(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
原油価格の高騰やCO2削減に対する意識の高まりにより、ランニングコストが安くクリーンエネルギーである地中熱を利用したヒートポンプ(以下、地中熱ヒートポンプという。)が開発され、市場に導入されつつある。しかし、地中熱ヒートポンプは、導入に際して100m規模のボーリングが必要となるため、まとまったイニシャルコストが必要になる等の問題があって、普及が進まない状況である(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
従来、施設園芸の現場では、上質な水による灌水を行うことで生産物の品質に良い影響を与えている。このため、古くから、施設園芸を営む各農家は、井戸施設を保有して、地下水による灌水を行っている。なかには、ボーリングマシンによって掘削された数十mから100m程度の深井戸を利用することもある。
【0004】
このような深井戸は、経年劣化により揚水量の減少や水質の悪化等の問題が生じ、大掛かりな修繕が必要となる。しかしながら、修繕に掛かる労力を嫌い、新たな井戸を掘り直すことがある。結果、経年劣化した深井戸は次第に使用されなくなり、その多くが古井戸として放置されている。
【0005】
こうした古井戸であっても、揚水の機能は確保されており、適切な浄化処理をする等して何らかの用途に活用することが可能である。そこで、本発明者等によって、古井戸を上述の地中熱ヒートポンプに転用することが研究されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る熱交換システムについて詳細に説明する。
【0017】
まず、
図1及び
図2を用いて、熱交換システム1の構成について説明する。
図1は、熱交換システム1の概略図である。
図2は、制御盤21の構成を示すブロック図である。なお、各図において、一部の構成を適宜省略して、図面を簡略化する。
【0018】
図1に示す熱交換システム1は、地中熱を利用したヒートポンプシステムであり、いちごを栽培するビニルハウス等の施設PGH内の冷暖房を行う。この熱交換システム1は、制御盤21によって統括的に制御される。すなわち、熱交換システム1は、制御盤21の制御下において動作して、その動作状況が制御盤21によって管理される。具体的に、熱交換システム1は、各所に配置された温度計や流量計の計測結果などに基づいて、各部の動作が所望する状況となるようにフィードバック制御される。
【0019】
このような熱交換システム1は、井戸2と、揚水管3と、揚水ポンプ4と、揚水流量計5と、第1揚水温度計6と、揚水熱交換器7と、第2揚水温度計8と、バッファタンク9と、還元管10と、還元井11と、貯留水循環管12と、循環ポンプ(ポンプ)13と、貯留水温度計14と、施設内温度計15と、貯留水熱交換器(熱交換器)16と、第1循環管17と、ヒートポンプ18と、第2循環管19と、エアハンドリングユニット20と、制御盤21等を備えている。
【0020】
井戸2は、地中GRDの帯水層WBLに達する穴であり、例えば、当該穴に筒体(図示省略)が埋設されている。帯水層WBLは、地下水を含む地層である。帯水層WBLの上面は、一般的に、地上から50m以上100m以下程度の深さDに位置する。このため、筒体が埋設されている場合、当該筒体の長さは、帯水層WBLに達するように50m以上100m以下程度の範囲で適宜設定されている。
【0021】
井戸2の内部は、帯水層WBLから浸入した地下水で満たされている。井戸2の内部に満たされている地下水の自然水位hは、一般的に、地表面から10m以内の深さとなる。このような井戸2には、揚水管3と揚水ポンプ4等が挿入されている。
【0022】
揚水管3は、その一端が井戸2の内部に引き込まれており、揚水熱交換器7を経由してから、その他端がバッファタンク9に接続されている。この揚水管3は、揚水ポンプ4の動力によって井戸2から取り込まれた地下水を、バッファタンク9まで流す。
【0023】
揚水ポンプ4は、井戸2の内部において、揚水管3の一端に取り付けられている。この揚水ポンプ4は、揚水流量計5、第1揚水温度計6及び第2揚水温度計8の計測結果などに基づいて動作する。これにより、揚水ポンプ4は、井戸2から揚水管3に地下水を取り込んで、揚水管3内の地下水に動力を付与する。
【0024】
揚水流量計5は、揚水管3の途中に設けられ、井戸2と第1揚水温度計6との間に位置している。この揚水流量計5は、揚水管3内の地下水の流量を計測し、その計測結果を信号にして出力し、その信号を制御盤21に入力する。
【0025】
第1揚水温度計6は、揚水管3の途中に設けられ、揚水流量計5と揚水熱交換器7との間に位置している。この第1揚水温度計6は、揚水熱交換器7で熱交換する前の揚水管3内の地下水の温度を計測し、その計測結果を信号にして出力し、その信号を制御盤21に入力する。
【0026】
揚水熱交換器7は、揚水管3の途中に設けられ、第1揚水温度計6と第2揚水温度計8との間に位置していると共に、環状の第1循環管17の途中に設けられている。この揚水熱交換器7は、揚水管3内を流れている地下水と、第1循環管17内を流れている水などの液体との間で熱移動を行う。すなわち、揚水熱交換器7は、揚水管3内の地下水の冷熱又は温熱を、第1循環管17内の液体に移動させる。
【0027】
第2揚水温度計8は、揚水管3の途中に設けられ、揚水熱交換器7とバッファタンク9との間に位置している。この第2揚水温度計8は、揚水熱交換器7で熱交換した後の揚水管3内の地下水の温度を計測し、その計測結果を信号にして出力し、その信号を制御盤21に入力する。
【0028】
バッファタンク9は、揚水管3の他端に接続されていると共に、還元管10の一端に接続されている。これにより、バッファタンク9は、井戸2と還元井11との間に位置している。このバッファタンク9は、ヒートポンプ18の前段となる揚水熱交換器7において熱交換が行われた後の地下水を一時的に貯留する。すなわち、バッファタンク9は、揚水熱交換器7を介してヒートポンプ18に熱を取り出された後の地下水を貯留する。また、バッファタンク9は、貯留水循環管12の両端が接続されている。
【0029】
還元管10は、その一端がバッファタンク9に接続されていると共に、その他端が還元井11の内部に引き込まれている。この還元管10は、バッファタンク9内で所定の水位を超えてオーバーフローした井戸水を、還元井11まで流す。
【0030】
還元井11は、地中GRDの穴である。この還元井11には、揚水熱交換器7で熱移動が行われた後の地下水が、還元管10等を介して戻される。
【0031】
貯留水循環管12は、その一端がバッファタンク9に接続されており、貯留水熱交換器16を経由してから、その他端が再びバッファタンク9に接続されている。この貯留水循環管12は、循環ポンプ13の動力によって、バッファタンク9に貯留されている地下水を貯留水熱交換器16との間で循環させる。
【0032】
循環ポンプ13は、貯留水循環管12の途中に設けられ、バッファタンク9と貯留水熱交換器16との間に位置している。この循環ポンプ13は、貯留水温度計14及び施設内温度計15の計測結果などに基づいて動作する。これにより、循環ポンプ13は、バッファタンク9に貯留されている地下水を貯留水循環管12に取り込んで、貯留水循環管12内の地下水に動力を付与することで、バッファタンク9内の地下水を貯留水熱交換器16との間で循環させる。
【0033】
貯留水温度計14は、バッファタンク9内に設けられている。この貯留水温度計14は、バッファタンク9に貯留されている地下水の温度を計測し、その計測結果を信号にして出力し、その信号を制御盤21に入力する。
【0034】
施設内温度計15は、施設PGH内に設けられている。この施設内温度計15は、施設PGH内の空気の温度を計測し、その計測結果を信号にして出力し、その信号を制御盤21に入力する。
【0035】
貯留水熱交換器16は、貯留水循環管12の途中に接続されていると共に、エアハンドリングユニット20と一緒に施設PGH内に設けられている。この貯留水熱交換器16は、バッファタンク9との間で地下水が循環することで、エアハンドリングユニット20で調温される前の施設PGH内の空気と地下水との間で熱交換を行う。
【0036】
第1循環管17は、揚水熱交換器7とヒートポンプ18との間を往復するように環状に配置されている。この第1循環管17は、冷媒または熱媒体となる水などの液体を、揚水熱交換器7とヒートポンプ18との間で循環させる。
【0037】
ヒートポンプ18は、揚水熱交換器7との間で液体を循環させる第1循環管17と、エアハンドリングユニット20との間で液体を循環させる第2循環管19とが接続されている。このヒートポンプ18は、第1循環管17を流れる液体の冷熱又は温熱をかき集め、第2循環管19を流れる液体に移動させる。すなわち、ヒートポンプ18は、揚水熱交換器7で第1循環管17内の液体に移動していた地下水の冷熱又は温熱を取り出して、第2循環管19内の液体に移動させる。
【0038】
第2循環管19は、ヒートポンプ18とエアハンドリングユニット20との間を往復するように環状に配置されている。この第2循環管19は、冷媒または熱媒体となる水などの液体を、ヒートポンプ18とエアハンドリングユニット20との間で循環させる。
【0039】
エアハンドリングユニット20は、環状の第2循環管19の途中に接続されていると共に、貯留水熱交換器16と一緒に施設PGH内に設けられている。このエアハンドリングユニット20は、ヒートポンプ18との間で液体が循環することで、直前に貯留水熱交換器16で調温された後の施設PGH内の空気と第2循環管19内の液体との間で熱交換を行う。
【0040】
具体的に、エアハンドリングユニット20は、貯留水熱交換器16を組み込んだユニット本体20aと、ユニット本体20a内に設けられた吸気ファン20bと、施設PGH内の空気を吸い込む吸込口20cと、吸い込んだ空気を施設PGH内に送り戻す送風口20d等を有する。このようなエアハンドリングユニット20は、吸気ファン20bの回転によって吸込口20cを介して施設PGH内の空気を吸い込んでから、ヒートポンプ18で取り出され第2循環管19内の液体に移動した熱を利用して、吸い込んだ空気を調温してから送風口20dを介して施設PGH内に送り戻す。
【0041】
図2に示すように、制御盤21は、データロガー22とCPU(Central Processing Unit)23とを有する。
【0042】
データロガー22は、例えばRAM(Random Access Memory)などの記録媒体によって構成されている。このデータロガー22には、CPU23が各種処理を実行するための処理プログラムと各種処理を実行する際に用いられる各種データ(判定部25が判定に用いるデータを含む。)及び各種フラグが記憶されている。
【0043】
CPU23は、データロガー22に記憶された処理プログラムを実行することによって、通信部24、判定部25及び制御部26として機能する。
【0044】
通信部24は、熱交換システム1の各部との間で信号を送受信する。具体的に、通信部24は、揚水流量計5、第1揚水温度計6、第2揚水温度計8、貯留水温度計14及び施設内温度計15等から出力された信号を、判定部25に転送する。そして、通信部24は、制御部26が出力する制御信号を、揚水ポンプ5、循環ポンプ13、ヒートポンプ18及びエアハンドリングユニット20に転送する。
【0045】
判定部25は、揚水流量計5、第1揚水温度計6、第2揚水温度計8、貯留水温度計14及び施設内温度計15等から出力された信号に基づいて各種判定を行うことで、揚水ポンプ5、循環ポンプ13、ヒートポンプ18及びエアハンドリングユニット20等のそれぞれの運転状況を決定する。そして、判定部25は、判定結果を信号にして制御部26に出力する。
【0046】
制御部26は、揚水ポンプ5、循環ポンプ13、ヒートポンプ18及びエアハンドリングユニット20等のそれぞれに対して、通信部24を介して、判定部25から出力された信号に基づく制御信号を出力し、それぞれの運転状況を制御する。
【0047】
次に、熱交換システム1における熱の流れを
図1に基づいて説明する。
【0048】
まず、夏季などに冷房を行う場合を説明する。熱交換システム1において、井戸2からくみ上げられた地下水の冷熱は、揚水熱交換器7で第1循環管17内の液体に移動してから、ヒートポンプ18でかき集められて第2循環管19内の液体に移動する。これにより、エアハンドリングユニット20が冷房として機能する。
【0049】
また、施設内温度計15で計測される施設PGH内の空気の温度が、貯留水温度計14で計測されるバッファタンク9内の地下水の温度より高い場合には、更に、バッファタンク9内の地下水が貯留水循環管12を循環することで、バッファタンク9に貯留されている地下水の冷熱が貯留水熱交換器16で再利用され、エアハンドリングユニット20の冷房能力を増強する。
【0050】
具体例として、井戸2からくみ上げられた揚水管3内の地下水は、揚水熱交換器7において15℃から加熱されて18℃となり、バッファタンク9に供給される。
【0051】
第1循環管17内の液体は、揚水熱交換器7において40℃から冷却されて35℃となり、ヒートポンプ18に供給されると共に、ヒートポンプ18において35℃から加熱されて40℃となり、揚水熱交換器7に供給される。
【0052】
第2循環管19内の液体は、ヒートポンプ18において10℃から冷却されて5℃となり、エアハンドリングユニット20に供給されると共に、エアハンドリングユニット20において5℃から加熱されて10℃となり、ヒートポンプ18に供給される。
【0053】
バッファタンク9に供給された後に貯留水循環管12を循環する地下水は、貯留水熱交換器16において18℃から加熱されて21℃となり、バッファタンク9に供給される。
【0054】
施設PGH内の空気は、貯留水熱交換器16において30℃から冷却されて25℃となり、その後、エアハンドリングユニット20において25℃から冷却されて20℃となる。
【0055】
なお、貯留水熱交換器16は、主に、施設PGH内の空気の潜熱に作用する。また、エアハンドリングユニット20は、主に、施設PGH内の空気の顕熱に作用する。このように、貯留水熱交換器16及びエアハンドリングユニット20は、施設PGH内の温度と湿度を個別で任意に調節する。例えば、冷房に伴って、施設PGH内の空気の湿度を80%から下げて70%にする場合、主に、貯留水熱交換器16が機能することが求められる。
【0056】
続いて、冬季などに暖房を行う場合を説明する。熱交換システム1において、井戸2からくみ上げられた地下水の温熱は、揚水熱交換器7で第1循環管17内の液体に移動してから、ヒートポンプ18でかき集められて第2循環管19内の液体に移動する。これにより、エアハンドリングユニット20が暖房として機能する。
【0057】
また、施設内温度計15で計測される施設PGH内の空気の温度が、貯留水温度計14で計測されるバッファタンク9内の地下水の温度より低い場合には、更に、バッファタンク9内の地下水が貯留水循環管12を循環することで、バッファタンク9に貯留されている地下水の温熱が貯留水熱交換器16で再利用され、エアハンドリングユニット20の暖房能力を増強する。
【0058】
具体例として、井戸2からくみ上げられた揚水管3内の地下水は、揚水熱交換器7において15℃から冷却されて12℃となり、バッファタンク9に供給される。
【0059】
第1循環管17内の液体は、揚水熱交換器7において5℃から加熱されて8℃となり、ヒートポンプ18に供給されると共に、ヒートポンプ18において8℃から冷却されて5℃となり、揚水熱交換器7に供給される。
【0060】
第2循環管19内の液体は、ヒートポンプ18において28℃から加熱されて30℃となり、エアハンドリングユニット20に供給されると共に、エアハンドリングユニット20において30℃から冷却されて28℃となり、ヒートポンプ18に供給される。
【0061】
バッファタンク9に供給された後の貯留水循環管12を循環する地下水は、貯留水熱交換器16において12℃から冷却されて、バッファタンク9に供給される。
【0062】
施設PGH内の空気は、貯留水熱交換器16において18℃から加熱されて、その後、エアハンドリングユニット20において加熱されて25℃となる。
【0063】
このように、熱交換システム1によれば、ヒートポンプ18で熱が取り出された後の地下水を、エアハンドリングユニット20で調温する前の空気との間で熱交換させることで、地下水の再利用によって冷暖房能力を増強できる。結果、熱交換システム1の利用価値が高まる。
【0064】
また、施設PGH内の空気の温度やバッファタンク9に貯留されている地下水の温度の状況に応じて、エアハンドリングユニット20による一段階の動作と、貯留水熱交換器16及びエアハンドリングユニット20による二段階の動作とを切り替えることができる。これにより、消費エネルギーを抑えて循環ポンプ13を稼働させることができる。結果、熱交換システム1の利用価値が更に高まる。
【0065】
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、その趣旨及び技術思想を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0066】
すなわち、上記実施形態において、井戸2からくみ上げられた地下水の熱は、揚水熱交換器7を介してヒートポンプ18で取り出される場合を例に説明したが、本発明は、揚水熱交換器を備えている必要はなく、井戸からくみ上げられた地下水の熱を直接ヒートポンプで取り出すように構成したものであってもよい。
【0067】
あるいは、上記実施形態において、冷房時に、施設PGH内の空気の温度がバッファタンク9内の地下水の温度より高い場合にバッファタンク9に貯留されている地下水の冷熱を再利用して冷房能力を増強する一方で、暖房時に、施設PGH内の空気の温度がバッファタンク9内の地下水の温度より低い場合にバッファタンク9に貯留されている地下水の温熱を再利用して暖房能力を増強する場合を例に説明したが、本発明において、バッファタンク9に貯留されている地下水の冷熱・温熱を再利用する条件は、これに限定されるものではない。
【0068】
あるいは、上記実施形態において、貯留水循環管12によって、バッファタンク9に貯留されている地下水を貯留水熱交換器16との間で循環させる場合を例に説明したが、貯留水熱交換器16を経由した地下水を、バッファタンク9に供給せずに、還元井11等に排出するようにしてもよい。
【解決手段】熱交換システム1は、井戸2からくみ上げられた地下水の熱を取り出すヒートポンプ18と、施設PGH内の空気を吸い込んでから、ヒートポンプ18で取り出された熱を利用して、吸い込んだ空気を調温してから施設PGH内に送り戻すエアハンドリングユニット20と、ヒートポンプ18に熱を取り出された後の地下水を貯留させておくバッファタンク9と、バッファタンク9との間で地下水が循環することで、エアハンドリングユニット20で調温される前の空気と地下水との間で熱交換を行う貯留水熱交換器16と、を備えている。