特許第6012666号(P6012666)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6012666積層フィルムおよび該フィルムを用いた窓ガラス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012666
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】積層フィルムおよび該フィルムを用いた窓ガラス
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20161011BHJP
   C03C 17/32 20060101ALI20161011BHJP
   C03C 17/38 20060101ALI20161011BHJP
   E06B 5/00 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   B32B15/08 A
   B32B15/08 Q
   C03C17/32 C
   C03C17/38
   E06B5/00 C
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-127464(P2014-127464)
(22)【出願日】2014年6月20日
(65)【公開番号】特開2016-7703(P2016-7703A)
(43)【公開日】2016年1月18日
【審査請求日】2016年2月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000235783
【氏名又は名称】尾池工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 弥生
(72)【発明者】
【氏名】河内 寧彦
【審査官】 赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/096304(WO,A1)
【文献】 特表2013−521160(JP,A)
【文献】 特開2007−041438(JP,A)
【文献】 特開2001−330702(JP,A)
【文献】 特開2001−264505(JP,A)
【文献】 特開平11−300873(JP,A)
【文献】 特開2013−151103(JP,A)
【文献】 特開平11−258405(JP,A)
【文献】 特開2015−134456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの表面に、少なくとも第1有機樹脂層と、金属層と、第2有機樹脂層と、をこの順に積層してなり、
前記第1有機樹脂層の前記金属層側表面に第3有機樹脂層を、
前記第2有機樹脂層の前記金属層側表面に第4有機樹脂層を、
それぞれ、又はどちらか一方を積層してなり、
前記第1有機樹脂層及び前記第2有機樹脂層が、いずれもがハードコート性を備えた有機樹脂よりなるものであること、
を特徴とする、積層フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の積層フィルムであって、
前記第1有機樹脂層、前記第2有機樹脂層、前記第3有機樹脂層及び前記第4有機樹脂層を構成する有機樹脂が、
アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フッ素樹脂、又はそれらの共重合体からなるものであること、
を特徴とする、積層フィルム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の積層フィルムであって、
前記第1有機樹脂層の厚みが、0.8μm以上10μm以下であり、
前記第2有機樹脂層の厚みが、0.5μm以上1.0μm以下であり、
前記第3有機樹脂層の厚みが、0.1μm以上3.0μm以下であり、
前記第4有機樹脂層の厚みが、0.1μm以上1.0μm以下であること、
を特徴とする、積層フィルム。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の積層フィルムであって、
前記金属層がAg、Al、またはそれらを主成分とする合金の何れか1種または複数からなり、
前記合金が、Pd、Cu、Au、Ti、またはBiの群より選ばれる少なくとも1種の元素を5wt%以下含むものであること、
を特徴とする、積層フィルム。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の積層フィルムであって、
前記金属層の厚みが、4nm以上500nm以下であること、
を特徴とする、積層フィルム。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の積層フィルムであって、
前記金属層の前記第1有機樹脂層側表面、及び前記金属層の前記第2有機樹脂層側表面、の何れか片面又は両面に、前記金属層を保護するための金属保護層を積層してなること、
を特徴とする、積層フィルム。
【請求項7】
請求項6に記載の積層フィルムであって、
前記金属保護層を形成する物質が、
(A)Ti、Cr、Cu、In、Sn、NbまたはZnの群より選ばれる何れか1種または複数
(B)(A)の酸化物
上記(A)または(B)の群より選ばれる何れか1種または複数よりなること、
を特徴とする、積層フィルム。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の積層フィルムであって、
前記金属保護層の厚みが40nm以下であること、
を特徴とする、積層フィルム。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8の何れか1項に記載の積層フィルムであって、
前記基材フィルムが、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリイミド、トリアセチルセルロース、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、またはポリメタクリル酸メチルのうち、何れか1種または複数からなり、
前記基材フィルムの厚みが、12μm以上400μm以下であること、
を特徴とする、積層フィルム。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9の何れか1項に記載の積層フィルムであって、
該フィルムをJIS_R_3106(1998)に記載の方法により測定した際に、熱貫流率が5.3以下であること、
を特徴とする、積層フィルム。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10の何れか1項に記載の積層フィルムであって、
該フィルムをJIS_A_5759(2008)に記載の方法により測定した際に、遮蔽係数が0.7以下であること、
を特徴とする、積層フィルム。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11の何れか1項に記載の積層フィルムであって、
前記基材フィルムにおいて、前記金属層を積層する反対側の面に粘着層を設けること、
を特徴とする、積層フィルム。
【請求項13】
請求項12に記載の積層フィルムを貼着してなること、
を特徴とする、窓ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は積層フィルムに関する発明であって、具体的にはハードコート性を維持しつつ断熱効果をも同時に発揮する積層フィルムと、それを貼着した窓ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、環境問題や電力の安定供給などの観点から、節電や省エネルギーが叫ばれている。特にビルや一般家庭などの建築物や、自動車・電車などの交通機関等においては、室内の熱が窓等から流出することにより、室内温度を一定に保つために空調を強くする必要があり、そのため空調電力が増大するという問題があった。そこで、室内の温度を保つ方法として、断熱効果の高い窓ガラスを利用することが提唱されている。このような窓ガラスを利用すれば、室外気温の影響を絶ち室内の温度を快適に保つことができるので、室内の暖房や発熱体による遠赤外線の熱を逃すことなく、また外気温度に影響されることがないため保温効果が持続し、空調電力の低減に寄与できる。
【0003】
これに対し、従来より、窓ガラスに透明な赤外線反射フィルムを貼り合わせることにより、断熱性をもった窓ガラスが提供されてきた。このような手法を用いることにより、ガラス板に直接金属微粒子を混入したり、表面に断熱機能層を塗布したりするよりも簡便で安全に断熱効果のある窓ガラスを得ることができる。また、表面にフィルムを貼り付けるため、ガラスが破損した際に、破片が飛散することを防ぐ効果も得られる。そしてそのような使用を想定した場合、フィルムがハードコート性を断熱機能と同時に有していることが望ましいと言える。ハードコート性を有することで断熱機能層に対して不用意に傷がつくことを防止でき、それがひいてはフィルムの性能劣化を防ぐからである。
【0004】
このような断熱機能性を備えたフィルムの一例として、特許文献1には、透明樹脂フィルムの少なくとも一方面に、金属酸化物薄膜と金属薄膜とが交互に積層されてなる透明積層部と、その外側に酸化珪素によりなる保護層が形成されてなる透明積層フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−151103号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この特許文献1に記載された透明積層フィルムでは、透明積層部において赤外線が反射されることで断熱効果を呈するものとされ、またさらにその表面に保護層を設けることで透明積層部を保護する構成となっている。そしてかかる保護層がハードコート性を呈する機能も有してる、とされる。
【0007】
しかしこのような構成とした場合、透明積層フィルム全体を観察すると、その最表面部分、いわゆるトップ(TOP)層と称される部分、ここでは透明積層部と保護層とを合わせた層、の膜厚が増大してしまい、その結果肝心の断熱効果が薄まってしまう、という現象が生じてしまい、問題であった。
【0008】
この点を少し詳しく述べる。
仮に透明積層部が露出した状態であるならば、このフィルムに到達した赤外線は最初に透明積層部に接することとなるので、その段階で充分な量の赤外線を反射し、即ち充分に断熱効果を得られると考えられるが、透明積層部が露出した状態では透明積層部の耐擦傷性が不十分であり、またこの部分に傷が付くことで断熱効果が劣化してしまうことも考えられる。それを防ぐために特許文献1に記載のように、透明積層部のさらに表面にこれを保護するハードコート性を備えた保護層を積層すれば、確かに透明積層部は保護されることになるが、透明積層部と保護層とを一括して観察すると赤外線がこの透明積層フィルムに入射しても入射直後には反射されず、まずは透明積層フィルムに浸透してしまう。そして保護層を通り抜けた赤外線の一部が透明積層部で反射されるものの、残りの赤外線はそのまま通り抜けてしまうことが考えられる。即ち断熱効率がそれだけ低下してしまうことを意味してしまい、その点が問題であった。
【0009】
本願発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は赤外線の反射性能を有し、フィルム使用表面において例えば窓ガラスへのフィルム貼着施工時や、これを貼着した窓ガラスの拭き掃除などの清掃を実施した際に傷が発生することを抑制した積層フィルムおよびそれを粘着した窓ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本願発明の請求項1に記載の積層フィルムに関する発明は、基材フィルムの表面に、少なくとも第1有機樹脂層と、金属層と、第2有機樹脂層と、をこの順に積層してなり、前記第1有機樹脂層の前記金属層側表面に第3有機樹脂層を、前記第2有機樹脂層の前記金属層側表面に第4有機樹脂層を、それぞれ、又はどちらか一方を積層してなり、前記第1有機樹脂層及び前記第2有機樹脂層が、いずれもがハードコート性を備えた有機樹脂よりなるものであること、を特徴とする。
【0011】
本願発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の積層フィルムであって、前記第1有機樹脂層、前記第2有機樹脂層、前記第3有機樹脂層及び前記第4有機樹脂層を構成する有機樹脂が、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フッ素樹脂、又はそれらの共重合体からなるものであること、を特徴とする。
【0012】
本願発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の積層フィルムであって、前記第1有機樹脂層の厚みが、0.8μm以上10μm以下であり、前記第2有機樹脂層の厚みが、0.5μm以上1.0μm以下であり、前記第3有機樹脂層の厚みが、0.1μm以上3.0μm以下であり、前記第4有機樹脂層の厚みが、0.1μm以上1.0μm以下であること、を特徴とする。
【0013】
本願発明の請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の積層フィルムであって、前記金属層がAg、Al、またはそれらを主成分とする合金の何れか1種または複数からなり、前記合金が、Pd、Cu、Au、Ti、またはBiの群より選ばれる少なくとも1種の元素を5wt%以下含むものであること、を特徴とする。
【0014】
本願発明の請求項5に記載の発明は、請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の積層フィルムであって、前記金属層の厚みが、4nm以上500nm以下であること、を特徴とする。
【0017】
本願発明の請求項6に記載の発明は、請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の積層フィルムであって、前記金属層の前記第1有機樹脂層側表面、及び前記金属層の前記第2有機樹脂層側表面、の何れか片面又は両面に、前記金属層を保護するための金属保護層を積層してなること、を特徴とする。
【0018】
本願発明の請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の積層フィルムであって、前記金属保護層を形成する物質が、
(A)Ti、Cr、Cu、In、Sn、NbまたはZnの群より選ばれる何れか1種または複数
(B)(A)の酸化物
上記(A)または(B)の群より選ばれる何れか1種または複数よりなること、を特徴とする。
【0019】
本願発明の請求項8に記載の発明は、請求項6又は請求項7に記載の積層フィルムであって、前記金属保護層の厚みが40nm以下であること、を特徴とする。
【0020】
本願発明の請求項9に記載の発明は、請求項1ないし請求項8の何れか1項に記載の積層フィルムであって、前記基材フィルムが、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリイミド、トリアセチルセルロース、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、またはポリメタクリル酸メチルのうち、何れか1種または複数からなり、前記基材フィルムの厚みが、12μm以上400μm以下であること、を特徴とする。
【0021】
本願発明の請求項10に記載の発明は、請求項1ないし請求項9の何れか1項に記載の積層フィルムであって、該フィルムをJIS_R_3106(1998)に記載の方法により測定した際に、熱貫流率が5.3以下であること、を特徴とする。
【0022】
本願発明の請求項11に記載の発明は、請求項1ないし請求項10の何れか1項に記載の積層フィルムであって、該フィルムをJIS_A_5759(2008)に記載の方法により測定した際に、遮蔽係数が0.7以下であること、を特徴とする。
【0023】
本願発明の請求項12に記載の発明は、請求項1ないし請求項11の何れか1項に記載の積層フィルムであって、前記基材フィルムにおいて、前記金属層を積層する反対側の面に粘着層を設けること、を特徴とする。
【0024】
本願発明の請求項13に記載の窓ガラスに係る発明は、請求項12に記載の積層フィルムを粘着してなること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本願発明に係る積層フィルムであれば、遠赤外線を反射するという性質を保持したまま、充分な耐擦傷性を備えたフィルムとすることが出来る。これは本願発明にかかる積層フィルムの構成中、基材フィルムの表面に第1有機樹脂層を積層したことにより得られる効果によるものであり、特に有機樹脂層としてアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂またはそれらの共重合体を用いることにより、例えば窓貼り用フィルムとして用いる場合に求められるハードコート性を呈することが可能となる。当然、本願発明に係る積層フィルムでは金属層を設けているので、この金属層の存在により赤外線を遮蔽することが可能であり、即ち断熱効果を同時に備えた積層フィルムを得られるのである。さらにその表面に第2有機樹脂層を必要最低限の厚みとなるように設けていることより、金属層の性質が安易に劣化することがなく、即ち断熱性を長期間維持出来る積層フィルムとすることが出来る。当然、この積層フィルムに粘着層を設ければ、所望の箇所にハードコート性を備えた断熱性能を付与することが出来るし、これを窓ガラスに用いれば、容易にハードコート性と断熱性とを兼ね備えた窓ガラスを得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。尚、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずしもこの実施の形態に限定されるものではない。
【0027】
(実施の形態1)
本願発明に係る積層フィルムに関して、第1の実施の形態として説明する。
【0028】
本実施の形態に係る積層フィルムは、基材フィルムの表面に、少なくとも第1有機樹脂層と、金属層と、第2有機樹脂層と、をこの順に積層してなり、前記第1有機樹脂層及び前記第2有機樹脂層が、いずれもがハードコート性を備えた有機樹脂よりなるものである、という構成を有している。
【0029】
以下、順に説明していく。
まず、本実施の形態に係る積層フィルムを構成する材料について説明する。
基材フィルムであるが、これは従来積層フィルムにおいて周知に用いられる樹脂フィルムを用いればよく、例えばPETフィルム、PPフィルム、PIフィルム、TACフィルム、PENフィルム、PCフィルム、PMMAフィルム等の合成樹脂フィルム、セルロース系フィルム、あるいはこれらの複合フィルム状物、などが考えられる。また、ロール搬送や積層層との層間密着率を向上させるために、表面に易接着層などの機能層を設けてもよい。本実施の形態ではPETフィルムを用いることとする。
【0030】
尚、ここで用いる基材フィルムの厚みは、従来積層フィルムとして広く用いられている厚みであればよく、具体的には12μm以上400μm以下であればよい。12μm未満ではハンドリングが悪く作業効率が落ち、400μmより厚くなると応力が強くなりロールtoロールなどによる作業が困難となるため加工条件が限られてしまう。本実施の形態においては50μmとする。
【0031】
基材フィルムの表面に第1有機樹脂層が積層されている。この第1有機樹脂層につき説明する。
本実施の形態において第1有機樹脂層として用いられる有機樹脂として、例えばアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フッ素樹脂、又はそれらの共重合体からなるものであることであると好適であるが、フッ素樹脂は層間密着力の観点からその使用においては慎重であることが好ましいことを付言しておく。
【0032】
これらの樹脂を用いることで所謂ハードコート性を得ることができ、またこれらの樹脂を第1有機樹脂層として基材フィルムと後述する金属層との間に設けておくことで、本実施の形態に係る積層フィルムに好適なハードコート性が付与される。そしてこの位置に設けることで、本実施の形態に係る積層フィルムが備える断熱性能を保ちつつ、同時に好適な耐擦傷性も得ることができるのである。
【0033】
尚、以下の説明において第1有機樹脂層に用いる有機樹脂としてアクリル系樹脂を用いることとする。
【0034】
ここで第1有機樹脂層の厚みは、0.8μm以上10μm以下であることが好ましいが、0.8μm未満であると後述する効果を充分に得られず、また10μm以上であると本実施の形態に係る積層フィルム全体の厚みが増してしまい必ずしも好適なものと出来ないからである。
【0035】
尚、この第1有機樹脂層の積層方法については後述する。
【0036】
積層された第1有機樹脂層の表面には金属層が積層される。次にこの金属層につき説明する。
この金属層はAg、Al、およびそれらを主成分とする合金の何れか1種または複数が用いられる。金属層にこのような金属あるいは合金を用いることによって、可視光透過率を維持しつつ、高い赤外線反射率、すなわち優れた断熱効果を得ることができる。中でも、Pd、Cu、Au、Ti、またはBiの群より選ばれる少なくとも1種の元素を5wt%以下の割合で含有する合金を用いることが好ましい。本実施の形態においてはAg−1.0wt%Cuを用いることとする。
【0037】
金属層の厚みは4nm〜500nmであることが好ましい。4nmより薄い膜厚では所望の性能を得られず、また500nmを超えるとフィルムの可視光透過率が減少するため、例えば窓ガラスなどの透過率が必要な用途には適さない。本実施の形態においては10nmとする。
【0038】
金属層の表面には第2有機樹脂層が積層される。この第2有機樹脂層について説明する。
本実施の形態に係る積層フィルムを例えば窓ガラス等に貼って使用する場合、窓ふきや日常の取り扱いなどによって金属層や金属保護層が剥離し、赤外線反射性能が劣化してしまう恐れがある。
【0039】
そこで、本実施の形態では耐擦傷性を有する第2有機樹脂層を金属層の表面に積層することにより、物理的な金属層の劣化を防止する。
【0040】
更に述べると、この第2有機樹脂層は第1有機樹脂層同様、所謂ハードコート性能を有するものであることが考えられ、その為には充分な硬度を呈する有機樹脂を用いれば良い。そのような硬度を呈する有機樹脂として、例えばアクリル樹脂、ウレタン樹脂やエポキシ樹脂、フッ素系樹脂、さらにはそれらの共重合体からなるものであることであると好適である。
【0041】
第2有機樹脂層の厚みは1.0μm以下であることが好ましい。これは1.0μmより厚い状態とすると、そもそも全体を薄くした積層フィルムを得ようという本実施の形態の目的にそぐわないものとなってしまい、また光線透過率等の観点からも好ましくないものとなる可能性も考えられる。本実施の形態においては1.0μmとする。
【0042】
以上述べたように、本実施の形態に係る積層フィルムの構成を、基材フィルム/第1有機樹脂層/金属層/第2有機樹脂層、としたことで、金属層により遮熱効果が得られると同時に、第1有機樹脂層を設ける事で耐擦傷性が同時に得られ、さらに第2有機樹脂層を設けることで金属層が保護されると同時にさらに耐擦傷性を付加した、そのような耐擦傷性を兼ね備えた熱線遮蔽効果を有する積層フィルムを得られるのである。
【0043】
(実施の形態2)
第1の実施の形態において説明した積層フィルムに対し、以下に示す層を設けることで、より好適な積層フィルムを得ることが可能となる。
【0044】
そのような積層物の一例として金属保護層を設けることが考えられ、そのような構成を有する本願発明に係る積層フィルムを第2の実施の形態として説明する。
この金属保護層について説明する。
金属保護層は、金属層の片面、又は両面に設けられるものであり、本実施の形態では金属層にいわゆる耐候性を付与するために設けられるものである。
【0045】
AgやAlなどの金属は、溶剤や水分などと反応して容易に腐食する。このような金属を前述の金属層に用いた場合、フィルム中に含まれる水分や積層したアンカーコート層および有機樹脂層などに含まれる溶剤によって金属層が腐食してしまい、求める性能が得られないことがある。そのようなときは、金属層の溶剤や水分への耐性、すなわち耐環境性を向上させることが必要となる。そこで、本実施の形態に係る積層フィルムにおいて、金属層の両面、あるいは金属層のアンカーコート層側の表面に金属保護層を設けても良い。
【0046】
そのような目的のために設ける金属保護層の材料としては、
(A)Ti、Cr、Cu、In、Sn、NbまたはZnの群より選ばれる何れか1種または複数
(B)(A)の酸化物
上記(A)または(B)の群より選ばれる何れか1種または複数であることが好ましい。上記のような金属等を用いることにより、金属層の耐環境性を向上させることが可能となる。本実施の形態においてはTiを用いることとする。
【0047】
金属保護層の厚みは、40nm以下であることが好ましい。40nmより厚くなると金属保護層自体の反射が影響して前述した金属層の断熱効果が得られない上、これ以上厚くしても耐環境性の向上は見込めずコストがかかる。本実施の形態では1nmとする。
尚、金属保護層の積層方法については後述する。
【0048】
上記のようにして得られた本実施の形態に係る積層フィルムは、熱貫流率が5.3W/(m・K)以下となり、高い断熱効果を示す。一般に窓用日射調整フィルムは、平成12年5月に制定された「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)」により熱貫流率が5.9W/(m・K)未満であることが基準とされており、値が低いほど断熱効果が高く室内熱の流出を防ぐとされている。また同じく、本実施の形態に係る積層フィルムでは、JIS_A_5759(2008)に記載の方法により測定した結果、得られる遮蔽係数が0.7以下となるが、これは即ち上記グリーン購入法等で断熱効果を示す指標として捉えられる日射遮蔽の効果に優れたものであることを示している。
【0049】
尚、先に述べた第1の実施の形態に係る積層フィルムでも同等の効果を得られるが、その説明及び詳述は省略する。
【0050】
(実施の形態3)
実施の形態2において金属層を保護するための金属保護層を設ける場合につき説明したが、それに更に加えて第1有機樹脂層と金属保護層又は金属層、同じく第2有機樹脂層と金属保護層又は金属層との層間密着力を得る為に、さらにそれぞれの間にそれぞれ第3有機樹脂層、第4有機樹脂層を必要に応じて設けることが考えられる。
【0051】
そこでこれら第3有機樹脂層、第4有機樹脂層を設けた場合の積層フィルムにつき、第3の実施の形態として以下説明する。
まず第3有機樹脂層につき説明する。
第3有機樹脂層は、前述した第1有機樹脂層の金属層側表面に積層されるものである。そして前述の通り、第1有機樹脂層と金属層、又は金属保護層との間の層間密着力を得る為に設けられるものである。
【0052】
その目的に応じて、第3有機樹脂層の材料としては例えばアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フッ素樹脂、又はそれらの共重合体からなるもの、を選択すれば良い。
【0053】
本実施の形態では、有機無機ハイブリッド系樹脂を用いることとする。
尚、第3有機樹脂層の積層方法については後述する。
また第3有機樹脂層の厚みは0.1μm以上3.0μm以下であることが好適である。
【0054】
以上説明した第3有機樹脂層と同一の作用効果を得る目的で、第2有機樹脂層と金属保護層又は金属層との間に第4有機樹脂層を設けても良い。この第4有機樹脂層は第3有機樹脂層と同等であるので、その説明については省略する。
【0055】
本実施の形態では、アクリル系樹脂を用いることとする。
尚、第4有機樹脂層の積層方法については後述する。
【0056】
厚みは0.1μm以上1.0μm以下であることが好適である。この点につきさらに付言しておくと、第3有機樹脂層は積層フィルムの構成において、金属層と基材フィルムとの間に存在するため、外部からの入射光に対しさほど影響を与えないが、第4有機樹脂層は金属層又は金属保護層と最表面に位置する第2有機樹脂層との間に存在するため、外部からの入射光に対しある程度の影響を及ぼしてしまう。そして最表面から金属層表面までの距離が長くなると熱線遮蔽効果が弱くなってしまうため、その部分全体に対しあまり厚みを持たせることは好ましくない。よって、本実施の形態ではその上限を1.0μmとしているのである。
【0057】
このように、必要に応じて第3有機樹脂層と第4有機樹脂層と、何れか一方若しくは双方を設けることにより、より一層層間密着力の増した積層フィルムを得ることができるのである。
【0058】
そして、以上説明した3つの実施の形態に係る積層フィルムにおいて、基材フィルムの金属層等を積層した面と反対側に粘着層を設けることにより、粘着フィルムとすることができる。この粘着フィルムは窓ガラスなどの基材に貼り付けることにより、簡便に赤外線反射性能を付与し、断熱材とすることができる。ここで、粘着層に赤外線吸収防止材を添加すれば、例えば窓ガラスに貼った際に、粘着層が室外からの赤外線を吸収して熱を持つことを防ぐことができる。
【0059】
次に、以上に述べた材料を用いた積層フィルムの製造方法について簡単に説明する。
【0060】
本実施の形態に係る積層フィルムの製造方法は、基材フィルムの表面に、少なくとも第1有機樹脂層を積層する第1有機層積層工程と、その表面に金属層を成膜する金属層積層工程と、その表面に第2有機樹脂層を成膜する第2有機樹脂層積層工程と、をこの順に実行してなる積層フィルムの製造方法である。
【0061】
第1有機樹脂層積層工程としては、従来公知のウェットコーティング法を用いればよい。具体的には、グラビア法、リバース法、ダイコーター法、等である。ウェットコーティング法により積層された有機樹脂層は、その種類によっては溶剤を揮発させるために一定の温度をかけた後、活性エネルギー線、すなわち紫外線を照射することにより硬化を行っても良い。本実施の形態においてはリバース法を用いることとする。
【0062】
金属層積層工程としては、従来ドライコーティング法として知られる手法、例えば蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、等であれば特段制限しないが、ここではDCマグネトロンスパッタリング法を用いることとする。成膜条件は成膜方法やターゲットの種類等に応じて適宜設定される。例えばAg−1.0wt%Cuからなるターゲット材料を用いたDCマグネトロンスパッタリング法によりAg−1.0wt%Cuの金属層を形成する場合の成膜条件としては、次の条件が考えられる。すなわち、チャンバー内を1×10−4Pa以上5×10−4Pa以下程度まで真空に引き、アルゴンガス等の不活性ガスを導入して0.2Pa以上0.5Pa以下としてスパッタリングを行う。基板温度については、成膜により基材が損傷しない温度であればよい。本実施の形態においては10℃とする。
【0063】
尚、金属層の両面、あるいは有機樹脂層側の表面に金属保護層を設ける場合、金属層積層工程の後、あるいは金属層積層工程の前後に金属保護層積層工程を備えても良い。金属保護層積層工程としては、従来ドライコーティング法として知られる手法、例えば蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、等であれば特段制限しないが、ここではDCマグネトロンスパッタリング法を用いることとする。成膜条件は成膜方法やターゲット種類、目的とする組成等に応じて適宜設定される。例えばTiをターゲット材料として用いたDCマグネトロンスパッタリング法によりTiの金属保護層を形成する場合の成膜条件としては、次の条件が考えられる。すなわち、チャンバー内を1×10−4Pa以上5×10−4Pa以下まで真空引きした後、アルゴンガス等の不活性ガスを導入して0.2Pa以上0.5Pa以下とし、スパッタリングを行う。基板温度については、成膜により基材が損傷しない温度であればよい。本実施の形態においては10℃とする。
【0064】
その後、第2有機樹脂層積層工程を実行するが、これは事実上第1有機樹脂層積層工程と同等であるのでその説明は省略する。また、第3有機樹脂層、第4有機樹脂層を積層する場合、それぞれを積層する工程を実行するが、それらの実行内容も同等であるのでその説明は省略する。
【0065】
尚、本実施の形態に係る積層フィルムに粘着層を形成することで、赤外線反射性能を容易に付与できる粘着フィルムを得ることができる。粘着層積層工程としては、本実施の形態に係る積層フィルムにおいて、基材フィルムの金属層等を積層した面と反対側に、従来公知のウェットコーティング法を用いて粘着層を形成する。具体的には、グラビア法、リバース法、ダイコーター法、等であるが、本実施の形態においてはダイコーター法を用い10μm積層することとする。また、このとき、粘着フィルムの粘着層に対し、粘着層形成後にセパレートフィルムを貼り合わせることにより、粘着層に異物が付着することを防ぐことができる。セパレートフィルムは従来公知の樹脂フィルムを用いればよく、ハンドリング性や加工適性、コスト等を鑑みて適宜選択すればよい。本実施の形態においては25μmのPETフィルムとする。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上説明した積層フィルムであれば、赤外線反射性能を維持したまま耐擦傷性を実現した積層フィルムとすることが可能であるため、断熱性又は保温性に優れた耐擦傷性をも備えた赤外線反射性能を有する積層フィルムとすることができる。このような赤外線反射フィルムや該フィルムを用いた粘着フィルムは、ウィンドウフィルムや建材の断熱材として用いることができる。