(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
入力軸から、その入力軸と同軸上に配置されて軸受により相対的に回転自在に支持された出力軸への回転の伝達と遮断とを行なう2方向クラッチと、前記入力軸上に設けられて前記2方向クラッチと対向する電磁クラッチと、その電磁クラッチおよび2方向クラッチを覆い、軸方向一方の端部に前記出力軸が挿通される軸受筒が設けられたハウジングとを有し、前記電磁クラッチが電磁石を備え、その電磁石に対する通電により前記2方向クラッチを係合解除させ、通電の遮断により2方向クラッチを係合させるようにした回転伝達装置において、
前記ハウジングにおける前記軸受筒の内径面に軸方向他方側から圧入された軸受によって前記出力軸を回転自在に支持し、前記ハウジングにおける前記軸受筒の内径面に軸方向一方側から圧入された密封シールによって前記軸受筒の内径面と出力軸の外径面間をシールすることを特徴とする回転伝達装置。
前記密封シールが、前記出力軸の外径面に弾性接触されるシールリップおよびそのシールリップの外周に装着されてシールリップのリップ先端を出力軸の外径面に弾性接触させるガータスプリングを有するばね付きオイルシールからなる請求項1に記載の回転伝達装置。
前記密封シールが、前記出力軸の外径面に弾性接触される内向きリップおよび外向きリップと、その外向きリップの外側に配置されて出力軸の外径面間にラビリンスを形成する第3リップとを有してなるトリプルリップオイルシールからなる請求項1に記載の回転伝達装置。
前記2方向クラッチが、出力軸の軸端部に設けられ、閉塞端部内に入力軸の軸端部を回転自在に支持する軸受が組み込まれた外輪の内周と入力軸の軸端部に設けられた内輪の外周間に、制御保持器に設けられた複数の円形配置の柱部と回転保持器に設けられた複数の円形配置の柱部とを周方向に交互に配置されるよう組み込んで隣接する柱部間にポケットを設け、そのポケット内に対向一対の係合子を組込み、その一対の係合子を、その対向部間に組み込まれた弾性部材により離反する方向に向けて付勢して外輪の内周と内輪の外周とに係合させ、前記電磁クラッチの電磁石に対する通電により前記制御保持器と回転保持器を、ポケットの周方向幅が小さくなる方向に相対回転させて、一対の係合子を係合解除させるようにした係合子タイプのものからなる請求項1乃至4のいずれか1項に記載の回転伝達装置。
前記係合子がローラからなり、そのローラが外輪の内周に形成された円筒面と内輪の外周に形成されて前記円筒面との間でくさび空間を形成するカム面とに対して係合可能とされた請求項5に記載の回転伝達装置。
【背景技術】
【0002】
駆動軸から従動軸への回転の伝達と遮断とを行う回転伝達装置として、2方向クラッチを有し、その2方向クラッチの係合および解除を電磁クラッチにより制御するようにしたものが従来から知られている。
【0003】
特許文献1に記載された回転伝達装置においては、外輪とその内側に組み込まれた内輪との間に制御保持器と回転保持器とを、各保持器に形成された柱部が周方向で交互に配置されるよう組込み、隣接する柱部間に形成されたポケット内に対向一対のローラを組込み、その一対のローラを、その対向部間に組み込まれた弾性部材で離反する方向に付勢して、外輪の内周に形成された円筒面と内輪の外周に形成されたカム面に係合する位置にスタンバイさせ、上記内輪の一方向への回転により一方のローラを円筒面およびカム面に係合させ、内輪の回転を外輪に伝達するようにしている。
【0004】
また、内輪が設けられた入力軸上に電磁クラッチを設け、その電磁クラッチにより制御保持器を軸方向に移動させ、その制御保持器のフランジと回転保持器のフランジの対向面間に設けられたトルクカムの作用によりポケットの周方向幅が小さくなる方向に制御保持器と回転保持器とを相対回転させて、各保持器の柱部で一対のローラを係合解除位置まで移動させ、内輪から外輪への回転伝達を遮断するようにしている。
【0005】
上記回転伝達装置においては、電磁クラッチにより制御保持器のフランジが回転保持器のフランジから離反する方向に制御保持器を移動させると、対向一対のローラ間に組み込まれた弾性部材の押圧作用により、制御保持器と回転保持器とがポケットの周方向幅が大きくなる方向に相対回転して対向一対のローラが円筒面およびカム面に直ちに係合するため、回転方向ガタがきわめて小さく、応答性に優れているという特徴を有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献1に記載された回転伝達装置においては、普通、外輪、内輪、一対のローラおよび保持器によって形成される2方向クラッチおよびその2方向クラッチを制御する電磁クラッチのそれぞれを、出力軸支持用の軸受筒を端部に有するハウジングで覆うようにしているが、2方向クラッチや電磁クラッチをハウジングによって単に覆う構成であると、上記軸受筒の開口から内部に異物が侵入し、その異物の噛み込みによって2方向クラッチが機能しなくなる可能性がある。
【0008】
そのような不都合を解消するため、出力軸の外径面にダストカバーを圧入し、そのダストカバーに設けられた円板部およびその円板部の外周に設けられた円筒部で軸受筒の端部開口を覆うようにして、異物の侵入を防止することが一般的に行われる。
【0009】
しかし、ラビリンス構造のダストカバーを採用する場合、異物を排出し易い構造とするため、遠心力の方向を考慮して、出力軸の外径面にダストカバーを圧入することが考えられるが、そのダストカバーの取り付けが、入力軸の軸端面をテーブル等で支持し、出力軸の軸端からその外径面上にダストカバーを圧入する取付けであるため、圧入による軸方向荷重が入力軸と出力軸とを相対的に回転自在に支持する軸受に負荷されて、その軸受が損傷し、その軸受の損傷を防止する上において改善すべき点が残されている。
【0010】
この発明の課題は、入力軸と出力軸の相互間で回転の伝達と遮断とを行なう2方向クラッチおよびその2方向クラッチを係合および解除を制御する電磁クラッチを有する回転伝達装置において、入力軸と出力軸とを相対的に回転自在に支持する軸受を損傷させることなくハウジングの開口端を密封できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明においては、入力軸から、その入力軸と同軸上に配置されて軸受により相対的に回転自在に支持された出力軸への回転の伝達と遮断とを行なう2方向クラッチと、前記入力軸上に設けられて前記2方向クラッチと対向する電磁クラッチと、その電磁クラッチおよび2方向クラッチを覆い、一方の端部に前記出力軸が挿通される軸受筒が設けられたハウジングとを有し、前記電磁クラッチが電磁石を備え、その電磁石に対する通電により前記2方向クラッチを係合解除させ、通電の遮断により2方向クラッチを係合させるようにした回転伝達装置において、前記ハウジングにおける軸受筒の内径面に密封シールを圧入して、軸受筒の内径面と出力軸の外径面間をシールした構成を採用したのである。
【0012】
上記のように、軸受筒内に密封シールを組み込んで軸受筒の内径面と出力軸の外径面間をシールすることにより、ハウジング内に異物が侵入するのを防止することができる。その異物侵入防止用の密封シールが軸受筒の内径面に圧入する取付けであるため、出力軸と入力軸とを相対的に回転自在に支持する軸受に負荷をかけることなく密封シールの組付けを行なうことができる。
【0013】
ここで、密封シールは、出力軸の外径面に弾性接触されるシールリップおよびそのシールリップの外周に装着されてシールリップのリップ先端を出力軸の外径面に弾性接触させるガータスプリングを有するばね付きオイルシールからなるものであってもよく、あるいは、出力軸の外径面に弾性接触される内向きリップおよび外向きリップと、その外向きリップの外側に配置されて出力軸の外径面間にラビリンスを形成する第3リップとを有してなるトリプルリップオイルシールからなるものであってもよい。
【0014】
また、密封シールは、軸受筒の内径面に嵌合される嵌合筒部の内側端から内向きに円板部が形成され、その円板部に、前記出力軸の外径面に嵌合されたスリンガの円筒部外径面に弾性接触されるラジアルリップと、前記円筒部の外端から径方向外方に向く円板部の内側面に弾性接触される一対のサイドリップが設けられた高気密性オイルシールからなるものであってもよい。
【0015】
上記のような密封シールの採用によって、2方向クラッチ内への異物の侵入を確実に防止することができるため、入力軸と出力軸とを相対的に回転自在に支持する軸受として、コストの安い開放型のものを採用することができる。
【0016】
この発明に係る回転伝達装置において、2方向クラッチとして、出力軸の軸端部に設けられ、閉塞端部内に入力軸の軸端部を回転自在に支持する軸受が組み込まれた外輪の内周と入力軸の軸端部に設けられた内輪の外周間に、制御保持器に設けられた複数の円形配置の柱部と回転保持器に設けられた複数の円形配置の柱部とを周方向に交互に配置されるよう組み込んで隣接する柱部間にポケットを設け、そのポケット内に対向一対の係合子を組込み、その一対の係合子を、その対向部間に組み込まれた弾性部材により離反する方向に向けて付勢して外輪の内周と内輪の外周とに係合させ、電磁クラッチの電磁石に対する通電により制御保持器と回転保持器を、ポケットの周方向幅が小さくなる方向に相対回転させて、一対の係合子を係合解除させるようにした係合子タイプのものを採用することができる。
【0017】
この場合、係合子は、ローラであってもよく、スプラグであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
この発明においては、上記のように、軸受筒内に密封シールを圧入して軸受筒の内径面と出力軸の外径面間をシールしたことにより、出力軸と入力軸とを相対的に回転自在に支持する軸受を損傷させることなくハウジングの開口端を密封することでき、異物の侵入を確実に防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この発明に係る回転伝達装置の実施の形態を示す。図示のように、回転伝達装置は、入力軸1と、その入力軸1と同軸上に配置された出力軸2と、その両軸の軸端部を覆うハウジング3と、そのハウジング3内に組み込まれて入力軸1から出力軸2への回転の伝達と遮断とを行なう2方向クラッチ10およびその2方向クラッチ10の係合、解除を制御する電磁クラッチ50とからなる。
【0021】
ハウジング3は円筒状をなし、その一端部には小径の軸受筒4が設けられ、その軸受筒4内に組み込まれた軸受5によって出力軸2が回転自在に支持されている。
【0022】
図1乃至
図3に示すように、2方向クラッチ10は、出力軸2の軸端部に設けられた外輪11の内周に円筒面12を設け、入力軸1の軸端部に設けられた内輪13の外周に複数のカム面14を周方向に等間隔に形成し、その複数のカム面14のそれぞれと円筒面12間に一対の係合子としてのローラ15と弾性部材20とを組込み、そのローラ15を保持器16で保持し、上記内輪13の一方向への回転により一対のローラ15の一方を円筒面12およびカム面14に係合させて内輪13の回転を外輪11に伝達し、また、内輪13の他方向への回転時に他方のローラ15を円筒面12およびカム面14に係合させて内輪13の回転を外輪11に伝達するようにしている。
【0023】
ここで、外輪11の閉塞端部の内面側には小径の凹部17が形成され、その凹部17内に組み込まれた軸受18によって入力軸1の軸端部が回転自在に支持されている。
【0024】
内輪13は入力軸1に一体に形成されている。その内輪13の外周に形成されたカム面14は、相反する方向に傾斜する一対の傾斜面14a、14bから形成されて外輪11の円筒面12との間に周方向の両端が狭小のくさび形空間を形成しており、上記一対の傾斜面14a、14b間には内輪13の接線方向に向く平坦なばね支持面19が設けられ、そのばね支持面19によって弾性部材20が支持されている。
【0025】
弾性部材20はコイルばねからなる。この弾性部材20は一対のローラ15間に配置される組込みとされ、その弾性部材20で一対のローラ15は離反する方向に付勢されて、円筒面12およびカム面14に係合するスタンバイ位置に配置されている。
【0026】
保持器16は、制御保持器16Aと、回転保持器16Bとからなる。
図2および
図6に示すように、制御保持器16Aは、環状のフランジ21の片面外周部にカム面14と同数の柱部22を周方向に等間隔に設け、その隣接する柱部22間に円弧状の長孔23を形成し、外周には柱部22と反対向きに筒部24を設けた構成とされている。
【0027】
一方、回転保持器16Bは、環状のフランジ25の外周にカム面14と同数の柱部26を周方向に等間隔に設けた構成とされている。
【0028】
制御保持器16Aと回転保持器16Bは、制御保持器16Aの長孔23内に回転保持器16Bの柱部26が挿入されて、その柱部22、26が周方向に交互に並ぶ組み合わせとされている。そして、その組み合わせ状態で柱部22、26の先端部が外輪11と内輪13間に配置され、制御保持器16Aのフランジ21および回転保持器16Bのフランジ25が入力軸1の外周に嵌合された支持リング28と外輪11間に位置する組込みとされている。
【0029】
上記のような保持器16A、16Bの組込みによって、
図3に示すように、制御保持器16Aの柱部22と回転保持器16Bの柱部26間にポケット27が形成され、そのポケット27は内輪13のカム面14と径方向で対向し、各ポケット27内に対向一対のローラ15および弾性部材20が組込まれている。
【0030】
図2に示すように、制御保持器16Aのフランジ21および回転保持器16Bのフランジ25は入力軸1の外周に形成されたスライド案内面29に沿ってスライド自在に支持され、上記回転保持器16Bのフランジ25と入力軸1に嵌合された上述の支持リング28間にスラスト軸受30が組み込まれている。
【0031】
スラスト軸受30は、回転保持器16Bが電磁クラッチ50側に移動するのを防止する状態で、その回転保持器16Bを回転自在に支持している。
【0032】
図2および
図6に示すように、制御保持器16Aのフランジ21と回転保持器16Bのフランジ25間には、制御保持器16Aの軸方向の移動を、その制御保持器16Aと回転保持器16Bの相対的な回転運動に変換する運動変換機構としてのトルクカム40が設けられている。
【0033】
図7(c)、(d)に示すように、トルクカム40は、制御保持器16Aにおけるフランジ21と回転保持器16Bにおけるフランジ25の対向面それぞれに周方向の中央部で深く両端に至るに従って次第に浅くなる対向一対のカム溝41、42を設け、その対向一対のカム溝41、42間にボール43を組み込んだ構成としている。
【0034】
カム溝41、42として、ここでは円弧状の溝を示したが、V溝であってもよい。
【0035】
上記トルクカム40は、制御保持器16Aのフランジ21が回転保持器16Bのフランジ25に接近する方向に制御保持器16Aが軸方向に移動した際に、
図7(c)に示すように、ボール43がカム溝41、42の溝深さの最も深い位置に向けて転がり移動し、制御保持器16Aと回転保持器16Bをポケット27の周方向幅が小さくなる方向に相対回転させるようになっている。
【0036】
図2、
図4および
図5に示すように、内輪13の軸方向一端面とスライド案内面29の交差部には、そのスライド案内面29より大径の円筒形のホルダ嵌合面44が形成され、そのホルダ嵌合面44にばねホルダ45が嵌合されている。
【0037】
ばねホルダ45は、ホルダ嵌合面44に対して回り止めされ、かつ、軸方向に非可動の支持とされ、その外周には、制御保持器16Aの柱部22と回転保持器16Bの柱部26間に配置される複数の回り止め片46が形成されている。
【0038】
複数の回り止め片46は、制御保持器16Aと回転保持器16Bとがポケット27の周方向幅を縮小する方向に相対回転した際に、制御保持器16Aの柱部22および回転保持器16Bの柱部26を両側縁で受け止めて対向一対のローラ15を中立位置に保持するようになっている。
【0039】
ばねホルダ45の外周部には複数の弾性部材20のそれぞれ外径側に張り出すばね保持片47が設けられ、そのばね保持片47によって弾性部材20は一対のローラ15間より外径側に逃げ出るのが防止されている。
【0040】
図1に示すように、電磁クラッチ50は、制御保持器16Aに形成された筒部24の端面と軸方向で対向するアーマチュア51と、そのアーマチュア51と軸方向で対向するロータ52と、そのロータ52と軸方向で対向する電磁石53とを有している。
【0041】
図2に示すように、アーマチュア51は、支持リング28の外周に嵌合されて回転自在に、かつ、スライド自在に支持され、そのアーマチュア51の外周部に設けられた連結筒55の内径面に制御保持器16Aの筒部24が圧入されて制御保持器16Aとアーマチュア51が連結一体化されている。その連結によってアーマチュア51は、支持リング28の円筒状外径面54と入力軸1の外周のスライド案内面29の軸方向の2箇所においてスライド自在の支持とされている。
【0042】
ここで、支持リング28は、入力軸1のスライド案内面29の軸方向他側に形成された段部31によって軸方向に位置決めされている。
【0043】
ロータ52は、入力軸1に嵌合され、上記支持リング28との間に組み込まれたシム56によって軸方向に位置決めされ、かつ、入力軸1に対して回り止めされている。
【0044】
図1に示すように、電磁石53は、電磁コイル53aと、その電磁コイル53aを支持するヨーク53bとからなり、上記ヨーク53bはハウジング3の他端開口内に嵌合され、そのハウジング3の他端部開口内に取付けた止め輪6によって抜止めされている。また、ヨーク53bは入力軸1に嵌合された軸受57を介して入力軸1と相対的に回転自在とされている。
【0045】
ハウジング3の他端開口は、上記電磁石53の組込みによって閉塞され、ハウジング3内への異物の侵入が防止されている。
【0046】
実施の形態で示す回転伝達装置は上記の構造からなり、
図1に示す電磁クラッチ50の電磁コイル53aに対する通電の遮断状態で、2方向クラッチ10のローラ15は、
図3(b)に示すように、外輪11の円筒面12および内輪13のカム面14に係合する状態にある。
【0047】
このため、入力軸1が一方向に回転すると、その回転は内輪13から対向一対のローラ15の一方を介して外輪11に伝達され、出力軸2が入力軸1と同方向に回転する。また、入力軸1が逆方向に回転すると、その回転は他方のローラ15を介して出力軸2に伝達される。
【0048】
2方向クラッチ10の係合状態で、電磁クラッチ50の電磁コイル53aに通電すると、アーマチュア51に吸引力が作用し、アーマチュア51が軸方向に移動してロータ52に吸着される。
【0049】
このとき、アーマチュア51と制御保持器16Aとは、連結筒55と筒部24の嵌合によって連結一体化されているため、アーマチュア51の軸方向への移動に伴って制御保持器16Aは、そのフランジ21が回転保持器16Bのフランジ25に接近する方向に移動する。
【0050】
制御保持器16Aと回転保持器16Bの相対移動により、
図7(d)に示すボール43が、
図7(c)に示すように、カム溝41、42の溝深さの最も深い位置に向けて転がり移動し、制御保持器16Aと回転保持器16Bはポケット27の周方向幅が小さくなる方向に相対回転する。
【0051】
制御保持器16Aと回転保持器16Bの相対回転により、
図3(b)に示す対向一対のローラ15は制御保持器16Aの柱部22と回転保持器16Bの柱部26で押されて互いに接近する方向に移動する。
【0052】
このため、ローラ15は、
図3(a)に示すように、円筒面12およびカム面14に対して係合解除する中立位置に変位し、2方向クラッチ10は係合解除状態とされる。
【0053】
2方向クラッチ10の係合解除状態において、入力軸1に回転トルクを入力して、その入力軸1を一方向に回転させると、ばねホルダ45に形成された回り止め片46が制御保持器16Aの柱部22と回転保持器16Bの柱部26の一方を押圧するため、入力軸1と共に制御保持器16Aおよび回転保持器16Bが回転する。このとき、対向一対のローラ15は係合解除された中立位置に保持されているため、入力軸1の回転は外輪11に伝達されず、入力軸1はフリー回転する。
【0054】
ここで、制御保持器16Aと回転保持器16Bがポケット27の周方向幅を小さくなる方向に相対回転すると、制御保持器16Aの柱部22と回転保持器16Bの柱部26がばねホルダ45の回り止め片46の両側縁に当接して相対回転量が規制される。
【0055】
このため、弾性部材20は必要以上に収縮することはなくなり、伸長と収縮が繰り返し行われても疲労によって破損するようなことはない。
【0056】
入力軸1のフリー回転状態において、電磁コイル53aに対する通電を解除すると、アーマチュア51は吸着が解除されて回転自在となる。その吸着解除により、弾性部材20の押圧によって制御保持器16Aと回転保持器16Bがポケット27の周方向幅が大きくなる方向に相対回転し、対向一対のローラ15のそれぞれが、
図3(b)に示すように、円筒面12およびカム面14に係合するスタンバイ状態とされ、その対向一対のローラ15の一方を介して入力軸1の回転が出力軸2に伝達される。
【0057】
ここで、入力軸1を停止して、その入力軸1の回転方向を切換えると、他方のローラ15を介して入力軸1の回転が出力軸2に伝達される。
【0058】
このように、電磁コイル53aに対する通電の遮断により、制御保持器16Aと回転保持器16Bがポケット27の周方向幅が大きくなる方向に相対回転して、対向一対のローラ15のそれぞれが円筒面12およびカム面14に直ちに噛み込むスタンバイ状態とされるため、回転方向ガタは小さく、内輪13の回転を外輪11に直ちに伝達することができる。
【0059】
また、入力軸1から出力軸2への回転トルクの伝達は、カム面14と同数のローラ15を介して行われるため、入力軸1から出力軸2に大きな回転トルクを伝達することができる。
【0060】
図1に示す実施の形態では、制御保持器16Aおよび回転保持器16Bを、その柱部22、26が外輪11と内輪13間に位置し、軸方向で対向するフランジ21,25が外輪11とアーマチュア51間に配置される組込みとしているため、外輪11の軸方向長さのコンパクト化と軽量化とを図ることができる。
【0061】
2方向クラッチ10の係合および解除を電磁クラッチ50により制御して、入力軸1と出力軸2の相互間で回転の伝達と遮断とを行なう上記のような回転伝達装置において、ハウジング3の他端開口は電磁石53の組込みよって閉塞されているため、その開口端からハウジング3の内部への異物の侵入はないが、ハウジング3の一端部に設けられた軸受筒4の外側端が開口状態であると、その軸受筒4の開口端からハウジング3の内部に異物が侵入し、その異物の噛み込みによって2方向クラッチ10が機能しなくなる可能性がある。
【0062】
そのような不都合の発生を防止するため、
図1では、ハウジング3を保持しつつ軸受筒4の開口端部の内径面に密封シール60を圧入して軸受筒4の内径面と出力軸2の外径面間をシールしている。
【0063】
上記のように、軸受筒4内に対する密封シール60の組み込みによって軸受筒4の開口端を閉塞することにより、ハウジング3内に異物が侵入するのを防止することができる。その異物侵入防止用の密封シール60は、ハウジング3を保持しながら軸受筒4の内径面に圧入する取付けであるため、圧入に伴う軸方向荷重がハウジング3を通して抜けるため、出力軸2と入力軸1とを相対的に回転自在に支持する軸受18に負荷をかけることなく密封シール60の組付けを行なうことができ、軸受18を損傷させるようなことはない。
【0064】
また、ハウジング3内に異物が侵入するのを防止することができるため、出力軸2を回転自在に支持する軸受5や出力軸2と入力軸1とを相対的に回転自在に支持する軸受18のそれぞれを、コスト的に有利な開放型軸受や非接触型軸受を採用することができる。
【0065】
図8(e)および (f)は、密封シール60の各例を示す。
図8(e)に示す密封シール60は、出力軸2の外径面に弾性接触されるシールリップ61およびそのシールリップ61の外周に装着されてシールリップ61のリップ先端63を出力軸2の外径面に弾性接触させるガータスプリング62を有するばね付きオイルシールからなっている。64は、補強用の金属環を示している。
【0066】
図8(e)に示す密封シール60は、出力軸2の外径面に弾性接触される内向きリップ65および外向きリップ66と、その外向きリップ66の外側に配置されて出力軸2の外径面間にラビリンス67を形成する第3リップ68とを有してなるトリプルリップオイルシールからなっている。69は、補強用の金属環を示している。
【0067】
上記いずれの密封シール60の採用においても、ハウジング3内への異物の侵入を効果的に防止することができる。また、いずれの密封シール60も、軸受筒4の内径面に圧入する取付けであるため、軸受18を損傷させるようなことはない。
【0068】
図1に示す実施の形態における回転伝達装置においては、2方向クラッチ10として、電磁石53に対する通電解除により制御保持器16Aを軸方向に移動させて、その制御保持器16Aと回転保持器16Bを相対回転させ、係合子としてのローラ15を外輪11の内周と内輪13の外周に係合させるようにしたローラタイプのものを示したが、2方向クラッチはこれに限定されるものではない。例えば、径の異なる一対の保持器を内外に配置し、径の大きな外側保持器を制御保持器と回転保持器とで形成し、電磁クラッチの電磁石に対する通電解除により、係合子としての一対のスプラグを、その対向部間に組み込まれた弾性部材により外輪の内周円筒面とカムリングの外周円筒面に係合させ、前記電磁石に対する通電により制御保持器と回転保持器を相対回転させて、一対のスプラグを係合解除させるようにしたスプラグタイプのものであってもよい。