(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の軸受装置の冷却構造において、前記転がり軸受が、アンギュラ玉軸受、円すいころ軸受、または円筒ころ軸受である軸受装置の冷却構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
運転中の軸受予圧は、内外輪の径方向膨張量差に影響を受ける。一般的に鋼製の内外輪を使用して運転すると、内輪での発生熱は、軸受箱が油等で強制冷却される外輪側に比べ、放熱し難い。結果、温度は、内輪>外輪となってしまう。したがって内輪側での膨張量は、この発熱によるものと遠心力によるものが相俟って外輪側に比べ大きくなってしまう。このことが運転中の予圧増大をもたらす主要因となっている。
【0006】
前記の従来技術は、内輪の材質を変え、また間座等を冷却することで運転中の内輪膨張を小さくする技術である。特許文献1は内輪にセラミックスを使用し、セラミックスの密度小、低線膨張、弾性率大の特徴を活用し、運転中の内輪膨張量を抑えて予圧の軽減を目的としている。しかし、内輪にセラミックスを使用しても、運転中の内輪膨張は、軸の温度上昇による膨張の影響が大きく、セラミックスの特性が活かせず軸受予圧軽減への効果は小さいものになってしまう。
特許文献2〜7はいずれも間座等を油を用いて冷却することで内輪温度を下げる技術である。よってこれらの技術は、油の循環経路が複雑となり、供給用のポンプ等付帯設備が必要になることから、高価な主軸装置となってしまう。特許文献8、9は、冷却媒体としてエアを使用したもので、比較的安価に装置の構築が可能である。しかしながらエアによる冷却には、多量のエアが必要であり、少量エアで効率的に冷却できる装置が望まれる。
【0007】
この発明の目的は、内輪の膨張に影響する主軸および軸受周辺部品の温度上昇を低減するため、圧縮空気を使用して安価で、効率よく且つ合理的に主軸と内輪間座およびこれに接触固定される内輪を冷却する軸受装置の冷却構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の軸受装置の冷却構造は、軸方向に並ぶ複数の転がり軸受の外輪間および内輪間に外輪間座および内輪間座をそれぞれ介在
し、前記外輪および外輪間座がハウジングに設置され、前記内輪および内輪間座が主軸に嵌合される軸受装置において、前記外輪間座に、前記内輪間座の外周面に向けて
冷却専用の圧縮エアを吐出する吐出口
が、回転方向の前方へ傾斜
して設け
られ、前記内輪間座の外周面における、前記吐出口から吐出された圧縮エアが噴き付けられる位置に、
傾斜して吹き付けられる圧縮エアを受けるための円周方向に並ぶ複数の孔
が設け
られている。
なお、前記内輪間座に、前記外輪間座の吐出口から吐出される圧縮エアが前記主軸の表面に直接接触するように、径方向に複数個の放射状の孔
が設け
られると共に、前記内輪間座の内周面に、前記主軸の表面を効果的に冷却するために円周溝が設け
られていても良い。
【0009】
この構成によると、内輪間座の外周面に、外輪間座に設けた吐出口より圧縮エアを吐出することで、間接的に軸受の冷却を行うことができる。外輪間座の吐出口から吐出された圧縮エアは、内輪間座と共に主軸を冷却する。外輪間座の吐出口を、内輪の回転方向の前方へ傾斜させたため、吐出された圧縮エアが内輪間座の円周方向の一部に当たる。これにより、外輪間座の吐出口から吐出される圧縮エアの噴射圧力を、内輪間座に与えることができ、主軸を駆動する作用を期待することができる。
【0010】
ここで外輪間座の圧縮エアの吐出口を内輪および主軸の回転方向の前方へ傾斜させたのは、例えば、工作機械の主軸のように回転方向が一定している場合に有効であり、外輪間座と内輪間座の間のすきまにおいて、良好なエア流れが期待でき、冷却効果が大きくなることを実験により確認した結果によるものである。外輪間座の吐出口より吐出した圧縮エアは、内輪間座と主軸の冷却に寄与した後、軸受内を通過させて軸受外部に排出するが、このとき軸受内の冷却も同時に行われることにもなる。このように圧縮エアを利用して効率的且つ合理的に軸受を冷却することができる。
【0011】
したがって、軸受装置を複雑な構造とせず、また高価な付帯設備も必要なく安価な装置で軸受および主軸の温度を低下させることができる。運転中の軸受温度の低下が図れることで、軸受予圧の増大が緩和され、軸受つまり軸受装置のさらなる高速化、すなわち加工効率の向上または軸受寿命の延長を図ることができる。運転中の主軸および軸受温度の低下により、軸受予圧の増大が緩和された分、初期予圧を大きくすることができ、低速での主軸剛性を高めると共に加工精度の向上が期待できる。運転中に主軸の温度が低下し、主軸の熱膨張に起因した加工精度の劣化を減少させることができる。
前記外輪間座の圧縮エアの吐出口は、1個または複数個であっても良い。
【0012】
前記内輪はセラミック製であっても良い。
外輪間座の吐出口から吐出された圧縮エアが、内輪間座と共に主軸を冷却することにより、主軸の温度上昇に伴うセラミック内輪の径方向膨張が抑えられて、セラミックスの材質特性を活かせることが期待できる。結果、予圧の軽減ができ更なる高速化が可能となる。
【0013】
前記外輪間座の吐出口が直線状であって、この吐出口は、外輪間座の軸心に垂直な断面における任意の半径方向の直線から、この直線と直交する方向にオフセットした位置にあるものとしても良い。外輪間座の吐出口の位置が前記のようにオフセットされることで、吐出口が主軸表面の接線方向で且つ回転方向に向けられる。試験の結果、吐出口のオフセット量が大きくなるほど、内輪温度の降下が大きくなっている。
前記外輪間座の吐出口のオフセット量が、被冷却部の主軸の半径に対して0.5倍以上で、且つ、外輪間座の内径以下としても良い。試験の結果、吐出口のオフセット量が、主軸半径の約0.5倍から主軸表面の接線付近で内輪は最大の降下温度となっていた。外輪間座の吐出口をオフセットし、エア流れを内輪回転方向とすることで、冷却エアが回転方向に安定して流れ、効果的に内輪間座の表面の熱を吸収するためと考えられる。
【0014】
前記内輪間座の外周面における、前記吐出口から吐出された圧縮エアが噴き付けられる位置に、円周方向に並ぶ複数の放射状の貫通孔は、エアを直接主軸に到達させるためのもので、内輪間座と共に主軸を冷却することができる。このように圧縮エアで主軸を直接冷却することができるため、内輪間座に同孔が無いものより、内輪の温度降下を大きくすることを実験により確認している。
【0015】
前記孔は、貫通孔であっても良いし、非貫通孔であっても良い。貫通孔の場合、非貫通孔よりも、主軸を直接冷却させる冷却効果もより高めることができる。
前記孔が複数設けられているため、主軸を直接冷却させる冷却効果も高めることができる。
前記内輪間座の孔が、径方向外方に向かうに従って、前記回転方向とは逆角度に傾くように傾斜する傾斜状の孔としても良い。
【0016】
前記内輪間座の内周面に、軸方向に一様な断面を有する溝を設けてもよい。内輪間座の内周面に主軸の外周面が嵌合されるので、前記のような溝を内輪間座の内周面に設けることで、主軸表面全周に冷却エアが行きわたるようになり、主軸表面に直接冷却エアが接触する面積を増大させることができる。また、溝に連通する孔を前記傾斜状の孔とすることで、主軸を直接冷却させる冷却効果をより高めることができる。
前記内輪間座の溝に対向する主軸表面に、断面V形状、断面凹形状、または螺旋状の溝を設けても良い。前記断面は、主軸を主軸軸心を含む平面で切断して見た断面をいう。この場合、放熱面積をさらに拡大することができ、主軸を直接冷却させる冷却効果をさらに高めることができる。
前記内輪間座の孔を同内輪間座の軸心に垂直な平面で切断して見た断面が、矩形または楕円形であっても良い。
【0017】
この発明の軸受装置の冷却構造は、軸方向に並ぶ複数の転がり軸受の外輪間および内輪間に外輪間座および内輪間座がそれぞれ介在し、前記外輪および外輪間座がハウジングに設置され、前記内輪および内輪間座が主軸に嵌合される軸受装置において、前記外輪間座に、前記内輪間座の外周面に向けて圧縮エアを吐出する吐出口が、回転方向の前方へ傾斜して設けられ、前記内輪間座の外周面における、前記吐出口から吐出された圧縮エアが噴き付けられる位置に、傾斜して吹き付けられる圧縮エアを受けるための円周方向に並ぶ複数の孔が設けられ、前記内輪間座の外周面に、溝
が設け
られたものとしても良い。この場合、溝が無い内輪間座より外周面の表面積を大きくし、内輪間座表面からの放熱を効率良く行うことができる。したがって、内輪温度の低減を図り、その分軸受予圧が減少していることになるため、装置の高速化を図ることができる。
前記内輪間座の溝を同内輪間座の軸心を含む平面で切断して見た断面が、V字形状または凹形状であっても良い。前記内輪間座の溝が螺旋溝から成るものであっても良い。このように内輪間座の外周面の表面積を大きくすることができる。
前記内輪間座の外周面に、前記溝に代えて凹凸部を設けても良い。この場合にも、内輪間座より外周面の表面積を大きくし、内輪間座表面からの放熱を効率良く行うことができる。
【0018】
前記外輪間座は、
前記圧縮エアを吐出する吐出口とは別に、前記転がり軸受内にエアオイルを供給するエアオイル供給口を有し、このエアオイル供給口は、前記転がり軸受内に突出して前記内輪の外周面との間でエアオイル通過用の環状すきまを介して対面する突出部を含むもの
であっても良い。この場合、エアオイル供給口から供給されたエアオイルは、内輪外径面に付着する。この内輪外径面に付着した油を、油の表面張力と遠心力を利用して内輪軌道面に導入して転がり軸受の潤滑に用いる。また吐出口から吐出された圧縮エアは、内輪外径面と前記突出部との間の環状すきまを介して転がり軸受内に導入されて、転がり軸受内で熱を吸収して排気される。このように内輪間座における冷却と共に、転がり軸受内での冷却機能もあり、より効果的な軸受冷却を行うことができる。
【0019】
この発明の軸受装置の冷却構造は、軸方向に並ぶ複数の転がり軸受の外輪間および内輪間に外輪間座および内輪間座がそれぞれ介在し、前記外輪および外輪間座がハウジングに設置され、前記内輪および内輪間座が主軸に嵌合される軸受装置において、
前記外輪間座に、前記内輪間座の外周面に向けて圧縮エアを吐出する吐出口が、回転方向の前方へ傾斜して設けられ、前記内輪間座の外周面における、前記吐出口から吐出された圧縮エアが噴き付けられる位置に、円周方向に並ぶ複数の孔が設けられ、前記外輪間座は、前記転がり軸受内にエアオイルを供給するエアオイル供給口を有し、このエアオイル供給口は、前記転がり軸受内に突出して前記内輪の外周面との間でエアオイル通過用の環状すきまを介して対面する突出部を含み、前記エアオイル供給口は、前記突出部の内径側で内輪に対しエアオイルを吐出するノズルを含むもの
であっても良い。この場合、ノズルは、突起部の内径側で内輪に対しエアオイルを吐出する。突起部を軸受内に挿入したうえで、エアオイルを内輪により近づけて吐出させることができるため、軸受の潤滑および冷却機能を高めることができる。
前記エアオイル供給口と、前記圧縮エアの吐出口とを兼用させたものとしても良い。この場合、エアオイルを供給するためのエア量削減と、エアオイル専用の孔数削減とを図ることができ、装置構造を簡素化することができる。これにより製造コストの低減を図ることができる。
【0020】
前記エアオイル供給口と、前記圧縮エアの吐出口とを兼用させた構成において、前記内輪間座に、径方向の貫通孔を設けると共に、前記内輪間座の内周面における、主軸と嵌合する部分の円周方向の一部に、軸方向に延びる軸方向溝を設け、且つ、前記内輪間座における軸方向両端面の円周方向の一部に、前記軸方向溝に連通し半径方向に延びる径方向溝を設けても良い。この場合、内輪間座の貫通孔を通ってこの内周面に吐出されたエアオイルは、主軸および内輪間座の冷却と共に、軸方向溝、径方向溝を順次通過して、内輪の冷却を効果的に行うことができる。またエアオイルが径方向溝を通過する際、油が内輪端面に付着して付着流れとなるため、軸受の潤滑油として確実に利用できるようになる。
【0021】
前記エアオイル供給口が、前記転がり軸受内に突出して内輪外径面との間で環状すきまを介して対面する突出部を含む構成を有する場合に、前記突出部の内径面と、内輪外径面との間で形成される円周すきま部の径方向断面積を、前記外輪間座の吐出口の総断面積よりも大きくしても良い。前記円周すきま部の「径方向断面積」とは、この軸受装置をこの軸心と垂直な平面で切断して見た断面において、突出部の内径面と、内輪外径面との間で形成される円周すきま部の面積を言う。前記吐出口の「総断面積」とは、各吐出口を同吐出口の軸線方向と垂直な平面で切断して見た断面における、面積の吐出口個数分の総和を言う。
この構成によると、吐出口から吐出したエアが、環状すきまを介して転がり軸受内に確実に導入される。このエアは転がり軸受内で熱を吸収して排気される。
【0022】
前記エアオイル供給口と前記圧縮エアの吐出口とを兼用させた構成、または、内輪間座に前記軸方向溝および前記径方向溝を設けた構成において、前記転がり軸受内の潤滑を主目的にしたエアオイル吐出用のノズルを省略しても良い。この場合、装置構造を簡素化することができ、これにより製造コストの低減を図ることができる。
前記圧縮エアすなわち冷却用エアを供給する圧縮エア供給装置を、エアオイル供給装置とは別個に独立して設けても良いし、エアオイル供給装置の空き回路を油供給せずに利用しても良い。
【0023】
エアオイルを排気するエアオイル排気口を設け、内輪間座冷却後の冷却エアを、前記エアオイル排気口から排気するようにしても良い。このようにエアオイルの排気経路と、冷却エアの排気経路とを共通化することで、装置構造を簡素化することができる。
【0024】
2個以上で複列配置されたアンギュラ玉軸受に適用したものであっても良い。
2個以上で複列配置された円すいころ軸受に適用したものであっても良い。
円筒ころ軸受に適用しても良い。
これらアンギュラ玉軸受、円すいころ軸受、および円筒ころ軸受の内輪をセラミックス製としても良い。
【0025】
前記軸受装置の冷却構造を、工作機械装置またはターボ機械装置に適用しても良い。
【発明の効果】
【0026】
この発明の軸受装置の冷却構造は、軸方向に並ぶ複数の転がり軸受の外輪間および内輪間に外輪間座および内輪間座
がそれぞれ介在
し、前記外輪および外輪間座がハウジングに設置され、前記内輪および内輪間座が主軸に嵌合される軸受装置において、
前記外輪間座に、前記内輪間座の外周面に向けて
冷却専用の圧縮エアを吐出する吐出口
が、回転方向の前方へ傾斜
して設け
られ、前記内輪間座の外周面における、前記吐出口から吐出された圧縮エアが噴き付けられる位置に、
傾斜して吹き付けられる圧縮エアを受けるための円周方向に並ぶ複数の孔
が設け
られているため、圧縮エアを使用して安価で、効率よく且つ合理的に内輪と主軸を冷却することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
この発明の第1の実施形態に係る軸受装置の冷却構造を
図1ないし
図6と共に説明する。
この例の軸受装置の冷却構造は、工作機械装置に適用される。ただし、工作機械装置だけに限定されるものではない。以下の説明は、軸受の冷却方法についての説明をも含む。
図1に示すように、この軸受装置は、軸方向に並ぶ複数の転がり軸受1,1の外輪2,2間および内輪3,3間に、外輪間座4および内輪間座5をそれぞれ介在させている。また外輪2および外輪間座4がハウジング6にすきま嵌めで設置され、内輪3および内輪間座5が主軸7に締まり嵌めで嵌合される。各転がり軸受1としてセラミック製の内輪3を使用したアンギュラ玉軸受が適用されている。これらアンギュラ玉軸受が背面組合せで設置され、内輪外径面および外輪内径面における接触角の反偏り側にそれぞれカウンタボアが設けられている。内外輪3,2の軌道面間に複数の転動体8が介在され、これら転動体8が保持器9により円周等配に保持される。前記保持器9は外輪案内形式のリング形状から成る。軸受すきまの設定は、内輪間座5と外輪間座4の幅寸法差で行われる。これら軸受1,1の潤滑を
図3に示す後述のエアオイル潤滑としている。
【0029】
冷却構造について説明する。
図2に示すように、外輪間座4に、内輪間座5の外周面に向けて圧縮エアを吐出する複数個(この例では3個)の吐出口10を設けている。これら吐出口10のエア吐出方向を、それぞれ内輪3(
図1)および主軸7の回転方向L1の前方へ傾斜させている。これら複数個の吐出口10は円周等配に配設されている。各吐出口10は、それぞれ直線状であって、外輪間座4の軸心に垂直な断面における任意の半径方向の直線L2から、この直線L2と直交する方向にオフセットした位置にある。この例では、外輪間座4の吐出口10のオフセット量OSは、被冷却部の主軸7の半径に対して0.5倍以上で、且つ、外輪間座4の内径以下としている。
【0030】
外輪間座4の外周面には、冷却エアである圧縮エアを導入する導入溝11が設けられている。この導入溝11は、外輪間座4の外周面における軸方向中間部に設けられ、且つ、各吐出口10に連通する円弧状に形成されている。換言すれば、導入溝11は、外輪間座4の外周面において、後述のエアオイル供給孔12が設けられる円周方向位置を除く円周方向の大部分を占める角度範囲α1にわたって設けられている。圧縮エアの導入経路は、軸受潤滑用のエアオイルとは独立経路で構成される。よって
図1に示すように、ハウジング6に冷却エア用供給孔13が設けられ、この冷却エア用供給孔13に導入溝11が連通するように構成されている。ハウジング6の外部には、前記冷却エア用供給孔13に圧縮エアを供給する圧縮エア供給装置14が配管接続されている。
【0031】
図2に示すように、内輪間座5には、径方向の孔15が円周等配に複数(この例では10個)設けられている。各孔15を内輪間座5の軸心に垂直な平面で切断して見た断面は、矩形または楕円形に形成されている。各孔15は、内輪間座5における円周方向の所定位置で且つ軸方向中間部において、径方向に貫通する丸孔形状に形成されている。これにより、運転時に外輪間座4の吐出口10から吐出された圧縮エアを、内輪間座5の孔15を通して主軸7の外表面に到達させることで主軸7を直接冷却する。
【0032】
図1に示すように、内輪間座5の外周面と、外輪間座4の内周面との間には、径方向すきまδ1が設けられている。このとき外輪間座4の吐出口10の総断面積よりも、内輪間座5の外周面と外輪間座4の内周面との間で形成される径方向すきま部の径方向断面積が大きくなるように、前記径方向すきまδ1が設定される。前記吐出口10の「総断面積」とは、各吐出口10を同吐出口10の軸線方向と垂直な平面で切断して見た断面における、面積の吐出口個数分の総和を言う。前記「径方向断面積」とは、この軸受装置をこの軸心と垂直な平面で切断して見た断面において、内輪間座5の外周面と外輪間座4の内周面との間で形成される径方向すきま部の面積の2倍を言う。2倍にするのは、この実施形態では、吐出口10から吐出された圧縮エアが、内輪間座5の外周面と外輪間座4の内周面との間で形成される径方向すきま部を軸方向両側に流れるからである。前記のように径方向すきまδ1が設定されるため、各吐出口10から吐出された圧縮エアを、主軸表面に接触させながら回転方向に沿って円滑に且つ安定して流すことが可能となる。
【0033】
潤滑構造について説明する。
図3に示すように、外輪間座4は、軸受内にエアオイルを供給するエアオイル供給口16を有する。エアオイル供給口16は転がり軸受1,1毎にそれぞれ設けられている。
図2に示すように、外輪間座4には、各エアオイル供給口16に連通するエアオイル供給孔12,12がそれぞれ設けられている。各エアオイル供給孔12は、外輪間座4の外周面から径方向内方に所定深さ形成され、孔底付近部にてエアオイル供給口16に連通する。
図3に示すように、各エアオイル供給口16は、前記孔底付近部から対象とする軸受側に向かうに従って内径側に至るように傾斜する傾斜角度をもつ貫通孔状に形成されている。この例の各エアオイル供給口16は、同エアオイル供給口16から定められた圧力で吐出されたエアオイルが、例えば、内輪軌道面と転動体8との境界付近に当たるように傾斜角度が規定される。
【0034】
ハウジング6にエアオイル用の軸受箱供給孔17が設けられ、この軸受箱供給孔17に前記エアオイル供給孔12が連通するように構成されている。ハウジング6の外部には、軸受箱供給孔17にエアオイルを供給するエアオイル供給装置18が配管接続されている。運転中、エアオイル供給装置18から供給されたエアオイルは、順次、軸受箱供給孔17→エアオイル供給孔12→エアオイル供給口16→内輪軌道面に吐出されるようになっている。
【0035】
排気構造について説明する。
この軸受装置には、エアオイルを排気するエアオイル排気口19を設けている。エアオイル排気口19は、外輪間座4における円周方向の一部に設けられた排気溝20と、ハウジング6に設けられ前記排気溝20に連通する軸受箱排気溝21および軸受箱排気孔22とを有する。前記外輪間座4の排気溝20は、エアオイル供給孔12が設けられる位置とは対角の円周方向位置で、軸受背面側の外輪端面に臨む外輪間座4の端面にスリット状に形成される。ハウジング6の軸受箱排気溝21は、前記外輪間座4の排気溝20と同一の円周方向位置にわたって形成され、軸方向に延びる軸受箱排気孔22に連通する。
転がり軸受1の潤滑に供されたエアと油は、軸受内を軸方向に貫通して外部に放出されるのと、前記排気溝20より、軸受箱排気溝21および軸受箱排気孔22を経路として外部に放出される。
またこの例では、内輪間座冷却後の冷却エアを、前記エアオイル排気口19から排気するようにしている。換言すると、エアオイルの排気経路と、冷却エアの排気経路とを共通化している。
【0036】
図4は、この冷却構造における、冷却エアの吐出口10のオフセット量と内輪3の降下温度との関係を示す図である。試験において、内輪3の内径寸法がφ70mmのアンギュラ玉軸受をエアオイル潤滑にて17000min
−1で運転し、冷却なし(エア供給圧力0kPa)と冷却時(エア供給圧力400kPa)での内輪3の降下温度を、吐出口10のオフセット量の関係でみたものである。各吐出口10のオフセットの方向は、各吐出口10から吐出するエアの流れが主軸7および内輪3の回転方向と同じとなるように定められている。
【0037】
試験の結果、吐出口10のオフセット量OSが大きくなるほど、内輪3の温度降下は大きくなっており、主軸半径の約0.5倍から主軸表面の接線位置付近で、最大の降下温度となることがわかる。外輪間座4の吐出口10をオフセットし、エア流れを内輪回転方向とすることで、冷却エアが回転方向に安定して流れ、効果的に内輪間座5の表面の熱を吸収しているためと考えられる。
【0038】
図5は、内輪間座5の孔15(
図2)の有無による、内輪降下温度の比較結果を示す図である。同図に示すように、内輪間座5に径方向の孔15がある場合には、孔15が無い場合に比べ、内輪3の温度降下が大きくなっていることがわかる。これは、外輪間座4の吐出口10から吐出された冷却エアが孔15を通って主軸7の外表面まで到達し、主軸7を直接冷却しているためと考えられる。
【0039】
以上の発明構成において実際に
図1に示すようにセラミック内輪軸受1を組込んで運転試験を実施した結果が
図6になる。この運転試験における各吐出口10のオフセット量OSは、それぞれ33.6mmで、冷却エアなし(エア供給圧力0kPa)と、冷却時(エア供給圧力300kPa)で比較したもので、各軸受1の内輪3および外輪2の温度をそれぞれ検出した。同
図6に示すように、回転速度が19000min
−1のとき、冷却を実施することで、内輪温度は10℃以上の温度降下が認められた。また内輪温度が60℃に到達したときを高速限界とするならば、冷却なし時の回転速度19000min
−1に対し、冷却を実施することで21000min
−1までの高速化が図れることになる。冷却により内輪温度が低くなることは、その分軸受予圧が減少していることになり、高速化が可能と言える。
【0040】
以上説明した軸受装置の冷却構造によると、内輪間座5の外周面に、外輪間座4に設けた吐出口10より圧縮エアを吐出することで、間接的に転がり軸受1の冷却を行うことができる。外輪間座4の吐出口10から吐出された圧縮エアは、内輪間座5を冷却し、また外輪間座4の吐出口10の位置が前記のようにオフセットされることで、吐出口10が主軸表面の接線方向で且つ回転方向に向けられ、主軸7の冷却を行う。試験の結果、吐出口10のオフセット量OSが大きくなるほど、内輪温度の降下が大きくなっている。外輪間座4の吐出口10をオフセットし、エア流れを内輪回転方向とすることで、冷却エアが回転方向に安定して流れ、効果的に内輪間座5の表面と主軸7の熱を吸収することができる。
【0041】
ここで外輪間座4の圧縮エアの吐出口10を内輪3および主軸7の回転方向の前方へ傾斜させたのは、例えば、工作機械の主軸のように回転方向が一定している場合に有効であり、外輪間座4と内輪間座5との間のすきまδ1において、良好なエア流れが期待でき、冷却効果が大きくなることを実験により確認した結果によるものである。さらに、外輪間座4より吐出した圧縮エアは、内輪間座5と主軸7の冷却に寄与した後、軸受内を通過させて軸受外部に排出するが、このとき軸受内の冷却も同時に行われることにもなる。このように圧縮エアを利用して効率的且つ合理的に軸受を冷却することができる。
【0042】
したがって、軸受装置を複雑な構造とせず、また高価な付帯設備も必要なく安価な装置で軸受1および主軸7の温度を低下させることができる。運転中の軸受温度の低下が図れることで、軸受予圧の増大が緩和され、軸受つまり軸受装置のさらなる高速化、すなわち加工効率の向上または軸受寿命の延長を図ることができる。運転中の軸受温度の低下と主軸温度低下による内輪の径方向膨張量の抑制により、軸受予圧の増大が緩和された分、初期予圧を大きくすることができ、低速での主軸剛性を高めると共に加工精度の向上が期待できる。
【0043】
内輪間座5に径方向の孔15を設けたため、吐出された圧縮エアが、内輪間座5の孔15を通って主軸7の外表面まで到達するため、内輪間座5と共に主軸7を冷却することができる。このように圧縮エアで主軸7を直接冷却することができるため、内輪間座5に同孔が無いものより、内輪3の温度降下を大きくすることができる。
【0044】
内輪間座5の孔15は円周方向に沿って複数設けられているため、内輪間座5に例えば1個の孔15を設けるよりも、主軸7を直接冷却させる冷却効果も高めることができる。
またエアオイルの排気経路と、冷却エアの排気経路とを共通化しているため、装置構造を簡素化することができ、製造コストの低減を図れる。
【0045】
この発明の他の実施形態について説明する。
以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0046】
図7に示すように、内輪間座5の外周面に、溝5aを設けたものとしても良い。この例では、内輪間座5の溝5aを、同内輪間座5の軸心を含む平面で切断して見た断面がV字形状となるように形成している。また、この断面V字形状から成る溝5aを軸方向に所定間隔おきに並ぶ複数の円周溝または螺旋溝としている。前記溝5aにより内輪間座5の表面積を大きくし、間座表面からの放熱を効率良く行うことができる。前記溝5aは、断面V形状溝以外の例えば断面凹形状溝でも良い。また、内輪間座5は、軸受鋼等の鋼材よりも熱放射率の大きな材質から成るものとすることが好ましく、この場合、さらに冷却効果を向上することができる。
【0047】
図8に示すように、内輪間座5の孔15が、径方向外方に向かうに従って、内輪3および主軸7の回転方向L1とは逆角度(
図8にて角度βにて表記)に傾くように傾斜する傾斜状の孔15としても良い。この場合、外輪間座4の吐出口10から吐出された圧縮エアを、傾斜状の孔15で効果的に捕らえることができる。その結果、主軸7の表面へのエア量が多くなり効果的に主軸7が冷却される。
【0048】
図9に示すように、内輪間座5の外周面に溝5aを設けた構成において、前記内輪間座5の内周面に、孔の直径寸法よりも大きな幅で円周溝5bを設けても良い。この場合、外輪間座4の吐出口10から吐出された圧縮エアが、孔15より流入し、前記円周溝5b内を流れる。その結果、主軸表面全周に冷却エアが行きわたるようになり、主軸表面に直接冷却エアが接触する面積を増大させることができる。したがって、主軸7を直接冷却させる冷却効果をより高めることができる。
【0049】
図10に示すように、外輪間座4Aは、軸受内にエアオイルを供給するエアオイル供給口16を有し、このエアオイル供給口16は、軸受内に突出して内輪外径面3aとの間でエアオイル通過用の環状すきまδ2を介して対面する突出部23を含むものとしても良い。この例の外輪間座4Aは、外輪間座本体24と、この外輪間座本体24とは別体に構成されたノズル25,25とを有する。外輪間座本体24は断面略T字形状に形成され、外輪間座本体24の両側部に、リング状のノズル25,25がそれぞれ嵌め込まれて左右対称に固定されている。各ノズル25に、軸受内に突出する突出部23が設けられている。
【0050】
外輪間座本体24において、各ノズル25との当接面である両側面24a,24aおよび内周面24b,24bには、それぞれ研摩加工が施されている。これら各側面24aと内周面24bとの隅部には、研摩盗みが設けられている。各ノズル25の内側面および外周面にも、それぞれ研摩加工が施されている。また各ノズル25のうち前記各側面24aとの当接面には、エアオイル供給口16からのエアオイル漏れを防ぐ環状のシール部材26が設けられている。内輪外径面3aにおける、エアオイル供給口16に対向する位置には、環状凹み3aaが設けられている。
前記環状すきまδ2は、前述の径方向すきまδ1と同様に、次のように設定される。外輪間座4Aの吐出口10の総断面積よりも、内輪外径面3aと突出部23の内周面との間で形成される環状すきまδ2の径方向断面積が大きくなるように、前記環状すきまδ2が設定される。
【0051】
図10の構成によると、エアオイル供給口16から吐出されたエアオイルは、内輪外径面3aの環状凹み3aaに導入されて付着する。この付着された油を、油の表面張力と遠心力を利用して内輪軌道面に導入して軸受1の潤滑に用いる。突起部23を軸受内に挿入したうえで、エアオイルを内輪3により近づけて吐出させることができるため、軸受1の潤滑および冷却機能を高めることができる。冷却用の吐出口10から吐出された圧縮エアは、前記環状すきまδ2を介して軸受内に導入されて、軸受内で熱を吸収して排気される。このように内輪間座5における冷却と共に、軸受内での冷却機能もあり、より効果的な軸受冷却を行うことができる。前記環状すきまδ2を前記のように設定することで、冷却用の吐出口10から吐出された圧縮エアを、
図10中の矢印A1で示すように、内輪外径面3aとノズル25で形成される環状すきまδ2を介して、確実に軸受内に導入することができる。よって、圧縮エアは軸受内で熱を吸収して排気されることになる。
【0052】
また、この構成では、外輪間座4Aの吐出口10から吐出された圧縮エアが、確実に軸受内を通過して排気されることから、これまでの実施形態のように軸受潤滑用のエアオイル供給口16を、吐出口10とは別個に設けるのではなく、エアオイルを前記吐出口10から吹き出す構成としても良い。換言すれば、エアオイル供給口16と、圧縮エアの吐出口10とを兼用させても良い。この場合、エアオイルを供給するためのエア量削減と、エアオイル専用の孔数削減とを図ることができ、装置構造を簡素化することができる。これにより製造コストの低減を図ることができる。
【0053】
図11に示す構成にしても良い。つまり専用のエアオイル供給口16(
図10)を省略して、エアオイル供給口16と、圧縮エアの吐出口10とを兼用させる。さらに内輪間座5Aの内周面における、主軸と嵌合する部分の円周方向の一部に、軸方向に延びる軸方向溝27を設ける。且つ、前記内輪間座5Aにおける軸方向両端面の円周方向の一部に、前記軸方向溝27に連通し半径方向に延びる径方向溝28,28を設ける構成とする。
この構成によると、内輪間座5Aの孔15を通ってこの内周面に吐出されたエアオイルは、
図11の矢印A2に示すように、主軸7および内輪間座5Aの冷却と共に、軸方向溝27、径方向溝28,28を順次通過して、内輪3の冷却を効果的に行うことができる。またエアオイルが径方向溝28を通過する際、油が内輪端面に付着して付着流れとなるため、転がり軸受1の潤滑油として確実に利用できるようになる。
【0054】
図12ないし
図14はさらに異なる実施形態を示す。この冷却構造は、内輪の温度上昇が大きくなり、予圧過大が問題となる高速用主軸用のアンギュラ玉軸受からなる軸受装置に対して用いるのに適する。
図12に示すように、各転がり軸受1,1の外輪2,2および外輪間座4Aは、ハウジング6の段部6aと端面蓋40とにより、軸方向の位置決めがなされる。また、各転がり軸受1,1の内輪3,3および内輪間座5は、両側の位置決め間座41,42により、軸方向の位置決めがなされる。図における左側の位置決め間座42は、主軸7の外周に螺合させたナット43により固定される。外輪間座4Aは、
図10の実施形態と同様に、外輪間座本体24と、エアオイル用の一対のノズル25,25とからなる構成であり、外輪間座本体24と内輪間座5の幅寸法差により、転がり軸受1の初期予圧を設定して使用する。
【0055】
この軸受装置の冷却構造では、内輪間座5の外周面に設けられる孔15として、非貫通孔であって内輪間座5の外周面に対して凹んだバケット形状の孔が設けられている。バケット形状の孔15は、
図13に示すように、軸回転方向L1の前方へ行くに従い底部深さが深くなる傾斜状である。図例のバケット形状の孔15は、
図14のように外径側から見て軸回転方向L1の前方端が円弧状とされているが、円弧状でなくても良い。
【0056】
孔15を上記バケット形状とすると、外輪間座4Aの吐出口10から吐出された圧縮エアを孔15が効果的に受けることができるため、主軸7の駆動力をより一層補助することができる。バケット形状の孔15を設けたことの効果を確かめるために、
図12に示す構成の軸受装置により試験を行った。
【0057】
試験は、圧縮エアによる主軸7の駆動力の補助を、駆動モータの消費電力に置き換えた方法で行い、内輪間座5にバケット形状の孔15が無い場合と、有る場合のモータ消費電力の差を見た。転がり軸受1としては、内径φ70mmのアンギュラ玉軸を用いた。圧縮エアの噴射圧力は400KPaとした。主軸7の駆動は、
図12の紙面左側に配置されたビルトインモータ(図示せず)によるものである。
図15は、モータの消費電力値を回転速度の関係で整理した場合の結果を示す。
図16は、その時の転がり軸受1の温度結果を示す。
【0058】
試験の結果から、バケット形状の15が有る場合は、無い場合に比べモータ消費電力が小さくなることが分かる。このことは、バケット形状の孔15による駆動力の増加により、モータの消費電力が低減されたと言える。ちなみに、20000min
−1でのモータ消費電力は、バケット15Aが有ることで約100W低減された。軸受温度もバケット形状の孔15が有る場合、無い場合に比べ低くなっている。このことは、モータの消費電力が低減されたことにより、モータの発熱が軽減され、モータ部から転がり軸受1への伝達熱が小さくなったためと推定できる。特に、内輪3の温度が外輪2の温度に比べ大きく低下しており、モータロータの昇温が抑制されていることが伺える。
【0059】
回転している内輪間座4のバケット形状の孔15に対して、外輪間座4Aの吐出口10から圧縮エアを噴射すると、孔15の空間で噴射音が発生すると共に、複数個の孔15による風切り音が発生する。これらの騒音を低減するには、
図17または
図18に示す構成とすると良い。
【0060】
図17の軸受装置の冷却構造は、外輪間座4Aのノズル25の内周面における軸方向外端部分と、内輪間座5の外周面における孔15の軸方向外側部分との間の径方向すきまδaの寸法を小さくした。この例では、ノズル25の軸方向外端部に内径側へ突出する凸部25aを設けることで上記径方向すきまδaの寸法を小さくしているが、内輪間座5の軸方向両端部に外径側へ突出する凸部(図示せず)を設けることで上記径方向すきまδaの寸法を小さくしても良い。
【0061】
図18の軸受装置の冷却構造は、内輪間座5の外周面におけるバケット形状の孔15を含む軸方向中央部を外径側へ突出する凸部5cとすると共に、ノズル25の内周面を軸方向中央部の内径が大きい段付き形状とし、内輪間座5の凸部5cの両側側面とノズル25の段面とで軸方向すきまδbを形成してある。
【0062】
上記径方向すきまδaおよび軸方向すきまδbのすきま面積は、冷却用の圧縮エアの排気を考慮して、圧縮エアの吐出口10の総断面積に対して10倍程度とする。ここで言うすきま面積は、軸方向両側にある径方向および軸方向すきまδa,δbのうちの片側のすきまの面積である。なお、径方向すきまδaのすきま面積は、(径方向すきまδaのすきま寸法)×(径方向すきまδaの円周長さ)で算出され、軸方向すきまδのすきま面積は、(軸方向すきまδbのすきま寸法)×(軸方向すきまδbの円周長さ)で算出される。これは試験の結果から導き出された数値であり、上記した吐出口10の総断面積とすきま面積との関係とすることにより、冷却用の圧縮エアの流量の減少が少なく、合理的な低騒音化が図れる。
【0063】
図19、
図20に示すように、外輪間座4が、内輪3の軌道面に直接エアオイルを吐出するエアオイル供給口16を有する構成である場合にも、上記と同様に、圧縮エアによる騒音を低減させる構成を適用することができる。すなわち、
図19のように、外輪間座4のノズル25の内周面と、内輪間座5の外周面における孔15の軸方向外側部分との間の径方向すきまのすきま寸法δaを小さくする。また、
図20のように、内輪間座5の外周面におけるバケット形状の孔15を含む軸方向中央部を外径側へ突出する凸部5cとすると共に、外輪間座本体24よりもノズル25を内径側へ突出させて、内輪間座5の凸部5cの両側側面とノズル25の内径側へ突出した部分の側面とで、軸方向すきまδbを形成する。
【0064】
図21および
図22は、異なる軸受装置の冷却構造を示す。
図22に示すように、内輪間座5の孔15は、内輪間座5の外周面から内周面へ行くに従い主軸7の回転方向L1側に位置する傾斜孔としてもよい。孔15が傾斜孔であると、吐出口10から吐出される圧縮エアの噴射圧力を孔15が効率良く受けることができ、主軸7の駆動力をアシストする効果が高い。なお、この例では、外輪間座4の各吐出口10に、それぞれ個別の冷却エア供給孔13により圧縮エアが供給されている。
【0065】
図23に示すように、内輪間座5の孔15を、底部側へ行くほど主軸7の回転方向L1に傾斜した傾斜凹部としても、上記傾斜孔と同様の効果が得られる。
【0066】
外輪間座4の軸方向長さを比較的長くとれる場合は、
図24に示すように、外輪間座4の軸方向の異なる複数箇所に圧縮エアの吐出口10,10を設けても良い。各吐出口10は、いずれも主軸7の正転方向の前方へ傾斜させる。このように、吐出口10,10を軸方向の複数箇所に設けることにより、主軸7の駆動力をより一層アシストすることができる。
【0067】
図25ないし
図27は、マシニングセンタの主軸のように正逆両方向に回転する主軸を支持するのに適した軸受装置の冷却構造を示す。
図25に示すように、この冷却構造の外輪間座4には、軸方向の異なる2箇所に圧縮エアの吐出口10A,10Bが設けられている。一方の吐出口10Aは、
図26に示すように、主軸7の正転方向LAの前方へ傾斜させてあり、もう一方の吐出口10Bは、
図27に示すように、主軸7の逆転方向LBの前方へ傾斜させてある。
図25に示すように、圧縮エア供給装置14からハウジング6の冷却エア用供給孔13A,13Bに圧縮エアを送る経路に電磁制御弁45が設けられており、この電磁制御弁45を制御することで、冷却エア用供給孔13A,13Bを介していずれか一方の吐出口10A,10Bに圧縮エアが供給される。
【0068】
この構成によると、主軸7の正転時には吐出口10Aから圧縮エアを吐出させ、逆転時には吐出口10Bから圧縮エアを吐出させることにより、正逆両回転時に主軸7の駆動力をアシストすることができる。また、主軸7を正転状態から停止させるときに吐出口10Bから圧縮エアを吐出させ、主軸7を逆転状態から停止させるときに吐出口10Aから圧縮エアを吐出させれば、主軸7のブレーキとして活用できる。
【0069】
図28は、転がり軸受1が円筒ころ軸受である実施形態を示す。この軸受装置は、円筒ころ軸受からなる転がり軸受1の両側に2つの外輪間座4(1),4(2)がそれぞれ配置され、内輪3の両側に2つの内輪間座5(1),5(2)がそれぞれ配置されている。外輪2および外輪間座4(1),4(2)は、ハウジング6の段部6aと端面蓋40とにより軸方向の位置決めがなされ、内輪3および内輪間座5(1),5(2)は、主軸7の段部7aと主軸7の外周に螺合させたナット43とにより位置決めがなされる。
【0070】
外輪間座4(1),4(2)の内周面には、冷却用の圧縮エアを吐出する吐出口10(1),10(2)がそれぞれ設けられ、外輪間座5(1),5(2)の内周面には、吐出口10(1),10(2)から吐出される圧縮エアを受ける孔15(1),15(2)がそれぞれ設けられている。
図29に示すように、互いに対向する外輪間座4(1),4(2)と内輪間座5(1),5(2)における吐出口10(1),10(2)と孔15(1),15(2)の位置関係は、a1>b1,a2>b2としてある。ここで、a1,a2は外輪2の端面から吐出口10(1),10(2)までの距離、b1,b2は内輪3の端面から孔15(1),15(2)までの距離である。
【0071】
円筒ころ軸受は、転動体8である円筒ころが内外輪3,2と線接触するため、軸受の両側から均等に冷却することが望ましい。また、両側の外輪間座4に圧縮エアの吐出口10(1),10(2)を設けた場合、両側の吐出口10(1),10(2)から吐出される冷却用エアが互いに転がり軸受1に向かって流れると、軸受内で冷却用エアおよびエアオイルが滞留して過昇温の原因になりかねない。例えば
図30のように、外輪間座4の圧縮エアの吐出口10と内輪間座5の孔15が軸方向にオーバーラップしていると、オーバーラップ部分46,47で内輪間座5(1),5(2)が冷却用エアを受けてしまい、冷却用エアの一部が軸受内へ流れてしまうのである。吐出口10(1),10(2)と孔15(1),15(2)の位置関係が上記のように定めると、吐出口10(1),10(2)から吐出される冷却用の圧縮エアを、主軸7の駆動力のアシストに有効に利用させ、スムーズに排出することができる。
【0072】
図31ないし
図34は、グリース潤滑である実施形態を示す。
図31に示すように、この軸受装置Jも、エアオイル潤滑の軸受装置と同様に、軸方向に並ぶ複数の転がり軸受1,1の外輪2,2間および内輪3,3間に、外輪間座4および内輪間座5をそれぞれ介在させている。各転がり軸受1としてアンギュラ玉軸受が適用されている。内外輪3,2の軌道面間に複数の転動体8が介在され、これら転動体8が保持器9により円周等配に保持される。加えて、グリース潤滑であるこの軸受装置Jは、外輪2の軸方向両端に、外輪2と内輪3との間の軸受空間S1を密封するシール部材31,32がそれぞれ取り付けられている。
【0073】
この軸受装置Jは、例えば工作機械の主軸の支持に用いられるものであり、その場合、
図33のように、各転がり軸受1の外輪2はハウジング6内に固定され、内輪3は主軸7の外周面に嵌合する。
【0074】
上記軸受装置Jの冷却構造について説明する。
図31において、前記外輪間座4の内周面と前記内輪間座5の外周面との間には径方向すきまδ3が設けられており、外輪間座4の内周面に、内輪間座5の外周面に向けて冷却用の圧縮エアを供給する吐出口10が設けられている。この例では、
図33に示すように、吐出口10の数は3個であり、各吐出口10は円周方向に等配とされている。
【0075】
各吐出口10のエア吐出方向は、内輪3(
図31)および主軸7の回転方向L1の前方へ傾斜させてある。各吐出口10は、それぞれ直線状であって、外輪間座4の軸心に垂直な断面における任意の半径方向の直線L2から、この直線L2と直交する方向にオフセット(オフセット量OS)した位置にある。
【0076】
図31および
図33に示すように、外輪間座4の外周面には、圧縮エアAを導入する環状の導入溝11が設けられている。この導入溝11は、外輪間座4の外周面における軸方向中間部に設けられ、接続孔11aを介して各吐出口10に連通している。軸受装置Jの外部に設けた圧縮エア供給装置(図示せず)より、ハウジング6に設けた冷却エア用供給孔13を通って、導入溝11に圧縮エアAが供給される。
【0077】
図31に示すように、内輪間座5の軸方向両端部は、外径側に張り出した障害壁33となっている。この例では、障害壁33は、軸方向の転がり軸受1に近い側ほど外径側への張り出し量が大きいテーパ形状である。また、外輪間座4の軸方向端面には、吐出口10から供給された圧縮エアAの排出口となる切欠き34が設けられている。切欠き34は例えば
図34のような矩形の断面形状であり、外輪間座4に隣接して転がり軸受1の外輪2が配置されることで、切欠き34が、外輪間座4と内輪間座5間の間座空間S2と軸受装置Jの外部とを連通する開口形状となる。なおこの構成において、外輪間座4を組立可能にするため(外輪間座4の内周と障害壁33との干渉を防ぐため)、内輪間座5は、例えば、軸方向中間部が分割された二つの内輪間座分割体からなる。
【0078】
図31の部分拡大図である
図32に示すように、前記障害壁33の外径端は、外輪間座4の内周面と僅かな径方向すきまδ4を介して対向している。また、障害壁33の端面は前記軸方向内側のシール部材31と僅かな軸方向すきまδ5を介して対向している。これにより、シール部材31と障害壁33とでラビリンスシール効果を持つラビリンスシール部35が構築され、このラビリンスシール部35により軸受空間S1と間座空間S2とが隔てられている。
【0079】
この軸受装置Jは、運転時等に、軸受装置Jの外部に設けた圧縮エア供給装置から送られる冷却用の圧縮エアAが、外輪間座4の吐出口10から内輪間座5の外周面に向けて供給される。この圧縮エアAは、内輪間座5に衝突した後、内輪間座5の外周面に沿って軸方向両側へ流れ、さらに内輪間座5の障害壁33のテーパ状外径面に沿って外径側へ導かれて、外輪間座5の切欠き34から排出される。障害壁33によって圧縮エアAを外径側へ導くことにより、間座空間S2での圧縮エアAの流れ、ならびに間座空間S2からの圧縮エアAの排出がスムーズになる。圧縮エアAが間座空間S2を通過する間に、軸受装置Jおよびこの軸受装置Jに支持された主軸7の熱を奪う。それにより、軸受装置Jおよび主軸7が効率良く冷却される。
【0080】
また、外輪間座4の各吐出口10のエア吐出方向が、内輪3および主軸7の回転方向L1の前方へ傾斜させてあるため、吐出された圧縮エアAが内輪間座5の外周面に当たる際に、圧縮エアAの噴出力を内輪間座5に与えることができ、主軸7を駆動する作用を期待することができる。この構成は、軸受装置Jにより支持される軸が、工作機械の主軸7のように回転方向が一定している場合に適用される。
【0081】
内輪間座5の軸方向両端に障害壁33が設けられていることにより、圧縮エアAが軸受空間S1へ流入することが阻止される。特にこの実施形態では、軸受空間S1と間座空間S2とがラビリンスシール部35により隔てられているため、圧縮エアAの軸受空間S1への流入をより一層効果的に阻止できる。さらに、間座空間S2において圧縮エアAがスムーズに流れるため、間座空間S2の内圧が軸受空間S1の内圧よりも低くなっており、圧縮エアAが軸受空間S1に流入し難い。これらのことから、圧縮エアAが軸受空間S1に流入することを極力抑えることができ、軸受空間S1に封入されたグリースが圧縮エアAで排除されることが防がれる。そのため、良好な潤滑状態を維持することができる。
【0082】
上記実施形態では、吐出口10および切欠き34が同じ円周方向位置に配置されているが、
図35および
図36に示す実施形態のように、吐出口10および切欠き34を互いに円周方向位置をずらして配置してもよい。吐出口10および切欠き34の周方向位置が互いにずれていると、吐出口10から間座空間S2に供給された圧縮エアAが、内輪間座5の外周面に沿って切欠き34まで流れるときに、軸方向外側への移動に加えて円周方向の移動を伴うため、圧縮エアAが内輪間座5と接する時間が長くなり、軸受装置Jおよび主軸7を冷却する効果が高まる。
【0083】
図37は、
図35および
図36に示す軸受装置が組込まれた工作機械の主軸装置の一部を示す断面図である。主軸装置の構成は
図12に示すものと同じであるので、主軸装置の各部の説明は省略する。この軸受装置Jの冷却構造は、先に説明したように軸受装置Jおよび主軸7の冷却効果が高いので、主軸装置Jを高速な領域で運転させることが可能となる。このため、この軸受装置Jを、工作機械の主軸の支持に好適に用いることができる。
【0084】
上記各実施形態はそれぞれ単独でも構成できるが、それぞれの実施形態を併用することで、より冷却効果は大きくなる。また、この冷却構造および冷却方法は、アンギュラ玉軸受、円筒ころ軸受以外に、軸受位置決め用の間座を用いる、円すいころ軸受等にも適用できる。軸受装置の冷却構造および冷却方法を、工作機械装置、ターボ機械装置に適用することも可能である。