【課題を解決するための手段】
【0013】
驚いたことに、本発明にある問題は、請求項に係るプロセスにより解決される。さらに本発明の実施形態は以下の記載を通して開示される。
【0014】
本発明の課題は、
(a)薄膜反応器にジケテンと塩素を供給する工程、および
(b)ジケテンと塩素を反応させて塩化4−クロロアセトアセチルを得る工程、
を含む、塩化4−クロロアセトアセチルの製造プロセス。
【0015】
本発明において、ジケテンと塩素との高効率な反応が、薄膜反応器内で行われうることが見いだされた。薄膜反応器内へジケテンと塩素とを供給した後、そのジケテンと塩素はその薄膜反応器内で反応する。塩化4−クロロアセトアセチルは反応生成物として形成され、その反応器から除去されうる。
【0016】
本発明の好ましい実施形態において、工程(a)で、ジケテンは有機溶媒との混合物の形態で反応器に供給される。当該混合物は、好ましくは、有機溶媒中のジケテンの溶液である。
【0017】
原則として、ジケテンが容易に溶解し、ジケテンと反応しないまたはジケテンの反応を阻害しない任意の有機溶媒が用いられてよい。したがって、溶媒は不活性溶媒であるべきである。この点で、アルコールは、アセトアセテートの形態になり薄膜反応器中でエステル化反応において反応をするので、用いることができない。好ましい不活性溶媒は、ハロゲン化炭化水素、好ましくはハロゲン化アルカンであり、例えば、クロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン(クロロホルム)、テトラクロロメタン、クロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ジクロロプロパン、1−クロロ−2−フルオロエタン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、メチルクロロホルム、1−クロロブタン、2−クロロブタン、1−ブロモブタン、臭化エチル、1−ブロモ−2−クロロエタン、1−ブロモ−2−フルオロエタン、1−ヨードブタン、ブロモクロロメタン、ジブロモメタン、1,1−ジブロモメタン、ジフルオロヨードメタン、1−ブロモプロパン、ブロモクロロフルオロメタン、2−ブロモプロパン、ブロモジクロロメタン、ブロモフルオロメタン、ブロモトリクロロメタン、ジブロモジフルオロメタン、ペンタクロロメタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、フルオロヨードメタン、ヨードメタン、ジヨードフルオロメタン、1,1,2,2−テトラクロロメタン、1,1,2−トリクロロエタン、1−クロロプロパン、1,2−ジブロモプロパン、1,2,3−トリクロロプロパン、1,1,1,2−テトラクロロプロパン、またはこれらの混合物またはそれらの少なくとも1つを含む混合物である。
【0018】
本発明の極めて好ましい実施形態において、溶媒はジクロロメタンである。ジクロロメタンは、ジケテンと塩素との反応の効率的な不活性溶媒であることが当該技術分野で公知である。
【0019】
本発明において、ジケテンが有機溶媒中、比較的高濃度で与えられるときでさえ、反応は高効率で行われうる、ということがわかった。本発明の好ましい実施形態において、混合物中のジケテンの濃度は15%(重量/重量)超である。より好ましくは、ジケテンの濃度は20%超、または25%(重量/重量)超である。ジケテンの濃度は、最大80%(重量/重量)または50%(重量/重量)であり得る。好ましい実施形態において、ジケテンの濃度は、15〜80%、15〜60%または20〜50%(重量/重量)、より好ましくは、25および50%(重量/重量)である。ジケテンの濃度は、21%〜80%、好ましくは21〜60%または21〜50%(重量/重量)であり得る。ジケテンの濃度が比較的高いことは、全溶媒の使用量が少なくなるので有利である。さらに、薄型フロー反応器(thin film reactor)中での反応混合物の体積は比較的低く維持される。反応物質の接触面積は高く、良好な時間空間収率が得られうる。なおさらに、体積が小さい場合および従って膜の厚さも薄い場合、熱の除去はより効率的である。よって、当該プロセスはエネルギー、費用について効率的であり、特に工業スケールで実施されるとき効率的である。
【0020】
本発明において、工程(a)において、塩素が塩素ガスの形態で反応器に供給されるのが好ましい。塩素ガスを用いるとき、溶媒の全使用量はさらに減少される。従って、有機溶媒、好ましくはジクロロメタンに溶解されるジケテンの濃度を比較的高くし、塩素ガスを用いるとき、上記のようにジケテンの濃度が高いので、反応は高効率的である。薄膜反応器の反応容積は比較的低く、時間空間収率は増加するが、熱伝導は促進される。さらに、ガス形態での塩素の使用は事前溶解工程を回避する。塩素は、大スケールの工業プロセスにおいて侵略的であり、取扱いを複雑にするので、ガス形態での塩素の使用は有利である。
【0021】
本発明において、塩素ガスを不活性ガスで希釈する必要はない。従って、本発明の好ましい実施形態において、不活性ガスは薄膜反応器に導入されない、および/または塩素が薄膜反応器に導入される前または導入されている間に不活性ガスと混合されない。好ましくは、ジケテン、塩素および有機溶媒だけが薄膜反応器に導入される。従って、物質の最終的な使用量、費用および得エネルギーを低く維持できる。
【0022】
本発明の反応工程(a)は薄膜反応器で行われる。そのような薄膜反応器内で、反応は少なくとも1つの反応器の表面で起こる。通常、薄膜反応器は、反応表面の連続的な再生を可能とする。その薄膜反応器、は表面を回転することにより、反応表面で形成される。従って、当該反応器は、反応が空間液体容積内で行われるチューブ反応器のような反応器とは異なる。当該反応器は、液体の反応物質を反応表面に分配する手段を含む。さらに、反応器は冷却手段を含むべきである。冷却手段は、好ましくは熱交換器である。本発明の方法において、発熱反応によって生じる熱が反応器から連続的に除去されるのが好ましい。従って、反応温度は、局所的かつ全体的に、安定かつ比較的低く維持されうる。膜の厚さは冷却装置および熱放散汚必要性に適合される。典型的には、膜の平均厚さは0.05mm〜15mm、より具体的には0.1〜5mmであってよい。
【0023】
本発明の極めて好ましい実施形態において、反応器はワイプフィルム(wiped film)反応器である。ワイプフィルム反応器は、例えば、ブレード、ワイパーまたはロールのワイプ手段を含む。そのようなロールまたはワイパーは、典型的には、遠心力によって反応器壁に対してプレスされる。ワイプ手段は、膜と接触して、通常回転によって移動する。ワイプ手段を回転することにより、薄膜、膜再生および徹底的かつ連続的な混合が成し遂げられる。ワイプ手段は縦または横に配置されてよい。ワイプ手段は、通常、PTFE(好ましくは、DuPontから商標テフロン(登録商標)で入手可能)、金属合金(好ましくは、ニッケル合金(好ましくはHaynes社から商標ハステロイ(登録商標)で入手可能)、ステンレス鋼、またはグラファイト)など、不活性な材料から生産される。典型的には、ワイパー元素の数は2〜1000、より好ましくは10〜1000、または50〜500の間である。例えば、am工業スケールの反応器はそれぞれ40のロールを備えた4つのカラムを含んでよい。ワイパーは平板または巻回型であり、好ましくはらせん状の巻回型であってよい。
【0024】
ワイプフィルム反応器は、当該技術分野において、熱的に不安定な化合物の蒸留にしばしば用いられる。しかしながら、化学反応にワイプフィルム反応器の使用は、当該技術分野でも開示されている。重合反応においての使用および反応器の調整は、Steppanらに開示されている(「Wiped film reactor model for nylon 6,6 polymerisation(ナイロン6,6重合用のワイプフィルム反応器)」、Ind.Eng.Chem.Res.第29巻、第2012−2020頁、1990年)。そこに開示された基本的な考え方は、本発明プロセスにおいてワイプフィルム反応器を調整して最適な収率を得るのにも有用である。反応条件はワイパーの数および種類、液体の蒸留装置、温度、反応器容積、圧力、ローター速度、所望の膜厚などのパラメーターを考える具体的な反応器モデルを考慮して選択および調整される。
【0025】
ワイプフィルム反応器の面積は、好ましくは0.5〜30m
2であり、好ましくは1〜15m
2である。面積は、少なくとも0.5、少なくとも1または少なくとも2m
2であるのが好ましい。反応器の速度は10〜2000rpm、好ましくは20〜1000rpmであってよい。
【0026】
本発明の好ましい実施形態において、プロセスは連続プロセスである。好ましくは、ジケテンは少なくとも10kg/hの速度で反応器に供給される。より好ましくは、ジケテンは少なくとも20kg/h、少なくとも30kg/時間または少なくとも75L/時間の速度で反応器に供給される。ジケテンは10〜500kg/h、または75〜250kg/hの速度で反応器に供給されてよい。薄膜反応器は、通常、連続プロセスに調整されている。反応物質は一定速度で反応器に供給され、反応生成物は反応器の底から一定速度で取り出される。本発明の反応は比較的大スケールの場合で効率的であり、工業生産に利用できる、ということが見出された。好ましくは、塩素ガスは、少なくとも10kg/時間、20kg/hまたは50kg/hの速度で反応器に供給される。塩素は250〜500kg/h、または50〜250kg/hの速度で反応器に供給されてよい。スケールアップのプロセスは、具体的な反応器内で少量の溶媒および高反応効率かつ高熱伝導効率であるので、さらに高収率かつ高選択的に生成物を供給しうる。反応をスケールアップすることは比較的少ない量の溶媒を用いて効率的であり、しかも高収率で得られることは予測されていなかったので、このことは驚くべきことである。好ましくは薄膜反応器の容積は少なくとも50L、少なくとも100Lまたは少なくとも500Lである。
【0027】
独創的なスケールアップのプロセスにおいて、出発化合物の回転率と反応器の容積は比較的高い。しかしながら、反応機内の反応物質はほとんど薄膜の形態で存在し、従って薄膜反応器内で反応物質の効果的な維持は従来のバッチまたはパイプ反応器と比較してかなり低い。反応性が高く有害な塩素およびジケテンの潜在的な危険性を共慮して、本発明のプロセスは一般的に安定である。例えば、反応器が損傷を受けたときまたは反応は制御できなくなったとき、比較的少量の塩素およびジケテンは制御できない条件で反応し、または、反応器から漏出しうる。潜在的な重要性は、塩素およびジケテンを高く維持する空間を有するバッチ容積を含む従来の反応器と比べてあまり厳格ではない。このようにして、本発明のプロセスはより安全なプロセスを提供する課題を解決する。
【0028】
さらに、本発明の反応は、比較的低温で大スケールにおいて高効率で実施できることが見出された。ジケテンおよび塩化4−クロロアセトアセチルは、高温で、特に反応器内での滞留時間が長いとき、収率が減少するように、温度に敏感である。本発明の好ましい実施形態において、反応温度は−15℃〜60℃である。より好ましくは、第1反応の反応温度は−15℃〜45℃または0℃〜30℃に維持される。さらに好ましくは、第1反応の反応温度は5℃〜45℃または5℃〜30℃、または5℃〜20℃に維持される。好ましくは反応温度は60℃未満、40℃未満、30℃未満または20℃未満である。反応温度は熱交換器のような冷却手段を用いて反応器を冷却して調整される。好ましくは、熱交換器は反応混合物に接していない側の表面上に直接の熱流体を含む。熱交換は大スケールな場合であっても、薄膜反応器内で良好な効率で行われる。薄膜反応器中でのジケテンの平均滞留時間は、分解および副反応を避けるため比較的短く調整されるべきである。平均滞留時間は2秒〜500秒、または5秒〜250秒であってよい。
【0029】
薄膜反応器内での反応は標準圧力で実施されうるが、過圧または低大気圧もしくは低真空でも実施されうる。従って、全ての反応は、穏和な条件で実施されうる。
【0030】
本発明において、少量の溶媒および反応器内の大きな接触面積を考慮して、低温でさえ、薄膜反応器内での反応物質の滞留時間は比較的短く設定され、高収率で得られるということが見出された。比較的低温および大スケールのせいで、滞留時間は原則として増加するので、このことは予測されなかった。しかしながら、薄膜形成を伴う全工程、好ましくはワイプ工程により支持され滞留時間を減少させる。
【0031】
上述されるように、本発明のプロセスにおいて用いられる溶媒の総量は比較的低く保たれうる。溶媒の消費量は、溶媒を再利用したとき、さらに減少する。より好ましくは溶媒は、プロセス中で再び用いられる。より好ましくは溶媒はプロセス中で回収され、再び用いられる。再生利用は、エステル化またはアミド化反応後の蒸留、液−液抽出、反応性抽出、膜分離技術、クロマトグラフィーまたは溶媒の結晶化またはこれらの方法の組み合わせなどの任意の適当な方法を含んでよい。後に高純度の溶媒はプロセスに導入され、好ましくは当該高純度の溶媒は反応物質の流れの中でジケテンと混合した後に導入される。
【0032】
本発明の好ましい実施形態において、溶媒は少なくとも98重量%の純度のジクロロメタンである。好ましくは、塩化物、水および/またはアルコールの含有量は低い。
【0033】
本発明の別の課題は4−クロロアセト酢酸エステル、4−クロロアセト酢酸アミドまたは4−クロロアセト酢酸イミドの製造方法であり、
(c)本発明のプロセスにおいて得られる塩化4−クロロアセトアセチルを第2反応器に移す工程、および
(d)塩化4−クロロアセトアセチルをアルコールまたはアミンと反応させて、4−クロロアセト酢酸エステル、4−クロロアセト酢酸アミドまたは4−クロロアセト酢酸イミドを得る工程
を含む。
【0034】
従って、ジケテンおよび塩素の最初の反応の反応生成物は第2反応器内でさらに反応させられうる。好ましくは、第1および第2の反応は1つの連続法の部分である。そのような連続法において、第1反応で構成された塩化4−クロロアセトアセチルは第1反応器(薄膜反応器)から取り出され、第2反応器に直接移される。
【0035】
第2反応器中、エステル化反応、アミド化反応またはイミド化反応が実施される。反応器は、これらの反応に適当である任意の種類の反応器であってよい。例えば、反応器は、ベッセル、チューブまたはカラムであってよくまたはそれらを含んでよい。第1および第2の反応器は、接続手段(チューブ、パイプまたはホースなど)によって接続される。従って、全プロセスは中間体を精製することなくまたは塩化4−クロロアセトアセチルを単離することなく、効率的な手段において実施されうる。しかしながら、当該反応は、塩化4−クロロアセトアセチルの中間体の単離後に実施することもできる。
【0036】
エステル化反応、アミド化反応またはイミド化反応は、酸塩化物とアルコールまたはアミンとの典型的な反応である。
【0037】
好ましい実施形態において、アルコールはアルキルアルコール、すなわちアルカノール、またはアリールアルコール(フェノールなど)である。例えば、アルコールは、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノールおよびフェノールからなる群から選択されてよい。好ましい実施形態において、アルコールはメタノール、エタノールまたはフェノールである。アミドを得るために、第一級アミンまたは第二級アミン、好ましくはアルキルアミン(環状の第二級アルキルアミンなど)、またはアリールアミン(アニリンなど)が使用される。アニリンのアリール基は置換されていてよい。アルコールまたはアミンのアルキル基は1個〜10個の炭素原子、好ましくは1個〜4個の炭素原子を有してよい。
【0038】
第2反応中、HClは実質的に定量的な量で形成される。当該プロセス中に生成するHCl生成物の量は実質的に生成物(および副生成物)と等モル量である。好ましくは、ガス状のHClガスは中和(例えば塩基性スクラバーシステムを用いる)によってオフガスから除去される。しかしながら、通常HClの残留量は溶媒に溶解される。溶媒を再利用する前に、残留量のHClは、例えば塩基性の水溶液で抽出して中和される。
【0039】
温度および圧力などの反応条件は高収率を得、比較的少量のエネルギーを消費するように選択される。
【0040】
本発明の好ましい実施形態において、工程(d)における反応温度は0℃〜80℃、または好ましくは20℃〜60℃である。反応は、標準圧力、陽圧または陰圧でなされてよい。
【0041】
好ましくは、ジクロロメタン溶媒は、工程(d)において第2反応の後に蒸留および/または再利用される。再生利用工程中またはその前に、HClは溶媒から除去されるべきであり、好ましくは中和によって除去されるべきである。溶媒は公知手段で精製されてよく、例えば、脱水カラム、モレキュラーシーブ、膜分離技術、液−液抽出、反応抽出、クロマトグラフィーおよび/または結晶化またはこれらの方法の組み合わせを用いて精製されてよい。
【0042】
本発明の好ましい実施形態において、4−クロロアセト酢酸エステル、4−クロロアセト酢酸アミドまたは4−クロロアセト酢酸イミドの収率は、工程(a)において提供されるケテンの合計量に基づいて少なくとも90%である。より好ましくは、収率は92%超または95%超である。好ましくは第1反応工程で得られる塩化4−クロロアセトアセテートの収率は90%以上、好ましくは95%以上または98%以上である。好ましくは、塩素の変換率は少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%または少なくとも99.5%である。