特許第6012591号(P6012591)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6012591β−NGFに対するアプタマー及びβ−NGF介在疾患及び障害の治療におけるその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012591
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】β−NGFに対するアプタマー及びβ−NGF介在疾患及び障害の治療におけるその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/115 20100101AFI20161013BHJP
【FI】
   C12N15/00 HZNA
【請求項の数】4
【全頁数】52
(21)【出願番号】特願2013-505029(P2013-505029)
(86)(22)【出願日】2011年4月12日
(65)【公表番号】特表2013-523177(P2013-523177A)
(43)【公表日】2013年6月17日
(86)【国際出願番号】US2011032017
(87)【国際公開番号】WO2011130195
(87)【国際公開日】20111020
【審査請求日】2014年3月20日
(31)【優先権主張番号】61/323,145
(32)【優先日】2010年4月12日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505373306
【氏名又は名称】ソマロジック,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SomaLogic, Inc.
(73)【特許権者】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー,ダニエル,ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】久湊 顕彦
(72)【発明者】
【氏名】ウォー,シーラ
(72)【発明者】
【氏名】レズニコウ,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】長袋 昭
(72)【発明者】
【氏名】小野 恵秀
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/035725(WO,A1)
【文献】 特開2007−169177(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0054360(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0120891(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0004667(US,A1)
【文献】 特開2006−117542(JP,A)
【文献】 特表2010−502657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列:BAZGRGGRSZZGGGGZZZADCCGZZRZG(配列番号3)からなるβ−NGFと結合するアプタマー;
配列中、BはC、G又はZから選択され、RはA又はGから独立して選択され、SはC又はGから選択され、DはA、G又はZから選択され、Zは下記式U’又はC’で示されるC−5改変ピリミジンから独立して選択される。
【化1】
〔式中、nは0〜3の数を示し、R’は以下の基:
【化2】
(式中、R''''は、分岐鎖又は直鎖低級(C1〜C20)アルキル、ハロゲン原子(F、Cl、Br又はI)、ニトリル(CN)、ボロン酸(BO22)、カルボン酸(COOH)、カルボン酸エステル(COOR'')、一級アミド(CONH2)、二級アミド(CONHR'')、三級アミド(CONR''R''')、スルホンアミド(SO2NH2)、N−アルキルスルホンアミド(SONHR'')からなる群から選択される基を示す。
ここで、R''、R'''は、分岐鎖又は直鎖低級(C1〜C2)アルキル、フェニル(C65)、R''''置換フェニル環(R''''C64)(ここで、R''''は上述の通り)、カルボン酸(COOH)、カルボン酸エステル(COOR''''')(ここで、R'''''は分岐鎖又は直鎖低級(C1〜C20)アルキル及びシクロアルキル(この場合、R''=R'''=(CH2n)(n=2〜10)からなる群から独立して選択されるものを示し、*は(CH基にR’基が付加する位置を示す。)を示す。〕
【請求項2】
C−5改変ピリミジンは、5−(N−ベンジルカルボキシアミド)−2’−デオキシウリジン(BndU)、5−(N−イソブチルカルボキシアミド)−2’−デオキシウリジン(iBudU)、5−(N−トリプトアミノカルボキシアミド)−2’−デオキシウリジン(TrpdU)及び5−(N−ナフチルメチルカルボキシアミド)−2’−デオキシウリジン(NapdU)から成る群から選択される、請求項1に記載のアプタマー。
【請求項3】
C−5改変ピリミジンは5−(N−ベンジルカルボキシアミド)−2’−デオキシウリジン(BndU)である、請求項2に記載のアプタマー。
【請求項4】
配列番号1、2、9〜43から成る群から選択される配列からなる、β−NGFと結合するアプタマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般には核酸の分野に関し、より詳細には、神経成長因子(より具体的には、神経成長因子のβサブユニット(「β−NGF」))に結合可能であり、掻痒症、掻痒状態、及び/又はβ−NGFが関係している他の疾患や病態を予防、治療又は改善するための治療剤として有用なアプタマーに関する。本開示は更に、β−NGFに結合可能なアプタマーを投与するための物質及び方法に関する。
【0002】
<関連出願>
本願は、2010年4月12日出願の米国仮特許出願第61/323,145号の利益を主張するものであり、該出願の全内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0003】
2011年4月1日作成の配列表「Sequence_listing_ST25.txt」(サイズ:126キロバイト)の全内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【背景技術】
【0004】
以下の説明は本開示に関連する情報の概要を提供するものであり、本明細書に提供された情報や引用された刊行物のいずれもが本開示の先行技術であることを認めるものではない。
【0005】
激しい掻痒感は、毎日何百万もの人々の生活の質に悪影響を及ぼす。激しい掻痒感は、疥癬や湿疹、乾燥症、乾癬、じん麻疹等の掻痒性皮膚状態や、慢性肝疾患や腎疾患、リンパ腫等の全身状態を含む種々の健康状態に関係することがある。同様に、疼痛もよくあることであり、医者を訪れる主な一理由である。疼痛は、種々の傷害や病態に関係することがあり、急性疼痛を治療できない場合には、慢性的な疼痛の問題を招くと共に、免疫疾患や代謝疾患を招くことがある。掻痒症及び/又は疼痛に苦しんでいる個人の生活の質を低下させるのに加え、医療費予算、特に掻痒性皮膚状態や慢性疼痛障害に関連する予算にも大きな影響を及ぼす。掻痒症及び/又は疼痛の管理や治療に対して現在行われている試みは不十分であることが広く認識されている。
【0006】
神経生理学的研究によって、掻痒経路が疼痛経路と比べて独特であることが確認されている。痒覚は、痛覚を処理する侵害受容器とは異なる専用のCニューロン(C線維)によって認識され、伝達される(非特許文献1)。次に、当該専用のCニューロンは、掻痒刺激を視床に突出した特殊な脊髄後角ニューロンクラスに伝達する(非特許文献2)。末梢神経末端には特殊な掻痒受容体はないと考えられており、掻痒Cニューロンの特異性はその掻痒経路への脊髄結合に基づく。掻痒感と疼痛では脳活性化パターンに違いが見られ、例えば、頭頂葉の視床皮質や体性感覚皮質の検出可能な活性化は痒覚には見られない(非特許文献3)。
【0007】
疼痛は通常、急性又は慢性に分類される。急性疼痛は一般に組織損傷に対する応答であり、短期間であることを特徴とし、最初の損傷の治癒によって消散する。慢性疼痛は持続的であり、外傷性事象とは明らかに関連しない場合がある。疼痛はその機構的な起点に基づいて更に分類することができ、侵害受容性疼痛と非侵害受容性疼痛が挙げられる。侵害受容性疼痛は、特定の刺激(傷害や炎症、化学品等)によって活性化される特定の受容体(侵害受容性受容体)が介在する。侵害受容性疼痛は更に体細胞性又は内臓性に分類することができる。体細胞性疼痛は皮膚や筋肉、関節、骨、靱帯等の組織で生じる。体細胞疼痛は一般に鋭く、局在する。現在行われている治療としては、オピオイドや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)の使用が挙げられる。内臓性疼痛は内部臓器で生じる。この場合、疼痛はあまり局在しないことが多く、通常はオピオイドで治療する。
【0008】
非侵害受容性疼痛は更に神経障害性又は交感神経性に分類することができる。神経障害性疼痛は末梢神経系又は中枢神経系で生じる場合がある。神経障害性疼痛は変性病態、炎症又は感染症に関係することがある。この種の疼痛は過敏症(痛覚過敏)をもたらし、激痛(shooting)や灼熱痛(burning)と称されることが多い。治療オプションとしては、N−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)拮抗剤や抗不整脈剤、抗痙攣剤、抗鬱剤が挙げられる。神経障害性疼痛は従来の鎮痛剤に抵抗性であることが多い。交感神経性疼痛は交感神経系で生じると共に、末梢神経系や中枢神経系でも生じ、通常はある種の傷害に関連する。傷害部位では過敏性の高まりや体温異常が見られることがある。治療には通常、交感神経遮断剤や血管拡張剤、抗痙攣剤、抗不整脈剤、抗鬱剤を含む多剤レジメンを用いる。
【0009】
オピオイド鎮痛剤を用いた通常の長期間に亘る疼痛の治療は、潜在的な中毒や副作用、耐性、オピオイドへの依存性が懸念されるため推奨されない。オピオイドの副作用としては、悪心や嘔吐、便秘、呼吸抑制等を挙げることができる。現在では多くの治療が行われているが、有効性に欠け、重篤な副作用が生じ、薬物送達方法が疼痛管理に十分に役立つことはない。これらの問題は、より良い疼痛管理用治療剤の必要性を後押しする。
【0010】
掻痒感と疼痛は明らかに異なる感覚であるが、掻痒感と疼痛との間には重要な相互作用がある。引っ掻きによる痛覚によって掻痒感を抑えることができることはよく知られている。しかし、オピオイド等の鎮痛剤は痛覚を抑えるように作用することによって、実際には痒覚を高める場合がある。このように、幾つかの疼痛治療剤は掻痒症状を悪化させることがあり、このことは、掻痒症と疼痛の両方を治療する可能性を有するより良い治療剤の必要性を更に後押しする。
【0011】
神経成長因子(NGF)は、神経栄養性サイトカイン又はニューロトロフィンのファミリーの1種である。ニューロトロフィンは、細胞生存、分化及びアポトーシスを制御することによって末梢神経系及び中枢神経系の両方の発達や維持において重要な役割を果たす。これらの神経系機能に加えて、NGFは、ヒスタミンの放出、マスト細胞の産生及びBリンパ球の成長や分化を高めることも分かっている。また、NGFは、ある脂質メディエーターの好塩基球産生を調節することも分かっている。好中球のアポトーシスがNGFによって抑制されることもある。これらの因子の全ては、免疫系及び神経系におけるNGFの役割を示唆している。
【0012】
NGFβ鎖(β−NGF)はNGFの神経成長刺激活性に単独で関与する。細胞においてはβ−NGFは二量体として存在し、神経細胞及び非神経細胞における2種の細胞表面受容体と結合する。該タンパク質の三次構造は3個のシスチンジスルフィドと2個の逆平行β鎖に基づく。ヒト、マウス及びラットタンパク質のアミノ酸相同性は約90%である。全てのニューロトロフィンと同様に、β−NGFはnM親和性でp75細胞受容体と結合する。また、β−NGFはpM親和性でチロシンキナーゼ受容体(Trk)の1種(特にTrkA)とも結合する。p75受容体との反応によって細胞死が誘導される場合がある一方、TrkAとの結合によって細胞生存が促進される。β−NGFがTrkAと結合することによって、該受容体及び内部細胞性タンパク質のリン酸化がもたらされる。β−NGFは受容体介在エンドサイトーシスによって内部に取り入れられる。Trk受容体は種々の非神経性組織に存在する。
【0013】
皮膚でケラチノサイトから放出される神経成長因子(NGF)は、皮膚神経密度を上昇させ、特に神経線維の発芽を促進して形態に影響を及ぼす主要メディエーターの1種である(非特許文献1)。慢性掻痒症の患者は皮内神経線維密度が高いことが分かっている。また、NGFは、特にNGFの受容体であるチロシンキナーゼTrkAを誘発して末梢ニューロンの感度を高めることが分かっている(非特許文献2)。
【0014】
掻痒症及び疼痛を仲介するNGFの重要性は、掻痒症及び疼痛の両方の兆候を示し得るアトピー性病態において測定されるNGF濃度が高いことによって示される。アトピー性皮膚炎の患者は血清NGFレベルが非常に高いが、これは病態の重症度と正の相関を示す。接触性皮膚炎の患者は局所NGF濃度が高く、結節性痒疹の患者もNGFレベル及びTrkA活性化レベルが高い(非特許文献1)。
【0015】
アトピー性皮膚炎のマウスモデルにおいて腹腔内注射で全身投与された抗NGF抗体の症状に対する作用について研究し、その結果から、「抗NGF抗体は、NGFの神経系末梢への作用をブロックし、上皮神経支配、皮膚炎及び引っ掻き行動を抑制する」ことが示唆されている(非特許文献4)。しかし、その研究から、抗NGF抗体によって血清NGFレベルは変化せず、試験した皮膚領域のNGF濃度は低下せず、引っ掻き行動は完全には抑制されなかったことが分かった。従って、アトピー性皮膚炎に伴う掻痒感をより完全に抑制又は除去する必要性は依然として残っている。
【0016】
多くのエビデンスによって、NGFがある疼痛状態のメディエーターとして機能することが分かっている。抗NGF抗体によって、持続性の熱的及び化学的鎮痛作用が得られると共に、カラギーナン誘導による炎症から生じる痛覚過敏をブロックすることができることが分かっている(非特許文献5)。NGFの生物活性を遮断するための小分子NGF受容体拮抗剤に関する研究によって、神経障害性及び炎症性の疼痛状態に対する鎮痛作用が示された(非特許文献6)。Owolabiらの研究においては、小分子NGF活性阻害剤の鎮痛作用は、投与経路に応じ、モルヒネに比べて低い場合がある。モルヒネ等のオピオイドは多くの望ましくない副作用を有するため、効果的な投与を柔軟に行うことができ、NGF介在の種々の疼痛状態において鎮痛をもたらす必要性が依然として残っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Schmelz、Neurosci.Biobehav. Rev.doi:10.1016/j.neubiorev.2008.12.004,2009
【非特許文献2】Stander and Schmelz,Eur.J.Pain 10:473,2006
【非特許文献3】Yosipovitch et al.,Lancet 361:690,2003
【非特許文献4】Takano et al., J.Pharmacol.Sci.99:277:284,2005
【非特許文献5】McMahon et al., Nat.Med.1:774,1995
【非特許文献6】Owolabi et al., J.Pharmacol.Exp.Ther.289:1271,1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段】
【0018】
本開示は、神経成長因子のβサブユニットと結合する種々のアプタマー(本明細書においては個々に「β−NGFアプタマー」と称する)を提供すると共に、そのようなβ−NGFアプタマーを用いてβ−NGF介在疾患及び障害を治療するための方法(例えば、疼痛や掻痒症、掻痒状態の治療)を提供する。β−NGFアプタマー又はその薬学的に許容し得る塩と少なくとも1種の薬学的に許容し得る担体とを含む医薬組成物又は医薬製剤も包含される。
【0019】
本開示に係る組成物は、任意の適切な薬学的に許容し得る投与形態に調製することができる。本明細書に記載の処方及び用量は、疼痛や掻痒症、掻痒状態等の種々の病態の治療において臨床有効性を最大限にすると同時に、副作用を抑制又は最小限にするよう設計される。
【0020】
本開示は、β−NGF介在の疾患又は病態を予防、治療又は改善するための方法であって、脊椎動物(具体的には哺乳動物、より具体的にはヒト)にβ−NGFアプタマー又はβ−NGFアプタマーの医薬組成物を投与することを含む方法を更に提供する。具体的には、本開示は、疼痛、掻痒症及び掻痒状態を予防、治療又は改善するための方法を提供する。幾つかの態様においては、β−NGF介在の疾患又は病態は、ある段階でβ−NGF活性が直接的又は間接的に掻痒症を引き起こし得る疾患又は病態である。幾つかの実施形態においては、治療、予防又は改善対象の疾患又は病態は皮膚炎又は湿疹である。他の実施形態においては、治療、予防又は改善対象の疾患又は病態はアトピー性皮膚炎である。
【0021】
一実施形態においては、治療効果(例えば、疼痛、掻痒症及び掻痒状態の治療、予防又は改善)は、治療対象患者へのβ−NGFアプタマーの送達方法に関わらず、該アプタマーがβ−NGFに曝露され、結合できるように該アプタマーを投与することによって得ることができる。関連する一実施形態においては、治療効果は、β−NGFアプタマーがβ−NGFに曝露され、結合してβ−NGFの種々の細胞受容体の一以上へのβ−NGFの結合が防止又は抑制されるように該アプタマーを投与することによって得ることができる。一実施形態においては、細胞受容体はp75である。他の実施形態においては、細胞受容体はTrk受容体である。更に他の実施形態においては、細胞受容体はTrkAである。更に他の実施形態においては、β−NGFアプタマーによって、β−NGF受容体及び他の内部細胞性タンパク質のリン酸化が防止されるか、又はそのレベルが低下する。
【0022】
提供される方法は、β−NGFアプタマーを一以上の二次的活性剤と共に投与することを包含する。この投与は逐次的に行ってもよく、配合組成物で行ってもよい。
【0023】
本開示は、他の態様において、β−NGFを含む疑いのあるサンプルにβ−NGFアプタマーを接触させることを含むインビトロ診断方法を提供する。本開示は、他の態様において、適切に標識したβ−NGFアプタマーを用意することと、β−NGF介在疾患又は障害を有する疑いのある個体に該アプタマーを注入することと、該個体の健康状態を診断又は評価する目的で標識アプタマーを検出することとを含むインビボ診断方法を提供する。用いる標識は使用する画像診断法に応じて選択する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、ランダムライブラリー(○)と比較したアプタマー2426−66(■)(配列番号1)の結合曲線を示したもの。
図2A図2Aは、アプタマー2426−66(配列番号1)について454配列決定を用いて同定したアプタマーコンセンサス配列を示したもの。
図2B図2Bは、アプタマー2426−66(配列番号1)について454配列決定を用いて同定したアプタマーコンセンサス配列を示したもの。
図3図3は、β−NGFアプタマーに対する二量体化戦略#1を示したもの。
図4図4は、β−NGFアプタマーに対する二量体化戦略#2を示したもの。
図5図5は、実施例4に記載の神経突起成長アッセイにて試験した、種々のアプタマーがヒトβ−NGF誘導PC12細胞分化を阻害する能力をグラフに示したもの。
図6図6は、実施例4に記載のように測定した、アプタマー2426−66(■)(配列番号1)とその切断型変異体2426−66−50(○)(配列番号2)によるβ−NGF介在神経突起成長の阻害をアプタマー濃度の関数としてグラフに示したもの。
図7図7は、アプタマー2426−66(配列番号1)と切断型変異体2426−66−50(配列番号2)及び2426−66−53(配列番号43)によるヒトβ−NGF、マウスβ−NGF及びラットβ−NGF介在神経突起成長の阻害をグラフに示したもの。3種のアプタマーは全て、ヒトβ−NGFの場合とほぼ同等にマウスβ−NGFを効果的に阻害したが、ラットβ−NGFを阻害する程度は低かった。
図8図8は、アプタマー2426−66(配列番号1)と切断型変異体2426−66−50(配列番号2)及び2426−66−3(配列番号5)を用いたTrkAリン酸化アッセイの結果をグラフに示したもの。
図9図9は、マウス及びラットβ−NGFを用いた切断型アプタマー2426−66−50(配列番号2)に関するTrkAリン酸化アッセイをグラフに示したもの。
図10A図10Aは、本明細書に記載のアプタマーの調製に用いたC−5ピリミジン改変を示したもの。
図10B図10A中のR’基を示す。式中、R''''は、分岐鎖又は直鎖低級アルキル(C1〜C20)、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、ニトリル(CN)、ボロン酸(BO22)、カルボン酸(COOH)、カルボン酸エステル(COOR'')、一級アミド(CONH2)、二級アミド(CONHR'')、三級アミド(CONR''R''')、スルホンアミド(SO2NH2)、N−アルキルスルホンアミド(SONHR'')からなる群から選択される基(ここで、R''、R'''は、分岐鎖又は直鎖低級アルキル(C1〜C2)、フェニル(C65)、R''''置換フェニル環(R''''C64)(ここで、R''''は上述の通り)、カルボン酸(COOH)、カルボン酸エステル(COOR''''')(ここで、R'''''は分岐鎖又は直鎖低級アルキル(C1〜C20))及びシクロアルキル(この場合、R''=R'''=(CH2n)(n=2〜10)からなる群から独立して選択されるもの)。
図11図11は、実施例5に記載のように、アプタマー2426−66−50(配列番号2)で処理した疾患マウス(●)では4週間に亘って引っ掻き頻度が低下したが、未処理マウス(■)又は親水性軟膏(HO)で処理したマウス(▲)では低下しなかったことをグラフに示したもの。t検定によって、アプタマー処理と未処理との間(*)又はアプタマー処理とHO処理との間(#)には統計的有意差(p<0.05)が確認された。
図12図12は、実施例5に記載のように、アプタマー2426−66−50(配列番号2)で処理した疾患マウス(●)では4週間に亘って臨床的皮膚状態スコアが低下したが、未処理マウス(■)又はHOで処理したマウス(▲)では低下しなかったことをグラフに示したもの。t検定によって、アプタマー処理と未処理との間(*)又はアプタマー処理とHO処理との間(#)には統計的有意差(p<0.05)が確認された。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の代表的な実施形態について詳細に説明する。列挙した実施形態と共に本発明の説明を行うが、本発明がこれらの実施形態に限定されないことは理解されよう。逆に、本発明は、請求項によって規定される本発明の範囲内に含まれ得る全ての代替物、変形物及び等価物を網羅することとする。
【0026】
当業者であれば、本明細書に記載のものと類似又は等価な多くの方法や物質を本発明の実施に用いることができ、また、それらが本発明の範囲内にあることは理解するであろう。本発明は記載された方法や物質に決して限定されない。
【0027】
特に明記しない限り、本明細書で用いる技術科学用語は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同じ意味を有する。本明細書に記載された内容と類似又は等価な方法、装置及び物質のいずれもが本発明を実施又は試験するために用いられるが、好ましい方法、装置及び物質を以下に記載する。
【0028】
本開示に引用した全ての刊行物、公開特許文献及び特許出願は、本発明が属する技術分野における技術レベルを示す。本明細書に引用した全ての刊行物、公開特許文献及び特許出願は本明細書の一部を構成するものとしてここに援用するが、この際、各々の刊行物、公開特許文献又は特許出願は具体的且つ個別に援用されるものとして示した。
【0029】
本開示(添付した請求の範囲を含む)においては、特に文脈にて明確に定められない限り、単数形「a」、「an」及び「the」は、複数形の言及も包含し、「少なくとも一」や「一又はそれ以上」と交換可能に用いる。従って、「an aptamer」はアプタマーの混合物等を包含する。
【0030】
本明細書で用いる「約」とは、数値が関する項目の基本機能が変わらないような数値の僅かな変化又は変動を示す。
【0031】
本明細書において複数の項目について言及する際に用いる「各」とは、該項目の少なくとも2個を意味するものとする。複数を構成する項目の全てが関連する更なる限定を満たす必要はない。
【0032】
本明細書において「含む」に関して用いる次の各表現「comprises」、「comprising」、「includes」、「including」、「contains」、「containing」及びそれらのいずれの変形も非排他的な包含を網羅することとし、一要素又は要素のリストを含むプロセス、方法、プロダクト・バイ・プロセス又は組成物は、これらの要素のみを含むのではなく、明確に列挙されていない他の要素又はこのようなプロセス、方法、プロダクト・バイ・プロセス又は組成物に固有の他の要素を含んでいてもよい。
【0033】
本明細書で用いる「ヌクレオチド」とは、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド又はその改変体を意味すると共に、その類似体をも意味する。ヌクレオチドとしては、プリン類(例えば、アデニンやヒポキサンチン、グアニン及びその誘導体や類似体)及びピリミジン類(例えば、シトシンやウラシル、チミン及びその誘導体や類似体)を含む種が挙げられる。
【0034】
本明細書で交換可能に用いる「核酸」、「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドのポリマーを意味し、その例としては、DNA、RNA、DNA/RNAハイブリッド、及びこの種の核酸、オリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチドの改変体が挙げられるが、ヌクレオチドユニットへの任意位置での種々の構成要素や部分の付着も包含される。「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」及び「核酸」には二本鎖分子や一本鎖分子が含まれると共に、三重らせん分子も含まれる。「核酸」、「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」は「アプタマー」よりも広義の用語であるため、「核酸」、「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」には、アプタマーであるヌクレオチドポリマーが含まれるが、「核酸」、「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」はアプタマーに限定されない。
【0035】
本明細書において、オリゴヌクレオチドに関して用いる「改変する(modify)」、「改変された(modified)」、「改変(modification)」及びその如何なる変形も、オリゴヌクレオチドの4種の構成ヌクレオチド塩基(即ち、A、G、T/U及びC)の少なくとも1種が天然ヌクレオチドの類似体又はエステルであることを意味する。幾つかの実施形態においては、改変ヌクレオチドはオリゴヌクレオチドに対するヌクレアーゼ耐性を与える。C−5位に置換を有するピリミジンは改変ヌクレオチドの一例である。改変としては、骨格改変やメチル化、イソ塩基であるイソシチジンやイソグアニジン等の通常とは異なる塩基対形成の組み合わせ等を挙げることができる。また、改変としては、キャッピング等の3’改変や5’改変を挙げることもできる。他の改変としては、天然ヌクレオチドの一以上と類似体との置換や、ヌクレオチド間改変、例えば、非電荷連結(例えば、ホスホン酸メチルやホスホトリエステル、ホスホアミデート、カルバメート等)による改変や電荷連結(例えば、ホスホロチオエートやホスホロジチオエート等)による改変、介入物(例えば、アクリジンやソラレン等)による改変、キレート剤(例えば、金属や放射性金属、ホウ素、酸化性金属等)を含む改変、アルキル化剤を含む改変、改変連結(例えば、αアノマー核酸等)による改変を挙げることができる。更に、ヌクレオチドの糖に通常存在する水酸基のいずれも、ホスホン酸基又はリン酸基によって置換してもよく、標準保護基によって保護してもよく、又は活性化して更なるヌクレオチド又は固体支持体に更に連結するように調製してもよい。5’末端及び3’末端OH基はリン酸化してもよく、アミン、炭素原子数が約1〜約20の有機キャップ基部分、約10〜約80kDaのポリエチレングリコール(PEG)ポリマー(一実施形態)、約20〜約60kDaのPEGポリマー(他の実施形態)又は他の親水性や疎水性の生物学的又は合成ポリマーで置換してもよい。一実施形態においては、改変はピリミジンのC−5位の改変である。これらの改変は、C−5位における直接的なアミド連結又は他の連結によって行うことができる。
【0036】
また、ポリヌクレオチドには、当該技術分野で通常知られているリボース又はデオキシリボース糖の類似体(例えば、2’−O−メチル−、2’−O−アリル、2’−フルオロ−又は2’−アジド−リボース)や炭素環糖類似体、α−アノマー糖、アラビノースやキシロース、リキソース等のエピマー糖、ピラノース糖、フラノース糖、セドヘプツロース、非環式類似体、メチルリボシド等の脱塩基ヌクレオシド類似体を含むこともできる。上述のように、一以上のホスホジエステル連結を他の連結基で置換することができる。このような他の連結基としては、P(O)S(「チオエート」)、P(S)S(「ジチオエート」)、(O)NR2(「アミデート」)、P(O)R、P(O)OR’、CO又はCH2(「ホルムアセタール」)(R又はR’はそれぞれ単独でH、又はエーテル(−O−)連結、アリール、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル又はアラルキルを含んでいてもよい置換又は非置換アルキル(1〜20C)である)によってリン酸が置換される実施形態が挙げられる。ポリヌクレオチド内の全ての連結が同一である必要はない。糖類、プリン類及びピリミジン類の類似体の置換は、例えば、ポリアミド骨格等の他の骨格構造の場合と同様に、最終製品を設計する上で有利とすることができる。
【0037】
本明細書で用いる「C−5改変ピリミジン」とは、C−5位で改変されたピリミジンを意味し、その例として図10に記載のものが挙げられるが、これらに限定されない。C−5改変ピリミジンの例としては、米国特許第5,719,273号及び第5,945,527号に記載のものが挙げられると共に、2009年11月25日出願の米国仮特許出願第61/264,545号(発明の名称「ヌクレアーゼ耐性オリゴヌクレオチド」)に記載のものが挙げられる。C−5改変の例としては、下に示すベンジルカルボキシアミド(或いはベンジルアミノカルボニル)(Bn)、ナフチルメチルカルボキシアミド(或いはナフチルメチルアミノカルボニル)(Nap)、トリプトアミノカルボキシアミド(或いはトリプトアミノカルボニル)(Trp)及びイソブチルカルボキシアミド(或いはイソブチルアミノカルボニル)(iBu)から独立して選択される置換基によるC−5位でのデオキシウリジンの置換が挙げられる。
【0038】
【化1】
【0039】
また、C−5改変ピリミジンの化学的改変は、単独であっても任意の組み合わせにおいても、2’−位糖改変、環外アミンにおける改変、及び4−チオウリジンの置換等と組み合わせることもできる。
【0040】
代表的なC−5改変ピリミジンとしては、5−(N−ベンジルカルボキシアミド)−2’−デオキシウリジン(BndU)や5−(N−ベンジルカルボキシアミド)−2’−O−メチルウリジン、5−(N−ベンジルカルボキシアミド)−2’−フルオロウリジン、5−(N−イソブチルカルボキシアミド)−2’−デオキシウリジン(iBudU)、5−(N−イソブチルカルボキシアミド)−2’−O−メチルウリジン、5−(N−イソブチルカルボキシアミド)−2’−フルオロウリジン、5−(N−トリプトアミノカルボキシアミド)−2’−デオキシウリジン(TrpdU)、5−(N−トリプトアミノカルボキシアミド)−2’−O−メチルウリジン、5−(N−トリプトアミノカルボキシアミド)−2’−フルオロウリジン、5−(N−[1−(3−トリメチルアンモニウム)プロピル]カルボキシアミド)−2’−デオキシウリジンクロリド、5−(N−ナフチルメチルカルボキシアミド)−2’−デオキシウリジン(NapdU)、5−(N−ナフチルメチルカルボキシアミド)−2’−O−メチルウリジン、5−(N−ナフチルメチルカルボキシアミド)−2’−フルオロウリジン、5−(N−[1−(2,3−ジヒドロキシプロピル)]カルボキシアミド)−2’−デオキシウリジン)が挙げられる。
【0041】
ヌクレオチド構造に対する改変があるとすれば、ポリマーの構築前又は構築後に行うことができる。一連のヌクレオチドを非ヌクレオチド成分によって中断することができる。例えば、標識成分との接合によって、ポリヌクレオチドを重合後に更に改変することができる。
【0042】
本明細書において核酸の改変を説明する際に用いる「少なくとも1種のピリミジン」とは、核酸内の1種、数種又は全てのピリミジンを意味するが、これは、核酸内のC、T又はUのいずれか又は全てが改変される場合もあり、改変されない場合もあることを示す。
【0043】
本明細書においては、「核酸リガンド」、「アプタマー」及び「クローン」は交換可能に用い、標的分子に対して所望の作用を有する非天然の核酸を意味する。所望の作用としては、標的に結合させることや標的を触媒的に変化させること、標的又は標的の機能活性を改変又は変化させるように標的と反応させること、標的に共有結合させること(自殺阻害剤と同様)、標的と他の分子との反応を促進することが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態においては、該作用は標的分子に対する特定の結合親和性であり、このような標的分子は、ワトソン/クリック塩基対形成や三重らせん形成とは無関係のメカニズムによって核酸リガンドに結合するポリヌクレオチド以外の三次元化学構造であり、この場合、アプタマーは、標的分子によって結合される公知の生理学的機能を有する核酸ではない。所定の標的に対するアプタマーとしては、核酸の候補混合物から同定される核酸(即ち、アプタマーは標的のリガンドである)が挙げられるが、この同定は、(a)候補混合物を標的に接触させる(即ち、候補混合物中で標的に対する親和性が他の核酸に比べて高い核酸を候補混合物の残りから分離することができる)ことと、(b)親和性の高い核酸を候補混合物の残りから分離することと、(c)親和性の高い核酸を増幅してリガンドリッチの核酸混合物を得て、標的分子のアプタマーを同定することとを含む方法によって行う。親和性相互作用が程度の問題であることは認識されているが、本文脈においては、アプタマーのその標的に対する「特異的な結合親和性」とは、アプタマーが通常は、混合物やサンプル中の他の非標的成分に結合するのに比べて遥かに高い親和性で標的に結合することを意味する。「アプタマー」又は「核酸リガンド」は、特定のヌクレオチド配列を有する1種の核酸分子のコピーの1セットである。アプタマーは任意の適切な数のヌクレオチドを含むことができる。「複数のアプタマー」は一を超える該分子のセットを意味する。異なるアプタマーが有するヌクレオチドの数は同一でもよく、異なっていてもよい。アプタマーは、DNAやRNAであってもよく、一本鎖や二本鎖であってもよく、二本鎖領域又は三本鎖領域を含んでいてもよい。
【0044】
本明細書において、「タンパク質」は「ペプチド」、「ポリペプチド」又は「ペプチド断片」と同義的に用いる。「精製された」ポリペプチド、タンパク質、ペプチド又はペプチド断片は、細胞物質や細胞、組織又はアミノ酸配列を得る無細胞源に由来する他の混入タンパク質を実質的に含まず、また、化学的前駆体や化学合成の際の他の化学品を実質的に含まない。
【0045】
本明細書で用いる「調節する」とは、ペプチドやポリペプチドのレベルを上昇又は低下させて変えること、又は、ペプチドやポリペプチドの安定性や活性を上昇又は低下させて変えることを意味する。「阻害する」とは、ペプチドやポリペプチドのレベルを低下させること、又は、ペプチドやポリペプチドの安定性や活性を低下させることを意味する。本明細書に記載のように、調節又は阻害対象のタンパク質はβ−NGFである。
【0046】
本明細書で用いる「生物活性」とは、生理学的又は病態生理学的プロセスに影響を及ぼし得る一以上の細胞又は細胞外プロセスに対する作用(例えば、結合やシグナリング等による)を示す。
【0047】
本明細書で用いる「神経成長因子」、「NGF」及び「β−NGF」とは、神経成長因子及びNGF活性の少なくとも一部を保持するその変異体のβサブユニットを意味する。本明細書において、NGFは全ての哺乳動物種(ヒトやイヌ、ネコ、マウス、霊長類、ウマ、ウシを含む)の天然配列NGFを包含する。
【0048】
本明細書で用いる「NGF受容体」とは、NGFによって結合又は活性化されるポリペプチドを意味する。NGF受容体としては、任意の哺乳動物種(例えば、ヒトやイヌ、ネコ、マウス、ウマ、霊長類、ウシが挙げられるが、これらに限定されない)のTrkA受容体やp75受容体が挙げられる。
【0049】
「β−NGFアプタマー」は、β−NGFに結合してその活性を改変することが可能なアプタマーである。本明細書で用いる「β−NGFアプタマー」とは、β−NGFに結合し、及び/又はβ−NGF生物活性及び/又はNGFシグナリングによって仲介される下流経路を阻害することが可能なアプタマーを意味する。
【0050】
本明細書で用いる「β−NGF介在による疾患又は病態」とは、β−NGF活性によって疾患プロセスのある段階で直接的又は間接的に疼痛や掻痒症が引き起こされることがある疾患や病態を意味し、その例としては、表7に記載の疾患や病態のいずれかが挙げられる。従って、β−NGFアプタマーを用いた治療によって、このような疾患や病態におけるβ−NGF活性に起因する疼痛や掻痒症が阻害される。β−NGFに対するアプタマーは更に、β−NGFのその受容体の一以上への結合をブロックすることができる。
【0051】
本明細書で用いる「疼痛」とは、急性疼痛、慢性疼痛、侵害受容性疼痛、内臓疼痛、体細胞性疼痛、非侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、交感神経性疼痛、又はβ−NGF介在炎症プロセスに関する疼痛を意味する。
【0052】
「掻痒症」とは、掻痒性疼痛の軽度の感覚から強い感覚まで至る掻痒感を意味する。掻痒感は主な皮膚疾患に付随することもあり、全身性疾患の症状であることもある(唯一の症状の場合もある)。掻痒感が最も激しくなり得る皮膚疾患としては、特に、疥癬やシラミ症、昆虫刺咬症、乾燥症、じん麻疹、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、扁平苔癬、汗疹、疱疹状皮膚炎が挙げられる。掻痒症の全身的原因としては、慢性肝疾患や慢性腎疾患、リンパ腫が挙げられる。
【0053】
「皮膚障害」及び「皮膚疾患」とは、皮膚に影響を及ぼしたり、皮膚に関与する如何なる疾患や病態をも意味し、例えば、アトピー性皮膚炎や魚鱗癬、乾皮症、脂漏性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、脱毛症、天疱瘡、疱疹状皮膚炎、乾癬、カンジダ症、挫瘡、皮膚糸状菌症、おむつ皮膚炎、乳痂、湿疹、鉤虫症、また、例えば、創傷や火傷、便失禁、尿失禁に由来する皮膚損傷等の皮膚状態が挙げられる。
【0054】
本明細書で用いる「薬学的に許容し得る」とは、動物(より具体的にはヒト)における使用に関して、連邦政府や州政府の規制当局によって認可されているか、又は米国薬局方や他の一般に認められた薬局方に記載されていることを意味する。「担体」とは、治療剤の投与に用いる希釈剤、アジュバント、賦形剤又は媒体を意味し、例えば、水や油等の滅菌液体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
β−NGFアプタマーの「薬学的に許容し得る塩」又は「塩」は、イオン結合を含み、通常は個体への投与に適した酸又は塩基と開示化合物とを反応させて製造する、開示化合物の生成物である。薬学的に許容し得る塩としては、塩酸塩や臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、アルキルスルホン酸塩、アリールスルホン酸塩、アリールアルキルスルホン酸塩、酢酸塩、安息香酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、乳酸塩、酒石酸塩等の酸付加塩、LiやNa、K等のアルカリ金属カチオン、MgやCa等のアルカリ土類金属塩、有機アミン塩を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0056】
「医薬組成物」は、個体への投与に適した形態でβ−NGFアプタマーを含む処方である。医薬組成物は通常、その所期の投与経路に対応するように処方される。投与経路の例としては、経口投与や非経口投与、例えば、静脈内投与や皮内投与、皮下投与、吸入投与、局所投与、経皮投与、経粘膜投与、直腸投与が挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
本明細書で用いる「治療有効量」は通常、本明細書に記載の予防、抑制又は治療対象の障害や病態の少なくとも一症状を改善するのに必要な量を意味する。本開示に係るβ−NGFアプタマーに関して「治療有効量」を用いる場合には、このような治療を必要とする相当数の個体に該アプタマーを投与した際に特定の薬理学的応答をもたらすアプタマー用量を意味する。特定の例において特定の個体に投与するアプタマーの治療有効量は、当業者がその用量を治療有効量であると考えた場合であっても、本明細書に記載の病態/疾患を治療する上で必ずしも有効ではないことを強調しておく。
【0058】
SELEX法
本明細書においては、「SELEX」と「SELEXプロセス」は交換可能に用い、通常は、(1)標的分子と望ましく相互作用する(例えば、タンパク質と高親和性で結合する)核酸の選択と(2)選択した核酸の増幅との組み合わせを意味する。SELEXプロセスを用いて、特定の標的分子やバイオマーカーに対して高親和性を有するアプタマーを同定することができる。
【0059】
SELEXは通常、核酸の候補混合物を調製することと、候補混合物を所望の標的分子に結合させて親和性複合体を形成することと、親和性複合体を未結合の候補核酸から分離することと、核酸を親和性複合体から分離して単離することと、核酸を精製することと、特定のアプタマー配列を同定することとを含む。該プロセスには複数のラウンドを設けて選択したアプタマーの親和性を更に高めることができる。該プロセスにはその一以上の時点に増幅段階を設けることができる。例えば、米国特許第5,475,096号(発明の名称「核酸リガンド」)を参照のこと。SELEXプロセスを用いて、標的と共有結合するアプタマー及び標的と非共有結合するアプタマーを作出することができる。例えば、米国特許第5,705,337号(発明の名称「指数関数的富化による核酸リガンドの系統的進化:Chemi−SELEX」)を参照のこと。
【0060】
SELEXプロセスを用いて、アプタマーの特性の改善(例えば、インビボ安定性や送達特性の改善)をもたらす改変ヌクレオチドを含む高親和性アプタマーを同定することができる。このような改変の例としては、リボース及び/又はリン酸及び/又は塩基位置における化学的置換が挙げられる。改変ヌクレオチドを含むSELEXプロセス同定アプタマーは米国特許第5,660,985号(発明の名称「改変ヌクレオチドを含む高親和性核酸リガンド」)に記載されており、該特許には、ピリミジンの5’位及び2’位で化学的に改変されたヌクレオチド誘導体を含むオリゴヌクレオチドが記載されている。米国特許第5,580,737号(上述参照)には、2’−アミノ(2’−NH2)、2’−フルオロ(2’−F)及び/又は2’−O−メチル(2’−OMe)で改変された一以上のヌクレオチドを含む高特異性のアプタマーが記載されている。また、米国特許公開第20090098549号(発明の名称「SELEX及び光SELEX」)も参照のこと(該特許公開には、物理的及び化学的特性が高められた核酸ライブラリーとそのSELEX及び光SELEXにおける使用が記載されている)。
【0061】
2009年11月25日出願の米国仮特許出願第61/264,545号(発明の名称「ヌクレアーゼ耐性オリゴヌクレオチド」)には、ヌクレアーゼ耐性が改善されたオリゴヌクレオチドを製造するための方法が記載されている。ヌクレアーゼ耐性オリゴヌクレオチドには、図10に記載の基から選択される基によってC−5位で改変された少なくとも1種のピリミジンが含まれる。種々の実施形態においては、改変としては、上述のベンジルカルボキシアミド(Bn)、ナフチルメチルカルボキシアミド(Nap)、トリプトアミノカルボキシアミド(Trp)及びイソブチルカルボキシアミドから独立して選択される置換基によるC−5位でのデオキシウリジンの置換が挙げられる。
【0062】
また、SELEXを用いて、所望のオフ速度特性を有するアプタマーを同定することもできる。米国特許公開第20090004667号(発明の名称「オフ速度が改善されたアプタマーを作出するための方法」)を参照のこと(該特許公開には、標的分子に結合することが可能なアプタマーを作出するための改良SELEX法が記載されている)。それぞれの標的分子からの解離速度が低いアプタマー及びフォトアプタマーを製造するための方法が記載されている。該方法は、候補混合物を標的分子に接触させることと、核酸−標的複合体を形成させることと、低オフ速度富化プロセスを行うこととを含み、高解離速度の核酸−標的複合体は解離して再編成しないが、低解離速度の複合体はそのまま残る。更に、該方法では、候補核酸混合物の作出に改変ヌクレオチドを用いて、オフ速度性能が改善されたアプタマーを作出する(米国特許公開第20090098549号(発明の名称「SELEX及び光SELEX」)を参照)。
【0063】
本明細書において「標的」又は「標的分子」は、核酸が所望に作用し得る如何なる化合物をも意味する。標的分子としては、タンパク質やペプチド、核酸、炭水化物、脂質、多糖、糖タンパク質、ホルモン、受容体、抗原、抗体、ウイルス、病原体、有害物質、基質、代謝物、遷移状態類似体、補因子、阻害剤、薬物、色素、栄養素、成長因子、細胞、組織、上述のものの任意の一部や断片等を挙げることができるが、これらに限定されない。事実上、如何なる化学的又は生物学的エフェクターをも適切な標的とすることができる。如何なるサイズの分子も標的とすることができる。また、標的を所定の方法で改変して、標的と核酸との相互作用の可能性や強度を高めることもできる。また、標的には特定の化合物や分子の僅かな変化が含まれることもあり、例えば、タンパク質の場合には、アミノ酸配列やジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、また、標識成分との接合等の他の操作や改変における僅かな変化が挙げられるが、これらは実質的には分子の同一性を変えない。「標的分子」又は「標的」は、アプタマーに結合可能な分子又は多分子構造の1種のコピーの1セットである。「複数の標的分子」又は「複数の標的」とは、一を超える該分子のセットを意味する。標的がペプチドであるSELEXプロセスの実施形態は米国特許第6,376,190号(発明の名称「精製タンパク質を用いない改変SELEXプロセス」)に記載されている。本例においては、標的はβ−NGFである。
【0064】
アプタマー
本開示に係るアプタマーは、実施例1に記載のオフ速度が低いアプタマーを同定するための改良SELEX法を用いて同定したが、そこには、β−NGFに対するDNAアプタマーを選択し製造するための代表的な方法が記載されている。選択プロセスで用いたβ−NGFの形態は組換えヒトタンパク質であり、分子量が13.2kDの該タンパク質の単量体として単離した。溶液中で該単量体は二量体を形成する。この方法を用いて、β−NGFに対するDNAアプタマー(「アプタマー2426−66」と称する(配列番号1))を同定した。
【0065】
アプタマー2426−66(配列番号1)を用いて研究を行い、実施例2に記載のように、β−NGFに対して強い親和性を維持するのに必要な最小配列長を確認した。配列長を最小限にすることによって、化学プロセスにおけるアプタマー合成の再現性を高めることができ、経皮吸着や医薬製剤への配合を行い易くすることができる。切断の研究によって、β−NGFに対する強いバインダーでもある多数の切断型配列を有するアプタマー(Kd値が最大で約30nM)が同定された。これらの配列には、配列番号1、2、9〜44及び149(表3及び4)が含まれる。特に、β−NGFに対するアプタマー2426−66−50(配列番号2、表4)、即ち、Kdが1.4nMの28merが同定された。
【0066】
2426−66(配列番号1)を選択した配列プールに対して更なる配列決定研究を行った。454配列決定を配列決定方法として用いた。これは、並行パイロシークエンス法を用いる大規模の高スループット方法である。この方法によって、偏りのないサンプル調製や非常に正確な配列解析が行える。この方法においては、ビオチン化DNA断片をストレプトアビジンビーズに捕捉した後、PCRで増幅する。非ビオチン化鎖をビーズから遊離し、一本鎖鋳型DNAライブラリーとして用いる。このライブラリーはPCRで増幅する。各ビーズにはDNA断片の増幅されたクローンコピーが含まれる。その後、このビーズライブラリーは酵素的配列決定プロセスで用いる。配列決定データを用いて、β−NGFアプタマーに対するコンセンサス配列を同定した。更に、実施例3に記載のヌクレオチド置換研究によって、該コンセンサス配列の9個のBndU位置の内、7個がβ−NGF結合に望ましく、2個のBndU位置が結合活性を失うことなくdTで置換できることが見出された。該コンセンサス配列を図2Aに示すと共に、2426−66(配列番号1)アプタマーに対する各位置におけるヌクレオチド頻度を図で表す。図2Aに示すように、コンセンサス配列は、BAZGRGGRSZWGGGGZZWADCCGZZRZG(配列番号45)である(配列中、BはA以外の任意のヌクレオチドから選択され、RはA又はGから独立して選択され、SはC又はGから選択され、WはZ又はTから独立して選択され、DはC以外の任意のヌクレオチドから選択され、Zは改変ヌクレオチド(具体的には改変ピリミジン)から独立して選択される)。
【0067】
一態様においては、BはC、G又はZから選択され、DはA、G又はZから選択され、R、S、W及びZは上述の通りである。
【0068】
他の態様においては、コンセンサス配列はBAZGRGGRSZZGGGGZZZADCCGZZRZG(配列番号3)である(配列中、B、R、S、D及びZは上述の通りである)。
【0069】
幾つかの実施形態においては、Zは改変ウリジンである。他の実施形態においては、Zは上述のC−5改変ピリミジンである。更に他の実施形態においては、Zは、5−(N−ベンジルカルボキシアミド)−2’−デオキシウリジン(BndU)、5−(N−ベンジルカルボキシアミド)−2’−O−メチルウリジン、5−(N−ベンジルカルボキシアミド)−2’−フルオロウリジン、5−(N−イソブチルカルボキシアミド)−2’−デオキシウリジン(iBudU)、5−(N−イソブチルカルボキシアミド)−2’−O−メチルウリジン、5−(N−イソブチルカルボキシアミド)−2’−フルオロウリジン、5−(N−トリプトアミノカルボキシアミド)−2’−デオキシウリジン(TrpdU)、5−(N−トリプトアミノカルボキシアミド)−2’−O−メチルウリジン、5−(N−トリプトアミノカルボキシアミド)−2’−フルオロウリジン、5−(N−[1−(3−トリメチルアンモニウム)プロピル]カルボキシアミド)−2’−デオキシウリジンクロリド、5−(N−ナフチルメチルカルボキシアミド)−2’−デオキシウリジン(NapdU)、5−(N−ナフチルメチルカルボキシアミド)−2’−O−メチルウリジン、5−(N−ナフチルメチルカルボキシアミド)−2’−フルオロウリジン及び5−(N−[1−(2,3−ジヒドロキシプロピル)]カルボキシアミド)−2’−デオキシウリジン)から成る群から独立して選択されるC−5改変ピリミジンである。他の実施形態においては、Zは5−(N−ベンジルカルボキシアミド)−2’−デオキシウリジン(BndU)である。これらのヌクレオチド改変のいずれも、β−NGFに対する高親和性結合を促進し、低オフ速度を得る上で同等に有効であることが見込まれる。
【0070】
本明細書において一連の関連核酸に関して用いる「コンセンサス配列」とは、一連の関連核酸を集約的な数理解析及び/又は配列解析に付した際に該配列の各位置における最も一般的な塩基の選択を反映するヌクレオチド配列を意味する。
【0071】
本開示は、SELEX法によって同定され、表3及び4に記載のβ−NGFアプタマー(配列番号1、2、9〜44及び149)を提供する。記載されたアプタマーのいずれかと実質的に相同であって、β−NGFに結合する能力が表3及び4に記載のアプタマーの群(配列番号1、2、9〜44及び149)から選択されるアプタマーと実質的に同等であるβ−NGFに対するアプタマーも本開示に包含される。更に、本開示で同定されたアプタマーと実質的に同じ構造を有し、β−NGFに結合する能力が表3及び4に記載のアプタマーの群(配列番号1、2、9〜44及び149)から選択されるアプタマーと実質的に同等であるβ−NGFに対するアプタマーも本開示に包含される。
【0072】
本開示は、その一態様において、β−NGFに特異的に結合し、一次核酸配列を含むアプタマーを提供する。一実施形態においては、一次核酸配列は配列番号1、2、9〜44及び149から選択される。他の実施形態においては、一次核酸配列は、配列番号1、2、9〜44及び149から選択される一次核酸配列に対して少なくとも約75%同一、少なくとも約80%同一、少なくとも約85%同一、少なくとも約90%同一、又は少なくとも約95%同一であるように選択される。
【0073】
二以上の核酸配列の文脈における「配列同一性」、「パーセント配列同一性」、「パーセント同一性」、「%同一」、「%同一性」及びそれらの変形は交換可能に用い、配列比較アルゴリズムや目視検査によって最大の一致を比較した際に、特定の割合で同一ヌクレオチドを有するか又は同一である二以上の配列又はサブ配列を意味する。配列を比較する際には、通常、1個の配列を試験配列の比較に用いる参照配列とする。配列比較アルゴリズムを用いる場合、試験配列と参照配列をコンピュータに入力し、必要に応じてサブ配列座標を指定し、配列アルゴリズムプログラムパラメータを指定する。その際、配列比較アルゴリズムは指定プログラムパラメータに基づき、参照配列に対して試験配列のパーセント配列同一性を算出する。比較のための最適な配列アラインメントは、例えば、スミス(Smith)及びウォーターマン(Waterman)、Adv.Appl.Math.2:482,1981の局所相同性アルゴリズム、ニードルマン(Needleman)及びウンシュ(Wunsch)、J.Mol.Biol.48:443,1970の相同性アラインメントアルゴリズム、パーソン(Pearson)及びリップマン(Lipman)、Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 85:2444,1988の類似性探索法、これらのアルゴリズムのコンピュータ実装(ウィスコンシン・ジェネティクス・ソフトウェア・パッケージ、ジェネティクス・コンピュータ・グループ(ウィスコンシン州マディソン、575 サイエンス Dr.)のGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA)、又は目視検査(一般にはアウスベル(Ausubel),F.M.ら、分子生物学における現在のプロトコル、グリーン・パブリッシングAssoc.及びウィリー−インターサイエンス(1987)出版を参照)によって実施することができる。
【0074】
パーセント配列同一性を確認するのに適したアルゴリズムの一例は、基本的局所アラインメント探索ツール(以下「BLAST」と称する)に用いるアルゴリズムである(例えば、アルトシュル(Altschul)ら、J.Mol.Biol.215:403−410,1990及びアルトシュル(Altschul)ら、Nucleic Acids Res.,15:3389−3402,1997を参照)。BLAST解析を行うためのソフトウェアは、国立生物工学情報センター(以下「NCBI」と称する)から公的に入手可能である。NCBIから入手可能なソフトウェア(例えば、(ヌクレオチド配列用)BLASTN)によって配列同一性を確認するのに用いるデフォルトパラメータは、マクギニス(McGinnis)ら、Nucleic Acids Res.,32:W20−W25,2004に記載されている。
【0075】
本明細書において、核酸(例えば、β−NGFアプタマー)(その配列は参照ヌクレオチド配列に対して少なくとも、例えば、約95%同一である)のパーセント同一性について説明する場合には、該核酸の配列は、参照核酸配列の100個のヌクレオチドについて最大5箇所の変異が核酸配列に含まれ得ること以外、参照配列と同一であることとする。換言すると、所望の核酸配列(その配列は参照核酸配列と少なくとも約95%同一である)を得るためには、参照配列のヌクレオチドの最大5%を欠失又は他のヌクレオチドで置換することができるか、又は、参照配列のヌクレオチド総数の最大5%に相当する数のヌクレオチドを参照配列に挿入することができる(本明細書では「挿入」と称する)。所望の配列を得るためのこのような参照配列の変異は、参照ヌクレオチド配列の5’又は3’末端位置で行なってもよく、又は、これらの末端位置間のどこでも、参照配列のヌクレオチド中で個々に分散させるか、参照配列内の一以上の近接グループで分散させてもよい。参照(クエリー)配列は、配列番号1、2、9〜44及び149に示す全ヌクレオチド配列のいずれか1配列でもよく、これらの配列のいずれかの断片であってもよい。
【0076】
一態様においては、配列番号45又は配列番号3のコンセンサス配列の各々を改変して少なくとも1個の挿入を含めることができる。一実施形態においては、配列番号45又は配列番号3のコンセンサス配列を改変して、1個のヌクレオチド(N)がコンセンサス配列の塩基9と塩基10との間に挿入されるようにする。他の実施形態においては、配列番号45又は配列番号3のコンセンサス配列を改変して、1個のヌクレオチド(N)がコンセンサス配列の塩基15と塩基16との間に挿入されるようにする。他の実施形態においては、配列番号45又は配列番号3のコンセンサス配列を改変して、1個のヌクレオチド(N)がコンセンサス配列の塩基9と塩基10との間に挿入され、更なるヌクレオチド(N)がコンセンサス配列の塩基15と塩基16との間に挿入されるようにする。これらの実施形態は次の通りである。
BAZGRGGRSN(0-1)ZWGGGGN(0-1)ZZWADCCGZZRZG(配列番号154)
BAZGRGGRSN(0-1)ZZGGGGN(0-1)ZZZADCCGZZRZG(配列番号155)
(配列中、B、R、S、D及びZは上述の通りであり、Nは天然ヌクレオチド又は改変ヌクレオチド(A、C、G又はT)から独立して選択される。)
【0077】
本開示は、その他の態様において、β−NGFとの結合の際にβ−NGFの機能を調節するβ−NGFアプタマーを提供する。種々の実施形態においては、該アプタマーはインビボでβ−NGFの機能を調節する。種々の実施形態においては、β−NGFアプタマーは、配列番号1、2、9〜44及び149のいずれかに含まれる一連の近接ヌクレオチドと同一である一連の近接ヌクレオチドを含む。種々の実施形態においては、β−NGFアプタマー内の一連の近接ヌクレオチドに含まれるヌクレオチドと同一である同数のヌクレオチドが配列番号1、2、9〜44及び149のいずれかに含まれる一連の近接ヌクレオチド内に存在する。種々の実施形態においては、β−NGFアプタマー内の一連の近接ヌクレオチドは、配列番号1、2、9〜44及び149のいずれかに含まれる一連の約4〜約30個の近接ヌクレオチドと同一である一連の約4〜約30個の近接ヌクレオチドを含む。一例示的実施形態においては、β−NGFアプタマーは、配列番号1、2、9〜44及び149のいずれかに含まれる一連の30個の近接ヌクレオチドと同一である一連の30個の近接ヌクレオチドを含む。他の例示的実施形態においては、β−NGFアプタマーは、配列番号1、2、9〜44及び149のいずれかに含まれる一連の20個の近接ヌクレオチドと同一である一連の20個の近接ヌクレオチドを含む。更に他の実施形態においては、β−NGFアプタマーは、配列番号1、2、9〜44及び149のいずれかに含まれる一連の8個の近接ヌクレオチドと同一である一連の8個の近接ヌクレオチドを含む。更に他の実施形態においては、β−NGFアプタマーは、配列番号1、2、9〜44及び149のいずれかに含まれる一連の4個の近接ヌクレオチドと同一である一連の4個の近接ヌクレオチドを含む。
【0078】
一実施形態においては、β−NGFアプタマーは配列番号1である。他の実施形態においては、β−NGFアプタマーは配列番号2である。更に他の実施形態においては、β−NGFアプタマーは配列番号3のコンセンサス配列に由来する。他の実施形態においては、β−NGFアプタマーは配列番号9〜44及び149のいずれかである。一実施形態においては、β−NGFアプタマーは、配列番号1、2、9〜44及び149のいずれかと少なくとも約95%同一、少なくとも約90%同一、少なくとも約85%同一、少なくとも約80%同一、又は少なくとも約75%同一である。他の実施形態においては、β−NGFアプタマーは、配列番号1、2、9〜44及び149のいずれかに由来する配列とこれらのいずれかの断片とを含む。
【0079】
β−NGFアプタマーは、β−NGF結合領域に加えて、任意数のヌクレオチドを含むことができる。種々の実施形態においては、β−NGFアプタマーは、最大約100個のヌクレオチド、最大約95個のヌクレオチド、最大約90個のヌクレオチド、最大約85個のヌクレオチド、最大約80個のヌクレオチド、最大約75個のヌクレオチド、最大約70個のヌクレオチド、最大約65個のヌクレオチド、最大約60個のヌクレオチド、最大約55個のヌクレオチド、最大約50個のヌクレオチド、最大約45個のヌクレオチド、最大約40個のヌクレオチド、最大約35個のヌクレオチド、最大約30個のヌクレオチド、最大約25個のヌクレオチド、又は最大約20個のヌクレオチドを含むことができる。
【0080】
更なる他の実施形態においては、β−NGFアプタマーは、配列番号1、2、9〜44及び149から成る群から選択されるアプタマーと同様の結合特性を有すると共に、β−NGF関連の疼痛や掻痒症及び掻痒状態を治療する能力を有するアプタマーから選択される。
【0081】
β−NGFアプタマーは、β−NGFに対して任意の適切な解離定数(Kd)を有するように選択することができる。一例示的実施形態においては、β−NGFアプタマーはβ−NGFに対する解離定数(Kd)が約10nM以下である。他の例示的実施形態においては、β−NGFアプタマーはβ−NGFに対する解離定数(Kd)が約15nM以下である。更に他の例示的実施形態においては、β−NGFアプタマーはβ−NGFに対する解離定数(Kd)が約20nM以下である。更に他の例示的実施形態においては、β−NGFアプタマーはβ−NGFに対する解離定数(Kd)が約25nM以下である。適切な解離定数は、多点滴定を用いた結合アッセイを行い、実施例1で後述する式:y=(最大−最小)(タンパク質)/(Kd+タンパク質)+最小に当てはめて決定する。解離定数の決定は測定を行う条件に大きく依存するため、これらの数字は平衡時間等の因子に対して大きく変わり得ることは理解されたい。他の実施形態においては、β−NGFアプタマーは、配列番号1、2、9〜44及び149から選択されるアプタマーのKd以下のKdを有するアプタマーである。
【0082】
アプタマー2426−66(配列番号1)はβ−NGF単量体と1:1の化学量論比で結合する。β−NGFは標的受容体との反応に必要な堅固なホモ二量体を形成するため、2426−66アプタマーの二量体や他の多量体を用いてβ−NGF活性をより効率よく阻害することができる。従って、他の実施形態においては、β−NGFアプタマーは上述の配列の任意の組み合わせの多量体である。図3及び4は、2426−66アプタマーの二量体化への可能なアプローチを示す。β−NGFに対する適切な結合特性を有する如何なるアプタマー配列にも同じ戦略を適用することができる。また、同様のアプローチを用いて、望み通りに多くのアプタマー配列のコピーを有する多量体アプタマーを作出することもできる。この場合、切断型アプタマーの2426−66−50(配列番号2)配列を用いるが、全長2426−66配列を用いることもできる。図3は、新しいアプタマー配列の2セクション間にリンカーとして一以上のヘキサエチレングリコール(HEG)又は脱塩基糖リン酸を有する、2個の2426−66配列の頭尾構築物を示す。図4は、リンカーとしてヘキサエチレングリコール(HEG)又は脱塩基糖リン酸を含んでいてもよい分岐ホスホルアミダイトを用いた2426−66配列の二量体化を示す。
【0083】
β−NGFアプタマーを含む医薬組成物
本開示は、少なくとも1種のβ−NGFに対するアプタマーと、少なくとも1種の薬学的に許容し得る担体とを含む医薬組成物を包含する。適切な担体は、リッピンコット、ウィリアムス&ウィルキンス出版の「レミントン:薬学の科学及び実施、第21版」に記載されているが、この内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。少なくとも1種のβ−NGFに対するアプタマーと、少なくとも1種の薬学的に許容し得る担体とを含む医薬組成物は、β−NGF阻害剤ではない一以上の活性剤を更に含むことができる。
【0084】
本明細書に記載のアプタマーは任意の薬学的に許容し得る投与形態に用いることができ、その例としては、注射可能な投与形態や液体分散剤、ゲル、エアロゾル、軟膏、クリーム、凍結乾燥製剤、乾燥散剤、錠剤、カプセル、徐放性製剤、即溶解製剤、遅延放出製剤、持続放出製剤、パルス放出製剤、即放性製剤と徐放性製剤の混合物等が挙げられるが、これらに限定されない。具体的には、本明細書に記載のアプタマーの処方は、(a)経口投与、肺投与、静脈内投与、動脈内投与、髄腔内投与、関節内投与、直腸投与、眼投与、結腸投与、非経口投与、嚢内投与、膣内投与、腹腔内投与、局所投与、口腔内投与、経鼻投与及び外用投与のいずれかから選択される投与に対して、(b)液体分散剤、ゲル、エアロゾル、軟膏、クリーム、錠剤、サシェ剤及びカプセルのいずれかから選択される投与形態に、(c)凍結乾燥製剤、乾燥散剤、即溶解製剤、徐放性製剤、遅延放出製剤、持続放出製剤、パルス放出製剤及び即放性製剤と徐放性製剤の混合物のいずれかから選択される投与形態に、又は(d)これらの組み合わせのいずれかで行うことができる。
【0085】
非経口投与、皮内投与又は皮下投与に用いる溶液剤や懸濁剤は、次の成分、(1)注射用水や生理食塩水溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、他の合成溶媒等の滅菌希釈剤、(2)ベンジルアルコールやメチルパラベン等の抗菌剤、(3)アスコルビン酸や重亜硫酸ナトリウム等の抗酸化剤、(4)エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤、(5)酢酸塩やクエン酸塩、リン酸塩等のバッファー、及び(5)塩化ナトリウムやデキストロース等の浸透圧調整剤の一以上を含むことができる。pHの調整は、塩酸や水酸化ナトリウム等の酸や塩基で行うことができる。非経口製剤は、アンプルや使い捨てシリンジ、ガラス又はプラスチック製の複数回投与バイアルに封入することができる。
【0086】
注射での使用に適した医薬組成物は、滅菌注射用溶液剤や分散剤を即時調製するための滅菌水溶液(即ち、水溶性)や分散剤、滅菌散剤を含むことができる。静脈内投与の場合、適切な担体としては、生理食塩水や制菌水、クレモフォアEL(BASF、ニュージャージー州パーシッパニー)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)が挙げられる。全ての場合において、組成物は滅菌されており、容易に注射ができるように液体である必要がある。医薬組成物は、製造及び貯蔵条件下で安定である必要があり、バクテリアや菌類等の微生物の汚染作用に対して保護される必要がある。本明細書で用いる「安定である」とは、患者への投与に適した状態を維持していることを意味する。
【0087】
担体は溶媒又は分散媒とすることができるが、例えば、水やエタノール、ポリオール(例えば、グリセロールやプロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール等)、それらの適切な混合物が挙げられる。適切な流動性は、例えば、レシチン等のコーティングを用い、分散剤の場合には必要な粒径を維持し、また、界面活性剤を用いることによって維持することができる。微生物の作用は、種々の抗菌剤や抗真菌剤(例えば、パラベンやクロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等)によって防止することができる。多くの場合、組成物に等張剤、例えば、糖、マンニトールやソルビトール等の多価アルコール、塩化ナトリウム等の無機塩を配合することが好ましい。注射用組成物に吸収を遅らせる剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウムやゼラチン)を配合することによって該組成物の吸収を持続させることができる。
【0088】
滅菌注射用溶液剤は、適切な溶媒に必要量の活性試薬(例えば、β−NGFアプタマー)を、必要に応じて上に列挙した成分の1種又はその組み合わせと共に配合した後、濾過滅菌を行なって調製する。通常、分散剤の調製は、塩基性分散媒及び他の必要な成分を含む滅菌媒体に少なくとも1種のβ−NGFアプタマーを配合して行う。滅菌注射用溶液剤を調製するための滅菌散剤の場合、調製方法の例としては真空乾燥や凍結乾燥が挙げられるが、いずれによっても、先に滅菌濾過した溶液からβ−NGFアプタマーと更なる所望の成分の散剤が得られる。
【0089】
経口組成物は通常、不活性な希釈剤又は食用担体を含む。経口組成物は、例えば、ゼラチンカプセルに封入したり、錠剤に圧縮することができる。治療用の経口投与を目的とする場合、β−NGFアプタマーに賦形剤を配合し、錠剤、トローチ又はカプセルの形態で用いることができる。また、経口組成物は液体担体によって調製してマウスウォッシュとして用いることもできるが、その際、液体担体中の化合物は口に含まれ、口の中で回された後、吐き出されるか又は飲み込まれる。薬学的に適合し得る結合剤及び/又はアジュバント物質を組成物の一部として配合することができる。
【0090】
吸入による投与の場合、化合物は、適切な噴霧剤(例えば、二酸化炭素等のガスや噴霧液、適切な装置からの乾燥粉末)を含む加圧容器又はディスペンサーからエアロゾルスプレーの形態で送達される。経粘膜投与や経皮投与の場合、浸透対象のバリアに適した浸透剤を製剤に用いる。このような浸透剤は当該技術分野では通常知られているが、例えば、経粘膜投与の場合には、洗浄剤や胆汁酸塩、フシジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、経鼻スプレーや坐剤を用いて行うことができる。経皮投与の場合、活性試薬を当該技術分野で通常知られている軟膏、サルヴェ、ゲル又はクリームに処方する。また、試薬を坐剤(例えば、カカオバターや他のグリセリド等の従来の坐剤基剤を用いる)又は直腸送達用停留浣腸の形態に調製することもできる。
【0091】
一実施形態においては、β−NGFアプタマーを外用投与用に処方する。本明細書で用いる「外用投与」とは、β−NGFアプタマーを含む製剤を動物の皮膚(表皮)の全体又は一部に直接又は他の方法で接触させて動物にβ−NGFアプタマーを送達することを意味する。この用語は幾つかの投与経路を包含し、その例としては、外用投与や経皮投与が挙げられるが、これらに限定されない。通常、このような投与形態には、標的組織や標的層への効率的な送達が要求される。一態様においては、β−NGFアプタマーを表皮及び真皮に浸透させ、最終的には全身へ送達させる手段として外用投与を用いる。他の態様においては、動物の表皮や真皮又はその特定の層にβ−NGFアプタマーを選択的に送達する手段として外用投与を用いる。
【0092】
外用投与の場合、β−NGFアプタマーを薬学的に許容し得る軟膏やクリーム、ローション、眼軟膏、点眼剤、点耳剤、含浸包帯及びエアロゾル、薬用散剤、薬用粘着剤、フォームに処方することができ、また、適切な従来の添加剤や賦形剤(例えば、薬物浸透を補助する防腐剤や溶媒、軟膏やゲル、クリームにおける軟化剤)を配合することができる。また、このような外用製剤には、適合性の従来の担体(例えば、ローション用のエタノールやオレイルアルコール)を配合することもできる。該担体は製剤の約1重量%〜約98重量%を占めることができ、より一般には、該担体は製剤の最大約80重量%を占める。アプタマーの外用送達用の特定の製剤は、米国特許第6,841,539号及び米国特許公開第20050096287号に記載されている。外用製剤で送達する用量は継続送達モードに合うように決める。
【0093】
一実施形態においては、体外へ急速に排出されることを防ぐ担体を用いてβ−NGFアプタマーを調製する。例えば、インプラントやマイクロカプセル化送達システムを含む徐放性製剤を用いることができる。エチレン酢酸ビニルやポリアンヒドリド、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、ポリ乳酸等の生分解性、生体適合性ポリマーを用いることができる。このような製剤を調製するための方法は当業者には明らかである。また、材料は、アルザ社やノヴァ・ファーマシューティカルズ社から購入することもできる。
【0094】
リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体により感染細胞に標的化されたリポソームを含む)を薬学的に許容し得る担体として用いることもできる。例えば、米国特許第4,522,811号に記載のような当業者に公知の方法に従ってこれらを調製することができる。
【0095】
更に、必要に応じてβ−NGFアプタマーの懸濁剤を油状注射懸濁剤として調製することができる。適切な親油性溶媒又は媒体としては、ゴマ油等の脂肪油や、オレイン酸エチルやトリグリセリド、リポソーム等の合成脂肪酸エステルが挙げられる。非脂質ポリカチオン性アミノポリマーを送達用に用いることもできる。必要に応じて、懸濁剤には、適切な安定剤、又は化合物の溶解性を高め、高濃度溶液の調製を可能にする剤を配合することもできる。
【0096】
ある場合には、投与を容易に行い用量を均一にするために、用量単位形態の経口組成物又は非経口的組成物を処方することは特に有利となり得る。本明細書で用いる用量単位形態は、治療対象のための単位用量として適した物理的に独立した単位を意味し、各々の単位は、必要とされる薬学的担体と共に所望の治療効果が生じるように算出された所定量のβ−NGFアプタマーを含む。本明細書に記載のβ−NGFアプタマーの用量単位形態の仕様は、特定のβ−NGFアプタマーの特性や達成すべき特定の治療効果、また、個体の治療のために活性剤を調合する際の当該技術分野に固有の制限に直接的に左右される。
【0097】
少なくとも1種のβ−NGFアプタマーを含む医薬組成物は一以上の医薬賦形剤を含むことができる。このような賦形剤の例としては、結合剤や充填剤、潤滑剤、懸濁剤、甘味料、香味料、防腐剤、バッファー、湿潤剤、崩壊剤、発泡剤及び他の賦形剤が挙げられるが、これらに限定されない。このような賦形剤は当該技術分野で公知である。賦形剤の例としては、(1)結合剤、例えば、種々のセルロースや架橋ポリビニルピロリドン、微結晶セルロース(例えば、アヴィセル(登録商標)PH101やアヴィセル(登録商標)PH102)、ケイ化微結晶セルロース(プロソルブSMCCTM)、トラガカントゴム、ゼラチン、(2)充填剤、例えば、種々のデンプンやラクトース、ラクトース一水和物、無水ラクトース、(3)崩壊剤、例えば、アルギン酸やプリモゲル、コーンスターチ、低架橋ポリビニルピロリドン、ジャガイモデンプン、トウモロコシデンプン、加工デンプン、クロスカルメロースナトリウム、クロス−ポビドン、デンプングリコール酸ナトリウム、及びこれらの混合物、(4)圧縮対象の粉末の流動性に作用する剤を含む潤滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウムやコロイド状二酸化ケイ素(例えば、アエロジル(登録商標)200)、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、シリカゲル、(5)流動促進剤、例えば、コロイド状二酸化ケイ素、(6)防腐剤、例えば、ソルビン酸カリウムやメチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸及びその塩、パラヒドロキシ安息香酸の他のエステル(例えば、ブチルパラベン)、アルコール(例えば、エチルアルコールやベンジルアルコール)、フェノール化合物(例えば、フェノール)、四級化合物(例えば、塩化ベンザルコニウム)、(7)希釈剤、例えば、薬学的に許容し得る不活性充填剤、例えば、微結晶セルロースやラクトース、リン酸水素カルシウム、糖類、及び/又は上述のいずれかの混合物、希釈剤の例としては、微結晶セルロース(例えば、アヴィセル(登録商標)PH101やアヴィセル(登録商標)PH102)、ラクトース(例えば、ラクトース一水和物や無水ラクトース、ファーマトース(登録商標)DCL21)、リン酸水素カルシウム(例えば、エンコンプレス(登録商標))、マンニトール、デンプン、ソルビトール、スクロース、グルコースが挙げられる、(8)甘味料、例えば、任意の天然又は人工甘味料(例えば、スクロースやサッカリンスクロース、キシリトール、サッカリンナトリウム、シクラメート、アスパルテーム、アセスルファム)、(9)香味料、例えば、ペパーミントやサリチル酸メチル、オレンジ香味料、マグナスイート(マフコ(MAFCO)の登録商標)、バブルガムフレーバー、フルーツフレーバー等、(10)発泡剤、例えば、発泡性カップル(例えば、有機酸や炭酸塩、重炭酸塩)が挙げられる。適切な有機酸としては、例えば、クエン酸や酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、アジピン酸、コハク酸、アルギン酸、及びこれらの無水物や酸性塩が挙げられる。適切な炭酸塩や重炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウムや重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、グリシン炭酸ナトリウム、炭酸L−リジン、炭酸アルギニンが挙げられる。或いは、発泡性カップルの重炭酸ナトリウム成分のみが存在してもよい。
【0098】
種々の実施形態においては、本明細書に記載の製剤は実質的に純粋である。本明細書で用いる「実質的に純粋」とは、活性成分(β−NGFアプタマー)が主な存在種である(即ち、モルベースで組成物中の他の各種に比べて多い)ことを意味する。一実施形態においては、実質的な精製画分は、活性成分が存在する全ての高分子種の少なくとも約50%(モルベース)である組成物である。通常、実質的に純粋な組成物は、該組成物に存在する全ての高分子種の約80%超を含む。種々の実施形態においては、実質的に純粋な組成物は、該組成物に存在する全ての高分子種の少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、又は少なくとも約99%を含む。種々の実施形態においては、活性成分を精製して本質的に均質化する(従来の検出方法では組成物中の混入種を検出できない)、即ち、組成物は本質的に単一高分子種で構成される。
【0099】
β−NGFアプタマー組成物を含むキット
本開示は、本明細書に記載のβ−NGFアプタマーのいずれかを含むキットを提供する。該キットは、例えば、(1)少なくとも1種のβ−NGFアプタマーと、(2)少なくとも1種の薬学的に許容し得る担体(例えば、溶媒や溶液)を含むことができる。必要に応じて、更なるキット成分には、例えば、(1)本明細書で特定された薬学的に許容し得る賦形剤のいずれか(例えば、安定剤やバッファー等)、(2)キット成分を保持、及び/又は混合するための少なくとも1種の容器、バイアル又は同様の装置、及び(3)送達装置が含まれる。
【0100】
治療方法
本開示は、β−NGFアプタマーを用いて病状を予防又は治療(例えば、一以上の症状を改善)する方法を提供する。該方法は、β−NGFアプタマーの治療有効量をそれを必要とする患者に投与することを含む。また、記載のアプタマーを予防的治療に用いることもできる。幾つかの実施形態においては、β−NGFアプタマーを外用的に投与する。
【0101】
治療方法に用いるβ−NGFアプタマーは、(1)本明細書に記載の方法で調製した新規なβ−NGFアプタマー、その薬学的に許容し得る塩、又はそのプロドラッグとすることができる。
【0102】
個体又は患者は任意の動物(飼育動物、家畜動物や野生動物)とすることができる(例えば、ネコやイヌ、ウマ、ブタ、ウシが挙げられるが、これらに限定されない)が、好ましくはヒト患者である。本明細書においては、「患者」、「個体」及び「対象」は交換可能に用いることができる。
【0103】
本明細書で用いる「治療する」は、疾患、病態又は障害の治療を目的とした患者の管理やケアを示し、β−NGFアプタマーを投与して疾患、病態又は障害の症状や合併症の発生を予防する、疾患、病態又は障害の症状や合併症を軽減する、又は患者における疾患、病態又は障害の存在を排除することを包含する。より具体的には、「治療する」は、疾患(障害)状態、疾患進行、疾患原因物質(例えば、細菌やウイルス)又は他の異常状態の少なくとも1種の有害な徴候や作用を逆転させる、減弱する、軽減する、最小限に抑える、抑制する、又は食い止めることを包含する。治療は通常、症状及び/又は病態が改善する限り継続する。
【0104】
種々の実施形態においては、開示された組成物(外用製剤を含む)と方法を用いて皮膚炎(発赤や浮腫、滲出、痂皮、鱗屑、(ある場合には)小水疱によって特徴付けられる皮膚の表在性炎症や発疹を特徴とすることが多い)を治療する。掻痒症(掻痒感)は皮膚炎において共通である。「湿疹」は皮膚炎と交換可能に用いることが多い。皮膚炎や湿疹の例としては、例えば、アトピー性皮膚炎(乳児性湿疹や曲げ湿疹とも称する)や接触性皮膚炎(アレルギー性や刺激性を含む)、乾燥性湿疹(皮脂欠乏性湿疹や亀裂性湿疹、冬の痒み、冬季掻痒症とも称する)、剥離性皮膚炎、手足皮膚炎、神経皮膚炎(例えば、慢性単純性苔癬)、脂漏性皮膚炎(新生児頭部皮膚炎、頭部粃糠疹)、円板状湿疹(貨幣状湿疹や滲出性湿疹、微生物湿疹とも称する)、発汗障害、静脈性湿疹(重力湿疹、うっ滞性皮膚炎、結節状湿疹うっ滞性皮膚炎、疱疹状皮膚炎(デューリング病)、自家感作性皮膚炎(イド反応や自己感作とも称する)、セルカリア皮膚炎(例えば、スイマーズイッチ又はダックイッチ)、ウルシオール誘発接触性皮膚炎(ウルシ皮膚炎とも称される(例えば、ウルシやツタウルシ、ヌルデ))、日光皮膚炎、主婦湿疹が挙げられる。
【0105】
一実施形態においては、開示された化合物、その薬学的に許容し得る塩又はそのプロドラッグの投与を、掻痒感を改善又は根絶する他の治療と組み合わせることができる。開示されたβ−NGFアプタマーを含む組成物は、例えば、一を超えるアプタマー(例えば、IgE、IL−6、及び/又はPAR2アプタマー及びβ−NGFアプタマー)を含むことができる。幾つかの例においては、一以上のアプタマーを含むβ−NGFアプタマー組成物を他の有用な鎮痒組成物(例えば、抗ヒスタミン剤や鎮痛剤、抗コリン剤、非ステロイド性抗炎症薬、ステロイド剤、抗酸化剤、ビタミン剤、ロイコトリエン改質剤、インターロイキン拮抗剤、マスト細胞阻害剤、抗IgE抗体、選択的セロトニン再取り込み阻害剤、5−ヒドロキシトリプタミン受容体拮抗剤、抗生剤、カルシニューリン阻害剤、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、ガバペンチン、ナロキソン(これらにおいて、活性成分は遊離形態又は薬学的に許容し得る塩の形態で存在する))及び必要に応じて少なくとも1種の薬学的に許容し得る担体と組み合わせて投与し、全身投与又は外用投与を同時に、別々に又は逐次的に行う。一般に、このような組み合わせに用いる公知の治療剤の現在入手可能な投与形態は適切である。
【0106】
「併用療法」(又は「共同療法」)は、β−NGFアプタマー組成物と特定の治療レジメンの一部としての少なくとも1種の第2の剤とを投与することを包含し、これらの治療剤の相互作用による有益な効果を得ることを意図している。この併用による有益な効果としては、治療剤の併用に起因する薬物動態的な相互作用や薬力学的な相互作用が挙げられるが、これらに限定されない。これらの治療剤の併用投与は通常、所定の期間(通常は、選択した組み合わせに応じて分単位、時間単位、日単位又は週単位)に亘って行う。
【0107】
「併用療法」は、偶然に且つ任意に本開示に係る組み合わせをもたらす別々の単独療法の一部としてこれらの治療剤の二以上を投与することを包含することを意図する場合もあるが、通常は意図しない。「併用療法」は、これらの治療剤を逐次的に投与すること(即ち、各治療剤を異なる時間に投与すること)を包含すると共に、これらの治療剤又はその少なくとも2種を実質的に同時に投与することを包含することを意図する。実質的な同時投与は、例えば、各治療剤の比率を固定した単一用量又は複数の単一用量(治療剤の各々に対応)を対象に投与して行うことができる。
【0108】
β−NGFアプタマーを用いた投与レジメンは、種々の因子、例えば、患者のタイプや種、年齢、重量、性別、病状、治療対象の病態の重篤度、投与経路、患者の腎機能や肝機能、及び用いる特定のβ−NGFアプタマー又はその塩に応じて選択する。病態の進行を防止、阻止又は停止させるのに必要な組成物の有効量は、通常の技能を有する医師や獣医であれば容易に決定し、処方することができる。
【0109】
通常、用量(即ち、治療有効量)は、1日当たり約1μg〜約100mg/治療する対象の体重(kg)である。
【0110】
有効性
実施例4では、種々のβ−NGFアプタマーやその切断型変異体がヒトβ−NGF介在の神経突起成長を阻害する能力(図5〜7)及びβ−NGFによるTrkAリン酸化を阻害する能力(図8及び9)について説明する。
【0111】
実施例5では、疾患マウスへのアプタマー2426−66−50(配列番号2)の投与によって引っ掻き頻度を低下させ、臨床的皮膚状態を改善する上でのβ−NGFアプタマーの有効性について説明する。図11に示すように、アプタマー2426−66−50で処理したマウス(●)の場合、14日目〜28日目に引っ掻き頻度は確実に低下したが、それに対し、未処理マウス(■)や親水性軟膏(HO)で処理したマウス(▲)の場合、変化が見られなかったことが分かる。同様に、図12に示すように、アプタマー2426−66−50(配列番号2)で処理した疾患マウス(●)の場合、臨床的皮膚状態は4週間に亘って改善したが、引っ掻き頻度と同様に、未処理マウス(■)やHO処理マウス(▲)の場合、改善が見られなかったことが分かる。
【0112】
以下に記載の実施例は単に説明目的のためであり、添付した請求項によって定義される本発明の範囲を限定することを意図していない。本明細書に記載の全ての実施例は、当業者によく知られている通常の標準的な技法を用いて行った。以下の実施例に記載の通常の分子生物学的技法は、標準的な実験室マニュアル、例えば、サンブルック(Sambrook)ら、分子クローニング:実験室マニュアル第3版、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス、ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー(2001)に記載されたように行うことができる。
【実施例】
【0113】
実施例1アプタマー選択及び配列
A.候補混合物の調製
表1に示すビオチン化ssDNA鋳型にアニールしたDNAプライマーのポリメラーゼ伸長によって、部分ランダム化ssDNAオリゴヌクレオチドの候補混合物を調製した。候補混合物には、dATP、dGTP、dCTP及びBndUTP(5−(N−ベンジルカルボキシアミド−2’−デオキシウリジントリホスフェート)を含む40ヌクレオチドランダム化カセットが含まれていた。
【0114】
特有の発色団であるニトロアジドアニリン(ANA、配列中ではX)を5’末端に有するプライマー1(配列番号165)(4.8nmol)と、2個のビオチン残基(配列中ではB’)及び40個のランダム化位置(A、C、G又はT)(配列中ではN)を有する鋳型1(配列番号46)(4nmol)とを1×KOD DNAポリメラーゼバッファー(ノバジェン)(100μL)中で混合し、95℃まで8分間加熱し、氷上で冷却した。1×KOD DNAポリメラーゼバッファー、KOD XL DNAポリメラーゼ(0.125U/μL)及びdATP、dCTP、dGTP及びBndUTP(各0.5mM)を含む伸長反応物(400μL)にプライマー−鋳型混合物(100μL)を添加し、70℃で30分間インキュベートした。鋳型鎖ビオチンによる二本鎖生成物の捕捉は、ストレプトアビジンコートの磁気ビーズ(マグナバインド・ストレプトアビジン、ピアース、0.05%トゥイーン20含有3M NaCl中5mg/mL)(1mL)を添加し、混合しながら25℃で10分間インキュベートして行った。SB17Tバッファー(40mM HEPES、pH7.5、125mM NaCl、5mM KCl、5mM MgCl2、0.05%トゥイーン20)(0.75mL)でビーズを3回洗浄した。20mM NaOH(1.2mL)でビーズからアプタマー鎖を溶出させ、80mM HCl(0.3mL)で中和し、1M HEPES(pH7.5)(15μL)で緩衝した。候補混合物をセントリコン30で約0.2mLまで濃縮し、UV吸光度分光法によって定量した。
【0115】
【表1】
【0116】
B.標的タンパク質の調製
非タグ化ヒトβ−NGF(R&Dシステムズ)のビオチン化は、NHS−PEO4−ビオチン(ピアース)をリジン残基に共有結合して行った。セファデックスG−25マイクロスピンカラムを用いてタンパク質(50μL中300pmol)をSB17T中に交換した。NHS−PEO4−ビオチンを1.5mM添加し、反応物を4℃で16時間インキュベートした。セファデックスG−25マイクロスピンカラムを用いて未反応NHS−PEO4−ビオチンを除去した。
【0117】
C.標的タンパク質の固定化
SELEXのラウンド1において、MyOne−SA常磁性ビーズ(MyOne SA、インビトロジェン、以下「SAビーズ」と称する)に標的タンパク質を固定化した。0.5mLのSB17T中でβ−NGFを0.2mg/mLまで希釈し、0.5mLのSAビーズ(20mM NaOHで2回、SB17Tで1回予備洗浄済)に添加した。混合物を25℃で30分間回転させ、使用するまで4℃で保存した。
【0118】
D.低オフ速度富化プロセス及び光架橋によるアプタマー選択
候補混合物を用い、標的タンパク質を有するサンプル(シグナル(S))と標的タンパク質を有しないサンプル(バックグラウンド(B))との結合を比較して選択を行った。最初の3ラウンドは親和性に関する選択(光架橋なし)によって行い、第2及び第3ラウンドでは低オフ速度富化プロセスを行った。ラウンド4〜ラウンド9では低オフ速度富化プロセスと光架橋の両方を行った。
【0119】
各サンプルに関しては、10〜20pmolの候補混合物(第1ラウンドでは56pmol)と56pmolの逆方向プライマーを用いてSB17T中で90μLのDNA混合物を調製した。サンプルを95℃まで3分間加熱し、0.1℃/秒の速度で37℃まで冷却した。サンプルを10μLのタンパク質競合混合物(SB17T中0.1%HSA、10μMカゼイン、及び10μMプロトロンビン)と混合し、0.5mgのSAビーズに添加し、混合しながら37℃で5分間インキュベートした。磁気分離によってビーズを除去した。
【0120】
10μLの標的タンパク質(SB17T中0.5μM)又はSB17Tを40μLのDNA混合物に添加し、37℃で30分間インキュベートして結合反応を行った。低オフ速度富化プロセスは3種類の方法で用いた。ラウンド2及び3においては、950μLのSB17T(37℃まで予備加熱)を添加してサンプルを20倍に希釈し、37℃で15分間インキュベートした後、複合体を捕捉した。ラウンド4及び5においては、950μLのSB17T(37℃まで予備加熱)を添加してサンプルを20倍に希釈し、37℃で30分間インキュベートした後、架橋を行った。ラウンド6及び7においては、950μLのSB17T(37℃まで予備加熱)を添加してサンプルを20倍に希釈した。50μLの各希釈サンプルを950μLの10mMデキストラン硫酸(5kDa)含有SB17T(37℃まで予備加熱)に移して再度希釈し、全部で400倍希釈を行い、37℃で60分間インキュベートした後、架橋を行った。ラウンド8及び9においては、950μLのSB17T(37℃まで予備加熱)を添加してサンプルを20倍に希釈し、50μLの各希釈サンプルを950μLのSB17T(37℃まで予備加熱)に移して再度希釈し、全部で400倍希釈を行った。最後に、50μLの各400倍希釈サンプルを950μLの10mMデキストラン硫酸(5kDa)含有SB17T(37℃まで予備加熱)に移して再度希釈し、全部で8000倍希釈を行い、37℃で60分間インキュベートした後、架橋を行った。光架橋を用いた際には、低オフ速度富化プロセス後の結合反応物(1mL)に470nmのLEDアレイで上方から60秒間照射した後、複合体を捕捉した。
【0121】
タンパク質ビオチンによるSAビーズへの複合体の捕捉は、0.25mgのMyOne−SAビーズ(インビトロジェン)を添加し、混合しながら25℃で15分間インキュベートして行った。ビーズをSB17Tで5回洗浄して遊離DNAを除去した。特に明記しない限り、洗浄はいずれの場合も、ビーズを100μLの洗浄溶液に再懸濁させ、25℃で30秒間混合し、ビーズを磁石で分離し、洗浄溶液を除去して行った。85μLの20mM NaOHを添加し、混合しながら37℃で1分間インキュベートしてアプタマー鎖をビーズから溶出させた。磁気分離後、80μLのアプタマー溶出物を新しいチューブに移し、20μLの80mM HClで中和し、1μLの0.5Mトリス−HCl(pH7.5)で緩衝した。
【0122】
光選択を用いた際には、複合体を上述のように捕捉し、ビーズの洗浄を0.05%トゥイーン20含有4Mグアニジン−HClで1回(50℃、10分間)、20mM NaOHで1回(25℃、2分間)、SB17Tで2回、16mM NaClで1回行なって未架橋DNAを除去した。架橋DNAはビーズ表面から除去せずに増幅段階で用いた。
【0123】
E.アプタマー増幅及び精製
選択したアプタマーDNAをQPCRによって増幅し、定量した。48μLのDNAを12μLのQPCR混合物(5×KOD DNAポリメラーゼバッファー、25mM MgCl2、10μM順方向PCRプライマー(プライマー2、配列番号47)、10μMのビオチン化逆方向PCRプライマー(プライマー3、配列番号48)、5×SYBRグリーンI、0.125U/μLのKOD XL DNAポリメラーゼ、及び各1mMのdATP、dCTP、dGTP及びdTTP)に添加し、次のプロトコル:99.9℃で15秒間、55℃で10秒間、68℃で30分間(1サイクル)、99.9℃で15秒間、72℃で1分間(30サイクル)によってバイオ−ラッドMyIQ QPCR機器で熱サイクルを行った。該機器のソフトウェアによって定量化を行い、標的タンパク質の有無に関わらず、選択したDNAのコピー数を比較してシグナル/バックグラウンド比を求めた。
【0124】
光選択を用いた際には、ビーズ表面でのプライマー伸長によって選択DNAのcDNAコピーを調製した。洗浄したビーズを20μLのcDNA伸長混合物(5μMの非ビオチン化逆方向PCRプライマー(プライマー4、配列番号169)を含むプライマー伸長バッファー、各0.5mMのdATP、dCTP、dGTP及びdTTP、及び0.125U/μLのKOD XL DNAポリメラーゼ)に再懸濁させ、混合しながら68℃で30分間インキュベートした。ビーズをSB17Tで3回洗浄し、85μLの20mM NaOHを添加し、混合しながら37℃で1分間インキュベートしてビーズからcDNA鎖を溶出させた。磁気分離後、80μLのアプタマー溶出物を新しいチューブに移し、20μLの80mM HClで中和し、1μLの0.5Mトリス−HCl(pH7.5)で緩衝した。cDNAは、99.9℃で15秒間、72℃で1分間(30サイクル)によって上述のようにQPCRで増幅し、定量した。
【0125】
増幅後、ビオチン化アンチセンス鎖によってPCR産物をSAビーズに捕捉した。1.25mLのSAビーズ(10mg/mL)を0.5mLの20mM NaOHで2回、0.5mLのSB17Tで1回洗浄し、1.25mLの3M NaCl+0.05%トゥイーンに再懸濁させ、4℃で保存した。25μLのSAビーズ(3M NaClT中10mg/mL)を50μLの二本鎖QPCR産物に添加し、混合しながら25℃で5分間インキュベートした。ビーズをSB17Tで1回洗浄し、200μLの20mM NaOHを添加し、混合しながら37℃で1分間インキュベートしてビーズから「センス」鎖を溶出させた。溶出した鎖を廃棄し、ビーズをSB17Tで3回、16mM NaClで1回洗浄した。
【0126】
固定化アンチセンス鎖からのプライマー伸長によりANA発色団を用いてアプタマーセンス鎖を調製した。ビーズを20μLのプライマー伸長反応混合物(1×プライマー伸長バッファー、1.5mM MgCl2、5μMの5’ANA発色団含有順方向プライマー(プライマー1、配列番号165)、各0.5mMのdATP、dCTP、dGTP及びBndUTP、及び0.125U/μLのKOD XL DNAポリメラーゼ)に再懸濁させ、混合しながら68℃で30分間インキュベートした。ビーズをSB17Tで3回洗浄し、85μLの20mM NaOHを添加し、混合しながら37℃で1分間インキュベートしてビーズからアプタマー鎖を溶出させた。磁気分離後、80μLのアプタマー溶出物を新しいチューブに移し、20μLの80mM HClで中和し、5μLの0.1M HEPES(pH7.5)で緩衝した。
【0127】
F.選択ストリンジェンシー及びフィードバック
選択段階における標的タンパク質の相対濃度は、以下のようにS/B比(シグナルS及びバックグラウンドBは上述のセクションDで定義)に呼応して各ラウンドで低下した。
S/B<10の場合、[P](i+1)=[P]i
10≦S/B<100の場合、[P](i+1)=[P]i/3.2
S/B≧100の場合、[P](i+1)=[P]i/10
(式中、[P]=タンパク質濃度、i=現ラウンド数)
【0128】
各選択ラウンド後、富化DNA混合物の収束状態を確認した。10μLの二本鎖QPCR産物を1×SYBRグリーンI含有4mM MgCl2で200μLまで希釈した。サンプルを75μLのシリコンオイルで覆い、二本鎖オリゴヌクレオチドの複合混合物のハイブリダイゼーション時間を測定するC0t解析を用いて収束について解析した。サンプルに対し、次のプロトコル:98℃で1分間、85℃で1分間(3サイクル)、93℃で1分間、85℃で15分間(1サイクル)によって熱サイクルを行った。85℃で15分間の際に、蛍光画像を5秒間隔で測定した。蛍光強度を対数(時間)の関数としてプロットし、各SELEXラウンドにおけるハイブリダイゼーション速度の上昇(配列収束を示す)を観察した。
【0129】
G.クローンスクリーニングプロセス及びアプタマー同定
SELEXの9ラウンド後の収束したプールをクローン化し、配列決定を行った。選択したDNAを非ビオチン化SELEXプライマーでPCR増幅してAGCT DNAを作出し、QIAクイック96PCR精製キット(カタログ番号:28181)を用いて精製し、ストラタジーンPCR−スクリプトクローニングキット(カタログ番号:211189)を製造業者のプロトコル通りに用いて精製インサートをクローン化した。連結したSELEXプールを配列決定ベンダー(コージェニクス、テキサス州ヒューストン)に送付し、形質転換、96ウェルプレート内への配列、DNA調製及び配列決定を行った。約42個のクローンの配列を得て、局所アラインメントアルゴリズムを用いて配列数/コピー数を決定し、共通収束パターンを特定するカスタムソフトウェアによって収束についての解析を行った。プール内で表示/コピー数が最も高い配列と共通結合モチーフに収束した配列を下流スクリーニング用に選択した。更なる解析用に6個の配列を選択し、コージェニクスから入手したプラスミドDNAをPCR増幅用鋳型として用いて酵素的に調製した。
【0130】
H.平衡結合定数(Kd)の測定
6個の選択した配列の平衡結合定数を親和性アッセイによって測定した。放射標識DNAをSB17T−0.002(0.002%まで低下させたトゥイーン20含有のSB17T)中、95℃で3分間加熱し、37℃までゆっくりと冷却した。SB17T−0.002中で低濃度の放射標識DNA(約1×10-11M)を種々の濃度の標的タンパク質(1×10-7M〜1×10-12M)と混合し、37℃で30分間インキュベートして複合体を形成した。各反応物の一部をナイロン膜に移し、乾燥させて各反応物中の総カウントを求めた。複合体をZORBAX樹脂(アジレント)に捕捉し、真空下でマルチスクリーンHVプレート(ミリポア)を通過させ、200μLのSB17T−0.002バッファーで洗浄してタンパク質結合複合体を未結合DNAから分離した。ナイロン膜とマルチスクリーンHVプレートのホスホイメージングを行い、フジFLA−3000を用いて各サンプル中の放射活性量を定量した。捕捉DNAの割合をタンパク質濃度(Pt)の関数としてプロットし、平衡結合定数(Kd)をy=(最大−最小)(Pt)/(Kd+Pt)+最小を用いて求めた。クローン2426−66(配列番号1、表3に記載)(76mer、Kd=5×10-9M)を更なる特徴付け用のリードクローンとして選択した(図1参照)。
【0131】
I.SELEXプールの大規模配列決定
2426−66アプタマーファミリー内の配列をより十分に評価するため、454パイロシークエンス技術を用いて富化プールの配列決定を行った。プールDNAを上述の454プライマーで増幅し、シークアル標準化プレート(インビトロジェン、カタログ番号A10510−01)を用いてPCR産物を精製し、標準化した。溶出物をゲル泳動し、各アンプリコンのサイズと純度を確認した。精製PCR産物の配列決定は、コロラド大学健康科学センター(コロラド州オーロラ)の454パイロシークエンス施設で行った。
【0132】
CLUSTAL解析によって454配列を2426−66と比較した。全部で1165個のマルチコピー配列の内、165個の配列は2426−66と同様のパターンを有していた。これらの配列における5’配列共有性に基づき、該配列を3群に分けた。配列の中間領域は3群全てに保存されていた。全ての配列について、2426−66の各位置におけるパーセント同一性は図2Bに記載のように算出した。表2には、2426−66アプタマー配列ファミリーの代表的な多数の配列(配列中、Z’はBndUを表す)を記載する。
【0133】


【表2-1】
【0134】
【表2-2】
【0135】
【表2-3】
【0136】
【表2-4】
【0137】
【表2-5】
【0138】
これに基づき、上述のように、β−NGFへの結合用コンセンサス配列が次の配列:
BAZGRGGRSZZGGGGZZZADCCGZZRZG(配列番号3)(配列中、B、Z、R及びSは上述の通り)であることを確認した。コンセンサス配列は28ヌクレオチド長であるが、表2に記載の多数の配列はこのコンセンサス配列において一塩基挿入を有していた。図2Bに示すように、約91%の配列は位置12で欠失を有していたが、約7%の配列はこの位置でG又はZを有しており、また、約95%は位置19で欠失を有していたが、約3%はこの位置でGを有していた。この知見から、β−NGFコンセンサス配列(配列番号3)における挿入は幾つかの位置で許容的であり、これらの挿入はβ−NGFアプタマーを不活化しないことが示唆される。
【0139】
実施例2配列切断研究
β−NGFアプタマー2426−66(配列番号1)は76ヌクレオチド長(Kd=5×10-9M)である。最も効率よく化学合成を行うには、最小の高親和性アプタマー配列を特定し、該アプタマーをできるだけ小さいサイズに切断することが重要である。他の利点は、組織浸透が高まり、インビボでヌクレアーゼ活性に対する安定性が高まることである。
【0140】
結合親和性を保持するアプタマー2426−66(配列番号1)の最小領域を特定するために、2426−66に存在する可能な全ての近接50ヌクレオチド長配列を示す一連の切断型変異体を合成した。変異体の配列を表3に記載するが、Z’はBndUを表し、TはdTを表す。上述の親和性結合アッセイによりβ−NGFへの親和性に関して変異体を試験した。
【0141】
【表3-1】
【0142】
【表3-2】
【0143】
変異体2426−66−2(配列番号4)、2426−66−3(配列番号5)、2426−66−4(配列番号6)、2426−66−5(配列番号7)及び2426−66−6(配列番号8)を除き、全ての変異体でβ−NGF結合活性が保持されたが、これは、2426−66の5’末端の26ヌクレオチド(位置1〜26)と3’末端の21ヌクレオチド(位置56〜76)はβ−NGFの結合に必要ではなく、残りの29のヌクレオチド要素(位置27〜55)の全部又は一部で十分となり得ることを示唆する。この仮説については、2426−66(配列番号1)の第2の一連の変異体を合成し、その結合親和性を測定して試験した。該変異体の配列を表4に記載するが、配列中、Z’はBndUを表し、TはdTを表す。変異体2426−66−56(配列番号150)、2426−66−57(配列番号151)、2426−66−58(配列番号152)及び2426−66−59(配列番号153)を除き、全ての変異体でβ−NGF結合活性が保持された。変異体2426−66−55(配列番号149)(25mer)は、全長アプタマー2426−66(配列番号1)と同等のβ−NGF結合親和性を有する最も短い配列であった。変異体2426−66−54(配列番号44)(26mer)のβ−NGFに対する親和性は、全長アプタマー2426−66(配列番号1)に比べて僅かに高かったため、更なる最適化のために選択した。
【0144】
【表4】
【0145】
実施例3望ましいBndU位置の決定
BndUのdTへの26mer単一置換
アプタマー2426−66−54(配列番号44)の26個のヌクレオチドの内の9個はBndUである。どのBndU位置が結合に関与しているか確認するため、2426−66−54の9種の変異体(各変異体は、9個のBndU位置の内の1個において単一dT置換を含む)を合成し、β−NGF親和性を測定した。該変異体の配列を表5に記載するが、配列中、Z’はBndUを表し、TはdTを表す。
【0146】
【表5】
【0147】
位置9でのdTによるBndUの置換(変異体2426−66−68、配列番号158)及び位置16でのdTによるBndUの置換(変異体2426−66−71、配列番号161)の場合、未置換(全てBndU)のアプタマー2426−66−54(配列番号44)と比べてβ−NGFに対する親和性の損失は見られなかった。位置1でのdTによるBndUの置換(変異体2426−66−66、配列番号156)、位置8でのdTによるBndUの置換(変異体2426−66−67、配列番号157)及び位置14でのdTによるBndUの置換(変異体2426−66−69、配列番号159)の場合、親和性の一部損失が見られ、位置15でのdTによるBndUの置換(変異体2426−66−70、配列番号160)、位置22でのdTによるBndUの置換(変異体2426−66−72、配列番号162)、位置23でのdTによるBndUの置換(変異体2426−66−73、配列番号163)及び位置25でのdTによるBndUの置換(変異体2426−66−74、配列番号164)の場合、親和性の完全な損失が見られた。これらの結果から、位置1、8、14、15、22、23及び25で改変されたウリジン残基はβ−NGF結合親和性を最大にする上で望ましいことが分かる。
【0148】
位置9及び位置16のBndUをdTで置換した2426−66(配列番号1)の切断型変異体を合成し、β−NGFに対する親和性に関して試験した。配列を表6に記載するが、配列中、Z’はBndUを表し、TはdTを表す。2個の位置でBndUをdTで置換した場合、3種の変異体のいずれにおいても、未置換の対照と比べて親和性の損失は見られなかった。
【0149】
【表6】
【0150】
これらの結果(図2Aに要約)に基づき、β−NGFへ結合させるためのコンセンサス配列(配列番号3)を次のように改変し、2個の位置でBndUをdTで置換する能力を反映させた。
BAZGRGGRSZWGGGGZZWADCCGZZRZG(配列番号45)(配列中、Z、R、S、Z及びWは上述の通りである)。
【0151】
実施例4細胞アッセイ
β−NGFアプタマー2426−66(配列番号1)と2426−66の切断型変異体を2種のインビトロ細胞アッセイによりβ−NGF活性阻害についてスクリーニングした。ラット褐色細胞腫由来の癌細胞株であって、ニューロン分化のモデルであるPC12細胞(ATCC由来のCRL−1721)は、ニューロン表現型の誘導によりβ−NGFに応答する。この応答の2種の発現は、膜結合TrkAのリン酸化と神経突起の伸長である。β−NGF刺激によるPC12細胞のTrkAリン酸化と神経突起成長を阻害する能力についてアプタマーを試験した。
【0152】
神経突起成長アッセイ
PC12細胞を60mmディッシュに薄く蒔き、一晩プレートに付着させた。PC12細胞は通常の高血清成長培地では分化しないため、付着させた後、通常の成長培地を低血清培地(LSM)で置換した。β−NGF(100ng/mL)とアプタマー(100nM)をLSM中で予備混合し、1時間平衡化させた後、プレートに添加して最終濃度が10ng/mLのβ−NGF(0.38nM)及び10nMアプタマーとした。細胞を3日間インキュベートさせ、3日目に培地、β−NGF及びアプタマーを元の通りに置換した。5日目に、細胞の画像を位相差顕微鏡で取得し、イメージJ用ニューロンJプラグイン(NIHプログラム)を用いて神経突起長を測定した。神経突起長/細胞を算出し、(神経突起成長に対する)非アプタマー対照サンプルの値100に対して標準化した。
【0153】
アプタマーがヒトβ−NGF誘導PC12細胞分化を阻害する能力を神経突起成長アッセイによって試験した。3’末端に反転dTアミダイト(3’−idT)を有するアプタマーを合成し、培地内に存在する3’−5’エキソヌクレアーゼへの耐性を得た(図5参照)。
【0154】
アプタマー2426−66(配列番号1)と切断型変異体2426−66−50(配列番号2)は、β−NGF誘導による神経突起成長を効果的に阻害した。変異体2426−66−53(配列番号43)、2426−66−54(配列番号44)及び2426−66−55(配列番号149)は、β−NGF介在の神経突起成長の阻害に関して、2426−66−50と比べて効果的ではなかったが、これは、阻害を最大にするには28ヌクレオチドの最小アプタマー長が必要であることを示す。また、2426−66−50の位置11及び位置18のBndU残基をdT残基で置換した変異体2426−66−75(配列番号166)も、β−NGF介在の神経突起成長をブロックする上で効果的ではなかった。β−NGFに対する親和性が低い50merの変異体2426−66−3(配列番号5)はβ−NGF介在の神経突起成長を殆ど阻害しなかった。
【0155】
β−NGF介在の神経突起成長を阻害するアプタマーの有効性は、アプタマー濃度を0.5nM〜8.0nMとした際の相対神経突起成長を測定し、非線形曲線フィット(可変勾配を有するシグモイド用量応答)を用いて最大半量の阻害濃度(IC50)を算出して求めた(図6参照)。このアッセイにおいて、アプタマー2426−66(配列番号1)はIC50=2×10-9Mを示し、切断型変異体2426−66−50(配列番号2)はIC50=1×10-9Mを示した。
【0156】
アプタマー2426−66(配列番号1)と切断型変異体2426−66−50(配列番号2)及び2426−66−53(配列番号43)をマウスβ−NGF及びラットβ−NGFの阻害について神経突起成長アッセイで試験した。これら3種は全て、ヒトβ−NGFの場合とほぼ同等にマウスβ−NGFを効果的に阻害したが、ラットβ−NGFを阻害する程度は低かった(図7参照)。
【0157】
TrkAリン酸化アッセイ
【0158】
β−NGFはPC12細胞表面でTrkA受容体と結合し、該受容体の二量体化及び自己リン酸化を誘導する。TrkAリン酸化アッセイでは、アプタマーで予備平衡化したβ−NGFによる処理10分後のTrkAのリン酸化状態を調べる。神経突起成長アッセイはターミナルアッセイ(即ち、β−NGF刺激の終点を調べる)であるのに対し、TrkAのリン酸化アッセイは、β−NGF刺激後の即時のシグナリング事象のスナップショットである。
【0159】
PC12細胞を100mmプレートに播種し、一晩付着させた。付着後、培地をLSMに交換した。細胞をLSMに一晩放置した後、β−NGF単独(最終濃度:10ng/mL又は0.38nM)、β−NGF+TrkAのリン酸化阻害剤K252a(0.2μM)及びアプタマー(最終濃度:10nM)で予備平衡化したβ−NGFで10分間処理した。細胞を回収し、溶解し、全Trk抗体(TrkAはPC12細胞中で発現する唯一のTrK受容体である)を用いてTrkAを透明化ライセートから免疫沈降させた。免疫沈降物をSDS−PAGEゲルで泳動し、PVDF膜上にエレクトロブロットし、ホスホチロシン抗体でプローブしてリン酸化TrkAを定量する。ブロットをストリッピングし、TrkA抗体でプローブして全TrkAを定量した。各サンプルについて%TrkAリン酸化(リン酸化TrkA/全TrkAの比率)を算出し、非アプタマー対照の値100に対して標準化した。結果を図8に示す。
【0160】
アプタマー2424−66(配列番号1)と切断型変異体2426−66−50(配列番号2)及び2426−66−3(配列番号5)をヒトβ−NGFによるTrkAリン酸化の阻害について試験した。アプタマー2424−66と切断型変異体2426−66−50は、β−NGFによって誘導されるTrkA受容体のリン酸化を効果的に阻害した。β−NGFに対する親和性が低い50merの変異体2426−66−3は、β−NGFによるTrkAリン酸化を殆ど阻害しなかった。
【0161】
TrkAリン酸化アッセイにより、マウスβ−NGF及びラットβ−NGFの阻害について変異体2426−66−50(配列番号2)を試験した。結果を図9に示す。変異体2426−66−50は、マウスβ−NGF誘導TrkAリン酸化とラットβ−NGF誘導TrkAリン酸化の両方を効果的に阻害した。
【0162】
実施例5マウスモデル系におけるアトピー性皮膚炎のアプタマー処理
非滅菌の(通常の)環境で飼育された近交系NC/NgaTndマウスは、ヒトのアトピー性皮膚炎病変と同様の皮膚病変を自然に発症するため、アトピー性皮膚炎の治療を検討するための確立モデルである(マツダら、Int.Immunol.:461,1997)。アトピー性皮膚炎の臨床症状をNGF中和アプタマーが抑制又は除去する能力をこのマウスモデルにおいてインビボで評価するため、次の研究を設計した。
【0163】
NC/NgaTndマウスを非空調の通常の環境下(20〜26℃)、12時間の昼/夜サイクルで維持し、標準的な食餌及び水に自由にアクセスさせた。軽度の皮膚病変が現れた8〜10週齢のマウス(疾患表現型) をこの研究で用いた。特定病原体フリー(SPF)の条件下で維持し、アトピー性皮膚炎の臨床徴候や症状を示さないNC/NgaTndマウス(非疾患表現型)を対照として用いた。
【0164】
親水性軟膏(HO)を日本薬局方に従って調製した(25%白色ワセリン、20%ステアリルアルコール、12%プロピレングリコール、4%ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、1%モノステアリン酸グリセリル、0.1%パラヒドロキシ安息香酸メチル、0.1%パラヒドロキシ安息香酸プロピル)。HOでのアプタマーの調製は、20gのHOを85℃の水浴にて融解させ、20gの2%アプタマー水溶液を添加し、冷却するまで氷冷水浴にて混合して行った。
【0165】
マウスを4グループに分けた。皮膚炎を有する未処理のマウス7匹をグループ1とした。皮膚炎を有し、HOで処理したマウス7匹をグループ2とした。皮膚炎を有し、3’−idT(HO中1%w/v)含有アプタマー2426−66−50(配列番号2)で処理したマウス7匹をグループ3とした。未処理の通常のSPFマウス7匹をグループ4とした。グループ2及び3のマウスの処理は、100mgのサンプルを背側患部に4週間(1日1回)塗布して行った。4週間で各週に1回(0日目、7日目、14日目、21日目、28日目)、マウスの引っ掻き行動及び臨床的皮膚状態スコアを定量化した。
【0166】
自発的引っ掻き行動は、スクラバ−リアル(SCLABA-Real)システム(実験動物用引っ掻きカウンティング、ノベルテック社、神戸市)(ハットリら、J.Immunol.184:2729,2010)を用いて定量化した。測定30分前にマウスをスクラバ機器に入れて新しい環境に適応させた後、観察チャンバ内で引っ掻き数を1時間計測した。一連の引っ掻き行動(即ち、後足を頭、顔又は背中に伸ばすことから足を戻すまでの行動)を1回の引っ掻きとして計測した。
【0167】
臨床的皮膚状態スコアは、マツダら、Int.Immunol.:461,1997に記載の基準に従って求めた。観察項目は、1)掻痒症/掻痒感、2)紅斑/出血、3)浮腫、4)剥脱/糜爛、及び5)鱗屑/乾燥とした。各観察項目のスコアは、0(なし)、1(軽度)、2(中程度)及び3(重度)とした。臨床的皮膚状態スコアは、5個の観察項目スコアの合計とした。
【0168】
図11は、各処理グループにおける引っ掻き頻度の変化(標準誤差バー付き平均値でプロット)を示す。グループ3(アプタマー処理)においては引っ掻き頻度は14日目〜28日目に確実に低下したが、グループ1(処理なし)及びグループ2(HO処理)においては28日間に亘って頻度に変化は見られなかった。グループ4(通常のSPFマウス)の引っ掻き頻度は非常に低かった(データは図示せず)。図12は、各処理グループにおける臨床的皮膚状態スコアの変化(標準誤差バー付き平均値でプロット)を示す。グループ3(アプタマー処理)においては皮膚状態スコアは14日目〜28日目に確実に低下したが、グループ1(処理なし)及びグループ2(HO処理)においては28日間に亘って変化は見られなかった。グループ4(通常のSPFマウス)の皮膚状態スコアは非常に低かった(データは図示せず)。
【0169】
上述の実施形態及び実施例は単なる例示に過ぎないとする。特定の実施形態や実施例、特定の実施形態又は実施例の要素も請求の範囲のいずれかの重要、必要又は本質的な要素や特徴として解釈すべきではない。また、「本質的な」又は「重要な」と明記されない限り、本明細書に記載のどの要素も添付された請求の範囲を実施する上で必要ではない。添付の請求の範囲で定義された本発明の範囲から逸脱せずに、開示された実施形態に対して種々の修正や改変、代替及び他の変更を行うことができる。図及び実施例を含む明細書は、限定的ではなく例示的と見なすべきであり、また、そのような全ての変更や代替は、本発明の範囲に含まれるものとする。従って、本発明の範囲は、上述の実施例ではなく添付した請求の範囲及びその法的等価物によって決定すべきである。例えば、方法又はプロセスの請求項のいずれかに記載の段階は如何なる実行可能な順序で行うこともでき、実施形態、実施例又は請求の範囲のいずれかに記載の順序に限定されない。
【0170】
【表7-1】
【0171】
【表7-2】
【0172】
【表7-3】
【0173】
【表7-4】
【0174】
【表7-5】
【0175】
【表7-6】
【0176】
【表7-7】
【0177】
【表7-8】
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]