(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態における型締め装置の概略構成を説明するための斜視図である。
【
図2】本実施形態における型締め装置を示す平面図である。
【
図3】本実施形態における型締工程のモータのトルクと型締め力の挙動を示すグラフである。
【
図4】定格トルク値をトルク制限値に設定する場合の型締工程のモータのトルクと型締め力の挙動を示すグラフである。
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の型締め装置の実施形態を説明する。
図1及び
図2に示すように、型締め装置1を構成する可動型盤10は、金型取付面10aの側を固定型盤11に対向させて配置されている。可動型盤10は、固定型盤11に接近し又は離間するように往復移動が可能に設けられている。可動型盤10の背面10bの側には、可動型盤10を固定型盤11に接近・離間する方向に駆動するためのトグル機構20が設けられている。また、本実施形態は、トグル機構20の動作を制御する駆動制御部50を備えている。
【0013】
トグル機構20は、図示を省略する基台上に固定されたトグルサポート21と、可動型盤10の進退方向に伸びるように設けられたガイドロッド22と、ガイドロッド22に沿って移動可能に設けられたクロスヘッド23と、クロスヘッド23を駆動するためのボールネジ24とを備えている。
トグルサポート21と固定型盤11との間には、タイバー25が設けられ、可動型盤10はこのタイバー25によって移動方向がガイドされる。
【0014】
ガイドロッド22は、二本一対で、それぞれ、その一端22aがトグルサポート21に固定され、他端22bが、可動型盤10の側に突出するように設けられて、ロッドサポート26によって固定支持されている。ロッドサポート26は、トグルサポート21に固定金具27を介して取り付けられている。ロッドサポート26には、タイバー25を挿通させるタイバー挿入孔が形成され、そこにタイバー25が挿通されている。
【0015】
クロスヘッド23は、二本一対のガイドロッド22が貫通し、これらガイドロッド22に沿って移動自在に設けられている。クロスヘッド23には、ボールネジ24が噛合っており、このボールネジ24をサーボモータ51によって回転駆動させることで、クロスヘッド23がボールネジ24およびガイドロッド22に沿って進退するようになっている。
【0016】
クロスヘッド23は、その中央部において、ガイドロッド22、ボールネジ24が貫通しており、その上方と下方には、それぞれリンク支持部23aが延出して設けられている。
図2に示すように、クロスヘッド23のそれぞれのリンク支持部23aには、リンク28の一端がピン接続されている。トグルサポート21と可動型盤10の間には、リンク29A、29Bが設けられている。リンク29Aの一端はトグルサポート21にピン接続され、他端はリンク29Bの一端にピン接続されている。さらに、リンク部材29Bの他端は可動型盤10に連結されている。そして、リンク29Aには、リンク28の他端がピン接続されている。
【0017】
以上の構成を備えるトグル機構20は、サーボモータ51によって回転駆動されるボールネジ24により、クロスヘッド23が型開閉方向に進退するようになっている。クロスヘッド23は、トグルサポート21と金型が取り付けられる可動型盤10との間に設けられたリンク部材28、29A、29Bに連結されており、クロスヘッド23が変位すると、その変位がリンク部材28、29A、29Bによって増幅されて可動型盤10に伝達される。トグルサポート21と固定型盤11とは、タイバー25によって連結されており、可動型盤10の変位と固定型盤11からの反力とによって型締め力を発揮する。
【0018】
駆動制御部50は、ボールネジ24の駆動源であるサーボモータ51と、サーボモータ51の動作を制御する制御装置55と、を備える。サーボモータ51と制御装置55の間には、アンプ52とサーボコントローラ53が介在している。
制御装置55からのトルク制御値が、デジタル信号としてサーボコントローラ53に与えられ、さらにアンプ52でサーボモータ51に対して電流値に変換された上で、サーボモータ51に伝えられることで、サーボモータ51を必要なトルク値で駆動してトグル機構20を動作させる。また、アンプ52は、サーボモータ51の動作中に生じたトルクの実測値を電流値(実行トルク値)としてサーボコントローラ53に伝え、サーボコントローラ53は、実行トルク値をデジタル信号に変換して制御装置55に伝える。さらに制御装置55は、記憶装置56を備え、記憶装置56はサーボコントローラ53から制御装置55が受信した実行トルク値のデジタル信号を個別に複数記憶することができる。
また、制御装置55は、表示パネル54を備えており、表示パネル54には後述する警告が表示される。
【0019】
[型締めの基本的な動作]
以上の構成を備える型締め装置を用いて可動金型と移動金型の型締めを行なうには、サーボモータ51を駆動して、ボールネジ24を回転させることで、クロスヘッド23を前進させる。クロスヘッド23の前進に伴って、リンク28が押されることで、リンク29A,29Bが伸びて、可動型盤10を前進させる。可動型盤10の前進に伴って可動金型(図示を省略)を固定金型に向けて移動させる。
型締めの一連の動作は、
図4に示すように、昇圧工程と保持工程に区分することができる。昇圧工程は、クロスヘッド23を可動金型と固定金型が接する型合せの位置から、さらに予め定められた必要な型締め力(設定型締め力F
S)が得られる型締め完了位置まで前進させる領域である。保持工程は、型締め完了以降に、設定型締め力F
Sを保持するためにクロスヘッド23の位置を維持する領域である。保持工程において、一対の金型の間に形成されるキャビティ内に溶融した樹脂が射出される。
【0020】
昇圧工程及び保持工程のいずれにおいても、トグル機構20を含む型締め装置1を保護するために、サーボモータ51の実行トルク値T
Eに制限を与えることができる。
昇圧工程においては、
図4に示すように、トグル機構20を駆動させるのに大きなトルクが必要であるので、サーボモータ51が発揮できる最大トルク値T
Mを上限(制限値)にすることができる。
これに対して、保持工程は樹脂の射出が行われる工程であり長時間となることから、サーボモータ51に過負荷を与えることなく長時間に亘って連続駆動ができるようにトルク制限値T
Lは定格トルク値T
R以下の値として実行トルク値T
Eを制御することが一般的である。
【0021】
一方で、トグル機構20を用いる型締め装置1は、設定された型締完了の位置にクロスヘッド23を移動させることで、設定型締め力F
Sを発生させて型締めを行う。換言すると、設定型締め力F
Sは、クロスヘッド23の位置を調整することで制御される。ところが、金型が熱膨張すると、
図4に破線で示すように、熱膨張していない正常な状態(実線で示す)と比べて、クロスヘッド23の前進量が少ない手前の位置、つまりリンク29A,29Bが所定量伸びていない状態で型合せが行なわれてしまう。しかし、通常、制御装置55は金型の熱膨張により型合わせ位置が正規の位置よりも手前となっているか否かを監視していないので、リンク29A,29Bが所定の長さになるまで伸びるようにクロスヘッド23を前進させる。したがって、正常状態で設定される型合せ位置から型締完了の位置までのクロスヘッド23の移動距離をLとおくと、金型が熱膨張すれば、熱膨張量に対応するΔLの分だけクロスヘッド23を余計に前進移動させて、つまりΔLの分だけタイバー25を余計に伸長させることが必要になる。このとき、この余計な伸長量ΔLに対応する軸力がタイバー25に上乗せされて発生するため、正常状態の設定型締め力F
Sに加えてΔF
Sだけ型締め力が増加する。一般的に型締め用のサーボモータ51は、コストや寸法および省エネの観点から、必要最小限のサイズとするために、保持工程において、最大型締め力を保持するために必要なサーボモータ51の発生トルクに近い値(例えば、最大型締め力よりも5%程高い値)の定格トルク値T
Rを持つモータが設計時に選定される。またこのとき、この型締め保持工程におけるサーボモータ51のトルク制限値T
Lは、定格トルク値T
Rが設定される。しかし、金型の熱膨張によって増大した型締め力を発生するために、正規の、つまり作業者が設定入力した型締め力を保持するのに必要なトルク値を超えた実行トルク値でサーボモータ51を駆動している場合がある。この場合においても、保持工程におけるサーボモータ51のトルクは、サーボコントローラ53によりトルク制限値T
Lを超えないように制御されている。よって、実際の実行トルク値T
Eはトルク制限値T
L以上にはならないため、型締め力も金型の熱膨張分に相当するΔF
s分伸ばすことが出来ずに、ΔF
sよりも小さなΔF
s’の分だけ増大するだけで型締め工程を終了する。しかし、型締め保持工程の必要トルクは、金型の熱膨張のない場合でも、機械摺動部の摩擦などで5〜10%程度ばらつくことがある。したがって、作業者が設定した設定型締め力が、最大型締め力近傍の型締め力(例えば、最大型締め力仕様値の90%以上の型締め力)で運転している場合、この保持工程のサーボモータの実行トルク値を監視していても、設定型締め力である90%型締め力に対して正常の範囲のバラツキにより、実行トルクが100%型締め力となるトルクとなっているのか、あるいは金型の熱膨張により異常なトルクが発生しているがトルク制限値T
Lに到達してしまったため100%型締め力となるトルクに抑えられているのかを判別するのが難しい。そこで本実施形態は、以下説明するように、金型が熱膨張したとしても、異常判断が高い精度で検知できる、型締め力の監視方法を提供する。
【0022】
[型締め力の監視]
本実施形態のトグル機構20は、型締めを行なう過程で、クロスヘッド23を移動してトグル機構20が伸びきる手前でロックアップ(型締め)完了とし、クロスヘッド23の位置を保持すること、さらに、監視トルクと判別トルクとを比較することを前提とする。この比較は、制御装置55が行う。
【0023】
その上で本実施形態は、
図3に示すように、トルク制限値T
Lとして、定格トルク値T
Rを超える値を採用する。このトルク制限値T
Lには、金型の冷却水温度や溶融樹脂温度を考慮して推定される最大限に金型が熱膨張した場合でもクロスヘッド23を正常位置まで移動させて設定型締め力F
Sを得るのに必要なトルク値を超える値が採用される。そうすることで、本実施形態は、設定型締め力F
Sを超える分の型締め力ΔF
Sが発生し、設定型締め力F
Sに対応した値以上の実行トルクが発生できるようにしている。
トルク制限値T
Lの値は、金型の冷却水温度や溶融樹脂温度を考慮して推定される最大限に金型が熱膨張した場合を想定して決定するものに限らず、また、一義的に定まるものでもなく、射出成形装置、金型、その他の仕様により個別に設定されるべきものである。トルク制限値T
Lは、一連の射出成形が行われる前に、射出成形装置の制御装置55に入力され、制御装置55は入力されたトルク制限値T
Lをサーボコントローラ53に通信を介して指令する。サーボコントローラ53は制御装置55から受信したトルク制限値T
Lに相当する電流値を超えないようにアンプ52を介してサーボモータ51に電流を供給するとともに、サーボモータ51に供給する電流値に相当する実行トルク値T
E0を制御装置55に通信を介して発信する。制御装置55はサーボコントローラ53から受信した連続した成形サイクルにおける、あるいは断続した成形サイクルにおける保持工程の実行トルク値T
E0を記憶装置56に記憶する。
【0024】
一方で、制御装置55は、その瞬間に進行中の成形サイクルの保持工程における実行トルク値T
E0と、先行するNショット分の複数ショットの保持工程の実行トルク値T
E1,…T
ENの平均値を常に或いは所定のタイミングで算出し監視トルク値T
Bとして記憶装置56に記憶する。監視トルク値T
Bは、以下の式(1)に示す式によって求めることができる。
制御装置55は、アンプ52及びサーボコントローラ53を介して各ショットの実行トルク値T
E0〜T
ENを取得し、記憶装置56に保持するとともに、下記の例に倣って、監視トルク値T
Bを求める。
現在:T
E0 前回:T
E1 前々回:T
E2 N回:T
EN
T
B=(T
E0+T
E1+T
E2+T
E3 …T
EN)/N … 式(1)
なお、実行トルク値を総称する場合は実行トルク値T
Eと表記し、各ショットの実行トルク値を代表して示す場合は実行トルク値T
ENと表記する。
【0025】
各ショットのT
E0,T
E1,T
E2,T
E3 … T
ENを採用するタイミングを選択することが好ましい。制御装置55は、アンプ52とサーボコントローラ53を介して、T
E0,T
E1,T
E2,T
E3 … T
ENを継続的に取得しているが、保持工程に移行した直後はトルクが不安定である。また、保持工程中に金型に樹脂が射出されることによる射出圧力の影響、つまり金型内の樹脂圧力により型締め力に抗じて金型を開こうとする力の影響、および後述する乗り越えトルクと称されるトルクピークを越えてトルクが減少し、保持工程の所定のトルク値に制御される移行時のアンダーシュートの影響を避けることも望まれる。したがって、制御装置55は、サーボコントローラ53から取得した実行トルク値T
Eの中から、不安定な期間を除いて、T
E0,T
E1,T
E2,T
E3 … T
ENを読み取って監視トルク値T
Bを求めることが、過大な型締め力が生じているか否かの検知精度を向上する上で好ましい。現実的には、クロスヘッド23が所定の位置に到達して型締めの昇圧が完了した時点からスタートするタイマーのタイムアップによって読み取りを開始する。読み取りの期間が射出工程と重複しないように、タイムアップの時間が設定される。
【0026】
読み取りのタイミングが
図3に示されているが、保持工程中の読み取りが行なわれるまでの期間は、例えば、監視トルク値T
Bとして型締め工程中におけるトルク制限値T
LCと同じ値を用いることができる。
【0027】
制御装置55は、以上説明した監視トルク値T
Bと判別トルク値T
Jを比較して、監視トルク値T
Bの値が、判別トルク値T
J(
図3参照)を超えた場合に、過大なトルクが発生したものとして警告を表示パネル54に表示させる。表示の手法は、過大な型締め力が生じていることが示されている限り任意であるが、文字、図形などの視覚的な情報に警告音のように聴覚に訴える情報を加えることができる。また、本発明は、聴覚に訴える情報のみで過大な型締め力が生じていることを警告することもできる。
本実施形態は、警告を表示させた後も、次回以降に予定されているショットを継続することを前提としており、当該ショット又は次回以降のショットを中止するか否かは、警告を認識したオペレータの判断に委ねる。ただし、制御装置55が、警告に加えて、現在のショットを中止する、次回以降に予定されているショットを中止する、などの選択肢を併せ持つこともできる。
【0028】
次に、
図3を参照して、本実施形態の型締め力の監視方法の具体例を説明する。
なお、
図3は、上段のグラフが、サーボモータ51の任意の実行トルク値T
Eの時間的な推移を表している。また、下段のグラフは、簡易のためにタイバー25に生ずる型締め力が直線的に推移する場合の例を表している。なお、
図3において、実行トルク値T
E及び設定型締め力F
Sは、金型(可動金型と固定金型)が熱膨張していない場合の挙動を実線で示し、熱膨張している場合の挙動を破線で示している。
【0029】
図3(上段)に示すように、型合せがなされてから型締めの完了までの間において、一旦は実行トルク値T
Eが増加するが、乗り越えトルクとも称されるピークP1を越えると減少に転じ、さらに、アンダーショートによるピークP2を境にして上昇に転じ、型締め完了に至る。一方、
図3(下段)に示すように、型締め力Fは、型合せがなされてから、単調に増加する。
以上の実行トルク値T
E及び型締め力Fの基本的な挙動は、金型の熱膨張の有無に関わらず同じである。ただし、金型が熱膨張すると、正常状態の型合せの位置よりも手前で型合せがなされてしまうので、
図3に破線で示すように、正常状態の型合せ位置よりも手前から実行トルク値T
E及び型締め力Fが立ち上がる。
【0030】
型締め完了後の保持工程においては、型締め完了時の実行トルク値T
Eが維持される。そのために、制御装置55は、型締め完了時のクロスヘッド23の位置が変化しないようにフィードバック制御する。クロスヘッド23の位置が変化しないので、型締め力Fは設定型締め力F
Sに一定に維持される。ただし、微小な変動は生じうる。
【0031】
さて、制御装置55は、昇圧工程、及び、保持工程において、トルク制限値T
Lを設定し、実行トルク値T
Eがトルク制限値T
Lを超えないように、サーボコントローラ53に指令を出す。サーボコントローラ53は制御装置55の指令を受けて、トルク制限値T
Lに相当する電流を超えないようにアンプ52を介してサーボモータ51に電流を供給する。
トルク制限値T
Lは、昇圧工程と保持工程で相違する(昇圧工程のトルク制限値:T
LC、保持工程のトルク制限値:T
LH)。型締め工程は、乗り越えトルクが大きいことに対応して、
図3に示すように、トルク制限値T
LCがサーボモータ51が短時間であれば出力しても故障などの支障が発生しない、モータ仕様における許容最大トルク値T
Mに設定される。保持工程では、前述したように、昇圧工程に比べて長時間が費やされることから、サーボモータ51の保護の観点から、昇圧工程に比べてトルク制限値T
LHを下げる。ただし、本実施形態では、
図3に示すように、トルク制限値T
LHが定格トルク値T
Rを超える値に設定される。このとき、金型取り付け後で成形運転開始前に実施される金型厚さ調整により射出成形機の制御装置55に手動あるいは自動で予め設定される型合わせ位置は、保持工程でのサーボモータ51の実行トルク値T
Eが定格トルク値T
Rを超えないように設定されている。
【0032】
金型の熱膨張に起因して、前述したように、定格トルク値T
Rを超える実行トルク値T
Eが生じうる。この値は、
図3には、破線で示されているが、この値が過大な場合もある。ところが、前述したように、定格トルク値T
Rをトルク制限値T
LHとしてサーボモータ51を制御すると、実行トルク値T
Eが過大となることを検知することができない。そこで、本実施形態は、
図3に示すようにトルク制限値T
LHを引き上げる。
【0033】
保持工程におけるトルク制限値T
LHは、下限が定格トルク値T
Rを超える値に設定されることは上述の通りであるが、上限は、昇圧工程と同様に、最大トルク値T
Mとすることができる。したがって、保持工程におけるトルク制限値T
LHは、下記式(3)の範囲で設定される。
定格トルク値T
R<トルク制限値T
LH<最大トルク値T
M …式(3)
【0034】
[作用・効果]
以下、本実施形態による作用、効果について
図3を参照して説明する。
制御装置55は、金型の熱膨張によりサーボモータ51が、成形作業者が設定した所望の型締め力を発生させるためのトルク値よりも大きなトルク値を発生させた場合に、異常なトルク値であることを判別するための判別トルク値T
Jを有している。またアンプ52は少なくともサーボモータ51を駆動している期間においては、常時、サーボモータ51を駆動している電流値に対応する実行トルク値T
ENが通信を介して制御装置55に送信されている。
制御装置55は、アンプ52から受信した任意の連続した成形サイクルにおける、あるいは断続した成形サイクルにおける実行トルク値T
ENを記憶装置56に複数ショット記憶しておき、その記憶された複数ショットの実行トルク値T
ENの平均値あるいは中央値を監視トルク値T
Bとして常に或いは所定のタイミングで算出する。さらに制御装置55はこの監視トルク値T
Bの値が、判別トルク値T
Jを超えた場合に、過大なトルク値としてアラームを発するなどの異常処理を行う。
【0035】
図4に示すように定格トルク値T
Rをトルク制限値T
LHにし、最大型締め力近傍の型締め力(例えば、最大型締め力仕様値の80%以上、好ましくは90%以上の型締め力)で運転している場合、実行トルク値T
Eがトルク制限値T
LHに近似することになり、前述の通り過大な型締め力が生じているか否かの判別が困難となる。これに対して本実施形態は、保持工程のトルク制限値T
LHを、定格トルク値T
Rを超える値に設定している。したがって、サーボモータ51は、定格トルク値T
Rに制限されることがないので、作業者が設定した型締め力F
SにΔF
Sを加えた型締め力Fが得られる位置までクロスヘッド23を移動させるのに必要に実行トルク値T
Eを出力するのを許容される。これにより定格トルク値T
Rを超える値にトルク制限値T
LHを設定すれば、実行トルク値T
Eとトルク制限値T
LHとの差を大きくすることができるので、過大な型締め力の有無の判別が明確になり、異常判断が容易になる。しかも、本実施形態は、サーボモータ51におけるトルクを監視すれば足りるので、専用のトルク検出器を設ける必要がなく、コスト上昇を抑えることができる。
【0036】
次に、本実施形態は、判別トルク値T
Jと比較される監視トルク値T
Bは、先行する連続した成形サイクルにおける、あるいは断続した成形サイクルにおける、複数ショットを含めた実行トルク値の平均値を採用する。ここで、保持工程時の任意の実行トルク値T
ENは略一定になるものの、トグル機構20における各摺動部の潤滑状態やその他の影響を受けて、ショット毎に変動する。また特にサーボモータ51やその他のモータの駆動により発生した電磁波に起因したノイズが、検知した実行トルク値T
Eへ混入し、実行トルク値T
Eの値が極めて瞬間的ではあるが非常に大きな異常値となり、それを検知してしまう場合もある。したがって、その瞬間に保持工程を行っているショットの実行トルク値T
ENだけを監視トルク値T
Bとして比較対象とすると、瞬間的な潤滑不良状態や電磁ノイズによる偶発的な大トルクを金型熱膨張による必然的な以上トルクとして誤検知を招く恐れがある。これに対して本実施形態は、複数ショット分の平均値を用いるので、過大型締め力の検知精度を上げることができる。特に、保持工程におけるサーボモータ51によるクロスヘッド23の位置保持制御は高い繰り返し精度で行われているため、実行トルク値T
ENのバラツキも小さく、監視トルク値T
Bおよび判別トルク値T
Jとして複数ショットの平均値をとることで、監視トルク値T
Bおよび判別トルク値T
Jに対する前述のような偶発的な異常トルクの影響を極めて小さく抑えられるので、過大型締め力の誤検知防止に非常に有効である。前述した式(1)による監視トルク値T
Bは相加平均(arithmetic mean)として求めたが、現在までの履歴を代表する値であれば、相加平均に限定されず、例えば、以下により求めた実行トルク値T
ENを採用することもできる。平均(相加平均、相乗平均及び二乗平均平方根)を採用する場合には、測定されたデータの全て(母集団)を用いる母平均として求めることもできるし、標本平均として求めることもできる。標本平均としては、例えば、母集団から最大値及び最小値を除いた標本を用いるものがある。
相乗平均(geometric mean)
二乗平均平方根(root mean square,RMS)
中央値(median)
【0037】
また、判別トルク値T
Jを求めるための複数ショットの実行トルク値T
E1,T
E2,T
E3 … T
ENは、金型が熱膨張していない状態、あるいは熱膨張が小さい状態で測定されたT
E1,T
E2,T
E3 … T
ENを用いて求めることが好ましい。例えば、射出成形が開始されてからショット数が少ない範囲であれば金型が熱膨張していないか、膨張していたとしても無視できる程度であり、そのショット数の範囲の測定結果に基づいて、判別トルク値T
Jを求める。これにより所望の型締め力を得るために検出した型合わせ位置による実行トルク値に基づいて判別トルク値T
Jを設定できるので、本来の設定型締め力に対する増分などを用いて異常トルクを判別することが容易となる。
監視トルク値T
Bおよび判別トルク値T
Jとして用いる平均値の複数ショットの回数としては、少なくとも2ショット以上、好ましくは3ショット以上が適切である。通常、特異的な潤滑不良の場合、発生する駆動トルクは正常トルクの1.3倍を超えないため、3ショット分の相加平均を求めることで、数値判別処理において通常潤滑状態のトルクのバラツキの範囲である10%程度内まで影響を薄めることができるので、容易かつ誤判別することなく評価できることから、3ショット以上の複数ショット分の平均値を用いることが好ましい。
なお、実行トルク値T
E1,T
E2,T
E3 … T
ENは、複数ショットの成形運転時における実行トルク値だけに限らず、例えば型厚調整時あるいは型厚調整直後のような成形していない状態での単なる型締め昇圧動作を複数回おこなって測定した実行トルク値T
E1,T
E2,T
E3 … T
ENを用いても支障ない。
【0038】
ところで、一般に、トグル式型締機構には、金型サイズ(金型厚さではなく金型取り付け面の縦横寸法)が異なる場合、同じ型締力設定値でも発生する型締力が異なるという特徴がある。例えば、図示しない可動金型を取り付ける可動型盤10はリンクアーム31を介してリンク28、29A、29Bから型締め力が負荷されるが、金型端面位置がリンクアーム31よりも型盤中央側にあると、型締め時にリンクアーム31から外側(可動型盤10の外周近傍部)の領域は、金型が存在しないので型締力に対する金型の反力を直接受けない。このためリンクアーム31から外側の金型のバックアップがない可動型盤10領域は、固定型盤11側に撓むことになる。
【0039】
しかし、トグル式型締めはトグルが伸びてタイバー25を所定の伸び量だけ伸ばすことで所定の型締め力を発生させる機構である。そのために、可動型盤10が撓んでリンク29A、29Bが伸びても、本来は型締め力を増大させるためのリンク29A、29Bを伸ばすのに用いられるべき力が、可動型盤10の撓み変形で消費されてしまう。したがって、実際に金型に負荷される型締め力が、成形作業者が設定した所望の型締め力に到達していない低い型締め力の状態となる場合がある。また可動型盤10の撓みによりリンク29A、29Bの伸長分が十分タイバー25に伝達されずに、タイバー25を伸ばすことが出来ず、その分タイバーの伸びの反力である型締め力が設定値まで到達しない低い型締め力しか得られない場合がある。
【0040】
以上の場合は、成形運転時のサーボモータ51の駆動トルクが所望の設定型締め力に対応するトルクに達していないため、金型に熱膨張が発生しサーボモータ51の駆動トルクが上昇しても、その駆動トルクは型締め装置の仕様最大型締め力まで上昇させるのに必要な値以下でおさまる場合がある。この場合、型締め装置を破損させる熱応力は発生しないが、金型本体には成形開始当初の熱膨張する前に負荷されていた型締め力よりも過大な型締め力が負荷されているので、金型破損の原因となりうる。
このような状態において、後述する判別トルク値T
Jを仕様最大型締め力を基準に決める方法では、金型を保護する目的としての、金型の熱膨張によるサーボモータ51の駆動トルクの異常を検知することが出来ない。
【0041】
また、前述の通り、可動型盤10は、リンクアーム31から外側に位置するために、金型のバックアップがない外周領域が存在する場合があり、この場合、この外周領域は、型締め時に、固定型盤11の側に撓んで局部的な大変形が発生してしまう。したがって、この撓みを考慮して設計されていない場合には、金型の熱膨張による型締め力の増大分の多くを可動型盤10の外周領域の撓みとして負担してしまい、実際に発生している型締め力値が型締め力の仕様最大値以下であっても、塑性変形や亀裂破損などが発生してしまう虞がある。このような状態においても、後述する判別トルク値T
Jを仕様最大型締め力を基準に決める方法では、可動型盤10の外周領域に発生した異常な局部大変形状態を検知することが出来ない。
【0042】
これらに対し、金型が熱膨張していない金型毎の初期状態の複数ショットにおいて、あるいは複数回の保持工程において測定された複数の実行トルク値を用いて判別トルク値T
Jを求めて、監視トルク値T
Bと比較すれば、金型本体に負荷される型締め力の変化を容易に検出できるので、金型や可動型盤10の破損を防止することができる。
そうすると、金型のサイズによらず、かつ可動盤の剛性など極めて高度な知見を必要とせずに、金型に負荷される型締め力の変化を検知することができる。
また、これにより型締め力の成形開始当初に対する変動を検知することができるので、成形開始当初には発生していなかった成形不良である、型締め力が変化したことに起因して発生するバリなどの成形不良、成形状態バラツキを防止しながら金型の破損防止が可能な管理値の選定が成形作業者でも容易となる。
【0043】
[変更例(1)]
本発明において、以上説明した実施形態では、保持工程中のトルク制限値T
LHは、最大限に金型が熱膨張したときにクロスヘッド23を正常位置まで移動させて設定型締め力F
Sを得るのに必要なトルク値を超える値を採用することを説明したが、本発明はこれに限定されない。
つまり、本発明は、型締め装置のリンク28、29A、29Bの寸法およびリンク28、29A、29Bの支持点レイアウトから決まる、最大の型締め力を発生させるために必要な保持トルク値T
Hに対して、例えば+0〜10%の範囲のトルク値をトルク制限値T
LHとしてもよい。本手法は、型締め装置の寸法などの設計値を基準値とするので、型締め装置の設計許容強度を超えることによる様々な不具合の発生を防止できる。なお、+0〜10%は、正常なバラツキの範囲を表しているものであり、型締め装置の仕様に応じて、変更することができる。
【0044】
[変更例(2)]
本発明において、以上説明した実施形態では、金型の熱膨張によるサーボモータ51の異常な駆動トルクを、監視トルク値T
Bが所定の判別トルク値T
J以上になったことにより検出することを説明したが、本発明はこれに限定されない。
つまり、本発明は、保持工程におけるトルク制限値T
LHを基準として、下記の式(2)に示すように監視管理値Aに達した場合に、金型の熱膨張によるサーボモータ51の異常な駆動トルクが発生したと判別するようにしても良い。
例えば監視トルク値T
Bが
図3に示すケースa(監視トルク値:T
Ba)の場合には、下記の通りとなり、過大な型締め力が生じていないものと判断される。
|T
Ea−T
LH| ≧A … 式(2)
(∵ A=|T
J−T
LH|)
また、例えば監視トルク値T
Bが
図3に示すケースb(監視トルク値:T
Bb)の場合には、下記の通りとなり、過大な型締め力が生じていることを検知できる。
|T
Eb−T
LH|<A … 式(2)‘
なお、監視管理値Aは、トルク制限値T
LHと判別トルク値T
Jの差ではなく、トルク制限値T
LHと所定の比率(例えば%)との積によって求めても良い。
【0045】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。