(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願人は、これまでに以下で説明する穿刺デバイスについて発明を為しており、その発明に関する出願を行っている(国際特許公開第2007/018215号公報、出願日:2006年8月8日、発明の名称:「穿刺デバイスならびにそれを構成するランセットアッセンブリおよびインジェクターアッセンブリ」)。図面を参照しながら、この発明に係るランセットアッセンブリおよびインジェクターアッセンブリを簡潔に説明する(以後では、「インジェクターアッセンブリ」を「インジェクター」とも称して説明する)。
図18にランセットアッセンブリ100’の外観を示すと共に、
図19にインジェクター200’の外観を示す。
図18に示すように、ランセットアッセンブリ100’は、ランセット101’および保護カバー102’から構成されている。
図20および
図21に示すように、ランセット101’は、ランセットボディ104’、ランセットキャップ106’および穿刺部材105’を有して成る。金属製の穿刺部材105’は、樹脂製のランセットボディ104’およびランセットキャップ106’にまたがって存在している。穿刺部材105’の先端部は、ランセットキャップ106’によってカバーされていると共に、ランセットキャップ106’とランセットボディ104’とが弱化部材108’を介して一体に結合している。
図18および
図21に示すように、保護カバー102’は、ランセットボディ104’の一部を包囲するように設けられている。このようなランセットアッセンブリ100’は、インジェクター200’に装填された後でランセットキャップ106’が取り外される。これにより、穿刺部材105’の先端部が露出するので、ランセットを穿刺に供すことができる。
【0006】
図19に示すインジェクター200’は、ランセットアッセンブリ100’と組み合わせて用いて、穿刺部材105’の先端が露出した状態のランセットボディを発射することができるデバイスである。インジェクター200’は、「ランセットボディの後端部と係合でき、ランセットボディを穿刺方向に発射させるプランジャー204’」を有して成る(
図22参照)。インジェクター200’に装填するに際しては、
図22に示すように、ランセットアッセンブリ100’をインジェクター200’の前端開口部214’から挿入する。ある程度挿入すると、
図23に示すように、ランセットアッセンブリ100’の後方部分116’が、プランジャー204’の先端部264’, 266’によって把持される。引き続いて挿入を継続すると、プランジャー204’が後退して発射エネルギーが蓄積される。つまり、プランジャー204’の後退により、プランジャー204’に設けられたバネ(図示せず)が圧縮する(従って、その圧縮状態を解放すると、プランジャーが前方へと瞬時に移動し、ランセットが発射されることになる)。プランジャーが後退して発射エネルギーが蓄積された状態のインジェクター200’を
図24に示す。
【0007】
ランセットアッセンブリ100’のインジェクター200’への装填が完了すると、ランセットキャップ106’を取り外して穿刺部材105’の先端を露出させる。ランセットキャップ106’の取外しについて詳述すると次のようになる。
図20および
図21に示すように、ランセットボディ104’とランセットキャップ106’とは、その間に位置する弱化部分108’によって一体に結合されている。かかる弱化部材108’は、ランセットボディ104’とランセットキャップ106’とを穿刺部材の周囲で相対的に反対方向に回すことによって破壊させることができ(
図24にはG方向に回す態様が示されている)、それによって、ランセットキャップ106’を取り外すことができる。即ち、いわゆる“ツイストオフ”によって、穿刺部材105’の先端を露出させる。
【0008】
穿刺に際しては、穿刺すべき所定の部位(例えば指先)にインジェクター200’の前端開口部214’をあてがった後、トリガー部材514’のプレス部分542’を押す(
図25参照)。かかるプレス部分542’の押し込みによって、プランジャー204’が前方へと発射され(つまり、圧縮されていたバネが解放され)、穿刺部材によって穿刺が行われることになる。
【0009】
ここで、インジェクターのプランジャーは、ランセットを発射させる機能を担うものであってインジェクターの主要な部材であるものの、以下のような改善点があること本願発明者らは見出した。
・穿刺に際してプランジャーが穿刺方向へと前方移動する際には、プランジャーが脈動する可能性がある。プランジャーが脈動すると、穿刺時に被採血者が感じる痛みが増す。
・穿刺時の穿刺深さはプランジャーの前方移動が阻止されることによって規定されることになるが、その阻止に際してもプランジャーが脈動し得る。つまり、前方へと発射されたプランジャーが途中で阻止されると、その阻止による衝撃によってプランジャーの先端が脈動し、その結果、穿刺時に被採血者が感じる痛みが増す。
・プランジャーの形態は、その機能に鑑みれば“長尺形態”となる。しかしながら、そのような長尺形態”であるがゆえ、インジェクターの体積が全体として増す結果となっており、インジェクターの運搬効率・保管スペースの点や操作性などの点で必ずしも満足いくとはいえない。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたものである。つまり、本発明の課題は、より好適なプランジャーを備えたインジェクターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明では、
ランセットを発射させて穿刺に供するインジェクターであって、
ランセットを穿刺方向に発射させるプランジャー部材、および
プランジャー部材を内包するインジェクター・ケーシング
を有して成り、
プランジャー部材が、その先端部にランセット取付部を有して成り、かかるランセット取付部が外筒と内筒とから構成された二重筒構造を有し、外筒および内筒のそれぞれの胴部が相互に離隔している、インジェクターが提供される。
【0012】
本発明のインジェクターは、プランジャー部材のランセット取付部が外筒と内筒とから成る二重筒構造を有することを特徴の1つとする。特に、ランセット取付部は外筒および内筒のそれぞれの胴部が相互に離隔するような形態の二重筒構造となっている。
【0013】
本発明において“外筒”および“内筒”という用語における「筒」は、一方の端部に開口部を有する一方、他方の開口端に底部・底面を有する部材を実質的に意味している。
【0014】
ある好適な態様では、プランジャー部材のランセット取付部がインジェクター・ケーシングの前端開口部に対して内側に位置しており、「ランセット取付部の外筒の胴部外面」と「インジェクター・ケーシングの前端開口部の内壁面」とが相互に密接又は隣接している。つまり、「プランジャー部材のランセット取付部の外筒」と「インジェクター・ケーシングの前端開口部」との間に実質的に隙間がないようにプランジャー部材とインジェクター・ケーシングとが相互に位置付けられている。
【0015】
ランセットがプランジャー部材の取付部に装着される際、かかるランセット取付部の内筒はその外筒と別個に機能し得る。具体的には、ランセットがプランジャー部材のランセット取付部に装着されるに際して、ランセット取付部の内筒が外向きに拡がって変位する一方、ランセット取付部の外筒は変位しないまま維持される。
【0016】
ある好適な態様では、インジェクターが「プランジャー部材を穿刺方向に発射させるためのスプリング部材A」および「穿刺方向に発射されたプランジャー部材を引き戻すためのスプリング部材B」を更に有して成り、かかるスプリング部材Aとスプリング部材Bとが穿刺方向に直交する方向において相互に並列状態で設けられている。つまり、プランジャー部材の長手方向に沿って直列的形態でスプリング部材Aとスプリング部材Bとが設けられているのではなく、そのような長手方向と直交する方向に沿って横並びに隣接して並列的形態で設けられている。かかる態様では、プランジャー部材の後端側部分に2つの中空部AおよびBが相互に隣接するように並列して設けられていることが好ましく、スプリング部材Aが「プランジャー部材の中空部A」に設けられている一方、スプリング部材Bが「プランジャー部材の中空部B」に設けられていることが好ましい。尚、スプリング部材Bは、穿刺後のリチャージ・ランセット排出時にも機能し得る。
【0017】
別のある好適な態様では、インジェクターが穿刺深さ調節機構を更に有して成り、かかる穿刺深さ調節機構が
回転軸から各側面までの離隔距離Lがそれぞれ異なる異方形状部を備えた円盤部材、および
異方形状部の回転軸を貫通するように設けられた軸部材
を有して成り、
異方形状部の側面の少なくとも1つが穿刺方向に沿った方向に対して垂直な面を成すように円盤部材が設けられると共に、インジェクターの横断方向に沿って延在するように軸部材が設けられており、
穿刺に際してプランジャー部材が前方に移動した際、プランジャー部材の一部が異方形状部の側面に衝突することで、プランジャー部材がそれ以上の前方へと移動できないようになっており、
円盤部材の回転により異方形状部をその回転軸を中心に回転させることによって、前記“プランジャー部材の一部”が衝突することになる異方形状部の側面を“異なる離隔距離Lの側面”へと変更でき、それによって、穿刺に際してプランジャー部材が前方へと移動できる距離を変えることができるようになっている。
【0018】
穿刺深さ調節機構では、軸部材が可撓性を有していることが好ましい。特に、軸部材が穿刺方向およびその逆方向へと撓むことができることが好ましい。また、穿刺深さ調節機構では、軸部材と円盤部材とを一体的に構成してもよい。つまり、軸部材と円盤部材とを予め一体化させた部材として設けてもよい。更には、プランジャー部材が、その胴部側面に中空部Cを有し、軸部材が中空部Cを横切るように設けられていてよい。かかる場合、穿刺に際してプランジャー部材が前方に移動した際、中空部Cを規定するプランジャー胴部側面の一部が異方形状部の側面に対して衝突することになる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のインジェクターでは、プランジャー部材のランセット取付部が“相互に離隔した外筒および内筒”の二重筒構造となっているので、外筒および内筒にそれぞれ別個の機能を持たせることができる。具体的には、プランジャー先端の“内筒”はランセット装着に際して柔軟に形状変更でき良好な取付けを可能にする一方、その“外筒”はインジェクター・ケーシングの前端開口部と実質的に隙間なく設けられ、それによって、穿刺時の軌道ブレを減じることができる。つまり、ランセット取付部の“内筒”にはランセットが挿入されることになるが、かかる挿入に起因して内筒が外向きに拡がって変位することになり、その結果、挿入されるランセットの形態に応じて好適にランセットをプランジャー部材に保持できる。その一方、ランセット取付部の“外筒”は、ランセットの挿入によって変位することなく、インジェクター・ケーシングの前端開口部と実質的に隙間のない状態で位置付けられるので、穿刺時においてはプランジャー部材のランセット取付部(即ち、ランセット)の直進性を向上させる。この点、インジェクター・ケーシングの前端開口部とランセット取付部との間に必要以上に大きな隙間が生じていれば、スプリング力に起因して瞬時に前方へと発射されたプランジャー部材は、その先端部が波打つように脈動してランセットの直進性が損なわれることになるが、本発明では、「ランセット取付部の外筒」と「インジェクター・ケーシングの前端開口部」との間に実質的に隙間がないので、そのような不都合は減じられ、ランセットの穿刺軌道がより直線的となる。そして、穿刺軌道がより直線的となる結果、被穿刺者が穿刺時に感じる痛みを低減できる。特定の理論に拘束されるわけではないが、これは、穿刺針によって被採血者の穿刺箇所が“えぐられる”といった現象が減じられることに起因するものと考えられる。
【0020】
また、本発明のインジェクターでは、プランジャー部材に使用される2つのスプリングが並列的に横並びに設けられるので、結果としてプランジャー部材が短くなり、全体としてコンパクトなインジェクターが実現される。特に長手方向のサイズが減じられたインジェクターを実現できるので、運搬効率・保管スペースの点で望ましいだけでなく、人の手や指に対して適度なサイズとなることから使用時における操作性の点でも望ましい。
【0021】
更に、穿刺深さ調節機構を備えた本発明のインジェクターは、円盤部材を回転させることで“穿刺深さ”を調整することができ、操作性は優れている(具体的には、例えば、一方の手でインジェクターを握って、その手の親指1つで回転操作を行うことができる)。また、軸部材が可撓性を有することに起因して、「プランジャー部材の一部」と「異方形状部の側面」との衝突(即ち、プランジャー部材の前方移動制限のための“衝突”)に際して発生し得る“ランセット穿刺針の波打ち現象”を低減できる。換言すれば、プランジャー部材が穿刺深さ調節機構の異方形状部に衝突すると、その衝突に起因してランセットの穿刺針が波打つように振動することになり得るが(つまり、穿刺針の軌道がぶれることになり得るが)、異方形状部と直接的または間接的に連結された軸部材が可撓性を有しているので、波打つエネルギーを効果的に軸部材で吸収できる。このような機構によって“穿刺時のランセット穿刺針の波打ち現象”が減じられるので、それによっても被穿刺者が感じる痛みを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明のインジェクターの外観を示した斜視図である(
図1(a):トリガー設置側:
図1(b):
図1(a)に対する背面側)。
【
図2】
図2は、本発明のインジェクターの側面外観および端部外観を示した平面図である。
【
図3】
図3は、本発明のインジェクターの内部構造を示した半分割断面図である(
図3(a):トリガーが半分割される平面における断面図、
図3(b):エジェクターが半分割される平面における断面図)
【
図4】
図4は、「プランジャー部材」および「インジェクター・ケーシング」を少なくとも備えた本発明のインジェクターの内部構造を示した模式図およびその分解図である。
【
図5】
図5は、本発明のインジェクターに用いられる
プランジャー部材を示した斜視図である。
【
図6】
図6は、本発明のインジェクターに用いられる
プランジャー部材およびそのランセット取付部を拡大して示した斜視図である。
【
図7】
図7は、ランセット取付部の外筒とインジェクター・ケーシングの前端開口部との間に実質的に隙間がなくランセット取付部の穿刺軌道が直線的になる態様を示した模式図である。
【
図8】
図8は、“内筒がランセットの取付けに際して外向きに拡がって変位する一方、外筒がランセットの挿入によっても変位することなくインジェクター・ケーシングの前端開口部と実質的に隙間のない状態を維持する態様を示した模式図である。
【
図9】
図9(a)〜(d)は、使用時におけるインジェクターの経時変化を模式的に表した断面図(エジェクターが半分割される平面における断面図)である。
【
図10】
図10(a)〜(c)は、使用時におけるインジェクターの経時変化を模式的に表した断面図(エジェクターが半分割される平面における断面図)である。
【
図11】
図11(a)〜(d)は、使用時におけるインジェクターの経時変化を模式的に表した断面図(トリガーが半分割される平面における断面図)である。
【
図12】
図12(a)〜(c)は、使用時におけるインジェクターの経時変化を模式的に表した断面図(トリガーが半分割される平面における断面図)である。
【
図13】
図13は、穿刺深さ調節機構の構成を示した分解斜視図である。
【
図14】
図14は、穿刺深さ調節機構に用いられる「異方形状部を備えた円盤部材」および「可撓性の軸部材」を示した斜視図および平面図である。
【
図15】
図15は、穿刺深さ調節機構における深さ調整の態様を示した模式図である。
【
図16】
図16は、従来技術におけるプランジャーのランセット取付部とケーシング前端開口部との相対的位置関係を示した模式図である。
【
図17】
図17は、従来技術における「発射用スプリング」と「リターン・スプリング」との直列的な配置態様を示した模式図である。
【
図18】
図18は、ランセットアッセンブリの外観を表した斜視図である(従来技術)。
【
図19】
図19は、インジェクターの外観を表した斜視図である(従来技術)。
【
図20】
図20は、ランセットの外観を表した斜視図である(従来技術)。
【
図21】
図21は、ランセットの内部が分かるように、
図20のランセットを半分割した場合の斜視図である(従来技術)。
【
図22】
図22は、ランセットアッセンブリがインジェクターに装填される前の態様を示した斜視図である(従来技術)。
【
図23】
図23は、ランセットアッセンブリの装填によりランセットがプランジャー先端部に把持された態様を示した斜視図である(従来技術)。
【
図24】
図24は、ランセットアッセンブリの装填が完了し、プランジャーが後退できない状態となった態様を示した斜視図である(従来技術)。
【
図25】
図25は、ランセットキャップが外されて穿刺可能状態となった態様を示した斜視図である(従来技術)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
添付図面を参照して本発明のインジェクターについて詳細に説明する。
【0024】
本明細書で用いる“方向”については次の通り規定する。内筒の中央軸または長手方向に沿って内筒底部から内筒開口端へと向かう方向、あるいは、外筒の中央軸または長手方向に沿って外筒底部から外筒開口端へと向かう方向を「前」方向とし、その反対の方向を「後」方向とする。これらの方向は図面に示している。また、「横断方向」は、内筒または外筒の中央軸または長手方向に対して直交する方向とする。尚、「前方向」は、ランセットが発射される「穿刺方向」(即ち、穿刺に際して穿刺針またはプランジャー部材が移動する方向)に実質的に相当するものである。
【0025】
《インジェクターの基本的構成》
(基本構成)
図1〜
図4は、本発明に係るインジェクター200を示している。
図1および
図2はインジェクター200の外観図を示しており、
図3および
図4は、インジェクター200の内部構造を示している。
図3および
図4(特に
図4)に示すように、本発明に係るインジェクター200は、「プランジャー部材250」および「インジェクター・ケーシング270」を少なくとも有して成る。
【0026】
プランジャー部材250は、ランセットを穿刺方向へと発射させることによって穿刺に供する部材であって、ケーシング270の内部に設けられている。特に
図4に示すように、ランセット取付部251が前方側に位置し、それゆえに、インジェクター・ケーシング270の前端開口部271の内側にランセット取付部251が位置付けられるように、プランジャー部材250がインジェクター・ケーシング270の内部に設けられている。
【0027】
プランジャー部材250は、一般的な穿刺デバイスのプランジャーに用いられる樹脂材料であれば、いずれの種類の樹脂材料から形成されてもよい。同様にして、インジェクター・ケーシング270は、一般的な穿刺デバイスのケーシング(またはハウジング)などに用いられる樹脂材料であれば、いずれの種類の樹脂材料から形成されてもよい。
【0028】
図4に示すように、プランジャー部材250は、その先端にランセット取付部251を備えている。使用時においては
図5に示すようにランセット取付部251に対してランセット100が装着される。具体的には、ランセット100のランセットボディ104がランセット取付部251内に嵌め込まれ、それによって、ランセット100がプランジャー部材250に装着される。このようなランセット装着に際しては、プランジャー部材250がケーシング270内で後退して穿刺に必要な力がプランジャー部材250に蓄積される。具体的には、プランジャー部材に設けたスプリングがランセット装着に際して圧縮されることで発射に必要な力が蓄積される。そして、ランセットのプランジャー部材への装着が完了して発射可能準備となった段階において、ランセットからランセットキャップを外して穿刺針を露出させ、スプリングの圧縮状態を解放すると、プランジャー部材(即ち、穿刺針が露出したランセット)が穿刺方向へと発射され、穿刺が行われる。
【0029】
(プランジャー部材の二重筒構造)
本発明に係るインジェクターのプランジャー部材250においては、その先端部のランセット取付部251が外筒252と内筒253とから成る二重筒構造を有している。具体的には、
図6に示すように、プランジャー先端のランセット取付部251においては、外筒252および内筒253のそれぞれの胴部が相互に離隔している(より具体的には、外筒胴部と内筒胴部とがインジェクターの横断方向に沿って相互に離隔している)。あくまでも例示にすぎないが、外筒胴部と内筒胴部との離隔距離は1.5mm〜4mm程度(例えば1.5mm〜2mm程度)であってよい。このように“相互に離隔している”ことに起因して、外筒252と内筒253とをそれぞれ別個に機能させることができる。例えば、ランセット取付部251の外筒252を“穿刺時のプランジャーの直進性向上”に資するように機能させることができる一方、ランセット取付部251の内筒253は、ランセット装着にとって良好な“取付け”に資するように機能させることができる。
【0030】
まず“外筒”について詳述する。ランセット取付部の“外筒252”は、
図4および
図7に示すように、インジェクター・ケーシングの前端開口部271と実質的に隙間なく設けられている。特に図示するように、「ランセット取付部の外筒252の胴部外面252a」と「インジェクター・ケーシングの前端開口部271の内壁面271a」とが相互に密接又は隣接している。ここでいう「相互に密接又は隣接している」とは、胴部外面252aと内壁面271aとの間の距離が、0〜1.4mm、好ましくは0〜1.0mm、より好ましくは0〜0.5mm(例えば0〜0.2mm)程度となっていることを実質的に意味している。このように「ランセット取付部の外筒252」と「インジェクター・ケーシングの前端開口部271」との間に実質的に隙間がないので、穿刺時におけるプランジャーの軌道がより直線的となる。この点、インジェクター・ケーシングの前端開口部とランセット取付部との間に必要以上に大きな隙間が生じていれば(例えば従来技術のランセット取付部を示した
図16のような態様であれば)、スプリング力に起因して瞬時に前方へと発射されたプランジャーは、その先端部が波打つように脈動してランセットの直進性が損なわれる。本発明では、ランセット取付部の外筒252とインジェクター・ケーシングの前端開口部271との間に実質的に隙間がないので、そのような不都合は減じられ、プランジャー部材(特にそのランセット取付部251)の軌道がより直線的となる(
図7参照)。穿刺軌道がより直線的になると、被穿刺者が穿刺時に感じる痛みを低減することができる(特定の理論に拘束されるわけではないが、これは、穿刺針によって被採血者の穿刺箇所が“えぐられる”といった現象が減じられることに起因するものと考えられる)。
【0031】
一方、“内筒”についていうと、ランセット取付部の“内筒253”は、外筒と離隔した状態でその内側に位置付けられていると共に、その胴部に切欠き部分(
図5および
図6の“253a”)が設けられている。それゆえ、ランセットが内筒253に装着されるに際しては、内筒253が外向きに拡がって変形することができる。特に切欠き部分253aに起因して内筒253が横断方向外側に拡がると共に、その拡がりを許容する空間が内筒の外側に形成されているので、内筒の形状変更について自由度が高く、結果的に、装着されるランセットボディに適した良好な“取付け”が可能となる(
図8参照)。
【0032】
このように、ランセット取付部の“内筒”はランセットの取付けに際してランセット形状に応じ外向きに拡がって変位し、それによって、ランセットを好適にプランジャーへと固定できる一方、ランセット取付部の“外筒”は、ランセットの挿入によっても変位することなくインジェクター・ケーシングの前端開口部と実質的に隙間のない状態を維持するので、穿刺時のランセット取付部(即ち、ランセット)の直進性向上に好適に資することになる。尚、「“内筒253”はランセットの取付けに際して外向きに拡がって変位する一方、“外筒252”はランセットの挿入によっても変位することなく、インジェクター・ケーシングの前端開口部271と実質的に隙間のない好適な状態を維持する」といった態様は、特に
図8にて模式的に示されている。
【0033】
(プランジャー部材のスプリング)
本発明に係るインジェクターのプランジャー部材250においては、スプリングの設置態様が従来技術に見られない特異なものとなっている。具体的には、
図4に示すように、プランジャー部材には「プランジャー部材を穿刺方向に発射させるためのスプリング部材A(282)」および「穿刺方向に発射されたプランジャー部材を引き戻すためのスプリング部材B(284)」が設けられており、かかるスプリング部材A(282)とスプリング部材B(284)とが穿刺方向に直交する方向において相互に並列状態で設けられている。この点、従来のプランジャーでは、例えば
図17に示すように「プランジャーを穿刺方向に発射させるための発射用スプリング」と「穿刺方向に発射されたプランジャーを引き戻すためのリターン・スプリング」とが“直列的”に設けられており(即ち、発射用スプリングとリターン・スプリングとが穿刺方向に沿って隣接するように設けられており)、かかる“直列的な設置”に応じたインジェクター長さが供されていた。本発明のインジェクターでは、プランジャーの2つのスプリングが並列的に横並びに設けられているので、結果としてプランジャーが短くなり、全体としてコンパクトなインジェクターが実現される。あくまでも例示にすぎないが、本発明のインジェクターは、従前のインジェクターよりも長手方向寸法を10%〜40%程度、好ましくは20%〜40%程度(例えば30%〜40%程度)減じることができる。このように、本発明では特に長手方向サイズが減じられたインジェクターを実現できるので、運搬効率・保管スペースの点で望ましいだけでなく、人の手や指に対して適度なサイズとなって使用時の操作性の点でも望ましい。
【0034】
スプリング部材AおよびB(282,284)は、プランジャー部材に設けられた中空部に収容されるように設置されている。換言すれば、本発明ではスプリング部材の並列設置を好適に実現すべくプランジャー部材の形態に創意工夫が施されている。具体的には、
図4に示すように、プランジャー部材250の後端側胴部に2つの中空部A(232)および中空部B(234)がプランジャー横断方向(即ち、穿刺方向に直交する方向)に沿って相互に隣接するように形成されており、スプリング部材A(282)が「プランジャーの中空部A(232)」に設けられている一方、スプリング部材B(284)が「プランジャーの中空部B(234)」に設けられている。このような形態で2つのスプリング部材が設けられることによって、インジェクター・ケーシング270の内部を有効活用することができ、全体としてコンパクトなインジェクターを実現できる。
【0035】
中空部におけるスプリング部材の具体的な設置態様についていえば、スプリング部材A(282)は、その前方端部が「中空部Aの前方スプリング取付部232a(プランジャー部材側)」に取り付けられる一方、その後端部が「中空部Aを横切るように突出するケーシング突起部272a(ケーシング側)」に当接するように設けられる(
図4上側参照)。スプリング部材B(284)は、その前方端部が「中空部Bを横切るように突出するケーシング・リチャージ部材274の突起部274b(ケーシング側)」に当接する一方、その後端部が「中空部Bの後方スプリング取付部234b(プランジャー部材側)」に取り付けられるように設けられる(同じく
図4上側参照)。
【0036】
以下では、スプリング部材AおよびBの機能がそれぞれ良く理解できるように、
図9〜12を参照しながら、使用時のインジェクター200の態様について説明する。「
図9(a)〜(d)・
図10(a)〜(c)」ならびに「
図11(a)〜(d)・
図12(a)〜(c)」は、それぞれ、その番号順にインジェクター200の使用時の経時変化を示している。ここで、「
図9(a)〜(d)・
図10(a)〜(c)」と、「
図11(a)〜(d)・
図12(a)〜(c)」とは、図面番号の添字が同じであれば、それぞれ相互に同じ時点の状態を示している。
【0037】
まず、
図9(a)および(b)に示すように、ランセット100が装着される前の穿刺前状態では、プランジャー部材に設けられたスプリング部材A(282)は特に圧縮されていない。使用に際しては、インジェクターのキャップ230が取り外された後、ランセット100がプランジャー先端の取付部内筒253に挿入される。かかるランセット100の挿入に際しては、プランジャー部材250が後方へと移動する。具体的には、内筒253にランセット100が挿入されると、挿入されたランセット100に突かれる形でプランジャー250が後方へと移動する。かかる移動に際しては、
図9(b)および(c)に示すように、スプリング部材A(282)が圧縮され、発射のための力が蓄積される。最終的には、プランジャー部材の係止部がトリガーの被係止部に係止されることによって(例えば、
図11(c)に示すようにプランジャー部材の係止部259がトリガーの被係止部279に係止されることによって)、スプリング部材A(282)の圧縮状態が保持され、穿刺可能な状態となる。
【0038】
“穿刺可能な状態”が得られた後、ランセットからランセットキャップ106を取り外して穿刺針を露出させる。穿刺針の露出後、インジェクターのキャップ230を再度取り付ける。穿刺に際しては、トリガー220(
図11(c)参照)を外側からインジェクター内部方向へと押圧することによって、「プランジャー部材の係止部」と「トリガーの被係止部」との係止状態を解除する。これにより、圧縮されていたスプリング部材A(282)が瞬間的に一気に伸びることになり、「露出した穿刺針105を備えたランセットボディ104」が前方の穿刺方向に向かって発射される(
図9(d))。穿刺時においては、
図9(d)に示すように、スプリング部材A(282)が最大限に伸びる一方で、スプリング部材B(284)が圧縮される。従って、所定部位を穿刺した後では、スプリング部材A(282)が元の形状に戻ろうとするのに加えて、圧縮されたスプリング部材B(284)が元の形状に戻ろうとしてプランジャー部材250を後方へと押圧するので、プランジャー部材、即ち、ランセットボディ104/穿刺針105が素速く後退することになる。穿刺後の状態は、
図10(a)(および
図12(a))に示される。
【0039】
このような使用時のインジェクター態様から分かるように、スプリング部材A(282)は、プランジャー部材を穿刺方向に発射させるためのスプリングとして主に機能する一方、スプリング部材B(284)は、穿刺方向に発射されたプランジャー部材を引き戻すためのスプリングとして主に機能する。
【0040】
ちなみに、穿刺後においては、
図10(b)および(c)に示されるように、一旦プランジャー部材を再度後方へと戻した後(いわゆる“リチャージ”させ)、エジェクター260を前方へとスライド移動させて、ランセット100をプランジャー部材250から取り外す(いわゆる“ランセットの排出”を行う)。
図10(b)および(c)に示す態様から分かるように、スプリング部材B(284)は、かかる穿刺後のリチャージおよびランセット排出時にも機能し得る。具体的には、リチャージすべくケーシングのリチャージ部材274を後方へと引くが、その際にスプリング部材B(284)が、適度な反発力・抗力を供すると共に、ランセット排出時にはプランジャー250が必要以上に前方へと移動してしまうことを防止し(エジェクターによるランセット押圧に起因してプランジャーには前方移動する力がかかる)、プランジャー取付部251からのランセット100の取外しに有効に機能する。
【0041】
(プランジャー部材の穿刺深さ調節機構)
本発明に係るインジェクターのプランジャー部材250は、従来技術に見られない特異な「穿刺深さ調節機構」を備えている。かかる穿刺深さ調節機構は、
図13および
図14に示すように、円盤部材294および軸部材296を少なくとも有して成る。特に
図14に示すように、円盤部材294は、その回転軸から各側面までの離隔距離Lがそれぞれ異なる異方形状部295を備えている。一方、軸部材296は、異方形状部295の回転軸を貫通するように設けられる。
【0042】
穿刺深さ調節機構においては、異方形状部295の側面(295a,295b,295c,295d,・・・)の少なくとも1つが穿刺方向に沿った方向に対して垂直な面を成すように円盤部材294が設けられると共に、インジェクターの横断方向に沿って延在するように軸部材296が設けられている。このような穿刺調節機構では、穿刺に際してプランジャー部材250が前方へと移動した際、プランジャー部材の一部が異方形状部の側面に衝突することで、プランジャー部材がそれ以上の前方へと移動できないようになっている。それゆえ、円盤部材294を回転させて異方形状部295をその回転軸を中心に回転させ、プランジャー部材250の一部(例えば、プランジャー胴部の一部)が衝突することになる異方形状部295の側面を“異なる離隔距離Lの側面”へと変更すると、穿刺に際してプランジャー部材が前方へと移動できる距離が変わることになる(
図15参照)。つまり、穿刺時のプランジャー部材の前方移動は、異方形状部295の側面(295a,295b,295c,295d,・・・)によって阻止されることになるところ、その側面を変更して“阻止される位置”を変えることによって、プランジャー部材の前方移動の許容距離を変えることができ、結果的に、インジェクター・キャップから露出する穿刺針の長さを変更できる。尚、
図14に示されるように、円盤部材294に記された“目盛数字”と“異なる離隔距離Lの各側面”とは相互に対応した関係にあるので、使用者は円盤部材294の“目盛数字”を目安にして、プランジャー部材が衝突することになる異方形状部295の側面を“異なる離隔距離Lの側面”へと変更することができる。
【0043】
本発明では、軸部材296が可撓性を有していることが好ましい。特に、軸部材296が穿刺方向およびその逆方向へと撓むことができることが好ましい。そのように軸部材296が可撓性を有していると、“プランジャー部材の前方移動阻止”に際して発生し得る“ランセット穿刺針の波打ち現象”を効果的に低減することができる。具体的には、「穿刺針105が露出したランセット」を備えたプランジャー部材は、穿刺時においては異方形状部に衝突するが、その衝突される異方形状部と連結した軸部材が可撓性を有していると、衝突エネルギーが軸部材に効果的に吸収される。その結果、衝突時に穿刺針へと伝わる衝突エネルギーが減じられることになり、“ランセット穿刺針の波打ち現象”が減じられる。
【0044】
可撓性を有する軸部材296は、軟質系材料、例えば軟質樹脂材料や弾性材料などから形成されることが好ましい。これにつき例示すると、軸部材296は例えばシリコン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ゴムおよびポリエステル系エラストマーなどから成る群から選択される少なくとも1種類の材質から成るものであってよい。尚、インジェクターが穿刺深さ調節機構を有する態様では、軸部材296と円盤部材294とを一体的に構成してもよい。つまり、軸部材296と円盤部材294とが予め一体化した部材として設けてもよい(かかる場合、円盤部材および/またはその異方形状部などが軸部材と共に可撓性を有していてよい)。軸部材296と円盤部材294とが予め一体化した部材である場合、軸部材296と円盤部材294とを軟質系材料から一体成形(一体成型)によって得ることができ、それゆえ、それらは単一部材として軟質系材料から成る。
【0045】
好ましくは、プランジャー部材250は、その胴部側面に中空部C(例えば
図4の“236”)を有し、軸部材296が中空部Cを横切るように設けられていることが好ましい(横切るように延在する軸部材296の先端は、ケーシング内壁部に設けられた穴部に位置付けられることが好ましい)。穿刺に際してプランジャー部材が前方へと移動した際、中空部Cを規定するプランジャー部材の胴部側面の一部(
図15でいえば参照番号“273”の部分)が異方形状部295に衝突して前方移動が阻止されることが好ましい。このような態様では、穿刺深さ調節機構がインジェクターにおいて占める体積を比較的小さくできる。この点、図示される態様から分かるように、穿刺深さ調節機構に起因してインジェクター・サイズを特段大きくする必要がなく、その結果、比較的コンパクトなインジェクターが実現され得る。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されない。本発明では種々の形態が考えられるだけでなく、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。
【0047】
例えば、ランセット取付部251では、外筒252および内筒253のそれぞれの胴部が相互に離隔しているものの、ランセットの取付け時の内筒の変位を阻害しないのであれば、外筒胴部と内筒胴部とを相互に局所的に連結するリブ部(例えば、
図6にて参照番号“254”で示す部材)が設けられていてもよい。これによって、外筒の内側において内筒がより安定的に保持される。