特許第6012992号(P6012992)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012992
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】電子写真用部材
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/08 20060101AFI20161011BHJP
   G03G 15/02 20060101ALI20161011BHJP
   G03G 15/16 20060101ALI20161011BHJP
   G03G 15/00 20060101ALI20161011BHJP
   C08F 220/22 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   G03G15/08 235
   G03G15/02 101
   G03G15/16 103
   G03G15/00 550
   C08F220/22
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-70694(P2012-70694)
(22)【出願日】2012年3月27日
(65)【公開番号】特開2013-205429(P2013-205429A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 洋介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正則
(72)【発明者】
【氏名】山口 直樹
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 敦之
【審査官】 平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/137724(WO,A1)
【文献】 特開2013−061383(JP,A)
【文献】 特開2008−165214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/08− 15/095
G03G 15/00− 15/02
G03G 15/16
G03G 15/20
C08F 220/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真装置に用いられる電子写真用部材であって、
マトリックスポリマー中に、フッ素原子を含有する含フッ素ハイパーブランチポリマーを含有する表層を有しており、
該表層は、
上記マトリックスポリマー100質量部に対し、上記含フッ素ハイパーブランチポリマーを0.1〜20質量部含有しているとともに、
上記含フッ素ハイパーブランチポリマーからなるとともに厚みを持ち、上記マトリックスポリマーよりも硬い層を表層表面側に有しており、
電子写真方式の画像形成装置に組み込まれる導電性ロールであることを特徴とする電子写真用部材。
【請求項2】
請求項1に記載の電子写真用部材であって、
上記含フッ素ハイパーブランチポリマーは、重合成分として、フッ素原子を含有する含フッ素モノマーに基づく重合単位を含むことを特徴とする電子写真用部材。
【請求項3】
請求項2に記載の電子写真用部材であって、
上記含フッ素モノマーは、分子内にフッ素含有基を有することを特徴とする電子写真用部材。
【請求項4】
請求項3に記載の電子写真用部材であって、
上記フッ素含有基は、フルオロアルキル基であることを特徴とする電子写真用部材。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載の電子写真用部材であって、
上記含フッ素ハイパーブランチポリマーは、上記含フッ素モノマーに基づく重合単位を5〜40mol%含むことを特徴とする電子写真用部材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電子写真用部材は、
上記表層表面にブレード部材を接触させた状態で使用されることを特徴とする電子写真用部材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の電子写真用部材は、
電子写真方式の画像形成装置に組み込まれる現像ロールまたは、帯電ロールであることを特徴とする電子写真用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真方式の複写機やプリンター、ファクシミリ等の電子写真装置が知られている。これら電子写真装置は、帯電させた感光体への画像データ露光による潜像形成、現像、転写媒体への転写、定着等の工程を経て画像形成を行う。そのため、装置内には、これら工程を実現するために各種の電子写真用部材が組み込まれている。
【0003】
例えば、感光体表面を帯電させるためにロール状の帯電部材が組み込まれている。また、感光体表面に形成された静電潜像にトナーを付着させて可視像とするためにロール状の現像部材が組み込まれている。また最近では、複数の感光体によって色別に形成した各トナー像をベルト表面に一次転写して各色のトナー像を重ね合わせ、これを用紙上に二次転写するため、ベルト状の中間転写部材が用いられている。
【0004】
これら電子写真用部材は、装置内においてその機能を果たすために所定の相手部材と接触した状態で配置されることが通常である。例えば、現像部材の表面には、摺擦によりトナーを荷電するためにブレード部材が接触していることが多い。また、帯電部材の表面には、用紙へのトナー像の定着後に表面に残存するトナーを除去するためにブレード部材が接触していることが多い。また、中間転写部材では、トナー像の転写後に表面に残存するトナーを除去するためにブレード部材を接触させることがある。
【0005】
このように各種の電子写真用部材は、相手部材と接触させて用いられることが多いため、部材表面に機能性の表層を設けることによって必要な表面機能を確保することが多い。
【0006】
電子写真用部材における表面機能の改良に関する先行技術としては、次の技術が知られている。例えば、特許文献1には、芯金の外周にウレタンゴムからなる弾性層を有する現像ロールにおいて、アクリルフッ素系ポリマーやアクリルシリコーン系ポリマーとイソシアネート成分とを含む表面処理液を用いて表面処理することにより、弾性層の表面に表面処理層を形成する技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、キャリア、スリーブ部材、ブレード部材等の電子写真用帯電部材の表層に、ハイパーブランチドポリマーを含有させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−202750号公報
【特許文献2】特開2000−258991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来技術は、以下の点で問題がある。
すなわち、ブレード部材等の相手部材に対し、電子写真用部材表面の滑り性が悪いと、ブレード部材がめくれる等の不具合が発生し、トナーこぼれ等によって良好な画像形成ができなくなるといった問題がある。
【0010】
また、電子写真用部材は、その表面に接触したトナーが離れやすい性質、いわゆる、トナー離型性を有している必要がある。トナー離型性が悪いと、ブレード部材等の相手部材からの圧力により、表層表面に残ったトナーが粘着等の原因で固着し、これに起因してスジ状の跡がつく等の画像不具合が発生しやすくなるという問題がある。
【0011】
近年では、トナーの劣化抑制や転写性を向上させるため、現像部材、帯電部材および転写部材等の電子写真用部材は、より柔軟化される傾向がある。表層の柔軟性が増すと、相手部材との接触面積や粘着性が増大する。そのため、相手部材との滑り性向上とトナー離型性との両立を図ることがいっそう困難な状況となっている。上記従来技術ではこれら状況に対応することが難しい。
【0012】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、表層表面の滑り性向上とトナー離型性との両立を図ることが可能な電子写真用部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様は、電子写真装置に用いられる電子写真用部材であって、
マトリックスポリマー中に、フッ素原子を含有する含フッ素ハイパーブランチポリマーを含有する表層を有しており、
該表層は、
上記マトリックスポリマー100質量部に対し、上記含フッ素ハイパーブランチポリマーを0.1〜20質量部含有しているとともに、
上記含フッ素ハイパーブランチポリマーからなるとともに厚みを持ち、上記マトリックスポリマーよりも硬い層を表層表面側に有しており、
電子写真方式の画像形成装置に組み込まれる導電性ロールであることを特徴とする電子写真用部材にある。
【発明の効果】
【0014】
上記電子写真用部材は、マトリックスポリマー中に、フッ素原子を含有する含フッ素ハイパーブランチポリマーを含有する表層を有している。そのため、表層のマトリックスポリマーに比較的柔軟な材料を用いた場合であっても、表層表面の滑り性向上とトナー離型性との両立を図ることができる。これは、次のメカニズムによるものと推察される。
【0015】
すなわち、表層中に添加された含フッ素ハイパーブランチポリマーのハイパーブランチ構造により、表層表面の近傍に硬い成分が集中して厚みを持った硬い層ができ、この硬い層によって、柔軟な材質のマトリックスポリマーを用いた場合でも表層表面の粘着性が低下し、表層表面の滑り性が向上するものと考えられる。一方、含フッ素ハイパーブランチポリマーのフッ素原子の多くが表層表面側を向き、表層の表面近傍におけるフッ素原子の濃度が高まり、フッ素原子による表面改質効果が大きくなってトナー離型性が向上するものと考えられる。また、上記表層は、マトリックスポリマー100質量部に対し、上記含フッ素ハイパーブランチポリマーを0.1〜20質量部含有している。そのため、上記電子写真用部材は、表層表面の滑り性向上とトナー離型性との両立を図るという効果を確実なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1の電子写真用部材を模式的に示した図である。
図2図1におけるII−II断面を示した図である。
図3】表層の構成を模式的に示した図である。
図4】従来の表層の構成を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上記電子写真用部材は、電子写真装置に用いられる部材である。電子写真装置としては、具体的には、帯電像を用いる電子写真方式を採用する複写機、プリンター、ファクシミリ、複合機、POD(Print On Demand)装置等の画像形成装置を例示することができる。
【0018】
上記電子写真用部材は、表層表面にブレード部材を接触させた状態で使用されることが好ましい。上述したように、上記電子写真用部材は、表層表面の滑り性向上とトナー離型性との両立を図ることができる。したがって、ブレード部材と表層表面との間の摩擦係数が小さくなり、ブレード部材がめくれる不具合が発生し難くなり、良好な画像形成を行いやすくなる。また、ブレード部材からの圧力により、表層表面に残ったトナーが粘着等の原因で固着することがなくなり、上記固着に起因するスジ状の跡がつく画像不具合を抑制しやすくなる。
【0019】
上記電子写真用部材は、具体的には、上記電子写真方式の画像形成装置に組み込まれる現像部材、または、帯電部材とすることができる。現像部材、帯電部材は、ブレード部材と接触して用いられることが多い。したがって、上記効果を十分に発揮させることができる
【0020】
ここで、上記電子写真用部材は、マトリックスポリマー中に、フッ素原子を含有する含フッ素ハイパーブランチポリマーを含有する表層を有している。
【0021】
マトリックスポリマーは、表層の基本骨格を形づくるポリマー成分として重要な役割を果たす。マトリックスポリマーは、上記役割を果たすことができれば特に限定されるものではなく、各種の樹脂やゴム(ゴムにはエラストマーも含まれる、以下省略)を用いることができる。これらは1種または2種以上併用することができ、電子写真用部材の種類等に応じて最適な材料を選択することができる。
【0022】
上記樹脂としては、例えば、各種の熱可塑性樹脂や、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との混合ポリマーなどを例示することができる。上記樹脂としては、具体的には、例えば、ウレタン樹脂、ウレタンシリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、アセタール樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、カーボネート樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、澱粉およびこれらの共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレンおよび他のオレフィン系単量体との共重合樹脂等のオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル−スチレン共重合樹脂等のスチレン系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール系樹脂およびこれらの誘導体または変性体、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリイソプレン、ポリブタジエン等のポリジエン類、ポリジメチルシロキサン等のポリシロキサン類、ポリスルホン類、ポリイミン類、ポリ無水酢酸類、ポリ尿素類、ポリスルフィド類、ポリフォスファゼン類、ポリケトン類、ポリフェニレン類、ポリハロオレフィン類、およびこれらの誘導体、メラミン樹脂などを例示することができる。これらのうち、好ましくは、表層の柔軟性向上、耐摩耗性向上などの観点から、ウレタン樹脂、ウレタンシリコーン樹脂などを用いることができる。
【0023】
また、上記ゴムとしては、具体的には、例えば、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(ECO、CO)、イソプレンゴム(IR)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム(Q)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、天然ゴム(NR)などを例示することができる。これらのうち、好ましくは、表層の柔軟性向上、耐摩耗性向上などの観点から、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ウレタンゴム(U)などを用いることができる。
【0024】
一方、マトリックスポリマーに含まれる含フッ素ハイパーブランチポリマーは、表層表面を改質し、表層表面に滑り性およびトナー離型性を付与する成分として重要な役割を果たす。ここで、上記「ハイパーブランチポリマー」とは、一般的な直鎖状(線状あるいは紐状等)の形状を有するポリマーとは異なり、分子構造中に積極的に分岐が導入されたハイパーブランチ構造を有するポリマーのことである
【0025】
含フッ素ハイパーブランチポリマーは、重合成分として、フッ素原子を含有する含フッ素モノマーに基づく重合単位を含むことができる。具体的には、含フッ素ハイパーブランチポリマーは、上記含フッ素モノマーに基づく重合単位を含む共重合体から構成することができる。なお、含フッ素ハイパーブランチポリマーは、1種または2種以上の異なる含フッ素モノマーに基づく重合単位を含むことができる。
【0026】
この場合には、含フッ素ハイパーブランチポリマーのハイパーブランチ構造中に、上記重合単位によってフッ素原子を導入することができる。そのため、上記重合単位の割合を変えることにより、含フッ素ハイパーブランチポリマー中のフッ素原子の量を調節しやすくなる。したがって、表層表面の滑り性とトナー離型性とのバランスをとりやすくなる利点がある。
【0027】
上記含フッ素モノマーは、分子内にフッ素含有基を有しているとよい。なお、「フッ素含有基」とは、フッ素原子を含有する基をいう。この場合には、フッ素含有基の種類を変えることにより、含フッ素ハイパーブランチポリマー中のフッ素原子の量を調節しやすくなる。したがって、表層表面の滑り性とトナー離型性とのバランスをとりやすくなる利点がある。
【0028】
上記フッ素含有基としては、具体的には、例えば、フルオロアルキル基、フルオロアルキルアルキレンオキシド基、フルオロアルケニル基、フッ素基(−F)などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。
【0029】
これらのうち、上記フッ素含有基としては、フルオロアルキル基(好ましくは、炭素数4〜12程度)を好適に用いることができる。含フッ素モノマーの分子内中に導入しやすいなどの利点があるからである。上記フルオロアルキル基は、アルキル基の全ての水素原子がフッ素化されていてもよいし(全フッ素化)、一部にフッ素化されていない箇所を含んでいてもよい(部分フッ素化)。特に好ましくは、上記フルオロアルキル基は、パーフルオロアルキル基であるとよい。含フッ素ハイパーブランチポリマー中のフッ素原子量を増加させることができ、上記効果が得やすくなるなどの利点があるからである。
【0030】
上記フルオロアルキル基としては、具体的には、例えば、トリフルオロメチル、トリフルオロエチル、トリフルオロブチル、ペンタフルオロプロピル、パーフルオロブチル、パーフルオロヘキシル、パーフルオロオクチル、パーフルオロデシル、パーフルオロ−3−メチルブチル、パーフルオロ−5−メチルヘキシル、パーフルオロ−7−メチルオクチル、オクタフルオロペンチル、ドデカフルオロヘプチル、ヘキサデカフルオロノニルなどを例示することができる。
【0031】
また、上記含フッ素モノマーは、好ましくは、分子内にフルオロアルキル基および少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマー(以下、これを「モノマーB」という。)とすることができる。モノマーBは、より好ましくは、(メタ)アクリル基またはビニル基のいずれか一方を少なくとも1つ有しているとよい。特に好ましくは、入手しやすさ、トナー離型性などの観点から、下記式1や式2で表される化合物とすることができる。
【0032】
【化1】
【0033】
但し、式1中、Rは、水素原子またはメチル基を表す。Rは、炭素原子数2〜12の水酸基で置換されてもよいフルオロアルキル基を表す。
【0034】
【化2】
【0035】
但し、式2中、Rは、上記式1における定義と同じ意味を表す。Xは水素原子またはフッ素原子を表す。mは1または2を表す。nは0〜5の整数を表す。
【0036】
このようなモノマーBとしては、具体的には、例えば、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロデシル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロ−3−メチルブチル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)エチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニル(メタ)アクリレート、1H−1−(トリフオロメチル)トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロブチル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−(パーフルオロ−3−メチルブチル)−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどを例示することができる。
【0037】
上記含フッ素ハイパーブランチポリマーは、上記含フッ素モノマーに基づく重合単位を5〜40mol%含むことができる。この場合には、表層表面の滑り性向上とトナー離型性との両立を図るという効果を確実なものとすることができる。また、マトリックスポリマー中に上記含フッ素ハイパーブランチポリマーを分散させやすい利点がある。
【0038】
上記重合単位の割合は、上記含フッ素ハイパーブランチポリマーの添加による十分な効果を得る観点から、好ましくは6mol%以上、より好ましくは7mol%以上、さらに好ましくは8mol%以上とすることができる。また、上記重合単位の割合は、マトリックスポリマーとの相溶性、マトリックスポリマーからの脱落抑制などの観点から、好ましくは39mol%以下、より好ましくは38mol%以下、さらに好ましくは36mol%以下とすることができる。なお、上記重合単位の割合は、熱分解GC/MS分析、NMR分析などによって測定することができる。
【0039】
上記含フッ素ハイパーブランチポリマーは、上記含フッ素モノマーに基づく重合単位以外にも、重合成分として他のモノマーに基づく重合単位を1種または2種以上含むことができる。
【0040】
上記他のモノマーとしては、例えば、分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマー(以下、これを「モノマーA」という。)を例示することができる。モノマーAとしては、(メタ)アクリル基またはビニル基の何れか一方または双方を有することが好ましく、より好ましくは、ジビニル化合物またはジ(メタ)アクリレート化合物であるとよい。このようなモノマーAとしては、具体的には、以下の(A1)から(A7)に示した有機化合物を例示することができる。
【0041】
(A1)ビニル系炭化水素:
(A1−1)脂肪族ビニル系炭化水素類;イソプレン、ブタジエン、3−メチル−1,2−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,2−ポリブタジエン、ペンタジエン、ヘキサジエン、オクタジエン等
(A1−2)脂環式ビニル系炭化水素;シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、ノルボルナジエン等
(A1−3)芳香族ビニル系炭化水素;ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、トリビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン、ジビニルフルオレン、ジビニルカルバゾール、ジビニルピリジン等
(A2)ビニルエステル、アリルエステル、ビニルエーテル、アリルエーテル、ビニルケトン:
(A2−1)ビニルエステル;アジピン酸ジビニル、マレイン酸ジビニル、フタル酸ジビニル、イソフタル酸ジビニル、イタコン酸ジビニル、ビニル(メタ)アクリレート等
(A2−2)アリルエステル;マレイン酸ジアリル、フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、アジピン酸ジアリル、アリル(メタ)アクリレート等
(A2−3)ビニルエーテル;ジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル等
(A2−4)アリルエーテル;ジアリルエーテル、ジアリルオキシエタン、トリアリルオキシエタン、テトラアリルオキシエタン、テトラアリルオキシプロパン、テトラアリルオキシブタン、テトラメタリルオキシエタン等
(A2−5)ビニルケトン;ジビニルケトン、ジアリルケトン等
(A3)(メタ)アクリル酸エステル:
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、アルコキシチタントリ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジオキサングリコールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1−アクリロイルオキシ−3−メタクリロイルオキシプロパン、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパン、9,9−ビス[4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、ウンデシレノキシエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビス[4−(メタ)アクリロイルチオフェニル]スルフィド、ビス[2−(メタ)アクリロイルチオエチル]スルフィド、1,3−アダマンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−アダマンタンジメタノールジ(メタ)アクリレート等
(A4)ポリアルキレングリコール鎖を有するビニル系化合物:
ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等
(A5)含窒素ビニル系化合物:
ジアリルアミン、ジアリルイソシアヌレート、ジアリルシアヌレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ビスマレイミド等
(A6)含ケイ素ビニル系化合物:
ジメチルジビニルシラン、ジビニルメチルフェニルシラン、ジフェニルジビニルシラン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラフェニルジシラザン、ジエトキジビニルシラン等
(A7)含フッ素ビニル系化合物:
1,4−ジビニルパーフルオロブタン、1,6−ジビニルパーフルオロヘキサン、1,8−ジビニルパーフルオロオクタン等
【0042】
これらのうち、好ましくは、上記(A1−3)群の芳香族ビニル系炭化水素化合物、(A2)群のビニルエステル、アリルエステル、ビニルエーテル、アリルエーテルおよびビニルケトン、(A3)群の(メタ)アクリル酸エステル、(A4)群のポリアルキレングリコール鎖を有するビニル系化合物、ならびに(A5)群の含窒素ビニル系化合物である。
【0043】
特に好ましくは、(A1−3)群に属するジビニルベンゼン、(A2)群に属するフタル酸ジアリル、(A3)群に属するエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−アダマンタンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートならびに(A5)群に属するメチレンビス(メタ)アクリルアミドである。これらの中でも、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートおよびトリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートが好ましく、より好ましくは、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートである。
【0044】
また、上記他のモノマーとしては、ほかにも例えば、分子内に少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有し、フルオロアルキル基を有さないモノマー(以下、これを「モノマーE」という。)を例示することができる。上記モノマーEとしては、(メタ)アクリル基またはビニル基の何れか一方を少なくとも1つ有する化合物、およびマレイミド化合物が好ましい。中でも、グリシジルメタクリレートなどのエポキシ基含有(メタ)アクリレート化合物、3−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシランなどのアルコキシシリル基含有(メタ)アクリレート化合物、シクロヘキシルマレイミド、N−ベンジルマレイミドなどのマレイミド化合物等が好ましい。
【0045】
また、上記他のモノマーとしては、ほかにも例えば、重合開始剤として有用な、アゾ基を有するモノマー(以下、これを「重合開始剤C」という。)を例示することができる。このような重合開始剤Cとしては、具体的には、以下の(C1)から(C6)に示した有機化合物を例示することができる。
【0046】
(C1)アゾニトリル化合物:
2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1'−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等
(C2)アゾアミド化合物:
2,2'−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2'−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2'−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2'−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2'−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2'−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)等
(C3)環状アゾアミジン化合物:
2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジスルフェートジヒドレート、2,2'−アゾビス[2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン]ジヒドロクロリド、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2'−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)ジヒドロクロリド等
(C4)アゾアミジン化合物:
2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2'−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]テトラヒドレート等
(C5)その他:
2,2'−アゾビスイソ酪酸ジメチル、4,4'−アゾビス−4−シアノバレリン酸、2,2'−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、1,1'−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、ジメチル1,1'−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)、4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等
(C6)フルオロアルキル基含有アゾ系重合開始剤:
4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸−2−(パーフルオロメチル)エチル)、4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸−2−(パーフルオロブチル)エチル)、4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸−2−(パーフルオロヘキシル)エチル)等
【0047】
上記重合開始剤Cの中でも、特に2,2'−アゾビスイソ酪酸ジメチルまたは2,2'−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)が好ましい。また、フルオロアルキル基を含有する観点から、4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸−2−(パーフルオロメチル)エチル)、4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸−2−(パーフルオロヘキシル)エチル)が好適である。
【0048】
なお、上記含フッ素ハイパーブランチポリマーは、例えば、上述のモノマーBとモノマーA(さらに必要に応じてモノマーE)とを、所定量の重合開始剤Cの存在下で重合させることにより得ることができる。また、上述のモノマーAを、所定量の重合開始剤Cの存在下で重合させることによっても得ることができる。この場合、モノマーAの少なくとも一部または重合開始剤Cのいずれか一方にフルオロアルキル基を有するものを用いればよい。あるいは、分子内にフルオロアルキル基を含まないモノマーAに対して、分子内にフルオロアルキル基を含まない重合開始剤C(例えば、末端にカルボン酸を含むもの等)の存在下で重合を行い、フッ素原子を含まないハイパーブランチポリマーを製造した後、これと、分子内にフルオロアルキル基を有するアルコール(例えば、2−(パーフルオロブチル)−エタノール、2−(パーフルオロヘキシル)エタノール等)とを反応させることによっても、含フッ素ハイパーブランチポリマーを得ることができる。
【0049】
なお、重合方法としては、例えば、溶液重合、分散重合、沈殿重合、塊状重合等を例示することができ、中でも溶液重合または沈殿重合が好ましい。特に分子量制御の点から、有機溶媒中での溶液重合によって反応を実施することが好ましい。
【0050】
上記表層は、上記マトリックスポリマー100質量部に対し、上記含フッ素ハイパーブランチポリマーを0.1〜20質量部含有している。
【0051】
上記含フッ素ハイパーブランチポリマーの含有量は、添加による十分な効果を得る等の観点から、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上とすることができる。また、上記含フッ素ハイパーブランチポリマーの含有量は、マトリックスポリマーとの相溶性、マトリックスポリマーからの脱落抑制、コストなどの観点から、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下とすることができる。なお、上記含フッ素ハイパーブランチポリマーの含有量は、溶剤による抽出後、抽出物を熱分解GC/MS分析、NMR分析して上記含フッ素ハイパーブランチポリマーの構造を特定した後、材料全体を熱分解GC/MS分析することなどによって測定することができる。
【0052】
上記表層は、マトリックスポリマー中に、他にも、導電剤を含有することができる。上記導電剤としては、具体的には、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素系導電材料、チタン酸バリウム、c−TiO、c−ZnO、c−SnO(c−は導電性を意味する。)等の導電性の金属酸化物や金属ナノ粒子などといった電子導電剤、第四級アンモニウム塩、ホウ酸塩、過塩素酸塩、イオン液体などといったイオン導電剤などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。
【0053】
上記表層は、マトリックスポリマー中に、他にも、必要に応じて、反応触媒、フィラー、カップリング剤、分散剤、レベリング剤、架橋剤、架橋助剤、粗さ形成用粒子、難燃剤、架橋剤、架橋助剤、可塑剤、軟化剤、滑剤などの各種添加剤を含有することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。
【0054】
上記表層の厚みは、特に限定されるものではなく、電子写真用部材の種類に応じて最適な厚みとすることができる。例えば、現像部材や帯電部材における表層の場合には、最適な硬度を確保する、過度な硬度上昇を抑制できるなどの観点から、1〜20μm程度の厚みとすることができる
【0055】
上記電子写真用部材において、表層よりも下方の構成は特に限定されるものではない。もっとも、電子写真装置への適用のしやすさを考慮すると、上記電子写真用部材は、ロール状であることが好ましい。この場合、上記電子写真用部材は、具体的には、例えば、軸体と、軸体の外周面に沿って形成された導電性を有するゴム弾性体よりなる弾性層と、弾性層の外周面に沿って形成された上記表層とを有する導電性ロールなどとして構成することができる。
【0056】
上記軸体には、導電性を有するものを好適に用いることができる。具体的には、例えば、ステンレス、アルミニウム、鉄等の金属(合金含む)からなる中実体(芯金)や中空体、導電性プラスチックからなる中実体や中空体、導電性または非導電性のプラスチックからなる中実体や中空体に金属めっきを施したものなどを例示することができる。
【0057】
上記弾性層を構成するゴム材料としては、例えば、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ブタジエンゴム、ヒドリンゴム、ニトリルゴムなどの各種のゴムを例示することができる。上記ゴム材料には、上述した導電剤、充填剤、増量剤、補強材、加工助剤、硬化剤、加硫促進剤、架橋剤、架橋助剤、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、顔料、シリコーンオイル、助剤、界面活性剤などの各種添加剤を適宜添加することができる。弾性層の厚みは、例えば、0.1〜10mm程度、好ましくは1〜5mm程度とすることができる。
【0058】
【実施例】
【0059】
実施例に係る電子写真用部材について、図面を用いて具体的に説明する。
【0060】
(実施例1)
実施例1に係る電子写真用部材の概略構成を図1図3を用いて説明する。図1図2に示すように、電子写真用部材Rは、電子写真装置に用いられるものである。本例の電子写真用部材は、具体的には、電子写真方式の画像形成装置に組み込まれるロール状の導電性部材であり、現像部材(現像ロール)または帯電部材(帯電ロール)として用いることができる。
【0061】
電子写真用部材Rは、表層1を有している。本例の電子写真用部材Rは、具体的には、導電性を有する軸体2と、軸体2の外周面に沿って形成された導電性を有するゴム弾性体よりなる弾性層3とをさらに有している。但し、軸体2の両端部は、弾性層3の両端面から突出した状態とされている。そして、この弾性層3の外周面に沿って表層1が形成されている。電子写真用部材Rは、現像部材として用いる場合には、摺擦によりトナーを帯電させたり一定厚みのトナーを形成したりするためのブレード部材を、表層1表面に接触させた状態で使用される。また、電子写真用部材Rは、帯電部材として用いる場合には、用紙へトナー像を定着させる定着工程の後に表面に残存するトナーを除去するためのブレード部材を、表層1表面に接触させた状態で使用される。
【0062】
図3に模式的に示すように、表層1は、マトリックスポリマー11中に、フッ素原子を含有する含フッ素ハイパーブランチポリマー12を含有している。
【0063】
マトリックスポリマー11は、具体的には、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との混合ポリマーよりなる。含フッ素ハイパーブランチポリマー12は、フッ素原子を含有する含フッ素(メタ)アクリルモノマー、より具体的にはフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリルモノマー、に基づく重合単位を含む共重合体よりなる。含フッ素ハイパーブランチポリマー12中における上記含フッ素(メタ)アクリルモノマーに基づく重合単位は、10〜40mol%の範囲内とされている。含フッ素ハイパーブランチポリマー12は、100質量部のマトリックスポリマー11に対して0.1〜20質量部の範囲内で含有されている。なお、表層1には、導電性を付与するために電子導電剤が添加されている。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
以下、実施例1に従う電子写真用部材としての導電性ロール試料と、比較例の導電性ロール試料とを作製し、評価を行った。その実験例について説明する。
(実験例)
<添加ポリマーの準備>
表層のマトリックスポリマー中に含有させる各添加ポリマーを以下のようにして準備した。
・含フッ素ハイパーブランチポリマー(1)
300mLの反応フラスコに、トルエン87gを仕込み、撹拝しながら5分間窒素を流し込み、内液が還流するまで(およそ温度110℃)加熱した。
一方、別の200mLの反応フラスコに、エチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業(株)、「1G」)3.96g(20mmol)と、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート(ダイキン工業(株)製、「R−1620」)12.54g(30mmol)と、メタクリル酸メチル(純正化学工業(株)製)5.00g(50mmol)と、ジメチル1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)(和光純薬工業(株)、「VE−73」)6.21g(20mmol)と、トルエン87gとを仕込み、撹拌しながら5分間窒素を流し込んで窒素置換を行い、氷浴にて0℃まで冷却を行った。
次いで、上記300mLの反応フラスコ中の還流してあるトルエン中に、滴下ポンプを用いて、上記200mLの反応フラスコ中の内容物を30分間かけて滴下した。滴下終了後、そのまま1時間熟成させた。
次いで、この反応液をヘキサン/トルエン(質量比4:1)555gに添加してポリマーをスラリー状態で沈殿させた。
次いで、このスラリーを減圧濾過し、テトラヒドロフラン(THF)42gを用いて再溶解し、このポリマーのTHF溶液をヘキサン555gに添加してポリマーをスラリー状態で再沈殿させた。
次いで、このスラリーを減圧濾過し、真空乾燥して、白色粉末の目的物である含フッ素ハイパーブランチポリマー(1)16.5gを得た。なお、ラジカル重合開始剤として用いたジメチル1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)の大部分は、上記再沈殿の際に洗い流される。そのため、得られたポリマー中に重合単位としてほとんど存在していない。
【0069】
・含フッ素ハイパーブランチポリマー(2)
上記含フッ素ハイパーブランチポリマー(1)の合成において、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート(ダイキン工業(株)製、「R−1620」)4.18g(10mmol)、メタクリル酸メチル(純正化学工業(株)製)7.00g(70mmol)とした以外は同様にして、含フッ素ハイパーブランチポリマー(2)17.3gを得た。
【0070】
・含フッ素ハイパーブランチポリマー(3)
上記含フッ素ハイパーブランチポリマー(1)の合成において、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート(ダイキン工業(株)製、「R−1620」)8.36g(20mmol)、メタクリル酸メチル(純正化学工業(株)製)6.00g(60mmol)とした以外は同様にして、含フッ素ハイパーブランチポリマー(3)15.0gを得た。
【0071】
・含フッ素ハイパーブランチポリマー(4)
上記含フッ素ハイパーブランチポリマー(1)の合成において、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート(ダイキン工業(株)製、「R−1620」)17.73g(40mmol)、メタクリル酸メチル(純正化学工業(株)製)4.00g(40mmol)とした以外は同様にして、含フッ素ハイパーブランチポリマー(4)14.5gを得た。
【0072】
・直鎖状アクリルフッ素系ポリマー
100mLの反応フラスコに、メタクリル酸メチル(純正化学工業(株)製)7.00g(70mmol)、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート(ダイキン工業(株)製、「R−1620」)12.54g(30mmol)と、ジメチル1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)(和光純薬工業(株)製、「VE−73」)1.24g(4mmol)と、メチルエチルケトン26.9gとを仕込み、撹拌しながら5分間窒素によるバブリングを行った後、内液の温度80℃にて7時間重合させた。
次いで、この反応液をヘキサン662gに添加してポリマーを沈殿させ、上澄み液をデカンテーションした後、その残渣をTHF54gに再溶解させた。
次いで、このポリマーのTHF溶液をヘキサン662gに添加してポリマーをスラリー状態で沈殿させた。
次いで、このスラリーを減圧濾過し、真空乾燥して、白色粉末の目的物である直鎖状アクリルフッ素系ポリマー6.0gを得た。
【0073】
・直鎖状アクリルシリコーン系ポリマー
200mLの反応フラスコに、メタクリル酸メチル(純正化学工業(株)製)9.50g(95mmol)、(メタ)アクリレート変性シリコーンオイル(信越化学工業(株)製、「X−22−174DX」)23g(5mmol)、ジメチル1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)(和光純薬工業(株)製、「VE−73」)1.24g(4mmol)と、メチルエチルケトン(MEK)26.9gとを仕込み、撹拌しながら5分間窒素によるバブリングを行った後、内液の温度80℃にて7時間重合させた。
次いで、MEK51.8gを仕込み、固形分で30%の直鎖状アクリルシリコーン系ポリマーを含有する溶液を得た。
【0074】
・フッ素非含有ハイパーブランチポリマー
1,4−フェニレンジアミン2.7g(25mmol)と、トリメリシン酸5.25g(25mmol)と、無水塩化リチウム3.0g(70mmol)と、ピリジン15mLと、N−メチル−2−ピロリドン200mLと、亜リン酸トリフェニル23.25g(75mmol)とを、窒素気流下、80〜85℃の温度にて5時間撹拌した。
次いで、反応液をメタノール2.5Lに徐々に添加し、淡黄色の結晶を析出させた。この結晶を吸引ろ過した後、メタノール1.0Lにて加熱、撹拌、洗浄を行い、ハイパーブランチポリマーを得た。そして、このハイパーブランチポリマーを、N−メチル−2−ピロリドン60mLに再溶解した後、メタノール1.0Lに注ぎ、再沈させた後、吸引ろ過し、80℃で真空乾燥することにより、灰白色粉末の目的物である、フッ素原子を含有しないフッ素非含有ハイパーブランチポリマー6.62gを得た。
【0075】
<表層形成用材料の調製>
熱可塑性ポリウレタン(日本ポリウレタン工業(株)製、「ニッポラン5199」)10質量部と、ポリエーテルジオール((株)ADEKA製、「アデカポリエーテルP−1000」)60質量部と、ポリイソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)製、「コロネートL」)30質量部と、電子導電剤(カーボンブラック)(ライオン(株)製、「ケッチェンEC300J」)3質量部と、表1に示す所定の種類かつ所定の配合量の各添加ポリマーとを、濃度20質量%となるようにMEKに溶解し、三本ロールを用いて十分に混合、分散させた。これにより、導電性ロール試料1〜13の作製に用いる各表層形成用材料を調製した。
【0076】
<導電性ロール試料の作製>
導電性シリコーンゴム[信越化学工業(株)製、「X−34−264A/B、混合質量比A/B=1/1」]をスタティックミキサーにて混合することにより、弾性層形成用材料を調製した。
【0077】
軸体として、直径6mmの中実円柱状の鉄棒を準備し、外周面に接着剤を塗布した。この軸体をロール成形用金型の中空空間にセットした後、上記調製した弾性層形成用材料を中空空間内に注入し、190℃で30分間加熱して硬化させ、脱型した。これにより、軸体の外周面に沿って導電性シリコーンゴムよりなるロール状の弾性層(厚み3mm)を形成した。
【0078】
次いで、上記弾性層の外周面に、ロールコート法により、上記調製した各表層形成用材料を塗工した後、120℃で60分間加熱して硬化させ、表層(厚み15μm)を形成した。これにより、上記弾性層の外周面に沿って表層を有し、かつ、表層は、熱可塑性ポリウレタンと熱硬化性ポリウレタンとの混合ポリマー中に、表1に示す所定の各添加ポリマーを含有する二層構造の導電性ロール試料1〜13を作製した。
【0079】
<ロール特性>
−表層表面の動摩擦係数μk−
静・動摩擦係数測定器(協和界面科学(株)製、「Triboster500」)のステージ上に固定した導電性ロール試料の表面(つまり、表層表面)に、接触子(直径3mmの鋼球製)による垂直荷重W50gを加え、この状態でステージを移動速度7.5mm/秒で水平方向に1cm移動させた。これにより導電性ロール試料と接触子との間に生じた摩擦力Fから、導電性ロール試料の表層表面における初期の動摩擦係数μk(F/W)を算出した。
【0080】
<実機評価>
−ブレード部材のめくれ−
導電性ロール試料を現像ロールとして、市販のカラープリンター(日本ヒューレット・パッカード(株)製、「Color Laser Jet4700dn」)に組み込み、黒ハーフトーン画像を出力した。通紙100枚以内において、表層表面に当接するブレード部材の長手方向の端部がめくれて生じるトナーこぼれによる画像不具合が、形成した画像端部に発生するか否かを確認した。上記画像不具合が生じなかった場合を、表層表面の滑り性向上によりブレード部材のめくれ「無し」と判断した。また、上記画像不具合が生じた場合を、表層表面の滑り性が悪くブレード部材のめくれ「有り」と判断した。
【0081】
−表層表面へのトナー固着−
導電性ロール試料を現像ロールとして、市販のカラープリンター(日本ヒューレット・パッカード(株)製、「Color Laser Jet4700dn」)用のカートリッジに組み込み、1枚白紙画像を出力した後、カートリッジを取り外し、40℃×95%RHの高温高湿環境下に30日間放置した。その後、このカートリッジを上記カラープリンターに取り付け、ハーフトーン画像を出力した。表層表面に接触するブレード部材との当接によるスジが、画像10枚以内の出力で消えた場合を、表層表面へのトナー固着「無し」と判断した。また、上記スジが、画像10枚以内の出力で消えなかった場合を、表層表面へのトナー固着「有り」と判断した。
【0082】
表1に、作製した導電性ロール試料の詳細な構成、ロール特性、実機評価の結果をまとめて示す。
【0083】
【表1】
【0084】
表1によれば、以下のことがわかる。
すなわち、試料7の導電性ロールは、表層のマトリックスポリマー中に含フッ素ハイパーブランチポリマーを全く含有していない。そのため、表層表面が低摩擦化されず、滑り性が悪い。したがって、ブレード部材がめくれてトナーこぼれが生じ、これによって良好な画像を形成することができなかった。さらに、表層表面のトナー離型性が悪く、表層表面にトナーが固着し、これに起因してスジ状の画像不具合が発生した。
【0085】
試料8の導電性ロールは、表層のマトリックスポリマー中に含フッ素ハイパーブランチポリマーを全く含有していないが、その代わりに直鎖状アクリルフッ素系ポリマーを含有している。そのため、上記アクリルフッ素系ポリマーの添加により、表層表面のトナー離型性を向上させることはできている。しかしながら、表層表面の動摩擦係数が大きく、表層表面の滑り性が悪い。その結果、ブレード部材がめくれてトナーこぼれが生じ、これによって良好な画像を形成することができなかった。
【0086】
試料9の導電性ロールは、表層のマトリックスポリマー中に含フッ素ハイパーブランチポリマーを全く含有していないが、その代わりに直鎖状アクリルシリコーン系ポリマーを含有している。そのため、上記アクリルシリコーン系ポリマーの添加により、表層表面の動摩擦係数が小さくなり、表層表面の滑り性を向上させることはできている。しかしながら、表層表面のトナー離型性が悪く、表層表面にトナーが固着し、これに起因してスジ状の画像不具合が発生した。
【0087】
試料10〜試料12の導電性ロールは、表層のマトリックスポリマー中に含フッ素ハイパーブランチポリマーを全く含有していないが、上述した直鎖状アクリルフッ素系ポリマーおよび直鎖状アクリルシリコーン系ポリマーの両方を含有している。しかしながら、この方法によっても、表層表面の滑り性向上とトナー離型性との両立を図ることは困難であり、いずれか一方の画像不具合が発生した。
【0088】
試料13の導電性ロールは、表層のマトリックスポリマー中にハイパーブランチポリマーを含有している。しかしながら、上記ハイパーブランチポリマーはフッ素原子を含有していない。そのため、表層のマトリックスポリマー中に添加ポリマーを全く含有していない試料7の導電性ロールと同様に、表層表面の滑り性向上とトナー離型性との両立を図ることができず、上述した両方の画像不具合が発生した。
【0089】
これらに対し、試料1〜試料6の導電性ロールは、表層のマトリックスポリマー中に、フッ素原子を含有する含フッ素ハイパーブランチポリマーを含有している。そのため、これによる表層表面の改質効果により、表層表面の滑り性向上とトナー離型性との両立を図ることができ、その結果、ブレード部材のめくれや表層表面へのトナー固着を抑制でき、良好な画像を形成することができた。
【0090】
上記結果は、次の理由によるものと考えられる。すなわち、図4に模式的に示すように、上述した試料8〜試料12の導電性ロールR’は、表層9のマトリックスポリマー91中に含フッ素ハイパーブランチポリマー12を全く含有しておらず、アクリルフッ素系ポリマー92やアクリルシリコーン系ポリマー93を含有している。しかし、これらポリマー92、93は、ハイパーブランチ構造を有しておらず、直鎖状である。そのため、これらポリマー92、93の官能基によって表層9表面の改質効果がある程度生じても、表層9表面の近傍に硬い成分が集中したり、表層9表面の近傍におけるフッ素原子の濃度が高まったりせず、表層9表面の滑り性向上とトナー離型性とを両立させることが難しかったものと考えられる。また、これらポリマー92、93を組み合わせてみても、表層9表面の滑り性向上とトナー離型性との両立に対して十分な効果が得られないことは上記実験例に示される通りである。
【0091】
上記に対し、試料1〜試料7の導電性ロールは、図3に模式的に示したように、マトリックスポリマー11中に添加された含フッ素ハイパーブランチポリマー12のハイパーブランチ構造により、表層1表面の近傍に硬い成分が集中して厚みを持った硬い層ができ、この硬い層によって、マトリックスポリマー11が本来有する粘着性が低下し、表層1表面の滑り性が向上したものと考えられる。一方、含フッ素ハイパーブランチポリマー12のフッ素原子の多く、つまり、本例ではフルオロアルキル基の多くが表層1表面側を向き、表層1の表面近傍におけるフッ素原子の濃度が高まり、フッ素原子による表面改質効果が大きくなってトナー離型性が向上したものと考えられる。
【0092】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。
【0093】
例えば、上記実験例では、本発明の電子写真用部材を現像ロールに適用した場合について説明したが、帯電ロールや中間転写ベルトにも同様に適用することが可能である。現像ロールと同様に、表層表面の滑り性向上とトナー離型性との両立を図ることが、画像形成時に有利に働くからである。
【符号の説明】
【0094】
R、B 電子写真用部材
1 表層
11 マトリックスポリマー
12 含フッ素ハイパーブランチポリマー
2 軸体
3 弾性層
4 表層
6 基層
図1
図2
図3
図4