特許第6012887号(P6012887)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6012887熱放射反射コーティングを有する板ガラス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012887
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】熱放射反射コーティングを有する板ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/34 20060101AFI20161011BHJP
   B32B 7/02 20060101ALI20161011BHJP
   B60J 1/00 20060101ALN20161011BHJP
【FI】
   C03C17/34 Z
   B32B7/02 103
   !B60J1/00 H
【請求項の数】15
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-557343(P2015-557343)
(86)(22)【出願日】2013年12月19日
(65)【公表番号】特表2016-513057(P2016-513057A)
(43)【公表日】2016年5月12日
(86)【国際出願番号】EP2013077352
(87)【国際公開番号】WO2014127868
(87)【国際公開日】20140828
【審査請求日】2015年9月25日
(31)【優先権主張番号】13155970.0
(32)【優先日】2013年2月20日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハーゲン,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】マンツ,フロリアン
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−533202(JP,A)
【文献】 特表2007−527353(JP,A)
【文献】 特許第4399986(JP,B2)
【文献】 特表2008−516878(JP,A)
【文献】 特開平08−152501(JP,A)
【文献】 特開平04−357134(JP,A)
【文献】 実開昭61−035835(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの基材(1)および基材(1)の少なくとも内側表面上の少なくとも1つの熱放射反射コーティング(2)を含む、外部環境から内部を隔離するための熱放射反射コーティングを有する板ガラスであって、
板ガラスが5%未満の可視スペクトル領域の透過率を有し、
コーティング(2)が、基材(1)の側から、少なくとも:
屈折率1.8未満の少なくとも1つの材料を含有する、1つの接着剤層(3)、
少なくとも1種の透明導電性酸化物を含有する、1つの機能層(4)、
屈折率1.8以上の少なくとも1つの材料を含有する、1つの光学的高屈折率層(5)および
屈折率1.8未満の少なくとも1つの材料を含有する、1つの光学的低屈折率層(6)
を含む、板ガラス。
【請求項2】
基材(1)が少なくとも1つの熱可塑性中間層(9)を介してカバー板ガラス(8)に結合している、複合板ガラスである、請求項1に記載の板ガラス。
【請求項3】
4%未満の可視スペクトル領域の透過率を有する、請求項1または2に記載の板ガラス。
【請求項4】
接着剤層(3)が、酸化ケイ素および酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の酸化物を含有する、請求項1から3の一項に記載の板ガラス。
【請求項5】
接着剤層(3)が、10nmから150nmの厚さを有する、請求項1から4の一項に記載の板ガラス。
【請求項6】
機能層(4)が、少なくともフッ素ドープ酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズおよび/または酸化インジウムスズを含有する、請求項1から5の一項に記載の板ガラス。
【請求項7】
機能層(4)が、50nmから150nmの厚さを有する、請求項1から6の一項に記載の板ガラス。
【請求項8】
光学的高屈折率層(5)が、少なくとも1種の酸化物または窒化物を含有し、当該酸化物または窒化物は、酸化タングステン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ビスマス、酸化チタン、窒化ケイ素、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウムおよび窒化アルミニウムからなる群から選択される、請求項1から7の一項に記載の板ガラス。
【請求項9】
光学的高屈折率層(5)が、少なくとも1nmおよび20nm未満の厚さを有する、請求項1から8の一項に記載の板ガラス。
【請求項10】
光学的低屈折率層(6)が、酸化ケイ素および酸化アルミニウムからなる群から選択される、少なくとも1種の酸化物を含有する、請求項1から9の一項に記載の板ガラス。
【請求項11】
光学的低屈折率層(6)が、40nmから130nmの厚さを有する、請求項1から10の一項に記載の板ガラス。
【請求項12】
TiO、ZrO、HfO、Nb、Ta、Cr、WOおよびCeOからなる群から選択される、少なくとも1種の酸化物を含有し、2nmから50nmの厚さを有するカバー層(7)が、光学的低屈折率層(6)の上に配置されている、請求項1から11の一項に記載の板ガラス。
【請求項13】
可視スペクトル領域の内側透過レベルT対可視スペクトル領域の内側反射レベルRの比T/Rが、0.6以上である、請求項1から12の一項に記載の板ガラス。
【請求項14】
請求項1から13の一項に記載の熱放射反射コーティング(2)を有する板ガラスを製造する方法であって、少なくとも
(a)接着剤層(3)、
(b)機能層(4)、
(c)光学的高屈折率層(5)および
(d)光学的低屈折率層(6)
が、基材(1)の内側表面に連続して適用される、方法。
【請求項15】
建物における、または陸上、空中もしくは水上の輸送手段としての、請求項1から13の一項に記載の熱放射反射コーティングを有する板ガラスの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱放射反射コーティングを有する板ガラス、その製造方法およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車両の内部は、夏には、高い周囲温度および強力な直射日光により、大幅に温度上昇することがある。外の温度が車両内部の温度より低い場合(特に冬に発生する。)、冷たい板ガラスは放熱板として作用し、乗員に不快なものとして受け取られている。エアコンシステムに高い暖房性能も備えて、自動車両の窓を通した内部の過剰な冷却を防止しなければならない。
【0003】
熱放射反射コーティング(いわゆる「低Eコーティング」)は公知である。そのようなコーティングは、特に赤外領域のかなりの部分の日光を反射し、夏には車両内部の温度上昇を抑える。その上、車両内部に面した板ガラスの表面にコーティングが適用されている場合、温度上昇した板ガラスから車両内部への長波熱放射の放出がコーティングにより抑えられる。その上、冬に外の温度が低い事例では、そのようなコーティングは、内部から外周への熱の外方放出を抑える。
【0004】
多数の熱放射反射コーティングが当業者に公知である。そのようなコーティングは、例えば、US7592068B2、US7923131B2およびWO2004076174A1に開示されているように、ニオブ、タンタル、ニッケル、クロム、ジルコニウムまたはそれらの合金でできている機能層を含有できる。コーティングは、例えば、EP877006B1、EP1047644B1およびEP1917222B1で公知のように、銀でできている機能層も含有できる。その上、酸化インジウムスズでできている機能層のコーティングも、例えば、EP2141135A1、WO2010115558A1およびWO2011105991A1で公知である。
【0005】
審美的または熱的理由から、自動車両の窓の板ガラスは、光線透過率を抑えることが望ましいことがある。これは、例えば、後部側窓、後部窓またはルーフパネルに多い事例である。そのような板ガラスには着色したガラスを使用することが慣例である。しかし、濃厚に着色したガラスは、透過レベルと比較して、内側反射レベルが高いという欠点を有する。外側からの透過率がより低くなることにより、プライバシーの望ましい向上が確保されるが、車両乗員の視覚的印象は損なわれる。特に内側反射レベルが透過レベルを超える場合、乗員による外部環境の認知が妨害される。さらに、過剰に強い反射は乗員を煩わせる、または刺激する効果を有する。板ガラスの内側表面が熱放射反射コーティングを備える場合、従来の反射防止コーティングを用いた簡単な手段では反射は抑えられないが、これは、2つのコーティングは、通常、互いに光学的に適合せず、結果として、簡単に組み合わせることができないためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7592068号明細書
【特許文献2】米国特許第7923131号明細書
【特許文献3】国際公開第2004/076174号
【特許文献4】欧州特許第877006号明細書
【特許文献5】欧州特許第1047644号明細書
【特許文献6】欧州特許第1917222号明細書
【特許文献7】欧州特許出願公開第2141135号明細書
【特許文献8】国際公開第2010/115558号
【特許文献9】国際公開第2011/105991号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
(発明の要旨)
本発明の目的は、改善した熱放射反射コーティングを有する板ラスならびにその製造方法を提供することにある。板ガラスは、抑えた内側反射を有し、光線透過率を低くするべきである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、請求項1に記載の熱放射反射コーティングを有する板ガラスにより、本発明に従って達成される。好ましい実施形態は、従属クレームに表わされる。
【0009】
熱放射反射コーティングを有する本発明による板ガラスは、少なくとも1つの基材および基材の少なくとも内側表面上の少なくとも1つの熱放射反射コーティングを含み、板ガラスは、5%未満の可視スペクトル領域の透過率を有し、コーティングは、基材の側から、少なくとも
・屈折率1.8未満の少なくとも1つの材料を含有する、接着剤層、
・少なくとも1種の透明導電性酸化物(TCO)を含有する、機能層、
・屈折率1.8以上の少なくとも1つの材料を含有する、光学的高屈折率層および
・屈折率1.8未満の少なくとも1つの材料を含有する、光学的低屈折率層
を含む。
【0010】
本発明による板ガラスは、例えば、自動車両または建物の入口に供給され、外部環境から内部を隔離する。板ガラスが設置された位置において、内部を向くように意図された表面は、本発明の文脈において、内側表面と呼ばれる。本発明によるコーティングは、本発明に従って、基材の内側表面に配置されている。これは、内部の熱的快適性に関して特に有利である。本発明によるコーティングは、外部温度が高く日光が強い事例では、板ガラス全体により内部方向に放射される熱放射を、特に効率的に、少なくとも部分的に反射することができる。外側の温度が低い事例では、本発明によるコーティングは、内部から放射される熱放射を効率的に反射するので、冷たい板ガラスの放熱板としての作用を抑えることができる。
【0011】
本発明の主要な利点は、光線透過率がきわめて低い板ガラスおよび本発明による熱放射反射コーティングの組み合わせにある。板ガラスの低い光線透過率は、典型的には、着色基材および/または着色層を結合させた基材(例えば、別の板ガラスおよび複合ガラスのポリマーフィルム)を用いて得られる。そのような板ガラスは、それ自体が高い内側反射レベルを有する。顕著な反射は、板ガラスにより区切られた内部にいる個人により、煩わしい、または刺激とさえ受け取られることが多い。これは、内側反射レベルが透過レベルを超える場合に、特に当てはまり、外部環境の認知が妨害される、または阻害されることを意味する。驚くべきことに、本発明によるコーティングは、熱放射を反射する作用に加えて、反射を抑える作用も有することが示された。本発明によるコーティングを用いて、内側反射レベルは有利に抑えられ、透過レベル対内側反射レベルの比は、有利に上昇する。
【0012】
本発明による熱放射反射コーティングは、少なくとも以下の層:
・本発明による接着剤層、
・接着剤層の上に、本発明による機能層、
・機能層の上に、本発明による光学的高屈折率層および
・光学的高屈折率層の上に、本発明による光学的低屈折率層
を含む層構造である。
【0013】
第1の層が第2の層の上に配置されている場合、これは、本発明の文脈において、第1の層が第2の層よりも基材から離れて配置されていることを意味する。第1の層が第2の層の下に配置されている場合、これは、本発明の文脈において、第2の層が第1の層よりも基材から離れて配置されていることを意味する。
【0014】
第1の層が第2の層の上または下に配置されている場合、これは、本発明の文脈において、第1および第2の層が、互いに直接接触する状態にあることを必ずしも意味しない。明白に除外されない限り、第1と第2の層との間に、1つまたは複数の追加層を配置することができる。
【0015】
コーティングの最上層は、本発明の文脈において、基材から最も距離が離れた層である。コーティングの最下層は、本発明の文脈において、基材から最も距離が短い層である。
【0016】
層または別の部材が少なくとも1つの材料を含有する場合、これは、本発明の文脈において、層がその材料でできている事例を含む。
【0017】
酸化物および窒化物は、原則的に、酸素含有量または窒素含有量に対して化学量論的、準化学量論的または超準化学量論的であってよい。
【0018】
屈折率に対して示される値は、波長550nmで測定される。
【0019】
本発明による板ガラスの内側放射率は、好ましくは、35%以下、特に好ましくは25%以下、特に最も好ましくは20%以下である。ここでは、「内側放射率」という用語は、板ガラスが、設置された位置において例えば、建物または自動車両の内部空間へと発する熱放射の量を、理想的な熱放射体(黒体)と比較して示す測定を指す。本発明の文脈において、「放射率」は、標準規格EN12898による283Kにおける通常の放出レベルを意味する。
【0020】
本発明による板ガラスは、好ましくは、4%未満、特に好ましくは3%未満の可視スペクトル領域の透過率を有する。そのような透過率が低い板ガラスで、内側反射レベルは特に有利に低下する。
【0021】
可視スペクトル領域の内側透過レベルT対可視スペクトル領域の内側反射レベルRの比であるT/Rは、好ましくは0.6以上、特に好ましくは0.8以上、特に最も好ましくは1以上、具体的には1.5以上である。これは、内部から見る人が外部環境を快適に認知することに関して特に有利である。
【0022】
内側透過レベルは、この事例では、板ガラスに作用する可視スペクトル領域の放射線の、板ガラスを通って外側から内部へと貫通する放射線の割合について記載する。放射線の内側反射レベルの割合は、内部から板ガラスに作用する可視スペクトル領域の放射線の、内部へと反射される放射線の割合について記載する。
【0023】
日光からの全エネルギー入力に関する、本発明による板ガラスの透過率の値は、好ましくは50%未満、特に好ましくは40%未満、特に最も好ましくは30%未満、具体的には20%未満である。この値もTTS値(「全透過日光」)として当業者に公知である。
【0024】
本発明によるコーティングのシート抵抗は、好ましくは10オーム/スクエアから50オーム/スクエア、特に好ましくは15オーム/スクエアから30オーム/スクエアである。
【0025】
本発明の有利な実施形態において、本発明による板ガラスは複合板ガラスである。基材は、少なくとも1つの熱可塑性中間層を介してカバー板ガラスに結合している。カバー板ガラスは、複合板ガラスが設置された位置で外側環境に面し、一方、基材は、内部に面するように意図される。本発明によるコーティングは、カバー板ガラスから見て外側に面する、複合板ガラスの内側表面である基材の表面に配置されている。
【0026】
基材および場合によってカバー板ガラスは、好ましくは、ガラス、特に好ましくは平板ガラス、フロートガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラスを含有し、またはプラスチック、好ましくは硬質プラスチック、特にポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニルおよび/またはそれらの混合物を含有する。基材および場合によってカバー板ガラスは、好ましくは1.0mmから25mm、特に好ましくは1.4mmから4.9mmの厚さを有する。
【0027】
本発明による板ガラスが複合板ガラスである場合、熱可塑性中間層は、好ましくは、熱可塑性プラスチック、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、ポリウレタン(PU)、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはそれらの複数の層を含有し、好ましくは、厚さは0.3mmから0.9mmである。
【0028】
板ガラスは、本発明に従って、5%以下の可視スペクトル領域の透過率を有する。このため、基材は、好ましくは適切に染色および/または色付けされる。板ガラスが複合板ガラスである場合、カバー板ガラスおよび/または熱可塑性中間層は、別法として、またはさらに色付けおよび/または着色できる。複合板ガラスの事例では、基材およびカバー板ガラスは、好ましくは、各事例において、35%未満、特に好ましくは30%未満の可視スペクトル領域の透過率を有する。熱可塑性中間層は、好ましくは、20%から80%、特に好ましくは20%から70%、特に最も好ましくは20%から50%の透過率を有する。
【0029】
機能層は、熱放射、特に赤外線放射を反射する性質を有するが、可視スペクトル領域の大部分が透過する。本発明によれば、機能層は、少なくとも1種の透明導電性酸化物(TCO)を含有する。透明導電性酸化物の屈折率は、好ましくは1.7から2.3である。機能層は、好ましくは、少なくともフッ素ドープ酸化スズ(SnO:F)、アンチモンドープ酸化スズ(SnO:Sb)および/または酸化インジウムスズ(ITO)、特に好ましくは酸化インジウムスズ(ITO)を含有する。したがって、本発明によるコーティングの放射率および曲げ性に関して特に良好な結果が得られる。
【0030】
酸化インジウムスズは、好ましくは、酸化インジウムスズでできたターゲットを用いて、磁場印加型陰極スパッタリングを使用して堆積される。ターゲットは、好ましくは、75重量%から95重量%の酸化インジウムおよび5重量%から25重量%の酸化スズならびに製造に伴う混和物を含有する。酸化インジウムスズの堆積は、好ましくは、保護ガス、例えばアルゴン雰囲気下で行われる。保護ガスに少量の酸素を加えて、例えば、機能層の均一性も改善できる。
【0031】
別法として、ターゲットは、好ましくは、少なくとも75重量%から95重量%のインジウムおよび5重量%から25重量%のスズを含有することもできる。次いで、酸化インジウムスズの堆積は、好ましくは、陰極スパッタリング中に酸素を反応ガスとして添加しながら行われる。
【0032】
しかし、機能層は、他の透明導電性酸化物、例えば、インジウム/亜鉛混合酸化物(IZO)、ガリウムドープもしくはアルミニウムドープ酸化亜鉛、ニオブドープ酸化チタン、スズ酸カドミウム、および/またはスズ酸亜鉛も含むことができる。
【0033】
機能層の厚さは、好ましくは、50nmから150nm、特に好ましくは60nmから140nm、特に最も好ましくは70nmから130nmである。一方では、機能層の厚さに関しては、この範囲において有利な反射を防止する作用が得られ、他方では、低い放射率が得られる。
【0034】
光学的高屈折率層の効果は、特に、本発明による板ガラスの反射色の調整である。その上、光学的高屈折率層を用いて、機能層の安定性ならびに耐腐食性および耐酸化性は改善できる。これは、コーティングを備えた板ガラスに、温度処理、ベンディングプロセス、および/またはプレストレッシングプロセスが施されることになる場合、特に有利である。
【0035】
光学的高屈折率層の材料の屈折率は、好ましくは1.7から2.3であり、特に好ましくは、機能層の材料の屈折率以上である。したがって、コーティングの有利な光学的性質は、特に審美的な色の印象で達成される。
【0036】
光学的高屈折率層は、好ましくは、少なくとも1種の酸化物または窒化物、特に好ましくは酸化タングステン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ビスマス、酸化チタン、窒化ケイ素、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、および/または窒化アルミニウムを含有する。光学的高屈折率層は、特に好ましくは、窒化ケイ素(Si)を含有する。したがって、コーティングの安定性および光学的性質に関して、特に良好な結果が得られる。窒化ケイ素は、ドーパント、例えばチタン、ジルコニウム、ホウ素、ハフニウムおよび/またはアルミニウムを有することができる。窒化ケイ素は、特に最も好ましくは、アルミニウムを用いてドープされる(Si:Al)またはジルコニウムを用いてドープされる(Si:Zr)またはホウ素を用いてドープされる(Si:B)。これは、コーティングの光学的性質および放射率、ならびに例えば、陰極スパッタリングによる光学的高屈折率層の適用速度に関して特に有利である。
【0037】
窒化ケイ素は、好ましくは、少なくともケイ素を含有するターゲットを用いて、磁場印加型陰極スパッタリングを使用して堆積される。アルミニウムドープ窒化ケイ素を含有する層を堆積させるためのターゲットは、好ましくは、80重量%から95重量%のケイ素および5重量%から20重量%のアルミニウムならびに製造に伴う混和物を含有する。ホウ素ドープ窒化ケイ素を含有する層を堆積させるためのターゲットは、好ましくは、99.9990重量%から99.9999重量%のケイ素および0.0001重量%から0.001重量%のホウ素ならびに製造に伴う混和物を含有する。ジルコニウムドープ窒化ケイ素を含有する層を堆積させるためのターゲットは、好ましくは、60重量%から90重量%のケイ素および10重量%から40重量%のジルコニウムならびに製造に伴う混和物を含有する。窒化ケイ素の堆積は、好ましくは陰極スパッタリング中に窒素を反応ガスとして添加しながら行われる。
【0038】
光学的高屈折率層の厚さは、好ましくは20nm未満、特に好ましくは12nm未満、特に最も好ましくは10nm未満、具体的には8nm未満である。光学的高屈折率層の厚さは、少なくとも1nm、好ましくは少なくとも2nmとすべきである。光学的高屈折率層の厚さに関しては、この範囲において、本発明によるコーティングの特に有利な反射を防止する性質が得られる。厚さは、好ましくは1nmから20nm、特に好ましくは2nmから12nm、特に最も好ましくは2nmから10nm、特に2nmから8nmである。
【0039】
本発明によるコーティングを適用した後での温度処理中に、窒化ケイ素は、部分的に酸化され得る。次いで、Siとして堆積される層は、温度処理後に、酸素含有量が典型的には0原子%から35原子%のSiを含有する。
【0040】
接着剤層は、基材における接着剤層の上に堆積させた層を耐久的に安定して接着させる。接着剤層は、基材がガラスでできている場合、機能層との境界領域において基材から拡散するイオン、特にナトリウムイオンの蓄積をさらに防止する。そのようなイオンは、腐食および機能層の接着の低下を引き起こし得る。接着剤層は、結果として、機能層の安定性に関して特に有利である。
【0041】
接着剤層は、好ましくは、屈折率が1.5から1.8の間である少なくとも1つの材料を含有する。接着剤層の材料は、好ましくは、基材の屈折率の範囲である屈折率を有する。接着剤層は、例えば、少なくとも1種の酸化物および/または1種の窒化物、好ましくは少なくとも1種の酸化物を含有できる。接着剤層は、特に好ましくは、二酸化ケイ素(SiO)を含有する。これは、基材において、接着剤層の上に堆積させる層の接着に関して特に有利である。二酸化ケイ素は、ドーパント、例えば、フッ素、炭素、窒素、ホウ素、リンおよび/またはアルミニウムを有することができる。二酸化ケイ素は特に最も好ましくはアルミニウムを用いてドープされる(SiO:Al)、ホウ素を用いてドープされる(SiO:B)またはジルコニウムを用いてドープされる(SiO:Zr)。これは、コーティングの光学的性質ならびに例えば、陰極スパッタリングによる接着剤層の適用速度に関して特に有利である。
【0042】
二酸化ケイ素は、好ましくは、少なくともケイ素を含有するターゲットを用いて、磁場印加型陰極スパッタリングを使用して堆積される。アルミニウムドープ二酸化ケイ素を含有する接着剤層を堆積させるためのターゲットは、好ましくは、80重量%から95重量%のケイ素および5重量%から20重量%のアルミニウムならびに製造に伴う混和物を含有する。ホウ素ドープ二酸化ケイ素を含有する接着剤層を堆積させるためのターゲットは、好ましくは、99.9990重量%から99.9999重量%のケイ素および0.0001重量%から0.001重量%のホウ素ならびに製造に伴う混和物を含有する。ジルコニウムドープ二酸化ケイ素を含有する接着剤層を堆積させるためのターゲットは、好ましくは、60重量%から90重量%のケイ素および10重量%から40重量%のジルコニウムならびに製造に伴う混和物を含有する。二酸化ケイ素の堆積は、好ましくは陰極スパッタリング中に酸素を反応ガスとして添加しながら行われる。
【0043】
接着剤層のドープにより、接着剤層の上に適用される層の平滑度も改善できる。自動車両部門で本発明による板ガラスを使用する事例では、層の平滑度が高いと、この手段により、板ガラスの表面が不快な粗い質感になることを避けられるので、特に有利である。本発明による板ガラスが側板ガラスである場合、シールリップに低摩擦で動作できる。
【0044】
しかし、別法として、接着剤層は、例えば酸化アルミニウム(Al)も含有できる。
【0045】
接着剤層は、好ましくは、10nmから150nm、特に好ましくは15nmから50nm、例えば、おおよそ30nmの厚さを有する。これは、本発明によるコーティングの接着および基材から機能層へのイオン拡散の防止に関して特に有利である。
【0046】
好ましくは厚さ5nmから40nmの追加の光学活性層は、接着剤層の下にも配置できる。例えば、接着剤層は、SiOを含有でき、追加の光学活性層は、少なくとも1種の酸化物、例えばTiO、Al、Ta、Y、ZnOおよび/もしくはZnSnOまたは1種の窒化物、例えばAlNもしくはSiを含有できる。光学活性層を用いて、本発明によるコーティングの反射を防止する性質は、有利なことにさらに改善された。その上、光学活性層により、透過または反射における明度の調整の改善が可能となる。
【0047】
光学的低屈折率層は、本発明によるコーティングの反射を防止する作用に重要である。その上、光学的低屈折率層を用いて、反射され、伝達される光の中間色の印象が得られ、機能層の耐腐食性が改善される。
【0048】
光学的低屈折率層は、例えば、少なくとも1種の酸化物および/または1種の窒化物を含有できる。光学的低屈折率層は、好ましくは、少なくとも1種の酸化物、特に好ましくは少なくとも酸化ケイ素(SiO)を含有できる。これは、板ガラスの光学的性質および機能層の耐腐食性に関して特に有利である。二酸化ケイ素はドーパント、例えば、フッ素、炭素、窒素、ホウ素、リン、および/またはアルミニウムを有することができる。酸化ケイ素は、特に最も好ましくはアルミニウムを用いてドープされる(SiO:Al)、ホウ素を用いてドープされる(SiO:B)またはジルコニウムを用いてドープされる(SiO:Zr)。したがって、特に良好な結果が得られる。
【0049】
しかし、別法として、光学的低屈折率層は、例えば、酸化アルミニウム(Al)を含有できる。
【0050】
光学的低屈折率層は、好ましくは、40nmから130nm、特に好ましくは50nmから120nm、特に最も好ましくは60nmから110nm、具体的には70nmから100nmの厚さを有する。これは、可視光の反射の少なさおよび透過率の高さ、ならびに選択される板ガラスの色の印象設定および機能層の耐腐食性に関して特に有利である。光学的低屈折率層の厚さに関しては、この範囲において、本発明によるコーティングの特に有利な反射を防止する性質が得られる。
【0051】
本発明の有利な実施形態において、カバー層は、光学的高屈折率層の上に配置されている。このカバー層は、損傷から、特にひっかきから本発明によるコーティングを保護する。カバー層は、好ましくは、少なくとも1種の酸化物、特に好ましくは少なくともTiO、ZrO、HfO、Nb、Ta、Cr、WOおよび/またはCeOを含有する。カバー層の厚さは、好ましくは2nmから50nm、特に好ましくは5nmから20nmである。したがって、耐ひっかき性に関して特に良好な結果が達成される。
【0052】
有利な実施形態において、屈折率が、接着剤層の屈折率より高い層は、接着剤層の下に配置されず、屈折率が、光学的低屈折率層の屈折率より高い層は、光学的低屈折率層の上に配置されない。これは、板ガラスの光学的性質および簡単な層構造に関して特に有利である。
【0053】
本発明による板ガラスは平坦であってもよく、または1つもしくは複数の空間方向にわずかにもしくは大幅に曲がっていてもよい。そのような曲がった板ガラスは、特に自動車両部門におけるガラスのために生じる。曲がった板ガラスの典型的な曲率半径は、おおよそ10cmからおおよそ40mの範囲である。本発明によるコーティングは、損傷、例えばひびが生じないベンディングプロセスに耐えることに特に適していることが実証された。
【0054】
本発明によるコーティングは、基材の表面に、その領域全体にわたって適用され得る。しかし、基材の表面は、コーティングがない領域を有することもできる。基材の表面は、例えば、周辺にコーティングがないエッジ領域および/またはデータ伝送窓もしくは通信窓としての機能を果たすコーティングがない領域を有することができる。コーティングがない領域では、板ガラスは、電磁、特に赤外線放射を透過する。
【0055】
本発明による板ガラスが複合板ガラスである場合、有利な実施形態において、太陽光保護コーティングが、カバー板ガラスに面した基材の表面に、基材に面したカバー板ガラスの表面にまたは熱可塑性中間層におけるキャリアフィルムに適用される。太陽光保護コーティングは、そこで腐食および機械的損傷から有利に保護する。太陽光保護コーティングは、好ましくは、5nmから25nmの厚さを有する、銀または銀を含有する合金をベースとした少なくとも1つの金属層を含む。10nmから100nmの厚さを有する誘電体層により、互いに隔離された2つまたは3つの機能層を用いて、特に良好な結果が得られる。太陽光保護コーティングは、可視スペクトル領域外、特に赤外スペクトル領域外である入射した日光の一部を反射する。太陽光保護コーティングを用いて、直射日光による内部の温度上昇が抑えられる。さらに、太陽光保護コーティングにより、太陽光保護コーティングの裏に配置されている複合板ガラスの部材の加熱、したがって、複合板ガラスにより放出される熱放射が抑えられる。太陽光保護コーティングと熱放射を反射するための本発明によるコーティングの組み合わせによって、内部の熱的快適性は、さらに有利に改善される。
【0056】
本発明は、熱放射反射コーティングを有する本発明による板ガラスを製造する方法をさらに含み、少なくとも、
(a)屈折率1.8未満の少なくとも1つの材料を含有する、1つの接着剤層(3)、
(b)少なくとも1種の透明導電性酸化物(TCO)を含有する、1つの機能層(4)、
(c)屈折率1.8以上の少なくとも1つの材料を含有する、1つの光学的高屈折率層(5)および
(d)屈折率1.8未満の少なくとも1つの材料を含有する、1つの光学的低屈折率層(6)
が基材の内側表面に連続して適用される。
【0057】
個々の層は、公知の方法それ自体、好ましくは、磁場印加型陰極スパッタリングにより堆積される。これは、簡単、素早い、経済的および均一な基材のコーティングに関して特に有利である。陰極スパッタリングは、保護ガス、例えばアルゴン雰囲気中で、または例えば、酸素もしくは窒素の添加による反応性ガス雰囲気中で行われる。
【0058】
しかし、個々の層は、当業者に公知の他の方法、例えば、蒸着または化学蒸着(CVD)、原子層堆積(ALD)、プラズマ促進化学蒸着(PECVD)または湿式化学方法によっても適用できる。
【0059】
好ましくは熱放射反射コーティングの適用後、板ガラスに温度処理を施す。本発明によるコーティングを有する基材を、少なくとも200℃、特に好ましくは少なくとも300℃の温度に加熱する。機能層の結晶化度は、特に、温度処理により改善される。特に、温度処理は、コーティングのシート耐性を低下させ、放射率を低下させ、熱放射を反射する性質を改善する。その上、板ガラスの光学的性質が著しく改善される。
【0060】
本発明による方法の有利な実施形態において、温度処理は、ベンディングプロセス内で行われる。本発明によるコーティングを有する基材は、加熱した状態で、1つまたは複数の空間方向に曲げられる。基材が加熱される温度は、好ましくは500℃から700℃である。本発明による熱放射を反射するためのコーティングの詳細な利点は、損傷を与えることなく、コーティングにそのようなベンディングプロセスを施せるということである。本発明による黒化層は、ベンディングプロセス中に例えばひび割れによって損傷を受けない。
【0061】
もちろん、ベンディングプロセスの前後で、他の温度処理のステップを行うこともある。温度処理は、別法として、レーザー照射を使用して行うこともできる。
【0062】
有利な実施形態において、温度処理後、場合によって、ベンディング後に、基材には、プレストレッシングまたは部分的なプレストレッシングを実施できる。このため、基材は、それ自体が公知の手段で適切に冷却される。プレストレッシングした基材は、典型的には、少なくとも69MPaの表面圧縮応力を有する。部分的にプレストレッシングした基材は、典型的には、24MPaから52MPaの表面圧縮応力を有する。プレストレッシングした基材は、例えば、自動車両の側窓または後部窓の単一板ガラスによる安全ガラスとして適切である。
【0063】
本発明の有利な実施形態において、コーティングの適用後に、基材は、少なくとも1つの熱可塑性中間層を介してカバー板ガラスに結合させて、複合板ガラスを形成する。原則的に、基材は、最初にカバー板ガラスに結合させて、次いでコーティングを備えることもできる。
【0064】
本発明は、熱放射反射コーティングを有する本発明による板ガラスの、建物における、家具および装置における組み込み部品として、または陸上、空中もしくは水上の輸送手段における、特に列車、船舶および自動車両における、例えば、後部窓、側窓、および/またはルーフパネルとしての使用をさらに含む。
【0065】
本発明は、図および例示的な実施形態を参照して、以下で詳細に説明される。図は、概略的な表現であり、縮尺通りではない。図は本発明を一切制約しない。
【図面の簡単な説明】
【0066】
これらは以下を図示する:
図1】熱放射反射コーティングを有する本発明による板ガラスの実施形態の断面を示す図である。
図2】熱放射反射コーティングを有する本発明による板ガラスの別の実施形態の断面を示す図である。
図3】熱放射反射コーティングを有する本発明による板ガラスの別の実施形態の断面を示す図である。
図4】接着剤層の厚さを関数とする、比T/Rの線図である。
図5】機能層の厚さを関数とする、比T/Rの線図である。
図6】光学的高屈折率層の厚さを関数とする、比T/Rの線図である。
図7】光学的低屈折率層の厚さを関数とする比T/Rの線図である。
図8】本発明による方法の実施形態の詳細なフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0067】
図1は、基材1および熱放射反射コーティング2を有する本発明による板ガラスの実施形態の断面を示する。基材1は、例えば、着色したソーダ石灰ガラスを含有し、6mmの厚さを有する。コーティング2は、接着剤層3、機能層4、光学的高屈折率層5および光学的低屈折率層6を含む。層は、示されている順で基材1から距離をおいて配置されている。
【0068】
接着剤層3は、例えば、アルミニウムドープ酸化ケイ素でできており、30nmの厚さを有する。機能層4は、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)でできており、130nmの厚さを有する。光学的高屈折率層5は、例えば、アルミニウムドープ窒化ケイ素でできており、5nmの厚さを有する。光学的低屈折率層6は、例えば、アルミニウムドープ酸化ケイ素でできており、70nmの厚さを有する。
【0069】
磁場印加型陰極スパッタリングを使用してコーティング2の個々の層を堆積させた。接着剤層3を堆積させるためのターゲットおよび光学的低屈折率層6は、92重量%のケイ素および8重量%のアルミニウムを含有していた。陰極スパッタリング中に酸素を反応ガスとして添加しながら堆積を行った。機能層4を堆積させるためのターゲットは、90重量%の酸化インジウムおよび10重量%の酸化スズを含有していた。1%未満の酸素分画を有するアルゴン保護ガス雰囲気下で堆積を行った。光学的高屈折率層5を堆積させるためのターゲットは、92重量%のケイ素および8重量%のアルミニウムを含有していた。陰極スパッタリング中に、窒素を反応ガスとして添加しながら堆積を行った。
【0070】
図2は、基材1および熱放射反射コーティング2を有する本発明による板ガラスの別の実施形態の断面を示す。コーティング2は、図1のように、接着剤層3、機能層4、光学的高屈折率層5および光学的低屈折率層6とともに構成される。カバー層7はコーティング2の上に配置されている。カバー層は、TiOを含有し、10nmの厚さを有する。カバー層を用いて、コーティング2が、機械的な損傷、特にひっかきから有利に保護される。
【0071】
図3は、熱放射反射コーティング2を有する本発明による板ガラスの断面を、複合板ガラスとして示す。基材1は、熱可塑性中間層9を介してカバー板ガラス8に結合している。複合板ガラスは、自動車両用のルーフパネルとして意図される。複合板ガラスは、自動車部門の板ガラスの慣例通りに曲げられる。複合板ガラスの設置された位置において、カバー板ガラス8は、外側環境に面し、基材1は車両内部に面する。カバー板ガラス8および熱可塑性中間層9から見て外側に面する基材1の内側表面は、本発明によるコーティング2を備える。基材1およびカバー板ガラス8は、ソーダ石灰ガラスでできており、各事例で2.1mmの厚さを有する。熱可塑性中間層9は、着色したポリビニルブチラール(PVB)を含有し、0.76mmの厚さを有する。
【0072】
基材1、カバー板ガラス8および熱可塑性中間層9は着色される。基材1およびカバー板ガラス9は、例えば、各事例において、27%の可視スペクトル領域の透過率を有する;熱可塑性中間層8は、例えば、23%の透過率を有する。複合板ガラスは、コーティング2なしで、2.3%の可視スペクトル領域の内側透過率Tおよび4.4%の内側反射率Rを有する。コーティング2なしで、比T/Rは0.5である。本発明による熱放射反射コーティング2は、驚くべきことに、自動車両内部の熱的快適性を改善するだけではなく、反射防止コーティングとして作用もする。内側反射Rは、コーティング2により2.0%に低下する。比T/Rは、コーティング2により1.1に上昇する。コーティング2により、自動車両内部の個人は、外部環境をより適切に認知でき、反射によりさほど煩わされない。
【0073】
図4図5図6および図7は、可視スペクトル領域の透過レベルT対可視スペクトル領域の反射レベルRに関する比T/Rのシミュレーションの結果を示す。比T/Rが大きいほど、内側反射の煩わしさはさほど顕著ではなくなり、板ガラスの視覚的印象はより快適になる。図4は、接着剤層3の厚さを関数とする比T/Rを提示する。図5は、機能層4の厚さを関数とする比T/Rを提示する。図6は、光学的高屈折率層5の厚さを関数とする比T/Rを提示する。図7は、光学的低屈折率層6の厚さを関数とする比T/Rを提示する。
【0074】
シミュレーションは、表1の材料および層の厚さで層配列が提示される基本的な層構造と仮定する。各事例では、層の厚さの1例は変動した;残りの層の厚さは、表1の値に一致する。基材1、熱可塑性中間層8およびカバーガラス9の集合体は、コーティング2なしで、おおよそ4.2%の透過率Tを有していた。
【0075】
比較の目的で、図はコーティング2なしの比T/Rを提示する。各事例で、2つの異なる観察角度αに対して値が示される。角度αは、観察方向(見る人と板ガラスとの間をつなぐ直線)と板ガラスの表面法線との間の角度である。
【0076】
【表1】
【0077】
比T/Rの絶対値は、板ガラスを通した透過率に左右される。反射が未変化のままで、透過率が低いと、比T/Rも低くなる。これは、透過率が低い板ガラスにおける同コーティング2によって、透過率がより高い板ガラスにおけるコーティングより低い比T/Rが得られることを意味する。しかし、比T/Rの質的依存は、板ガラスの透過率と無関係であり、これは、図に見出せる。
【0078】
図4から、比T/Rが接着剤層3の厚さに明確な依存がないことが認められる。したがって、接着剤層3の厚さは、コーティング2の反射を防止する性質にほとんど影響を与えない。接着剤層3の厚さは、結果として、接着を促進する性質および拡散するイオンに対するバリア作用に基づいて選択できる。特に良好な結果は、厚さ10nmから150nm、好ましくは15nmから50nmの接着剤層を用いて得られることが実証される。
【0079】
図5から、機能層4の厚さは、コーティング2の反射を防止する性質に明確に影響を与え、したがって、比T/Rにも明確に影響を与えることが認められる。比T/Rの最大値は、おおよそ100nmの厚さで得られる。しかし、熱放射を反射する作用を改善するために、より厚い機能層4が望ましいことがある。50nmから150nm、好ましくは60nmから140nm、特に好ましくは70nmから130nmの機能層4の厚さに対して、比T/Rと熱放射を反射する作用との間における適切な妥協が実現されることが実証されている。
【0080】
図6から、光学的高屈折率層5の厚さは、コーティング2の反射を防止する性質に明確に影響を与え、したがって、比T/Rに明確に影響を与えることが認められる。比T/Rが大きくなるにつれて、光学的高屈折率層5は薄くなる。厚さが20nm未満の場合、比T/Rは、コーティング2なしの板ガラスより大きい。12nm未満、好ましくは10nm未満、特に好ましくは8nm未満の光学的高屈折率層5の厚さに対して、特に良好な結果が得られる。しかし、腐食および酸化から機能層4を効率的に保護できる光学的高屈折率層5に関しては、少なくとも1nm、好ましくは少なくとも2nmの厚さを有するべきである。
【0081】
図7から、光学的低屈折率層6の厚さは、コーティング2の反射を防止する性質に明確に影響を与え、したがって、比T/Rに明確に影響を与えることが認められる。厚さがおおよそ40nmから130nmの場合、比T/Rはコーティング2のない板ガラスより大きくなる。50nmから120nm、好ましくは60nmから110nm、特に好ましくは70nmから100nmの光学的低屈折率層6の厚さに関して、特に良好な結果が得られる。
【0082】
本発明によるコーティング2を用いて、熱放射を反射する作用が得られるだけではなく、反射を防止する作用も得られる。光線透過率が低い板ガラスにコーティング2が適用される場合、煩わしく、刺激となる内側反射が抑えられる。反射を防止する作用は、斜光入射に対して一層顕著である。これらの結果は当業者には想定外であり、驚くべきものであった。
【0083】
図8は、熱放射反射コーティング2を有する板ガラスを製造するための、本発明による方法の例示的な実施形態のフローチャートを示す。
【符号の説明】
【0084】
(1)基材
(2)熱放射反射コーティング
(3)接着剤層
(4)機能層
(5)光学的高屈折率層
(6)光学的低屈折率層
(7)カバー層
(8)カバー板ガラス
(9)熱可塑性中間層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8