特許第6012543号(P6012543)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012543
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】内燃機関の燃料供給装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 25/08 20060101AFI20161011BHJP
   F02M 25/00 20060101ALI20161011BHJP
   F02M 37/00 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   F02M25/08 301Z
   F02M25/08 B
   F02M25/08 K
   F02M25/00 P
   F02M37/00 301B
   F02M37/00 341C
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-107531(P2013-107531)
(22)【出願日】2013年5月21日
(65)【公開番号】特開2014-227893(P2014-227893A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2015年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】千嶋 啓之
(72)【発明者】
【氏名】堤 大昂
(72)【発明者】
【氏名】工藤 洋嗣
(72)【発明者】
【氏名】河口 正義
(72)【発明者】
【氏名】重豊 健志
【審査官】 津田 健嗣
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−40570(JP,A)
【文献】 特開2013−40569(JP,A)
【文献】 特開2010−236454(JP,A)
【文献】 特開2009−203909(JP,A)
【文献】 特許第4706503(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 25/08
F02M 25/00
F02M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から供給されたアルコールとガソリンの混合燃料を貯留する第1タンクと、
前記第1タンク内の燃料から前記混合燃料よりも高オクタン価燃料を分離する分離システムと、
前記分離システムによって分離された高オクタン価燃料を貯留する第2タンクと、
前記第1及び第2タンクと連通し、これらタンクから排出された燃料蒸気を吸着する吸着剤を備えたキャニスタと、
前記キャニスタと内燃機関の吸気通路とを連通するパージ通路と、を備え、
前記分離システムは、高オクタン価燃料を選択的に透過させる分離膜を備えた分離器と、前記分離膜より前記第2タンク側の圧力を低下させる負圧ポンプと、を備えた内燃機関の燃料供給装置であって、
前記機関の運転状態に基づいて、前記第2タンクにおける分離蒸気の発生量に対する許容量を算出する許容量算出手段と、
前記第2タンクにおける分離蒸気の発生量が前記許容量を超えないように前記負圧ポンプを駆動する負圧ポンプ制御手段と、を備えることを特徴とする内燃機関の燃料供給装置。
【請求項2】
前記分離膜より前記第2タンク側の圧力に相当する2次側圧力を検出する圧力センサと、
前記2次側圧力及び前記負圧ポンプの出力に基づいて、前記第2タンクにおける分離蒸気の発生量を予測する発生量予測手段と、をさらに備え、
前記負圧ポンプ制御手段は、前記予測された分離蒸気の発生量が前記許容量を超えない範囲内で前記負圧ポンプの出力を最大にすることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の燃料供給装置。
【請求項3】
前記発生量予測手段は、前記2次側圧力又は前記負圧ポンプの出力が低くなるほど前記第2タンクにおける分離蒸気の発生量は少なくなると予測することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の燃料供給装置。
【請求項4】
前記許容量算出手段は、前記機関の回転数が小さくなるほど又は前記機関の出力が低くなるほど前記許容量を少なくすることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の内燃機関の燃料供給装置。
【請求項5】
前記第1タンクに貯留された燃料を前記機関に供給する第1インジェクタと、
前記第2タンクに貯留された燃料を前記機関に供給する第2インジェクタと、
前記第1及び第2インジェクタからの燃料噴射量を制御する噴射量制御手段と、をさらに備え、
前記許容量算出手段は、前記機関に供給すべき燃料量から、前記第1及び第2インジェクタの最低噴射量を減算することによって前記許容量を算出し、
前記噴射量制御手段は、前記機関に供給すべき燃料量から、前記分離蒸気の発生量を減算して得られる量の燃料を前記第1及び第2インジェクタから噴射させることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の内燃機関の燃料供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料供給装置に関する。より詳しくは、アルコールとガソリンの混合燃料から高オクタン価燃料を分離し、これを貯留するタンクを備えた内燃機関の燃料供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の燃料として、さとうきび、とうもろこし、じゃがいもなど多くの作物から製造できるアルコール燃料が注目されている。特に近年では、アルコール燃料をガソリンに添加した混合燃料が流通しており、今後さらに普及すると予測されている。なお、アルコール燃料にはエタノールやメタノールなど様々な種類があるが、以下では、アルコール燃料として最も多く普及しているエタノールを例として説明する。
【0003】
このような混合燃料の普及とあわせて、外部から給油された混合燃料を、車両上で高ガソリン濃度の燃料と高エタノール濃度の燃料に再び分離する分離装置に関する研究も進められている。ガソリンとエタノールとでは、例えばオクタン価や発熱量など燃料物性において様々な異なる点があるため、外部から給油された混合燃料をそのまま利用するよりも、車両上で再び分離し、用途に応じてガソリンとエタノールとを使い分けた方が好ましい場合がある。
【0004】
特許文献1には、混合燃料から高オクタン価燃料を選択的に透過させる分離膜を備えた分離器によって低オクタン価燃料と高オクタン価燃料とに分離し、これらを内燃機関に供給する燃料供給装置が開示されている。特許文献1の燃料供給装置では、負圧ポンプによって分離器の2次側圧力(透過側圧力)を負圧にすることによって、分離器における混合燃料の分離を促進している。また、特許文献1の燃料供給装置では、メインタンクとサブタンクとの2つの燃料タンクを備えており、外部から給油された混合燃料及び分離器によって分離された低オクタン価燃料をメインタンクに貯留し、分離器によって分離された高オクタン価燃料をサブタンクに貯留する。
【0005】
また、分離器によって混合燃料を分離すると分離蒸気が発生する。このため、特許文献1の燃料供給装置では、メインタンク及びサブタンクを共通のキャニスタに接続し、メインタンクで発生した低オクタン価の燃料蒸気とサブタンクで発生した高オクタン価の分離蒸気とを共通のパージ通路を介して吸気通路に排出し、内燃機関で燃焼させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−40569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、負圧ポンプの出力を高くすると、分離器の2次側の排出速度も高くなり、ひいては混合燃料の分離速度も高くなる。このため、分離器における分離効率だけを考慮すれば、負圧ポンプの出力はできるだけ高くすることが好ましい。しかしながら、負圧ポンプの出力を高くすればそれだけサブタンクにおいて発生する分離蒸気も増加してしまう。また、内燃機関で処理できる燃料蒸気の量には限界があることから、分離蒸気が多く発生するとパージバルブによってパージ通路を閉じる頻度が高くなり、ひいてはキャニスタに導入される空気の量も少なくなり、結果としてパージ効率が低下するおそれがある。
【0008】
本発明は、キャニスタのパージ効率を低下させることなく効率的に混合燃料を分離できる内燃機関の燃料供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は、外部から供給されたアルコールとガソリンの混合燃料を貯留する第1タンク(例えば、後述の主タンク10)と、前記第1タンク内の燃料から前記混合燃料よりも高オクタン価燃料を分離する分離システム(例えば、後述の燃料分離システム1)と、前記分離システムによって分離された高オクタン価燃料を貯留する第2タンク(例えば、後述の副タンク16)と、前記第1及び第2タンクと連通し、これらタンクから排出された燃料蒸気を吸着する吸着剤を備えたキャニスタ(例えば、後述のキャニスタ41)と、前記キャニスタと内燃機関の吸気通路とを連通するパージ通路(例えば、後述のパージ通路45)と、を備えた内燃機関(例えば、後述のエンジン2)の燃料供給装置(例えば、後述の燃料供給装置3)を提供する。前記分離システムは、高オクタン価燃料を選択的に透過させる分離膜(例えば、後述の分離膜122)を備えた分離器(例えば、後述の分離器12)と、前記分離膜より前記第2タンク側の圧力を低下させる負圧ポンプ(例えば、後述の真空ポンプ17)と、を備える。前記燃料供給装置は、前記機関の運転状態に基づいて、前記第2タンクにおける分離蒸気の発生量に対する許容量(例えば、後述の最大蒸気許容量A)を算出する許容量算出手段(例えば、後述のECU6、及び図2のS1の実行に係る手段)と、前記第2タンクにおける分離蒸気の発生量が前記許容量を超えないように前記負圧ポンプを駆動する負圧ポンプ制御手段(例えば、後述のECU6、及び図2のフローチャートの実行に係る手段)と、を備える。
【0010】
(2)この場合、前記燃料供給装置は、前記分離膜より前記第2タンク側の圧力に相当する2次側圧力を検出する圧力センサ(例えば、後述の負圧センサ127)と、前記2次側圧力及び前記負圧ポンプの出力に基づいて、前記第2タンクにおける分離蒸気の発生量を予測する発生量予測手段(例えば、後述のECU6、及び図5のマップにより分離蒸気発生量を予測する手段)と、をさらに備え、前記負圧ポンプ制御手段は、前記予測された分離蒸気の発生量が前記許容量を超えない範囲内で前記負圧ポンプの出力を最大にすることが好ましい。
【0011】
(3)この場合、前記発生量予測手段は、前記2次側圧力又は前記負圧ポンプの出力が低くなるほど前記第2タンクにおける分離蒸気の発生量は少なくなると予測することが好ましい。
【0012】
(4)この場合、前記許容量算出手段は、前記機関の回転数が小さくなるほど又は前記機関の出力が低くなるほど前記許容量を少なくすることが好ましい。
【0013】
(5)この場合、前記燃料供給装置は、前記第1タンクに貯留された燃料を前記機関に供給する第1インジェクタ(例えば、後述のダイレクトインジェクタ51)と、前記第2タンクに貯留された燃料を前記機関に供給する第2インジェクタ(例えば、後述のポートインジェクタ52)と、前記第1及び第2インジェクタからの燃料噴射量を制御する噴射量制御手段(例えば、後述のECU6、及び図6のフローチャートの実行に係る手段)と、をさらに備え、前記許容量算出手段は、前記機関に供給すべき燃料量から、前記第1及び第2インジェクタの最低噴射量を減算することによって前記許容量を算出し、前記噴射量制御手段は、前記機関に供給すべき燃料量から、前記分離蒸気の発生量を減算して得られる量の燃料を前記第1及び第2インジェクタから噴射させることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
(1)本発明では、分離システムによって混合燃料を分離することによって得られた高オクタン価燃料を第2タンクに貯留するとともに、この第2タンクを第1タンクと共通のキャニスタに接続する。これにより、負圧ポンプを駆動し混合燃料を分離することによって第2タンクにおいて発生した燃料蒸気(分離蒸気)を、燃料供給装置の外に排出することなく、機関で燃焼させることができる。特に本発明では、機関の運転状態に基づいて、第2タンクにおける分離蒸気の発生に対する許容量を算出し、実際の分離蒸気の発生量がこの許容量を超えないように負圧ポンプを駆動する。したがって本発明によれば、許容量が比較的少ない場合には負圧ポンプの出力を小さくすることにより、パージ通路に設けられたパージ弁を閉じる頻度を少なくできるので、混合燃料の分離によってパージ効率が低下するのを防止できる。また、許容量が比較的多い場合には負圧ポンプの出力を大きくすることにより、パージ効率を低下させることなく分離器における分離効率を高くできる。
【0015】
(2)本発明では、分離膜より第2タンク側の2次側圧力を圧力センサによって検出し、この2次側圧力及び負圧ポンプの出力に基づいて分離蒸気の発生量を予測する。これにより分離蒸気の発生量を精度良く予測できる。また、本発明では、この予測した分離蒸気の発生量が許容量を超えない範囲で負圧ポンプの出力を最大にする。これにより、パージ効率が低下する程度に過剰な量の分離蒸気が生成されるのを防止しながら、分離器における分離効率を高くできる。
【0016】
(3)本発明では、2次側圧力又は負圧ポンプの出力が低くなるほど分離蒸気の発生量は少なくなると予測する。これにより分離蒸気の発生量をさらに精度良く予測できる。
【0017】
(4)本発明では、機関の回転数が小さくなるほど又は機関の出力が低くなるほど許容量を少なくする。これにより、機関に供給される分離蒸気の量に過不足が生じてしまい、機関のシリンダ内に形成される混合気の空燃比や、シリンダ内の高オクタン価燃料の濃度が最適な大きさからずれるのを防止できる。
【0018】
(5)本発明では、機関に供給すべき燃料量から、第1及び第2インジェクタの最低噴射量を減算することによって、許容量を算出する。これにより、分離蒸気の発生量に対する許容量を精度良く算出することができる。また、このように分離蒸気の発生量に対する許容量を精度良く算出した上で、第1及び第2インジェクタからは、機関に供給すべき燃料量から余剰分となる分離蒸気の発生量を減算して得られる量の燃料を噴射させることにより、機関に供給される燃料の総量に過不足が生じてしまい、機関のシリンダ内に形成される混合気の空燃比や、シリンダ内の高オクタン価燃料の濃度が最適な大きさからずれるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係るエンジンとその燃料供給装置の構成を示す図である。
図2】燃料分離システムにおいて混合燃料を分離する際における真空ポンプの出力を決定する手順を規定したフローチャートである。
図3】第1許容量決定マップの具体的な例を示す図である。
図4】エンジンに供給される燃料の内訳を
図5】負圧センサによって検出された負圧及び真空ポンプの出力と、副タンクにおける分離蒸気発生量との関係を示すグラフである。
図6】ダイレクトインジェクタ及びポートインジェクタからの燃料噴射量を定める手順を規定したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る内燃機関(以下、単に「エンジン」という)2と、その燃料供給装置3の構成を示す図である。
【0021】
エンジン2は、複数のシリンダ23を備えた多気筒エンジンである。図1には、このうちの1つを代表的に示す。エンジン2は、シリンダ23が形成されたシリンダブロックと、シリンダヘッドとを組み合わせて構成される。シリンダ23内には、ピストン24が摺動可能に設けられる。ピストン24の頂面とシリンダヘッドのシリンダ23側の面により、エンジン2の燃焼室20が形成される。ピストン24は、コンロッドを介して図示しないクランクシャフトに連結されている。すなわち、シリンダ23内におけるピストン24の往復動に応じて図示しないクランクシャフトが回転する。
【0022】
エンジン2には、点火プラグ29が設けられている。エンジン2は、後述の燃料噴射システム5及び燃料蒸気処理システム4から供給された燃料とスロットル弁28を介して供給された空気とで形成された混合気を点火プラグ29で点火することによって燃焼する。
【0023】
燃料供給装置3は、外部から給油されたガソリンとエタノールの混合燃料を低オクタン価燃料と高オクタン価燃料とに分離する燃料分離システム1と、蒸発燃料を処理する燃料蒸気処理システム4と、分離した燃料をエンジン2に噴射する燃料噴射システム5と、これらの電子制御ユニット(以下、「ECU」という)6と、を備える。以下、各システム1,4,5の構成及び機能について順に説明する。
【0024】
<燃料分離システム1>
燃料分離システム1は、主タンク10と、燃料ヒータ11と、分離器12と、ラジエータ13と、凝縮器14と、バッファタンク15と、副タンク16と、真空ポンプ17と、圧力制御弁18と、を備える。この燃料分離システム1は、分離器12に設けられた後述の分離膜122において、主タンク10と燃料ヒータ11とラジエータ13とからなり主に低オクタン価燃料が流通する1次側装置と、凝縮器14とバッファタンク15と副タンク16と真空ポンプ17と圧力制御弁18からなり主に高オクタン価燃料が流通する2次側装置とに分けられる。
【0025】
始めに、燃料分離システム1の1次側装置の構成について説明する。
主タンク10は、図示しない外部給油口から供給されたエタノールとガソリンの混合燃料を貯留する。本実施形態では、混合燃料として、最も普及しているエタノール含有率が10%の混合燃料が好ましく使用される。
【0026】
燃料ヒータ11は、エンジン2の冷却水(LLC)の流路に接続された冷却水循環路111と、主タンク10から第1燃料循環路101を介して供給された混合燃料を加熱する熱交換器112と、冷却水循環路111内で冷却水を圧送する図示しないポンプと、を備える。
【0027】
熱交換器112は冷却水循環路111を流れる冷却水を熱源として、第1燃料循環路101から供給された混合燃料を熱交換によって加熱する。これにより、後述する分離器12の分離膜122に供給される燃料の一部が気化し、分離膜122による分離効率が向上する。また、冷却水循環路111には、冷却水の流量、ひいては熱交換器112における燃料の加熱効率を調整する流量調整弁113が設けられている。
【0028】
なお、本実施形態では、分離器12に供給される燃料を加熱する燃料ヒータ11として、エンジン2の冷却水を熱源とする熱交換器112を備えたものを例に説明したが、燃料を加熱する手段はこれに限らない。例えば、熱交換器112に替えて電気ヒータを用いてもよい。また、熱交換器112と電気ヒータとを併用してもよい。
【0029】
分離器12は、熱交換器112により加熱された混合燃料を、浸透気化法(パーベーパレーション法)によって該混合燃料よりエタノール濃度が高くオクタン価の高い高オクタン価燃料と、よりエタノール濃度が低くオクタン価の低い低オクタン価燃料とに分離する。
【0030】
分離器12は、混合燃料中の高オクタン価成分であるエタノールを選択的に透過させる分離膜122と、この分離膜122により区画された1次側の高圧室123及び2次側の低圧室124と、低圧室124の圧力を検出する負圧センサ127と、を備える。高圧室123は、第2燃料循環路114を介して熱交換器112に接続される。低圧室124は、2次側装置の後述の凝縮器14に接続される。
【0031】
分離器12では、高圧室123に熱交換器112によって加熱された燃料を流通させ、低圧室124内を真空ポンプ17によって負圧にすると、気体状態にある高オクタン価成分のエタノール及び芳香族が分離膜122を選択的に透過し、高オクタン価燃料として低圧室124内に浸出する。一方、高圧室123内には、低オクタン価燃料が残留する。これにより、主タンク10から供給された混合燃料は、分離器12において高オクタン価燃料と低オクタン価燃料とに分離される。この分離器12における分離効率は、供給される燃料の温度及び流量や、低圧室124内の負圧の大きさ等によって変化する。
【0032】
負圧センサ127は、低圧室124内における負圧、すなわち大気圧と低圧室124内の圧力との差を検出し、検出値に略比例した出力をECU6に送信する。
【0033】
ラジエータ13は、第3燃料循環路125を介して分離器12から供給された低オクタン価燃料を冷却し、第4燃料循環路131を介して主タンク10へ供給する。ラジエータ13には、例えばフィン133と図示しない冷却ファンとを備えた空冷式のものが用いられるが、本発明はこれに限らない。ラジエータ13は、例えば水冷式でもよい。なお、第4燃料循環路131には、燃料ヒータ11からラジエータ13までの燃料高温区間内で燃料が沸騰するのを防止するため、当該高温区間内の燃料圧力を規定値以上にするレギュレータ132が設けられている。
【0034】
以上のように、燃料分離システム1の1次側循環流路は、主タンク10、第1燃料循環路101、燃料ヒータ11、第2燃料循環路114、分離器12の高圧室123、第3燃料循環路125、ラジエータ13、及び第4燃料循環路131によって形成される。
【0035】
また、燃料分離システム1には、以上のような1次側循環流路を流れる燃料の温度を検出する複数の温度センサ91,92,93が設けられている。入口温度センサ91は、第1燃料循環路101を流れ熱交換器112に供給される直前の燃料の温度を検出し、検出値に略比例した信号をECU6に送信する。膜前温度センサ92は、第2燃料循環路114を流れ、分離器12の分離膜122に供給される前の燃料の温度(以下、「膜前燃料温度」という)を検出し、検出値に略比例した信号をECU6に送信する。タンク温度センサ93は、第4燃料循環路131を流れ、主タンク10に戻される燃料の温度を検出し、検出値に略比例した信号をECU6に送信する。
【0036】
ECU6は、これら温度センサ91〜93の出力に基づいて膜前燃料温度を所定の温度に維持しながら、主タンク10に設けられた循環ポンプ102によって主タンク10に貯留されている混合燃料を1次側循環流路で循環させる。これにより、分離器12によってこの循環燃料を高オクタン価燃料と低オクタン価燃料とに分離し、主タンク10内に当初貯留されていた混合燃料から高オクタン価燃料が徐々に除かれるので、主タンク10内には低オクタン価燃料が残留する。なお以下では、主タンク10内に貯留された燃料を主燃料ともいう。
【0037】
次に、燃料分離システム1の2次側装置の構成について説明する。
凝縮器14は、第1燃料排出路126を介して分離器12の低圧室124に接続され、低圧室124内に浸出した気体状態の高オクタン価燃料を凝縮する。凝縮器14には、プレート状の複数のフィン141と、図示しない冷却ファンとを備えた空冷式のものが用いられるが、本発明はこれに限らない。凝縮器14は、例えば水冷式でもよい。
【0038】
バッファタンク15は、第2燃料排出路142を介して凝縮器14に接続され、凝縮器14によって凝縮された高オクタン価燃料を負圧下で一時的に貯留する。バッファタンク15の鉛直方向上部のうち、第2燃料排出路142の近傍は、空気排出路151を介して真空ポンプ17及び副タンク16と接続されている。バッファタンク15の鉛直方向下部は、第3燃料排出路152を介して副タンク16に接続されている。また、第2燃料排出路142には、バッファタンク15側から凝縮器14側へ燃料が逆流するのを防止する第1逆止弁143が設けられている。第3燃料排出路152には、副タンク16側からバッファタンク15側へ燃料が逆流するのを防止する第2逆止弁153が設けられている。
【0039】
副タンク16は、バッファタンク15から排出された高オクタン価燃料を貯留する。副タンク16は、後述するようにキャニスタ41を介して大気と連通している。したがって、副タンク16の内部は、基本的には大気圧とほぼ等しい。なお、以上のように構成された2次側装置のうち、分離器12と、凝縮器14と、バッファタンク15と、副タンク16とは、鉛直方向に沿って上方から下方へ向かってこの順で設けられるのが好ましい。これにより、分離器12において分離された高オクタン価燃料は、その自重を利用して副タンク16内に回収される。
【0040】
空気排出路151は、バッファタンク15の鉛直方向上部から、副タンク16内のうち高オクタン価燃料が溜まる底部に至る。真空ポンプ17は、空気排出路151に設けられ、バッファタンク15側から副タンク16側へ燃料蒸気及び空気を圧送することによって分離器12の低圧室124、凝縮器14及びバッファタンク15の内部を負圧にする。真空ポンプ17は、図示しないドライバを介してECU6に接続されており、その出力は後述の図2に示す手順に従ってECU6によって制御される。
【0041】
また空気排出路151のうち、真空ポンプ17よりバッファタンク15側には、大気圧解放管154が分岐して設けられている。大気圧解放管154は、空気排出路151から副タンク16内のうち大気と連通する上部に至る。圧力制御弁18は、大気圧解放管154に設けられる。
【0042】
次に、以上のように構成された燃料分離システム1の2次側装置によって、混合燃料から高オクタン価燃料を分離し、これを副タンク16内に貯留させるまでの手順について説明する。この2次側装置の制御手順は、(a)混合燃料から高オクタン価燃料を分離する分離ステップと、(b)分離した高オクタン価燃料を副タンク16に回収する回収ステップとの2つの手順に分けられる。
【0043】
(a)分離ステップでは、1次側装置によって混合燃料を循環させた状態で、圧力制御弁18を閉じ、さらに真空ポンプ17を所定の出力で駆動する。真空ポンプ17を駆動すると、バッファタンク15、凝縮器14、及び分離器12の低圧室124内の燃料蒸気及び空気が副タンク16へ排出される。この際、圧力制御弁18は閉じているので、大気圧解放管154を介して副タンク16内の燃料蒸気及び空気がバッファタンク15側へ流れることはない。また、バッファタンク15と副タンク16との間には第2逆止弁153が設けられているので、第3燃料排出路152を介して副タンク16内の燃料や空気がバッファタンク15側へ流れることもない。したがって、真空ポンプ17を所定の出力で駆動し続けると、分離器12の低圧室124、凝縮器14、及びバッファタンク15の内部は、負圧になる。なお、この分離ステップにおいて真空ポンプ17の出力を定める具体的な手順については、後に図2図5を参照して詳細に説明する。
【0044】
低圧室124の内部が負圧になると、分離膜122の機能により高圧室123から低圧室124側へエタノール及び芳香族からなる気体状態の高オクタン価燃料が浸出する。気体状態で浸出した高オクタン価燃料は、凝縮器14によって凝縮され、バッファタンク15の底部に溜まる。分離ステップでは、バッファタンク15内にある程度の量の高オクタン価燃料が溜まるまで真空ポンプ17を駆動し続ける。そして、バッファタンク15内にある程度の量の高オクタン価燃料が溜まると、次の回収ステップへ移る。
【0045】
ところで、以上のような分離ステップにおいて、バッファタンク15の上部には凝縮しきれなかった気体状態の高オクタン価燃料、すなわち燃料蒸気が溜まる。以下では、このような高オクタン価燃料由来の燃料蒸気は、主タンク10内で発生する低オクタン価燃料由来の燃料蒸気と区別するため、分離蒸気という。また、主タンク10内で発生する低オクタン価燃料由来の燃料蒸気は、上記分離蒸気と区別するため、ガソリン蒸気という。このバッファタンク15の上部に溜まった分離蒸気は、真空ポンプ17によって副タンク16の底部へ供給される。したがって、副タンク16内に凝縮した高オクタン価燃料が既に溜まっている場合、真空ポンプ17によって副タンク16の底部に圧送された分離蒸気は、この凝縮した高オクタン価燃料内で再凝縮が促される。本実施形態では、このように分離蒸気の凝縮を促すことにより、できるだけ副タンク16内に分離蒸気が発生しないようにしている。
【0046】
(b)回収ステップでは、真空ポンプ17を停止するとともに、圧力制御弁18を開くことにより、大気圧解放管154を介してバッファタンク15と副タンク16とを連通させる。これにより、バッファタンク15の内部の圧力は、副タンク16とほぼ等しい大気圧まで上昇する。また、バッファタンク15の内部の圧力が上昇すると、その底部に溜まっていた高オクタン価燃料は、その自重により副タンク16内に回収される。以上のようにしてバッファタンク15内の高オクタン価燃料が副タンク16内に回収された後は、再び上記分離ステップを実行する。なお、この回収ステップでは、バッファタンク15よりも上方の凝縮器14及び分離器12の低圧室124の内部は、燃料の分離進行分の負圧低下があるのみでありバッファタンク15よりも負圧が維持される。したがって回収ステップ中も、分離膜122における分離は継続される。
【0047】
2次側装置では、以上のような分離ステップと回収ステップとを繰り返し実行することにより、副タンク16内に高オクタン価燃料が回収される。なお以下では、副タンク16内に貯留されている燃料を副燃料ともいう。
【0048】
<燃料蒸気処理システム4>
燃料蒸気処理システム4は、キャニスタ41と、キャニスタ41と主タンク10とを接続する主蒸気流路42と、キャニスタ41と副タンク16とを接続する副蒸気流路43と、キャニスタ41とエンジン2の吸気ポート27とを接続するパージ通路45と、パージ通路45を開閉するパージバルブ46と、を備える。
【0049】
主タンク10内で発生した燃料蒸気であるガソリン蒸気は、二方弁47が設けられた主蒸気流路42を介してキャニスタ41へ導入される。また、副タンク16内で発生した燃料蒸気である分離蒸気は、二方弁49が設けられた副蒸気流路43を介してキャニスタ41へ導入される。
【0050】
キャニスタ41は、大気通路48を介して大気と連通しており、その内部はほぼ大気圧と等しくなっている。またキャニスタ41は、活性炭素等の吸着剤を内蔵しており、この吸着剤にガソリン蒸気及び分離蒸気を吸着して保持させることによって、これら燃料蒸気が大気に放出されるのを防止する。エンジン2の運転中にパージバルブ46を開くと、キャニスタ41の吸着剤に保持されていた燃料は、大気通路48を介して導入された空気によって脱離し、負圧状態となっている吸気ポート27へ向けてパージ通路45を介して導入され、燃焼される。
【0051】
ところでパージバルブ46を開くと、キャニスタ41の吸着剤に保持されていた燃料蒸気だけでなく、主蒸気流路42や副蒸気流路43からキャニスタ41へ排出された燃料蒸気が、吸着剤に保持されることなくそのまま吸気ポート27へ導入される場合がある。燃料分離システム1において真空ポンプ17を駆動し高オクタン価燃料を分離している間は、とりわけ多くの分離蒸気が副タンク16内に発生する。このため、真空ポンプ17を駆動している間は、特に余分な量の分離蒸気が吸気ポート27へ導入されるようになっている。
【0052】
<燃料噴射システム5>
燃料噴射システム5は、エンジン2のシリンダ23内に臨んで設けられたダイレクトインジェクタ51と、エンジン2の吸気ポート27内に臨んで設けられたポートインジェクタ52と、主燃料通路55を介して主タンク10内に貯留された主燃料をダイレクトインジェクタ51へ圧送する主ポンプ53と、副燃料通路56を介して副タンク16内に貯留された副燃料をポートインジェクタ52へ圧送する副ポンプ54と、を備える。
【0053】
ダイレクトインジェクタ51は、主ポンプ53によって供給された比較的低オクタン価の主燃料を、エンジン2のシリンダ23内に直接噴射する。ダイレクトインジェクタ51は、図示しないドライバを介してECU6に接続される。ダイレクトインジェクタ51の開弁時期及び開弁時間、すなわち主燃料の噴射時期及び噴射量は、ECU6によって制御される。
【0054】
ポートインジェクタ52は、副ポンプ54によって供給された比較的高オクタン価の副燃料を、エンジン2の吸気ポート27内に噴射する。ポートインジェクタ52は、図示しないドライバを介してECU6に接続される。ポートインジェクタ52の開弁時期及び開弁時間、すなわち副燃料の噴射時期及び噴射量は、ECU6によって制御される。
【0055】
上述のように、エンジン2には、この燃料噴射システム5の他、燃料蒸気処理システム4からも燃料蒸気が供給される。したがって、これらインジェクタ51,52の燃料噴射量を決定するにあたっては、これら燃料蒸気処理システム4から導入される燃料蒸気の量が考慮される。なお、インジェクタ51,52の燃料噴射量を決定する具体的な手順については、後に図6を参照して説明する。
【0056】
図2は、燃料分離システムにおける真空ポンプの制御手順、すなわち燃料分離システムにおいて混合燃料を分離する際における真空ポンプの出力を決定する手順を規定したフローチャートである。この処理は、上述の分離ステップを実行している間にECUおいて所定の周期ごとに実行される。
【0057】
図1を参照して説明したように、真空ポンプ17を駆動し、バッファタンク15、凝縮器14、及び分離器12の低圧室124の内部から空気を排出すると気体状態の高オクタン価燃料が分離膜122を透過する。したがって、副タンク16内における分離蒸気の発生量と真空ポンプ17の出力との間には相関がある。以下では、この相関関係に着目し、過剰な量の分離蒸気が吸気ポート27に導入されないように真空ポンプ17の出力を決定する手順を説明する。
【0058】
始めにS1では、副タンクにおける分離蒸気の発生量に対する許容量に相当する最大蒸気許容量Aをエンジンの運転状態に基づいて算出し、S2に移る。図2に示すように、この最大蒸気許容量Aを決定するプロセスは、異なるアルゴリズムに従って2種類の許容量A1,A2を算出するステップS1A,S1Bと、これら2つの許容量A1,A2のうち何れか小さい方を確定値として採用するステップS1Cと、で構成される。以下、2種類の許容量A1,A2を算出する具体的な手順について説明する。
【0059】
S1Aでは、現在のエンジン回転数及びエンジントルクを取得し、これら取得したエンジン回転数及びエンジントルクに基づいて、予め定められた第1許容量決定マップを検索することによって第1許容量A1を算出する。
【0060】
図3は、第1許容量決定マップの具体的な例を示す図である。なお図3には、エンジン回転数及びエンジントルクを入力として第1許容量A1を決定する3次元のマップを2次元に簡略化したものを示す。図3に示すマップによれば、第1許容量A1は、エンジン回転数が小さくなるほど又はエンジントルクが低下するほど少なくなる。
【0061】
図2に戻って、S1Bでは、エンジンに供給すべき燃料量から、ダイレクトインジェクタ及びポートインジェクタの最低噴射量と、キャニスタの吸着剤から脱離しパージ通路を介して供給される燃料蒸気の量とを減算することによって、第2許容量A2を算出する。
【0062】
図4は、エンジンに供給される燃料の内訳を模式的に示す図であり、かつ第2許容量の概念を説明するための図である。
図4の縦軸は、エンジンに供給される燃料量を示す。ただし、本実施形態では、比較的熱量の高いガソリンを多く含む主燃料をダイレクトインジェクタから噴射し、比較的熱量の低いエタノールを多く含む副燃料をポートインジェクタから噴射する。すなわち、本実施形態では熱量の異なる主燃料と副燃料がエンジンに供給される。したがって、図4、S1Bにおける演算、及び以下の演算において、このような熱量の異なる主燃料や副燃料を合算したり減算したりする場合、燃料の質量[mg]に単位質量当たりの熱量[J/mg]を乗じて得られる熱量[J]に適宜換算して扱うものとする。
【0063】
本実施形態の燃料供給装置では、エンジンには燃料噴射システムと燃料蒸気システムとの両方から燃料が供給される。したがって、図4において左側のグラフに示すように、分離蒸気の分を除外すれば、ダイレクトインジェクタから噴射される主燃料と、ポートインジェクタから噴射される副燃料と、キャニスタの吸着剤から脱離した燃料蒸気と、を合わせた燃料がエンジンに供給される。
【0064】
パージバルブを開いた状態では、吸着剤から脱離した燃料蒸気の量は自由に制御できないが、ダイレクトインジェクタからの主燃料の噴射量及びポートインジェクタからの副燃料の噴射量については、比較的自由に制御できる。したがって、副タンクにおいて余分な分離蒸気が発生した場合、これらインジェクタからの噴射量を適宜減量することによって、エンジンに供給される燃料の量を常に要求に応じた量に維持することができる。ただし、ダイレクトインジェクタやポートインジェクタは高温環境下にさらされるため、これらインジェクタからは常に所定の最低噴射量に相当する量の燃料を噴射し続ける必要がある。したがって、図4に示すように、エンジンに供給すべき燃料から、ダイレクトインジェクタの最低噴射量と、ポートインジェクタの最低噴射量と、キャニスタの吸着剤から脱離した燃料蒸気の量とを減算して得られる第2許容量は、副タンクにおける分離蒸気の発生量に対する許容量とみなすことができる。なお、S1Bにおける演算において、エンジンに供給すべき燃料量は、例えばエンジン回転数及びエンジントルク等から既知の方法によって算出される。また、キャニスタの吸着剤から脱離しパージ通路を介して供給される燃料蒸気の量も、既知の方法によって算出される。
【0065】
図2に戻って、S1Cでは、算出した第1許容量A1及び第2許容量A2のうち、何れか小さい方を最大蒸気許容量Aとし(A=Min(A1,A2))、S2に移る。このように何れか小さい方を最大蒸気許容量Aとして確定することにより、過剰な量の分離蒸気が吸気ポートに供給されないようにできる。
【0066】
S2では、現在の負圧センサの出力に基づいて最大分離蒸気発生量Bmaxを算出する。この最大分離蒸気発生量Bmaxとは、真空ポンプの出力を最大とした場合に副タンク内に発生する分離蒸気の量を示す。
【0067】
図5は、2次側圧力(負圧センサを利用して検出される分離器の低圧室側の圧力)及び真空ポンプの出力と、副タンクにおける分離蒸気発生量と関係を示すグラフである。図1に示すように、真空ポンプの出力を高くするほど、分離器の低圧室から多くの空気及び燃料蒸気が副タンクへ向けて排出されるため、副タンクにおける分離蒸気発生量は増加すると予測される。また、低圧室の圧力が高くなるほど(換言すると、負圧が大きくなるほど)、真空ポンプの排出量が増加するため、副タンクにおける分離蒸気発生量は増加すると予測される。このため、予め実験を行うことにより、現在の負圧及び真空ポンプの出力に基づいて、分離蒸気発生量を予測する図5に示すようなマップを構築することができる。
【0068】
図2に戻って、S2では、現在の負圧センサの出力に基づいて図5に示すマップを検索することにより、真空ポンプの出力を最大と仮定した場合における分離蒸気の発生量を予測し、これを最大分離蒸気発生量Bmaxとする。
【0069】
S3では、最大蒸気発生量Bmaxは最大蒸気許容量A以下であるか否かを判別する。
S3の判別がYESである場合、真空ポンプを最大出力で駆動し続けたとしても最大蒸気許容量Aを超える分離蒸気が発生することはないと予測し、真空ポンプの出力を最大にする(S4)。
【0070】
S3の判別がNOである場合、真空ポンプを最大出力で駆動し続けたとすると最大蒸気許容量Aを超える分離蒸気が発生するおそれがあると予測し、S5に移る。S5では、現在の負圧に基づいて、分離蒸気発生量が最大蒸気許容量Aとなるような真空ポンプの出力を算出し、S6に移る。より具体的には、現在の負圧と最大蒸気許容量Aに基づいて、図5に示すマップを逆に検索することによって、分離蒸気発生量が最大蒸気許容量Aとなるような真空ポンプの出力を算出し、決定した出力になるように真空ポンプの出力を制限する。
【0071】
以上をまとめると、図2に示す真空ポンプの制御手順に従えば、真空ポンプの出力は、図5に示すマップに従って予測される分離蒸気発生量が最大蒸気許容量Aを超えない範囲内で最大になるように制御される。これにより、燃料分離システムにおける分離効率をできるだけ大きくしながら、過剰な量の分離蒸気がパージ通路から吸気ポートへ排出されないようにできる。
【0072】
図6は、ダイレクトインジェクタ及びポートインジェクタからの燃料噴射量を定める手順を規定したフローチャートである。この処理は、ECUにおいて所定の周期ごとに実行される。
図1に示すように、副タンク16と吸気ポート27とは、副蒸気流路43、キャニスタ41、及びパージ通路45を介して接続されている。したがって、副タンク16内で発生した分離蒸気が吸気ポート27へ到達するまでには所定の時間がかかる。したがって、図2に示す手順に従い、分離蒸気発生量が最大蒸気発生量Bmax或いは最大蒸気許容量Aになるように真空ポンプの出力を制御しても、この量に応じた分離蒸気が吸気ポートに導入されるまでには、これら通路の長さに応じた遅れがある。以下では、この遅れを考慮して各インジェクタからの燃料噴射量を定める具体的な手順を説明する。
【0073】
S11では、エンジン回転数やエンジントルク等のパラメータに基づいて、予め定められたマップを検索することにより、パージ通路からの燃料蒸気の供給が無いと仮定した場合におけるダイレクトインジェクタからの主燃料の基本噴射量と、ポートインジェクタからの副燃料の基本噴射量とを算出する。
【0074】
S12では、キャニスタの吸着剤から脱離し、吸気ポートに導入される燃料蒸気の量を算出し、これを基本パージ量とする。
S13では、所定の分離蒸気遅れ時間前における負圧及び真空ポンプの出力を取得し、これら負圧及び真空ポンプの出力に基づいて図5に示すようなマップを検索することによって、遅れ時間前における副タンク内の分離蒸気発生量を算出する。上述のように、副タンクで発生した分離蒸気が吸気ポートに導入されるまでには遅れがある。したがって、所定の分離蒸気遅れ時間前における副タンク内の分離蒸気発生量は、現在、吸気ポートに導入される分離蒸気量とみなすことができる。なお、この分離蒸気遅れ時間は、予め実験を行うことによって特定される。
【0075】
S14では、主燃料及び副燃料の基本噴射量から、基本パージ量及び分離蒸気発生量を減算することにより、主燃料及び副燃料の噴射量を決定する。なお、主燃料及び副燃料の基本噴射量からこれら基本パージ量及び分離蒸気発生量を減算するには、様々な態様が考えられる。すなわち、これら余剰となる基本パージ量及び分離蒸気発生量に相当する量の燃料を、(a)主燃料から優先的に削減する場合と、(b)副燃料を優先的に削減する場合と、(c)主燃料と副燃料との両方を所定の割合で削減する場合と、があるが、本発明では(a)〜(c)の何れの態様でもよい。ただし、(c)主燃料と副燃料との両方を所定の割合で削減する場合、例えば、シリンダ内における副燃料由来のエタノール濃度が一定になるようにすることが最も好ましい。
【0076】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限るものではない。
例えば、図2のS1Aでは、エンジンの運転状態を特定する複数の因子のうち、エンジン回転数とエンジントルクとに着目し、これら2つの因子に基づいて第1許容量を算出したが、本発明はこれに限らない。第1許容量は、エンジン回転数やエンジントルクだけでなく、水温や外気温度など他のエンジンの運転状態を特定する因子に基づいて決定してもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、負圧センサ127を分離器12の低圧室124に設けた場合について説明したが、負圧センサ127を設ける場所はこれに限らない。上述のように、真空ポンプ17を駆動すると、分離器12の低圧室124だけでなく、凝縮器14及びバッファタンク15の内部も負圧になる。したがって、負圧センサ127は、バッファタンク15や凝縮器14など、真空ポンプ17を駆動すると負圧になる場所であればどこでもよい。
【0078】
なお、上記実施形態では、キャニスタ41は、パージ通路45を介してスロットル弁28の下流側に接続した場合について説明したが、本発明はこれに限るものではない。例えば、過給機を備えたエンジンでは、過給機より下流側が正圧となってしまい、上記パージ通路45のみでは燃料蒸気を十分に供給できない場合がある。したがって過給機を備えたエンジンに本発明を適用する場合、キャニスタ41と過給機より上流側の部分とを接続するパージ通路をさらに追加して設けてもよい。
【符号の説明】
【0079】
2…エンジン(内燃機関)
3…燃料供給装置
1…燃料分離システム(分離システム)
10…主タンク(第1タンク)
12…分離器
122…分離膜
127…負圧センサ(圧力センサ)
16…副タンク(第2タンク)
17…真空ポンプ(負圧ポンプ)
4…燃料蒸気処理システム
41…キャニスタ
45…パージ通路
5…燃料噴射システム
51…ダイレクトインジェクタ(第1インジェクタ)
52…ポートインジェクタ(第2インジェクタ)
6…ECU(許容量算出手段、負圧ポンプ制御手段、発生量予測手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6