特許第6013175号(P6013175)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友理工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6013175-電子写真機器用導電性ロール 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6013175
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】電子写真機器用導電性ロール
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/00 20060101AFI20161011BHJP
   F16C 13/00 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   G03G15/00 551
   F16C13/00 B
   F16C13/00 A
   F16C13/00 E
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-282330(P2012-282330)
(22)【出願日】2012年12月26日
(65)【公開番号】特開2013-228673(P2013-228673A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年9月7日
(31)【優先権主張番号】特願2012-75786(P2012-75786)
(32)【優先日】2012年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100095669
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 登
(72)【発明者】
【氏名】森原 康滋
(72)【発明者】
【氏名】巽 聡司
(72)【発明者】
【氏名】竹山 可大
【審査官】 中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−244463(JP,A)
【文献】 特開平10−017162(JP,A)
【文献】 特開2012−063591(JP,A)
【文献】 特開2005−148467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/00
G03G 15/08
G03G 15/02
G03G 15/16
F16C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体と、軸体の外周に成形された導電性ゴム弾性体層と、を有し、
前記導電性ゴム弾性体層が、不飽和結合を有するゴムと、硫黄と、酸性加硫促進剤と、スルホンアミド系化合物と、を含有する導電性ゴム組成物の加硫物よりなり、
前記不飽和結合を有するゴムが、イソプレンゴムであることを特徴とする電子写真機器用導電性ロール。
【請求項2】
軸体と、軸体の外周に成形された導電性ゴム弾性体層と、を有し、
前記導電性ゴム弾性体層が、不飽和結合を有するゴムと、硫黄と、酸性加硫促進剤と、スルホンアミド系化合物と、を含有する導電性ゴム組成物の加硫物よりなり、
前記酸性加硫促進剤が、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィドであることを特徴とする電子写真機器用導電性ロール。
【請求項3】
前記導電性ゴム組成物の加硫物の弾性回復率が、70%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【請求項4】
前記不飽和結合を有するゴム100質量部に対し、前記酸性加硫促進剤の含有量が0.1〜5質量部の範囲内であり、前記スルホンアミド系化合物の含有量が0.1〜5質量部の範囲内であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【請求項5】
前記導電性ゴム組成物が、導電剤として電子導電剤を含有することを特徴とする請求項記載の電子写真機器用導電性ロール。
【請求項6】
前記酸性加硫促進剤がチウラム系加硫促進剤であって、チウラム系加硫促進剤の窒素原子上のアルキル基の炭素数が4以上であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真機器用導電性ロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真方式を採用する複写機、プリンター、ファクシミリなどの電子写真機器が広く使用されるようになってきている。電子写真機器の内部には、通常、感光ドラムが組み込まれており、その周囲には、帯電ロール、現像ロール、転写ロール、トナー供給ロールなどの各種導電性ロールが配設されている。
【0003】
この種の電子写真機器による複写や印字は、感光ドラムに原稿像を静電潜像として形成し、静電潜像にトナーを付着させてトナー像を形成し、トナー像を複写紙に転写することにより行われている。
【0004】
感光ドラムに静電潜像を形成するには、帯電ロールにより予め感光ドラムの表面を帯電させた後、この帯電部分に光学系を介して原稿像を投射し、光の当たった部分の帯電を打ち消すことが行われている。感光ドラムの表面を帯電させる方式としては、最近では、帯電ロールを感光ドラムの表面に直接接触させて帯電させる接触帯電方式が採用されている。
【0005】
また、感光ドラムにトナー像を形成するには、最近では、トナーが付着された現像ロールを感光ドラムの表面に直接接触させる接触現像方式が採用されている。この現像ロールは、トナー供給ロールにより表面に供給されたトナーを、層形成ブレードとの摩擦により帯電させ、感光ドラム表面に移す。そして、感光ドラムの表面のトナー像は、転写ロールあるいは転写ベルトにより、複写紙上に転写される。このように、各種導電性ロールは、感光ドラムなどの相手部材と接触させた状態で使用されることが多い。
【0006】
この種の導電性ロールは、軸体の外周にベース層としてのゴム弾性体層が形成されたものから構成されている。ゴム弾性体層の外周には、必要に応じて、抵抗調整層などの中間層や、表層などが形成されている。
【0007】
導電性ロールには、良好な画像を形成するなどから、接触される相手部材やトナーに対して効率よく均一に電荷を受け渡すことが求められる。そのため、導電性ロールには、相手部材との繰返し接触時にも均一な接触面が確保されるように相手部材と接触する部分が弾性回復しやすい(耐ヘタリ性に優れる)ことが要求される。また、相手部材への汚染が少ないことなどが要求される。例えば特許文献1には、帯電ロールにおいて耐ヘタリ性を改善する技術が開示されている。そして特許文献2には、天然固形ゴムまたは合成固形ゴムに液状ゴムを添加して、圧縮永久歪みの悪化やブリードを抑える技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−276810号公報
【特許文献2】特開平05−61346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
耐ヘタリ性を良好にするには、一般にゴムの加硫密度を上げることが必要である。これには、ゴムに対して添加される加硫剤や加硫促進剤を増量することが考えられる。しかしながら、加硫剤や加硫促進剤を増量する方法では、加硫残渣がブルームするおそれがある。これにより、導電性ロールに接触される相手部材を汚染する原因となる。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、本発明が解決しようとする課題は、ブルームが生じることなく耐ヘタリ性を向上させることにより耐久性に優れる電子写真機器用導電性ロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る電子写真機器用導電性ロールは、軸体と、軸体の外周に形成された導電性ゴム弾性体層と、を有し、前記導電性ゴム弾性体層が、不飽和結合を有するゴムと、硫黄と、酸性加硫促進剤と、スルホンアミド系化合物と、を含有する導電性ゴム組成物の加硫物よりなることを要旨とするものである。
【0012】
このとき、導電性ゴム組成物の加硫物の弾性回復率は70%以上であることが好ましい。
【0013】
前記不飽和結合を有するゴムとしては、イソプレンゴムおよび天然ゴムから選択される1種または2種以上を挙げることができる。この場合、導電性ゴム組成物は、導電剤として電子導電剤を含有することが好ましい。
【0014】
そして、前記不飽和結合を有するゴム100質量部に対し、前記酸性加硫促進剤の含有量が0.1〜5質量部の範囲内であり、前記スルホンアミド系化合物の含有量が0.1〜5質量部の範囲内であることが好ましい。
【0015】
前記酸性加硫促進剤としては、チウラム系加硫促進剤を挙げることができる。この場合、チウラム系加硫促進剤の窒素原子上のアルキル基の炭素数が4以上であることが好ましい。このようなチウラム系加硫促進剤としては、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィドが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る電子写真機器用導電性ロールによれば、軸体の外周に形成された導電性ゴム弾性体層が、不飽和結合を有するゴムと、硫黄と、酸性加硫促進剤と、スルホンアミド系化合物と、を含有する導電性ゴム組成物の加硫物よりなることから、ブルームが生じることなく、耐ヘタリ性にも優れる。これにより、耐久性に優れる。
【0017】
このとき、導電性ゴム組成物の加硫物の弾性回復率は70%以上であると、耐ヘタリ性に非常に優れる。
【0018】
そして、不飽和結合を有するゴムがイソプレンゴムや天然ゴムであると、導電性ゴム組成物の加硫物の弾性回復率が特に優れるため、より一層、耐ヘタリ性に優れる。この場合、導電性ゴム組成物が導電剤として電子導電剤を含有すると、低抵抗化を図ることができる。そして、電子導電剤の含有量を増量しても、高い弾性回復率が維持されやすい。したがって、不飽和結合を有するゴムがイソプレンゴムや天然ゴムであると、低抵抗化と耐ヘタリ性を高度に両立させることができる。
【0019】
そして、不飽和結合を有するゴムに対し、特定量の酸性加硫促進剤と特定量のスルホンアミド系化合物を含有すると、ブルームを抑える効果と耐ヘタリ性を向上させる効果とを高度に両立させることができる。
【0020】
そして、酸性加硫促進剤がチウラム系加硫促進剤であり、その窒素原子上のアルキル基の炭素数が4以上であると、導電性ゴム組成物の加硫物の弾性回復率が高く、耐ヘタリ性に優れる。酸性加硫促進剤がテトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィドであると、特に良好である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】一実施形態として示される電子写真機器用導電性ロールの模式図(a)とそのA−A線断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0023】
図1には、本発明の一実施形態に係る電子写真機器用導電性ロール(以下、導電性ロールということがある。)を示している。導電性ロール10は、軸体12と、軸体12の外周に形成された導電性ゴム弾性体層14と、を備えている。
【0024】
軸体12は、導電性を有するものであれば特に限定されない。具体的には、鉄、ステンレス、アルミニウムなどの金属製の中実体、中空体からなる芯金などを例示することができる。軸体12の表面には、必要に応じて、接着剤、プライマーなどを塗布しても良い。接着剤、プライマーなどには、必要に応じて導電化を行なっても良い。
【0025】
導電性ゴム弾性体層14は、導電性ゴム組成物の加硫物よりなる。導電性ゴム組成物は、不飽和結合を有するゴムと、硫黄と、酸性加硫促進剤と、スルホンアミド系化合物と、を含有する。
【0026】
不飽和結合を有するゴムとしては、イソプレンゴム(IR)、天然ゴム(NR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ヒドリンゴム(GCO、GECO)などが挙げられる。不飽和結合を有するヒドリンゴムとしては、エピクロルヒドリン−アリルグリシジルエーテル二元共重合体(GCO)、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体(GECO)などが挙げられる。これらは、単独で用いられても良いし、2種以上組み合わされて用いられても良い。これらのうちでは、弾性回復性に特に優れるなどの観点から、イソプレンゴム(IR)、天然ゴム(NR)などが好ましい。
【0027】
硫黄は、不飽和結合を有するゴムの加硫剤として用いられる。硫黄の配合量は、硫黄加硫において用いられる通常の範囲内であれば良く、不飽和結合を有するゴム100質量部に対し、例えば0.1〜5質量部の範囲を示すことができる。
【0028】
酸性加硫促進剤としては、チアゾール系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤などが挙げられる。これらは、単独で用いられても良いし、2種以上組み合わされて用いられても良い。これらのうちでは、ブルームアウト抑制、弾性回復率向上などの観点から、チアゾール系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤が好ましい。
【0029】
チウラム系加硫促進剤においては、導電性ゴム組成物の加硫物の弾性回復率向上などの観点から、窒素原子上のアルキル基の炭素数が4以上であることが好ましい。より好ましくは窒素原子上のアルキル基の炭素数が6以上である。これは、窒素原子上のアルキル基の炭素数が増大すると、窒素原子の塩基性が低下し、相対的にチウラム系加硫促進剤の酸性が上がるためであると推察される。このチウラム系加硫促進剤の酸性が上がると加硫物の架橋密度が上がり、その結果、弾性回復率が高くなる。
【0030】
チウラム系加硫促進剤において、窒素原子上のすべてのアルキル基の炭素数が同じであってもよいし、窒素原子上の一部のアルキル基の炭素数が異なっていてもよい。いずれにしろ、上記理由によることから、窒素原子上のアルキル基の少なくとも1つの炭素数が4以上であると、導電性ゴム組成物の加硫物の弾性回復率を向上する効果があるといえる。また、その効果がより高いのは、窒素原子上のすべてのアルキル基の炭素数が4以上、あるいは6以上の場合である。
【0031】
窒素原子上のアルキル基の炭素数が4以上のチウラム系加硫促進剤としては、テトラブチルチウラムジスルフィド(TBTD)、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT−N)などが挙げられる。窒素原子上のアルキル基の炭素数が6以上であるテトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT−N)は、導電性ゴム組成物の加硫物の弾性回復率を向上する効果が特に高い。なお、窒素原子上のアルキル基の炭素数が4未満のチウラム系加硫促進剤としては、テトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)などが挙げられる。
【0032】
スルホンアミド系化合物としては、ベンゼンスルホンアミド、p−トルエンスルホンアミド、o−トルエンスルホンアミド、メタンスルホンアミド、N−フェニル−N−(トリクロロメチルスルフェニル)−ベンゼンスルホンアミド、N−nブチルベンゼンスルホンアミド、N−シクロヘキシル−p−トルエンスルホンアミド、3−アミノベンゼン−1−スルホンアミドなどが挙げられる。これらは、単独で用いられても良いし、2種以上組み合わされて用いられても良い。これらのうちでは、ブルームアウト抑制、弾性回復率向上などの観点から、ベンゼンスルホンアミド、メタンスルホンアミド、N−フェニル−N−(トリクロロメチルスルフェニル)−ベンゼンスルホンアミドが好ましい。
【0033】
不飽和結合を有するゴム100質量部に対し、酸性加硫促進剤の配合量は、0.1〜5質量部の範囲内であり、スルホンアミド系化合物の配合量は、0.1〜5質量部の範囲内であることが好ましい。上記特定範囲量の酸性加硫促進剤に対し、上記特定範囲量のスルホンアミド系化合物を添加することで、不飽和結合を有するゴムの架橋密度を上昇させ、弾性回復率を向上させて耐ヘタリ性を向上させることができる。また、ブルームも抑えられる。ブルームを抑える効果と耐ヘタリ性を向上させる効果とを高度に両立させることができる。この観点から、スルホンアミド系化合物の配合量としては、上記特定範囲量の酸性加硫促進剤に対し、より好ましくは0.5〜5質量部、さらに好ましくは0.5〜3質量部の範囲内である。また、酸性加硫促進剤の配合量は、ブルームを抑える効果と耐ヘタリ性を向上させる効果とを高度に両立させることができるなどの観点から、不飽和結合を有するゴム100質量部に対し、より好ましくは0.1〜5質量部、さらに好ましくは0.1〜3質量部の範囲内である。
【0034】
導電性ゴム組成物には、抵抗調整などの観点から、必要に応じて、導電剤が添加されていても良い。導電剤としては、イオン導電剤や電子導電剤が挙げられる。導電剤の配合により、本組成物の体積抵抗率が、その用途に応じた所望の体積抵抗率となるように抵抗調整が行われる。具体的には、例えば体積抵抗率が1×10〜1×1010Ω・cmの範囲内の所望の体積抵抗率に設定される。
【0035】
不飽和結合を有するゴムが、イソプレンゴム(IR)、天然ゴム(NR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などの非極性ゴムである場合には、低抵抗化の観点から、導電剤として電子導電剤が含まれることが好ましい。この場合、イオン導電剤は含まれていても良いし、含まれていなくても良いが、抵抗均一性の観点からいうと、イオン導電剤がさらに含まれていることが好ましい。
【0036】
不飽和結合を有するゴムが、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)やヒドリンゴム(GCO、GECO)などの極性ゴムである場合には、導電剤としてイオン導電剤のみ、電子導電剤のみ、あるいは、イオン導電剤と電子導電剤の両方が用いられても良い。この場合、抵抗均一性の観点からいうと、少なくともイオン導電剤が含まれていることが好ましい。
【0037】
イオン導電剤の配合量は、低抵抗化などの観点から、不飽和結合を有するゴム100質量部に対し、0.1〜5質量部の範囲内であることが好ましい。電子導電剤の配合量は、不飽和結合を有するゴム100質量部に対し、1〜70質量部の範囲内であることが好ましい。より好ましくは5〜60質量部の範囲内である。
【0038】
ここで、不飽和結合を有するゴムがイソプレンゴムや天然ゴムである場合には、導電性ゴム組成物の加硫物の弾性回復率が特に優れる。このため、配合する電子導電剤の含有量を増量しても、高い弾性回復率が維持されやすい。したがって、不飽和結合を有するゴムがイソプレンゴムや天然ゴムであると、低抵抗化と耐ヘタリ性を高度に両立させることができる。この観点から、不飽和結合を有するゴムがイソプレンゴムや天然ゴムである場合には、電子導電剤の配合量を10質量部以上とすることができる。より好ましくは、電子導電剤の配合量を30〜60質量部の範囲内とすることができる。この場合においても、耐ヘタリ性に優れる。
【0039】
イオン導電剤や電子導電剤は、特に限定されるものではなく、電子写真機器分野で使用される公知のものを用いることができる。イオン導電剤としては、例えば、トリメチルオクタデシルアンモニウムパークロレート、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリドなどの第4級アンモニウム塩や、過塩素酸リチウム、過塩素酸カリウムなどの過塩素酸塩、ホウ酸塩などが挙げられる。電子導電剤としては、カーボンブラック、グラファイトや、導電性酸化チタン、導電性酸化亜鉛、導電性酸化スズなどの導電性金属酸化物などが挙げられる。
【0040】
導電性ゴム組成物には、必要に応じて、滑剤、老化防止剤、光安定剤、粘度調整剤、加工助剤、難燃剤、発泡剤、充填剤、分散剤、消泡剤、顔料、離型剤な、加硫助剤どの各種添加剤が1種または2種以上含有されていても良い。
【0041】
ゴムの滑剤あるいは加工助剤においては、ステアリン酸などの脂肪酸が用いられることが多い。しかしながら、ステアリン酸などの脂肪酸はブルームしやすい。導電性ゴム組成物においては、ステアリン酸などの脂肪酸に代えて、他の滑剤あるいは加工助剤を用いることができる。このような滑剤あるいは加工助剤としては、シリコーン系滑剤やフッ素系加工助剤などが挙げられる。ただし、導電性ゴム組成物は、ステアリン酸などの脂肪酸が含まれる場合を排除するものではない。例えば少量の添加でブリードしない範囲では、ステアリン酸などの脂肪酸が含まれていても良い。
【0042】
導電性ゴム弾性体層14は、軸体12をロール成形金型の中空部に同軸的に設置し、導電性ゴム組成物を注入して、加熱・硬化(加硫)させた後、脱型する方法(注入法)、あるいは、軸体12の表面に導電性ゴム組成物を押出成形する方法(押出法)などにより、形成できる。導電性弾性体層14の厚さは、通常、0.1〜10mm、あるいは、0.5〜5mmに設定される。
【0043】
導電性ゴム弾性体層14が耐ヘタリ性に優れるなどの観点から、導電性ゴム組成物の加硫物の弾性回復率としては、70%以上であることが好ましい。より好ましくは80%以上である。本発明に係る導電性ゴム組成物とすることにより、このような高弾性回復率を達成しやすい。
【0044】
導電性弾性体層14の外周には、必要に応じて、導電性弾性体層14の表面を保護する、導電性ロール10の表面特性(低摩擦性、離型性、荷電性など)を付与するなどの目的で、表層が形成されていても良い。また、導電性弾性体層14の外周で表層下には、導電性ロール10全体の抵抗を調整する抵抗調整層などの中間層が形成されていても良い。
【0045】
表層を形成する主材料としては、特に限定されるものではなく、ポリアミド(ナイロン)系、アクリル系、ウレタン系、シリコーン系、フッ素系のポリマーを挙げることができる。これらのポリマーは、変性されたものであっても良い。変性基としては、例えば、N−メトキシメチル基、シリコーン基、フッ素基などを挙げることができる。
【0046】
表層には、導電性付与のため、カーボンブラック、グラファイト、c−TiO、c−ZnO、c−SnO(c−は、導電性を意味する。)、イオン導電剤(4級アンモニウム塩、ホウ酸塩、界面活性剤など)などの従来より公知の導電剤を適宜添加することができる。また、必要に応じて、各種添加剤を適宜添加しても良い。
【0047】
表層を形成するには、表層形成用組成物を用いる。表層形成用組成物は、上記主材料、導電剤、必要に応じて含有されるその他の添加剤を含有するものからなる。添加剤としては、滑剤、加硫促進剤、老化防止剤、光安定剤、粘度調整剤、加工助剤、難燃剤、可塑剤、発泡剤、充填剤、分散剤、消泡剤、顔料、離型剤などを挙げることができる。
【0048】
表層形成用組成物は、粘度を調整するなどの観点から、メチルエチルケトン、トルエン、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン(MIBK)、THF、DMFなどの有機溶剤や、メタノール、エタノールなどの水溶性溶剤などの溶剤を適宜含んでいても良い。
【0049】
表層は、導電性弾性体層14の外周に表層形成用組成物を塗工するなどの方法により、形成できる。塗工方法としては、ロールコーティング法や、ディッピング法、スプレーコート法などの各種コーティング法を適用することができる。塗工された表層には、必要に応じて、紫外線照射や熱処理を行なっても良い。
【0050】
表層の厚さは、通常、0.01〜100μm、0.1〜20μm、あるいは、0.3〜10μmに設定される。表層の体積抵抗率は、通常、10〜10Ω・cm、10〜10Ω・cm、あるいは、10〜10Ω・cmに設定される。
【0051】
また、表層の形成に代えて、導電性弾性体層14あるいは抵抗調整層などの中間層に表面改質を施すことにより、表層を形成することと同等の表面特性を有するようにすることもできる。表面改質方法としては、UVや電子線を照射する方法、基層の不飽和結合やハロゲンと反応可能な表面改質剤、例えば、イソシアネート基、ヒドロシリル基、アミノ基、ハロゲン基、チオール基などの反応活性基を含む化合物と接触させる方法などが挙げられる。
【0052】
以上の構成の導電性ロール10によれば、軸体12の外周に形成された導電性ゴム弾性体層14が、不飽和結合を有するゴムと、硫黄と、酸性加硫促進剤と、スルホンアミド系化合物と、を含有する導電性ゴム組成物の加硫物よりなることから、ブルームが生じることなく、耐ヘタリ性にも優れる。これにより、耐久性に優れる。
【0053】
導電性ロール10は、感光ドラムなどの相手部材と接触させた状態で使用される導電性ロールとして好適である。より具体的には、帯電ロール、現像ロール、転写ロール、トナー供給ロールなどの各種導電性ロールとして好適である。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0055】
使用した材料の詳細について以下に示す。
<不飽和結合を有するゴム>
・イソプレンゴム(IR):JSR社製「JSR IR2200」
・天然ゴム(NR):RSS3
・エチレンプロピレンゴム(EPDM):住友化学社製「エスプレン501A」
・ニトリルゴム(NBR):日本ゼオン社製「DN219」
・ヒドリンゴム(GECO):日本ゼオン社製「Hydrin T 3106」
【0056】
<添加剤>
・酸化亜鉛(加硫助剤):
・炭酸カルシウム(充填剤):白石工業社製「白艶華」
・カーボンブラック(導電剤):電気化学工業社製「デンカブラック」
・滑剤:パフォーマンスアディティブス社製「Ultra−Lube790」
【0057】
<加硫剤、加硫促進剤>
・硫黄(加硫剤)
・チアゾール系加硫促進剤:大内新興化学工業社製「ノクセラーMZ」
・ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤:大内新興化学工業社製「ノクセラーPX」
・チウラム系加硫促進剤:大内新興化学工業社製「ノクセラーTET」
・チウラム系加硫促進剤:大内新興化学工業社製「ノクセラーTBT」
・チウラム系加硫促進剤:大内新興化学工業社製「ノクセラーTOT−N」
・スルフェンアミド系加硫促進剤:大内新興化学工業社製「ノクセラーMSA」
【0058】
<スルホンアミド化合物>
・ベンゼンスルホンアミド
・メタンスルホンアミド
・N−フェニル−N−(トリクロロメチルスルフェニル)ベンゼンスルホンアミド:ランクセス社製「ブルカレントEC」
【0059】
(実施例1〜23)
<導電性ゴム組成物の調製>
表1に示す配合組成で、不飽和結合を有するゴムと、硫黄と、酸性加硫促進剤と、スルホンアミド系化合物と、添加剤とを配合し、攪拌機により撹拌、混合して、導電性組成物を調製した。
【0060】
<導電性ロールの作製>
φ9mmの円筒状の成形キャビティを有する成形金型の中心軸上に芯金(直径6mm)をセットし、この成形金型内に導電性ゴム組成物を注入し、160℃で30分加熱・架橋させ、冷却、脱型して、芯金の外周に、厚さ1.5mmの導電性ゴム弾性体層を形成した。次いで、下記の表層形成用組成物を導電性ゴム弾性体層の表面にロールコートし、120℃で50分加熱して、導電性ゴム弾性体層の外周に厚さ10μmの表層を形成した。これにより、導電性ロールを作製した。
【0061】
<表層形成用組成物>
N−メトキシメチル化ナイロン(ナガセケムテックス社製「トレジンEF30T」)100質量部と、カーボンブラック(ライオン社製「ケッチェンEC300J」)15質量部と、クエン酸1質量部と、メタノール300質量部とを混合して、表層形成用組成物を調製した。
【0062】
(比較例1)
スルホンアミド系化合物を配合しなかった以外は実施例1と同様にして、導電性組成物を調製した。この導電性組成物を用いた以外は実施例1と同様にして、導電性ロールを作製した。
【0063】
(比較例2)
酸性加硫促進剤に代えて塩基性加硫促進剤を配合した以外は実施例6と同様にして、導電性組成物を調製した。この導電性組成物を用いた以外は実施例6と同様にして、導電性ロールを作製した。
【0064】
調製した各導電性ゴム組成物を用いて、150℃で30分間プレス成形を行い、厚さ2mmのシート状サンプル(100×100mm)を作製した。作製したシート状サンプルを用いて材料特性評価を行った。測定方法および評価方法を以下に示す。また、作製した導電性ロールを用いて製品セット性を評価した。評価方法を以下に示す。
【0065】
(弾性回復率)
ISO14577−1に準拠し、微小硬度計(Fischer社製、フィッシャースコープH100C)を用いて、シート状サンプルの表面を下記の測定条件にて測定し、ηIT[%]を求めた。すなわち、微小硬度計を用いて、試験荷重を一定にして、材料表面に圧子を押し込むと、押し込み仕事中に示されるくぼみの全機械的仕事量Wtotalは、くぼみの塑性変形仕事量Wplastとしてごく一部だけ消費される。試験荷重の除荷時に、残りの部分は、くぼみの弾性戻り変形仕事Welastとして開放される。この機械的仕事をW=∫Fdhと定義とすると、その関係は以下の通りである。
ηIT[%]=Welast/Wtotal
但し、Wtotal=Welast+Wplast
<測定条件>
圧子:対面角度136°の四角垂型ダイヤモンド圧子
初期荷重:0mN
押込み最大荷重:20mN(定荷重)
最大荷重到達時間:0.25〜10sec
最大荷重保持時間:5sec
抜重時間:0.25〜10sec
測定温度:25℃
【0066】
(ブルーム性)
作製したシート状サンプルを50℃、95%RHの環境下で30日間放置し、放置後のシート表面をマイクロスコープにて観察した。シート表面にブルーム物がない場合を「◎」、シート表面にブルーム物がある場合を「×」とした。
【0067】
(製品セット性)
作製した導電性ロールを評価機(ヒューレットパッカード社製、レーザープリンタHP CLJ3505)用トナーカートリッジに組み付け、湿熱環境(40℃×95%RH)にて30日間放置した後、画像評価を行った。感光ドラムとの当接部に相当する部分の画像を評価した結果、画像にスジが見られなかった場合を「◎」、当接部の端部に相当する位置で画像にスジが見られた場合を「○」、当接部の全体に相当する位置で画像にスジが見られた場合を「×」とした。
【0068】
【表1】
【0069】
比較例1では、酸性加硫促進剤とともにスルホンアミド系化合物が配合された配合ではない。このため、加硫が十分に進まず、弾性回復率が低く、製品セット性に問題があった。また、比較例2では、酸性加硫促進剤ではなく、塩基性加硫促進剤とともにスルホンアミド系化合物を配合しているため、加硫が十分に進まず、弾性回復率が低く、製品セット性に問題があった。
【0070】
これに対し、実施例によれば、弾性回復率が高く、製品セット性に優れ、ブルームも生じていない。したがって、実施例によれば、ブルームが生じることなく、耐ヘタリ性にも優れるので、耐久性に優れることが確認された。
【0071】
また、実施例同士の比較では、不飽和結合を有するゴムがイソプレンゴムや天然ゴムである場合には、特に弾性回復率に優れることがわかる。また、実施例5、6、13、14から、スルホンアミド系化合物の配合量が0.5〜5質量部のときには、ブルームを抑える効果と耐ヘタリ性を向上させる効果とを高度に両立できることがわかる。また、実施例6、15〜18から、酸性加硫促進剤の配合量が0.5〜5質量部のときには、ブルームを抑える効果と耐ヘタリ性を向上させる効果とを高度に両立できることがわかる。さらに、実施例19から、不飽和結合を有するゴムがイソプレンゴムである場合には、カーボンブラックの配合量が70質量部でも耐ヘタリ性を満足できることから、不飽和結合を有するゴムがイソプレンゴムや天然ゴムである場合には、電子導電剤の配合量を10質量部以上にできることが確認された。そして、実施例20から、酸性加硫促進剤とスルホンアミド系化合物の配合量がそれぞれ0.1質量部で少ない場合においても、比較例と比べて弾性回復率が優れていることがわかる。また、実施例8,21,22から、酸性加硫促進剤としてチウラム系加硫促進剤を用いた場合において、窒素原子上のアルキル基の炭素数が増加するにつれて導電性ゴム組成物の加硫物の弾性回復率が高くなることがわかる。その炭素数が4以上、特に6以上であると、導電性ゴム組成物の加硫物の弾性回復率に優れることがわかる。
【0072】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0073】
10 電子写真機器用導電性ロール
12 軸体
14 導電性ゴム弾性体層
図1