特許第6012768号(P6012768)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6012768表示装置、および表示装置におけるデータ処理方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012768
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】表示装置、および表示装置におけるデータ処理方法
(51)【国際特許分類】
   G09G 3/3225 20160101AFI20161011BHJP
   G09G 3/3283 20160101ALI20161011BHJP
   G09G 3/20 20060101ALI20161011BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   G09G3/3225
   G09G3/3283
   G09G3/20 642P
   G09G3/20 632G
   G09G3/20 632B
   G09G3/20 631U
   G09G3/20 631R
   G09G3/20 611H
   G09G3/20 670J
   G09G3/20 612U
   G09G3/20 621A
   G09G3/20 641P
   G09G3/20 650B
   H05B33/14 A
【請求項の数】17
【全頁数】45
(21)【出願番号】特願2014-557374(P2014-557374)
(86)(22)【出願日】2013年12月25日
(86)【国際出願番号】JP2013084564
(87)【国際公開番号】WO2014112299
(87)【国際公開日】20140724
【審査請求日】2015年7月7日
(31)【優先権主張番号】特願2013-8059(P2013-8059)
(32)【優先日】2013年1月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104695
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 明宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121348
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 健児
(74)【代理人】
【識別番号】100114247
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 邦廣
(74)【代理人】
【識別番号】100148459
【弁理士】
【氏名又は名称】河本 悟
(72)【発明者】
【氏名】山中 成継
(72)【発明者】
【氏名】中川 慎司
(72)【発明者】
【氏名】古川 浩之
(72)【発明者】
【氏名】太田 純史
【審査官】 中村 直行
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−254410(JP,A)
【文献】 特開2007−271940(JP,A)
【文献】 特開2011−019077(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/066025(WO,A1)
【文献】 特開平06−225151(JP,A)
【文献】 特開2002−354394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09G 3/00 − 5/42
H01L 51/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流によって輝度が制御される電気光学素子と前記電気光学素子に供給すべき電流を制御するためのトランジスタであって酸化物半導体によってチャネル層が形成されたトランジスタである駆動トランジスタとをそれぞれが有する複数の画素回路を含む表示装置であって、
各画素回路に含まれる前記駆動トランジスタの駆動電流を測定して当該駆動電流の値を電流データとして出力する電流測定部と、
前記電流データを高周波成分データと低周波成分データとに分離する電流データ分離部と、
前記高周波成分データを圧縮する高周波成分データ圧縮処理部と、
前記低周波成分データを圧縮する低周波成分データ圧縮処理部と、
前記高周波成分データ圧縮処理部による圧縮後の高周波成分データと前記低周波成分データ圧縮処理部による圧縮後の低周波成分データとを保存するための記憶部と
を備え、
前記高周波成分データ圧縮処理部と前記低周波成分データ圧縮処理部とでは異なる手法でデータの圧縮が行われ
前記高周波成分データ圧縮処理部は、前記高周波成分データを所定幅以下の振幅を有する低振幅データと前記所定幅よりも大きな振幅を有する高振幅データとに分離し、前記低振幅データおよび前記高振幅データのうち前記高振幅データのみを前記記憶部に保存することを特徴とする、表示装置。
【請求項2】
前記高周波成分データ圧縮処理部は、前記所定幅の振幅の上限値および下限値を基準にして前記高振幅データの再定義を行い、再定義後の高振幅データを前記記憶部に保存することを特徴とする、請求項に記載の表示装置。
【請求項3】
前記高周波成分データ圧縮処理部は、1行分の画素回路に対応する高周波成分データ毎にデータの圧縮を行い、
前記高振幅データの再定義が行われる際の基準となる振幅の上限値および下限値は、各行の画素回路に対応する高周波成分データの圧縮が行われる際に、既にデータの圧縮が行われている行についての圧縮後のデータ量と前記記憶部の容量とに基づいて求められることを特徴とする、請求項に記載の表示装置。
【請求項4】
電流によって輝度が制御される電気光学素子と前記電気光学素子に供給すべき電流を制御するためのトランジスタであって酸化物半導体によってチャネル層が形成されたトランジスタである駆動トランジスタとをそれぞれが有する複数の画素回路を含む表示装置であって、
各画素回路に含まれる前記駆動トランジスタの駆動電流を測定して当該駆動電流の値を電流データとして出力する電流測定部と、
前記電流データを高周波成分データと低周波成分データとに分離する電流データ分離部と、
前記高周波成分データを圧縮する高周波成分データ圧縮処理部と、
前記低周波成分データを圧縮する低周波成分データ圧縮処理部と、
前記高周波成分データ圧縮処理部による圧縮後の高周波成分データと前記低周波成分データ圧縮処理部による圧縮後の低周波成分データとを保存するための記憶部と
を備え、
前記高周波成分データ圧縮処理部と前記低周波成分データ圧縮処理部とでは異なる手法でデータの圧縮が行われ
前記高周波成分データ圧縮処理部は、前記高周波成分データを所定幅以下の振幅を有する低振幅データと前記所定幅よりも大きな振幅を有する高振幅データとに分離し、前記低振幅データについては比較的粗く量子化を行い、前記高振幅データについては比較的細かく量子化を行い、量子化によって得られたデータを前記記憶部に保存することを特徴とする、表示装置。
【請求項5】
電流によって輝度が制御される電気光学素子と前記電気光学素子に供給すべき電流を制御するためのトランジスタであって酸化物半導体によってチャネル層が形成されたトランジスタである駆動トランジスタとをそれぞれが有する複数の画素回路を含む表示装置であって、
各画素回路に含まれる前記駆動トランジスタの駆動電流を測定して当該駆動電流の値を電流データとして出力する電流測定部と、
前記電流データを高周波成分データと低周波成分データとに分離する電流データ分離部と、
前記高周波成分データを圧縮する高周波成分データ圧縮処理部と、
前記低周波成分データを圧縮する低周波成分データ圧縮処理部と、
前記高周波成分データ圧縮処理部による圧縮後の高周波成分データと前記低周波成分データ圧縮処理部による圧縮後の低周波成分データとを保存するための記憶部と
を備え、
前記高周波成分データ圧縮処理部と前記低周波成分データ圧縮処理部とでは異なる手法でデータの圧縮が行われ
前記高周波成分データ圧縮処理部は、前記高周波成分データに対して再量子化を行い、再量子化によって得られたデータに対してハフマン符号化を行うことによって、前記高周波成分データを圧縮することを特徴とする、表示装置。
【請求項6】
前記高周波成分データ圧縮処理部は、1行分の画素回路に対応する高周波成分データ毎に再量子化およびハフマン符号化を行い、
再量子化が行われる前に、再量子化対象の高周波成分データの値にパラメータ値を乗ずる処理が行われ、
前記パラメータ値は、各行の画素回路に対応する高周波成分データに対して再量子化が行われる際に、既に再量子化およびハフマン符号化が行われている行についてのハフマン符号化後のデータ量と前記記憶部の容量とに基づいて求められることを特徴とする、請求項に記載の表示装置。
【請求項7】
電流によって輝度が制御される電気光学素子と前記電気光学素子に供給すべき電流を制御するためのトランジスタであって酸化物半導体によってチャネル層が形成されたトランジスタである駆動トランジスタとをそれぞれが有する複数の画素回路を含む表示装置であって、
各画素回路に含まれる前記駆動トランジスタの駆動電流を測定して当該駆動電流の値を電流データとして出力する電流測定部と、
前記電流データを高周波成分データと低周波成分データとに分離する電流データ分離部と、
前記高周波成分データを圧縮する高周波成分データ圧縮処理部と、
前記低周波成分データを圧縮する低周波成分データ圧縮処理部と、
前記高周波成分データ圧縮処理部による圧縮後の高周波成分データと前記低周波成分データ圧縮処理部による圧縮後の低周波成分データとを保存するための記憶部と
各画素回路に対応する階調値を示す階調信号を受け取り、前記駆動トランジスタの駆動に供される駆動用階調信号を前記階調信号の階調値を補正することによって生成する階調値補正部と
を備え、
前記高周波成分データ圧縮処理部と前記低周波成分データ圧縮処理部とでは異なる手法でデータの圧縮が行われ
前記電流測定部は、各画素回路につき少なくとも2つの階調値に対応する駆動電流を測定し、
前記階調値補正部は、
前記電流測定部から出力される、各画素回路についての前記少なくとも2つの階調値に対応する電流データに基づいて、各画素回路における駆動電流の測定時点の電流電圧特性である測定電流電圧特性を求める第1の特性算出部と、
各画素回路における目標とする電流電圧特性である目標電流電圧特性を、当該画素回路を含む複数の画素回路についての前記少なくとも2つの階調値に対応する電流データに基づいて求める第2の特性算出部と、
前記目標電流電圧特性から求められる、前記階調信号の階調値に対応する電流値と、前記測定電流電圧特性から求められる、前記駆動用階調信号の階調値に対応する電流値とが等しくなるように、前記駆動用階調信号の階調値を求める駆動用階調値算出部と
を有することを特徴とする、表示装置。
【請求項8】
前記第1の特性算出部は、前記測定電流電圧特性を表す関数を非線形の関数から線形の関数に変換し、
前記第2の特性算出部は、前記目標電流電圧特性を表す関数を非線形の関数から線形の関数に変換することを特徴とする、請求項に記載の表示装置。
【請求項9】
前記高周波成分データ圧縮処理部および前記低周波成分データ圧縮処理部の少なくとも一方は、再量子化を行うことによってデータを圧縮することを特徴とする、請求項に記載の表示装置。
【請求項10】
前記電流データ分離部は、
前記電流データのうち前記低周波成分データを通過させて前記高周波成分データを除去する高周波成分除去フィルタと、
前記電流データのうち前記高周波成分データを通過させて前記低周波成分データを除去する低周波成分除去フィルタと
を有することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項11】
前記電流データ分離部は、
前記電流データのうち前記低周波成分データを通過させて前記高周波成分データを除去する高周波成分除去フィルタと、
前記高周波成分除去フィルタを通過した前記低周波成分データと前記電流データとの差分に基づいて前記高周波成分データを求める高周波成分演算部と
を有することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項12】
前記電流データ分離部は、
前記電流データのうち前記高周波成分データを通過させて前記低周波成分データを除去する低周波成分除去フィルタと、
前記低周波成分除去フィルタを通過した前記高周波成分データと前記電流データとの差分に基づいて前記低周波成分データを求める低周波成分演算部と
を有することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項13】
前記低周波成分データ圧縮処理部は、前記低周波成分データを構成するデータ群の中から前記記憶部への保存対象とするデータを所定数の画素回路毎に抽出することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項14】
前記低周波成分データ圧縮処理部は、前記記憶部の容量を考慮して求められる目標とする圧縮率が得られるように、前記低周波成分データを構成するデータ群の中から前記記憶部への保存対象とするデータを抽出する際の抽出間隔を算出することを特徴とする、請求項13に記載の表示装置。
【請求項15】
前記酸化物半導体は、インジウム(In),ガリウム(Ga),亜鉛(Zn),および酸素(О)を主成分とする酸化インジウムガリウム亜鉛であることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項16】
電流によって輝度が制御される電気光学素子と前記電気光学素子に供給すべき電流を制御するためのトランジスタであって酸化物半導体によってチャネル層が形成されたトランジスタである駆動トランジスタとをそれぞれが有する複数の画素回路を含む表示装置におけるデータ処理方法であって、
各画素回路に含まれる前記駆動トランジスタの駆動電流を測定して当該駆動電流の値を電流データとして出力する電流測定ステップと、
前記電流データを高周波成分データと低周波成分データとに分離する電流データ分離ステップと、
前記高周波成分データを圧縮する高周波成分データ圧縮処理ステップと、
前記低周波成分データを圧縮する低周波成分データ圧縮処理ステップと、
前記高周波成分データ圧縮処理ステップによる圧縮後の高周波成分データと前記低周波成分データ圧縮処理ステップによる圧縮後の低周波成分データとを所定の記憶部に保存する保存ステップと
を含み、
前記高周波成分データ圧縮処理ステップと前記低周波成分データ圧縮処理ステップとでは異なる手法でデータの圧縮が行われ
前記高周波成分データ圧縮処理ステップでは、前記高周波成分データが所定幅以下の振幅を有する低振幅データと前記所定幅よりも大きな振幅を有する高振幅データとに分離され、
前記保存ステップでは、前記高周波成分データに関し、前記低振幅データおよび前記高振幅データのうち前記高振幅データのみが前記記憶部に保存されることを特徴とする、データ処理方法。
【請求項17】
電流によって輝度が制御される電気光学素子と前記電気光学素子に供給すべき電流を制御するためのトランジスタであって酸化物半導体によってチャネル層が形成されたトランジスタである駆動トランジスタとをそれぞれが有する複数の画素回路を含む表示装置におけるデータ処理方法であって、
各画素回路に含まれる前記駆動トランジスタの駆動電流を測定して当該駆動電流の値を電流データとして出力する電流測定ステップと、
前記電流データを高周波成分データと低周波成分データとに分離する電流データ分離ステップと、
前記高周波成分データを圧縮する高周波成分データ圧縮処理ステップと、
前記低周波成分データを圧縮する低周波成分データ圧縮処理ステップと、
前記高周波成分データ圧縮処理ステップによる圧縮後の高周波成分データと前記低周波成分データ圧縮処理ステップによる圧縮後の低周波成分データとを所定の記憶部に保存する保存ステップと
各画素回路に対応する階調値を示す階調信号を受け取り、前記駆動トランジスタの駆動に供される駆動用階調信号を前記階調信号の階調値を補正することによって生成する階調値補正ステップと
を含み、
前記高周波成分データ圧縮処理ステップと前記低周波成分データ圧縮処理ステップとでは異なる手法でデータの圧縮が行われ
前記電流測定ステップでは、各画素回路につき少なくとも2つの階調値に対応する駆動電流が測定され、
前記階調値補正ステップは、
前記電流測定ステップで出力される、各画素回路についての前記少なくとも2つの階調値に対応する電流データに基づいて、各画素回路における駆動電流の測定時点の電流電圧特性である測定電流電圧特性を求める第1の特性算出ステップと、
各画素回路における目標とする電流電圧特性である目標電流電圧特性を、当該画素回路を含む複数の画素回路についての前記少なくとも2つの階調値に対応する電流データに基づいて求める第2の特性算出ステップと、
前記目標電流電圧特性から求められる、前記階調信号の階調値に対応する電流値と、前記測定電流電圧特性から求められる、前記駆動用階調信号の階調値に対応する電流値とが等しくなるように、前記駆動用階調信号の階調値を求める駆動用階調値算出ステップと
を含むことを特徴とする、データ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表示装置に関し、より詳細には、有機発光ダイオード(Organic Light Emitting Diode:OLED)などの電気光学素子を表示素子とする表示装置およびその表示装置におけるデータ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表示装置が備える表示素子としては、印加される電圧によって輝度が制御される電気光学素子と流れる電流によって輝度が制御される電気光学素子とがある。印加される電圧によって輝度が制御される電気光学素子の代表例としては液晶表示素子が挙げられる。一方、流れる電流によって輝度が制御される電気光学素子の代表例としてはOLEDが挙げられる。OLEDは、有機エレクトロルミネッセンス(Electro Luminescence:EL)素子とも呼ばれる。自発光型の電気光学素子であるOLEDを使用した有機EL表示装置は、バックライトおよびカラーフィルタなどを要する液晶表示装置に比べて、容易に薄型化・低消費電力化・高輝度化などを図ることができる。従って、近年積極的に有機EL表示装置の開発が進められている。
【0003】
有機EL表示装置の駆動方式としては、パッシブマトリクス方式(単純マトリクス方式とも呼ばれる。)およびアクティブマトリクス方式の2種類がある。パッシブマトリクス方式を採用した有機EL表示装置(以下「パッシブマトリクス型の有機EL表示装置」という。)は、構造は単純であるものの、大型化および高精細化が困難である。これに対して、アクティブマトリクス方式を採用した有機EL表示装置(以下「アクティブマトリクス型の有機EL表示装置」という。)は、パッシブマトリクス型の有機EL表示装置に比べて大型化および高精細化を容易に実現できる。
【0004】
アクティブマトリクス型の有機EL表示装置は、マトリクス状に配置された複数の画素回路を含んでいる。また、アクティブマトリクス型の有機EL表示装置の画素回路は、典型的には、画素を選択する入力トランジスタと、OLEDへの電流の供給を制御する駆動トランジスタとを含んでいる。以下では、駆動トランジスタからOLEDに流れる電流のことを「駆動電流」という場合がある。
【0005】
ところで、駆動トランジスタとしては、典型的には薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:TFT)が使用されている。しかしながら駆動トランジスタに関しては、その特性にばらつきが生じやすい。駆動トランジスタの特性のばらつきは、輝度のばらつきの要因となる。例えば、全ての画素に同じ階調信号(階調電圧)を与えても、画素毎に異なる輝度が現れる。なお、ここでいう「駆動トランジスタの特性」とは、例えば駆動トランジスタの閾値電圧および移動度などである。
【0006】
また、OLEDは、発光時間が長くなるにつれて劣化が進行し、結果として発光輝度が当初よりも低下することが知られている。すなわち、OLEDの劣化が進行すると、当初と同じ駆動電流を流しても所望の発光輝度まで到達しない。以下では、OLEDの発光時間が長くなるにつれて進行する劣化のことを「経時劣化」という。また、例えば、ある画素においてOLEDの経時劣化が周囲の画素よりも進行すると、それらの画素間での輝度差が視認される。このような現象は「焼き付き」と呼ばれている。
【0007】
なお、本件発明に関連して、以下の先行技術文献が知られている。日本の特開2001−175221号公報,日本の特開2007−286295号公報,および日本の特開2006−284971号公報には、表示装置における焼き付きの発生を抑制する技術が開示されている。具体的には、日本の特開2001−175221号公報に記載の表示装置では、画素の発光輝度を焼き付きを起こした画素の発光輝度と同じレベルに低下させる処理(劣化した画素の発光輝度に応じて、その他の画素の発光輝度を調整する)処理を行うことによって、焼き付きを目立たなくしている。日本の特開2007−286295号公報に記載の表示装置では、所定のユーザーイベントを検出する毎に高輝度表示画面(全白画面)を表示することによって、表示画面内で発光輝度差が生じることが抑制されている。日本の特開2006−284971号公報には、各画素の劣化量に基づいて各画素に対応する補正量を決定する補正量決定部と、補正量の分布のばらつき度合いを示す情報を算出するばらつき判定部と、補正量の分布のばらつきが大きいほど効果的に階調差を圧縮するようにしたガンマカーブを参照して入力階調値を出力階調値に変換する階調変換部とを備えた焼き付き補正装置が開示されている。
【0008】
また、日本の特開2006−195313号には、焼き付き情報の保存に必要なメモリ容量を低減させる技術が開示されている。日本の特開2012−141626号公報には、表示装置における輝度むらの発生を抑制する技術が開示されている。日本の特開2007−279290号公報には、輝度のばらつきを抑制するための補正データの保存に必要なメモリ容量を低減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】日本の特開2001−175221号公報
【特許文献2】日本の特開2007−286295号公報
【特許文献3】日本の特開2006−284971号公報
【特許文献4】日本の特開2006−195313号公報
【特許文献5】日本の特開2012−141626号公報
【特許文献6】日本の特開2007−279290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、「駆動トランジスタの特性のばらつきやOLEDの経時劣化」に起因する「焼き付きや輝度のばらつきの発生」を抑制するために、(駆動トランジスタやOLEDの)特性変化に応じたデータを用いて階調信号を補正することも提案されている。詳しくは、画素毎の電流を測定することによって得られるデータ(測定データ)に基づいて画素毎に階調信号を補正することが提案されている。なお、測定データは駆動トランジスタの特性のばらつきやOLEDの経時劣化を補償するために用いられるので、このような測定データのことを以下「補償用データ」ともいう。しかしながら、パネルの大型化や高解像度化が進むにつれて、補償用データのデータ量が増大するので、補償用データの保存に必要なメモリ容量が増大する。メモリ容量の増大は、コスト増の要因となる。
【0011】
そこで、本発明は、表示装置において、補償用データ(駆動トランジスタの特性のばらつき等を補償するために用いられるデータ)の保存に必要なメモリ容量を従来よりも低減可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の局面は、電流によって輝度が制御される電気光学素子と前記電気光学素子に供給すべき電流を制御するためのトランジスタであって酸化物半導体によってチャネル層が形成されたトランジスタである駆動トランジスタとをそれぞれが有する複数の画素回路を含む表示装置であって、
各画素回路に含まれる前記駆動トランジスタの駆動電流を測定して当該駆動電流の値を電流データとして出力する電流測定部と、
前記電流データを高周波成分データと低周波成分データとに分離する電流データ分離部と、
前記高周波成分データを圧縮する高周波成分データ圧縮処理部と、
前記低周波成分データを圧縮する低周波成分データ圧縮処理部と、
前記高周波成分データ圧縮処理部による圧縮後の高周波成分データと前記低周波成分データ圧縮処理部による圧縮後の低周波成分データとを保存するための記憶部と
を備え、
前記高周波成分データ圧縮処理部と前記低周波成分データ圧縮処理部とでは異なる手法でデータの圧縮が行われ
前記高周波成分データ圧縮処理部は、前記高周波成分データを所定幅以下の振幅を有する低振幅データと前記所定幅よりも大きな振幅を有する高振幅データとに分離し、前記低振幅データおよび前記高振幅データのうち前記高振幅データのみを前記記憶部に保存することを特徴とする。
【0013】
本発明の第2の局面は、本発明の第の局面において、
前記高周波成分データ圧縮処理部は、前記所定幅の振幅の上限値および下限値を基準にして前記高振幅データの再定義を行い、再定義後の高振幅データを前記記憶部に保存することを特徴とする。
【0014】
本発明の第3の局面は、本発明の第の局面において、
前記高周波成分データ圧縮処理部は、1行分の画素回路に対応する高周波成分データ毎にデータの圧縮を行い、
前記高振幅データの再定義が行われる際の基準となる振幅の上限値および下限値は、各行の画素回路に対応する高周波成分データの圧縮が行われる際に、既にデータの圧縮が行われている行についての圧縮後のデータ量と前記記憶部の容量とに基づいて求められることを特徴とする。
【0015】
本発明の第4の局面は、電流によって輝度が制御される電気光学素子と前記電気光学素子に供給すべき電流を制御するためのトランジスタであって酸化物半導体によってチャネル層が形成されたトランジスタである駆動トランジスタとをそれぞれが有する複数の画素回路を含む表示装置であって、
各画素回路に含まれる前記駆動トランジスタの駆動電流を測定して当該駆動電流の値を電流データとして出力する電流測定部と、
前記電流データを高周波成分データと低周波成分データとに分離する電流データ分離部と、
前記高周波成分データを圧縮する高周波成分データ圧縮処理部と、
前記低周波成分データを圧縮する低周波成分データ圧縮処理部と、
前記高周波成分データ圧縮処理部による圧縮後の高周波成分データと前記低周波成分データ圧縮処理部による圧縮後の低周波成分データとを保存するための記憶部と
を備え、
前記高周波成分データ圧縮処理部と前記低周波成分データ圧縮処理部とでは異なる手法でデータの圧縮が行われ
前記高周波成分データ圧縮処理部は、前記高周波成分データを所定幅以下の振幅を有する低振幅データと前記所定幅よりも大きな振幅を有する高振幅データとに分離し、前記低振幅データについては比較的粗く量子化を行い、前記高振幅データについては比較的細かく量子化を行い、量子化によって得られたデータを前記記憶部に保存することを特徴とする。
【0016】
本発明の第5の局面は、電流によって輝度が制御される電気光学素子と前記電気光学素子に供給すべき電流を制御するためのトランジスタであって酸化物半導体によってチャネル層が形成されたトランジスタである駆動トランジスタとをそれぞれが有する複数の画素回路を含む表示装置であって、
各画素回路に含まれる前記駆動トランジスタの駆動電流を測定して当該駆動電流の値を電流データとして出力する電流測定部と、
前記電流データを高周波成分データと低周波成分データとに分離する電流データ分離部と、
前記高周波成分データを圧縮する高周波成分データ圧縮処理部と、
前記低周波成分データを圧縮する低周波成分データ圧縮処理部と、
前記高周波成分データ圧縮処理部による圧縮後の高周波成分データと前記低周波成分データ圧縮処理部による圧縮後の低周波成分データとを保存するための記憶部と
を備え、
前記高周波成分データ圧縮処理部と前記低周波成分データ圧縮処理部とでは異なる手法でデータの圧縮が行われ
前記高周波成分データ圧縮処理部は、前記高周波成分データに対して再量子化を行い、再量子化によって得られたデータに対してハフマン符号化を行うことによって、前記高周波成分データを圧縮することを特徴とする。
【0017】
本発明の第6の局面は、本発明の第の局面において、
前記高周波成分データ圧縮処理部は、1行分の画素回路に対応する高周波成分データ毎に再量子化およびハフマン符号化を行い、
再量子化が行われる前に、再量子化対象の高周波成分データの値にパラメータ値を乗ずる処理が行われ、
前記パラメータ値は、各行の画素回路に対応する高周波成分データに対して再量子化が行われる際に、既に再量子化およびハフマン符号化が行われている行についてのハフマン符号化後のデータ量と前記記憶部の容量とに基づいて求められることを特徴とする。
【0018】
本発明の第7の局面は、電流によって輝度が制御される電気光学素子と前記電気光学素子に供給すべき電流を制御するためのトランジスタであって酸化物半導体によってチャネル層が形成されたトランジスタである駆動トランジスタとをそれぞれが有する複数の画素回路を含む表示装置であって、
各画素回路に含まれる前記駆動トランジスタの駆動電流を測定して当該駆動電流の値を電流データとして出力する電流測定部と、
前記電流データを高周波成分データと低周波成分データとに分離する電流データ分離部と、
前記高周波成分データを圧縮する高周波成分データ圧縮処理部と、
前記低周波成分データを圧縮する低周波成分データ圧縮処理部と、
前記高周波成分データ圧縮処理部による圧縮後の高周波成分データと前記低周波成分データ圧縮処理部による圧縮後の低周波成分データとを保存するための記憶部と
各画素回路に対応する階調値を示す階調信号を受け取り、前記駆動トランジスタの駆動に供される駆動用階調信号を前記階調信号の階調値を補正することによって生成する階調値補正部と
を備え、
前記高周波成分データ圧縮処理部と前記低周波成分データ圧縮処理部とでは異なる手法でデータの圧縮が行われ
前記電流測定部は、各画素回路につき少なくとも2つの階調値に対応する駆動電流を測定し、
前記階調値補正部は、
前記電流測定部から出力される、各画素回路についての前記少なくとも2つの階調値に対応する電流データに基づいて、各画素回路における駆動電流の測定時点の電流電圧特性である測定電流電圧特性を求める第1の特性算出部と、
各画素回路における目標とする電流電圧特性である目標電流電圧特性を、当該画素回路を含む複数の画素回路についての前記少なくとも2つの階調値に対応する電流データに基づいて求める第2の特性算出部と、
前記目標電流電圧特性から求められる、前記階調信号の階調値に対応する電流値と、前記測定電流電圧特性から求められる、前記駆動用階調信号の階調値に対応する電流値とが等しくなるように、前記駆動用階調信号の階調値を求める駆動用階調値算出部と
を有することを特徴とする。
【0019】
本発明の第8の局面は、本発明の第の局面において、
前記第1の特性算出部は、前記測定電流電圧特性を表す関数を非線形の関数から線形の関数に変換し、
前記第2の特性算出部は、前記目標電流電圧特性を表す関数を非線形の関数から線形の関数に変換することを特徴とする。
【0020】
本発明の第9の局面は、本発明の第の局面において、
前記高周波成分データ圧縮処理部および前記低周波成分データ圧縮処理部の少なくとも一方は、再量子化を行うことによってデータを圧縮することを特徴とする。
【0021】
本発明の第10の局面は、本発明の第1から第9までのいずれかの局面において、
前記電流データ分離部は、
前記電流データのうち前記低周波成分データを通過させて前記高周波成分データを除去する高周波成分除去フィルタと、
前記電流データのうち前記高周波成分データを通過させて前記低周波成分データを除去する低周波成分除去フィルタと
を有することを特徴とする。
【0022】
本発明の第11の局面は、本発明の第1から第9までのいずれかの局面において、
前記電流データ分離部は、
前記電流データのうち前記低周波成分データを通過させて前記高周波成分データを除去する高周波成分除去フィルタと、
前記高周波成分除去フィルタを通過した前記低周波成分データと前記電流データとの差分に基づいて前記高周波成分データを求める高周波成分演算部と
を有することを特徴とする。
【0023】
本発明の第12の局面は、本発明の第1から第9までのいずれかの局面において、
前記電流データ分離部は、
前記電流データのうち前記高周波成分データを通過させて前記低周波成分データを除去する低周波成分除去フィルタと、
前記低周波成分除去フィルタを通過した前記高周波成分データと前記電流データとの差分に基づいて前記低周波成分データを求める低周波成分演算部と
を有することを特徴とする。
【0024】
本発明の第13の局面は、本発明の第1から第9までのいずれかの局面において、
前記低周波成分データ圧縮処理部は、前記低周波成分データを構成するデータ群の中から前記記憶部への保存対象とするデータを所定数の画素回路毎に抽出することを特徴とする。
【0025】
本発明の第14の局面は、本発明の第13の局面において、
前記低周波成分データ圧縮処理部は、前記記憶部の容量を考慮して求められる目標とする圧縮率が得られるように、前記低周波成分データを構成するデータ群の中から前記記憶部への保存対象とするデータを抽出する際の抽出間隔を算出することを特徴とする。
【0026】
本発明の第15の局面は、本発明の第1から第9までのいずれかの局面において、
前記酸化物半導体は、インジウム(In),ガリウム(Ga),亜鉛(Zn),および酸素(О)を主成分とする酸化インジウムガリウム亜鉛であることを特徴とする。
【0027】
本発明の第16の局面は、電流によって輝度が制御される電気光学素子と前記電気光学素子に供給すべき電流を制御するためのトランジスタであって酸化物半導体によってチャネル層が形成されたトランジスタである駆動トランジスタとをそれぞれが有する複数の画素回路を含む表示装置におけるデータ処理方法であって、
各画素回路に含まれる前記駆動トランジスタの駆動電流を測定して当該駆動電流の値を電流データとして出力する電流測定ステップと、
前記電流データを高周波成分データと低周波成分データとに分離する電流データ分離ステップと、
前記高周波成分データを圧縮する高周波成分データ圧縮処理ステップと、
前記低周波成分データを圧縮する低周波成分データ圧縮処理ステップと、
前記高周波成分データ圧縮処理ステップによる圧縮後の高周波成分データと前記低周波成分データ圧縮処理ステップによる圧縮後の低周波成分データとを所定の記憶部に保存する保存ステップと
を含み、
前記高周波成分データ圧縮処理ステップと前記低周波成分データ圧縮処理ステップとでは異なる手法でデータの圧縮が行われ
前記高周波成分データ圧縮処理ステップでは、前記高周波成分データが所定幅以下の振幅を有する低振幅データと前記所定幅よりも大きな振幅を有する高振幅データとに分離され、
前記保存ステップでは、前記高周波成分データに関し、前記低振幅データおよび前記高振幅データのうち前記高振幅データのみが前記記憶部に保存されることを特徴とする。
【0028】
本発明の第17の局面は、電流によって輝度が制御される電気光学素子と前記電気光学素子に供給すべき電流を制御するためのトランジスタであって酸化物半導体によってチャネル層が形成されたトランジスタである駆動トランジスタとをそれぞれが有する複数の画素回路を含む表示装置におけるデータ処理方法であって、
各画素回路に含まれる前記駆動トランジスタの駆動電流を測定して当該駆動電流の値を電流データとして出力する電流測定ステップと、
前記電流データを高周波成分データと低周波成分データとに分離する電流データ分離ステップと、
前記高周波成分データを圧縮する高周波成分データ圧縮処理ステップと、
前記低周波成分データを圧縮する低周波成分データ圧縮処理ステップと、
前記高周波成分データ圧縮処理ステップによる圧縮後の高周波成分データと前記低周波成分データ圧縮処理ステップによる圧縮後の低周波成分データとを所定の記憶部に保存する保存ステップと
各画素回路に対応する階調値を示す階調信号を受け取り、前記駆動トランジスタの駆動に供される駆動用階調信号を前記階調信号の階調値を補正することによって生成する階調値補正ステップと
を含み、
前記高周波成分データ圧縮処理ステップと前記低周波成分データ圧縮処理ステップとでは異なる手法でデータの圧縮が行われ
前記電流測定ステップでは、各画素回路につき少なくとも2つの階調値に対応する駆動電流が測定され、
前記階調値補正ステップは、
前記電流測定ステップで出力される、各画素回路についての前記少なくとも2つの階調値に対応する電流データに基づいて、各画素回路における駆動電流の測定時点の電流電圧特性である測定電流電圧特性を求める第1の特性算出ステップと、
各画素回路における目標とする電流電圧特性である目標電流電圧特性を、当該画素回路を含む複数の画素回路についての前記少なくとも2つの階調値に対応する電流データに基づいて求める第2の特性算出ステップと、
前記目標電流電圧特性から求められる、前記階調信号の階調値に対応する電流値と、前記測定電流電圧特性から求められる、前記駆動用階調信号の階調値に対応する電流値とが等しくなるように、前記駆動用階調信号の階調値を求める駆動用階調値算出ステップと
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明の第1の局面によれば、電流によって輝度が制御される電気光学素子を表示素子として採用している表示装置(典型的には有機EL表示装置)において、「駆動トランジスタの特性のばらつきや電気光学素子の経時劣化」に起因する「焼き付きや輝度のばらつきの発生」を抑制するために取得される補償用データとしての電流データは、以下のように処理される。まず、電流データは、高周波成分データと低周波成分データとに分離される。そして、高周波成分データおよび低周波成分データについて、それぞれ異なる手法でデータの圧縮が行われる。ここで、駆動トランジスタには、酸化物半導体によってチャネル層が形成されたトランジスタ(酸化物トランジスタ)が採用されている。酸化物トランジスタは特性のばらつきが小さいところ、本発明によれば、そのことを考慮して高周波成分データのデータ量と低周波成分データのデータ量とを削減することができる。以上より、補償用データとしての電流データを記憶部に保存する際に、酸化物半導体の特性を考慮した圧縮処理を行うことが可能となる。このため、復号後のデータに基づく画像表示の際に表示不良を引き起こすことなく、保存すべき電流データのデータ量を効果的に低減することができる。また、高周波成分データのうちの低振幅データは記憶部への保存対象とはならない。このため、記憶部に保存すべき補償用データのデータ量が効果的に低減される。以上より、酸化物トランジスタを用いた有機EL表示装置等の表示装置において、補償用データ(電流データ)を格納するための記憶部(メモリ)の容量を効果的に低減することが可能となる。
本発明の第2の局面によれば、高周波成分データのうちの高振幅データは、データ量が小さくなるように再定義された後に記憶部に保存される。このため、補償用データを格納するための記憶部の容量をより効果的に低減することが可能となる。
本発明の第3の局面によれば、記憶部の容量を考慮して、高振幅データと低振幅データの境界の振幅値が決定される。このため、パネルにおける輝度のばらつきが時間の経過とともに変化する場合にも、圧縮後のデータを確実に記憶部に保存することが可能となる。
本発明の第4の局面によれば、電流によって輝度が制御される電気光学素子を表示素子として採用している表示装置(典型的には有機EL表示装置)において、「駆動トランジスタの特性のばらつきや電気光学素子の経時劣化」に起因する「焼き付きや輝度のばらつきの発生」を抑制するために取得される補償用データとしての電流データは、以下のように処理される。まず、電流データは、高周波成分データと低周波成分データとに分離される。そして、高周波成分データおよび低周波成分データについて、それぞれ異なる手法でデータの圧縮が行われる。ここで、駆動トランジスタには、酸化物半導体によってチャネル層が形成されたトランジスタ(酸化物トランジスタ)が採用されている。酸化物トランジスタは特性のばらつきが小さいところ、本発明によれば、そのことを考慮して高周波成分データのデータ量が削減される。以上のように、補償用データとしての電流データを記憶部に保存する際に酸化物半導体の特性を考慮した圧縮処理が行われる。このため、復号後のデータに基づく画像表示の際に表示不良を引き起こすことなく、保存すべき電流データのデータ量を効果的に低減することができる。これにより、酸化物トランジスタを用いた有機EL表示装置等の表示装置において、補償用データ(電流データ)を格納するための記憶部(メモリ)の容量を効果的に低減することが可能となる。
本発明の第5の局面によれば、電流によって輝度が制御される電気光学素子を表示素子として採用している表示装置(典型的には有機EL表示装置)において、「駆動トランジスタの特性のばらつきや電気光学素子の経時劣化」に起因する「焼き付きや輝度のばらつきの発生」を抑制するために取得される補償用データとしての電流データは、以下のように処理される。まず、電流データは、高周波成分データと低周波成分データとに分離される。そして、高周波成分データおよび低周波成分データについて、それぞれ異なる手法でデータの圧縮が行われる。ここで、駆動トランジスタには、酸化物半導体によってチャネル層が形成されたトランジスタ(酸化物トランジスタ)が採用されている。酸化物トランジスタは特性のばらつきが小さいところ、本発明によれば、そのことを考慮して高周波成分データのデータ量と低周波成分データのデータ量とを削減することができる。特に、高周波成分データのデータ量が効果的に低減される。以上より、補償用データとしての電流データを記憶部に保存する際に、酸化物半導体の特性を考慮した圧縮処理を行うことが可能となる。このため、復号後のデータに基づく画像表示の際に表示不良を引き起こすことなく、保存すべき電流データのデータ量を効果的に低減することができる。これにより、酸化物トランジスタを用いた有機EL表示装置等の表示装置において、補償用データ(電流データ)を格納するための記憶部(メモリ)の容量を効果的に低減することが可能となる。
本発明の第6の局面によれば、記憶部の容量を考慮して、高周波成分データの圧縮が行われる際のパラメータ値が決定される。このため、パネルにおける輝度のばらつきが時間の経過とともに変化する場合にも、圧縮後のデータを確実に記憶部に保存することが可能となる。
本発明の第7の局面によれば、電流によって輝度が制御される電気光学素子を表示素子として採用している表示装置(典型的には有機EL表示装置)において、「駆動トランジスタの特性のばらつきや電気光学素子の経時劣化」に起因する「焼き付きや輝度のばらつきの発生」を抑制するために取得される補償用データとしての電流データは、以下のように処理される。まず、電流データは、高周波成分データと低周波成分データとに分離される。そして、高周波成分データおよび低周波成分データについて、それぞれ異なる手法でデータの圧縮が行われる。ここで、駆動トランジスタには、酸化物半導体によってチャネル層が形成されたトランジスタ(酸化物トランジスタ)が採用されている。酸化物トランジスタは特性のばらつきが小さいところ、本発明によれば、そのことを考慮して高周波成分データのデータ量と低周波成分データのデータ量とを削減することができる。以上より、補償用データとしての電流データを記憶部に保存する際に、酸化物半導体の特性を考慮した圧縮処理を行うことが可能となる。このため、復号後のデータに基づく画像表示の際に表示不良を引き起こすことなく、保存すべき電流データのデータ量を効果的に低減することができる。これにより、酸化物トランジスタを用いた有機EL表示装置等の表示装置において、補償用データ(電流データ)を格納するための記憶部(メモリ)の容量を効果的に低減することが可能となる。また、各画素回路の電流電圧特性に基づいて、階調値の補正が行われる。このため、駆動トランジスタの特性のばらつきや電気光学素子の経時劣化に起因する焼き付きや輝度のばらつきの発生が抑制される。
本発明の第8の局面によれば、階調値を補正する処理の際に、電流電圧特性を表す関数として線形の関数が用いられる。このため、階調値を補正する回路の実現が容易となる。
本発明の第9の局面によれば、記憶部に保存すべき高周波成分データのデータ量および記憶部に保存すべき高周波成分データのデータ量の少なくとも一方が効果的に低減される。
【0030】
本発明の第10の局面によれば、高周波成分除去フィルタと低周波成分除去フィルタとを備えた構成において、本発明の第1から第9までのいずれかの局面と同様の効果が得られる。
【0031】
本発明の第11の局面によれば、高周波成分除去フィルタを備えた構成において、本発明の第1から第9までのいずれかの局面と同様の効果が得られる。
【0032】
本発明の第12の局面によれば、低周波成分除去フィルタを備えた構成において、本発明の第1から第9までのいずれかの局面と同様の効果が得られる。
【0033】
本発明の第13の局面によれば、低周波成分データについては、サンプリングによるデータの抽出が行われる。このため、低周波成分データのデータ量や記憶部の容量を考慮しつつサンプリング間隔を適宜に設定することにより、補償用データを格納するための記憶部の容量をより効果的に低減することが可能となる。
【0034】
本発明の第14の局面によれば、記憶部の容量を考慮して、サンプリング間隔が決定される。このため、パネルにおける輝度のばらつきが時間の経過とともに変化する場合にも、圧縮後のデータを確実に記憶部に保存することが可能となる。
【0044】
本発明の第15の局面によれば、トランジスタのチャネル層を形成する酸化物半導体として酸化インジウムガリウム亜鉛を用いることにより、本発明の第1から第9までのいずれかの局面の効果を確実に達成することができる。また、従来よりも高精細化や低消費電力化を図ることが可能となる。
【0045】
本発明の第16の局面によれば、本発明の第の局面と同様の効果を表示装置のデータ処理方法において奏することができる。
本発明の第17の局面によれば、本発明の第14の局面と同様の効果を表示装置のデータ処理方法において奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明の第1の実施形態に係るアクティブマトリクス型の有機EL表示装置における画素電流データの圧縮および復号について説明するためのブロック図である。
図2】上記第1実施形態に係るアクティブマトリクス型の有機EL表示装置の全体構成を示すブロック図である。
図3】上記第1実施形態において、図2に示す表示部の構成を説明するためのブロック図である。
図4】上記第1実施形態において、ソースドライバの詳しい構成を示すブロック図である。
図5】上記第1実施形態において、画素回路および駆動電流の測定のための構成要素(ソースドライバの一部の構成要素)を示す回路図である。
図6】上記第1実施形態において、画素回路およびソースドライバの一部の構成要素の通常の表示期間における動作について説明するためのタイミングチャートである。
図7】上記第1実施形態において、画素回路およびソースドライバの一部の構成要素の電流値測定期間における動作について説明するためのタイミングチャートである。
図8】上記第1実施形態において、階調信号補正回路の概略構成を示すブロック図である。
図9】画素電流データ圧縮・復号部の構成の変形例を示すブロック図である。
図10】画素電流データ圧縮・復号部の構成の変形例を示すブロック図である。
図11】画素電流データの例を示す図である。
図12】画素電流データの全体でのヒストグラムを示す図である。
図13】1〜512列目の画素電流データの低周波成分を示す図である。
図14】低周波成分の全体でのヒストグラムを示す図である。
図15】1〜512列目の画素電流データの高周波成分を示す図である。
図16】高周波成分の全体でのヒストグラムを示す図である。
図17】IGZO−TFTを採用する表示装置における輝度のばらつきおよびLTPS−TFTを採用する表示装置における輝度のばらつきを示す図である。
図18】上記第1実施形態において、高周波成分データの圧縮について説明するための図である。
図19】画素電流データ圧縮・復号部の構成の変形例を示すブロック図である。
図20】画素電流データ圧縮・復号部の構成の変形例を示すブロック図である。
図21】上記第1実施形態において、階調値の補正方法について説明するための図である。
図22】上記第1実施形態において、階調値の補正方法について説明するための図である。
図23】上記第1実施形態において、階調値補正部の機能構成を示すブロック図である。
図24】高周波成分データを圧縮する際の不感帯の幅および低周波成分データを圧縮する際のサンプリング間隔を様々な値に変えて圧縮処理を行った比較結果を示す図である。
図25】第1の高周波成分記録方法と第2の高周波成分記録方法とを比較するための図である。
図26】第1の高周波成分記録方法と第2の高周波成分記録方法とを比較するための図である。
図27】本発明の第3の実施形態において、高周波成分データの再量子化について説明するための図である。
図28】本発明の第3の実施形態において、Huffman符号化テーブルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
<0.はじめに>
本発明の実施形態について説明する前に、データ圧縮に関する一般的な事項などについて説明する。従来より、目的や用途に応じて様々なデータ圧縮手法が提案されている。表示装置に内蔵されたメモリに圧縮データ(元のデータに対して圧縮処理が施された後のデータ)の保存が行われる場合、圧縮データのデータ量が所定容量以下となるような圧縮方法が採用されなければならない。この理由は、圧縮データがメモリに格納されないことに起因するデータ破損を防ぐため、および、そのようなデータ破損を回避すべくメモリ容量に余裕を持たせることに起因するコスト増を防ぐためである。
【0048】
圧縮手法には、圧縮すべき入力データが与えられると圧縮後のデータ容量がほぼ一意に決定されるものがある。そのような圧縮手法の代表的なものとして、Huffman符号による圧縮が挙げられる。Huffman符号による圧縮によれば、入力データの情報量が圧縮データのデータ量となる。従って、所定容量を超える情報量を持つ入力データが与えられると、圧縮データはメモリに正常に格納されず、データ破損が生じる。
【0049】
圧縮データのデータ量を所定容量以下にする手法として、非可逆圧縮が挙げられる。非可逆圧縮は、圧縮データのデータ量を所定容量以下にするためにある程度のデータ劣化(圧縮による誤差)が許容される場合に採用される。非可逆圧縮は、例えば、動画像の圧縮に用いられている。
【0050】
圧縮データのデータ量の制御は、圧縮処理に用いられる圧縮パラメータを調整することで行われる。例えば、「圧縮パラメータを小さな値にすると圧縮率が高くなり、圧縮パラメータを大きな値にすると圧縮率が低くなる。」ということを利用して、圧縮データのデータ量が目標とする値以下に抑えられる。このように、単位当たりの容量(ビットレート)は変化しつつも、平均的には或る一定の圧縮率にすることで、圧縮データのデータ量を所定容量以下にする手法は「Average Bit Rate(ABR)手法」と呼ばれている。なお、本明細書においては「(圧縮後のデータ容量/圧縮前のデータ容量)×100」のことを「圧縮率」という。また、「圧縮率が高くなる」とは、圧縮率の数値が小さくなることを意味し、「圧縮率が低くなる」とは、圧縮率の数値が大きくなることを意味する。
【0051】
圧縮パラメータの制御手法には、シングルパス手法とマルチパス手法とがある。シングルパス手法は、圧縮を行いつつ圧縮パラメータを変動させる手法である。シングルパス手法においては、圧縮処理の途中の或るタイミングで、圧縮すべき残りのデータのデータ量と圧縮データを保存するメモリの空き容量との関係に基づいて、圧縮処理を進める過程で圧縮パラメータをどのように変動させるのかの決定が行われる。すなわち、現在の圧縮率を維持した場合にメモリ容量が不足すると判断されれば、今後の圧縮で用いられる圧縮パラメータは、圧縮率が高くなるように調整される。これに対して、現在の圧縮率を維持した場合にメモリ容量が余ると判断されれば、今後の圧縮で用いられる圧縮パラメータは、圧縮率が低くなるように調整される。
【0052】
マルチパス手法は、圧縮パラメータを決定する段階と実際に圧縮する段階とを分ける手法である。マルチパス手法においては、まず、一時的に定められた圧縮パラメータを用いた圧縮が行われる。そして、圧縮されたデータの圧縮率が所望の圧縮率よりも低ければ圧縮率が高くなるように圧縮パラメータが調整され、圧縮されたデータの圧縮率が所望の圧縮率よりも高ければ圧縮率が低くなるように圧縮パラメータが調整される。その後、更新された圧縮パラメータを用いてデータを圧縮することによって、所望の圧縮率が実現される。なお、圧縮率を決定する段階の繰り返し回数が多いほど、所望の圧縮率に近い圧縮が行われる。その繰り返し回数に応じて、マルチパス手法は「2パス手法」,「3パス手法」などと呼ばれる。
【0053】
シングルパス手法によれば、その実装は容易であるが、所望の圧縮率に近付けることが比較的難しくなる。マルチパス手法によれば、所望の圧縮率を得ることは比較的容易であるが、その実装が困難である。なお、以下においては、説明を簡易なものにするため、シングルパス手法を例に挙げて説明する。但し、本発明はシングルパス手法に限定されるものではない。
【0054】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
【0055】
<1.第1の実施形態>
<1.1 全体構成>
図2は、本発明の第1の実施形態に係るアクティブマトリクス型の有機EL表示装置1の全体構成を示すブロック図である。この有機EL表示装置1は、タイミングコントローラ10,ソースドライバ20,ゲートドライバ30,階調信号補正回路40,および表示部50を含んでいる。ソースドライバ20には、データ電圧供給部21と電流測定部22とが含まれている。なお、ソースドライバ20およびゲートドライバ30のいずれか一方または双方が表示部50と一体的に形成された構成であっても良い。表示部50には、電気光学素子であるOLED52を含む複数の画素回路51が形成されている。画素回路51の詳しい構成については後述する。なお、図2には1つの画素回路51のみを示している。
【0056】
図3は、図2に示す表示部50の構成を説明するためのブロック図である。表示部50には、m本のデータ線DA1〜DAmおよびこれらに直交するn本の走査線DM1〜DMnが配設されている。表示部50には、また、m本のデータ線DA1〜DAmとn本の走査線DM1〜DMnとの交差点に対応してm×n個の画素回路51が設けられている。なお、以下では、データ線DA1〜DAmを互いに区別する必要がない場合にはこれらを単に符号DAで表し、n本の走査線DM1〜DMnを互いに区別する必要がない場合にはこれらを単に符号DMで表す。各画素回路51は、赤色のサブ画素(Rサブ画素)、緑色のサブ画素(Gサブ画素)、および青色のサブ画素(Bサブ画素)のいずれかを形成する。行方向(図3における左右方向)に並んだ画素回路51は、例えば左から順にRサブ画素,Gサブ画素,およびBサブ画素を形成する。なお、サブ画素の種類は、赤色,緑色,および青色に限定されるものではなく、シアン,マゼンタ,および黄色などでも良い。
【0057】
また、表示部50には、ハイレベル電源電圧ELVDDを供給する電源線(以下「ハイレベル電源線」という。),ローレベル電源電圧ELVSSを供給する電源線(以下「ローレベル電源線」という。),および参照電圧Vrefを供給する線(以下「参照電圧線」という。)が配設されている。ハイレベル電源電圧ELVDD,ローレベル電源電圧ELVSS,および参照電圧Vrefは一定の電圧である。また、ローレベル電源電圧ELVSSは、例えば接地電圧である。なお、ハイレベル電源電圧ELVDDを供給する電源線については、ハイレベル電源電圧と同じ符号ELVDDで表し、ローレベル電源電圧ELVSSを供給する電源線については、ローレベル電源電圧と同じ符号ELVSSで表し、参照電圧Vrefを供給する線については、参照電圧と同じ符号Vrefで表す。
【0058】
次に、図2に示す各構成要素の動作について説明する。タイミングコントローラ10は、外部から送られる画像信号DATに基づいて、ソースドライバ20,ゲートドライバ30,および階調信号補正回路40の動作を制御する。より詳細には、タイミングコントローラ10は、ソースドライバ20およびゲートドライバ30に各種制御信号を送信し、階調信号補正回路40に階調信号と各種制御信号とを送信することにより、ソースドライバ20,ゲートドライバ30,および階調信号補正回路40の動作を制御する。
【0059】
ソースドライバ20は、タイミングコントローラ10から送られる制御信号に従って、階調信号補正回路40から送られる駆動用階調信号VDに基づき、データ線DAへのデータ電圧の供給および各画素における駆動電流の測定を行う。データ電圧供給部21は、駆動用階調信号VDに基づくデータ電圧をデータ線DAに供給する。電流測定部22は、所定の階調値に対応する駆動用階調信号VDに基づくデータ電圧に応じて画素回路51から得られる駆動電流を測定し、当該駆動電流の大きさをデジタル値で表現したデータである画素電流データIを取得する。本実施形態においては、この画素電流データIが補償用データとなる。電流測定部22は、また、取得した画素電流データIを階調信号補正回路40に送信する。なお、ソースドライバ20の構成および動作についての詳しい説明は後述する。ゲートドライバ30は、タイミングコントローラ10から送られる制御信号に従って、n本の走査線DM1〜DMnを順次に選択する。
【0060】
階調信号補正回路40は、タイミングコントローラ10から送られる階調信号に上記画素電流データIに基づく補正を施し、当該補正によって得られる駆動用階調信号VDをソースドライバ20に与える。
【0061】
以上のようにして、m本のデータ線DA1〜DAmにデータ電圧が印加され、n本の走査線DM1〜DMnが順次に選択されることにより、画像信号DATに基づく画像が表示部50に表示される。
【0062】
1フレーム期間は、通常の表示期間と垂直帰線期間とからなる。本実施形態においては、垂直帰線期間の一部の期間が上記画素電流データIを取得するための電流値測定期間として使用される。1つの垂直帰線期間内の電流値測定期間には、例えば、n本の走査線DMのうちの所定数の走査線DM(p本の走査線DM)が順次に選択される。そして、選択された走査線DMに接続されている画素回路51における駆動電流を測定することによって画素電流データIが取得される。ゲートドライバ30は、選択すべきp本の走査線DMを垂直帰線期間毎に(すなわち1フレーム期間毎に)シフトさせる。これにより、あるフレーム期間の垂直帰線期間に1行目〜p行目の走査線DM1〜DMpに対応する画素回路51のそれぞれについての駆動電流の測定が行われるとすると、その次のフレーム期間の垂直帰線期間にはp+1行目〜2p行目の走査線DMp+1〜DM2pに対応する画素回路51のそれぞれについての駆動電流の測定が行われる。このようにして、測定対象とするm×p個の画素回路51を重複することなく1フレーム期間毎に順次にシフトさせることにより、m×n個の画素回路51のそれぞれについての駆動電流の測定を行うことができる。
【0063】
例えば本実施形態における表示パネルがFHD(Full High Definition)方式であると仮定すると、総走査線数は1125本であり、有効走査線数は1080本である。上記走査線DMの本数nは、有効走査線の本数に相当する。FHD方式では、1フレーム期間が1125H期間であり、映像信号期間(通常の表示期間)が1080H期間であるので、垂直帰線期間は45H期間となる。本実施形態では、p=9とし、垂直帰線期間において9本の走査線DMが順次に5H期間ずつ選択される。このようにFHD方式でp=9とした場合、120フレーム(1080行/9行)すなわち2秒で全画素回路51について駆動電流を測定することができる。なお、ここで示すpの値および走査線DMを選択する期間の長さなどは単なる一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0064】
<1.2 ソースドライバ>
図4は、ソースドライバ20の詳しい構成を示すブロック図である。ソースドライバ20は、シフトレジスタ23,第1ラッチ部24,第2ラッチ部25,D/A変換部26,および電圧出力/電流測定部27を備えている。第2ラッチ部25は、m本のデータ線DA1〜DAmにそれぞれ対応するm個のラッチ回路250を備えている。D/A変換部26は、m本のデータ線DA1〜DAmにそれぞれ対応するm個のD/Aコンバータ(以下「DAC」という。)260を備えている。電圧出力/電流測定部27は、m本のデータ線DA1〜DAmにそれぞれ対応するm個の電圧出力/電流測定回路270を備えている。タイミングコントローラ10は、上記各種制御信号として、データスタートパルスDSP,データクロックDCK,ラッチストローブ信号LS,および入出力制御信号DWTをこのソースドライバ20に与える。階調信号補正回路40は、駆動用階調信号VDをこのソースドライバ20に与える。なお、通常の表示期間には、駆動用階調信号VDの値(階調値)は各画素における目標とする表示画像に応じた値となり、電流値測定期間には、駆動用階調信号VDの値は駆動電流を測定するための所定の値となる。
【0065】
シフトレジスタ23にはデータスタートパルスDSPとデータクロックDCKとが入力される。シフトレジスタ23は、データクロックDCKに基づき、データスタートパルスDSPに含まれるパルスを入力端から出力端へと順次に転送する。このパルスの転送に応じてシフトレジスタ23から各データ線DAに対応するサンプリングパルスが順次に出力され、当該サンプリングパルスは第1ラッチ部24に順次に入力される。第1ラッチ部24は、1行分の駆動用階調信号VDの値を、上記サンプリングパルスのタイミングで順次に記憶する。各ラッチ回路250は、第1ラッチ部24に記憶された1行分の階調値のうちの対応する列の階調値をラッチストローブ信号LSに応じて取り込んで保持する。各ラッチ回路250は、また、保持している階調値を内部階調データとして、対応するDAC260に与える。各DAC260は、対応するラッチ回路250から出力された内部階調データに応じた階調電圧を選択し、当該階調電圧をデータ電圧として、対応する電圧出力/電流測定回路270に与える。
【0066】
電圧出力/電流測定回路270は、入出力制御信号DWTのレベルに応じて異なる動作を行う。入出力制御信号DWTが“1”レベル(本明細書ではハイレベル)であれば、電圧出力/電流測定回路270は、DAC260から出力されたデータ電圧を、対応するデータ線DAに供給する。入出制御信号DWTが“0”レベル(本明細書ではローレベル)であれば、電圧出力/電流測定回路270は、対応するデータ線DAに画素回路51から出力された駆動電流の値(電流値)を測定する。測定によって得られた画素電流データIは、電圧出力/電流測定回路270から階調信号補正回路40に送られる。
【0067】
なお、電圧出力/電流測定部27の一部によって電流測定部22(図2参照)が構成され、電圧出力/電流測定部27の残りの部分,シフトレジスタ23,第1ラッチ部24,第2ラッチ部25,およびD/A変換部26によってデータ電圧供給部21(図2参照)が構成されている。
【0068】
<1.3 画素回路および駆動電流の測定のための構成要素>
図5は、本実施形態における画素回路51および駆動電流の測定のための構成要素(ソースドライバ20の一部の構成要素)を示す回路図である。画素回路51は、1個のOLED52、3個のトランジスタT1〜T3、および1個のコンデンサC1を備えている。トランジスタT1は駆動トランジスタであり、トランジスタT2は参照電圧供給トランジスタであり、トランジスタT3は入力トランジスタである。
【0069】
本実施形態においては、トランジスタT1〜T3はすべてnチャネル型である。また、本実施形態においては、トランジスタT1〜T3には、酸化物TFT(酸化物半導体をチャネル層に用いた薄膜トランジスタ)が採用されている。具体的には、インジウム(In),ガリウム(Ga),亜鉛(Zn),および酸素(O)を主成分とする酸化物半導体であるInGaZnOx(酸化インジウムガリウム亜鉛)(以下「IGZO」という。)によりチャネル層が形成されたIGZO−TFTが採用されている。なお、IGZO−TFTなどの酸化物TFTは、特に、画素回路51に含まれるnチャネル型のトランジスタとして採用する場合に有効である。ただし、本発明は、pチャネル型の酸化物TFTの使用を排除するものではない。また、IGZO以外の酸化物半導体をチャネル層に用いたトランジスタを採用することもできる。例えば、インジウム,ガリウム,亜鉛,銅(Cu),シリコン(Si),錫(Sn),アルミニウム(Al),カルシウム(Ca),ゲルマニウム(Ge),および鉛(Pb)のうち少なくとも1つを含む酸化物半導体をチャネル層に用いたトランジスタを採用した場合にも同様の効果が得られる。
【0070】
トランジスタT1は、OLED52と直列に設けられている。このトランジスタT1については、ハイレベル電源線ELVDDにドレイン端子が接続され、OLED52のアノード端子にソース端子が接続されている。トランジスタT2は、参照電圧線VrefとトランジスタT1のゲート端子との間に設けられている。トランジスタT2のゲート端子は、走査線DMに接続されている。トランジスタT3は、データ線DAとトランジスタT1のソース端子との間に設けられている。トランジスタT3のゲート端子は、走査線DMに接続されている。コンデンサC1は、トランジスタT1のゲート端子とソース端子との間に設けられている。OLED52のカソード端子は、ローレベル電源線ELVSSに接続されている。
【0071】
ソースドライバ20は、DAC260,オペアンプ2701,抵抗素子R1,制御スイッチSW,および測定データ取得部2702を含んでいる。なお、DAC260はデータ電圧供給部21の構成要素であり、オペアンプ2701および制御スイッチSWはデータ電圧供給部21および電流測定部22で共有された構成要素であり、抵抗素子R1および測定データ取得部2702は電流測定部22の構成要素である。抵抗素子R1は、電流電圧変換素子として機能する。
【0072】
オペアンプ2701の非反転入力端子はDAC260の出力端子に接続され、オペアンプ2701の反転入力端子は対応するデータ線DAに接続されている。オペアンプ2701の出力端子と反転入力端子との間には、抵抗素子R1および制御スイッチSWが並列に接続されている。制御スイッチSWは、例えばタイミングコントローラ10から送信される入出力制御信号DWTによって制御される。入出力制御信号DWTが“1”レベルの時には、制御スイッチSWは閉じた状態となる。入出力制御信号DWTが“0”レベルの時には、制御スイッチSWは開いた状態となる。測定データ取得部2702は、オペアンプ2701からの出力に基づいて測定データとしての画素電流データIを取得する。その画素電流データIは、階調信号補正回路40に送られる。
【0073】
入出力制御信号DWTが“1”レベルの時には、制御スイッチSWが閉じているので、オペアンプ2701の出力端子と反転入力端子とが短絡される。このため、入出力制御信号DWTが“1”レベルの時には、オペアンプ2701はバッファアンプとして機能する。これにより、駆動用階調信号VDに基づくデータ電圧が、低出力インピーダンスでデータ線DAに供給される。このとき、測定データ取得部2702を入出力制御信号DWTで制御するなどして、データ電圧が測定データ取得部2702に入力されないようにすることが望ましい。
【0074】
入出力制御信号DWTが“0”レベルの時には、制御スイッチSWが開いているので、オペアンプ2701の出力端子と反転入力端子とが抵抗素子R1を介して互いに接続される。このため、オペアンプ2701は、抵抗素子R1を帰還抵抗とした電流増幅アンプとして機能する。このとき、オペアンプ2701の非反転入力端子にデータ電圧が入力されると、仮想短絡により、反転入力端子の電位はデータ電圧の電位とほぼ等しくなる。また、このとき、画素回路51からデータ線DAに、データ電圧に基づく(トランジスタT1の)ゲート−ソース間電圧Vgsに応じて流れる駆動電流が出力される。これにより、測定データ取得部2702は、上述した画素電流データIを取得することができる。
【0075】
<1.3.1 通常の表示期間における動作>
図6は、画素回路51およびソースドライバ20の一部の構成要素の通常の表示期間における動作について説明するためのタイミングチャートである。なお、ここで着目する画素回路51においては時刻t1〜t2の期間A3にデータ電圧Vmの書き込みが行われるべきものとする。
【0076】
通常の表示期間には、n本の走査線DMが順次に選択される。また、通常の表示期間には、入出力制御信号DWTは“1”レベルになっている。このため、オペアンプ2701は上述したようにバッファアンプとして機能する。
【0077】
時刻t1以前には、走査線DMは“0”レベルになっている。このとき、トランジスタT2,T3がオフ状態になっており、トランジスタT1には、コンデンサC1に保持されたゲート−ソース間電圧Vgsに応じた駆動電流が流れている。そして、OLED52は、この駆動電流に応じた輝度で発光している。以下では、トランジスタT1に流れる駆動電流とOLED52に流れる駆動電流とを区別する場合に、OLED52に流れる駆動電流のことを発光駆動電流Ioledという。
【0078】
時刻t1になると、データ線DAにはオペアンプ2701を介してデータ電圧Vmが供給される。また、走査線DMが“1”レベルに変化して、トランジスタT2,T3がターンオンする。このため、コンデンサC1の一端(トランジスタT1のソース端子)にはデータ線DAおよびトランジスタT3を介してデータ電圧Vmが与えられ、コンデンサC1の他端(トランジスタT1のゲート端子)にはトランジスタT2を介して参照電圧Vrefが与えられる。これにより、時刻t1〜t2の期間A3において、コンデンサC1は次式(1)で与えられるゲート−ソース間電圧Vgsに充電される。
Vgs = Vref - Vm …(1)
【0079】
なお、OLED52の閾値電圧をVtholedとすると、データ電圧Vmは次式(2)で与えられる値に設定されることが望ましい。
Vm < ELVSS + Vtholed …(2)
上式(2)のように設定されたデータ電圧VmがOLED52のアノード端子(トランジスタT1のソース端子)に与えられることにより、上記期間A3(後述の期間A1,A2でも同様)において発光駆動電流Ioledが0になる。このため、OLED52の発光を停止することができる。
【0080】
時刻t2になると、走査線DMが“0”レベルに変化して、トランジスタT2,T3がターンオフする。このため、コンデンサC1の保持電圧は上式(1)で示すゲート−ソース間電圧Vgsに確定する。このとき、トランジスタT1のソース端子はデータ線DAから電気的に切り離されているので、ゲート−ソース間電圧Vgsに応じた発光駆動電流Ioledが流れ、当該発光駆動電流Ioledに応じた輝度でOLED52が発光する。以上のようにして、通常の表示期間には、外部から送られる画像信号DATに応じた輝度で、各画素回路51内のOLED52が発光する。
【0081】
<1.3.2 電流値測定期間における動作>
図7は、画素回路51およびソースドライバ20の一部の構成要素の電流値測定期間における動作について説明するためのタイミングチャートである。時刻t1〜t2の期間A1および時刻t3〜t4の期間A1のそれぞれは、駆動電流の測定に使用する階調値(以下「測定用階調値」という。)に対応するデータ電圧(以下、単に「測定用データ電圧」という。)を画素回路51に書き込むための期間である。時刻t2〜t3の期間A2および時刻t4〜t5の期間A2のそれぞれは、測定用データ電圧に応じた駆動電流を測定するための期間である。
【0082】
ところで、本実施形態においては、測定用階調値として2つの水準(第1水準および第2水準)の階調値が用いられる。すなわち、2つの水準の測定用階調値にそれぞれ対応する2つの電圧が測定用データ電圧とされる。例えば、第1水準の測定用階調値として比較的高レベルの階調値が採用され、第2水準の測定用階調値として比較的低レベルの階調値が採用される。一例を挙げると、第1水準の測定用階調値は“186”(平均輝度が150nitとなるレベル)とされ、第2水準の測定用階調値は“82”(平均輝度が25nitとなるレベル)とされる。以下、第1水準の測定用階調値に対応する測定用データ電圧のことを「第1測定用データ電圧」といい、第2水準の測定用階調値に対応する測定用データ電圧のことを「第2測定用データ電圧」という。第1測定用データ電圧には符号Vm1を付し、第2測定用データ電圧には符号Vm2を付す。
【0083】
図7に示すように、走査線DMが“1”レベルになっている時刻t1〜t6の5H期間において、入出力制御信号DWTのレベルは、“1”レベル、“0”レベル、“1”レベル、“0”レベル、および“1”レベルの順に1H期間毎に切り替わる。上述したように、入出力制御信号DWTが“1”レベルの時にはオペアンプ2701はバッファアンプとして機能し、入出力制御信号DWTが“0”レベルの時にはオペアンプ2701は電流増幅アンプとして機能する。
【0084】
時刻t1以前には、走査線DMが“0”レベルとなっている。このとき、トランジスタT2,T3がオフ状態になっており、トランジスタT1は、コンデンサC1に保持されたゲート−ソース間電圧Vgsに応じた駆動電流を流している。トランジスタT1に流れる駆動電流は、発光駆動電流IoledとしてOLED52に流れる。そして、OLED52は、この発光駆動電流Ioledに応じた輝度で発光している。
【0085】
時刻t1になると、走査線DMが“1”レベルに変化して、トランジスタT2,T3がターンオンする。また、入出力制御信号DWTが“1”レベルになり、制御スイッチSWが閉じる。また、オペアンプ2701の非反転入力端子には、第1測定用データ電圧Vm1が入力される。このため、図7に示すように、第1測定用データ電圧Vm1がデータ線DAに供給される。これにより、上記期間A3(図6参照)と同様にして、時刻t1〜t2の期間A1において、コンデンサC1には、次式(3)で与えられるゲート−ソース間電圧Vgsが充電される。
Vgs = Vref - Vm1 …(3)
【0086】
時刻t2になると、入出力制御信号DWTが“0”レベルに変化して、制御スイッチSWが開く。また、時刻t1に引き続きオペアンプ2701の非反転入力端子には第1測定用データ電圧Vm1が入力されているので、仮想短絡により反転入力端子の電位もVm1となる。なお、時刻t1〜t2の期間A1において既にデータ線DAは第1測定用データ電圧Vm1に充電されているので、このように反転入力端子の電位がVm1になるために要する時間は僅かである。時刻t2〜t3の期間A2には、オン状態であるトランジスタT3を介した駆動電流の電流パスが形成され、画素回路51からデータ線DAに当該駆動電流が出力される。なお、上式(2)より、発光駆動電流Ioledは流れない。このように、トランジスタT3はオン状態のときに駆動電流をデータ線DAに出力可能になっている。そして、データ線DAに出力された駆動電流の測定が測定データ取得部2702(図5参照)で行われ、第1測定用データ電圧Vm1に対応する画素電流データIが取得される。
【0087】
時刻t3〜t4の期間A1には、時刻t1〜t2の期間A1と同様にして、第2測定用データ電圧Vm2に応じたゲート−ソース間電圧がコンデンサC1に充電される。時刻t4〜t5の期間A2には、時刻t2〜t3の期間A2と同様にして、第2測定用データ電圧Vm2に対応する画素電流データIが取得される。時刻t5〜t6の期間A3における動作は、通常の表示期間におけるものと同様であるので、その説明は省略する。
【0088】
以上のようにして、1つの垂直帰線期間内の電流値測定期間には、p本の走査線DMに対応する画素回路51(m×p個)のそれぞれについて、第1測定用データ電圧Vm1に対応する画素電流データIと第2測定用データ電圧Vm2に対応する画素電流データIとが取得される。
【0089】
<1.4 階調信号補正回路>
図8は、階調信号補正回路40の概略構成を示すブロック図である。階調信号補正回路40は、データ圧縮部42とデータ復号部44と階調値補正部46とによって構成されている。データ圧縮部42は、タイミングコントローラ10から送られる制御信号TCに基づいて、ソースドライバ20から送られる画素電流データIに圧縮を施す。データ復号部44は、タイミングコントローラ10から送られる制御信号TCに基づいて、データ圧縮部42によって圧縮された画素電流データIを復号する。階調値補正部46は、タイミングコントローラ10から送られる制御信号TCと階調信号Vaとに基づいて、各画素に対応する駆動用階調信号VDを生成する。その際、「駆動トランジスタ(図5のトランジスタT1)の特性のばらつきやOLED52の経時劣化」に起因する「焼き付きや輝度のばらつきの発生」を抑制するために、階調信号Vaの階調値に所定の補正が施される。なお、データ圧縮部42での画素電流データIの圧縮,データ復号部44での画素電流データIの復号,および階調値補正部46での階調信号Vaの補正についての詳しい説明は後述する。
【0090】
<1.5 画素電流データの圧縮および復号>
<1.5.1 圧縮および復号の概略>
図1は、画素電流データIの圧縮および復号について説明するためのブロック図である。なお、以下においては、図1に示す構成要素の全体のことを「画素電流データ圧縮・復号部」という。画素電流データ圧縮・復号部は、ローパスフィルタ(高周波成分除去フィルタ)421,第1演算部422,ダウンサンプリング部426,高周波信号圧縮処理部427,記憶部(メモリ)480,メモリコントローラ482,ポストフィルタ・アップサンプリング部443,高周波信号復号処理部444,および第2演算部446を含んでいる。ローパスフィルタ421,第1演算部422,ダウンサンプリング部426,および高周波信号圧縮処理部427は、データ圧縮部42の構成要素である。ポストフィルタ・アップサンプリング部443,高周波信号復号処理部444,および第2演算部446はデータ復号部44の構成要素である。
【0091】
なお、本実施形態においては、ローパスフィルタ421と第1演算部422とによって電流データ分離部が実現され、第1演算部422によって高周波成分演算部が実現され、ダウンサンプリング部426によって低周波成分データ圧縮処理部が実現され、高周波信号圧縮処理部427によって高周波成分データ圧縮処理部が実現されている。
【0092】
画素電流データ圧縮・復号部に含まれる各構成要素の機能の概略について説明する。なお、画素電流データ圧縮・復号部には、ソースドライバ20の電流測定部22で取得された画素電流データIが入力される。ローパスフィルタ421は、画素電流データIのうち高周波成分を減衰させて低周波成分を通過させるフィルタとして機能する。以下、ローパスフィルタ421から出力されるデータのことを「低周波成分データ」という。低周波成分データには符号ILを付す。第1演算部422は、画素電流データIと低周波成分データILとの差分を求める。当該差分のデータは、画素電流データIのうちの高周波成分として第1演算部422から出力される。以下、第1演算部422から出力されるデータのことを「高周波成分データ」という。高周波成分データには符号IHを付す。
【0093】
なお、図9に示すように、ローパスフィルタ421の代わりにハイパスフィルタ(低周波成分除去フィルタ)423を設けてハイパスフィルタ423から出力される高周波成分データIHと画素電流データIとの差分に基づいて低周波成分データILを求める(図9の演算部(低周波成分演算部)424が低周波成分データILを求める)ようにしても良い。また、図10に示すように、ローパスフィルタ421およびハイパスフィルタ423の双方を設ける構成とし、画素電流データIにローパスフィルタ421を適用して低周波成分データILを得るとともに、画素電流データIにハイパスフィルタ423を適用して高周波成分データIHを得るようにしても良い。
【0094】
ダウンサンプリング部426は、低周波成分データILからデータをサンプリングすることによって、記憶部480に保存すべき低周波成分データの量を小さくする。すなわち、ダウンサンプリング部426では、低周波成分データILの圧縮が行われる。以下、ダウンサンプリング部426から出力されるデータのことを「圧縮済み低周波成分データ」という。圧縮済み低周波成分データには符号ILcを付す。高周波信号圧縮処理部427は、高周波成分データIHから所定の振幅のデータを抽出することによって、記憶部480に保存すべき高周波成分データの量を小さくする。すなわち、高周波信号圧縮処理部427では、高周波成分データIHの圧縮が行われる。以下、高周波信号圧縮処理部427から出力されるデータのことを「圧縮済み高周波成分データ」という。圧縮済み高周波成分データには符号IHcを付す。
【0095】
記憶部(メモリ)480には、圧縮済み低周波成分データILcおよび圧縮済み高周波成分データIHcが保存される。メモリコントローラ482は、タイミングコントローラ10などから与えられるメモリ制御信号SMに従って、圧縮済み低周波成分データILcおよび圧縮済み高周波成分データIHcの記憶部480への書き込みや、圧縮済み低周波成分データILcおよび圧縮済み高周波成分データIHcの記憶部480からの読み出しを制御する。なお、記憶部480については、圧縮済み低周波成分データILcと圧縮済み高周波成分データIHcとが同時並行的に書き込みや読み出しが行われるように構成されていても良いし、そのように構成されていなくても良い。
【0096】
ポストフィルタ・アップサンプリング部443は、記憶部480から読み出された圧縮済み低周波成分データILcを復号する。以下、ポストフィルタ・アップサンプリング部443から出力されるデータのことを「復号済み低周波成分データ」という。復号済み低周波成分データには符号ILdを付す。このポストフィルタ・アップサンプリング部443では、圧縮済み低周波成分データILcが完全に圧縮前の状態となるように復号が行われる。これは、圧縮処理の際にダウンサンプリング部426におけるデータのサンプリング間隔(抽出間隔)に応じて適切なローパスフィルタ421を用いることによって可能となる(ナイキストの定理)。高周波信号復号処理部444は、記憶部480から読み出された圧縮済み高周波成分データIHcを復号する。以下、高周波信号復号処理部444から出力されるデータのことを「復号済み高周波成分データ」という。復号済み高周波成分データには符号IHdを付す。第2演算部446は、復号済み低周波成分データILdと復号済み高周波成分データIHdとを加算する処理を行うことによって、復号済み画素電流データIdを求める。なお、高周波成分データIHに可逆圧縮が施されている場合には画素電流データIと復号済み画素電流データIdとは等しくなり、高周波成分データIHに非可逆圧縮が施されている場合には画素電流データIと復号済み画素電流データIdとはほぼ等しくなる。
【0097】
本実施形態においては、次の手順で、画素電流データIが記憶部480に保存される。上述した電流値測定期間に1行分の画素電流データIが取得される毎に、当該1行分の画素電流データIは、この有機EL表示装置1に予め用意されている第1のメモリ(不図示)に一時的に保存される。そして、次の1行分の画素電流データIが取得されるまでに、第1のメモリに保存されている画素電流データIに対して上述のような圧縮処理が施され、圧縮処理で得られたデータが第2のメモリ(上記記憶部480)に保存される。ここで、第1のメモリは、1行分の画素電流データIを保存することができる程度の容量を少なくとも有しており、第2のメモリは全画素分の画素電流データIを圧縮することによって得られるデータ(圧縮済み低周波成分データILcおよび圧縮済み高周波成分データIHc)を保存することができる程度の容量を少なくとも有している。
【0098】
ところで、上述したように、1つの画素回路(1つのサブ画素)につき2つの画素電流データI(第1測定用データ電圧Vm1に対応する画素電流データIおよび第2測定用データ電圧Vm2に対応する画素電流データI)が取得される。従って、それら2つの画素電流データIのそれぞれについて上述した圧縮処理が行われる。
【0099】
本実施形態においては、1つの画素電流データIは10ビットの精度で取得される。従って、1つの水準についての各色の1行分の画素電流データIのデータ量MAは次のようになる。なお、ここでは、5型フルHD(1920×1080×RGB)のパネルが採用されているものとする。
MA = 10bit × 1,920 × 1
= 19,200bit (18.75キロビット)
【0100】
<1.5.2 データ量の削減に関する考え方>
ここで、本発明におけるデータ量の削減に関する考え方について説明する。まず、画素電流データIの例を図11に示す。図11には、或る2つの行(行A,行B)についての1〜512列目の画素電流データIを示している。なお、画素電流データIの全体でのヒストグラムは図12に示すようなものとなる。画素電流データIは、低周波成分と高周波成分とに分けることができる。図13には1〜512列目の画素電流データIの低周波成分を示し、図14には低周波成分の全体でのヒストグラムを示している。また、図15には1〜512列目の画素電流データIの高周波成分を示し、図16には高周波成分の全体でのヒストグラムを示している。
【0101】
上述したように、本実施形態においては、画素回路51内のトランジスタT1〜T3には、酸化物TFTであるIGZO−TFTが採用されている。ここで、IGZO−TFTとLTPS(Low Temperature Poly silicon)−TFTとを比較すると、LTPS−TFTよりもIGZO−TFTの方が局所領域での特性のばらつきが小さくなる。これについて、図17を参照しつつ説明する。図17は、IGZO−TFTを採用する表示装置における輝度のばらつきおよびLTPS−TFTを採用する表示装置における輝度のばらつきを示す図である。横軸は全体平均輝度を基準としたときの画素の輝度比を示し、縦軸は規格化度数を示している。図17から把握されるように、LTPS−TFTを採用する表示装置においては、画素輝度比のデータは約55%から約120%までの範囲に分散している。これに対して、IGZO−TFTを採用する表示装置においては、画素輝度比のデータは約85%から約115%までの範囲に含まれている。このように、LTPS−TFTよりもIGZO−TFTの方が特性のばらつきが小さくなっている。これは、LTPS−TFTではレーザープロセスが用いられるのに対して、IGZO−TFTではレーザープロセスが用いられないからである。また、図17から把握されるように、IGZO−TFTにおいては、特性のばらつきの分布が正規分布に近くなっている。
【0102】
ところで、視認性に関し、特性のばらつきの振幅が大きいほど画像表示の際に輝度のばらつきが視認されやすくなることが知られている。視覚特性を考慮すると、輝度のばらつきすなわち画素回路51に流れる駆動電流のばらつきが比較的小さい領域では補正を行わずに或るレベル以上の輝度のばらつきが視認される領域内の画素に対して補正を行うことによって、処理効率が高まる。
【0103】
以上より、上述の画素電流データIに関し、高周波成分の振幅が小さい場合には補正が不要となるので、所定の範囲内の振幅値を持つ高周波成分データIHを削除することができる。ここで、IGZO−TFTについては上述したように特性のばらつきが小さくかつ正規分布に近くなるので、所定の範囲内の振幅値を持つ高周波成分データIHを削除することによって、記憶部480に保存すべきデータの量を大幅に削減することができる。
【0104】
<1.5.3 圧縮処理>
本実施形態における圧縮処理について詳しく説明する。圧縮処理においては、まず、上述した第1のメモリに保存されている画素電流データIにローパスフィルタ421が適用される。これにより、画素電流データIのうちの低周波成分が低周波成分データILとして抽出される。次に、第1演算部422によって、画素電流データIと低周波成分データILとの差分が求められる。これにより、画素電流データIのうちの高周波成分が高周波成分データIHとして抽出される。
【0105】
次に、ダウンサンプリング部426によって、適切なサンプリング間隔で低周波成分データILからのデータの抽出が行われる。なお、サンプリング間隔は、圧縮前の低周波成分データILが完全に復号可能となるように設定される。例えば、サンプリング間隔は“4”とされる。この場合、4つの画素毎にデータが抽出される。従って、本実施形態においては、1行分の圧縮済み低周波成分データILcのデータ量MBは次のようになる。
MB = MA / 4
= 19,200bit / 4
= 4,800bit (4.6875キロビット)
なお、駆動電流を測定する順序やサンプリングするデータの画素の位置は定まっているため、保存対象のデータに位置情報を付加する必要はない。
【0106】
次に、高周波信号圧縮処理部427によって、高周波成分データIHに対する圧縮処理が行われる。その際、まず、各高周波成分データIHの振幅が検査される。1つの画素電流データIは10ビットであるので、高周波成分データIHが取り得る振幅値は、“−1023”〜“1023”の値となる。しかしながら、上述したように、IGZO−TFTについては、LTPS−TFTと比較して、局所領域での特性のばらつきが小さい。従って、IGZO−TFTが採用されている場合にはLTPS−TFTが採用されている場合と比較して高周波成分データIHの振幅が顕著に小さくなることが把握される。例えば、図15に示した例では、高周波成分データIHの振幅値は、“−58”〜“65”の値となっている。
【0107】
ところで、高周波成分データIHのうち比較的小さな振幅のデータ(低振幅データ)については、表示に及ぼす影響が小さい。このため、高周波成分データIHのうちの低振幅データを削除することができる。例えば、高周波成分データIHのうち振幅値が“−31”〜“31”のデータを削除すると仮定する。この場合、高周波成分データIHのうち振幅値が“−58”〜“−31”のデータおよび高周波成分データIHのうち振幅値が“31”〜“65”のデータが保存対象のデータとなる。このようにしてデータが削除される振幅値の範囲は、いわゆる不感帯となる。
【0108】
本実施形態においては、不感帯の範囲内のデータを削除することに伴い、不感帯の上限値あるいは下限値を基準にして、高周波成分データIHのうちの高振幅のデータの再定義が行われる。そして、高周波成分データIHのうちの保存対象のデータ(高振幅のデータ)は、不感帯の上限値あるいは下限値との差の値で表現される。上述の例では、高周波成分データIHのうち振幅値が“−58”〜“−31”のデータは、“−27”〜“0”の値で表現される(図18参照)。また、高周波成分データIHのうち振幅値が“31”〜“65”のデータは、“0”〜“34”の値で表現される(図18参照)。以上より、“−27”〜“34”の範囲内の値が保存されれば良いので、保存対象のデータを7ビットで表現することが可能となる。
【0109】
高周波成分データIHのうちの保存対象のデータについては、位置情報を付加する必要がある。5型フルHDのパネルには1920列あるので、付加すべき位置情報として11ビットのデータが必要となる。ここで、水平画素数をWとし、水平位置情報のビット数をPとし、記録するデータのビット数をRとし、記録が必要なデータの割合をKとすると、各色の1行分のデータの記録(保存)に必要な記憶部480の容量は“W×(P+R)×K”となる。図11に示したデータを用いた実験によれば、上述のようにして高周波成分のデータを削除することによって、保存すべきデータの量を全体の8%にまで低減することができた。この場合、1行分の圧縮済み高周波成分データIHcのデータ量MCは次のようになる。
MC = 1,920 × (11+7) × 0.08
= 2,764.8bit (2.7キロビット)
なお、このようにしてデータ量を削減して高周波成分データを記憶部480に記録(保存)する手法のことを以下「第1の高周波成分記録方法」という。
【0110】
以上より、1水準についての各色の1行分の画素電流データIに着目すれば、記憶部480に保存すべきデータのデータ量MDは次のようになる。
MD = MB + MC
= 7,564.8bit (7.3875キロビット)
5型フルHDのパネルには1080行あるので、1水準についての各色の全体での保存すべきデータのデータ量MEは次のようになる。
ME = MD × 1,080
= 8,169,984bit (約7.792メガビット)
また、上記圧縮処理を行わない場合に記憶部480に保存すべき各色のデータのデータ量MFは次のようになる。
MF = 10bit × 1,920 × 1,080
= 20,736,000bit (約19.775メガビット)
よって、上述した例における画素電流データIの圧縮率は約39%となる。
【0111】
上記説明においては、高周波成分データIHのうち低振幅データを削除しているが、本発明はこれに限定されない。高周波成分データIHのうち低振幅データについては比較的粗く量子化を行い、高周波成分データIHのうち高振幅データについては比較的細かく量子化を行い、量子化によって得られたデータを記憶部480に保存するようにしても良い。
【0112】
なお、本実施形態においては、電流測定部22が画素電流データIを取得する処理によって電流測定ステップが実現され、ローパスフィルタ421と第1演算部422とが画素電流データIを低周波成分データILと高周波成分データIHとに分離する処理によって電流データ分離ステップが実現され、高周波信号圧縮処理部427が高周波成分データIHのうち高振幅のデータのみを抽出する処理によって高周波成分データ圧縮処理ステップが実現され、ダウンサンプリング部426が所定のサンプリング間隔で低周波成分データILからデータを抽出する処理によって低周波成分データ圧縮処理ステップが実現され、ダウンサンプリング部426および高周波信号圧縮処理部427が圧縮後のデータを記憶部480に保存する処理によって保存ステップが実現されている。
【0113】
<1.5.4 画素電流データ圧縮・復号部についての補足>
上述の説明においては、ローパスフィルタ421を用いて画素電流データIを高周波成分データIHと低周波成分データILとに分離しているが、本発明はこれに限定されない。例えばハイパスフィルタを用いるなどして、ローパスフィルタを用いる手法とは別の手法で画素電流データIを高周波成分データIHと低周波成分データILとに分離しても良い。すなわち、画素電流データIを高周波成分データIHと低周波成分データILとに分離する電流データ分離部420として機能する構成要素を備えていれば、画素電流データIを高周波成分データIHと低周波成分データILとに分離する手法については特に限定されない。従って、画素電流データ圧縮・復号部の構成を図19のように表すことができる。また、低周波成分データILの圧縮を所定の間隔でのサンプリングとは異なる手法で行うようにしても良い。すなわち、低周波成分データILを圧縮する低周波信号圧縮処理部425として機能する構成要素を備えていれば、低周波成分データILを圧縮する手法については特に限定されない。従って、画素電流データ圧縮・復号部の構成を図20のように表すことができる。
【0114】
<1.6 階調値の補正方法>
次に、図21および図22を参照しつつ、階調値補正部46における階調値の補正について説明する。ここでの「階調値の補正」は、タイミングコントローラ10から階調信号補正回路40内の階調値補正部46に送られる階調信号Vaの階調値を補正して、ソースドライバ20に与えるべき駆動用階調信号VDの階調値を求めることを意味する。なお、ここでは、階調信号Vaとして階調値補正部46に送られるデータのことを「入力階調電圧データ」といい、駆動用階調信号VDとして階調値補正部46から出力されるデータのことを「出力階調電圧データ」という。入力階調電圧データおよび出力階調電圧データはいずれも階調値に対応付けられるデータである。また、入力階調電圧データおよび出力階調電圧データを総称して単に「階調電圧データ」という。
【0115】
階調値補正部46では、データ復号部44での復号後の画素電流データに基づいて階調値の補正が行われる。より詳しくは、上述した2つの水準(第1水準および第2水準)の測定用階調値にそれぞれ対応付けられる復号後の2つの画素電流データに基づいて階調値の補正が行われる。なお、ここでは、第1水準の測定用階調値に対応付けられる画素電流データのことを「第1水準画素電流データ」といい、第2水準の測定用階調値に対応付けられる復号後の画素電流データのことを「第2水準画素電流データ」という。
【0116】
図21は、画素電流の測定が行われた或る画素(以下、「着目画素」という。)における階調電圧データと画素電流データとの関係を示す図である。一般に、階調電圧と表示輝度との関係はガンマ値を2.2とする指数関数によって表現されるよう、あらかじめ設定が行われている。また、各画素における発光輝度と画素電流との間にはほぼ比例関係が成立する。従って、電流測定部22(図2参照)によって測定された画素電流(駆動電流)と、階調電圧との関係についても、次式(4)に示すようにガンマ値を2.2とする指数関数によって表現される。なお、次式(4)で表現される特性は一般に「電流電圧特性」などと呼ばれている。
【数1】
ここで、VPは任意の階調値Pに対応する階調電圧を表し、IPは階調値Pに対応する画素電流を表し、JおよびKは定数を表す。なお、Pは任意の階調値である。
【0117】
上式(4)に関し、Jの値およびKの値は画素毎に異なる。何故ならば、画素毎に駆動トランジスタの電流電圧特性が異なっており、また、駆動トランジスタの特性の経時変化による影響が画素毎に異なるためである。しかしながら、いずれの画素においても階調電圧と画素電流との関係がガンマ値を2.2とする指数関数で表されるので、少なくとも2つの水準の測定用階調値(測定用データ電圧)に対応する画素電流データが存在すれば、任意の階調値に対応する電流値の近似表現が可能となる。すなわち、2つの水準の測定用階調値に対応する画素電流データ(以下、単に「2水準の画素電流データ」という。)に基づいて任意の階調値に対応する画素電流の値を推定することが可能である。着目画素についての目標とする電流電圧特性(階調値の補正後の理想的な電流電圧特性)についても、同様にして、2つの画素電流データに基づいて求めることができる。
【0118】
ところで、上述した2水準の画素電流データの目標値の1つを符号ICで表した場合、例えば、1つの行に含まれる全ての画素あるいは表示部50内の全ての画素における画素電流データ(測定によって得られた画素電流データIP)の平均値を画素電流データIC(目標とする画素電流データ)とすることができる(次式(5)を参照)。
【数2】
なお、画素電流データ群から何らかの基準に基づいて算出した値を画素電流データICとしても良いし、測定される画素電流データに関わらず予め定められた値(固定値)を画素電流データICとしても良い。
【0119】
図21において、P1は着目画素における測定時点の第1水準画素電流データの値を示し、P2は着目画素における測定時点の第2水準画素電流データの値を示し、C1は着目画素における目標とする第1水準画素電流データの値を示し、C2は着目画素における目標とする第2水準画素電流データの値を示している。また、図21において、符号61で示す実線は着目画素における測定時点の電流電圧特性を表し、符号62で示す点線は着目画素における目標とする電流電圧特性を表している。上述したように、階調電圧と画素電流との関係は、ガンマ値を2.2とする指数関数によって表現される。しかしながら、指数関数を用いて出力階調電圧データ(補正後の階調電圧データ)を求めようとすると、処理が複雑になる。そこで、本実施形態においては、測定によって得られた画素電流データIPについては次式(6)を用いた変換を行い、目標とする画素電流データICについては次式(7)を用いた変換を行うことによって、測定時点の電流電圧特性および目標とする電流電圧特性の表現が行われる。
【数3】
【数4】
【0120】
上式(6)を用いた変換によって、測定時点の電流電圧特性は図22で符号63で示す実線で表現される。また、上式(7)を用いた変換によって、目標とする電流電圧特性は図22で符号64で示す点線で表現される。すなわち、測定時点の電流電圧特性および目標とする電流電圧特性は、直線近似された関数で表現される。なお、図22におけるA1,A2,B1,およびB2のデータはそれぞれ図21におけるP1,P2,C1,およびC2のデータに対応する。図22より、A1とA2とを結ぶ直線は次式(8)で表され、B1とB2とを結ぶ直線は次式(9)で表される。なお、変換後の画素電流データのことを以下「線形化画素電流データ」という。
【数5】
【数6】
【0121】
なお、本実施形態においては、復号後のデータに対して上述のような変換を行っているが、本発明はこれに限定されず、圧縮前のデータに対して上述のような変換を行うようにしても良い。この場合、復号後のデータに対して変換を行うことなく、図22で符号63,64で示すような電流電圧特性が求められる。
【0122】
上式(8)および上式(9)はいずれもVP(任意の階調値Pに対応する階調電圧)の関数となっている。例えば、VPが符号65の矢印で示す値である場合、着目画素における測定時点の線形化画素電流データの値は符号66の矢印で示す位置の値となり、着目画素における目標とする線形化画素電流データの値は符号67の矢印で示す位置の値となる。
【0123】
ところで、任意のVPについて“IA(VP)>IB(VP)”の関係が成立している。また、図22において、符号67の矢印で示す位置の値の線形化画素電流データの値を得るためには、階調電圧データの値は符号68の矢印で示す位置の値にならなければならない。また、上式(8)は、次式(10)のように変形することができる。
【数7】
以上のことを考慮すると、上式(10)において、IA(VP)にIB(VP)を代入することによって、目標とする線形化画素電流データの値を得るための階調電圧データの値を求めることができる。すなわち、階調値Pに対応する出力階調電圧データの値VCは、次式(11)で求められる。
【数8】
【0124】
本実施形態においては、以上のようにして、各画素について復号後の2水準の画素電流データに基づいて出力階調電圧データが求められる。実際のデータ変換工程においては、上式(9)および上式(11)を表現するロジック回路による演算処理が行われる。なお、階調値の補正の具体的な手法については、上記以外の手法を採用することもできる。
【0125】
以上のような階調値の補正を実現するために、階調値補正部46は図23に示すような機能ブロックで構成されている。すなわち、階調値補正部46は、第1の特性算出部460と第2の特性算出部462と駆動用階調値算出部464とによって構成されている。第1の特性算出部460は、各画素についての第1水準画素電流データおよび第2水準画素電流データに基づいて、各画素における測定時点の電流電圧特性(測定電流電圧特性)を求める。第2の特性算出部462は、例えば1つの行に含まれる全ての画素あるいは表示部50内の全ての画素における画素電流データの平均値を画素電流データIC(目標とする画素電流データ)とし、当該画素電流データICに基づいて各画素における目標とする電流電圧特性(目標電流電圧特性)を求める。すなわち、第2の特性算出部462は、各画素における目標電流電圧特性を、当該画素を含む複数の画素についての第1水準画素電流データおよび第2水準画素電流データに基づいて求める。ここで、第1の特性算出部460および第2の特性算出部462は、電流電圧特性を表す関数を上述のように非線形の関数から線形の関数(直線近似された関数)に変換する。駆動用階調値算出部464は、上述の手順で出力階調電圧データを求める。すなわち、駆動用階調値算出部464は、目標電流電圧特性から求められる「階調信号Vaの階調値に対応する電流値」と測定電流電圧特性から求められる「駆動用階調信号VDの階調値に対応する電流値」とが等しくなるように、駆動用階調信号VDの階調値を求める。
【0126】
<1.7 効果>
本実施形態によれば、IGZO−TFTを用いた有機EL表示装置1において、「駆動トランジスタの特性のばらつきやOLEDの経時劣化」に起因する「焼き付きや輝度のばらつきの発生」を抑制するために取得される補償用データとしての画素電流データIは、以下のように処理される。まず、画素電流データIは、高周波成分データIHと低周波成分データILとに分離される。そして、低周波成分データILについては、サンプリングによるデータの抽出が行われることによって、記憶部480に保存すべきデータの量が低減される。また、高周波成分データIHについては、低振幅データは削除され、高振幅データは不感帯(削除対象のデータの振幅の範囲)の上限値・下限値を基準にして再定義される。このようにして、高周波成分データIHについても、記憶部480に保存すべきデータの量が低減される。
【0127】
以上のように、画素電流データIが記憶部480に保存される際、IGZO−TFTの特性を考慮した圧縮処理が行われる。このため、復号後のデータに基づく画像表示の際に表示不良を引き起こすことなく、保存すべき補償用データのデータ量を大幅に低減することができる。これにより、IGZO−TFTを用いた有機EL表示装置1において、補償用データを格納するための記憶部(メモリ)の容量を従来よりも大幅に低減することが可能となる。
【0128】
<1.8 変形例など>
<1.8.1 高周波成分データの圧縮について>
高周波成分データIHの記憶部480への記録(保存)に関し、上述した第1の高周波成分記録方法とは異なる手法(「第2の高周波成分記録方法」という。)について説明する。第2の高周波成分記録方法では、各画素について、記録が必要であるか否かを示す1ビットのデータと、実際に記録が必要なデータとが順次に記憶部480に格納される。第2の高周波成分記録方法は、例えば、高周波成分データIHのうち記録の必要なデータの割合が或る一定値以上である場合に採用される。この第2の高周波成分記録方法によれば、記録の必要なデータ毎に位置情報を付加する必要が無い。
【0129】
ここで、水平画素数をWとし、水平位置情報のビット数をPとし、記録するデータのビット数をRとし、記録が必要なデータの割合をKとすると、各色のデータの記録(保存)に必要な記憶部480の容量は“W+W×R×K”となる。“K<1/P”であれば、第2の高周波成分記録方法よりも第1の高周波成分記録方法の方が、データの記録のために必要な容量が少なくなる。“K>1/P”であれば、第1の高周波成分記録方法よりも第2の高周波成分記録方法の方が、データの記録のために必要な容量が少なくなる。上述の例では、“P=11”であるため、“K>1/11=9.09(%)”であれば、第2の高周波成分記録方法を採用することで、更なるデータ量の低減(データの圧縮)が可能となる。
【0130】
<1.8.2 不感帯の幅およびサンプリング間隔について>
図24は、高周波成分データIHを圧縮する際の不感帯の幅および低周波成分データILを圧縮する際のサンプリング間隔を様々な値に変えて圧縮処理を行った比較結果を示す図である。なお、図24における間引き画素単位とはダウンサンプリング部426におけるサンプリング間隔のことを意味している(図25図26においても同様)。上記第1の実施形態においては、“−31”〜“31”の範囲が不感帯であって、ダウンサンプリング部426におけるサンプリング間隔は“4”であった。このとき、全体での圧縮率は約40%であった。ここで、図24より、“−63”〜“63”の範囲あるいは“−127”〜“127”の範囲を不感帯とすることによって全体での圧縮率が約26%となることが把握される。また、サンプリング間隔を大きくすると、保存対象の低周波成分データILが少なくなるので、圧縮率がより高められる。
【0131】
<1.8.3 第1の高周波成分記録方法と第2の高周波成分記録方法との比較>
図25および図26は、第1の高周波成分記録方法と第2の高周波成分記録方法とを比較するための図である。図25には、第1の高周波成分記録方法および第2の高周波成分記録方法のそれぞれにおいて高周波成分データIHの抽出率が20%であった場合の全体での圧縮率と高周波成分データIHの抽出率が8%であった場合の全体での圧縮率を示している。また、図26には、高周波成分データIHの抽出率が20%および8%である場合における「“第1の高周波成分記録方法での圧縮率”と“第2の高周波成分記録方法での圧縮率”との比」を示している。
【0132】
図25および図26より、高周波成分データIHの抽出率によって全体での圧縮率に大きな違いが生じることが把握される。また、高周波成分データIHの抽出率が8%である場合、第2の高周波成分記録方法での圧縮率よりも第1の高周波成分記録方法での圧縮率の方が高くなっている。しかしながら、高周波成分データIHの抽出率が20%である場合、第2の高周波成分記録方法での圧縮率よりも第1の高周波成分記録方法での圧縮率の方が低くなっている。このように、高周波成分データIHの抽出率が高い場合には、第2の高周波成分記録方法を採用することによって、全体での圧縮率を高めることができる。また、その際、低周波成分データのサンプリング間隔を大きくすることによって、圧縮率を更に高めることができる。
【0133】
以上より、表示パネルにおける輝度のばらつきが特に大きく、またメモリ容量を比較的大きくすることが可能な場合には、第1の高周波成分記録方法よりも第2の高周波成分記録方法の方が効果的にデータ圧縮が行われる。しかしながら、表示装置に搭載可能なメモリ容量や表示パネルにおける輝度のばらつきの程度に応じて第1の高周波成分記録方法および第2の高周波成分記録方法のいずれかが選択されるようにしても良い。
【0134】
<2.第2の実施形態>
以下、上記第1の実施形態と異なる点についてのみ説明し、上記第1の実施形態と同様の点については説明を省略する。なお、本実施形態および後述する第3の実施形態においては、1920×1080個の画素を有する表示装置に関し、説明を簡単にするために、用意されている記憶部(メモリ)480のうち、圧縮後の高周波成分データ用の記憶部が2Mbitであると仮定する。なお、各画素のデータは6bitであると仮定する。この場合、圧縮前の画素電流データIのデータ量D1は次のようになる。
D1 = 6 × 1,920 × 1,080
= 12,441,600bit (約11.87メガビット)
従って、約17%の圧縮率が実現されなければならない。1行ずつ圧縮パラメータを制御しながら圧縮処理が行われる場合、圧縮後の画素電流データIについての1行当たりの平均データ量D2を次のようにする必要がある。
D2 = 2 × 1,024 × 1,024 / 1,080
= 1,941bit
【0135】
<2.1 圧縮手法>
本実施形態においては、高周波成分データIHの圧縮方法が上記第1の実施形態とは異なる。そこで、以下、本実施形態における高周波成分データIHの圧縮方法(以下、「不感帯手法」という。)について説明する。不感帯手法においては、不感帯の幅が圧縮パラメータPに設定される。上述したように、不感帯の範囲内の値を持つ高周波成分データIHは削除される。このため、圧縮パラメータPの範囲が大きくなるにつれて、圧縮率が高くなり、圧縮後のデータ(圧縮済み高周波成分データIHc)のデータ量は小さくなる。ここで、不感帯の範囲外の値を持つ高周波成分データIHを記憶部480に保存するために、1つのデータにつき17bit(振幅の情報6bitおよび水平位置情報11bit)が必要となる。従って、1行当たりの保存対象となる高周波成分データIHの平均データ数D3は次のようになる。
D3 = (2 × 1,024 × 1,024 / 1,080) / 17
= 114個
【0136】
ここで、「圧縮パラメータPを“−31”〜“31”として1行目の圧縮処理が行われ、その際に不感帯の範囲外の値となった高周波成分データIHの数が“130”であった」と仮定する。このとき、2行目以降の圧縮処理の際の1行当たりの保存対象となる高周波成分データIHの平均データ数D4は次のようになる。
D4 = ((2 × 1,024 × 1,024 - 17 × 130) / (1,080 - 1)) / 17
= 114個
D4が“114”であるのに対し、1行目に関して不感帯の範囲外の値となった高周波成分データIHの数が“130”である。2行目のデータの傾向が1行目のデータの傾向とほぼ同じであると仮定すると、圧縮パラメータPの値を維持した場合には、目標とする保存対象データ数よりも不感帯の範囲外の値となる高周波成分データIH(実際に保存対象となる高周波成分データIH)の数の方が多くなる。このため、圧縮パラメータPを“−32”〜“32”に更新(変更)してから2行目のデータについての圧縮処理が行われる。なお、圧縮パラメータPの更新(変更)はメモリコントローラ482(図1参照)によって行われる。
【0137】
そして、2行目のデータについての圧縮処理の際に不感帯の範囲外の値となった高周波成分データIHの数が“120”になったと仮定する。このとき、3行目以降の圧縮処理の際の1行当たりの保存対象となる高周波成分データIHの平均データ数D5は次のようになる。
D5 = ((2 × 1,024 × 1,024 - 17 × (130 + 120) / (1,080 - 2)) / 17
= 114個
ここでも、目標とする保存対象データ数よりも不感帯の範囲外の値となる高周波成分データIH(実際に保存対象となる高周波成分データIH)の数の方が多くなっている。従って、圧縮パラメータPを“−33”〜“33”に更新してから3行目のデータについての圧縮処理が行われる。
【0138】
さらに、3行目のデータについての圧縮処理の際に不感帯の範囲外の値となった高周波成分データIHの数が“100”になったと仮定する。このとき、4行目以降の圧縮処理の際の1行当たりの保存対象となる高周波成分データIHの平均データ数D6は次のようになる。
D6 = ((2 × 1,024 × 1,024 - 17 × (130 + 120 + 100) / (1,080 - 3)) / 17
= 114個
ここでは、目標とする保存対象データ数よりも不感帯の範囲外の値となる高周波成分データIH(実際に保存対象となる高周波成分データIH)の数の方が少なくなっている。従って、圧縮パラメータPを“−32”〜“32”に更新してから4行目のデータについての圧縮処理が行われる。
【0139】
以上のような処理を繰り返しつつ高周波成分データIHの圧縮が行われる。すなわち、本実施形態においては、高周波信号圧縮処理部427は、1行分の画素回路51に対応する高周波成分データIH毎にデータの圧縮を行う。高周波成分データIHのうちの高振幅のデータの再定義が行われる際の基準となる不感帯の範囲(振幅の上限値および下限値)は、各行の画素回路51に対応する高周波成分データIHの圧縮が行われる際に、既にデータの圧縮が行われている行についての圧縮後のデータ量や記憶部480の容量などを考慮して求められる。これにより、圧縮後の画素電流データIが記憶部480に正常に保存されるように、圧縮データのデータ量が削減される。なお、本実施形態においては、圧縮パラメータPの値は1刻みで更新されているが、本発明はこれに限定されない。例えば、不感帯の範囲外の値となるデータの数が目標とする保存対象データ数とは大きく異なる場合に圧縮パラメータPの値を大きく変動させるようにしても良い。また、例えば、不感帯の範囲外の値となるデータの数が目標とする保存対象データ数にほぼ等しい場合に圧縮パラメータPの値をそのまま維持するようにしても良い。
【0140】
<2.2 効果>
表示装置での画像表示に関し、初期状態では輝度のばらつきがある程度の領域内におさまっていたとしても、時間の経過とともに輝度のばらつきが徐々に大きくなることが起こり得る。この点、本実施形態によれば、記憶部480の残容量を考慮しつつ圧縮パラメータPの値が決定されるので、パネルにおける輝度のばらつきが時間の経過とともに変化する場合にも、圧縮データのデータ量を所定容量以下にすることができる。
【0141】
<3.第3の実施形態>
<3.1 圧縮手法>
本実施形態においては、高周波成分データIHの圧縮方法が上記第1の実施形態とは異なる。そこで、以下、本実施形態における高周波成分データIHの圧縮方法(以下、「再量子化手法」という。)について説明する。再量子化手法においては、再量子化前にデータ(高周波成分データIH)と所定の係数との乗算が行われ、その乗算用の係数の値が圧縮パラメータPに設定される。圧縮パラメータPの値が小さくなるにつれて、乗算によって得られるデータの値は“0”に近づき、Huffman符号長が短くなる。これにより、圧縮率が高くなり、圧縮後のデータ(圧縮済み高周波成分データIHc)のデータ量は小さくなる。以下、具体例を挙げて詳しく説明する。
【0142】
図27は、高周波成分データIHの再量子化について説明するための図である。図27には、高周波成分データIHを5ビットのデータに再量子化する例を示している。本実施形態においては、画素電流データIから抽出された高周波成分データIHに関し、絶対値の小さいデータについては粗く量子化が行われ、絶対値の大きいデータについては細かく量子化が行われる。図27に示す例では、例えば、“−15”〜“15”の範囲内のデータは“0”に量子化され、“16”〜“31”の範囲内のデータは“1”に量子化され、“−63”〜“−32”の範囲内のデータは“−5”〜“−2”に量子化される。“−63”〜“−32”の範囲内のデータについて詳しく説明すると、“−63”〜“−56”の範囲内のデータは“−5”に量子化され、“−55”〜“−48”の範囲内のデータは“−4”に量子化され、“−47”〜“−40”の範囲内のデータは“−3”に量子化され、“−39”〜“−32”の範囲内のデータは“−2”に量子化される。
【0143】
以上のように、“−103”〜“103”の範囲内の高周波成分データIHが5ビットで表現される。なお、レベル(高周波成分データIHの値)が小さいほどデータレンジの幅(「“−15”〜“15”」,「“16”〜“31”」など)に対する量子化幅(「31刻み」,「16刻み」など)を大きくしている理由は、次のとおりである。高周波成分データIHの分布は概して正規関数に近い。従って、一定の範囲内のデータに対しては階調補償が行われても電流のばらつきを補償する効果が相対的に小さくなる。このため、データの圧縮率とばらつきを補償する効果との関係を考慮して、全範囲で量子化の粗さを均等にするよりも高周波成分データIHの分布に応じて量子化幅を調整する方が、効率的に量子化が行われる。以上より、圧縮パラメータPの値(係数の値)については、データレンジ毎に設定されることが好ましい。なお、以下においては、説明を簡単にするため、全てのデータレンジに対して圧縮パラメータP(係数)は同じ値に設定されているものとする。
【0144】
図28は、Huffman符号化テーブルの一例を示す図である。本実施形態においては、例えば図15に示すような高周波成分データIHを5ビットのデータ(詳しくは“−15”〜“15”の31レベルのデータ)(図27参照)に再量子化した結果について、Huffman符号化テーブルに従ったデータの置き換えが順次に行われる。例えば、図27によれば、“−60”の値を持つデータは“−5”に再量子化される。そして、図28によれば、“−5”は“110111”に符号化される。また、例えば、図27によれば、“10”の値を持つデータは“0”に再量子化される。そして、図28によれば、“0”は“0”に符号化される。
【0145】
ここで、「圧縮パラメータPを“10/16”として1行目についての再量子化を含む圧縮処理が行われ、その結果、1行分のHuffman符号化データのビット数が“1700”になった」と仮定する。このとき、2行目以降の圧縮処理の際の1行当たりの保存対象となる高周波成分データIHの平均ビット数D7は次のようになる。
D7 = (2 × 1,024 × 1,024 - 1,700) / (1,080 - 1)
= 1,942
D7が“1942”であるのに対し、1行目についてのHuffman符号化データのビット数が“1700”である。2行目のデータの傾向が1行目のデータの傾向とほぼ同じであると仮定すると、圧縮パラメータPの値を維持した場合には、保存対象データの実際のビット数は、保存対象データの目標とするビット数よりも少なくなる。このため、圧縮パラメータPを“11/16”に更新してから2行目のデータについての圧縮処理が行われる。
【0146】
そして、2行目のデータについての圧縮処理の際に1行分のHuffman符号化データのビット数が“1950”になったと仮定する。このとき、3行目以降の圧縮処理の際の1行当たりの保存対象となる高周波成分データIHの平均ビット数D8は次のようになる。
D8 = (2 × 1,024 × 1,024 - (1,700 + 1,950)) / (1,080 - 2)
= 1,942
ここでは、保存対象データの実際のビット数は、保存対象データの目標とするビット数に比較的近い値となっている。従って、圧縮パラメータPを更新することなく3行目のデータについての圧縮処理が行われる。
【0147】
さらに、3行目のデータについての圧縮処理の際に1行分のHuffman符号化データのビット数が“2000”になったと仮定する。このとき、4行目以降の圧縮処理の際の1行当たりの保存対象となる高周波成分データIHの平均ビット数D9は次のようになる。
D9 = (2 × 1,024 × 1,024 - (1,700 + 1,950 +2,000)) / (1,080 - 3)
= 1,941
ここでは、保存対象データの実際のビット数は、保存対象データの目標とするビット数よりも大きくなっている。従って、圧縮パラメータPを“10/16”に更新してから4行目のデータについての圧縮処理が行われる。
【0148】
以上のような処理を繰り返しつつ高周波成分データIHの圧縮が行われる。すなわち、本実施形態においては、高周波信号圧縮処理部427は、1行分の画素回路51に対応する高周波成分データIH毎に再量子化およびハフマン符号化を含む圧縮処理を行う。再量子化が行われる前には、再量子化対象の高周波成分データIHの値に係数(パラメータ値)を乗ずる処理が行われる。その係数は、各行の画素回路51に対応する高周波成分データIHに対して再量子化が行われる際に、既に再量子化およびハフマン符号化が行われている行についてのハフマン符号化後のデータ量や記憶部480の容量などを考慮して求められる。これにより、圧縮後の画素電流データIが記憶部480に正常に保存されるように、圧縮データのデータ量が削減される。なお、ここでは高周波成分データIHに対して再量子化が行われる例を説明したが、低周波成分データILに対して再量子化が行われるようにしても良い。
【0149】
<3.2 効果>
表示装置での画像表示に関し、初期状態では輝度のばらつきがある程度の領域内におさまっていたとしても、時間の経過とともに輝度のばらつきが徐々に大きくなることが起こり得る。この点、本実施形態によれば、記憶部480の残容量を考慮しつつ再量子化を含む圧縮処理の際の圧縮パラメータPの値が決定されるので、パネルにおける輝度のばらつきが時間の経過とともに変化する場合にも、圧縮データのデータ量を所定容量以下にすることができる。
【0150】
<4.第4の実施形態>
<4.1 サンプリング間隔の調整>
本実施形態においては、補償用データを保持するための記憶部480の容量に制限があり、電流測定部22によって取得された画素電流データIに25%の圧縮率で圧縮が施されなければならないものと仮定する。なお、低周波成分データILについては上記第1の実施形態と同様にサンプリングによる圧縮が行われ、高周波成分データIHについては上記第3の実施形態と同様に再量子化による圧縮が行われることを前提としている。
【0151】
Huffman符号化テーブルを用いた場合、全体でのデータの圧縮率Kと高周波成分データIHのHuffman平均符号長Hとの間には次式(12)が成立する。
【数9】
ここで、Mは1つの画素電流データIのビット数を表し、Nは低周波成分データILを圧縮する際のサンプリング間隔を表す。
【0152】
上式(12)において、目標とする圧縮率Kは25%であって、Huffman平均符号長Hは必ず1以上の値となる(図28参照)。そうすると、例えば“M=10”のとき、Nは7以上の値となる。すなわち、“M=10”であれば、低周波成分データILを圧縮する際、データのサンプリングは7個以上の画素毎に行われなければならない。
【0153】
ここで、一連のデータ圧縮過程において、全行分の高周波成分データIHのHuffman平均符号長Haが“1.35”であり、低周波成分データILのサンプリング間隔Nが“7”であったと仮定する。上式(12)において、“M=10”,“N=7”,および“K=25”を代入すると、“H=1.07”となる。すなわち、“N=7”のときに要求されるHuffman平均符号長Hは、上述した全行分の高周波成分データIHのHuffman平均符号長Haよりも小さい。従って、全画素分の画素電流データI(測定データ)に対して25%の圧縮率での圧縮は行われない。
【0154】
そこで、“N=8”という仮の設定が行われ、“N=8”のときに要求されるHuffman平均符号長Hが上記Haよりも大きくなるか否かの判定が行われる。上式(12)において、“M=10”,“N=8”,および“K=25”を代入すると、“H=1.25”となる。“H<Ha”であるので、この場合にも全画素分の画素電流データI(測定データ)に対して25%の圧縮率での圧縮は行われない。このため、さらに“N=9”という仮の設定が行われ、上記と同様にしてHとHaとの比較が行われる。“N=9”のとき、“H=1.39”となる。“H>Ha”であるので、圧縮率を25%以下にすることができる。従って、次回以降の処理において、低周波成分データILを圧縮する際のサンプリング間隔が“9”に設定される。
【0155】
ところで、低周波成分データILのサンプリング間隔Nを変化させる構成の場合、画素電流データIから低周波成分データILを抽出するために用いられるローパスフィルタ421のフィルタ係数がNの値に応じて変えられる必要がある。この点に関し、どの高さの周波数成分までを低周波成分データILとして許容するかによってフィルタ係数の適用範囲を限定するようにしても良い。
【0156】
なお、低周波成分データILのサンプリング間隔Nを大きくすると、低周波成分データILの分布がいくらか変化し、また、サンプリング間隔Nを大きくする前に低周波成分データILに含まれていたデータの一部が高周波成分データIHに移行する。これにより、高周波成分データIHの数が増加する。しかしながら、データレベルの分布はほとんど変化しないため、上述の再量子化によるHuffman平均符号長の変化は小さい。
【0157】
<4.2 効果>
表示装置での画像表示に関し、初期状態では輝度のばらつきがある程度の領域内におさまっていたとしても、時間の経過とともに輝度のばらつきが徐々に大きくなることが起こり得る。この点、本実施形態においては、ダウンサンプリング部426は、記憶部480の容量を考慮して求められる目標とする圧縮率が得られるように、低周波成分データILを構成するデータ群の中から記憶部480への保存対象とするデータを抽出する際のサンプリング間隔Nを算出する。このため、パネルにおける輝度のばらつきが時間の経過とともに変化する場合にも、圧縮データのデータ量を所定容量以下にすることができる。
【0158】
<5.その他>
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、高周波成分データIHあるいは低周波成分データILを圧縮する具体的な方法については、上記各実施形態で説明した方法には限定されない。
【符号の説明】
【0159】
1…有機EL表示装置
10…タイミングコントローラ
20…ソースドライバ
21…データ電圧供給部
22…電流測定部
30…ゲートドライバ
40…階調信号補正回路
42…データ圧縮部
44…データ復号部
46…階調値補正部
50…表示部
51…画素回路
52…OLED(電気光学素子)
420…電流データ分離部
421…ローパスフィルタ
422…第1演算部
425…低周波信号圧縮処理部
426…ダウンサンプリング部
427…高周波信号圧縮処理部
443…ポストフィルタ・アップサンプリング部
444…高周波信号復号処理部
460…第1の特性算出部
462…第2の特性算出部
464…駆動用階調値算出部
480…記憶部
482…メモリコントローラ
I…画素電流データ
IH…高周波成分データ
IL…低周波成分データ
IHc…圧縮済み高周波成分データ
ILc…圧縮済み低周波成分データ
Id…復号済み画素電流データ
IHd…復号済み高周波成分データ
ILd…復号済み低周波成分データ
Va…階調信号
VD…駆動用階調信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
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図20
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図28