特許第6013158号(P6013158)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6013158
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】通信ネットワーク
(51)【国際特許分類】
   H04L 25/02 20060101AFI20161011BHJP
   H04B 3/02 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   H04L25/02 F
   H04L25/02 V
   H04B3/02
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-264205(P2012-264205)
(22)【出願日】2012年12月3日
(65)【公開番号】特開2014-110544(P2014-110544A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年8月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社日本自動車部品総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 寛之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 佳吾
(72)【発明者】
【氏名】後藤 英樹
【審査官】 阿部 弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−288891(JP,A)
【文献】 特表2009−505470(JP,A)
【文献】 特開2012−235336(JP,A)
【文献】 特開2007−201697(JP,A)
【文献】 特開2012−004802(JP,A)
【文献】 特開昭50−043857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 25/02
H04B 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号を送受信する複数のノードが差動伝送線路を介して接続される通信ネットワークであって、
前記伝送線路が分岐する分岐点を3つ以上有し、
前記3つ以上の分岐点のそれぞれに設けられ、当該各分岐点の差動線間を接続する3つ以上の抵抗を備えており、
前記3つ以上の抵抗は、全ての抵抗を並列接続したときの合成抵抗値が、前記伝送線路が有する特性インピーダンスの略1/2の値に設定されており、
前記3つ以上の抵抗は、前記伝送線路の分岐数に応じてそれぞれ重みが付与されており、
前記分岐点に設けられる前記抵抗の値は、前記3つ以上の抵抗全ての重みの合計を当該分岐点の重みの値で除算した結果を、前記伝送線路が有する特性インピーダンスの1/2の値に乗算することで求められることを特徴とする、通信ネットワーク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有線通信が可能な通信ネットワークに関し、より特定的には、多数のノードが接続された通信ネットワークにおける終端抵抗の設定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
有線通信が可能な通信ネットワークの1つとして、例えば自動車に搭載されるLAN(Local Area Network)に用いられるコントローラエリアネットワーク(Controller Area Network;CAN)が知られている。このCANは、信号を送受信する複数のノードが差動伝送線路を介して接続される通信ネットワークである。
【0003】
この有線通信が可能な通信ネットワークでは、通常、伝送線路の両端にこの伝送線路が有する特性インピーダンスと同じ値の終端抵抗をそれぞれ設け、伝送線路で生じる反射波に起因する波形歪を抑制することを行っている。
【0004】
しかし、車載LANに用いられるCANのように多数のノードが接続された通信ネットワークでは、終端抵抗が設けられるノードは低インピーダンスであるが、終端抵抗が設けられないノードは高インピーダンスとなり、大きな反射歪が生じる可能性がある。また、終端抵抗が設けられないノード間では、生じた反射歪の収束時間が長くなる場合がある。さらに、反射歪の大きさによって通信信号にビット誤りが生じるため、配索規模(ノード数、配線長、分岐数など)や通信速度が制限されることになる。
【0005】
そこで、通信ネットワークで生じる波形歪を抑制する技術として、特許文献1において終端抵抗の決定手法が提案されている。この特許文献1では、他ノードまでの距離総和が長いノードほど大きな重みを付与し、伝送線路の特性インピーダンスの1/2と重みに比例した定数とを乗算した値を各ノードの終端抵抗として設定する。これにより、他ノードまでの距離総和が長いノードほど特性インピーダンスに近い値の終端抵抗が接続されることになり、波形歪が抑制されるという効果を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2009−505470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載の技術は、他ノードまでの距離総和が長いノードほど波形歪が大きいという仮定に基づいて提案された技術である。しかしながら、現実には、他ノードまでの距離総和が長いノードほど波形歪が大きいとは限らないため、波形歪抑制の実効性に課題が残る。
【0008】
それ故に、本発明の目的は、波形歪抑制の実効性が高い通信ネットワークを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、信号を送受信する複数のノードが差動伝送線路を介して接続される通信ネットワークに向けられている。そして、上記目的を達成するために、本発明の通信ネットワークは、伝送線路が分岐する分岐点を3つ以上有し、3つ以上の分岐点のそれぞれに設けられ、その各分岐点の差動線間を接続する3つ以上の抵抗を備えている。この3つ以上の抵抗は、全ての抵抗を並列接続したときの合成抵抗値が、伝送線路が有する特性インピーダンスの略1/2の値に設定されている。
かかる構成により、ノード間で生じる反射波が分岐点に設けられた抵抗を必ず通過するため、反射波のエネルギーが抵抗によって消費させられて、通信信号の波形歪を抑制することができる。
【0010】
3つ以上の抵抗は、伝送線路の分岐数に応じてそれぞれ重みが付与されており、また、分岐点に設けられる抵抗の値は、3つ以上の抵抗全ての重みの合計を分岐点の重みの値で除算した結果を、伝送線路が有する特性インピーダンスの1/2の値に乗算することで求められる。
かかる構成により、さらに、通信信号の電圧振幅の低下を回避して、Highレベルを確保することができる。
【発明の効果】
【0011】
上記本発明によれば、各分岐点の線間に設けた抵抗による通信信号の波形歪を抑制と、全抵抗の並列合成抵抗値を伝送線路の特性インピーダンスの略1/2とすることによる通信信号の電圧振幅の確保(低下回避)とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態にかかる通信ネットワーク1の概略構成を示す図
図2】本発明の一実施形態にかかる通信ネットワーク1の具体例1を示す図
図3図2の具体例1による波形歪の抑制効果を示す図
図4】本発明の一実施形態にかかる通信ネットワーク1の具体例2を示す図
図5図4の具体例2による波形歪の抑制効果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明を行う。但し、必要以上に詳細な説明、例えば既によく知られた事項の説明や実質的に同一の構成に対する重複した説明など、を省略する場合がある。この省略は、説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
なお、発明者は、当業者が本発明を十分に理解するために図面および以下の説明を提供するのであり、これらの図面や説明によって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0014】
<通信ネットワークの基本構成>
図1は、本発明の一実施形態にかかる通信ネットワーク1の概略構成を示す図である。図1に例示した通信ネットワーク1は、例えばCAN規格に基づいて構成された車載通信ネットワークであり、信号を送受信する複数のノード10が伝送線路20を介して接続された構成である。複数のノード10は、例えば電子制御ユニット(electronic control unit;ECU)である。このECUとは、車両に関していえば、エンジンECU、トランスミッションECU、ブレーキECU、メーターECU、走行制御ECUなどである。伝送線路20は、差動伝送線路であり、幾つかに分岐して複数のノード10をそれぞれ接続している。この差動伝送線路の一例としては、ツイストペア線を用いた差動信号線などがある。
【0015】
この通信ネットワーク1における通信は、例えば次のようにして行われる。
通信ネットワーク1がパワートレイン系に使用されるハイスピードCANである場合、送信ノード10から伝送線路20に用いた差動信号線にそれぞれHighレベル信号とLowレベル信号とを流し、受信ノード10において伝送線路20の2本線間の信号電圧差を判断することで、ノード間でデータを送受信する。
【0016】
本実施形態にかかる通信ネットワーク1は、幾つかのノード10が1つに接続される伝送線路20上の点、すなわち伝送線路20が分岐して幾つかのノード10に接続される点である分岐点31〜3nを複数有しており、その分岐点31〜3nごとに所定の抵抗R1〜Rnが接続されている。
なお、本発明は、分岐点を複数有する通信ネットワークであれば適用可能である。しかし、従来にない本発明特有の効果を発揮させるためには、3つ以上の分岐点(nが3以上の整数)を有している通信ネットワークが適している。
【0017】
図1の例では、分岐点31には、4つのノード10と分岐点32が繋がっている、つまり分岐点31から5本の伝送線路20が分岐している。分岐点32には、2つのノード10と分岐点31と分岐点33(図示せず)が繋がっている、つまり分岐点32から4本の伝送線路20が分岐している。以降も同様に考えて、分岐点3nには、2つのノード10と分岐点3n−1(図示せず)が繋がっている、つまり分岐点3nから3本の伝送線路20が分岐している。
【0018】
抵抗R1〜Rnは、それぞれの分岐点31〜3nにおいて、伝送線路20に用いた差動信号線の2本線間(実線と太実線との間)に接続される。
例えば、図1に例示した通信ネットワーク1が上述したハイスピードCANである場合には、分岐点31における伝送線路20のHighレベル信号線(太実線、以下同じ)とLowレベル信号線(実線、以下同じ)との間に、抵抗R1が接続される。また、分岐点32における伝送線路20のHighレベル信号線とLowレベル信号線との間に、抵抗R2が接続される。以降も同様にして、分岐点3nにおける伝送線路20のHighレベル信号線とLowレベル信号線との間に、抵抗Rnが接続される。
【0019】
抵抗R1〜Rnの各値は、それぞれが接続される分岐点31〜3nにおける伝送線路20の分岐数に応じて定められる。具体的には、抵抗R1〜Rnには、全分岐数に対する接続先の分岐点31〜3nにおける分岐数の比率に応じた重みが付与される。
今、伝送線路20が有する特性インピーダンスをZと、抵抗Rj(j=1〜n)に付与される重みをWで表すと、抵抗Rjの値は次式[1]で与えられる。
【数1】
【0020】
上記式[1]で与えられた抵抗R1〜Rnは、全ての抵抗R1〜Rnを並列接続したときの合成抵抗値が、伝送線路20が有する特性インピーダンスの略1/2の値となる。
以下、通信ネットワーク1の配索が異なる2つの具体例を挙げて、抵抗R1〜Rnの各値の求め方を説明する。
【0021】
<通信ネットワークの具体例1>
図2は、本発明の一実施形態にかかる通信ネットワーク1の具体例1を示す図である。図2に例示する通信ネットワーク1は、17つのノード10が3つの分岐点31〜33を介して接続された通信ネットワークである。分岐点31には、8つのノード10と分岐点32とが繋がっている、つまり分岐点31から9本の伝送線路20が分岐している。分岐点32には、1つのノード10と分岐点31と分岐点33とが繋がっている、つまり分岐点32から3本の伝送線路20が分岐している。分岐点33には、8つのノード10と分岐点32とが繋がっている、つまり分岐点33から9本の伝送線路20が分岐している。
【0022】
具体例1では、分岐点31〜33に接続される抵抗R1〜3の重みをW〜Wは、次式[2]に示すように分岐数の逆数で付与されるものとする。なお、伝送線路20が有する特性インピーダンスZは120Ωとする。
【数2】
【0023】
よって、分岐点31〜33の全分岐数に関する重みの総和は、次式[3]で表される。
【数3】
【0024】
よって、上記式[2]および[3]を上記式[1]に当てはめると、抵抗R1〜R3の各値が次式[4]〜[6]のように求められる。
【数4】
【0025】
上記抵抗R1〜R3は、全てを並列に接続したときの合成抵抗値[1/(1/R1+1/R2+1/R3)]が、伝送線路20が有する特性インピーダンスの1/2の値(=60Ω)となる。よって、通信信号のHigh(ドミナント)の電圧振幅が低下することなく、抵抗値を増やすことができる、すなわち反射歪(波形歪)を抑制することができる。この具体例1による波形歪の抑制効果を図3に示す。
【0026】
例えば、通信ネットワークに用いられる従来の技術では、分岐点31および分岐点33の2箇所だけに終端抵抗120Ωを接続する。このため、従来の手法では、通信信号のHigh(ドミナント)からLow(リセッシブ)への移行時に非常に大きな反射歪が発生し、通信信号がLow(リセッシブ)の閾値(0.7V)以下に収束するまでに1100ns以上時間がかかった。
これに対し、本発明の通信ネットワーク構成では、反射歪の発生を大幅に抑制できるので、通信信号がLow(リセッシブ)の閾値(0.7V)以下に収束するまでの時間を480ns程度に短縮することができる。従って、通信信号におけるビット誤判定までの余裕度が向上するため、配索規模(ノード数、配線長、分岐数など)の拡張や通信速度の向上が可能となる。
【0027】
<通信ネットワークの具体例2>
図4は、本発明の一実施形態にかかる通信ネットワーク1の具体例2を示す図である。図4に例示する通信ネットワーク1は、16つのノード10が3つの分岐点31〜33を介して接続された通信ネットワークである。分岐点31には、7つのノード10と分岐点32とが繋がっている、つまり分岐点31から8本の伝送線路20が分岐している。分岐点32には、2つのノード10と分岐点31と分岐点33とが繋がっている、つまり分岐点32から4本の伝送線路20が分岐している。分岐点33には、7つのノード10と分岐点32とが繋がっている、つまり分岐点33から8本の伝送線路20が分岐している。
【0028】
具体例2では、分岐点31〜33に接続される抵抗R1〜3の重みをW〜Wは、次式[7]に示すように分岐数そのままで付与されるものとする。なお、伝送線路20が有する特性インピーダンスZは120Ωとする。
【数5】
【0029】
よって、分岐点31〜33の全分岐数に関する重みの総和は、次式[8]で表される。
【数6】
【0030】
よって、上記式[7]および[8]を上記式[1]に当てはめると、抵抗R1〜R3の各値が次式[9]〜[11]のように求められる。
【数7】
【0031】
上記抵抗R1〜R3は、全てを並列に接続したときの合成抵抗値[1/(1/R1+1/R2+1/R3)]が、伝送線路20が有する特性インピーダンスの1/2の値(=60Ω)となる。よって、通信信号のHigh(ドミナント)の電圧振幅が低下することなく、抵抗値を増やすことができる、すなわち反射歪(波形歪)を抑制することができる。この具体例2による波形歪の抑制効果を図5に示す。
【0032】
以上のように、本発明の一実施形態にかかる通信ネットワークによれば、全てを並列に接続したときの合成抵抗値が伝送線路の特性インピーダンスの略1/2の値となる抵抗を、伝送線路上の各分岐点の線間にそれぞれ設ける。各分岐点の線間に設ける抵抗の値は、その分岐点における伝送線路の分岐数の比率に応じて決定される。
これにより、ノード間で生じる反射波が分岐点に設けられた抵抗を必ず通過するため、反射波のエネルギーが抵抗によって消費させられて、通信信号の波形歪を抑制することができる。従って、各分岐点の線間に設けた抵抗による通信信号の波形歪を抑制と、全抵抗の並列合成抵抗値を伝送線路の特性インピーダンスの略1/2とすることによる通信信号の電圧振幅の確保(低下回避)とを両立させることができる。
【0033】
なお、本発明が提供する技術の一実施例として図面を用いた詳細な説明を行ったが、この図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、本技術を例示するために課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。よって、図面や詳細な説明に記載されているからといって、全ての構成要素が発明に必須の構成要素であるわけではない。
さらに、上述した実施形態は、本発明における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において、種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、多数のノードが有線接続された通信ネットワークに利用可能であり、特に伝送線路で生じる反射波に起因する波形歪を抑制したい場合などに有用である。
【符号の説明】
【0035】
1 通信ネットワーク
10 ノード
20 伝送線路
31、32、33、3n 分岐点
R1、R2、R3、Rn 抵抗
図1
図2
図3
図4
図5