(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
図1は本発明の実施の形態に係る建設車両の全体構成図である。ここでは、建設車両として、露天の採掘場、石切り場、鉱山等で採掘した砕石物を運搬する大型の運搬車両であるダンプトラック(いわゆる鉱山ダンプ)を例に挙げて説明する。
【0013】
図1に示すダンプトラック(車両)1は、頑丈なフレーム構造で形成された車体2と、車体2上に起伏可能に搭載されたベッセル(荷台)3と、車体2に装着された前輪101及び後輪104を主に備えている。
【0014】
ベッセル3は、砕石物等の荷物を積載するために設けられた容器であり、ピン結合部4等を介して車体2に対して起伏可能に連結されている。ベッセル3の下部には、車両の幅方向に所定の間隔を介して2つの起伏シリンダ7が設置されている。起伏シリンダ7に圧油が供給・排出されると、起伏シリンダ7が伸長・縮短してベッセル3が起伏される。また、ベッセル3の前側上部には庇部6が設けられている。
【0015】
庇部6は、その下側(すなわち車体2の前部)に設置された運転室5を岩石等の飛散物から保護するとともに、車両転倒時等に運転室5を保護する機能を有している。運転室5の内部には、操舵用のハンドル、車両の速度が表示される表示装置、アクセルペダル及びブレーキペダル等(図示せず)が設置されている。
【0016】
前輪101は、ハンドル等介して入力される操舵角に基づいて操舵される操舵輪であり、車体2の前方の左右にそれぞれ回転可能に装着されている。また、前輪101は従動輪である。後輪104は、駆動輪であり、車体2の後方の左右にそれぞれ回転可能に装着されている。以下では、前輪101及び後輪104は左右に1輪ずつ装着されているものとして説明するが、2つ以上の車輪を1組の車輪として扱っても構わない。
【0017】
図2は、
図1に示した車両に搭載された本発明の実施の形態に係る車両速度算出システムの全体構成図である。なお、先の図と同じ部分には同じ符号を付して説明は省略する(後の図も同様とする)。
【0018】
この図に示す車速算出システムは、左右の前輪101の車輪速センサ121に接続され各前輪101の回転数(車輪速度)を出力する前輪車輪速検出部102と、前輪101の操舵角を検出する操舵角検出部103と、左右の後輪104の車輪速センサ124に接続され各後輪104の回転数(車輪速度)を出力する後輪車輪速検出部105と、左右の後輪104に加えられる駆動トルクをそれぞれ検出する駆動トルク検出部106と、車体の重量(ベッセル3内の積荷を含む総重量)を検出する車重検出部107と、慣性センサに接続され車体の前後方向の加速度や角速度を検出する慣性計測部108と、車両速度(車体の速度)の時間変化(駆動加速度)の推定値を算出する車速変化検出部109と、駆動加速度の推定値と車輪速度に基づいて車体の速度を計算し出力する車速演算部110を備えている。上記の各部はそれぞれがCAN(Control Area Network)111で繋がっており、各部へのデータの入出力が自在に構成されている。
【0019】
車速変化検出部109は、当該検出部109内で計算した過去の情報をはじめとして、車速算出処理に必要な各種情報を保存するためのメモリ(記憶装置)112を備える。また、本実施の形態に係る左右の後輪104はそれぞれ異なる電動機の出力する駆動トルクによって駆動されており、駆動トルク検出部106は各電動機の駆動トルクを検出している。さらに、車速算出システムは、GPS受信機等の車両位置センサ113に接続され、車両位置を検出する位置検出部114を備える。なお、破線で囲んだ領域に含まれる各部103,106,107,108,109,110,114はユニット化しても良い。
【0020】
車速演算部110は定期的に自車の速度を演算し出力している。自車速度の演算方法を以下に示す。
【0021】
前輪車輪速検出部102および後輪車輪速検出部105からは、各車輪101.104の回転数が定期的にCAN111に出力される。前輪101および後輪104に取り付けられた車輪速センサ(回転数センサ)121,124は、パルスエンコーダ等の車輪の回転を詳細に検知できるものであり、1回転より小さい回転数も検知できる。前輪車輪速検出部102および後輪車輪速検出部105では、左右輪それぞれの車輪の回転数が出力される。
【0022】
次に、操舵角検出部103からは、前輪101の操舵角が検出され、定期的にCAN111へ出力される。操舵角は前輪101の左右輪で異なる出力を持つ。次に、駆動トルク検出部106からは、左右の後輪104に加えられる駆動トルクの大きさがそれぞれ検出され、定期的にCAN111へ出力されている。
【0023】
車重検出部107では、公知の方法(例えば、特許第4149874号公報参照)でベッセル3内の積荷の荷重を定期的に計測し、当該荷重に車体重量を足し合わせた値を車重として、定期的にCAN111へ出力する。
【0024】
慣性計測部108からは、車体に固定された3軸方向の角速度センサおよび3軸方向の加速度センサから、車体の前後方向の加速度(縦加速度)と、左右方向の加速度(横加速度)と、上下加速度と、3軸中の各軸に対応する角速度(ロール角速度、ピッチ角速度、ヨー角速度)を定期的にCAN111へ出力する。
【0025】
これらCAN111に流れる情報から、車速変化検出部109では車速の時間変化を推定することで、車輪速の補正係数を算出し、CAN111へ出力する。
図3に車速変化検出部109における補正係数の算出処理フローを示す。
【0026】
図3におけるステップ201では、定期的な周期で車速変化検出部109が起動し、ステップ202へ移行する。ステップ202では、慣性計測部108で計測された車体の加速度、角速度を取得し、ステップ203へ移行する。ステップ203では前輪車輪速の平均値を求め、その絶対値が0よりも大きい、すなわち車両が移動しているかどうかを判断する。車両が移動していると判断された場合はステップ204へ移行し、車両が移動していないと判断された場合はステップ206へ移行する。
【0027】
ステップ206(ステップ203にて車両が移動していないと判断された場合)では、車体傾斜角を計算する。車体傾斜角度は、重力加速度のかかる方向に対して車体の前後方向を表わす車体軸がどれほど傾いているかを計算することで取得される。車体傾斜角は、ステップ202で取得した加速度の内、縦方向加速度に基づいて下記式(1)により求めることができる。ステップ206で車体傾斜角度の計算が終了したら、車速変化検出部109の処理を終了する。
【0029】
一方、ステップ204(ステップ203にて車両が移動していると判断された場合)では、車速変化検出部109内のメモリ112から前回の起動時(1起動周期前)に計算した車体傾斜角を取得し、ステップ205へ移行する。
【0030】
ステップ205では、ステップ204で取得した前回の車体傾斜角と、慣性計測部108から出力されCAN111を介して取得した車体のピッチ角速度とから下記式に従い、車体傾斜角を計算する。なお、下記式(2)における「起動周期」は、車速変化検出部109が起動する周期を示す一定の時間とする。車体傾斜角を計算したら、ステップ207へ移行する。
【0032】
ステップ207では、車重検出部107から出力された車重をCAN111を介して取得し、ステップ208へ移行する。なお、ステップ207における車重は、ベッセル3内の積荷を含む車両の総重量とする。
【0033】
ステップ208では、ステップ205で得られた車体傾斜角およびステップ207で得られた車重から傾斜抵抗を求め、ステップ209へ移行する。傾斜抵抗は下記式(3)から求めることができる。
【0035】
次にステップ209では、車両1に装着された複数の車輪101,104のうち1つの車輪に係る車輪速補正係数を算出する。なお、以下では、車輪速補正係数の算出対象の車輪を「対象車輪」と称することがある。ステップ209における車速変化検出部109による対象車輪の車輪速補正係数の算出方法を
図4のフローチャートに示す。
【0036】
図4に示すように、車速変化検出部109は、まずステップ301において、ステップ207で得た車重から対象車輪にかかる荷重を計算する。本実施の形態では、各車輪に作用する車重(総車重)の割合に基づいて対象車輪にかかる荷重を計算している。次にその計算手順の一例について説明する。
【0037】
まず、対象車輪が前輪101か後輪104かに応じて利用する式を判別し、当該式により総車重のうち前輪側又は後輪側にかかる荷重(「左右前輪にかかる荷重」又は「左右後輪にかかる荷重」)を算出する。対象車輪が前輪101における左右輪のいずれかの場合には下記式(4)を、後輪104における左右輪のいずれかの場合には下記式(5)を利用する。なお、下記式(4)及び(5)における「前輪の割合」及び「後輪の割合」とは、左右の前輪101と左右の後輪104に荷重が掛かる割合を示す値であり、ここでは予め決められた値を用いるものとする。
【0040】
次に、対象車輪が左輪と右輪のいずれに該当するかに応じて、左右輪にかかる荷重のうち右輪側又は左輪側にかかる割合(「右輪の割合」又は「左輪の割合」)を算出する。その際、まず、ステップ202で慣性計測部108が出力した横方向加速度出力値に基づいて車体横方向傾斜角を下記式(6)により算出する。次に、対象車輪が左輪か右輪かに応じて下記式(7)及び(8)のいずれかを選択する。そして、先に算出した車体横方向傾斜角と、予め車両ごとに設定されている最大横方向傾斜角とから、「右輪の割合」又は「左輪の割合」を算出する。
【0044】
そして、対象車輪が前後輪のいずれか、さらに左右輪のいずれかに該当するかに応じて下記(9)〜(12)の中から1つを選択し、当該選択した式と先の算出結果に基づいて対象車輪にかかる荷重を算出する。なお、この方法の他でも、各車輪にかかる荷重が計測・算出される同様の方法であれば良い。
【0049】
対象車輪にかかる荷重を求めたら、次に、対象車輪の回転数をCAN111から取得しつつ、前回の起動時に計算された対象車輪の車輪速補正係数をメモリ112から取得し(ステップ302)、ステップ303へ移行する。ステップ303では、ステップ302で得られた対象車輪の回転数と、前回の対象車輪の車輪速補正係数とから、下記式(13)に基づいて空気抵抗を求め、ステップ304へ移行する。
【0051】
ステップ304では、路面摩擦係数μを求める。路面摩擦係数μはスリップ率により決定されるため、まずスリップ率を算出する。
【0052】
スリップ率は次式(14)で求めることができる。なお、下記式(14)における「前輪車輪回転数」及び「後輪車輪回転数」は、対象車輪が右輪だった場合には「右輪の前輪車輪回転数」と「右輪の後輪車輪回転数」を示し、左輪の場合には「左輪の前輪車輪回転数」と「左輪の後輪車輪回転数」を示すものとする。また、下記式(14)は、駆動輪が後輪で、従動輪が前輪の場合の式であり、前輪を駆動輪とし後輪を従動輪とした場合には前後が逆転することはいうまでもない。
【0054】
次にスリップ率から路面摩擦係数μを決定する。本実施の形態では、スリップ率と路面摩擦係数μの関係を規定したテーブルがメモリ112上に記憶されており、当該テーブルに基づいてスリップ率から路面摩擦係数μが求められる。
図5に路面摩擦係数μとスリップ率のテーブルを示す。
【0055】
図5に示したテーブルには,スリップ率401と路面摩擦係数μ402の関係が、複数の路面パターン(路面状態)403ごとに設定されている。路面パターン403(すなわち、
図5中の路面A、路面B、…路面N)の具体例としては、通常の乾いた路面、濡れた路面、表面が砂利からなる路面等がある。上記式(14)で算出したスリップ率についての路面摩擦係数μは、複数の路面パターン403の中から最も適当なものが選択される。路面パターン403の選択方法の具体例としては、(I)所定のスリップ率μ
Thrhldの時の車体加速度に基づいて選択するものや、(II)ベイズ推定により選択するもの等がある。なお、
図5のテーブル中に無い値は線形補間して算出しても良い。また、路面摩擦係数μはカルマンフィルタや最適フィルタなどの最尤推定により計算することもできる。
【0056】
路面摩擦係数μを算出したらステップ305にて路面抵抗を算出する。路面抵抗は、ステップ304で選択した路面摩擦係数μと、パラメータ値である転がり抵抗係数と、ステップ301で算出した対象車輪にかかる荷重とから下記式(15)に基づいて求めることができる。なお、下記式(15)における「転がり抵抗係数」はステップ304で選択した路面パターンに基づいて選択される数値であり、本実施の形態ではメモリ112上に予め用意しておいたテーブルに基づいて選択される。
図6に転がり抵抗係数と路面パターンの関係を示すテーブルの一例を示す。
【0058】
路面抵抗を算出したらステップ306に移行する。ステップ306では、駆動トルク検出部106から出力されCAN111を介して取得される駆動トルクと、ステップ305で算出された路面抵抗と、ステップ303で算出された空気抵抗と、ステップ208で算出された傾斜抵抗と、ステップ301で得た対象車輪にかかる荷重とに基づいて、下記式により対象車輪の駆動加速度(車両速度の時間変化)の推定値を求める。なお、下記式における「駆動トルク」は、対象車輪が右輪の場合には右後輪に加えられる駆動トルクを利用し、左輪の場合には左後輪に加えられる駆動トルクを利用するものとする。
【0060】
ステップ307では、ステップ306で算出した駆動加速度と、ステップ302で取得された対象車輪の車輪速と、メモリ112に保存された1起動周期前の対象車輪の車輪速の値とから、下記式により対象車輪の車輪速補正係数を求める。
【0062】
ステップ307で車輪速補正係数を算出したら、
図3のフローチャートに戻り、全ての車輪について車輪速補正係数が算出されたか否か判断する(ステップ210)。車輪速補正係数を算出していない車輪が存在する場合にはステップ301に戻り、ステップ302以降の処理によって算出する。一方、全ての車輪について車輪速補正係数が算出されている場合には、各車輪に係る車輪速補正係数をCAN111へ出力し(ステップ211)、車速変化検出部109の処理を終了する。
【0063】
次に、車速演算部110の処理フローを
図7に示す。
図7に示すように、ステップ601では、定期的な周期(起動周期)で車速演算部110が起動し、ステップ602へ移行する。ステップ602では、車速変化検出部109によって出力された各車輪101,104の車輪速補正係数をCAN111から取得し、ステップ603へ移行する。ステップ603では、操舵角検出部103にて検出された操舵角をCAN111から取得し、ステップ604へ移行する。
【0064】
ステップ604では、操舵角の絶対値が閾値α以下であるかどうかを判断し、当該閾値α以下であれば、車体が旋回してないと判断し、ステップ605へ移行する。閾値αよりも大きければ車体が旋回していると判断し、ステップ609へ移行する。なお、閾値αは、予め設定された値(例えば15度)であり、例えばステアリングハンドルの遊びの範囲内では旋回と判断されないように設定することが好ましい。
【0065】
ステップ605では、前輪車輪速検出部102から出力された左右の前輪101の車輪速(車輪回転数)をCAN111を介して取得し、ステップ606へ移行する。ステップ606では、車体が旋回していないとステップ604で判断されているため、ステップ605で得た前輪車輪速(前輪車輪回転数)と、ステップ602で取得した各車輪の車輪速補正係数とに基づいて、下記式(18)により前輪車輪速の平均値を求め、ステップ607へ移行する。
【0067】
ステップ607では、ステップ606で取得した前輪車輪速の平均値を車両(車体)の速度である車速とし(下記式(19))、ステップ608へ移行する。
【0069】
ところで、ステップ604で車体が旋回中であると判断された場合には、慣性計測部108から出力されたヨー角速度をCAN111から取得し(ステップ609)、ステップ610へ移行する。ステップ610では、車体の旋回半径を算出する。ここで旋回半径の算出について
図8を用いて説明する。
【0070】
図8は旋回中の車体をモデル化した図である。この図に示すように、左前輪101aおよび右前輪101bの操舵角がそれぞれδl、δrであったとき、旋回中心703と左右前輪101a、101bとの距離(旋回半径)Rl、Rrはそれぞれ下記式(20)で表わされる。
【0072】
ただし、上記式(20)において、ωはヨー角速度であり、vl、vrはそれぞれ下記式(21)及び(22)で表わされる。なお、下記式(21)及び(22)における左右の「前輪車輪回転数」は、前輪車輪速検出部102から出力された左右の前輪101の車輪速をCAN111を介して取得したものから導出されることはいうまでもない。
【0075】
よって、車両のトレッド704をTとすると、前輪のトレッド軸と車体軸との交点705と旋回中心との距離R(旋回半径)は下記式(23)で表わされる。
【0077】
ステップ610で旋回半径Rを算出したら、ステップ611で車速を算出する。車体が旋回している場合の車速は、ステップ610で算出した旋回半径とヨー角速度ωとに基づいて、下記式(24)で計算できる。ステップ611で車速を算出したら、ステップ608に移行する。
【0079】
ステップ608では、ステップ607又はステップ611で算出した車速をCAN111へ出力し、車速演算部110の処理を終了する。
【0080】
以上のように構成した本実施の形態では、車速変化検出部109において駆動トルクと車重に基づいて車両の速度の時間変化(駆動加速度)を推定し、車速演算部110において当該推定値に基づいて車両速度を算出しているので、車両位置を測定することなく車両速度を精度良く算出することができる。したがって、GPS等による車両位置の測定が難しい状況下においても、正確な車両速度を算出できる
また、車輪半径の変化に基づいて誤差を補正していた従来の技術では、路面状況の変化をはじめとした車輪半径の変化を伴わない誤差原因には対応することが難しかったが、本実施の形態によれば、車輪半径を利用することなく車速を精度良く算出することができ、当該誤差原因にも対応できる。すなわち、ダンプトラックをはじめとする建設車両がオフロード走行する際の車両速度の算出精度を向上できる。
【0081】
なお、上記の説明では、全ての車輪(前輪及び後輪)の車輪速補正係数を算出する場合(ステップ209,210)について説明したが、上記のように前輪車輪速(従動輪車輪速)に基づいて車速を算出する場合には当該前輪にかかる車輪速補正係数を算出すれば足りる。また、上記の説明では、左右の前輪の車輪速に基づいて車速を算出したが、左右いずれか一方の車輪速に基づいて車速を算出しても良い。
【0082】
次に上記の実施の形態の変形例について説明する。平坦かつ路面状態の変化がほとんど無い走行路で操舵が無い場合は、次の方法でも速度の算出が可能である。
【0083】
前輪車輪速検出部102からは前輪車輪(従動輪)の回転数がCAN111に出力され、駆動トルク検出部106から駆動輪のトルクがCAN111に出力されている。また、車重検出部107から車重がCAN111に出力されている。ここでは、これらの情報に基づいて車速演算部110は次の方法で車速を演算する。
図9は、平坦かつ路面状態の変化がほとんど無い走行路で操舵が無い場合における車速演算部110の処理フローである。
【0084】
図9に示すように、ステップ801では、周期的に車速演算部110が起動し、ステップ802に移行する。ステップ802では、車重検出部107から出力された車重と、駆動トルク検出部106から出力される左右の駆動トルクの平均値とを、CAN111を介して取得し、ステップ803へ移行する。ステップ803では、下記式(25)に従ってステップ802で取得した駆動トルクと車重から駆動加速度を計算する。なお、下記式(25)における路面抵抗及び空気抵抗は車両によって予め設定されている値とする。
【0086】
ステップ803が終了したら、前輪車輪速検出部102から出力される左右の前輪車輪速の平均値を取得し(ステップ804)、ステップ805へ移行する。ステップ805では、ステップ803で算出した駆動加速度と、ステップ804で取得した前輪車輪速の平均値とに基づいて、下記式(26)より車輪速補正係数を算出する。
【0088】
ステップ805が終了したら、下記式(27)に従って車速を計算する(ステップ806)。
【0090】
ステップ807では、車速演算部110は、ステップ806で算出された車速をCAN111に出力し、処理を終了する。
【0091】
以上のように構成された実施の形態においても、駆動トルクと車重に基づいて車両の速度の時間変化(駆動加速度)を推定し、当該推定値に基づいて車両速度を算出しているので、車両位置を測定することなく車両速度を精度良く算出することができる。したがって、GPS等による車両位置の測定が難しい状況下においても、正確な車両速度を算出できる。
【0092】
なお、上記の変形例では、処理を簡略化するために、前輪車輪速の平均値を求めて車速を算出する場合について説明したが、先の実施の形態のように左右の前輪車輪速に基づいて車速を算出しても良い。
【0093】
次に本発明の第2の実施の形態について説明する。第1の実施の形態及びその変形例では、駆動トルク検出部106から出力された「駆動トルク」に基づいて駆動加速度を推定したが、本実施の形態では、駆動トルクに代えて「加速度」に基づいて駆動加速度を推定している点に特徴がある。
【0094】
本実施の形態に係るシステムのハードウェア構成は
図2に示したものと同じである。また、ここでは説明を簡略化するために、平坦かつ路面状態の変化がほとんど無い走行路を走行するときを例に挙げて説明する。
図10は、第2の実施の形態に係る車速演算部110の処理フローであって、平坦かつ路面状態の変化がほとんど無い走行路の場合のものである。
【0095】
図10に示した処理フローにおいて、ステップ901では、定期的な周期(起動周期)で車速演算部110が起動し、ステップ902に移行する。ステップ902では、慣性計測部108からの出力される車両の前後方向加速度、車体ヨーレート及び車体ピッチレートをCAN111を介して取得し、ステップ903に移行する。
【0096】
ステップ903では、車両が停止しているか否かを判断する。ここで車両が停止していると判断された場合には、ステップ904において、慣性計測部108から出力される前後方向加速度に基づいて初期車体ピッチ角を下記式(28)により求め、処理を終了し、次の周期まで起動を待機する。
【0098】
一方、ステップ903で車両が停止していないと判断された場合には、ステップ905に移行し、1起動周期前(1サンプル時間前)に算出した車体ピッチ角と、ステップ902で取得した車体ピッチレートとに基づいて、下記式(29)に従って車体ピッチ角を計算する。なお、下記式(29)における「1起動周期前の車体ピッチ角」が存在しない場合は、ステップ904で算出した初期車体ピッチ角を用いるものとする。
【0100】
ステップ905が終了したら、ステップ906において駆動加速度を下記式に基づいて求める。なお、下記式における「前後方向加速度」と「車体ヨーレート」はステップ902で取得したものを利用し、「車体ピッチ角」はステップ905で算出したものを利用するものとする。なお、下記式(30)における「後輪車輪軸と慣性計測部との距離」は、慣性計測部108と車両1の寸法から算出される値である。
【0102】
ステップ906で駆動加速度を算出した以降は、
図9のステップ804以降と同じ処理を実行する。すなわち、ステップ906が終了したら、前輪車輪速検出部102から出力される前輪車輪速を取得し(ステップ804)、ステップ805へ移行する。ステップ805では、ステップ906で算出した駆動加速度と、ステップ804で取得した左右の前輪車輪速の平均値とに基づいて、下記式(31)より車輪速補正係数を算出する。
【0104】
ステップ805が終了したら、下記式(32)に従って車速を計算する(ステップ806)。
【0106】
ステップ807では、車速演算部110は、ステップ806で算出された車速をCAN111に出力し、処理を終了する。
【0107】
以上のように構成した本実施の形態では、前後方向加速度に基づいて車両の速度の時間変化(駆動加速度)を推定し、当該推定値に基づいて車両速度を算出しているので、車両位置を測定することなく車両速度を精度良く算出することができる。したがって、GPS等による車両位置の測定が難しい状況下においても、正確な車両速度を算出できる。
【0108】
なお、上記の実施の形態では、平坦かつ路面状態の変化がほとんど無い走行路を走行する場合を例に挙げて説明したが、第1の実施の形態の場合のように傾斜があり路面状態の変化がある走行路を走行するときについても、前後方向加速度等に基づいて駆動加速度の推定値を算出した上記式を利用すれば駆動加速度の推定値が算出可能である。したがって、この場合についても、GPS等による車両位置の測定が難しい状況下での正確な車両速度が算出できる。
【0109】
また、上記の実施の形態では、処理を簡略化するために、前輪車輪速の平均値を求めて車速を算出する場合について説明したが、第1の実施の形態のように左右の前輪車輪速に基づいて車速を算出しても良い。
【0110】
ところで、上記の各実施の形態では、高負荷トルク出力時の駆動輪(後輪104)のスリップ率増加に起因した車速算出精度の低下を避けるために、従動輪(前輪101)の速度(車輪速)に基づいて車速を算出する場合について説明したが、駆動輪の車輪速に基づいて又は駆動輪及び従動輪の車輪速に基づいて車速を算出しても良い。駆動輪を含む場合には「滑り」を検出することが好ましい。
【0111】
また、本発明は、上記の各実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例が含まれる。例えば、本発明は、上記の各実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、ある実施の形態に係る構成の一部を、他の実施の形態に係る構成に追加又は置換することが可能である。
【0112】
また、上記の制御装置に係る各構成や当該各構成の機能及び実行処理等は、それらの一部又は全部をハードウェア(例えば各機能を実行するロジックを集積回路で設計する等)で実現しても良い。また、上記の制御装置に係る構成は、演算処理装置(例えばCPU)によって読み出し・実行されることで当該制御装置の構成に係る各機能が実現されるプログラム(ソフトウェア)としてもよい。当該プログラムに係る情報は、例えば、半導体メモリ(フラッシュメモリ、SSD等)、磁気記憶装置(ハードディスクドライブ等)及び記録媒体(磁気ディスク、光ディスク等)等に記憶することができる。
【0113】
また、上記の各実施の形態の説明では、制御線や情報線は、当該実施の形態の説明に必要であると解されるものを示したが、必ずしも製品に係る全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。