特許第6012749号(P6012749)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6012749放射線硬化可能なエッチング抵抗性インキジェットインキ印刷
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012749
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】放射線硬化可能なエッチング抵抗性インキジェットインキ印刷
(51)【国際特許分類】
   C23F 1/00 20060101AFI20161011BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20161011BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20161011BHJP
   B41M 5/50 20060101ALI20161011BHJP
   B41M 5/52 20060101ALI20161011BHJP
   C08F 20/28 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   C23F1/00 102
   C09D11/30
   B41M5/00 A
   B41M5/00 E
   B41M5/00 B
   C08F20/28
【請求項の数】12
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2014-542899(P2014-542899)
(86)(22)【出願日】2013年1月18日
(65)【公表番号】特表2015-507079(P2015-507079A)
(43)【公表日】2015年3月5日
(86)【国際出願番号】EP2013050943
(87)【国際公開番号】WO2013113572
(87)【国際公開日】20130808
【審査請求日】2014年5月22日
(31)【優先権主張番号】12153196.6
(32)【優先日】2012年1月31日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/593,338
(32)【優先日】2012年2月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504376795
【氏名又は名称】アグフア−ゲヴエルト
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】特許業務法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シユメト,シユテフアン
(72)【発明者】
【氏名】ズツテルマン,フレデイ
(72)【発明者】
【氏名】フエルメールス,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ロキユフイエ,ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】ウイレムス,アン
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−507610(JP,A)
【文献】 特開2011−200763(JP,A)
【文献】 特開2012−001587(JP,A)
【文献】 特開2011−001461(JP,A)
【文献】 特表2006−506511(JP,A)
【文献】 特開2010−053177(JP,A)
【文献】 特開2009−235272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 1/00− 4/04
B41M 5/00
C09D 11/00−11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)金属表面上にフリーラジカル硬化可能なインキジェットインキを印刷し、硬化させることにより金属表面上に保護領域を形成し;
b)エッチングにより金属表面の非保護領域から金属を除去し;そして
c)硬化したフリーラジカル硬化可能なインキジェットインキを、金属表面の保護領域から少なくとも部分的に除去する
段階を含み、フリーラジカル硬化可能なインキジェットインキがフリーラジカル硬化可能なインキジェットインキの合計重量に基づいて少なくとも70重量パーセントの重合可能な組成物を含むことを特徴とし、
ここで重合可能な組成物は酸素分率OFR>0.250及び加重重合可能官能価WPF>0.0050を有し、
ここで
【数1】
であり、
n=重合可能な組成物中の異なる化学構造式を有する重合可能な化合物の数;
O,i=重合可能な化合物i中の酸素原子の数;
P,i=重合可能な化合物i中の重合可能な基の数;
MWi=重合可能な化合物iの分子量;
%wtiフリーラジカル硬化可能なインキジェットインキの合計重量に基づく重合可能な化合物iの重量パーセンテージ;及び
%wtPフリーラジカル硬化可能なインキジェットインキの合計重量に基づく重合可能な組成物の重量パーセンテージであり、且つ
ここで重合可能な組成物は、エチレン性二重結合を有し、且つその分子中にリン酸エステル基又はカルボン酸基を含む重合可能な化合物を含有しない
インキジェット印刷方法。
【請求項2】
フリーラジカル硬化可能なインキジェットインキの印刷の前に金属表面を清浄化する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
金属表面が銅を含有する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
硬化したフリーラジカル硬化可能なインキジェットインキを、段階c)においてアルカリ性ストリッピング浴により保護領域から除去する請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
硬化したフリーラジカル硬化可能なインキジェットインキを、段階c)において乾式剥離により保護領域から除去する請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
フリーラジカル硬化可能なインキジェットインキが着色剤を含む請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載のインキジェット印刷方法を含む導電性パターンの作製方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1つに記載のインキジェット印刷方法を含むエッチングされた装飾的金属パネルの作製方法。
【請求項9】
フリーラジカル硬化可能なインキジェットインキの合計重量に基づいて少なくとも70重量パーセントの重合可能な組成物を含む、エッチレジストのためのフリーラジカル硬化可能なインキジェットインキであって、
ここで重合可能な組成物は酸素分率OFR>0.250及び加重重合可能官能価WPF>0.0050を有し、
ここで
【数2】
であり、
n=重合可能な組成物中の異なる化学構造式を有する重合可能な化合物の数;
O,i=重合可能な化合物i中の酸素原子の数;
P,i=重合可能な化合物i中の重合可能な基の数;
MWi=重合可能な化合物iの分子量;
%wtiフリーラジカル硬化可能なインキジェットインキの合計重量に基づく重合可能な化合物iの重量パーセンテージ;及び
%wtPフリーラジカル硬化可能なインキジェットインキの合計重量に基づく重合可能な組成物の重量パーセンテージであり、且つ
ここで重合可能な組成物は、エチレン性二重結合を有し、且つその分子中にリン酸エステル基又はカルボン酸基を含む重合可能な化合物を含有しない
フリーラジカル硬化可能なインキジェットインキ。
【請求項10】
重合可能な組成物が1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、2−(2’−ビニルエトキシ)エチルアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、プロポキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート、プロポキシル化グリセリントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメチルアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート及びプロポキシル化トリメチロールプロパントリアクリレートより成る群から選ばれる少なくとも1種の重合可能な化合物を含有する請求項9に記載のエッチレジストのためのフリーラジカル硬化可能なインキジェットインキ。
【請求項11】
n個の重合可能な化合物すべてが25℃において40mPa.sより低い粘度を有する請求項9又は10に記載のエッチレジストのためのフリーラジカル硬化可能なインキジェットインキ。
【請求項12】
更に、酸素分率OF.250及び加重重合可能官能価WP0.0055を有する重合可能な組成物を有するフリーラジカル硬化可能なインキジェット銘記インキを適用する段階を含む、請求項7に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術的分野
本発明は、エッチング抵抗性である放射線硬化可能なインキジェットインキのインキジェット印刷に関する。
【背景技術】
【0002】
背景の技術
エッチングは、導電性パターン、例えば印刷回路板又は装飾目的のためのデザインを作製するために、化学品、通常は強酸又は腐蝕液を用いて金属表面の保護されていない部分を侵食する(cut into)方法である。
【0003】
印刷回路板は一般に、基質全体の上に銅の層を接着し、一時的なマスクを適用し、いらない銅をエッチングにより除去して望まれている導電性銅パターンのみを残すことにより作製される。
【0004】
エッチング抵抗性インキを銅箔上にスクリーン印刷することにより、一時的なマスクを作製することができる。スクリーン印刷法は本来、低い解像度を有し、ブリージング(bleeding)及び汚れのような不利な現象を避けるために比較的高い粘度を必要とする。
【0005】
一時的なマスクを与えるための別の方法は写真凸版で(photoengraving)ある。フォトマスクは通常、コンピューター−補助作製ソフトウェアを用いて透明フィルム上に画像をレーザー印刷することにより作製される。フォトマスクを介して銅箔上のフォトレジストコーティングを暴露した後、現像液が暴露されないフォトレジストコーティングを除去する。高解像度の導電性パターンを作製することができるが、この方法は余分のコスト及び廃棄化学品を生ずる。廃棄化学品を減少させる直接レーザー画像形成法が開発された。
【0006】
特許文献1(VIDEOJET)は、少なくとも2種のアクリレート成分を有し、その1つは側鎖カルボキシル基を有する芳香族アクリレートであり、そしてその1つはアクリレート化エポキシモノマーもしくはダイマーである樹脂調製物、光開始剤及び有機担体を含んでなる、回路板のインキジェット印刷のためのUV硬化可能なエッチング抵抗性インキを開示している。メタノール及びメチルエチルケトンの好ましい有機担体がインキ組成物の40重量%〜90重量%の範囲内で用いられる。これらの揮発性有機溶媒はインキジェットプリントヘッドの潜在的(latency)問題に導き、工業的環境プロセス(industrial environment process)において信頼できるインキジェット印刷を問題の多いものとしている。通常フォトレジストコーティングの作製に用いられるいくつかの芳香族アクリレート化合物は非常に高い粘度を有するので、有機溶媒の量を減少させることは高すぎるインキ粘度を生ずる。例えば特許文献1(VIDEOJET)のすべての実施例中で用いられるビスフェノールAエトキシル化ジアクリレート(PhotomerTM 4028)は、25℃において800〜1200mPa.sの粘度を有する。特に、工業において多くの異なるエッチング条件及びエッチング剤が用いられるので、印刷されるインキ層がエッチング抵抗性でありながら、エッチング後に容易に除去可能であるように、接着における優れたバランスを得るために、これらの芳香族アクリレート化合物は必須である。
【0007】
別の方法において、金属表面への接着を助長するために、重合可能な酸性化合物が放射
線硬化可能なインキに含まれる。例えば特許文献2(NISSHIN STEEL & TOKYO PRINTING INK MFG CO)は、特定の重合可能なリン酸エステル化合物、分子当たりに2個もしくはそれより多いエチレン性二重−結合基を有し、リン酸エステル基を有していない多官能基性モノマー及び分子当たりに1個のエチレン性二重−結合基を有し、リン酸エステル基もカルボキシ基を有していない一官能基性モノマーを含むことにより、金属板への優れた接着を有するエッチング抵抗性インキジェットインキを開示している。
【0008】
特許文献3(AVECIA)は、金属又は合金表面をエッチングするための方法を開示しており、それは金属又は合金の選ばれた領域にインキジェット印刷によりエッチング抵抗性インキを適用し、エッチング抵抗性インキを化学線及び/又は粒子線に暴露して重合させ、場合によりエッチング抵抗性インキを熱処理し、次いで化学的エッチングプロセスにより暴露された金属又は合金を除去することを含み、ここでエッチング抵抗性インキは実質的に無溶媒である。開示されたエッチング抵抗性インキのすべては酸性重合可能化合物を含む。
【0009】
特許文献4(MARKEM)は:着色剤;重合可能なモノマー;及び0.5〜1.5重量%の芳香族ケトン開始剤、2〜10重量%のアミン相乗剤、3〜8重量%のアルファ−開裂型光開始剤及び0.5〜1.5重量%の光増感剤を含んでなる光開始系を含んでなる放射線硬化可能なホットメルトインキ組成物を開示している。
【0010】
しかしながら、酸性の重合可能な化合物を含むことは、粘度の上昇ならびにインキ安定性及び硬化速度の低下のようないくつかの望ましくない副作用を有する。
【0011】
従って、(工業的)エッチングプロセスにおける信頼できるインキジェット印刷に適しており、且つ広範囲のエッチング剤及びエッチング条件に適用可能な改良された低粘度の放射線硬化可能なインキジェットインキに対する必要性が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5270368号明細書
【特許文献2】米国特許第2011024392 A号明細書
【特許文献3】国際公開第2004106437 A1号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2004462260 A2号パンフレット
【発明の概要】
【0013】
発明の概略
驚くべきことに、放射線硬化可能なインキジェットインキの合計重量に基づいて少なくとも70重量パーセントの重合可な能組成物を含み、ここで重合可能な組成物は最小限の酸素含有率及び架橋可能性(cross linking capability)を有するように制御され、且つ金属表面への接着を助長するための酸性モノマーの必要がない放射線硬化可能なインキジェットインキにより、上記で挙げた問題を解決できることが見出された。
【0014】
本発明の好ましい態様は、請求項1により定義されるインキジェット印刷方法により実現された。
【0015】
本発明のさらなる目的は、下記の記述から明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義
「放射線硬化可能なインキ」という用語は、インキがUV線又はe−ビームにより硬化可能であることを意味する。
【0017】
「アルキル」という用語は、アルキル基中の炭素原子の各数に関して可能なすべての変形、すなわちメチル、エチル、3個の炭素原子に関して:n−プロピル及びイソプロピル;4個の炭素原子に関して:n−ブチル、イソブチル及び第3級−ブチル;5個の炭素原子に関して:n−ペンチル、1,1−ジメチル−プロピル、2,2−ジメチルプロピル及び2−メチル−ブチルなどを意味する。
【0018】
「一官能基性モノマー」という用語は、1個だけの重合可能な基、例えばアクリレート基を有するモノマーを意味する。
【0019】
「多官能基性モノマー」という用語は、2個、3個又はもっと多くの重合可能な基、例えば2個のアクリレート基と1個のビニルエーテル基を有するモノマーを意味する。
【0020】
「ポリアクリレート」という用語は、2個、3個又はもっと多くのアクリレート基を有するモノマーを意味する。
【0021】
インキジェット印刷方法
本発明に従うインキジェット印刷方法は:
a)金属表面上に放射線硬化可能なインキジェットインキを印刷し、硬化させることにより金属表面上に保護領域を形成し;
b)エッチングにより金属表面の非保護領域から金属を除去し;そして
c)硬化した放射線硬化可能なインキジェットインキを、金属表面の保護領域から少なくとも部分的に除去する
段階を含み、放射線硬化可能なインキジェットインキが放射線硬化可能なインキジェットインキの合計重量に基づいて少なくとも70重量パーセントの重合可能な組成物を含むことを特徴とし、
ここで重合可能な組成物は酸素分率(oxygen fraction)OFR>0.250及び加重重合可能官能価(weighted polymerizable functionality)WPF0.0050を有し、
ここで
【0022】
【数1】
【0023】
であり、
n=重合可能な組成物中の異なる化学構造式を有する重合可能な化合物の数;
O,i=重合可能な化合物i中の酸素原子の数;
P,i=重合可能な化合物i中の重合可能な基の数;
MWi=重合可能な化合物iの分子量;
%wti=放射線硬化可能なインキジェットインキの合計重量に基づく重合可能な化合物iの重量パーセンテージ;及び
%wtP=放射線硬化可能なインキジェットインキの合計重量に基づく重合可能な組成物の重量パーセンテージであり、且つ
ここで重合可能な組成物は、エチレン性二重結合を有し、且つその分子中にリン酸エステル(phosphoester)基又はカルボン酸基を含む重合可能な化合物を含有しない。
【0024】
酸素分率OFR及び加重重合可能官能価WPFを計算する方法を下記に例示する。放射線硬化可能なインキジェットインキが、放射線硬化可能なインキジェットインキの重合可能な組成物中に1種の重合可能な化合物を含有する場合、i及びnの値は両方とも1である。
【0025】
すべて放射線硬化可能なインキジェットインキの合計重量に基づいて、放射線硬化可能なインキジェットインキが%wtP=80重量%の重合可能な組成物を含有し、それがそれぞれ%wt1=30重量%及び%wt2=50重量%の量で存在する2種(n=2)のモノマーA及びBから成ると仮定する。
【0026】
モノマーAは186.21の分子量MW1を有し、4個の酸素原子(NO,i=4)及び2個の重合可能な基、すなわち1個のアクリレート基及び1個のビニルエーテル基を含有する2−(2’−ビニルオキシエトキシ)エチルアクリレートであり、NP,1=2である。
【0027】
モノマーBは242.27の分子量MW1を有するジプロピレングリコールジアクリレートであり、5個の酸素原子(NO,2=5)及び2個の重合可能な基、すなわち2個のアクリレート基を含有し、NP,2=2である。
これは:
OFR=[(15.9994x4x30)/(186.21x80)]+[(15.9994x5x50)/(242.27x80)]=0.129+0.206=0.335及び
WPF=[(2x30)/(186.21x80)]+[(2x50)/(242.27x80)]=0.0040+0.0052=0.0092
を与える。
【0028】
金属表面
金属表面の性質に制限はない。金属表面は、好ましくは銅、アルミニウム、ニッケル、鉄、錫、チタン又は亜鉛から成るが、これらの金属を含む合金であることもできる。非常に好ましい態様において、金属表面は銅から作られる。銅は高い導電率を有し、比較的安価な金属であり、それを印刷回路板の作製に非常に適したものとしている。
【0029】
金属表面は自立性であることができるか、あるいは支持体上に存在することができる。支持体は、PCB’sの作製において通常用いられるような非柔軟性支持体であることができるが、例えばポリエチレンテレフタレート又はポリイミドから作られる柔軟性基質であることもできる。
【0030】
装飾的金属パネルが作製される時、一般に自立性金属表面が用いられる。そのような装飾的金属パネルは、情報を与えることのような、純粋に装飾的である以外の目的に役立つことができる。例えばエッチング抵抗性放射線硬化可能インキジェットインキが人又は会社の名前のような情報として印刷され、次いで除去されて、艶消しのエッチングされた背
景上に光沢のある輝いた名前を生ずるアルミニウムネームプレートも、装飾的要素を含む装飾的金属パネルと考えられる。
【0031】
装飾的金属パネルの別の態様において、金属表面は自立性でなく、エッチングにより除去されると支持体の色又はその上の情報を露出する。
【0032】
インキジェット印刷法の好ましい態様において、金属表面は放射線硬化可能なインキジェットインキを印刷する前に清浄化される。金属表面が手で取り扱われ、手袋を装着しない時にこれは特に望ましい。清浄化は金属表面への放射線硬化可能なインキジェットインキの接着を妨げ得る塵粒及びグリースを除去する。
【0033】
エッチング
インキジェット印刷法の段階b)におけるような金属表面のエッチングは、エッチング剤の使用により行われる。エッチング剤は、好ましくはpH<3を有するか、又は8<pH<10の水溶液である。
【0034】
好ましい態様において、エッチング剤は2より低いpHを有する酸水溶液である。酸エッチング剤は、好ましくは硝酸、ピクリン酸、塩酸、フッ化水素酸及び硫酸より成る群から選ばれる少なくとも1種の酸を含む。
【0035】
当該技術分野において既知の好ましいエッチング剤には、Kalling’s No2、ASTM No30、Kellers Etch、Klemm’s Reagent、Kroll’s Reagent、Marble’s Reagent、Murakami’s Reagent、Picral and Vilella’s Reagentが含まれる。
【0036】
他の好ましい態様において、エッチング剤は9より高くないpHを有するアルカリ性水溶液である。アルカリ性エッチング剤は、好ましくはアンモニア又は水酸化アンモニウム、水酸化カリウム及び水酸化ナトリウムより成る群から選ばれる少なくとも1種の塩基を含む。
【0037】
エッチング剤は、二塩化銅、硫酸銅、フェリシアン化カリウム及び三塩化鉄のような金属塩を含有することもできる。
【0038】
エッチングは、好ましくは数秒〜数分、より好ましくは5〜100秒の時間枠内で行われる。エッチングは、好ましくは室温(20℃)で行われる。
【0039】
エッチングには、好ましくは残留エッチング剤を除去するための水を用いる濯ぎが続く。
【0040】
ストリッピング
エッチングの後、例えば電気的又は電子的装置が残る金属表面(導電性パターン)と接触できるようになるか、あるいはエッチングされた金属パネルの装飾的特徴が完全に見えるようになるように、硬化した放射線硬化可能なインキジェットインキを金属表面から少なくとも部分的に除去しなければならない。例えばトランジスタのような電子部品は印刷回路板上の導電性(銅)パターンと電気的に接触できなければならない。好ましい態様において、硬化した放射線硬化可能なインキジェットインキは、金属表面から完全に除去される。
【0041】
好ましい態様において、硬化した放射線硬化可能なインキジェットインキは、段階c)
においてアルカリ性ストリッピング浴により保護領域から除去される。そのようなアルカリ性ストリッピング浴は、通常pH>10を有する水溶液である。
【0042】
より好ましい態様において、硬化した放射線硬化可能なインキジェットインキは、段階c)において乾式剥離(dry delamination)により保護領域から除去される。この「乾式ストリッピング(dry stripping)」の方法は、印刷回路板の作製の分野において現在知られておらず、作製法においていくつかの生態学的及び経済的利点を導入する。乾式ストリッピングは腐蝕性のアルカリ性ストリッピング浴の必要性及びその本質的な廃液を取り除くのみでなく、より高い処理量を可能にもする。例えば接着性の箔及びロール−ツウ−ロールラミネーター−デラミネーター(roll−to−roll laminator−demaminator)の使用により、乾式ストリッピングを実施することができる。接着性の箔を最初にその接着面を以て金属表面上に存在する硬化した放射線硬化可能なインキジェットインキ上に積層し、続いて剥離させて、それにより硬化した放射線硬化可能なインキジェットインキを金属表面から除去する。ロール−ツウ−ロールラミネーター−デラミネーターによる剥離は数秒で行われ得るが、アルカリ性ストリッピングには数分かかる。
【0043】
工業的適用可能性
1つの好ましい態様において、本発明のインキジェット印刷方法はPCBのような導電性パターンの作製法において用いられる。導電性パターンは、酸素分率OFR>0.250及び加重重合可能官能価WPF0.0050を有する硬化した放射線硬化可能なインキジェットインキに対応する。
【0044】
酸素分率OFR0.250及び加重重合可能官能価WPF0.0055を有する重合可能な組成物を含むインキは、優れたエッチング抵抗性を示すが、ストリッピング性(strippability)を示さないことが見出された。これらのインキは印刷回路板の導電性パターンの作製のためのエッチング抵抗性インキとして役に立たないが、いわゆる「銘記インキ(legend ink)」としてそれらを用いることができる。銘記又はそれも既知である専門語(nomenclature)は、部品位置の組み立て(assembly)及び同定を助ける文字及び数字の形態にある。装置部品番号、配向又はピンワンロケーター(pin one locator)は通常白又は黄色の銘記インキを用いて印刷される。銘記インキジェットインキ及びエッチング抵抗性インキジェットインキを同時に銅板上に印刷し、導電性パターン又は銅回路部品を覆わない位置に銘記インキジェットインキを印刷することにより、より単純且つ原価効率の高い印刷回路板の作製法を実現することができる。
【0045】
はんだマスクは、印刷回路板(PCB)の銅の痕跡(copper traces)のための永久的な保護コーティングを与えるポリマー層であり、はんだが導電体間を架橋するのを妨げ、それにより短絡を防ぐ。はんだマスクは通常緑であるが、現在は多くの色で入手可能である。酸素分率OFR0.250及び加重重合可能官能価WPF0.0055を有する重合可能な組成物を含む銘記インキジェットインキも金属表面上にインキジェット印刷される好ましい態様において、はんだマスクは好ましくは半透明又は透明、最も好ましくは透明である。透明のはんだマスクを用いる利点は、銘記の文字及び数字を明確に読むことができることならびに銘記も引っ掻きに対して保護されることである。はんだマスクは、好ましくはエポキシ液であり、それはPCB上にシルク−スクリーン印刷される(silk−screened)。
【0046】
別の好ましい態様において、本発明のインキジェット印刷方法は、エッチングされた装飾的金属パネルの作製法で用いられる。この場合、通常金属のすべてが金属表面から除去されるわけではない。金属パネルは金属から成ることができるか、あるいは金属性表面を
有する何らかの種類の支持体であることができる。後者の場合、すべての金属を除去して支持体の色及び肌(texture)を現すことができる。エッチングは金属表面の光学的な性質における変化、例えば光沢の変化を引き起こす。金属表面から硬化した放射線硬化可能なインキジェットインキを除去した後、エッチングされた金属表面とエッチングされない金属表面の間に美的な効果が生まれる。エッチングによる美的な効果の他に、酸素分率OFR0.250及び加重重合可能官能価WPF0.0055を有する重合可能な組成物を含む1種もしくはそれより多い異なって着色された放射線硬化可能なインキジェットインキを金属表面上に印刷し、永久的に着色された装飾的特徴を生むことができる。
【0047】
放射線硬化可能なインキジェットインキ
本発明において、金属表面は、放射線硬化可能なインキジェットインキの合計重量に基づいて少なくとも70重量パーセントの重合可能な組成物を含む放射線硬化可能なインキジェットインキと組み合わされ、ここで重合可能な組成物は酸素分率OFR>0.250及び加重重合可能官能価WPF0.0050を有し、
ここで
【0048】
【数2】
【0049】
であり、
n=重合可能な組成物中の異なる化学構造式を有する重合可能な化合物の数;
O,i=重合可能な化合物i中の酸素原子の数;
P,i=重合可能な化合物i中の重合可能な基の数;
MWi=重合可能な化合物iの分子量;
%wti=放射線硬化可能なインキジェットインキの合計重量に基づく重合可能な化合物iの重量パーセンテージ;及び
%wtP=放射線硬化可能なインキジェットインキの合計重量に基づく重合可能な組成物の重量パーセンテージであり、且つ
ここで重合可能な組成物は、エチレン性二重結合を有し、且つその分子中にリン酸エステル基又はカルボン酸基を含む重合可能な化合物を含有しない。
【0050】
本発明に従う金属表面と放射線硬化可能なインキジェットインキの組み合わせを、重合可能な組成物が酸素分率OFR0.250及び加重重合可能官能価WPF0.0055を有する放射線硬化可能なインキジェット銘記インキとさらに組み合わせることができる。
【0051】
放射線硬化可能なインキジェットインキは、カチオン的に硬化可能なインキジェットインキであることができるが、好ましくはフリーラジカル硬化可能なインキジェットインキである。放射線硬化可能なインキジェットインキはe−ビームにより硬化することができるが、好ましくは光、より好ましくはUV光により硬化する。
【0052】
好ましい態様において、放射線硬化可能なインキジェットインキはUV硬化可能なインキジェットインキ、より好ましくはフリーラジカルUV硬化可能なインキジェットインキ
である。
【0053】
放射線硬化可能なインキは着色剤を含有することができる。利点は、印刷されたインキパターンを明確に見ることができることであり、それは取り扱いの間に金属表面を配向させることを可能にする。着色剤は染料又は顔料であることができる。着色剤が顔料である場合、好ましくは分散剤、より好ましくは高分子分散剤が存在する。顔料着色された硬化可能なインキは、分散の質及びインキの安定性を向上させるために分散相乗剤を含有することができる。
【0054】
放射線硬化可能なインキジェットインキの粘度は、好ましくは45℃において、及び1,000s-1のせん断速度において20mPa.sより小さく、より好ましくは45℃において、及び1,000s-1のせん断速度において1〜14mPa.sである。
【0055】
高速高解像度印刷のために、45℃において測定される粘度は好ましくは20mPa.sより小さく、より好ましくは45℃において、及び90s-1のせん断速度において1〜14mPa.sである。Brookfield DV−II+粘度計を用い、45℃において、及び分当たり12回転においてそのような測定を行うことができる。
【0056】
硬化可能なインキジェットインキの表面張力は、好ましくは25℃において約20mN/m〜約70mN/mの範囲内、より好ましくは25℃において約22mN/m〜約40mN/mの範囲内である。
【0057】
硬化可能なインキジェットインキは、インキの熱安定性を向上させるために少なくとも1種の抑制剤をさらに含有することもできる。
【0058】
硬化可能なインキジェットインキは、基質上における所望の広がり特性(spreading characteristics)を得るために、少なくとも1種の界面活性剤をさらに含有することもできる。
【0059】
好ましい態様において、本発明に従う組み合わせ中のn個の重合可能な化合物はすべて25℃において40mPa.sより小さい粘度を有する。
【0060】
重合可能な化合物
好ましくはフリーラジカル重合が可能ないずれのモノマー又はオリゴマーも、重合可能な化合物として用いることができる。モノマー、オリゴマー及び/又はプレポリマーの組み合わせを用いることもできる。モノマー、オリゴマー及び/又はプレポリマーは、異なる官能価(degrees of functionality)を有することができ、一−、二−、三−及びもっと高い官能価のモノマー、オリゴマー及び/又はプレポリマーの組み合わせを含む混合物を用いることができる。モノマーとオリゴマーの間の比率を変えることにより、放射線硬化可能なインキジェットインキの粘度を調整することができる。
【0061】
好ましいモノマー及びオリゴマーは、特定の参照文献として本明細書の内容となる欧州特許第1911814 A号明細書(AGFA GRAPHICS)中の[0106]〜[0115]中に挙げられているものである。
【0062】
特に好ましい重合可能な化合物は、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、2−(2’−ビニルエトキシ)エチルアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、プロポキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート、プロポキシル化グリセリントリア
クリレート、トリメチロールプロパントリメチルアクリレート(trimethylacrylate)、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート及びプロポキシル化トリメチロールプロパントリアクリレートより成る群から選ばれる。
【0063】
光開始剤
光開始剤は、好ましくはフリーラジカル開始剤である。フリーラジカル光開始剤は、化学線に暴露されるとフリーラジカルの形成によりモノマー及びオリゴマーの重合を開始させる化学化合物である。
【0064】
2つの型のフリーラジカル光開始剤を区別することができ、本発明のインキジェットインキ中で用いることができる。ノリッシュI型(Norrish Type I)開始剤は、励起の後に開裂し、開始ラジカルを直接与える開始剤である。ノリッシュII型(Norrish type II)開始剤は、化学線により活性化され、第2の化合物からの水素引き抜きによりフリーラジカルを生成する光開始剤であり、第2の化合物が実際の開始フリーラジカルになる。この第2の化合物は、重合相乗剤又は共開始剤と呼ばれる。I型及びII型光開始剤の両方を単独で、又は組み合わせて本発明において用いることができる。
【0065】
適した光開始剤は、CRIVELLO,J.V.,et al著,VOLUME III:Photoinitiators for Free Radical Cationic.第2版,BRADLEY,G編集,London,UK:John Wiley
and Sons Ltd,1998.p.287−294に開示されている。
【0066】
光開始剤の特定の例には以下の化合物又はそれらの組み合わせが含まれ得るが、これらに限られない:ベンゾフェノン及び置換ベンゾフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、チオキサントン、例えばイソプロピルチオキサントン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−(4−モルホリノフェニル)ブタン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、ビス(2,6−ジメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン又は5,7−ジヨード−3−ブトキシ−6−フルオロン。
【0067】
適した市販の光開始剤には、CIBA SPECIALTY CHEMICALSから入手可能なIrgacureTM 184、IrgacureTM 500、IrgacureTM 907、IrgacureTM 369、IrgacureTM 1700、IrgacureTM 651、IrgacureTM 819、IrgacureTM 1000、IrgacureTM 1300、IrgacureTM 1870、DarocurTM 1173、DarocurTM 2959、DarocurTM 4265及びDarocurTM
ITX、BASF AGから入手可能なLucerinTM TPO、LAMBERTIから入手可能なEsacureTM KT046、EsacureTM KIP150、EsacureTM KT37及びEsacureTM EDB、SPECTRA GROUP Ltdから入手可能なH−NuTM 470及びH−NuTM 470Xが含まれる。
【0068】
安全性の理由で、光開始剤は、好ましくはいわゆる拡散が妨げられた光開始剤である。拡散が妨げられた光開始剤は、硬化可能なインキジェットインキの硬化した層において、一官能基性光開始剤、例えばベンゾフェノンよりずっと遅い移動性を示す光開始剤である
。光開始剤の移動性を低くするために、いくつかの方法を用いることができる。1つの方法は、光開始剤の分子量を増加させ、拡散速度を低下させることであり、例えば高分子光開始剤である。他の方法は、それが重合する網目の中に組み込まれるように、その反応性を増すことであり、例えば多官能基性光開始剤(2個、3個又はそれより多くの光開始基を有する)及び重合可能光開始剤である。拡散が妨げられた光開始剤は、好ましくは非高分子多官能基性光開始剤、オリゴマー性もしくは高分子光開始剤及び重合可能光開始剤より成る群から選ばれる。非高分子二−もしくは多官能基性光開始剤は、300〜900ダルトンの分子量を有すると考えられる。その範囲内の分子量を有する非重合可能一官能基性光開始剤は、拡散が妨げられた光開始剤ではない。最も好ましくは、拡散が妨げられた光開始剤は、重合可能な開始剤である。
【0069】
欧州特許第2053101 A号明細書(AGFA)中で、二官能基性及び多官能基性光開始剤に関して[0074]及び[0075]節において、高分子光開始剤に関して[0077]〜[0080]節において、及び重合可能な光開始剤に関して[0081]〜[0083]節において開示されているものも、適した拡散が妨げられた光開始剤である。
【0070】
他の好ましい重合可能な光開始剤は、引用することによりその記載事項が本明細書の内容となる欧州特許第2065362 A号明細書(AGFA)及び欧州特許第2161264 A号明細書(AGFA)に開示されているものである。
【0071】
光開始剤の好ましい量は、硬化可能なインキジェットインキの合計重量の0〜50重量%、より好ましくは0.1〜20重量%、そして最も好ましくは0.3〜15重量%である。
【0072】
共開始剤
感光性をさらに向上させるために、放射線硬化可能なインキジェットインキは、さらに共開始剤を含有することができる。共開始剤の適した例は3つのグループ:
(1)メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン及びN−メチルモルホリンのような第3級脂肪族アミン;
(2)アミルパラジメチルアミノベンゾエート、2−n−ブトキシエチル−4−(ジメチルアミノ)ベンゾエート、2−(ジメチルアミノ)エチルベンゾエート、エチル−4−(ジメチルアミノ)ベンゾエート及び2−エチルヘキシル−4−(ジメチルアミノ)ベンゾエートのような芳香族アミン;ならびに
(3)ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート(例えばジエチルアミノエチルアクリレート)又はN−モルホリノアルキル−(メタ)アクリレート(例えばN−モルホリノエチル−アクリレート)のような(メタ)アクリレート化アミン
に分類され得る。好ましい共開始剤は、アミノベンゾエートである。
【0073】
放射線硬化可能なインキジェットインキ中に含まれる1種もしくはそれより多い共開始剤は、安全性の理由から、好ましくは拡散が妨げられた共開始剤である。拡散が妨げられた共開始剤は、好ましくは非高分子二−もしくは多官能基性共開始剤、オリゴマー性もしくは高分子共開始剤及び重合可能な共開始剤より成る群から選ばれる。より好ましくは、拡散が妨げられた共開始剤は、高分子共開始剤及び重合可能な共開始剤より成る群から選ばれる。
【0074】
放射線硬化可能なインキジェットインキは、好ましくは放射線硬化可能なインキジェットインキの合計重量の0.1〜50重量%の量で、より好ましくは0.5〜25重量%の量で、最も好ましくは1〜10重量%の量で共開始剤を含む。
【0075】
抑制剤
放射線硬化可能なインキジェットインキは、インキの熱安定性を向上させるために、少なくとも1種の抑制剤をさらに含有することもできる。
【0076】
適した重合抑制剤には、フェノール型酸化防止剤、ヒンダードアミン光安定剤、蛍りん光体型酸化防止剤、(メタ)アクリレートモノマーにおいて通常用いられるヒドロキノンモノメチルエーテルが含まれ、ヒドロキノン、t−ブチルカテコール、ピロガロール、2,6−ジ−tert.ブチル−4−メチルフェノール(=BHT)も使用することができる。
【0077】
適した市販の抑制剤は、例えばSumitomo Chemical Co.Ltd.により製造されるSumilizerTM GA−80、SumilizerTM GM及びSumilizerTM GS;Rahn AGからのGenoradTM 16、GenoradTM 18及びGenoradTM 20;Ciba Specialty ChemicalsからのIrgastabTM UV10及びIrgastabTM UV22、TinuvinTM 460及びCGS20;Kromachem LtdからのFloorstabTM UV領域(UV−1、UV−2、UV−5及びUV−8)、Cytec Surface SpecialtiesからのAdditolTM S領域(S100、S110、S120及びS130)である。
【0078】
抑制剤は、好ましくは重合可能な抑制剤である。
【0079】
これらの重合抑制剤の過剰の添加は硬化速度を遅くし得るので、重合を妨げることができる量を配合前に決定するのが好ましい。重合抑制剤の量は、好ましくは放射線硬化可能なインキジェットインキ全体の5重量%より少なく、より好ましくは3重量%より少ない。
【0080】
着色剤
放射線硬化可能なインキジェットインキ中で用いられる着色剤は染料、顔料又はそれらの組み合わせであることができる。有機及び/又は無機顔料を用いることができる。着色剤は、好ましくは顔料又は高分子染料、最も好ましくは顔料である。
【0081】
顔料は、ブラック、ホワイト、シアン、マゼンタ、イエロー、レッド、オレンジ、バイオレット、ブルー、グリーン、ブラウン、それらの混合物などであることができる。有色顔料は、HERBST,Willy,et al.著,Industrial Organic Pigments,Production,Properties,Applications.第3版,Wiley−VCH,2004年,ISBN 3527305769により開示されているものから選ばれることができる。
【0082】
適した顔料は、国際公開第2008/074548号パンフレット(AGFA GRAPHCS)の[0128]〜[0138]節中に開示されている。
【0083】
インキジェットインキ中の顔料粒子は、インキジェット印刷装置を介する、特に噴出ノズルにおけるインキの自由な流れを許すのに十分に小さくなければならない。最大の色濃度のため、及び沈降を遅くするためにも、小さい粒子を用いるのが望ましい。
【0084】
数平均顔料粒度は、好ましくは0.050〜1μm、より好ましくは0.070〜0.300μmそして特に好ましくは0.080〜0.200μmである。最も好ましくは、数平均顔料粒度は、0.150μmより大きくない。顔料粒子の平均粒度は、動的光散乱の原理に基づくBrookhaven Instruments Particle S
izer BI90plusを用いて決定される。酢酸エチルを用いて0.002重量%の顔料濃度にインキを希釈する。BI90plusの測定設定は:23℃、90oの角度、635nmの波長及びグラフィックス=補正関数(graphics=correction function)において5回の測定である。
【0085】
しかしながら、ホワイト顔料インキジェットインキの場合、ホワイト顔料の数平均粒径は、好ましくは50〜500nm、より好ましくは150〜400nm、そして最も好ましくは200〜350nmである。平均直径が50nmより小さい場合、十分な隠蔽力を得ることができず、平均直径が500nmを超えると、インキの保存可能性及び噴出適切性が下がる傾向がある。数平均粒径の決定は、顔料着色インキジェットインキの希釈された試料についての、4mW HeNeレーザーを用いる633nmの波長における光子相関分光法により、最も良く行なわれる。用いられた適した粒度分析計は、Goffin−Meyvisから入手可能なMalvernTM nano−Sであった。例えば1.5mLの酢酸エチルを含有するキュベットに1滴のインキを加え、均一な試料が得られるまで混合することにより、試料を調製することができる。測定される粒度は、20秒の6回の測定から成る3回の連続的測定の平均値である。
【0086】
適したホワイト顔料は、国際公開第2008/074548号パンフレット(AGFA
GRAPHICS)の[0116]中の表2により示されている。ホワイト顔料は、好ましくは1.60より大きい屈折率を有する顔料である。ホワイト顔料を単独で、又は組み合わせて用いることができる。好ましくは、1.60より大きい屈折率を有する顔料として二酸化チタンを用いる。適した二酸化チタン顔料は、国際公開第2008/074548号パンフレット(AGFA GRAPHICS)の[0117]及び[0118]中に開示されているものである。
【0087】
顔料は、それぞれインキジェットインキの合計重量に基づいて好ましくは0.01〜15重量%の範囲内、より好ましくは0.05〜10重量%の範囲内そして最も好ましくは0.1〜5重量%の範囲内で存在する。ホワイトインキジェットインキの場合、ホワイト顔料は、好ましくはインキジェットインキの3重量%〜40重量%、そしてより好ましくは5重量%〜35重量%の量で存在する。3重量%より少ない量は、十分な被覆力を達成することができず、通常非常に劣った保存安定性及び噴出性を示す。
【0088】
一般に染料は顔料より高い光退色を示すが、噴出性に問題を引き起こさない。アントラキノン染料はUV硬化可能なインキジェット印刷において用いられる通常のUV硬化条件下で、低い光退色しか示さないことが見出された。好ましい態様において、放射線硬化可能なインキジェットインキ中の着色剤は、LANXESSからのMacrolexTM Blue 3R(CASRN 325781−98−4)のようなアントラキノン染料である。
【0089】
分散剤
分散剤は、好ましくは高分子分散剤である。典型的な高分子分散剤は、2種のモノマーのコポリマーであるが、3種、4種、5種又はそれより多種のモノマーさえ含有することができる。高分子分散剤の性質は、モノマーの性質及びポリマー中におけるそれらの分布の両方に依存する。適したコポリマー分散剤は、以下のポリマー組成を有する:
●ランダム重合したモノマー(例えばモノマーA及びBがABBAABABに重合した);
●交互重合したモノマー(例えばモノマーA及びBがABABABABに重合した);
●勾配(gradient)(テーパード(tapered))重合したモノマー(例えばモノマーA及びBがAAABAABBABBBに重合した);
●それぞれのブロックのブロック長(2、3、4、5又はそれより多くさえ)が高分子分
散剤の分散能力に重要であるブロックコポリマー(例えばモノマーA及びBがAAAAABBBBBBに重合した);
●グラフトコポリマー(グラフトコポリマーは、主鎖に結合した高分子側鎖を有する高分子主鎖から成る);ならびにこれらのポリマーの混合形態、例えばブロック様勾配コポリマー。
【0090】
適した高分子分散剤は、欧州特許第1911814A号明細書(AGFA GRAPHICS)中の「分散剤」についての節、さらに特定的に[0064]〜[0070]及び[0074]〜[0077]中に挙げられている。
【0091】
高分子分散剤は、好ましくは500〜30000、より好ましくは1500〜10000の数平均分子量Mnを有する。
【0092】
高分子分散剤は、好ましくは100000より小さい、より好ましくは50000より小さい、そして最も好ましくは30000より小さい重量平均分子量Mwを有する。
【0093】
高分子分散剤は、好ましくは2より小さい、より好ましくは1.75より小さい、そして最も好ましくは1.5より小さい多分散性(polydispersity)PDを有する。
【0094】
高分子分散剤の市販の例は以下である:
●BYK CHEMIE GMBHから入手可能なDISPERBYKTM分散剤;
●NOVEONから入手可能なSOLSPERSETM分散剤;
●EVONIKからのTEGOTMDISPERSTM分散剤;
●MUENZING CHEMIEからのEDAPLANTM分散剤;
●LYONDELLからのETHACRYLTM分散剤;
●ISPからのGANEXTM分散剤;
●CIBA SPECIALTY CHEMICALS INC(BASF)からのDISPEXTM及びEFKATM分散剤;
●DEUCHEMからのDISPONERTM分散剤;及び
●JOHNSON POLYMERからのJONCRYLTM分散剤。
【0095】
特に好ましい高分子分散剤には、NOVEONからのSolsperseTM分散剤、CIBA SPECIALTY CHEMICALS INC(BASF)からのEfkaTM分散剤及びBYK CHEMIE GMBHからのDisperbykTM分散剤が含まれる。特に好ましい分散剤は、NOVEONからのSolsperseTM 32000、35000及び39000分散剤である。
【0096】
高分子分散剤は、好ましくは顔料の重量に基づいて2〜600重量%、より好ましくは5〜200重量%の量で用いられる。
【0097】
分散相乗剤
分散相乗剤は通常アニオン性部分及びカチオン性部分から成る。分散相乗剤のアニオン性部分は通常有色顔料とのある種の分子類似性を示し、分散相乗剤のカチオン性部分は、分散相乗剤のアニオン性部分の電荷を補償するために、1個もしくはそれより多いプロトン及び/又はカチオンから成る。
【0098】
相乗剤は、好ましくは高分子分散剤より少量で加えられる。高分子分散剤/分散相乗剤の比率は顔料に依存し、実験的に決められるべきである。
【0099】
好ましくは、高分子分散剤の重量%/分散相乗剤の重量%の比率は、2:1〜100:1、好ましくは2:1〜20:1の間で選ばれる。
【0100】
商業的に入手可能な適した分散相乗剤には、NOVEONからのSolsperseTM
5000及びSolsperseTM 22000が含まれる。
【0101】
適した分散相乗剤には、欧州特許第1790698 A号明細書(AGFA GRAPHICS)、欧州特許第1790696 A号明細書(AGFA GRAPHICS)、国際公開第2007/060255号パンフレット(AGFA GRAPHICS)及び欧州特許第1790695 A号明細書(AGFA GRAPHICS)に開示されているものが含まれる。
【0102】
C.I.Pigment Blue 15:3の分散において、スルホン化Cu−フタロシアニン分散相乗剤、例えばNOVEONからのSolsperseTM 5000の使用が好ましい。イエローインキジェットインキのための適した分散相乗剤には、欧州特許第1790697 A号明細書(AGFA GRAPHICS)に開示されているものが含まれる。
【0103】
好ましい態様において、分散相乗剤は1個、2個又はそれより多いカルボン酸基を含み、好ましくはスルホン酸基を含まない。
【0104】
界面活性剤
放射線硬化可能なインキジェットインキは、基質上における優れた広がり特性を得るために、さらに界面活性剤も含有することができる。界面活性剤はアニオン性、カチオン性、非イオン性又は両性イオン性であることができ、通常、放射線硬化可能な液又はインキの合計重量に基づいて10重量%より少ない合計量で、そして特に放射線硬化可能な液又はインキの合計重量に基づいて5重量%より少ない合計量で加えられる。
【0105】
好ましい界面活性剤にはフルオロ界面活性剤(フッ素化炭化水素のような)及びシリコーン界面活性剤が含まれる。シリコーンは典型的にはシロキサンであり、ポリエーテル修飾、ポリエステル修飾、ポリエーテル修飾ヒドロキシ官能基性、アミン修飾、エポキシ修飾及び他の修飾又はそれらの組み合わせであることができる。シリコーン界面活性剤、特に反応性シリコーン界面活性剤は、放射線硬化可能なインキジェットインキにおいて好ましい。
【0106】
好ましい態様において、放射線硬化可能なインキジェットインキは界面活性剤を含有しない。
【0107】
インキジェット印刷装置
本発明に従うインキジェット印刷方法において、プリントヘッドに相対的に動く基質上に、ノズルを介して制御されたやり方で小滴を噴出する1個もしくはそれより多いプリントヘッドにより、放射線硬化可能なインキジェットインキを噴出させることができる。
【0108】
インキジェット印刷系のための好ましいプリントヘッドは、圧電ヘッドである。圧電インキジェット印刷は、圧電セラミック変換器に電圧が適用される時のその動きに基づく。電圧の適用は、プリントヘッド中の圧電セラミック変換器の形を変化させて空隙を作り、次いでそれはインキで満たされる。再び電圧が取り除かれると、セラミックはその最初の形に膨張し、プリントヘッドからインキの滴を噴出させる。しかしながら、本発明に従うインキジェット印刷方法は圧電インキジェット印刷に制限されない。他のインキジェットプリントヘッドを用いることができ、連続型のような種々の型が含まれる。
【0109】
インキジェットプリントヘッドは通常、動いているインキ受容金属表面を横切って横方向で行ったり来たり走査される。多くの場合、インキジェットプリントヘッドは帰り道に印刷しない。二方向印刷は、高い面積処理量を得るために好ましい。別の好ましい印刷法は、「1回通過印刷プロセス(single pass printing process)」による方法であり、それはインキ受容金属表面の幅全体に及ぶページ幅インキジェットプリントヘッド又は多数の互い違いのインキジェットプリントヘッドの使用により達成され得る。1回通過印刷プロセスでは、インキジェットプリントヘッドは通常静止したままであり、金属表面がインキジェットプリントヘッドの下を輸送される。
【0110】
硬化装置
本発明に従うインキジェット印刷方法において、放射線硬化可能なインキジェットインキはそれらを化学線に暴露することにより、好ましくは紫外線により硬化する。
【0111】
硬化手段をインキジェットプリンターのプリントヘッドと組み合わせて配置し、それと一緒に移動させ、硬化可能なインキジェットインキが噴射された直後に硬化放射線に暴露されるようにすることができる。
【0112】
そのような配置において、プリントヘッドに連結され、且つそれと一緒に移動するのに十分に小さいLEDのような放射線源を備えるのは困難であり得る。あるいはまた、放射線ヘッドの上の鏡を含む鏡の配置により、固定源から放射線ヘッドに化学線を供給することができる。
【0113】
プリントヘッドと一緒に動かないように配置される放射線源は、硬化するべきインキ受容体表面を横切って横に、且つプリントヘッドの横通過路に隣接して延びる長い放射線源であることもでき、プリントヘッドにより形成される画像の連続する列が段階的又は連続的にその放射線源の下を通過するようにすることもできる。
【0114】
発光される光の一部が光開始剤又は光開始剤系により吸収され得る限り、高圧もしくは低圧水銀ランプ、冷陰極管、ブラックライト、紫外LED、紫外レーザー及び閃光灯(flash light)のようないずれの紫外光源も放射線源として用いることができる。これらの中で好ましい源は、300〜400nmの主波長を有する比較的長波長のUV寄与(long wavelength UV−contribution)を示すものである。特にUV−A光源は、それを用いて光散乱が減少し、より有効な内部硬化を生ずる故に、好ましい。
【0115】
UV線は一般に、UV−A、UV−B及びUV−Cとして以下の通りに分類される:
・UV−A:400nm〜320nm
・UV−B:320nm〜290nm
・UV−C:290nm〜100nm。
【0116】
本発明に従うインキジェット印刷方法の好ましい態様において、インキジェット印刷装置は360nmより長い波長を有する1個もしくはそれより多いUV LEDs、好ましくは380nmより長い波長を有する1個もしくはそれより多いUV LEDs、そして最も好ましくは約395nmの波長を有するUV LEDsを含有する。
【0117】
さらに、異なる波長又は照度の2種の光源を連続的又は同時に用いて、画像を硬化させることができる。例えば第1のUV源を、特に260nm〜200nmの領域内のUV−Cが豊富なように選択することができる。その場合、第2のUV源はUV−Aが豊富であり、例えばガリウムがドーピングされたランプであるか、あるいはUV−A及びUV−B
の両方が高い異なるランプであることができる。2種のUV−源の使用は利点、例えば速い硬化速度及び高い硬化度を有することが見出された。
【0118】
硬化を助長するために、インキジェットプリンターは1個もしくはそれより多い酸素枯渇装置(oxygen depletion units)を含むことができる。酸素枯渇装置は、硬化環境中の酸素濃度を低下させるために、調整可能な位置及び調整可能な不活性ガス濃度で、窒素又は他の比較的不活性なガス(例えばCO2)のブランケット(blanket)を置く。残留酸素レベルは通常、200ppmのように低く保たれるが、一般に200ppm〜1200ppmの範囲内である。
【実施例】
【0119】
材料
以下の実施例において用いられるすべての材料は、他に特定しなければ、ALDRICH Chemical Co.(Belgium)及びACROS(Belgium)のような標準的な供給源から容易に入手可能であった。用いられた水は、脱イオン水であった。
【0120】
ITXはDarocurTM ITXであり、CIBA SPECIALTY CHEMICALSからの2−及び4−イソプロピルチオキサントンの異性体混合物である。
【0121】
IrgacureTM 907は2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、CIBA SPECIALTY CHEMICALSから入手可能な光開始剤である。
【0122】
IrgacureTM 819は、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシド、CIBA SPECIALTY CHEMICALSから入手可能な光開始剤である。
【0123】
DarocurTM TPOは、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキシド、CIBA SPECIALTY CHEMICALSから入手可能な光開始剤である。
【0124】
MBFは、LAMBSONからSpeedcureTM MBFとして入手可能な芳香族光開始剤(CAS 15206−55−0)である。
【0125】
Inhib−1は組成:
【0126】
【表1】
【0127】
を有する重合抑制剤を形成する混合物である。
【0128】
CupferronTM ALは、WAKO CHEMICALS LTDからのアルミニウムN−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンである。
【0129】
MacrolexTM Blue 3Rは、LANXESSからのブルーアントラキノン染料である。
【0130】
IsolaTM 400は、18μ Cu−ラミネートから成る金属表面を有するCCI
Eurolamから入手可能なCu−板である。
【0131】
モノマーを、実施例中で用いられるそれらの略語と一緒に下記に挙げる。
●Sartomer銘柄はSARTOMERから入手可能である。
●Miramer銘柄は、MIWON Europe GmbHから入手可能である。
●Laromer銘柄は、BASFから入手可能である。
●VEEAは、NIPPON SHOKUBAI,Japanから入手可能である。
●CarduraTM ACEは、HEXION SPECIALTY CHEMICALSから入手可能である。
●ACMOは、RAHN AGから入手可能である。
●MAESは、ALDRICHから入手可能である。
●MADAMEは、ARKEMA Franceから入手可能である。
【0132】
【表2-1】
【0133】
【表2-2】
【0134】
測定
1.エッチング抵抗性
エッチングの後に銅板上に残る硬化したインキジェットインキ層のパーセンテージの決定により、エッチング抵抗性を評価した。100%のエッチング抵抗性は、硬化したインキジェットインキ層全体がエッチング浴を経て残ったことを意味する。0%のエッチング抵抗性は、エッチングの後に硬化したインキジェットインキが銅板上に存在することが見出され得なかったことを意味する。中間のパーセンテージ、例えば80%は、エッチングの後に、硬化したインキジェットインキの約80%が銅板上に存在することが見出され得たことを意味する。優れたエッチング抵抗性は、少なくとも80%の値を意味する。すばらしいエッチング抵抗性は、少なくとも90%、しかし好ましくは100%の値を意味する。
【0135】
2.ストリッピング性
ストリッピングの後に銅板上から除去された硬化したインキジェットインキ層のパーセンテージの決定により、ストリッピング性を評価した。100%のストリッピング性は、硬化したインキジェットインキ層全体が除去されたことを意味する。0%のストリッピング性は、銅板から硬化したインキジェットインキが除去され得なかったことを意味する。中間のパーセンテージ、例えば30%は、硬化したインキジェットインキの約30%しかストリッピングにより銅板から除去され得なかったことを意味する。優れたストリッピング性は少なくとも80%の値を意味する。すばらしいストリッピング性は、少なくとも90%、しかしし好ましくは100%の値を意味する。30%かもしくはそれより低い値は、非常に劣ったストリッピング性である。
【0136】
3.粘度
CAMBRIDGE APPLIED SYSTEMSからの“Robotic Viscometer Type VISCObot”を用いて、45℃において調製物の粘度を測定した。
【0137】
工業域インキジェット印刷の場合、粘度は好ましくは45℃において20mPa.sより低い。より好ましくは、粘度は45℃において15mPa.sより低い。
【0138】
4.硬化速度
放射線硬化可能なインキジェットインキを、バーコーター及び10μmのワイアドバー(wired bar)を用いてPET100基質上にコーティングした。コーティングされた基質を、試料を20m/分の速度におけるコンベアベルト上でUV−ランプ下に輸
送するFusion VPS/1600ランプ(D−バルブ)が備えられたFusion
DRSE−120コンベアを用いて硬化させた。ランプの最大出力は1.05J/cm2であり、ピーク強度は5.6W/cm2であった。ランプの最大出力に対するパーセンテージは硬化速度に関する尺度と理解され、数が小さい程、硬化速度が速い。試料は、Q−チップを用いる引っ掻きが視覚的損傷を引き起こさない時点に完全に硬化したと考えられた。
【実施例1】
【0139】
この実施例は、単一の重合可能な化合物を含む放射線硬化可能なインキジェットインキを用いる、エッチングプロセスのためのインキジェット印刷方法を例示する。
【0140】
放射線硬化可能なインキジェットインキの調製
表1に挙げられるインキの合計重量に基づく重量パーセンテージに従って、且つ表2の重合可能な化合物を用いて成分を混合することにより、放射線硬化可能なインキジェットインキCOMP−1〜COMP−18及びINV−1〜INV−24を調製した。
【0141】
【表3】
【0142】
pH<1を有し、H2SO4、H22及びCu2+を含有するMEC EuropeからのMecbriteTM CA−95と呼ばれる溶液を用い、IsolaTM 400銅板を25℃で5秒間清浄化した。この操作の間に、Cuの薄い最上層(0.3〜0.5μm)を除去した。次いで水噴射を用いて90秒間、板を濯いだ。
【0143】
放射線硬化可能なインキジェットインキCOMP−1〜COMP−18及びINV−1〜INV−24のパターンを10μmの厚さで銅板上にコーティングし、試料を20m/分の速度におけるコンベアベルト上でUV−ランプ下に輸送するFusion VPS/1600ランプ(D−バルブ)が備えられたFusion DRSE−120コンベアにより硬化させた。ランプの最大出力は1.05J/cm2であり、ピーク強度は5.6W/cm2であった。すべてのインキジェットインキは完全に硬化した。
【0144】
板を、35℃で酸性エッチング浴(Mega Electronicsから得られる“Mega”酸エッチング剤,pH2,FeCl3を含有する)に60秒間供した。続いて水を用いて板を90秒間濯ぎ、乾燥した。次いで表2に示す通りにエッチング抵抗性の評価を行った。
【0145】
それらのインキジェットインキ層がエッチングの間に除去された銅板は当然、ストリッピング性に関して評価され得なかった(表2においてnab.で記される)。他の銅板をアルカリ性ストリッピング浴(10%のCenturion Speciality C
hemicals LtdからのRistoff C−71を含有し、それは7%のエタノールアミンを含み、pH13である)に50℃で5分間供し、次いで水で90秒間濯ぎ、乾燥し、ストリッピング性に関して評価した。結果を表2に示す。
【0146】
【表4-1】
【0147】
【表4-2】
【0148】
評価
表2から、重合可能な組成物が酸素分率OFR>0.250及び加重重合可能官能価WPF0.0050である放射線硬化可能なインキジェットインキのみが、すばらしいエッチング抵抗性及びストリッピング性を生じたことが明らかなはずである。
【実施例2】
【0149】
この実施例は、2種の重合可能な化合物の混合物を含む放射線硬化可能なインキジェットインキを用いる、エッチングプロセスのためのインキジェット印刷方法を例示する。
【0150】
放射線硬化可能なインキジェットインキの調製
表3に従って、且つ表4に示されるインキの合計重量に基づく重量パーセンテージで重合可能な化合物P1及びP2を用いて、成分を混合することにより、放射線硬化可能なインキジェットインキCOMP−19〜COMP−30及びINV−25〜INV−54を調製した。
【0151】
【表5】
【0152】
実施例1におけると同じ方法でIsolaTM 400銅板を清浄化した。清浄化された銅板上に、実施例1におけると同じ方法で放射線硬化可能なインキジェットインキCOMP−19〜COMP−30及びINV−25〜INV−54のパターンを10μmの厚さでコーティングし、硬化させた。次いで実施例1におけると同じ方法で板をエッチングし、ストリッピングした。結果を表4に示す。
【0153】
【表6-1】
【0154】
【表6-2】
【0155】
評価
表4から、重合可能な組成物が酸素分率OFR>0.250及び加重重合可能官能価WPF0.0050である放射線硬化可能なインキジェットインキのみが、優れたからすばらしいまでのエッチング抵抗性及びストリッピング性を生じたことが明らかなはずである。
【実施例3】
【0156】
この実施例は、多様なエッチングプロセス条件への放射線硬化可能なインキジェットインキの適用可能性を例示する。
【0157】
放射線硬化可能なインキジェットインキの調製
表5に従って、且つ表6に示されるインキの合計重量に基づく重量パーセンテージで重合可能な化合物P1(及び存在する場合はP2)を用いて、成分を混合することにより、放射線硬化可能なインキジェットインキCOMP−31〜COMP−42及びINV−55〜INV−77を調製した。
【0158】
【表7】
【0159】
【表8】
【0160】
実施例1におけると同じ方法でIsolaTM 400銅板を清浄化した。清浄化された銅板上に、実施例1におけると同じ方法で放射線硬化可能なインキジェットインキCOMP−31〜COMP−42及びINV−55〜INV−77のパターンを10μmの厚さでコーティングし、硬化させた。
【0161】
これらの銅板の第1の組を、次いで実施例1におけると同じ方法でエッチングし、ストリッピングし、それらの結果を表7においてそれぞれエッチング抵抗性「酸」及びストリッピング性「酸」により示した。
【0162】
放射線硬化可能なインキジェットインキCOMP−31〜COMP−42及びINV−55〜INV−77を用いて作製された銅板の第2の組を、pH8.5においてNH4OH、NH4Cl、(NH42CO3及びCu(NH4)Cl3を含有するCenturion
Speciality Chemicals Ltdからのアルカリ性エッチング浴Metal etch 50に、35℃において60秒間供した。板を続いて水で90秒間濯ぎ、乾燥した。インキジェットインキ層がエッチングの間に除去されなかった銅板をアルカリ性ストリッピング浴(7%のエタノールアミンを含むCenturion Speciality Chemicals LtdからのRistoff C−71を10%含有する,pH13)に50℃で5分間供し、次いで水で90秒間濯ぎ、乾燥し、ストリッピング性に関して評価した。エッチング及びストリッピングの結果を表7において、それぞれエッチング抵抗性「アルカリ性」及びストリッピング性「アルカリ性」により示す。
【0163】
放射線硬化可能なインキジェットインキCOMP−31〜COMP−42及びINV−55〜INV−77を用いて作製された銅板の第3の組を、実施例1におけると同じ方法でエッチングした。Tesa AGからのTESAFILM 4014 Blackテープ(PV−025−066−B4104 5型)を、銅板上の放射線硬化可能なインキジェットインキのパターンに付着させた。次いでテープを銅板から引き、いくつかの場合にはそれによりパターンを剥がした。ストリッピング性の結果を、表7においてストリッピング性「乾式ストリッピング」により示す。
【0164】
【表9】
【0165】
表7は、重合可能な組成物が酸素分率OFR>0.250及び加重重合可能官能価WPF0.0050を有する放射線硬化可能なインキジェットインキのみが、非常に異なるエッチング条件及びストリッピング条件を支えたことを示している。
【実施例4】
【0166】
実施例1〜3において、放射線硬化可能なインキジェットインキINV−1〜INV−77は優れたからすばらしいまでのエッチング抵抗性及びストリッピング性を与えた。
【0167】
放射線硬化可能なインキジェットインキCOMP−1、COMP−3〜COMP−8、COMP−25、COMP−26、COMP−31〜COMP−36、COMP−37及びCOMP−8は、優れたからすばらしいまでのエッチング抵抗性を示したが、ストリッピング性を示さなかった。酸素分率OFR0.250及び加重重合可能官能価WPF0.0055を有する重合可能な組成物を含むこれらのインキは、優れたエッチング抵抗性を示したが、ストリップ性を示さなかった。これらのインキは、印刷回路板の導電性パターンの作製のためのエッチング抵抗性インキとして役に立たないが、いわゆる「銘記インキ」としてそれらを用いることができる。銘記インキジェットインキ及びエッチング抵抗性インキジェットインキを、導電性パターン又は銅回路部品を覆わない位置に銘記インキジェットインキを印刷して、同時に銅板上に印刷することにより、より単純且つ原価効率の高い印刷回路板の作製方法を実現することができる。
【実施例5】
【0168】
この実施例は、エッチレジスト(etch resists)の作製のための放射線硬化可能なインキジェットインキの安定性及び硬化速度への酸モノマーの負の効果を例示する。
【0169】
放射線硬化可能なインキジェットインキの調製
表8〜11に従う成分を混合することにより、放射線硬化可能なインキジェットインキCOMP−43〜COMP−58及びINV−78〜INV−81を調製した。重量パーセンテージはインキジェットインキの合計重量に基づく。
【0170】
【表10】
【0171】
【表11】
【0172】
【表12】
【0173】
【表13】
【0174】
評価
放射線硬化可能なインキジェットインキCOMP−43〜COMP−58及びINV−78〜INV−81はすべて、酸素分率OFR>0.250及び加重重合可能官能価WPF0.0050を有する重合可能な組成物を含んだ。COMP−43及びCOMP−45に従う組成物の場合、均一なインキジェットインキを調製できず、いくつかの成分を十分に溶解できず、従ってこれらのインキにさらなるテストは行われなかった。すべての放射線硬化可能なインキジェットインキは界面活性剤を含有せず、それでもすべてが60秒後にKREUSS GmbH,GermanyからのKRUESS張力計K9を用いて25℃において測定される20〜40mN/mの表面張力を有した。
【0175】
インキジェットインキの粘度を調製の直後及び80℃における1週間の熱処理の後に再度測定した。10%かそれより大きい粘度における増加が観察されたら、インキに「Yes」の成績を与え、増加が観察されないか又は10%より小さい増加が観察されたら、インキに「No」の成績を与えた。結果を表12に示す。
【0176】
硬化速度は光開始剤及びモノマーに高度に依存するので、放射線硬化可能なインキジェットインキCOMP−43〜COMP−58を最も類似する参照インキジェットインキ:INV−78(参照1)、INV−79(参照2)、INV−80(参照3)及びINV−81(参照4)と比較した。硬化速度に関する結果を表12に示す。
【0177】
実施例1におけると同じ方法でIsolaTM 400銅板を清浄化した。清浄化された銅板上に、実施例1におけると同じ方法で放射線硬化可能なインキジェットインキCOMP−43〜COMP−58及びINV−78〜INV−81のパターンを10μmの厚さでコーティングし、硬化させた。次いで実施例1におけると同じ方法で板をエッチングし、ストリッピングした。すべてのインキジェットインキに関してすばらしいエッチング抵抗性が観察された。ストリッピング性の結果を表12に示す。
【0178】
【表14】
【0179】
表12から、高い硬化速度で高い安定性を有するインキジェット印刷は、酸素分率OFR>0.250及び加重重合可能官能価WPF0.0050を有する重合可能な組成物ならびにエチレン性二重結合を有し、且つその分子中にリン酸エステル基又はカルボン酸基を含む重合可能な化合物を含有しない重合可能な組成物を含む放射線硬化可能なインキジェットインキINV−78〜INV−81を用いる場合のみに可能であることが明らかなはずである。