(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等の鞍乗り型車両において、後輪ブレーキのブレーキ操作子を操作したときに、操作力を後輪ブレーキだけでなく前輪ブレーキにも伝達することにより、安定した車両制動を得られるようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の連動ブレーキ装置は、後輪側のブレーキ操作子であるブレーキペダルに、操作力を後輪ブレーキ側と前輪ブレーキ側とに分配するイコライザ(操作力分配部材)が接続されている。この連動ブレーキ装置の場合、ブレーキペダルの操作力が所定の連動開始閾値を越えない間は、操作力が後輪ブレーキ側のみに伝達され、ブレーキペダルの操作力が所定の連動開始閾値を越えた時点で、その操作力が前輪ブレーキ側にも伝達される。
【0004】
具体的には、イコライザは、ブレーキペダルの作動に応動する支軸に支持されており、その支軸を挟む相反位置に、後輪側伝達アームと前輪側伝達アームとが延設されている。そして、後輪側伝達アームには、ブレーキロッドを介して後輪ブレーキが連結され、前輪側伝達アームには、前輪ブレーキの連動ブレーキ用マスターシリンダのピストンロッドと、ディレイスプリングとが連結されている。ディレイスプリングは、連動ブレーキ用マスターシリンダのピストンロッドに反力を付与する付勢部材であり、セット荷重を超える操作力が前輪側伝達アームに入力されるまでは、連動ブレーキ用マスターシリンダの作動を阻止するようになっている。
【0005】
このため、特許文献1に記載の連動ブレーキ装置においては、ブレーキペダルが踏み込まれると、踏み込みの初期段階では後輪ブレーキが単独で作動し、その後にさらに踏み込み量が増加して操作力が連動開始閾値を超えると、その時点から前輪ブレーキが連動して作動するようになる。したがって、この連動ブレーキ装置を採用した車両では、後輪と前輪とに効果的に制動力を作用させることができるため、制動姿勢を安定させることができるとともに、制動距離を短くすることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の連動ブレーキ装置は、ブレーキペダルの操作力が、ディレイスプリングのセット荷重に応じた一定の連動開始閾値を越えた時点で、イコライザから前輪ブレーキに操作力が伝達されるように設定されている。この設定は、本来、ブレーキペダルの操作時に後輪にある程度以上の制動力が作用してから、前輪に制動力を作用させることを狙ったものである。
【0008】
しかしながら、ブレーキペダルの操作力と後輪に作用する制動力とは常に一対一で対応するものではないため、上記従来の連動ブレーキ装置においては、後輪に制動力が作用し始めてから望ましいタイミングで前輪側に制動力を作用させる設定が難しい。
また、上記従来の連動ブレーキ装置においては、何等かの原因によって後輪ブレーキの制動性能が低下した場合に、後輪ブレーキの制動力が充分に高まる前に前輪ブレーキの制動が開始されることが懸念される。
【0009】
そこでこの発明は、後輪側のブレーキ操作子の操作時に望ましいタイミングで前輪側に制動力を作用させることができる鞍乗り型車両の連動ブレーキ装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る鞍乗り型車両の連動ブレーキ装置は、上記課題を解決するために、
後輪が、スイングアーム(2)によって車体フレーム(F)に上下揺動可能に支持される鞍乗り型車両に用いられ、前輪に制動力を作用させる前輪ブレーキ(10)と、後輪に制動力を作用させる後輪ブレーキ(11)と、前記後輪ブレーキ(11)を操作するブレーキ操作子(25)と、前記ブレーキ操作子(25)の操作に応じて前記後輪ブレーキ(11)に操作力を伝達するとともに、前記ブレーキ操作子(25)に入力される操作力が連動開始閾値を越えた時点で前記前輪ブレーキ(10)に操作力を伝達する操作力分配機構(8)と、を備え、
前記後輪ブレーキ(11)は、後輪と一体に回転するブレーキドラム(18)と、車体側に取り付けられるブレーキベース(19)と、前記ブレーキベース(19)に揺動可能に取り付けられ、後輪の制動時に前記ブレーキドラム(18)に押し付けられるブレーキシュー(20)と、を備えたドラム式のブレーキによって構成され、前記操作力分配機構(8)は、前記ブレーキ操作子(25)の作動に応動する支軸(26)に支持されるとともに、前記後輪ブレーキ(11)に操作力を伝達する後輪側伝達アーム(24b)と、前記前輪ブレーキ(10)に操作力を伝達する前輪側伝達アーム(24a)と、を有する操作力分配部材(24)と、前記スイングアーム(2)に回動可能に支持される支持部材(30)と、一端が前記スイングアーム(2)に支持されて、前記支持部材(30)を初期位置に付勢するセットスプリング(34)と、一端が前記支持部材(30)に支持されて、前記前輪ブレーキ(10)に対する操作力伝達を阻止する方向に前記前輪側伝達アーム(24a)を付勢するディレイスプリング(28)と、前記支持部材(30)と前記後輪ブレーキ(11)のブレーキベース(19)とを連結し、制動力の発生に伴う前記ブレーキベース(19)の変位に応じて、前記ディレイスプリング(28)のセット荷重が小さくなる方向に前記支持部材(30)を変位させる連結部材(33)と、を備えるようにした。
【0012】
この場合、後輪ブレーキ(11)のブレーキ操作子(25)が操作されると、その操作に応動して操作力分配部材(24)が変位する。このとき、後輪ブレーキ(11)には、操作力分配部材(24)の後輪側伝達アーム(24b)を通して操作力が伝達される。こうして後輪ブレーキ(11)に実際に制動力が発生するようになると、連結部材(33)がブレーキベース(19)の変位を支持部材(30)に伝達し、ディレイスプリング(28)のセット荷重を小さくするように支持部材(30)が変位するようになる。この結果、操作力分配機構(8)の連動開始閾値が減少し、操作力分配部材(24)から前輪ブレーキ(10)に操作力が伝達され易くなる。
この形態の場合、極めて簡単な構成でありながら、後輪側のブレーキ操作子(25)の操作時に望ましいタイミングで前輪側に制動力を作用させることができる。
【0013】
前記操作力分配部材(24)は、前記前輪側伝達アーム(24a)が前記支軸(26)を中心として上方側に延出するとともに、前記後輪側伝達アーム(24b)が前記支軸(26)を中心として下方側に延出し、前記支持部材(30)は、前記スイングアーム(2)に回動可能に支持される支持中心(30a)から上方に延出し、延出端に前記ディレイスプリング(28)と前記セットスプリング(34)が連結される支持アーム片(30b)と、前記支持中心(30a)から前記支持アーム片(30b)と異なる方向に延出し、延出端に前記連結部材(33)が連結される連結片(30c)と、を有する構成としても良い。
この場合、ディレイスプリング(28)の一端を支持する支持部材(30)の支持アーム片(30b)と、ディレイスプリング(28)から付勢力を受ける操作力分配部材(24)の後輪側伝達アーム(24b)がいずれも上方に向かって延出しているため、ディレイスプリング(28)の軸長を短くしてばね特性を安定させることができる。
【0014】
前記支持部材(30)は、前記スイングアーム(2)の下部に軸支されるとともに、前記連結片(30c)が車体後方側に向かって延出し、前記連結部材(33)は、前記スイングアーム(2)の下方に配置されるようにしても良い。
この場合、支持部材(30)の連結片(30c)がスイングアーム(2)の下方側で車体後方側に向かって延出し、連結部材(33)の前部側がスイングアーム(2)の下方側で連結片(30c)に連結されるため、ブレーキベース(19)と支持部材(30)を連結する連結部材(33)を短くすることができる。したがって、連結部材(33)を大型化することなく、連結部材(33)の剛性を高めることができる。
【0015】
前記支持部材(30)の支持アーム片(30b)は、前記スイングアーム(2)よりも上方に延出し、前記スイングアーム(2)には、前記支持アーム片(30b)に当接して前記支持部材(30)の回動変位を規制する規制部材(31A,31B)が設けられるようにしても良い。
この場合、支持部材(30)は、スイングアーム(2)よりも上方に延出する支持アーム片(30b)がスイングアーム(2)に設けられた規制部材(31A,31B)に当接することにより、過大な回動変位を規制されるようになる。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、後輪側のブレーキ操作子の操作時に後輪ブレーキに実際に制動力が発生したときに、前輪ブレーキに操作力が伝達され易くなるように操作力分配機構が構成されているため、後輪ブレーキに実際に制動力が発生していない間は前輪ブレーキが作動しにくくなる。したがって、この発明によれば、後輪側のブレーキ操作子の操作時に望ましいタイミングで前輪側に制動力を作用させることができる。
また、この発明によれば、後輪ブレーキに実際に制動力が発生した時点で前輪ブレーキが作動し易くなる構成とされているため、何等かの原因によって後輪ブレーキの制動性能が低下した場合にも、後輪ブレーキの制動力が充分に高まる前に前輪ブレーキの制動が開始されるを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、図中矢印UPは、車両の上方を指し、矢印FRは、車両の前方を指すものとする。
図1は、実施形態に係る鞍乗り型車両のブレーキシステム1の概略構成を示す図である。この実施形態においては、鞍乗り型車両として自動二輪車を採用している。
ブレーキシステム1は、制動部が油圧によって操作されるディスク式の前輪ブレーキ10と、制動部が機械的に操作されるドラム式の後輪ブレーキ11と、を備えている。この実施形態に係る連動ブレーキ装置は、このブレーキシステム1の一部によって構成されている。
鞍乗り型車両の前輪は、図示しないフロントフォークの下端に回転可能に支持され、後輪は、上下揺動可能なスイングアーム2の後端部に回転可能に支持されている。
【0019】
前輪ブレーキ10は、前輪と一体に回転するブレーキディスク12と、ブレーキディスク12を両側から挟持して前輪に制動力を付与するブレーキキャリパ13と、を備えている。この実施形態では、ブレーキキャリパ13は、一対の第1ピストン14a,14aと単一の第2ピストン14bを有する3ポット式とされている。
第1ピストン14a,14aは、前輪ブレーキ用マスターシリンダ15から油圧を供給されることによって前輪を摩擦制動し、第2ピストン14bは、連動用マスターシリンダ16から油圧を供給されることによって前輪を摩擦制動する。
【0020】
前輪ブレーキ用マスターシリンダ15は、前輪側のブレーキ操作子であるブレーキレバー17の回動操作によって油圧を発生する。ブレーキレバー17と前輪ブレーキ用マスターシリンダ15は操舵ハンドル3の一端側に取り付けられている。
【0021】
後輪ブレーキ11は、後輪と一体に回転するブレーキドラム18と、後輪車軸の近傍で車体側に取り付けられるブレーキベース19と、ブレーキベース19に揺動可能に取り付けられ、後輪の制動時にブレーキドラム18の内周面に圧接される一対のブレーキシュー20,20と、を備えている。ブレーキベース19には、一対のブレーキシュー20,20をブレーキドラム18に圧接する方向に押し動かすためのカム21が回動可能に取り付けられている。カム21には、外部からの操作入力によってカム21を回動させるためのカムアーム22が連結されている。
【0022】
カムアーム22は、ブレーキロッド23と、操作力分配部材であるイコライザ24を介して後輪側のブレーキ操作子であるブレーキペダル25に連結されている。ブレーキペダル25は、車体側部に回動自在に支持されるピボット軸25aから車体前方側に延出する操作アーム25bと、ピボット軸25aから車体上方側に延出する作動アーム25cと、を有し、操作アーム25bの先端側上面がブレーキ操作時に運転者によって踏み込まれるようになっている。
なお、図中の符号4は、ブレーキペダル25を初期位置に付勢するリターンスプリングであり、符号5は、ブレーキペダル25の回動変位を規制するストッパである。
【0023】
イコライザ24は、運転者からブレーキペダル25に加えられた操作力を、ブレーキロッド23を介して後輪ブレーキ11に伝達するとともに、前記操作力が後述する連動開始閾値を越えたときに、その操作力を前輪ブレーキ10側にも分配して伝達する。イコライザ24は、ブレーキペダル25の作動アーム25cの先端側の支軸26に回動可能に支持されている。
イコライザ24には、支軸26を中心に車体上方側に延出する前輪側伝達アーム24aと、支軸26を中心に車体下方側に延出する後輪側伝達アーム24bが設けられている。この実施形態では前輪側伝達アーム24aと後輪側伝達アーム24bとが相反方向に直線を成すように延出しているが、前輪側伝達アーム24aと後輪側伝達アーム24bは、相互に所定角度をもって屈曲するように延出するようにしても良い。
【0024】
イコライザ24の前輪側伝達アーム24aの上端部(延出端)には、連動用マスターシリンダ16から延出するピストンロッド27が回動可能に連結されている。ピストンロッド27は、連動用マスターシリンダ16の内部の図示しない作動ピストンに連結されている。連動用マスターシリンダ16は、ピストンロッド27に外部から操作力を加えられることによって油圧を発生し、その油圧を前輪ブレーキ10の第2ピストン14bに作用させる。
【0025】
イコライザ24の前輪側伝達アーム24aの延出端には、後に詳述するディレイスプリング28が接続されている。ディレイスプリング28は、ピストンロッド27に対する(前輪ブレーキ10に対する)操作力伝達を阻止する方向の付勢力を前輪側伝達アーム24aに付与する。
【0026】
図2は、この実施形態に係る鞍乗り型車両の一部の右側面を示す図である。
鞍乗り型車両の車体フレームFは、車体中心に略沿って後方に延出するメインフレーム50と、メインフレーム50の後端部から下方に延出するピボットプレート51と、メインフレーム50の後端部から後斜め上方に延出する左右一対のシートレール52と、を備えている。ピボットプレート51には、スイングアーム2の前端部が上下揺動可能に軸支されている。また、ピボットプレート51はメインフレーム50とともにエンジン53を支持している。なお、図中の符号6は、スイングアーム2のピボット軸である。
【0027】
ブレーキペダル25のピボット軸25aは、ピボットプレート51のスイングアーム2のピボット軸6よりも下方かつ後方である位置に支持されている。ブレーキペダル25の作動アーム25cは、スイングアーム2のピボット軸6よりも後方側位置において上方に立ち上がり、作動アーム25cに支持されるイコライザ24は、ピボット軸6よりも後方側のピボット軸6と干渉しない位置に配置されている。
【0028】
スイングアーム2の前部側の下端にはブラケット29が取り付けられている。ブラケット29には、側面視が略V字状である支持部材30が回動自在に取り付けられている。支持部材30は、ブラケット29に支持される支持中心30aから上方に延出する支持アーム片30bと、支持中心30aから車体斜め後方側に延出する連結片30cと、を有している。支持アーム片30bは、スイングアーム2よりも下方位置からスイングアーム2の上端部よりも上方に延出している。
【0029】
支持アーム片30bの上端部(延出端)には、ディレイスプリング28の一端部が接続されている。ディレイスプリング28の他端部は、前述のようにイコライザ24の前輪側伝達アーム24aの上端部(延出端)に接続されている。
【0030】
スイングアーム2の前部寄りの上面には、支持アーム片30bの前後方向の回動変位を規制する一対の規制部材31A,31Bが取り付けられている。支持アーム片30bは、前後の規制部材31A,31Bの間で回動変位が可能とされている。
【0031】
ところで、後輪ブレーキ11のブレーキシュー20を支持するブレーキベース19には、スイングアーム2よりも下方に向かってトルク伝達アーム32が突設されている。このトルク伝達アーム32の下端部には、連結部材であるトルク伝達ロッド33の後端部が回動可能に連結されている。トルク伝達ロッド33の前端部は、支持部材30の連結片30cに回動可能に連結されている。トルク伝達ロッド33は、後輪ブレーキ11の制動に伴うトルク伝達アーム32(ブレーキベース19)の変位を回動可能な支持部材30に伝達する。
具体的には、後輪ブレーキ11で制動力が発生すると、ブレーキシュー20を支持するブレーキベース19が後輪の回転に引きずられて同方向に若干変位し、その変位がトルク伝達ロッド33を介して支持部材30に伝達される。この結果、支持部材30は、図中時計回り方向に回転し、支持アーム片30bは前方側に向かって変位する。
【0032】
また、スイングアーム2の上部には、支持部材30の支持アーム片30bを後方に引き込む方向に付勢して、支持アーム片30bを後方側の規制部材31Bに当接させるセットスプリング34が取り付けられている。セットスプリング34は、一端側がスイングアーム2の上部に支持されるとともに、他端側が支持アーム片30bの上端部に連結されている。セットスプリング34は、支持アーム片30bが後部側の規制部材31Bに当接する初期位置に向けて支持部材30を付勢する。
【0033】
ここで、支持アーム片30bは、ディレイスプリング28の一端部を支持しており、支持アーム片30bの前後の回動位置はディレイスプリング28のセット荷重を決定する。このため、前述のように支持部材30が図中時計回りに回動して、支持アーム片30bが前方側に向かって変位すると、ディレイスプリング28のセット荷重が弱められる。そして、ディレイスプリング28のセット荷重は、ブレーキペダル25の操作時におけるイコライザ24から前輪ブレーキ10への操作力の伝達開始のタイミングを決定し、前輪ブレーキ10の連動開始閾値を決定する。したがって、後輪ブレーキ11で制動力が発生することによって支持アーム片30bが前方側に向かって変位すると、前輪ブレーキ10の連動開始閾値は減少する。
【0034】
この実施形態の場合、ブレーキペダル25の操作力を後輪ブレーキ11と前輪ブレーキ10に分配する操作力分配機構8は、上述したイコライザ24、支持部材30、セットスプリング34、ディレイスプリング28、トルク伝達ロッド33等によって主として構成されている。
【0035】
つづいて、この実施形態に係るブレーキシステム1のブレーキペダル25の踏み込み操作時における作動について説明する。
図3は、ブレーキペダル25が踏み込み操作されない初期状態での鞍乗り型車両の要部の様子を示す図であり、
図4は、ブレーキペダル25が踏み込み操作された初期の鞍乗り型車両の要部の様子を示す図である。また、
図5は、ブレーキペダル25が踏み込み操作されて後輪ブレーキ11で制動力を発生しているときの鞍乗り型車両の要部の様子を示す図である。
ブレーキペダル25が踏み込み操作されない初期状態では、
図3に示すように、支持部材の支持アーム片30bはセットスプリング34の付勢力を受けて後部側の規制部材31Bに当接している。また、イコライザ24の支軸26は初期位置に位置されており、イコライザ24の前輪側伝達アーム24aと後輪側伝達アーム24bは前輪ブレーキ10と後輪ブレーキ11に操作力を伝達していない。
【0036】
この状態からブレーキペダル25が踏み込まれると、
図4に示すように、ブレーキペダル25が図中時計回りに回動し、ブレーキペダル25の作動アーム25cの変位に伴ってイコライザ24の支軸26が初期位置から前方に変位する。これにより、イコライザ24の後輪側伝達アーム24bがブレーキロッド23を前方側に引き込み、ブレーキロッド23が後輪ブレーキ11のカムアーム22を回動させる。
このとき、後輪ブレーキ11に制動力が発生していない場合には、トルク伝達ロッド33が初期位置のままに維持され、支持部材30の支持アーム片30bも初期位置に維持されている。したがって、このときディレイスプリング28のセット荷重は大きいままとなり、前輪ブレーキ10の連動開始閾値は比較的大きな値となっている。この状態では、連動用マスターシリンダ16は基本的に作動しない。
【0037】
こうしてブレーキペダル25がさらに踏み込まれて、後輪ブレーキ11に制動力が発生するようになると、
図5に示すように、後輪ブレーキ11のブレーキベース19が後輪の回転に引きずられて図中の矢印Aの方向に回動変位し、その変位がトルク伝達ロッド33を介して支持部材30の連結片30cに伝達される。こうして連結片30cに変位が伝達されると、支持部材30が図中時計回りに回動して、支持アーム片30bの上端部がセットスプリング34の付勢力に抗して前方側に変位する。この結果、ディレイスプリング28のセッチ荷重が弱められて、前輪ブレーキ10の連動開始閾値は減少する。
したがって、ブレーキペダル25の作動アーム25cの変位に伴ってイコライザ24の支軸26が前方に変位すると、前輪側伝達アーム24aがディレイスプリング28の付勢力に抗して連動用マスターシリンダ16に操作力を伝達するようになる。この結果、連動用マスターシリンダ16から前輪ブレーキ10に油圧が供給され、前輪ブレーキ10が作動する。
【0038】
以上のように、この実施形態に係る連動ブレーキ装置によれば、後輪ブレーキ11で制動力を発生したときに、後輪ブレーキ11で制動力を発生していないときよりも連動開始閾値を減少させるように操作力分配機構8が構成されているため、ブレーキペダル25の踏み込み操作時に、後輪ブレーキ11に制動力が発生しない間は前輪ブレーキ10が作動しにくくなる。
したがって、この実施形態に係る連動ブレーキ装置においては、ブレーキペダル25の踏み込み操作時に望ましいタイミングで前輪ブレーキ10に制動力を作用させることができる。
【0039】
また、この実施形態に係る連動ブレーキ装置は、後輪ブレーキ11で制動力を発生したときに、後輪ブレーキ11で制動力を発生していないときよりも連動開始閾値を減少させるように操作力分配機構8が構成されているため、何等かの原因によって後輪ブレーキ11の制動性能が低下した場合にも、後輪ブレーキ11の制動力が充分に高まる前に前輪ブレーキ10の制動が開始されるを抑制することができる。
【0040】
特に、この実施形態に係る連動ブレーキ装置は、操作力分配機構8が、イコライザ24と、支持部材30と、セットスプリング34と、ディレイスプリング28と、トルク伝達ロッド33と、を備えた構成とされている。そして、後輪ブレーキ11に実際に制動力が発生するようになると、トルク伝達ロッド33がブレーキベース19の変位を支持部材30に伝達し、ディレイスプリング28のセット荷重を小さくするように支持部材30が変位する。これにより、操作力分配機構8の連動開始閾値が減少し、イコライザ24から前輪ブレーキ10に操作力が伝達され易くなる。
したがって、この実施形態に係る連動ブレーキ装置を採用した場合には、低コストでの製造が可能な極めて簡単な構成でありながら、ブレーキペダル25の踏み込み操作時に望ましいタイミングで前輪側に制動力を作用させることができる。
【0041】
また、この実施形態に係る連動ブレーキ装置は、イコライザ24が、支軸26から上方側に延出する前輪側伝達アーム24aと、支軸26から下方に延出する後輪側伝達アーム24bと、を有し、支持部材30が、支持中心30aから上方に延出して延出端にディレイスプリング28とセットスプリング34が連結される支持アーム片30bと、支持中心30aから支持アーム片30bと異なる方向に延出して延出端にトルク伝達ロッド33が連結される連結片30cと、を有している。このため、この実施形態の場合、ディレイスプリング28の一端を支持する支持アーム片30bと、ディレイスプリング28から付勢力を受ける後輪側伝達アーム24bとが同様に上方に向かって延出しているため、ディレイスプリング28の軸長を短くしてディレイスプリング28のばね特性を安定させることができる。
【0042】
さらに、この実施形態に係る連動ブレーキ装置は、支持部材30が、スイングアーム2の下部に軸支されるとともに、連結片30cが車体後方側に向かって延出し、トルク伝達ロッド33がスイングアーム2の下方に配置されているため、トルク伝達ロッド33の軸長を充分に短くすることができる。したがって、トルク伝達ロッド33を大型化することなく、トルク伝達ロッド33の剛性を高めることができる。
【0043】
また、この実施形態に係る連動ブレーキ装置の場合、支持部材30の支持アーム片30bがスイングアーム2よりも上方に延出し、スイングアーム2の上部には、支持アーム片30bに当接して支持部材30の回動変位を規制する規制部材31A,31Bが設けられている。このため、極めて簡単な構造でありながら、支持アーム片30bが前後の規制部材31Aや31Bに当接することにより、支持アーム片30bの過大な変位を規制することができる。
【0044】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、上記の実施形態の場合、前輪ブレーキ10は、制動部が油圧によって操作されるディスク式のブレーキによって構成され、後輪ブレーキ11は、制動部が機械的に操作されるドラム式のブレーキによって構成されているが、前後の各ブレーキの構造は、前後に操作力を機械的に分配し得る構造のものであればこれらに限らず任意である。
また、上記の実施形態においては、
後輪側のブレーキ操作子としてブレーキペダルが採用されているが、
後輪側のブレーキ操作子はブレーキレバーであっても良い。
さらに、この発明を適用する車両は、自動二輪車(原動機付自転車及びスクータ型車両を含む)に限らず、三輪(前一輪かつ後二輪の他に、前二輪かつ後一輪の車両も含む)又は四輪の小型車両も含まれる。