【実施例】
【0042】
以下の実施例は本発明をさらに説明するために提示されており、決して本発明を限定するものではない。
【0043】
I.方法
A.材料
全ての化学物質および試薬は、特に言及されない限り、利用可能な最高純度でフィッシャー(Fisher)社又はアルドリッチ(Aldrich)社から入手し、使用した。ε-カプロラクトンを100℃にて真空下で蒸留し、使用するまで窒素雰囲気下で保存した。フマリルクロライドは、使用前に蒸留した。
【0044】
B.ポリカプロラクトンの合成
すず(II)エチルヘキサン酸(Tin(II)ethylhexanoate)(2.08g、0.005モル)および1、2プロパンジオール(9.8g、0.128モル)を攪拌棒でシュレンフラスコ(Schlenk flask)に加えた。フラスコをポンプダウン(pump down)し、N
2で3回埋め戻し、N
2下でε−カプロラクトンを加えた。反応容器を140℃の油浴に1時間放置し、次いで室温まで冷却した。冷却によって溶融したポリマーが固体化し、塩化メチレン中に溶解させて、石油エーテル中に沈殿させた。沈殿したポリマーを60℃で真空乾燥し、そのまま使用した。
【0045】
C.ポリカプロラクトンフマレートの合成
炭酸カリウム(18.0g、0.13モル)を、還流冷却器(reflux condenser)を備えた三つ口フラスコに添加し、N
2でパージした(purge)。ポリカプロラクトンジオール(225g、0.11モル)を600mlの塩化メチレン中に溶解し、フラスコに添加した。20mLの塩化メチレンに溶解した、新たに蒸留したフマリルクロライド(17.2g、0.11モル)を反応容器に滴下し、12時間加熱還流した。次いで、反応物をろ過して、K
2CO
3を除去し、石油エーテル中に沈殿させた。ポリマーを乾燥し、そのまま使用した。
【0046】
D.ポリカプロラクトンおよびポリカプロラクトンフマレートのワンポット合成
以前に乾燥シュレンクフラスコに、スズ(II)エチルヘキサン酸(0.406g、0.001モル)を加え、その後1,2 -プロパンジオール(3.81g、0.05モル)を加えた。シュレンクフラスコを1 mmHgに排気し、N
2で3回埋め戻した。カプロラクトン(103g、0.9モル)を容器に添加し、その容器を140℃で40分間加熱し、次いで60℃に冷却した。この時点でのGPC分析は、カプロラクトンの重合が完了したことを示す。300mLのテトラヒドロフランをシュレンクフラスコに添加し、反応をさらに23℃に冷却した。K
2CO
3をシュレンクフラスコに添加しに添加してから、フマリルクロライド(7.23g、0.0473モル)を滴下した。反応混合物を23℃で20時間攪拌した。溶液を400 mLのテトラヒドロフランで希釈し、溶液を静かに注いで(decant)K
2CO
3から分離してから、水100mLを添加した。溶液を1時間撹拌し、次いでMgSO
4上で乾燥させた。MgSO
4を用いてテトラヒドロフランの大部分を蒸発させ、ポリマーを塩化メチレンに溶解した。塩化メチレン層は、MgSO
4を用いて乾燥し、ろ過し、その後、蒸発させた。ポリマーを石油エーテル中に沈殿させ、乾燥させ、そして、そのまま使用した。
【0047】
E.ポリマーの特性評価
ポリマーの分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。GPCシステムは、ウォーターズ2410屈折率検出器、515 HPLCポンプ、および717プラスオートサンプラー(Plus autosampler)と、スチラゲル(Styragel)HR4Eカラムで構成されていた。THFを溶離液(eluent)として使用した(1mL /分)。ポリスチレン標準を使用して、M
nおよびPDIを決定した。
1H NMRスペクトルは、CDCl
3中の300MHバリアン(Varian)NMR上に記録した。
【0048】
F.足場の作製
ポリカプロラクトンフマレート(PCLF)(3.0 g)を1mLの塩化メチレンに溶解した。光開始剤イルガキュア(Irgacure)819アシルホスフィンオキシド(acyl-phosphine oxide)(0.3g)を3mLの塩化メチレンに溶解させ、300μLをPCLFに添加した。混合物を穏やかに(gently)加熱し、均質な溶液を確保するためにボルテックスした。混合物は、フィルム、および、チューブ作製用のガラス型に注いだ。その金型(ガラス型)は0.5mmだけ分離された二つのガラス板で構成されていた。ポリマー混合物を含む金型をUVチャンバーに入れ、架橋を誘導するために、315〜380 nmで1時間照射した。
【0049】
G. PCLF分解
PCLF足場を、1MのNaOHを含有するD
2Oで37℃にて分解させた。
【0050】
H.オートクレーブ滅菌
予め形成されたフィルム又はチューブ足場を、滅菌パウチ内にパッケージし、23 psi、125℃で25分間オートクレーブした。
【0051】
I.熱分析
熱重量分析(Thermogravimetric analysis;TGA)は、TAインストルメントQ500熱分析計(thermal analyzer)上で行った。流動窒素下で、サンプルを室温から800℃まで5℃/分の速度で加熱した。動的な走査熱量測定(DSC)は、TAインストルメントQ1000示差走査熱量計上で行った。サンプル間の同じ熱履歴を確実にするために、サンプルに対して窒素雰囲気下で加熱−冷却−加熱サイクルを行った。サンプルを室温から100℃まで加熱し、その後、−80℃に冷却し、その後、5℃/分の速度で150℃まで加熱した。
【0052】
J.機械試験
機械試験(mechanical testing)は、TAインストルメントダイナミックメカニカルアナライザー2980上で行った。材料の三点曲げ特性を分析するために、円筒ジオメトリ足場をTAインストルメントDMA 2980三点曲げクランプ上に設け、そして、0.02の予圧力(preload force)を印加した。1.0 N/分のランプ力(ramping force)を、材料破壊または18 Nを達成するまで、印加した。サンプルの曲げ弾性率を、37℃での一晩の平衡化後の室温で、および、オートクレーブ後の室温で測定した。TAインストルメントの共通分析ソフトウェアを使用して、すべての材料につき5%歪みで該材料の曲げ弾性率を確認した。延伸および引張測定では、PCLFフィルムが2.1mmの直径を有する犬用の骨の形状に切断した。予め50℃に加熱した後に、サンプルの半分を室温での水浴中に放置し、サンプの半分を37℃の水浴中に放置した。各足場は、TAインストルメントのダイナミックメカニカルアナライザー(DMA)2980張力クランプ(tension clamp)上に設けた。サンプル上に加えられた力は、0.02ニュートン(N)で開始し、18.0 N又は材料の破壊点(failure point)に到達するまで1.0 N /分の速度で上げた。続いて、足場の引張係数(tensile modulus)は、ストレス/歪み曲線の線状部分の傾きを測定することによって決定した。
【0053】
K.レオメトリー
架橋PCLFポリマーフィルムの線形粘弾性特性は、ねじり動的機械分析装置(TAインストルメントのAR2000レオメータ)を使用して測定した。線形粘弾性領域は、1Hzの周波数で歪掃引(strain sweep)を用いて決定した。0.05%の歪みおよび振動応力10kPaは、全てのポリマーに対して該線形粘弾性領域内にあることが分かり、全てのさらにレオメトリー測定に使用された。0.1〜628.3rad/sの周波数掃引(frequency sweep)は、ストレージ(G’)と損失(G”)係数を測定するために使用された。
【0054】
L.PC12細胞を用いたインビトロ研究
10%熱不活性化ウマ血清、5%加熱不活化ウシ胎児血清および0.5%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したDMEM培地をPC12細胞培地のために用いた。PCLF複合材料を、前述のように直径1.0cmのディスク状に作製し、70%エタノールで滅菌して、そのまま使用した。PCLF足場から滲出する(浸出する)残留出発物質の毒性は、非接触法を用いて評価した。PC12細胞を、トランスウェル(transwell)中に含有されたポリマー材料を添加する前に、24時間20,000細胞数/cm
2の密度で12−ウェルプレートにシード(seed)した。PC21細胞をポリマー材料の存在下で1日培養し、その後、MTS分析で細胞数を定量し、そのトランスウェルを、細胞を含有するウェルに移してから更に3〜7日培養した。
【0055】
異なるポリマー材料に対するPC12細胞の応答(response)を調べるために、1.0cmのディスクを24−ウェルプレートに放置した。足場を70%エタノール水溶液中で30分間滅菌した後、滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)ですすいだ。オートクレーブ処理済み医療グレードシリコンチューブを前記ウェルに挿入して、ポリマーディスクの表面積を直径0.95cm(表面積0.71cm
2)に制限した。ウェルは培地を充填し、残りの不純物を除去するために12時間インキュベートした。PC12細胞を30,000細胞数/cm
2の密度でプレートした。実験は、神経成長因子(NGF:50ng/mL)を補充した培地を用いて行った。
【0056】
細胞生存率(cell viability)をMTS(プロメガ、マジソン、WL)アッセイを用いて決定した。まず、0.5 mLのトリプシンを各ウェルに加え、吸引し、10分間インキュベーターに入れた。次いで、0.5mLの培地を各ウェルに添加し、細胞を穏やかにセルスクレイパー(cell scraper)で表面から除去した。その後培地および細胞を新しいウェルに移し、0.1mLのMTS(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム)試薬を各ウェルに添加し、37℃で2時間インキュベートした。吸光度はモレキュラーデバイスのスペクトルマックスプレートリーダー(Molecular Devices spectra max plate reader)上で、490nmで測定した。
【0057】
細胞形態を蛍光顕微鏡で画像化した。ポリマー足場上のPC 12細胞を25分間、PBS中の2%パラホルムアルデヒドに固定し、次いでPBSで3回洗浄した。細胞を3分間、0.1%トリトン100X界面活性剤に浸透させ、次いで1時間PBS中の10%ウマ血清中でインキュベートした。細胞を1時間、PBS中の5%ウマ血清中1%ロジウムファロイジン(rhodium phalloidin)で染色し、次いでPBSで3回洗浄した。核はガラスカバースリップ上に装着する直前にDAPI(4’、6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)で染色した。サンプルを、LSM 510倒立型共焦点顕微鏡上で画像化し、368及び488nmでの励起波長で画像化した。
図11、11A、11B、11C、11D、11E、および11Fを参照(PC12細胞付着(cell attachment)および形態を示す)。
【0058】
II.結果
A.ポリカプロラクトンおよびポリカプロラクトンフマレートポリマーの合成
ポリカプロラクトン前駆体ポリマーは、モノマー:開始剤の比率19:1で、1,2プロパンジオールまたはグリセロール開始剤から合成した。この比率は、エチレングリコール(DEG)から合成された市販されるポリカプロラクトンエーテルジオールに類似した分子量を有するポリカプロラクトンを合成するために、選択したものである。ポリカプロラクトン前駆体をGPCによって分析して、同様の分子量を確認した。
【0059】
1,2プロパンジオールから合成されたポリカプロラクトン前駆体ポリマー(PCL
PPD)とフマリルクロライトを反応させて、一方のポリカプロラクトンフマレートポリマー(PCLF
PPD)を生成した。グリセロールから合成されたポリカプロラクトン前駆体ポリマー(PCL
GLY)とフマリルクロライトを反応させて、別のポリカプロラクトンフマレートポリマー(PCLF
GLY)を生成した。ジエチレングリコールから合成されたポリカプロラクトン前駆体ポリマー(PCL
DEG)とフマリルクロライトを反応させて、更に別のポリカプロラクトンフマレートポリマー(PCLF
DEG)を生成した。
図2は、PCLF
PPDおよびPCLF
GLYの合成スキームを示す。
【0060】
図3は、ポリカプロラクトンポリマーのGPCごレース(trace)がすべて対称的であり、ほぼ同一であることを示す。GPCによって決定されたポリカプロラクトン分子量を下記表1に示す。合成されたPCL、および市販PCLの分子量は非常に類似しているが、それはすべてのカプロラクトンがPCL合成に消費されたことを示す。
【0061】
【表1】
【0062】
ポリカプロラクトンポリマーの
1H NMRに存在する端末CH
2-OH 基を使用した末端基分析(end group analysis)によれば、ポリカプロラクトン分子量は2000 g mol
-1の所望のM
nに非常に類似している。開始剤の部(moiety)に関連した
1H NMRのプロトンは、ポリカプロラクトン合成後に可視化され、PCL
GLYについては3.3および3.8から4.15、4.28、および5.25にシフトし、PCL
PPDについては3.5および3.8から4.15および5.15にシフトするが、それは、第一級及び第二級アルコールの両方からポリカプロラクトンの開始(initiation)がPPD及びGLY開始剤上で起こることを示す。GPCおよび末端基分析によって決定された分子量間の不一致は、GPC較正曲線を生成するためのポリスチレン標準(polystyrene standard)を使用することによって引き起こされる。
【0063】
PCL
GLY上のアルコール数の増加および異なる組織(構造)に基づいて、反応時間が変わった。PCL
PPDとの反応は12時間還流させたが、PCL
GLYを使用した反応をGPCによってモニターし、典型的な反応時間は5時間であった。すべてのPCLF構造は、この研究において、10〜12kgmol
-1の類似した分子量を有していた。しかし、PCLF
GLYは2.9のより広いPDIを有していた。
【0064】
B.熱転移および結晶特性の特性評価
新たな架橋ポリカプロラクトンフマレート足場の材料特性を研究するために、0〜100重量%のPCLF
GLY、および、PCLF
PPDの組成物を作製した。熱、膨潤、機械的、およびレオロジー特性を評価し、以前に研究したPCLF
DEGと比較した。
図5は、PCLFの熱転移(thermal transition)を測定するために使用される示差走査熱量測定(DSC)からの加熱と冷却のトレース(trace)を示す。T
m、T
C、T
g、△H
m、△H
c、および%結晶化度を分析した結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
表2のポリマー組成物において、PCLF
DEGは100重量%のPCLF
DEGであり、PCLF
PPD100は100重量%のPCLF
PPDであり、PCLF
PPD75PCLF
GLY25は75重量%のPCLF
PPD及び25重量%のPCLF
GLYであり、PCLF
PPD50PCLF
GLY50は50重量%のPCLFPPD及び50重量%のPCLF
GLYであり、PCLF
PPD25PCLF
GLY75は25重量%のPCLF
PPD及び75重量%のPCLF
GLYであり、PCLF
GLYは100重量%のPCLF
GLYである。
【0067】
DSCデータによれば、PCLF
PPDは、PCLF
DEGに非常に類似した熱および結晶特性を示す。PCLF
DEGに比べて、PCLF
GLYは、37.2℃〜22.4℃のより低いT
m、31.2%〜24.5%の減少された結晶化度、および42.1〜33.1J/gの減少された△H
mを有している。表2はまた、T
m、T
c、ΔH
m、ΔH
c,、および%結晶化度がPCLF
PPDPCLF
GLYブレンド組成物の選択によって変われることを示す。
図6は、様々なPCLF足場の熱分解を示す。すべての足場の分解開始(onset of composition)は、約200℃で起こる。これは、ポリマーがオートクレーブにおいて通常使用される121℃〜134℃の温度において熱的に安定していることを示す。
【0068】
C.膨潤比(swelling ratio)
架橋ポリマーフィルムの膨潤比は、相対的な架橋密度の指標である。材料がより高度に架橋されればされるほど、シータ溶媒中に置かれたときに膨潤はより少なくなる。
図7は、架橋ポリカプロラクトンフマレートの膨潤比におけるわずかな相違を示す。PCLF
DEGは最も高い膨潤率を有しているが、それは、最も架橋密度が低いことを示す。興味深いことに、PCLF
PPDおよびPCLF
GLYの両方は、より高い架橋密度を示す同様の低い膨潤比を有しているが、PCLF
PPD50PDLF
GLY50は、(PCLF
DEG)同様の膨潤比を有している。
【0069】
D.機械的特性
ポリマー足場内の結晶領域の存在およびパーセントは足場機械的特性に大きく影響を与え、通常、結晶化度が増加するにつれて材料の機械的強度が増加する。PCLF
GLY、PCLF
PPD、および、PCLFL
DEGの結晶特性の相違に基づいて、曲げ率や引張率を測定した。
図8Aは、延伸モード(stretching mode)におけるPCLF材料の応力ひずみ(stress strain)プロットを示す。この応力ひずみプロットによれば、ポリマー材料は明らかに異なる性質を有している。PCLF
DEG、および任意の量のPCLF
PPDを含有する製剤は、20%未満の低ひずみにおいて可逆弾性特性(reversible elastic properties)を有するゴムのような性質を示す。PCLF
GLY100応力ひずみ曲線は、低い応力下で高いひずみを持つエラストマー材料に似ている。5%ひずみにおける引張及び曲げ率の測定結果を
図8Bに示す。PCLF
DEGは それぞれ88 ± 13および67±10 MPaの引張および曲げ率(曲げ弾性率)を示す。PCLF
PPDは若干減少された率、55 ± 4および47±8を示すが、PCLF
GLYはそれぞれ有意に低い引張および曲げ率4 ± 1および7 ± 1 MPaを示す。PCLF
GLY及びPCLF
PPDブレンドの率は、PCLF
PPDのパーセントが増加するにつれて増加した。
【0070】
E.レオロジー特性
レオロジーは、異なるポリカプロラクトンフマレート材料とそのブレンドの粘弾性特性を分析するために使用された。周波数スイープ(frequency sweep)およびクリープ(creep)実験は、貯蔵および損失率(storage and loss modulus)、並びに、材料のコンプライアンスおよび回復挙動を測定するために採用した。これらのパラメータを使用して、架橋ポリカプロラクトンフマレートの粘弾性挙動に対する異なる結晶性微細構造の影響を調べるとともに、オートクレーブ滅菌後の材料の変化を評価した。PCLF材料の線形弾性領域(linear elastic region)は、1Hzの周波数において0.1〜100%ひずみのひずみスイープ(strain sweep)を実行することによって決定した。G’がひずみ(
図9A)又は振動応力(
図9B)から独立している線形領域は、重なる線形粘弾性領域(overlapping linear viscoelastic region)を決定するために使用された。すべての周波数掃引(frequency sweep)は0.05%ひずみにおいて行われ、保存率(storage modulus; G’)および損失率(loss modulus; G”)対周波数をすべてのPCLF組成物について
図9Aおよび
図9Dにて示す。G’は、生理学的に関連する37℃で測定され、すべてのPCLF材料において周波数から独立していることが示された。PCLF
DEGおよびPCLF
PPDはPCLF100rad/sにおいてそれぞれ最も高いG’14.7および12.4MPaを有する。G’はPCLF
GLYの量が増加するにつれて減少するが、PCLFP
PD25PCLF
GLY75については3.7MPaまで減少し、PCLF
GLY100は0.3MPaのG’を有する。その値は、他の全ての組成物よりも一桁以上低い。G”は、PCLF
GLYにおいては周波数依存的な挙動を示すが、他の全てのPCLF組成物においては主に独立している。G”測定値は、G’よりも一桁分低いが、この関係を
図9Eにおいてtanδとしてプロットしている。tanδは材料の弾力性(elasticity)を評価するために使用することができ、G”/G’対周波数としてプロットされる。
図9Eは、すべてのPCLF材料が約0.1のtanδ値を有することを示すが、それは、G’およびG”値に差異があるにもかかわらず類似した弾性挙動を示すことを意味する。
【0071】
分岐対線形PCLF足場の材料特性における差異を更に調べるために、クリープ実験(creep experiment)を行い、コンプライアンス(compliance)と回復(recovery)特製を説明した。
図9Fに示すクリープ実験は、10kPaの一定の応力が加えられたときに材料が明確に異なるコンプライアンス特徴を有することを示す。PCLF
DEGおよびPCLF
PPDは、0.11〜0.27%のせん断応力を示した。これらの応力は、PCLF
GLY100によって得られた4.0%のせん断応力の1/36〜1/14である。
【0072】
F.オートクレーブ滅菌
滅菌は生体材料を臨床用製品にするのに重要である。オートクレーブ滅菌は、迅速、有効、かつ、FDAの認証を受けた滅菌法であるために、PCLFに対するオートクレーブプロセスの効果を調べた。スチーム存在下、123℃で23分という標準的なオートクレーブ手順を採用した。オートクレーブ滅菌が終わった直後にすべての材料は透明であったが、足場が冷めるにつれてゆっくりと不透明になった。3次元構造を維持し、足場には特に目立った変化はなかった。材料変化(material change)を決定するために、PCLF熱およびレオロジー特性を評価し、オートクレーブ処理前の特性と比較した。表3は、オートクレーブ後PCLF材料における熱転移の変化およびDSC結果を示す。
【0073】
【表3】
【0074】
ガラス転移は、0.4〜1.4℃だけ減少し、融点温度は1.6〜3.2℃増加し、結晶化温度は5.0〜16.3増加した。結晶化度(%)、△Hmおよび△Hcは、それぞれ0.8〜5.6%、1.0〜7.7J/g、および、0.6〜8.5J/g増加した。すべてのパラメータについて、PCLF
GLYは、一貫してオートクレーブ滅菌処理に基づく最低の変化だけを示した。
【0075】
レオロジー測定は滅菌後1日で行い、その結果を
図10A〜10Dに示す。滅菌前の特性と比べたときにすべての材料においてG’、G”、およびtan δのわずかな変化しか見られなかった。例えば、PCLF
GLYのG’は、滅菌後2.6MPaから1.5MPaまで減少した。
図10Dに示すように一定のせん断応力が加えられたときに、G’およびG”におけるこうした差異は増加されたコンプライアンス挙動(compliance behavior)につながった。PCLF
GLYは、4%から6.2%まで増加した。いかなるPCLFもオートクレーブ滅菌プロセスの前に測定したそれらの材料挙動とは劇的に異なる材料挙動は示さなかったものの、その他のPCLF材料ではそれらのコンプライアンス挙動を変えるG’およびG”に変化があった。
【0076】
III.ディスカッション
PCL
PPDは市販のPCLDEGと類似した線形ポリマー構造(linear polymer architecture)であるが、PCLGLYは、三分岐星型ポリマー(tri-branched star polymer)である。三分岐星型ポリマーは、余分の(over)分子量が同じとなるように設計されているため、個々のPCL鎖がPCL
PPD又はPCL
DEGよりもPCL
GLYにおいてより短い。
【0077】
A.熱転移および結晶特性の特性評価
ポリマー材料の結晶性はその機械的特性に大きな影響を与える。PCLFは生理的な温度に非常に近いT
mを有する半結晶性材料である。結晶領域は材料強度に多大な影響を与えるため、材料の熱的挙動を理解することは重要である。したがって、機械的特性は、PCLFが結晶質の状態であるか、無定形の状態であるかによって、大きく変わり得る。DSCデータによれば、線形PCLF
PPDおよびPCLF
DEGは予想した通り類似した熱特性および結晶特性を有するが、それは、ポリマー組成および組織(architecture)が総組成(物)の約5%の開始剤を除けば同じであるからである。PCLF
GLYは、線形PCLF
PPD又はPOCLF
DEGに比べて、減少された%結晶化度およびTmを有する。こうした結晶化度における減少は分岐の影響である。ポリマー分岐(polymeric branching)だけではなく架橋密度の増加も、折り曲げ(folding)および最終的な結晶形成に必要な鎖運動(chain motion)を減少させることで結晶化プロセスを混乱させることができる。PCL
GLYは、三分岐ポリマーであるが、生成されたPCLFGLYは理論的に主鎖に沿った複数の分岐点(branching point)を有する。これが結晶化度の減少の原因とみられる。分岐の結果として、個々のPCL鎖は、線形の対応物(同等物;counterpart)(9〜10モノマー単位)よりも短く(7モノマー単位)、これがまた結晶化度の減少の一因となる。しかし、同じ条件下で架橋された、1鎖あたり5〜6モノマー単位を有する、線形PCLFは31.6℃のT
mおよび30%結晶化度を有することが記載されたWangらの文献によれば、この影響は少ない。文献[Wang, S.; Yaszemski, M. J.; Gruetzmacher, J. A.; Lu, L., "Photo-Crosslinked Poly(epsilon-caprolactone fumarate) Networks: Roles of Crystallinity and Crosslinking Density in Determining Mechanical Properties", Polymer (Guildf) 2008; 49:5692-99]参照。
PCLF組織(architecture)を変えることで、Tmを37℃以上又は以下に替えることができる。このため、材料が生理的な温度周辺で結晶状態であるか無定形状態でだるかは、材料特定において重要である。こうした熱転移(thermal transition)が起こるかいなかを決定するために、DSCを行い、その加熱および冷却トレースを
図5に示した。
【0078】
B.レオロジー特性
レオロジーを使用して、ゲル架橋ポリマーせん断強度上の微細構造の相違(差異)の影響を調べた。周波数掃引(frequency sweep)の結果、G’及びG”がわずかな周波数依存挙動を示すPCFL
GLYを除いたすべての材料において周波数依存は見られなかった。これは、すべての足場がよく順序付けられた(即ち、よく整列された)三次元構造を有するということを示す。PCLF材料間に観察されたG’の相違(差異)は、結晶化データと一致し、増加する%結晶化度、T
mおよびT
c転移に起因している。これは、PCLFDEGこれはPCLFDEことを意味して
GとPCLFppoが最高のG 'とGその'増加パーセントPCLFGLY-C.オートクレーブ滅菌と減少を示す。
【0079】
C.オートクレーブ滅菌
臨床的に関連した滅菌プロトコールは、最初のポリマー開発の過程、インビトロ作業、および、70%アルコールを使用した簡単な滅菌で足りるインビボ研究においてもしばしば看過される、生体材料/医療機器の開発における重要なポイントである。オートクレーブは、外科機器に最も広く使われている滅菌法であるが、分解しやすい、非架橋性のポリマー材料では、オートクレーブによって、足場の幾何学的形状が破壊されるか、材料特性および最終的な装置性能が悪影響を受けることがある。PCLFが疎水性、架橋性、および、他のポリエステルよりもゆっくりと分解する(劣化する;degrading)ものであるために、PCLF特性へのオートクレーブ滅菌の効果を調べた結果、オートクレーブ滅菌に対してより回復力が強い(より柔軟である)ことが分かった。
【0080】
IV.結論
ポリカプロラクトンフマレート材料は、以前のポリカプロラクトンフマレート組成物の望ましくないジエチレングリコール成分を除去するために、1,2プロパンジオール又はグリセロールから開始された、生体適合性ポリカプロラクトン前駆体から成功裏に合成された。線形PCLF
PPDポリマー足場は、PCLF
DEGと同様の特性、レオロジー特性、および、機械的特性を維持するが、分岐PCLF
GLYは材料の特性を変えるために使用され得る。PCLF
GLYの分岐構造(branched structure)は、結晶化を破壊(分断)して%結晶化度が減少され、Tmが生理温度以下となる。これによってPCLF
GLYは無定形となり、その機械的な挙動は純粋な弾性(purely elastic)というよりもエラストマー的なものに変わる。更に、これらのポリカプロラクトンフマレート材料は、材料特性にほとんど変化をもたらすことなく、オートクレーブによって滅菌され得ることが分かった。
【0081】
従って、本発明は、分解時にジエチレングリコールまたは他の望ましくない副産物を放出しない生体適合性ポリカプロラクトンフマレート製剤を提供する。
【0082】
本発明は、特定の実施形態に基づいて詳細に説明したが、当業者であれば、本発明が零時の目的で示された前述した実施形態以外によって実施できることを理解できるだろう。したがって、添付された特許請求の範囲は、この明細書に含まれた実施形態の説明に限定されない。