【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、インペラが破断してもインペラ破片が過給機の外部に飛散しないように、インペラを過給機の内部に格納した状態を維持する性能(インペラの格納性)が過給機に対して求められている。
この点に関し、特許文献1には、上述のようにインペラの一部が飛散した際に、過給機の内部で潤滑油ヘッドタンクを破損させないための構成は記載されているものの、インペラ破片が過給機の外部に飛散しないように、インペラを過給機の内部に格納した状態を維持するための構成については開示されていない。
【0005】
本発明の幾つかの実施形態の目的は、インペラの破断時にインペラ破片が過給機の外部へ飛散することを効果的に抑制し、インペラを過給機の内部に格納した状態をより確実に維持できる過給機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の幾つかの実施形態に係る過給機は、
(1)空気を圧縮するためのインペラと、
前記インペラを収容し前記空気を案内するための空気案内筒と、
前記空気案内筒の周りに巻かれた少なくとも1本のワイヤロープと、
を有する。
【0007】
過給機においてインペラが破断した場合に、インペラ破片がインペラの半径方向外側に向かって飛散して、空気案内筒を突き破ってしまう可能性がある。
この点に関し、上記(1)に記載の過給機においては、インペラ破片が飛散して空気案内筒を突き破ったとしても、インペラ破片は空気案内筒の周りに巻かれた少なくとも1本のワイヤロープに衝突する。ワイヤロープは、複数のワイヤを縒って形成されているため、インペラ破片の衝突時にワイヤロープ自体の変形によってインペラ破片の運動エネルギーを効果的に吸収して、インペラ破片を受け止めることができる。したがって、インペラの破断時にインペラ破片が過給機の外部へ飛散することを効果的に抑制し、インペラを過給機の内部に格納した状態をより確実に維持することができる(インペラの格納性を向上することができる)。
また、上記(1)に記載の過給機の構成は、既存の過給機に対してインペラを収容する空気案内筒の周りに少なくとも1本のワイヤロープを巻くことで実現しうる。すなわち、あらたに全ての構成を調達せずとも、既存の過給機に対して付加的に少なくとも1本のワイヤロープを設ければ製造できるという生産容易性の観点でのメリットもある。
【0008】
幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の過給機において、
(2)前記空気案内筒を通過した空気を外部へ案内するためのスクロール室を形成するスクロール室フレームを更に備え、
前記少なくとも1本のワイヤロープの少なくとも一部は、前記空気案内筒と前記スクロール室フレームとの間に設けられる。
【0009】
従来の過給機において空気案内筒とスクロール室フレームとの間にはデッドスペースが存在しており、このデッドスペースは十分に活用されていなかった。これに対し、上記(2)に記載の過給機によれば、少なくとも1本のワイヤロープの少なくとも一部をこのデッドスペースに設けることにより、過給機の空気案内筒を肉厚化することなく、インペラ破片が過給機の外部に飛散することを効果的に抑制することができる。
【0010】
幾つかの実施形態では、上記(2)に記載の過給機において、
(3)前記少なくとも1本のワイヤロープの前記少なくとも一部は、前記インペラの軸方向において前記インペラの翼の存在範囲内に位置する。
【0011】
上記(3)に記載の過給機によれば、インペラが破断した際にインペラ破片が飛散する可能性が高い位置にワイヤロープが位置するため、ワイヤロープによってインペラ破片を効果的に受け止めることができる。
【0012】
幾つかの実施形態では、上記(3)に記載の過給機において、
(4)前記インペラの軸方向における前記インペラの翼の存在範囲のうちの少なくとも一部の範囲において、
前記少なくとも1本のワイヤロープが前記インペラの半径方向に積み重なる高さは、前記空気案内筒内を前記空気が流れる方向において上流側に向かうにつれて高くなる。
【0013】
インペラの翼高さは、空気案内筒内を空気が流れる方向において上流側に向かうにつれて高くなる。そこで、インペラの翼高さに応じた空気案内筒の損傷予測に基づいて、インペラの半径方向にワイヤロープが積み重なる高さ(空気案内筒の表面からインペラの半径方向におけるワイヤロープの外端までの距離、或いはインペラの半径方向へのワイヤロープの巻き数)を調節することで、インペラ破片が過給機外部に飛散することを効率的に抑制することができる。
【0014】
幾つかの実施形態では、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の過給機において、
(5)前記少なくとも1本のワイヤロープの一端部と他端部とをかしめる少なくとも1つのかしめ部材を更に有する。
【0015】
上記(5)に記載の過給機によれば、簡易な構成でワイヤロープを空気案内筒の周りに設置することができる。したがって、インペラが破断した場合であっても、インペラを過給機の内部に格納した状態を、簡易な構成でより確実に維持することができる。
【0016】
幾つかの実施形態では、上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の過給機において、
(6)前記ワイヤロープは複数本設けられている。
【0017】
空気案内筒の周りに巻かれた1本のワイヤロープが切断された場合、当該ワイヤロープの張力が減少し、当該ワイヤロープによって吸収可能なインペラ破片の運動エネルギーが減少してしまう。
これに対し、上記(6)に記載の過給機によれば、インペラ破片の衝突によって1本のワイヤロープが切断されたとしても、切断されたワイヤロープとは別のワイヤロープの張力は維持される。すなわち、1本のワイヤロープが切断されたとしても、他のワイヤロープによってインペラ破片の運動エネルギーを効果的に吸収することができる。したがって、インペラの破断時にインペラ破片が過給機の外部へ飛散することを効果的に抑制し、インペラを過給機の内部に格納した状態をより確実に維持することができる。