特許第6012637号(P6012637)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012637
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】アリピプラゾール凍結乾燥製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/496 20060101AFI20161011BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20161011BHJP
   A61P 25/18 20060101ALN20161011BHJP
【FI】
   A61K31/496
   A61K9/19
   A61K47/02
   A61K47/10
   A61K47/38
   A61K47/24
   !A61P25/18
【請求項の数】20
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-554727(P2013-554727)
(86)(22)【出願日】2012年6月7日
(65)【公表番号】特表2014-516025(P2014-516025A)
(43)【公表日】2014年7月7日
(86)【国際出願番号】JP2012065180
(87)【国際公開番号】WO2012169662
(87)【国際公開日】20121213
【審査請求日】2015年5月15日
(31)【優先権主張番号】61/494,088
(32)【優先日】2011年6月7日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平岡 ▲祥▼吾
【審査官】 磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−509148(JP,A)
【文献】 特表2010−535151(JP,A)
【文献】 特表2007−509153(JP,A)
【文献】 特表2009−508859(JP,A)
【文献】 特表2002−529396(JP,A)
【文献】 Pharmaceutical Research, 2003, Vol.20(3), p.485-493
【文献】 Pharmaceutical Research, 2002, Vol.19(9), p.1278-1283
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/496
A61K 9/19
A61K 47/02
A61K 47/10
A61K 47/24
A61K 47/38
A61P 25/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)アリピプラゾール
(II)そのためのビヒクル、および
(III)注射用水、
を含むアリピプラゾール懸濁液を凍結させる際に噴霧する工程および乾燥させる工程を経て得られる凍結乾燥製剤。
【請求項2】
実質的に30μm以上の粒子からなる、請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項3】
アリピプラゾールが50w/w%以上含まれる、請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項4】
嵩密度が0.05〜0.5g/mL程度である、請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項5】
アリピプラゾールが約1〜約10ミクロンの範囲内の平均粒子径を有する、請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項6】
アリピプラゾールが約2.5ミクロンの平均粒子径を有する、請求項5に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項7】
懸濁化剤、バルキング剤、及び緩衝剤からなる群より選択される少なくとも1種が含まれる、請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項8】
(II−a)1以上の懸濁化剤、
(II−b)1以上のバルキング剤、および
(II−c)1以上の緩衝剤、
が含まれる、請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項9】
(II−a)カルボキシメチルセルロースまたはその塩、
(II−b)マンニトール、及び
(II−c)リン酸ナトリウム
が含まれる、請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項10】
さらに(IV)pH調整剤を含む、請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項11】
pH調整剤が水酸化ナトリウムである、請求項10に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項12】
(I)アリピプラゾール、
(II−a)カルボキシメチルセルロースまたはそのナトリウム塩、
(II−b)マンニトール、
(II−c)pHを約7へ調整するためのリン酸ナトリウム、および
(IV)必要に応じて、pHを約7へ調整するための水酸化ナトリウム
を含む、請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項13】
前記アリピプラゾールが、一水和物の形態である、請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項14】
(e’−1)平均粒子径が約1ミクロン〜約10ミクロンの範囲のアリピプラゾール懸濁液を噴霧凍結して噴霧凍結粒子を得る工程、及び
(e’−2)該噴霧凍結粒子を乾燥させ噴霧凍結乾燥粒子を得る工程、
を含む、アリピプラゾール凍結乾燥製剤の製造方法。
【請求項15】
(d’)アリピプラゾール、アリピプラゾールのための無菌ビヒクル、及び水を混合して形成した一次懸濁液中のアリピプラゾールの平均粒子径を、約1ミクロン〜約10ミクロンの範囲内に減少させて、最終懸濁液を形成する工程、
(e’−1)平均粒子径が約1ミクロン〜約10ミクロンの範囲のアリピプラゾール懸濁液を噴霧凍結して噴霧凍結粒子を得る工程、及び
(e’−2)該噴霧凍結粒子を乾燥させ噴霧凍結乾燥粒子を得る工程、
を含む、請求項14に記載のアリピプラゾール凍結乾燥製剤の製造方法。
【請求項16】
前記無菌一次懸濁液中のアリピプラゾールの平均粒子径を減少させる工程が、湿式粉砕を使用して行われる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
(e’−1)における噴霧する工程が、低温下に噴霧し凍結する工程、あるいは減圧下に噴霧し凍結する工程である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
30μm以上の噴霧凍結乾燥粒子を選抜する工程をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
水で再構成すると分散不良なく均一なアリピプラゾール懸濁液となる、請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項20】
粒子径が75μm未満の粒子が15w/w%以下である、請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、「凍結乾燥製剤(FREEZE-DRIED FORMULATION)」と題する2011年6月7日出願の米国特許仮出願第61/494088号に基づく優先権を主張する。参照により上記参照出願の開示はその全体が本明細書に組みこまれる。
【0002】
発明の分野
本発明はアリピプラゾールを含有する凍結乾燥製剤に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
米国特許第5,006,528号(Oshiroら)は、ドーパミン作動性神経伝達物質アンタゴニストとして、アリピプラゾールを包含する7−[(4−フェニルピペラジノ)−ブトキシ]カルボスチリル類を開示している。
【0004】
アリピプラゾールは、構造
【0005】
【化1】
【0006】
を有し、統合失調症の治療に有用な非定型抗精神病薬である。アリピプラゾールは、乏しい水溶性を有する(室温で、<1μg/mL)。
【0007】
長時間作用するアリピプラゾール無菌注射製剤は、患者のコンプライアンスを増大させそしてそれによって統合失調症の治療における再発率を低下させ得る点で、薬物投薬形態としてメリットを有する。
【0008】
また、統合失調症の治療のための公知の長時間作用する薬物プロダクトの例としては、デカン酸ハロペリドールおよびデカン酸フルフェナジンが挙げられ、これらは両方とも、ゴマ油に溶解された低水溶性のエステル化合物を有する。リスペリドン(WO95/13814)およびオランザピン(WO99/12549)を含有するマイクロカプセルもまた公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,006,528号
【特許文献2】WO2005/041937
【特許文献3】WO1995/13814
【特許文献4】WO1999/12549
【特許文献5】WO2003/26659
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Journal of Pharmaceutical Sciences, Vol.92, No.2, 319-332 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本願発明者らは、アリピプラゾールの凍結乾燥製剤及び注射用水が充填され、用時にこれらを混合して再構成をして、そのまま注射することが可能なプレフィルドシリンジ(用時調製型プレフィルドシリンジ)の開発を試みた。
【0012】
当該プレフィルドシリンジ製造のためには、注射器内にアリピプラゾールの凍結乾燥製剤を充填することが必要であるが、簡便に充填を行うためには、粉末状のアリピプラゾール凍結乾燥製剤を用いることが好ましい。特に、効率的に充填すべき製剤量を量り採るためには、粉末を用いることが好ましい。
【0013】
粉末を注射器内に充填するためには、原末そのもの、又は、噴霧乾燥した粉末を用いる方法が一般的であるが、両手法を用いた場合、アリピプラゾール又はアリピプラゾールを含む粒子の分散性は悪く、注射器内で均質な懸濁液に懸濁することが不可能であった。そこで、WO2005/041937に開示されるケーキ状のアリピプラゾールの凍結乾燥製剤を砕いて粉末状とし、これをシリンジへ充填することを試みた。しかし、当該アリピプラゾール凍結乾燥粉末製剤は、水で再構成した際に、分散性が悪く、均一な懸濁液(homogeneous suspension)を構成することが容易ではなかった。当該ケーキ状のアリピプラゾール凍結乾燥製剤は、水を加えることで容易に均一な懸濁液を再構成し得るため、この結果は意外であった。(当該結果は、本発明者らが見出したものであって公知ではない。当該結果については、後に比較例として詳述する。)
【0014】
なお、ここでの「分散性」とは、充填された粉末製剤に水を加えた際、当該粉末製剤が水に分散する程度をいう。よって、「分散性が悪い」又は「分散不良」とは、具体的には、充填された粉末製剤に水を加えた際、水が当該粉末に染みこみにくく、当該粉末製剤が水に分散しづらいことをいう。上記のケーキ状のアリピプラゾールの凍結乾燥製剤を砕いて得た粉末製剤では、水に溶解させた際、ダマになったり、水が染みこまず粉末状態が保たれる部分が存在するなどした。
【0015】
このため、水で再構成した際に分散不良なく均一な懸濁液となる、粉末状の、アリピプラゾール凍結乾燥製剤を開発することが必要となった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本出願は例えば下記の項に記載の主題を含有する。なお、以下、「w/w%」は「(重量/重量)%」を表し、「w/v%」は「(重量/容量)%」を表す。
項1a.
(I)アリピプラゾール
(II)そのためのビヒクル、および
(III)注射用水、
を含むアリピプラゾール懸濁液を凍結させる際に噴霧する工程および乾燥させる工程を経て得られる凍結乾燥製剤。
項1aの凍結乾燥製剤は、より具体的には、次の項1bのように記載できる。
項1b.
(I)アリピプラゾール
(II)そのためのビヒクル、および
(III)注射用水、
を含むアリピプラゾール懸濁液を噴霧凍結して噴霧凍結粒子を得る工程、及び
該噴霧凍結粒子を乾燥させ噴霧凍結乾燥粒子を得る工程
を経て得られる凍結乾燥製剤。
項2.
実質的に30μm以上(より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは70μm以上、よりさらに好ましくは75μm以上)の粒子(噴霧凍結乾燥粒子)からなる、項1a又は1bに記載の凍結乾燥製剤。
項3.
アリピプラゾールが50w/w%以上(より好ましくは60w/w%以上、さらに好ましくは70w/w%以上)含まれる、項1a〜2のいずれかに記載の凍結乾燥製剤。
項4.
嵩密度が0.05〜0.5g/mL、より好ましくは0.08〜0.4g/mL、さらに好ましくは0.1〜0.3g/mLである、項1a〜3のいずれかに記載の凍結乾燥製剤。
項5.
アリピプラゾールが約1〜約10ミクロンの範囲内の平均粒子径を有する、項1a〜4のいずれかに記載の凍結乾燥製剤。
項6.
アリピプラゾールが約2.5ミクロンの平均粒子径を有する、項5に記載の凍結乾燥製剤。
【0017】
項7a.
懸濁化剤、バルキング剤、及び緩衝剤からなる群より選択される少なくとも1種が含まれる、項1a〜6のいずれかに記載の凍結乾燥製剤。
項7b.
前記アリピプラゾール懸濁液に、前記ビヒクルとして、懸濁化剤、バルキング剤、及び緩衝剤からなる群より選択される少なくとも1種が含まれる、項1a〜7aのいずれかに記載の凍結乾燥製剤。
項8a.
(II−a)1以上の懸濁化剤、
(II−b)1以上のバルキング剤、および
(II−c)1以上の緩衝剤、
が含まれる、項1a〜7bのいずれかに記載の凍結乾燥製剤。
項8b.
前記ビヒクルとして、
(II−a)1以上の懸濁化剤、
(II−b)1以上のバルキング剤、および
(II−c)1以上の緩衝剤、
が前記アリピプラゾール懸濁液に含まれる、項1a〜8aのいずれかに記載の凍結乾燥製剤。
項9a.
(II−a)カルボキシメチルセルロースまたはその塩、
(II−b)マンニトール、及び
(II−c)リン酸ナトリウム
が含まれる、項1a〜8bのいずれかに記載の凍結乾燥製剤。
項9b.
前記ビヒクルとして、
(II−a)カルボキシメチルセルロースまたはその塩、
(II−b)マンニトール、及び
(II−c)リン酸ナトリウム
が前記アリピプラゾール懸濁液に含まれる、項1a〜9aのいずれかに記載の凍結乾燥製剤。
項10a.
さらに(IV)pH調整剤を含む、項1a〜9bのいずれかに記載の凍結乾燥製剤。
項10b.
さらに(IV)pH調整剤を前記アリピプラゾール懸濁液に含む、項1a〜10aのいずれかに記載の凍結乾燥製剤。
【0018】
項11.
pH調整剤が水酸化ナトリウムである、項10a又は10bに記載の凍結乾燥製剤。
項12.
(I)アリピプラゾール、
(II−a)カルボキシメチルセルロースまたはそのナトリウム塩、
(II−b)マンニトール、
(II−c)(pHを約7へ調整するための)リン酸ナトリウム、および
(IV)必要に応じて、(pHを約7へ調整するための)水酸化ナトリウム
を含む、項1a〜11のいずれかに記載の凍結乾燥製剤。
項13.
前記アリピプラゾールが、一水和物の形態である、項1a〜12のいずれかに記載の凍結乾燥製剤。
項14a.
(e’−1)平均粒子径が約1ミクロン〜約10ミクロンの範囲のアリピプラゾール懸濁液を噴霧凍結して噴霧凍結粒子を得る工程、及び
(e’−2)該噴霧凍結粒子を乾燥させ噴霧凍結乾燥粒子を得る工程、
を含む、アリピプラゾール凍結乾燥製剤の製造方法。
項14b.
(d’)アリピプラゾール、アリピプラゾールのための無菌ビヒクル、及び水を混合して形成した一次懸濁液中のアリピプラゾールの平均粒子径を、約1ミクロン〜約10ミクロンの範囲内に減少させて、最終懸濁液を形成する工程、
(e’−1)平均粒子径が約1ミクロン〜約10ミクロンの範囲のアリピプラゾール懸濁液を噴霧凍結して噴霧凍結粒子を得る工程、及び
(e’−2)該噴霧凍結粒子を乾燥させ噴霧凍結乾燥粒子を得る工程、
を含む、アリピプラゾール凍結乾燥製剤の製造方法。
項14c.
(c’)アリピプラゾール、アリピプラゾールのための無菌ビヒクル、及び水を混合して、一次懸濁液を形成する工程、
(d’)アリピプラゾール、アリピプラゾールのための無菌ビヒクル、及び水を混合して形成した一次懸濁液中のアリピプラゾールの平均粒子径を、約1ミクロン〜約10ミクロンの範囲内に減少させて、最終懸濁液を形成する工程、
(e’−1)平均粒子径が約1ミクロン〜約10ミクロンの範囲のアリピプラゾール懸濁液を噴霧凍結して噴霧凍結粒子を得る工程、及び
(e’−2)該噴霧凍結粒子を乾燥させ噴霧凍結乾燥粒子を得る工程、
を含む、アリピプラゾール凍結乾燥製剤の製造方法。
なお、項14a〜14cに記載のアリピプラゾール凍結乾燥製剤の製造方法は、項1a〜13のいずれかに記載の凍結乾燥製剤を製造する方法として好ましい。
【0019】
項15.
(a)所望の粒度分布を有するアリピプラゾール原末を調製する工程、
(b)該アリピプラゾール原末のためのビヒクルを調製する工程、
(c)該アリピプラゾールと該無菌ビヒクルを混合して、該アリピプラゾールを含む一次懸濁液を形成する工程、
(d)該一次懸濁液中の該アリピプラゾールの平均粒子径を、約1〜約10ミクロンの範囲内に減少させて、最終懸濁液を形成する工程、および
(e)該最終懸濁液を凍結させる際に噴霧する工程および乾燥させる工程を包含する、項1a〜13のいずれかに記載の凍結乾燥製剤の製造方法。
16.
前記(無菌一次)懸濁液中のアリピプラゾールの平均粒子径を減少させる工程が、湿式粉砕を使用して行われる、項14a〜15のいずれかに記載の方法。
項17.
(e)又は(e’−1)における噴霧する工程が、低温下に噴霧し凍結する工程、あるいは減圧下に噴霧し凍結する工程である、項14a〜16のいずれかに記載の方法。
項18.
30μm以上(より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは70μm以上、よりさらに好ましくは75μm以上)の粒子(噴霧凍結乾燥粒子)を選抜する工程をさらに含む、項14a〜17のいずれかに記載の方法。
項19.
水で再構成すると分散不良なく均一なアリピプラゾール懸濁液となる、項1a〜13のいずれかに記載の凍結乾燥製剤。
項20.
粒子径が75μm未満の粒子が15w/w%以下である、項1a〜13、19のいずれかに記載の凍結乾燥製剤。
【0020】
項21.
項1a〜13、19、20のいずれかに記載の凍結乾燥製剤を水に再構成して得た均一なアリピプラゾール懸濁液。
項22.
アリピプラゾール及びそのためのビヒクルを含み、粉末状であり、(好ましくは該粉末を構成する粒子は粒子径が1mm以下であり、)粒子が球状であって且つ多孔状であるアリピプラゾール製剤。
項23.
実質的に30μm以上(より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは70μm以上、よりさらに好ましくは75μm以上)の凍結乾燥粒子(好ましくは噴霧凍結乾燥粒子)からなる、項22に記載のアリピプラゾール製剤。
項24.
アリピプラゾールが50w/w%以上(より好ましくは60w/w%以上、さらに好ましくは70w/w%以上)含まれる、項22〜23のいずれかに記載のアリピプラゾール製剤。
項25.
嵩密度が0.05〜0.5g/mL、より好ましくは0.08〜0.4g/mL、さらに好ましくは0.1〜0.3g/mLである、項22〜24のいずれかに記載のアリピプラゾール製剤。
項26.
アリピプラゾールが約1〜約10ミクロンの範囲内の平均粒子径を有する、項22〜25のいずれかに記載のアリピプラゾール製剤。
項27.
アリピプラゾールが約2.5ミクロンの平均粒子径を有する、項26に記載のアリピプラゾール製剤。
項28.
粒子径が75μm未満の粒子が15w/w%以下である、項22〜27のいずれかに記載のアリピプラゾール製剤。
項29.
凍結乾燥製剤である項22〜28にいずれかに記載のアリピプラゾール製剤。
項30.
噴霧凍結乾燥製剤である項29に記載のアリピプラゾール製剤。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】10%懸濁液を噴霧凍結乾燥して得た噴霧凍結乾燥粒子のうち、75μm−250μm篩回収粒子の外観(左図)と表面状態(右図)を示す。左図右下の白いバーは1mmを示す。右図左下の白いバーは20μmを示す。
図2】10%懸濁液を噴霧凍結乾燥して得た噴霧凍結乾燥粒子のうち、250μm−500μm篩回収粒子の外観(左図)と表面状態(右図)を示す。左図右下の白いバーは1mmを示す。右図右下の白いバーは20μmを示す。
図3】10%懸濁液を噴霧凍結乾燥して得た噴霧凍結乾燥粒子のうち、500μm−1000μm篩回収粒子の外観(左図)と表面状態(右図)を示す。左図右下の白いバーは1mmを示す。右図右下の白いバーは20μmを示す。
図4】20%懸濁液を噴霧凍結乾燥して得た噴霧凍結乾燥粒子のうち、75μm−250μm篩回収粒子の外観(左図)と表面状態(右図)を示す。左図右下の白いバーは1mmを示す。右図右下の白いバーは20μmを示す。
図5】20%懸濁液を噴霧凍結乾燥して得た噴霧凍結乾燥粒子のうち、250μm−500μm篩回収粒子の外観(左図)と表面状態(右図)を示す。左図右下の白いバーは1mmを示す。右図右下の白いバーは20μmを示す。
図6】20%懸濁液を噴霧凍結乾燥して得た噴霧凍結乾燥粒子のうち、500μm−1000μm篩回収粒子の外観(左図)と表面状態(右図)を示す。左図右下の白いバーは1mmを示す。右図右下の白いバーは20μmを示す。
図7】30%懸濁液を噴霧凍結乾燥して得た噴霧凍結乾燥粒子のうち、75μm−250μm篩回収粒子の外観(左図)と表面状態(右図)を示す。左図右下の白いバーは1mmを示す。右図左下の白いバーは20μmを示す。
図8】30%懸濁液を噴霧凍結乾燥して得た噴霧凍結乾燥粒子のうち、250μm−500μm篩回収粒子の外観(左図)と表面状態(右図)を示す。左図右下の白いバーは1mmを示す。右図右下の白いバーは20μmを示す。
図9】30%懸濁液を噴霧凍結乾燥して得た噴霧凍結乾燥粒子のうち、500μm−1000μm篩回収粒子の外観(左図)と表面状態(右図)を示す。左図右下の白いバーは1mmを示す。右図右下の白いバーは20μmを示す。
図10】10%懸濁液を噴霧凍結乾燥して得た噴霧凍結乾燥粒子のうち、75μm−250μm篩回収粒子の外観(左図)と表面状態(右図)を示す。左図左下の白いバーは50μmを示す。右図左下の白いバーは4μmを示す。
図11】10%懸濁液を噴霧凍結乾燥して得た噴霧凍結乾燥粒子のうち、75μm篩を通った粒子の外観(左図)と表面状態(右図)を示す。左図左下の白いバーは50μmを示す。右図左下の白いバーは4μmを示す。
図12】バイアル内凍結乾燥物を粉砕して得た粉末のうち、75μm−250μm篩回収粒子の外観(左図)と表面状態(右図)を示す。左図左下の白いバーは50μmを示す。右図右下の白いバーは4μmを示す。
図13】バイアル内凍結乾燥物を粉砕して得た粉末のうち、75μm篩を通った粒子の外観(左図)と粒子の表面状態(右図)を示す。左図左下の白いバーは50μmを示す。右図左下の白いバーは4μmを示す。
図14】砕く前のバイアル内凍結乾燥物(ケーキ状)を水に分散させて得た懸濁液の様子を示す。
図15】噴霧凍結乾燥物を篩過して、75μmと250μmの篩の間に得られた粉末を、水に分散させて得た懸濁液の様子を示す。
図16】噴霧凍結乾燥物を篩過して、75μmの篩を通った粉末を、水に分散させて得た懸濁液の様子を示す。
図17】バイアル内凍結乾燥物をバイアル内で粉砕し篩過して、75μmの篩を通った粉末を、水に分散させて得た懸濁液の様子を示す。
図18】バイアル内凍結乾燥物をバイアル内で粉砕し篩過して、75μmと250μmの篩の間に得られた粉末を、水に分散させて得た懸濁液の様子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。なお、当然であるが、「ミクロン」は「μm」と同じ長さを示す。
本発明は、下記の製剤を提供する。
【0023】
(I)アリピプラゾール
(II)そのためのビヒクル、および
(III)注射用水、
を含むアリピプラゾール懸濁液を凍結させる際に噴霧する工程および乾燥させる工程を経て得られる凍結乾燥製剤。
【0024】
当該凍結乾燥製剤は、(I)〜(III)を含むアリピプラゾール懸濁液を製造し、さらに当該懸濁液を噴霧凍結乾燥させて得られる。なお、当該“アリピプラゾール懸濁液”は、均一な(homogeneous)懸濁液である。特に、後述する製造方法において得られる“最終アリピプラゾール懸濁液”であることが好ましい。
【0025】
当該凍結乾燥製剤は、粉末状製剤であり、そして水への分散性が良好である。よって、当該凍結乾燥製剤は、水を加えることで容易に再構成され、均一な懸濁液となる。なお、当該懸濁液は、噴霧凍結乾燥に供される懸濁液と同じ性質を有する。特に、再構成に用いる水の量を凍結乾燥時に失われた水の量と同じにすると、当該懸濁液は噴霧凍結乾燥に供される懸濁液と同じ構成及び性質を有する。
【0026】
より詳細には、当該凍結乾燥製剤は、水で再構成されると、(好ましくは、筋肉内に)注射されると少なくとも1週間、好ましくは2、3または4週間そして6週間以上までの期間、治療量のアリピプラゾールを放出する注射懸濁液を形成する。当該注射懸濁液は、少なくとも1週間治療量のアリピプラゾールを放出でき、少なくとも2週間治療量のアリピプラゾールを放出することが好ましく、少なくとも3週間治療量のアリピプラゾールを放出することがより好ましく、少なくとも4週間治療量のアリピプラゾールを放出することがさらに好ましい。
【0027】
当該凍結乾燥製剤は、粉末状である。当該粉末は、上記(I)アリピプラゾール及び(II)そのためのビヒクルを含んでなる粒子の集合物である。本発明の凍結乾燥製剤は、上記懸濁液を噴霧凍結乾燥して得られるものであるので、当該粒子の粒子径は通常は1mm以下となる。なお、当該粒子を、本明細書において「噴霧凍結乾燥粒子」ということがある。
【0028】
理由は明らかではないが、意外なことに、当該粒子のうち、粒子径が小さすぎる粒子は水で再構成した際に分散性が悪い傾向がある。通常、噴霧凍結乾燥して得られる粉末製剤では、粒子径が小さい粒子は、粉末製剤全体としては分散性が問題となる程は含まれないので、特に制限はされないが、粒子径が小さい粒子を除去することが好ましい。
【0029】
つまり、粒子径が特定の値以上の粒子からなる凍結乾燥製剤が好ましい。具体的には、粒子径が実質的に30μm以上の粒子からなる凍結乾燥製剤が好ましく、実質的に50μm以上の粒子からなる凍結乾燥製剤がより好ましく、実質的に70μm以上の粒子からなる凍結乾燥製剤がさらに好ましく、実質的に75μm以上の粒子からなる凍結乾燥製剤がよりさらに好ましい。このような凍結乾燥製剤は、例えば、特定の大きさの目開きの篩を用いて、上記霧凍結乾燥製剤を篩過することで得ることができる。すなわち、例えば、上記の懸濁液を噴霧凍結乾燥して得られる凍結乾燥製剤を、目開き30μmの篩を用いて篩過を行い、篩に残った粉を回収することで、粒子径が実質的に30μm以上の粒子からなる凍結乾燥製剤を得ることができる。なお、ここでの「実質的に30μm以上」とは、30μm以上の粒子を選抜する操作(例えば篩過)を行って得た、との意味合いであり、30μm未満の粒子が全く含まれないという意味ではない。
【0030】
また、「粒子径が特定の値以上の粒子からなる凍結乾燥製剤」でなくとも、粒子径の小さな粒子が、分散性が問題となる程の量、含まれない凍結乾燥製剤であれば好ましく用いることができる。上記の通り、通常、噴霧凍結乾燥して得られる粉末製剤では、粒子径が小さい粒子は、粉末製剤全体としては分散性が問題となる程は含まれないので、噴霧凍結乾燥製剤は、好ましい。より具体的には、粒子径が好ましくは75μm未満の粒子が15w/w%以下、より好ましくは10w/w%以下、さらに好ましくは8w/w%以下の凍結乾燥製剤が挙げられる。なお、当該割合は、目開き75μmの篩を用いて篩過を行い、篩を通り過ぎた粉を回収して、その重量を測定し、凍結乾燥製剤の重量全体に対する割合を算出することで求める。
【0031】
なお、噴霧凍結乾燥粒子の粒子径は、噴霧時の霧の細かさ(霧の液滴の大きさ)に依存しており、従って、噴霧時の噴霧のための圧力、噴霧ノズルの口径等を調整することにより、適宜調整することができる。また、該粒子は、噴霧凍結乾燥により製造されるため、ほぼ球形の粒子であり得る。
【0032】
本発明の凍結乾燥製剤(つまり噴霧凍結乾燥粒子)には、アリピプラゾールが好ましくは50w/w%以上、より好ましくは60w/w%以上、さらに好ましくは70w/w%以上、含まれる。
【0033】
また、本発明の凍結乾燥製剤(つまり噴霧凍結乾燥粒子)の嵩密度は、好ましくは0.05〜0.5g/mL、より好ましくは0.08〜0.4g/mL、さらに好ましくは0.1〜0.3g/mLである。なお、ここでの嵩密度は、具体的には、メスシリンダーに凍結乾燥製剤(粉末)を流し込み、体積を測り、さらにその重量を測定して、該体積を該重量で除して算出した値である。
【0034】
前記ビヒクルとしては、1以上の懸濁化剤、1以上のバルキング剤、および
1以上の緩衝剤、等を含み得る。つまり、前記ビヒクルは、懸濁化剤、バルキング剤、及び緩衝剤からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0035】
懸濁化剤(suspending agent)は、無菌注射製剤に基づいて、約0.2〜約10w/v%、好ましくは約0.5〜約5w/v%の範囲内の量で存在する。なお、ここでの「無菌注射製剤」とは、無菌の、上記(I)〜(III)を含む均一なアリピプラゾール懸濁液(噴霧凍結乾燥前の懸濁液および凍結乾燥製剤を水で再構成した懸濁液を包含する)のことを示す。使用のために好適な懸濁化剤の例としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびポリビニルピロリドンの1、2またはそれ以上が挙げられるが、これらに限定されず、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびポリビニルピロリドンが好ましい。
【0036】
アリピプラゾールのためのビヒクルにおける使用のために好適な他の懸濁化剤としては、種々のポリマー、低分子量オリゴマー、天然プロダクト(natural products)、および界面活性剤(非イオン性およびイオン性界面活性剤を含む)、例えば、塩化セチルピリジニウム、ゼラチン、カゼイン、レシチン(ホスファチド)、デキストラン、グリセロール、アカシアゴム、コレステロール、トラガカント、ステアリン酸、塩化ベンザルコニウム、ステアリン酸カルシウム、モノステアリン酸グリセロール、セトステアリルアルコール、セトマクロゴール乳化ワックス(cetomacrogol emulsifying wax)、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、セトマクロゴール1000のようなマクロゴールエーテル)、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体(polyoxyethylene castor oil derivatives)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、市販のTweens(登録商標)、例えば、Tween20(登録商標)およびTween80(登録商標)(ICI Specialty Chemicals));ポリエチレングリコール類(例えば、Carbowaxs 3350(登録商標)および1450(登録商標)、ならびにCarbopol 934(登録商標)(Union Carbide))、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ポリオキシエチレンステアレート、コロイダル二酸化ケイ素、ホスフェート、ドデシル硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースtiカルシウム(carboxymethylcellulose ti calcium)、ヒドロキシプロピルセルロース(例えば、HPC、HPC−SL、およびHPC−L)、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル−セルロースフタレート、非結晶性セルロース(noncrystalline cellulose)、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、トリエタノールアミン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレンオキサイドおよびホルムアルデヒドとの4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−フェノールポリマー(チロキサポール(tyloxapol)、スペリオン(superione)、およびトリトン(triton)としても公知)、ポロキサマー(poloxamers)(例えば、Pluronics F68(登録商標)およびF108(登録商標)、これらは、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドのブロックコポリマーである);ポロキサミン(例えば、Tetronic 908(登録商標)、Poloxamine 908(登録商標)としても公知、これは、エチレンジアミンへのプロピレンオキサイドおよびエチレンオキサイドの連続付加から誘導される四官能性ブロックコポリマーである(BASF Wyandotte Corporation,Parsippany,N.J.));荷電リン脂質(charged phospholipid)、例えば、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジオクチルスルホサクシネート(DOSS);Tetronic 1508(登録商標)(T−1508)(BASF Wyandotte Corporation)、スルホコハク酸ナトリウムのジアルキルエステル(例えば、Aerosol OT(登録商標)、これはスルホコハク酸ナトリウムのジオクチルエステルである(American Cyanamid));Duponol P(登録商標)、これはラウリル硫酸ナトリウムである(DuPont);Tritons X−200(登録商標)、これはアルキルアリールポリエーテルスルホネートである(Rohm and Haas);Crodestas F−110(登録商標)、これはスクロースステアレートおよびスクロースジステアレートの混合物である(Croda Inc.);p−イソノニルフェノキシポリ−(グリシドール)、Olin−10G(登録商標)またはSurfactant 10−G(登録商標)としても公知(Olin Chemicals,Stamford,Conn.);Crodestas SL−40(登録商標)(Croda,Inc.);ならびにSA9OHCO、これはC1837CH(CON(CH))−CH(CHOH)(CHOH)である(Eastman Kodak Co.);デカノイル−N−メチルグルカミド;n−デシル β−D−グルコピラノシド;n−デシル β−D−マルトピラノシド;n−ドデシル β−D−グルコピラノシド;n−ドデシル β−D−マルトシド;ヘプタノイル−N−メチルグルカミド;n−ヘプチル−β−D−グルコピラノシド;n−ヘプチル β−D−チオグルコシド;n−ヘキシル β−D−グルコピラノシド;ノナノイル−N−メチルグルカミド;n−ノニル β−D−グルコピラノシド;オクタノイル−N−メチルグルカミド;n−オクチル−β−D−グルコピラノシド;オクチル β−D−チオグルコピラノシドなど。
【0037】
これらの懸濁化剤の大部分は、公知の薬学的賦形剤であり、そしてthe American Pharmaceutical AssociationおよびThe Pharmaceutical Society of Great Britainによって共同発行されたthe Handbook of Pharmaceutical Excipientsに詳細に記載されており(The Pharmaceutical Press, 1986)、参照により具体的に組込まれる。懸濁化剤は、市販されておりそして/または当該分野において公知の技術によって製造され得る。懸濁化剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
ここで、懸濁液中のアリピプラゾールの平均粒子径が約1ミクロン以上である場合は、カルボキシメチルセルロースまたはそのナトリウム塩が特に好ましい。
【0038】
バルキング剤(bulking agent)(冷凍/凍結乾燥保護剤(cryogenic/lyophilize protecting agent)とも呼ばれる)は、投与時に無菌注射製剤が血液とおおよそ等張となる量存在すればよく、具体的には無菌注射製剤に基づいて、約1〜約10w/v%、好ましくは約3〜約8w/v%、より好ましくは約4〜約5w/v%の範囲内の量で存在する。なお、ここでの「無菌注射製剤」とは、無菌の、上記(I)〜(III)を含む均一なアリピプラゾール懸濁液(噴霧凍結乾燥前の懸濁液および凍結乾燥製剤を水で再構成した懸濁液を包含する)のことを示す。本明細書中における使用に好適なバルキング剤の例としては、マンニトール、スクロース、マルトース、キシリトール、グルコース、スターチ、ソルビトール等の1、2またはそれ以上が挙げられるが、これらに限定されない。懸濁液中のアリピプラゾールの平均粒子径が約1ミクロン以上である場合は、マンニトールが、好ましい。
【0039】
緩衝剤(buffer)は、凍結乾燥アリピプラゾール製剤の水性懸濁液のpHを、約6〜約8、好ましくは約7に調整する量で使用される。このようなpHを達成するために、通常、緩衝剤は、タイプに依存して、無菌注射製剤に基づいて、約0.02〜約2w/v%、好ましくは約0.03〜約1w/v%の範囲内、そしてより好ましくは約0.1w/v%の量で使用される。なお、ここでの「無菌注射製剤」とは、無菌の、上記(I)〜(III)を含む均一なアリピプラゾール懸濁液(噴霧凍結乾燥前の懸濁液および凍結乾燥製剤を水で再構成した懸濁液を包含する)のことを示す。本明細書中における使用のために好適な緩衝剤の例としては、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、またはTRIS緩衝剤の1、2またはそれ以上が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、リン酸ナトリウムが好ましい。
【0040】
本発明の凍結乾燥製剤は、pH調整剤(pH adjusting agent)を必要に応じて含んでいてもよく、これは、噴霧凍結乾燥前の懸濁液および凍結乾燥アリピプラゾールの水性懸濁液(凍結乾燥製剤を水で再構成した懸濁液)のpHを、約6〜約7.5の範囲、好ましくは約7に調整する量で使用され、そして、水性懸濁液のpHが、所望の約7の中性pHに達するために上昇される必要があるのかあるいは低下される必要があるのかに依存して、酸または塩基であり得る。従って、pHが低下される必要がある場合、酸性pH調整剤、例えば、塩酸または酢酸、好ましくは塩酸が使用され得る。pHが上昇される必要がある場合、塩基性pH調整剤、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウム、好ましくは水酸化ナトリウムが使用される。pH調整剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
上記(I)〜(III)成分を含むアリピプラゾール懸濁液を、噴霧して凍結させ、アリピプラゾールの噴霧凍結粒子を得、さらに当該噴霧凍結粒子を乾燥させて、本発明の凍結乾燥製剤は得られる。
【0042】
当該噴霧凍結粒子には、(I)〜(III)が含まれているが(ただし(III)注射用水は氷となっている)、これをさらに乾燥させるため、(III)注射用水が失われることとなり、(I)及び(II)を含む粒子(噴霧凍結乾燥粒子)が得られるわけである。噴霧凍結乾燥粒子は、多孔状(発泡状ともいえる)である。これは、乾燥時に該噴霧凍結粒子中の(III)成分由来の氷の部分だけが失われるためと考えられる。
【0043】
噴霧凍結乾燥製剤は、上記の通り(I)及び(II)を含む粒子であり、粒子における(I)に対する(II)の含有割合は、噴霧凍結乾燥させた懸濁液中における(I)に対する(II)の含有割合と同じである。
【0044】
特に、アリピプラゾール100重量部に対して、懸濁化剤は好ましくは1〜5重量部程度含まれ得る。また、アリピプラゾール100重量部に対して、バルキング剤は好ましくは5〜25重量部程度含まれ得る。また、アリピプラゾール100重量部に対して、緩衝剤は好ましくは0.05〜0.5重量部程度含まれ得る。
【0045】
なお、噴霧凍結乾燥粒子が水の分散性に優れる理由の1つは、多孔状であるためではないかとも推測される。ただ、噴霧凍結乾燥粒子の粒子径の大小によって、粒子の孔の大きさにほとんど違いは見られない。ところが、上述の通り、噴霧凍結乾燥粒子の粒子径が小さすぎると水の分散性が悪い傾向がある。よって、水の分散性の良否を粒子が多孔状である点のみをもって説明することは難しい。
【0046】
更に、本発明によれば、以下の工程の製造方法を提供する。
(a)所望の粒度分布を有するアリピプラゾール原末を調製する工程、
(b)該アリピプラゾール原末のためのビヒクルを調製する工程、
(c)該アリピプラゾール、該ビヒクル、及び水を混合して、一次懸濁液を形成する工程、
(d)該一次懸濁液中のアリピプラゾールの平均粒子径を、約1〜約10ミクロンの範囲内に減少させて、最終懸濁液を形成する工程、および
(e)該最終懸濁液を凍結させる際に噴霧する工程および乾燥させる工程を経て、凍結乾燥製剤を形成する工程
を包含する、凍結乾燥製剤の製造方法。
【0047】
なお、工程(e)は、要するにアリピプラゾール懸濁液を噴霧凍結乾燥する工程であり、より詳細には次の工程(e’−1)及び(e’−2)に分けられる。
(e’−1)平均粒子径が約1ミクロン〜約10ミクロンの範囲のアリピプラゾール懸濁液(最終懸濁液に該当する)を噴霧凍結して噴霧凍結粒子を得る工程
(e’−2)該噴霧凍結粒子を乾燥させて噴霧凍結乾燥粒子を得る工程
【0048】
上記の通り、当該製造方法においては、「一次アリピプラゾール懸濁液」を製造した後(工程(c))、当該一次懸濁液中のアリピプラゾールの平均粒子径を減少させることで「最終アリピプラゾール懸濁液」を得(工程(d))、さらに当該最終懸濁液を噴霧凍結し、そして乾燥させて(工程(e))、凍結乾燥製剤を得る。
【0049】
ここで、一次アリピプラゾール懸濁液は、アリピプラゾール原末をビヒクル及び水と混合して得られた懸濁液という程度の意味である。また、最終アリピプラゾール懸濁液は、アリピプラゾールを粉砕してアリピプラゾール粒子の平均粒子径を調整したアリピプラゾール懸濁液であり、該最終懸濁液ではアリピプラゾールの平均粒子径は約1μm〜10μmの範囲にある。そして、該最終懸濁液は均一な(homogeneous)懸濁液である。なお、本発明において、均一な(homogeneous)懸濁液とは、懸濁液技術分野でいうところのデフロキュレイテッド懸濁液(Deflocculated suspension)であり、フロキュレイテッド懸濁液(Flocculated suspension)ではない。
【0050】
上記方法を行う際に、所望の平均粒子径への一次懸濁液の平均粒子径の減少は、無菌湿式粉砕手順を使用することによって行われ、これは好ましくは無菌湿式ボールミリングである。無菌湿式粉砕は、所望の平均粒度分布の均質な無菌アリピプラゾール製剤を形成するために特に望ましい。
【0051】
用語“平均粒子径”は、レーザー光散乱(laser-light scattering;LLS)法によって測定される場合の体積平均直径(volume mean diameter)をいう。粒度分布は、LLS法によって測定され、そして平均粒子径は、粒度分布から計算される。なお、LLS法は、レーザー回折・散乱法と同義である。
【0052】
なお、本願発明は、上記工程(e)を含む凍結乾燥製剤の製造方法、上記工程(d)及び(e)を含む凍結乾燥製剤の製造方法、上記工程(c)〜(e)を含む凍結乾燥製剤の製造方法、も包含する。
「上記工程(e)を含む凍結乾燥製剤の製造方法」は次のように換言できる。
(e’−1)平均粒子径が約1ミクロン〜約10ミクロンの範囲のアリピプラゾール懸濁液を噴霧凍結して噴霧凍結粒子を得る工程、及び
(e’−2)該噴霧凍結粒子を乾燥させ噴霧凍結乾燥粒子を得る工程、
を含む、アリピプラゾール凍結乾燥製剤の製造方法。
【0053】
また、「上記工程(d)及び(e)を含む凍結乾燥製剤の製造方法」は次のように換言できる。
(d’)アリピプラゾール、アリピプラゾールのための無菌ビヒクル、及び水を混合して形成した一次懸濁液中のアリピプラゾールの平均粒子径を、約1ミクロン〜約10ミクロンの範囲内に減少させて、最終懸濁液を形成する工程、並びに
上記工程(e’−1)及び工程(e’−2)を含む、
アリピプラゾール凍結乾燥製剤の製造方法。
【0054】
また、「上記工程(c)〜(e)を含む凍結乾燥製剤の製造方法」は次のように換言できる。
(c’)アリピプラゾール、アリピプラゾールのための無菌ビヒクル、及び水を混合して、一次懸濁液を形成する工程、並びに
上記工程(d’)、工程(e’−1)、及び工程(e’−2)を含む、
アリピプラゾール凍結乾燥製剤の製造方法。
【0055】
本発明のアリピプラゾール凍結乾燥製剤は、水により再構成した後の懸濁製剤の重量に基づいて、好ましくは約1〜約40w/v%、より好ましくは約5〜約35w/v%、そしてさらに好ましくは約8〜約30w/v%の範囲内の量でアリピプラゾールを含む。つまり、このような範囲になるよう、再構成に用いる水の量を調整するのが好ましい。
【0056】
アリピプラゾールは、好ましくは約1〜約30ミクロン、より好ましくは約1〜約20ミクロン、そしてさらに好ましくは約1から約10ミクロンの範囲内の平均粒子径を有する。上記の通り、「平均粒子径」はレーザー回折・散乱法によって測定される場合の体積平均直径をいう。上記(I)〜(III)を含む均一なアリピプラゾール懸濁液(噴霧凍結乾燥前の懸濁液および凍結乾燥製剤を水で再構成した懸濁液を包含する)をレーザー回折・散乱法により測定して、当該懸濁液中のアリピプラゾールの平均粒子径を求める。
【0057】
所望の放出制御期間が少なくとも約2週間、好ましくは約3〜約4週間である場合、アリピプラゾールは、約1〜約20、好ましくは約1〜約10ミクロン、より好ましくは約2〜約4ミクロンの範囲内、そして最も好ましくは約2.5ミクロンの平均粒子径を有する。つまり、含まれるアリピプラゾールの平均粒子径が特定の範囲である本発明の凍結乾燥製剤を水で再構成して投与した場合、アリピプラゾールの放出制御期間は少なくとも約2週間あり、6週間以上のものもあり得る。当該放出制御期間は好ましくは2〜4週間であり、より好ましくは3〜4週間である。また、当該放出制御期間を有する本発明の凍結乾燥製剤に含まれるアリピプラゾールの平均粒子径は、約1〜約20ミクロン、好ましくは約1〜約10ミクロン、より好ましくは約2〜約4ミクロン、さらに好ましくは約2.5ミクロンである。
【0058】
約2.5ミクロンの平均粒子径を有するアリピプラゾールは、例えば以下のような粒度分布を有する:
【0059】
【表1】
【0060】
本発明の凍結乾燥アリピプラゾール製剤の製造方法を行う際には、全てが無菌状態であることが望ましい。従って、無菌操作(aseptic procedure)が、所望の粒度分布の無菌アリピプラゾール原末を製造するために使用される。無菌アリピプラゾール原末は、約5〜約1000ミクロン、好ましくは約110〜約500ミクロンの範囲内の平均粒子径を有する。
【0061】
好ましくは、衝突噴流結晶化方法(impinging jet crystallization method)や無菌晶析法が、無菌アリピプラゾール原末を製造するために使用される。
【0062】
懸濁化剤、バルキング剤、緩衝液、必要に応じてpH調整剤および水を含む無菌アリピプラゾール原末のためのビヒクルは、調製されてそして無菌化される。その後、無菌アリピプラゾール原末および無菌ビヒクルは、無菌的に混合されて、無菌一次懸濁液が形成され、そして湿式粉砕によりアリピプラゾールの粒子径が、所望のレベルへ減少される。これは、好ましくは、無菌湿式粉砕手法(aseptic wet milling procedure)を使用することによって行われ、ここで、無菌ビヒクル中に分散されたアリピプラゾールの無菌粒子は、粉砕媒体(grinding media)の存在下で粉砕手段に供され、アリピプラゾールの粒子径は、所望の放出制御期間に依存して、好ましくは約1〜約20ミクロン、より好ましくは約1〜約10ミクロン、さらに好ましくは約2〜約4ミクロン、よりさらに好ましくは約2.5ミクロンの範囲内に減じられる。
【0063】
無菌湿式粉砕手法は、好ましくは、高圧ホモジナイザー法や湿式ボールミリング(wet ball milling)であり、より好ましくは高圧ホモジナイザー法である。アリピプラゾールの所望の平均粒子径は、好ましくは高圧ホモジナイザーで湿式粉砕される前に、高せん断力を有する予備粉砕工程により平均粒子径を減少させ、高圧ホモジナイザーにて目的の粒子径へと減少せしめる。
【0064】
ボールミル(例えば、Dynoミル)や高圧ホモジナイザー法に加えて、他の低および高エネルギーミル(例えば、ローラーミル)が使用され得、そして高エネルギーミル(例えば、Netzschミル、DCミルおよびPlanetaryミル)が使用され得る。しかし、使用されるミリング手法および装置は、所望の平均粒子径の無菌アリピプラゾール製剤を製造し得ることが求められる。
【0065】
使用され得る粒子径減少のための他の技術としては、制御された無菌晶析法(aseptic controlled crystallization)、高剪断ホモジナイゼーション(high shear homogenization)およびマイクロフルイダイゼーション(microfluidization)が挙げられ、約1〜約100ミクロン(好ましくは約1〜約20ミクロン、より好ましくは約1〜約10ミクロン、さらに好ましくは約2〜約4ミクロン、よりさらに好ましくは約2.5ミクロン、)の範囲の平均粒子径を有する粒子を製造する。
【0066】
本発明における噴霧及び凍結工程(すなわち、凍結させる際に噴霧する工程)は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、液体窒素の中に噴霧する方法、低温下に噴霧し凍結させる方法、減圧下噴霧し液の気化熱により凍結させる方法等の方法により行うことができるが、これらに限定されない。
【0067】
当該噴霧凍結工程により得られた噴霧凍結粒子を、乾燥する工程も、公知の方法で行うことができる。但し、当該粒子の凍結が維持されたまま乾燥を行うことが好ましい。従って、当該乾燥工程は、低温下(氷が昇華する温度:例えば−5℃程度又はそれ以下)で行うことが好ましい。また、乾燥機器内の気圧を下げることにより、乾燥を促進させることができるので、好ましい。例えば気圧を50Pa以下、好ましくは20Pa以下とすることが好ましい。なお、具体的には、例えば、噴霧凍結粒子をフリーズドライヤーに入れ、−5℃、20Pa以下の状態で維持することで、乾燥を行うことができる。なお、乾燥前に凍結維持工程を含んでもよい。例えば、乾燥前に噴霧凍結粒子を1〜5時間程度、低温下(例えば−40℃程度)で維持させてから、乾燥をおこなってもよい。凍結維持を行うことで、凍結されたものの内部までしっかりと凍らせることができる。(噴霧凍結乾燥粒子は、噴霧凍結時に瞬時に内部まで凍結しているが、念のため凍結維持工程を設けてもよい。)
【0068】
アリピプラゾールは所望の結晶形を用いることが可能であり、例えば、一水和物形態(アリピプラゾール水和物A)ならびに多数の無水形態、即ち無水結晶B、無水結晶C、無水結晶D、無水結晶E、無水結晶F、および無水結晶Gを使用され得る。上記結晶形態および他の結晶形態ならびにこのような結晶形態の製造方法は、2003年4月4日に公開された WO 2003/26659に開示されている。
【0069】
アリピプラゾールは、上述のように、好ましくは約1〜約40w/v%、より好ましくは約5〜約35w/v%、そしてさらに好ましくは約8〜約30w/v%の範囲内の量で、水性注射製剤中、すなわち懸濁液中に存在する。好ましい実施形態において、凍結乾燥アリピプラゾール製剤は、2.5mL以下、好ましくは2mLの容積中に、送達される約10〜約800mg、好ましくは約200〜約600mgのアリピプラゾールが提供される量の注射用水で構成され得る。より詳細には、アリピプラゾールは、好ましくは約50〜約800mg/製剤2mL、より好ましくは約100〜約700mg/製剤2mL、さらに好ましくは約160〜約600mg/製剤2mL、よりさらに好ましくは約200〜約600mg/製剤2mLを提供するために、水性注射製剤中、すなわち懸濁液中に存在するように構成され得る。このような懸濁液は、上記の通り、好ましくは毎2〜6週間に一度(すなわち、毎2、3、4、5又は6週間に一度)の投薬のために、用いられ得る。ここでの懸濁液は、噴霧凍結乾燥前の懸濁液および凍結乾燥製剤を水で再構成した懸濁液を包含する。ただし、上述の通り、再構成に用いる水の量により再構成後の懸濁液の濃度は変化するから、噴霧凍結乾燥前の懸濁液および凍結乾燥製剤を水で再構成した懸濁液の濃度が同じとは限らず、両者の濃度は異なっていてもよい。
【0070】
ところで、上記凍結乾燥製剤の製造方法において、アリピプラゾール懸濁液中に含まれるアリピプラゾールの平均粒子径について記載したが、本発明の凍結乾燥製剤は、上述の通り、当該アリピプラゾール懸濁液を噴霧凍結乾燥して得られるものであるので、当該凍結乾燥製剤に含まれるアリピプラゾールの平均粒子径は、製造に用いた懸濁液に含まれるアリピプラゾールの平均粒子径と同じである。
【0071】
従って、本発明の凍結乾燥製剤(噴霧凍結乾燥粒子)に含まれるアリピプラゾールの平均粒子径は、好ましくは約1〜約20ミクロン、より好ましくは約1〜約10ミクロン、さらに好ましくは約2〜約4ミクロン、よりさらに好ましくは約2.5ミクロンである。
【0072】
また、本発明の凍結乾燥製剤を水で再構成して得た懸濁液では、ビヒクルは水に溶解しているため、当該懸濁液に含まれるアリピプラゾールの平均粒子径をレーザー回折・散乱法により測定することで、容易に凍結乾燥製剤に含まれていたアリピプラゾールの平均粒子径を求めることができる。本発明の凍結乾燥製剤に含まれるアリピプラゾールの平均粒子径は、このようにして測定した平均粒子径を指す。
【0073】
本発明により、得られる再構成後の懸濁製剤の好ましい例は、以下の通りである:
【0074】
【表2】
【0075】
本発明のアリピプラゾール凍結乾燥製剤は、水により懸濁液を再構成後、ヒト患者における、統合失調症および関連障害(例えば、双極性障害および痴呆)等を治療するために使用される。本発明により提供される注射製剤のために使用される好ましい投薬量は、1投与あたり約100〜約400mgアリピプラゾールである。単回注射または複数注射により当該量のアリピプラゾールが投与され得る。また、1ヶ月あたり、1〜2回投与することができる。つまり、好ましい投薬量は、1ヶ月当たり1〜2回で与えられる、約100〜約400mgアリピプラゾール/mLを含有する単回注射または複数注射である。注射製剤は、好ましくは筋肉内投与されるが、皮下注射も同様に許容される。
【0076】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示す。なお、以下、懸濁液の濃度の単位「%」は「w/v%」を意味する。
【実施例】
【0077】
アリピプラゾール10%、20%、30%懸濁液の調製
まず30%懸濁液を調製した。すなわち最終的に1mLあたり、カルボキシメチルセルロースを12.48mg、マンニトールを62.4mg、リン酸2水素ナトリウム一水和物を1.11mg、アリピプラゾール水和物を312.0mgとなるように水にそれぞれ溶解もしくは懸濁させた(一次懸濁液)。当該一次懸濁液のpHを水酸化ナトリウムにより約7に調整した。この一次懸濁液を高せん断回転型ホモジナイザー(クレアミックス、エム・テクニック社製)で予備粉砕後、高圧ホモジナイザー(Niro社製)にて約550barにてアリピプラゾールの平均粒子径が3μm以下となるように繰り返し湿式粉砕し、アリピプラゾールを約30%含有する懸濁液を得た(最終懸濁液)。
【0078】
この30%アリピプラゾール懸濁液を水にて希釈し、10%懸濁液、20%懸濁液を調製した。
【0079】
懸濁液のスプレー凍結乾燥
調製した各濃度の懸濁液を霧吹きボトル(品番4-5002-01:アズワン社、手でトリガーを握って噴霧させるタイプ)に約100mL入れた。約250mm×約300mmのアルミニウムトレーに深さが約10mmとなるように液体窒素を入れ、そこに液面から約200mmの高さにて、液面に向けて霧吹きから霧吹きボトルが空になるまで各懸濁液をスプレーした。これにより、液体窒素へと噴霧された懸濁液は、粒状に凍結され、噴霧凍結粒子となった。スプレー後、液体窒素がアルミニウムトレーから揮発してなくなる前に、それぞれの濃度の懸濁液を噴霧した各トレーを予め−40℃に冷却した棚のフリーズドライヤーに移し、凍結乾燥を開始した。凍結乾燥条件は下記の通り。
(a)凍結維持:プロダクトを、少なくとも3時間以上、約−40℃で維持した。
(b)乾燥:チャンバー圧を約20Pa以下、棚温度を約−5℃へ上昇させ、少なくとも24時間以上、乾燥を継続した。
【0080】
本実施例においては凍結工程を液体窒素の中に噴霧することで行ったが、噴霧凍結を行うことができれば、この方法に限られることはなく、例えば低温環境下に噴霧し凍結させる方法や、減圧下噴霧し液の気化熱により凍結させる方法など、さまざまな方法を用いることができる。
【0081】
得られた凍結乾燥物の篩過
凍結乾燥後、得られた凍結乾燥物を1000μmの篩目サイズ(すなわち目開きサイズ)を有する直径80mmの篩の上に移した。その1000μmの篩目サイズの篩の下には、500μm、250μm、75μmの篩目サイズの篩を重ね、篩過した。75μmと250μmの篩の間に残った凍結乾燥物、250μmと500μmの篩の間に残った凍結乾燥物、及び500μmと1000μmの篩の間に残った凍結乾燥物を回収した。以下各篩目サイズの間に残り、回収した凍結乾燥物(粒子)を「“小さい篩目サイズ−大きい篩目サイズ”篩回収粒子」とも記載する。例えば、75μmと250μmの篩の間に残った凍結乾燥物の回収は「75μm−250μm篩回収粒子」と記載する。
【0082】
なお、用いた篩は、第十六改正日本薬局方の篩番号で200号(目開き75μm)、60号(目開き250μm)、30号(目開き500μm)、及び16号(目開き1000μm)である。
【0083】
得られた凍結乾燥物の評価1
得られた凍結乾燥物を走査型電子顕微鏡にて観察した。結果を図1図9に示す。図1〜3に10%懸濁液から得た凍結乾燥物についての結果を、図4〜6に20%懸濁液から得た凍結乾燥物についての結果を、図7〜9に30%懸濁液から得た凍結乾燥物についての結果を、それぞれ示す。図1、4、7には、75μm−250μm篩回収粒子の外観(左図)と表面状態(右図)を示す。図2、5、8には、250μm−500μm篩回収粒子の外観(左図)と表面状態(右図)を示す。図3、6、9には、500μm−1000μm篩回収粒子の外観(左図)と表面状態(右図)を示す。ほぼ全てものもが球状であり、かつ多孔状であることが確認できた。なお、図1〜9において、外観(左図)は50倍拡大写真、表面状態(右図)は2500倍拡大写真である。
【0084】
得られた凍結乾燥物の嵩密度を測定した。具体的には、25mLのメスシリンダーの5mLのラインまで凍結乾燥物(粉末)を入れ、入った粉末重量を測定し、嵩密度を算出した。結果、嵩密度は約0.1〜0.3g/mLであった。
【0085】
それぞれの粉体をガラスバイアル内に約325mg(アリピプラゾールとして約250mg)秤取り、約20%懸濁液となるように注射用水を添加し、ゴム栓で蓋をして手で振とうし再懸濁(すなわち注射水により懸濁液へ再構成)した。再懸濁は、分散不良による粉塊が見られることなく、バイアル内凍結乾燥品(WO2005/041937に開示されるケーキ状のアリピプラゾールの凍結乾燥製剤に相当)と同様、容易に行うことができた。
【0086】
再懸濁後のバイアル内の懸濁液を、針を付ける部分の口径が内径約1.7mmのプラスチックシリンジを用いて、針をつけることなくバイアル内から懸濁液を吸い取った。吸い取り後のバイアル内には分散不良による粉末は見られなかった。このシリンジに27G(内径0.22mm)の針を付け懸濁液を吐出したところ、針詰まりなく吐出することができた。このことから得られた凍結乾燥物の再懸濁液は、1.7mm以上の粉塊もなく、内径0.22mmの針を詰まらせるような凝集もないことが確認された。
【0087】
再懸濁後の平均粒子径を(株)島津製作所製のレーザー回折式粒度分布測定装置(Laser Diffraction Particle Size Analyzer SALD−3100)により測定した。測定は屈折率2.00−0.20iを用い、循環セルにて測定用媒体を水にて行った。具体的には、測定装置内で330mLの水が検出部を通って循環しており、そこに測定対象である懸濁液を約0.05mL程度加えて測定を行った。また、前記懸濁液を粒度分布測定装置に付随の超音波発生装置で1分間超音波処理し、処理後の懸濁液の平均粒子径を前記と同様の方法により測定した。超音波処理しながら測定し0.5μm以上の平均粒子径の減少が見られた場合、凝集有りと判断することとした。本発明では用語“平均粒子径”は、レーザー光散乱(laser-light scattering; LLS)法、すなわちレーザー回折・散乱法によって測定される場合の体積平均直径(volume mean diameter)を言う。粒度分布は当該方法によって測定され、そして平均粒子径は、粒度分布から計算される。測定結果を表3に示す。測定の結果、いずれにおいても凝集は見られず、どの凍結乾燥物も分散性がよく、均一に再懸濁できたことが分かった。
【0088】
【表3】
【0089】
得られた凍結乾燥物の評価2
上記と同様にして、10%アリピプラゾール懸濁液を噴霧凍結乾燥して凍結乾燥物を得、当該凍結乾燥物を250μmの篩目サイズを有する直径80mmの篩の上に移した。その250μmの篩目サイズの篩の下には、75μmの篩目サイズの篩を重ね、その下には受け皿を設け、篩過した。75μmと250μmの篩の間に溜まった凍結乾燥物、及び、75μmの篩を通り受け皿に溜まった凍結乾燥物を回収した。
【0090】
また、比較例として、懸濁液をバイアルに入れた状態で凍結乾燥して得た凍結乾燥物を調製した。具体的には、以下のようにして調製した。
【0091】
まず、次のようにして10%懸濁液を調製した。すなわち最終的に1mLあたり、カルボキシメチルセルロースを4.16mg、マンニトールを20.8mg、リン酸2水素ナトリウム一水和物を0.37mg、アリピプラゾール水和物を104.0mgとなるように水にそれぞれ溶解もしくは懸濁させた(一次懸濁液)。当該一次懸濁液のpHを水酸化ナトリウムにより約7に調整した。この一次懸濁液を高せん断回転型ホモジナイザー(クレアミックス、エム・テクニック社製)で予備粉砕後、高圧ホモジナイザー(Niro社製)にて約550barにてアリピプラゾールの平均粒子径が3μm以下となるように繰り返し湿式粉砕し、アリピプラゾールを約10%含有する懸濁液を得た(最終懸濁液)。なお、当該最終懸濁液は、上記「アリピプラゾール10%、20%、30%懸濁液の調製」で得た10%懸濁液と同じである。
【0092】
この懸濁液を直径23mm、高さ43mmのガラスバイアルに4.75mL充填し、以下の条件にて凍結乾燥した。
(a)凍結維持;プロダクトを、少なくとも3時間以上、約−40℃で維持した。
(b)乾燥;チャンバー圧を約20Pa以下、棚温度を約−5℃へ上昇させ、少なくとも24時間以上、これらの条件下で乾燥を継続した。
【0093】
凍結乾燥後、バイアル内凍結乾燥物を得た。当該バイアル内凍結乾燥物は、WO2005/041937に開示されるケーキ状のアリピプラゾール凍結乾燥製剤に相当する。
【0094】
当該バイアル内凍結乾燥物をバイアル内でスパーテルを用いて砕き、粉末状にした。得られた粉末をバイアルから取り出し、250μmの篩目サイズを有する直径80mmの篩の上に移した。その250μmの篩目サイズの篩の下には、75μmの篩目サイズの篩を重ね、その下には受け皿を設け、篩過した。75μmと250μmの篩の間に溜まった凍結乾燥物、及び75μmの篩を通り受け皿に溜まった凍結乾燥物を回収した。
【0095】
<顕微鏡観察>
回収したそれぞれの凍結乾燥物を走査型電子顕微鏡にて観察した。結果を図10〜13に示す。図10、11に噴霧凍結乾燥物についての結果を、図12、13にバイアル内凍結乾燥物から得られた粉末についての結果を、それぞれ示す。また、図10、12に75μm−250μm篩回収粒子の外観(左図)と表面状態(右図)を示す。図11、13に75μm篩を通った粒子の外観(左図)と表面状態(右図)を示す。なお、図10〜13において、外観(左図)は200倍拡大写真、表面状態(右図)は2500倍拡大写真である。
【0096】
噴霧凍結乾燥物は75μmの篩を通った粒子も75μmの篩の上に残った粒子もどちらも球状であり、多孔状であった。また、これら両者の表面状態に違いは見られなかった。
【0097】
バイアル凍結乾燥物を粉砕して得た粉末は、75μmの篩を通った粒子も75μmの篩の上に残った粒子も不定形であった。また、これら両者の表面状態には違いは見られなかった。
【0098】
<水への分散性に関する評価>
篩過により得られたそれぞれの粉末を、アリピプラゾール量が約475mgとなるように直径23mm、高さ43mmのバイアル内に充填しゴム栓で栓をした。なお、噴霧凍結乾燥して得た凍結乾燥物中には、75μmの篩を通る粒子は非常に少ないため、何度も篩過を繰り返して、アリピプラゾールが約475mgとなる量の粒子を回収した。
【0099】
輸送による振動を想定し、バイアルの底を軽く5回タッピングした。その後、ゴム栓を外しバイアル内に1.9mLの水を入れ、ゴム栓で再度栓をした後、軽く手で5回振とうした。振とう後、ゴム栓を外し、バイアルを逆さにしてバイアル内の内容物を出した。そして、当該内容物に対して軽くエアを吹き、水への分散具合を観察した。なお、スパーテルで砕く前のバイアル内凍結乾燥物(ケーキ状)についても、同様の操作を行って検討した。観察結果を図14〜17に示す。
【0100】
バイアル内凍結乾燥物(ケーキ状)は問題なく容易に再分散され、バイアルから出された懸濁液内にも凝集物は見られなかった(図14)。
【0101】
噴霧凍結乾燥物を篩過して、75μmと250μmの篩の間に得られた粉末も、問題なく容易に再分散され、バイアルから出された懸濁液内にも凝集物は見られなかった(図15)。しかし、75μmの篩を通った粉末を分散させたものは、一部再分散されずに粉のままの状態が見られた(図16)。
【0102】
バイアル内凍結乾燥物をバイアル内で粉砕し、篩過した粉末は、75μmの篩を通った粒子も、75μm−250μm回収粒子も、容易には再分散されず、一部粉のままの状態であった(図17:75μm未満の粉末、図18:75μm−250μmの粉末)。
【0103】
以上のことから、バイアル内凍結乾燥物を粉砕して得た粉末は、粒子径にかかわらず水への分散性が良くないこと、懸濁液を噴霧凍結乾燥して得た粉末は、粒子径がある程度の大きさである方が、水への分散性が良いこと、がわかった。凍結乾燥技術分野では、急速に凍結するほど、また、凍結される液の容積が小さいほど、小さな氷晶が形成されるので、粒子同士の凝集が抑制されると考えられている(例えばJournal of Pharmaceutical Sciences, Vol.92, No.2, 319-332 (2003)参照)。このため小さな液滴を急速に凍結乾燥できる噴霧凍結乾燥においては、得られる粒子が小さいほど粒子同士の凝集が抑制されると予測されるため、今回の結果は意外なものであった。
【0104】
なお、噴霧凍結乾燥して得た粉末中、小さい粒子はほとんど存在しないため、特に篩過して粒子径の小さな粒子を除く必要性はなく、篩過しなくとも実用的な分散性を示した(すなわち、分散不良なく均一な懸濁液が得られた)。
図1
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図4
図5
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図7
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