【文献】
J Cizek, M Vlcek et al.,Digital setup for Doppler broadening spectroscopy,Journal ofPhysics: Conference Series,2011年,Vol.262,pp.012014-1〜012014-4
【文献】
W.-H.Wong et al.,A scintillation detector signal processing technique with active pileup prevention for extending scintillation count rates,IEEE TRANSACTIONS ON NUCLEAR SCIENCE,1998年,Vol.45 No.3,pp.838-842
【文献】
Muhammad W Raad,A novel approach for pileup detection in gamma-ray spectroscopy using deconvolution,Measurement Science and Technology,2008年,Vol.19,pp.065601-1〜065601-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
放射、振動または他の種類のエネルギーの高精度の検出および測定が、多様な産業において用いられている(例えば、国土安全保障、科学計測、医療画像、材料分析、気象学、情報通信技術(ICT)および選鉱産業)。上記および他の産業においては、このような検出および測定を用いて、材料、構造、製品、情報、信号または他の試料の分析を行う。伝送に基づいた画像化、分光分析または他のモダリティを用いて、このような分析を行うことができる。
【0003】
鉱石および石油の探査において、ボーリング検層技術によりガンマ線および中性子を用いて、石および鉱石鉱床の地下組成を決定する。岩石層の多孔性および密度についてのデータを原子核ボーリング検層技術から決定することができ、その後、これを用いて、地質学的貯留槽およびその内容物(例えば、油、ガスまたは水)の存在の検出を支援する。
【0004】
SONAR(音響航法と測距)は、航行および水域内の物体発見において一般的に用いられている。SODARまたは音響検出および測距を用いて、音波散乱を大気乱流によって測定することができ、また、例えば、地上の多様な高さにおける風速と、大気圏下層の熱力学的構造とを測定することができる。
【0005】
超音波は、医療画像用途または他の用途に用いることができる(例えば、胎児の画像の形成、特定の種類の物体の厚さの欠陥した位置発見または測定、または(例えば製造環境における)物体のリアルタイム発見)。
【0006】
分光法は、材料の分析のために一般的に用いられる。材料についての知識は、試料中の要素からの放射または試料中の要素による吸収の分析により、得ることができる。構成要素からの一定の形態の入射放射線または自然放出に起因して、放射を誘導放出とすることができる。
【0007】
2つの標準的な誘導放出分光技術として、蛍光X線(XRF)および荷電粒子励起X線分析(PIXE)がある。これらの技術は、ICTおよび鉱物探査および処理産業における材料分析において用いらている。これらの技術においては、高エネルギー光子または粒子による誘導によって材料を活性化した後に当該材料から放射された二次(または蛍光)X線の検出および分析を行うことにより、材料についての知識を得る。
【0008】
例えば、ガンマ線分光法は、1つの分光法であり、放射された電磁放射はガンマ線の形態をとる。ガンマ線分光法においては、ガンマ線の検出は、シンチレーション結晶(例えば、タリウム活性ヨウ化ナトリウム、Nal(TI))と共に用いられることが多いものの、複数の他の種類の検出器も利用可能である。Nal(TI)結晶は、入射ガンマ線放射に従って、紫外線光子を生成する。その後、これらの光子は、光電子増倍管(PMT)によって受信される。光電子増倍管(PMT)は、対応する電気信号またはパルスを生成する。その結果、光子と検出器との間の相互作用に起因してパルス状信号が発生する。このパルス状信号の形状は、入射ガンマ線放射、結晶検出およびPMTによって決定される。これらのパルス状信号の基本的形態を、検出器のインパルス応答と呼ぶ。
【0009】
光電子増倍管からの出力は電気信号であり、シンチレーション結晶に到着する別個のガンマ線に応答して発生した所定の形態の入力信号の合計を示す。検出器出力(詳細にはコンポーネント信号の振幅)を経時的に分析することにより、分析対象材料の化学組成についての情報を推測することが可能になる。
【0010】
ガンマ線分光法による分析を行うためには、入射ガンマ線に応答して発生した個々のパルス状信号の特性化が必要となる。特定の信号パラメータを挙げると、(到着時期、最大時間などに関係無く)信号振幅、数、および発生時期または時間的位置がある。2本のガンマ線の到着時間の差が検出器の応答時間よりも大きい場合、検出器出力の分析は比較的直接的なものになる。しかし、多くの用途においては、高フラックスガンマ線を回避することができないかまたは所望される場合があるため、分光分析を合理的な期間にわたって行うことができる。ガンマ線到着間の時間が低減すると、その結果得られる信号全ての特性化が困難になる。
【0011】
詳細には、パルス蓄積として知られる現象に起因して分析に影響が出る[例えば、G.F. Knoll, Radiation Detection and Measurement, 3rd edition, Chapter 17, pp. 632−634, 658 and 659, John Wiley and Sons, New York 2000]を参照)。同文献によれば、おおむね同時に到着する複数のガンマ線の増減に起因して発生した信号が合計されて単一の信号としてカウントされてしまう場合がある。このような結合信号の大きさは、個々のコンポーネントよりも大きいため、後続分析における誤差の原因となる。
【0012】
入射ガンマ線のエネルギーは、検出器によって生成された対応するパルス状信号の振幅によって表されることが多い。検出器信号内に特定のガンマ線エネルギーが存在している場合、ガンマ線の発生元である材料中に特定の要素が存在していることを示す。そのため、重畳した複数のイベントからの単一のシンチレーションイベントに起因して大きな振幅信号を区別できなかった場合、その後の分光分析の精度に大きく影響が出る場合がある。
【0013】
蓄積による影響について、光電子増倍管検出器およびガンマ線検出器の文脈において上記したものの、上記および他の形態の放射のための他の種類の検出器にも等しく当てはまる(例えば、x線検出器(例えば、リチウム泳動シリコン結晶検出器および表面障壁検出器))。さらに、当業者であれば理解するように、「検出器の出力」という言い回しは、基本的な検出器コンポーネント(例えば、リチウム泳動シリコンまたはゲルマニウム結晶または剥き出しの表面障壁検出器)へ接続された前置振幅器の出力を含み得る。
【0014】
いくつかの既存の技術の場合、パルス蓄積に起因する分光分析の崩壊の回避を目的とする。特定のパルス整形電子機器は、検出器の応答時間を低減することで知られており、これにより、最終スペクトルの蓄積率が低減する[A. Pullia, A. Geraci and G. Ripamonti, Quasioptimum [gamma] and X−Ray Spectroscopy Based on Real−Time Digital Techniques, Nucl. Inst, and Meth. A 439 (2000) 378−384]およびX−Ray Spectroscopy Based on Real−Time Digital Techniques, Nucl. Inst, and Meth. A 439 (2000) 378−384]。しかし、この技術の場合、検出器応答時間によって制限される。別のアプローチとして、「パルス蓄積拒否」がある。この「パルス蓄積拒否」においては、パルス蓄積を含むことが疑われる信号を廃棄する。パルス蓄積を含まない信号のみが、分光分析において用いられる。しかし、検出器上への放射入射率の増加と共に、パルス蓄積の発生可能性も高くなり、データ廃棄量も増加する。そのため、既存のパルス蓄積拒否の場合、有用性が限定される。なぜならば、データのパーセンテージが増加するとデータを拒否する必要があるため、入射放射線フラックスの上限にすぐに到達してしまい、分析に必要な時間が低減するからである。
【0015】
さらに、利用可能なデータが受信されずかつサンプルの放射は継続する「不感時間」が増加した場合、分析されているサンプルまたは材料が受ける放射量またはフルエンスが増加し、厳密に必要となる。分析時においてサンプルまたは材料中に放射損傷が発生した場合、深刻な結果が生じ得る。さらに、いくつかの状況(例えば、高エネルギー素粒子物理学実験)において、検出器そのものに実質的な放射損傷が派生し得、不感時間が長くなると、当該検出器の寿命において得られる有用なデータが低減する。
【0016】
パルス蓄積はまた、地震データ収集においても問題となる。Naoki Saito (in Superresolution of Noisy Band−Limited Data by Data Adaptive Regularization and its Application to Seismic Trace Inversion, CH2847−2/90/0000−123, 1990)において、地震トレースにおける近密なスパイクを解消するための技術についての教示がある。開示の技術においては、データ適合調整を用いてノイズ存在下における欠損周波数情報を回復させ、反復を繰り返すことにより分解能を向上させる。しかし、このアプローチの場合、計算が多く必要になる。
【0017】
検出器出力データ中のパルスを探索するための方法および装置を提供することが望まれる。これらの方法および装置により、従来技術の1つ以上の問題が軽減されるかまたは少なくとも有用な代替物が提供される。
【発明の概要】
【0018】
よって、本発明の第1の態様によれば、検出器出力データ中のパルスを探索する方法が提供される。この方法は、以下を含む:
(例えば、最小二乗により)1つ以上の関数を検出器出力データへフィッティングさせることと、
フィッティングによって決定された1つ以上の関数からパルスのピークの位置および振幅を決定すること。
【0019】
1組の実施形態において、1つ以上の関数は、時間の関数である。
【0020】
しかし、これらの実施形態のうちいくつかにおいて、当業者であれば、1つ以上の関数は、時間の関数に限定されないことを理解する。
【0021】
この方法は、1つ以上の関数を検出器出力データにフィッティングさせる前に、検出器出力データを検出器出力データ中に提供するかまたは検出器出力データをデジタル形態に変換することを含み得る。
【0022】
いくつかの実施形態において、方法は、以下を含む:
第2の検出器出力データへ数学的変換を適用することにより検出器出力データを生成することであって、数学的変換は、パルスの予測される形態に従って選択される、こと。
【0023】
いくつかの実施形態において、フィッティングは、以下を含む:
検出器出力データに複数の関数をフィッティングさせることと、
複数の関数の中から最適の関数を決定することであって、この複数の関数は、データのモデル化の際に選択された測定基準を最適化する、ことであって、
この決定することは、決定された最適の関数からピークの位置および振幅を決定することを含む。
【0024】
いくつかの実施形態において、方法は、以下を含む:
フィッティングから残差を決定することと、
残差から検出器出力の基準値オフセットを決定すること。
【0025】
一実施形態において、1つ以上の関数は、以下のf(t)=av(t)+be
ーat
形態をとる。
【0026】
本実施形態において、v(t)は、例えば以下の式によって数学的に計算することができる。
【数1】
ここで、t=0、1、2、...であり、(この時、 v(0)=0)である。
数学的には、
【数2】
であるが、β≠αである場合は必ず、上記式を用いて数値的にv(t)評価を行うことができる。さらに、α=βである場合も、上記式は正しいままであるため、この場合において
【数3】
となる。
【0027】
一実施形態において、これら1つ以上の関数は、以下の形態をとる。f(t)=av(t)+be
ーat
この方法は、パルスの位置および振幅を以下を含む方法によって決定することを含む:
(添付文書中にさらに示すように)、基準パルスp(t)を
【数4】
によって
【数5】
の畳み込みとして規定することと、
f(t)=Ap(t−τ)からf(t)の位置τおよび振幅Aを決定することであって、τ<=0である。
【0028】
当業者であれば、本発明のこの態様は、このアプローチを、異なるものではあるが数学的に均等な式と考えることは明白である。
また、当業者であれば、以下を理解する:
α≠βである際に、
【数6】
であり、 α=βである際に、
【数7】
である。
f(t)=Ap(t−τ)を拡張すると、以下の
【数8】
2つの式が得られる。
ここで、
【数9】
である。この制限において、βがαに等しくなると、定数γは1になり、方程式(1)は
【数10】
となる。そのため、この形態は、τを計算するために数値的に安定した方法において適切に用いられる。
【0029】
|βーα|が極めて小さい場合、γの計算において注意が必要になり得る。これは、テーラー展開中の第1のいくつかの項を合計することにより、行うことができる。
【数11】
特に左側がτにおいて単調であるため、方程式(1)を二分法方法などによって数値的に解くことができる。異なるτ値について左側を決定することは、任意の適切な技術によって行うことができる(例えば、より低いτに対するテイラー級数展開)。(実際、ノイズは遠い過去に開始したパルスの高精度特性化を排除することが多いため、τ値が低くなることが多い。)
【0030】
方程式(1)のτの線形近似をすると
【数12】
となり、β=αの場合に正確になる。正確な(理論的な)一般解は
【数13】
となる。
【数14】
では、そのテイラー級数展開は、以下の
【数15】
となり、|x|<1の場合、上記は有効になる。
【0031】
この方法は、
【数16】
を要求することによりτを制限することを含み得る。
【0032】
よって、方程式(1)の左側はτについて単調であるため、
【数17】
という制約は、aおよびbについての制約に等しい(ただし、0≦b≦ca)。ここで、スカラー
cは、以下によって得られる。
【数18】
実際、
【数19】
の場合、
【数20】
となる。
【0033】
よって、条件付き最適化を得ることが可能になる。
【0034】
この制約は、αおよびβは負ではなくかつα>βである場合において、実行することができる。
【0035】
この方法はまた、パルスの振幅を制限することも含み得る。これを用いて、例えば、適合されたパルスが過度に小さくなるかまたは大きくなることを回避するために使用することができる。実際、上記の方程式(2)を参照すると、τが−1と0との間に収まるように制限されている場合、Aは
【数21】
と
【数22】
との間に収まる。よって、aを制限することにより、振幅Aが制限される。
【0036】
別の特定の実施形態によれば、関数fは、3つの指数関数を用いた関数の形態をとる。この実施形態の特定の例において、時間定数
【数23】
は既知であり、異なる(よって、数値精度低下に起因する問題は減少する)。この方法は、以下の曲線をフィッティングすることを含む。
【数24】
【数25】
【0037】
この実施形態の別の例において、時間定数
【数26】
は既知であり、昇順においてτ
1≦τ
2≦τ
3であるため、関数fをフィッティングすることは、以下の基底ベクトルを用いることを含む:
【数27】
【0038】
参考のため、時間定数が異なる場合、以下のようになる。
【数28】
ここで、
【数29】
【0039】
しかし、2つの未知数(すなわち、パルスの位置および振幅)がありかつ(2つの基底ベクトルから得られた)2つの方程式があった上記の「二重指数関数」と異なり、この「三重指数関数」の場合において、未知数は2つであるが方程式は3つである。よって、これらの方程式を逆転させ(これによりパルスの位置および振幅を回復させる)ための多様な異なる方法があり、これは、概してノイズに対してロバストな戦略である。別の特定の実施形態において、関数fは以下の形態をとる:
【数30】
【0040】
ここで、αおよびβはスカラー係数であり、方法は、aおよびbを決定することを含む。
【0041】
このアプローチは、
【数31】
である用途には適切ではない場合があるが、用途によってはこれは起こりにくいことが分かっているため、この実施形態が受容可能となる。この実施形態の一例において、位置を決定することは、位置t
*(a、b)を決定することを含む。ここで、
【数32】
【0042】
この実施形態においてはe
ーαtおよびe
ーβtを用いているが、その場合の不利点として、(上記実施形態中の項v(t)およびe
ーαtが別個であり続けるのと対照的に)βがαに近づくにつれてこれらの項が収束することが理解される。実際、e
ーαtは、
−∞において発生したパルスの最後の部分に対応し得る(一方、v(t)は、時間0において発生するパルスを表す)。
【0043】
関数fは、複数の関数の重畳であり得る。
【0044】
この方法は、t=t
*(a、b)においてf=f(t)を評価することによりパルス振幅を決定することを含み得る。
【0045】
よって、本発明は、主に、検出器出力データのノイズ観測から、パルス合計の位置および振幅を推定するための方法および装置に関する。本発明により、最大尤度推定値がベンチマークとして得られる(ノイズは別のホワイトガウスノイズであるため、これは、最小平均二乗誤差推定値に相当する)。この方法は、データにローパスフィルタリングを行った後、1つ以上の関数をフィッティングすることを含む。
【0046】
しかし、一実施形態において、方法は、1つ以上の関数を適合させることにより、検出器出力データ中の低周波数アーチファクトを可能にすることを含む。これは、一例において1つ以上の関数を3つの指数関数の線形組み合わせ
(例えば、
【数33】
)として表すことにより、行われ得る。
【0047】
特定の実施形態において、方法は、窓内において開始するパルスを有する任意の推定値を上記窓の境界で開始させることを含む。
【0048】
特定の実施形態において、方法は、窓サイズを最大化することまたは窓サイズを変更することを含む。
【0049】
一実施形態において、方法は、検出器出力データを変換した後、1つ以上の関数を変換された検出器出力データにフィッティングさせることを含む。
【0050】
このアプローチは、分析が変換空間中において行われた場合に簡略化される用途において所望され得る。このような状況において、方法は、その後1つ以上の関数に逆変換を適用することも含み得る。しかし、場合によっては、所望の情報を変換空間において得ることが望ましい場合もある。
【0051】
変換は、ラプラス変換、フーリエ変換または他の変換であり得る。
【0052】
一実施形態において、ピーク位置を推測することは、窓の開始とパルスの開始との間のオフセットを最小化することを含む。
【0053】
特定の実施形態において、方法は、 データ上の窓を連続する窓位置へスライドさせることと、
各窓位置における窓中のデータに対してパルスフィッティングを行うことにより、可能なパルスを特定することと、
各窓位置の開始前および近隣にあるパルス開始前に低下するパルスと、各窓位置における窓中のノイズの標準偏差を超えるピーク振幅とを有する可能なパルスを決定することと、
各窓位置の開始よりも1つ、2つまたは3つのサンプルだけ前に低下するパルスと、各窓位置における窓中のノイズの標準偏差を超えるピーク振幅とを有する可能なパルスをパルスとして特定するかまたは出力することとにより行われるデータ中のパルス(単数または複数)を検出することをさらに含む。
【0054】
第2の広範な態様態様によれば、本発明は、 データに複数の関数をフィッティングさせることと、
複数の関数の中から最適の関数を決定することであって、最適の関数は、データのモデル化の際の選択された測定基準を最適化することと、
最適の関数からパルスのピークの位置および振幅を決定することとを含む、検出器出力データ中のパルスを探索する方法を提供する。
【0055】
一実施形態において、1つ以上の関数はそれぞれ、複数の関数の重畳である。
【0056】
第3の広範な態様によれば、本発明は、
データに数学的変換を適用することにより、変換データを生成することであって、数学的変換は、パルスの予測される形態に従って選択されることと、
(例えば、本発明の第1の態様の方法を用いて)変換データからパルスのピークの位置および振幅を決定することとを含む、検出器出力データ中のパルスを探索する方法を提供する。
【0057】
第4の広範な態様によれば、本発明は、 第1の態様の方法に従って、1つ以上の関数を検出器出力データにフィッティングさせることと、
1つ以上の関数のフィッティングから残差を決定することと、
残差から基準値オフセットを決定することとを含む、基準値オフセットを決定する方法を提供する。
【0058】
本発明の上記態様それぞれの多様な特徴のうち任意のものを適切かつ所望に組み合わせることが可能である点に留意されたい。
【0059】
本発明をより明確に記載するために、以下において、添付図面を参照しつつ、いくつかの実施形態について例示的に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0061】
図1は、本発明の実施形態によるパルス蓄積回復を行うように適合されたガンマ線分光装置を分析対象となるアイテムと共に示す模式図である。
図1の装置は、中性子生成器10と、検出器ユニット14とを含む。中性子生成器10は、分析中のアイテムまたは試料12と相互作用する中性子を生成する。検出器ユニット14は、シンチレーションベースのガンマ線放射検出器の形態をとり、試料12と中性子との相互作用に起因して発生するガンマ線放射を検出する。検出器ユニット14は、センサーまたは検出器要素16を含む。これらのセンサーまたは検出器要素16はそれぞれ、光電子増倍管(不図示)へ接続されたシンチレーション結晶を有する(この例においては、ヨウ化ナトリウム)。特に他の形態の放射を検出するために異なる形態の検出器ユニットで代替することにより、装置を容易に変更することが可能であることが理解される。
【0062】
装置はまた、信号処理ユニット18を含む。信号処理ユニット18は、以下の2つの部分を含む:1)検出器ユニットのアナログ出力に対応するデジタル出力を生成するアナログ/デジタル変換器、および2)実施形態に従ってデジタル信号処理(DSP)ルーチンを実行する処理ユニット。
【0063】
装置は、アナログ/デジタル変換器を含み得る。このアナログ/デジタル変換器は、データを受信して、このデータをデジタル形態に変換し、このデジタル形態のデータをプロセッサへ転送するように適合される。これは、検出器からアナログデータが出力される場合に特に有用である。装置は、典型的には放射、音響または他の検出器を含み得る。プロセッサは、フィールドプログラマブルゲートアレイ(またはそのアレイ)を含み得る。あるいは、プロセッサは、デジタル信号プロセッサ(またはそのアレイ)を含み得る。さらなる代替例において、プロセッサは、フィールドプログラマブルゲートアレイ(またはそのアレイ)およびデジタル信号プロセッサ(またはそのアレイ)を含み得る。さらに別の実施形態において、プロセッサは、ASIC(特定用途向け集積回路)を含む。装置は、アナログ前端を含み得る。アナログ前端は、アナログ/デジタル変換器を含み得る。装置は、電子計算装置を含み得る。電子計算装置は、プロセッサとデータ通信して、プロセッサを制御し、プロセッサの出力を表示する。
【0064】
パルス蓄積装置は、以下のものであり得る:例えば、金属検出器、地雷検出器、画像化装置(例えば、医療画像装置)、鉱石検出装置、油井検層装置、不発弾検出器、貨物スクリーニング装置、積み荷スクリーニング装置、蛍光X線装置、X線回折装置、X線吸収分光装置、X線後方散乱装置、小角度中性子散乱装置、石油探査装置、走査電子顕微鏡装置、半導体放射検出器(例えば、シリコンドリフト検出器装置またはテルル化カドミウム亜鉛検出器装置)、振動検出器(例えば、地震反射装置)、無線検出および測距(RADAR)装置、音響航法と測距(SONAR)装置、要素検出および測定装置、放射安全検出装置、または超電導装置(例えば、超電導トンネル接合装置または超電導熱量計)。
【0065】
光電子増倍管の電気出力信号は、信号処理ユニットへ接続される。装置はまた、ケーブル20と、表示用のコンピュータ22とを含む。ケーブル20は、信号処理ユニット18の出力をコンピュータ22へ接続する。
【0066】
図2Aは、検出器要素16のうちの1つの図である。図示の検出器要素は、Nal(TI)シンチレーションベースのガンマ線検出器の形態をとり、円筒型ハウジングを含む。円筒型ハウジングは、アルミニウム本体24の形態をとり、内部にNal(TI)結晶26が1つの(前)端に配置される。この端部は、(Nal(TI)結晶26の前方の)アルミニウム外端キャップ28と、(Nal(TI)結晶26の後方の)内側光学窓30との間に配置される。検出器は、光学窓30の後方の光電子増倍管32を含む。光学流体継ぎ手34を、Nal(TI)結晶26と光学窓30との間と、光学窓30と光電子増倍管32との間において用いることができる。
【0067】
ガンマ線が端キャップ28を通じて検出器中に入ることにより検出器と相互作用すると、エネルギーがガンマ線からNal(TI)結晶26中の電子へと移動する。これらの電子がこのエネルギーを失うと、結晶中の電子は励起状態になる。紫外線光子が放出されると、電子のエネルギー状態が低下する。上記の紫外線光子は、光学窓を通じて光電子増倍管32の光電陰極36へと送られて、光電子へ変換された後、電子増倍管38によって倍増されて、光電子増倍管32の陽極40に到着する。さらなる倍増段が、前置振幅器42によって得られ得る。このようにして、入射ガンマ線のエネルギーに振幅が比例する電気信号が、検出器16の検出器出力端子44へ提供される。また、検出器16は、ミュー金属磁気シールド46をさらに含み得る。ミュー金属磁気シールド46は、光電子増倍管32の側部48周囲に配置され、Nal(TI)結晶26のうち一部を包囲できるくらいに充分に遠隔位置において、光電子増倍管32の前方において延びることが理解されるであろう。
【0068】
上記の種類のシンチレーション検出器は、高効率を有する(すなわち、入射ガンマ線を高確率で検出する)。しかし、検出器応答時間も比較的長い。検出器応答時間とは、検出器が入射ガンマ線を検出した後に次の入射ガンマ線の高精度検出が可能な状態に戻るまでに必要な時間である。そのため、検出器応答時間が長い放射検出器の場合、パルス蓄積が発生し易い。すなわち、理想的には時間的に相互に配置された全く別個の重複しないパルスからなる(かつそれぞれ単一のガンマ線の入射に対応する)出力が、個々のパルスが重複する波形を示すため、特徴付けが困難となる。
【0069】
図2Bは、信号処理ユニット18の処理ユニット50およびADC52を示す。処理ユニット50は、(信号処理ユニット18のADCによってデジタル出力へ変換された後の)検出器ユニット14のノイズを含む出力中の重複パルスの位置および振幅を決定するように構成される。処理ユニット50は、以下のモデルを実行する。
【0070】
検出器ユニット14(詳細にはNal(TI)結晶26)の特性を鑑みて、カノニカルパルスp(t)は、以下の形態をとるものと仮定される:
【数34】
ここで、fは時間である。(αおよびβの典型的値は検出器の種類によって異なり、Nal(TI)検出器の場合、α=0.07およびβ=0.8が適切であり得る。しかし、シリコンドリフトダイオード(SDD)検出器の場合、良好な理論的パルス形状を得るためにα=0.02およびβ=0.05が提案されているが、αおよびβはパルス形状を示すため、パルス形状によって異なり、よって用途によっても異なる)。α=0.02およびβ=0.05と仮定すると、関数p(t)は連続するが、t=0においては区別できない。
【数35】
におけるピーク振幅はおよそ0.3257である。p(t)の下側の領域は
【数36】
であり、入射放射線に起因して検出器中に蓄積したエネルギーを示す。
【0071】
受信された信号は、以下の形態として処理される:
【数37】
ここで、w(t)は、ゼロ平均および単位変化を有するさらなるホワイトガウスノイズを示す。よって、ノイズσw(t)の変化はσ
2である(w(t)は、単位変化を有するものとして定義される点に留意されたい)。a
iおよびτ
iは、i番目のパルスの振幅(a
i>0)および時間シフトを示す。(一般性を失うことなく、i<jの場合にτ
i<τ
jと仮定される)。
【0072】
数列
【数38】
は複合ポアソン過程であり、以下のようにして生成される。源が単一であった場合、関連付けられたエネルギーeおよび強度λについて、τ
iは、強度λのポアソン分布を有する(または平均λ
−1の独立指数関数分布によって得られる到着間時間
【数39】
に相当する)。全てのa
iは、いくつかの較正スカラーcについてcEに等しい。N個の源がある場合、j番目の源がエネルギーE
jを有し、この源には強度λ
jが関連付けられ、実際の数列
【数40】
は、個々の源の重畳に起因して発生する。(詳細には、τ
iは、ポアソン分布を有し、強度は
【数41】
である)。
【0073】
デジタルドメインにおける動作は、s(t)が整数値tのみにおいて観察されることを意味する。
【0074】
(異なる指数関数を含む上記の関数は上記した検出プロセスに適しているため、パルスの高精度モデルを提供する点に留意されたい。しかし、いくつかの類似の用途において、アナログ/デジタル変換の帯域および他の実際の影響に起因して、検出器ユニット14の出力に低周波数アーチファクトがみられるため、いくつかの用途において所望または必要とされるような指数関数モデルによる高精度モデル化ができない場合があることが分かっている。このような状況において、信号処理ユニット18は、任意選択の
フィルタを含み得る。この任意選択の
フィルタは、データs(t)をフィルタリングすることで、この低周波数アーチファクトを低減または除去した後、信号を処理ユニット50へと送る。しかし、この場合、情報のフィルタリング廃棄に起因して、ノイズの色付けおよびカノニカルパルスの除去が発生し得る。そのため、この任意選択の
フィルタを用いない場合、本実施形態の結果は、「最大限可能な」ものとしてみなすべきである。低周波数アーチファクトの解消のための別の方法として、(
フィルタによる低周波数アーチファクト除去に頼るのではなく)低周波数アーチファクトを考慮に入れた関数をデータに適合させる方法がある)。
【0075】
この実施形態によれば、数列
【数42】
は、決定論的とすべきであるが不明であることが多い。いくつかのシナリオにおいて、数列
【数43】
が複合ポアソン過程であることを考慮に入れることにより、性能向上を達成することができることが考えられる。
【0076】
カノニカルパルスρ(t)の揺する有用な特徴は、原点の右側の任意の部分(すなわち、t
>0)を
【数44】
および
【数45】
の線形組み合わせとして表すことができ、実際、
【数46】
である。よって、パルスをデータの一部に適合させる際に、当該パルスの開始部分がどこかを知る必要が無くなる。
【0077】
曲線
【数47】
の時間的(最大または最小)ピークは、以下のようになる。
【数48】
【0078】
パルス開始部分(すなわち、f(t)=0となるとき)は、時間
【数49】
において発生する。
【0079】
よって、プロセッサユニット50は、プロセッサ54を含む。プロセッサ54は、最小二乗フィッター56を含む。最小二乗フィッター56は、さらなるホワイトガウスノイズによって崩壊したこのデータに曲線f(t)を適合させることで、最小二乗適合を得る。このれは、最大尤度推定値でもある。最小二乗フィッター56を実際に実行すると効率的である。なぜならば、最小二乗フィッター56は、ユークリッドノルム
【数50】
の最小値を探すものとして表すことができるからである。ここで、уは観測ベクトルであり、xは上記の係数aおよびbに対応する2×1ベクトルであり、Fは縦列を2つ含む行列であり、入力
【数51】
および
【数52】
であり、ここで、
【数53】
である。F中の行数nは「窓サイズ」と呼ばれ、プロセッサ54は窓サイズ設定器58を含む。窓サイズ設定器58は、nを設定するように動作可能であるため、最小二乗フィッター56によって用いられる窓のサイズを設定するように動作可能である。
【0080】
プロセッサ54はまた、ピーク決定器60および振幅決定器62を含む。ピーク決定器60は、パルスのピークt
*(a、b)の位置を決定する。振幅決定器62は、t=t
*(a、b)におけるf(t)を評価することにより、パルス振幅を決定する。
【0081】
本発明者がこのアプローチについての調査を行った結果、以下の結果がみられた。(詳細を以下に示す):
−用いられる窓サイズが大きいほど、得られた推定値の精度も上がる。
−平均二乗誤差と窓長さとの間の関係は、漸近線を有する。すなわち、パルス長さを超える窓サイズにおいて得られる恩恵は本質的に無い(よって、
図1の実施形態において、特定の検出器および値がαおよびβとなっているが、窓サイズn=197を超える値はほとんど無い)。
【0082】
−(これとは対照的に、この実施形態の方法の実験試験を行ったところ、パルス長さが400サンプルの場合、窓サイズを32サンプルにすることで、適切な結果が得られた)。
−ピーク位置は、ノイズに対して極めて高感度である。
−ピーク振幅は、ノイズに対してずっと低感度である。
−窓開始部とパルス窓開始部との間のオフセットの増加と共に、ピーク位置の推定値の精度が高速に失われる。
−窓長さが短い場合、窓中心がパルス中心にほぼ対応する場合において、ピーク振幅の推定値が最良に得られる。
−ピークの位置および振幅の推定値は、ごく小さなバイアスを有する。
すなわち、これらの推定値は、真の値のいずれかの側において等しく分散しているため、装置を(当該分野において理解されるような)バイアスのかかっていない推定器として実質的にみなすことができる。
【0083】
よって、データストリーム中の単一パルスの位置を推定するためのこのアプローチについて、さらなるホワイトガウスノイズに起因して崩壊したシミュレーションデータセットに異なる窓サイズ(12、25、50、100および197)においてこのアプローチを適用することにより、試験を行った。上記のα値およびβ値によって記述されたパルス形状を用いて検出器データストリームモデルを構築することにより、シミュレーションデータセットを得た。構築されたモデルにより、パルス位置およびパルス振幅が既知となった。データセット中のパルスの到着および振幅の時間について、この実施形態のパルス位置方法によって推定値を得た。これらの推定値を既知の値と比較し、誤差分布を得た。
【0084】
図3Aおよび
図3Bは、これらの5個の異なる窓サイズを用いた場合における、推定値と既知の値との比較に基づいた(このシミュレーションから得られた)(到着時間に対応する)パルス位置および(エネルギーに対応する)パルス振幅の誤差の標準偏差をそれぞれ示す。各窓は、時間f=0から開始する。水平軸はパルス開始時間であり、ノイズの標準偏差は0.1である。パルスのピーク振幅は1である。(短い窓の場合、ピーク振幅のための窓位置が移動してピーク周囲にセンタリングされているため、大幅に向上した性能が得られている点に留意されたい)。
【0085】
図4Aおよび
図4Bは、窓サイズn=197において1000回シミュレーションを行って決定された、パルス位置誤差およびパルス振幅誤差のヒストグラムをそれぞれ示す。これらのヒストグラムは、曲線フィッティングが用いられた場合に期待される性能を示す。振幅は、パルス位置の場合よりもずっと高精度で推定することが可能である点に留意されたい。パルス位置の推定値(または実質的に対応するパルスピーク位置)を(バイアス発生と引き換えに)向上させることが可能である。このような向上は、パルス位置の正の推定値を全てゼロに切り捨てる(およびよってパルスが窓開始後ではなく窓開始前に開始したものと仮定する)ようにピーク決定器60を構成することにより、得られる点に留意されたい。これは、係数aおよびbがどちらとも負ではなくかつa>bである(換言すれば、適合された曲線はどこでも負ではない)という制約が有る場合に最小二乗適合を行うことに相当する。これにより、振幅決定器62の性能も向上し得る。
【0087】
この実施形態によれば、プロセッサ54は、パルスの存在を検出するパルス検出器64を含む。この作業を行うための任意の適切な技術が利用可能であるが、本実施形態の多様な様態によれば、パルス検出器64が以下の技術のうち任意の1つを実行すると有効であることが分かっている。
【0088】
第1のこのような技術において、「自己無撞の」パルスを探索する。これにより、合理的な結果が得られ、パルスを「オンザフライ」でリアルタイムで検出することが可能になり、技術の適用開始時においてデータまたはデータセットのセグメント全体を利用可能とする必要が無くなる。
【0089】
このパルス検出のための第1の技術によれば、パルス検出器64は、窓サイズ設定器58を用いて窓サイズをn=197に設定した後、この窓をデータ上において「スライド」させる。各窓位置において、パルス検出器64は、最小二乗フィッター56を用いて(上述したように)曲線をデータの各窓に適合させた後、ピーク決定器60および振幅決定器62を用いて、各窓中のパルスの位置およびサイズを決定する。よって、この例において、曲線をチャンネル1〜197、チャンネル2〜198、チャンネル3〜199などへ適合させる。
【0090】
この適合が良好であるとみなされ、パルス検出器64はフラグを出力する。このフラグは、以下の場合において、パルスが(当該パルスのパラメータと共に)発見された旨をプロセッサ54のパルスデータベース66へ通知する:
1.パルス開始が各窓の開始前に発生したことが分かった場合;
2.窓開始前よりもわずか3つのサンプルまたはチャンネル前にパルス開始が発生したことが分かった場合;
3.パルス振幅(すなわち、パルスのピークの振幅)がノイズ標準偏差を超えた場合。
【0091】
これらの基準の論拠を以下に示す。パルス長さよりも長さが長い窓を用いた場合、感知できるほどの向上は得られ無い。(いくつかの用途において、より短いまたはずっと短い窓であってもパルス検出において充分であることが予測される)。パルス開始前に窓が開始した場合、窓中の全ての点がパルスの正の部分に属するものであると仮定するため、適合が一貫しなくなる。窓開始部およびパルス開始部が相互に近隣に無い限り、位置推定値は比較的不正確となる。第2の要求も同様である。低振幅パルスが真のノイズ信号に適合する場合もあるため、第3の要求が発生する。
【0092】
パルスを含むことが分かっているデータのセグメントを含む場合、パルス検出器64は、第2の技術を用い得る。この技術において、データセグメント中の各kについて、係数c
kおよびτ
kを発見する。ここで、
【数54】
および
【数55】
である。
よって、
【数56】
が(最小二乗の点において)kからデータセグメント端部までにおいてデータに最適になり、その後、残留物である実数τ
kを計算する。実数τ
kは、(窓中のサンプルのみについてではなく)データセグメント中の各サンプル点におけるデータと
【数57】
との間の差の二乗である。「最適の」曲線は
【数58】
であり、ここで、kはτ
kのミニマイザである。
【0093】
このパルスは負ではないため、パルス検出器64は、信号平均の変化を探索する第3の技術に従ってパルスを検出することもできる。例えば、(少なくともいくつかの用途において)高速であると予測される1つの実行様態において、サンプルの実行が探索される。これらのサンプルのうちほとんどは、一定の閾値を超える(例えば、1行の10個サンプルは厳密に正である)。この文脈において「ほとんど」とは、特定の用途においてパルスの存在についてフラグ設定するために充分に有意であるとみなされる数値として選択され得、例えば、サンプルのうち80%、85%、90%、95%または100%である。ガウスノイズ推定とは、誤検出および検出見逃しの確率を容易に計算できることを意味する。
【0094】
より一般的には、この第3の技術によれば、曲線がデータのセグメント(または窓)に適合され、この適合中の誤差が計算された場合、以下の3つの一般的な場合が発生し得る:
1)検出器の基準値から離れた信号が無くなる(すなわち、出力中に含まれるイベントが無くなる。曲線が適合されると、誤差は最小となる。この誤差は、システムノイズおよび基準値オフセット双方の関数であるため、パルスが存在しない場合は実質的に一定である。
2)信号の立ち上がりが窓の第1のいくつかのチャンネル中に出現し、曲線は開始時において鋭くなる(また、f=0において理論的に微分しない)。その結果、モデルをデータ窓に適合させることが極めて困難になる、なぜならば、パルス開始および窓終了時においてデータはほとんど平坦であるからである(すなわち、基準値)。パルス検出器はパルス適合の誤差上において動作するため、パルスが窓内へと移動するにつれ、誤差が増加する点に留意されたい。全て正である10個のサンプルは、適合において誤差があり、よってパルスの到着においても誤差があることを示す。
3)パルスの立ち上がりは窓を通過し、ここで、窓は、パルスのセグメントを含む(ただし、パルス長さよりも長さが短い窓が用いられた場合)。ここで、上記した指数関数モデルは、データに充分に適合し、誤差信号は不活発状態へ戻る。
【0095】
パルス位置が必要な場合、パルス検出器64は、第1の技術を実行し得る。第1の技術は、発見された適合の残留物と、パルス検出器64によって決定されたよりも想起にサンプルを開始させる曲線のフィッティング残留物とを比較するさらなるステップを含む。曲線の残留物が少ない場合、その曲線は、より良好に適合するとみなされ、ピーク位置の推定のためにパルス検出器64によって後で用いられる。しかし、ピークの振幅のみが必要な場合、変更されていないパルス検出器64において上記技術を実行することが可能である。実際、窓のサイズが大きい場合、振幅推定値は、パルス開始と窓開始との間のオフセットに対して比較的低感度であるため、上記した第1のパルス特定技術によって予測されるよりも早期にパルスがサンプルを決定するかを決定するステップをさらにわざわざ行う理由は無い。
【0096】
上記した第2の技術は、問題の構造を利用することにより効率的に実行することが可能であるが、データセグメント全体を提供する必要がある。この第2の技術を変更して、(性能損失の可能性と共に)「高速に」機能させることが可能である。このような変更は、固定長さの窓(例えば、パルス長さ以下の長さの窓)を曲線フィッティングのために用い、残留物がパルスによって充分に小さいとみなされるときを示す残留物閾値を設定することにより、行われる。
【0098】
可能なものの感触を得るために、第1のパルスに対応するサンプルと、双方のパルスに対応するサンプルとが既知であると仮定する。Tは、パルス1に属するサンプルの数を示す。2つのパルスを最小二乗的にデータにフィッティングさせた場合、1つの曲線f(t)は、パルス1のみに属するT個のサンプルに適合され、別の曲線f(t)は、双方のパルスに属するサンプルに適合されることが分かる。上記した単一のパルスの場合から、Tが小さい場合、推定精度も低くなることが分かる。すなわち、2つの配置されたパルスを分離する場合、基本的な制限がある。
図5A、
図5B、
図6Aおよび
図6Bは、12個のサンプルおよび25個のサンプルそれぞれから第1のパルスのパラメータを推定する際に予測される性能を示す。しかし、第1のパルスのパラメータ推定における誤差は、第2のパルスのパラメータ推定に悪影響を与える点に留意されたい。なぜならば、第2のパルスのパラメータは、第1のパルスのパラメータを2つのパルスの合計のパラメータから「減算する」必要があるからである。
【0100】
本実施形態によれば、以下のアプローチを用いて、長さの短いデータを用いて新規パルスの開始を検出する。ホワイトノイズ中の信号パルスの開始を発見する場合について試験を行った。この場合、方法において、短い窓(例えば、長さがサンプル10個分のもの)をデータ上においてスライドさせ、窓下のデータに制限適合を行った。この制約によれば、パルスの振幅は正であり、パルスの開始時間は窓開始に相対して−1〜0の間でなくてはならない。この適合の誤差の二乗の合計を、窓下のデータ点の二乗の合計に分割した。高い値は、データがホワイトノイズのみであると仮定した場合と比較して曲線がデータに良好に適合していることを示す。
【0102】
各場合における推定されたピーク位置は、パルス時間時間を正確に示すものではない。すなわち、各場合における推定されたピーク位置は、ピークから数個のサンプル以内にパルスが開始することを示す。それにもかかわらず、方法の用途のこれらの例(直線の適合性(すなわち、パルス無し)と、パルス開始をデータに適合させた場合との比較)によれば、ホワイトノイズ中のパルス開始を検出する方が効率が良いことが分かる。
【0103】
ノイズへの誤適合を除去するために、適合されたパルスのピーク振幅がノイズの規定の偏差σを超えるかを確認するための試験を行った。(任意選択的に、これは、さらに振幅を少なくともσとするように適合曲線を制限することにより、保証される)。
【0104】
新規パルスの開始を発見するためには、一般的には、(長さが例えば10の)背中合わせの2つの窓をデータ上においてスライドさせる必要がある。第1の窓を用いて、先行パルス全ての重畳を推定する(これは、2つの指数関数のみの線形組み合わせによって複数のパルスを示すことができるという事実によって促進される)。このアプローチの簡単な実行様態において、この推定値を用いて、先行パルスの貢献を第2の窓下のデータから減算することができる。その後、このアプローチにおいて、ホワイトノイズ中のパルスの推定開始部分を上回ると考えられるものが得られる。
【0105】
より複雑な実行様態において、2つの窓下においてデータを1つのみ用いる場合、曲線状の形態
【数60】
をこのデータに適合させ、τ
1が第1の窓の開始部以下であり、τ
2が第2の窓の開始部の−1と0との間であり、c
1およびc
2は正である。(これを効率的に行うことができる理由として、制約集合は凸多面体であり、費用関数は4次元の二次関数である点がある)。
【0106】
任意選択的に、方法は、データの長さ全体における平均二乗誤差を最小化するための最適なものを探索することを含み得る。一般的には、そのためには、データ点をパルスに割り当てるための全ての可能な方法を探索することが必要になるが、上記パルス検出方法を用いて探索対象領域を狭めた場合、推定の高精度化が可能になる。
【0108】
多数のヒューリスティック方法を用いることができる。いくつかの方法について、以下に簡潔に述べる。1つのアプローチにおいて、単一のパルスがあると仮定し、単一のパルスに最適な可能なものを決定し、その後、最適なもの(以下を参照)の1つ以上の測定血を計算して、これが受容可能な適合であるかを決定する。(これは、適合性を2つのパルスの適合を比較するのではなく、残留物がホワイトノイズに見えるか否かについてのみ評価を行う点において、任意選択の方法と異なる)。
別のアプローチとして、単一のパルスをデータの短い窓と適合させ、その適合性を決定する方法があり得る(以下を参照)。適合性が悪い場合、恐らくは第2のパルスの開始が窓内のどこかで発生していることを示すため、悪い適合性を考慮に入れる。
【0109】
残留物に基づいた適合性(すなわち、適合された曲線と実際のデータとの間の差)の可能な測定は、以下を含む:
・絶対値の合計、
・2乗の合計(二次モーメント)、
・正の値および負の値の分布、
・3乗の合計(3次モーメント)、
・最大値および最小値。
【0110】
悪い適合性の探索は、小さすぎずかつ大きすぎない窓サイズにわたってこのような測定値を計算することにより、行うべきである。極めて小さな窓の場合、ノイズによって相違を説明することができないため、例えば特異性を得ることが困難となる。極めて大きな窓の場合、データの重要部分における低い適合性が、窓全体における平均適合性において失われ得る。
適合性の測定を行う理由として、2つ存在する場合に単一の曲線のフィッティングを行った場合、データが曲線を下回るかまたは曲線を上回る一連の値が得られる点がある。例えば奇数次モーメントを探すかまたは誤差の最大値および最小値を探すことにより、このような差を発見することができる。
【0112】
図1の装置は、変更可能である。詳細には、プロセッサ54のモジュールによって実行される方法において、この実施形態の変更例に従って、さらなるホワイトガウスノイズ中の単一のパルスを特定する。
【0113】
この改変例を例示するため、(時間0〜499を示す)500個のサンプルのデータセットを用いて、一連の試験を行った。このデータは、単位振幅を有する時間49.5においてパルス開始を生成し、標準偏差σを有するホワイトガウスノイズを当該パルスに付加することにより、行った。(第2の一連の試験は、50.0から開始するパルスについて行った)。
【0114】
この改変例の方法は、残差の2乗の合計を最小化させる適合性を探索する。0〜498である各整数kについて、パルスの振幅が負ではないというさらなる制約に基づいて、残差の2乗の合計を最小化させかつk−1〜kの範囲内のどこかから開始するパルスを決定する(平均二乗誤差を最小化させるパルスが、正しいものとしてみなされる)。その後、500個のサンプル全てについての適合性の残留誤差を計算し、その計算値から、適合性の平均二乗誤差を得ることができる。平均二乗誤差を最小化させるパルスは、正しいものとしてみなされる。この最適パルスの開始時間および振幅を計算し、真の開始時間(49.5または50)および(一定である)真の振幅と比較する。
【0115】
反復を10,000回行う。時間49.5においてパルスを探索した場合、以下の結果が得られた。
【表1】
【0116】
以下に、時間50.0においてパルス探索を行った場合の対応する結果を示す。
【表2】
【0117】
平均誤差は、絶対値をとることなく計算され、バイアスを示す。
【0118】
恐らくは付加されたパルスへの制約に起因して、高ノイズレベルにおいては、正のバイアスが小さいようにみえる。
【0119】
有利なことに、パルスがサンプル上において開始するかまたはサンプル間において開始するかに対して性能が低感度であるようにみえる。これら2つの表は、密接に対応する。
【0120】
別のパルス上に背中合わせに載置された単一のパルス
【0121】
対象パルスが先行パルスに背中合わせに載置された場合(すなわち、2つのパルスが存在し、第2のパルスの値位置および振幅を推定することが必要な場合)、対象パルスを推定する場合の問題も考えられ得る。ノイズは、標準偏差σを有するさらなるホワイトガウスノイズである。どちらのパルスのピーク振幅も一定であった。この実施形態の方法に従って2つのパルスをフィッティングする場合、先行パルスから対象パルスへの影響を考慮する必要がある。このアプローチにおいて、サンプル点kを考慮する場合、後方窓k−10〜k−1を考慮する場合(窓長さ10を用いた場合を仮定する)、前窓k〜k+10が用いられる。曲線をデータの後部に適合させて、先行パルスから次のパルスの推定への影響を除去する。この方法は、k−1〜kの間の時間において開始するパルスについて、k〜10〜60の範囲において探索する。2つちょうどのパルスをデータに適合させ、第1のパルスをサンプル0〜k−1へ適合させた後、第1のパルスおよび第2のパルスの組み合わせをサンプルk〜500へ適合させる。第1のパルスを、負ではない振幅および0以下の開始時間を有するように制限する。第2のパルスを、負ではない振幅およびk−1〜kの開始時間を有するように制限する。各kについて、適合すべき残留物の平均二乗誤差を計算する。上述したように、平均二乗誤差が最も低いパルスを正しい適合とみなす。
【0122】
各場合において、シミュレーションを10,000回行った。以下の表は、上記と同様の誤差を示す。表3は、先行パルスが時間0において開始し、対象パルスが時間10において開始した場合の試験結果を含む。
【表3】
【0123】
表4は、先行パルスが時間−10において開始し、対象パルスが時間10において開始した場合の試験結果を含む。上記例の場合よりも性能が低下している理由として、サンプル0〜9を用いた場合よりもサンプル10〜19を用いた場合の方が、先行パルスの推定値を高精度に得ることがより困難な点がある。
【表4】
【0124】
表5は、先行パルスが時間0において開始し、対象パルスが時間20において開始した場合の試験結果を含む。
【表5】
【0125】
表6は、先行パルスが時間0において開始し、対象パルスが時間30において開始した場合の試験結果を含む。
【表6】
【0126】
主要パルスの開始の遅延と共に性能が向上している理由として、先行パルスの利用可能なサンプルの方が多いため、パラメータの推定値も良好になる点がある。(第1のパルスの30個のサンプルが利用可能である)最後の表中において、振幅推定における誤差は、(上記したような)単一のパルスの振幅推定のほぼ倍であるようにみえる点に留意されたい。
【0128】
2つのパルスが発生し、双方とも単位振幅を有する。第1のパルスは時間40において開始し、第2のパルスの開始時間は、50、60または70であり得る。この信号は、標準偏差σのさらなるホワイトガウスノイズによって崩壊する。2つのパルスについて探索を行う。高精度に、k
1およびk
2が変化し、k
1が36〜45の値をとり、k
2がk−4〜k+5の値をとり、kは第2のパルスの開始である。k
2−k
1>10という制約が実行される。各対(k
1、k
2)について、2つのパルスの合計をデータに適合させる。双方のパルスを、負ではない振幅を有するように制限する。i番目のパルスを、k
1−1〜k
1の間に開始するように制限する。
シミュレーションを10,000回行った結果を上記と同様の形態で以下に示す。しかし、以下の表は1つではなく2つであり、第1のパルスおよび第2のパルスの特性のそれぞれの推定誤差を示す。
【0129】
表7:第1のパルスの推定精度;パルス間の間隔は10サンプル
【表7】
【0130】
表8:第2のパルスの推定精度;パルス間の間隔は10サンプル
【表8】
【0131】
表9:第1のパルスの推定精度;パルス間の間隔は20サンプル
【表9】
【0132】
表10:第2のパルスの推定精度;パルス間の間隔は20サンプル
【表10】
【0133】
表11:第1のパルスの推定精度;パルス間の間隔は30サンプル
【表11】
【0134】
表12:第2のパルスの推定精度;パルス間の間隔は30サンプル
【表12】
【0135】
第1のパルスおよび第2のパルスを推定する際の精度は、極めて類似している点に留意されたい。その理由の1つとして、数学的には、領域中に2つの重複するパルスがある場合、当該領域を単一のパルスと区別することができない点がある(すなわち、この領域を2つの減衰する指数関数の線形組み合わせとして表すことができる点がある)。この場合の不利点として、パルス蓄積がある場合、、パルス蓄積中の任意のパルスを推定する精度が、連続パルス間の最小サンプル数に限定されることが推測される点がある。
【0137】
以下、パルス蓄積を順次に取り扱う技術について説明する。試験信号を用いた(
図14を参照)。この試験信号は、6個のパルスを含む。これら6個のパルスは全て単位振幅であり、開始時間は−5、15、30、45、60および120である。サンプル時間0〜159においてデータが利用可能であり、正の開始時間の5個のパルスについて推定を行った。
【0138】
この技術においては、サイズ20のサンプルのスライド窓を用いる。
図15は、(開始時間がゼロ以下であり正の振幅である)単一のパルスを20個のサンプル(破線曲線)に適合させた場合の残留物のプロットと、2つのパルスを適合させた(実線曲線)場合の残留物のプロットとを示す。(kが水平軸を示す場合、用いられるサンプルは、k−10〜k+9である。2つのパルスをフィッティングさせる場合、第1のパルスをセグメントk−10〜k−1中のサンプルに適合させ、第2のパルスをセグメントk〜k+9中のサンプルに適合させる。双方のパルスを、正ではない開始時間および正の振幅を有するように制限する。第2のパルスを、開始時間が−1以上となるようにさらに制限する)。
【0139】
実線曲線の谷がそれほど急ではない理由として、時間kにおいて開始するパルスを(ノイズフリーの場合において)窓が位置kにあるときだけでなくk+1にあるときも実質的に完全に推定される点がある。後者の場合、パルスの開始時間−1であると推定される。
【0140】
単一のパルスをフィッティングした場合、大きな残留物が発生する。実際、新規パルスが窓内に発生する。逆に、2つのパルスをフィッティングした場合において、新規パルスが窓内のどこかの中央ではない場所に発生した場合、大きな残留物が発生する。(窓に単一のパルスのみが含まれる場合、2つのパルスをフィッティングすることも合理的に機能する。なぜならば、第2のパルスの推定される振幅がゼロになるからである)。
【0141】
このアイディアでは、次に、破線曲線が大きくなりかつ実線曲線が小さくなるときを探索する。この組み合わせが有る場合、新規パルスが始まったばかりである可能性を示す。
【0142】
図16は、ノイズ変化が0.12である場合の(
図15の破線曲線から実線曲線を減算したもに相当する)残留物のプロット比を示し、シミュレーションを1,000回行って決定される。
図16中の実線曲線はサンプル平均であり、破線曲線はサンプル標準偏差を示す。
【0143】
次に、スライド窓をデータ上においてスライドさせ、残留物の比を各位置kについて計算する。比の極大値を探索した。5個の先行する比または5個の後続する比内において上記比よりも大きな比が無い場合にのみ、この比は極大とみなされる。(第1のパルスが検出される可能性を増加するために、このアプローチを改変することにより、第1の10個の比においてより大きな比が無い場合、第1の4つの比を考慮する)。2.0を超えた場合(すなわち、2つのパルスを用いたフィッティングが単一のパルスを用いた場合よりも少なくとも2倍良い場合)極大が関連するとみなす。
【0144】
結果を以下の表に示す。これらの結果は網羅的なものではないが、このアプローチの機能を示す。表13は、1,000回の試験を行った場合に得られた成功数を示す。5個のパルスがデータ中に見つかり、かつ各パルスが正確な位置から5個のサンプル以内にある場合、試験が成功したとみなした。
【0146】
表14〜表17は、成功した試験のみを考慮している。表14〜表17は、各1組で1,000回の試験について、サンプル平均(または平均)と、各5個のパルスの振幅および位置の推定における誤差のサンプル標準偏差とを示す。
【0152】
図1の装置は、変更が可能である。詳細には、プロセッサ54のモジュールによって実行される方法において、入力データストリーム中のDCバイアスによる影響を除去するように、変更が可能である。
【0153】
パルス振幅の推定値を高精度に得るためには、入力信号中の任意のDCバイアスを除去または補償することが必要になる。これは、極めて高計数率において行うことが特に困難である。n平均パルス到着時間が検出器のインパルス応答時間よりも低い場合、検出器の出力が基準値に戻ることは(ほとんど)無い。基準値を高精度に推定するためには、パルスによる影響を除去する必要がある。
【0154】
これを行うための1つの方法として、モデルf(t)をモデル化する関数の重畳の一部として定数成分を含む方法がある。この方法の不利点として、最小二乗フィッター56にとって利用可能な自由度が増加するため、パルス検出およびパラメータ推定性能の低下に繋がる。
【0155】
データから基準値を除去するためのより有効な方法として、最小二乗フィッター56の出力残留物を除去する方法がある。対象窓中にパルスが無い場合、最小二乗フィッター56は、ノイズおよびシステムに起因して発生する任意の基準値オフセットにモデルを適用しようとする。残留出力は典型的には、実際のデータとモデル予測との間の差の厳密な正の関数(例えば、絶対値の合計または2乗の合計)である。基準値オフセットからの貢献が無い場合(すなわち、基準値オフセットがゼロである場合)、残留物は最小となる。その結果、残留値を最小にするように入力信号の基準値を調節することにより、基準値が有効に除去される。この調節機構は、フィードバックループを用いるかまたはより高度な制御理論技術を用いて実行することができる。
【0156】
例えば、最小二乗フィッター56の出力は、パルスの存在によって(実際の入力データよりもずっと小さなデータを通じて)若干影響を受ける。パルスの存在に起因して、窓長さに等しいサンプル数に対して残留物値が高くなることが多い。残留出力は厳密に正であるため、パルスによって影響を受けル可能性が低い最小の残留物値(例えば、最低10%の残留物値)を全て無視することにより、パルスによる影響を除去することができ、データからの基準値を追跡および除去するための制御システムを駆動するための優れた信号が得られる。
【0157】
より高度な方法において、同一入力データに本技術を3回適用する。技術の各「反復」は、並列ハードウェアを用いて同時に行うことが可能であることが理解される。残留物を計算する順序は、重要ではない。1回目の反復において、可変オフセットを入力データに適用する。上述したように、残留物を計算する。2回目の反復において、可変オフセットと既知の固定オフセットの合計を同一データに適用した後、フィッティングを行い、残留物を得る。3回目の反復において、可変オフセットから既知の固定オフセットを減算した値を同一データに適用した後、フィッティングを行い、残留物を得る。正の既知のオフセットのデータによって得られた残留物と、負の固定オフセットのデータによって得られた残留物との間の差を用いて、制御ループを駆動することができる。制御ループは、3つのデータセット全てに適用される可変オフセットを調節する。入力データ中の任意のDCバイアスが可変オフセットによってキャンセルされると、2つのオフセット残留物間の差はゼロになる。
【0159】
図1のガンマ線分光法装置を改変して、複数のパルス形状からなるデータストリームを処理することができる。これら複数のパルス形状はそれぞれ、(恐らくは完全に独立しかつ異なる)関数の重畳としてモデル化することができる。これらの関数は、指数関数の合計でなくてもよい。このような実施形態において、装置の信号処理ユニット18の処理ユニット50は、複数の類似の最小二乗フィッター56を含む。これらの最小二乗フィッター56はそれぞれ、特定のパルス形状に適合するように構成される。所与のサンプル窓位置について最小残差を生成する最小二乗フィッター56は、下側のパルス形状に最も近いモデルを有するとみなされ、この特定の最小二乗フィッター56によって生成された推定値は、パルス検出、振幅および位置パラメータの推定に用いることができる。あるいは、全ての最小二乗フィッター56の残留出力を(例えば、ルックアップテーブル、補間、分類または他の方法によって)さらに処理することにより、真のパルス形状のより良好な推定値を得ることができる。
【0160】
指数関数の合計ではないパルス形状を処理する場合、パルスが存在していないという推定に基づいてデータを適合させようとするフィッターを含むと有用であり得る。各フィッターからの残留物を、パルスが存在していないと推定したフィッターからの残留物とを比較する。その結果、各フィッターからの残留物の有意性を適切にスケーリングすることができ、残留物値がパルスの存在を示すかまたはノイズのみに起因するかを決定する。
【0161】
残留物値を比較するための1つの方法として、それぞれ各パルス対形状残留物を示す比の群を形成する方法がある。
比(n)=残留物(「パルス無し」フィッター)/残留物(Nthパルス形状フィッター)。
【0162】
パルスが存在しない場合、これらの比は典型的には1に近づき、パルスが存在する場合、1よりも大きくなる。
【0164】
本明細書中において上記した本発明の実施形態のいくつかのにおいて、データ処理の間中ずっと不変である固定長さの窓が用いられる。しかし、他の実施形態において、装置は、処理時において入来データに応答して窓長さを変化させ、これにより、パルスパラメータのより好ましい推定値を得る。
図3Aおよび
図3Bは、窓サイズによる影響を示し、よって、窓長さとパルスパラメータ推定値の精度との間いおいて可能なトレードオフを示す。
【0166】
本発明は、半導体ベースの放射検出器の分野において、より多くの用途を発見することができる。よって、以下の実施形態は、シリコンドリフトダイオード検出器および電子顕微鏡を用いたX線微量分析における本発明の利用を示す。
【0167】
よって、本発明の別の実施形態によれば、分光法装置が提供される。この分光法装置は、本発明の別の実施形態に従って(
図17中において170において主に示す)パルス蓄積回復を行うように適合される。分光法装置170は、検出器172と、信号処理ユニット18と、コンピュータ22およびケーブル20とを含む。検出器172は、シリコンドリフトダイオード(SDD)検出器の形態をとり、エネルギー分散型X線分光分析中におけるX線の検出および測定に用いられる種類のものである。信号処理ユニット18は(
図1に相当する)。コンピュータ22は表示に用いられ、ケーブル20は、信号処理ユニット18の出力をコンピュータ22へ接続させる。
【0168】
図18は、シリコンドリフトダイオード(SDD)検出器172の模式的切り欠き図である。検出器172は、高抵抗の高純度のn型シリコン174によって構成される。n型シリコン174は、深さが450μmのオーダーであり、10〜100mm
2の活性表面積を有する。検出器172の入射面176(すなわち、X線放射が使用時において通常入射してくる窓側)の活性領域は、同質のp型シリコンの肉薄の接合178によって被覆される。検出器172の後側180(すなわち、デバイス側)はp型同心ドリフトリング電極182aおよび182bを一体型分圧器(図示せず)と共に有する。
【0169】
前面および後面上に均一間隔で配置された電極の構造により、横断する電気ポテンシャル場を検出器172の厚さにわたって生成する。さらに、同心リング電極s182aおよび182bのパターニングにより、強力なラジアル収集場を生成する。これらの電極により、ラジアル電場および横断電場双方が発生し、「収集チャンネル」が発生する。
【0170】
X線184が検出器172に入射して検出器172が相互作用すると、電子ホール対が発生する。発生した対の数は、入射X線のエネルギーに比例する。検出器172内の電気ポテンシャル場によって規定された収集チャンネル186に沿って自由電子が検出器172を通じてドリフトし、中央の電子収集陽極188において収集される。中央陽極188上に収集された電荷は、第1の段階増幅プロセスにおいて電界効果変換器(FET)190によって増幅される。電界効果変換器(FET)190は、検出器172と一体化される。その後、陽極188から出力された信号は、デジタル化検出器出力データ(
図19を参照)として信号処理ユニット18によって増幅および整形される。
【0171】
シリコンドリフトダイオード検出器172の構造の重要な恩恵として、陽極188のキャパシタンスが低いため、電子ノイズが低くなる点がある。その結果、いくつかの他のX線検出器(例えば、Si−PINフォトダイオードまたはSi(Li)結晶)の場合よりもエネルギー分解能が向上し、計数率も高くなる。
【0172】
図19は、
図18に示す種類のシリコンドリフトダイオード検出器から出力されたおよそ100μsのデータを示す。上述したようなパルス整形および増幅電子機器により、陽極188上に収集された電荷を増幅および整形した。
図19は、得られた信号を示す。単一のX線の検出から得られた信号形状は、200において出力されたこのデジタル化検出器から明らかである。しかし、複数のX線イベントが立て続けに検出器と相互作用する状況がある。202aおよび202bにおいて明らかとなるこのような状況において、次のイベントの発生前に検出器172が1つのイベントから回復しない(すなわち、信号は基準値に戻らない)。その結果、パルス蓄積に繋がる。よって、分光法装置170はパルス蓄積が発生し易いため、上記したような信号処理ユニット18を用いて、検出器172の出力中のパルスの位置および振幅を決定することが理解される。
【0173】
分光法装置は、実行様態に応じて複数の異なる形態をとり得る(例えば、金属検出器、地雷検出器、画像化装置(例えば、医療画像装置)、鉱石検出装置、油井検層装置、不発弾検出器、貨物スクリーニング装置、積み荷スクリーニング装置、蛍光X線装置、X線回折装置、X線吸収分光法装置、X線後方散乱装置、小角度中性子散乱装置、粉末回折計装置、中性子反射率計装置、石油探査装置、走査電子顕微鏡装置、半導体放射検出器(例えば、シリコンドリフト検出器装置、テルル化カドミウム亜鉛検出器装置、または高純度ゲルマニウム(HPGe)検出器装置)、振動検出器(例えば、地震反射装置)、無線検出および測距(RADAR)装置、音響航法と測距(SONAR)装置、要素検出および測定装置、放射安全検出装置、生物学的検定法装置(例えば、フローサイトメトリー装置またはラジオイムノアッセイ)または超電導装置(例えば、超電導トンネル接合装置または超電導熱量計)。
【0174】
本発明の別の実施形態によれば、X線微量分析装置が提供される。このX線微量分析装置は、
図20中に210に模式的に示す本発明の別の実施形態に従ってパルス蓄積回復を行うように適合される。X線微量分析装置210は、(エネルギー分散分光分析(EDS)システム214が取り付けられた)電子顕微鏡212の形態の検出器と、(
図1に相当する)信号処理ユニット18と、表示のためのコンピュータ22と、信号処理ユニット18の出力をコンピュータ22へ接続するケーブル20とを含む。信号処理ユニット18は、上述したように、電子顕微鏡212の出力中のパルスの位置および振幅を決定する。
【0175】
図21は、EDSシステム214が取り付けられた電子顕微鏡212の模式図である。使用時において、電子銃220を用いて電子ビームを生成する。この電子ビームは、連続する一対のコンデンサレンズ222aおよび222bによって集光される。その結果集光された電子ビーム224はアパチャ226を通過して電子顕微鏡212の真空室228中に入り、電子ビーム224は、室228内の段階232上に取り付けられた試料230に入射する。走査コイル234を用いて、集光された電子ビーム224を試料230上において走査することができる。
【0176】
電子ビーム224が試料230に入射すると、試料230から電子が放出され、その結果、電子カスケードが高いエネルギー軌道から低いエネルギー軌道となり、X線が放出される。これらのX線は、試料230を構成する要素に固有の長さを有するため、これらの要素の特徴付けに用いることが可能である。
【0177】
放出されたX線の分析は、EDSシステム214によって開始される。EDSシステム214は、電子顕微鏡212の外部に取り付けられる。EDSシステム214は、シリコンドリフトダイオード(SDD)検出器236を含む。シリコンドリフトダイオード(SDD)検出器236は、低温指部238の端部に取り付けられる。低温指部238を用いて、検出器236の表面を例えば−25℃まで冷却する。SDD検出器236からの出力信号が、パルス整形電子機器(図示せず)によって増幅および処理される。このパルス整形電子機器(図示せず)は、EDSシステム214の本体240内に収容される。最終的に、蛍光X線のエネルギーが、信号処理ユニット18によって決定される。EDSシステム214は、SDD検出器236と試料230との間の距離にわたって自動制御が可能なように、自動可変移動段階242上に取り付けられる。
【0178】
図19に示すデジタル時系列は、EDSシステム214から出射されたX線から形成され、シリコンドリフトダイオード(SDD)検出器236によって取得される。Theareaunder個々のパルス200の下の領域により、出射X線に起因して検出器上に蓄積したエネルギーが規定される。
【0179】
図22に示すX線エネルギースペクトルは、SDD検出器(
図17および
図18を参照)を用いて収集される。SDD検出器は、ステンレススチールのサンプルから出射された蛍光X線を測定するように構成される。X線管を用いて、蛍光X線の放出を刺激した。蛍光X線の相対的エネルギーをX軸に沿って示す。このスペクトル中のエネルギーチャンネルの合計数は8,192チャンネルである。Y軸は、各エネルギーチャンネルにおいて記録されたイベント数を対数目盛り上において示す。
【0180】
図22のスペクトルは、60秒の合計データ収集を示す。SDD検出器の入力計数率(ICR)(検出器と各秒毎に相互作用するイベント数)は、1秒あたりおよそ153,200イベントであった。SDD検出器の出力計数率(OCR)(毎秒あたりにEDSシステムから出てくるイベント数)は、1秒あたりおよそ131,700イベントであった。システム不感時間(tICRとOCRとの間の差)は14%であった。このX線スペクトルのエネルギー分解能は、主要ピークにおける半値全幅値(FWHM)として規定され、159電子電圧(eV)または2.48%であった。
【0181】
自然発生する(主に55Feである)鉄からの最も一般的な蛍光X線のエネルギーは6.40keVである。
図22のエネルギースペクトルにおいて、このX線の発光ピークは、およそチャンネル2,550において250においてみられる。55Feの特性によって公知である別の蛍光X線の発光ピークは7.06keVであり、
図22のX線エネルギースペクトルにおいて252において視認することができる。サンプル(または周囲空気)中の他の要素からのそれほど一般的ではない蛍光X線も、254においてエネルギースペクトル中に見ることができる。
【0182】
2つのさらなる別個のピークを、チャンネル5,000とチャンネル5,500との間において(256および258において)視認することができる。これらのピークは、高いエネルギー蛍光X線に起因するのではなく、より低いエネルギー特性ピークの55Feが(250および252において)それぞれ6.40keVおよび7.06keVであることによる信号の重畳に起因する。パルス蓄積に起因するこれらのピークの重畳は、放射イベントが連続して検出器に到着したために(後続信号の到着前に)検出器が第1のイベントから適切に回復できない(検出器出力信号が基準値に戻らない)場合において、SDD検出器の出力において発生する。
【0183】
SDD検出器のデジタル化出力にパルス蓄積が発生した場合、X線エネルギースペクトル中にピークが蓄積し、その結果、これらのピークが高精度の材料特性化と干渉する。なぜならば、これらのピークは、サンプルから発生した他の蛍光X線からのスペクトルピークを被覆し得るからである。そのため、上述したような信号処理ユニット18を用いて、SDD検出器の出力中のパルスの位置および振幅を決定する。
【0184】
本発明のアプローチは、他の多数の分野において利用することが可能である。例えば、パルス蓄積は、地震データ処理において問題となっている。いくつかの既存のアプローチの場合、(良好な結果は得られるものの)計算が大量に必要である。本発明の方法は、過度の計算オーバーヘッドを発生させることなく地震データの処理に用いることが可能であるため、いくつかの既存の技術を用いた場合にいくつかの用途の結果が良くなかった場合でも、比較的高速かつ低コストの代替的アプローチを得ることができる。
【0185】
図23は、本発明の別の実施形態による反射地震学システム270の模式図である。反射地震学システム270は、例えば、音響エネルギーを用いて地盤調査(本例においては油)を行うために用いられる。音響反射または反射地震学は、地球物理学的調査技術であり、地震学の原理を用いて、地下環境の特性を決定する。
【0186】
図23を参照して、爆発、振動器または特殊設計の空気銃(図示せず)を用いて、地球地下中において地震波を開始点272から介すすることにより、反射地震学を行った。このようにして発生した地震波274は、一種の弾性波であり、地球を通じて伝導する。異なる種類の地下物質(276a、b、c、d)(例えば、花こう岩、頁岩、ガスまたは油276a)は異なる音響インピーダンスを有するため、開始した地震波274が材質間の境界278に到達すると(この例において、材質276aおよび276c間は音響インピーダンスが異なる)、波エネルギーの一部は境界を通じて伝導し、波エネルギーの一部が境界278から反射される(280)。反射波280の振幅は、境界中に入る波の大きさと、波が境界と交差する角度と、2つの材質276aおよび276c間のインピーダンスコントラストとに依存する。
【0187】
境界から地球表面282へ反射して戻ってきた地震はの部分は、地震計アレイ284によって検出される。地震計アレイ284は、複数の個々の受振器を含む。これらの受振器は、反射地震波に起因して発生下地動を電気信号に変換する。使用時において、受振器は地球表面に接続され、ケーブルによって接続される。その後、受振器から出力された電気信号が、記録ステーション290によってさらなる分析および処理対象として記録される。記録ステーション290は、パルス処理基板を含む。このパルス処理基板は、
図1のパルス処理基板18と同様であり、受振器から出力された電気信号を受信および処理して、受振器の出力中の個々の信号を分解するように適合される。この技術のいくつかの用途において、反射した地震波形態を記録するために、複数の音響検出器によって単一の爆発点が用いられ得る点に留意されたい。他の用途において、複数の爆発場所を複数の音響検出場所と共に用いることにより、地下環境のよりロバストなモデルを決定することができる。
【0188】
本発明の別の実施形態による類似のシステムを用いて、海洋環境における調査を行うことができる。本実施形態において、システムは、励起源として空気銃アレイを牽引する船舶を含む。これらの銃から、(300Hzおよび250dBまでの)低周波数音響パルスが海洋中に放出されて、海底中の地震波を刺激する。このシステムはまた、反射地震波を検出するための複数の地震ケーブルを含む。これらのケーブルは典型的には平行に用いられ、本実施形態において、長さは少なくとも6キロメートルであり、相互に150メートルだけ間隔を空けて配置され、水中聴音器を備える。これらの水中聴音器は、各ケーブルに沿って一定間隔で配置されて、海底の特徴から反射した信号を記録する。この実施形態によれば、このシステムは、
図1のパルス処理基板(18)と同様のパルス処理基板を(船上に)含む。このパルス処理基板は、水中聴音器からの出力を受信および処理して、これらの水中聴音器の出力中の個々の信号を分解する。
【0189】
反射地震学は、地上環境および海洋環境双方における炭化水素の調査の主な一形態であり、他のリソースの発見にも利用可能である(例えば、石炭、鉱石、鉱石および地熱エネルギー)。深さ数十メートルまでの浅い地下特徴をより多く検出するために、弾性波の代わりに電磁波を用いることができる。これは、地中探知レーダーと呼ばれる技術である。本発明の他の実施形態によれば、このような全てのシステムは、
図1のパルス処理基板18と同様のパルス処理基板を含む。このパルス処理基板は、音響またはレーダー検出器からの出力を処理して、各検出器からの出力中の個々の信号を分解する。
【0190】
本発明の方法は、多数の材料または製品分析分野においても用いることができる。例えば、半導体処理および作製においては、高分解能測定デバイスおよび技術を用いて、サンプルのパラメータを評価する。多様な測定が行われ、薄膜(例えば、酸化物、金属または誘電体)を例えばシリコンの半導体基板上に堆積させる。非破壊的技術を用いると、厚さの評価、不純物の特定、および膜の反射率の決定において特に有用であり、これにより、作製時における高収率が確保される。半導体作製において特に有用な一種のデータとして、ドーパント(例えば、ヒ素、リンおよびホウ素)のイオン注入の量およびプロファイルに関連するものがある。このデータは、蛍光X線測定を多様な小角度で行い、例えばエネルギー−分散固体状態検出器(例えば、Si(Li)検出器)を用いて収集することにより、得ることができる。本発明の方法を用いて、このような分野の検出器からの出力を処理することができる。
【0191】
自動DNAシークエンシングにおいては、任意の所与の時間において検出領域中にヌクレオチドが1つだけ存在することを保証することにより、パルス蓄積(およびよって不感時間)の問題を回避することができる。しかし、このようなことを行う必要性は実質的には低減し、本発明の方法の利用によるデータ収集の大幅な高速化が可能となる。
【0192】
同様に、微小電子回路の広範な利用に起因して、高分解能測定が可能な高度な分析技術が必要になっている。例えば、フォトルミネセンス寿命分光法を用いて、半導体(特に、局所的結晶欠陥に起因して構造的不連続が起こりやすい化合物(例えば、ガリウムヒ素)のもの)中のフォトルミネセンスを測定する。このような欠陥は、フォトルミネセント出力の変化として検出され、例えば単一の光子アバランシェダイオード(SPAD)検出器によって検出される。このような検出器からの出力を処理することにより、調査中のサンプルのフォトルミネセント寿命低下特性の測定を行う。例えばGaAs基板中のフォトルミネセンスが高速に低下した場合、高反復率のパルスレーザ源の利用が可能になり、データ収集速度として500,000カウント/秒が理論的に可能となる。実際には、市販のより高速の時間/振幅変換器の変換不感時間は有限であるため、パルス蓄積に起因して、このような用途における最大データ収集速度は、約100,000カウント/秒に限定される。本発明の方法をこのような検出器からのデータ処理において用いれば、これらの用途におけるデータ収集速度は大幅に高くなる。
【0194】
以下において、
【数61】
を用いて、単位階段関数
【数62】
を記述する。
【0195】
時間定数τのローパスフィルタは、インパルス応答
【数63】
を有する。(これは、抵抗およびコンデンサを直列配置することにより、実行することができる。時間定数はτ=Rcである。ここで、RおよびCは、抵抗およびキャパシタンスの値である)。そのラプラス変換は、
【数64】
である。インパルス応答に一定のエネルギーを持たせるために、インパルス応答を
【数65】
によってスケーリングする。単位領域について、スケーリング定数は、τ
2である。
【0196】
【数66】
の畳み込みを
【数67】
で行うと、
【数68】
が得られる。
【0197】
直列の2つのローパスフィルタのインパルス応答は、
【数69】
および
【数70】
の畳み込みによって得られ、すなわち
【数71】
そのラプラス変換は、
【数72】
である。
【0198】
3つの直列のローパスフィルタのインパルス応答は、以下のようになる。
【数73】
【0199】
信号をd単位時間だけ遅延させることは、そのラプラス変換をe
−unだけ乗算することに対応する。よって、スケーリングされかつ平行移動されたが、他の場合には同一であるN個のパルスの数列は、以下の形態のラプラス変換を有する。
【数75】
【0200】
ノイズによる影響を無視して、f出力信号のラプラス変換をとり、
【数76】
だけ乗算すると、パルス振幅A
1および遅延d
1をさらなる混合物から推定する問題が発生する。
【数77】
【0201】
d
kが大きい場合、
【数78】
が高速に低下する。これは、パルスが「初めて」蓄積したことを
【数79】
から推定することが可能であることを示す。(その後、データの初期セグメントを廃棄し、ラプラスk=0変換を残りのデータに行い、プロセスを繰り返す)。
【0202】
上記においては、連続時間ラプラス変換を行う場合を記載したが、少なくともいくつかの場合においては、離散時間式がより適している場合もある点に留意されたい。
【0203】
当業者であれば、本発明の範囲の改変を容易に行うことができる。よって、本発明は、上記において例示的に記載された特定の実施形態に限定されないことが理解される。
【0204】
以下の特許請求の範囲および本発明の上記記載において、文脈から明らかな場合および明示的な表現または必要な暗示がある場合を除いて、「comprise」またはその変化形である「comprises」または「comprising」は、包括的な意味として用いられる(すなわち、記載の特徴の存在を示すものとしてかつ本発明の多様な実施形態におけるさらなる特徴の存在または追加を排除しないものとして用いられる)。
【0205】
さらに、本明細書中において従来技術に言及している箇所は、このような従来技術が一般的知識の一部を形成するかまたは形成していたことを意図しない。