特許第6012621号(P6012621)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6012621リモートノイズ検知器を使用したノイズ削減システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012621
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】リモートノイズ検知器を使用したノイズ削減システム
(51)【国際特許分類】
   G10L 21/0208 20130101AFI20161011BHJP
   G10L 21/0272 20130101ALI20161011BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   G10L21/0208 100A
   G10L21/0272 100A
   H04R3/00 320
【請求項の数】13
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-543926(P2013-543926)
(86)(22)【出願日】2011年12月7日
(65)【公表番号】特表2014-503849(P2014-503849A)
(43)【公表日】2014年2月13日
(86)【国際出願番号】IB2011055515
(87)【国際公開番号】WO2012080907
(87)【国際公開日】20120621
【審査請求日】2014年12月5日
(31)【優先権主張番号】10306412.7
(32)【優先日】2010年12月15日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】KONINKLIJKE PHILIPS N.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】スリニヴァサン,スリラム
【審査官】 大野 弘
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−531969(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/066618(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10L 21/0208
G10L 21/0272
H04R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響信号の受信の最中にバックグラウンドノイズと干渉のうち少なくとも一つを削減するためのノイズ削減装置であって:
少なくとも一つのリモートノイズ検知器からのノイズ見積りを受信するためのワイヤレス受信器と、
主音源からの音響信号を受信するための音響受信器と、
前記受信したノイズ見積りに基づいて、前記受信した音響信号におけるノイズコンポーネントを削減または消去するためのノイズ削減プロセッサと、を含み、
前記受信したノイズ見積りは、前記リモートノイズ検知器で受信されたノイズまたは干渉の電力スペクトル密度であり、
前記電力スペクトル密度は、正の周波数だけであり、かつ、クロックとの同期を要せず、前記ノイズ見積りとして、削減されたスペクトル解像度で送信される、
ことを特徴とするノイズ削減装置。
【請求項2】
前記音響受信器は、前記主音源からの前記音響信号を受信するように適合された第1のマイクロフォンを含む、
請求項1に記載のノイズ削減装置。
【請求項3】
前記ノイズ削減プロセッサは、前記受信したノイズ見積りと前記受信した音響信号における前記ノイズコンポーネントとの間のレベルの差異を、音声モデルに基づいて、フレームバイフレームベースで補償するためのレベル調整ユニットを含む、
請求項1に記載のノイズ削減装置。
【請求項4】
前記ノイズ削減プロセッサは、前記リモートノイズ検知器と前記音響受信器との間の音響パスを見積るためのパス見積りユニットを含む、
請求項1に記載のノイズ削減装置。
【請求項5】
前記ノイズ削減プロセッサは、単一チャンネルの音声強調アルゴリズムによって前記受信したノイズ見積りを利用するための音声強調ユニットを含む、
請求項1に記載のノイズ削減装置。
【請求項6】
前記ノイズ削減装置は、アドホックネットワーク接続を介して、前記リモートノイズ検知器に接続するように適合されている、
請求項1に記載のノイズ削減装置。
【請求項7】
バックグラウンドノイズまたは干渉を検知し、ノイズ削減装置に対してノイズ見積りを無線で送信するためのリモートノイズ検知器であって、
前記リモートノイズ検知器は、前記検知したバックグラウンドノイズまたは干渉の電力スペクトル密度を見積り、前記見積った電力スペクトル密度を、前記ノイズ見積りとして削減したスペクトル解像度で送信するように適合されており、
前記電力スペクトル密度は、正の周波数だけであり、かつ、クロックとの同期を要しない、
リモートノイズ検知器。
【請求項8】
前記リモートノイズ検知器は、第2のマイクロフォンを含む、
請求項7に記載のリモートノイズ検知器。
【請求項9】
前記リモートノイズ検知器は、アドホックネットワーク接続を介して、前記ノイズ削減装置に接続するように適合されている、
請求項7に記載のリモートノイズ検知器。
【請求項10】
前記リモートノイズ検知器は、パス見積りを可能にするために、スタートアップの最中に、前記ノイズ削減装置に対してタイムドメイン波形を送信するように適合されている、
請求項7に記載のリモートノイズ検知器。
【請求項11】
音響信号の受信の最中にバックグラウンドノイズと干渉のうち少なくとも一つを削減するためのシステムであって、
前記音響信号を生成する主音源の近くに配置された請求項1に記載のノイズ削減装置と、
前記バックグラウンドノイズまたは前記干渉を生成する少なくとも一つの第2の音源の近くに配置された少なくとも一つのリモートノイズ検知器と、を含む
イズ削減システム。
【請求項12】
音響信号の受信の最中にバックグラウンドノイズと干渉のうち少なくとも一つを削減するための方法であって:
少なくとも一つのノイズ検知器からノイズ見積りを無線で受信するステップと、
主音源から音響信号を受信するステップと、
前記無線で受信したノイズ見積りに基づいて、前記受信した音響信号におけるノイズコンポーネントを削減または消去するステップと、を含み、
前記受信したノイズ見積りは、リモートの前記ノイズ検知器で受信されたノイズまたは干渉の電力スペクトル密度であり、
前記電力スペクトル密度は、正の周波数だけであり、かつ、クロックとの同期を要せず、前記ノイズ見積りとして、削減されたスペクトル解像度で送信される、
ことを特徴とする方法。
【請求項13】
コンピューターデバイス上で実行された場合に、請求項12に記載の方法を実施するためのコードを含むコンピュータープログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バックグラウンドノイズ、及び/又は、音響信号の受信の最中の干渉を削減するための削減装置、方法、およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
バックグラウンドノイズや干渉によって乱された音声の強調は難しい問題である。特に、音楽といった、高度に多様化し干渉している音声または音響信号についてはそうである。このことは、例えば、携帯電話、ハンズフリー通信、補聴器等、いくつかのアプリケーションドメイン(application domain)に関連する問題である。ボイスオーバーインターネットプロトコル(VoIP)通信がますますリビングルームにおいて一般的になるにつれて、新たなアプリケーションのシナリオが登場している。一人は、家の中でVoIP電話に巻き込まれ、一方、同じ部屋の中で、別の一人はテレビ(TV)を見ているか、音楽を聴いているのである。VoIPでの会話は長くなる傾向があるので、こうしたシナリオにはより注意が必要である。難しいのは、例えば、TVまたは音楽システムからの音といった、バックグラウンドノイズまたは干渉を抑制する一方で、話し手の音声だけを伝えることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、強化されたノイズ削減システムを提供することであり、音響受信器を介した音声受信の最中に、抑制されたバックグラウンドノイズまたは干渉を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的は、請求項1に記載のノイズ削減システム、請求項8に記載のリモートノイズ検知器、請求項14に記載の方法、請求項13に記載のノイズ削減システム、および、請求項15に記載のコンピュータープログラム、によって達成される。
【0005】
つまり、リモートワイヤレスマイクロフォン(RWM)といったような、少なくとも一つのリモート検知器が、少なくとも一つのノイズ源の近くに配置され、関連のノイズ情報を主デバイスに対して送信する。情報は、ノイズ削減のために使用される。ポータブルなワイヤレスオーディオデバイスがますます一般的になるにつれて、特にノイズが存在する場合に、高品質な音声獲得(speech capture)を可能にする、こうしたデバイスのアドホック(ad−hoc)ネットワークを形成することができる。特に、こうしたデバイスをそれぞれの信号干渉源の近くに配置して、デバイスの音声または音響信号から引き出した適切な特徴を主デバイスに対して無線で送信することは、ノイズ削減のために重要な利点を提供することができる。
【0006】
現行の単一マイク音声強調技術は、非定常的なノイズ状況において性能が乏しいことで問題があり、音楽といった高度に多様化した干渉の存在において、品質または明瞭さの改善を提供することができない。提案する本ソリューションは、ノイズ源の近くに配置されたリモートワイヤレス検知器(例えば、マイクロフォン)を使用することによって、こうした制限を克服する。本ソリューションは、複数のノイズ源をキャンセルまたは補償するように当然に拡張できる。ノイズ源それぞれの近くにワイヤレスノイズ検知器を配置し、ノイズ削減装置に対して信号を発信させることによってである。
【0007】
マイクロフォンアレイ(microphone array)が、音楽といった非定常的な干渉を削減することができるものとして示されてきたが、このアプローチは、こうしたアレイの設置を必要とする。本ソリューションは、アレイといった専用のハードウェアの必要性を排除し、ユーザー環境において既に利用可能な検知器(マイクロフォンといったもの)を使用する。さらに、マイクロフォンアレイを使用する非定常的なノイズ削減は、干渉がアレイにほどよく近い場合に最も良く作用するのだが、必ずしもそういう場合ではないこともある。本提案のソリューションは、この制限を克服する。
【0008】
リモートノイズ検知器からのノイズ見積り信号が、ビーム成形器を使用する主音響受信器(例えばマイクロフォン)の信号と組み合わされる場合には、マイクロフォンを含む個々のデバイスのクロックを正確に同期させることが必要となる。
【0009】
本発明の第1の実施例に従えば、音響受信器は、主音源からの音響信号を受信するように適合された第1のマイクロフォンを含む。それにより、効率的にリモートノイズ源からのバックグラウンドノイズを検知することができ、第1のマイクロフォンでの音響信号の受信の最中にバックグラウンドノイズを削減または消去することができる。
【0010】
第1の態様と組み合わせることができる本発明の第2の実施例に従えば、ノイズ削減プロセッサは、受信したノイズ見積りと受信した音響信号におけるノイズコンポーネントとの間のレベルの差異を、音声モデルに基づいて、フレームバイフレームベースで補償するためのレベル調整ユニット、ステージ、または機能を含む。このように、変化しているバックグラウンドノイズを素早く補償することができる。
【0011】
第1の態様と第2の態様の少なくとも一つと組み合わせることができる本発明の第3の実施例に従えば、受信したノイズ見積りは、リモートノイズ検知器で受信されたノイズまたは干渉の電力スペクトル密度である。従って、リモートノイズ検知器の電力スペクトル密度を送信することのみによって、正の周波数だけを送信する必要がある。PSDは対称だからであり、より少ないビットを送信すればよいので結果として電力削減になる。さらなる電力削減は、削減されたスペクトル解像度においてPSDを送信することによって達成される。これにより、電力消費とパフォーマンスとの調整可能なトレードオフ(trade−off)を提案している。加えて、クロックの同期は必要とされない。
【0012】
第1の態様から第3の態様の少なくとも一つと組み合わせることができる本発明の第4の実施例に従えば、ノイズ削減プロセッサは、リモートノイズ検知器と音響受信器との間の音響パスを見積るためのパス見積りユニット、ステージ、または機能を含む。これにより、音響パスを補償することができて有利である。
【0013】
第1の態様から第4の態様の少なくとも一つと組み合わせることができる本発明の第5の実施例に従えば、単一チャンネルの音声強調アルゴリズムによって受信したノイズ見積りを利用するための音声強調ユニット、ステージ、または機能を含む。
【0014】
第1の態様から第5の態様の少なくとも一つと組み合わせることができる本発明の第6の実施例に従えば、ノイズ削減装置とリモートノイズ検知器は、アドホックネットワーク接続を介してお互いに接続するように適合されている。これにより、音響信号の高品質な獲得が可能となる。
【0015】
第1の態様から第6の態様の少なくとも一つと組み合わせることができる本発明の第7の実施例に従えば、リモートノイズ検知器は、パス見積りと、従って、補償を可能にするために、スタートアップの最中に、ノイズ削減装置に対してタイムドメイン波形を送信するように適合されている。
【0016】
本発明のさらなる一つの態様では、ノイズ削減を実行するためのコンピュータープログラムが提供される。コンピュータープログラムは、プログラムがノイズ削減システムをコントロールするコンピューター上で実行された場合に、上述のノイズ削減方法をノイズ削減装置に実行させるためのコードを含んでいる。
【0017】
本発明の望ましい実施例は、また、それぞれの独立請求項と従属請求項とのあらゆる組み合わせであり得ることが理解されるべきである。
【0018】
本発明のこれらの、または他の態様は、以降に記載される実施例から明らかにされ、説明される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、典型的な本ノイズ削減システムの実施例を模式的に示している。
図2図2は、典型的な本ノイズ削減装置の実施例を模式的に示している。
図3図3は、典型的な本ノイズ削減方法のフローチャートを示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の一つの実施例に従ったノイズ削減システムを示している。VoIPコール(call)のためのユーザーの声または所望の音響信号のあらゆる他のソース(source)といった、主音響源(PAS)300が、主マイクロフォン(PM)30もしくは、音声または音響信号に対するあらゆる他の検知器を介して受け取られる。検知された音響信号は、信号検知プロセスの最中に付加されたノイズ及び/又は干渉をキャンセルし、または抑制するように適用されたノイズ削減ユニット(NR)20に対して供給される。より特定的には、ノイズ削減ユニットまたはプロセッサ20は、図1に描かれた第2の音源100といった、他のリモートな第2の音源(SAS)によって、所望の信号に付加されたあらゆるノイズ及び/又は干渉を決定し、または見積もるように適合されている。第2の音源100は、テレビ(TV)装置、音楽プレーヤー、または、主マイクロフォン30によって検知されるべき所望の信号に影響するバックグラウンドノイズまたは干渉に係るあらゆるソースであり得る。ノイズ削減プロセッサでの干渉及び/又はノイズの決定は、少なくとも一つのリモートワイヤレスマイクロフォン(EWM)を第2の音源100の近くに配置することによって達成される。第2の音源100での干渉またはノイズを検知して、検知されたノイズ/干渉信号をワイヤレス接続を介してノイズ削減プロセッサ20におけるワイヤレス受信器(RX)に対して送信するようにである。受信されたノイズ/干渉信号は、ノイズ削減プロセッサ20に供給され、ノイズ/干渉見積りと後のノイズ削減またはキャンセルのために使用される。処理された音声または音響信号は音響処理(AP)ステージ40に提供され、関連の音響アプリケーションに基づいて処理される。例えば、インターネットを介して発信者に対して音響信号を転送するためのVoIPアプリケーションである。
【0021】
リモートマイクロフォン10は、ポータブルなワイヤレスデバイスとして実施されてもよいし、特にノイズが存在する場合には、高品質な音声獲得ができるように、ノイズ削減プロセッサ20においてワイヤレス受信器を伴なうアドホックネットワークを形成するように適合されてもよい。ワイヤレスアドホックネットワークは、分散化されたネットワークである。ネットワークは、アドホックである。有線ネットワークにおけるルーター、または管理された(インフラストラクチャ)ワイヤレスネットワークにおけるアクセスポイントといった、既に存在しているインフラストラクチャに依存しないからである。代わりに、それぞれのノードは、他のノードに対してデータを転送することによってルーティング(routing)に関与する。そして、どのノードがデータを転送したかの決定は、ネットワークの接続性に基づいて動的に行われる。ワイヤレスアドホックネットワーク(モバイルアドホックネットワーク、ワイヤレスメッシュネットワーク、またはワイヤレスセンサーネットワークといったもの)の分散化された性質は、それらをセントラル(central)ノードが依存され得ない本発明のノイズ削減システムに適したものにしている。もちろん、他のタイプのワイヤレスリンク、例えば802.11規格に従ったリンク、がリモートマイクロフォン10とノイズ削減プロセッサ20との間の信号目的のために使用されてもよい。
【0022】
このように、本発明の実施例に従って提案されたノイズ削減システムは、主マイクロフォン10と、例えば、ノイズ源といった、第2の音源の近くに配置された一つまたはそれ以上のワイヤレスマイクロフォン10を含んでいる。実施例において、リモートマイクロフォン10は、観察され、検知されたノイズ/干渉信号の電力スペクトル密度(PSD)を主マイクロフォン30におけるノイズ削減プロセッサ20に対して送信するように適合されている。補償が必要なレベルの差異に依存し、これらはノイズPSDの見積りとして働く。
【0023】
主マイクロフォン30のノイズ削減プロセッサ20においては、リモートマイクロフォン10から受信したPSDと主マイクロフォン30で観察されたノイズ信号のPSDのレベルとのレベルの差異は、モデルベースのアプローチを使用するために補償され、続いて、主マイクロフォン30で観察されたノイズのある信号からのノイズを抑制するために使用される。
【0024】
上記に説明された設定における重要な疑問点は、リモートマイクロフォン10が送信すべき信号のことである。ローカルおよびリモートマイクロフォンからの信号がビーム形成器に対する入力として使用される場合には、タイムドメイン(time−domain)の波形を送信することが必要となる。しかしながら、データのワイヤレス送信は、電力集中的である。加えて、主マイクロフォン30とリモートマイクロフォン10は独立したクロックをもつ分離したデバイスに接続されているので、2つのクロックを正確に同期させるメカニズムが不可欠になる。さらに、2つのマイクロフォン間の距離は大きくなり得るので(例えば、2−4メートル)、ビーム形成器は、興味の周波数において、空間折り返し歪みに苦しむことになる。
【0025】
図2は、本発明のノイズ削減プロセッサ20の典型的な実施例を模式的に示している。レベル調整(LA)ステージ220において、周波数から独立したレベルの差異が補償される。主マイクロフォン30とリモートマイクロフォン10は距離が離れているという事実によるものである。観察されたノイズ/干渉信号の電力スペクトル密度(PSD)の見積りを送信することにはいくつかの利点がある。リモートマイクロフォン10は、主マイクロフォン30よりもノイズ源により近いので、リモートマイクロフォン10で観察された信号のPSDは、主マイクロフォン30でのノイズPSDの良い概算であり、適度な反響レベルである。例えば、S.Srinivasan、J.Samuelsson、W.B.Kleijn、共著の“Codebook−based Bayesian speech enhancement for nonstationary environments”、IEEE transaction on audio、speech、and language processing、vol.15、no.2、2007、に記載されるように、音声モデルの使用によって、このレベル調整をフレームバイフレーム(frame−by−frame)ベースで計算することができ、素早く変化するノイズを扱うことができる(フレームは、音声信号の短いセグメントであり、典型的には20から32ミリ秒の長さである)。
【0026】
反響(reverbration)は、オリジナルの音が除去された後の、所定の部分における音のパーシスタンス(persistence)である。反響、またはリーバーブは、多くのエコー(echo)の重なりを生じる囲まれた空間において音が生成されるときに創出され、音が壁や空気によって吸収されるにつれてゆっくりと衰退していく。このことは、音源は停止したが、反響の大きさは減少しながら、もはや聞こえなくなるまで続いている場合に、最も顕著である。最初の音の後の50から100ミリ秒である別個のエコーと比較すると、反響は、非常に素早く連続(エコー間は0.01から1ミリ秒)して到着する数千のエコーである。時間の経過につれて、多くのエコーの大きさは、全く聞こえなくなるまで減少する。従って、ノイズ削減システムの環境における反響の量が大きい場合には、リモートマイクロフォン10での信号のPSDと主マイクロフォン30でのノイズPSDは、もはや、ちょうど周波数と独立のレベルファクターほども違わない。この場合、任意的なパス見積り(PE)ステージ230が提供される。スタートアップの最中は、それぞれのリモートマイクロフォン10は、ノイズ削減プロセッサ20に対してタイムドメインの波形を送付する。例えば、正規化された最小平均二乗(LMS)フィルターを使用して、パス見積りステージ230において、それぞれのリモートマイクロフォン10と主マイクロフォン30との間の音響パスが見積もられる。わかってしまえば、このパスを補償することができる。よって、2つのPSDは、周波数と独立のレベルファクターだけ異なり、PSDだけを送信することで十分である。
【0027】
レベルが調整され、任意的に音声補償されたリモートマイクロフォン信号のノイズPSDは、次に、音声強調(SE)ステージ240において、単一チャンネルの音声強調アルゴリズムによって利用される。単一のノイズのある信号からノイズPSDを見積もることは、特に非定常的なノイズ状況において、難しい。従って、リモートマイクロフォン10からの正確なノイズPSD情報は、次のノイズ削減(NR)ステージ250におけるノイズ削減に著しい改善を提供することができる。例えば、20から32ミリ秒毎に計算されたノイズPSDを送信することにより、音楽といった高度に変化するノイズのタイプを追跡することができる。送信する必要があるのはスペクトル情報だけなので、正確なクロックの同期はもはや重要ではない。さらに、実信号のPSDは対称なので、正の周波数だけを送信すれば十分である。それにより、生の信号を送信するのに比べて、電力消費を削減している。さらに、送信のバンド幅を削減するために、必ずしも全ての周波数ビン(bin)を送信する必要はない。代わりに、削減されたスペクトル解像度においてPSDを送信することができる。
【0028】
図3は、ノイズ削減プロセッサ20に適用することができるノイズ削減方法の実施例を説明する典型的なフローチャートを示している。
【0029】
ステップS101では、それぞれのリモートマイクロフォンから受信したタイムドメインの波形に基づいて、最初のパス見積りが実行される。次に、ステップS102では、状況に応じてパス補償パラメーターが設定される。ステップS103では、リモートマイクロフォン(RWM)10からのノイズ見積りが受信され、ステップS104において、例えば上述の音声モデルに基づいて、レベル調整が実施される。次に、ステップS105では、レベルが調整された信号に対して、パス見積りと音声アライメント(alignment)処理が適用される。最後に、ステップS106では、見積りされたノイズ及び/又は干渉に基づいて、主マイクロフォン30からの信号に対してノイズ削減処理が適用される。その後、ステップS107で、さらなるノイズ見積りがリモートマイクロフォン10から受信されていないかを確認する。もし、なければ、プロセスは終了する。一方、さらなるノイズ見積りが利用可能な場合、プロセスはステップS103に戻り、さらなる利用可能な見積りが無くなるまで、ステップS103からS106の処理を繰り返す。
【0030】
3つの異なるタイプの音楽によって乱された音声に対して、セグメントの信号対ノイズ比(SNR)における改善が試験された。結果は、10個の異なる音声発言にわたって平均化され、それぞれの入力SNRは0dBである。所望の干渉信号は、約3メートル離れて設置された2つのラウドスピーカーから発せられた。主マイクロフォン30は、典型的なPC上でのVoIP電話におけるように、所望の主音源300から0.5メートル離れて配置された。リモートマイクロフォン10は、音楽信号を発しているラウドスピーカーの近くに配置された。反響時間(T60)は、直接音の反射が衰退して直接音のレベルより60dB下がるまでに要する時間である。試験室のT60は、約400ミリ秒であった。提案されたノイズ削減アプローチのために、ノイズPSDの見積りとして、RWMによって観察された信号のPSDが使用され、上述の音声モデルを使用して、主マイクロフォンで観察されたノイズのある音声が処理された。そして、リモートマイクロフォン10の信号のPSDと主マイクロフォン30でのノイズPSDとのレベルの差異を補償することができる。比較のために、従来技術での非定常的なノイズ状況のためのノイズ見積りスキームが、ノイズのある音声を強調するために使用された。例えば、S.Rangachari、P.C.Loizou、共著の“A noise−estimation algorithm for highly non−stationary environments”、Speech Communication、 Volume48、Issue2、February2006、Pages220−23、において説明されたものである。
【0031】
上記の実施例は、一つのリモートマイクロフォンまたは検知器を複数の第2の音源のそれぞれ近くに配置し、それらのノイズ情報(例えば、PSD)を主マイクロフォンに対して送信させることによって、複数の第2の音源を抑制するように強化され得る。代替として、複数のリモートマイクロフォンまたは検知器を一つの第2の音源の近くに配置し、ノイズ見積りを改善することができる。当業者業者であれば、図面、明細書、および添付の請求項を学習すれば、請求された発明を実施することにおいて、開示された実施例に対する他のバリエーションが理解され、もたらされるであろう。
【0032】
請求項において、用語「含む(“comprising“」は、他のエレメントまたはステップの存在を排除するものではなく、不定冠詞「一つの(”a“または”an“)」は、複数を排除するものではない。
【0033】
単一のユニットまたはデバイスが、請求項に記載のいくつかのアイテムの機能を満たすこともあり得る。特定の手段が、お互いに異なる従属請求項の中で引用されているという事実だけでは、これらの手段の組合せが有利に使用され得ないことを示すものではない。
【0034】
ステップS101からS107は、単一のユニットまたは他のあらゆる数の異なるユニットによって実行され得る。ノイズ削減プロセッサ20の計算、処理、及び/又はコントロールは、コンピュータープログラムのプログラムコードとして、及び/又は専用のハードウェアとして実行され得る。
【0035】
コンピュータープログラムは、光記録媒体もしくは半導体媒体といった、好適な媒体上に記録され、配布され、ハードウェアと供に、またはハードウェアの一部として提供され得る。しかし、インターネット、または他の有線もしくは無線の電子通信システムを介するといった、他の形式においても配布され得る。
【0036】
請求項におけるいかなる参照番号も、発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0037】
本発明は、少なくとも一つのノイズ源の近くに配置された少なくとも一つのリモートノイズ検知器を伴なうノイズ削減システムに関する。ノイズ検知器は、主デバイスに対して関連する情報を送信し、情報はノイズ削減のために使用される。それにより、主デバイスから得られた信号で、コントローラーに対してノイズ削減のためにノイズ見積りが送信されるということにおいて、少なくとも一つのリモートノイズ検知器を介して音響信号の強調が達成され得る。
図1
図2
図3