【発明が解決しようとする課題】
【0007】
運転中の軸受予圧は、内外輪の温度差の影響を受ける。一般的に鋼製の内外輪を使用して運転すると、内輪での発生熱は軸受箱が強制冷却される外輪側に比べ放熱し難く、結果として内外輪の温度は、
内輪温度>外輪温度
となってしまう。すなわち、運転中の内輪軌道径の膨張量は、この温度上昇と回転による遠心力のため、外輪軌道径の膨張量に対して大きくなってしまう。このことが、運転中の予圧増大をもたらす主要因となっている。
【0008】
この運転中の予圧増大要因のことを念頭に置いて、上記各特許文献1〜3に開示された技術についてその特性を見てみると、以下のことが言える。
特許文献1に開示の方法では、構造が複雑となり、コスト面で高価なものになってしまう。
また、特許文献2に開示の方法では、発熱体による間座の温度上昇、または冷却に時間を要し、予圧制御の応答性が悪くなってしまう欠点がある。すなわち、一定回転速度での長時間加工には向いているが、頻繁に回転速度が変化する加工機には不向きである。
【0009】
また、特許文献3に開示のように、軸受外輪を軸方向に強制的に移動させて予圧調整する方法は、後ろ側軸受部において軸受箱と外筒の2重構造となっていること、軸受箱を軸方向に移動して位置決めする部品が必要になるなど、部品点数が多くなってしまう。また、予圧調整を行うための軸受箱の移動手段として油圧源が必要となる。このように、この方法では、予圧調整のためのコストが高くなってしまうという課題がある。
【0010】
この発明の目的は、外部からの温度等の制御を必要とせず、比較的簡単な構造で予圧調整を行うことができて、低速では定位置予圧軸受特有の高い支持剛性を与え、かつ単なる定位置予圧の軸受では到達困難な高速回転を、簡便な自律機構で達成することができる軸受装置の予圧調整構
造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の軸受装置の予圧調整構造は、共通の軸をハウジングに対して支持する複数の転がり軸受形の軸受を備え、これら複数の軸受のうちの一部または全部の軸受がアンギュラ玉軸受か円すいころ軸受であり、これら各軸受が定位置予圧形式で予圧された軸受装置において、最低一つの軸受は、内輪が、この軸受の最高回転速度内で常に軸に締まり嵌め状態となるように、軸に固
定され、残りの軸受は、内輪が、回転停止状態では締まり嵌めとなり、前記最高回転速度未満の遷移回転速度以上の高速回転ではすきま嵌めとなって軸に対して移動可能となるように、各軸受の内輪の軸に対する初期締め代
が設
定される。上記「最高回転速度」は、例えばこの軸受装置が用いられる工作機械等の機器における使用回転速度、または軸受の許容最高回転速度である。
【0012】
この構成によると、定位置予圧形式であり、かつ複数の軸受のうち、最低一つの軸受は内輪が最高回転速度内で常に軸に締まり嵌め状態となるように、軸に固定としてあるため、予圧によって常に高い軸受剛性が得られ、工作機械等に用いた場合に、低速回転での重切削加工等も精度良く行える。残りの軸受は、回転停止状態や低速状態では締まり嵌めであるが、遷移回転速度以上の高速回転ではすきま嵌めとなって軸に対して移動可能となるように、内輪の軸に対する初期締め代が設定されている。そのため、高速回転を行っても、予圧過大となって過度の温度上昇や軸受寿命の低下を招くことが回避される。また、回転速度による締め代の変化を利用した予圧調整であるため、外部からの制御を必要としない。
このように、外部からの温度等の制御を必要とせず、比較的簡単な構造で予圧調整を行うことができて、低速では定位置予圧軸受特有の高い支持剛性を与え、かつ単なる定位置予圧の軸受では到達困難な高速回転を、簡便な自律機構で達成することができる。
【0013】
この発明において、締まり嵌めからすきま嵌めとなる前記遷移回転速度は、任意に設定すれば良いが、例えば、軸の高い支持剛性が求められる速度域の上限に設定しても良い。「軸の高い支持剛性が求められる速度域」は、工作機械の主軸に適用される場合は、例えば重切削加工を行う速度域である。
なお。遷移回転速度は、例えば次の速度とする。内輪が締まりばめで且つ定位置予圧において,回転速度の上昇による軸受予圧増大の許容値(いいかえれば許容軸受温度)がある。経験的に締まりばめ,定位置予圧条件での限界回転速度は,概ねd
mn値で100万であり,この速度を遷移回転速度とする。
【0014】
前記軸受の内輪を軸に位置決め固定する環状の幅可変内輪間座が設けられ、この幅可変内輪間座は、運転中の径方向膨張量が異なる2体の環状の内輪間座分割体で構成され、膨張量小の側の内輪間座分割体
は外径側にテーパ面を有し、膨張量大の側の内輪間座分割体
は内径側にテーパ面を有し、これらテーパ面の嵌め合いで軸方向の位置決めが行われる。
【0015】
この場合に、定位置予圧で予圧される複数の軸受のうち、前記内輪間座分割体に接する側の軸受の内輪の軸との嵌め合い
は、前記遷移回転速度未満の低速回転時に締まり嵌めとなり、前記遷移回転速度以上の高速回転時にすきま嵌めとなるように、初期締め代
が設
定されても良い。
【0016】
前記2体の内輪間座分割体のうち、軸受に接する側の内輪間座分割体
は、前記
外径側のテーパ面を有しかつ運転中の温度上昇および遠心力による径方向膨張量が小さくなる材質とされ、軸肩部に接する側のもう1体の内輪間座分割体は、前記
内径側のテーパ面を有しかつ運転中の温度上昇および遠心力による径方向膨張量が大きくなる材質とされていても良い。
【0017】
前記
外径側のテーパ面を有する内輪間座分割体はセラミックス製とされ、前記
内径側のテーパ面を有する内輪間座分割体は鋼製とされていても良い。
前記2体の内輪間座分割体のテーパ面のテーパ角度は、例えば、これら内輪間座分割体の膨張量差、予圧調整量、および食い込みを考慮して決定する。
【0018】
上記2体の環状の内輪間座分割体からなる幅可変内輪間座を用いた場合の予圧調整の作用につき説明する。軸受個数は2つでその間に内輪間座があり、また凸のテーパ面を有する内輪間座分割体をセラミックス製、凹のテーパ面を有する内輪間座分割体を鋼製として説明する。
低速時には2列の軸受の外輪間の間座幅寸法と内輪間の間座幅寸法差により予圧が設定される。回転速度の上昇に伴い、奥側軸受の内輪と軸との嵌め合い部では、内輪と軸とに作用する遠心力の差(内輪>軸)により締め代が減少し、すきまが発生して内輪の軸方向移動を容易にさせる。また、幅可変内輪間座(2体の内輪間座分割体)において、回転速度上昇によるセラミックス製の内輪間座分割体と鋼製の内輪間座分割体の遠心力の差(セラミックス製内輪間座分割体<鋼製内輪間座分割体)、さらに温度による熱膨張差(セラミックス製内輪間座分割体<鋼製内輪間座分割体)により、テーパ面合わせ部では径方向にすきまを発生させて2体の内輪間座分割体による総幅はすきまの増大とともに小さくなって行く。すなわち、回転速度の上昇に伴う内輪位置決め間座幅寸法の減少は、奥側軸受の内輪を軸方向に移動させることになり、軸受予圧の増大を緩和させる方向に作用することになる。逆に、高速からの減速時においては、遠心力の減少と温度の降下により、奥側軸受の内輪を予圧を増大させる方向に移動させることになり、初期の予圧状態に戻る。
【0019】
ここで、幅可変内輪間座となる2体の内輪間座分割体のうち、セラミックス製内輪間座分割体は、密度と線膨張係数が鋼製のものより小さく、ヤング率が大きければ材質を問わない。また、2体の内輪間座分割体のテーパ部角度は、使用回転速度と運転中の目標とする予圧調整量によって設定される。
【0020】
上記はそれぞれテーパ面を有する2体の内輪間座分割体により内輪位置を自動調整させる例を示したが
、参考提案例として、次のように種々のばねを用いても良い。
例えば、前記遷移回転速度以上の高速回転ではすきま嵌めとなって軸に対して移動可能となる軸受の内輪に隣接して、この内輪を軸に位置決め固定するばねを設けても良い。
この場合に、前記ばねの一部を軸に対して締まり嵌めとしても良い。また、前記ばねは皿ばねであっても良い。
【0021】
この発明において、前記内輪間座を2体の環状の内輪間座分割体とした場合に、軸受に接する側の内輪間座分割体の外径部に、前記軸受の内輪に向けて突出して内径が前記内輪の外径に嵌まり合う円環部
が設
けられ、この円環部の初期締め代
は、回転停止状態ではすきま嵌めとなり、前記遷移回転速度未満の低速では締まり嵌めとなるように設
定されても良い。
【0022】
この発明において、軸受に接しない側の内輪間座分割体の軸に対する締め代を、絶えず締まり嵌めとなるように設定しても良い。
【0023】
この発
明または参考提案例において、前記2体の内輪間座分割体またはばねが隣接する前記軸受の内輪の前記隣接位置とは反対側に位置する間座の外径部に、前記軸受の内輪に向けて突出して内径が前記内輪の外径に嵌まり合う円環部を設け、この円環部の初期締め代を、回転停止状態ではすきま嵌めとなり、前記内輪と軸がすきま嵌めとなる前記遷移回転速度以上の高速回転では締まり嵌めとなるように設定しても良い。
【0024】
この場合に、前記円環部が、前記間座の内周の間座機能部分とは別部品であっても良い。また、この場合に、前記間座の軸に対する締め代を、絶えず締まり嵌めとなるように設定しても良い。
【0025】
この発明の工作機械は、この発明の前記いずれかの構成の軸受装置の予圧調整構造を有する軸受スピンドルを備えたことを特徴とする。
この構成によると、軸受スピンドルの低速での剛性を高めると共に、高速回転も可能となるので、重切削が可能で、かつ加工精度を向上させることができる。
【0026】
この構成の工作機械において、前記軸受装置における前記締まり嵌めからすきま嵌めに遷移する遷移回転速度を、工作機械に求められる重切削加工での最高回転速度以上に設定しても良い。
この構成によると、低速での重切削加工が高精度に行え、かつ高速での軽切削加工が可能で、加工効率を向上させることができる。
【0027】
こ
の軸受装置の予圧調整方法は、共通の軸をハウジングに対して支持する複数の転がり軸受形の軸受を備え、これら複数の軸受のうちの一部または全部の軸受がアンギュラ玉軸受か円すいころ軸受であり、これら各軸受が定位置予圧形式で予圧された軸受装置の予圧調整方法において、最低一つの軸受は、内輪が、この軸受の最高回転速度内で常に軸に固定とし、残りの軸受は、内輪を運転中に軸方向に移動させることで予圧調整を行なうことを特徴とする。
この方法によると、外部からの温度等の制御を必要とせず、比較的簡単な構造で予圧調整を行うことができる。また、低速では定位置予圧軸受特有の高い支持剛性を与え、かつ単なる定位置予圧の軸受では到達困難な高速回転を、簡便な自律機構で達成することができる。