(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
磁場作用により磁気分極する性質を有する粒子、及び/又は電場作用により電気分極する性質を有する粒子、並びに空隙が分散された弾性材料からなり、磁場及び/又は電場を印加することによって厚みが小さくなり、熱伝導率が高くなることを特徴とする、熱伝導率可変材料。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(熱伝導率可変材料)
本実施形態の熱伝導率可変材料は、磁場作用により磁気分極する性質を有する粒子及び空隙が分散された弾性材料からなる。以下、磁場作用により磁気分極する性質を有する粒子を磁気分極粒子と称する。
【0013】
(弾性材料)
本実施形態の熱伝導率可変材料に用いる弾性材料は、弾性を有し、分散された状態の前記磁気分極粒子及び空隙を保持できる材料であれば特に限定されない。空隙が分散された弾性材料の例としては、樹脂発泡体や不織布、グラスウール等が挙げられる。樹脂発泡体の一例としては、軟質ポリウレタン樹脂発泡体が挙げられる。軟質ポリウレタン樹脂発泡体の中では、磁気分極粒子の含有量の調整及び分散性、並びに熱伝導率可変材料の成形性及び圧縮可逆性の観点からポリプロピレングリコール系の低反発配合軟質ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0014】
(磁気分極粒子)
前記弾性材料に分散されている磁気分極粒子は、磁場作用により磁気分極する性質を有していれば良い。当該磁気分極粒子の例としては、純鉄、電磁軟鉄、方向性ケイ素鋼、Mn−Znフェライト、Ni−Znフェライト、マグネタイト、コバルト、ニッケル、及びこれらの合金を含有する粒子が挙げられる。当該磁気分極粒子は、1種又は2種以上を用いることができる。また、磁気分極粒子は、磁場作用により磁気分極する性質を有さない粒子と組み合わせて用いても良い。
【0015】
前記磁気分極粒子の形状に特段の制限は無いが、分散及び弾性材料での保持が容易であることから球状の粒子が好ましい。
【0016】
前記磁気分極粒子の平均粒子径は、弾性材料の材質によって異なるが、一例としては、弾性材料がポリプロピレングリコール系の低反発配合軟質ポリウレタン樹脂の場合、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、そして、500μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることが更に好ましい。当該平均粒子径が0.1μm未満になると、磁気分極が弱くなる傾向があり、また、必要体積量の磁気分極粒子を添加する事が難しくなる傾向がある。また、当該平均粒子径が500μmを超えると、磁気分極粒子及び空隙を前記弾性材料に分散させにくくなる傾向がある。磁気分極粒子を弾性材料に保持させるという観点からは、当該平均粒子径は、50μm以下が好ましい。磁気分極粒子は、平均粒子径が異なる1種又は2種以上を組み合わせて用いても良い。なお、本明細書において、平均粒子径は実施例に記載の方法により測定する。
【0017】
前記磁気分極粒子の含有量は、弾性材料の材質によって異なるが、一例としては、弾性材料がポリプロピレングリコール系の低反発配合軟質ポリウレタン樹脂の場合、弾性材料の体積の5vol%以上が好ましく、10vol%以上がより好ましく、そして、23vol%以下が好ましく、20vol%以下がより好ましい。前記磁気分極粒子の含有量が弾性材料の体積の5vol%未満の場合は、熱伝導率可変材料中での磁気分極粒子同士の距離が遠く、磁気分極粒子間の磁気相互作用が小さくなるため、熱伝導率を変化させにくくなる。前記磁気分極粒子の含有量が弾性材料の体積の23vol%を超える場合は、熱伝導率可変材料の柔軟性が失われる傾向にあり、磁気分極粒子間の磁気相互作用によって熱伝導率可変材料の厚みを小さくすることが困難になる傾向がある。
【0018】
(空隙)
弾性材料の空隙率は、当該弾性材料の材質によって異なり、所望の断熱効果を有し、磁場を印加することによる前記磁気分極粒子の磁気相互作用によって熱伝導率が変更できれば良い。一例としては、弾性材料がポリプロピレングリコール系の低反発配合軟質ポリウレタン樹脂の場合、空隙率は70%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、そして、99%以下が好ましく、98%以下がより好ましい。空隙率が70%未満の場合は、十分な断熱性が得られない傾向がある。空隙率が99%を超えると成形性が低下する傾向がある。空隙は、それぞれが独立していても良く、連続していても良い。なお、本明細書において、空隙率は、実施例に記載の方法により求める。
【0019】
前記熱伝導率可変材料は、圧縮弾性率が0.1kPa以上であることが好ましく、6kPa以上であることがより好ましく、そして、20kPa以下であることが好ましく、16kPa以下であることがより好ましい。前記圧縮弾性率が0.1kPa未満になると、成形性が低下するため、熱伝導率可変材料を成形するのが困難になる傾向にある。また、圧縮弾性率が20kPaを超えると、磁場を印加することによって熱伝導率可変材料を圧縮することが困難になる傾向がある。なお、本明細書において、圧縮弾性率は、実施例に記載の方法により測定する。
【0020】
本実施形態に係る熱伝導率可変材料の製造方法の一例として、軟質ポリウレタン樹脂発泡体と磁気分極粒子を用いた熱伝導率可変材料の製造方法を説明する。当該製造方法は以下の工程を有する。
(1)軟質ポリウレタン樹脂原料と、磁気分極粒子とを計量、混合し、混合材料を調製する混合材料調整工程
(2)前記混合材料調製工程にて調製した混合材料を、金型等に注入し発泡、硬化させる発泡硬化工程
(3)所望の寸法に成形する成形工程
【0021】
前記軟質ポリウレタン樹脂発泡体の原料は、イソシアネート成分及び活性水素基含有化合物を主原料とする。
【0022】
イソシアネート成分としては、軟質ポリウレタン樹脂の分野において公知のイソシアネート化合物を適宜選択することができる。特に、ジイソシアネート化合物とその誘導体、とりわけイソシアネートプレポリマーの使用が、得られる軟質ポリウレタン樹脂発泡体の物理的特性が優れており、好適である。
【0023】
活性水素基含有化合物とは、イソシアネート基と反応する活性水素基を有する化合物であり、例えば、ポリオール成分、ポリアミン成分、鎖延長剤などが挙げられる。これらは、軟質ポリウレタンの分野において公知の化合物を適宜選択することができる。また、イソシアネート成分及び活性水素基含有化合物等の比は、各々の分子量や熱伝導率可変材料の所望物性などにより種々変え得る。
【0024】
発泡剤としては、公知の発泡剤を使用することができるが、水、メチレンクロライド等が例示され、特に水又は水とメチレンクロライドを併用した発泡剤を使用することが好ましい。
【0025】
なお、必要に応じて、酸化防止剤等の安定剤、滑剤、顔料、充填剤、帯電防止剤、その他の添加剤を加えてもよい。
【0026】
なお、軟質ポリウレタン樹脂発泡体の製造方法としては、プレポリマー法、ワンショット法が知られているが、本実施形態においてはいずれの方法も使用可能である。
【0027】
(熱制御装置)
本実施形態の熱制御装置は、前記熱伝導率可変材料と、前記熱伝導率可変材料の熱伝導率を変化させるための熱伝導率可変手段とを有する。本実施形態において、前記熱伝導率可変手段は、磁場を印加する磁場印加手段である。
【0028】
前記熱伝導率可変材料を用いた熱制御装置について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、前記熱伝導率可変材料を用いた熱制御装置1の構成を示す概略図である。
【0029】
前記熱制御装置1は、少なくとも前記熱伝導率可変材料2及び磁場印加手段3を有する。
【0030】
熱伝導率可変材料2は、弾性材料21、磁気分極粒子22及び空隙(図示せず)を有し、熱制御対象物4の周囲を覆うように設けられている。
【0031】
磁場印加手段3は、磁気分極粒子22に磁場を印加する手段である。磁場印加手段3は、磁場を印加することによって磁気分極粒子22を分極させ、熱伝導率可変材料2を圧縮することができれば公知一般の手法を用いることができる。磁場印加手段3の一例としては電磁石が挙げられる。電磁石は、容易に磁束密度を調節することができるため好ましい。
【0032】
図2は、磁場印加手段3が磁場を印加することにより、磁気分極粒子22の磁気相互作用によって熱伝導率可変材料2が圧縮された状態の一例を示す概略図である。熱伝導率可変材料2は、
図1に示すような圧縮されていない状態では空隙率が高く、熱伝導率が低いため、高い断熱効果を有する。一方、
図2に示すように、磁気分極粒子同士の磁気相互作用によって熱伝導率可変材料2が圧縮され、空隙が押しつぶされると、熱伝導率が高くなるため、断熱効果を低減させることができる。また、磁場印加手段3によって印加される磁場の強度が弱い場合、又は磁場が印加されない場合は、熱伝導率可変材料2は、弾性材料21が有する弾性によって、
図1に示すような元の状態に戻る。本実施形態に係る熱制御装置1は、上記のような構成により、熱伝導率可変材料の熱伝導率を調節することができるため、熱制御対象物4の熱を制御することができる。
【0033】
上述の実施形態では、磁場印加手段3は、熱制御対象物4の温度が、熱制御対象物4の性能を十分に発揮させることができる温度範囲の上限を超えて上昇することが予想される場合、磁場を印加し、熱伝導率可変材料2の厚みを小さくして熱伝導率を向上させ、熱伝導率可変材料2の断熱機能を抑える。一方、磁場印加手段3は、熱制御対象物4の温度が上昇することが予想されない場合、磁場の強度を弱め、又は磁場を印加しないことにより、熱伝導率可変材料2は元の厚さに戻るため、熱伝導率可変材料2の熱伝導率を低下させ、熱伝導率可変材料2の断熱機能を向上させる。
【0034】
前記「熱制御対象物4の温度が、熱制御対象物4の性能を十分に発揮させることができる温度範囲の上限を超えて上昇することが予想される場合」とは、例えば、熱制御対象物4が自動車に搭載された充電池であり、当該自動車のエンジンを作動させた場合が挙げられる。前記「熱制御対象物4の温度が上昇することが予想されない場合」とは、例えば、熱制御対象物4が自動車に搭載された充電池であり、自動車のエンジンを停止させた場合が挙げられる。
【0035】
なお、上述の実施形態に、さらに温度計測手段を加えても良い。温度計測手段を有する実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図3は、温度計測手段を有する熱制御装置5の構成を示す概略図である。なお、上述した実施形態と同様の構成については、その説明を省略する。
【0036】
熱制御装置5は、温度計測手段6を有する。温度計測手段6は、熱制御対象物4の温度Tpを計測する。温度計測手段6は、熱制御対象物4の温度を測定出来る手段であれば、公知一般のいかなる手法でも用いることができる。温度計測手段6により計測された温度Tpが、予め定められたしきい値Thを超えたとき、磁場印加手段3は磁場を印加する。しきい値Thは、例えば、熱制御対象物4の性能を十分に発揮させることができる温度範囲の上限を示す任意の値である。これにより、熱制御対象物4の温度が高いときは、
図4に示すように、熱伝導率可変材料2の厚みを小さくし、熱伝導率を増加させ、熱制御対象物4が有する熱を放出して温度を下げることができる。一方、例えば、熱制御対象物4の温度がしきい値Th以下のときは磁場の印加を弱め、又は印加を止め、熱伝導率可変材料2を厚みを大きくすることにより、熱伝導率可変材料2の熱伝導率を低下させて断熱機能を高め、熱制御対象物4の温度が低下するのを防ぐことができる。
【0037】
なお、温度計測手段を有する実施形態においては、温度計測手段6によって計測された熱制御対象物4の温度Tpがしきい値Thを超えた場合に、磁場を印加し、熱伝導率可変材料2の厚みを小さくし、熱伝導率を増加させた。しかしながら、他の実施形態では、熱制御対象物4の温度と、熱伝導率可変材料2の当該温度での好ましい厚みとの相関関係を示すデータを記憶させておき、任意の間隔(例えば1分)で測定された熱制御対象物4の温度に応じて、適宜熱伝導率可変材料2の厚みを変更し、熱伝導率を変化させても良い。
【0038】
なお、上述の実施形態では、弾性材料に分散している粒子として磁気分極粒子を用い、磁場作用によって熱伝導率可変材料の熱伝導率を変化させた。しかしながら、他の実施形態では、弾性材料に分散している粒子として、電場作用により電気分極する性質を有する粒子を用い、電場作用によって熱伝導率可変材料の熱伝導率を変化させても良い。当該粒子の例としては、炭素粒子、金属粒子、合金粒子、金属間化合物粒子、シリカ、アルミナ、窒化ホウ素等のセラミック粒子、高導電性ポリマー粒子、誘電性ポリマー粒子等が挙げられ、当該粒子は1種又は2種以上を用いることができる。また、当該粒子は、磁気分極粒子、及び/又は電場作用により電気分極する性質を有さない粒子と組み合わせて用いても良い。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例に基づいて本発明の熱伝導率可変材料を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0040】
(評価方法)
(平均粒子径)
島津レーザ回折式粒度分布測定装置SALD2200にて測定した。本明細書において平均粒子径は、水分散液の状態で、レーザ回折式粒度分布測定装置にて測定した粒度分布を体積基準で微粒側から積算した場合の50%粒子径(メディアン径D50)をいう。
【0041】
(熱伝導率可変材料の評価)
熱伝導率可変材料の評価は、電磁石(玉川製作所製:TM−YS4型)と熱流計(江藤電気製:M55A,2300A)、ラバーヒーター(サミコン230,SBX3030K1S)を組み合わせた装置を用いて性能評価を行った。
【0042】
1)熱伝導率
磁場印加前の熱伝導率は、縦100mm×横100mm×厚さ10mmのサンプルの厚さ方向についてJISA 1412−2に従って熱流計法によって測定した。磁場印加後の熱伝導率は、当該サンプルの厚さ方向に前記電磁石によって1000mTの磁場を印加した状態で、サンプルの厚さ方向についてJISA 1412−2に従って熱流計法によって測定した。
2)熱伝導率変化率
熱伝導率変化率は、磁場作用がない状態(磁場を印加していない状態)の熱伝導率可変材料の熱伝導率を100%とし、磁場作用を与える(磁場を印加する)ことによる熱伝導率の変化の度合いを表す。数値が大きい方がより大きく熱伝導率が変化したことを意味する。熱伝導率変化率は、以下の式により求めた。
熱伝導率変化率(%)=1000mTの磁場を印加した状態の熱伝導率可変材料の熱伝導率/磁場作用がない状態の熱伝導率可変材料の熱伝導率×100
3)体積変化率
磁場印加前のサンプル(縦100mm×横100mm×厚さ10mm)の体積に対する、厚さ方向に1000mTの磁場を印加した状態のサンプルの体積の割合を求めた。
4)圧縮弾性率と圧縮可逆性
万能試験機(島津製作所)を用いて5mm/minのヘッドスピードでサンプル(縦100mm×横100mm×厚さ10mm)の圧縮試験を行い、圧縮弾性率を測定した。試験力が1−10Nの間での測定値を記載した。また、圧縮弾性率測定前後のサンプル厚みを比較し、圧縮可逆性を評価した。変化が無ければ圧縮可逆性○と評価した。
5)空隙率
空隙率は以下の計算により求めた。
空隙率(%)=(1−(圧縮していない状態の熱伝導率可変材料の密度/弾性材料と磁気分極粒子との複合体の密度))×100
6)熱伝導率可変材料の磁気分極粒子含有量(vol%)
熱伝導率可変材料の磁気分極粒子含有量は以下の計算により求めた。
熱伝導率可変材料の磁気分極粒子含有量(vol%)=弾性材料の磁気分極粒子含有量(vol%)×(100−空隙率(%))/100
【0043】
(熱伝導率可変材料:実施例1)
ポリオールに鉄粉、架橋剤、整泡剤、水を加え良く混合した後、イソシアネートを加えて良く混合して発泡させ、金型に注型して成型した。脱型した後、100mm×100mm×10mmに切り出して評価サンプルとした。原料は下記のものを使用した。
・ポリオール
アクトコールLR−00(三井化学社製):100重量部
グリセリン(ナカライテスク社製):2重量部
・水:2重量部
・架橋剤
Dabco33LV(東ソー社製):0.4重量部
T−9(東栄化学工業社製):0.1重量部
・整泡剤
B−8017(ゴールドシュミット社製):1重量部
・イソシアネート
コスモネートT−80(三井化学社製):29.2重量部
・磁気分極粒子(カルボニル鉄粉)
CI−CS(平均粒子径6μm BASF社製):97.9重量部(10体積%)
【0044】
(熱伝導率可変材料:実施例2)
磁気分極粒子としてカルボニル鉄粉CI−CS(平均粒子径6μm BASF社製)を219.7重量部(20体積%)用いたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0045】
(熱伝導率可変材料:実施例3)
整泡剤としてSH192(東レダウコーニング社製)1重量部、磁気分極粒子としてカルボニル鉄粉CI−CS(平均粒子径6μm BASF社製)を219.7重量部(20体積%)用いたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0046】
前記各熱伝導率可変材料の評価結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1に記載の結果から、本発明に係る熱伝導率可変材料は、磁場を印加することによって熱伝導率が変化することがわかる。
【0049】
以上、本発明を詳細に説明してきたが、上記の説明はあらゆる点において本発明の一例にすぎず、その範囲を限定しようとするものではない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことが可能である。