(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制振構造物のヤング率と断面2次モーメントの積を質量密度と断面積の積で除した値は、前記被制振構造物のヤング率と断面2次モーメントの積を質量密度と断面積の積で除した値と、所定の許容範囲内で一致しており、
前記複数の連結部材のバネ定数の前記弾性支持部材のバネ定数に対する比は、前記被制振構造物のヤング率と断面2次モーメントの積を質量密度と断面積の積で除した値と、所定の許容範囲内で一致している、
ことを特徴とする請求項1に記載の制振機能付構造物。
前記制振構造物は、被制振構造物の重量分布を模擬するために前記長手方向に分布する重量物質を内包することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の制振機能付構造物。
長手方向に互いに間隔をあけて設けられた弾性支持部材によって弾性的に支持され、該弾性支持部の外側に設けられ複数の被制振構造物端部支持部により支持されたはり状の被制振構造物の振動を抑制するための振動抑制構造であって、
前記被制振構造物と並行に設けられて前記被制振構造物と長さが同じはり状の制振構造物と、
前記制振構造物を支持して前記複数の被制振構造物端部支持部と前記被制振構造物の長手方向位置が同じ位置に設けられて前記複数の被制振構造物端部支持部のそれぞれ対応する位置にある前記被制振構造物端部支持部と支持条件が同じであるそれぞれの制振構造物端部支持部と、
前記被制振構造物と前記制振構造物とを複数個所で弾性的に連結して前記被制振構造物支持部と同じ前記長手方向位置に設けられた複数の連結部材と、
を備え、
前記複数の被制振構造物端部支持部および前記弾性支持部材に支持された前記被制振構造物の振動特性と、1次ないし3次の各振動モードの周波数が等しく動力学的に相似な振動特性を有する、
ことを特徴とする振動抑制構造。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る制振機能付構造物および振動抑制構造について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0019】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る制振機能付構造物の構成を示す正面図である。制振機能付構造物100aは、はり状の被制振構造物1および被制振構造物1に並行に設けられたはり状の制振構造物6を備える。制振構造物6は、被制振構造物1と、同一の材質、断面形状、長さを有する。
【0020】
なお、同一の断面形状、長さとは、所定の許容範囲内で一致することをいい、許容範囲は、制振効果の観点から許容できる範囲として設定される。
【0021】
被制振構造物1は、両端に固定フランジ3a、3bが取り付けられており、固定フランジ3a、3bはそれぞれ壁面(側部固定面)5a、5bに固定されている。また、被制振構造物1は、天井(上部固定面)4に間隔をおいて取り付けられた被制振構造物支持部材2a、2b、2cによって支持されている。被制振構造物支持部材2a、2b、2cは弾性を有し、弾性的に被制振構造物1を支持している。
【0022】
制振構造物6は、被制振構造物1に平行に設けられており、両端に固定フランジ3a、3bと同一の固定フランジ8a、8bが取り付けられている。固定フランジ8a、8bはそれぞれ、固定フランジ3a、3bが壁面(側部固定面)5a、5bに固定されている条件と同様の条件で壁面(側部固定面)5a、5bに固定されている。
【0023】
制振構造物6は、被制振構造物1と連結部材7a、7b、7cによって連結されている。連結部材7a、7b、7cの長手方向位置は、被制振構造物支持部材2a、2b、2cと同じ位置である。連結部材7a、7b、7cは弾性を有し、弾性的に被制振構造物1と制振構造物6とを連結している。
【0024】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る制振機能付構造物における制振対象構造を示す正面図である。ここで、制振対象構造は、制振機能付構造物100aのうち、被制振構造物1、固定フランジ3a、3bおよび被制振構造物支持部材2a、2b、2cを有する構造物である。
【0025】
図3は、本発明の第1の実施形態の効果を説明するための制振しない場合の制振対象構造の固有振動モードを示すモード図であり、本実施形態では低次3次モードまでを対象として、(a)は1次、(b)は2次、(c)は3次の固有振動モードを示す。ここで、被制振構造物支持部材2a、2b、2cのバネ定数は等しい値であると仮定している。また、被制振構造物支持部材2a、2b、2cの質量は被制振構造物1に比べて十分に軽いものとみなし、被制振構造物支持部材2a、2b、2cは曲げ剛性のみを考慮している。
【0026】
ここで、曲げ剛性は、梁の断面2次モーメントをI、ヤング率をEとした場合の、両者の積EIである。
【0027】
なお、被制振構造物支持部材2a、2b、2cが固定された上部固定面4a、4b、4cは、
図1では同一高さの天井4で示しているが、同一高さに限定されず、天井の高さがたとえば段違いになっていることから上部固定面4a、4b、4cの高さが異なっていてもよい。
【0028】
1次、2次、3次の固有振動モードのそれぞれの固有振動の周波数をf1、f2、f3とすると、f1<f2<f3である。
図2に示す被制振構造物1ははり構造とみなせるので、固有振動モードの次数が上がるにつれて節の数が0→1→2(節の数には壁面5a、5b固定点は含めていない)と増えていく。
【0029】
図4は、本発明の第1の実施形態に係る制振機能付構造物における動力学的相似構造物を示す正面図である。振動抑制構造は、制振機能付構造物100aのうち、制振構造物6、固定フランジ8a、8bおよび連結部材7a、7b、7cを有する構造物である。
【0030】
ここで、連結部材7a、7b、7cは
図4のように、被制振構造物支持部材2a、2b、2cと同様に、それぞれ上部固定面4a、4b、4cに上端が固定されているとする。制振構造物6は、被制振構造物1と長さが同じであり、両端が被制振構造物1と同一条件で支持されており、また、被制振構造物1と同じ位置で弾性的に支持されている。
【0031】
なお、制振構造物6は、被制振構造物1と長さが同じとは、所定の許容範囲内で一致することをいい、許容範囲は、制振効果の観点から許容できる範囲として設定される。
【0032】
制振構造物6と被制振構造物1の長さが同一であることと両者の支持条件とから、制振構造物6の曲げの振動モードは、被制振構造物1と同様の曲げの振動モードとなる。
【0033】
すなわち、1次、2次、3次の各振動モードの周波数は被制振構造物1の各振動モードの固有振動数に等しく、f1、f2、f3となる。このため、このような制振構造物6を含むこの部分は、
図2の制振対象構造と動力学的に相似であるとして動力学的相似構造物と呼ぶこととする。
【0034】
ここで、2自由度振動系による制振の原理について説明する。
図5は、原理説明における対象構造の制振しない場合の固有振動モードを示すモード図であり、(a)は対象構造の構成、(b)は1次、(c)は2次の固有振動モードを示す。
【0035】
質点51、52と弾性体(線形バネ)53、54とで構成される2自由度振動系は、質点51、52の質量は等しくMであり、バネ定数Kの線形バネ53で連結されている。さらに質点52はバネ定数Kの線形バネ54が接続され、線形バネ54の反対側は固定されている。
【0036】
この構造系は2つの固有振動数を持ち、1次角固有振動数ω1、2次角固有振動数ω2は、次により与えられる。
【0037】
ω1=0.618×(K/M)
1/2 [rad/s]
ω2=1.618×(K/M)
1/2 [rad/s]
ω1に対応する1次固有振動モードは質点51と質点52が同一方向に変位する同相モード(
図5(b)参照)であり、一方、ω2に対応する2次固有振動モードは質点51と質点52の変位が逆方向となる逆相モード(
図5(c)参照)である。
【0038】
図6は、原理説明における動吸振器単体の固有振動モードを示すモード図であり、(a)は動吸振器の構成、(b)は1次、(c)は2次の固有振動モードを示す。
【0039】
動吸振器59は、質点55、質点56、質点55と質点56とを連結するバネ57および質点56と対象構造の質点52とを連結するバネ58で構成される。質点55、56の質量は等しくmであり、バネ57、58のバネ定数は同じくkである。ここで、mとkの大きさを、たとえばm=0.025M、k=0.025Kのように
図5の対象系のMとKに対して同一の比率で定める。
【0040】
ここで、動吸振器59においてバネ58の質点52に接続されている箇所が固定支持されていると仮定すると、動吸振器59の振動モードは
図6(b)および(c)のようになる。この振動系は2つの固有振動数を有し、その値は、
0.618(k/m)
1/2=0.618(0.025K/0.025M)
1/2
=0.618(K/M)
1/2=ω1(rad/s)
1.618(k/m)
1/2=1.618(0.025K/0.025M)
1/2
=1.618(K/M)
1/2=ω2(rad/s)
となり、
図6の対象構造の固有振動数と一致する。また、それぞれの固有振動モードも対象系の固有振動モードと同一になる。
【0041】
すなわち、
図6の動吸振器の振動系は、
図5の対象構造の振動系と同一の固有振動特性を有していることがわかる。
【0042】
図7は、原理説明における対象物に動吸振器を取り付けた場合の構成図である。
【0043】
図8は、原理説明における対象物に動吸振器を取り付けた場合の対象構造の1次固有振動モードに対応する固有振動モードを示すモード図であり、(a)は低周波数側、(b)は高周波数側の固有振動モードを示す。このように対象構造に動吸振器59の設置により低周波側の低次モードと、高周波側の高次モードとに分離が生じる。
【0044】
図9は、原理説明における対象物に動吸振器を取り付けた場合の対象構造の2次固有振動モードに対応する固有振動モードを示すモード図であり、(a)は低周波数側、(b)は高周波数側の固有振動モードを示す。
【0045】
すなわち、
図5の対象振動系と
図6の動吸振器59を併せた全体の系(
図7)の固有振動特性は
図8および
図9のようになる。
【0046】
対象構造の1次と2次の2つの固有振動モードに対してそれぞれ低周波数側と高周波数側の2つの固有振動数が現れる。それぞれの固有振動モードについて、低周波数側と高周波数側とでは対象構造の変位方向に対して、動吸振器59の変位方向は互いに逆相関係にある。この関係が生じることは、動吸振器59が対象振動系の固有振動数に対して振動抑制の効果を有することを意味するものである。
【0047】
図10は、原理説明における周波数応答を示すスペクトル図であり、(a)、(b)は2つの質点それぞれの規格化された応答振幅を示す。対象構造の質点51、質点52のそれぞれに振幅一定の調和加振力F
2・cosΩtが作用した場合の周波数応答解析の結果を示す。
【0048】
横軸は加振角振動数Ωを対象系の1次角固有振動数ω1で割った加振振動数比λであり、(a)の縦軸は質点51の応答振幅x1を質点52の静的変位x
st2で除した応答倍率x
1/x
st2である。また、(b)の縦軸は質点52の応答振幅x2を質点52の静的変位x
st2で除した応答倍率x
2/x
st2である。
【0049】
図10(a)、(b)中の破線は、動吸振器59が設置されていない場合の対象構造のそれぞれ質点51、質点52の応答振幅を示し、実線は、動吸振器59が設置されている場合の対象構造のそれぞれ質点51、質点52の応答振幅を示している。
【0050】
図10(a)、(b)いずれにおいても、動吸振器59が設置されていない場合にそれぞれ2個あった共振点が、動吸振器59を設置することによってそれぞれ高周波数側と低周波数側に分割され、応答振幅は元の応答振幅より低くなっていることが確認できる。
【0051】
ある構造物にその構造物と同一の固有振動特性を有する別の構造物を接続すると、各固有振動モードに対して、元の構造物と後から設置した構造物との変位方向が同一方向となるモードと、逆方向となるモードの2つのモードが現れる。
【0052】
この2つのモードに対応する固有振動数は元の固有振動数を挟んで上下にある。2つの構造が同方向の変位を生じる固有振動モードは、元の固有振動数よりも低周波数側の固有振動数に対応する。また、2つの構造が逆方向の変位を生じる固有振動モードは、元の固有振動数よりも高周波数側の固有振動数に対応する。
【0053】
調和加振力が作用した場合、2つの固有振動数に挟まれた領域では、2つのモードの周波数応答は元の構造で互いに逆方向となるので打ち消しあって合成された応答は小さくなる。これが動吸振器の原理である。
【0054】
図11は、本発明の第1の実施形態に係る制振機能付構造物の効果を説明するための対象構造の1次固有振動モードに対応する固有振動モードを示すモード図であり、(a)は低周波数側、(b)は高周波数側を示す。
【0055】
図11に示すように、低周波数側のモードでは、被制振構造物1と制振構造物6は同じ方向のモードである。また、高周波数側のモードでは、被制振構造物1と制振構造物6は逆の方向のモードである。
【0056】
図12は、本発明の第1の実施形態に係る制振機能付構造物の効果を説明するための対象構造の2次固有振動モードに対応する固有振動モードを示すモード図であり、(a)は低周波数側、(b)は高周波数側を示す。
【0057】
図12に示すように、低周波数側のモードでは、被制振構造物1と制振構造物6は同じ方向のモードである。また、高周波数側のモードでは、被制振構造物1と制振構造物6は逆の方向のモードである。
【0058】
図13は、本発明の第1の実施形態に係る制振機能付構造物の効果を説明するための対象構造の3次固有振動モードに対応する固有振動モードを示すモード図であり、(a)は低周波数側、(b)は高周波数側を示す。
【0059】
図13に示すように、低周波数側のモードでは、被制振構造物1と制振構造物6は同じ方向のモードである。また、高周波数側のモードでは、被制振構造物1と制振構造物6は逆の方向のモードである。
【0060】
以上のように、1次モード、2次モード、3次モードのいずれについても、元のモードから分離した低周波数側のモードでは、被制振構造物1と制振構造物6は同じ方向のモードとなっており、元のモードから分離した高周波数側のモードでは、被制振構造物1と制振構造物6は逆の方向のモードとなっている。
【0061】
図14は、本発明の第1の実施形態に係る制振機能付構造物の周波数応答を示すスペクトル図である。被制振構造物1の被制振構造物支持部材2aの接続位置に調和加振力Fcos(2πft)が作用した場合の周波数応答解析の結果を示す。横軸は加振振動数fであり、縦軸は加振点における応答振幅を最大値で除した応答倍率である。
【0062】
破線は制振構造物6が設置されていない場合の応答を、実線は制振構造物6を含む動力学的相似構造が設置された場合の応答を示す。両者を比較すると、動力学的相似構造を設置することによって、すべての共振点における応答振幅がいずれも低減されており、動力学的相似構造が動吸振器として防振に有効であることを示している。
【0063】
図15は、先行発明である多重動吸振器による制振機能付構造物の効果を説明するための図であって、複数の1自由度用動吸振器を付加した場合の構成を示す正面図である。従来技術による多自由度制振のための制振装置を
図2の制振対象構造に適用する場合は、
図15に示すように複数(この場合3つ)の動吸振器を設置する必要がある。すなわち、振動低減の周波数範囲が広がると、制振対象となる固有振動数が増えるので動吸振器の重量が増加するとともに、広い設置スペースが必要となってくる。
【0064】
各動吸振器の固有振動数が
図3の固有振動モードに対応した固有振動数に一致するよう設計しなくてはならず、非常に高度な計算技術を要求される。
【0065】
これに対して、動力学的相似配管構造の設計は上述のように非常に単純で、容易に設計することができる。さらに、多数の固有振動数に対して同時に振動を低減できるので広い周波数範囲の振動低減を図る場合も、設置スペース、重量が抑制されるという利点を有する。
【0066】
[第2の実施形態]
図16は、本発明の第2の実施形態に係る制振機能付構造物を曲り等の有る配管系に適用した場合の構成を示す鳥瞰図である。
図2では説明のため比較的簡単な配管を対象としたが、実際の配管系は
図16に示すように幾何的に複雑な形状を有している。
【0067】
ここで、
図16中の実線で示す範囲が制振機能付構造物100bの具体的な構成である。被制振構造物1は、水平に設置され、2つの曲り部を有し、異なる径の配管が直列に接続されている。被制振構造物1は、両端を被制振構造物支持部材2a、2eに弾性的に支持され、その途中を被制振構造物支持部材2b、2c、2dに弾性的に支持されている。
【0068】
制振構造物6は、被制振構造物1と同じ形状であり、同じ材質の配管である。制振構造物6は、両端を連結部材7a、7eに弾性的に支持され、その途中を連結部材7b、7c、7dに弾性的に支持されている。
【0069】
このように、
図16の示す例では、制振構造物6の端部の支持部材は壁のような固定部から支持されておらず、連結部材7a、7eに支持されているが、この支持条件は、被制振構造物1が両端を被制振構造物支持部材2a、2eに支持されている条件と同じである。
【0070】
例えば、破線で示す範囲の配管の剛性が高く、相対的に実線で示す範囲の配管、すなわち、制振機能付構造物100bの範囲の剛性が低いような場合は、制振効果が確保でき、必ずしも両端を固定支持されている必要はない。
【0071】
図16の示す例のような複雑な形状の場合は、これに伴って固有振動特性も複雑な形態をなし、かつ制振対象となる固有振動数の数も大幅に増加してくる。
【0072】
このような状況では、従来技術の多重動吸振器では動吸振器を数多く設置しなくてはならず、設計のみならずスペース、調整などの手間が煩雑となってしまう。
【0073】
一方、本実施形態による動力学的相似配管構造を利用する制振機能付構造物では、多自由度の振動系である対象構造について、付加される重量や占有空間、設計上の困難さなどを軽減して制振することができる。
【0074】
[第3の実施形態]
図17は、本発明の第3の実施形態に係る制振機能付構造物の構成を示す正断面図である。本実施形態による制振機能付構造物100cは、被制振構造物1が流体を移送する配管である場合である。
【0075】
制振構造物6は、その内部に長手方向に延びる内部空間が形成された円筒状であり、内部空間には、被制振構造物1内を流れる流体が被制振構造物1内に収納されている平均的な重量に相当する重量の物質が内包されている。
【0076】
なお、内包する物質は、被制振構造物1内と同様に水平方向に広がる液体、粉体、流動性のあるゴムなどでもよい。また、被制振構造物1内の流体の重量分布を模擬して制振構造物6の内部空間に長手方向に同等の重量が分布するように物体を間隔を置いて取り付けてもよい。ここに同等の重量とは、所定の許容範囲内で一致することをいい、許容範囲は、制振効果の観点から許容できる範囲として設定される。
【0077】
被制振構造物1が配管の場合には、内部に流体が導入されると分布質量が付加されることになり、動力学的相似性が崩れてしまう。これを回避するために、制振構造物6側にも同一の重量分布を与えることによって、質量を被制振構造物1と同一に保つことができる。
【0078】
本実施形態による動力学的相似配管構造を利用する制振機能付構造物では、多自由度の振動系である対象構造が配管の場合についても、内部流体の重量を模擬することによって、付加される重量や占有空間、設計上の困難さなどを軽減して制振することができる。
【0079】
[第4の実施形態]
図18は、本発明の第4の実施形態に係る制振機能付構造物の構成を示す正面図である。本実施形態による制振機能付構造物100dにおいては、制振構造物6は、アルミニウム製配管11である。また、連結部材7a、7b、7cのバネ定数kは、被制振構造物支持部材2a、2b、2cのバネ定数Kの1/3に設定されている。
【0080】
鋼材のヤング率、質量密度はそれぞれ206GPa、7.86×10
3kg/m
3である。一方、アルミニウムのヤング率、質量密度はそれぞれ73GPa、2.7×10
3kg/m
3である。その比率を求めると、ヤング率は0.354、質量密度は、0.345となり、いずれも約1/3である。
【0081】
したがって、連結部材7a、7b、7cのバネ定数kを、被制振構造物支持部材2a、2b、2cのバネ定数Kの1/3に設定すれば、同様に動力学的相似配管構造物を構成することができる。
【0082】
本実施形態のように、制振構造物6を被制振構造物1の材質と異なる材質としても、連結部材7a、7b、7cのバネ定数kを調整することにより、動力学的相似配管構造物を構成することができ、被制振構造物1の振動を抑制することができる。また、アルミニウムは質量密度が鋼材より軽いので第1の実施形態と比較して軽量化することが可能となる。
【0083】
なお、本実施形態では、制振構造物の材質をアルミニウムとしているが、たとえばアルミニウム合金でもよい。アルミニウムの比重が約2.7に対して、たとえばアルマイト(商標)の比重は2.7〜2.8でありアルミニウムと同様に比重は鋼材の約1/3であり、ヤング率と質量密度それぞれの鋼材に対する比が等しい。したがって、連結部材7a、7b、7cのバネ定数kを、被制振構造物支持部材2a、2b、2cのバネ定数Kの1/3程度に設定すれば、同様に動力学的相似配管構造物を構成することができる。
【0084】
また、チタンは、質量密度が4.11×10
3kg/m
3(ただし溶融点液体状態)であり鋼の約1/2と軽い。ヤング率は、116GPaであり鋼の約1/2弱であり、ヤング率と質量密度それぞれの鋼材に対する比が等しい。したがって、連結部材7a、7b、7cのバネ定数kを、被制振構造物支持部材2a、2b、2cのバネ定数Kの1/2程度に設定すれば、同様に動力学的相似配管構造物を構成することができる。
【0085】
また、その他の金属あるいは合金の場合でも、連結部材の剛性を調節することにより、同様の効果を得ることができる。
【0086】
[第5の実施形態]
図19は、本発明の第5の実施形態に係る制振機能付構造物の構成を示す正面図である。本実施形態による制振機能付構造物100eは、被制振構造物1および制振構造物6が配管の場合である。制振構造物6は被制振構造物1とは材料は同じであるが、被制振構造物1の断面積よりも小さい断面積を有する小口径配管12である。
【0087】
一般に、はり構造物のn次固有曲げ振動の固有振動数は、次式で求めることができる。
【0088】
f
n=(λ
n/(2πL
2))(EI/ρA)
1/2
ここに、λ
n:境界条件による定数、L:はりの全長、E:はりのヤング率、I:はりの断面二次モーメント、ρ:はりの質量密度、A:はりの断面積である。
【0089】
したがって、全長Lが等しく、しかも(EI/ρA)の値が等しければ、2つのはり構造物は同一の固有振動特性を有する。
【0090】
EIは曲げ剛性であり、ρAは、単位長さあたりの質量なので、それぞれ、質点系のバネ定数と質量に対応している。また、被制振構造物1と制振構造物6とで断面形状が同じであれば、断面積Aおよび断面2次モーメントIは等しくなるので、被制振構造物1と制振構造物6とで、ヤング率Eと質量密度ρの比が等しい場合には、端点条件などの境界条件を等しくすることによって、固有振動数を一致させることができる。
【0091】
一方、本実施形態は、被制振構造物1と制振構造物6とで材料が同じ場合であり、両者のヤング率Eと質量密度ρは等しく、I/Aの値を等しくすれば制振構造物6を被制振構造物1に対して動力学的に相似なはり構造物とすることができる。
【0092】
ここで、はり構造物が円管の場合は、被制振構造物1の外径をD
0、肉厚をT
0、制振構造物6の外径をD
1、肉厚をT
1とすれば、被制振構造物1のI/Aは、
I/A=(D
02+(D
02−2T
0))
2/16
と表されるので、
D
02+(D
02−2T
0)=D
12+(D
12−2T
1)
となるように制振構造物6の外径D
1と肉厚T
1を設定すれば、両者のI/Aが等しくなる。
【0093】
ただし、制振構造物6の曲げ剛性は被制振構造物1の曲げ剛性と異ってくるので、連結部材7a、7b、7cのバネ定数kは、被制振構造物支持部材2a、2b、2cのバネ定数Kに、被制振構造物1の曲げ剛性と制振構造物6の曲げ剛性の比を乗じた値とする必要がある。すなわち、下式で求めた値とする。
【0094】
k=(D
02+(D
02−2T
0))
2/(D
12+(D
12−2T
1))
2×K
制振構造物6の曲げ剛性、連結部材7a、7b、7cのバネ定数kは、被制振構造物1の曲げ剛性、被制振構造物支持部材2a、2b、2cのバネ定数Kと同一の比率を有し、かつその比率は被制振構造物1に対する制振構造物6の質量比に等しくすることができる。このことにより、制振構造物6と連結部材7a、7b、7cから構成される振動抑制構造は、
図2の制振対象構造に対して動力学的相似構造物となる。
【0095】
なお、制振構造物6の曲げ剛性、連結部材7a、7b、7cのバネ定数kが、被制振構造物1の曲げ剛性、被制振構造物支持部材2a、2b、2cのバネ定数Kと同一の比率を有するとは、所定の許容範囲内で一致することをいい、許容範囲は、制振効果の観点から許容できる範囲として設定される。
【0096】
動力学的相似構造物が構成されるので動吸振器として被制振構造物1の振動を抑制することができる。また、制振構造物6の直径D
1を被制振構造物1の直径D
0より小さくできるため、第1の実施形態と比較して軽量化、コンパクト化をはかることが可能となる。
【0097】
[第6の実施形態]
図20は、本発明の第6の実施形態に係る制振機能付構造物の構成を示す正断面図である。本実施形態による制振機能付構造物100fにおいては、被制振構造物1は配管であり、制振構造物6は被制振構造物1内に設けられている。連結部材7a、7b、7cはそれぞれ、被制振構造物1の内壁面と制振構造物6の外表面とを連結している。
【0098】
制振構造物6は、被制振構造物1と中心軸が一致するように配置されている。連結部材7a、7b、7cのバネ定数kは、被制振構造物1の曲げ剛性と制振構造物6の曲げ剛性の比を、被制振構造物支持部材2a、2b、2cのバネ定数Kに乗じた値としている。
【0099】
制振構造物6の曲げ剛性、連結部材7a、7b、7cのバネ定数kは、被制振構造物1の曲げ剛性、被制振構造物支持部材2a、2b、2cのバネ定数Kと同一の比率を有し、かつその比率は被制振構造物1に対する制振構造物6の質量比に等しくすることができる。このことにより、制振構造物6と連結部材7a、7b、7cから構成される振動抑制構造は、
図2の制振対象構造に対して動力学的相似構造物となる。
【0100】
また、制振構造物6および連結部材7a、7b、7cは被制振構造物1内に内蔵されているため、制振構造物6および連結部材7a、7b、7cの設置による他の構造物との干渉を回避することができる。
【0101】
[第7の実施形態]
図21は、本発明の第7の実施形態に係る制振機能付構造物の構成を示す平面図である。
図22は、本発明の第7の実施形態に係る制振機能付構造物の構成を示す
図21のXXII-XXII線矢視正面図である。
【0102】
本実施形態による制振機能付構造物100gにおいては、A系列の高圧第1給水加熱器101a、高圧第2給水加熱器102a、高圧第3給水加熱器103aが、その順に水平方向に一列に並んでいる。これらを直列に連結するように高圧第1給水加熱器入口給水配管111a、高圧第2給水加熱器入口給水配管112a、高圧第3給水加熱器入口給水配管113aが接続されている。
【0103】
同様に、B系列の高圧第1給水加熱器101b、高圧第2給水加熱器102b、高圧第3給水加熱器103bが、その順に水平方向に一列にA系列に平行に並んでいる。これらを直列に連結するように、高圧第1給水加熱器入口給水配管111b、高圧第2給水加熱器入口給水配管112b、高圧第3給水加熱器入口給水配管113bが接続されている。
【0104】
また、A系列の高圧第3給水加熱器103aから高圧第2給水加熱器102aに高圧第3給水加熱器ヒータードレン配管123aが設けられている。この高圧第2給水加熱器102aから高圧第1給水加熱器101aに高圧第2給水加熱器ヒータードレン配管122aが設けられている。その高圧第1給水加熱器101aから図示しないたとえばヒータードレンポンプに向かって高圧第1給水加熱器ヒータードレン配管121aが設けられている。
【0105】
同様に、B系列の高圧第3給水加熱器103bから高圧第2給水加熱器102bに高圧第3給水加熱器ヒータードレン配管123bが設けられている。この高圧第2給水加熱器102bから高圧第1給水加熱器101bに高圧第2給水加熱器ヒータードレン配管122bが設けられている。その高圧第1給水加熱器101bから図示しないたとえばヒータードレンポンプに向かって高圧第1給水加熱器ヒータードレン配管121bが設けられている。
【0106】
A系列とB系列は、給水流量、ヒータードレン流量のそれぞれについて同じ容量であり、A系列とB系列の各給水加熱器、配管は互いに並行して設けられており、配管寸法、配管の長さも同一である。
【0107】
高圧第1給水加熱器ヒータードレン配管121aと高圧第1給水加熱器ヒータードレン配管121b間は、ヒータードレン配管連結部材131により弾性的に連結されている。高圧第2給水加熱器ヒータードレン配管122aと高圧第2給水加熱器ヒータードレン配管122b間は、ヒータードレン配管連結部材132により弾性的に連結されている。同様に、高圧第3給水加熱器ヒータードレン配管123aと高圧第3給水加熱器ヒータードレン配管123b間は、ヒータードレン配管連結部材133により弾性的に連結されている。
【0108】
図23は、本発明の第7の実施形態に係る連結部材を示す
図21のXXIII-XXIII線矢視側面図である。高圧第1給水加熱器ヒータードレン配管121aと高圧第1給水加熱器ヒータードレン配管121b間を弾性的に連結するヒータードレン配管連結部材131を示している。
【0109】
ヒータードレン配管連結部材131は両端に、それぞれ、高圧第1給水加熱器ヒータードレン配管121aおよび高圧第1給水加熱器ヒータードレン配管121bが貫通する貫通孔131a、131bが設けられており、高圧第1給水加熱器ヒータードレン配管121aおよび高圧第1給水加熱器ヒータードレン配管121bはそれぞれ貫通孔131a、131bに挿入される。
【0110】
貫通孔131a、131bそれぞれの内径と高圧第1給水加熱器ヒータードレン配管121a、121bそれぞれの外径との間のクリアランスは、配管の熱膨張を考慮した間隔を確保し、なおかつ、制振効果を考慮して大きすぎないように、適切に設定される。
【0111】
ヒータードレン配管連結部材131には、弾性的な連結機能を持たせるために、長手方向に直角の方向に設けられたスリット131c、131dが、それぞれ貫通孔131a、131bの内側の貫通孔131a、131bの近傍に2か所形成されている。
【0112】
なお、スリットの長手方向の位置、個数は、貫通孔131a、131bの内側の貫通孔131a、131bの近傍に2か所に限定されず、必要とされる弾性の程度に応じて設定してよい。ヒータードレン配管連結部材132、133もヒータードレン配管連結部材131と同様の構造を有している。
【0113】
以上のような本実施形態は、高圧第1給水加熱器ヒータードレン配管121a、高圧第1給水加熱器ヒータードレン配管121bそれぞれの単独時の各固有振動モードに対して、高圧第1給水加熱器ヒータードレン配管121a、高圧第1給水加熱器ヒータードレン配管121bとが同一方向に変形する低周波数側の同相モードと、高圧第1給水加熱器ヒータードレン配管121a、高圧第1給水加熱器ヒータードレン配管121bとが逆方向に変形する高周波数側の逆相モードとを現わさせることができる。高圧第2給水加熱器ヒータードレン配管122aと高圧第2給水加熱器ヒータードレン配管122b、高圧第3給水加熱器ヒータードレン配管123aと高圧第3給水加熱器ヒータードレン配管123bそれぞれについても同様である。
【0114】
これにより、それぞれの高圧給水加熱器ヒータードレン配管は相互に動力学的類似構造物が構成されるので動吸振器として機能させることが可能となり、振動を抑制することができる。
【0115】
[その他の実施形態]
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
【0116】
たとえば、実施形態では、端点が2箇所の例を示しているが、被制振構造物が途中1箇所で分岐している場合は、端点は3箇所となるがこの場合でも本発明は適用できる。端点がさらに増えても同様に適用できる。
【0117】
あるいは、たとえば、第6の実施形態においては、並列に設けられた2系列の給水加熱器のヒータードレン配管を例にとって示しているが、これに限定されずに同様に複数の機器・配管が系列に設けられているものを対象とすることができる。
【0118】
蒸気タービン設備を例にとれば、複数の機器、配管が並列に設けられているものとして、給水加熱器まわりの給水配管、給水ポンプの出入り口配管、復水脱塩塔の出入り口配管等があり、これらに適用することができる。
【0119】
また、各実施形態の特徴を組み合わせてもよい。
【0120】
さらに、これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0121】
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。