【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、請求項1に記載の熱放射反射コーティングを有する板ガラスにより、本発明に従って達成される。好ましい実施形態は、従属クレームに表わされる。
【0009】
熱放射反射コーティングを有する本発明による板ガラスは、少なくとも1つの基材および基材の少なくとも内側表面上の少なくとも1つの熱放射反射コーティングを含み、板ガラスは、5%未満の可視スペクトル領域の透過率を有し、コーティングは、基材の側から、少なくとも
・屈折率1.8未満の少なくとも1つの材料を含有する、接着剤層、
・少なくとも1種の透明導電性酸化物(TCO)を含有する、機能層、
・屈折率1.8以上の少なくとも1つの材料を含有する、光学的高屈折率層および
・屈折率1.8未満の少なくとも1つの材料を含有する、光学的低屈折率層
を含む。
【0010】
本発明による板ガラスは、例えば、自動車両または建物の入口に供給され、外部環境から内部を隔離する。板ガラスが設置された位置において、内部を向くように意図された表面は、本発明の文脈において、内側表面と呼ばれる。本発明によるコーティングは、本発明に従って、基材の内側表面に配置されている。これは、内部の熱的快適性に関して特に有利である。本発明によるコーティングは、外部温度が高く日光が強い事例では、板ガラス全体により内部方向に放射される熱放射を、特に効率的に、少なくとも部分的に反射することができる。外側の温度が低い事例では、本発明によるコーティングは、内部から放射される熱放射を効率的に反射するので、冷たい板ガラスの放熱板としての作用を抑えることができる。
【0011】
本発明の主要な利点は、光線透過率がきわめて低い板ガラスおよび本発明による熱放射反射コーティングの組み合わせにある。板ガラスの低い光線透過率は、典型的には、着色基材および/または着色層を結合させた基材(例えば、別の板ガラスおよび複合ガラスのポリマーフィルム)を用いて得られる。そのような板ガラスは、それ自体が高い内側反射レベルを有する。顕著な反射は、板ガラスにより区切られた内部にいる個人により、煩わしい、または刺激とさえ受け取られることが多い。これは、内側反射レベルが透過レベルを超える場合に、特に当てはまり、外部環境の認知が妨害される、または阻害されることを意味する。驚くべきことに、本発明によるコーティングは、熱放射を反射する作用に加えて、反射を抑える作用も有することが示された。本発明によるコーティングを用いて、内側反射レベルは有利に抑えられ、透過レベル対内側反射レベルの比は、有利に上昇する。
【0012】
本発明による熱放射反射コーティングは、少なくとも以下の層:
・本発明による接着剤層、
・接着剤層の上に、本発明による機能層、
・機能層の上に、本発明による光学的高屈折率層および
・光学的高屈折率層の上に、本発明による光学的低屈折率層
を含む層構造である。
【0013】
第1の層が第2の層の上に配置されている場合、これは、本発明の文脈において、第1の層が第2の層よりも基材から離れて配置されていることを意味する。第1の層が第2の層の下に配置されている場合、これは、本発明の文脈において、第2の層が第1の層よりも基材から離れて配置されていることを意味する。
【0014】
第1の層が第2の層の上または下に配置されている場合、これは、本発明の文脈において、第1および第2の層が、互いに直接接触する状態にあることを必ずしも意味しない。明白に除外されない限り、第1と第2の層との間に、1つまたは複数の追加層を配置することができる。
【0015】
コーティングの最上層は、本発明の文脈において、基材から最も距離が離れた層である。コーティングの最下層は、本発明の文脈において、基材から最も距離が短い層である。
【0016】
層または別の部材が少なくとも1つの材料を含有する場合、これは、本発明の文脈において、層がその材料でできている事例を含む。
【0017】
酸化物および窒化物は、原則的に、酸素含有量または窒素含有量に対して化学量論的、準化学量論的または超準化学量論的であってよい。
【0018】
屈折率に対して示される値は、波長550nmで測定される。
【0019】
本発明による板ガラスの内側放射率は、好ましくは、35%以下、特に好ましくは25%以下、特に最も好ましくは20%以下である。ここでは、「内側放射率」という用語は、板ガラスが、設置された位置において例えば、建物または自動車両の内部空間へと発する熱放射の量を、理想的な熱放射体(黒体)と比較して示す測定を指す。本発明の文脈において、「放射率」は、標準規格EN12898による283Kにおける通常の放出レベルを意味する。
【0020】
本発明による板ガラスは、好ましくは、4%未満、特に好ましくは3%未満の可視スペクトル領域の透過率を有する。そのような透過率が低い板ガラスで、内側反射レベルは特に有利に低下する。
【0021】
可視スペクトル領域の内側透過レベルT
L対可視スペクトル領域の内側反射レベルR
Lの比であるT
L/R
Lは、好ましくは0.6以上、特に好ましくは0.8以上、特に最も好ましくは1以上、具体的には1.5以上である。これは、内部から見る人が外部環境を快適に認知することに関して特に有利である。
【0022】
内側透過レベルは、この事例では、板ガラスに作用する可視スペクトル領域の放射線の、板ガラスを通って外側から内部へと貫通する放射線の割合について記載する。放射線の内側反射レベルの割合は、内部から板ガラスに作用する可視スペクトル領域の放射線の、内部へと反射される放射線の割合について記載する。
【0023】
日光からの全エネルギー入力に関する、本発明による板ガラスの透過率の値は、好ましくは50%未満、特に好ましくは40%未満、特に最も好ましくは30%未満、具体的には20%未満である。この値もTTS値(「全透過日光」)として当業者に公知である。
【0024】
本発明によるコーティングのシート抵抗は、好ましくは10オーム/スクエアから50オーム/スクエア、特に好ましくは15オーム/スクエアから30オーム/スクエアである。
【0025】
本発明の有利な実施形態において、本発明による板ガラスは複合板ガラスである。基材は、少なくとも1つの熱可塑性中間層を介してカバー板ガラスに結合している。カバー板ガラスは、複合板ガラスが設置された位置で外側環境に面し、一方、基材は、内部に面するように意図される。本発明によるコーティングは、カバー板ガラスから見て外側に面する、複合板ガラスの内側表面である基材の表面に配置されている。
【0026】
基材および場合によってカバー板ガラスは、好ましくは、ガラス、特に好ましくは平板ガラス、フロートガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラスを含有し、またはプラスチック、好ましくは硬質プラスチック、特にポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニルおよび/またはそれらの混合物を含有する。基材および場合によってカバー板ガラスは、好ましくは1.0mmから25mm、特に好ましくは1.4mmから4.9mmの厚さを有する。
【0027】
本発明による板ガラスが複合板ガラスである場合、熱可塑性中間層は、好ましくは、熱可塑性プラスチック、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、ポリウレタン(PU)、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはそれらの複数の層を含有し、好ましくは、厚さは0.3mmから0.9mmである。
【0028】
板ガラスは、本発明に従って、5%以下の可視スペクトル領域の透過率を有する。このため、基材は、好ましくは適切に染色および/または色付けされる。板ガラスが複合板ガラスである場合、カバー板ガラスおよび/または熱可塑性中間層は、別法として、またはさらに色付けおよび/または着色できる。複合板ガラスの事例では、基材およびカバー板ガラスは、好ましくは、各事例において、35%未満、特に好ましくは30%未満の可視スペクトル領域の透過率を有する。熱可塑性中間層は、好ましくは、20%から80%、特に好ましくは20%から70%、特に最も好ましくは20%から50%の透過率を有する。
【0029】
機能層は、熱放射、特に赤外線放射を反射する性質を有するが、可視スペクトル領域の大部分が透過する。本発明によれば、機能層は、少なくとも1種の透明導電性酸化物(TCO)を含有する。透明導電性酸化物の屈折率は、好ましくは1.7から2.3である。機能層は、好ましくは、少なくともフッ素ドープ酸化スズ(SnO
2:F)、アンチモンドープ酸化スズ(SnO
2:Sb)および/または酸化インジウムスズ(ITO)、特に好ましくは酸化インジウムスズ(ITO)を含有する。したがって、本発明によるコーティングの放射率および曲げ性に関して特に良好な結果が得られる。
【0030】
酸化インジウムスズは、好ましくは、酸化インジウムスズでできたターゲットを用いて、磁場印加型陰極スパッタリングを使用して堆積される。ターゲットは、好ましくは、75重量%から95重量%の酸化インジウムおよび5重量%から25重量%の酸化スズならびに製造に伴う混和物を含有する。酸化インジウムスズの堆積は、好ましくは、保護ガス、例えばアルゴン雰囲気下で行われる。保護ガスに少量の酸素を加えて、例えば、機能層の均一性も改善できる。
【0031】
別法として、ターゲットは、好ましくは、少なくとも75重量%から95重量%のインジウムおよび5重量%から25重量%のスズを含有することもできる。次いで、酸化インジウムスズの堆積は、好ましくは、陰極スパッタリング中に酸素を反応ガスとして添加しながら行われる。
【0032】
しかし、機能層は、他の透明導電性酸化物、例えば、インジウム/亜鉛混合酸化物(IZO)、ガリウムドープもしくはアルミニウムドープ酸化亜鉛、ニオブドープ酸化チタン、スズ酸カドミウム、および/またはスズ酸亜鉛も含むことができる。
【0033】
機能層の厚さは、好ましくは、50nmから150nm、特に好ましくは60nmから140nm、特に最も好ましくは70nmから130nmである。一方では、機能層の厚さに関しては、この範囲において有利な反射を防止する作用が得られ、他方では、低い放射率が得られる。
【0034】
光学的高屈折率層の効果は、特に、本発明による板ガラスの反射色の調整である。その上、光学的高屈折率層を用いて、機能層の安定性ならびに耐腐食性および耐酸化性は改善できる。これは、コーティングを備えた板ガラスに、温度処理、ベンディングプロセス、および/またはプレストレッシングプロセスが施されることになる場合、特に有利である。
【0035】
光学的高屈折率層の材料の屈折率は、好ましくは1.7から2.3であり、特に好ましくは、機能層の材料の屈折率以上である。したがって、コーティングの有利な光学的性質は、特に審美的な色の印象で達成される。
【0036】
光学的高屈折率層は、好ましくは、少なくとも1種の酸化物または窒化物、特に好ましくは酸化タングステン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ビスマス、酸化チタン、窒化ケイ素、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、および/または窒化アルミニウムを含有する。光学的高屈折率層は、特に好ましくは、窒化ケイ素(Si
3N
4)を含有する。したがって、コーティングの安定性および光学的性質に関して、特に良好な結果が得られる。窒化ケイ素は、ドーパント、例えばチタン、ジルコニウム、ホウ素、ハフニウムおよび/またはアルミニウムを有することができる。窒化ケイ素は、特に最も好ましくは、アルミニウムを用いてドープされる(Si
3N
4:Al)またはジルコニウムを用いてドープされる(Si
3N
4:Zr)またはホウ素を用いてドープされる(Si
3N
4:B)。これは、コーティングの光学的性質および放射率、ならびに例えば、陰極スパッタリングによる光学的高屈折率層の適用速度に関して特に有利である。
【0037】
窒化ケイ素は、好ましくは、少なくともケイ素を含有するターゲットを用いて、磁場印加型陰極スパッタリングを使用して堆積される。アルミニウムドープ窒化ケイ素を含有する層を堆積させるためのターゲットは、好ましくは、80重量%から95重量%のケイ素および5重量%から20重量%のアルミニウムならびに製造に伴う混和物を含有する。ホウ素ドープ窒化ケイ素を含有する層を堆積させるためのターゲットは、好ましくは、99.9990重量%から99.9999重量%のケイ素および0.0001重量%から0.001重量%のホウ素ならびに製造に伴う混和物を含有する。ジルコニウムドープ窒化ケイ素を含有する層を堆積させるためのターゲットは、好ましくは、60重量%から90重量%のケイ素および10重量%から40重量%のジルコニウムならびに製造に伴う混和物を含有する。窒化ケイ素の堆積は、好ましくは陰極スパッタリング中に窒素を反応ガスとして添加しながら行われる。
【0038】
光学的高屈折率層の厚さは、好ましくは20nm未満、特に好ましくは12nm未満、特に最も好ましくは10nm未満、具体的には8nm未満である。光学的高屈折率層の厚さは、少なくとも1nm、好ましくは少なくとも2nmとすべきである。光学的高屈折率層の厚さに関しては、この範囲において、本発明によるコーティングの特に有利な反射を防止する性質が得られる。厚さは、好ましくは1nmから20nm、特に好ましくは2nmから12nm、特に最も好ましくは2nmから10nm、特に2nmから8nmである。
【0039】
本発明によるコーティングを適用した後での温度処理中に、窒化ケイ素は、部分的に酸化され得る。次いで、Si
3N
4として堆積される層は、温度処理後に、酸素含有量が典型的には0原子%から35原子%のSi
xN
yO
zを含有する。
【0040】
接着剤層は、基材における接着剤層の上に堆積させた層を耐久的に安定して接着させる。接着剤層は、基材がガラスでできている場合、機能層との境界領域において基材から拡散するイオン、特にナトリウムイオンの蓄積をさらに防止する。そのようなイオンは、腐食および機能層の接着の低下を引き起こし得る。接着剤層は、結果として、機能層の安定性に関して特に有利である。
【0041】
接着剤層は、好ましくは、屈折率が1.5から1.8の間である少なくとも1つの材料を含有する。接着剤層の材料は、好ましくは、基材の屈折率の範囲である屈折率を有する。接着剤層は、例えば、少なくとも1種の酸化物および/または1種の窒化物、好ましくは少なくとも1種の酸化物を含有できる。接着剤層は、特に好ましくは、二酸化ケイ素(SiO
2)を含有する。これは、基材において、接着剤層の上に堆積させる層の接着に関して特に有利である。二酸化ケイ素は、ドーパント、例えば、フッ素、炭素、窒素、ホウ素、リンおよび/またはアルミニウムを有することができる。二酸化ケイ素は特に最も好ましくはアルミニウムを用いてドープされる(SiO
2:Al)、ホウ素を用いてドープされる(SiO
2:B)またはジルコニウムを用いてドープされる(SiO
2:Zr)。これは、コーティングの光学的性質ならびに例えば、陰極スパッタリングによる接着剤層の適用速度に関して特に有利である。
【0042】
二酸化ケイ素は、好ましくは、少なくともケイ素を含有するターゲットを用いて、磁場印加型陰極スパッタリングを使用して堆積される。アルミニウムドープ二酸化ケイ素を含有する接着剤層を堆積させるためのターゲットは、好ましくは、80重量%から95重量%のケイ素および5重量%から20重量%のアルミニウムならびに製造に伴う混和物を含有する。ホウ素ドープ二酸化ケイ素を含有する接着剤層を堆積させるためのターゲットは、好ましくは、99.9990重量%から99.9999重量%のケイ素および0.0001重量%から0.001重量%のホウ素ならびに製造に伴う混和物を含有する。ジルコニウムドープ二酸化ケイ素を含有する接着剤層を堆積させるためのターゲットは、好ましくは、60重量%から90重量%のケイ素および10重量%から40重量%のジルコニウムならびに製造に伴う混和物を含有する。二酸化ケイ素の堆積は、好ましくは陰極スパッタリング中に酸素を反応ガスとして添加しながら行われる。
【0043】
接着剤層のドープにより、接着剤層の上に適用される層の平滑度も改善できる。自動車両部門で本発明による板ガラスを使用する事例では、層の平滑度が高いと、この手段により、板ガラスの表面が不快な粗い質感になることを避けられるので、特に有利である。本発明による板ガラスが側板ガラスである場合、シールリップに低摩擦で動作できる。
【0044】
しかし、別法として、接着剤層は、例えば酸化アルミニウム(Al
2O
3)も含有できる。
【0045】
接着剤層は、好ましくは、10nmから150nm、特に好ましくは15nmから50nm、例えば、おおよそ30nmの厚さを有する。これは、本発明によるコーティングの接着および基材から機能層へのイオン拡散の防止に関して特に有利である。
【0046】
好ましくは厚さ5nmから40nmの追加の光学活性層は、接着剤層の下にも配置できる。例えば、接着剤層は、SiO
2を含有でき、追加の光学活性層は、少なくとも1種の酸化物、例えばTiO
2、Al
2O
3、Ta
2O
5、Y
2O
3、ZnOおよび/もしくはZnSnO
xまたは1種の窒化物、例えばAlNもしくはSi
3N
4を含有できる。光学活性層を用いて、本発明によるコーティングの反射を防止する性質は、有利なことにさらに改善された。その上、光学活性層により、透過または反射における明度の調整の改善が可能となる。
【0047】
光学的低屈折率層は、本発明によるコーティングの反射を防止する作用に重要である。その上、光学的低屈折率層を用いて、反射され、伝達される光の中間色の印象が得られ、機能層の耐腐食性が改善される。
【0048】
光学的低屈折率層は、例えば、少なくとも1種の酸化物および/または1種の窒化物を含有できる。光学的低屈折率層は、好ましくは、少なくとも1種の酸化物、特に好ましくは少なくとも酸化ケイ素(SiO
2)を含有できる。これは、板ガラスの光学的性質および機能層の耐腐食性に関して特に有利である。二酸化ケイ素はドーパント、例えば、フッ素、炭素、窒素、ホウ素、リン、および/またはアルミニウムを有することができる。酸化ケイ素は、特に最も好ましくはアルミニウムを用いてドープされる(SiO
2:Al)、ホウ素を用いてドープされる(SiO
2:B)またはジルコニウムを用いてドープされる(SiO
2:Zr)。したがって、特に良好な結果が得られる。
【0049】
しかし、別法として、光学的低屈折率層は、例えば、酸化アルミニウム(Al
2O
3)を含有できる。
【0050】
光学的低屈折率層は、好ましくは、40nmから130nm、特に好ましくは50nmから120nm、特に最も好ましくは60nmから110nm、具体的には70nmから100nmの厚さを有する。これは、可視光の反射の少なさおよび透過率の高さ、ならびに選択される板ガラスの色の印象設定および機能層の耐腐食性に関して特に有利である。光学的低屈折率層の厚さに関しては、この範囲において、本発明によるコーティングの特に有利な反射を防止する性質が得られる。
【0051】
本発明の有利な実施形態において、カバー層は、光学的高屈折率層の上に配置されている。このカバー層は、損傷から、特にひっかきから本発明によるコーティングを保護する。カバー層は、好ましくは、少なくとも1種の酸化物、特に好ましくは少なくともTiO
2、ZrO
2、HfO
2、Nb
2O
5、Ta
2O
5、Cr
2O
3、WO
3および/またはCeO
2を含有する。カバー層の厚さは、好ましくは2nmから50nm、特に好ましくは5nmから20nmである。したがって、耐ひっかき性に関して特に良好な結果が達成される。
【0052】
有利な実施形態において、屈折率が、接着剤層の屈折率より高い層は、接着剤層の下に配置されず、屈折率が、光学的低屈折率層の屈折率より高い層は、光学的低屈折率層の上に配置されない。これは、板ガラスの光学的性質および簡単な層構造に関して特に有利である。
【0053】
本発明による板ガラスは平坦であってもよく、または1つもしくは複数の空間方向にわずかにもしくは大幅に曲がっていてもよい。そのような曲がった板ガラスは、特に自動車両部門におけるガラスのために生じる。曲がった板ガラスの典型的な曲率半径は、おおよそ10cmからおおよそ40mの範囲である。本発明によるコーティングは、損傷、例えばひびが生じないベンディングプロセスに耐えることに特に適していることが実証された。
【0054】
本発明によるコーティングは、基材の表面に、その領域全体にわたって適用され得る。しかし、基材の表面は、コーティングがない領域を有することもできる。基材の表面は、例えば、周辺にコーティングがないエッジ領域および/またはデータ伝送窓もしくは通信窓としての機能を果たすコーティングがない領域を有することができる。コーティングがない領域では、板ガラスは、電磁、特に赤外線放射を透過する。
【0055】
本発明による板ガラスが複合板ガラスである場合、有利な実施形態において、太陽光保護コーティングが、カバー板ガラスに面した基材の表面に、基材に面したカバー板ガラスの表面にまたは熱可塑性中間層におけるキャリアフィルムに適用される。太陽光保護コーティングは、そこで腐食および機械的損傷から有利に保護する。太陽光保護コーティングは、好ましくは、5nmから25nmの厚さを有する、銀または銀を含有する合金をベースとした少なくとも1つの金属層を含む。10nmから100nmの厚さを有する誘電体層により、互いに隔離された2つまたは3つの機能層を用いて、特に良好な結果が得られる。太陽光保護コーティングは、可視スペクトル領域外、特に赤外スペクトル領域外である入射した日光の一部を反射する。太陽光保護コーティングを用いて、直射日光による内部の温度上昇が抑えられる。さらに、太陽光保護コーティングにより、太陽光保護コーティングの裏に配置されている複合板ガラスの部材の加熱、したがって、複合板ガラスにより放出される熱放射が抑えられる。太陽光保護コーティングと熱放射を反射するための本発明によるコーティングの組み合わせによって、内部の熱的快適性は、さらに有利に改善される。
【0056】
本発明は、熱放射反射コーティングを有する本発明による板ガラスを製造する方法をさらに含み、少なくとも、
(a)屈折率1.8未満の少なくとも1つの材料を含有する、1つの接着剤層(3)、
(b)少なくとも1種の透明導電性酸化物(TCO)を含有する、1つの機能層(4)、
(c)屈折率1.8以上の少なくとも1つの材料を含有する、1つの光学的高屈折率層(5)および
(d)屈折率1.8未満の少なくとも1つの材料を含有する、1つの光学的低屈折率層(6)
が基材の内側表面に連続して適用される。
【0057】
個々の層は、公知の方法それ自体、好ましくは、磁場印加型陰極スパッタリングにより堆積される。これは、簡単、素早い、経済的および均一な基材のコーティングに関して特に有利である。陰極スパッタリングは、保護ガス、例えばアルゴン雰囲気中で、または例えば、酸素もしくは窒素の添加による反応性ガス雰囲気中で行われる。
【0058】
しかし、個々の層は、当業者に公知の他の方法、例えば、蒸着または化学蒸着(CVD)、原子層堆積(ALD)、プラズマ促進化学蒸着(PECVD)または湿式化学方法によっても適用できる。
【0059】
好ましくは熱放射反射コーティングの適用後、板ガラスに温度処理を施す。本発明によるコーティングを有する基材を、少なくとも200℃、特に好ましくは少なくとも300℃の温度に加熱する。機能層の結晶化度は、特に、温度処理により改善される。特に、温度処理は、コーティングのシート耐性を低下させ、放射率を低下させ、熱放射を反射する性質を改善する。その上、板ガラスの光学的性質が著しく改善される。
【0060】
本発明による方法の有利な実施形態において、温度処理は、ベンディングプロセス内で行われる。本発明によるコーティングを有する基材は、加熱した状態で、1つまたは複数の空間方向に曲げられる。基材が加熱される温度は、好ましくは500℃から700℃である。本発明による熱放射を反射するためのコーティングの詳細な利点は、損傷を与えることなく、コーティングにそのようなベンディングプロセスを施せるということである。本発明による黒化層は、ベンディングプロセス中に例えばひび割れによって損傷を受けない。
【0061】
もちろん、ベンディングプロセスの前後で、他の温度処理のステップを行うこともある。温度処理は、別法として、レーザー照射を使用して行うこともできる。
【0062】
有利な実施形態において、温度処理後、場合によって、ベンディング後に、基材には、プレストレッシングまたは部分的なプレストレッシングを実施できる。このため、基材は、それ自体が公知の手段で適切に冷却される。プレストレッシングした基材は、典型的には、少なくとも69MPaの表面圧縮応力を有する。部分的にプレストレッシングした基材は、典型的には、24MPaから52MPaの表面圧縮応力を有する。プレストレッシングした基材は、例えば、自動車両の側窓または後部窓の単一板ガラスによる安全ガラスとして適切である。
【0063】
本発明の有利な実施形態において、コーティングの適用後に、基材は、少なくとも1つの熱可塑性中間層を介してカバー板ガラスに結合させて、複合板ガラスを形成する。原則的に、基材は、最初にカバー板ガラスに結合させて、次いでコーティングを備えることもできる。
【0064】
本発明は、熱放射反射コーティングを有する本発明による板ガラスの、建物における、家具および装置における組み込み部品として、または陸上、空中もしくは水上の輸送手段における、特に列車、船舶および自動車両における、例えば、後部窓、側窓、および/またはルーフパネルとしての使用をさらに含む。
【0065】
本発明は、図および例示的な実施形態を参照して、以下で詳細に説明される。図は、概略的な表現であり、縮尺通りではない。図は本発明を一切制約しない。