特許第6012726号(P6012726)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012726
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】脆弱X症候群の治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20161011BHJP
   A61K 31/403 20060101ALI20161011BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   A61K45/00
   A61K31/403
   A61P25/18
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-518000(P2014-518000)
(86)(22)【出願日】2012年6月19日
(65)【公表番号】特表2014-518255(P2014-518255A)
(43)【公表日】2014年7月28日
(86)【国際出願番号】IB2012053089
(87)【国際公開番号】WO2013001412
(87)【国際公開日】20130103
【審査請求日】2015年5月25日
(31)【優先権主張番号】11171532.2
(32)【優先日】2011年6月27日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】502205846
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク
(73)【特許権者】
【識別番号】514000554
【氏名又は名称】サントル オスピタリエ レジオナル ドルレアン
【氏名又は名称原語表記】CENTRE HOSPITALIER REGIONAL D’ORLEANS
(73)【特許権者】
【識別番号】511305667
【氏名又は名称】ユニベルシテ ドルレアン
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE D’ORLEANS
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】ブリオー,シルヴァン
(72)【発明者】
【氏名】パーシェ,オリヴィエ
【審査官】 今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−333336(JP,A)
【文献】 特表2004−511457(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/008249(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/000038(WO,A1)
【文献】 Hearing Research,2011年 3月15日,Vol.279,p.32-42
【文献】 YAKUGAKU ZASSHI,2006年,Vol.126, No.10,p.945-953
【文献】 Gene Therapy,2009年 7月 2日,Vol.16,p.1122-1129
【文献】 Systematic review of pharmacological treatments in fragile X syndrome,BMC Neurology,2009年10月13日,Vol.9, No.53
【文献】 Nature Chemical Biology,2008年 4月,Vol.4, No.4,p.256-263
【文献】 Neurotherapeutics,2010年 7月,Vol.7,p.258-263
【文献】 Nat. Neurosci.,2010年 7月,Vol.13,No.7,p.819-821
【文献】 Am. J. Psychiatry,2006年 9月,Vol.163, No.9,p.1622-1629
【文献】 The Journal of Neuroscience,2011年 4月13日,Vol.31, No.15,p.5693-5698
【文献】 PNAS,2008年10月 7日,Vol.105, No.40,p.15281-15286
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/48
A61K 31/00−33/44
A61K 33/00−33/44
A61K 45/00
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
maxi-Kカリウムチャネルの開口剤を含む、脆弱X症候群の治療用組成物
【請求項2】
前記maxi-Kカリウムチャネル開口剤がフルオロ-オキシインドール又はクロロ-オキシインドールを含んでなる群より選択される請求項1に記載の組成物
【請求項3】
前記フルオロ-オキシインドールが以下:(±)-(5-クロロ-2-メトキシフェニル)-1,3-ジヒドロ-3-フルオロ-6-(トリフルオロメチル)-2H-インドール-2-オン;(3S)-(+)-(5-クロロ-2-メトキシフェニル)-1,3-ジヒドロ-3-フルオロ-6-(トリフルオロメチル)-2H-インドール-2-オン及び(3S)-(-)-(5-クロロ-2-メトキシフェニル)-1,3-ジヒドロ-3-フルオロ-6-(トリフルオロメチル)-2H-インドール-2-オンを含んでなる群より選択される、請求項2に記載の組成物
【請求項4】
前記クロロ-オキシインドールが以下:((±)-(5-クロロ-2-メトキシフェニル)-1,3-ジヒドロ-3-クロロ-6-(トリフルオロメチル)-2H-インドール-2-オン);(3S)-(+)-(5-クロロ-2-メトキシフェニル)-1,3-ジヒドロ-3-クロロ-6-(トリフルオロメチル)-2H-インドール-2-オン;及び(3R)-(-)-(5-クロロ-2-メトキシフェニル)-1,3-ジヒドロ-3-クロロ-6-(トリフルオロメチル)-2H-インドール-2-オンを含んでなる群より選択される、請求項2に記載の組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経精神症状、特に脆弱X症候群の神経精神症状の緩和用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
神経精神医学は神経系の疾患に帰せられる精神疾患を取り扱う医学の一分野であり、この学問分野は神経学と密接に関連するが、典型的には神経学と神経精神医学とは別々に診療される。神経学は、神経系の異常(例えば中枢、末梢及び自律神経系並びに神経系に関連する結合組織の病変)を取り扱う医学の専門分野である。
神経精神医学的状態の基礎は、単一遺伝子異常又は幾つかの変異及び/又は環境要因の組合せに起因し得る。
単一遺伝子異常により引き起こされる神経精神医学的疾患の例は脆弱X症候群(FXS)である。FXS又はマーチン-ベル症候群(ICD10:Q99.2)は、一連の特徴的な身体的及び知的制限並びに幾らかの感情的及び行動的異常(これらは徴候が重症から中程度までの範囲にわたる)を生じる遺伝的症候群である。特に、FXS患者は、自閉症スペクトラム及び癲癇に際して精神障害の症状を示すことがある。
【0003】
FXSは症候性のX連鎖精神遅滞であり(Hamel and Ropers,2005)、低いIQ(De la Cruzら,1985)、顔異形症、巨睾丸症によって特徴付けられ、これらによりこの疾患は臨床的に認識可能な病状とされている。5〜25%の症例で、精神遅滞は不定の追加症状、例えば、自閉症スペクトラム様の行動、注意欠陥及び多動、小児発作並びに幾つかの身体的顕現を伴うことがある(Hagermanら,2006;Di Bonaventuraら,2006)。FXSの分子的基礎は、Xq27にあるFMR1遺伝子の5'非翻訳領域に位置するCGGトリプレットの異常な拡大であり、これは該遺伝子の転写を減少させる。FXSに関与する染色体領域の状態には、広く受け容れられている3つの状態が存在し、これはCGG反復配列の長さに関係する:正常(29〜31のCGG反復)(この症候群に罹患しない)、前変異(55〜200のCGG反復)(この症候群に罹患しない)、全変異(200を超えるCGG反復)(罹患)。
【0004】
FMRタンパク質(FMRP)は、特にニューロン樹状突起において、一組のシナプス特異的タンパク質の局在及び発現を制御する翻訳活性のサプレッサーとして作用する。FMRP生成の低下の結果としてのネガティブフィードバックの喪失が、シナプスの構造及び機能に異常を生じ、このことが次にFXS表現型を引き起こすと提案されている。
知的障害に加えて、FXSの顕著な特徴としては、長い顔、大きな又は突き出た耳、偏平足、より大きな精巣(巨睾丸症)及び低い筋緊張度が挙げられる。言語としては、早口又は神経質な話し方を挙げ得る。行動的特徴としては、常同動作(例えば、ハンドフラッピング)及び非定型社会的発達、特に内気、視線を合わせる回数が少ないこと、記憶障害並びに顔表情表出及び顔認識の困難を挙げ得る。FXSを有する多くの個体はまた、幾らかの自閉症様の特徴についての診断基準を満たす。この症候群を有するほとんどの女性は、第2X染色体に起因してより少ない程度でしか症状が現れない;しかし、女性は、男性と全く同程度の重篤な症状を発症することがある。全変異の男性は重篤な知的障害を示す傾向にある一方、全変異の女性の症状は、最低限の罹患から重篤な知的障害までの全域にわたり、このことは、女性が男性と比べて過少診断される理由を説明し得、人口における異例性を持続させている。
【0005】
現時点で、FXS治療用の医薬は認可されていない。
FXSは、重要な治療上の標的であると考えられている。なぜなら、第一に、FXSが、単一遺伝子変異に帰され得る精神遅滞の最も一般的な形態であるからであり、また神経精神病(例えば精神遅滞又は自閉症)の治療薬の開発が商業目的として益々重要になっているので、単一遺伝子障害に注目してこれらを神経精神病(例えば精神遅滞又は自閉症)の治療分野への窓口として使用することに基づくアプローチが利用可能な最も魅力的な開発ストラテジーの1つであるからである。
しかし、この分野における研究は、精神遅滞及び関連表現型の重篤度における遺伝因子及び環境因子の両方の複雑な相互作用に起因して停滞してきた。具体的には、X-連鎖形態の精神遅滞に関して、140余りの症候形態が現在知られており(Ropersら,Nature Reviews Genetics 2005)、これらは、対立遺伝子基礎を有していることが明らかになっているものもあれば、未だ特徴付けられていないものもある。したがって、FXSの遺伝子基礎は知られているのではあるが、この遺伝子異常の種々の生化学的及び生理学的結果は、依然として特徴付けられつつあり、我々の知識は増え続けているので新たなタイプの治療が開発されている。
【0006】
FXSを治療する手段を探索している研究者は、過剰なグルタミン酸が、マウスFXSモデルのシナプスに蓄積し、このマウスFXSモデルに見られる認知障害の原因であることを示している(HuberらProc. Natl. Acad. Sci. (2002))。研究者らはまた、特異的グルタミン酸レセプターmGluR5の発現減少がこの動物モデルにおいてこれら症状を逆転させることを見出した(Dolenら,Neuron(2007))。
この研究の結果として、mGluR5インヒビターが、特にMerck & Co Incにより開発され、引き続いて臨床試験に供されている。
アルバクロフェン(arbaclofen)で例示される第2のクラスの薬物もまた提案されており、これらは、γアミノ酪酸(B)又はGABA(B)のレセプターを刺激することにより、グルタミン酸シグナル伝達を弱める。アルバクロフェンを脆弱X症候群を有する小児及び成人について試験する臨床試験並びに自閉症を有する小児の非盲検試験が進行中である。
【0007】
FXSについて提案されている治療の他の例を下記の表1に詳述する。
【表1】
【0008】
提案されているFXS治療の幾つかは十分に特徴付けられている薬物(例えば、デキストロアンフェタミン及びアリピプラゾール、栄養補助食品(例えば葉酸)又は代謝物(例えばクレアチニン)であり、これらの薬理学的特性及び作用態様は十分に特徴付けられている。
この分野の他の研究者は、代替のFXS治療を提案している。例えば、Zeierら(Gene Therapy 2009)は、欠陥のある内因性FMRPを機能形態のFMRPで置換する遺伝子治療を用いるFXS治療を提案している。Brownら(Nat. Neurosci. 2010)によれば、FMRPレベルの増大が特定クラスのカリウムチャネルであるSlackチャネル(sequence like a Ca2+-activated K+ channelの略)を活性化すると予想される。
【0009】
FXS治療についての代替の推定の治療標的としては、KCND2遺伝子発現の調節が挙げられる。KCND2は、活動電位の再分極期に重要な役割を演じる電位活性化A型カリウムイオンチャネルを形成する別の1つのカリウムイオンチャネルである。事実、多くのカリウムチャネルがFXSの治療標的になるようである(Leeら,2012)。最近、Leeらは、新たな治療法となり得る全てのカリウムチャネルを概説しており、この中にSlack、Kv4.2(KCND2)、KV1.3が言及されている。
Liaoら(PNAS 2008)では、FMR1ノックアウトマウスモデルにおいて、KCNMA1タンパク質(BKCaチャネルのαサブユニット)の発現レベルにわずかな減少が観察された。Liaoらは、BKCa αサブユニットの発現におけるこの減少を該モデルの表現型に帰すことができなかった。なぜなら、KCNMA1タンパク質が、(3880の出発群からの)発現が変化した132タンパク質のうちの1つにすぎなかったからである。以前に、Huら(2001)及び他の研究者らは、BKCaがシナプス伝達活性を変調しないことを証明している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願出願人は、FXSの新たな治療経路、すなわち、以前に報告されていないBKCa経路を見出し、BKCaを特異的に標的する薬物クラスを調べた。この薬物は、FXSの症状を特異的に治療するために使用することができ、また自閉症スペクトラム障害及び/又は他のクラスの精神神経疾患の症状の治療及び緩和に広く適用可能であり得る。
具体的には、本願出願人は、FXSの新たな治療経路であるBKCa経路、及びこのカリウムチャネルに作用する薬剤の、2つの異なる病状FXS(ICD10:Q99.2)及びより一般的な自閉症(ICD10:F84.0)の症状を治療する手段としての効果を調べた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
驚くべきことに、本発明者らは、このクラスの化合物がFXSに関連する特徴的な症状を反転させ得ることを証明した。したがって、本発明の第1の観点によれば、maxi-カリウムチャネル開口剤を含んでなる、精神神経疾患の治療に使用するための組成物が提供される。
本発明のこの観点によれば、精神神経疾患は、特に、自閉症スペクトラム障害に特徴的な症状/行動を示し得る。
自閉症スペクトラム(自閉症スペクトラム障害(ASD)又は自閉症スペクトラム状態(ASC)とも呼ばれる)は、社会的相互作用及びコミュニケーションの広範な異常性並びに限定された関心及び繰返し行動により特徴付けられる一連の神経精神学的状態である。
具体的には、本発明によれば、maxi-Kカリウムチャネル開口剤を含んでなる、脆弱X症候群の治療に使用するための組成物が提供される。
【0012】
本発明によれば、Maxi-Kチャネル(BKチャネル(Big Potassium)又はslo1若しくはBKCa(Big Potassium Calcium)チャネル又はKCNMA1としても知られる)は、細胞膜を経るカリウムイオン(K+)の大コンダクタンスによって特徴付けられるイオンチャネルである。これらチャネルは、膜電位の変化により及び/又は細胞内カルシウムイオン(Ca2+)濃度の増加により活性化される(開口する)。maxi-Kチャネルの開口により、K+は該チャネルを通って電気化学的勾配に沿って受動的に流れることが可能になる。これは、典型的な生理学的条件下で、細胞からのK+の流出を生じ、細胞膜の過分極(細胞膜を横切る電位の減少)及び細胞の興奮性の減少(細胞が活動電位を伝達する確率の減少)が導かれる。
【0013】
他のカリウムチャネルと同様、Maxi-Kチャネルは四量体構造を有する。チャネルを形成するαサブユニットの各単量体は、KCNMA1遺伝子の産物である。調節性βサブユニット(KCNMB1、KCNMB2、KCNMB3又はKCNMB4によりコードされる)は、該四量体チャネルと会合し得る。
本発明によれば、maxi-Kチャネル開口剤は、高細胞内カルシウム濃度条件下の細胞中でmaxi-Kカリウムチャネルを活性化し、低い又は正常の細胞内カルシウム濃度下の細胞中でmaxi-Kカリウムチャネルを有意には活性化しないものである。
【0014】
指針として、高い細胞内カルシウムレベルの非限定例は、代表的には、高ナノモル範囲(例えば、約250又は300nMより高い)〜マイクロモル範囲(例えば、約1〜10μM)内であるとみなし;正常の又は生理学的な細胞内カルシウムレベルは、代表的には、約50nM〜250nMの範囲内であるとみなし、低い細胞内カルシウムレベルは、代表的には、約5〜50nMの範囲内であるとみなす。多数の分子がmaxi-Kチャネルを開口させる能力を有することが知られており、例えば、3-フェニル置換オキシインドール誘導体、ハロ-オキシインドール、ベンズイミダゾロン(NS 004、NS 1619)、ベンズイミダゾール、アミオダロン(KB 130015)、インドールカルボキシレート、例えばインドール-3-カルボン酸(CGS 7181、CGS 7184)、アリールピロール(NS 8)、ジヒドロソヤサポニン-1(DHS-1)、テルペン、セレブロシド(Baifuzi)、マロトキシン(ロットレリン)、アリールキノリン、アリールオキシインドール、ピマル酸(PiMa)、ジクロロデヒドロアビエチン酸(ジCl-DHAA)、フラボノイド(ナリンゲニン、フロレチン)、ベンゾフロインドール(LDD 175)、ベンズイミダゾリノン(1-EBIO)、フルオロプロピオンアミド[(S)-N-(4-ベンゾイルフェニル)-3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオンアミド]、ウノプロストン(及びウノプロストンイソプロピル)、ベンゾチアジアゾールアミン[6-(トリフルオロメトキシ)ベンゾチアゾール-2-アミン]、エチルブロミドタモキシフェン、エポキシエイコサトリエン酸、エストラジオール-17β、ジフェニルウレア(NS 1608)である。
【0015】
細胞内カルシウム濃度が高い細胞に対して選択的に機能するカリウムチャネル開口剤の1つのクラスは、米国特許第5,565,483号及び同第5,602,169号に記載されているような3-フェニル置換オキシインドール誘導体である。ハロ-オキシインドール(例えばフルオロ-オキシインドール及びクロロ-オキシインドール化合物)は上記クラスのものであり、細胞内カルシウム濃度が高い細胞に対して選択的にmaxi-Kチャネル開口剤として作用し得る。
このクラスのカリウムチャネル開口剤は、細胞内カルシウム濃度に感受性であると特徴付けられており、増大した細胞内カルシウム濃度(例えばマイクロモル範囲)条件下で最も有効である一方、正常な生理学的細胞内カルシウム濃度下では有効性は少ないか又は全く有効ではないことが証明されている。
【0016】
これら化合物は、細胞内カルシウム濃度が正常であるか、中程度であるか又は低い細胞中でmaxi-Kカリウムチャネルを開口させるように認識可能な程度で作用しない。
WO02/30868では、この新たなクラスのカリウムチャネル開口剤は、カリウムチャネルの機能不全/カルシウムの過剰蓄積が神経変性状態の間のリスク(例えば急性虚血性卒中の間に生じるリスク)にあるニューロンに関係する神経保護剤としての使用が提案された。
Maxi-Kイオンチャネルは、カリウム(K+)流出を顕著に増加させ、膜を迅速に過分極させ、電位依存性Ca2+流入を更に減少させることにより細胞内Ca2+及び膜分極を実質的に増大させるように反応するタンパク質である(V. K. Gribkoffら,Adv. Pharmacol.,37:319-348(1997))。
虚血性脳卒中犠牲者に対する3-フェニル置換オキシインドール誘導体の効果を確かめるべく臨床試験が行われたが、統計学的に有意な効果は観察されなかったので、研究は終了した(B. S. Jensen,CNS Drug Reviews,Vol. 8,No. 4 pp. 353-360(2002))。
【0017】
より具体的には、本発明によれば、フルオロ-オキシインドール又はクロロ-オキシインドールの群より選択されるハロ-オキシインドールを含んでなる、脆弱X症候群の治療に使用する組成物が提供される。
上記のように、3-フェニル置換オキシインドール誘導体、例えばフルオロ-オキシインドール及びクロロ-オキシインドール化合物は、maxi-Kチャネル開口剤として以前に特徴付けられている。
本発明に従う使用に適切なフルオロ-オキシインドールとしては、(±)-(5-クロロ-2-メトキシフェニル)-1,3-ジヒドロ-3-フルオロ-6-(トリフルオロメチル)-2H-インドール-2-オン;(3S)-(+)-(5-クロロ-2-メトキシフェニル)-1,3-ジヒドロ-3-フルオロ-6-(トリフルオロメチル)-2H-インドール-2-オン及び(3S)-(-)-(5-クロロ-2-メトキシフェニル)-1,3-ジヒドロ-3-フルオロ-6-(トリフルオロメチル)-2H-インドール-2-オンが挙げられる。
【0018】
本発明に従う使用に適切なクロロ-オキシインドールとしては、((±)-(5-クロロ-2-メトキシフェニル)-1,3-ジヒドロ-3-クロロ-6-(トリフルオロメチル)-2H-インドール-2-オン);(3S)-(+)-(5-クロロ-2-メトキシフェニル)-1,3-ジヒドロ-3-クロロ-6-(トリフルオロメチル)-2H-インドール-2-オン;及び(3R)-(-)-(5-クロロ-2-メトキシフェニル)-1,3-ジヒドロ-3-クロロ-6-(トリフルオロメチル)-2H-インドール-2-オンが挙げられる。
具体的には、本願出願人は、フルオロ-オキシインドール化合物である(3S)-(+)-(5-クロロ-2-メトキシフェニル)-1,3-ジヒドロ-3-フルオロ-6-(トリフルオロメチル)-2H-インドール-2-オンを用いて実験を実施した。この化合物はBMS-204352とも呼ばれ、本発明の好ましい実施形態を代表する。
【0019】
本願出願人は(3S)-(+)-(5-クロロ-2-メトキシフェニル)-1,3-ジヒドロ-3-フルオロ-6-(トリフルオロメチル)-2H-インドール-2-オンのような3-フェニル置換オキシインドール誘導体を用いて実験を実施したが、治療効果がmaxi-Kチャネルの開口に起因することを考えれば、カリウムチャネルを開口させることが知られている全ての種々の物質が同様な治療効果を有することは明らかである。
本発明の第2の観点によれば、治療を必要とする個体における脆弱X症候群の治療方法は、細胞内カルシウム濃度が高いニューロン細胞中ではmaxi-Kカリウムチャネルタンパク質に対して開口剤活性を有する一方、細胞内カルシウム濃度が正常であるか又は低いニューロン細胞中ではmaxi-Kカリウムチャネルタンパク質に対して有意な開口剤活性を有さないmaxi-Kチャネル開口剤を有効量で該個体に投与することを含んでなる。
具体的には、maxi-Kチャネル開口剤は、フルオロ-オキシインドール化合物及びクロロ-オキシインドール化合物からなる群より選択される。
【0020】
最も具体的には、フルオロ-オキシインドール化合物は、(±)-(5-クロロ-2-メトキシフェニル)-1,3-ジヒドロ-3-フルオロ-6-(トリフルオロメチル)-2H-インドール-2-オン;(3S)-(+)-(5-クロロ-2-メトキシフェニル)-1,3-ジヒドロ-3-フルオロ-6-(トリフルオロメチル)-2H-インドール-2-オン及び(3S)-(-)-(5-クロロ-2-メトキシフェニル)-1,3-ジヒドロ-3-フルオロ-6-(トリフルオロメチル)-2H-インドール-2-オンからなる群より選択される。
或いは、クロロ-オキシインドール化合物は、((±)-(5-クロロ-2-メトキシフェニル)-1,3-ジヒドロ-3-クロロ-6-(トリフルオロメチル)-2H-インドール-2-オン);(3S)-(+)-(5-クロロ-2-メトキシフェニル)-1,3-ジヒドロ-3-クロロ-6-(トリフルオロメチル)-2H-インドール-2-オン;及び(3R)-(-)-(5-クロロ-2-メトキシフェニル)-1,3-ジヒドロ-3-クロロ-6-(トリフルオロメチル)-2H-インドール-2-オンからなる群より選択される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ヒトFXS患者におけるKCNMA1(BKCa)の転写、タンパク質発現及び電気生理学的レベルの分析。
図2】FMR1 KOマウス及び野生型マウスにおける転写レベル及びタンパク質レベルの分析。
図3】FMRPタンパク質及びKCNMA1タンパク質の免疫学的局在化を小脳において観察した。
図4】クローリー(Crawley)試験による社会的相互作用の分析。
図5】試験マウス(雄)と雌との間の直接的社会的相互作用の分析。
図6】非社会的新奇嗜好性を試験するためのY字迷路を用いるマウス行動の分析。
図7】インビボ大脳磁気共鳴分光法(MRS)。
図8】BMS-204352の存在下で成熟したインビトロ樹状突起スパイン。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のより十分な理解のため及び本発明の実施の方法を示すために、以下、例示のためだけにではあるが、添付の図面を参照しながら、本発明に従う具体的な実施形態、方法及び手順を示す。添付の図面において:
図1:ヒトFXS患者におけるKCNMA1(BKCa)の転写、タンパク質発現及び電気生理学的レベルの分析。FMR1遺伝子及びKCNMA1遺伝子の発現は、発現チップEXON1.0 Affymetrixを用いて算出し(パネルA)、定量PCRにより検証した。FXS患者は、FMR1遺伝子のほとんどであるが、KCNMA1 mRNAレベルの減少(20%)を示す。これら遺伝子の各々からのタンパク質をウェスタンブロットにより定量した(パネルB)。FXS患者において、本発明者らはFMRPが存在しないことを観察し、また、(fmr1 koマウスにおける42%減少に類似する)KCNMA1タンパク質量の46%もの顕著な減少を観察した。BKCaチャネルの「電気」活動度の分析は、電気生理学的研究(パッチクランプ)により行った。FXS患者は、全細胞BKca活動度の50%減少を示す(パネルC)。
【0023】
図2:FMR1 KOマウス及び野生型マウスにおける転写レベル及びタンパク質レベルの分析。FMR1遺伝子(パネルA)及びKCNMA1遺伝子(パネルB)の発現を種々の器官(脳、精巣、肝臓)の定量PCRにより調べた。FMR1 KOマウスは、予想通り、FMR1遺伝子を実質的に発現しないが、KCNMA1遺伝子の発現に異常はない。これら遺伝子からのFMR1タンパク質及びKCNMA1タンパク質をウェスタンブロットにより定量した(それぞれパネルC及びD)。FMR1 KOマウスの脳において、FMRPは検出されなかった。KCNMAタンパク質量の減少が観察された(野生型マウスと比較して42%の低下(パネルD))。
図3:FMRPタンパク質及びKCNMA1タンパク質の免疫学的局在化を小脳において観察した。野生型マウスにおいてFMRPの分布[左カラムA(×200)及びB(×400 点線で囲んだ領域)]及びKCNMA1の分布[右カラムC(×200)及びD(×400 点線で囲んだ領域)]を調べた。FMRPは全ての大脳ニューロンに存在する。BKCaタンパク質は、小脳においてプルキンエ細胞に見出される(D、矢印)。核をDAPIで標識した。
【0024】
図4:クローリー(Crawley)試験による社会的相互作用の分析。ビヒクル又はBMS-204352で処置した野生型マウス及びFMR1 KOマウスの社会的行動を調べた(n=16/群)。FMR1 KOマウスは、野生型コントロールより有意に低い(p = 0.036)社会的相互作用を示し、社会的関心が欠如している(パネルA)。BMS-204352(2mg/kg)の注射は、FMR1 KOマウスの社会的関心を有意(p = 0.037)に増大させた(パネルB)。BMS-204352(2mg/kg)の注射は、野生型マウスの社会的行動を有意に変化させなかった(パネルC)。FMR1 KOマウスへのBMS-204352投与後に観察された社会的関心の増大は、自発運動の増加に起因するものではなかった(パネルD)。
図5:試験マウス(雄)と雌との間の直接的社会的相互作用の分析。ビヒクル又はBMS-204352で処置した野生型マウス及びFMR1 KOマウスの社会的行動を調べた(n=9/群)。FMR1 KOマウスは、コントロール動物と比較して雌に対する社会的関心が欠乏しているが、BMS-204352(2mg/kg)の注射は、FMR1 KOマウスの社会的相互作用を有意に増大させ、野生型コントロールに対しては有意に影響しなかった。
図6:非社会的新奇嗜好性を試験するためのY字迷路を用いるマウス行動の分析。ビヒクル又はBMS-204352で処置した野生型マウス及びFMR1 KOの新奇嗜好性を調べた(n=9/群)。FMR1 KOマウスは、野生型マウスコントロールより有意に低い新奇環境に対する関心の欠乏/欠如を示す。BMS-204352(2mg/kg)の注射は、FMR1 KOマウスが新奇環境中で過ごす時間を有意に増加させた。
【0025】
図7:インビボ大脳磁気共鳴分光法(MRS)。MRSをインビボで海馬について成体fmr1 koマウス 対 コントロールで行った。結果は、幾つかの大脳代謝物の脱調節を明確に示す。図7(パネルA)に示されるように、Frm1 koマウスは、コントロールより有意に低いグルタミン酸レベルを示す。この観察は特に興味深い。なぜならば、このことが、FXS表現型にグルタミン酸作動性シナプスの機能不全が関与しているとする仮説を確証するものであるからである。第二段階として、本発明者らは、これらパラメータに対するBMS-204352の効果を調べた。BMS-204352の注射(行動研究についてと同様に成体マウスにおいて単回用量)は、(コントロールレベルに復帰する)グルタミン酸レベルの増加を誘導した。再び、このことは、FXS表現型が機能異常の結果であって構造異常の結果ではないことを示唆する。第二の観察として、イノシトールレベルの大幅な増大がko fmr1マウスで観察された(パネルB)。大脳イノシトールは星状膠細胞(グルタミン酸合成に関してニューロンと共働することが知られる)の活性化のマーカーであるので、FXS症候群は星状膠細胞の化合物により構成されるといえる。確証として、本発明者らは、活性化した星状膠細胞でアップレギュレートされることが知られるGFAP(グリア線維酸性タンパク質)の発現(mRNA)及びタンパク質プールが共にfmr1 koマウスで増大することを示した。したがって、星状膠細胞の反応性がFXS表現型に寄与しているようである。幾つかの他の大脳代謝物を調べ、BMS-204352がシナプス欠損を回復させることを証明した。
【0026】
図8:BMS-204352の存在下で成熟したインビトロ樹状突起スパイン。fmr1 koニューロンの初代培養物により、樹状突起スパインが成熟していないことが証明された(スパインは長く、屈曲して細い)(パネルA)。この観察は文献(Irwinら,2008;Bilousovaら,2009)と一致している。しかし、培地へのBMS-204352(10μM)の慢性添加により、樹状突起スパインの成熟が誘導される(パネルB)。これらは短くて大きい。この観察により、BMS-204352はfmr1 koニューロンの形態学的欠陥を改善することが証明された。
【0027】
ここからは、例証として、本発明者らが企図した具体的態様を説明する。以下の説明では、十分な理解を提供するために、多くの具体的詳細を記載する。しかし、本発明がこれら具体的詳細に限定されることなく実施され得ることは当業者に明らかである。他の例では、説明を不必要に妨げないように周知の方法及び構造は記載していない。
【0028】
材料及び方法
−ウェスタンブロット
興味対象のタンパク質をウェスタンブロットで検出した。マウス脳又はヒトリンパ芽球様細胞をRIPA緩衝液[NaCl 0,15M、EDA 1mM、Tris 10mM、Nonidet P40 1%、SDS 0,2%]中でホモジネートし、氷上で10分間インキュベートした後、11 000gにて20分間4℃で遠心分離した。上清のタンパク質含量を、BCAタンパク質アッセイ(Pierce)を用いて定量した。60μgのタンパク質を、12% SDS-ポリアクリルアミドゲルにロードした。次いで、タンパク質をニトロセルロースメンブレンにブロットした。ブロッキング(0.1% Tween 20及び10%脱脂粉乳を含有するTris-緩衝化生理食塩水、TTBS)後、メンブレンを、TTBS1×中1:2000に希釈した抗-FMRP又は抗-KCNMA1(それぞれ、scbt-28739、Santa Cruz biotechnology及びAPC-021、Alomone)と共に4℃にて一晩インキュベートした。TTBS1×での洗浄後、二次抗体(Amersham Biosciences)を1:4000にて1時間インキュベートした。免疫陽性シグナルを、ECL plus chemiluminescence detectionキット(Amersham Biosciences)を用いて検出した。次いで、ブロットを剥ぎ取り、抗-GAPDH抗体(Abcam)で再探索した。免疫反応性バンドの定量は、Image J(Image J Software)を用いて行った。各ブロットについて1回あたり2サンプルを取り、抗体あたり3ブロットを行った。
【0029】
−発現アッセイ
RNA単離
凍結脳組織サンプルをTRIZOL試薬(Invitrogen Life Techonolgies,Carlsbad)中でホモジネートした。トータルRNAを、標準的なクロロホルムプロトコルを用いて抽出した。RNA完全性は、Applied 2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies,Foster City)でRNA 6000 Nano LabChipsを用いて評価した。RNA純度は、NanoDrop ND-1000(NanoDrop Inc,Wilmington)を用いて、260nm及び280nmでの分光光学的吸光度の比(A260/280nm)により評価した。全てのチップを製造業者の指示に従って調製した。トータルRNA分解は、電気泳動像の検討及び保存された18S及び28Sピークの定量により評価した。
【0030】
EXON1.0 Affymetrix
GeneChip(登録商標) WT(Whole Transcript)Sense Target Labelling and Control Reagentsキット(Affymetrix)を製造業者が記載しているように用いて、cDNAをトータルRNAから合成した。次いで、センスcDNAを、UDG(ウラシルDNAグリコシラーゼ)及びAPE 1(アプリン/アピリミジンエンドヌクレアーゼ1)により断片化し、GeneChip(登録商標) WT Terminal labelling kit(Affymetrix,Santa Clara,USA)を用いてTdT(末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ)でビオチン-標識した。5μgのビオチン化標的を、GeneChip(登録商標) Human Exon 1.0 STアレイ(Affymetrix)と共に45℃にて16〜20時間インキュベートして、ハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション後、非特異的に結合した物質を洗浄により除去し、GeneChip(登録商標) Hybridization, Wash and Stainキット及びGeneChip(登録商標) Fluidics Station 450(Affymetrix)を用いて特異的に結合した標的の検出を行った。GeneChip(登録商標) Scanner 3000 7G(Affymetrix)を用いてアレイをスキャンし、スキャン画像から生データを抽出し、Affymetrix Power Toolsソフトウェアパッケージ(Affymetrix)で分析した。マイクロアレイデータをGene Expression Omnibus Databaseに蓄積した。
【0031】
リアルタイム定量PCR
試験した各遺伝子について、Agilent Biosystem technologiesの市販プライマー及びTaqManプローブを使用した。1×PCR buffer Master Mix(Applied Biosystems)及びcDNAを含有する50μl容量でPCRを行った。TaqManアッセイについては、増幅反応は、最初に、95℃まで10分間加温し、次いでMx3005p(Agilent Biotechnology,Agilent)中で45サイクルの94℃での15秒間、60℃での30秒間及び72℃での30秒間に供した。72℃工程の間に蛍光データを集めた。PCR閾値サイクル(Ct)(これは、蛍光がベースラインの標準偏差(SD)の10倍に達するフラクションサイクル数として定義される)をソフトウェアで決定した。二連の標準物及び臨床サンプルについての平均Ctをソフトウェアにより算出した。平均Ct 対 log10(標準コピー数)の回帰分析により標準曲線式を算出した。臨床サンプル中のウイルスコピー数をデータ分析ソフトウェアにより自動的に算出した。
これらアッセイにおいて、プライマーセットKCNMA1:Mm00516078_m1及びFMR1:Mm00484415_m1をマウス研究で使用し、KCNMA1:Hs00266938_m1及びFMR1:Hs00924547_m1をヒト研究で使用した。共にAgilent Biosystem technologiesから入手した。
【0032】
行動試験手順
3つの行動試験を12週齢のマウスについて行った。試験は、雌との直接的社会的相互作用試験、社会性についての3区画試験及びY字迷路における自発変更であった。2つの実験群(共にn=10)を調べた:ビヒクル群(DMSO 1/80、Tween 80 1/80、生理食塩水溶液)及びBMS-204352処置群(BMS-204352(2mg/kg)を含有するDMSO 1/80、Tween 80 1/80、生理食塩水溶液)。各溶液の投与は、3試験の30分前に行った。
【0033】
雌との直接的社会的相互作用
装置
直接的社会的相互作用は、3cmのおがくず及び17×8cmの中央開口部を有するプラスチック製屋根を備えた30×15×22cmのプラスチックケージで評価した。

手順
実験マウス及び刺激マウスを従前のとおり実験室に慣らせた。次いで、各実験マウスを試験ケージに導入し、慣れさせるために5分間放置した。次いで、見慣れない刺激マウス(NMRI成体雌)を天井の開口部から試験ケージに導入した。試験期間は3分間継続したが、攻撃的な出来事が生じたら直ぐに終了した。次の試験期間との間で試験ケージを水で清浄し、おがくずを新しくした。試験期間をビデオで記録し、Observer XT(version 7,Noldus,The Netherlands)で実験動物のみを考慮して分析した。動物の遺伝子型を知らない1人の観察者が、以下の行動カテゴリー及び要素の各々について頻度及び持続時間を採点した:
【0034】
測定変量
親和行動:パートナーの頭、鼻、肛門領域又は他の身体部分を嗅ぐ動作;対他毛づくろい(パートナーの毛づくろい);下に潜り込んで/上に乗りかかってパートナーの身体を一方の側から他方の側へ横切る動作
非社会的行動:立ち上がり動作(時にはケージの壁に前肢を付いて、後肢で立ち上がること)及び掘る動作。自己毛づくろい(動物が自身の毛を舐める)に費やす時間を別途に分析する。なぜなら、これは時に、反復行動を表すと考えられるからである。
【0035】
3区画試験における社会性及び社会的新奇性に対する嗜好性
装置
ここで用いた試験装置は、他者(Moyら,2004)が以前に記載したものに類似している。装置は3つの区画から成るものであった:小さな矩形開口部(15×5cm)を通じて各側で別の区画(45×20×25cm)に接続した中央チャンバ(45×18×25cm)。全ての区画の床及び壁(1cm厚)は透明なプレキシガラスから作られていた。各側の区画は、プラスチック製屋根(高さ5cm)で覆われた、ワイヤメッシュ(孔サイズ:0.7×0.7cm)で作られた丸い刺激ケージ(直径10cm、高さ7cm)を含んでいた。刺激ケージを安定に維持するために、屋根に金属製錘を取り付けた。各刺激ケージを背後の壁から6cmで両側から4cmの距離に配置した。装置中央上部のカメラからの追跡画像を、Ethovision(Version 3.1,Noldus Technology,Wageningen,The Netherlands)で分析した。
【0036】
手順。
実験マウス及び刺激マウス(4週齢のNMRI雄性マウス)を、おがくず、食餌及び給水瓶を備えた標準ポリカーボネートケージに個別に収容し、実験室に平穏に10分間放置した後、試験を始めた。次いで、各実験対象を中央区画の真ん中に導入し、各5分間の3回の試行の間に装置を探索させた:
試行1(慣らし):刺激ケージは空であった;探索行動の基本レベルを評価した。
試行2(社会性):刺激マウスを一方の刺激ケージに導入しつつ、新奇な物体(プラスチック製の灰色円筒、直径6cm、高さ2cm)を反対側のケージに導入した(どちらの側にするかは実験群内で釣り合いを取らせた);探索の嗜好性を社会的刺激 対 非社会的新奇刺激で測定した。
試行3(社会的新奇嗜好性):試行2と同様ではあるが、物体を新奇刺激マウスに交換した;探索の嗜好性を新奇刺激 対 慣れた社会的刺激で測定した。
【0037】
各試行の終時に、2つのプレキシガラス製磁気扉を用いて実験動物を中央区画に30秒間拘束した。3回目の試行の終時に、装置並びに物体及び刺激ケージを水で清浄し、乾燥させた。測定変量。各接触領域(刺激ケージを含む20622cm領域(図1を参照))で過ごした時間を測定することにより各刺激の探索を評価した。最後の2つの試行についてはパーセンテージスコアもまた、以下のとおり計算した:
試行2について:社会性スコア=1006T社会的刺激/(T社会的刺激+T非社会的刺激),
試行3について:社会的新奇嗜好性スコア=1006T新奇社会的刺激/(T新奇社会的刺激+T慣れた社会的刺激)
最後に、装置全体を移動した合計距離を各試行についてメートルで測定した。
【0038】
自発変更
装置
自発変更は、種々の余分な迷路手掛かりを含む部屋の真ん中に位置する高さ80cmのテーブル上に配置した灰色プラスチック製Y字迷路で評価した。Y字迷路の3つのアームは、外観が類似しており、互いに120cm離間していた。各アームは長さ42cm、幅8cmであった。迷路全体は、高さ15cm、厚さ0.5cmの壁に囲まれていた。迷路上部のカメラからの追跡画像を、Ethovisionで分析した。

手順
マウスを実験室に従前どおり慣れさせた後、アームの1つの端部に導入し、迷路を5分間探索させた。出発アームの割当は実験群内で釣り合わせた。測定変量。1つのアームへの進入は、動物の四肢全てがアームの内側に入った場合、動物の遺伝子型を知らない1人の観察者が採点した。こうして、動物が次の一連のアーム選択:A、B、C、B、A、B、C、Aを行ったときには、変更機会の総数を6とし(総進入−2)、変更パーセンテージを67%とする(4/6)。
【0039】
磁気共鳴分光法
マウスを特注デバイスに配置して頭部を固定した。MR実験の間、動物を1.5%イソフルラン及びO2/N2O混合気(1:1)で0.7L/分の出力にて麻酔した。全実験期間中、空気枕を用いて呼吸による動きを制御した。マウスの体温を温水循環により一定に維持した。950mT/mグラジエントセットを備えた、小動物撮像専用の7T水平ウルトラシールド冷凍マグネット(94/20 USR Bruker Biospec,Wissembourg,France)でMR分光を行った。1H送信及び受信の両方にBruker 35mm内径のバードケージコイルを使用した。最初に、興味対象のボクセル(VOI)を位置決めするために、偵察撮像(scout images)を、RAREシーケンスを用いて下記のパラメータで行った:TR/TE = 5秒/56ミリ秒、レアファクター = 8、FOVサイズ = 2×2cm、マトリクスサイズ = 256×256、スライス厚 = 1mm(5分間について平面分解能で(78×78)μmを表示するため)。静B0均一性は、Bruker Fastmap手順(Gruetter 1993,MRM)で、海馬に中心を有する(3.5×3.5×3.5mmボクセル中の一次シム及び二次シムで調整した。組織水について達成した線幅は10Hz未満であった。PRESSシーケンス(Point Resolved Spectroscopy;点解像分光法)を使用して、VAPOR(Variable Pulse power and Optimized Relaxation delays;可変パルスパワー及び最適化緩和遅延)モジュールを用いる水抑制及び外体積抑制で、下記のパラメータ(TR = 4秒、TE = 16ミリ秒、256スキャン:17分、2048点、バンドパス = 4000Hz)で、高速地図(fastmap)ボクセル中に位置する立方(3×3×3)mmボクセルにおいて位置決めした1Hスペクトルを記録した(Tkac I.,MRM 1999)。スペクトル取得の間、渦電流補償及び静磁場ドリフト補正を適用した。1HスペクトルをWT及びKOについてBMS-204352有り又は無しで収集した。次いで、時間ドメイン(ベースライン修正、位相整合、零充填)で動作するJMRUI 3.0ソフトウェア(http://www.mrui.uab.es/mrui/)で分析した。AMARESモジュール(JMR1997,129,35-43,VanhammeLら)を使用して9つの脳代謝物を定量した:N-アセチル-アスパラギン酸(NAA)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、γ-アミノ酪酸(GABA)、クレアチン(Cr)、コリン(Cho)、ミオ-イノシトール(Ins)、タウリン(Tau)及び乳酸(Lac)。コントロール又はkoで得られた代謝物濃度を、t検定又は分布がガウス分布でない場合にはマンホイットニー検定を用いて対応させて比較した。
【0040】
電気生理学
3人の脆弱X症候群(FXS)患者及び4人の年齢適合対照個体から得たリンパ芽球様細胞株でK+電流の全細胞記録を得た。細胞を洗浄し、3回遠心して、下記から構成された生理学的食塩水溶液(PSS)中に懸濁した:(mM) NaCl 137;KCl 4;CaCl2 1.8;MgCl2 1;グルコース10;Hepes緩衝液10;pHはNaOHで7.4に平衡化した。次いで、これら細胞のアリコートを、1.5mLのPSSを含むペトリ皿に配置した。次いで、細胞を含むペトリ皿をElipse TE-300 Nikon顕微鏡のステージ上に配置した。細胞近傍に降ろした平行パイプシステムにより、細胞を実験溶液で覆った。細胞を、下記(mM):K-グルタミン酸125;KCl 20;CaCl2 0.7;Mg-ATP 1;EGTA 1;Hepes-緩衝液10を含み;pHをKOHで7.2に平衡化した(BKCa電流を活性化するための)400nMのCa2+フリーピペット溶液で細胞内灌流した。ピペットチップ抵抗は4〜6MΩの範囲であった。-70mVの一定の保持電位からの8mVの脱分極ステップ(500ミリ秒継続、5秒間隔)により巨視的K+電流を発生させた。BKCa電流は、100nMイベリオトキシン(IbTx)又は10μMパキシリン(Pax)(共にBKCaチャネルの選択的遮断薬)により阻害される外向き電流として規定した。各細胞のキャパシタンスを見積もった後、IbTx-及びPax-感受性電流を電流密度(pA/pF)として表わした。電位クランププロトコル及びデータ取得は、pClamp V 9.0ソフトウェア(Axon Instruments,Union City,CA,USA)で制御した。全ての実験は室温で行った。全てのデータは平均±SEMとして表わす。群間の統計学的比較は、Prism V 5.0(GraphPad)を用いて、二元配置反復測定ANOVA、引き続いてボンフェローニ事後検定を実施した。有意性はp<0.05に設定した。
【0041】
ニューロンの初代培養
fmr1koマウスニューロン及び野生型マウスニューロンの初代培養物をE15マウス胚から以前(Ethellら2001)に記載された方法に変更を加えて調製した。簡潔には、機械的解離後、E15マウス脳細胞を、ポリ-DL-リジン(ホウ酸緩衝液中0.5mg/mL)で予めコートしたカバーグラス上に配置した。5% CO2/10% O2湿潤インキュベーターにおいて、B27(Invitrogen)、25mMグルタミン酸及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンを補充したNeurobasal培地中37℃にて14〜17日間、細胞を維持した。幾つかの海馬培養物を、D14に樹状突起スパインの観察のために、DiIで標識した。全てのデータは平均±SEMとして表わす。群間の統計学的比較はスチューデントのt検定で行った。有意性はp<0.05に設定した。
【0042】
結果
1.ヒトFXS及び非-FXS対象者におけるタンパク質、mRNA及び電気生理学的BKCaレベル
ニューロンの翻訳調節因子としてのFMRPの中心的役割は、その機能のいかなる変化も、他のタンパク質の翻訳の妨害に寄与し、よってこの妨害カスケードを介して当該細胞のタンパク質プロフィールを変化させることを意味する。
この効果は、FMR1 KOマウス(FXSのマウスモデル)に由来するニューロンの初代培養物において、明らかに示されている(Liao Lら,105:15281-15286 PNAS(2008))。観察された変動のうち、KCNMA1タンパク質レベルの50%減少が最も顕著であるようである。しかし、この観察はヒトで検証されておらず、したがって本発明者らの最初の段階は、FXSを患うヒト患者における異常の存在を確かめることであった。
第1の実験セットにおいて、DNAマイクロアレイEXON1.0 Affymetrix(GENOTRANS)を用いて、遺伝子FMR1及びKcnma1についてトランスクリプトーム分析を行った。結果をRT-PCR(7900 HT,Applied Biotechnology)により確証した。
簡潔には、患者(FXS)及び健常コントロールからのRNAをリンパ芽球様細胞株から抽出した。
【0043】
図1Aに示すように、FMR1発現はFXS患者において95%を超えて低下した。このことは脆弱X症候群の表現型を確証する。更に、患者と健常コントロールとの間で、KCNMA1遺伝子のmRNAレベルの20%減少が観察された。
プロテオーム分析も、同じリンパ芽球様細胞株からのタンパク質抽出物を用いて、FMRP及びKCNMA1についてウェスタンブロットにより行った。この分析は、FXS患者におけるタンパク質KCNMA1の45%を超える減少を示した(図1B)。この減少は、Liao Lら,105:15281-15286 PNAS(2008)によりFMR1 KOマウスで観察されたものに匹敵した。しかし、発現プロフィールは、fmr1 koマウスとヒトFXSとの間で異なる。電気生理学的分析をFXS及び非-FXSヒトリンパ芽球様細胞について行った。この分析により全細胞BKCa活動度の50%減少が証明された。したがって、このタンパク質の欠損はBKCaの電気的機能不全を導いている。
したがって、結論として、本発明者らは、FXS患者におけるKCNMA1(BKCa)の異常を証明した。KCNMA1の異常性が脆弱X症候群で見出され、自閉症患者でも見出される(Laumonnierら,2006;特許WO2005/008249)ことは驚くべきことである。実際、これら病状は、DSMIV分類及びICD10分類(自閉症:ICD10 F84.0;FRAXA:ICD10 Q99.2)に示されているように厳密には異なる。このことは大いに興味深い。なぜなら、脆弱X症候群は、遺伝的に特徴付けられた起源を有する症候性精神遅滞の主要な形態であるからである。
【0044】
文献に基づけば、FXS症候群におけるKCNMA1(BKCa)タンパク質の量の改変は関連がないようである。実際、Hu及び共同研究者らはBKCa活動度の変調はシナプス機能に影響せず、シナプス欠陥を説明できないと示唆している(Huら,2001)。更に、この非関連性は、最近の2つの概説Berry-Kravis及びLee(Berry-kravisら,2011;Leeら,2012)に、FXSにおける治療標的としてBKCa経路が記載されていないことによって確証される。事実、Berry-kravisらの論文では、BKCa経路ではなく、mGlur1/5、MMP9,GSK3β、GABA及びAMPA経路が、FXSの単なる推定の治療法として記載されている。同様に、Leeらは、FXSの生理病理学における幾つかのカリウムチャネル(slack、Kv3.1など…)の役割を調べており、BKCaについては議論されていない。
結果は、BKCaがFXSの全く革新的な治療標的であることを明確に証明する。事実、BMS-204352によるBKCaチャネル活性の特異的変調が大脳機能を改変し、(下記に示す磁気共鳴分光の結果により証明されるように)「正常な」大脳活動に戻すことができることを初めて証明した。これら結果は、本研究の革新性に完全に関連し、これを特徴付ける。
したがって、本発明者らは、BKCaチャネルを開口させることができる分子(例えばBMS-204352)をヒトFXSの治療剤として使用し得るかどうかを試験した。
【0045】
2.FMR1 KOマウスに対するフルオロ-オキシインドールの効果の研究
2.1 表現型研究
FMR1 KOマウス及びFXS患者で観察された行動の類似性により、このマウス系統は、FXS症候群の行動的特徴を研究するための良好なモデルとなる(The Dutch-Belgian Fragile X Consorthium 1994、及びCrusio Bernardet 2006)。
FMR1 KOマウスは、Centre de Neurosciences Integratives et Cognitives - CNRS UMR5228から入手可能である(S Pietropaolo and W Crusio)。
これは、「The Dutch-Belgian Fragile X Consortium(1994)」の標準プロトコルによって、FMR1遺伝子のエキソン5にネオマイシンカセットを相同組換えにより挿入して当該遺伝子を不活化することで得られた系統である。
表現型の観点から、FMR1 KOマウスはFXS対象者の特徴を示す。よって、雄性マウスはヒトFXS対象者に類似する巨睾丸症を有し、また類似の行動、例えば、不安レベルの増大、紋切り型/反復性行動及び社会的相互作用の障害)を示す。
【0046】
本発明者らはまた、FMR1及びKCNMA1の遺伝子発現/遺伝子産物を分析することによりこのマウスモデルを分子的観点から検証した。
図2に示すように、本発明者らは、野生型マウスが、調べた組織(脳、精巣、肝臓)にかかわらず、FMR1 KOマウスと比較して、FMR1遺伝子の発現レベルの顕著な増大を示すことを観察した。FMR1 KOマウスにおいて残存するFMR1遺伝子の発現は、おそらく、非翻訳FMR1 mRNAの「スプライシング」形態に対応しており(Huangら,1996)、野生型マウスとFMR1 koマウスとの間で発現に差がないことを示す。このことは、KCNMA1 mRNAがFXS患者で脱調節されているヒト状態では異なる。
【0047】
対照的に、ヒトで観察されるものと類似して、KCNMA1遺伝子は脳及び精巣で高度に発現され、他の組織ではあまり発現されず(図2B)、野生型マウスとFMR1 KOマウスとの間で発現に差がないことが示される。しかし、タンパク質KCNMA1の量は共に、fmr1 koマウスと同様に、ヒトFXSで減少している(約45%)。このことは、FMRPの低下が両方の場合でKCNMA1 mRNAの翻訳の減少を導くという理論の妥当性を示す。このタンパク質の機能不全は、全細胞BKCa電気的活動度の50%減少を導く(図1)。しかし、タンパク質KCNMA1の産生量は、FMR1 KOマウス脳で42%減少する(図2C及びD)。このことは、FMRPの低下がKCNMA1 mRNAの翻訳減少を導くという理論の妥当性を示す。
FMRPに関してBKCaチャネルの動作をより良く理解するための対応する一連の実験で、本発明者らは、野生型マウスにおけるFMRP及びKCNMA1の脳内分布を免疫組織学的に調べた。
図3から、BKCaチャネルは小脳においてプルキンエ細胞で発現する(右パネルC及びD、矢印)が、皮質、脳幹及び海馬でも発現する。更に、FMRPは、脳で、ニューロン内部に専ら位置している(図3、左カラム)。
【0048】
2.2 行動研究
分子BMS-204352の治療効果を研究するため、本発明者らは、FXS患者及びFMR1 KOマウスにおける障害、すなわち社会的相互作用に対して最も影響する行動パラメータに着目した。
これは、以前にPietropaoloら(2011)により記載された3つの行動試験を用いて、当該著者らとの共同で達成された:
1.社会的嗜好性試験(クローリー試験)、
2.直接社会的相互作用(雌との相互作用)についての試験、及び
3.Y字迷路を用いる新奇なものに対する嗜好性。
これら実験の各々を、2mg/kgのBMS-204352の腹腔内注射をした又はしない成体雄性マウス(3.5カ月)を用いて行った。
【0049】
2.2.1 クローリー試験
この試験では、マウスを、「刺激」と呼ぶ2匹の他のマウスが存在する環境に導入する。
刺激マウスの一方は被験マウスにとって既知であり、第2のマウスは全く未知である。
測定パラメータは、2匹の刺激マウスの各々と過ごした時間である。野生型マウスは、未知のマウスとより長い時間を過ごすと予想される。.
図4に示したデータは、次のことを示す:
a.野生型マウスと非処置マウスkb FMR1との間で「社会的相互作用」に差(p = 0.036)が存在する(図4A)、
b.成体FMR1 KOマウス(3.5カ月)への単回用量(2mg/kg)のBMS-204352注射は、新たなマウスへの関心を有意(p = 0.037)に改善した(図4B)、
c.統計学的分析により、処置した野生型マウスと処置していない野生型マウスとの間に有意差はない(p = 0.22)ことが示される(図4C)、
d.FMR1 KOマウスで観察された改善は、全体的自発運動が増加した結果ではない(図4D)。
【0050】
2.2.2 雌との相互作用試験
この試験では、別系統ではあるが同週齢の雌性マウスを試験マウスの環境中に導入した。
5分間にわたって試験マウスの親和行動(嗅ぎ行動、毛づくろい...)を記録する。
図5に示したデータは以下のことを示す:
1.非処置野生型マウスと非処置FMR1 KOマウスとの間で「直接社会的相互作用」に差(p = 0.04)が存在する
2.成体FMR1 KOマウスへの単回用量(2mg/kg)のBMS 204 352注射は、社会的相互作用を有意(p = 0.04)に改善する。
【0051】
2.2.3 Y字迷路試験
この試験は、(最初はアームの1つを閉じた)Y字迷路に被験動物を配置することを含んだ。
最初に迷路に5分間慣らした後、第3のアームを開き、新たなアーム内で過ごす時間を記録する。
図6に示したデータは以下のことを示す:
1.非処置野生型マウスと非処置マウスFMR1 KOとの間で「新奇なものに対する嗜好性」の差(p = 0.04)が存在する
2.成体FMR1 KOマウスへの単回用量(2mg/kg)のBMS-204352注射は、新奇なものに対する嗜好性を有意(p = 0.04)に亢進させる
【0052】
よって、成体雄性FMR1 KOマウスへの単回用量のBMS-204352注射は、3つの異なる行動試験における成績を有意に改善する。この結果は、認識及び行動の異常がBKCaの異常性に少なくとも部分的に関連し、したがってBKCa機能不全の影響を緩和する治療が、認識及び行動の異常をも軽減させることができるとする本発明者らの仮説を確証する。
インビトロ大脳磁気共鳴分光(MRS)(図7)を海馬について、成体fmr1 koマウス 対 コントロールで行った。結果は、幾つかの大脳代謝物の脱調節を明確に示し、FXS表現型におけるグルタミン酸作動性シナプス機能不全の関与という仮説を確証する。事実、グルタミン酸濃度はfmr1 koマウスで有意に減少している。BMS-204352の注射(行動研究と同様に、成体マウスに単回用量)は、グルタミン酸レベルの増加を誘導した(グルタミン酸レベルたはコントロールレベルに復帰する)。したがって、本発明者らは、FXS表現型の一部が、機能異常、特にグルタミン酸作動性シナプスの機能異常の結果であり、構造異常の結果ではないことを証明した。Huら(2001)の知見とは対照的に、本発明者らは、BKCaチャネルの特異的標的化がグルタミン酸作動性シナプス機能の変調を導くことを証明した。BMS-204352はこのシナプス機能を、BKCaに対する特異的作用を通じて改善する。
【0053】
インビトロにおける樹状突起スパインの成熟をBMS-204352の存在下で試験した。fmr1 koニューロンの初代培養物により、樹状突起スパインの未成熟が証明された。培地へのBMS-204352(10μM)の慢性添加によりこの未成熟は救済され、樹状突起スパインの成熟が誘導される。この観察により、BMS-204352はfmr1 koニューロンの形態学的欠陥を改善することが証明された。
更に、成体マウスの単回用量での処置後に改善が観察されたことにより、行動上の脳機能は、全体的又は部分的に、BKCaチャネルの異常機能の結果であって構造変化の結果でないことが示唆される。
これら結果に基づいて、本発明者らは、Huらとは対照的に、BKCa活性の変調がグルタミン酸作動性シナプス機能に対して直接的結果を有し、BKCa特異的チャネル開口剤分子の使用が脆弱X症候群の良好な治療を構成するとの意見である。更に、2つの異なるチャネル開口剤分子を試験し(BMS-20452及び1-EBIO)、共に救済された表現型を証明した。
したがって、本発明らは、FXSを治療する可能性の高い方法の基礎を提供する。
【0054】
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図3
図7
図1
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図5
図6
図8