特許第6012984号(P6012984)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6012984転写用マスクの製造方法及びマスクブランクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012984
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】転写用マスクの製造方法及びマスクブランクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/38 20120101AFI20161011BHJP
   G03F 1/54 20120101ALI20161011BHJP
【FI】
   G03F1/38
   G03F1/54
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-42000(P2012-42000)
(22)【出願日】2012年2月28日
(65)【公開番号】特開2013-178372(P2013-178372A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2015年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113343
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 武史
(72)【発明者】
【氏名】橋本 雅広
(72)【発明者】
【氏名】酒井 和也
【審査官】 新井 重雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−220731(JP,A)
【文献】 特開2010−091624(JP,A)
【文献】 特開2010−010283(JP,A)
【文献】 特開2009−294568(JP,A)
【文献】 特開平07−263686(JP,A)
【文献】 特開2008−116570(JP,A)
【文献】 特開平01−216360(JP,A)
【文献】 特開2011−112824(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00400984(EP,A1)
【文献】 特開平03−001322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板上に、モリブデン及びケイ素を含む材料からなる薄膜パターンを有する転写用マスクの製造方法であって、
前記透光性基板上に前記薄膜パターンを形成後、紫外線を照射しながら、オゾンガスを前記薄膜パターンに作用させることによって、前記薄膜パターンの表面に酸化物を含む膜密度が1.8〜2.1g/cmである表面改質層を形成する処理を施し、該処理前の前記薄膜パターンの光学特性を維持することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【請求項2】
オゾンガスの濃度は、50〜100体積%であることを特徴とする請求項1に記載の転写用マスクの製造方法。
【請求項3】
前記表面改質層の膜厚は、3nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の転写用マスクの製造方法。
【請求項4】
前記薄膜パターン上にレジストパターンが形成されており、前記処理によって、前記レジストパターンを除去しつつ、前記薄膜パターンの表面に前記表面改質層を形成することを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の転写用マスクの製造方法。
【請求項5】
透光性基板上に、モリブデン及びケイ素を含む材料からなる薄膜を有するマスクブランクの製造方法であって、
前記透光性基板上に前記薄膜を成膜後、紫外線を照射しながら、オゾンガスを前記薄膜に作用させることによって、前記薄膜の表面に、酸化物を含む膜密度が1.8〜2.1g/cmである表面改質層を形成する処理を施し、該処理前の前記薄膜の光学特性を維持することを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【請求項6】
オゾンガスの濃度は、50〜100体積%であることを特徴とする請求項に記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項7】
前記表面改質層の膜厚は、5nm以下であることを特徴とする請求項5または6に記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法によって製造されたマスクブランクにおける前記薄膜をパターニングして薄膜パターンを形成することを特徴とする転写用マスクの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐薬品性、耐温水性、耐光性を向上させた転写用マスク及びその製造方法、並びに、マスクブランク及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体装置の製造工程では、フォトリソグラフィー法を用いて微細パターンの形成が行われている。また、この微細パターンの形成には通常何枚ものフォトマスク(以下、転写用マスクと呼ぶ。)と呼ばれている基板が使用される。この転写用マスクは、一般に透光性のガラス基板上に、金属薄膜等からなる微細パターンを設けたものであり、この転写用マスクの製造においてもフォトリソグラフィー法が用いられている。
【0003】
フォトリソグラフィー法による転写用マスクの製造には、ガラス基板等の透光性基板上に転写パターン(マスクパターン)を形成するための薄膜(例えば遮光膜など)を有するマスクブランクが用いられる。このマスクブランクを用いた転写用マスクの製造は、マスクブランク上に形成されたレジスト膜に対し、所望のパターン描画を施す露光工程と、所望のパターン描画に従って前記レジスト膜を現像してレジストパターンを形成する現像工程と、レジストパターンに従って前記薄膜をエッチングするエッチング工程と、残存したレジストパターンを剥離除去する工程とを有して行われている。上記現像工程では、マスクブランク上に形成されたレジスト膜に対し所望のパターン描画を施した後に現像液を供給して、現像液に可溶なレジスト膜の部位を溶解し、レジストパターンを形成する。また、上記エッチング工程では、このレジストパターンをマスクとして、レジストパターンの形成されていない薄膜が露出した部位をドライエッチング又はウェットエッチングすることにより、所望のマスクパターンを透光性基板上に形成する。こうして、転写用マスクが出来上がる。
【0004】
ところで、転写用マスクや転写用マスクを製造するためのマスクブランクは、その製造工程あるいは使用時において洗浄が行われる。従来、その洗浄には、一般に硫酸等の酸が用いられていた(たとえば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−248298号公報
【特許文献2】特開2008−116570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、転写用マスクの製造工程あるいは使用時に、硫酸等の酸を用いて洗浄を行うと、洗浄後に残留した硫酸または硫酸イオンが高エネルギーの露光光と反応して硫化アンモニウムとなって析出し、転写用マスクの曇り(ヘイズと呼ばれる)の原因となる。半導体装置製造の際の露光光源としては、近年ではKrFエキシマレーザー(波長248nm)から、ArFエキシマレーザー(波長193nm)へと短波長化が進んでおり、露光光がより高エネルギー化していることに伴い、硫酸等の酸を用いた洗浄によるヘイズの発生という問題は顕著になってきている。
【0007】
そこで、本発明者は、このような酸を用いた洗浄によるヘイズの発生を低減するために、温水洗浄(100℃以下)を行ったところ、このようなオゾン洗浄は、遷移金属及びケイ素を含む材料からなる薄膜を溶解させ、膜減りが生じ、そのため光学特性が変化(光学濃度低下、透過率変化、位相差変化など)してしまうという問題が発生することが判明した。特に、遷移金属がモリブデンの場合には、上記問題が顕著であることが判明した。転写用マスクにおいて、このような光学特性の変化はマスク性能に影響を与える重要な問題であり、最終的には転写用マスクを用いて製造される半導体装置の品質を悪化させることになる。
【0008】
また、本発明者の検討によると、露光波長が短波長化した場合、次のような課題もあることが判明した。
すなわち、露光に用いるレーザー光の波長が短波長になることにより、レーザー光のエネルギーが大きくなるため、露光による薄膜パターン(マスクパターン)へのダメージが大きくなり、例えば光半透過膜の場合、設定した透過率及び位相差にずれが生じてしまう。また、露光が繰り返されるうちに、薄膜パターンの表面に酸化膜が形成されることでパターン幅が変化する(太る)問題が発生する。
【0009】
従来、位相シフトマスクブランクの耐薬品性、耐光性、耐温水性を向上させるため、透明基板上に成膜した光半透過膜に対しオゾンガスを作用させる方法が提案されている(上記特許文献2)。
しかし、近年のパターンの微細化の要求は厳しくなる一方であり、また近年のパターンの微細化に伴い、転写用マスクの製造コストが著しく上昇してきていることから、転写用マスクの使用期限の長期化(長寿命化)が求められている。そのため、従来よりも転写用マスクの露光回数や洗浄回数が増加することによる転写用マスクの耐久性向上が重大な課題となっている。本発明者の検討によると、上記特許文献2で提案されている方法によって例えば位相シフトマスクの耐薬品性、耐光性、耐温水性などを向上させることが可能であるが、このような近年の事情から、転写用マスクやその原版のマスクブランクにおける耐薬品性、耐光性、耐温水性などの更なる向上が要求されるようになってきている。
【0010】
そこで本発明は、従来の課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、第1に、耐薬品性、耐温水性、耐光性を従来よりも更に向上させ、薬液処理や温水洗浄、或いは露光光等によるマスク性能の劣化を防止できる転写用マスク及びその製造方法を提供することであり、第2に、マスクブランク及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、転写用マスクあるいはマスクブランクに対して、従来のオゾンガスを作用させることにより得られる耐薬品性、耐温水性、耐光性などの更なる向上を実現するため鋭意研究を行なった。その結果、透光性基板上に遷移金属及びケイ素を含む材料からなる薄膜パターンを有する転写用マスク、あるいはそのマスクブランクに対して、紫外線を照射しながら、オゾンガスを作用させて、前記薄膜パターンの表面に(酸化物を含む)表面改質層を形成する処理を施すことにより、耐薬品性、耐温水性、耐光性などを従来よりも更に向上できることを見い出した。しかも、上記処理前後の薄膜(パターン)の光学特性を変化(劣化)させることなく、これらの耐性を向上できることを見い出した。
本発明者は以上の解明事実に基づき、さらに鋭意検討を続けた結果、本発明を完成したものである。
すなわち、上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0012】
(構成1)
透光性基板上に、遷移金属及びケイ素を含む材料からなる薄膜パターンを有する転写用マスクの製造方法であって、前記透光性基板上に前記薄膜パターンを形成後、紫外線を照射しながら、オゾンガスを前記薄膜パターンに作用させることによって、前記薄膜パターンの表面に酸化物を含む表面改質層を形成する処理を施すことを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【0013】
(構成2)
オゾンガスの濃度は、50〜100体積%であることを特徴とする構成1に記載の転写用マスクの製造方法。
【0014】
(構成3)
前記遷移金属は、モリブデンであることを特徴とする構成1または2に記載の転写用マスクの製造方法。
(構成4)
前記表面改質層の膜密度は、1.8〜2.1g/cmであることを特徴とする構成3に記載の転写用マスクの製造方法。
【0015】
(構成5)
前記表面改質層の膜厚は、3nm以下であることを特徴とする構成1乃至4のいずれかに記載の転写用マスクの製造方法。
(構成6)
前記薄膜パターン上にレジストパターンが形成されており、前記処理によって、前記レジストパターンを除去しつつ、前記薄膜パターンの表面に前記表面改質層を形成することを特徴とする構成1乃至5のいずれかに記載の転写用マスクの製造方法。
【0016】
(構成7)
構成1乃至6のいずれかに記載の転写用マスクの製造方法によって製造された転写用マスク。
【0017】
(構成8)
透光性基板上に、遷移金属及びケイ素を含む材料からなる薄膜を有するマスクブランクの製造方法であって、前記透光性基板上に前記薄膜を成膜後、紫外線を照射しながら、オゾンガスを前記薄膜に作用させることによって、前記薄膜の表面に酸化物を含む表面改質層を形成する処理を施すことを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【0018】
(構成9)
オゾンガスの濃度は、50〜100体積%であることを特徴とする構成8に記載のマスクブランクの製造方法。
【0019】
(構成10)
前記遷移金属は、モリブデンであることを特徴とする構成8または9に記載のマスクブランクの製造方法。
(構成11)
前記表面改質層の膜密度は、1.8〜2.1g/cmであることを特徴とする構成10に記載のマスクブランクの製造方法。
【0020】
(構成12)
前記表面改質層の膜厚は、5nm以下であることを特徴とする構成8乃至11のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
(構成13)
構成8乃至12のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法によって製造されたマスクブランク。
【0021】
(構成14)
構成13に記載のマスクブランクにおける前記薄膜をパターニングして薄膜パターンを形成してなることを特徴とする転写用マスク。
【発明の効果】
【0022】
本発明の転写用マスクの製造方法によれば、透光性基板上に、遷移金属及びケイ素を含む材料からなる薄膜パターンを形成後、紫外線を照射しながら、オゾンガスを前記薄膜パターンに作用させることによって、薄膜パターンの表面に(酸化物を含む)表面改質層を形成する処理を施すことにより、この処理前後での薄膜パターンの光学特性を劣化させることなく、マスク使用時の耐薬品性、耐温水性、耐光性などの耐性を従来よりも更に向上させることができ、薬液処理や温水洗浄、或いは露光光等によるマスク性能の劣化を防止できる。
【0023】
また、本発明のマスクブランクの製造方法によれば、透光性基板上に成膜した遷移金属及びケイ素を含む材料からなる薄膜に対して、上記処理を施すことにより、この処理前後での薄膜の光学特性を劣化させることなく、マスク製造工程での耐薬品性、耐温水性などを従来よりも更に向上させることができる。また、このマスクブランクを用いて製造される転写用マスクにおいて、マスク使用時の耐薬品性、耐温水性、耐光性などを従来よりも向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】マスクブランクの断面図である。
図2】マスクブランクを用いて転写用マスクを製造する工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を詳述する。
(転写用マスクの製造方法、転写用マスク)
まず、本発明に係る転写用マスクの製造方法、及び該製造方法により得られる転写用マスクについて説明する。
本発明に係る転写用マスクの製造方法は、上記構成1の発明にあるように、透光性基板上に、遷移金属及びケイ素を含む材料からなる薄膜パターンを有する転写用マスクの製造方法であって、前記透光性基板上に前記薄膜パターンを形成後、紫外線を照射しながら、オゾンガスを前記薄膜パターンに作用させることによって、前記薄膜パターンの表面に(酸化物を含む)表面改質層を形成する処理を施すことを特徴とするものである。
【0026】
図2(e)は、本発明により得られる転写用マスクの一実施の形態を示す断面図である。これによると、本実施の形態に係る転写用マスク20は、透光性基板1上に形成された遷移金属及びケイ素を含む材料からなる薄膜をパターニングしてなる薄膜パターン(転写パターン)2aを有する構造となっている。
【0027】
上記透光性基板1は、使用する露光波長に対して透明性を有するものであれば特に制限されない。本発明では、石英基板、その他各種のガラス基板(例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス等)を用いることができるが、この中でも石英基板は、ArFエキシマレーザー又はそれよりも短波長の領域で透明性が高いので、本発明には特に好適である。
【0028】
薄膜パターン2aは、遷移金属及びケイ素を含む材料からなる薄膜パターンからなり、単一層の場合も積層の場合も含まれる。積層の場合は、少なくとも最上層(最表面層)は上記遷移金属及びケイ素を含む材料からなる。詳しくは後述するが、上記薄膜としては、例えばモリブデンシリサイド等の遷移金属シリサイド又はその化合物を含む材料からなる遮光膜や、光半透過膜などが挙げられる。
なお、図2(e)に示す転写用マスク20は、ペリクルを備えていないが、本発明は、ペリクルを備えた構造の転写用マスクも含まれる。
【0029】
図2は、本実施の形態に係る転写用マスク20を製造する工程を示す断面図である。
透光性基板1上に、上記薄膜2を成膜したマスクブランク10(図1参照)を用いて、フォトリソグラフィー法により、該マスクブランクの薄膜をパターニングすることにより、薄膜パターンを形成する。すなわち、上記マスクブランク10上に、例えば電子線描画用ポジ型レジスト膜3を形成し(図2(a)参照)、所望のデバイスパターンの描画を行う(図2(b)参照)。描画後、レジスト膜3を現像処理することにより、レジストパターン3aを形成する(図2(c)参照)。
【0030】
次に、このレジストパターン3aをマスクとして、上記薄膜2をエッチングすることにより、薄膜パターン2aを形成する(図2(d)参照)。この際のエッチング方法としては、微細パターンの形成に有効なドライエッチングを好ましく用いることができる。
残存するレジストパターン3aを除去して、透光性基板1上に薄膜パターン2aを形成した転写用マスクが出来上がる(図2(e)参照)。
【0031】
本発明の転写用マスクの製造方法においては、透光性基板1上に上記薄膜パターン2aを形成後、紫外線を照射しながら、オゾンガスを上記薄膜パターン2aに作用させる処理(以下、適宜「本発明の処理」とも呼ぶ。)を施すことを特徴としている。この本発明の処理を施すことにより、上記薄膜パターン2aの表面には表面改質層が形成された転写用マスク20が得られ(図2(e)参照)、マスク使用時の耐薬品性、耐温水性、耐光性などの耐性を従来よりも更に向上させることができる。
【0032】
因みに、従来、大気中あるいは大気中よりも酸素含有量の多い雰囲気下で転写用マスクを加熱処理することにより、薄膜の表面に酸化膜を形成させて、耐薬品性等を向上させる方法が知られているが、本発明者の検討によると、このような加熱処理による方法では、少なくとも400℃の温度で数時間以上の高温度、長時間の加熱処理が必要であり、仮に耐薬品性等をある程度(従来レベル)向上できたとしても、このような高温度、長時間の加熱処理を行うと、薄膜パターンの劣化や、薄膜パターンの光学濃度、表面反射率等の光学特性の変化を生じることは避けられず、マスク性能の劣化を引き起こす恐れがある。
【0033】
これに対して、上述の薄膜パターン2aに対して、紫外線を照射しながら、オゾンガスを作用させる本発明の処理によれば、低温度かつ短時間で表面改質層を形成することができるので、薄膜パターンの光学特性を何ら劣化させることなく、転写用マスクの特性を維持した状態で、マスク使用時の耐薬品性、耐温水性、耐光性などの耐性を従来よりも向上させることができる。
【0034】
本発明者の考察によれば、このように薄膜パターン表面に対して、紫外線を照射しながら、オゾンガスを作用させる(供給する)処理を行うことにより、主にケイ素の酸化物を含む酸化膜からなる表面改質層が形成され、薄膜パターン表面は耐薬品性、耐温水性、耐光性などの耐性を十分に備えるように改質されるものと考えられる。
【0035】
次に、上述の薄膜パターンに対して、紫外線を照射しながら、オゾンガスを作用させる本発明の処理について説明する。
薄膜パターン表面に対してオゾンガスを作用させる方法としては、たとえば適当なチャンバー内に転写用マスクを設置し、このチャンバー内にオゾンガスを導入してチャンバー内部をオゾンガスで置換させる方法が挙げられる。また、薄膜パターン表面に対して直接オゾンガスを噴き付けるなどの手段で供給する方法でもよい。薄膜パターンに完全なガス状態でオゾンガス処理を行う場合、パターンサイズが微細でも、パターン間にガスが入り込むため、薄膜パターン表面だけでなく側壁に対しても均一な表面改質層を形成することができる。
【0036】
本発明では、上記オゾンガスは、50〜100体積%の範囲の高濃度オゾンガスを使用することが好ましい。オゾンガス濃度が50体積%未満であると、処理時間が非常に長く必要になったり、あるいは、処理時間を長くしても、耐性の向上に必要な膜厚を確保できない恐れがある。また、処理時間を短時間にするためには、オゾンガス濃度は100体積%であることが好ましい。なお、オゾンガスの濃度が高いほど、減圧下で処理することが望ましい。高濃度のオゾンガスは減圧下でないと存在できない恐れがある。通常、200Pa〜10Pa程度の範囲内の減圧であることが好適である。
【0037】
また、紫外線を照射する方法としては、たとえば上記チャンバー内に光源を設置し、チャンバー内に設置された転写用マスクに対して上記のようにオゾンガスを作用させると同時に紫外線を照射する方法が挙げられる。また、薄膜パターン表面に対して直接オゾンガスを噴き付けるなどの手段で供給する際に、同時に紫外線を照射する方法でもよい。
紫外線照射用の光源としては、例えば200〜300nmの波長域を有する高圧水銀灯などを用いるのが好適である。照射パワーとしては、特に制約はないが、照射パワーを上げることにより緻密で厚い表面改質層が形成されるので、本発明においては、例えば200mW/cm以上、好ましくは600mW/cm以上とすることが好適である。
【0038】
処理時間(紫外線照射とオゾンガスを作用させる時間)については、紫外線照射パワー、オゾンガス濃度、基板の加熱温度、表面改質層の膜厚、被覆率等を考慮して適宜決定すればよい。
【0039】
また、この本発明の処理は、たとえば室温で行うことができるが、薄膜パターン表面に表面改質層が形成される反応をより促進させるため、例えば基板(転写用マスク)を、200℃程度に加熱してもよい。この場合の加熱温度があまり高いと、薄膜パターンの材料にもよるが、例えばモリブデンシリサイド系材料膜の場合、400℃以上では膜応力の変化によってフラットネスが低下する恐れがあるため、400℃未満が好ましい。
【0040】
本発明の転写用マスクの製造方法では、処理前後(表面改質層形成前後)で転写用マスクの光学特性を維持することができる。転写用マスク光学特性としては、薄膜パターンの光学濃度(OD)、露光光に対する表面反射率、検査光に対する表面反射率、透過率、位相差等である。薄膜パターンは、光学濃度が2.5〜3.1、露光光に対する表面反射率が40%以下(好ましくは30%以下)、マスクブランクや転写用マスクの欠陥検査等に用いる検査光(例えば193nm、257nm、364nm、488nm等)に対してはコントラストが十分に確保できるように、に各々調整される。また、ハーフトーン型位相シフトマスクの場合、薄膜パターンは、透過率が1〜30%、位相差が160°〜200°に各々調整される。本発明では、転写用マスクの上記特性が調整されている薄膜パターンに対して、本発明の処理を施しても、調整された転写用マスクの特性を変化(低下)させることなく、処理前の転写用マスクの特性を維持した状態で、耐薬品性、耐温水性、耐光性などの耐性を著しく向上させることができる。
【0041】
このように、本発明の転写用マスクの製造方法によれば、本発明の処理前後の薄膜パターンの光学特性を変化(劣化)させることがないので、転写用マスクの性能に影響を及ぼさない。
また、ダブルパターニング/ダブル露光技術を用いる転写用マスクにも好適である。これらの露光技術は2枚セットの転写用マスクを用いるものであるため、2枚の転写用マスクの精度の要求が厳しいが、本発明はこのような要求を満たすことが可能となる。
【0042】
なお、本発明の処理により薄膜パターンの表面(表層及び側壁)に形成される表面改質層の膜密度は、例えば1.8〜2.1g/cm程度であることが望ましい。形成される表面改質層が緻密であるほど、耐薬品性、耐温水性、耐光性などの耐性を向上させる効果が大きいので望ましい。前述したように、たとえば紫外線の照射パワーを上げることによって、膜密度の高い(より緻密な)膜を形成することが可能である。
【0043】
また、上記表面改質層の膜厚は、本発明においては特に制約はされないが、本発明の転写用マスクでの耐性を向上させるためには、少なくとも0.5nm以上であることが好ましい。一方、膜厚を厚くするためには、例えば本発明の処理による処理時間を長くする必要がある上に、膜厚があまり厚いと薄膜パターンの光学特性の変化が大きくなる恐れがある。そのため、膜厚の上限値は、耐薬品性、耐温水性、耐光性などの耐性の向上が十分に達成できる膜厚とすればよく、その観点から3nm以下とすることが好ましい。
なお、表面改質層の存在は、例えば薄膜の断面TEM観察により確認することが可能であり、表面改質層の膜厚についても特定することが可能である。
【0044】
また、前述の図2の製造工程において、レジストパターン3aをマスクとして、薄膜2をエッチングすることにより薄膜パターン2aを形成し、残存するレジストパターン3aを除去した後、薄膜パターン2aに対して本発明の処理を施す場合について説明したが、本発明ではこれに限らず、たとえば本発明の処理前の段階では残存するレジストパターン3aは除去せずに、薄膜パターン2a上にレジストパターン3aが残っている状態で、本発明の処理を施すことによって、レジストパターン3aを除去しつつ、薄膜パターン2aの表面には表面改質層を形成することも可能である。
【0045】
また、本発明は、上述の転写用マスクの製造方法によって製造される転写用マスクについても提供するものである。本発明の転写用マスクの製造方法によって製造される転写用マスクでの耐薬品性、耐温水性、耐光性などを向上させることが可能である。
【0046】
また、本発明により得られる転写用マスクは耐光性が優れているため、露光エネルギーが高く、露光によるパターンダメージや光学特性変化が生じやすい特に波長200nm以下の短波長の露光光を露光光源とする露光装置に用いられる転写用マスクに好適である。
本発明の転写用マスクの製造方法は、例えば、以下のような転写用マスクの製造に好適である。
【0047】
(1)前記薄膜パターンが、遷移金属及びケイ素を含む材料からなる遮光膜であるバイナリマスク
かかるバイナリマスクは、透光性基板上に遮光膜を有する形態のものであり、この遮光膜は、モリブデン等の遷移金属シリサイドあるいはその化合物を含む材料からなる。例えば、モリブデンシリサイドや、モリブデンシリサイドに窒素などの元素を添加したモリブデンシリサイド化合物で構成した遮光膜が挙げられる。
【0048】
かかるバイナリマスクは、遮光膜を、遮光層と表面反射防止層の2層構造や、さらに遮光層と基板との間に裏面反射防止層を加えた3層構造としたものなどがある。遮光膜をモリブデン及びケイ素(モリブデンシリサイドを含む)の化合物で形成する場合には、遮光層(MoSi、MoSiN等)と表面反射防止層(MoSiON等)の2層構造が好ましい。
また、遮光膜の膜厚方向における組成が連続的又は段階的に異なる組成傾斜膜としてもよい。
【0049】
(2)前記薄膜パターンが、遷移金属及びケイ素を含む材料からなる光半透過膜を含む位相シフトマスク
かかる位相シフトマスクとしては、透光性基板上に光半透過膜を有する形態のものであって、該光半透過膜をパターニングしてシフタ部を設けるタイプであるハーフトーン型位相シフトマスクやトライトーン型位相シフトマスクがある。かかる位相シフトマスクにおいては、転写領域の外周部分における多重露光を防止するために、転写領域の外周部分に遮光帯を有する形態とするものや、光半透過膜を透過した光に基づき転写領域に形成される光半透過膜パターンによる被転写基板のパターン不良を防止するために、透光性基板上に光半透過膜とその上の遮光膜とを有する形態とするものが挙げられる。また、ハーフトーン型位相シフトマスクやトライトーン型位相シフトマスクの他に、透光性基板をエッチング等により掘り込んでシフタ部を設ける基板掘り込みタイプであるレベンソン型位相シフトマスクやクロムレス位相シフトマスク、エンハンサー型位相シフトマスクが挙げられる。
【0050】
上記光半透過膜は、実質的に露光に寄与しない強度の光(例えば、露光波長に対して1%〜30%)を透過させるものであって、所定の位相差(例えば180度)を有するものであり、この光半透過膜をパターニングした光半透過部と、光半透過膜が形成されていない実質的に露光に寄与する強度の光を透過させる光透過部とによって、光半透過部を透過して光の位相が光透過部を透過した光の位相に対して実質的に反転した関係になるようにすることにより、光半透過部と光透過部との境界部近傍を通過し回折現象によって互いに相手の領域に回り込んだ光が互いに打ち消しあうようにし、境界部における光強度をほぼゼロとし境界部のコントラスト即ち解像度を向上させるものである。
【0051】
この光半透過膜は、遷移金属及びケイ素(遷移金属シリサイドを含む)の化合物を含む材料からなり、これらの遷移金属及びケイ素と、酸素及び/又は窒素を主たる構成要素とする材料が挙げられる。遷移金属には、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、ハフニウム、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、又はこれらを二種以上含む合金等が適用可能である。
【0052】
本発明においては、とくに、上記遷移金属がモリブデンである遮光膜を備えるバイナリマスクや、上記遷移金属がモリブデンである光半透過膜を備える位相シフトマスクにおいて、本発明の処理を施すことによる耐薬品性、耐温水性、耐光性などの耐性を向上させる効果が大きい。
なお、転写用マスクにはレチクルが含まれる。
【0053】
以上説明したように、本発明の転写用マスクの製造方法によれば、透光性基板上に形成された遷移金属及びケイ素を含む材料からなる薄膜パターンに対して、紫外線を照射しながら、オゾンガスを作用させ、薄膜パターンの表面に(酸化物を含む)表面改質層を形成する処理を施すことにより、この処理前後での薄膜パターンの光学特性を劣化させることなく、マスク使用時の耐薬品性、耐温水性、耐光性などの耐性を従来よりも更に向上させることができ、薬液処理や温水洗浄、或いは露光光等によるマスク性能の劣化を防止できる。
【0054】
(マスクブランクの製造方法、マスクブランク、転写用マスク)
次に、本発明に係るマスクブランクの製造方法、該製造方法により得られるマスクブランク、該マスクブランクを用いて得られる転写用マスクについて説明する。
本発明は、上述の本発明の処理をマスクブランクの薄膜に対して適用するマスクブランクの製造方法についても提供するものである。すなわち、本発明に係るマスクブランクの製造方法は、上記構成8の発明にあるように、透光性基板上に、遷移金属及びケイ素を含む材料からなる薄膜を有するマスクブランクの製造方法であって、前記透光性基板上に前記薄膜を成膜後、紫外線を照射しながら、オゾンガスを前記薄膜に作用させることによって、前記薄膜の表面に酸化物を含む表面改質層を形成する処理を施すことを特徴とするものである。
【0055】
図1は、本発明のマスクブランクの一実施の形態を示す断面図である。これによると、本実施の形態に係るマスクブランク10は、透光性基板1上に、遷移金属及びケイ素を含む材料からなる薄膜パターン(転写パターン)を形成するための薄膜2を有する構造となっている。
上記透光性基板1および薄膜2のそれぞれの材質に関しては、前述の転写用マスクの場合と同様のものが好ましく挙げられる。
【0056】
透光性基板1上に上記薄膜2を成膜する方法としては、例えばスパッタ成膜法が好ましく挙げられるが、本発明はスパッタ成膜法に限定する必要はない。
本発明のマスクブランクは、例えば、上記薄膜が、遷移金属(好ましくはモリブデンなど)及びケイ素を含む材料からなる遮光膜であるバイナリマスクブランクや、上記薄膜が、遷移金属(好ましくはモリブデンなど)及びケイ素を含む材料からなる光半透過膜を含む位相シフトマスクブランクなどである。
なお、図1に示すマスクブランク10は、上記薄膜2上にレジスト膜を備えていないが、本発明は、薄膜2上に任意のレジスト膜を備えた構造のマスクブランクも含まれる。
【0057】
本発明のマスクブランクの製造方法においては、透光性基板1上に成膜した遷移金属及びケイ素を含む材料からなる薄膜2に対して、紫外線を照射しながら、オゾンガスを作用させる本発明の処理を施す。
この場合のオゾンガスを薄膜に作用させる方法、オゾンガス濃度、紫外線を薄膜に照射する方法、紫外線の照射パワー、基板加熱温度などに関しては、前述の転写用マスクの場合と同様である。
【0058】
なお、本発明の処理により薄膜の表面(表層)に形成される表面改質層の膜密度に関しても、前述の転写用マスクの場合と同様、例えば1.8〜2.1g/cm程度であることが望ましい。
【0059】
また、このマスクブランクを用いて作製される転写用マスクにおいて耐性を向上させるためには、その薄膜パターンの表面(表層)に表面改質層が残っていることが望ましい。そのため、上記表面改質層の膜厚に関しては、マスクを製造する際のエッチング工程での膜減り量を見込んで、前述の転写用マスクの場合よりも例えば紫外線の照射パワーを大きくする、基板加熱温度を高くする、又は処理時間を長くするなどの方法で厚めに形成されることが好ましい。例えば、2〜5nm程度の範囲の膜厚とすることが好ましい。
【0060】
本発明のマスクブランクの製造方法によれば、本発明の処理前後での薄膜の光学特性を変化(劣化)させることがないので、マスクブランクや転写用マスクの性能に影響を及ぼさない。また、表面改質層が形成された薄膜をパターニングして転写用マスクを作製する際に、薄膜のエッチング特性を低下させることはないため、転写用マスクの加工精度を低下させることもない。
【0061】
また、本発明は、上述のマスクブランクの製造方法によって製造されるマスクブランクについても提供するものである。また、このマスクブランクを用いて製造される転写用マスク、すなわち、本発明のマスクブランクにおける前記薄膜をパターニングして転写パターンを形成してなる転写用マスクについても提供するものである。本発明のマスクブランクを用いることにより、製造される転写用マスクでの耐薬品性、耐温水性、耐光性などを向上させることが可能である。
【0062】
本発明のマスクブランクを用いて得られる転写用マスクは、前述の本発明の転写用マスクの製造方法を好ましく適用できる例として挙げたような、例えば、薄膜パターンが、遷移金属(好ましくはモリブデンなど)及びケイ素を含む材料からなる遮光膜であるバイナリマスクや、薄膜パターンが、遷移金属(好ましくはモリブデンなど)及びケイ素を含む材料からなる光半透過膜を含む位相シフトマスクなどである。
【0063】
以上説明したように、本発明のマスクブランクの製造方法によれば、透光性基板上に成膜した遷移金属及びケイ素を含む材料からなる薄膜に対して、上記本発明の処理を施すことにより、この処理前後での薄膜の光学特性を劣化させることなく、このマスクブランクを用いたマスク製造工程での耐薬品性、耐温水性などを従来よりも更に向上させることができる。また、このマスクブランクを用いて製造される転写用マスクにおいて、マスク使用時の耐薬品性、耐温水性、耐光性などを従来よりも向上させることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。
(実施例1−1〜1−8)
透光性基板としてサイズ6インチ角、厚さ0.25インチの合成石英ガラス基板を用い、透光性基板上に、窒化されたモリブデン及びシリコンからなる光半透過膜を成膜した。
具体的には、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=10mol%:90mol%)を用い、アルゴン(Ar)と窒素(N)とヘリウム(He)との混合ガス雰囲気(ガス流量比 Ar:N:He=5:49:46)で、ガス圧0.3Pa、DC電源の電力を3.0kWとして、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、モリブデン、シリコン及び窒素からなるMoSiN膜を69nmの膜厚で形成した。このMoSiN膜は、ArFエキシマレーザー露光光の波長193nmにおいて、透過率は6.16%、位相差が184.4度となっていた。なお、透過率は、分光光度計(島津製作所社製:SS3700)を用いて測定し、位相差は、位相差測定機(レーザーテック社製:MPM−193)を用いて測定した。
【0065】
以上のようにして、ガラス基板上にMoSiN光半透過膜のパターン形成用薄膜を有する位相シフトマスクブランクを作製した。
次に、上記の位相シフトマスクブランクを用いて、ハーフトーン型位相シフトマスクを作製した。
まず、上記マスクブランク上に、レジスト膜として、電子線描画用化学増幅型ネガレジスト膜(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製 SLV08)を形成した。レジスト膜の形成は、スピンナー(回転塗布装置)を用いて、回転塗布した。上記レジスト膜を塗布後、所定の加熱乾燥処理を行った。レジスト膜の膜厚は165nmとした。
【0066】
次に上記マスクブランク上に形成されたレジスト膜に対し、電子線描画装置を用いて所望のパターン描画を行った後、所定の現像液で現像してレジストパターンを形成した。次に、上記レジストパターンをマスクとして、光半透過膜(MoSiN膜)のエッチングを行って光半透過膜パターンを形成した。ドライエッチングガスとして、SFとHeの混合ガスを用いた。
残存するレジストパターンを剥離して、位相シフトマスクを得た。なお、光半透過膜の透過率及び位相差はマスクブランク製造時と殆ど変化はなかった。上記光半透過膜パターン表面の膜密度をXRR(X線反射率法)で測定したところ、1.7g/cmであった。
【0067】
次いで、上記光半透過膜パターンに対して、紫外線を照射しながら、オゾンガスを作用させる本発明の処理を行った。
すなわち、チャンバー内に上記位相シフトマスクを設置し、該チャンバー内に、高濃度オゾンガス(100体積%)を導入してチャンバー内を該ガスで置換することにより、上記位相シフトマスクの光半透過膜パターンに上記高濃度オゾンガスを接触させるようにした。この時のガス流量は50sccm、ガス圧力は70Paとした。また、上記チャンバー内に設置した高圧水銀灯で上記光半透過膜に対して紫外線照射を行った。この時の紫外線照射パワーは、600mW/cmとした。また、基板(マスク)は200℃に加熱し、処理時間(紫外線照射とオゾンガスを作用させる時間)は10分とした。
【0068】
以上のようにして作製された位相シフトマスク(実施例1−1)の上記光半透過膜パターンの断面をTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて詳しく観察したところ、光半透過膜パターンの表層部分及び側壁に厚さ略2.7nmの被膜(表面改質層)が均一に形成されていた。また、表面改質層の膜密度をXRR(X線反射率法)で測定したところ、2.0g/cmであった。
また、処理後の光半透過膜パターンの透過率及び位相差について確認したが、処理前と変化は認められなかった。
このように、本発明の処理前後において、光半透過膜パターンの光学特性が変化(劣化)することなく、表面改質層を形成することが確認できた。
【0069】
作製した実施例1−1の位相シフトマスクを、位相シフトマスクを電動モータ等で回転させながら、洗浄液供給ノズルから温水(90℃)を光半透過膜パターンに対して60分供給することにより、温水洗浄を行った。なお、この方法は通常行われている温水洗浄よりも過酷な条件である。
【0070】
上記洗浄後、上記光半透過膜パターンのArFエキシマレーザー波長193nmにおける透過率を測定したところ、上記洗浄前の透過率に対する変化は、+0.01%と非常に小さく、優れた耐温水性を備えていることが確認できた。なお、上記透過率変化は、+(プラス)は、洗浄前に対して洗浄後の透過率が増加したことを、−(マイナス)は、洗浄前に対して洗浄後の透過率が減少したことを表すものとする。
【0071】
また、上記の本発明の処理において、処理時間を5分としたこと以外は、実施例1−1と同様にして位相シフトマスク(実施例1−2)を作製した。処理後の光半透過膜パターンの透過率及び位相差について確認したが、処理前と変化は認められなかった。また、処理後の光半透過膜パターンの表層部分及び側壁に厚さ略1.9nmの表面改質層が均一に形成されており、表面改質層の膜密度は1.8g/cmであった。作製した実施例1−2の位相シフトマスクに対して、上記実施例1−1と同様の温水洗浄を行った。洗浄前に対する洗浄後の透過率変化は、−0.06%であった。
【0072】
また、上記の本発明の処理において、処理時間を20分としたこと以外は、実施例1−1と同様にして位相シフトマスク(実施例1−3)を作製した。処理後の光半透過膜パターンの透過率及び位相差について確認したが、処理前と変化は認められなかった。また、処理後の光半透過膜パターンの表層部分及び側壁に厚さ略2.7nmの表面改質層が均一に形成されており、表面改質層の膜密度は1.9g/cmであった。作製した実施例1−3の位相シフトマスクに対して、上記実施例1−1と同様の温水洗浄を行った。洗浄前に対する洗浄後の透過率変化は、+0.04%であった。
【0073】
また、上記の本発明の処理において、処理時間を40分としたこと以外は、実施例1−1と同様にして位相シフトマスク(実施例1−4)を作製した。処理後の光半透過膜パターンの透過率及び位相差について確認したが、処理前と変化は認められなかった。また、処理後の光半透過膜パターンの表層部分及び側壁に厚さ略2.8nmの表面改質層が均一に形成されており、表面改質層の膜密度は2.0g/cmであった。作製した実施例1−4の位相シフトマスクに対して、上記実施例1−1と同様の温水洗浄を行った。洗浄前に対する洗浄後の透過率変化は、−0.02%であった。
【0074】
また、上記の本発明の処理において、紫外線の照射パワーを200mW/cmとしたこと以外は、実施例1−1と同様にして位相シフトマスク(実施例1−5)を作製した。処理後の光半透過膜パターンの透過率及び位相差について確認したが、処理前と変化は認められなかった。また、処理後の光半透過膜パターンの表層部分及び側壁に厚さ略2.2nmの表面改質層が均一に形成されており、表面改質層の膜密度は1.9g/cmであった。作製した実施例1−5の位相シフトマスクに対して、上記実施例1−1と同様の温水洗浄を行った。洗浄前に対する洗浄後の透過率変化は、+0.09%であった。
【0075】
また、上記の本発明の処理において、紫外線の照射パワーを400mW/cmとしたこと以外は、実施例1−1と同様にして位相シフトマスク(実施例1−6)を作製した。処理後の光半透過膜パターンの透過率及び位相差について確認したが、処理前と変化は認められなかった。また、処理後の光半透過膜パターンの表層部分及び側壁に厚さ略2.4nmの表面改質層が均一に形成されており、表面改質層の膜密度は2.0g/cmであった。作製した実施例1−6の位相シフトマスクに対して、上記実施例1−1と同様の温水洗浄を行った。洗浄前に対する洗浄後の透過率変化は、+0.07%であった。
【0076】
また、上記の本発明の処理において、基板加熱温度を100℃としたこと以外は、実施例1−1と同様にして位相シフトマスク(実施例1−7)を作製した。処理後の光半透過膜パターンの透過率及び位相差について確認したが、処理前と変化は認められなかった。また、処理後の光半透過膜パターンの表層部分及び側壁に厚さ略2.6nmの表面改質層が均一に形成されており、表面改質層の膜密度は2.0g/cmであった。作製した実施例1−7の位相シフトマスクに対して、上記実施例1−1と同様の温水洗浄を行った。洗浄前に対する洗浄後の透過率変化は、+0.02%であった。
【0077】
また、上記の本発明の処理において、基板加熱温度を室温としたこと以外は、実施例1−1と同様にして位相シフトマスク(実施例1−8)を作製した。処理後の光半透過膜パターンの透過率及び位相差について確認したが、処理前と変化は認められなかった。また、処理後の光半透過膜パターンの表層部分及び側壁に厚さ略2.2nmの表面改質層が均一に形成されており、表面改質層の膜密度は1.9g/cmであった。作製した実施例1−8の位相シフトマスクに対して、上記実施例1−1と同様の温水洗浄を行った。洗浄前に対する洗浄後の透過率変化は、+0.03%であった。
【0078】
また、上記の本発明の処理において、基板加熱温度を400℃にしたこと以外は、実施例1−1と同様にして位相シフトマスク(参考例)を作製した。処理後の光半透過膜パターンの透過率及び位相差について確認したが、処理前と変化は認められなかった。また、処理後の光半透過膜パターンの表層部分及び側壁に厚さ略2.7nmの表面改質層が均一に形成されており、表面改質層の膜密度は2.1g/cmであった。作製した参考例の位相シフトマスクに対して、上記実施例1−1と同様の温水洗浄を行った。洗浄前に対する洗浄後の透過率変化は、+0.01%であった。しかし、処理後の位相シフトマスクは、フラットネスが悪化した。
【0079】
以上の実施例1−1〜1−8、参考例の位相シフトマスクに関する結果を対比すると、紫外線の照射パワーを上げることで緻密な表面改質層が形成され、耐薬品性、耐温水性の向上効果が大きくなる。
また、処理時間に関しては10分〜60分程度の範囲が良い。
また、加熱温度に関しては、室温〜200℃の範囲が良い。
次に、上記実施例1−1の位相シフトマスクを用いて耐光性についても調べた。すなわち、上記実施例1−1の位相シフトマスク(上記温水洗浄後のもの)に対して、ArFエキシマレーザー(波長193nm)を10mJ/cm/pulseのエネルギー、300Hzで、累積エネルギー10kJ/cmを照射し、照射による光半透過膜パターンの透過率変化の評価を行った。その結果、照射後の照射前に対する透過率変化は、+0.1%と小さく、耐光性を備えていることが確認できた。
【0080】
(実施例2)
合成石英ガラスからなる透光性基板上に、枚葉式スパッタ装置を用いて、スパッタターゲットにモリブデン(Mo)とシリコン(Si)との混合ターゲット(原子%比 Mo:Si=21:79)を用い、アルゴン(Ar)と窒素(N)との混合ガス雰囲気(ガス圧0.07Pa、ガス流量比 Ar:N=25:28)で、DC電源の電力を2.1kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、MoSiN膜を膜厚50nmで成膜し、引き続いて、Mo/Siターゲット(原子%比 Mo:Si=4:96)を用い、アルゴン(Ar)と窒素(N)との混合ガス雰囲気(ガス圧0.1Pa、ガス流量比 Ar:N=25:28)で、DC電源の電力を3.0kWとし、MoSiN膜を膜厚10nmで成膜することにより、MoSiN膜とMoSiN膜の積層からなるArFエキシマレーザー(波長193nm)用遮光膜を形成した。
【0081】
なお、ArFエキシマレーザーに対する遮光膜の光学濃度は3.0であった。また、前記露光光の波長193nmに対する遮光膜の表面反射率は16%であった。なお、光学濃度は、分光光度計(島津製作所社製:SS3700)を用いて測定した。
また、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、上記遮光膜の表面の表面粗さを測定したところ(測定エリア1μm×1μm)、Ra=0.56nmであった。
【0082】
次に、上記MoSi系遮光膜の上に、以下のCr系のエッチングマスク膜を成膜した。
具体的には、スパッタターゲットにクロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)と窒素(N)と酸素(O)との混合ガス雰囲気(ガス圧0.2Pa,ガス流量比 Ar:N:O=30:35:35)とし、DC電源の電力を1.7kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚17nmのCrON層を成膜した。
【0083】
以上のようにして、ガラス基板上にMoSi系遮光膜とCr系エッチングマスク膜を成膜したバイナリ型マスクブランクを用いて、バイナリ型マスクを作製した。
まず、上記マスクブランク上に、例えば電子線描画用ポジ型レジスト膜を形成し、このレジスト膜に対して所望のデバイスパターンの描画を行った。描画後、レジスト膜を現像処理することにより、レジストパターンを形成した。
【0084】
次に、このレジストパターンをマスクとして、塩素と酸素の混合ガスを用いたドライエッチングにより上記Cr系エッチングマスク膜をエッチングして、エッチングマスク膜パターンを形成した。残存するレジストパターンは酸素によるアッシングにより除去した。
次に、上記エッチングマスク膜パターンをマスクとして、フッ素系ガス(SF)を用いたドライエッチングにより上記MoSi系遮光膜をエッチングして、遮光膜パターンを形成した。
【0085】
次いで、塩素と酸素の混合ガスを用いたドライエッチングにより、上記エッチングマスク膜パターンを除去した。
こうして、透光性基板上にMoSi系遮光膜パターンを形成したバイナリ型マスクを作製した。なお、上記遮光膜の光学濃度及び表面反射率はマスクブランク製造時と殆ど変化はなかった。
【0086】
次いで、上記MoSi系遮光膜パターンに対して、紫外線を照射しながら、オゾンガスを作用させる本発明の処理を行った。
すなわち、チャンバー内に上記バイナリ型マスクを設置し、該チャンバー内に、高濃度オゾンガス(100体積%)を導入してチャンバー内を該ガスで置換することにより、上記バイナリ型マスクの遮光膜パターンに上記高濃度オゾンガスを接触させるようにした。この時のガス流量は50sccm、ガス圧力は70Paとした。また、上記チャンバー内に設置した高圧水銀灯で上記遮光膜パターンに対して紫外線照射を行った。この時の紫外線照射パワーは、600mW/cmとした。また、基板(マスク)は200℃に加熱し、処理時間(紫外線照射とオゾンガスを作用させる時間)は10分とした。
【0087】
以上のようにして作製されたバイナリ型マスクの上記遮光膜パターンの断面をTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて詳しく観察したところ、遮光膜パターンの表層部分及び側壁に厚さ略2.7nmの被膜(表面改質層)が均一に形成されていた。
また、処理後の遮光膜パターンの光学濃度及び表面反射率について確認したが、処理前と変化は認められなかった。
このように、本発明の処理前後において、MoSi系遮光膜パターンの光学特性が変化(劣化)することなく、表面改質層を形成することが確認できた。
【0088】
作製した本実施例のバイナリ型マスクを、バイナリ型マスクを電動モータ等で回転させながら、洗浄液供給ノズルから温水(90℃)を遮光膜パターンに対して60分供給することにより、温水洗浄を行った。
【0089】
上記洗浄後、上記遮光膜パターンのArFエキシマレーザー波長193nmにおける光学濃度を測定したところ、洗浄後の光学濃度は3.0であり、洗浄前と変化はなかった。また、表面反射率についても確認したが、洗浄前と殆ど変化は認められなかった。つまり、本実施例のバイナリ型マスクは、極めて高い耐温水性を備えていることが確認できた。
【0090】
次に、本実施例のバイナリ型マスクの耐光性についても調べた。すなわち、上記バイナリ型マスク(上記温水洗浄後のもの)に対して、ArFエキシマレーザー(波長193nm)を10mJ/cm/pulseのエネルギー、300Hzで、累積エネルギー10kJ/cmを照射し、照射による遮光膜パターンの光学濃度及び表面反射率変化の評価を行った。その結果、照射前と殆ど変化は認められず、優れた耐光性を備えていることが確認できた。
【0091】
(実施例3)
本実施例では、マスクブランクに対して本発明の処理を適用する場合について説明する。
透光性基板としてサイズ6インチ角、厚さ0.25インチの合成石英ガラス基板を用い、透光性基板上に、窒化されたモリブデン及びシリコンからなる光半透過膜を成膜した。
具体的には、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=10mol%:90mol%)を用い、アルゴン(Ar)と窒素(N)とヘリウム(He)との混合ガス雰囲気(ガス流量比 Ar:N:He=5:49:46)で、ガス圧0.3Pa、DC電源の電力を3.0kWとして、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、モリブデン、シリコン及び窒素からなるMoSiN膜を69nmの膜厚で形成した。このMoSiN膜は、ArFエキシマレーザー露光光の波長193nmにおいて、透過率は6.16%、位相差が184.4度となっていた。
【0092】
以上のようにして、ガラス基板上にMoSiN光半透過膜のパターン形成用薄膜を有する位相シフトマスクブランクを作製した。
次に、作製した上記位相シフトマスクブランクに対して、紫外線を照射しながら、オゾンガスを作用させる本発明の処理を行った。
すなわち、チャンバー内に上記位相シフトマスクブランクを設置し、該チャンバー内に、高濃度オゾンガス(100体積%)を導入してチャンバー内を該ガスで置換することにより、上記位相シフトマスクブランクの光半透過膜に上記高濃度オゾンガスを接触させるようにした。この時のガス流量は50sccm、ガス圧力は70Paとした。また、上記チャンバー内に設置した高圧水銀灯で上記光半透過膜に対して紫外線照射を行った。この時の紫外線照射パワーは、600mW/cmとした。また、基板は200℃に加熱し、処理時間(紫外線照射とオゾンガスを作用させる時間)は20分とした。
【0093】
以上のようにして本発明の処理を施して作製された位相シフトマスクブランクの光半透過膜の断面をTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて詳しく観察したところ、光半透過膜の表層部分に厚さ略3nmの被膜(表面改質層)が均一に形成されていた。
また、処理後の光半透過膜の透過率及び位相差について確認したが、処理前と変化は認められなかった。
【0094】
作製した本実施例の位相シフトマスクブランクに対して、実施例1と同じ条件で温水洗浄を行った後、上記光半透過膜のArFエキシマレーザー波長193nmにおける透過率を測定したところ、上記洗浄前の透過率に対する変化は、+0.01%と非常に小さく、優れた耐薬品性、耐温水性を備えていることが確認できた。
【0095】
また、本実施例の位相シフトマスクブランクの耐光性についても調べた。すなわち、実施例1と同じ条件でArFエキシマレーザー(波長193nm)を照射し、照射による光半透過膜の透過率変化の評価を行った。その結果、照射後の照射前に対する透過率変化は、+0.1%と小さく、耐光性を備えていることが確認できた。
【0096】
(比較例)
実施例1−1における本発明の処理において、紫外線照射は行わずに、オゾンガスを作用させる処理のみを行ったこと以外は、実施例1−1と同様にして位相シフトマスクを作製した。処理後の光半透過膜パターンの透過率及び位相差について確認したが、処理前と変化は認められなかった。
こうして作製した本比較例の位相シフトマスクに対して、上記実施例1−1と同じ条件で温水洗浄を行った結果、洗浄前に対する洗浄後の透過率変化は、+0.28%と大きく、マスクの長寿命化の観点から現状求められている耐温水性としては不十分である。
【符号の説明】
【0097】
1 透光性基板
2 薄膜
2a 薄膜パターン
3 レジスト膜
10 マスクブランク
20 転写用マスク
図1
図2