【文献】
Proc Natl Acad Sci USA. 2009, vol.106, no.42, p.17864-17869
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記Fc−含有分子が、IgG1分子を残基222〜237(EU番号付けにより定義される)の間で切断することが可能なプロテアーゼによる分解に対して耐性である、請求項1に記載のFc−含有分子。
前記Fc−含有分子が、野生型IgG1と比較して、MMP−3、MMP−7、MMP−12、MMP−13、HNE、プラスミン、カテプシンG、ペプシン、化膿性連鎖球菌(Strep. Pyrongenes)由来の免疫グロブリン分解酵素(IdeS)、又は黄色ブドウ球菌(Staph. aureus)由来のグルタミルエンドペプチダーゼI(GluV8)による分解に対して耐性である、請求項2に記載のFc−含有分子。
前記Fc−含有分子が、野生型IgG1と比較して、MMP−3、MMP−7、IdeS、又はGluV8のうちの1つ以上による分解に対して耐性である、請求項3に記載のFc−含有分子。
前記Fc−含有分子が、CD14 pos及び/又はCD11b pos血液単核細胞の存在下で測定して、ADCPを促進することが可能であり、前記分子が、配列番号8、10〜15、及び17〜20の群から選択される配列を含む、請求項1に記載のFc−含有分子。
分子が、EU番号付けにより定義されるP233−V234−A235で置換され、かつG236が削除された野生型IgG1のヒンジドメインを含み、又は配列番号3を含み、EU番号付けシステムにより定義される追加のI332Eを有する、請求項5に記載のFc−含有分子。
分子が、EU番号付けにより定義されるP233−V234−A235で置換され、かつG236が削除された野生型IgG1のヒンジドメインを含み、又は配列番号3を含み、EU番号付けシステムにより定義される追加のI332Eを有する、請求項7に記載のFc−含有分子。
組換えポリペプチドである単離された結合分子であって、(i)細胞上の又は前記細胞に結合された標的分子に結合可能な結合ドメインと、(ii)ヒトIgG1重鎖のCH2及びCH3定常ドメインの全部又は一部と実質的に相同のアミノ酸配列を有するFc−ドメインであって、EU番号付けシステムにより定義される残基214〜238が、配列番号4及び5から選択される配列を含む、前記Fc−ドメインと、を含み、前記結合分子が、標的細胞上の前記標的分子に結合可能であり、前記分子が、必要なエフェクター細胞タイプの存在下で、前記標的細胞の測定可能な補体依存性溶解又は細胞媒介性破壊を生じさせることを特徴とする、結合分子。
前記Fc−ドメインが、IgG1分子を残基222〜237(EU番号付けにより定義される)の間で切断することが可能なプロテアーゼによる分解に対して耐性である、請求項19に記載の結合分子。
前記結合ドメインが、抗体のパラトープを含むドメイン;酵素;ホルモン;受容体;サイトカイン;免疫細胞表面抗原;及び接着分子から選択される、請求項19に記載の結合分子。
前記Fcが、I332E単独又はS239D/I332E、S239D/H268F/I332E、S239D/H268F/S324T/I332E、S267E/H268F/S324T/I332E、G237X/S239D/I332E(Xは、A又はSである)などの他の置換との組み合わせ;K326A/E333A;及びF243L/R292P/Y300Lから選択される置換を含む、請求項29に記載の医薬組成物。
前記Fcが、S239D単独又はS239D/I332E、S239D/H268F/I332E、S239D/H268F/S324T/I332E、S267E/H268F/S324T/I332E、G237X/S239D/I332E(Xは、A又はSである)などの他の置換との組み合わせ;K326A/E333A;及びF243L/R292P/Y300Lから選択される置換を含む、請求項29に記載の医薬組成物。
【発明を実施するための形態】
【0014】
略称
ADCC=抗体依存性細胞性細胞傷害;ADCP、抗体依存性細胞性貪食作用;CDC=補体依存性細胞傷害;FDCR=Fc依存性サイトカイン放出;FcγR=Fcガンマ受容体;GluV8=黄色ブドウ球菌のグルタミルエンドペプチダーゼV8;IdeS=化膿性連鎖球菌の免疫グロブリン分解酵素IgG=免疫グロブリンG;ITAM=免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ;ITIM=免疫受容体チロシンベースの阻害モチーフ;Mab=モノクローナル抗体;MMP=マトリックスメタロプロテイナーゼ;用語プロテアーゼはプロテイナーゼと等価であり、交換可能に使用される;PR=プロテアーゼ耐性。
【0015】
定義&用語の説明
「抗体依存性細胞傷害」「抗体依存性細胞媒介性細胞障害」又は「ADCC」とは、細胞傷害性細胞(例えばナチュラルキラー(NK)細胞、好中球及びマクロファージ)上に存在するFc受容体(FcR)上に結合した、分泌されたIgが、これらの細胞傷害性エフェクター細胞が抗原を有する標的細胞に特異的に結合してその後標的細胞を細胞毒で殺傷することを可能にするような、細胞傷害の形態を意味する。標的細胞の表面に指向されるリガンド特異的高親和性IgG抗体は、細胞傷害性細胞を刺激し、またそのような殺傷に絶対に必要である。標的細胞の溶解は細胞外であり、直接の細胞間接触を必要とし、また補体に関与しない。
【0016】
任意の特定の抗体の、ADCCによる標的細胞の溶解を媒介する能力が測定され得る。ADCC活性を評価するために、目的の抗体は、標的細胞の細胞溶解をもたらす抗原抗体複合体によって活性化され得る免疫エフェクター細胞と共同して、標的リガンドを示す、標的細胞に添加される。細胞溶解は、通常、溶解した細胞からの標識(例えば、放射性基質、蛍光染料、又は天然細胞内タンパク質)の放出によって検出される。そのようなアッセイに有用なエフェクター細胞としては、末梢血単核球(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられる。インビトロでのADCCアッセイの具体的な例は、Wisecarver et al,19:211、Bruggemann et al,1987,J Exp Med 166:1351、Wilkinson et al,2001,J Immunol Methods 258:183、Patel et al,1995,J Immunol Methods 184:29に説明される(これらのそれぞれは、参照によって組み込まれる)。別の方法として、又は追加として、目的の抗体のADCC活性は、インビボで、例えば、その内容が参照によってその全体において組み込まれるClynes et al,1998,PNAS USA 95:652に開示されるような動物モデルにおいて、評価されてもよい。エフェクター細胞が殆ど貪食作用を介して作用する場合、プロセスは、抗体依存性細胞性貪食作用(ADCP)として記載され得る。
【0017】
「補体指向性細胞傷害」又はCDCは、補体カスケードが、抗体Fcに結合する補体成分C1qによって活性化される、細胞傷害の形態を指す。
【0018】
用語「エフェクター機能」は、溶解性プロセスによる、又はエフェクター細胞及び補体成分による貪食作用による抗原発現細胞の除去をもたらす、免疫細胞上に発現されるFcγ受容体(FcγR)とのFcの相互作用、及び補体のFcドメイン相互作用を含む。
【0019】
本明細書で使用される用語「Fc」、「Fc含有タンパク質」、又は「Fc含有分子」は、少なくとも免疫グロブリンCH2及びCH3ドメインを有する、単量体、二量体、又はヘテロ二量体タンパク質を指す。CH2及びCH3ドメインは、タンパク質/分子(例えば、抗体)の二量体領域の少なくとも一部を形成することができる。
【0020】
本明細書で使用される用語「抗体」は、動物抗体の少なくとも1つの種の重鎖又は軽鎖抗体可変ドメインのうちの少なくとも1つに対して実質的に相同性を含む又は保持する、少なくとも1つのリガンド結合ドメインを含む、Fc含有タンパク質の特定の形態である。
【0021】
野生型ヒトIgGサブクラス定常配列は、UniProtデータベースに目録されており、オンラインでP01857(IgG1)、P01859(IgG2)、P01860(IgG3)、及びP01861(IgG4)として入手可能である。本明細書で使用される「野生型ヒトIgG1 Fc領域」は、KabatのEU番号付けによる、ヒトIgG重鎖の残基K214〜残基K447である、配列番号1のアミノ酸配列又はその断片を含むヒトIgG Fc領域を指す。定常領域内のアミノ酸は、ヒトIgG1抗体、EUとの整列によって番号付けされる(Cunningham et al.,1970 Biochemistry.,9:3161〜70参照)。即ち、抗体の重鎖及び軽鎖は、アミノ酸配列同一性を最大化するようにEUの重鎖及び軽鎖と整列され、抗体内のそれぞれのアミノ酸は、EUにおける対応するアミノ酸と同じ番号を割り当てられる。EU番号付け方式は、当技術分野において従来使用されている(概略的には、Kabat et al,Sequences of Protein of Immunological Interest,NIH Publication No.91〜3242,US Department of Health and Human Services(1991)を参照)。慣習に従って、野生型IgG2定常領域と、EUのIgG2定常領域との整列は、位置221〜223及び236にて空のアミノ酸をもたらす(
図2、配列番号2)。
【0022】
哺乳動物のIgG重鎖の定常ドメインの配列は、CH1−ヒンジ−CH2−CH3として、配列内に指定される。IgGの「ヒンジ」、「ヒンジ領域」又は「ヒンジドメイン」は一般に、Kabatシステムによれば、ヒトIgG1のGlu216を含み、Pro230で終結するとして定義されるが、機能的には、鎖の可撓性部分は、Glu216〜Gly237などの上部及び下部ヒンジ領域と称される追加の残基を含むと見なされてもよく(Roux et al.J.Immunol.1998,161:4083)、下部ヒンジは一般に、Fc領域の残基233〜239と称され、FcγR結合は該残基に帰される。他のIgGアイソタイプのヒンジ領域は、重鎖間のS−S結合を形成する最初及び最後のシステイン残基を配置することによって、IgG1配列と整列されてもよい。Kabatシステムにより番号付けされるように、境界は僅かに異なり得るが、CH1ドメインは、VHドメインと、免疫グロブリン重鎖分子のヒンジ領域に対するアミノ末端とに隣接し、免疫グロブリン重鎖の最初の(最もアミノ末端寄りの)定常領域ドメイン、例えば、約EU位置118〜215を含む。Fcドメインは、アミノ酸231〜アミノ酸447に延び;CH2ドメインは、Ala231〜Lys340又はGly341に延び、CH3は、ほぼGly341又はGln342〜Lys447に延びる。CH1領域のIgG重鎖定常領域の残基は、Lysで終結する。
【0023】
用語「プロテアーゼ耐性」は、ペプチド結合を含む分子が、タンパク質分解酵素の存在下で、該分子の1つ以上のペプチド結合の加水分解切断に耐える能力を指す。タンパク質分解酵素に対する耐性は、相対的な特性であり、特定の時間の間、切断耐性が試験されるpH及び又は温度を含む特定の条件下で、その1つ以上のペプチド結合の加水分解切断に耐える能力が比較的低い分子と比較される。切断が起こったことを示すタンパク質分解切断の1つの結果は、無傷の非切断親分子の分子量と比較して小さい断片(小さい分子量)の生成である。
【0024】
用語「治療的有効量」は、抗体、抗体断片、又は誘導体であってもよい、Fcドメインを含む本明細書に記載した治療薬が、対象における疾病又は疾患を処置する量を指す。
【0025】
概論
本発明は、インサイチューでのタンパク質分解に対する改善された耐性を有し、また、サイトカイン放出を引き起し、又は標的細胞を囲む標的抗原提示細胞を損傷若しくは殺傷する能力が維持された、治療用抗体、Fc融合体、及び類似のバイオ医薬品生物薬剤の製造に使用するためのFcドメインを同定することへの関心によって動機付けられている。
【0026】
プロテアーゼは、触媒部位の構造と、該プロテアーゼの活性に必須の(構成成分の1つとしての)アミノ酸とに従って5つの主要なグループ、セリンプロテイナーゼ、スレオニンプロテイナーゼ、システイン(チオール)プロテイナーゼ、アスパラギン酸プロテイナーゼ、及びメタロプロテアーゼに分割される。
【0027】
様々な細胞外プロテアーゼが、身体全体にて、及び重要な調節及び代謝プロセスを行う身体区画内で機能している。胃内に分泌される酸耐性プロテアーゼ(ペプシンなど)及び十二指腸内に存在するセリンプロテアーゼ(トリプシン及びキモトリプシン)は、胃腸管内で食物タンパク質を分解することが可能であり、血液又は血清中に存在するプロテアーゼ(トロンビン、プラスミン、ハーゲマン因子など)は、血液凝固及び血餅の溶解、並びに免疫系の細胞の調節に重要な役割を果たす。プロテアーゼは、白血球内に存在し又は白血球から放出される(エラスターゼ、カテプシンG)。プロテアーゼは、他のタンパク質の寿命を決定し、したがって重要な代謝的役割を果たす。ホルモン、インターロイキン又はケモカインとは異なり、細胞内シグナル伝達、又はタンパク質発現機構の変更を必要とせず、タンパク質分解制御を最速の調節切り替えメカニズム(regulatory switching mechanism)の1つとしている。更に、カスケード反応におけるようなプロテアーゼの協働作用は、生理学的シグナルに対する生物の応答の急速かつ効率的な増幅をもたらす。
【0028】
ヒトIgGアイソタイプ(成熟γグロブリンクラスG抗体のサブクラス;IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4)は、免疫機能を補充する差別的能力を有する。例えば、抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)は、IgG1及びIgG3により促進され、抗体依存性細胞性貪食作用(ADCP)は、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4により促進され、補体依存性細胞傷害(CDC)はIgG1及びIgG3により促進される。そのような免疫機能のアイソタイプ特異的な結合は、別個の免疫細胞上のFc受容体に対する選択性と、C1qに結合することにより膜攻撃複合体(MAC)のアセンブリを活性化する能力とに基づく。様々なアイソタイプの中でも、FcγRI、FcγRIIa/b/c、及びFcγRIIIa/bを含むFcγ受容体に対する相対的な親和性は、IgG1及びIgG3が高い。しかしながら、IgG2のFcγ親和性は、FcγRIIa H131多型を除いて相当低く、IgG4は、FcγRIに対して測定可能な親和性のみ有する。比較配列分析及び共結晶構造を使用して、受容体結合のための主要な接触残基が、下部ヒンジとCH2領域に及ぶアミノ酸残基に対して位置付けられている((Hezereh et al.,J Virol 75:12161〜12168 2001;Shields et al.,J Biol Chem 276:6591〜6604 2001)。
【0029】
IgG2の下部ヒンジの残基内の置換(EU位置233〜235)が、FcγR媒介機能及び補体活性化を無効にすることを、多数の以前の研究が結論付けている。1つの報告において、G236が削除された、IgG1の下部ヒンジ内のE233P−L234V−L235Aの置換は、Fc媒介エフェクター機能を損失したことが示されたヒトIgG1のFcコンストラクトのパネルの1つであった(Armour et al.,1999Eur J Immunol 29:2613〜2624)。この情報は、IgG1のヒンジ内又はヒンジ付近の残基を、対応するIgG2残基で置き換えることにより、FcγRに対する結合の親和性が相当損失し、また、補体固定及び細胞殺傷に影響を与える能力が損失することを示唆する。
【0030】
第2に、同じ残基位置のいくつかは、プロテアーゼがIgG1配列を切断する箇所であり(
図1)、また、ヒトIgG1とIgG2との整列により示されるように(
図2)、よりタンパク質分解耐性が高いIgG2配列内の異なるアミノ酸が占める位置である。本発明者らは、この情報を、プロテアーゼ耐性であるが、エフェクター機能能力を有するIgG−Fcを設計する出発点として使用した。
【0031】
本発明は、予想外にプロテアーゼ耐性と機能的(FcgR−結合)Fcドメインとを提供する、IgG1定常領域(Fc)の多数の位置における置換を初めて示すものである。当技術分野で認識されているように、特定のアミノ酸配列を有するFcドメインの特性が一旦既知となると、この情報は、現存する抗体設計又はFc−ポリペプチド融合体の構成又は改変に適用され得る。本発明の組成物により付与されるプロテアーゼ耐性としては、例えば、MMP−3、MMP−7、MMP−12、HNE、プラスミン、カテプシンG、ペプシン、IdeS、又は黄色ブドウ球菌からのグルタミルエンドペプチダーゼI(
図1)などの、対応するIgG2残基に由来する代替のアミノ酸で置換されたIgG1ヒンジ領域の残基を切断するプロテアーゼが挙げられる(Ryan et al.2008前出)。
【0032】
多置換IgG1突然変異は、ヒトFcR(FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIa及びFcRn)に対するそれらの相対親和性に基づき選択された(AlphaScreen(登録商標)競合アッセイにより評価)。これらの突然変異体は更に、適切な細胞系内で、PBMCによるADCCを誘導する能力、及びインビトロで分化されたマクロファージによるADCPを誘導する能力について試験された。本明細書に提供した実験データにおいて、特定の導入突然変異を有するIgG1(表2)は、Fc増強突然変異を有する、IgG1から誘導され、設計されたロテアーゼ耐性mAbであった。
【0033】
野生型(wt)ヒトIgG1(配列番号1)を使用して、プロテアーゼ耐性を付与して作製された、EU番号付けシステムにおけるIgG1ヒンジ領域残基214〜237(配列番号3)に対する代替的な組成物は、表1に示すように、完全IgG2配列(配列番号4)ヒンジ、又は残基233〜235のみが変更されたキメラヒンジ(配列番号5)のいずれかを含む。
【0035】
エフェクター機能増強領域内の補償突然変異は、下記の表2に示すような、前述した置換から選択されてもよい。
【0037】
1.Lazar,Proc Natl Acad Sci USA 103:4005〜4010(2006)
2.Idusogie,J Immunol 166:2571〜2575(2001)
3.Stavenhagen,Cancer Res 67(18):8882〜90(2007)
4.Moore,et al.MAbs 2(2):181〜189(2010)
5.Shields et al.,J Biol Chem 276:6591〜6604(2001)により以前に引用されている、増大されたFc機能を有するコンストラクト。
【0038】
インビトロでのアッセイに基づいた、Fc機能の様々な測定を用いて、完全IgG構造(H2L2)に組み込まれた際に、下部ヒンジ残基(EU232〜237)に作用するプロテアーゼの1つ以上に対する耐性を提供する一方、FcγRに結合する能力を有し、又は細胞溶解を促進する、数個のプロテアーゼ耐性Fc配列が同定された。ヒンジ及びCH2領域内の変化を含む選択されたコンストラクトのFc関連活性における変化と、受容体親和性とインビトロでの生物活性とによる分類を、表3に示す。
【0040】
変更Fc含有分子を作製する方法
置換のための部位は、天然抗体Fcの構造的特徴を有し、安定性を維持し、FcR結合と補体カスケード、細胞溶解、細胞貪食作用又はサイトカイン放出の刺激能力とを保持する組成物を製造したいという要望に基づき、選択された。タンパク質、特に、変更又は変異されたアミノ酸を有する長いポリペプチド鎖の多量体は、所望のアミノ酸の対応する遺伝子コドンの変化のための、親配列をコードする発現ベクター内の核酸の改変により都合よく形成される。遺伝暗号及びそのような方法は、当技術分野にて周知である。IgG1の部分及びIgG2の部分を含む本発明のFcのようなキメラ配列を形成する場合、それぞれをコードする核酸のより大きいセグメントが継ぎ合わされ、又は、セグメントが標準的なクローニング技術により置き換えられ得る。
【0041】
タンパク質分解試験
1つのFc含有組成物又は抗体が他のFc含有組成物よりも、又は野生型組成物よりもタンパク質分解に対して耐性であるか否かを決定するために、タンパク質分解酵素が、単離された異なるFc含有組成物又は抗体を分解する速度又は程度を評価する。一定時間後、独特の切断部位構造の形成などの、鎖の切断を直接測定すること、又は新たに形成された断片を測定することのいずれかが可能な方法を用いて、異なる組成物に関する分解を測定する。代替的に、切断が活性の損失をもたらす場合、結合アッセイを含む機能的アッセイを行ってもよい。
【0042】
IgG1のタンパク質分解切断は、二量体のヘテロ二量体構造の4つのポリペプチド鎖のいずれにも起こり得る。IgGの切断は、およそであるが特有の分子量を有する、よく特徴付けられているFab、(Fab’)
2、及びFc断片などの断片の生成をもたらす。タンパク質分解実験中に生成したそれらの断片の分離は、サイズ除去クロマトグラフィー(SEC)を使用して、ゲル電気泳動により、以前に記載されているように(国際公開第2007024743A2号、同第2009045894A1号)PNGase F(ペプチドN−グリコシダーゼF)を使用した脱グリコシル化の後のMALDI−TOF−MS(マトリックス支援レーザー/脱離イオン化−飛行時間型質量分析)分析により、達成することができる。
【0043】
したがって、タンパク質分解切断に耐性を有するFc含有組成物を参照することの意図は、野生型ヒトIgG1などの比較器分子と比較して、組成物が、タンパク質分解酵素に暴露された後、分解され、活性を失い、FcRなどのFc結合パートナーに対する親和性を失う可能性が低下されることである。
【0044】
突然変異体の生物学的特徴付け
Fc含有タンパク質は、いくつかの周知のインビトロでのアッセイによって、機能性を比較され得る。具体的には、Fcγ受容体のFcγRI、FcγRII及びFcγRIIIファミリーのメンバー対する親和性が対象となる。これらの測定値は、受容体の組換え可溶型又は受容体の細胞結合型を使用して作製され得る。加えて、IgGの長期の循環半減期に関与する受容体、FcRnに対する親和性は、例えば、組換え可溶性FcRnを使用する「ALPHASCREEN」などの、リガンド結合型ビーズフォーマットを使用して、測定することができる。高処理量スクリーニングで使用される、AlphaScreen(登録商標)は、結合など分子現象の検出を可能にする均質アッセイ技術である。コーティングされた「ドナー」及び「アクセプター」ビーズが、AlphaScreen(登録商標)アッセイ技術の基礎である。ビーズに基づくアッセイであるAlphaScreen(登録商標)は、大いに増幅された信号を産生するように働く化学反応のカスケードをもたらす、近接近したビーズの相互作用を通して機能する。例えば、競合結合測定といった、直接又は非直接的測定は、タンパク質間の相対親和性及び結合活性を評価するために、適用され得る。
【0045】
それぞれが、抗体依存性細胞傷害(ADCC、例えば、IgG1及びIgG3)、抗体依存性細胞貪食作用(ADCP、例えば、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4)、及び補体依存性細胞傷害(CDC、例えば、IgG1、IgG3)などの、異なる能力範囲を有して免疫機能を補充する、ヒトIgGアイソタイプ(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4)の自然進化が存在した。これらの機能のアイソタイプ特異的結合は、別個の免疫細胞上に存在するFc受容体に対する差別的な選択性と、C1qに結合し、かつエフェクターマクロファージ上の特定受容体結合補体成分を通じて、CDC及びCDP(補体依存性貪食作用)をもたらす膜攻撃複合体(MAC)のアセンブリを活性化する能力と、に基づく。ヒトアイソタイプの、補体カスケードの初期成分、C1qに結合する能力の優先順位は、IgG1>IgG3>IgG2>IgG4であるが、感染においてはIgG2及びIgG4による補体活性化が十分に立証されている。
【0046】
ADCCアッセイ及びCDCアッセイなどの細胞ベースの機能性アッセイは、特定のコンストラクト構造の可能な機能性の結果に関する見識を提供する。抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)は細胞媒介性反応であり、Fc受容体(FcR)を発現する非特異性の細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ)は、標的細胞上に結合した抗体を認識し、その後標的細胞の溶解を引き起こす。一実施形態において、ADCCアッセイは、主要エフェクター細胞としてNK細胞を有し、これらの細胞によって発現されることが知られている唯一の活性化Fcγ型受容体である、FcγRIIIa上の機能的作用を反映するように構成される。
【0047】
過酸化物又は炎症媒介放出などの細胞応答を測定できるため、貪食作用アッセイを使用して、異なる突然変異の免疫エフェクター機能を比較することもできる。インビボモデルも同様に、例えば、抗CD3抗体の突然変異体を使用して、マウスにおけるT細胞活性を測定する場合に使用することができ、活性は、Fcγ受容体などの特定リガンドを結合するFcドメインに依存する。マクロファージの抗体指向性活性化は、抗体依存性細胞貪食作用(ADCP)を媒介し、オプソニン化された標的細胞がマクロファージによって飲み込まれ消化されるようにする。高レベルのFcRを発現するインビトロで分化されたマクロファージは、IFNγ又はGM−CSFを使用して単核細胞に対する全FcR(FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIIa)の上昇したレベルを発現することによって、M1表現型へと分化され得る。
【0048】
抗体突然変異体の生成
本発明の組成物は、操作された宿主細胞によって最も都合よく生成される複合タンパク質である。本明細書に記載するように、組換えFc含有タンパク質又はモノクローナル抗体の発現のために選択される宿主細胞は、免疫グロブリンCH2ドメイン内でタンパク質を修飾するオリゴ糖部分の組成物における変化を含むが、しかしそれに限定されず、最終的な組成物にとって重要な寄与因子である。したがって、本発明の一態様は、所望の治療的タンパク質を発現する生産細胞としての使用のための、又は該細胞の開発のための、本発明のFc含有コンストラクトをコードするポリヌクレオチド配列を含む適切な宿主細胞の選択を含む。
【0049】
更に、宿主細胞は、哺乳類起源であってもよく、又はCOS−1、COS−7、HEK293、BHK21、CHO、BSC−1、Hep G2、653、SP2/0、293、HeLa、骨髄腫、リンパ腫、酵母、昆虫若しくは植物細胞、又はそれらの任意の誘導体、不死化細胞、若しくは形質転換細胞から選択されてもよい。
【0050】
代替的に、宿主細胞は、ポリペプチドのグリコシル化が不可能である種又は生物、例えば、原核細胞又は原核生物、及び天然又は工学的大腸菌spp、クレブシェラspp、又はシュードモナスspp、工学的植物又は昆虫細胞から選択されてもよい。
【0051】
IgG重鎖(N297、EU番号付け)内の、天然に存在するグリコシル化部位のグリコシル化も、FcγRに対するFc結合親和性に寄与する。定常領域はアイソタイプにより様々であるため、各アイソタイプは、N−結合炭水化物構造の区別されるアレイを所有し、このことはタンパク質アセンブリ、分泌、又は機能的活性に様々に影響する(Wright,A.,and Morrison,S.L.,Trends Biotech.15:26〜32(1997))。結合されたN−結合炭水化物の構造は、加工の程度に応じて相当様々であり、高−マンノースの、多数回分岐した、及び二分岐の複合体オリゴ糖と、末端糖としてのシアル酸(N−アセチルノイラミン酸、即ち、NANA)、フコース、ガラクトース及びGlcNAc(N−アセチルグルコサミン)残基とを含み得る。宿主細胞と、抗体のオリゴ糖含有量との、エフェクター機能に対する影響が認められている(Lifely,M.R.,et al.,1995 Glycobiology 5:813〜822;Jefferis,R.,et al.,1998 Immunol Rev.163:59〜76;Wright,A.and Morrison,S.L.,前出;Presta L.2003.Curr Opin Struct Biol.13(4):519〜25)。更に、抗体内の糖鎖に関して、抗体のN−グリコシド結合糖鎖の還元末端の近位N−アセチルグルコサミンにおけるフコースの付加又は改変が、抗体のADCC活性を有意に変化させることが報告されている(国際公開第00/61739号)。
【0052】
更に、二分岐オリゴ糖のガラクトシル化、分岐GlcNacの存在、及びフコシル化の相対的な寄与は、非フコシル化Mabが、インビトロ及びインビボで測定して、N−結合二分岐オリゴ糖構造の他の改変と比較して、ADCCを増強させるより高い能力を呈することを示す(Shields,et al.2002.J Biol Chem.277:26733〜40;Niwa,et al.2004.Cancer Res.64:2127〜2133)。
【0053】
低いフコース含有率を有するmAbを生じさせることが可能な、又は低いフコース含有率を有するmAbを生じさせるように操作された(特定の酵素の不活性化又は分解などによって、Shinkawa,et al.2003 J.Biol.Chem.,278:3466〜3473;EP1176195A1)、又は、例えば環境的若しくは栄養的操作により誘導された、宿主細胞を使用した本発明のプロテアーゼ耐性mAbの発現又は製造は、本発明の範囲内である。
【0054】
抗体、Fc及びFc−融合タンパク質
抗体結合ドメイン又はその断片は、当技術分野にて既知の方法を用いて、本明細書に提供された情報と組み合わせて生じさせることができ、例えば、非限定的にヒト、マウス、ウサギ、ラット、齧歯類、霊長類、ヤギ、若しくはこれらの任意の組み合わせなどの任意の哺乳動物の配列を含んでもよく、又は該動物に由来することができる。そのような抗体は、本発明の抗体コンストラクトの生成に有用な基本構造と、結合ドメインの構成成分とを提供することができる。一態様において、「抗体結合ドメイン」は、マウス又は他の動物を、標的ペプチド、細胞、又は組織抽出物によって免疫化して調製されるハイブリドーマから、都合よく得られる。抗体は、例えば参照により完全に本明細書に組み込まれるHarlow and Lane,antibodies,a Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,NY(1989)を参照して、当技術分野にて周知の任意のハイブリドーマ技術を使用して、又は抗体産生リンパ球の分泌と、当技術分野にて既知の技術を使用した、結合ドメインをコードする核酸配列のクローニングとにより、得ることができる。
【0055】
本発明は、ヒトIgGの定常領域に関する。したがって、インビトロでのアッセイで、最終組成物が、タンパク質分解耐性(本明細書に記載した)と、FcgRに結合し、ADCC、ADCP、及び/又はCDCを促進する能力との両方を呈することが望ましい、ヒトFcドメインを含む任意の抗体又は融合タンパク質は、本発明に包含される。抗体Fv又は単一の可変ドメインを含むが、これに限定されない標的部分を、所望によりFc組成物に融合してもよい。「Fv」は、堅固に非共有結合的会合した1つの重鎖可変領域ドメイン及び1つの軽鎖可変領域ドメインの二量体からなる。これら2つのドメインの折り畳みにより、アミノ酸残基の抗原結合に寄与し、抗体に対する結合特異性を付与する6つの超可変ループ(H鎖及びL鎖のそれぞれから3つのループ)が生じる。しかしながら、単一の可変ドメイン(又は抗原に特異的な3つCDRのみを含むFvの半分)でさえも、多くの場合、完全な結合部位よりも低い親和性においてであるが、抗原を認識し、該抗原に結合する能力を有する。「sFv」又は「scFv」とも略される「単鎖Fv」は、単一のポリペプチド鎖に接続されたVH抗体ドメイン及びVL抗体ドメインを含む抗体断片である。scFvポリペプチドは一般に、VHとVLとの間のポリペプチドリンカーを含む。標的部分は、コンストラクトが完全に組換え方法により生成される場合、抗体のパラトープ(CDR又は可変ドメイン構造に限定されない結合残基);酵素;ホルモン;受容体;サイトカイン;免疫細胞表面抗原;及び接着分子からも選択され得る。標的部分は、炭水化物、脂質、リポ多糖体、有機分子、又は金属若しくは金属錯体など、非タンパク性でもあり得る。一般に、存在する場合、標的分子は、ポリペプチド又は非ポリペプチドであってもよいリンカーによってFc−に接続されるであろう。
【0056】
本明細書に記載されるFc含有タンパク質、又はFc断片は、当技術分野にて周知のいくつかの方法で得ることができる。抗体結合ドメイン若しくはFc融合タンパク質、又はその成分及びドメインは、そのようなドメイン又は成分のライブラリ、例えば、ファージライブラリから選択することにより得られてもよい。ファージライブラリは、ランダムオリゴヌクレオチドのライブラリ又は関心の配列を含有するポリヌクレオチドのライブラリを挿入することによって、例えば、免疫付与した動物又はヒトのB細胞から形成することができる。(Smith,G.P.1985.Science 228:1315〜1317)。抗体ファージライブラリは、1つのファージ内に重鎖(H)及び軽鎖(L)可変領域の対を含有し、単鎖Fv断片又はFab断片の発現を可能にする(Hoogenboom,et al.2,Immunol.Today 21(8)371〜8)。ファージミドライブラリの多様性は、ライブラリのモノクローナル抗体の免疫特異性を増大及び/又は変化させ、追加の望ましいヒトモノクローナル抗体を産生しその後同定するように、操作され得る。例えば、重鎖(H)及び軽鎖(L)の免疫グロブリン分子をコードする遺伝子は、組み立てられた免疫グロブリン分子における新規のHL対を作成するように、無作為に混合(入れ替え)され得る。更に、H鎖及びL鎖の一方又は双方をコードする遺伝子は、免疫グロブリンポリペプチドの可変領域の相補性決定領域(CDR)において変異誘発され、かつその後に望ましい親和性及び中和能力について篩分けされ得る。抗体又はFcライブラリはまた、1つ以上のヒトフレームワーク配列を選択し、かつヒト抗体レパートリーから得られるか又は設計変更を通じて得られるCDRカセットの収集を導入することによって、合成的に作成され得る(Kretzschmar and von Ruden 2000,Current Opinion in Biotechnology,13:598〜602)。多様性の位置はCDRに限定されないが、可変領域のフレームワークセグメントを含むこともでき、又はペプチドなどの抗体可変領域以外を含んでもよい。一態様において、本出願人らの同時係属出願(米国出願第61/261767号)に記載されているようなファージコートタンパク質pIXに結合された二量体Fc構造を提示可能なファージライブラリを使用して、本発明による新規なFc含有構造を選択してもよい。
【0057】
抗体可変領域以外の標的結構成成分を含み得る、標的結合構成成分の他のライブラリとしては、リボソームディスプレイライブラリ、酵母ディスプレイライブラリ及び細菌ディスプレイライブラリを挙げることができる。リボソームディスプレイは、タンパク質のRNAとの付着を保ちつつ、mRNAをそれらの同属タンパク質へと翻訳する方法である。核酸コード配列は、RT−PCRによって回復される(Mattheakis,L.C.et al.1994.Proc.Natl.Acd.Sci.USA 91,9022)。酵母ディスプレイは、膜結合αアグルチニン酵母接着受容体の融合タンパク質の構築物aga1及びaga2に基づき、接合型システムの一部である(Broder,et al.1997.Nature Biotechnology,15:553〜7)。細菌ディスプレイは、細胞膜又は細胞壁に関係している、標的と排出された細菌タンパク質との融合に基づく(Chen and Georgiou 2002.Biotechnol Bioeng,79:496〜503)。
【0058】
本発明はまた、本発明の組成物をコードする核酸を、単離したポリヌクレオチドとして、又は、組成物若しくはその定方向突然変異の原核、真核、若しくは繊維状ファージ発現、分泌及び/若しくは表示に適合性のベクターを含む発現ベクターの一部分として提供する。
【0059】
Fc含有分子の使用
上述された方法のうちのいずれかによって生成される組成物(抗体、Fc融合体、Fc断片)は、ヒトの疾患、又は細胞、組織、器官、体液、若しくは概して宿主における特定の病理を、診断、治療、検出、又は調節するために使用され得る。本明細書に教示されるように、測定可能なFcγ受容体結合又は特定のエフェクター機能を保持すると共にタンパク質分解を低減し又は除去するための、抗体、Fc融合タンパク質、又はFc断片のFc部分の改変は、元の標的特異性及び生物学的活性を保持する抗体のパラトープ又はリガンド結合ドメインなどの結合ドメインと組み合わせることができる。例示的な結合ドメインは、抗体のパラトープ、1つ以上の抗体CDR、又は1つ以上の抗体可変ドメイン;酵素;ホルモン;受容体;膜受容体の細胞外ドメイン;サイトカイン;免疫細胞表面抗原;及び接着分子である。得られたコンストラクトは、活性、生物物理学的特性、安定性、及び宿主の身体内で存続する能力の優位な範囲を有する抗体及びFcコンストラクトを提供する。
【0060】
本発明者らによる、生理学的関連プロテアーゼに対する耐性と、1つ以上のFcγ受容体に結合する能力若しくは能力の欠如、及び/又はエフェクター細胞若しくは補体の活性化による細胞溶解に影響を与える能力との組み合わせを有するFc配列の発見は、特定の適応症での最大の有効性に結合分子を目標付ける能力を提供する。例えば、新生組織形成、又は例えば不適切な血管新生、不適切な線維症などの他の望ましくない増殖に関与する異常な宿主細胞を標的とする能力は、ADCC及びADCPが可能な本発明の真核生物プロテアーゼ耐性Fcを含む分子が最も適しているであろう。対照的に、細菌細胞は、補体媒介メカニズムにより容易に破壊される。したがって、細菌感染は、細菌プロテアーゼに耐性であり、CDCを引き起こす能力を有する本発明の好適なFcコンストラクトにより処置することができる。
【0061】
本発明者らは、適切な特性の組み合わせを有するFcの選択方法を同定し、目的特異的な改変Fc含有分子の実用的な例を提供している。真核生物プロテアーゼ耐性であり、ADCC、ADCP及びCDCのうちの1つ以上が可能な分子は、約EU残基214〜約残基330の、ヒンジ及びCH2領域内のヒトIgG1の配列を有するFcドメインを含み、少なくとも残基233〜237は、PVA/(G236削除)で置換され、更にCH2ドメイン内の1つ以上の置換を含み、それによりADCC、ADCP及びCDCのうちの1つ以上が可能な分子は、コンストラクト5、7、8、9、10、11、12、14、15、16及び17を含む。特定の実施形態において、そのような分子は、I332Eと、S239D/I332E(5、14)、S239D/H268F/I332E(作製せず)、H268F/S324T/I332E(8)、S239D/H268F/S324T/I332E(9)、S267E/H268F/S324T/I332E(10)、G237X/S239D/I332E(ここで、XはA又はS(12)である);、K326A/I332E/E333A(15)、及びS267E/I332E(17)などの他の置換と、の組み合わせから選択される置換を含む。
【0062】
原核生物プロテアーゼに対して耐性であり、CDCが可能な分子は、約EU残基214〜約残基330の、ヒンジ及びCH2領域内のヒトIgG1の配列を有するFcドメインを含み、少なくとも残基233〜237は、PVA/(G236削除)で置換され、更に、K326A/E333A(11)、S267E/H268F/S324T/I332E(10)、K326A/I332E/E333A(15)、S239D/K326A/E333A(16)及びS267E/I332E(17)から選択される、CH2ドメイン内の1つ以上の置換を含む。
【0063】
真核生物プロテアーゼ耐性であるが標的細胞溶解を促進しない分子もまた、例えば、プロテアーゼ耐性であるが、野生型IgG1と比較して低下されたADCC、ADCP又はCDCを有する、本明細書に教示した抗体又は他のFcコンストラクトを使用することによって、標的細胞改変を目的とするが標的細胞破壊を目的としない疾病又は疾患の処置に有利に使用することができる。プロテアーゼ耐性を有する非天然、非野生型Fcドメインを含む分子としては、EU残基214〜約残基330の、ヒンジ及びCH2領域内のヒトIgG1の配列を有するFcドメインを含む分子が挙げられ、少なくとも残基233〜237は、PVA/(G236削除)で置換されている。
【0064】
したがって、本明細書の教示及び実施例に基づいて、目下可能にされた、哺乳動物対処内に存在するプロテアーゼに対して向上された耐性を示し、かつ場合により細胞上の抗原を標的とする能力を有する、Fcを含むコンストラクトは、プロテアーゼ耐性ではない治療的分子と比較して改善された治療的分子を提供する。
【0065】
投与
タンパク質分解酵素、例えば消化管内のペプシン、又は組織リモデリング若しくは悪性増殖の領域内のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)は、それらの形成及び蓄積速度に従って局在化しているため、本発明の組成物は、身体区画がプロテアーゼを含む、又はプロテアーゼ含有量が異常に高いことが既知の場合の使用に特に好適である。
【0066】
本発明は、抗体などのプロテアーゼ耐性IgG組成物の安定な製剤を提供し、前記製剤は、好ましくは、水性リン酸緩衝生理食塩水又は混合塩溶液、並びに保存溶液及び製剤、並びに医薬的用途又は家畜への使用に適した多目的の保存製剤であり、薬剤的に許容できる製剤中に少なくとも1つのプロテアーゼ耐性抗体を含む。好適なビヒクル及びその製剤(ヒトタンパク質、例えばヒト血清アルブミンを含む)は、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,21
st Edition,Troy,D.B.ed.,Lipincott Williams and Wilkins,Philadelphia,PA 2006,Part 5,Pharmaceutical Manufacturing pp 691〜1092に記載され、特にpp.958〜989を参照されたい。
【0067】
本明細書に記載され又は当技術分野にて既知のような安定な製剤又は保存製剤中の、エフェクター機能を有するプロテアーゼ耐性IgG組成物は、本発明に従って、当技術分野にて周知なように、インプラント、浸透圧ポンプ、カートリッジ、マイクロポンプ;又は当技術分野にて既知の他の手段中の製剤を使用して、静脈内(I.V.);筋肉内(I.M.);皮下(S.C.);経皮;経肺;経粘膜;を含む多様な送達方法を介して、患者に投与することができる。
【0068】
例えば身体区画又は腔への部位特異的投与の場合、投与は、関節内、気管支内、腹内、関節包内、軟骨内、洞内、腔内、小脳内、脳室内、結腸内、頚管内、胃内、肝内、心筋内、骨内、骨盤内、心膜内、腹腔内、胸膜内、前立腺内、肺内、直腸内、腎臓内、網膜内、脊髄内、液嚢内、胸郭内、子宮内、膀胱内、病巣内、経膣、経直腸、口腔内、舌下、鼻腔内、又は経皮手段によるものであり得る。
【0069】
本発明により提供される組成物を使用した処置を受け入れ得る疾病又は疾患には、組成物がFcγR−駆動メカニズムを介した宿主免疫系の細胞傷害又は細胞溶解のメカニズムの活性化を提供するため、悪性腫瘍などの、細胞の望ましくない増殖、活性化若しくは遊走が有害である疾病、過活性の若しくは不均衡な免疫応答、線維性組織形成、又は感染症が挙げられるが、これらに限定されない。そのような疾病には、悪性腫瘍:白血病、急性白血病、急性リンパ性白血病(ALL)、B細胞、T細胞又はFAB ALL、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、ヘアリーセル白血病、骨髄異形成症候群(myelodyplastic syndrome)(MDS)、リンパ増殖性疾患、皮膚T細胞リンパ腫、ホジキン病、キャッスルマン病、神経膠腫、神経膠芽腫、星状細胞腫、悪性リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、多発性骨髄腫、カポジ肉腫、結腸直腸癌、膵臓癌、腎細胞癌、乳癌、腺管癌、脂肪腫、上咽頭癌、前立腺癌、精巣癌、卵巣癌、網膜芽細胞腫、悪性組織球症、悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症、形質細胞腫、軟骨肉腫、肉腫、メルケル細胞癌、肝細胞癌、肝細胞腫、基底細胞癌、腺癌、扁平上皮癌、肉腫(ユーイング肉腫、カポジ肉腫、小児軟部組織肉腫、成人肉腫など)、黒色腫、転移性黒色腫、血管腫、転移性疾病、骨肉腫、横紋筋肉腫、胸腺腫及び胸腺癌、癌関連の骨吸収、子宮内膜癌、腟癌、子宮癌、ウィルムス腫瘍、癌関連の骨痛などが挙げられる。
【0070】
悪性リンパ球上の抗原に結合可能な標的分子には、CD19、CD20及びCD22などのB細胞抗原が挙げられる。上皮組織に由来する固形腫瘍は、多くの場合、シグナル伝達が可能であり、又は腫瘍の野放しの成長に繋がる増殖応答若しくは抗アポトーシス応答の原因となり得るErbB1、ErbB2、ErbB3として既知の上皮増殖因子受容体、及び他の受容体に対するリガンド結合を呈し、該結合により刺激される。固形腫瘍上の他の通常の抗原は、組織因子又はRONである。
【0071】
組成物は、適切な標的結合ドメインと組み合わされた際、細菌(連鎖球菌、ブドウ球菌、及び大腸菌など)、ウィルス(インフルエンザ、AIDS、RSV、SARS、及びウエストナイルウイルスなど)、真菌(アスペルギルス症、コクシジオイデス症(coccidiodomycosis)、クリプトコッカス症、又はカンジダ症など)を原因とする感染症、又は原生動物感染(トリパノソーマ症、トキソプラズマ症、ジアルジア属、又はマラリアなど)の処置にも有用である。
【0072】
組成物は、一般的な免疫疾患、並びにリウマチ性疾患、乾癬及び強皮症を含むが、これらに限定されない自己免疫疾患の処置に有用である。
【0073】
組成物は、不適切な血管新生に関連した疾患の処置に有用である。血管新生は、新しい毛細血管の生成のプロセスであり、内皮細胞増殖の活性化によりもたらされる。新血管新生は、厳重に調節され、胚発生、組織リモデリング、創傷治癒、及び、黄体発生の周期的サイクル中にのみ生じる(Folkman and Cotran,Relation of vascular proliferation to tumor growth,Int.Rev.Exp.Pathol.’16,207〜248(1976))。内皮細胞は、通常、身体内の他のタイプの細胞よりも遙かにゆっくりと増殖する。しかしながら、これらの細胞の増殖速度の調節が行われなくなった場合、病的血管新生がもたらされ得る。病的血管新生は、多数の疾病に関与する。例えば、血管腫、血管線維腫、血管変形、アテローム性動脈硬化症、癒着及び浮腫硬化症などの心臓血管疾病;並びに角膜移植後の新血管新生、血管新生緑内障、糖尿病性網膜症、血管由来の角膜疾患、黄斑変性症、翼状片、網膜変性症、後水晶体線維増殖症、及び顆粒性結膜炎などの眼科学的疾病は、血管新生に関連している。関節炎などの慢性炎症性疾病;乾癬、毛細血管拡張症、化膿性肉芽腫、脂漏性皮膚炎、静脈性潰瘍、ざ瘡、酒さ(酒さ性ざ瘡又はエリテマトーデス(erythematosa))、疣贅(いぼ)、湿疹、血管腫、リンパ脈管新生などの皮膚科学的疾病も、血管新生依存性である。
【0074】
糖尿病性網膜症は、非−増殖性又は増殖性の2つの形態のうちの1つをとり得る。増殖網膜症は、硝子体表面上で成長し、又は硝子体腔内に延びる、異常な新しい血管形成(新血管新生)により特徴付けられる。黄斑変性症は、同様に乾燥及び湿潤の2つの形態をとる。遙かに一般的でない滲出性黄斑変性症(湿潤形態)では、多くの場合、網膜内出血、網膜下液、色素上皮剥離、及び色素増加症を伴う、脈絡膜新生血管の網膜下ネットワークの形成が存在する。血管新生緑内障は、糖尿病、又は網膜中心静脈閉塞症、又は虹彩を隅角内へ引き上げるぶどう膜炎に関連した炎症性沈殿物(inflammatory precipitate)を有する患者に生じる(Ch.99.The Merck Manual 17th Ed.1999)。
【0075】
炎症性疾病である関節リウマチも、不適切な血管新生をもたらす。滑液腔内の血管内皮細胞の増殖は、炎症性サイトカインにより活性化され、軟骨破壊と、関節内でのパンヌスとの交替をもたらす(Koch AK,Polverini PJ and Leibovich SJ,Arth;15 Rhenium,29,471〜479(1986);Stupack DG,Storgard CM and Cheresh DA,Braz.J.Med.Biol.Res.,32,578〜581(1999);Koch AK,Arthritis Rheum,41,951 962(1998))。
【0076】
組成物は、皮膚細胞の制御されない増殖を原因とする乾癬の処置に有用である。急速に増殖する細胞は、十分な血液供給が必要であり、乾癬内に異常な血管新生が誘導される(Folkman J.,J.Invest.Dermatol.59,40〜48(1972))。
【0077】
多数の因子が、血管新生に繋がるプロセス及び事象に関与している。細胞接着分子、インテグリン、血管内皮増殖因子(VEGF)、TNFα、bFGF、並びにIL−6及びIL−12を含むサイトカイン。例えば、密接に関連するが、区別されるインテグリンαVβ3及びaVb5は、血管新生プロセスにおいて独立した経路を媒介することが示されている。αVβ3に対して生成された抗体は、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)誘導による血管新生を遮断した一方、aVb5に特異的な抗体は、血管内皮増殖因子(VEGF)誘導による血管新生を阻害した(Eliceiri,et al.,J.Clin.Invest.103:1227〜1230(1999);Friedlander et al.,Science 270:1500〜1502(1995))。したがって、本発明は、血管新生の阻害が指示される疾病の処置に使用するための、これらの標的に指向された標的結合ドメインの、本発明の組成物中での使用を包含する。
【0078】
参照により本出願に組み込まれる、公開された同時係属の国際特許出願第2009023457A1号の出願人は、抗−ヒンジ切断部位エピトープ特異的モノクローナル抗体を使用して、切断されたIgGsにエフェクター機能を回復する戦略を開示している。本発明によるプロテアーゼ耐性かつエフェクター機能能力を有するFcを抗−ヒンジドメインと共に組み込んで二価抗体を生じさせることは、切断IgGsにFcエフェクター機能を回復することと、タンパク質分解切断によるサイレンシング対する治療的耐性を付与することの両方が可能な治療的mAbを生じさせるであろう。したがって、本発明は、本発明のプロテアーゼ耐性Fc定常領域を、記載したような抗−ヒンジ可変領域mAbと共に組み込むことを包含する。
【0079】
本発明は一般論として記述されてきているが、本発明の実施形態は、特許請求の範囲を限定するように解釈されるべきではない以下の実施例で更に開示される。
【実施例】
【0080】
実施例1:Fc突然変異体の構成及び試験
標準的な組換え技術を使用して、(
図2に示し、表1のヒンジ領域を表2から選択されたCH2領域内の活性回復突然変異と組み合わせた)一連のコンストラクトを生成した。表記2hcは、EU抗体のKabat番号付け(EU番号付け)214〜236(配列番号3)に対応するIgG1定常ドメインが、対応するIgG2配列(配列番号4)で置き換えられていることを示す。表記2hは、IgG1 E233−L234−L235−G236の残基が、対応するIgG2 P233−V234−A235の残基で置き換えられている(G235は削除された)ことを示す。
【0081】
【表5】
【0082】
1セットの抗体コンストラクトの可変領域は、CD142(組織因子)に結合し、これは組織因子を発現するMDA−MB−231(ATCC、HTB−26(商標))を使用した細胞アッセイにおいて、抗体のFc依存性細胞殺傷の試験を可能にする(Brezski et al.,Proc Natl Acad Sci USA 106:17864〜17869 2009)。CD20に結合する可変領域を有する追加のパネルを生成し、これはCD20を示すWIL2−S細胞(ATCC、CRL−8885)を使用したCDC活性の試験を可能にした(Brezski et al.,Proc Natl Acad Sci USA 106:17864〜17869 2009)。抗体の全部は、標準的なクローニング方法及び手順を使用して、293T細胞内で過渡的に発現された。実験的分析の前に、タンパク質Aカラムを使用して、MAbを95%を超える純度に精製した。
【0083】
野生型及びmAbコンストラクトのプロテアーゼ消化
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中にてpH 7.5で、又はMMPs(MMP−3、MMP−7、MMP−12及びMMP−13は全て、Enzo Life Sciencesから得た)の場合、トリス緩衝生理食塩水緩衝液中にて37℃で、精製されたIgGsのプロテアーゼ消化を行った。IdeSはGenovisから得、GluV8はPierceから得た。試験した全MMPにおいて、MMP反応に5mMのCaCl
2を含めた。抗体濃度は0.5mg/mLであり、反応は、特に明記しない限り、IgGに対しておよそ1〜2%(w/w)の割合で酵素を添加することにより開始した。Agilent Biosizingマイクロキャピラリー電気泳動(Agilent Technologies)後の電気泳動図の分析により、IgG切断を評価した。全消化は、2回行った。
【0084】
AlphaScreen(登録商標)競合結合アッセイ
半容積(half-well volume)96ウェル不透明プレート(Corning)内で、アッセイ緩衝液(PBS、0.05% BSA、0.01% Tween−20)中にてpH 7.4で競合結合試験を行った。全ての競合試験は、固定濃度のビオチン化IgG1(1 IgG:2ビオチン、EZ Link(商標)NHS−LC−ビオチン、Pierceを使用)に対して、連続3倍希釈にて、野生型とプロテアーゼ耐性コンストラクトとを競合させて行った。FcγR濃度は、アッセイの最終濃度において0.2μg/mlであった。ビオチン化IgG1(0.2μg/ml最終)と、野生型及びプロテアーゼ耐性抗体(10μl)とを、96ウェルプレートの各列に順次加え、これを2重で行った。その後、指定FcγRを加え、次に1/50希釈ニッケルキレート(Ni)−アクセプタービーズ及びストレプトアビジン(SA)−ドナービーズをそれぞれ10μl、順次加えた。オービタルシェーカー上で30分間振盪する間、不透明プレートをアルミニウムシールで覆って、遮光(light-safe)条件を維持した。その後、シールを除去し、AlphaScreen(登録商標)励起/発光スペクトルの適切なフィルターセットを備えたENVISION(商標)プレートリーダー(PerkinElmer)上で蛍光を読み取った。未加工データをGraphPad PRISM(商標)ソフトウェアに転送し、最大シグナルに関して正規化し、非線形回帰曲線適合ソフトウェアを使用して、競合曲線をプロットした。
【0085】
結果
当初の興味は、IgG1を下部ヒンジ領域内で切断することが以前に示された多数の生理学的関連プロテアーゼ;MMP−3、MMP−7、MMP−12、MMP−13、GluV8及びIdeSに対するmAbコンストラクトの感受性を決定することであったコンストラクト1〜5、7、9〜11、12(G237A)、13、14をCD142結合抗体として試験した。プロテアーゼは、IgG1を24時間にわたって様々な程度で切断した。MMP−3、MMP−12、IdeSは全ての無傷IgG1(コンストラクト1)を24時間以内に除去した一方、MMP−7は約30%、MMP−13は、約40%、GluV8は約60%を切断した。コンストラクト4(2h)と、2h下部ヒンジ改変を有するコンストラクトとは、おおよそ同一の程度で、全部のMMPに対して耐性であった。コンストラクト4は、GluV8に対して耐性であったが、IdeSに対して耐性ではなかった。コンストラクト2も、GluV8消化に対してより耐性であった。
【0086】
IdeSは、全部のヒトIgGアイソタイプを切断することが示されている(von Pawel−Rammingen et al.,EMBO 21:1607〜1615 2002)。経時的試験のデータ(
図3A)は、IdeSが(インキュベーションの5分以内に)IgG1(1)及びIgG2(2)をF(ab’)
2断片に急速に変換した一方、IgG1サンプル2h(4)は、120分間の間、単一−切断中間体を有したことを示す。試験したコンストラクトのうち、2h S239D/I332E(5)はIdeSに対して最もタンパク質分解耐性が高いコンストラクトであり(
図3B)、24時間のインキュベーション後でさえも、無傷IgGが検出された(他の抗体コンストラクトは、5分までに、検出可能な無傷IgGを有さなかった)。G236とG237との間のIdeS切断地点付近の、(5)におけるS239Dの突然変異は、IgG1 2h(4)と比較した場合の追加のプロテアーゼ耐性に寄与し得る。
【0087】
12個の抗CD142抗体コンストラクトのパネル(1〜5、7、9〜13、及び14)を、それらの野生型IgG1及びIgG2対応物と共に、IdeS、GluV8、MMP−3、及びMMP−12によるタンパク質分解の受けやすさに関して試験した。24時間のインキュベーション後に残留した無傷IgGに関するデータを電気泳動図から計算し、
図4A〜Dに示した。
【0088】
データは、IgG1 wt(1)、IgG2 wt(2)、2hc(3)、IgG1 2h(4)、2hc S239D/I332E(13)、IgG2 S239D/I332E(14)、及び2h K326A/E333A(11)が、24時間のインキュベーション後、IdeSによるタンパク質分解を受けやすいことを示した。対照的に、コンストラクト2h S239D/I332E(5)、2h G237A/S239D/I332E(12)、2h F243L/R292P/Y300L(7)、2h S239D/H268F/S324T/I332E(9)、及び2h S267E/H268F/S324T/I332E(10)は、IdeSによるタンパク質分解に対して耐性であった。驚くべきことに、より多くのIgG2ヒンジ領域置換を有するコンストラクト(配列番号4を含む)は、IdeSタンパク質分解に対して耐性ではなかった。コンストラクトIgG2 S239D/I332Eは、IdeSを用いた24時間の消化後、40%未満の残留無傷IgGを有した。
【0089】
黄色ブドウ球菌由来のGluV8プロテアーゼを用いた消化は、コンストラクトIgG2 S239D/I332E(14)、2h S239D/I332E(5)、2h G237A/S239D/I332E(12)、及び2h F243L/R292P/Y300L(7)が、24時間の消化後、40〜60%の範囲の残留無傷IgGを有したことを示した。これはIgG1 wt(1)に関して見られたものと同様の切断レベルであった。コンストラクトIgG2 wt(2)、2hc(3)、2hc S239D/I332E(14)、IgG1 2h(4)、IgG1 2h K326A/E333A(11)、2h S239D/H268F/S324T/I332E(9)、及び2h S267E/H268F/S324T/I332E(10)は、GluV8によるタンパク質分解に対して、IgG1 wtと比較して増大された耐性を示した(全て、75%を超える残留無傷IgGを有した)。
【0090】
MMP−3及びMMP−12は、癌関連プロテアーゼの2つのタイプを表す。MMP−3及びMMP−12の両方を用いた消化後、5%未満の無傷IgG1 wtが検出された。対照的に、ヒトIgG2 wtと、試験した全部のコンストラクトは、24時間の消化後、60%を超える残留無傷IgGにより示されるように、MMP−3及びMMP−12の両方に対する増大されたプロテアーゼ耐性を示した。
【0091】
Fcγ受容体結合の結果
Fcコンストラクトのいくつかが、受容体のFcγファミリーに対する結合に関してwt IgG1と競合する能力を評価した。コンストラクトがビオチン化IgG1により生成される最大シグナルを低下させる能力を、
図5A〜Gに示す。初期スクリーンには、コンストラクト1〜2、4〜6が含まれた。試験したコンストラクトの初期グループでは、IgG2(2)、IgG1 2h(4)、及び2h E333A/K334A(6)は、高親和性FcγRIに対して検出可能な結合を示さなかった一方、野生型IgG1は強い結合を示した。2h S239D/I332E(5)は、検出可能であるが、IgG1と比較して低下されたFcγRIに対する結合を示した。IgG1 2h(4)及び2h E333A/K334A(6)は、FcγRIIaに対する検出可能な結合を示さなかった一方、2h S239D/I332E(5)コンストラクトは、IgG1 wtと同等の結合を示した(
図5B)。3つのコンストラクト:IgG2(2)、IgG1 2h(4)、及び2h E333A/K334A(6)は、FcγRIIbに対する検出可能な結合を示さなかった一方、IgG1(1)及び2h S239D/I332E(5)は、同等の結合を示した(
図5D)。IgG2(2)、IgG1 2h(4)、及び2h E333A/K334A(6)は、同等であるが、IgG1と比較して低下されたFcγRIIIaに対する結合を示した。2h S239D/I332E(5)コンストラクトは、IgG1 wtさえも超える、FcγRIIIaに対する最高レベルの結合を示した(
図5F)。
【0092】
加えて、2h S239D/H268F/S324T/I332E(9)コンストラクトは、IgG1に対する同等の結合を示したが、2h S267E/H268F/S324T/I332E(10)コンストラクトは、IgG1 wtと比較して増大されたFcγRIIaに対する結合を有した(
図5C)。コンストラクト2h S239D/H268F/S324T/I332E(9)及び2h S267E/H268F/S324T/I332E(10)の両方は、IgG1 wtと比較して増大されたFcγRIIbに対する結合を示した(
図5E)。コンストラクト2h K326A/E333A(11)は、FcγRIIa(
図5C)及びFcγRIIb(
図5E)の両方に対する最小の検出可能な結合を示した。
【0093】
コンストラクト2h S267E/H268F/S324T/I332E(10)は、IgG1 wtと比較して僅かに低下されたFcγRIIIaに対する結合を示したが、コンストラクト2h S239D/H268F/S324T/I332E(9)は、FcγRIIIaに対する増大された結合を有した(
図5G)。2h K326A/E333A(11)は、IgG1 wtと比較して弱いFcγRIIIaに対する結合を示した(
図5G)。
【0094】
概要
これらの結果は、2h S239D/I332E(5)、2h S239D/H268F/S324T/I332E(9)、及び2h S267E/H268F/S324T/I332E(10)を含むタンパク質分解耐性コンストラクトが、FcγRIIa、IIb、及びIIIaに対して様々な程度で結合することが可能であり、3つのコンストラクトの全部が、2h(4)突然変異単独と比較して増大された結合を有することを示した。コンストラクト2h S267E/H268F/S324T/I332E(10)のように、FcγRIIa結合親和性をIgG1 wtを超えて向上させた他のCH2突然変異と組み合わせた、IgG1の下部ヒンジ内の残基の突然変異、2h S239D/H268F/S324T/I332E(9)及び2h S267E/H268F/S324T/I332E(10)のFcγRIIbに対する向上された親和性、コンストラクト2h S239D/I332E(5)及び2h S239D/H268F/S324T/I332E(9)のように、IgG1 wtを超えて向上されたFcγRIIIa結合親和性は、予想外の結果であった。
【0095】
実施例2.抗体依存性細胞貪食作用(ADCP)
インビトロでのFc依存性細胞殺傷を媒介するプロテアーゼ耐性mAbの能力を試験するために、ADCPアッセイを行った。このアッセイでは、食細胞が抗体結合により標的抗原提示細胞に動員され、標的細胞破壊が測定される。
【0096】
手順
正常なヒトドナーからPBMCsがFicoll勾配遠心分離を使用して単離された。CD16pos単球を枯渇させないCD14単離キット(StemCell Technologies)を使用したネガティブ枯渇(negative depletion)により、PBMCsからCD14pos単球を精製した。単球を、10% FBS及び20ng/ml GM−CSF(R&D Systems)を含有するX−VIVO−10培地(Lonza)中に0.1×10
6細胞/cm
2で7日間播種した。100ng/mlのIFNγ(R&D Systems)を、分化の最終24時間中、加えた。ADCPアッセイに関する標的細胞は、GFP発現MDA−MB−231細胞であった。単離されたマクロファージをGFP−発現MDA−MB−231と共に4:1の比で、野生型及びプロテアーゼ耐性mAbコンストラクトを有して又は有さずに、96ウェルU底プレート内で4時間インキュベートした。インキュベーション後、Accutase(Sigma)を使用して、細胞を96ウェルプレートから除去した。マクロファージを、AlexaFluor 647(Invitrogen)に結合された抗−CD11b及び抗−CD14抗体(両方ともBD Biosciencesより)を用いて同定した後、細胞をFACs Calibur(BD Biosciences)上で獲得した。FloJo Software(Tree Star)を使用してデータを分析した。パーセント貪食作用を次の等式により決定した((GFPpos、CD11bpos、CD14pos細胞)/(GFPpos、CD11bpos、CD14pos細胞+GFPpos単独細胞)×100%。
【0097】
単離された単球は、上述したようにGM−CSF及びIFNγを使用してインビトロで分化された。他者によって示されたように、分化されたマクロファージは、FcγR(FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb、及びFcγRIIIa)の全部を発現した(データは示さず)。
【0098】
結果
図6Aに表されたデータは、IgG1 wt(1)及び2h S239D/I332E(5)が最高レベルのADCPを達成したことを示す。IgG2 wt(2)、IgG1 2h(4)、及び2h E333A/K334A(6)のADCP能力は、低いが検出可能なADCP能力を生成した。これらの結果は、プロテアーゼ耐性コンストラクト2h S239D/I332E(5)がIgG1 wtと同等のレベルで腫瘍細胞を貪食することが可能であったことを示す。別個の実験では、IgG1 2hヒンジ領域を含むCH2コンストラクトの追加のパネルを、ADCP能力に関して試験した(
図6B)。このグループでは、コンストラクト2h S239D/I332E(5)、2h F243L/R292P/Y300L(7)、及び2h S239D/H268F/S324T/I332E(9)はIgG1 wt(1)と類似したADCPを有したが、コンストラクト2h S267E/H268F/S324T/I332E(10)、2h H268F/S324T/I332E(8)、及び2h G237A/S239D/I332E(12)は、IgG1 wtと比較して僅かに低下された最大貪食作用を有した。コンストラクト2h K326A/E333A(11)は、IgG2 wt(2)及びIgG1 2h(4)と類似した、低いが検出可能なADCPを有した。最後に、IgG2の完全ヒンジを含むコンストラクトを、ADCPに関して試験した。コンストラクトIgG2 S239D/I332E(14)はIgG1 wtと類似したADCPを示したが、コンストラクト2hc(3)及び2hc S239D/I332E(13)は、低いが検出可能なADCPを示した。
【0099】
実施例3.抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)
このアッセイでは、単核細胞が標的抗原提示細胞に動員され、標的細胞破壊が測定される。
【0100】
手順
ADCCアッセイを、以前記載されたように行った(Scallon et al.,Mol Immunol 44:1524〜1534 2007)。簡潔には、ヒト血液からPBMCsをFicoll勾配により精製し、ADCCアッセイ用のエフェクター細胞として使用した。MDA−MB−231ヒト乳癌細胞(ATCC HTB−26)を標的細胞として、1標的細胞対50エフェクター細胞の割合で使用した。標的細胞をBATDA(PerkinElmer)により37℃で20分間前標識し、2回洗浄し、DMEM、10%熱不活性化FBS、2mM L−グルタミン(全てInvitrogenより)中に再懸濁した。標的(1×10
4細胞)及びエフェクター細胞(0.5×10
6細胞)を一緒にし、100μlの細胞を96ウェルU底プレートのウェルに加えた。野生型及びプロテアーゼ耐性mAbコンストラクトを有する又は有さない追加の100μlを加えた。全てのサンプルは、2組で実行された。プレートは、200gで3分間遠心分離され、37℃で2時間培養され、次に、200gで3分間再び遠心分離された。1ウェル当たり合計20μLの上清が除去され、細胞溶解が、200μLのDELPHIA Europium系試薬(PerkinElmer)の添加によって測定された。Envision 2101 Multilabel Reader(PerkinElmer)を使用して、蛍光性が測定された。データは、67% Triton X−100(Sigma Aldrich)を用いて最大の細胞傷害に対して正規化され、また任意の抗体の不在下で、標的細胞からのBATDAの自然放出によって最小対照が決定された。データは、GraphPad Prism v5を使用して、S字状用量−応答モデルにフィッティングされた。
【0101】
結果
細胞溶解のレベルを抗体濃度の関数としてY軸に表すように、データをプロットした。
図7Aに示すデータは、2h S239D/I332E(5)コンストラクトが、説明したアッセイにおいて、IgG1 wtのおよそ8倍(見かけ上のEC50におけるシフトから明かなように)の改善である最高レベルのADCC能力を有したことを示す。
【0102】
別の実験では、コンストラクトの延長パネルのADCC能力を比較した。
図7Bは、データにより生成された曲線を表す。3つのコンストラクト(2h S239D/I332E(5)、2h F243L/R292P/Y300L(7)、及び2h S239D/H268F/S324T/I332E(9)は、IgG1 wtと比較して増大されたADCC能力を有した。2h G237A/S239D/I332E(12)及び2h H268F/S324T/I332E(8)コンストラクトは、IgG1 wtを超える僅かに増大されたADCCを有した一方、コンストラクト2h K326A/E333A(11)及び2h S267E/H268F/S324T/I332E(10)は、検出可能であるが、IgG1 wtと比較して低下されたADCCを有した。
図7Cは、IgG2の完全ヒンジ領域を含んでいたコンストラクトのパネルのADCC結果を示す。IgG2 S239D/I332E(14)コンストラクトは、IgG1 wtよりも低いEC50を有したが、より低い最大溶解も有した。コンストラクト2hc(3)及び2hc S239D/I332E(13)は、IgG2 wtを上回るが、IgG1 wtよりも低い検出可能なADCCを有した。総合すれば、これらの結果は、下部ヒンジ内の重要な残基の突然変異が、多数のCH2突然変異によって、ADCC及びFcγR−結合を回復するよう補償され得ることを示す。しかしながら、試験された、IgG1 2h(3)骨格鎖に形成されたCH2突然変異の全部が、IgG1 wtに対して、ADCCを回復/増強することは可能ではなかった。
【0103】
これらの結果は、FcγRIIIa−発現NK細胞がADCCにおいて関連エフェクター細胞であると考えられるため、2h S239D/I332E(5)及び2h S239D/H268F/S324T/I332E(9)の向上された親和性を示したFcγRIIIa結合アッセイ(
図5F〜G)と一致した。
【0104】
実施例4補体依存性細胞傷害(CDC)
このアッセイでは、補体成分が標的抗原提示細胞に動員され、標的細胞破壊が測定される。
【0105】
手順
CDCアッセイを、以前記載されたように行った(Brezski et al.J Immunol.181(5):3183〜3192 2008)。WIL2−S細胞をCDCアッセイの標的細胞として使用した。50μlの細胞を96ウェルプレートのウェルに、ウェル当たり最終濃度8×10
4細胞にて、RPMI、5%加熱不活性化FBS、0.1mM非必須アミノ酸、1mMピルビン酸ナトリウム(全てInvitrogenより)中に加えた。抗体を有して又は有さずに、追加の50μlをウェルに追加し、プレートを室温で2時間インキュベートした。50μlの10%のウサギ補体(Invitrogen)をウェルに加え、プレートを37℃で20分間インキュベートした。全てのサンプルは2組で実行された。プレートを200gで3分間遠心分離し、50μlの上清を別個のプレートに除去し、CDCをLDH細胞傷害検出キット(Roche)で測定した。吸収度を、Spectra max Plus 384(PerkinElmer)を使用して測定した。データは、Triton X−100(Sigma Aldrich)並びに細胞及び補体のみを含む最小対照で最高細胞傷害に対して正規化された。データは、GraphPad Prism v5を使用して、S字状用量−応答モデルにフィッティングされた。
【0106】
結果
図8に示すデータは、コンストラクト2h S267E/H268F/S324T/I332E(10)及び2h K326A/E333A(11)の両方が、IgG1 wtと同様の細胞溶解レベルを達成したことを示す。コンストラクトIgG1 2h(4)、2h S239D/I332E(5)、2h F243L/R292P/Y300L(7)、及び2h S239D/H268F/S324T/I332E(9)は、IgG2 wt(2)に関して測定したものと同様の最小のCDC能力を有した。
【0107】
実施例5:追加のプロテアーゼ耐性コンストラクト
E233P/L234V/L235Aと組み合わせた2つのみのCH2突然変異(G236が削除された)、即ち2h K326A/K334A(11)及び2h S267E/H268F/S324T/I332E(10)は、IgG1 wtと同等のCDC活性が可能であった。しかしながら、2h K326A/K334A(11)は最小のADCC及びADCP活性を有し、2h S267E/H268F/S324T/I332E(10)は、IgG1 wtと比較して低下されたADCC活性を有した。3つの活性(ADCC、ADCP、及びCDC)の全部を有するプロテアーゼ耐性コンストラクトを設計することが有益であろう。H268F/S324T突然変異単独は、以前に、FcγRに対する親和性を増大させることが示されなかった(Moore et al.)が、コンストラクト2h H268F/S324T/I332Eは、2hと比較して増大されたACDDを有した。したがって、I332E突然変異単独は、2hプロテアーゼ耐性ヒンジコンストラクトにADCCを回復し得る。したがって、2h K326A/I332E/E333A(15)(配列番号18)、S239D/K326A/E333A(配列番号19)(16)、及びS267E/I332E(17)(配列番号20)を含む、2h親ヒンジに対してADCC/ADCP回復及びCDC回復の両方を組み合わせたコンストラクトが生成されるであろう。
【0108】
この3つのコンストラクトを、実施例1に記載した材料及び方法を使用して試験した。3つのコンストラクトは、IgG1 wtと比較して、MMP−3及びMMP−12に対する耐性を示した。
【0109】
以前に示したように、IgG2 wt(2)はGluV8に耐性であった一方、IgG1 wt(1)は、24時間の消化後、60%未満の無傷IgGが残留した。3つのコンストラクトは、IgG1 wtと比較して増大された、GluV8に対する耐性を有した。しかしながら、コンストラクト2h K326A/I332E/E333A(15)及び2h S267E/I332E(17)は、IgG2 wtと比較して低下されたGluV8に対する耐性を有した一方、2h S239D/K326A/E333A(16)は、IgG2 wtと同等の耐性を有した。これらのデータは、下部ヒンジ突然変異と組み合わせた、CH2内へ追加のGluを導入する突然変異は、新規なGluV8切断部位(例えば、2h S239D/I332E(5)、2h K326A/I332E/E333A(15)及び2h S267E/I332E(17))を形成する一方、CH2内にGluを組み込まない突然変異は、IgG2 wtと同様のGluV8に対する耐性を示す(例えば、2h K326A/E333A(11)及び2h S239D/K326A/E333A(16))ことを示唆する。
【0110】
IgG1 wt及びIgG2 wtの両方は、IdeSによるタンパク質分解を受けやすかった。2つのコンストラクト2h K326A/I332E/E333A(15)及び2h S267E/I332E(17)は、IdeSと共に24時間インキュベートした後、90%を超える無傷IgGが残留した一方、コンストラクト2h S239D/K326A/E333A(16)は、20%未満の無傷IgGが残留した。これらの結果は、下部ヒンジ突然変異と組み合わせた、CH2内へのGluの追加は、下部ヒンジ突然変異単独、2h(4)では付与されない特性である、IdeSに対するプロテアーゼ耐性を増大させることを示唆する。
【0111】
3つのコンストラクトのADCP、ADCC、及びCDCを行う能力について試験した。3つのコンストラクトは、IgG2 wt及び2h(4)の両方と比較して増大されたADCP能力を有したが、IgG1 wtと比較して低下された最大ADCPを有した。コンストラクトの2つ、2h K326A/I332E/E333A(15)及び2h S239D/K326A/E333A(16)は、IgG1 wtと比較して僅かに増大されたADCCを有した。コンストラクト2h S267E/I332E(17)は、IgG1 wtと比較して低下されたADCCを有したが、IgG2 wt及び2h(4)と比較して増大されたADCCを有した。3つのコンストラクトの全部がIgG2 wt及び2h(4)と比較して増大されたCDC能力を有したが、3つの全部に関してCDCは、IgG1 wtと比較して僅かに低下された。
【0112】
実施例6:有益な突然変異の概略
以下の11個のFc異型は、野生型ヒトIgG1が有する1つ以上のエフェクター機能を提供すると共に、下部ヒンジ内のIgG1を切断することが可能な1つ以上のプロテアーゼに対して耐性を有する抗体組成物を提供することが示された。記号2hは、G236が削除された、E233P/L234V/L235Aを有するIgG1を指定する。
【0113】
【表6】
【0114】
十分なデータが入手可能な場合、インビトロでのアッセイにおいて、細胞殺滅が完全又はほぼ完全な場合、様々なエフェクター機能の代理として用いられた、計算されたEC50値を下記に示す。表6A及び6Bに示すデータは、ドナーPBMC源が異なることを除いて同一条件下で生成された。したがって、各実験において、IgG1 wt(1)からの倍変化を用いて相対的な生物活性を標準化した。
【0115】
【表7】
【0116】
【表8】
n/a=該当なし(EC50の決定に不十分な結合曲線データ)、
*最大下の溶解が達成された
n.d.=データなし
倍=EC50 IgG1 wt/EC50コンストラクト
【0117】
S239D/I332E及び233PVA/236に加えた、下部ヒンジ内のG237における追加の改変の、ADCC及びACDPに対する効果を、下記の表7に列挙したコンストラクトを使用して調べた。G237Aコンストラクトを試験し、MMPs、IdeS、及びGluV8に対する耐性を有することが見出された。他のコンストラクトは消化アッセイにて評価されなかった。これらのデータは、Ala(A)及びSer(S)が237にて耐えるが、親分子、2h DE(5)が示した上記のFcの細胞溶解活性を増大させないことを示す。
【0118】
【表9】
【0119】
生理学的に関連した特定のプロテアーゼに対する相対的なプロテアーゼ耐性(PR)と、可能なエフェクター機能(ADCC、ADCP及びCDC)を示す代理アッセイに関するインビトロ結果との組み合わせの概略を、下記の表8に示す。プロテアーゼ耐性と、確認できる1つ以上のエフェクター活性との組み合わせを有するコンストラクトは、白色で示される。
【0120】
【表10】
【0121】
結果の概要
本明細書に提示したFcコンストラクトの試験は、プロテアーゼがIgG1分子を切断することが示された部位である残基EU 233〜236をPVA/で置換することにより、残基232と234との間で切断するプロテアーゼである(
図1)MMP−3、MMP−12、及びGluV8に対して耐性を有するFcが生成されることを示した。これらの置換と組み合わせた際、置換された残基位置が推定切断部位(EU236〜237)、又はより遠位の位置の改変のいずれを含む場合でも、追加の改変がブドウ球菌プロテアーゼIdeSに対する耐性を生成した。
【0122】
残基EU 233〜236のPVA/による置換(2h、コンストラクト4)単独は、ADCC、ADCP、及びCDCに関して記載したインビトロでのアッセイにより測定可能な、細胞溶解機能の損失をもたらした。1つ以上のエフェクター機能を増強することが以前に報告された、下部ヒンジPVA/置換を有するIgG1 Fc改変の組み合わせ(表2)に関しては、インビトロでの細胞溶解活性の1つ以上の局面が予想外に回復された。したがって、単一のコンストラクトはいずれも、プロテアーゼ耐性と、ADCC、ADCP、及びCDCに関するインビトロでの細胞殺傷又は細胞溶解アッセイにより測定可能な、3つのエフェクター機能の全部に関する測定可能な又は増強された活性との両方を有さなかった。
1.8個のコンストラクト、5、7、8、9、12、14、15、及び16は、プロテアーゼ耐性と、IgG1 wtと比較して増強された又は同等のADCCとを有した。IgG1 2h DE(5)、IgG1 2h FTE(8)、IgG1 2h DFTE(9)、IgG1 2h ADE(12)、IgG2 DE(14)及びIgG1 2h AEA(15)を含む、それらのうちの6個は、I332E置換を組み込んでいる。
2.IgG1 2h DE(5)、IgG1 2h LPL(7)、及びIgG1 2h DFTE(9)を含む3つのPRコンストラクトは、IgG1 wtと同様のADCPを有した。IgG1 2h FTE(8)、IgG1 2h EFTE(10)、IgG1 2h ADE(12)、及びIgG2 DE(14)を含む3つのコンストラクトは、IgG1と比較して僅かに低下されたADCPを有した。
3.5個のPR突然変異、IgG1 2h AA(11)、IgG 2h EFTE(10)、2h AEA(15)、2h DAA(16)、及び2h EE(17)は、CDC能力を回復した。加えて、5個の全部は、検出可能であるがIgG1 wtと比較して低下されたADCPを有した。2つの異型、2h AEA(15)、2h DAA(16)も、IgG1 wt(1)と比較して増強されたADCCを有した。
【0123】
H268F/S324T突然変異を含む2つのコンストラクト(8及び9)は、プロテアーゼ耐性ヒンジが存在する場合、CDCが回復されなかった。S267E突然変異(EFTE(10))はCDCを回復したが、FcγRIIIa結合が低下した(Moore et al.mAbs 2010 2(2):181.にも記されている)。S267E突然変異は、FcγRIIbに対する親和性を増大させた。