特許第6013217号(P6013217)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6013217
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】歯科用樹脂複合材料
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/087 20060101AFI20161011BHJP
   A61K 6/027 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   A61K6/087
   A61K6/027
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-24110(P2013-24110)
(22)【出願日】2013年2月12日
(65)【公開番号】特開2014-152150(P2014-152150A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2015年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】アイアット国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山川 潤一郎
【審査官】 常見 優
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/004892(WO,A1)
【文献】 特開2007−099607(JP,A)
【文献】 特開2009−270090(JP,A)
【文献】 特表2009−520077(JP,A)
【文献】 Applied Surface Science, 2012.07.01, Vol.258, No.18, Pages.7213-7218
【文献】 Journal of Biomaterials Applications, 2009.08, Vol.24, No.2, Pages.105-118
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00− 6/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアリールエーテルケトン樹脂100質量部と、(B)樹脂マトリックス中に分散含有され、体積平均粒径が0.7μm〜2.0μmの範囲内である非晶質シリカ粒子60質量部〜200質量部と、を含むことを特徴とする歯科用樹脂複合材料。
【請求項2】
請求項1に記載の歯科用樹脂複合材料において、
前記非晶質シリカ粒子の表面が、表面処理剤により表面処理されていることを特徴とする歯科用樹脂複合材料。
【請求項3】
請求項2に記載の歯科用樹脂複合材料において、
前記表面処理剤が、下記一般式(I)で示される表面処理剤であることを特徴とする歯科用樹脂複合材料。
・一般式(I) R−SiRmBn
〔一般式(I)中、Rは、末端に、エチレン性不飽和基、メチル基、または芳香族基を有する、直鎖部分を構成する原子数が6〜25の有機基であり、Rは炭素数1〜6の炭化水素基であり、Bは炭素数1〜6の炭化水素を有するアルコキシ基、ハロゲン基、あるいはイソシアナート基である。ここで、m、nは整数であり、mとnとの和は3であり、mは0〜2の範囲の整数である。〕
【請求項4】
請求項3に記載の歯科用樹脂複合材料において、
前記一般式(I)中、Rの有機基の末端として芳香族基が選択され、かつ、Rの直鎖部分を構成する原子数は6〜15の範囲内であることを特徴とする歯科用樹脂複合材料。
【請求項5】
請求項3に記載の歯科用樹脂複合材料において、
前記一般式(I)中、Rの有機基の末端としてメチル基が選択されることを特徴とする歯科用樹脂複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用樹脂複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スーパーエンジニアリング樹脂は、電気・電子分野、航空宇宙分野、自動車産業、医療分野、一般工業分野等、幅広い用途に使用されている。このスーパーエンジニアリング樹脂の中でも、特にポリアリールエーテルケトン樹脂は、優れた化学的性質、物理的性質を有することから有望視されている。
【0003】
一方、歯牙の欠損部の修復などを目的として用いられる歯科用材料には、機械的強度が要求される。このため、このような歯科用材料として、機械的強度等を確保する観点から、一般的に、(メタ)アクリレート系重合性単量体などのラジカル重合性単量体に、種々のフィラーが添加された歯科用樹脂複合材料が広く利用されている(たとえば、特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−144121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1等に例示した従来の歯科用樹脂複合材料では、通常、樹脂マトリックスを構成する(メタ)アクリレート系樹脂等のような光や熱で硬化する光硬化性樹脂あるいは熱硬化性樹脂は透明であるため、白色顔料を添加することで、天然歯に近い白色の色調を確保している。このような従来の歯科用樹脂複合材料では、樹脂マトリックスを構成する樹脂自体の機械的強度はさほど強く無いため、歯科用樹脂複合材料自体の機械的強度を更に向上させることは困難である。そこで、本発明者は、このような問題を抜本的に解決するためには、樹脂マトリックス自体の機械的強度を向上させるために、スーパーエンジニアリング樹脂、特にポリアリールエーテルケトン樹脂を用いることが有効であると考えた。
【0006】
しかしながら、ポリアリールエーテルケトン樹脂の色調は、褐色からベージュ色を呈しており、白色系の天然歯の色調とは大幅に異なる。このため、ポリアリールエーテルケトン樹脂を、歯牙の修復等を目的とした歯科用樹脂複合材料の構成材料として用いても、修復した歯牙の審美性が確保できない。
【0007】
ここで、審美性を改善するために、歯科用樹脂複合材料の色調を、天然歯の色調により近づける一般的な方法としては、(1)歯科用樹脂複合材料に二酸化チタンや酸化亜鉛、ジルコニアなどの白色顔料を添加する方法や、(2)ポリアリールエーテルケトン樹脂などの着色した樹脂と相溶性を有し、かつ、白色度の高い樹脂をブレンドする方法などが挙げられる。
【0008】
そこで、本発明者は、上記(1)および(2)に示す方法を利用して、ポリアリールエーテルケトン樹脂を用いた歯科用樹脂複合材料の色調を、天然歯の色調に近づけることを試みた。しかしながら、いずれの方法においてもポリアリールエーテルケトン樹脂を用いた歯科用樹脂複合材料として期待される特性、すなわち、従来の歯科用樹脂複合材料よりも優れた機械的強度と、天然歯に近い色調(すなわち、高い白色度)とを同時に確保することができなかった。
【0009】
すなわち、上記(1)に示す方法では、適量の白色顔料を添加しても、その添加量に比べて白色度の向上効果が低く、高い白色度を確保できなかった。これに加えて、天然歯に近い色調を確保すべく、多量の白色顔料を添加すると、歯科用樹脂複合材料として要求される機械的物性および化学的特性が確保できなくなった。なお、白色顔料の添加量に対する白色度の向上効果が低い理由は、ポリアリールエーテルケトン樹脂が結晶性樹脂であるためと考えられる。
【0010】
また、上記(2)に示す方法では、ポリアリールエーテルケトン樹脂と相溶性を有し、かつ、白色度の高い樹脂として、たとえば、フッ素樹脂が利用できる。しかしながら、ポリアリールエーテルケトン樹脂に対してフッ素樹脂をブレンドすると、ブレンド割合の増加に伴い、歯科用樹脂複合材料の白色度は高くなるものの、その一方で、機械的強度等の各種物性は、フッ素樹脂により近づいてしまう。すなわち、この方法では、従来の歯科用樹脂複合材料よりも優れた機械的強度の確保と、高い白色度の確保とはトレードオフの関係にあり、ポリアリールエーテルケトン樹脂を用いた歯科用樹脂複合材料として期待される特性を達成できなかった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、従来の歯科用樹脂複合材料よりも優れた機械的強度を有すると共に、白色度の高い歯科用樹脂複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、本発明の歯科用樹脂複合材料は、(A)ポリアリールエーテルケトン樹脂100質量部と、(B)樹脂マトリックス中に分散含有され、体積平均粒径が0.7μm〜2.0μmの範囲内である非晶質シリカ粒子60質量部〜200質量部と、を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の歯科用樹脂複合材料の一実施形態は、非晶質シリカ粒子の表面が、表面処理剤により表面処理されていることが好ましい。
【0014】
本発明の歯科用樹脂複合材料の他の実施形態は、表面処理剤が、下記一般式(I)で示される表面処理剤であることが好ましい。
・一般式(I) R−SiRmBn
〔一般式(I)中、Rは、末端に、エチレン性不飽和基、メチル基、または芳香族基を有する、直鎖部分を構成する原子数が6〜25の有機基であり、Rは炭素数1〜6の炭化水素基であり、Bは炭素数1〜6の炭化水素を有するアルコキシ基、ハロゲン基、あるいはイソシアナート基である。ここで、m、nは整数であり、mとnとの和は3であり、mは0〜2の範囲の整数である。〕
【0015】
本発明の歯科用樹脂複合材料の他の実施形態は、一般式(I)中、Rの有機基の末端として芳香族基が選択され、かつ、Rの直鎖部分を構成する原子数は6〜15の範囲内であることが好ましい。
【0016】
本発明の歯科用樹脂複合材料の他の実施形態は、一般式(I)中、Rの有機基の末端としてメチル基が選択されることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来の歯科用樹脂複合材料よりも優れた機械的強度を有すると共に、白色度の高い歯科用樹脂複合材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(歯科用樹脂複合材料)
本実施形態の歯科用樹脂複合材料は、(A)ポリアリールエーテルケトン樹脂100質量部と、(B)樹脂マトリックス中に分散含有され、体積平均粒径が0.7μm〜2.0μmの範囲内である非晶質シリカ粒子60質量部〜200質量部と、を含むことを特徴とする。以下に、本実施形態の歯科用樹脂複合材料を構成する材料等の詳細について説明する。
【0019】
(A)ポリアリールエーテルケトン樹脂
本実施形態の歯科用樹脂複合材料では、樹脂マトリックスを構成する樹脂材料として、少なくともポリアリールエーテルケトン樹脂が用いられる。ここで、樹脂マトリックスを構成する樹脂材料としては、ポリアリールエーテルケトン樹脂のみを用いてもよいが、ポリアリールエーテルケトン樹脂の他に、必要に応じてその他の樹脂を併用することもできる。但し、ポリアリールエーテルケトン樹脂と、その他の樹脂とをブレンドして用いる場合でも、歯科用樹脂複合材料の機械的強度を確保する観点から、樹脂マトリックスを構成する樹脂材料の主成分は、ポリアリールエーテルケトン樹脂であることが必要である。ここで、「主成分」とは、樹脂マトリックスを構成する樹脂材料100質量部中に占めるポリアリールエーテルケトン樹脂の割合が、70質量部以上であることを意味する。なお、樹脂マトリックスを構成する樹脂材料100質量部中に占めるポリアリールエーテルケトン樹脂の割合は、95質量部以上であることが好ましい。また、ポリアリールエーテルケトン樹脂と併用可能なその他の樹脂としては機械的強度および/または白色度を大幅に劣化させるもので無い限り特に制限されないが、歯科用樹脂複合材料の機械的強度、白色度、化学的耐久性等の確保が容易である観点からは、たとえば、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフタルアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンエーテルを用いることが好適である。
【0020】
以上に説明したように、本実施形態の歯科用樹脂複合材料では、樹脂マトリックスを構成する主たる樹脂材料としてポリアリールエーテルケトン樹脂を用いる。このため、従来の歯科用樹脂複合材料よりも優れた機械的強度を容易に得ることができる。
【0021】
ポリアリールエーテルケトン樹脂は、その構造単位として、芳香族基、エーテル基(エーテル結合)およびケトン基(ケトン結合)を少なくとも含む熱可塑性樹脂であり、多くは、ベンゼン環(フェニレン基)がエーテル基およびケトン基を介して結合した直鎖状のポリマー構造を持つ。ポリアリールエーテルケトン樹脂の代表例としては、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)などが挙げられる。なお、ポリアリールエーテルケトン樹脂の構造単位を構成する芳香族基は、ビフェニル構造などのようにベンゼン環を2つまたはそれ以上有する構造を持ったものでもよい。また、ポリアリールエーテルケトン樹脂の構造単位中には、スルホニル基または共重合可能な他の単量体単位が含まれていてもよい。
【0022】
本実施形態の歯科用樹脂複合材料で用いられるポリアリールエーテルケトン樹脂としては、色調および物性の観点から、主鎖を構成するエーテル基とケトン基とが、エーテル・エーテル・ケトンの順に並んだ繰り返し単位を有するポリエーテルエーテルケトン
(polyetheretherketone)を用いることが好ましい。この繰り返し単位を有するポリエーテルエーテルケトンは、商品名「PEEK」などとして市販されており、具体的には、VESTAKEEP(登録商標、ダイセルエボニック株式会社)、VICTREX PEEK(登録商標、VICTREX社)などが挙げられる。
【0023】
これら市販されているポリアリールエーテルケトン樹脂には、種々のグレード・型番のものが存在するため、これらの中から適宜選択して使用できる。しかしながら、グレード・型番の選択に際しては、(1)着色原因を抑制等する観点からは純度が高く、および/または、(2)射出成形などの成形を容易とする観点、及び混練時の局所熱によるさらなる色調悪化を防止する観点から、溶融粘度が低く流動性が高いものを選択することが好ましい。ここで、純度は95%以上であることが好ましい。なお、高純度品という観点では、たとえば、VICTREX PEEKシリーズであれば、Depth−Filtered Grades品を用いることが好ましい。また、溶融粘度は、400℃における溶融粘度がISO11443に準拠した方法で測定した場合において、200Pa・S以下であることが好ましく、特には50〜150Pa・Sである事が好ましい。このような溶融粘度を満たす好適な市販品としては、たとえば、VICTREX PEEK90G(100Pa・S)やVESTAKEEP1000G(150Pa・S)が挙げられる。なお、使用するポリアリールエーテルケトン樹脂は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
(B)非晶質シリカ粒子
本実施形態の歯科用樹脂複合材料で用いられる非晶質シリカ粒子は、体積平均粒径が0.7μm〜2.0μmの範囲内である。そして、この非晶質シリカ粒子は、本実施形態の歯科用樹脂複合材料を構成する樹脂マトリックス中に分散した状態で含有される。
【0025】
本実施形態の歯科用樹脂複合材料では、樹脂マトリックスを構成する主たる樹脂材料として、褐色からベージュ色を呈するポリアリールエーテルケトン樹脂を用いる。しかしながら、本実施形態の歯科用樹脂複合材料では、上述した非晶質シリカ粒子も用いるため、結果的に、高い白色度を得ることもできる。非晶質シリカ粒子を用いることにより高い白色度が得られる具体的な理由は不明である。しかしながら、本発明者は、以下に説明する理由により高い白色度が得られているものと推定している。すなわち、まず、第一に、非晶質シリカ粒子自体の透明性が非常に高く、その粒子径が光の波長よりも十分に大きく、かつ、非晶質シリカ粒子とポリアリールエーテルケトン樹脂との屈折率差が大きいために、非晶質シリカ粒子が、結晶質樹脂であるポリアリールエーテルケトン樹脂に入射した光を効果的に散乱させる能力を有しているものと考えられる。そして、第二に、一定量のポリアリールエーテルケトン樹脂に対して十分な粒子数の非晶質シリカ粒子が配合されているために、個々の非晶質シリカ粒子に起因する光散乱効果の総和も十分に大きく、結果的に、高い白色度が得られるものと考えられる。
【0026】
なお、非晶質シリカ粒子の体積平均粒径は、0.7μm〜2.0μmの範囲内であることが必要であるが、0.8μm〜1.2μmの範囲内であることが好ましい。体積平均粒子径を0.7μm〜2.0μmの範囲内とすることにより、高い白色度を得ることが可能となる。
【0027】
ここで、体積平均粒径は、レーザー散乱法(測定装置としてベックマン・コールター社製LS230を用い、分散媒としてエタノールを使用)を使用して測定することができる。測定に際しては、分散媒としてエタノール5ml中に測定試料を0.01〜1g加える。試料を懸濁した液は超音波分散器で約1〜5分間分散処理を行い、0.04〜2000μmの範囲の粒径の粒子の粒度分布を測定する。このようにして測定される粒度分布を基にして分割された粒度範囲(チャネル)に対して体積をそれぞれ小径側から累積分布を描いて、累積50%となる粒径を体積平均粒径(D50)とした。
【0028】
また、非晶質シリカ粒子の純度は水分量を除いた純度で99.5%以上であることが好ましく、99.9%以上であることがより好ましい。また、非晶質シリカ粒子の形状は特に限定されず、たとえば、球形状、不定形状等の形状が適宜選択できる。非晶質シリカ粒子の製造方法は特に限定されないが、高純度で球形度の高い非晶質シリカ粒子の製造に適していることから気相溶融法が好ましい。
【0029】
また、ポリアリールエーテルケトン樹脂100質量部に対する非晶質シリカ粒子の配合量は、60質量部〜200質量部の範囲内であることが必要であり、70質量部〜150質量部の範囲内が好ましく、80質量部〜120質量部の範囲内がより好ましい。上記配合量を60質量部以上とすることにより、高い白色度を得ることが可能となる。また、上記配合量を200質量部以下とすることにより、ポリアリールエーテルケトン樹脂あるいはこの樹脂と他の樹脂とをブレンドしたブレンド樹脂からなる樹脂成分と、非晶質シリカ粒子あるいはこの粒子と他の粒子と混合した粒子混合物からなる粒子成分(フィラー成分)とを混合する際に、粘度の増大を抑制できる。さらに、粒子成分の充填率および分散性を向上させることができる上に、混合時の粘度増大に伴う樹脂成分のやけに起因する歯科用樹脂複合材料の変色を抑制することもできる。
【0030】
なお、非晶質シリカ粒子の表面は、表面処理剤により表面処理されていることが好ましい。ここで、この表面処理は、ポリアリールエーテルケトン樹脂への非晶質シリカ粒子の分散性を改良するために行われるものであり、この表面処理によって、非晶質シリカ粒子の表面を疎水化する。このような疎水化を目的とした表面処理方法は特に限定されず、公知の表面処理方法が適宜利用できる。代表的な表面処理方法としては、表面処理剤(疎水化剤)として、シランカップリング剤あるいはチタネート系カップリング剤を用いた表面処理方法が挙げられる。
【0031】
好適なシランカップリング剤としては、下記一般式(I)が挙げられる。
・一般式(I) R−SiRmBn
〔一般式(I)中、Rは、末端に、エチレン性不飽和基、メチル基、または芳香族基を有する、直鎖部分を構成する原子数が6〜25の有機基であり、Rは炭素数1〜6の炭化水素基であり、Bは炭素数1〜6の炭化水素を有するアルコキシ基、ハロゲン基、あるいはイソシアナート基である。ここで、m、nは整数であり、mとnとの和は3であり、mは0〜2の範囲の整数である。
【0032】
ここで、Rの末端基として示される3つの基の内、エチレン性不飽和基は混練時に重合して増粘して局部熱による変色を引き起こす虞があるため、より高い白色度を得る観点からは、メチル基あるいは芳香族基が好ましい。特に、芳香族基は、(A)ポリアリールエーテルケトン樹脂との親和性がよく、混練性が改善されて上記局部熱による変色防止に効果が高いため好ましい。また、芳香族基を構成する芳香環数は1個であることが好ましい。また、末端が芳香族基である場合、Rの直鎖部分を構成する原子数は6〜15の範囲内であることが好ましい。
【0033】
なお、エチレン性不飽和基としては、i)ビニル基、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリルアミド基などを含む不飽和脂肪族基、および、ii)フェニル基、フェノキシ基、フェニルアミノ基、ベンゾフェノン基、ヒドロキシベンゾフェノン基、ビフェニル基、ナフチル基などの芳香族基の置換基としてビニル基、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリルアミド基を含む芳香族基が挙げられる。
【0034】
また、Rの末端基である芳香族基としては、フェニル基、フェノキシ基、フェニルアミノ基、ベンゾフェノン基、ヒドロキシベンゾフェノン基などの芳香環数が1個の単環系炭化水素基、ビフェニル基などの芳香環数が2個の非縮合多環系炭化水素基、ナフチル基などの芳香環数が2個の縮合多環系炭化水素基などが挙げられる。なお、非縮合多環系炭化水素基とは、一方の芳香環を構成する炭素原子と他方の芳香環を構成する炭素原子とが直接結合を形成している基を意味する。また、これらの芳香族基には、ビニル基、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリルアミド基などの重合可能な炭素−炭素二重結合を有する置換基は含まれない。
【0035】
の、直鎖部分を構成する原子数が6〜25の有機基において、上記末端に結合するエチレン性不飽和基、メチル基、または芳香族基を除いた有機基部分は、代表的には直鎖状のアルキレン基が挙げられる。なお、上記Rにおける、直鎖部分を構成する原子数には、末端に結合するエチレン性不飽和基、メチル基、または芳香族基の炭素数も含まれるものである。末端が芳香環の場合、この部分における直鎖部分を構成する原子数は、Siに直接結合する炭素原子から最も遠い位置にある環を構成する炭素原子までを繋ぐ最小の原子数として数えるものとする。例えば、ベンゼン環であれば4として数える。
【0036】
さらに、Rの炭素数1〜6の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基が挙げられる。Bとして示される3つの基の内では反応制御の容易さの観点から、アルコキシ基が好ましい。また、炭素数1〜6の炭化水素を有するアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられ、ハロゲン基としては、クロロ基、ブロモ基等が挙げられる。
【0037】
このようなシランカップリング剤を例示すれば、11−メタクリロイロキシウンデシルトリメトキシラン、11−メタクリロイロキシウンデシルメチルジメトキシシラン、10−メタクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン、10−メタクリロイルオキシデシルメチルジメトキシシラン、10−メタクリロイルオキシデシルトリクロルシラン、8−メタクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、8−メタクリロイルオキシオクチルメチルジメトキシシラン、8−メタクリロイルオキシオキシルジメチルメトキシシラン、8−メタクリロイルオキシオクチルトリクロルシラン、6−メタクリロイロキシヘキシルメチルジメトキシシラン、4−メタクリロイルオキシブチルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロイロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ−メタクリロイロキシプロピルトリクロロシラン、γ−メタクリロイロキシプロピルトリイソシアナトシラン、γ−メタクリロイロキシプロピルジメチルイソシアナトシラン、γ−メタクリロイロキシプロピルトリエトキシシラン、3−(4−メタクリロイロキシフェニル)プロピルトリメトキシシラン、3−(4−メタクリロイロキシフェニル)プロピルトリクロロシラン、3−(4−メタクリロイロキシフェニル)プロピルトリイソシアナトシラン、スチリルプロピルトリメトキシシラン、3−(N−スチリルメチル−2−アミノエチルアミノ)−プロピルトリメトキシシラン、(メタクリロイロキシメチル)フェニルブチルトリメトキシシラン、O-(メタクリロキシエチル)−N−(トリエトキシシリルプロピル)カルバメート、N−(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、これらメタクリレート化合物の各アクリレート体、フェノキシプロピルトリクロロシラン、フェノキシプロピルメチルジクロロシラン、フェノキシプロピルジメチルクロロシラン、ベンゾイルプロピルトリメトキシシラン、フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−フェニルプロピルメチルジクロロシラン、4−フェニルブチルトリクロロシラン、4−フェニルブチルメチルジクロロシラン、11−フェノキシウンデシルトリクロロシラン、2−ヒドロキシ−4−(3−トリエトキシシリルプロポキシ)ジフェニルケトン、6−フェニルヘキシルジメチルクロロシラン、N−1−フェニルエチル−N‘−トリエトキシシリルプロピルウレア、3−(4−メタクリロイロキシフェニル)プロピルトリメトキシシラン、3−(4−メタクリロイロキシフェニル)プロピルトリクロロシラン、3−(4−メタクリロイロキシフェニル)プロピルトリイソシアナトシラン、スチリルプロピルトリメトキシシラン、3−(N−スチリルメチル−2−アミノエチルアミノ)−プロピルトリメトキシシラン、(メタクリロイロキシメチル)フェニルブチルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0038】
上記に例示したようなシランカップリング剤等の表面処理剤で非晶質シリカ粒子を表面処理することにより、非晶質シリカ粒子と樹脂マトリックスを構成するポリアリールエーテルケトン樹脂等の樹脂成分との親和性が著しく向上する。このため、樹脂成分と粒子成分とを混練する際に、粒子界面での摩擦が低減し、混練時の粘度上昇にともなう局所発熱による樹脂成分の熱分解反応を抑制できる。それゆえ、樹脂成分の熱分解に起因する変色を抑制でき、結果的に白色度の高い色調を得ることもより容易になる。
【0039】
表面処理剤は、1種類を単独で用いることもできるし、また、2種以上を混合して使用することもできる。また、非晶質シリカ粒子を表面処理する際に用いる表面処理剤の量は特に制限されないが、操作性および非晶質シリカ粒子の物性の観点から、表面処理すべき非晶質シリカ粒子100質量部当たり1質量部〜10質量部の範囲とすることが好適である。
【0040】
なお、本実施形態の歯科用樹脂複合材料では、高い白色度を得るために、上述した非晶質シリカ粒子を用いている。しかしながら、非晶質シリカ粒子の代わりに、非晶質シリカ粒子と略同等の粒径および光学的特性(透過率、屈折率等)を有する他の材質からなる粒子を用いても同様の効果を得ることができる。
【0041】
本実施形態の歯科用樹脂複合材料は高い白色度を有するが、具体的には、厚み2.0mmの測定サンプルについてのCIELab表色系における色の明度(L)および色調(a、b)が下記に示す値を有することが好適である。すなわち、Lは75以上であることが好ましく、80〜99であることがより好ましく、85〜99であることが最も好ましい。また、aは−1.0〜1.0であることが好ましく、−0.5〜0.5である事がより好ましい。更に、bは0〜10であることが好ましく、2〜6であることがより好ましい。なお、L、a、b値は、分光光度計で測定する事ができる。
【0042】
本実施形態の歯科用樹脂複合材料は、義歯、人工歯、義歯床、歯科用インプラント(フィクスチャー、アバットメント、上部構造)、歯冠修復材料、支台築造材料などに好適に使用することができるが、白色度が高いことから特に歯冠修復材料として使用することが好適である。
【0043】
(C)その他の成分
なお、本実施形態の歯科用樹脂複合材料には、本実施形態の歯科用樹脂複合材料の使用目的に応じてその他の成分を適宜添加することができ、たとえば、帯電防止剤、紫外線吸収剤、X線像影剤等を添加することができる。
【0044】
(歯科用樹脂複合材料の製造方法)
本実施形態の歯科用樹脂複合材料は、一般的にポリアリールエーテルケトン樹脂と非晶質シリカ粒子とを含む原料を、加熱溶融し混練する溶融混練工程を経て製造される。溶融混練温度は、ポリアリールエーテルケトン樹脂の融点以上であれば制限されないが、通常は350〜400℃であるのが好ましい。溶融混練工程において用いる装置としては、公知の溶融混練装置であれば特に限定されず、たとえば、加熱装置付きミキサー、単軸溶融混練装置や、二軸溶融混練装置などを用いることができる。溶融混練工程において用いる装置としては好適には二軸押出し成形機が使用される。二軸押出し成形機の仕様、スクリュー形状や運転条件は目的に応じて任意に選択してよい。また、溶融混練工程で用いられる非晶質シリカ粒子は、予め表面処理剤により表面処理されていることが好ましい。
【0045】
溶融混練工程を経た後は、必要に応じて各種の後工程を実施してもよい。たとえば、溶融混練工程を経た直後の高温状態の溶融混練物をそのまま射出成形や押出成形などにより所定の形状に成形することができる。また、溶融混練工程を経た直後の高温状態の溶融混練物を、一旦、ペレット状、パウダー状あるいはブロック状等の2次加工用部材に成形した後、これらの2次加工用部材を用いてさらに、射出成形、押出成形、レーザーフォーミング、切断加工、切削加工、研磨加工等の各種加工を実施してもよい。
【0046】
本実施形態の歯科用樹脂複合材料の製造に際しては溶融混練工程を経た後、通常、射出成形、押出成形、圧縮成形などの各種の成形法にて所定の形状を有する成形体を得る。この際に、金型において急速に冷却することによって成形体の生産性を高める事ができる。このような場合、急速に冷却されたことにより成形体内部に残存応力が発生することがある。これに加えて、熱可塑性の結晶性樹脂であるポリアリールエーテルケトン樹脂の結晶構造が理想的に形成されない場合がある。これらの問題を解決するために、本実施形態の歯科用樹脂複合材料の製造方法では、必要に応じて得られた成形体に対して熱処理を実施しても良い。熱処理を行う事によって、成形体内部の残存応力を開放する事ができる。また、急冷によってガラス化したポリアリールエーテルケトン樹脂の再結晶化を熱処理によって促進する事ができ、結果として成形体の機械的強度を高くする事ができる。
【0047】
熱処理方法(熱処理工程)は特に限定されないが、温度はガラス転移点以上で溶融粘度を超えない温度領域から選択されるのが好ましく、150〜300℃の範囲から選択されるのが好ましい。熱処理時間は30分〜6時間から選択されるのが好ましい。熱処理後の冷却工程は、熱処理を行ったオーブン等の加熱装置内で熱源を切った状態で放置し、1時間以上の時間をかけて室温に戻すのが好ましい。また同様の理由から、本実施形態の歯科用樹脂複合材料は、射出成形、押出成形、圧縮成形などの成形法にて所定の形状を有する成形体を得る際に、所定の形状に成形後に上述した冷却工程を実施することにより、熱処理工程を経ることなく強度の高い最終成形品を得ることもできる。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明を実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0049】
まず、実施例および比較例において使用したポリアリールエーテルケトン樹脂とその略称、使用した非晶質シリカ粒子および他の無機粒子とその略称、使用した表面処理剤とその略称、試料の作製方法及び評価方法を以下に示す。
【0050】
(樹脂成分)
−ポリアリールエーテルケトン樹脂−
P1:VICTREXPEEK90G(ポリエーテルエーテルケトン樹脂(Depth−Filtered Grades)、ビクトレックス社製、純度95%以上、溶融粘度100Pa・S)
P2:VICTREXPEEK381G(ポリエーテルエーテルケトン樹脂(Depth−Filtered Grades)、ビクトレックス社製、純度95%以上、溶融粘度300Pa・S)
P3:VICTREXPEEK450G(ポリエーテルエーテルケトン樹脂(Depth−Filtered Grades)、ビクトレックス社製、純度95%以上、溶融粘度350Pa・S)
【0051】
−光重合性組成物−
M1:1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)2,2,4−トリメチルへキサンおよび1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)2,4,4−トリメチルヘキサンの混合物(UDMA)70質量部と、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)30質量部との混合物に、光重合性開始剤としてカンファーキノン0.5質量部とジメチルアミノエチルメタクリレート1.0質量部とを混合溶解したもの
【0052】
(フィラー成分)
−非晶質シリカ粒子−
F1:気相溶融法により作製された非晶質シリカ粒子の表面処理物(体積平均粒径1.0μm、比表面積3.6m/g、純度99.9%以上、フェネチルトリメトキシシラン表面処理品)
F2:気相溶融法により作製された非晶質シリカ粒子の表面処理物(体積平均粒径1.0μm、比表面積3.6m/g、純度99.9%以上、オクタデシルトリメトキシシラン表面処理品)
F3:気相溶融法により作製された非晶質シリカ粒子の表面処理物(体積平均粒径1.0μm、比表面積3.6m/g、純度99.9%以上、γ-メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン表面処理品)
F4:ゾルゲル法により作製された非晶質シリカ粒子の表面処理物(体積平均粒径0.7μm、比表面積4.0m/g、純度99.9%以上、フェネチルトリメトキシシラン表面処理品)
F5:気相溶融法により作製された非晶質シリカ粒子の表面処理物(体積平均粒径1.8μm、比表面積3.1m/g、純度99.8%、フェネチルトリメトキシシラン表面処理品)
F13:気相溶融法により作製された非晶質シリカ粒子の表面処理物(体積平均粒径1.0μm、比表面積3.6m/g、純度99.9%以上、6−ヘキシルトリメトキシシラン表面処理品)
F14:気相溶融法により作製された非晶質シリカ粒子の表面処理物(体積平均粒径1.0μm、比表面積3.6m/g、純度99.9%以上、11−フェノキシウンデシルトリクロロシラン表面処理品)
F6:ゾルゲル法により作製された非晶質シリカ粒子の表面処理物(体積平均粒径0.3μm、比表面積17m/g、純度99.8%、フェネチルトリメトキシシラン表面処理品)
F7:気相溶融法により作製された非晶質シリカ粒子の表面処理物(体積平均粒径3.5μm、比表面積1.3m/g、純度99.9%以上、フェネチルトリメトキシシラン表面処理品)
【0053】
−非晶質シリカ粒子以外のフィラー成分−
F8:ルチル型二酸化チタン粒子(体積平均粒径0.3μm、比表面積20m/g、純度89%)
F9:ジルコニア粒子の表面処理物(体積平均粒径0.7μm、比表面積20m/g、純度99.5%、γ-メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン表面処理品)
F10:破砕型ボロアルミノシリケートガラス粒子の表面処理物(体積平均粒径1.0μm、比表面積8m/g、γ-メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン表面処理品)
F11:破砕型石英粒子の表面処理物(体積平均粒径1.0μm、フェネチルトリメトキシシラン表面処理品)
F12:ルチル型二酸化チタン粒子(体積平均粒径1.0μm、純度78%)
【0054】
なお、上述したF8として示す酸化チタン粒子、ジルコニア粒子は、一般的に白色顔料として広く利用されているものである。また、アルミシリケート系ガラス粒子は、一般的に歯科材料用のフィラーとして利用されているものである。
【0055】
(表面処理方法)
上述した各種のフィラー成分は、以下に示す手順で準備した。まず、非晶質シリカ粒子等の無機粒子を100g、トルエンを200ml計量混合したのちホモジナイザーで一次粒子まで分散させたスラリーを作製した。次に、還流冷却管をセットした三口フラスコ中に、上記スラリーを投入した後、さらに表面処理剤を2.4g加えた。続いて、三口フラスコ内の溶液を攪拌しながら2時間加熱還流を行った。続いて、遠心分離機を用いて、加熱還流処理された溶液から固形分を分別した。その後、この固形分を、トルエンで2回洗浄した後、真空乾燥機にて90℃10時間乾燥を行った。これにより表面処理された無機粒子を得た。
【0056】
(L、a、bの測定方法)
、a、bの各値は、測色計として色差計TC−1800mkII(東京電色社製)を用いて測定した。測定には、厚みが2.0mmの歯科用樹脂複合材料からなる成形体を用いた。背景色としては白色標準板を使用し、この白色標準板を成形体の背景に設置した状態で測定を実施した。
【0057】
(曲げ強さ)
縦2mm×横2mm×長さ25mmの試験片を作製し、オートグラフ(島津製作所製)にて支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/minにて3点曲げ試験を行なった。
【0058】
−L、a、bの評価−
<実施例1>
(A)P1を100質量部、(B)F1を80質量部計量し、これを小型二軸押出し成形機(パーカーコーポレーション製)へ投入した。試験温度370℃、回転数500rpmの条件で溶融混練を行った後に、溶融混練物を回収し、これを射出成形機を用いて板状(縦40mm×横40×厚み2mm)に射出成形し、徐冷することで歯科用樹脂複合材料を得た。得られた歯科用樹脂複合材料の原料組成及び評価結果を表1に示す。
【0059】
<実施例2〜11>
用いたポリアリールエーテルケトン樹脂およびフィラーの種類・配合量を表1に示す条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法により歯科用樹脂複合材料を得た。得られた歯科用樹脂複合材料の原料組成及び評価結果を表1に示す。
【0060】
<比較例1>
原料としてポリアリールエーテルケトン樹脂P1のみを用いた以外は、実施例1と同様の方法により歯科用材料を得た。得られた歯科用材料の原料組成及び評価結果を表1に示す。
【0061】
<比較例2〜12>
用いたポリアリールエーテルケトン樹脂およびフィラーの種類・配合量を表1に示す条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法により歯科用樹脂複合材料を得た。得られた歯科用樹脂複合材料の原料組成及び評価結果を表1に示す。
【0062】
−曲げ強度の評価−
<実施例1、実施例5および比較例6>
実施例1、実施例5および比較例6の歯科用樹脂複合材料について、これをさらに短冊状に切削した加工して得られた試験片を用いて三点曲げ試験を評価した。曲げ強さの測定結果を、原料組成及びL、a、b値と共に2に示す。
【0063】
<比較例14>
樹脂成分としてM1を、フィラー成分としてF3を用い、メノウ乳鉢中でよく混練し脱泡することで光重合性ペーストを調整した。続いて、深さ2mm×幅2mm×長さ25mmの透明な金型中に光重合性ペーストを流し込み、金型の開口部に露出する光重合性ペーストを透明なポリエステルフィルムで圧接した。この状態で、歯科用光重合機パールキュアライト(トクヤマデンタル)を用いて、金型の表面側および裏面側から各々2分間づつ光照射を行って、光重合性ペーストを硬化させた。得られた短冊状の歯科用樹脂複合材料について三点曲げ試験を行った。結果を原料組成と共に表2に示す。
【0064】
<比較例15>
樹脂成分としてM1を、フィラー成分としてF10を用いた以外は、比較例14と同様の方法により短冊状の歯科用樹脂複合材料を作製し、三点曲げ試験を行った。結果を原料組成と共に表2に示す。
【0065】
<比較例16>
樹脂成分としてM1を、フィラー成分としてF4を用いた以外は、比較例14と同様の方法により短冊状の歯科用樹脂複合材料を作製し、三点曲げ試験を行った。結果を原料組成と共に表2に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】