(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、赤外線透過性が高い光学素子用無機材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従来、光学素子用のZnS多結晶体をホットプレス法により製造する場合、真空状態で熱間圧縮成形を行うことで、原料中に残留するSOx等が除去され、光透過率が高まるとされていた(前記特許文献1参照)。しかし、発明者らは、このように高温かつ高真空状態で熱間圧縮成形を行うと、ZnS自体の昇華又は分解等によるZn元素及びS元素の逃散が生じ、これが光透過率を下げる原因となることを知見した。この逃散は、単体の沸点差等に起因して、ZnよりSの方が大きいため、Zn(亜鉛元素)に対してS(硫黄元素)の減少が顕著になる。そこで発明者らは、これらの知見から、製造工程においてこの硫黄元素の相対的な減少を抑えることにより、得られる無機材料の光透過率を高めることができることを見出し、本発明に至った。
【0007】
【0008】
【0009】
【0010】
【0011】
【0012】
【0013】
【0014】
【0015】
【0016】
前記目的に沿う
本発明に係る光学素子用無機材料の製造方法は、硫化亜鉛立方晶系結晶粒子粉末をホットプレス用耐熱モールドに充填し、0.1Pa以下の雰囲気圧(P1)下で加熱脱気する第一工程、
前記雰囲気圧(P1)を保ちつつ、ホットプレスにより前記ホットプレス用耐熱モールド内の充填物を850℃以上1100℃以下の温度範囲(t2)まで昇温させながら20MPa以上70MPa以下の圧力範囲まで加圧する第二工程、及び
前記温度範囲(t2)及び前記圧力範囲を保ちつつ、不活性ガス及び非酸化性ガスのいずれか一方又は双方により0.1MPa以上の雰囲気圧(P2)とし、該雰囲気圧(P2)下で
6時間以上30時間以下の熱間圧縮成形をする第三工程
を有する。
【0017】
本発明に係る光学素子用無機材料の製造方法によれば、第三工程の熱間圧縮成形の際に、従来とは逆に不活性ガス及び/又は非酸化性ガスにより雰囲気圧を高めている。このようにすることで硫黄元素の逃散が抑えられ、赤外線透過性の高い光学素子用無機材料を得ることができる。
【0018】
本発明に係る光学素子用無機材料の製造方法において、前記硫化亜鉛立方晶系結晶粒子粉末の純度が97%以上、亜鉛に対する硫黄の元素比率(S/Zn)が0.99以上1.01以下、平均粒子径が10μm以下であることが好ましい。このような原料を用いることで、得られる無機材料の赤外線透過性等をより高めることができる。
【0019】
本発明に係る光学素子用無機材料の製造方法において、前記第一工程の加熱脱気を、室温から400℃以上850℃未満の温度範囲(t1)まで3〜20℃/分の速度で昇温し、次いで該温度範囲(t1)を1〜4時間保つことにより行い、
前記第二工程の昇温を2〜10℃/分の速度で、加圧を2.5〜5.0MPa/分の速度で
行うことが好ましい。
【0020】
また、
本発明に係る光学素子用無機材料の製造方法において、前記第三工程における熱間圧縮成形を、前記雰囲気圧(P2)の調整により、前記硫化亜鉛立方晶系結晶粒子粉末からの硫黄元素の逃散を制御しながら行うことが好ましい。
【0021】
本発明に係る光学素子用無機材料の製造方法において、第一〜第三工程の条件を前記のようにすることで、得られる光学素子用無機材料の赤外線透過性等をより高めることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る光学素子用無機材料の製造方法は、高い赤外線透過性を有する光学素子用無機材料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
続いて、本発明を具体化した実施の形態について説明する。
【0025】
<光学素子用無機材料>
本発明の第1の実施の形態に係る光学素子用無機材料は、亜鉛と硫黄とからなる化合物を主体とする。ここで、「亜鉛と硫黄とからなる化合物」とは、ZnS
y(yは任意の正の数)で表される化合物をいい、ZnSで表されるいわゆる硫化亜鉛に限定されるものではない。また、「この化合物を主体とする」とは、この化合物が、光学素子用無機材料全体に対して最も大きい質量を占めることをいい、具体的には、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましい。
【0026】
本実施の形態に係る光学素子用無機材料(全体)における亜鉛に対する硫黄の元素比率(S/Zn)は、0.80以上0.95以下であり、0.80以上0.85以下が好ましい。この比が0.80未満の場合は、Zn単体の析出等により赤外線透過率が低下する。逆に、この比が0.95を超えることは、ホットプレス法においてはこの製造工程上難しい。なお、無機材料全体における元素含有率は、ICP分析法により測定した値とする。
【0027】
本実施の形態に係る光学素子用無機材料は、亜鉛と硫黄とからなる化合物以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で他の成分が単体又は化合物として含有されていてもよい。他の成分としては、酸素元素、水素元素等が挙げられる。
【0028】
亜鉛と硫黄とからなる化合物は、通常、多結晶体として光学素子用無機材料中に含有されている。この多結晶体の結晶構造は、立方晶系であることが好ましい。亜鉛と硫黄とからなる化合物(例えば、ZnS)の結晶構造としては、主に立方晶系と六方晶系とが挙げられるが、立方晶系は六方晶系と比べて赤外線透過性が高い。従って、このように結晶構造が立方晶系であることで、赤外線透過性を高めることができる。なお、この結晶構造としては、一部に六方晶系等の立方晶系以外の結晶構造が含まれていてもよい。
【0029】
この多結晶体は、組成式(化学式)がZnS
1−x(0<x≦0.2)で表されることが好ましく、xは0<x≦0.1を満たすことがより好ましい。このように、結晶中のSの減少が抑えられた(xの値が小さい)組成とすることで、赤外線透過性を高めることができる。この多結晶体中の元素含有量(率)は、エネルギー分散型X線分光法により測定した値とする。
【0030】
この多結晶体の平均結晶粒径は0.5μm以上20μm以下が好ましく、1μm以上15μm以下が好ましい。この平均結晶粒径が0.5μm未満の場合は、結晶粒界に起因する光散乱の増加等により、赤外線透過性が低下する。逆に、この平均結晶粒径が20μmを超える場合は、結晶の粗大化による機械的強度の低下等が生じる。なお、平均結晶粒径は、電子顕微鏡により表面を撮影した写真を用い、任意の5本の線分(1本50μm)上にある結晶の個数を数えて算出した値とする。
【0031】
亜鉛と硫黄とからなる化合物は、前述の多結晶体に加え、この結晶間に介在する非晶質体として光学素子用無機材料中に含有されていることが好ましい。このような非晶質体を結晶間に介在させることで、赤外線透過性をより高め、また、強度等も高めることができる。この理由は定かではないが、非晶質体が多結晶体間の空隙を埋めることで赤外線透過性が高まること、非晶質体がバインダーとして機能して強度が高まることなどが推察される。なお、この非晶質体は、亜鉛元素と硫黄元素とが任意の比で混合してなる化合物であると推察される。
【0032】
本実施の形態に係る光学素子用無機材料は、通常、気孔を含有しうる。この気孔の平均径としては、0.1μm以上0.5μm以下が好ましい。この気孔の平均径を前記下限未満とすることは、製造上困難であり、生産コストの上昇に繋がる。逆に、この気孔の平均径が前記上限を超えると赤外線透過率が低下するおそれがある。なお、気孔の平均径は、電子顕微鏡により表面を撮影した写真を用い、任意の50μm四方の領域に存在する気孔の径から算出した値(フェレ径)とする。
【0033】
本実施の形態に係る光学素子用無機材料における厚さ2mmでの最大光透過率としては、7〜12μm波長領域で62%以上75%以下が好ましく、65%以上がより好ましい。本実施の形態に係る光学素子用無機材料は、このように赤外線(7〜12μm波長領域)の高い透過性を発揮することができる。なお、光透過率は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)にて測定された値とする。
【0034】
本実施の形態に係る光学素子用無機材料における厚さ2mmでの最大光透過率としては、2.5〜3μm波長領域で34%以上45%以下が好ましく、40%以上がさらに好ましい。4〜6μm波長領域で57%以上70%以下が好ましく、60%以上がさらに好ましい。また、13〜14μm波長領域で43%以上60%以下が好ましく、50%以上がさらに好ましい。本実施の形態に係る光学素子用無機材料によれば、赤外線領域の透過性を高めることができることに加え、その前後の広い波長領域で透過性を向上させることができ、活用の幅を広げることができる。
【0035】
さらに、厚さ2mmでの光透過率としては、2.5〜3μm波長領域で34%以上45%以下、4〜6μm波長領域で57%以上70%以下、7〜12μm波長領域で62%以上75%以下、13〜14μm波長領域で43%以上60%以下が好ましい。各波長領域における光透過率をこのような範囲とする(最低の透過率を前記範囲の下限以上とする)ことで、光学材料としての価値を高めることができる。
【0036】
本実施の形態に係る光学素子用無機材料における厚さ4mmでの最大光透過率としては、2.5〜3μm波長領域で20%以上30%以下、4〜6μm波長領域で55%以上70%以下、7〜12μm波長領域で60%以上75%以下、13〜14μm波長領域で40%以上50%以下であることが好ましい。また、本実施の形態に係る光学素子用無機材料における厚さ4mmでの光透過率としては、2.5〜3μm波長領域で15%以上30%以下、4〜6μm波長領域で40%以上70%以下、7〜12μm波長領域で45%以上75%以下、13〜14μm波長領域で20%以上50%以下であることが好ましい。このように、本実施の形態に係る光学素子用無機材料においては、厚さ4mmとした場合も高い光透過率を有し、光学素子用途としての利用価値が高まる。
【0037】
本実施の形態に係る光学素子用無機材料の3点曲げ強度としては、80MPa以上180MPa以下であることが好ましく、100MPa以上であることがさらに好ましい。このように高い3点曲げ強度を有することで、本実施の形態に係る光学素子用無機材料は高い耐久性等を発揮することができる。なお、3点曲げ強度は、JIS R1601(ファインセラミックスの室温曲げ強さ試験法)に準拠して測定した値とする。
【0038】
本実施の形態に係る光学素子用無機材料の製造方法としては特に限定されないが、後述する硫化亜鉛立方晶系結晶粒子粉末を用いたホットプレス法、特に不活性ガス及び非酸化性ガスのいずれか一方又は双方によって0.1MPa以上とした雰囲気圧下での硫化亜鉛立方晶系結晶粒子粉末の熱間圧縮成形により好適に得ることができる。但し、CVD法等の他の方法で得られた光学素子用無機材料も第1の発明から外れるものではない。
【0039】
<光学素子用部品>
本発明の第2の実施の形態に係る光学素子用部品は、第1の実施の形態に係る光学素子用無機材料と、該光学素子用無機材料の表面に積層された反射防止膜とを備える。
【0040】
前記反射防止膜としては、光の反射を低減することができるものであれば特に限定されず、公知の材料から形成することができる。この反射防止膜の具体的材料としては、例えばCeF
3、MgF
2等のフッ化物や、TiO
2等の酸化物等を挙げることができる。これらは、蒸着やコーティング等の公知の方法で、前記光学素子用無機材料表面に積層させることができる。
【0041】
本実施の形態に係る光学素子用部品においては、厚さ2mmでの最大光透過率(前記反射防止膜表面から光を入射させた場合の透過率)が、7〜12μm波長領域で75%以上90%以下であることが好ましい。本実施の形態に係る光学素子用部品によれば、このように優れた赤外線透過特性を発揮することができる。
【0042】
<光学素子用無機材料の製造方法>
本発明の第3の実施の形態に係る光学素子用無機材料の製造方法は、硫化亜鉛立方晶系結晶粒子粉末をホットプレス用耐熱モールドに充填し、0.1Pa以下の雰囲気圧(P1)下で加熱脱気する第一工程、前記雰囲気圧(P1)を保ちつつ、ホットプレスにより前記ホットプレス用耐熱モールド内の充填物を850℃以上1100℃以下の温度範囲(t2)まで昇温させながら20MPa以上70MPa以下の圧力範囲まで加圧する第二工程、及び前記温度範囲(t2)及び圧力範囲を保ちつつ、不活性ガス及び非酸化性ガスのいずれか一方又は双方により0.1MPa以上の雰囲気圧(P2)とし、該雰囲気圧下で熱間圧縮成形をする第三工程を有する。
【0043】
本実施の形態に係る光学素子用無機材料の製造方法においては、第三工程の熱間圧縮成形の際に、従来の方法とは逆に非酸化性ガス等により雰囲気圧を高め、硫化亜鉛立方晶系結晶粒子粉末中の成分(特に硫黄元素)の逃散を抑えている。このようにすることで、多結晶体中、ひいては得られる光学素子用無機材料中のS含有比率の低下を抑え、赤外線透過性の高い光学素子用無機材料を得ることができると考えられる。以下、各工程について詳説する。
【0044】
(1)第一工程
本工程においては、先ず硫化亜鉛立方晶系結晶粒子粉末をホットプレス用耐熱モールドに充填し、0.1Pa以下の雰囲気圧(P1)下で結晶粒子粉末を加熱脱気する。
【0045】
硫化亜鉛立方晶系結晶粒子粉末としては、公知のものを用いることができる。この結晶粒子粉末の純度としては、97%以上が好ましく、98%以上がさらに好ましい。純度97%未満のものを用いると得られる光学素子用無機材料中の不純物量が増加し、赤外線透過性が低下する場合がある。
【0046】
硫化亜鉛立方晶系結晶粒子粉末における亜鉛に対する硫黄の元素比率(S/Zn)としては、0.99以上1.01以下が好ましく、1がより好ましい。この元素比率が前記範囲から外れると、得られる光学素子用無機材料の赤外線透過性等が低下する場合がある。
【0047】
硫化亜鉛立方晶系結晶粒子粉末の平均粒子径としては、10μm以下が好ましく、8μm以下がより好ましい。結晶粒子粉末の平均粒子径が10μmを超えると、得られる光学素子用無機材料の赤外線透過性等が低下する傾向にある。なお、この平均粒子径の下限としては、特に限定されないが例えば0.1μmとすることができる。なお、この平均粒子径は、レーザ回折法により測定される値とする。
【0048】
前記ホットプレス用耐熱モールドとしては、ホットプレスの際の加熱加圧に耐えられるものであれば特に限定されず、例えば黒鉛、C/Cコンポジット等の公知の材料からなるモールドを用いることができる。
【0049】
この第一工程の加熱脱気としては、具体的には雰囲気圧を0.1Pa以下の雰囲気圧(P1)に減圧した後、この雰囲気圧(P1)を保って、室温から400℃以上850℃未満の温度範囲(t1)まで3〜20℃/分の速度で昇温し、次いで前記温度範囲(t1:400℃以上850℃未満)を1時間以上4時間以下(より好ましくは1.5時間以上、さらに好ましくは2時間以上)保つことにより行うことが好ましい。前記雰囲気圧(P1)が0.1Paを超える場合は、脱気が不十分となる。なお、この雰囲気圧(P1)の下限としては、特に限定されないが、例えば10
−4Paと定めることができる。前記温度範囲(t1)の下限が400℃未満の場合は、脱気が不十分となり、次工程で突沸が生じやすくなり、上限が850℃以上の場合は、十分に脱気が行われていない状態で焼結が進みうるため好ましくない。この温度範囲(t1)は、600℃以上820℃以下がより好ましい。また、昇温速度が3℃/分未満の場合は、昇温に時間がかかり非効率的であり、20℃/分を超える場合は、突沸が生じやすくなる。また、前記温度範囲(t1)の保持時間が1時間未満の場合は十分に脱気が行われないおそれがあり、4時間を超える場合は非効率的となる。
【0050】
(2)第二工程
本工程においては、前記雰囲気圧(P1:0.1Pa以下)を保ちつつ、ホットプレスにより前記ホットプレス用耐熱モールド内の充填物を昇温加圧する。この際の加圧は、一軸加圧であってもよく、ガス等を用いた等方加圧(HIP)であってもよい。
【0051】
この第二工程の昇温は第一工程の温度範囲(t1)から、850℃以上1100℃以下の温度範囲(t2)まで行い、加圧は20MPa以上70MPa以下の圧力範囲まで行う。第二工程での前記温度範囲(t2)の下限が850℃未満の場合は、十分な結晶粒成長が進行し難くなり、上限が1100℃を超える場合は、六方晶系への相転移が進み赤外線透過性が低下したり、粒成長が進みすぎて強度が低下するおそれがある。この温度範囲(t2)としては、950℃以上1050℃以下がより好ましく、970℃以上1030℃以下がさらに好ましい。また、前記圧力範囲の下限が20MPa未満の場合は十分な反応(結晶粒成長等)が進行せず赤外線透過性の高い無機材料を得られ難くなり、上限が70MPaを超える場合は耐熱モールドの耐圧性能上好ましくない。
【0052】
前記昇温は2〜10℃/分の速度で、加圧は2.5〜5.0MPa/分の速度で行うことが好ましい。前記昇温の速度が2℃/分未満の場合は、時間がかかり非効率的であり、10℃/分を超える場合は突沸が生じやすくなる。前記加圧の速度が2.5MPa/分未満の場合は時間がかかり非効率的であり、5.0MPaを超える場合は急な加圧によりひび割れ等が生じるおそれがある。
【0053】
(3)第三工程
本工程においては、第二工程で昇温及び加圧した後の前記温度範囲(t2)及び圧力範囲を保ちつつ、不活性ガス及び非酸化性ガスのいずれか一方又は双方により雰囲気圧を0.1MPa以上の雰囲気圧(P2)とし、この雰囲気圧(P2)下で熱間圧縮成形をする。この熱間圧縮成形は、不活性ガス及び非酸化性ガスのいずれか一方又は双方による雰囲気圧(P2)の調整により、硫化亜鉛立方晶系結晶粒子粉末からの硫黄元素の逃散を制御しながら行うことが好ましい。このようにすることで原料粉末からの硫黄元素の逃散が抑えられ、赤外線透過性の高い光学素子用無機材料を得ることができる。なお、この逃散は、例えばSOx(xは通常0.5〜3.0)、H
2S等の化合物の放出といった形態で生じる。
【0054】
不活性ガスは、反応性を有さないガスをいい、ヘリウム、アルゴン、窒素等を挙げることができる。非酸化性ガスとは、反応性を有するものの酸化反応を生じさせないガスをいい、一酸化炭素等の還元性ガス等を挙げることができる。これらの中でも不活性ガスが好ましい。
【0055】
雰囲気圧(P2)が0.1MPa未満の場合は、原料粉末からの硫黄元素の逃散の制御が困難になり、得られる無機材料の赤外線透過性が低下するおそれがある。雰囲気圧(P2)としては、0.3MPa以上がより好ましく、0.4MPa以上がさらに好ましい。なお、この雰囲気圧(P2)の上限としては、特に制限されないが、例えば1MPaとすることができる。
【0056】
熱間圧縮成形の時間(不活性ガス及び非酸化性ガスのいずれか一方又は双方により雰囲気圧を0.1MPa以上(好ましくは0.3MPa以上、さらに好ましくは0.4MPa以上)とし、ホットプレスによる加熱加圧状態を保持する時間)としては、6時間以上30時間以下が好ましく、12時間以上がより好ましく、18時間以上がさらに好ましい。この時間が6時間未満の場合は、十分な成形が行われず、得られる無機材料の赤外線透過性や強度が低下するおそれがある。一方、30時間を超える場合は、時間がかかり非効率的である。
【0057】
(4)第四工程
第三工程の熱間圧縮成形により得られる成形物は、通常、室温まで冷却後、ホットプレス用耐熱モールドから取り出し、研削、研磨等の加工がなされる。このようにして、第一の実施の形態に係る光学素子用無機材料を得ることができる。
【0058】
本発明は前記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲でその構成を変更することもできる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
[実施例1]
純度99.5%、平均粒子径4.2μmの硫化亜鉛立方晶系結晶粒子粉末200gを内径100mmのホットプレス用黒鉛耐熱モールドに充填し、雰囲気圧が0.1Pa以下になるまで減圧した。次いで、モールドを10℃/分の速度で800℃まで昇温して2時間保持した(第一工程)。次に、前記雰囲気圧を保ちつつ、ホットプレスを5℃/分の速度で1000℃まで昇温しながら、3.25MPa/分の速度で65MPaまで加圧した(第二工程)。この後、1000℃、65MPaの加熱加圧状態を保ちつつ、Arガスを雰囲気圧が0.5MPa(ゲージ圧)になるまで送入した。前記ホットプレスの加熱加圧状態(1000℃、65MPa)及び雰囲気圧(0.5MPa)を24時間維持することで熱間圧縮成形を行った(第三工程)。この後、得られた成形物を冷却した後モールドから取り出し、表面研削及び研磨加工し、直径100mm、厚さ6mmの光学素子用無機材料を得た(第四工程)。
【0061】
(評価)
得られた光学素子用無機材料から直径30mm、厚さ2mm及び4mmの2種類の光学特性評価試料を切り出し、フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製、FT/IR−6300)により、2.5μm〜14μmの波長領域の光透過率を測定した。厚さ2mmの試料の測定結果を
図1に、厚さ4mmの試料の計測結果を
図2に示す。
【0062】
図1に示されるように、厚さ2mmでの光透過率は、2.5〜3μm波長領域で34〜43%、4〜6μm波長領域で57〜67%、7〜12μm波長領域で62〜72%、13〜14μm波長領域で43〜58%であり、良好な透光性を有することが確認できた。さらに
図2に示されるように、厚さ4mmでの光透過率は、2.5〜3μm波長領域で18〜28%、4〜6μm波長領域で47〜63%、7〜12μm波長領域で51〜70%、13〜14μm波長領域で25〜45%と、十分な透光性を有することが確認できた。
【0063】
得られた光学素子用無機材料に対して、ICPにより元素分析を行い、ZnとSとの元素比率を算出した。Zn(1
.00)に対し、Sが0.81であった。
【0064】
得られた光学素子用無機材料から、厚さ方向の切断面試料片を切り出し、試料片の切断面中心付近をクロスセクションポリッシャーにより研磨し、この切断面を電界放射型走査電子顕微鏡により観察した。この切断面の電界放射型走査電子顕微鏡写真を
図3に示す。観測される気孔の直径は0.1〜0.5μmの範囲内であり、平均径は0.3μmであった。結晶粒径は2〜10μmの範囲内であり、平均結晶粒径は6μmであった。なお、
図3の写真における結晶粒界(例えば白色部分)に非結晶質が存在していると推測される。
【0065】
エネルギー分散型X線分光法により、
図3において四角で囲んだ部分(結晶内)の組成分析を行った。この分析結果から、ZnとSとの元素比率は、Zn(1
.00)に対し、Sが0.92であった。また、X線回折装置により結晶構造は立方晶系からなることを確認した。
【0066】
得られた光学素子用無機材料の3点曲げ強さをJIS R1601(ファインセラミックスの室温曲げ強さ試験方法)に準拠して測定した。測定された3点曲げ強さは110MPaであった。また、曲げ強さ試験後の試料破断面の電界放射型走査電子顕微鏡写真を
図4に示す。粒界破断と粒内破断とが混在して起きていることがわかる。
【0067】
[実施例2]
第一工程における保持時間を1時間とし、第三工程における保持時間(熱間圧縮成形時間)を15時間にしたこと以外は実施例1と同様の製造方法により光学素子用無機材料を得た。
【0068】
厚さ4mmの光学特性試料を作製し、実施例1と同様にして2.5μm〜14μmの波長領域の光透過率を測定した。測定結果を
図5に示す。
光透過率は、2.5〜3μm波長領域で1〜2%、4〜6μm波長領域で13〜41%、7〜12μm波長領域で45〜62%、13〜14μm波長領域で24〜43%と、十分な透光性を有することが確認できた。
【0069】
[実施例3]
第一工程における保持時間を1時間とし、第二工程における加熱温度及び第三工程における保持温度を950℃、第三工程における保持時間(熱間圧縮成形時間)を6時間、Arガスによる雰囲気圧を0.3MPa(ゲージ圧)にしたこと以外は実施例1と同様の製造方法により光学素子用無機材料を得た。
【0070】
厚さ4mmの光学特性試料を作製し、実施例1と同様にして2.5μm〜14μmの波長領域の光透過率を測定した。測定結果を
図6に示す。
光透過率は、2.5〜3μm波長領域で0%、4〜6μm波長領域で0〜6%、7〜12μm波長領域で0〜21%、13〜14μm波長領域で10〜18%と、透光性を有することが確認できた。
【0071】
[実施例4]
第一工程における保持時間を1時間とし、第三工程における保持時間(熱間圧縮成形時間)を6時間にしたこと以外は実施例1と同様の製造方法により光学素子用無機材料を得た。
【0072】
厚さ4mmの光学特性試料を作製し、実施例1と同様にして2.5μm〜14μmの波長領域の光透過率を測定した。測定結果を
図7に示す。
光透過率は、2.5〜3μm波長領域で1〜3%、4〜6μm波長領域で15〜42%、7〜12μm波長領域で43〜62%、13〜14μm波長領域で23〜44%と、透光性を有することが確認できた。
【0073】
[実施例5]
第一工程における保持時間を1時間とし、第二工程における加熱温度及び第三工程における保持温度を1050℃、第三工程における保持時間(熱間圧縮成形時間)を6時間、Arガスによる雰囲気圧を0.3MPa(ゲージ圧)にしたこと以外は実施例1と同様の製造方法により光学素子用無機材料を得た。
【0074】
厚さ4mmの光学特性試料を作製し、実施例1と同様にして2.5μm〜14μmの波長領域の光透過率を測定した。測定結果を
図7に示す。
光透過率は、2.5〜3μm波長領域で0%、4〜6μm波長領域で0〜2%、7〜12μm波長領域で0〜22%、13〜14μm波長領域で14〜23%と、透光性を有することが確認できた。
【0075】
[比較例1]
第一工程における昇温を500℃まで、保持時間を1時間とし、第二工程における加熱温度及び第三工程における保持温度を800℃、第三工程における保持時間(熱間圧縮成形時間)を6時間、Arガスによる雰囲気圧を0.3MPa(ゲージ圧)としたこと以外は実施例1と同様の製造方法により光学素子用無機材料を得た。実施例1と同様にして光学特性評価試料を作製し、7〜12μm波長領域の最大光透過率を測定したところ1%であった。