含む。
【0005】
TMSを使用する際によく使用されるプロトコルは、まず、頭部の上の様々な位置にコイルを置き、各位置に刺激パルスを送達し、1つまたは複数の筋肉からの誘発された運動誘発応答を観察することである。次いで、最も強い応答に関連付けられるコイル位置で繰り返される。
【0006】
MTを決定するための公開されているプロトコルによれば、異なる強度のパルスが加えられる(例えば、Rossini他,Electroenceph.Clin.Neurophysiol.m 91:79−92,1994; Awiszus F,Suppl.Clin Neurophysiol.56:13−23,2003)。これらは、前の刺激に対するMEP応答に基づいて使用者が次のパルスの強度を選択する反復アルゴリズムである。典型的には、応答のない刺激の後には、より高い強度の刺激が送達され、またその逆も行われる。少なくとも原理的には、TMSデバイスとEMGデバイスの間でフィードバック・ループを構成することができ、その際、システムはコンピュータ化されて、使用者による入力なしで次の刺激強度を反復的に調節する。そのような方法は、例えば米国特許第7104942号で論じられている。
【0007】
運動閾値の強度の1.1〜1.2倍に対応する刺激強度でMEP値を記録することがよく行われる。通常は、複数回の応答強度の平均値が求められる。次に、やはり運動閾値を基準とするいくつかの強度レベル、例えば、予め定義された運動閾値強度の0.8倍、0.9倍、1.0倍、1.1倍、および1.2倍を選択することがよくある。これらの各強度で複数回の刺激が連続して加えられ、それと同時にMEP応答を記録する。応答が分析され、応答の平均が刺激強度に対してプロットされる。
【0008】
(従来技術の欠点)
既知のプロトコルは、他の値を測定する前に運動閾値(MT)強度を決定する必要がある。MTは、後述の、またはコンピュータ化された反復プロトコルによって決定され、このプロトコルは、1つまたは複数の前の刺激の結果に基づいて、加えるべき次の強度を使用者に知らせる。そのようなプロトコルの欠点は、MEPが非常に大きなばらつきを有することが知られており、これが反復プロセスの結果に大きく影響を及ぼすことである。通常、MTを確実に決定するために10〜100個程度のパルスが必要とされる。決定の精度は、反復の回数と共に上がる。反復MT決定は、人為的ミスが起こりやすく、また測定の誤差を受けやすい。特に刺激パルスの数が少ない場合には、1つのミスまたは誤差が反復の道筋に大きな影響を及ぼし、誤った結果が生じる。検査の長さを短縮するために、少数のパルスを使用することが有益である。
【0009】
MT値を他のTMS検査のための出発点として使用する必要があるため、加える必要がある刺激パルスの数が増加し、これは、その部分から検査セッションを延ばす。長い検査期間は、結果の信頼性および再現性に悪影響を及ぼす。MEPは、被験者または患者の覚醒、不眠、傾眠などの変化によって影響を及ぼされる。疾患の過程または疾患からの回復中の測定パラメータの変化の査定は、生じる測定結果のばらつきにより、大幅に限られる。安定な状態の下で検査を行うことが重要であり、長い検査は好ましくない。
【0010】
他の欠点もある。リクルートメント曲線(上述)を決定するために、まず、MTよりも上のパーセンテージ値(例えば20%)として加えられる強度を計算し、次いでその強度を適用して複数回(例えば10回)刺激し、最後に各刺激強度に対する応答のサイズの平均を求める必要がある。現在の方法は、等しい強度のパルスを立て続けに加える。各強度値に対する平均応答が計算されて、入出力関係を推定するために使用される。この手法にはいくつかの欠点がある。まず、TMS応答は、特に刺激間隔が2〜5秒よりも短いとき、前に加えられたパルスによって条件付けられることが知られている。さらに、刺激パルスの強度も、後続の1つまたは複数のパルスに対するMEP応答に影響を及ぼすことが知られている。したがって、等しい強度値の刺激強度を立て続けに加えると、人為的な偏倚を有する入出力曲線が生じる。同様の強度を連続して複数回加えることは、脳が慣れるので、応答の解釈のさらなる誤差をもたらす。また、被験者が刺激を予測できるようになることもあり、これは、MEP応答のサイズに影響を及ぼすことが知られている。
【0011】
要約すると、既知の方法は、以下のようないくつかの欠点を有する。
−複数の部分からなるので、刺激測定に必要な時間が長い。
−生成される情報に比べて、パルスの数が比較的多い。
−他の測定を実行する前にMTを決定する必要があり、手順の融通性が全くなくなる。
−反復MT決定は、人為的ミスが起こりやすく、また測定の誤差を受けやすい。特に刺激パルスの数が少ない場合には、1つのミスまたは誤差が反復の経路に大きな影響を及ぼし、誤った結果が生じる。
−長い試験時間により、MTが、測定の残りの部分とは異なる条件下で決定されていることがある。これにより、不正確で質の悪い情報が生じる。
−MEP値が大きく変化し、MTおよびリクルートメント曲線の推定の質を下げるという問題。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第7104942号
【特許文献2】米国特許第6827681号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】MillsおよびNithi,Muscle and Nerve,20:570−576,1997
【非特許文献2】Pitcher他,J Physiology,542:605−613,2003
【非特許文献3】Rossini他,Electroenceph.Clin.Neurophysiol.m 91:79−92,1994
【非特許文献4】Awiszus F,Suppl.Clin Neurophysiol.56:13−23,2003
【非特許文献5】Ilmoniemi他,Crit.Rev.Biomed.Eng.,27:241−284,1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
(発明の狙い)
本発明の狙いは、従来技術の欠点の少なくともいくつかを軽減または除去すること、ならびに経頭蓋磁気刺激を使用した、より迅速であり確実な測定を提供する方法および機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、予め定められたパルス・シーケンスと、そのような刺激を経頭蓋磁気刺激技法を用いて送達することができる装置とを使用して脳を刺激することに基づく。この方法は、他のタイプの測定を行うことができるように事前に個々人の刺激閾値強度を決定する必要性をなくす。本発明は、より少数の刺激パルスを使用するとともに、選択されたTMS応答値のより迅速な決定を可能にする。本発明は、予め設定された間隔を備え、かつ不規則に変化する強度を有するパルスのシーケンスを送達することができる装置を備えることができる。
【0016】
より具体的には、本発明によるデバイスは、請求項1の特徴部に記載されているものによって特徴付けられる。
【0017】
一方、本発明による方法は、独立請求項である方法クレーム24の特徴部に記載されていることによって特徴付けられる。
【0018】
(利点)
本発明では、TMS検査をより迅速にすることができる。ただ1つのパルス・シーケンスを使用してデータを獲得することができる。通常であれば、より多くのパルスを加える必要がある。特に、本発明を使用して、MT、リクルートメント曲線、およびMEP平均値の記録を、現在の技法で必要とされているように複数のパルス・シーケンスではなく、ただ1つのパルス・シーケンスに組み合わせることができる。また、本発明は、TMS測定の信頼性および再現性を大幅に改良する。予めプログラムされた不規則なTMSパルス系列を加えることは、先行の方法で使用されている反復探索に関係付けられる問題をなくす。また、術中の差異によるMEPおよび反復プロセスの異なる解釈に関係する問題もなくす。すなわち、本発明はTMS測定の客観性を高める。さらに、本発明で述べる不規則シーケンスの適用は、中枢神経系の特性を反映する選択されたTMSパラメータの自動測定を可能にする。
【0019】
以下、本発明を、添付図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】TMS治療が適用される環境の概略全体図である。
図2】従来技術によるTMS構成のブロック図である。
図3】TMSデバイスとEMGデバイスの間の接続、および接続するコンピュータを示す図である。
図4】本発明によるパルス・シーケンスを示す図である。
図5】刺激−応答曲線のグラフを示す図であり、各マーカーが10個の応答の平均を表す。2つの曲線が別々の日の測定を表す。
図6】1人の被験者の短母指外転筋に関するMEP類別限界に対してプロットされた刺激器閾値強度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(好ましい実施形態の説明)
本出願に関連して、参照番号を付した以下の用語を使用する。
【0022】
表1 参照番号のリスト
【表1】
【0023】
本発明による必要な機器は、図1に示されるTMSデバイス、TMSコイル、データ処理装置、および生体信号を測定するための機器である。分かりやすくするために、図1での生体信号ユニットはEMGデバイスとして描いてある。データ処理装置7は、統合型コンピュータでよく、または組込みソフトウェアやPCソフトウェアなど1つまたは複数の物理的位置に常駐する分散型ソフトウェアでもよい。データ処理装置は、パルス・シーケンス中のパルス強度のリスト、およびパルスのタイミングに関する情報を含む。また、データ処理装置は、TMSデバイスによる所要のパルス・シーケンスの適切な送達も監視する。
【0024】
図1に示される補助機器は、ケーブルおよび変成器9を含む。図示されるEMGデバイスは、EMG増幅器6と、電源10と、電極14とを備える。患者にEMG増幅器6の電極14が装着され、この電極14は、対象となる患者の部分、典型的には1つまたは複数の筋肉の筋腹の上に取り付けられる。EMG電極14は、筋活動に関係付けられる電位を記録する。信号の記録は、TMS誘発筋肉応答を記録するために関係付けられたTMSパルスに時間的に同期させることができる。EMG増幅器6は、患者の椅子4に隣接して位置され、EMG電極14の信号を増幅する。次いで、生体信号がデジタル化されて、表示および分析のために処理装置またはコンピュータに送られる。この機器は、他のタイプの生体信号、例えばEEG信号や筋力応答を検出することもできるが、EMG測定が最も有望な適用例である。EMG増幅器6は、EMG電源10によって電力供給される。TMSコイル1によって短い磁場パルスが与えられ、ここで、パルスは、約50マイクロ秒〜2ミリ秒、有利には100〜500マイクロ秒の持続時間を有する。
【0025】
TMSコイル1はトリガ・スイッチ5によって操作され、トリガ・スイッチ5はフット・スイッチでよく、このスイッチは、所与のパルス、または全パルス・シーケンスの実行をトリガする。フット・スイッチ5はTMSデバイス15に接続され、TMSデバイス15は、TMSコイル1を通してパルスを発火する。
【0026】
従来技術の構成が、図2にブロック図として示されている。TMS検査システムの主要構成要素は、個別または統合型の実体として設置することができ、それにより、システムの動作全体がTMSデバイスの発火によってトリガされる。
【0027】
次に図3を参照すると、EMG信号が、EMG増幅器6からUSBケーブルを介して信号処理装置ユニット(典型的には制御コンピュータ7)に供給され、1つまたは複数の選択されたチャネルが即時に分析される。また図3から明らかなように、EMG受信機ユニット10と、制御コンピュータ7と、TMSデバイス15とが互いにリンクされる。リンクは、例えばUSBライン、ワイヤレス通信、またはTTLレベル同期信号を使用することによって提供することができる。操作者がフットペダルを踏む、またはその他の方法で刺激パルスをトリガするとき、制御コンピュータ7が、トリガ信号をTMSデバイス15に送信する。同期信号が、コンピュータによって直接、またはTMSデバイス15から、EMGデバイスに渡され、それによりEMG信号をTMSパルスのタイミングに関係付けることができる。それにより、EMGをTMSパルスに同期させることができる。信号処理装置ユニットは、刺激強度および刺激応答特性を含む信号またはメッセージを生成するための手段を含み、メッセージを別の信号処理装置ユニットに、または同じ信号処理装置ユニット内で実行中の同じまたは異なるプログラムに渡す、または送信する。
【0028】
信号処理装置ユニットにおいて計算が行われ、シーケンス中の刺激と応答のグラフ的関係または数値的関係を生成し、それらがディスプレイ上に出力される。
【0029】
TMSデバイス15には、MR撮像を使用して獲得された個々人の脳の解剖学的構造に対してコイルを位置特定するための手段を装備することができる。この実施形態では、TMSコイルにコイル・トラッカ13が装備される。コイル・トラッカ13は、TMSコイル1の位置および位置合わせに関する位置情報を提供する。トラッカ3、13の制限のない視野内にあるように位置された位置センサ12が、頭部およびコイル・トラッカ3、13の位置情報を収集し、位置センサ電源ユニット8によって電力供給される。位置センサ12に関する好ましい位置は天井である。デジタイザペン2が、実際の頭部と、その頭部のMR画像とを一緒に登録するために使用される。次いで、コンピュータは、すべての位置特定情報を収集し、頭部の上のコイルの正確な位置および脳内の刺激分布を、MR画像上へのオーバーレイとして使用者にリアルタイムで表示することができる。
【0030】
3D位置特定システムが使用されるとき、TMSトリガを制御するための追加の信号が存在することがあり、これが頭部に対するコイルの位置を制御する。より高い精度および再現性を要求する研究では、すべてのTMS刺激中に同じ位置にコイルがあることが有利である。3D位置特定システムからの情報を使用して、コイルが所望の位置および向きであるかどうか判断することによって、パルスを与えるか否か判断することができる。許容限度は用途によって異なる。典型的な許容限度は、2〜5mm未満のコイル位置の差、および5〜10°未満のコイルの向きの差でよい。
【0031】
ここで図1を参照すると、本発明の別の実施形態によれば、TMSパルスの管理を制御するための追加の情報を提供するためにTMS機器の3D位置特定システムが使用される。この位置情報は、好ましくは同等の数値データである。プロセスは、3D位置特定システムの位置情報に基づくさらなる決定段階によって強化することができる。TMSセッションを準備するとき、TMSコイル1の位置に関して設定される許容限度に加えて、患者の筋活動に関する許容限度を設定することができる。フット・スイッチ5が活動化されるとき、所定の位置限度が、3D位置特定システムによって提供されるリアルタイム位置情報と比較される。上述した例に基づき、本発明の範囲内で、上述した実施形態とは異なる数値的解決策を実施することができることは明らかである。さらに、それを、例えば米国特許第6827681号で開示されているナビゲーション型TMS刺激と組み合わせることによって、本発明の好ましい実施形態を得ることができる。したがって、本発明は、上述した例のみへの適用に限定する意図はなく、特許保護範囲は、添付の特許請求の範囲の全範囲について審査すべきである。
【0032】
(本発明の説明)
図4によれば、本発明ではパルスのシーケンス17が使用され、これは、異なる振幅16(強度)を有するパルス18を含む。典型的には、パルスの数は数十パルスであり、例えば70パルスである。振幅は、典型的には不規則に変化し、被験者および脳が、次のパルスに対する応答を予想または学習しないようにする。不規則性を生み出す一方法は、乱数化を使用するものである。乱数化は擬似乱数化でよく、すなわち数学的に完璧である必要はない。特に、結果として生じるパルスの系統的な上昇または下降傾向は避けるべきである。典型的には、振幅は所定の振幅から選択され、振幅の回数は、実用上の理由から例えば5〜10回でよい。強度は自由に変えることもでき、すなわち振幅が最小振幅と最大振幅の間の任意の値を取ってもよい。これらのパルス・シーケンス17は典型的にはコンピュータ7によって生成され、したがってコンピュータ7は、そのメモリに、シーケンス中のパルスのすべてのタイミングおよび振幅を含む。あるいはコンピュータ7は、そのメモリに、使用者が選択した1つまたは複数のパラメータに基づいてこのシーケンスを生成するためのアルゴリズムを含むことができる。これらのパラメータは、例えば、パルス18の数、振幅16に関する範囲、ISI19に関する時間もしくは範囲、またはパルスの持続時間20に関する時間または範囲でよい。被験者が次のパルスを予想できない、または被験者の脳が慣れないという条件で、シーケンスが反復パターンを含むこともできる。
【0033】
パルス・シーケンス(またはパルスのシーケンス)とは、本出願では、少なくとも不規則に変化する強度を有するパルスの任意の不規則なシーケンスを意味する。強度は、刺激器の最大出力振幅の0%〜100%の間の任意の値を有することができる。シーケンス中の続いて生じるパルス間の刺激間隔(ISI)19は、原理的には、0〜無限大の任意の値でよい。実用上は、最小の実用的なISIは、刺激パルスを発生する電子回路によって制限され、約1msである。運動野が刺激され、末梢のEMG記録と組み合わされる生理学的検査に関しては、下限値は、ニューロンおよび筋繊維の不応性、および末梢神経から脳へのニューロン・フィードバック・ループによって、ISI=100ms程に制限される。ISIに関する上限は、実用上は、シーケンス全体、したがって検査セッションの最長期間によって制限される。通常はパルス・シーケンスが10〜200パルスを含むことを考慮すれば、検査の期間を制限するために、ISI値を好ましくは20秒未満にすべきである。非常に迅速な測定のためのパルス・シーケンスは、例えばISI=200msを有し、10種の異なる強度で50個のパルスを有する。別の例は、1〜1.5秒の間で変化するISIを有し、かつ7種の異なる振幅で70個のパルスを有するシーケンスを使用する皮質脊髄路および運動皮質の迅速な測定である。より正確な測定は、より多くのパルス、例えば150個のパルスを追加することによって得られる。
【0034】
また、ISI19は不規則でもよく、その際、ISI19は、予め設定された許容限度内、例えば1〜2秒の間で、シーケンス全体にわたって見掛け上はランダムに変化する。この乱数化は数学的に完璧である必要はなく、刺激を受ける人がパルスを有意には予測できないようにISIを不規則に変えれば十分である。パルス18の持続時間は参照番号20で表す。パルス18の持続時間20は、約50マイクロ秒〜2ミリ秒、有利には100〜500マイクロ秒の範囲内で変化する。本発明によれば、パルス18の持続時間20はシーケンス17中に変化してもよい。
【0035】
不規則な刺激シーケンスは、従来使用されている反復TMS(rTMS)とは大きく異なる。反復TMSでは、パルス列が一律の強度のパルスからなる。これはまた、いわゆるシータバーストTMSにも当てはまり、シータバーストTMSでは、rTMSシーケンスが、ブロック間に待機時間間隔を挟んでより短いブロックに分割される。対照的に、不規則シーケンスは、異なる振幅のパルスを含み、強度は予め設定された振幅範囲内で変化する。振幅は、刺激器出力振幅の最小値と最大値の間で変化することがあるが、通常はより小さい振幅範囲が使用される。
【0036】
従来知られている反復TMSの列は、常に一定のISIを有し、通常は20ミリ秒〜1秒である。他方、不規則パルス・シーケンスでは、例えば1〜2秒の間で刺激間隔を変えることによって不規則性をさらに増すことができる。また、より短いISI値を使用して、パルス・シーケンスのより短い持続時間を実現することもできる。
【0037】
不規則パルス・シーケンスは、データ処理装置またはコンピュータによって生成することができる。また、シーケンスを予め計算することもでき、使用者は、それらを、実行用デバイスのメモリにロードすることができる。あるいは、シーケンスは、デバイスソフトウェアによって計算することができる。次いで、パルス・シーケンスの実行は、デバイスソフトウェアおよび制御電子回路によって制御される。
【0038】
ここで説明するパルス・シーケンスは、各パルスに対する応答の検出、観察、または測定と共に適用される。また、これは、脳の処理に干渉するため、または脳機能を変調もしくは変更する目的での効果を生み出すために使用される既存のパルス列またはrTMSとは大きく異なる。
【0039】
各パルスが強度Aであり所与の時間t(i=1、・・・、N)を与えられた、N個のパルスを有する不規則なTMSパルス・シーケンスが設計される。すなわち、
(A,t)、i=1、・・・、N
【0040】
ここで、強度Aおよびtは、予め設計された計画に従って変えられる。TMSパルスに対する脳の反応は、一部は、1つまたは複数の前のパルスによって変調させることができるので、例えば強度が増加する順に刺激を与えるのではなく、Aが乱数化されるようにシーケンスを設計することが好ましい。
【0041】
各パルスによって誘発される測定可能な生物学的変化が同時に記録される。1つの有益な測定はEMGであり、筋収縮から得られる運動誘発電位(R)を観察する。Aが弱いときRはゼロであるか、またはゼロに近いという既知の関係がある。強いAに関しては、Rは、筋肉に応じて約1〜15mVの後に飽和する。MEPとRの関係は、概してS字曲線形である。概してS字曲線形の依存性が存在するが、同じAが常に同じMEPを引き起こすとは限らず、その関係に顕著な統計的ばらつきがあることが知られていることに留意すべきである。
【0042】
一様に繰り返される刺激は脳の慣れを引き起こすことがあり、被験者が刺激をすぐに予測できるようになり、これは刺激に対する脳の反応性を変えることがあるので、tをランダムに変えることが好ましい。
【0043】
以下の利益が判明する。N個のパルスの列内で強度Aが複数回繰り返されるようにAを選択することによって、様々なAに対して平均Rを計算することができる。少なくとも2つ、しかし最適には少なくとも5つのカテゴリーの強度Aを選択することによって、AとRの関係を確立および推定することができる。
【0044】
TMS研究は、いわゆる運動閾値(MT)を決定することがよくある。MTは、刺激の半分については50μV以上の値で、刺激の半分については50μV未満の値でMEPを誘発する刺激強度と定義される。MEPの統計的性質により、MTの絶対値の決定には、理論上は無限数の刺激パルスが必要である。
【0045】
不規則パルス・シーケンスが、MTの非反復決定を可能にする。これは、刺激パルスの振幅が前のパルスに対する応答に依存する現在知られている反復探索とは対照的である。非反復MT決定では、不規則パルス・シーケンス中のパルスに対する応答を記録する。次に、シーケンス中のすべてのパルスに関する刺激−応答対を、MEPに関する統計的モデルに適合させて、MT値を決定する。計算には、PEST(parameter estimation by sequential testing;逐次試験によるパラメータ推定)タイプのアルゴリズムを活用することができる。統計的モデルは、所与の仮定に関してデータが得られているときには、実際の閾値に関する単純な確率密度関数でよい。累積分布は正規分布でよい。次に、適切な関数の尤度を最大にすることによって、MTの期待値を推定することができる。尤度関数を最大にするために、ブレント探索(Brent−search)または他の適切なアルゴリズムを使用することができる。
【0046】
(例示的な測定の要約)
2つの筋肉、すなわち右手の短母指外転筋(APB、親指)と小指外転筋(ADM、小指)から、表面電極を用いてEMGを測定した。まず、左半球で頭頂皮質の上に刺激器コイルを置き、そのコイルを段階的に移動させて、刺激時に低い刺激強度で強いMEPを誘発することができたコイル位置を位置特定した。次いで、このコイル位置および向きを記録した。
【0047】
TMS刺激器は、7種の異なる強度値(刺激器の最大出力の28%、34%、40%、45%、51%、57%、および62%)の刺激を含む70個のパルスを有するパルス列を与えるように設定した。異なる強度の刺激の順序はランダムに変えた。各刺激に対するEMG応答を記録し、それらの待ち時間およびピークツーピークサイズを求めた。前に記録したコイル位置に刺激を加えた。3D位置特定デバイスを用いて、すべての刺激パルスに関して本質的に同じ位置でコイルを維持した。パルスは約2秒の刺激間隔で加えた。被験者には、手の筋肉を弛緩したままにするよう指示した。
【0048】
検査が終了した後、すべてのEMG応答を、それらの待ち時間およびピークツーピークサイズに関して考察した。以下の分析を行った。各刺激強度に対するピークツーピーク値の平均を求めた(最も強い2つの刺激および最も弱い2つの刺激を除外し、残りの6つの応答の平均を求めた)。各点での標準偏差を計算した。x軸に強度、y軸に平均応答サイズを取って、曲線をプロットした。図5が、別々の日に得られた結果の曲線を示す。
【0049】
次に、最大尤度探索を使用してMTを決定した。この手法では、MEPの統計的なばらつきは、ガウス分布としてモデルされる。MT値は、統計的に刺激の50%に対する応答を生み出す刺激強度に関する期待値として導出される。同様のアルゴリズムは、MTに関する反復探索での、加えるべき次の強度の計算に関して前述した。ここでは、反復なしのアルゴリズムの変形形態を使用する。閾値以上のピークツーピーク値を有する応答を「応答」として分類し、それよりも弱い応答は「非応答」として分類した。推定量に関する誤り限界も計算した。0から、70個のパルスのうち最も強いMEPのピークツーピーク値へと、応答分類閾値を変えることによって、MT決定を繰り返した。再現性を実証するために、別々の日に測定を行った。結果を図6に示す。図6には、刺激器強度が、1人の被験者の短母指外転筋に関するMEP類別限界に対してプロットされている。2本の線は、別々の日からの測定値であり、破線は、計算された誤り限界である。X軸は、マイクロボルト単位でのMEP類別限界である。限界値よりも強い応答が、有効応答として類別される。y軸は、各MEP類別限界値で50%の有効応答と50%の無効応答をもたらす推定の刺激器強度である。
【0050】
図5および図6に提示される曲線は、一次運動野、他の脳領域、および皮質脊髄路の状態に応じて異なる形状を有することがある。低い刺激強度は、皮質ニューロンを興奮させる傾向があり、一方、より高い刺激強度は、皮質脊髄路ニューロンも直接刺激する。皮質および脳の他の領域への連絡が、刺激された皮質の興奮性に影響を及ぼすことがある。それにより、説明した検査は、中枢神経系の様々な部分の状態に関する異なった情報を含むことができる。中枢神経系の状態の傾向を観察するのに日々の変化が有用であることがある。
【0051】
(さらなる改良形態)
本発明の別の目的は、EMGではなくEEG測定を使用して脳の非運動野を研究するために、TMSとEMGを併用した方法の拡張方法として本発明を使用することである。
【0052】
いくつかのより詳細な目的を以下に列挙する。
−不規則パルス・シーケンスの前に条件パルスを加えることができる。これを使用して、シーケンスの前に脳の状態を安定化し、不規則シーケンスの信頼性および再現性をさらに高めることができる。
−対象の筋肉の制御されたレベルでの前神経支配下でシーケンスを送達することが有用であることがある。
−複数の記録用EMGチャネルを数学的に組み合わせて、実験の信号対雑音比を高めることができる。例えば、正中神経が通る被験者の運動経路が検査される場合、正中神経によって神経支配された複数の筋肉からの記録信号を組み合わせることが有用であることがある。
−動的機能(例えば、脳卒中の場合と正常な場合、および脳卒中からの回復中、脊髄損傷の場合、多発性硬化症の場合、外傷性脳損傷の場合などに皮質がどれほどよく適応しているかを試験するため):第1のテストシーケンスを送達し、次いで操作TMSシーケンスを与え、または他の技法(例えば運動リハビリテーション)を使用し、第2のテストシーケンスを送達する。変化とその統計的関連性を比較する。
【0053】
上述したプロトコルに対する修正形態は、例えば、すべてが異なる強度を有し、本質的にランダムに送達される70個のパルスが存在するものでよい。別の修正形態は、パルスのいくつかが同じ強度を有するものである。70個のパルスではなく、それよりも少ないまたは多いパルスを使用することもできる。
【0054】
別の修正形態は、パルス・シーケンスが、図5による刺激−応答特性の本質的にリアルタイムの分析に基づいて適応するものである。これは、例えば、1つのパルス・シーケンスを複数の不規則なパルス・シーケンスに分けることによって行うことができる。例えば、最初のパルス・シーケンスが、ある刺激強度値を4回以上繰り返しており、しかも何の応答も得ていないとき、次の刺激シーケンスのリストからはこの強度値を除去することが有益であることがある。同様に、1つまたは複数の刺激カテゴリーに対する応答がばらついている場合(これは、例えば計算された標準偏差に基づいて判断される)、これらの刺激強度での反復をより多く含めることによって、シーケンスを延ばす、または別のシーケンスを加えることが有益であることがある。
【0055】
別の修正形態は、刺激器の最大値に対するパーセンテージで表される強度値を使用するのではなく、脳内の選択された点で誘起される電場の強度として強度が表される(例えば、Ilmoniemi他、Crit.Rev.Biomed.Eng.,27:241−284,1999参照)か、または、選択された位置での神経細胞膜電位の推定される変化に関して、誘起された電磁場、その一時的な波形、ならびに細胞の近似の細胞膜および形状特性に基づいて強度が計算されるものである。
【0056】
各強度でのパルスを1つまたは複数有する、異なる強度のパルスの乱数化(または擬似乱数化)された列を含む予め定義されたパルス・シーケンスがあり、応答値の平均が求められ(カテゴリー内に複数のパルスがある場合)、それらの応答値と強度との関係がさらに処理され、応答が、応答のサイズに基づいて少なくとも2つのカテゴリーに分類され、それらのカテゴリーがアルゴリズムに供給され、アルゴリズムが、カテゴリー毎に変わるように閾値強度を計算する。
【0057】
1つの好ましい実施形態によれば、本発明によるデバイスは、パルス・シーケンス17中の次のパルスを生成するために、短くて高エネルギーの電流パルス18を発生するための一時エネルギー源、例えばコンデンサを制御するための手段を含む。典型的には、この機能は、シーケンス17中で低エネルギーのパルスが高エネルギーのパルスに続くときに必要とされる。この問題は、コンデンサに少なくともスイッチおよび抵抗を接続し、低エネルギーのパルスに関しては、コンデンサから抵抗を通して接地にエネルギーを制御可能に解放できるようにすることによって、本発明によって解決される。この解決策は、コンデンサ充電レベルを測定するための手段と、放電回路と残っている電荷のレベルとの間のフィードバック・ループとを含むことができる。抵抗器は、比較的高レベルから比較的低レベルへのコンデンサの複数回の放電に破損なく耐えることができるように選択すべきである。抵抗器のための冷却機能を付け加えることも有用であることがある。また、別のコンデンサ・バンクを使用して抵抗器の少なくとも一部の代わりとすることもでき、このコンデンサ・バンクに余剰のエネルギーが移送され、そこからパルス発生回路のコンデンサにエネルギーを戻して、主電源の必要性を減らすことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6