(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0012】
図1に示すタービン過速度防止システム10(以下、システム10とする)は、蒸気タービンの回転速度を検出する少なくとも3台の第一検出器11(11A〜11C)が出力する速度信号(a,b,c)に基づいて蒸気タービンの回転数を制御する第一過速度防止部13と、第一検出器11とは計測点が異なる少なくとも3台の第二検出器12(12D〜12F)が出力する速度信号(d,e,f)を入力する第二過速度防止部14と、第一検出器11が出力する速度信号(a,b,c)が異常か否かを判定する異常判定部15と、異常と判定された第一検出器11が出力する速度信号(a,b,c)に替えて第二検出器12が出力する速度信号(d,e,f)を選択し、回転数の制御をさせる信号補完部22と、から構成される。なお、
図1では、第一検出器11を3台、第二検出器12を3台で構成しているが、各構成要素の数量、位置及び配置は
図1に限定されない。
【0013】
第一検出器11は、図示しない蒸気タービンの回転速度を検出し、それぞれ速度信号(a,b,c)を生成する。そして、生成した信号を第一過速度防止部13へ出力する。
第二検出器12は、第一検出器11と同様に、タービンの回転速度を検出し、それぞれ速度信号(d,e,f)を生成する。そして、生成した信号を第二過速度防止部14へ出力する。第二検出器12と第一検出器11とは、異なる計測点に設置されている。
【0014】
なお、第一検出器11はアクティブタイプ、第二検出器12はパッシブタイプとし、それぞれ異なる検出タイプの回転検出器が使用される。なお、アクティブタイプの回転検出器は、自らバッテリを有し、または外部からの給電により、電波等を利用して回転数を検出するものである。一方、パッシブタイプの回転検出器は、自らはバッテリを有さず、タービンの回転によって生じる磁界や電界を利用して回転数を検出するものである。
【0015】
第一過速度防止部13は、異常判定部15と、第一速度制御回路17と、第一過速度防止回路19と、ゼロ速度検出インターロック21と、から構成される。異常判定部15は、第一検出器11が出力する速度信号(a,b,c)を入力して、それぞれの信号が第一検出器11の故障等により異常か否かについて判定を行う。異常と判定された信号がある場合、信号補完部22を介して第二過速度防止部14からバックアップ信号の補完を行う。
【0016】
信号補完部22は、異常と判定された速度信号(a,b,c)に替えて、第一過速度防止部13から速度信号(d,e,f)を選択し、異常判定部15へ補完する。これにより、異常判定部15は、異常な信号を含まない正常な速度信号(a1,b1,c1)を、第一速度制御回路17及び第一過速度防止回路19に出力する。
【0017】
第一速度制御回路17は、異常判定部15から出力される速度信号(a1,b1,c1)に基づいてタービンの回転数制御を行う。
第一過速度防止回路19は、速度信号(a1,b1,c1)が所定の速度を超過した場合は、タービントリップするためのトリップ信号sを出力する。なお、ゼロ速度検出インターロック21は、タービンの回転数が一定の速度を下回ったことを検知するインターロックである。
【0018】
第二過速度防止部14は、異常判定部16と、第二速度制御回路18と、第二過速度防止回路20と、から構成される。異常判定部16は、第二検出器12が出力する速度信号(d,e,f)を入力して、それぞれの信号が第一検出器12の故障等により異常か否かについて判定を行う。異常と判定された信号は、信号補完部22が第一過速度防止部13へバックアップ信号として選択する候補から除外される。
【0019】
また、異常と判定された信号については、信号補完部22を介して第一過速度防止部13からバックアップ信号の補完することができる。したがって、第一過速度防止部13と第二過速度防止部14とで、相互に速度信号の補完することができる。これにより、異常判定部16は、異常な信号を含まない正常な速度信号(d1,e1,f1)を、第二速度制御回路18及び第二過速度防止回路20に出力する。
【0020】
切り替え部23は、全ての第一検出器11が出力する速度信号(a,b,c)が異常と判定された場合に、第一過速度防止部13から第二過速度防止部14による速度制御へ切り替えを行う。
【0021】
この場合、第二速度制御回路18は、異常判定部16から出力される速度信号(d1,e1,f1)に基づいてタービンの回転数制御を行う。第二過速度防止回路20は、速度信号(d1,e1,f1)が所定の速度を超過した場合は、タービントリップするためのトリップ信号sを出力する。
【0022】
図2は、第一過速度防止部13に適用される異常判定部15の概略を示す構成図である。なお、説明のため検出器11等は省略しているが、構成は
図1と同様である。
【0023】
異常判定部15は、各速度信号(a,b,c)のそれぞれに対応するA接点25及びB接点26と、異常判定回路24と、から構成されている。
A接点25は、異常判定回路24から異常判定信号tが入力されていない場合は閉じ、入力された場合は開くように動作する。一方、B接点26は、異常判定回路24から異常判定信号tが入力されていない場合は開いており、入力された場合は閉じるように動作する。
【0024】
異常判定信号tが入力されていないとき、つまり速度信号(a,b,c)が正常のときは、各信号のそれぞれに対応するA接点25は閉じている。よって、これらの信号が、正常な速度信号(a1,b1,c1)として出力される。しかし、速度信号(a,b,c)のいずれかが異常となり、異常判定回路24から異常判定信号tが出力された場合、異常と判定された信号のA接点25は開き、B接点26は閉じる。これにより、異常と判定された速度信号は、A接点25が開くことで遮断される。
【0025】
このとき、信号補完部22は、バックアップ信号を補完するため、第二過速度防止部14から正常な速度信号(d,e,f)のいずれかを選択する。そして、選択した信号を、閉じられているB接点26を介して補完する。
【0026】
例えば、速度信号aが異常となった場合、A接点25が開くことにより速度信号aは遮断される。このとき、信号補完部22は、第二過速度防止部14の正常な速度信号(d,e,f)の中から速度信号dを選択する。そして、選択された速度信号dを、閉じられているB接点26を介して正常な速度信号a1として補完する。
【0027】
異常判定部16(
図1)は、異常判定部15と同様の構成をとる。異常判定部16は、速度信号(d,e,f)のいずれかが異常となった場合は、信号補完部22を介して第一過速度防止部13の速度信号(a,b,c)をバックアップ信号として補完することができる。
【0028】
異常判定回路24は、速度信号(a1,b1,c1)を入力し、それぞれの信号についての上下限逸脱、変化率大、及び中間値偏差大を基準として異常判定を行う。
【0029】
上下限逸脱による異常判定とは、所定の上限値及び下限値を設定し、速度信号(a1,b1,c1)がこの上下限の範囲に入っていないときは異常と判定することを意味する。変化率大による異常判定とは、速度信号(a1,b1,c1)について速度の変化率を算出し、算出した値が所定の値より大きいときは異常と判定することを意味する。中間値偏差大による異常判定とは、3つの速度信号(a1,b1,c1)の中間値と速度信号(a1,b1,c1)の一つとの差分を求めて、求めた値が所定の値より大きいときは異常と判定することを意味する。
【0030】
異常判定回路24は、第一検出器11の生成した速度信号(a,b,c)を直接入力せず、A接点25、B接点26を介した速度信号(a1,b1,c1)を入力する。したがって、速度信号(a,b,c)のうち2つの信号が異常となった場合、その2つの信号について第二過速度防止部14から正常な信号を補完した後に、異常判定回路24で異常判定できる。これにより、異常判定には3つの信号のうち少なくとも2つの正常な信号を必要とするが、速度信号(a,b,c)のうち2つの信号が異常の場合でも、残りの一つの異常を判定することが可能となる。
【0031】
図3は、異常判定回路24の構成図を示している。速度信号a1の異常判定を例に具体的に説明する。微分器28は、速度信号a1を入力し、この速度信号a1の変化率を計算し、その値を上限設定器29へ出力する。上限設定器29は、入力された信号が所定の上限値以内であるかを判定する。そして、上限値を超えている場合は、成立信号をOR演算子33へ出力する。
【0032】
上下限設定器30は、速度信号a1を入力し、この速度信号が所定の上限及び下限の範囲内にあるかを判定する。範囲内にない時は成立信号をOR演算子33へ出力する。
【0033】
中間値選択器27は、速度信号a1,b1及びc1を入力し、これらの信号の中間値を選択し、差分回路31へ出力する。差分回路は、この中間値と速度信号a1との差分信号を上限設定器32に入力する。上限設定器32は、入力された差分信号が所定の上限値以内であるかを判定する。そして、上限値を超えている場合は、成立信号をOR演算子33へ出力する。
【0034】
OR演算子33は、上限設定器29、32または上下限設定器30のいずれか一つから成立信号が入力された場合は、OR演算子34に成立信号を出力する。そして、OR演算子34は、OR演算子33から出力された信号またはOR演算子34自身から出力された信号のいずれかから成立信号が入力された場合は、成立信号を出力する。
【0035】
OR演算子34から成立信号が出力された場合は、速度信号a1は異常信号と判定される。同様に、速度信号b1,c1についても異常判定を行う。
【0036】
次に、速度信号(a,b,c)のいずれかが異常と判定された場合、信号補完部22において、バックアップ信号として補完する速度信号(d,e,f)の選択手順について説明する。
【0037】
図4は、速度信号(a,b,c)のいずれかが異常となった場合の信号補完部22による補完手順を示したフローチャートである。ここでは、速度信号dを補完する場合について説明する。なお、異常となった速度信号(d,e,f)については、選択候補から除外される。
【0038】
まず、速度信号dを選択し(S10)、すでに第一過速度防止部13(
図1)にバックアップ信号として補完されていないかを判断する。速度信号dが選択されている場合は、終了する(S11、Yes)。
【0039】
次に、速度信号dが選択されていない場合について検討する。(S11、No)。
速度信号eがバックアップ信号として選択されておらず(S12、No)、かつ速度信号fも選択されていない場合(S13、No)、速度信号dが3つの信号の中間値のとき(S14、Yes)、速度信号dをバックアップ信号として選択する(S15)。
なお、中間値でない場合は、終了する(S14、No)。
【0040】
速度信号eがバックアップ信号として選択されておらず(S12、No)、かつ速度信号fが選択されている場合は(S13、Yes)、速度信号dが最大値のとき(S17、Yes)、速度信号dをバックアップ信号として選択する(S15)。
なお、最大値でない場合は、終了する(S17、No)。
【0041】
速度信号eがバックアップ信号として選択されており(S12、Yes)、かつ速度信号fが選択されていない場合は(S16、No)、速度信号dが最大値のとき(S17、Yes)、速度信号dをバックアップ信号として選択する(S15)。
なお、最大値でない場合は、終了する(S17、No)。
速度信号eが選択されており(S12、Yes)、かつ速度信号fが選択されている場合は(S16、Yes)、速度信号dがバックアップ信号として選択される(S15)。
【0042】
速度信号e、fについても同様の選択手順を実行し、バックアップ信号を決定する。したがって、速度信号(d,e,f)は、中間値、高値、低値の優先順位で選択されていくこととなる。
【0043】
ここでは、第二検出器12の速度信号が3個の場合における選択方法を例示した。第二検出器12の計測点がN個の場合について検討する。この場合における選択方法は、(2N−1)(N≧2)台の速度信号が正常のときは、中間値、中間値の1個上の値、中間値の1個下の値、・・・中間値の(N−1)個上の値、(N−1)個下の値の順で選択する。
【0044】
一方、(2N)(N≧2)台の第二検出器12の速度信号が正常のときは、低値から(N+1)番目の値、低値から(N)番目の値、低値から(N+2)番目の値、・・・、低値から(2N)番目の値、低値から1番目の値の順で選択する。
【0045】
つまり、第二検出器12の速度信号のうち、中間値、次に中間値から漸次遠ざかる値の順で選択する。
【0046】
したがって、第一過速度防止部13の速度信号(a,b,c)が異常となった場合でも、第二過速度防止部14の速度信号(d,e,f)をバックアップ信号として補完することにより、常に計測点3重化を維持することができる。
【0047】
図5は、第一速度制御回路17と第二速度制御回路18との構成図を示している。なお、第一速度制御回路17、第二速度制御回路18のみを記載しているが、全体の構成は
図1と同様である。
【0048】
第一速度制御回路17は、異常判定部15(
図1)から出力された正常な速度信号(a1,b1,c1)が入力される。これらの信号は、中間値選択器35に入力され、3つの速度信号の中から中間値が選択される。
【0049】
そして、中間値選択器35は、選択した中間値を制御設定器36へ出力する。制御設定器36は、入力された中間値と所定の設定速度とを比較して、その差分を差分信号として速度制御器37へ出力する。速度制御器37は、この差分信号に基づいてタービンの回転数を制御する。
【0050】
第二速度制御回路18は、第一速度制御回路17と同様の構成をとり、異常判定部16から出力された正常な速度信号(d1,e1,f1)に基づいてタービンの回転数を制御することができる。
【0051】
第一速度制御回路17と第二速度制御回路18とは、A接点38、B接点39及び切り替え部23を介して接続される。切り替え部23は、AND演算子40から構成される。AND演算子40は、異常判定部15により速度信号(a,b,c)の全てが異常信号と判定された場合は、切り替え信号uを出力する。
【0052】
第一速度制御回路17に設置されたA接点38は、切り替え信号uが入力されない場合は閉じ、入力された場合は開くように動作する。一方、第二速度制御回路18に設置されたB接点39は、切り替え信号uが入力されない場合は開き、入力された場合は閉じるように動作する。
【0053】
したがって、切り替え部23から切り替え信号uを出力されていない場合は、A接点38が閉じているため、第一速度制御回路17により速度制御を行う。一方、切り替え信号uを出力された場合は、B接点39が閉じているため、第二速度制御回路18により速度制御を行う。
【0054】
これにより、第一速度制御回路17は、常用の速度制御に用いられ、速度信号(a,b,c)の全てが異常信号となったときは、バックアップとして第二速度制御回路18により速度制御を行うことができる。
【0055】
図6は、第一過速度防止回路19と第二過速度防止回路20との構成図を示している。なお、全体の構成は
図1と同様である。なお、第一過速度防止回路19、第二過速度防止回路20のみを記載しているが、全体の構成は
図1と同様である。
【0056】
第一過速度防止回路19は、異常判定部15(
図1)から出力された正常な速度信号(a1,b1,c1)が入力される。これらの信号は、それぞれ上限設定器41に入力される。上限設定器41は、入力された信号が所定の上限値以内であるかを判定する。そして、上限値を超えている場合は、成立信号を出力する。
【0057】
2/3モニタ42は、入力された3つの信号の内で2つの信号が成立した場合は、成立信号を出力するものである。したがって、2/3モニタ42は、3つの上限設定器41の内から2つの成立信号が出力され場合は、成立信号を出力する。この成立信号は、トリップ信号sとして出力される。
【0058】
第二過速度防止回路20は、第一過速度防止回路19と同様の構成をとり、異常判定部16(
図1)から出力された正常な速度信号(d1,e1,f1)に基づいてトリップ信号sを出力することができる。
【0059】
第一過速度防止回路19と第二過速度防止回路20とは、A接点38、B接点39及び切り替え部23を介して接続される。A接点38、B接点39及び切り替え部23については、
図5と同じのため説明を省略する。
【0060】
したがって、切り替え部23から切り替え信号uを出力されていない場合は、A接点38が閉じているため、第一過速度防止回路19によりトリップ信号sを出力する。一方、切り替え信号uを出力された場合は、B接点39が閉じているため、第二過速度防止回路20によりトリップ信号sを出力する。
【0061】
これにより、第一過速度防止回路19は、常用の過速度防止に用いられ、速度信号(a,b,c)の全てが異常信号となったときは、第二過速度防止回路20により過速度防止を行うことができる。
【0062】
また、第二過速度防止回路20は、バックアップ過速度防止回路46を備える。バックアップ過速度防止回路46は、上限設定器41より設定値が大きな上限設定器47を有し、第一過速度防止回路19の動作とは別に単独でトリップ信号sを出力することができる。
【0063】
図7は、多数の速度が異常となった場合における、第一過速度防止回路19、第二過速度防止回路20の構成を示している。第一過速度防止回路19の2/3モニタ42は、速度信号(a,b,c)のうち2つが異常となった場合は、成立信号を出力する。一方、第二過速度防止回路20の2/3モニタ43は、速度信号(d,e,f)のうち2つが異常となった場合は、成立信号を出力する。
【0064】
AND演算子44は、2/3モニタ42、43から出力された信号が両方とも成立信号の場合は、トリップ信号sを出力する。
【0065】
したがって、第一検出器11の速度信号(a,b,c)の内で2つが異常となり、かつ第二検出器12の速度信号(d,e,f)内で2つが異常となった場合は、計測点3重化を維持できない。このとき、トリップ信号s出力することで強制的にタービンをトリップすることができる。
【0066】
図8は、
図6で示した第一過速度防止回路19と第二過速度防止回路20との構成における変形例を示している。
第一過速度防止回路19に設けられたAND演算子44は、2/3モニタ42の出力信号と2/3モニタ43の出力信号との論理積をとる。そして、いずれの出力信号も成立信号した場合は、トリップ信号sを出力する。
【0067】
これにより、計測点6重化を実現することができるため、システム10の運転継続性が向上する運用とすることができる。
【0068】
図9は、
図6で示した第一過速度防止回路19と第二過速度防止回路20との構成における変形例を示している。
第一過速度防止回路19に設けられたOR演算子45は、2/3モニタ42の出力信号と2/3モニタ43の出力信号との論理和をとる。そして、いずれかの出力信号が成立信号の場合は、トリップ信号sを出力する。
【0069】
これにより、計測点6重化を実現することができるため、システム10の過速度検出性を高める運用とすることができる。
【0070】
以上述べた過速度防止システムによれば、第一検出器11とは計測点が異なる第二検出器12を少なくとも3台により多重化し、第一検出器11の速度信号(a,b,c)が異常となったときは、第二検出器12の速度信号(d,e,f)による補完することにより、常に計測点3重化を維持することにより、信頼性の高い過速度防止システムを構成することが可能となる。
【0071】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。