特許第6012834号(P6012834)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6012834-サスペンションワイヤ 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6012834
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】サスペンションワイヤ
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20161011BHJP
   G02B 7/02 20060101ALI20161011BHJP
   G03B 5/00 20060101ALI20161011BHJP
   G11B 7/09 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   C22C9/00
   G02B7/02 Z
   G03B5/00 J
   G11B7/09 D
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-203655(P2015-203655)
(22)【出願日】2015年10月15日
【審査請求日】2016年4月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003414
【氏名又は名称】東京特殊電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】坂 研二
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−063758(JP,A)
【文献】 特開2015−078436(JP,A)
【文献】 特開2011−219840(JP,A)
【文献】 特開2000−156117(JP,A)
【文献】 特開2002−105612(JP,A)
【文献】 特開2004−334923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00−9/10
C22F 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超小型カメラモジュールで使用されるCuZr系合金からなるサスペンションワイヤであって、
2.0原子%以上5.0原子%以下の範囲内のZrを含有し、残部がCu及び不可避不純物であり、導電めっき層を含む外径が20μm以上50μm以下の範囲内であり、引張強度が1500MPa以上の範囲内であり、導電率が30%IACS以上50%IACS以下の範囲内であることを特徴とするサスペンションワイヤ。
【請求項2】
前記導電めっき層が、銀めっき層、銅めっき層又は金めっき層である、請求項1に記載のサスペンションワイヤ。
【請求項3】
前記超小型カメラモジュールが備える手振れ補正装置用のサスペンションワイヤとして使用され、真直度が曲率半径で600mm以上である、請求項1又は2に記載のサスペンションワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型カメラや薄型カメラ等の手振れ補正装置等に好ましく使用されるCuZr合金系サスペンションワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
外部からの振動や衝撃を緩衝することができるサスペンションワイヤは、例えば特許文献1に示すように、光ピックアップに用いられるものとして知られている。この光ピックアップは、CDやDVD等の光ディスク媒体が光ディスクドライブやプレーヤに装填された際に、光ディスクから情報を再生したり記録するためのレーザー光源や受光部品を含むアッセンブリ部品である。
【0003】
光ピックアップに用いられるサスペンションワイヤは種々提案されている。例えば特許文献2には、Cu−Ni−Sn系合金の母線を多段式伸線機を用いて引抜き、バックテンションを加えて電気炉中を走行させ、さらに時効処理を行ってから錫めっきを行って得たサスペンションワイヤが提案されている。この技術では、半田浸漬後の引張強さの減少及び半田食われによる線径の減少が小さく且つ低コストに製造できるという効果があるとされている。
【0004】
光ピックアップに用いられるサスペンションワイヤには、強度と導電性が求められており、例えば特許文献1に記載のサスペンションワイヤは、銅銀合金で構成され、その線径が0.1mm前後であり、撚り線で構成した場合の線径では0.06〜0.07mm程度である。また、このときの引張強度は800MPa以上、好ましくは900MPa以上で、加工度によっては1000MPa以上であり、導電率は70%IACS〜80%IACSであるとされている。また、特許文献2に記載のサスペンションワイヤは、Cu−Ni−Sn系合金で構成され、その線径は0.1mm程度であり、1380MPa程度の引張強度が得られるとされている。
【0005】
近年、特にスマートフォン等の小型携帯機器には、超小型カメラモジュールが搭載されているが、そうした超小型カメラモジュールを備えた小型携帯機器で撮影する場合、振動によって変位するレンズ位置を補正する手振れ補正機能が要請されている。例えば、特許文献3には、携帯電話用の小型カメラで静止画像の撮影時に生じた手振れ(振動)を補正して像ブレのない画像を撮影できるようにした手振れ補正装置が提案されている。この技術は、小型で、且つ低背化を図ることを課題とし、その解決手段としては、レンズバレルを光軸に沿って移動させるために、フォーカスコイルと、該フォーカスコイルと対向して前記光軸に対して該フォーカスコイルの半径方向外側に配置された永久磁石とを備えるオートフォーカス用レンズ駆動装置全体又はその可動部を、前記光軸に直交し、かつ互いに直交する第1の方向及び第2の方向に移動させることにより、手振れを補正するようにした手振れ補正装置である。詳しくは、前記オートフォーカス用レンズ駆動装置の底面部で離間して配置されたベースと、該ベースの外周部で一端が固定された複数本のサスペンションワイヤであって、前記光軸に沿って延在し、前記オートフォーカス用レンズ駆動装置全体又はその可動部を、前記第1の方向及び前記第2の方向に揺動可能に支持する、前記複数本のサスペンションワイヤと、前記永久磁石と対向して配置された手振れ補正用コイルと、を有する手振れ補正装置によって上記課題を解決している。
【0006】
ところで、特許文献4〜7には、ジルコニウムを含有するCuZr系合金線が提案されている。特許文献4では、0.05〜8.0at%のZrを含み、Cu母相と、CuとCu−Zr化合物との共晶相と、が互いに層状となる組織で構成され、隣り合うCu母相結晶粒同士が断続的に接する2相組織を呈する銅合金が提案されている。この銅合金とすることで、最大1250MPaまで高強度化を図ることができるとされている。また、特許文献5では、3.0〜7.0at%のZrを含み、銅母相と、銅−Zr化合物相と銅相とからなる複合相と、を備えた母相−複合相繊維状組織を呈する銅合金線が提案されている。この銅合金線とすることで、引張強さをより高めることができるとされている。また、特許文献6では、0.2〜1.0at%のZrを含む銅母相と、該銅母相中に分散しCu8Zr3とCuとを含む短繊維状の複合相と、を備えた銅合金線が提案されている。この銅合金線とすることで、70%IACS以上の導電率と700MPa以上の引張強さとを両立できるとされている。また、特許文献7では、5.00〜8.00at%のZrを含み、CuとCu−Zr化合物とを含み、CuとCu−Zr化合物との2相が、共晶相を含むことなく、断面視したときに大きさ10μm以下の結晶が分散したモザイク状の組織を有する銅合金線が提案されている。この銅合金線とすることで、導電性をより高めることができると共に機械的強度をより高めることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−168229号公報
【特許文献2】特開2011−219840号公報
【特許文献3】特開2011−65140号公報
【特許文献4】特開2005−281757号公報
【特許文献5】国際公開WO2011/030898
【特許文献6】国際公開WO2013/047276
【特許文献7】国際公開WO2014/069318
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3で提案された手振れ補正装置で手振れを補正するには、光軸とは垂直方向にレンズユニット(以下、可動部という。)を動かす必要がある。これを解決する手段として、複数本のワイヤで可動部を支持するとともに、可動部に付随する駆動コイルへの給電を行うためのリード線としての役割も兼ねるサスペンションワイヤ懸架方式が提案されている。
【0009】
また、超小型カメラモジュールは、スマートフォン筐体とともに低背化(薄くする)の需要が強いため、手振れ補正装置も極めて小型であり、サスペンションワイヤの有効長が稼ぎにくい状況にあるが、一定の稼働範囲がないと充分な手振れ補正効果が得られない。そのため、有効長は例えば2mm前後に短くなるとともにサスペンションワイヤ径を細くする設計が求められる。また、その有効長はさらに短尺化する可能性があり、それに伴って、サスペンションワイヤのさらなる細径化が求められる可能性がある。
【0010】
また、カメラの高品質化により、有効画素数が13Mを超えるものが主流になってきている。こうした画素数の向上には、レンズの材質が樹脂からガラスに変更することや、撮像レンズを保持するレンズバレルの大型化や枚数の増加が必須であり、前述の可動部の質量が増し、サスペンションワイヤへの応力負荷が大きくなってきている。さらに、スマートフォンは精密電子機器として外部で携帯されながら使用され、使用中に誤って落下させたり、スマートフォン自体をICカード端末として何回も対象部位へ接触したり、衝突させたりすることが想定されることから、カメラモジュール内において、サスペンションワイヤには極めて高い強度が要求されている。
【0011】
また、スマートフォンは、長時間使用するため、消費電力の低減が求められており、スマートフォンを構成する導電部材においては、電気抵抗が低いことが望ましい。
【0012】
単に強度を高くするだけなら高抵抗の合金線を利用できるが、低背化により有効長が短くなると、サスペンションワイヤ径を細くする設計が求められることから、短尺化と細径化によって電気抵抗がより一層高くなってしまうというジレンマがある。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、短尺で十分なバネ性を備えた細く、強く、導電性に優れた短尺のCuZr系サスペンションワイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明に係るサスペンションワイヤは、超小型カメラモジュールで使用されるCuZr系合金からなるサスペンションワイヤであって、2.0原子%以上5.0原子%以下の範囲内のZrを含有し、導電めっき層を含む外径が20μm以上50μm以下の範囲内であり、引張強度が1500MPa以上であり、導電率が30%IACS以上50%IACS以下の範囲内であることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、導電めっき層を含む外径が上記範囲内であるので、超小型カメラモジュールが備える手振れ補正装置用の短尺のサスペンションワイヤとして好適に使用することができる。また、上記範囲内の細径かつ短尺であったとしても、引張強度が上記範囲内であるので、手振れ補正装置用のサスペンションワイヤとして好ましく、また、落下等の衝撃が加わったとしても断線や変形が発生しない。また、導電めっき層を含むサスペンションワイヤの導電率が上記範囲内であるので、20μm以上50μm以下の細径ワイヤであっても良好な導電性を示し、消費電力の低減に寄与できる。こうした超小型カメラモジュールで使用される細径のサスペンションワイヤを、Zrを上記範囲内で含有するCuZr系合金で構成することにより、十分なバネ性を備えた細く、強く、導電性に優れたサスペンションワイヤを提供することができる。
【0016】
本発明に係るサスペンションワイヤにおいて、前記導電めっき層が、銀めっき層、銅めっき層又は金めっき層であることが好ましい。
【0017】
この発明によれば、上記した導電めっき層を設けることにより導電性を高めることができる。また、導電めっき層の厚さを変更することによっても導電率を調整することができる。その結果、手振れ補正装置用のサスペンションワイヤとして好適に作動させることができる。なお、上記した導電めっき層は、半田付け性に優れており、その作業性を向上させることができる。
【0018】
本発明に係るサスペンションワイヤにおいて、前記超小型カメラモジュールが備える手振れ補正装置用のサスペンションワイヤとして使用され、真直度が曲率半径で600mm以上であることが好ましい。
【0019】
この発明によれば、上記した真直度を有するので、組み立て工程において高精度な位置決めが可能となるため、真直度が悪い場合のレンズの傾きが発生せず、スマートフォン等の小型携帯機器に内蔵される超小型カメラモジュールが備える手振れ補正装置用の有効長が短く細いサスペンションワイヤとして好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、十分なバネ性を備えた細く、強く、導電性に優れた短尺のサスペンションワイヤを提供できるので、スマートフォン等の小型携帯機器に内蔵される超小型カメラモジュールが備える手振れ補正装置用のサスペンションワイヤとして、手振れ補正範囲の拡大に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係るサスペンションワイヤを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係るサスペンションワイヤについて図面を参照しつつ説明する。本発明は、以下に示す実施の形態により限定されるものではない。
【0023】
[サスペンションワイヤ]
本発明に係るサスペンションワイヤ10は、図1に示すように、超小型カメラモジュールで使用されるCuZr系合金からなる。そして、そのCuZr系合金が、2.0原子%以上5.0原子%以下の範囲内のZrを含有し、導電めっき層2を含む外径が20μm以上50μm以下の範囲内であり、引張強度が1500MPa以上であり、導電率が30%IACS以上50%IACS以下の範囲内であることに特徴がある。
【0024】
このサスペンションワイヤ10は、導電めっき層2を含む外径が上記範囲内であるので、超小型カメラモジュールが備える手振れ補正装置用の短尺のサスペンションワイヤとして好適に使用することができる。また、上記範囲内の細径かつ短尺であったとしても、引張強度が上記範囲内であるので、手振れ補正装置用のサスペンションワイヤとして好ましく、また、落下等の衝撃が加わったとしても断線や変形が発生しない。また、導電めっき層2を含むサスペンションワイヤ10の導電率が上記範囲内であるので、20μm以上50μm以下の細径ワイヤであっても良好な導電性を示し、消費電力の低減に寄与できる。こうした超小型カメラモジュールで使用される細径のサスペンションワイヤ10を、Zrを上記範囲内で含有するCuZr系合金で構成することにより、十分なバネ性を備えた細く、強く、導電性に優れたサスペンションワイヤを提供することができる。
【0025】
以下、サスペンションワイヤの構成要素について詳しく説明する。
【0026】
(CuZr系合金)
CuZr系合金としては、2.0原子%以上5.0原子%以下の範囲内のZrを含有したCuZr系合金が用いられ、本発明に係る手振れ補正装置用のサスペンションワイヤの素線として好適に使用することができ、特に、強度、導電率において好ましい。この合金は非磁性であり、スマートフォン等の小型携帯機器に内蔵される超小型カメラモジュールが備える手振れ補正装置において、サスペンションワイヤの周辺に実装されている磁石(永久磁石等)に影響されない。
【0027】
Zr含有量が上記範囲内であることにより、導電めっき層2を含む外径が20μm以上50μm以下の範囲内であり、引張強度が1500MPa以上であり、導電率が30%IACS以上50%IACS以下の範囲内であるサスペンションワイヤを得ることができる。Zr含有量が2.0原子%未満では、導電めっき層2を含む外径を20μm以上50μm以下の範囲内とした場合において、引張強度が低下するとともに導電率が上昇する傾向になり、上記引張強度と上記範囲内の導電率とを確保することができないことがある。一方、Zr含有量が5.0原子%を超えると、導電めっき層2を含む外径を20μm以上50μm以下の範囲内とした場合において、引張強度が高くなりすぎるとともに導電率が低下する傾向になり、上記引張強度と上記範囲内の導電率とを確保することができないことがある。
【0028】
Zr含有量のより好ましい範囲は、後述の実施例に示すように、2.5原子%以上、2.9原子%以下の範囲内である。この範囲内のZr含有量とすることにより、導電めっき層2を含む外径を20μm以上50μm以下の範囲内とした場合に、引張強度と導電率のいずれもバラツキが低減でき、安定して上記範囲内にすることができる。
【0029】
このCuZr系合金において、CuはZrと不可避不純物以外の残部であり、不可避不純物は0.1質量%未満程度である。不可避不純物としては、S、P、O、H、Nb、Fe、Ni、V、Ta等の元素を1又は2以上含む。不可避不純物以外に含有してもよいであろう元素としては、例えば、O、Si、Al等を挙げることができる。不可避不純物やそれ以外のO、Si等の元素は、CuZr系合金の母合金製造時点から含まれているものもあるし、加工途中で含まれるものもある。不可避不純物の含有量は、総量で0.1質量%未満程度であり、個々の元素では、0.05質量%以下程度の微量含まれている。
【0030】
(CuZr系合金線)
CuZr系合金線は、後述の導電めっき層2を含む外径が20μm以上50μm以下の範囲内となるように伸線加工されて得られる。伸線加工されたCuZr系合金線は、前記した特許文献4〜7で提案されており、銅母相と、銅−Zr化合物相と銅相とからなる複合相と、が母相−複合相繊維状組織を構成し、軸方向に対して平行で中心軸を含む断面を見たときに銅母相と複合相とが軸方向に平行に交互に配列している。なお、CuZr系合金線において、導電めっき層2を含む外径はより細径化の傾向があり、50μmの上限よりもさらに細い45μmを上限とする範囲としてもよい。
【0031】
銅母相は、初晶銅で構成され、導電率を高くするように作用する。複合相は、銅−Zr化合物相と銅相とで構成されている。銅−Zr化合物相は、一般式Cu9Zr2で表される化合物である。複合相は、アモルファス相を含み、引張強度をより高めることができる。引張強度は、Zrの含有量(原子%)を高くしたり、共晶相比率を高くしたり、相間隔を狭くしたり、アモルファス比率を高くしたりすることにより高めることができる。
【0032】
こうしたCuZr系合金線は、特許文献4〜7においては、ステッピングモーターのステーター巻き線に用いたり、同軸ケーブルの外部シールド線や中央導体撚り線に用いたり、ワイヤ放電加工の電極線に用いたり、FFC(Flexible Flat Cable)に用いたり、アンテナ線や高周波シールド線に用いたり、非接触充電モジュール用のコイル線材に用いたりすることが予定されているが、当該特許文献では、本発明に係るサスペンションワイヤに適用されることは予定されていない。
【0033】
CuZr系合金線は、原料溶解工程、インゴット鋳造工程、インゴットの冷間伸線工程によって製造することができる。原料溶解工程では、Zrを2.0原子%以上5.0原子%以下の範囲で含む銅合金になるように、高周波誘導溶解法、低周波誘導溶解法、アーク溶解法、電子ビーム溶解法等で溶解し、次のインゴット鋳造工程では、溶湯を鋳型に注湯し、各種の鋳造法で行うことができる。インゴットの形状は特に限定されないが、細長い棒状であることが好ましい。なお、鋳造直後においては、冷却条件(冷却速度)を適切に設定して冷却することが望ましい。次の伸線工程では、インゴットからの加工度ηが4.6以上となるように冷間伸線加工し、導電めっき層2を含む外径が20μm以上50μm以下の範囲内となるように伸線する。ここでの加工度η(=4.6以上)は、伸線加工前の断面積をA0とし、伸線加工後の断面積をA1としたとき、η=ln(A0/A1)で表される。
【0034】
こうした加工により、母相−複合相繊維状組織と複合相内繊維状組織という二重の繊維状組織を有し、これらが緻密な繊維状となったCuZr系合金線を得ることができる。伸線方法は特に限定されないが、穴ダイス引き抜き加工やローラーダイス引き抜き加工等を挙げることができる。なお、伸線加工での断面減少率を大きくすると、複合相の体積が増加し、引張強さをより高めることができる。
【0035】
(導電めっき層)
導電めっき層2は、CuZr系合金線の外周に設けられている。導電めっき層2は、導電性に優れた手振れ補正装置用のサスペンションワイヤを得る上で好ましく設けられる。導電めっき層2の厚さは、この導電めっき層を含むサスペンションワイヤの外径が20μm以上50μm以下の範囲内になるように設けられるとともに、サスペンションワイヤの導電率が30%IACS以上50%IACS以下の範囲内となるように設けられる。導電めっき層2を含むサスペンションワイヤの導電率が上記範囲内であるので、サスペンションワイヤは良好な導電性を示し、消費電力の低減に寄与できるとともに、手振れ補正装置用のサスペンションワイヤとして好適に作動させることができる。導電率は、4端子抵抗測定法によって測定した値である。
【0036】
導電率の調整は、導電めっき層の種類の変更や導電めっき層の厚さの変更によって行うことができる。導電率が30%IACS未満の場合は、導電めっき層の厚さが薄い場合に得られるので強度(引張強度)はやや高くなるが、十分な導電率ではないため、消費電力の低減に十分に寄与できないことがある。一方、導電率が50%IACSを超えると、導電めっき層の厚さが厚い場合に得られるので導電率は高くなるが、強度(引張強度)がやや低下して1500MPaを下回ることがある。なお、導電率は、Zr濃度が上記範囲よりも高い場合、時効処理を行わない場合、機械加工率が高い場合等に不足することがあるので、これらを考慮し、導電めっき層の種類や厚さとともに設定される。
【0037】
導電めっき層2は、銀めっき層、銅めっき層及び金めっき層から選ばれる。こうした導電めっき層2を設けることにより、強度(引張強度)をあまり低下させずに導電性を高めることができる。なお、これらの導電めっき層2は、半田付け性に優れており、その作業性を向上させることができるという利点も併せ持つ。
【0038】
導電めっき層が銀めっき層である場合、銀めっき層の厚さは、サスペンションワイヤ全体の断面積比(断面積被覆率ともいう。百分率。以下同じ。)で2%以上8%以下の範囲内であることが好ましい。導電めっき層2が銅めっき層である場合や金めっき層である場合も、その厚さは、サスペンションワイヤ全体の断面積比で2%以上8%以下の範囲内であることが好ましい。この範囲内の断面積比で導電めっき層2を設けることにより、ザスペンションワイヤ全体の強度(引張強度)を維持しつつ、導電率を30%IACS以上50%IACSの範囲内とすることができる。断面積比が2%未満では、強度(引張強度)は高くなるものの、導電率が30%IACSより小さくなってしまう場合がある。一方、断面積比が8%を超えると、導電率は高くなるものの、銀めっき層がかなり厚くなってコストが嵩むとともに、サスペンションワイヤ全体の強度が低下することがある。なお、「サスペンションワイヤ全体」とは、サスペンションワイヤそのものを指し、CuZr系合金線1とその外周に設けられる導電めっき層2とで構成されたサスペンションワイヤと同義である。
【0039】
なお、銀めっき層、銅めっき層及び金めっき層から選ばれる導電めっき層2を設けたことによるはんだ付け性は良好であり、特に銀めっき層を設けた場合はより優れたはんだ付け性を示す。例えば、0.040mmの芯線に同じはんだ付け条件ではんだ濡れ性試験を行ったところ、銀めっき層を0.3μm設けた場合は0.1秒で良好なはんだ付け性を確認できたが、Snめっき層0.75μm設けた場合は0.3秒であり、銀めっき層を設けることによりSnめっき層を設けた場合の約1/3の時間ではんだ付けが可能となり、結果として、はんだ食われによる外径寸法の減少を小さくすることができる。
【0040】
こうした導電めっき層2は、所定の外径まで伸線加工されたCuZr系合金線に設け、その後、導電めっき層を設けた状態で所定の外径(例えば20μm以上50μm以下の範囲内)まで伸線加工する。こうして上記厚さの導電めっき層2を備え、導電めっき層2を含む外径が20μm以上50μm以下の範囲内のサスペンションワイヤを得ることができる。なお、導電めっき層2を形成するCuZr系合金線の外径は特に限定されないが、例えば0.3mm程度であってもよいし、他のサイズであってもよい。
【0041】
(引張強度)
サスペンションワイヤ10の引張強度は、導電めっき層2を含む外径が20μm以上50μm以下の範囲内で、1500MPa以上の範囲内である。外径が20μm以上50μm以下のサスペンションワイヤが1500MPa以上の引張強度を持つことにより、スマートフォン等の小型携帯機器に内蔵される超小型カメラモジュールが備える手振れ補正装置用のサスペンションワイヤとして特に耐落下衝撃性の向上の観点から好ましい。特に近年の細径化の要求により、導電めっき層2を含むサスペンションワイヤの外径が20μm以上45μm以下の範囲内の場合に、1500MPa以上の引張強度を持つことが好ましい。なお、引張強度の上限は特に限定されないが、あまり高くなりすぎない2000MPaが上限値として好ましい。
【0042】
サスペンションワイヤの引張強度のコントロールは、伸線加工度、Zr含有量、テンションアニールの矯正温度(熱処理条件)等によって制御できる。例えば、伸線加工度と引張強度との関係は、伸線加工度が増すにしたがって引張強度も向上する傾向があり、導電率については伸線加工度が増すにしたがって下がる傾向がある。なお、伸線加工度は、既述したように、伸線加工前の断面積をA0とし、伸線加工後の断面積をA1としたとき、η=ln(A0/A1)で表される。また、Zr含有量と引張強度との関係は、Zr含有量が増すにしたがって引張強度も向上する傾向があり、導電率についてはZr含有量が増すにしたがって下がる傾向がある。また、矯正温度と引張強度との関係は、ある一定温度範囲では引張強度も向上する傾向がある。なお、引張強度は、Zr濃度が上記範囲よりも低い場合、時効処理を過剰な場合、機械加工率が低い場合等では低下することがあることから、これらを考慮して設定される。
【0043】
(真直度)
サスペンションワイヤの真直度は、曲率半径で600mm以上であることが好ましい。CuZr系合金線を手振れ補正装置用のサスペンションワイヤとして用いる場合、高精度な位置決め及び動作の実現のために高い真直性が必要であるが、曲率半径が600mm以上の真直度を有することにより、その要求を満足することができる。
【0044】
テンションアニールの矯正温度を300℃以上とすることにより、サスペンションワイヤの曲率半径を600mm以上にすることができる。なお、曲率半径を600mm以上とするための矯正温度の上限は特に限定されないが、後述の実施例で説明するように、矯正温度が高くなると曲率半径は大きくなるが、CuZr系合金線の引張強度が低下し、導電率は上昇する。そのため、この矯正温度を調整することにより、好ましい引張強度と導電率に微調整することができる。
【0045】
真直度は、所定荷重のバックテンションを負荷したCuZr系合金線を、300℃以上の加熱炉中で所定の速度で通過させることによってコントロールすることができる。また、真直度を所定の範囲にするための処理としては、例えば回転ダイス式直線矯正装置等を適用することも可能である。
【0046】
(その他)
サスペンションワイヤには、必要に応じて他の層を設けてもよい。例えば、絶縁皮膜を設けてもよい。絶縁皮膜としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂から選ばれる少なくとも1又は2以上の樹脂皮膜を設けることができる。特にはんだ付け可能なウレタン樹脂皮膜等が好ましい。絶縁皮膜の厚さは特に限定されないが、例えば3μm以上10μm以下の範囲内であることが好ましい。また、ナイロンや融着コーティング等の層を設けてもよい。
【0047】
また、導電めっき層の下地膜を設けてもよい。例えば、導電めっき層を銅めっき層とした場合は、その銅めっき層の下地膜として、薄いニッケルめっき層を設けることが好ましい。
【0048】
以上説明したように、本発明に係るサスペンションワイヤ10は、導電めっき層を含む外径が上記範囲内であるので、超小型カメラモジュールが備える手振れ補正装置用の短尺のサスペンションワイヤとして好適に使用することができる。また、上記範囲内の細径かつ短尺であったとしても、引張強度が上記範囲内であるので、手振れ補正装置用のサスペンションワイヤとして好ましく、また、落下等の衝撃が加わったとしても断線や変形が発生しない。また、導電めっき層を含むサスペンションワイヤの導電率が上記範囲内であるので、20μm以上50μm以下の細径ワイヤであっても良好な導電性を示し、消費電力の低減に寄与できる。こうした超小型カメラモジュールで使用される細径のサスペンションワイヤを、Zrを上記範囲内で含有するCuZr系合金で構成することにより、十分なバネ性を備えた細く、強く、導電性に優れたサスペンションワイヤを提供することができる。
【0049】
(手振れ補正装置)
本発明に係るサスペンションワイヤは、特許文献3に記載されているような各種の手振れ補正装置に用いられる。手振れ補正装置は、超小型カメラモジュールが搭載されたスマートフォン等の小型携帯機器に備えられている。手振れ補正装置は、撮影する場合、振動によって変位するレンズ位置を補正する手振れ補正機能を備えている。こうした手振れ補正機能を備えたユニットは、近年はより低背化していることから、上記した本発明に係るサスペンションワイヤのような外径が20μm以上50μm以下の細くて引張強度の高いワイヤを短尺(例えば2mm前後や、それ以下の長さ。)で使用しなければ、十分な手振れ補正装置を構成することができない。
【0050】
超小型カメラモジュールは、例えば、レンズと、そのレンズを光軸方向の初期位置に弾性付勢するサスペンションワイヤと、そのサスペンションワイヤの付勢力に抗する電磁力を生起して前記レンズを光軸に対して垂直方向へ駆動可能な電磁駆動手段とを基本的に備えるものである。電磁駆動手段については、様々な構成があるが、例えば円筒形状のヨークと、そのヨークの内周壁の内側に収容されるコイルと、そのコイルを囲繞すると共にヨークの外周壁の内側に収容されるマグネットとを備えるものを例示できる。
【0051】
サスペンションワイヤは、レンズを光軸に対して垂直方向の初期位置に弾性付勢するように作用するとともに、コイルへの給電経路としても作用する。それゆえ、サスペンションワイヤには、高い引張強度と導電性が要求されている。コイルへの給電経路となっていることにより、サスペンションワイヤは、リード線とはんだ付けされることから、良好なはんだ付け性も要求されている。なお、レンズは、レンズキャリアに装着され、そのレンズキャリアにはコイルが装着されている。このレンズキャリアに対し、サスペンションワイヤは通常、そのレンズキャリアを4隅で4〜10本のサスペンションワイヤで支持している。
【0052】
なお、光ピックアップでは、サスペンションワイヤの根元にαゲル等の衝撃吸収材を付与することが可能であったが、手振れ補正装置においては、そのスペースが小さく、間接的に付与されるため、落下衝撃試験等においてサスペンションワイヤに対する負荷が大きくなり、衝撃が吸収されにくくなるという構造上の差異がある。一方で、カメラは高画素化ニーズによりレンズが大口径化し、サスペンションワイヤが懸架する可動部の質量が増す傾向にある。こうした可動部の質量増は、低背化によってより細くなったサスペンションワイヤに大きな応力が加わることとなったが、本発明においては、こうした問題を効果的に解消でき、光ピックアップ用の従来のサスペンションワイヤでは適用できない、手振れ補正装置用のサスペンションワイヤを提供した。
【実施例】
【0053】
以下の実験により本発明をさらに詳しく説明する。
【0054】
[実験1]
(0.040mmCuZr系合金線)
CuZr系合金(日本碍子株式会社製)の外径7.0mmの母線を用いた。このCuZr系合金は、Zrを2.5原子%含み、Cuが残部(約97.5原子%)であり、その他の不可避不純物は0.1原子%以下である。その母線を外径0.3mmまで冷間伸線加工した。その後、めっき用前処理を行い、厚さ1.5μmの銀めっきを施した。その後、多段式伸線機を用いて、外径0.040mmまで冷間伸線加工した。外径3.0mmから、1ダイスあたりの断面積減少率を5%〜20%の範囲とし、引抜速度は150〜500m/分で0.040mmまで冷間伸線加工を行った。伸線加工度η[ln(A0/A1)]は8.6であった。伸線後のワイヤの引張強度は1580MPaであり、導電率は30.5%IACSであった。ワイヤの断面における銀めっき層の断面積比は2%であった。なお、引張強度は、小型卓上引張試験機(株式会社島津製作所、EZ−TEST)によって測定し、導電率は、4端子抵抗測定法によって測定した。
【0055】
(直線矯正後の特性)
伸線工程後の外径0.040mmCuZr系合金線にバックテンション30〜70gfを加え、炉温度(矯正温度)を300℃〜500℃の範囲で変化させ、炉長3m、不活性雰囲気の電気炉中を線速7.5m/分で走行させ、直線矯正を行った。その後、長さ20mmに切断して、手振れ補正装置に用いられるサスペンションワイヤを作製した。得られたサスペンションワイヤの引張強度、導電率、曲率半径の結果を表1に示した。曲率半径は、600mmの検査ゲージを用い、「600mm以上」と「600mm未満」とを評価した。
【0056】
【表1】
【0057】
表1の結果より、Zrを2.5原子%含有し、銀めっき層を含む外径が0.040mmのCuZr系合金線は、曲率半径が600mm未満のものを除き、引張強度が1580MPa〜1760MPaの範囲であり、導電率が30.4%IACS〜46.3%IACSの範囲であった。この引張強度と導電率の結果より、曲率半径が600mm未満のものを除き、超小型カメラモジュールが備える手振れ補正装置用の短尺のサスペンションワイヤとして好適に使用することができることがわかった。また、曲率半径の結果より、約2mm又はそれ以下の長さの短尺で、十分なバネ性を備えた細く、強く、導電性に優れた真直度のよいCuZr系サスペンションワイヤは、矯正温度を変化させて所望の特性に調整可能であることがわかった。
【0058】
[実験2]
実験1において、銀めっき層を含む外径を0.050mmにした他は、実験1と同様にしてサスペンションワイヤを作製した。また、直線矯正後の特性試験も実験1と同様に行った。その結果を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
表2の結果より、Zrを2.5原子%含有し、銀めっき層を含む外径が0.050mmのCuZr系合金線は、曲率半径が600mm未満のものを除き、引張強度が1514MPa〜1705MPaの範囲であり、導電率が33.5%IACS〜47.6%IACSの範囲であった。この引張強度と導電率の結果より、曲率半径が600mm未満のものを除き、超小型カメラモジュールが備える手振れ補正装置用の短尺のサスペンションワイヤとして好適に使用することができることがわかった。また、曲率半径の結果より、約2mm又はそれ以下の長さの短尺で、十分なバネ性を備えた細く、強く、導電性に優れた真直度のよいCuZr系サスペンションワイヤは、矯正温度を変化させて所望の特性に調整可能であることがわかった。
【0061】
[実験3]
CuZr系合金(日本碍子株式会社製)の外径7.0mmの母線を用いた。このCuZr系合金は、Zrを2.9原子%含み、Cuが残部(約97.1原子%)であり、その他の不可避不純物は0.1原子%以下である。このCuZr系合金線を用いた他は、実験1と同様にして、銀めっき層を含む外径0.040mmのサスペンションワイヤを作製した。また、直線矯正後の特性試験も実験1と同様に行った。その結果を表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
表3の結果より、Zrを2.9原子%含有し、銀めっき層を含む外径が0.040mmのCuZr系合金線は、曲率半径が600mm未満のものを除き、引張強度が1708MPa〜1938MPaの範囲であり、導電率が30.0%IACS〜43.0%IACSの範囲であった。この引張強度と導電率の結果より、曲率半径が600mm未満のものを除き、超小型カメラモジュールが備える手振れ補正装置用の短尺のサスペンションワイヤとして好適に使用することができることがわかった。また、曲率半径の結果より、約2mm又はそれ以下の長さの短尺で、十分なバネ性を備えた細く、強く、導電性に優れた真直度のよいCuZr系サスペンションワイヤは、矯正温度を変化させて所望の特性に調整可能であることがわかった。
【0064】
[実験4]
実験3において、銀めっき層を含む外径を0.050mmにした他は、実験3と同様にしてサスペンションワイヤを作製した。また、直線矯正後の特性試験も実験3と同様に行った。その結果を表4に示す。
【0065】
【表4】
【0066】
表4の結果より、Zrを2.9原子%含有し、銀めっき層を含む外径が0.050mmのCuZr系合金線は、曲率半径が600mm未満のものを除き、引張強度が1619MPa〜1835MPaの範囲であり、導電率が33.1%IACS〜44.4%IACSの範囲であった。この引張強度と導電率の結果より、曲率半径が600mm未満のものを除き、超小型カメラモジュールが備える手振れ補正装置用の短尺のサスペンションワイヤとして好適に使用することができることがわかった。また、曲率半径の結果より、約2mm又はそれ以下の長さの短尺で、十分なバネ性を備えた細く、強く、導電性に優れた真直度のよいCuZr系サスペンションワイヤは、矯正温度を変化させて所望の特性に調整可能であることがわかった。
【0067】
[実験5]
CuZr系合金(日本碍子株式会社製)の外径7.0mmの母線を用いた。このCuZr系合金は、Zrを0.5原子%含み、Cuが残部(約99.5原子%)であり、その他の不可避不純物は0.1原子%以下である。このCuZr系合金線を用いた他は、実験1と同様にして、銀めっき層を含む外径0.040mmのサスペンションワイヤを作製した。また、直線矯正後の特性試験も実験1と同様に行った。その結果を表5に示す。
【0068】
【表5】
【0069】
表5の結果より、Zrを0.5原子%含有し、銀めっき層を含む外径が0.040mmのCuZr系合金線は、曲率半径が600mm未満のものを除き、引張強度が867MPa〜1048MPaの範囲であり、導電率が52.4%IACS〜66.0%IACSの範囲であった。この引張強度と導電率の結果より、曲率半径が600mm以上を満たす場合であっても、超小型カメラモジュールが備える手振れ補正装置用の短尺のサスペンションワイヤとして好適に使用することができる引張強度としては不足し、導電率としては大きすぎることがわかった。
【0070】
[実験6]
実験5において、銀めっき層を含む外径を0.050mmにした他は、実験5と同様にしてサスペンションワイヤを作製した。また、直線矯正後の特性試験も実験5と同様に行った。その結果を表6に示す。
【0071】
【表6】
【0072】
表6の結果より、Zrを0.5原子%含有し、銀めっき層を含む外径が0.050mmのCuZr系合金線は、曲率半径が600mm未満のものを除き、引張強度が802MPa〜984MPaの範囲であり、導電率が55.8%IACS〜71.5%IACSの範囲であった。この引張強度と導電率の結果より、曲率半径が600mm以上を満たす場合であっても、超小型カメラモジュールが備える手振れ補正装置用の短尺のサスペンションワイヤとして好適に使用することができる引張強度としては不足し、導電率としては大きすぎることがわかった。
【符号の説明】
【0073】
1 CuZr系合金線(合金線)
2 導電めっき層
10 サスペンションワイヤ
【要約】
【課題】短尺で十分なバネ性を備えた細く、強く、導電性に優れたCuZr系サスペンションワイヤを提供する。
【解決手段】超小型カメラモジュールで使用されるCuZr系合金からなるサスペンションワイヤ10であって、2.0原子%以上5.0原子%以下の範囲内のZrを含有し、導電めっき層2を含む外径が20μm以上50μm以下の範囲内であり、引張強度が1500MPa以上の範囲内であり、導電率が30%IACS以上50%IACS以下の範囲内であるサスペンションワイヤ10によって上記課題を解決する。このとき、導電めっき層2が、銀めっき層、銅めっき層又は金めっき層であることが好ましい。
【選択図】図1
図1