特許第6012709号(P6012709)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ロンザ・リミテッドの特許一覧

特許6012709塩化4−クロロアセトアセチル、4−クロロアセト酢酸エステル、4−クロロアセト酢酸アミドおよび4−クロロアセト酢酸イミドの製造プロセス
<>
  • 特許6012709-塩化4−クロロアセトアセチル、4−クロロアセト酢酸エステル、4−クロロアセト酢酸アミドおよび4−クロロアセト酢酸イミドの製造プロセス 図000002
  • 特許6012709-塩化4−クロロアセトアセチル、4−クロロアセト酢酸エステル、4−クロロアセト酢酸アミドおよび4−クロロアセト酢酸イミドの製造プロセス 図000003
  • 特許6012709-塩化4−クロロアセトアセチル、4−クロロアセト酢酸エステル、4−クロロアセト酢酸アミドおよび4−クロロアセト酢酸イミドの製造プロセス 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012709
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】塩化4−クロロアセトアセチル、4−クロロアセト酢酸エステル、4−クロロアセト酢酸アミドおよび4−クロロアセト酢酸イミドの製造プロセス
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/58 20060101AFI20161011BHJP
   C07C 59/21 20060101ALI20161011BHJP
   C07C 67/14 20060101ALI20161011BHJP
   C07C 69/716 20060101ALI20161011BHJP
   C07C 231/02 20060101ALI20161011BHJP
   C07C 235/80 20060101ALI20161011BHJP
   C07C 235/88 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   C07C51/58
   C07C59/21
   C07C67/14
   C07C69/716 Z
   C07C231/02
   C07C235/80
   C07C235/88
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-506841(P2014-506841)
(86)(22)【出願日】2012年4月25日
(65)【公表番号】特表2014-516937(P2014-516937A)
(43)【公表日】2014年7月17日
(86)【国際出願番号】EP2012057529
(87)【国際公開番号】WO2012146604
(87)【国際公開日】20121101
【審査請求日】2015年4月17日
(31)【優先権主張番号】11003510.2
(32)【優先日】2011年4月29日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/480,569
(32)【優先日】2011年4月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502336151
【氏名又は名称】ロンザ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100116872
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 和子
(72)【発明者】
【氏名】クレーグラフ エレン
(72)【発明者】
【氏名】カラウカン ダヴィラ ミゲル アンヘル
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−025955(JP,A)
【文献】 特開昭60−025951(JP,A)
【文献】 特開昭62−053940(JP,A)
【文献】 特開昭62−106040(JP,A)
【文献】 特公昭49−036210(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/58
C07C 59/21
C07C 69/716
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ワイプフィルム反応器にジケテンと塩素とを供給する工程、および
(b)ジケテンと塩素とを反応させて塩化4−クロロアセトアセチルを得る工程、
を含み、
工程(a)で、前記ジケテンを、有機溶媒との混合物の形態で前記ワイプフィルム反応器に供給し、
前記混合物中の前記ジケテンの濃度が15%(重量/重量)より高く、
工程(a)で、前記塩素を塩素ガスの形態で前記ワイプフィルム反応器に供給し、ここで、前記塩素を不活性ガスで希釈しない、
塩化4−クロロアセトアセチルの製造プロセスであって、
前記プロセスが連続プロセスであり、前記ジケテンが少なくとも10kg/hの速度で前記ワイプフィルム反応器に供給される、塩化4−クロロアセトアセチルの製造プロセス。
【請求項2】
前記有機溶媒がハロゲン化アルカンである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記ハロゲン化アルカンが、クロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン(クロロホルム)、テトラクロロメタン、クロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ジクロロプロパン、1−クロロ−2−フルオロエタン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、メチルクロロホルム、1−クロロブタン、2−クロロブタン、1−ブロモブタン、臭化エチル、1−ブロモ−2−クロロエタン、1−ブロモ−2−フルオロエタン、1−ヨードブタン、ブロモクロロメタン、ジブロモメタン、1,1−ジブロモメタン、ジフルオロヨードメタン、1−ブロモプロパン、ブロモクロロフルオロメタン、2−ブロモプロパン、ブロモジクロロメタン、ブロモフルオロメタン、ブロモトリクロロメタン、ジブロモジフルオロメタン、ペンタクロロメタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、フルオロヨードメタン、ヨードメタン、ジヨードフルオロメタン、1,1,2,2−テトラクロロメタン、1,1,2−トリクロロエタン、1−クロロプロパン、1,2−ジブロモプロパン、1,2,3−トリクロロプロパン、1,1,1,2−テトラクロロプロパンおよびこれらの混合物またはそれらの少なくとも1つを含む混合物から選択される、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記ジケテンが少なくとも75kg/hの速度で前記ワイプフィルム反応器に供給される、請求項1〜3のいずれか1つに記載のプロセス。
【請求項5】
反応温度が−15℃〜60℃である、請求項1〜4のいずれか1つに記載のプロセス。
【請求項6】
溶媒が回収されかつ前記プロセスに再利用される、請求項1〜5のいずれか1つに記載のプロセス。
【請求項7】
溶媒が少なくとも98重量%の純度である、請求項1〜6のいずれか1つに記載のプロセス。
【請求項8】
(c)請求項1〜7のいずれか1つに記載のプロセスで得られた塩化4−クロロアセトアセチルを第2反応器に移す工程、
(d)前記塩化4−クロロアセトアセチルをアルコールまたはアミンと反応させて、4−クロロアセト酢酸エステル、4−クロロアセト酢酸アミドまたは4−クロロアセト酢酸イミドを得る工程、
を含む、4−クロロアセト酢酸エステル、4−クロロアセト酢酸アミドまたは4−クロロアセト酢酸イミドの製造プロセス。
【請求項9】
前記アルコールがアルカノールであり、アミンがアルキルアミンまたはアリールアミンである、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記アルカノールがメタノール、エタノール、イソプロパノール、tert−ブタノールまたはフェノールである、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
工程(d)で、反応温度が0℃〜80℃である、請求項8〜10のいずれか1つに記載のプロセス。
【請求項12】
前記4−クロロアセト酢酸エステル、4−クロロアセト酢酸アミドまたは4−クロロアセト酢酸イミドの収率が、工程(a)で供給されたジケテンの全量に基づき少なくとも90%である、請求項〜11のいずれか1つに記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化4−クロロアセトアセチル、4−クロロアセト酢酸エステル、4−クロロアセト酢酸アミドおよび4−クロロアセト酢酸イミドの製造プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
塩化4−クロロアセトアセチル(4−クロロ−3−オキソブタノイルクロライド)および塩化4−クロロアセトアセチルから得られるエステルの製造方法は、当該技術分野で公知である。詳細なプロセスにおいて、塩化4−クロロアセトアセチルは塩素ガスをジケテン(4−メチリデンオキセタンー2−オン)と反応させて得られる。
【0003】
当該反応は発熱的に起こり、それゆえ冷却を必要とする。反応生成物は、比較的熱に敏感であり、不望な副生成物の形成および分解が、温度が局所的にまたは全体的に指定した範囲から外れたときに観測される。例えば、不望な反応生成物は位置異性体(塩化2−クロロアセトアセチルなど)、または過塩素化物(塩化2,4−ジクロロアセトアセチルもしくは塩化2,2,4−トリクロロアセトアセチルなどのジハロゲン化化合物またはトリハロゲン化化合物)であるかもしれない。したがって、高収率を成し遂げられる効率的な製造条件を決定するのは困難である。
【0004】
特許文献1は、ジケテンを溶媒に溶解して、カラム反応容器内でジケテンを塩素と冷却下で反応させるプロセスを示している。塩素ガスは、連続的な流れまたは逆流でカラムに供給される。しかしながら、選択性は、90%未満で成し遂げられている。
【0005】
特許文献2には、溶媒を用いないプロセスが開示され、80℃〜210℃の温度で、反応領域内でジケテンの噴霧を連続的に塩素ガスと接触させている。続いて、中間生成物をエタノールでエステル化反応している。しかしながら、全収率は80%未満であり、よって比較的低く、それはおそらく比較的高温に中間生成物がさらされることを原因とする。さらに、その反応は実験室スケールでの少量の原料化合物で行われているのみである。
【0006】
実験室スケールでジケテンおよび塩素からハロアセト酢酸を製造する反応は特許文献3および特許文献4に開示されている。特許文献5において、特許文献3のプロセスが考察されている。発明者らは、スケールアップは熱伝導に関する問題のせいで可能ではないと結論付けている。スケールを上げて効率的な反応を行うため、チューブ反応器内で不活性溶媒に溶解した塩素溶液を不活性溶媒中のジケテン溶液と反応させることが提案されている。実施例6において、酸塩化物中間体が収率98%で製造されうる。しかしながら、そのプロセスは、両方の出発化合物が比較的大量の溶媒に溶解されるので、比較的非効率である。そのため、その全反応は大量の溶媒と、結果的に大きな反応器と装置、ならびに冷却するために多くのエネルギーを必要とする。反応器の容積を増加するとき、収率は劇的に下がり、選択性は比較的低かった(特許文献5、実施例7)。したがって、溶媒を少なくし、大スケールで行ってより選択的かつ効率性を要求できるより効率的なプロセスを提供することが望まれる。
【0007】
ジケテンおよび塩素から4−クロロアセト酢酸エチルを製造するための実験室でのプロセスは、非特許文献1に開示されている。非特許文献1におけるプロセスにおいて、約24〜28重量%という比較的高濃度のジケテンを用いることが示されている。しかしながら、エステルの収率はたった約80%であり、その反応は小スケールの反応フラスコ内で行われており、スケールを上げる際の熱伝導の問題を解決する方法は全く示唆されていない。
【0008】
当該技術分野で公知のプロセスもプロセスの安全性の点で問題がある。特に、工業スケールで実施するとき、そのプロセス反応は大量の塩素とジケテンを要する。これらの物質は反応性が高く、吸入したときに有害である。反応器が損傷しているときまたはプロセスが乱れ制御不能となったとき、反応物質が環境で人を害し、および爆発する。このように、工業的なスケールに大きくすることは、仮にするとしても、厳重な安全への注意の下可能であるだけであるだろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第113,824号公報
【特許文献2】米国特許4,468,356号明細書
【特許文献3】米国特許3,950,412号明細書
【特許文献4】米国特許3,701,803号明細書
【特許文献5】米国特許4,473,508号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Panら、Shandong Huagong、2007年、第36巻、第10号、p.4−6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明にある問題は、上記問題を解決する塩化4−クロロアセトアセチルの製造プロセスおよびそのプロセスで得られる反応生成物を提供することである。当該プロセスは、高収率かつ高選択的に反応生成物を与えるだろう。当該プロセスは大きな工業スケールでの使用でき、連続プロセスとして利用できる。特に反応効率は高く、溶媒使用量は少ないだろう。
【0012】
本発明にある別の問題は、比較的安全であり、かつ大量の塩素およびジケテンを取り扱うことに関する潜在的な危険性を小さくする工業スケールのプロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
驚いたことに、本発明にある問題は、請求項に係るプロセスにより解決される。さらに本発明の実施形態は以下の記載を通して開示される。
【0014】
本発明の課題は、
(a)薄膜反応器にジケテンと塩素を供給する工程、および
(b)ジケテンと塩素を反応させて塩化4−クロロアセトアセチルを得る工程、
を含む、塩化4−クロロアセトアセチルの製造プロセス。
【0015】
本発明において、ジケテンと塩素との高効率な反応が、薄膜反応器内で行われうることが見いだされた。薄膜反応器内へジケテンと塩素とを供給した後、そのジケテンと塩素はその薄膜反応器内で反応する。塩化4−クロロアセトアセチルは反応生成物として形成され、その反応器から除去されうる。
【0016】
本発明の好ましい実施形態において、工程(a)で、ジケテンは有機溶媒との混合物の形態で反応器に供給される。当該混合物は、好ましくは、有機溶媒中のジケテンの溶液である。
【0017】
原則として、ジケテンが容易に溶解し、ジケテンと反応しないまたはジケテンの反応を阻害しない任意の有機溶媒が用いられてよい。したがって、溶媒は不活性溶媒であるべきである。この点で、アルコールは、アセトアセテートの形態になり薄膜反応器中でエステル化反応において反応をするので、用いることができない。好ましい不活性溶媒は、ハロゲン化炭化水素、好ましくはハロゲン化アルカンであり、例えば、クロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン(クロロホルム)、テトラクロロメタン、クロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ジクロロプロパン、1−クロロ−2−フルオロエタン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、メチルクロロホルム、1−クロロブタン、2−クロロブタン、1−ブロモブタン、臭化エチル、1−ブロモ−2−クロロエタン、1−ブロモ−2−フルオロエタン、1−ヨードブタン、ブロモクロロメタン、ジブロモメタン、1,1−ジブロモメタン、ジフルオロヨードメタン、1−ブロモプロパン、ブロモクロロフルオロメタン、2−ブロモプロパン、ブロモジクロロメタン、ブロモフルオロメタン、ブロモトリクロロメタン、ジブロモジフルオロメタン、ペンタクロロメタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、フルオロヨードメタン、ヨードメタン、ジヨードフルオロメタン、1,1,2,2−テトラクロロメタン、1,1,2−トリクロロエタン、1−クロロプロパン、1,2−ジブロモプロパン、1,2,3−トリクロロプロパン、1,1,1,2−テトラクロロプロパン、またはこれらの混合物またはそれらの少なくとも1つを含む混合物である。
【0018】
本発明の極めて好ましい実施形態において、溶媒はジクロロメタンである。ジクロロメタンは、ジケテンと塩素との反応の効率的な不活性溶媒であることが当該技術分野で公知である。
【0019】
本発明において、ジケテンが有機溶媒中、比較的高濃度で与えられるときでさえ、反応は高効率で行われうる、ということがわかった。本発明の好ましい実施形態において、混合物中のジケテンの濃度は15%(重量/重量)超である。より好ましくは、ジケテンの濃度は20%超、または25%(重量/重量)超である。ジケテンの濃度は、最大80%(重量/重量)または50%(重量/重量)であり得る。好ましい実施形態において、ジケテンの濃度は、15〜80%、15〜60%または20〜50%(重量/重量)、より好ましくは、25および50%(重量/重量)である。ジケテンの濃度は、21%〜80%、好ましくは21〜60%または21〜50%(重量/重量)であり得る。ジケテンの濃度が比較的高いことは、全溶媒の使用量が少なくなるので有利である。さらに、薄型フロー反応器(thin film reactor)中での反応混合物の体積は比較的低く維持される。反応物質の接触面積は高く、良好な時間空間収率が得られうる。なおさらに、体積が小さい場合および従って膜の厚さも薄い場合、熱の除去はより効率的である。よって、当該プロセスはエネルギー、費用について効率的であり、特に工業スケールで実施されるとき効率的である。
【0020】
本発明において、工程(a)において、塩素が塩素ガスの形態で反応器に供給されるのが好ましい。塩素ガスを用いるとき、溶媒の全使用量はさらに減少される。従って、有機溶媒、好ましくはジクロロメタンに溶解されるジケテンの濃度を比較的高くし、塩素ガスを用いるとき、上記のようにジケテンの濃度が高いので、反応は高効率的である。薄膜反応器の反応容積は比較的低く、時間空間収率は増加するが、熱伝導は促進される。さらに、ガス形態での塩素の使用は事前溶解工程を回避する。塩素は、大スケールの工業プロセスにおいて侵略的であり、取扱いを複雑にするので、ガス形態での塩素の使用は有利である。
【0021】
本発明において、塩素ガスを不活性ガスで希釈する必要はない。従って、本発明の好ましい実施形態において、不活性ガスは薄膜反応器に導入されない、および/または塩素が薄膜反応器に導入される前または導入されている間に不活性ガスと混合されない。好ましくは、ジケテン、塩素および有機溶媒だけが薄膜反応器に導入される。従って、物質の最終的な使用量、費用および得エネルギーを低く維持できる。
【0022】
本発明の反応工程(a)は薄膜反応器で行われる。そのような薄膜反応器内で、反応は少なくとも1つの反応器の表面で起こる。通常、薄膜反応器は、反応表面の連続的な再生を可能とする。その薄膜反応器、は表面を回転することにより、反応表面で形成される。従って、当該反応器は、反応が空間液体容積内で行われるチューブ反応器のような反応器とは異なる。当該反応器は、液体の反応物質を反応表面に分配する手段を含む。さらに、反応器は冷却手段を含むべきである。冷却手段は、好ましくは熱交換器である。本発明の方法において、発熱反応によって生じる熱が反応器から連続的に除去されるのが好ましい。従って、反応温度は、局所的かつ全体的に、安定かつ比較的低く維持されうる。膜の厚さは冷却装置および熱放散汚必要性に適合される。典型的には、膜の平均厚さは0.05mm〜15mm、より具体的には0.1〜5mmであってよい。
【0023】
本発明の極めて好ましい実施形態において、反応器はワイプフィルム(wiped film)反応器である。ワイプフィルム反応器は、例えば、ブレード、ワイパーまたはロールのワイプ手段を含む。そのようなロールまたはワイパーは、典型的には、遠心力によって反応器壁に対してプレスされる。ワイプ手段は、膜と接触して、通常回転によって移動する。ワイプ手段を回転することにより、薄膜、膜再生および徹底的かつ連続的な混合が成し遂げられる。ワイプ手段は縦または横に配置されてよい。ワイプ手段は、通常、PTFE(好ましくは、DuPontから商標テフロン(登録商標)で入手可能)、金属合金(好ましくは、ニッケル合金(好ましくはHaynes社から商標ハステロイ(登録商標)で入手可能)、ステンレス鋼、またはグラファイト)など、不活性な材料から生産される。典型的には、ワイパー元素の数は2〜1000、より好ましくは10〜1000、または50〜500の間である。例えば、am工業スケールの反応器はそれぞれ40のロールを備えた4つのカラムを含んでよい。ワイパーは平板または巻回型であり、好ましくはらせん状の巻回型であってよい。
【0024】
ワイプフィルム反応器は、当該技術分野において、熱的に不安定な化合物の蒸留にしばしば用いられる。しかしながら、化学反応にワイプフィルム反応器の使用は、当該技術分野でも開示されている。重合反応においての使用および反応器の調整は、Steppanらに開示されている(「Wiped film reactor model for nylon 6,6 polymerisation(ナイロン6,6重合用のワイプフィルム反応器)」、Ind.Eng.Chem.Res.第29巻、第2012−2020頁、1990年)。そこに開示された基本的な考え方は、本発明プロセスにおいてワイプフィルム反応器を調整して最適な収率を得るのにも有用である。反応条件はワイパーの数および種類、液体の蒸留装置、温度、反応器容積、圧力、ローター速度、所望の膜厚などのパラメーターを考える具体的な反応器モデルを考慮して選択および調整される。
【0025】
ワイプフィルム反応器の面積は、好ましくは0.5〜30mであり、好ましくは1〜15mである。面積は、少なくとも0.5、少なくとも1または少なくとも2mであるのが好ましい。反応器の速度は10〜2000rpm、好ましくは20〜1000rpmであってよい。
【0026】
本発明の好ましい実施形態において、プロセスは連続プロセスである。好ましくは、ジケテンは少なくとも10kg/hの速度で反応器に供給される。より好ましくは、ジケテンは少なくとも20kg/h、少なくとも30kg/時間または少なくとも75L/時間の速度で反応器に供給される。ジケテンは10〜500kg/h、または75〜250kg/hの速度で反応器に供給されてよい。薄膜反応器は、通常、連続プロセスに調整されている。反応物質は一定速度で反応器に供給され、反応生成物は反応器の底から一定速度で取り出される。本発明の反応は比較的大スケールの場合で効率的であり、工業生産に利用できる、ということが見出された。好ましくは、塩素ガスは、少なくとも10kg/時間、20kg/hまたは50kg/hの速度で反応器に供給される。塩素は250〜500kg/h、または50〜250kg/hの速度で反応器に供給されてよい。スケールアップのプロセスは、具体的な反応器内で少量の溶媒および高反応効率かつ高熱伝導効率であるので、さらに高収率かつ高選択的に生成物を供給しうる。反応をスケールアップすることは比較的少ない量の溶媒を用いて効率的であり、しかも高収率で得られることは予測されていなかったので、このことは驚くべきことである。好ましくは薄膜反応器の容積は少なくとも50L、少なくとも100Lまたは少なくとも500Lである。
【0027】
独創的なスケールアップのプロセスにおいて、出発化合物の回転率と反応器の容積は比較的高い。しかしながら、反応機内の反応物質はほとんど薄膜の形態で存在し、従って薄膜反応器内で反応物質の効果的な維持は従来のバッチまたはパイプ反応器と比較してかなり低い。反応性が高く有害な塩素およびジケテンの潜在的な危険性を共慮して、本発明のプロセスは一般的に安定である。例えば、反応器が損傷を受けたときまたは反応は制御できなくなったとき、比較的少量の塩素およびジケテンは制御できない条件で反応し、または、反応器から漏出しうる。潜在的な重要性は、塩素およびジケテンを高く維持する空間を有するバッチ容積を含む従来の反応器と比べてあまり厳格ではない。このようにして、本発明のプロセスはより安全なプロセスを提供する課題を解決する。
【0028】
さらに、本発明の反応は、比較的低温で大スケールにおいて高効率で実施できることが見出された。ジケテンおよび塩化4−クロロアセトアセチルは、高温で、特に反応器内での滞留時間が長いとき、収率が減少するように、温度に敏感である。本発明の好ましい実施形態において、反応温度は−15℃〜60℃である。より好ましくは、第1反応の反応温度は−15℃〜45℃または0℃〜30℃に維持される。さらに好ましくは、第1反応の反応温度は5℃〜45℃または5℃〜30℃、または5℃〜20℃に維持される。好ましくは反応温度は60℃未満、40℃未満、30℃未満または20℃未満である。反応温度は熱交換器のような冷却手段を用いて反応器を冷却して調整される。好ましくは、熱交換器は反応混合物に接していない側の表面上に直接の熱流体を含む。熱交換は大スケールな場合であっても、薄膜反応器内で良好な効率で行われる。薄膜反応器中でのジケテンの平均滞留時間は、分解および副反応を避けるため比較的短く調整されるべきである。平均滞留時間は2秒〜500秒、または5秒〜250秒であってよい。
【0029】
薄膜反応器内での反応は標準圧力で実施されうるが、過圧または低大気圧もしくは低真空でも実施されうる。従って、全ての反応は、穏和な条件で実施されうる。
【0030】
本発明において、少量の溶媒および反応器内の大きな接触面積を考慮して、低温でさえ、薄膜反応器内での反応物質の滞留時間は比較的短く設定され、高収率で得られるということが見出された。比較的低温および大スケールのせいで、滞留時間は原則として増加するので、このことは予測されなかった。しかしながら、薄膜形成を伴う全工程、好ましくはワイプ工程により支持され滞留時間を減少させる。
【0031】
上述されるように、本発明のプロセスにおいて用いられる溶媒の総量は比較的低く保たれうる。溶媒の消費量は、溶媒を再利用したとき、さらに減少する。より好ましくは溶媒は、プロセス中で再び用いられる。より好ましくは溶媒はプロセス中で回収され、再び用いられる。再生利用は、エステル化またはアミド化反応後の蒸留、液−液抽出、反応性抽出、膜分離技術、クロマトグラフィーまたは溶媒の結晶化またはこれらの方法の組み合わせなどの任意の適当な方法を含んでよい。後に高純度の溶媒はプロセスに導入され、好ましくは当該高純度の溶媒は反応物質の流れの中でジケテンと混合した後に導入される。
【0032】
本発明の好ましい実施形態において、溶媒は少なくとも98重量%の純度のジクロロメタンである。好ましくは、塩化物、水および/またはアルコールの含有量は低い。
【0033】
本発明の別の課題は4−クロロアセト酢酸エステル、4−クロロアセト酢酸アミドまたは4−クロロアセト酢酸イミドの製造方法であり、
(c)本発明のプロセスにおいて得られる塩化4−クロロアセトアセチルを第2反応器に移す工程、および
(d)塩化4−クロロアセトアセチルをアルコールまたはアミンと反応させて、4−クロロアセト酢酸エステル、4−クロロアセト酢酸アミドまたは4−クロロアセト酢酸イミドを得る工程
を含む。
【0034】
従って、ジケテンおよび塩素の最初の反応の反応生成物は第2反応器内でさらに反応させられうる。好ましくは、第1および第2の反応は1つの連続法の部分である。そのような連続法において、第1反応で構成された塩化4−クロロアセトアセチルは第1反応器(薄膜反応器)から取り出され、第2反応器に直接移される。
【0035】
第2反応器中、エステル化反応、アミド化反応またはイミド化反応が実施される。反応器は、これらの反応に適当である任意の種類の反応器であってよい。例えば、反応器は、ベッセル、チューブまたはカラムであってよくまたはそれらを含んでよい。第1および第2の反応器は、接続手段(チューブ、パイプまたはホースなど)によって接続される。従って、全プロセスは中間体を精製することなくまたは塩化4−クロロアセトアセチルを単離することなく、効率的な手段において実施されうる。しかしながら、当該反応は、塩化4−クロロアセトアセチルの中間体の単離後に実施することもできる。
【0036】
エステル化反応、アミド化反応またはイミド化反応は、酸塩化物とアルコールまたはアミンとの典型的な反応である。
【0037】
好ましい実施形態において、アルコールはアルキルアルコール、すなわちアルカノール、またはアリールアルコール(フェノールなど)である。例えば、アルコールは、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノールおよびフェノールからなる群から選択されてよい。好ましい実施形態において、アルコールはメタノール、エタノールまたはフェノールである。アミドを得るために、第一級アミンまたは第二級アミン、好ましくはアルキルアミン(環状の第二級アルキルアミンなど)、またはアリールアミン(アニリンなど)が使用される。アニリンのアリール基は置換されていてよい。アルコールまたはアミンのアルキル基は1個〜10個の炭素原子、好ましくは1個〜4個の炭素原子を有してよい。
【0038】
第2反応中、HClは実質的に定量的な量で形成される。当該プロセス中に生成するHCl生成物の量は実質的に生成物(および副生成物)と等モル量である。好ましくは、ガス状のHClガスは中和(例えば塩基性スクラバーシステムを用いる)によってオフガスから除去される。しかしながら、通常HClの残留量は溶媒に溶解される。溶媒を再利用する前に、残留量のHClは、例えば塩基性の水溶液で抽出して中和される。
【0039】
温度および圧力などの反応条件は高収率を得、比較的少量のエネルギーを消費するように選択される。
【0040】
本発明の好ましい実施形態において、工程(d)における反応温度は0℃〜80℃、または好ましくは20℃〜60℃である。反応は、標準圧力、陽圧または陰圧でなされてよい。
【0041】
好ましくは、ジクロロメタン溶媒は、工程(d)において第2反応の後に蒸留および/または再利用される。再生利用工程中またはその前に、HClは溶媒から除去されるべきであり、好ましくは中和によって除去されるべきである。溶媒は公知手段で精製されてよく、例えば、脱水カラム、モレキュラーシーブ、膜分離技術、液−液抽出、反応抽出、クロマトグラフィーおよび/または結晶化またはこれらの方法の組み合わせを用いて精製されてよい。
【0042】
本発明の好ましい実施形態において、4−クロロアセト酢酸エステル、4−クロロアセト酢酸アミドまたは4−クロロアセト酢酸イミドの収率は、工程(a)において提供されるケテンの合計量に基づいて少なくとも90%である。より好ましくは、収率は92%超または95%超である。好ましくは第1反応工程で得られる塩化4−クロロアセトアセテートの収率は90%以上、好ましくは95%以上または98%以上である。好ましくは、塩素の変換率は少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%または少なくとも99.5%である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本発明プロセスにおいて利用できるワイプフィルム反応器の概略かつ例示の図である。
図2】薄膜塩素化反応器の内のワイパーの可能なレイアウトの概略かつ例示の上面図である。
図3】ジケテンと塩素ガスから4−クロロアセトアセテートの製造に用いる本発明の連続プロセスにおける配置の概略かつ例示の設計図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の第1反応において使用するためのワイプフィルム反応器は図1に示される。当該反応器はジケテンおよび塩素を供給する手段(1)および(2)を含む。当該反応器は熱交換手段に熱交換流体を供給するための手段(3)および(4)を含む。生成物は手段(9)から溶出され、蒸気および/またはガスはバルブ(10)を含んでよい手段(5)から排出され得る。反応器は、周囲で円運動が起こるローター軸(6)を含む。反応混合物は、反応器の外側部分を下に流れる形式で反応器に供給され、混合および分散される。反応器は、薄膜が形成される部分上に液体(7)を分散する手段およびワイパー(8)を含む。らせん状の巻回型ワイパープレートを伴う薄膜反応器の上面図を図2に示す。
【0045】
本発明のプロセスの典型的な配置は図3に示される。ジケテンが有機溶媒に溶解され、4−クロロアセト酢酸エステル、4−クロロアセト酢酸アミドまたは4−クロロアセト酢酸イミドの製造用の第2反応器ユニットに移される実施例の経路と、ジケテンおよび塩素ガスの変換を行う薄膜反応器を伴う実施例の経路が示される。塩素ガスおよびジケテン溶液は、ジケテン溶液用の注入口(13)および塩素用の注入口(15)から薄膜反応器(11)に供給される。塩化4−クロロアセトアセチルの中間体は反応器(11)から溶出され、注入口(14)を経由して、反応流に供給されるアルコールまたはアミン試薬と混合される。反応流は反応器(12)に入る。粗生成物(16)を得るために粗反応生成物は取り出され、蒸留手段(17)によって精製され、排出口(18)を経由して単離される。溶媒は、再生利用手段(18)を経由して回収されてよく、接続部(19)を経由して塩素化反応に戻されよい。反応器(11)、(12)および手段(16)、(17)は、チューブまたはホースなどの接続手段によって接続される。注入口および排出口の寸法、接続部および位置は図式的に示されるだけで、限定して理解されない。
【0046】
本発明のプロセスは、本発明の根底にある問題を解決する。本発明は、ジケテンを塩素と反応させ、塩化4−クロロアセトアセチルおよび当該反応で得られる反応生成物を得るのに効率的なプロセスを提供する。当該反応は高選択性かつ高収率で起こる。少量の溶媒が用いられ、プロセスをより効率的にする。当該プロセスは低温で効率的である。スケールアップは、高収率のまま可能である。全体として、反応器中の反応物質は、第1反応器中に良好な熱除去器を併用して、短い滞留時間、高い処理能力および高い時間−空間収率である。
【0047】
さらに、局所的な過熱が起こらないように、均一な熱除去が薄膜反応機中で可能である。局所的な過熱は、反応物質または生成物の部分的な分解をもたらしうる。さらに、本発明の塩素化反応は、高選択性であり、望まない副生成物である過塩素化生成物の量はほんのわずかである。プロセスをより効率的にし、かつ取り扱いやすくする溶媒中への塩素の溶解は必須ではない。溶媒は回収され、上記プロセスに再利用されうる。
【実施例】
【0048】
実施例1:パイロットスケールでの4−CAAMeの製造
ジケテンの塩素化反応を、1.5mの面積を有するワイプフィルム(wiped−film)反応器(塩素化反応器)中、パイロットスケールで連続的に行なう。当該反応器は20個のワイパーを備える。そのワイパーは、反応器中に5つの列で整列している。各列は、互いから90°別れた4個のワイパーを備えている。一列のワイパーを、隣の列に対応するワイパーの位置と25°でジグザグに配列している。ワイパーを、らせん状の巻回型テフロン(登録商標)プレートとして組み立てている。図2にワイパーが反応機内部にどのように備え付けられているか図式的に示す。反応器のローター速度を80rpm〜500rpmの間で変更した。
【0049】
反応物質の塩素ガス(Cl)とジケテンを、反応器の上部に導入する。この反応において溶媒はジクロロメタン(MeCl)である。ジケテンを反応器に供給する前に、MeClで希釈する。ジケテンとMeClとの混合物をスタティックミキサーを用いて、インラインに調製する。Clとジケテンとの反応熱を除去するため、反応器を、近接した冷却システムを用いて集中的に冷却する。Clとジケテンとの反応中、中間生成物の塩化4−クロロ−3−オキソブタノイル(4−CAAC)を製造する。
【0050】
続けて、塩素化反応器に残る反応混合物にメタノール(MeOH)を添加して、4−CAAMeを製造する。MeOHを、塩素化反応器をエステル化反応器と接続するパイプラインに直接添加する。エステル化反応中、1等量のHClが形成する。反応ガス(主にHCl)をNaOH水溶液で処理されるスクラバーシステムに送る。エステル化反応器の後、液体混合物を蒸留精製段階に送る。MeClを、付随する精製後、反応に再循環させる。
【0051】
4−CAAMeの典型的な製造工程において、27〜30L/hのジケテンを、45L/hのMeClおよび25kg/hのClガスと一緒に、連続的に塩素化反応器に供給する。反応器のローターの速度を、200〜350rpmの間で制御する。貯蔵タンク内でジケテンの分解を回避するため、ジケテンのタンク内での温度を9〜14℃に維持する。Clを、普通、ジケテンに対して少過剰(1〜8%)導入する。
【0052】
塩素化反応器に残る混合物の温度は12℃〜15℃である。反応器内の圧力を、約−0.1〜−8mbargの低真空下で維持する。混合物のエステル化を、22〜23L/hのMeOHを添加して実施する。エステル化反応中、混合物の温度は、30〜44℃に昇温する。この物質を、セラミックがランダム充填されたカラムに流し、エステル化が完了する。エステル化反応は1等量のHClを生成する。HClを、NaOH水溶液で処理されたスクラバーシステムに導入する。エステル化カラムの液相は、MeClのフラッシュ蒸留中、サイフォンを通ってオーバーフローする。フラッシュ蒸留で得たMeClを集め、このMeClが反応に循環するように設計された再生プロセスに送る。
【0053】
塩素化反応におけるClの変換は、100%であると推測される。4−CAACの選択性は95%であり、2,4−CAACの選択性は2%であり、他のCl化合物の選択性は3%であると推測される。
【0054】
実施例2:パイロットスケールでの4−CAAEtの製造
パイロットスケールでの4−CAAEtの製造を、実施例1に記載される4−CAAMeの製造と同じ設定を用いて行う。
【0055】
反応物質の塩素ガス(Cl)とジケテンを、反応器の上部に導入する。この反応において溶媒はジクロロメタン(MeCl)である。ジケテンを反応器に供給する前に、MeClで希釈する。ジケテンとMeClとの混合物をスタティックミキサーを用いて、インラインに調製する。Clとジケテンとの反応熱を除去するため、反応器を、近接した冷却システムを用いて集中的に冷却する。Clとジケテンとの反応中、中間生成物の塩化4−クロロ−3−オキソブタノイルする(4−CAAC)が形成する。
【0056】
4−CAAEtを、塩素化反応器に残る反応混合物にエタノール(EtOH)を添加して製造する。EtOHを、エステル化反応器に流れるパイプラインに直接添加する。エステル化反応中、4−CAAEtとHCIが形成する。反応ガス(主にHCl)を、NaOH水溶液で処理されるスクラバーシステムに送る。エステル化反応器の後、液体混合物は蒸留精製段階に送る。MeClを、付随する精製後、反応に再循環される。
【0057】
4−CAAEtの典型的な製造工程において、39L/hのジケテンを、70L/hのMeClおよび31kg/hのClガスと一緒に、連続的に塩素化反応器に供給する。反応器のローターの速度を200〜350rpmの間で維持する。貯蔵タンク内でジケテンの分解を回避するため、タンク内の温度を9〜14℃に維持する。Clを、普通、ジケテンに対して少過剰(1〜8%)導入する。
【0058】
塩素化反応器に残る混合物の温度は、17℃〜19℃である。反応器内の圧力を、約−0.1〜−8mbargの低真空下で維持する。混合物のエステル化を、27L/hのEtOHを添加して実施する。エステル化反応中、混合物の温度を、40〜53℃に昇温する。この物質を、セラミックがランダム充填したカラムに流し、エステル化反応が完了する。エステル化反応は1等量のHClを生成する。HClを、NaOH水溶液で処理したスクラバーシステムに導入する。エステル化カラムの液相は、MeClのフラッシュ蒸留中、サイフォンを通ってあふれ出る。
【0059】
塩素化反応におけるClの変換は、100%であると推測される。4−CAACの選択性は95%であり、2,4−CAACの選択性は2%であり、他のCl化合物の選択性は3%であると推測される。
【0060】
実施例3:工業スケールでの4−CAAEtの製造
ジケテンの塩素化反応を、4mの面積を有するワイプフィルム反応器(塩素化反応器)中、工業スケールで連続的に行う。当該反応器はワイパー要素として160個のロールを有する。ワイパー要素は、円筒状のグラファイトロールとして組み立てられている。遠心力により、当該ロールを反応器の壁に押し付ける。当該ロールは、反応器の外周にそって4つの垂直柱に整列している。各カラムは40個のロールを有する。反応器のローター速度を40rpm〜200rpmの間で変更する。
【0061】
反応物質の塩素ガス(Cl)とジケテンを、反応器の上部に導入する。この反応において溶媒はジクロロメタン(MeCl)である。ジケテンを反応器に供給する前に、MeClで希釈する。ジケテンとMeClの混合物をスタティックミキサーを用いて、インラインに調製する。Clとジケテンとの反応熱を除去するため、反応器を、近接した冷却システムを用いて集中的に冷却する。Clとジケテンとの反応中、中間生成物の塩化4−クロロ−3−オキソブタノイル(4−CAAC)を製造する。
【0062】
4−CAAEtを、塩素化反応器に残る反応混合物にエタノール(EtOH)を添加して合成する。EtOHを、塩素化反応器をエステル化反応器と接続するパイプラインに直接添加する。エステル化反応中、4−CAAEtとHCIとが形成する。反応ガス(主にHCl)を、NaOH水溶液で処理されるスクラバーシステムに送る。エステル化反応器の後、液体混合物を蒸留精製段階に送る。MeClを、付随する精製後、反応に再循環させる。
【0063】
4−CAAEtの典型的な製造工程において、75〜50kg/hのジケテンを、150〜600kg/hのMeClおよび62〜135kg/hのClガスと一緒に、連続的に塩素化反応器に供給する。反応器のローターの速度を、70〜120rpmの間で制御する。貯蔵タンク内でジケテンの分解を回避するため、ジケテンのタンク内での温度を9〜14℃に維持する。Clを、普通、ジケテンに対して少過剰(1〜6%)導入する。
【0064】
塩素化反応器に残る混合物の温度は−5℃〜30℃である。反応器内の圧力を、約−0.1〜−10mbargの低真空下で維持する。混合物のエステル化を、40〜80kg/hのEtOHを添加して実施する。エステル化反応中、混合物の温度を、20〜55℃に昇温する。この物質を、セラミックがランダム充填されたカラムに流し、エステル化を完了する。この反応は、1等量のHClを副生成物として生成する。HClを、NaOHで処理されたスクラバーシステムに導入する。エステル化カラムの液相は、MeClのフラッシュ蒸留中、サイフォンを通ってあふれ出る。
【0065】
塩素化反応におけるClの変換は、100%であると推測される。4−CAACの選択性は95%であり、2,4−CAACの選択性は2%であり、他のCl化合物の選択性は3%であると推測される。
【0066】
当該実施例は、本発明のプロセスがスケールアップして工業スケールで、重大な問題なく実施され、高収率、高選択性を維持することを示す。

図1
図2
図3